説明

精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法および光学素子の製造方法

【課題】熱間成形法を用いて、より所望の形状に近い近似形状プリフォームを成形するための手段を提供すること。
【解決手段】精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法。下型凹部にキャストした熔融ガラスを、該下型凹部表面に設けられた複数のガス噴出口から噴出する浮上ガスにより浮上状態に保持した後、浮上ガスを噴出し続け上方から上型によりプレスすることによりガラス塊上面を所定形状に成形する。上型によるプレスを解除した後、上型および下型の少なくとも一方を移動させることでガラス塊上面の上方から上型を除去し、次いでガラス塊上面の上方にガス噴出ノズルを配置し、前記所望の形状に成形したガラス塊上面が固化する前に、上記ガス噴出ノズルからガラス塊上面に向けてガスを噴出し風圧を加えることで、ガラス塊が前記プレスにより成形した形状から中心肉厚が増加するように変形することを抑制する期間を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密プレス成形用プリフォームの製造方法および前記方法で作製したプリフォームを精密プレス成形する光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非球面レンズなど高精度なガラス製光学素子を高い生産性のもとに量産する技術として精密プレス成形法(モールドオプティクス法)が知られている。精密プレス成形法では、一般にプリフォームと呼ばれる成形体を作製し、このプリフォームを加熱して成形型内でプレス成形する手法が取られている。
【0003】
精密プレス成形は、光学素子の光学機能面をプレス成形型の成形面を転写することにより形成する方法である。したがって、成形型内部の空間(キャビティー)の形状は所望の光学素子と同形状に設計される。プリフォームの形状が所望の光学素子の形状と大きく異なると、成形型キャビティーの形状とも大きく異なることになるため、プレス成形温度を高くしてガラスの流動性を高めなければ、成形型キャビティーにガラスを十分行き渡らせることが困難となり不良が発生してしまう。他方、プレス成形温度を高くするほど、ガラスと成形型との反応性が高まるため、ガラス表面の変質やガラスと成形型との融着の原因となる。したがって、プリフォームの形状を所望の光学素子の形状に近づけることは、成形型キャビティーの充填不足による不良発生の防止につながり、また、プレス成形温度を低く設定することができるため、ガラスと成形型との反応によるガラス表面の変質やガラスと成形型との融着を防止することができる。このような理由から、所望の光学素子の形状に近似する形状のプリフォーム(以下、「近似形状プリフォーム」ともいう。)の需要が高まっている。
【0004】
ところで、精密プレス成形用のプリフォームを作製する方法としては、熔融ガラスからガラスブロックを成形し、このブロックを所定の寸法に切断して表面を滑らかにするとともに所定の重量にするための研削、研磨を行う方法(冷間加工法という。)と、熔融ガラスからプリフォーム1個分の熔融ガラス塊を分離し、このガラス塊を冷却する過程で直接プリフォームに成形する方法(熱間成形法という)が知られている。
近似形状プリフォームは、両面とも凸面または凹面、一方の面が凸面で他方の面が凹面、一方の面が平面で他方の面が凸面または凹面といった、所望の光学素子の形状に対応する形状に形成される。冷間加工法は、球形状などシンプルな形状の加工に向いているが、近似形状プリフォームのような複雑な形状の加工には不向きである。一方、熱間成形法は、ガラスが軟化状態にある間にプレスして所望の形状に成形することができるため、近似形状プリフォームの生産に適している。
【0005】
熱間成形法による近似形状プリフォームの成形法については、例えば特許文献1、2に、下型上で浮上している熔融ガラス塊を上部から上型によりプレスし、所望の形状に成形する方法が開示されている。この方法によれば、例えば、凸形状のプレス成形面で熔融ガラス塊の上部をプレスすることにより、上面が凹面状のプリフォームが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−52720号公報
【特許文献2】特開2006−290702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、光学素子の高機能化、高性能化に伴い、精密プレス成形にはますます高い成形精度が求められている。精密プレス成形において成形精度を高めるためには、従来よりもより一層、プリフォームの形状を精密に制御することが必要とされる。
また、撮像光学系の高機能化、コンパクト化の面から、高屈折率高分散ガラスを精密プレス成形して得られるレンズの需要も高まっている。高屈折率高分散ガラスは、高屈折率高分散特性を得るためにNb、Ti、W、Biなどの成分を多量に含む。ところが、これら成分は精密プレス成形時にプレス成形面との間で酸化還元反応を起こし、得られる光学素子の表面にクモリや傷を発生させる原因となる。特に、プレス成形の進行によって、プリフォームが変形し内部の活性に富んだガラスがプレス成形面と直接接触すると、上記反応による不具合が助長されてしまう。こうした不具合の発生を抑えるには、プリフォームの形状をより一層、所望の光学素子の形状に近似させ、プレス成形におけるガラスの変形量を小さくし活性に富んだプリフォーム内部のガラスを極力、プレス成形面と接触させないようにすることが効果的である。
【0008】
以上の理由により、近年プリフォームの形状を、所望の光学素子の形状により一層近似させる必要性が高まっている。しかし本発明者らが、特許文献1、2に開示されている方法で作製したプリフォームの形状を調べると、プリフォーム形状が所望の形状からずれ、近年の精密プレス成形用プリフォームに必要とされる形状精度を満たさないことが判明した。
【0009】
そこで本発明の目的は、熱間成形法を用いて、より所望の形状に近い近似形状プリフォームを成形するための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために特許文献1、2に記載の方法を用いたときにプリフォームの形状が所望の形状からずれる原因について鋭意検討し、次のような知見を得た。
プリフォームの熱間成形では、通常、複数個の成形型をターンテーブル上に配置し、このターンテーブルをインデックス回転させて各成形型に流出、分離した熔融ガラス塊を順次受け、次の停留位置においてプレス成形を行う。各成形型の移送、停留は同期して行われるため、プレス時間をガラス塊が内部まで十分冷却されるほど長く取ることは難しい。そのため、プレスを解除するとガラス塊内部の熱量によりプレスされたガラス塊上面が再加熱されて、一旦上昇した粘度が再び低下する。その結果、プレスされたガラス上面の形状が表面張力によりプレス前の形状に戻ろうとして盛り上がるため、プレスにより成形した形状から中心肉厚が増加する。プリフォーの中心肉厚が所望形状から意図せず増加すると、該プリフォームを用いて行われる精密プレス成形における変形量は、プリフォームをより薄くする必要があるため必然的に多くなってしまう。他方、こうした現象を回避しようとプレス時にガラスを強く冷却しすぎると、プリフォーム表面にシワが生じ、滑らかな表面を有するプリフォームを得ることができなくなってしまう。
以上の知見に基づき本発明者らは更に検討を重ね、上型によるプレスを解除した後に、上型および下型の少なくとも一方を移動させることでガラス塊上面の上方から上型を除去し、次いでガラス塊上面の上方にガス噴出ノズルを配置し、該ノズルからガラス塊上面に向けてガスを噴出することで、プレス解除後にプリフォーム上面が盛り上がり所望の形状からずれる(プレスにより成形した形状から中心肉厚が増加する)ことを抑制できることを新たに見出した。これは、プレス解除後にガラス塊上面を盛り上げようとする力をノズルから噴出されるガスによる風圧によって抑えることができることによるものであり、更には、ノズルから噴出されるガスによりガラス塊上面の冷却が促進されることも、変形抑制に寄与していると考えられる。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
【0011】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]下型凹部にキャストした熔融ガラスを、該下型凹部表面に設けられた複数のガス噴出口から噴出する浮上ガスにより浮上状態に保持した後、浮上ガスを噴出し続け上方から上型によりプレスすることによりガラス塊上面を所定形状に成形すること、
上型によるプレスを解除した後、上型および下型の少なくとも一方を移動させることでガラス塊上面の上方から上型を除去し、次いでガラス塊上面の上方にガス噴出ノズルを配置し、前記所望の形状に成形したガラス塊上面が固化する前に、上記ガス噴出ノズルからガラス塊上面に向けてガスを噴出し風圧を加えることで、ガラス塊が前記プレスにより成形した形状から中心肉厚が増加するように変形することを抑制する期間を設けること、ならびに、
上記期間後に、上記下型凹部から精密プレス成形用プリフォームを取り出すこと、
を特徴とする、精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法。
[2]前記ガス噴出ノズルからガスを噴出することにより、ガラス塊上面の変形を抑制するとともにガラス塊上面の冷却を促進する、[1]に記載の精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法。
[3]熔融ガラスのキャストから、精密プレス成形用ガラスプリフォームを取り出した下型凹部に新たな熔融ガラスをキャストするまでの工程を、複数の下型を循環移送して繰り返し行う、[1]または[2]に記載の精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法。
[4][1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法により精密プレス成形用ガラスプリフォームを製造すること、
製造した精密プレス成形用ガラスプリフォームを加熱し、プレス成形型を用いて精密プレス成形することを含む、光学素子の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、所望の光学素子の形状に近似した、近似形状プリフォームを高い形状精度をもって成形することができる。こうして得られたプリフォームを精密プレス成形することにより、高品質な光学素子を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のプリフォームの製造方法の工程説明図を示す。
【図2】実施例および比較例で使用した成形テーブルにおける下型の配置図を示す。
【図3】実施例1、2および比較例1で得られたプリフォームの上面形状図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法]
本発明の精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法は、
下型凹部にキャストした熔融ガラスを、該下型凹部表面に設けられた複数のガス噴出口から噴出する浮上ガスにより浮上状態に保持した後、浮上ガスを噴出し続け上方から上型によりプレスすることによりガラス塊上面を所定形状に成形すること、
上型によるプレスを解除した後、上型および下型の少なくとも一方を移動させることでガラス塊上面の上方から上型を除去し、次いでガラス塊上面の上方にガス噴出ノズルを配置し、前記所望の形状に成形したガラス塊上面が固化する前に、上記ガス噴出ノズルからガラス塊上面に向けてガスを噴出し風圧を加えることで、ガラス塊が前記プレスにより成形した形状から中心肉厚が増加するように変形することを抑制する期間を設けること、ならびに、
上記期間後に、上記下型凹部から精密プレス成形用プリフォームを取り出すこと、
を含むものである。先に説明したように、上型によるプレスを解除した後、ガラス塊上面の固化前に、ガス噴出ノズルからガラス塊上面に向けてガスを吹き付け風圧を加えることにより、表面張力によりプレス前の状態に戻ろうとするガラス塊上面の変形を抑制することができるため、設計値からの大きいな形状変化のない、所望形状のプリフォームを得ることが可能となる。
以下、本発明の精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法(以下、単に「プリフォームの製造方法」ともいう)について、更に詳細に説明する。
【0015】
図1に、本発明のプリフォームの製造方法の工程説明図を示す。
図1に示すように、本発明のプリフォームの製造方法は、下型凹部への熔融ガラスのキャスト(図1(a))、下型凹部での熔融ガラスの浮上(図1(b))、上型による熔融ガラス塊のプレス(図1(c))、プレス解除後のガラス塊上面へのガス噴出(図1(d))、の工程を含む。これら工程を、ターンテーブルやコンベヤー等を用いて、複数の成形型(下型)を連続的または断続的に循環移送して繰り返し行うことにより、プリフォームを連続的に量産することができる。例えば、複数の下型をターンテーブル上に配置し、ターンテーブルをインデックス回転して複数の下型を同期させ各停留位置に次々と一括して移動させることで、下型を循環移送することができる。
以下、各工程について、順次説明する。
【0016】
下型凹部への熔融ガラスのキャストは、上端が熔融ガラス槽に取り付けられた白金、白金合金、金等からなる流出パイプから流出する熔融ガラス流から分離された熔融ガラスを下型凹部に受けることで行われる(図1(a)参照)。熔融ガラスは、例えば、ガラス原料を加熱、熔融し、脱泡、均質化して得られたものであり、この熔融ガラスを一定の流出速度で連続してパイプから流出し、流出する熔融ガラス流の下端部を流出パイプ下方に置いた下型上で受け、さらに、下型を鉛直下方に急降下して、熔融ガラス流から下型上の熔融ガラス流下端部を分離し、上記下型の凹部内に分離した熔融ガラス塊を受けることができる。この方法の代わりに、流出する熔融ガラス流の下端部をパイプ下方に配置した支持体で受け、支持体を鉛直下方に急降下して、熔融ガラス流から支持体上の熔融ガラス流下端部を分離し、上記分離した熔融ガラス塊を下型の凹部内に供給する方法、または、流出する熔融ガラス流の下端部をパイプ下方に配置した支持体で受け、支持体による支持を急速に取り除いて、熔融ガラス流から支持体で支持していた熔融ガラス流下端部を分離し、上記分離した熔融ガラス塊を下型の凹部内に供給する方法などを用いて、下型凹部へ熔融ガラスをキャストすることもできる。
【0017】
下型凹部にキャストされた熔融ガラスは、下型凹部上で浮上ガスによる風圧が加えられ浮上状態に保持される(図1(b)参照)。これにより下型上で熔融ガラスが冷却され、上型によるプレスにより成形可能な粘度に粘度調整(粘度上昇)される。ここで使用される下型には、凹部表面に熔融ガラスに風圧を加えて浮上させるためのガスを噴出するガス噴出口が設けられている。下型凹部表面上では、熔融ガラスは浮上状態にあり下型凹部表面の形状がプレスによりガラスに転写されることはないため、ガラスに当該表面の形状を転写する成形面となっている必要はないが、ガラス塊が一時的または瞬間的に接触することがあり得るので、平滑な面に形成することが好ましい。
【0018】
上記下型としては、多孔質材でガラス塊を載せる凹部を形成し、多孔質材を通してガスを噴出する成形型、または熔融ガラスをキャストする凹部に複数の細孔からなるガス噴出口を有する成形型を使用することができる。
熔融ガラスの浮上のためにガス噴出口から上方に向けて噴出される浮上ガスとしては、ガラスと反応しないガスを用いることが好ましく、具体的には、空気、窒素、不活性ガスなどを挙げることができる。また、浮上ガスの流量および圧力は、熔融ガラス塊が下型との融着を生じないように安定した浮上状態に保つことができるように定めることが好ましい。キャストしたガラスの容量に応じて、噴出させるガスの流量および圧力は適宜調整することができる。具体的には、例えば、浮上ガスの流量は毎分0.10〜1.00リットルの範囲、浮上ガスの圧力は0.3〜0.5MPaの範囲とすることが、それぞれ好ましい。また、浮上ガスは、必要に応じて、ガラスを冷却可能な温度に温度調整して供給することもできる。
【0019】
こうして下型凹部にキャストされた熔融ガラスは浮上状態にて冷却され、プレス成形に適した所定粘度になるよう粘度調整がなされる。熔融ガラス塊の粘度が、103ポアズから104.4ポアズになるように冷却調整することが、上型によるプレス成形を容易に行う観点から好ましい。
【0020】
次いで、浮上ガスを噴出し続けながら、熔融ガラスを上方から上型によりプレス成形することでガラス塊を成形する(図1(c)参照)。プレス時に下型表面から噴出する浮上ガス流量は、プレス前と同じでもよく変化させてもよい。プレス成形は、下型の上方で待機する上型を下降して熔融ガラス上面に圧力を加えることで行われる。ここでのプレス成形は、上型成形面を接触させ押圧して行ってもよく、上型成形面から噴出されるガスによる風圧により行ってもよい。風圧を加えるためには、上型成形面を多孔質材料から形成するか、上型成形面に複数の細孔を設ければよい。なお本発明では、下型上で上型に面した表面を上面、下方に面した表面を下面という。上記プレスにより、ガラス塊上面に上型の成形面形状が転写され、ガラス塊上面を所望の形状に成形することができる。また、このプレス成形時に下型凹部表面から浮上ガスを噴出し続けることで、少なくともガラス塊下面中央部と下型凹部表面とを非接触状態に維持することができる。上型によるプレスを行う前、下型凹部表面から噴出する浮上ガスは、熔融ガラス塊下面周縁部と下方凹部表面周縁部の隙間から抜けるため、ガラス塊下面において、この隙間に近い周縁部が中央部よりも優先的に冷却され、ほぼ固化した状態にある。したがって仮に上型によるプレス時にガラス塊下面周縁部が下型表面と接触したとしても、ガラス塊下面周縁部において大きな形状変化を起こすことはない。
【0021】
上記上型によるプレス後、ガラス塊上から上型を退避させプレスを解除する。その後、本発明のプリフォームの製造方法では、上型および下型の少なくとも一方を移動させることでガラス塊上面の上方から上型を除去し、次いでガラス塊上面の上方にガス噴出ノズルを配置し、プレスにより所望形状に成形したガラス塊上面が固化する前に、該ノズルからガラス塊上面に向けてガスを噴出し風圧を加える(図1(d)参照)。先に説明したように、このようにガス噴出ノズルからガラス塊上面にガスを噴出し風圧を加えることにより、ガラス塊上面を盛り上げようとする力を抑え、ガラス塊がプレスにより成形した形状から中心肉厚が増加するように形状変化することを抑制することができる。ガラス塊を上方から見ると、中央ほど温度が高く(低粘度)、周囲に行くほど温度は低下(高粘度)するため、低粘度で表面張力により変形しやすいガラス塊中央部に強い風圧を加えることが好ましい。このためには、ガス噴出ノズルの開口部の中心とガラス塊上面の中心が一致するように位置合わせしガスを噴出することが好ましい。ガス噴出ノズルから噴出されるガスによりガラス塊上面に加わる平均面圧は、0.2〜90Paの範囲とすることが、上面の形状変化をより一層抑制することができ好ましい。ノズルから噴出するガスとしては、浮上ガスについて例示したガスが、ガラスと反応しないため好ましい。噴出ガスの流量は、上記好ましい平均面圧を実現可能な範囲に設定することが好ましく、例えば、一般的な撮像素子作製用の体積100〜1000mm3程度のプリフォームを製造する際には、毎分1〜30リットルの範囲とすることが好適である。また、ガラス塊上面にガスを吹き付け冷却を促進することで、ガラス塊上面の形状変化をより効果的に抑制することができる。この観点からは噴出ガスは、ガラス塊上面よりも低温のガスが好ましく、ヒーターによる加熱を行わないことがより好ましく、ガス流路に内部に水の流れている低温の高周波加熱コイルや冷却媒体を設け、ガラス塊上面に吹き付けるガスを冷却することもできる。ガラス塊上面にガスを吹き付ける期間は、ガラス塊上面の変形を効果的に抑制する観点からは、1〜10秒程度とすることが好ましい。また、ガラス塊上面の変形はプレス解除直後から上面が固化するまで進行する。大きく変形した状態でガラス塊上面が固化すると、得られるプリフォームの形状はプレスにより形成した所定形状から大きくずれることとなる。これに対し本発明では、ガラス塊上面が固化する前に、上記のようにガラス塊上面にガスを吹き付けることで風圧を加える。これにより、固化したガラス塊上面において、プレスにより形成した所定形状から大きな形状変化が生じることを防ぐことができる。固化前に風圧を加えるために、プレス解除後に迅速にガス噴出ノズルの配置およびガラス塊上面へのガスの吹き付けを開始することが好ましい。
【0022】
成形終了後、下型凹部上のプリフォームは、例えば下型の上方で待機する搬送ロボットの先端に設けた吸引ノズルにより、その上面を吸引保持することで下型凹部から取り出すことができる。取り出したプリフォームは、適宜アニールすることができる。
【0023】
以上の工程により、所望形状の精密プレス成形用ガラスプリフォームを得ることができる。熔融ガラスを下型凹部にて浮上させながら上型によりプレスする成形法は、下型上での浮上成形では成形することが難しい、上面が平面ないし凹面であり下面が凸面である精密プレス成形用ガラスプリフォームの成形に適している。また、本発明のプリフォームの製造方法は、プレス解除後のガラス塊の形状変化を抑制することで、プリフォームの形状をより一層、所望の光学素子の形状に近似させることができる。かかる本発明のプリフォームの製造方法は、先に説明したようにプレス成形におけるガラスの変形量を小さくし活性に富んだプリフォーム内部のガラスを極力、プレス成形面と接触させないようにすべきである高屈折率高分散ガラスから、精密プレス成形用プリフォームの製造方法として好適である。
【0024】
[光学素子の製造方法]
次に、本発明の光学素子の製造方法について説明する。
本発明の光学素子の製造方法は、本発明のプリフォームの製造方法により精密プレス成形用ガラスプリフォームを製造すること、および、製造した精密プレス成形用ガラスプリフォームを加熱し、プレス成形型を用いて精密プレス成形することを含む。
本発明のプリフォームの製造方法によれば、上型によるプレス解除後のガラス塊上面の形状変化を抑制することで、所望の光学素子の形状に近似した近似形状プリフォームを得ることができるため、プレス成形温度を過度に高温にすることなく、成形型キャビティーにガラスを十分行き渡らせることができ、これにより高品質な光学素子を得ることができる。
【0025】
精密プレス成形とは、プリフォームを加熱、軟化した状態で所定形状のキャビティーを有する成形型によって加圧成形し、最終製品の形状と同じまたは極めて近似した形状の成形品を作製する方法である。精密プレス成形法によれば、成形品に研削や研磨を施さずに、あるいは研磨による除去量が極めて少ない研磨のみを施すことによって、最終製品、特に光学部品のような極めて高い形状精度や面精度を要求される最終製品を作製することができる。そのため、本発明の光学素子の製造方法は、レンズ、レンズアレイ、回折格子、プリズムなどの光学部品の製造に好適であり、特に非球面レンズを高生産性のもとに製造する際に最適である。
【0026】
本発明における精密プレス成形は、公知の方法で行うことができる。例えば、表面が清浄状態のプリフォームを、プリフォームを構成するガラスの粘度が105〜1011Pa・sの範囲を示すように再加熱し、再加熱されたプリフォームを上型、下型を備えた成形型によってプレス成形する方法を用いることができる。成形型の成形面には必要に応じて離型膜を設けてもよい。なお、プレス成形は、成形型の成形面の酸化を防止する上から、窒素ガスや不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。プレス成形品は成形型より取り出され、必要に応じて徐冷される。成形品がレンズなどの光学素子の場合には、必要に応じて表面に光学薄膜をコートしてもよい。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0028】
[実施例1、2、比較例]
熔融・冷却・固化後に屈折率[nd]:1.839、アッベ数[νd]:24.15のホウ酸シリケート系の光学ガラスとなるガラス塊を1120℃に加熱した白金ルツボに投入してルツボ内で溶解後、1250℃で清澄、撹拌し均一なガラス融液を得た。次に、ルツボ底部に連結し温度制御した流出パイプから0.56kg/hrの流出速度でガラス融液を流出させた。
図2のように、円形の成形テーブルの外周上に12個の下型を均等に配置した。以下の工程中、成形テーブルは9.5秒毎にインデックス回転させた。各下型は成形テーブルのインデックス回転により、図2に示す第1停留位置から第12停留位置を1サイクルとして移動し、1サイクル毎に1つの精密プレス成形用プリフォームが作製される。
下型の上部には、熔融ガラスをキャストする凹部(直径:φ23mm、凹部表面の平均曲率半径R:11mm)が加工されている。凹部は平均穴径が10μmの多孔質材料からなり、多孔質材料表面からは0.60L/分の窒素が均一に噴き出している。なお型本体部はヒーターで加熱し、凹部の表面温度を350℃とした。
【0029】
次に、流出口の直下(第1停留位置)に下型を供給し、以下のように熔融ガラスを下型にキャストした。まず下型を上昇させ流出口に接近させた状態とし、熔融ガラス流の先端を下型の凹部で受ける。下型の凹部に所望重量の熔融ガラスが溜まった時に下型を急降下し、熔融ガラス流から下型上に熔融ガラス塊を切断分離した。
【0030】
次に、成形テーブルをインデックス回転させ、流出口の直下から下型を退避させると同時に、別の下型をノズル直下に供給した。順次同様な操作を9500msec.間隔で繰り返し、次々に熔融ガラス流を分離・切断し下型上に約425mm3の熔融ガラス塊を得た。
【0031】
上記キャスト後流出口直下から退避した直後の下型を、インデックス回転により近似形状プリフォーム成形用上型直下(第2停留位置)に移動させ、該上型により下型上の熔融ガラス塊をプレスした。なお、上型材質は下型と同様の多孔質材料とし、表面から窒素ガスを0.5L/分にて噴出させた。また、上型ガラス成形面の直径はφ13.6mm、形状は平面とした。プレス工程では、上型をガラス塊上端から1mmの距離まで下降させた後、サーボモーターにて、下型移動完了から600msec.経過した時点から、上型とガラス塊の接触位置から下型を約1.7mm上昇させ、上型によりガラス塊をプレスした状態にて、6500msec.の間保持した(図1(c))。その後、上型によるプレスを解除した後、プレスされたガラス塊を載置した下型を上型直下から待避させ、インデックス回転により、ガス噴出ノズル直下(第3停留位置)に移動させた。続いて、以下の操作により実施例1、2、比較例のガラスプリフォームを得た。なお、いずれの場合にも、下型成形凹面からは0.60L/分の窒素を噴出し続けた。
【0032】
比較例
プレス後のガラス塊上面が未固化状態にあり変形を起こす第3、第4停留位置では、ガラス塊に何ら操作を行わず、表面張力によるガラス塊上面の変形が終了した第5停留位置以降、回収時の熱衝撃を緩和するために、ガラス塊上面の鉛直上方に設置されたガス噴出ノズルから10〜20L/分の流量にて、ガスを連続で噴きつけガラス塊を冷却し、第10停留位置にて、搬送ロボットにより近似形状プリフォームを回収した。
【0033】
実施例1
第3停留位置に、該位置に移動したガラス塊上面の鉛直上方に位置するようにガス噴出ノズル (内径6mm)を設置した。ガス噴出ノズル先端とガラス塊の上端の距離が2〜3mmとなり、かつガス噴出ノズルとガラス塊の中心が一致するように事前にガス噴出ノズルの位置調整を行った。プレス後のガラス塊を載置した下型がインデックス回転により第3停留位置に移動、停止した後、500msec.経過した時点から、2000msec.の間、ガス噴出ノズルから10L/分の流量で窒素ガスをガラス塊上面中央に向け噴出した(図1(d))。その後は比較例1と同様の操作を行い、近似形状プリフォームを得た。
【0034】
実施例2
プレス後のガラス塊を載置した下型がインデックス回転により第3停留位置に移動、停止した後、500msec.経過した時点から、7000msec.の間、ガス噴出ノズルから10L/分の流量で窒素ガスをガラス塊上面中央に向け噴出した点以外は実施例1と同様の操作を行い、近似形状プリフォームを得た。
【0035】
実施例1、2および比較例で得られたガラスプリフォームの上面形状を、ミツトヨ製接触式表面形状測定器により測定して得た上面形状図を、図3に示す。また、実施例1〜3および比較例で得られたガラスプリフォームの形状を、同様の表面形状測定器により測定した結果を、下記表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
図3および表1に示すように、上型によるプレス解除後、固化前のガラス塊上面へガス吹き付けを行わなかった比較例では、上面中央部が大きく盛り上がったのに対し、固化前のガラス塊上面へガスを吹き付け風圧を加えた実施例1、2では、上面中央部の盛り上がりによる中心肉厚の増加を防ぐことができた(比較例1と比較して上面全体および中央部の曲率半径Rとも増加、つまりカーブが小さかった)。
【0038】
[実施例3]
プレス後のガラス塊を載置した下型がインデックス回転により第3停留位置に移動、停止した後、500msec.経過した時点から、7000msec.の間、ガス噴出ノズルから20L/分の流量で窒素ガスをガラス塊上面中央に向け噴出した点以外は実施例1と同様の操作を行い、近似形状プリフォームを得た。得られたプリフォームの上面はほぼ平面であり、実施例1、2と同様に、上面中央部の盛り上がりを抑制することができた。
【0039】
[実施例4]
実施例1〜3で成形されたプリフォームを再加熱、軟化して窒素雰囲気中において成形型により精密プレス成形して、非球面レンズなどの光学素子を作製した。得られた光学素子はいずれも要求される性能を満たすものであった。
各光学素子の光学機能面には、必要に応じて反射防止膜などの光学薄膜を形成した。
【0040】
先に説明したように、精密プレス成形ではプレス成形におけるガラスの変形量を小さくし、活性に富んだプリフォーム内部のガラスを極力、プレス成形面と接触させないことが望ましい。この点から、精密プレス成形用のガラスプリフォームにおいては、目的の光学素子に近似した形状のプリフォームが得られるよう設計された上型によるプレスによって形成される上面は、プレス後に大きく形状変化しないことが望ましい。しかし、比較例のガラスプリフォームは、上面が所望形状から大きく変形しているため、このガラスプリフォームを精密プレス成形すると、成形型内でのガラスの変形量が大きくなり、クモリや傷が発生してしまう。これに対し実施例1〜3で成形されたプリフォームは、プレス後にガス吹き付けにより上面形状変化を抑制したため、プリフォーム上面の設計値からのズレはきわめて小さかった。したがって、精密プレス成形においてクモリや傷を発生させることなく、各種要求性能を満たす光学素子を作製することができた。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、ガラスレンズ等の光学素子製造分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下型凹部にキャストした熔融ガラスを、該下型凹部表面に設けられた複数のガス噴出口から噴出する浮上ガスにより浮上状態に保持した後、浮上ガスを噴出し続け上方から上型によりプレスすることによりガラス塊上面を所定形状に成形すること、
上型によるプレスを解除した後、上型および下型の少なくとも一方を移動させることでガラス塊上面の上方から上型を除去し、次いでガラス塊上面の上方にガス噴出ノズルを配置し、前記所望の形状に成形したガラス塊上面が固化する前に、上記ガス噴出ノズルからガラス塊上面に向けてガスを噴出し風圧を加えることで、ガラス塊が前記プレスにより成形した形状から中心肉厚が増加するように変形することを抑制する期間を設けること、ならびに、
上記期間後に、上記下型凹部から精密プレス成形用プリフォームを取り出すこと、
を特徴とする、精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法。
【請求項2】
前記ガス噴出ノズルからガスを噴出することにより、ガラス塊上面の変形を抑制するとともにガラス塊上面の冷却を促進する、請求項1に記載の精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法。
【請求項3】
熔融ガラスのキャストから、精密プレス成形用ガラスプリフォームを取り出した下型凹部に新たな熔融ガラスをキャストするまでの工程を、複数の下型を循環移送して繰り返し行う、請求項1または2に記載の精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法により精密プレス成形用ガラスプリフォームを製造すること、
製造した精密プレス成形用ガラスプリフォームを加熱し、プレス成形型を用いて精密プレス成形することを含む、光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−176862(P2012−176862A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40072(P2011−40072)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)