説明

粘着転写具

【課題】構造を簡単にし、簡単な操作によって、粘着剤の被転写面へのスポット状転写、ライン状転写のいずれにも選択して確実に転写できるようにすること。
【解決手段】ケース10内に、転写テープ1の供給リール20と、テープ基材の巻取リール30と、転写テープの粘着剤を被転写面に転写する転写ヘッド40と、互いに連動するギアからなる巻取機構50と、転写ヘッドの先端側に出没可能な押し板部72、押し板部を転写ヘッドの先端側に押圧するばね部78及びばね部の付勢力に抗してケース後方側に移動する際にのみ供給リールに装着される供給ギア21に噛合するラチェット爪71を一体に有する作動プレート70と、を配設する。ばね部の付勢力に抗して転写ヘッドを被転写面に押圧して、粘着剤の被転写面へのスポット転写、又は、転写ヘッドを被転写面に押圧した状態で移動させて、粘着剤の被転写面へのライン状の転写を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は粘着転写具に関するもので、更に詳細には、テープ基材に担持された粘着剤をスポット状あるいは所定の長さのライン状に転写可能にした粘着転写具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばポスターや写真等の貼付や封筒の糊付けあるいは誤字の修正等にテープ基材の片面に粘着剤や修正塗料剤(以下に粘着剤等という)を担持した転写テープが使用されている。この転写テープはロール状にリールに巻装され、転写具のケースに配設されて使用されている。
【0003】
上記転写テープから粘着剤等を被転写面(修正面)に転写(修正)する転写具としては、例えば、筒体や軸筒等のケース内に、テープ基材の片面に粘着剤等を有する転写テープを巻装する回転可能な供給リールと、この供給リールから引き出された転写テープのテープ基材を巻き取る回転可能な巻取リールと、スプリング又はスプリング及びヒゲバネ等の弾性手段の弾性をもってケース内に保持されるスライダと、スライダに一体に設けられ、転写テープの巻き上げ方向のみ巻取リールに設けられたギアに噛合する巻き上げ爪を具備するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このように構成される転写具によれば、スプリング等の弾性力に抗してスライダに設けられたノック部を押圧するか、又は、軸筒から突出するスライダを押圧することで、スライダに一体に設けられた押棒又は軸筒内に固持された押棒により転写テープの裏面を押圧して誤字等を修正することができる。
【0005】
また、別の転写具として、ケース内に、供給リール及び巻取リールを回転自在に支持すると共に、両リールに設けたギアを互いに連動可能に配設してなり、転写時には、転写ヘッドの転写面を被転写面に当接し、押圧することで、粘着剤層をテープ基材より剥離して転写するものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
この転写具において、転写後に、巻取リールのギアに噛合する撓み可能な押棒を設けた巻上げノブがスプリングを撓ませて押すことにより、押棒の一端部に設けた爪部が巻取リールのギアに噛合して巻取リールを回転させ、転写テープを巻き取ることができる。
【0007】
また、特許文献2記載の転写具において、連続転写の場合は、転写ヘッドを被転写面に当接させた状態で被転写面に対して平行に移動させることにより、粘着剤層をライン状に転写することができる。
【特許文献1】特開平6−55895号公報(特許請求の範囲、図1,図2)
【特許文献2】特開平11−227386号公報(段落0031,0034〜0038、図5,図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のものは、転写テープの押圧及び転写テープの送り出しを促すスライダに押圧力を付与する弾性手段であるスプリング又はスプリング及びヒゲバネがスライダと別体に形成されるため、構成部材が多くなると共に、ケース内への組み付けが面倒であるという問題がある。また、供給リールと巻取リールはギア等によって連動されていないため、被転写面に粘着剤等をライン状に転写することができないという問題もある。
【0009】
これに対して、特許文献2に記載のものは、供給リールと巻取リールに設けたギアを互いに連動可能に形成する構造であるため、粘着剤をライン状に転写することができる。しかし、転写後のテープ基材を巻き取るには、巻取リールのギアに噛合する撓み可能な押棒を設けた巻上げノブがスプリングを撓ませて押すことにより、押棒の一端部に設けた爪部が巻取リールのギアに噛合して巻取リールを回転させる必要がある。したがって、特許文献2に記載のものにおいても、巻取機構にスプリングを含む複数の構成部材が必要となるため、構成部材が多くなると共に、ケース内への組み付けが面倒であるという問題があり、また、転写後の転写テープの巻き取り操作が面倒であるという問題がある。
【0010】
この発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、転写ヘッドの押圧及び転写テープの巻き取りを促す部材とスプリングを一体に形成して構造を簡単にし、かつ、簡単な操作によって、粘着剤の被転写面へのスポット状転写、あるいは、ライン状転写のいずれにも選択して確実に転写できるようにした粘着転写具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、この発明は、ケース内に、テープ基材の片面に粘着剤を有する転写テープを巻装する回転可能な供給リールと、上記供給リールから引き出された転写テープのテープ基材を巻き取る回転可能な巻取リールと、上記供給リールから引き出された転写テープの粘着剤を被転写面に転写する転写ヘッドと、上記供給リール及び巻取リールにそれぞれ装着される互いに連動するギアからなる巻取機構と、上記転写ヘッドの先端側に出没可能な押し板部と、上記ケースに突設された係止突起に当接係合して上記押し板部を上記転写ヘッドの先端側に押圧するばね部及び該ばね部の付勢力に抗して上記ケース後方側に移動する際にのみ上記供給リールに装着される供給ギアに噛合するラチェット爪を一体に有する作動プレートと、を配設してなり、上記ばね部の付勢力に抗して上記押し板部を後方側へ移動し、上記転写ヘッドを被転写面に押圧した後、転写ヘッドを被転写面から後退して、上記粘着剤の被転写面へのスポット転写、又は、上記転写ヘッドを被転写面に押圧した状態で、被転写面上を移動させて、上記粘着剤の被転写面へのライン状の転写のいずれかを選択的に行えるように形成してなる、ことを特徴とする(請求項1)。
【0012】
このように構成することにより、転写ヘッドの押圧及び転写テープの巻き取りを促す作動プレートとばね部を一体に形成することができるので、構成部材の削減が図れる。また、ばね部の付勢力に抗して作動プレートを後方へ移動し、転写ヘッドを被転写面に押圧した後、転写ヘッドを被転写面から後退することで、転写ヘッドによって押圧された転写テープの粘着剤が被転写面にスポット状に転写される。また、ばね部の付勢力に抗して作動プレートを後方へ移動し、転写ヘッドを被転写面に押圧した状態で、被転写面上を移動させることで、供給リールから引き出された転写テープは転写ヘッドによって連続して被転写面に押圧され、転写テープの粘着剤が被転写面にライン状に転写される。
【0013】
この発明において、上記押し板部は、上記作動プレートに枢着され、使用時には上記作動プレートの先端側に展開され、不使用時には上記作動プレートの側面に折り畳み可能に形成される方が好ましい(請求項2)。
【0014】
このように構成することにより、使用時すなわち転写時には転写プレートの先端側に突出する押し板部を被転写面に当接し、ばね部の付勢力に抗して作動プレートを後方へ移動することで、転写ヘッドを被転写面に押圧することができる。また、不使用時には押し板部を作動プレートの側面側に回動して折り畳むことができる。
【0015】
また、この発明において、ばね部を、作動プレートの両側辺からそれぞれ後方側に屈曲し、各端部がケースに突設された係止突起に当接係合する第1及び第2のばね片にて形成する方が好ましい(請求項3)。
【0016】
このように構成することにより、作動プレートの両側から後方側に突出する第1及び第2のばね片の付勢力によって転写ヘッドを押圧することができる。
【0017】
また、この発明において、転写ヘッドの転写面に弾性を有する板部材を配設すると共に、該板部材の表面に転写テープの移動を円滑にする滑りカバー部材を被着してなる方が好ましい(請求項4)。
【0018】
このように構成することにより、転写ヘッドの転写面を被転写面に押圧した際に、ばね部の付勢力と板部材の弾性変形の相乗作用によって被転写面の凹凸を吸収することができる。また、転写ヘッドと転写テープとの接触摩擦を小さくすることができ、転写テープの移動を円滑にすることができる。
【0019】
加えて、この発明において、作動プレートに一体に形成され、作動プレートがばね部の付勢力に抗して後方へ移動し転写ヘッドの転写面が被転写面に押圧された際に、ケースに突設された突起に間欠的に係合し、確認のための音を発する弾性変形可能な確認音発生爪を更に具備してもよい(請求項5)。
【0020】
このように構成することにより、転写ヘッドの転写面を被転写面に当接する際、作動プレートの移動に伴って転写面の全域が被転写面に当接すると、確認音発生爪がケースに突設された突起に間欠的に係合し、確認音発生爪が振動して音を発生する。これにより、使用者は、転写ヘッドの転写面の全域が被転写面に当接されたことを確認することができる。
【発明の効果】
【0021】
この発明の粘着転写具によれば、上記のように構成されているので、以下のような効果が得られる。
【0022】
(1)請求項1記載の発明によれば、転写ヘッドの押圧及び転写テープの巻き取りを促す作動プレートとばね部を一体に形成することができるので、構成部材の削減が図れると共に組み付けを簡単にすることができる。また、ばね部の付勢力に抗して作動プレートを後方へ移動し、転写ヘッドを被転写面に押圧した後、転写ヘッドを被転写面から後退することで、転写テープの粘着剤を被転写面にスポット状に転写し、また、ばね部の付勢力に抗して作動プレートを後方へ移動し、転写ヘッドを被転写面に押圧した状態で、被転写面上を移動させることで、転写テープの粘着剤を被転写面にライン状に転写することができるので、簡単な操作によって、粘着剤の被転写面へのスポット状転写、あるいは、ライン状転写を選択して確実に行うことができる。
【0023】
(2)請求項2記載の発明によれば、使用時(転写時)には転写プレートの先端側に突出する押し板部を被転写面に当接し、ばね部の付勢力に抗して作動プレートを後方へ移動することで、転写ヘッドを被転写面に押圧することができ、また、不使用時には押し板部を作動プレートの側面側に回動して折り畳むことができるので、特に不使用時における外部への突出部をなくして美観の向上を図ることができる。
【0024】
(3)請求項3記載の発明によれば、作動プレートの両側から後方側に突出する第1及び第2のばね片の付勢力によって転写ヘッドを押圧することができるので、上記(1),(2)に加えて、更に転写ヘッドの押圧力を左右均等にして被転写面への粘着剤の転写を確実にすることができる。
【0025】
(4)請求項4記載の発明によれば、転写ヘッドの転写面を被転写面に押圧した際に、ばね部の付勢力と板部材の弾性変形の相乗作用によって被転写面の凹凸を吸収することができ、また、転写ヘッドと転写テープとの接触摩擦を小さくすることができるので、上記(1)〜(3)に加えて、更に被転写面への粘着剤の転写を確実にすることができると共に、転写テープの転写ヘッドへの移動を円滑にすることができ、転写作業を効率よく行うことができる。
【0026】
(5)請求項5記載の発明によれば、スポット状転写の際に、確認音発生爪がケースに突設された突起に間欠的に係合し、確認音発生爪が振動して音を発生することで、使用者は、転写ヘッドの転写面の全域が被転写面に当接されたことを確認することができるので、上記(1)〜(4)に加えて、更にスポット状転写を確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に、この発明の最良の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0028】
図1は、この発明に係る粘着転写具の要部を示す正面斜視図、図2は、粘着転写具の要部を示す背面図、図3は、粘着転写具の要部を示す正面断面図(a)、(a)のI部拡大断面図(b)及び背面断面図(c)である。
【0029】
上記粘着転写具は、ケース10と、テープ基材2の片面に粘着剤3を有する転写テープ1を巻装する回転可能な供給リール20と、供給リール20から引き出された転写テープ1のテープ基材2を巻き取る回転可能な巻取リール30と、供給リール20から引き出された転写テープ1の粘着剤3を被転写面4に転写する転写ヘッド40と、巻取リール30に転写テープ1を巻き取る巻取機構50と、転写ヘッド40の押圧及び転写テープ1の巻き取りを促す作動プレート70と、ドット状の転写時に確認音を発生する確認音発生機構60と、を具備している。
【0030】
上記転写テープ1は、例えば剥離紙によって形成されるテープ基材2の片面に、例えばアクリル系粘着剤からなる粘着剤3を例えばテープ基材2の長手方向及び幅方向に千鳥状、あるいは、等間隔に配置してパターン化した感圧テープによって形成されている。
【0031】
上記ケース10は、図4に示すように、略楕円形状のベース部12の周縁に起立壁部13を設けたケース本体11と、ケース本体11の開口部を開閉可能に塞ぐカバー体15とで構成されており、ベース部12に、供給リール20と巻取リール30が回転可能に支持されると共に、転写ヘッド40が支持されている。この場合、ケース本体11とカバー体15は、透明性の例えばポリスチレン樹脂等の合成樹脂製部材によって形成されている。また、ケース本体11の先端部には、転写ヘッド40を露出すると共に、作動プレート70が出没可能なように切欠部16が設けられている。なお、カバー体15の先端部にも、転写ヘッド40を露出する切欠部16が設けられている。
【0032】
また、ケース本体11のベース部12には、このベース部12の略中央部に位置し、供給リール20を回転可能に取り付けるための第1の支持軸18aと、この第1の支持軸18aよりベース部12の後端部側に位置し、巻取リール30を回転可能に取り付けるための第2の支持軸18bと、第2の支持軸18bと反対の先端部側に位置し、転写ヘッド40を取り付けるための第3の支持軸18cが突設されている。なお、第3の支持軸18cは粘着転写具の前後方向に長い略扁平楕円形状に形成されている。
【0033】
なお、この場合、第1ないし第3の支持軸18a,18b,18cの先端及び第3の支持軸18cの後方側の近傍位置に突設された取付軸18dの先端には、それぞれ嵌合穴18eが設けられている。これら嵌合穴18eと、カバー体15の内面に突設された係合突起(図示せず)とを嵌合させて、ケース本体11とカバー体15とが結合されている。
【0034】
第1の支持軸18aには、供給ギア21と駆動ギア51が回転可能に枢着されている。この場合、駆動ギア51の一側面すなわち正面側には、駆動ギア51より小径の供給ギア21が同軸上に一体に形成されている。また、駆動ギア51の反対側面には、第1の支持軸18aに回転可能に枢着される回転筒部51aが突設されており、この回転筒部51aに供給リール20が着脱可能に装着されている。この場合、図3及び図4に示すように、回転筒部51aの外周面に適宜間隔をおいて突設される軸方向に平行な外凸条51bと、供給リール20の内周面に適宜間隔をおいて突設される軸方向に平行な内凸条20aとが係合した状態で駆動ギア51及び供給ギア21と供給リール20が取り付けられる。
【0035】
第2の支持軸18bには、従動ギア52が回転可能に枢着されている。この従動ギア52には、第2の支持軸18bに回転可能に枢着される鍔付き回転筒部52aが突設されており、この回転筒部52aに逆転防止機構55を介して巻取リール30が着脱可能に装着されている。この場合、逆転防止機構55は、図2及び図4に示すように、従動ギア52と一体に設けられた鍔部52bの外周に弾性変形可能に突設された逆転防止爪55aと、ベース部12に設けられた筒状突部14の周縁に設けられ、逆転防止爪55aが係合可能なラチェット内歯14aとで構成される第1の逆転防止機構55Aと、巻取リール30の表面に同軸上に設けられた筒部33の外周に弾性変形可能に突設された逆転防止爪55bと、カバー体15に設けられた筒状突部15bの周縁に設けられ、逆転防止爪55bが係合可能なラチェット内歯15cとで構成される第2の逆転防止機構55Bとで構成されている。
【0036】
なお、巻取リール30の表面側のフランジ部31の周辺部には、同心円上に等間隔に複数の小孔32が穿設されている。このように、巻取リール30のフランジ部31に小孔32を設けることにより、使用中に転写テープ1の巻き取りが弛んだ際に、ケース10のカバー体15に設けられた窓穴15aを介して挿入される操作ピン(図示せず)を小孔32に係合して、巻取リール30を巻取方向に回動することができる。
【0037】
上記巻取機構50は、供給リール20の回転部と同軸上に装着され、後述する作動プレート70に一体に設けられたラチェット爪71に一方向のみに噛合する駆動ギア51と、この駆動ギア51に遊星ギア53を介して噛合され、巻取リール30の回転部と同軸上に装着される従動ギア52とで構成されている。
【0038】
上記作動プレート70は、引張強度及び曲げ強度に優れた材質、例えばポリアセタール樹脂等の合成樹脂にて形成されており、図4及び図5に示すように、転写ヘッド40の先端側に出没可能な押し板部72と、ケース本体11のベース部12に突設された係止突起17a,17bに当接係合して押し板部72を転写ヘッド40の先端側に押圧するばね部78と、該ばね部78の付勢力に抗してケース後方側に移動する際にのみ供給リール20に装着される供給ギア21に噛合するラチェット爪71及び確認音発生機構60を構成する確認音発生爪73と、を一体に有している。
【0039】
この場合、作動プレート70は、先端側(図面における下端側)に、先端が開口する凹部74が設けられており、後端側(図面における上端側)の中心から偏倚した位置には、上記第1の支持軸18aを遊嵌する後端が開口するスリット75が設けられている。凹部74には、該凹部74の対向する側部に突設された凸軸部74aに押し板部72が回転自在に枢着されている。押し板部72は、凸軸部74aに回転自在に嵌合する筒軸72aを一端に有する略矩形状に形成されており、使用時すなわち転写時には作動プレート70の先端側に展開し、不使用時には作動プレート70の側面側に回動して折り畳むことができるようになっている。
【0040】
また、ばね部78は、作動プレート70の一側辺具体的には作動プレート70の中間部側辺から後方に向かって正面視で略逆「く」字状に屈曲し、その自由端の係止部76aがケース本体11のベース部12に突設された第1の係止突起17aに当接係合する第1のばね片76と、作動プレート70の一側辺具体的にはスリット75を構成する中心側の突片75aの側辺から後方に向かって正面視で略「く」字状に屈曲し、その自由端の係止部77aがケース本体11のベース部12に突設された第2の係止突起17bに当接係合する第2のばね片77とで構成されている。このようにばね部78を左右略対称形状の第1及び第2のばね片76,77にて構成することにより、作動プレート70の両側から後方側に突出する第1及び第2のばね片76,77の付勢力によって転写ヘッド40を押圧することができるので、転写ヘッド40の押圧力を左右均等にして被転写面4への粘着剤3の転写を確実にすることができる。
【0041】
また、ラチェット爪71は、作動プレート70の正面側の中間部のやや下方位置から隆起して後方側に湾曲状に延在する腕片71aの先端から下向きに設けられており、ばね部78の付勢力に抗して作動プレート70が後方側に移動する際にのみ供給リール20に装着される駆動ギア51に噛合するように形成されている。
【0042】
上記のように形成されるラチェット爪71が供給ギア21に噛合して供給ギア21を回動すると同時に駆動ギア51を回動し、遊星ギア53を介して従動ギア52を回動することで、転写ヘッド40と巻取リール30との間の転写テープ1を巻取リール30に巻き取ることができる。
【0043】
なお、供給ギア21と巻取機構50を構成する駆動ギア51,遊星ギア53及び従動ギア52は、それぞれ引張強度及び曲げ強度に優れた材質、例えばポリアセタール樹脂等の合成樹脂によって形成されている。
【0044】
一方、上記転写ヘッド40は、上述した略扁平楕円形状の第3の支持軸18cに嵌合される扁平楕円孔41を有しており、先端部に転写テープ1との接触面が平坦状をなす転写面42を具備する断面略台形状に形成されている。この転写ヘッド40は、例えば耐衝撃性ポリスチレン樹脂等の合成樹脂製部材によって形成されており、転写面42の表面には例えば弾性を有する板部材、例えば不織布や合成ゴム製の板部材によって形成されるクッション部材43が接着されている。また、クッション部材43の表面側には、転写テープ1の移動を円滑にする滑りカバー部材44が被着されている。
【0045】
上記のように、転写ヘッド40の転写面42に、クッション部材43を介して滑りカバー部材44を被着することにより、転写ヘッド40の転写面42を被転写面42に押圧した際に、ばね部78の付勢力とクッション部材43の弾性変形の相乗作用によって被転写面42の凹凸を吸収することができる。また、転写ヘッド40と転写テープ1との接触摩擦を小さくすることができ、転写テープ1の移動を円滑にすることができると共に、転写ヘッド40との摩擦によって生じる転写テープ1の損傷を防止することができる。
【0046】
上記確認音発生機構60を構成する確認音発生爪73は、作動プレート70がばね部78の付勢力に抗して後方へ移動し転写ヘッド40の転写面42が被転写面42に押圧された際に、ケース本体11のベース部12に突設された突起61に間欠的に係合した際に振動して音を発生する、復元性を有する可撓性を有している。
【0047】
上記のように、作動プレート70に一体に形成される確認音発生爪73と、ケース本体11に設けられる突起61とで確認音発生機構60を構成することにより、構成部材の削減が図れると共に、スポット転写を確認して行うことができる。
【0048】
なお、ケース本体11の先端側には、不使用時に転写ヘッド40を被覆するキャップ80が設けられている。このキャップ80は、ケース本体11の先端側に設けられた切欠部16の近傍部位の起立壁部13の内方側に括れた括れ部19内に格納可能に形成されており、使用時には括れ部19内に格納されるように括れ部19の開口側に枢着されている。
【0049】
次に、上記実施形態に係る粘着転写具の動作態様について、図6及び図7を参照して説明する。
【0050】
<スポット転写>
被転写面4に粘着剤3をスポット状に転写するには、まず、転写ヘッド40を被覆しているキャップ80を括れ部19内に格納して転写ヘッド40を露出し、次に、作動プレート70の側面に折り畳まれている押し板部72を展開して転写ヘッド40の先端側に突出する。この状態で、粘着転写具を被転写面4の転写する位置の上方に移動する(図6(a)参照)。
【0051】
次に、押し板部72の先端を被転写面4に当接した状態で、ばね部78の付勢力に抗して作動プレート70を後方へ移動すると、ラチェット爪71が供給ギア21に噛合し、供給ギア21を回動すると同時に駆動ギア51を回動し、遊星ギア53を介して従動ギア52を回動する。これにより、供給リール20から引き出される転写テープ1が巻取リール30に巻き取られて、転写ヘッド40の転写面42に粘着剤3を有する転写テープ1が供給され、この状態で転写ヘッド40を被転写面4に押圧する(図6(b)参照)。このとき、作動プレート70の後方への移動に伴って転写面42の全域が被転写面4に当接すると、確認音発生爪73がケース本体11のベース部12に突設された突起61に間欠的に係合し、確認音発生爪73が振動して音を発生する。これにより、使用者は、転写ヘッド40の転写面42の全域が被転写面4に当接されたことを確認することができる。
【0052】
次に、粘着転写具を上方に移動して転写ヘッド40を被転写面4から後退することで、転写テープ1の粘着剤3が被転写面4にスポット状に転写される(図6(c)参照)。転写ヘッド40を被転写面4から後退すると、ばね部78の付勢力によって作動プレート70が元の位置すなわち先端側に移動するが、ラチェット爪71と供給ギア21とは噛合せず供給リール20は回転しない。
【0053】
<ライン状転写>
まず、被転写面4に粘着剤3をライン状に転写するには、押し板部72を展開して転写ヘッド40の先端側に突出した状態にして、粘着転写具を被転写面4の転写する位置の上方に移動する(図7(a)参照)。
【0054】
次に、押し板部72の先端を被転写面4に当接した状態で、ばね部78の付勢力に抗して作動プレート70を後方へ移動すると、ラチェット爪71が供給ギア21に噛合し、供給ギア21を回動すると同時に駆動ギア51を回動し、遊星ギア53を介して従動ギア52を回動する。これにより、供給リール20から引き出される転写テープ1が巻取リール30に巻き取られて、転写ヘッド40の転写面42に粘着剤3を有する転写テープ1が供給され、この状態で転写ヘッド40を被転写面4に押圧する(図7(b)参照)。この状態で、粘着転写具を被転写面4に対して平行移動することで、転写ヘッド40の転写面42が被転写面4上を移動して、転写テープ1の粘着剤3が被転写面4にライン状に転写される(図7(c)参照)。このとき、粘着転写具の移動に伴って転写テープ1は供給リール20から引き出され、供給リール20が回動する。供給リール20の回動に伴って駆動ギア51が回動し、駆動ギア51の回動に伴って遊星ギア53を介して従動ギア52が回動して巻取リール30が回動して転写テープ1(具体的にはテープ基材2)を巻き取る。
【0055】
粘着転写具を移動して、粘着剤3を所定の長さ転写した後、粘着転写具を上方に移動して転写ヘッド40を被転写面4から後退することで、転写テープ1の粘着剤3が被転写面4に所定の長さライン状に転写される(図7(d)参照)。
【0056】
なお、上記実施形態では、転写テープ1の粘着剤3をテープ基材2の長手方向及び幅方向に千鳥状、あるいは、等間隔に配置してパターン化した場合について説明したが、粘着剤3の形態は必ずしもこれに限定されるものではない。例えば、テープ基材2の片面に適宜間隔をおいて互いに平行に配置される複数の帯状の粘着剤を担持させたものや、転写面42より小さい面積を有する粘着剤を、適宜間隔をおいて配置したものなど任意のパターン化したものを使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】この発明に係る粘着転写具の要部を示す正面斜視図である。
【図2】上記粘着転写具の要部を示す背面図である。
【図3】上記粘着転写具の要部を示す正面断面図(a)、(a)のI部拡大断面図(b)及び粘着転写具の要部を示す背面断面図(c)である。
【図4】この発明における供給リール,巻取リール、巻取機構及び作動プレートを示す分解斜視図である。
【図5】この発明における作動プレートを示す斜視図である。
【図6】スポット状転写を行う場合の動作態様を示す概略断面図で、(a)は転写前の状態、(b)はスポット状転写時の状態、(c)はスポット状転写後の状態である。
【図7】ライン状転写を行う場合の動作態様を示す概略断面図で、(a)は転写前の状態、(b)はライン状転写開始時の状態、(c)はライン状転写中の状態、(d)はライン状転写後の状態である。
【符号の説明】
【0058】
1 転写テープ
2 テープ基材
3 粘着剤
4 被転写面
10 ケース
11 ケース本体
15 カバー体
17a,17b 係止突起
20 供給リール
21 供給ギア
30 巻取リール
40 転写ヘッド
42 転写面
43 クッション部材(板部材)
44 滑りカバー部材
50 巻取機構
51 駆動ギア
52 従動ギア
53 遊星ギア
60 確認音発生機構
61 突起
70 作動プレート
71 ラチェット爪
72 押し板部
73 確認音発生爪
76 第1のばね片
77 第2のばね片
78 ばね部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケース内に、
テープ基材の片面に粘着剤を有する転写テープを巻装する回転可能な供給リールと、
上記供給リールから引き出された転写テープのテープ基材を巻き取る回転可能な巻取リールと、
上記供給リールから引き出された転写テープの粘着剤を被転写面に転写する転写ヘッドと、
上記供給リール及び巻取リールにそれぞれ装着される互いに連動するギアからなる巻取機構と、
上記転写ヘッドの先端側に出没可能な押し板部と、上記ケースに突設された係止突起に当接係合して上記押し板部を上記転写ヘッドの先端側に押圧するばね部及び該ばね部の付勢力に抗して上記ケース後方側に移動する際にのみ上記供給リールに装着される供給ギアに噛合するラチェット爪を一体に有する作動プレートと、
を配設してなり、
上記ばね部の付勢力に抗して上記押し板部を後方側へ移動し、上記転写ヘッドを被転写面に押圧した後、転写ヘッドを被転写面から後退して、上記粘着剤の被転写面へのスポット転写、又は、上記転写ヘッドを被転写面に押圧した状態で、被転写面上を移動させて、上記粘着剤の被転写面へのライン状の転写のいずれかを選択的に行えるように形成してなる、
ことを特徴とする粘着転写具。
【請求項2】
上記押し板部は、上記作動プレートに枢着され、使用時には上記作動プレートの先端側に展開され、不使用時には上記作動プレートの側面に折り畳み可能に形成される、ことを特徴とする請求項1記載の粘着転写具。
【請求項3】
上記ばね部は、上記作動プレートの両側辺からそれぞれ後方側に屈曲し、各端部がケースに突設された係止突起に当接係合する第1及び第2のばね片からなる、ことを特徴とする1又は2記載の粘着転写具。
【請求項4】
上記転写ヘッドの転写面に弾性を有する板部材を配設すると共に、該板部材の表面に転写テープの移動を円滑にする滑りカバー部材を被着してなる、ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の粘着転写具。
【請求項5】
上記作動プレートに一体に形成され、作動プレートがばね部の付勢力に抗して後方へ移動し転写ヘッドの転写面が被転写面に押圧された際に、ケースに突設された突起に間欠的に係合し、確認のための音を発する弾性変形可能な確認音発生爪を更に具備してなる、ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の粘着転写具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−241344(P2009−241344A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89382(P2008−89382)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000004020)ニチバン株式会社 (80)