説明

精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法及び光学素子の製造方法

【課題】 成形型内で浮上するプリフォーム(ゴブ)の位置ずれを防止して、曲率の中心とプリフォームの中心が一致したプリフォームを確実に成形する。
【解決手段】 成形型104上に受けた被成形ガラス塊をプリフォームに成形する精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法であり、鉛直方向下向きに気流を吹き出す第一の吹き出し口210aをノズル中央に設けるとともに、第一の吹き出し口210aの周囲に配されて螺旋状に気流を吹き出す第二の吹き出し口210bを設けた送風ノズル210の下方に、被成形ガラス塊を浮上した状態で保持する成形型104が位置するときに、第二吹き出し口210bから螺旋状に吹き出す気流を被成形ガラス塊の周縁に吹き付けて、被成形ガラス塊に鉛直方向に沿った軸周りに回転する力を与え、成形型104上で被成形ガラス素材をプリフォームに成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密プレス成形用のガラスプリフォームに成形するための精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法及び成形されたガラスプリフォームをプレス成形することにより所望の光学素子を製造する光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、高精度の形状を有するレンズその他の光学製品を製造する方法として、熔融ガラスからプレス成型用のプリフォーム(所謂ゴブ)を成形し、ゴブを所定形状にプレス成形加工することにより光学素子を製造する精密プレス成形法が知られている。
光学素子の精密プレス成形法は、ガラス素材に対する研削・研磨等を行わず、熔融ガラス塊からゴブ(プリフォーム)を熱間成形し、冷却する過程でゴブ表面の曲率を所定の値に形成・制御し、そのゴブをプレス成形することによりレンズ等の最終製品に形成する方法であり、高精度の光学素子を大量に製造することが可能となる。このため、例えば非球面レンズ等の高精度な加工・形状が要求される光学素子に好適に用いられている。
【0003】
ここで、この種の精密プレス成形法として、所定重量の熔融ガラス塊を成形型に供給し、これを成形型内で浮上(又は略浮上)させた状態で熱間成形を行って所定の表面曲率を有するゴブを形成する所謂浮上成形法が知られている。
浮上成形法では、複数の成形型をターンテーブル上に載置し、ターンテーブルを回転させることによって、熔融ガラス塊が供給される所定の供給位置(キャスト位置)に成形型を順次移送し、ノズルから流下する熔融ガラス塊を各成形型で受けて、型内で所定曲率を有するゴブ(プリフォーム)を順次成形していく。
成形されたゴブは、ターンテーブルにより搬送されて、取り出し位置となる所定のテイクアウト位置にて成形型から順次取り出され、次工程であるプレス成形工程に搬送される。ゴブが取り出された成形型は、再びターンテーブルの回転により熔融ガラス塊が流出するキャスト位置に移送され、これにより連続的に熔融ガラス塊からゴブが成形される。
【0004】
そして、浮上成形法では、成形型に入れられる熔融ガラス塊は、成形型から噴出するガス・エアにより上向きの風圧が与えられ、熔融ガラス塊は型内でガスクッションを介して浮上した状態で保持され、型やエアによるプレス、吸引等が行われてゴブ上面の曲率調整が行われるようになっている。
このように熔融ガラス塊を、ガスクッションを介して浮上させて成形型と熔融ガラス塊を接触させないようにすることで、プリフォーム表面のシワの発生や所謂カン割れと呼ばれるガラスの割れの発生を防止でき、また、熔融ガラス塊の熱による成形型の劣化等の防止、成形型の保守・管理の容易化等を図ることができる。
【0005】
以上のようにして精密プレス成形法では、浮上成形法により熔融ガラス塊から直接プリフォーム(ゴブ)を成形し、これを次工程においてプレス成形することで最終製品となる光学製品を製造できるので、ガラス板等のガラス素材を切断・加工・プレス・研削・研磨等の多工程を経てレンズ等の最終製品を製造する方法と比較して、高精度の光学製品を連続的・効率的に大量に製造することができ、また、特に研削・研磨等では製造が困難な非球面レンズ等も高精度に製造することが可能であり、高精度な光学製品に好適な製造方法として用いられている。
このような浮上成形法を用いた精密プレス成形方法に関しては、例えば特許文献1〜3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4425233号公報
【特許文献2】特開2006−290702号公報
【特許文献3】特開2007−045696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述したような浮上成形法を用いた精密プレス成形方法では、ゴブを浮上させた状態で、ゴブに対する成形、具体的にはゴブ上面の曲率調整を行っているため、ゴブが型内で固定されず、不安定な状態で曲率調整の操作が行われることになる。
このため、ゴブの位置ずれ等が生じて正確な成形・曲率調整が行えないという問題があった。
【0008】
具体的には、浮上成形法によりゴブを浮上させた状態で曲率調整を行うと、ゴブを成形型上方から見た場合のゴブ上面の頂部(曲率の中心)がゴブ外周の中心からずれてしまう、あるいは、ゴブ上面の最も窪んだ部分(曲率の中心)がゴブ外周の中心からずれてしまい、曲率の頂部や凹部が中心からずれてしまうことがあった。
このようなズレが生じたゴブをプレス成形してレンズを作製すると、偏肉が大きくなり、レンズの光学的な性能を悪化させる等の事態が生じることになり、高精度な光学素子の製造が困難になるという問題が発生した。
【0009】
ここで、このような問題に対して、成形型側において、ゴブの位置ずれを防止するような構成乃至機構を設けることが考えられるが、却って成形型が複雑な構造等になるおそれがある。
また、成形型は一般に製造装置側に多数備えられるものであり、全ての成形型に対してそのような機構等を設けることは製造装置全体を複雑化させるおそれがあり、また、製造装置自体の製造コストも増大するものと考えられ、実際には実現は困難であった。
【0010】
本発明は、上記のような従来の技術が有する問題を解決するために提案されたものであり、浮上成形法を用いた精密プレス成形方法において、成形型や装置の複雑化等を招くことなく、成形型内で浮上するプリフォーム(ゴブ)の位置ずれを防止して、曲率の中心とプリフォームの中心が一致したプリフォームを確実に成形でき、プリフォームのプレス成形時の偏肉の発生等を防止して高精度な光学素子を製造することができる精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法及び光学素子の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法は、成形型上に受けた被成形ガラス塊をプリフォームに成形する精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法であって、鉛直方向下向きに気流を吹き出す第一の吹き出し口をノズル中央に設けるとともに、前記第一の吹き出し口の周囲に配されて螺旋状に気流を吹き出す第二の吹き出し口を設けた送風ノズルの下方に、前記被成形ガラス塊を浮上した状態で保持する前記成形型が位置するときに、前記第二吹き出し口から螺旋状に吹き出す気流を前記被成形ガラス塊の周縁に吹き付けて、前記被成形ガラス塊に鉛直方向に沿った軸周りに回転する力を与え、前記成形型上で前記被成形ガラス素材をプリフォームに成形する方法としてある。
【0012】
また、上記目的を達成するため、本発明の光学素子の製造方法は、本発明に係る精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法によりガラスプリフォームを製造し、前記ガラスプリフォームをプレス成形して光学素子を製造する方法としてある。
【発明の効果】
【0013】
本発明の精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法及び光学素子の製造方法によれば、浮上成形法を用いた精密プレス成形方法において、成形型や装置の複雑化等を招くことなく、成形型内で浮上するプリフォーム(ゴブ)の位置ずれを防止することができる。
これにより、曲率の中心とプリフォームの中心が一致したプリフォームを確実に成形することができ、プリフォームのプレス成形時の偏肉の発生等を防止して高精度な光学素子を製造することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法に用いるプリフォーム成形装置の一例を部分的に示した概略図であり、(a)は平面視図、(b)は側面図である。
【図2】図1に示すプリフォーム成形装置に備えられる送風ノズル及び成形型の詳細を模式的に示す図であり、(a)は送風ノズル及び成形型の要部断面図であり、(b)は(a)に示す送風ノズルのセンターノズル先端の外観斜視図である。
【図3】図2に示す送風ノズルを示す要部断面図であり、送風ノズルから吹き出される気流の状態を模式的に示している。
【図4】図2に示す送風ノズルを示す要部断面図であり、送風ノズルの先端開口径とプリフォームの寸法関係を模式的に示している。
【図5】図1に示すプリフォーム成形装置に備えられる送風ノズルの設置位置の一例を示す概略図であり、(a)は送風ノズルの第一位置、(b)は同じく第二位置を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法及び該方法により製造したガラスプリフォームをプレス成形して光学素子を製造する光学素子の製造方法の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法に用いるプリフォーム成形装置の一例を部分的に示した概略図であり、(a)は平面視図、(b)は側面図である。
図2は、図1に示すプリフォーム成形装置に備えられる送風ノズル及び成形型の詳細を模式的に示す図であり、(a)は送風ノズル及び成形型の要部断面図であり、(b)は(a)に示す送風ノズルのセンターノズル先端の外観斜視図である。
【0016】
[プリフォーム成形装置]
これらの図に示すプリフォーム成形装置100は、本発明の一実施形態に係る精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法に用いてプリフォームを成形するための装置であり、ターンテーブル上に複数の成形型を備え、該成形型上に順次、所定重量の熔融ガラスを供給することによって、熔融ガラス塊から連続的に多数のプリフォーム(所謂ゴブ)を成形・製造する装置である。
【0017】
具体的には、プリフォーム成形装置100は、図1に示すように、製造するプリフォームの原料である熔融ガラス塊を所定の供給位置(キャスト位置)において供給する熔融ガラス供給部102と、熔融ガラス供給部102より供給される熔融ガラス塊を受けて所定のプリフォーム(ゴブ)に成形するための複数(図1に示す例では12個)の成形型104、これら成形型104をキャスト位置を含む各処理位置へ移送するターンテーブル106、ターンテーブル106を駆動制御する成形型移送部108、所定のキャスト位置において成形型104を昇降させる成形型昇降部110を備えている。
さらに、プリフォーム成形装置100には、成形型104に供給された熔融ガラス塊に対して上方から所定の気流(ガス・エア)を吹き出して熔融ガラス塊を冷却しつつ熔融ガラス塊の形状改善、曲率・肉厚調整を行うための送風装置200が備えられている。
【0018】
熔融ガラス供給部102は、ターンテーブル106の所定のキャスト位置(図1(a)の二点鎖線で示す位置)に合わせて設置され、図示しない溶解炉で溶解・熔融された熔融ガラス流を、流出パイプ102aを介してキャスト位置に搬送された成形型104に流出・供給する。
熔融ガラス供給部102の流出パイプ102aには、熔融ガラス流を所定の粘度に制御して流出することができるように、図示しない温度制御装置が取り付けられ、その温度制御によりガラス塊の生産性が制御できるようになっている。
この温度制御は、流出パイプ102aより流出する熔融ガラスの粘度が所定の値、例えば30〜2dPa・s、好ましくは20〜5dPa・sとなるように行われる。
【0019】
成形型移送部108は、上面に複数の成形型104を搭載・支持したターンテーブル106を支持しており、ターンテーブル106を所定方向に所定のタイミングで回転駆動する駆動手段である。
ターンテーブル106は、成形型移送部108上に水平方向に配設・支持される円形平板状部材からなり、上面に複数の成形型104が円周方向に沿って等間隔に配設される。このターンテーブル106は、例えば軽量化に優れるアルミ合金からなる円盤状のものが用いられ、成形型移送部108に備えられた駆動手段(例えば内蔵されたダイレクト・ドライブ・モータ)によって回転駆動される。
ターンテーブル106の外周部には、その円周方向に沿って等間隔で複数個(図1に示す例では回転軸を中心として30度の間隔で12個)の成形型104が成形型ベースを介して載置・固定されている。
そして、ターンテーブル106は成形型104の間隔距離(図1の例では30度)だけ回転しては停止し、また同じ方向に(30度)回転する、という動きを繰り返し、これにより成形型104は所定方向に所定のタイミングで移送・搬送されることになる。
【0020】
成形型移送部108によるターンテーブル106の回転によって、一つの成形型104は、上述したキャスト位置に移送され、一端停止されてここで熔融ガラス塊を受け取り、その後にキャスト位置から更に下流方向に移送され、所定のタイミングで停止・移送が繰り返される。
具体的には、成形型移送部108は、例えばシーケンサからの駆動信号に基づいて、ダイレクト・ドライブ・モータを間欠的に駆動してターンテーブル106を一定角度回転させては停止することを繰り返す(これを間欠インデックス方式という)。この間欠インデックス方式によるターンテーブル106の駆動によって、熔融ガラス塊を受け取った成形型104は、キャスト位置から下流方向に移送され、後述する送風装置200の送風ノズル210の対応位置、成形されたプリフォームの取り出し位置(テイクアウト位置)を経て、熔融ガラス塊を受け取る前の空の成形型104がキャスト位置へ移送される。
このようなステップが繰り返されることで、熔融ガラス供給部102の流出パイプ102aから連続流出する熔融ガラスが、順次成形型104上に受け取られ、所定形状・所定曲率のプリフォームに成形されて搬送・回収されることになる。
なお、熔融ガラス供給部102から成形型104上に熔融ガラスを供給する方法は、例えば後述する降下切断法等により行われる。
【0021】
成形型昇降部110は、図1(b)に示すように、熔融ガラス塊が供給されるキャスト位置において、ターンテーブル106の成形型104を保持する成形型ベースの直下に配置される。
そして、熔融ガラス供給部102により熔融ガラス塊が成形型104上に流下される際に、成形型昇降部110が駆動されてキャスト位置にある成形型104が上下動され、これによって所定量の熔融ガラス塊が成形型104に供給されるようになっている。
【0022】
なお、特に図示していないが、ターンテーブル106に載置された成形型104は、移動する軌跡に沿って、キャスト位置からガラス塊の取り出し位置(テイクアウト位置)までの範囲において、所定の温度に加熱又は徐冷される。これにより、キャスト位置からテイクアウト位置の間において、その間の移動において成形型104上の熔融ガラスが徐冷されることでガラス塊の成形が行われ、また、ガラス塊が取り出された空の成形型の温度が低下し過ぎないように成形型が加熱、保温される。
また、成形されたプリフォームを成形型104から取り出すテイクアウト位置には、図示しない取り出し手段が設置され、ここでガラス転移点Tg以下になったガラス塊が成形型104から取り出されて次工程に搬出される。例えば、プリフォームの取り出し手段としては、成形型104の側面からその上のプリフォームにガスを吹き付けて、その対向側に配置された回収装置等にプリフォームを落下させて回収することができる。
【0023】
ターンテーブル106の上面に配設される複数の成形型104は、各成形型104がそれぞれ成形型ベース上に載置される。成形型ベースはターンテーブル106に対して上下動可能に構成されており、スプリング等の弾性体の付勢力によって通常は常時下方に押し下げる力が作用している。
熔融ガラスのキャスト位置には、上述したように成形型ベースの下方には成形型昇降部110が設置されており、成形型昇降部110の駆動軸が成形型ベースの下部に延びて配設されている。
そして、熔融ガラスのキャスト時には、例えばシーケンサからの駆動信号に基づいて成形型昇降部110が駆動され、駆動軸が上昇することにより、成形型ベースのスプリング等の付勢力に抗して成形型ベースが上方に移動される。
これによって成形型104が熔融ガラス供給部102の流出パイプ102aの近傍まで持ち上げられ、所定量の熔融ガラスが成形型104に供給されることになる。なお、このときの流出パイプ102aの先端と成形型104の上端の距離は所定の値、例えば5〜10mm等となるように設定される。
【0024】
熔融ガラス供給部102には、図示しない溶解炉で溶解された熔融ガラス流を成形型104上に流下させるための流出パイプ102aが備えられる。流出パイプ102aの周囲には、図示しないヒーター等の加温手段が配置され、これによってノズルの温度、延いては熔融ガラスの温度が一定に保たれるようになっている。
これによって、熔融ガラスの流出速度は一定に保たれ、かつ流出する熔融ガラスの粘度がガラス塊の成形に適した値、例えば30〜2dPa・s、好ましくは20〜5dPa・s等となるように制御される。熔融ガラスの粘度を所定の範囲に制御することにより、脈理のない内部品質の高いガラス塊を得ることができる。
【0025】
ここで、本実施形態のプリフォーム成形装置100では、所定重量のガラス塊を安定して流下・供給するために降下切断法を採用することができる。
以下、この降下切断法の概要を説明する。
上述したように、成形型104が所定のキャスト位置に移送されると、シーケンサ等の駆動信号に基づいて、成形型昇降部110が作動し、成形型昇降部110の駆動軸により成形型ベースの可動部を突上げられる。
駆動軸による突上げがない状態では、スプリング等の付勢力によって成形型ベースの可動部は下方に押し付けられ一定の高さに保たれているが、成形型昇降部110の駆動軸が作動すると、スプリング等の弾性カに抗して成形型ベースの可動部が突上げられて成形型104とともに持ち上げられ、成形型104の成形面が流出パイプ102aに近づけられる。このときの流出パイプ102a先端と成形型104上端の距離は、例えば5〜10mm等の所定の値となるように設定・制御される。
【0026】
成形型昇降部110の駆動により、成形型104の成形面が流出パイプ102aに近づけられると、成形面への熔融ガラス流の供給が開始される。
そして一定時間経過後、成形型昇降部110による成形型の上昇が解除されると、成形型ベースのスプリング等の付勢力によって、成形型ベースの可動部が熔融ガラス流の流下速度よりも速い速度で瞬時に押し下げられ、それに伴って成形型104が流出パイプ102aから瞬時に引き離され、上昇前と同じ高さまで急降下する。
成形型104の降下前は、流出パイプ102aから流出された熔融ガラスの下端は、成形型104によって支持されているが、成形型104の急降下によってその支持を急速に失い、熔融ガラス下端部と流出パイプ102aの間で熔融ガラスが分離、切断され、所定量の熔融ガラス塊が成形型104内に供給されることになる。
【0027】
以上のような降下切断法は、切断器を用いず、熔融ガラスが自重によって分離・切断されるので、切断器を用いた場合と比較し、切断部分の痕跡が残りにくいという効果がある。
また、熔融ガラスを成形型104に受け取る際に、成形型104は上下方向に動くのみであり、熔融ガラスが切断されたときに生じる折込等がガラス塊に生じにくいという特長もある。
【0028】
ターンテーブル106に成形型ベースを介して載置された複数(例えば12個)の成形型104の各々には、図示しないガス配管が備えられ、各成形型104の凹部に供給されるガラス塊を浮上又は略浮上させるためのガスが供給される。
ガスは、成形型104の成形面上に形成された複数のガス噴出口104a(図2(a)参照)より噴出され、これによって成形型104の凹部内のガラス塊はガスクッションによって浮上又は略浮上された状態となって所定の成形処理等が行われる。
具体的には、図2(a)に示すように、成形型104の凹部の内面の一定領域にわたってガス噴射孔104aが複数設けられている。これらガス噴出孔104aからガスが噴出されて凹部上の熔融ガラス塊に上向きの風圧が加えられ、ガラス塊が凹部から浮上され、あるいは断続的に浮上されて、ガラス塊と成形型104との接触が回避乃至接触時間が短縮されることになる。
これにより、本実施形態に係るプリフォーム成形装置100では、熔融ガラス塊を成形型内で浮上(又は略浮上)させた状態で熱間成形することができ、浮上状態で所定の表面曲率を有するゴブを形成する浮上成形法を利用することができる。
【0029】
浮上成形法では、熔融ガラス塊を噴出するガスによるガスクッションを介して浮上させ、成形型104と熔融ガラス塊の接触を低減・回避することができるので、プリフォーム表面のシワの発生や所謂カン割れと呼ばれるガラスの割れの発生を防止することができ、また、熔融ガラス塊の熱による成形型の劣化等の防止、成形型の保守・管理の容易化等を図ることが可能となる。
ここで、ガラス塊を浮上又は略浮上させるガスとしては、例えば空気、窒素などの不活性ガス、又はそれらの混合ガスを用いることができる。
また、成形型104に形成されるガス噴出口104aの数や分布、形成箇所、噴出口の径等は、熔融ガラス塊を浮上させることができる任意の値に設定することができる。また、成形型104の凹部を多孔質材料により形成して、ガスを噴出させるようにすることもできる。
そして、ガスクッションにより浮上状態となった熔融ガラス塊に対して、送風装置200による冷却及び成形処理が行われる。
【0030】
[送風装置]
送風装置200は、熔融ガラス塊が供給されるキャスト位置の下流側の所定箇所に設置され、成形型104内に浮上状態で供給されている熔融ガラス塊に対して上方からガスを噴出・送風することで、熔融ガラス塊を冷却しつつ熔融ガラス塊の形状改善、曲率・肉厚調整を行って、熔融ガラス塊を所定の曲率に形成・制御して所望のプリフォームに成形する冷却・成形手段である。
具体的には、送風装置200は、図1に示すように、熔融ガラス供給部102が備えられるキャスト位置の次段以降の所定の成形型104に対応する位置に配設される。図1に示す例では、キャスト位置の次に位置する成形型104の位置に送風装置200が配置されている。
この送風装置200は、所定のガス・エアを供給するための本体部と、本体部とダクト(図2(a)に示すダクト211a,214a参照)を介して接続されて成形型104の上方に配置され、先端開口から所定のガス・エアを噴出する送風ノズル210を備えている(図2参照)。
そして、送風装置200は、ターンテーブル106の回転により移送されてきた成形型104が停止したタイミングにおいて、当該成形型104内の熔融ガラス塊に対して、上方からガスを噴出して熔融ガラス塊を冷却しつつ所定の成形処理を実行する。
【0031】
[送風ノズル]
本実施形態では、図2に示すように、送風装置200の送風ノズル210が所定構造を有することにより、熔融ガラス塊を成形型104上において浮上させた状態で、熔融ガラス塊に鉛直方向に沿った軸周りに回転する力を与えて位置修正しつつ、熔融ガラス塊の上面の曲率を制御するようになっている。
具体的には、送風ノズル210は、図2(a)に示すように、センターノズル211と外装材213の二つの筒状体を備えた二重構造となっており、センターノズル211と外装材213とがノズル基部214によって一体的に構成されている。
【0032】
センターノズル211及びノズル基部214には、それぞれ第一,第二のノズル211a,214aが接続されており、二系統のエアブロー制御によって送風装置200の本体からガス・エアが供給されるようになっている。
そして、このような筒状体の二重構造によって、送風ノズル210の中央部には、鉛直方向下向きに気流を吹き出す第一の吹き出し口210aが設けられるとともに、送風ノズル210の周縁部には、第一の吹き出し口210aの周囲に配されて螺旋状に気流を吹き出す第二の吹き出し口210bが設けられるようになっている。
なお、このような送風ノズル210は、ガス供給管として好適な金属等で構成することができ、例えばステンレス等の金属管によって構成することができる。
【0033】
センターノズル211は、略直線円筒状の管状部材からなり、このセンターノズル211の先端側開口部が第一の吹き出し口210aとなっている。
センターノズル211の後端部は、第一のダクト211aに連通・接続されており、図2(a)では図示を省略してあるが、第一のダクト211aが送風装置200の本体に接続されており(図1(b)参照)、エアブロー制御により送風装置200の本体から送られてくるガスを先端開口部(第一の吹き出し口210a)から鉛直方向下向きに噴出するようになっている。
【0034】
ここで、センターノズル211の先端開口部(第一の吹き出し口210a)から噴出させるガス・エアとしては、上述した成形型104から噴出させるプリフォーム浮上用のガスと同様、例えば空気、窒素などの不活性ガス、又はそれらの混合ガスを用いることができる。
そして、このセンターノズル211の先端部212が外装材213により覆われて二重構造となり、これらセンターノズル211及び外装材213がノズル基部214において一体化されて送風ノズル210を構成している。
外装材213は、センターノズル211の先端部212を外側から覆うように配設・装着される筒状部材であり、センターノズル211と一体となって送風ノズル210を構成している。
【0035】
より具体的には、外装材213は、センターノズル211の開口部近傍の外側面に一端側が突き合わされて配設され、センターノズル211との間に所定の空隙213aが形成されるように装着される筒状部材である。
この外装材213の後端側はノズル基部214に連続しており、このノズル基部214にセンターノズル211の後端部及び第一のダクト211aが接続されることで、センターノズル211及び外装材213が一体となって送風ノズル210を構成している。
また、外装材213(又はノズル基部214)の側面には、センターノズル211の第一のダクト211aとは別系統の第二のダクト214aが接続され、送風装置200の本体から送られてくるガスが第二のダクト214aを介して外装材213によって形成される空隙213aに供給される。
【0036】
そして、センターノズル211の開口部近傍の外側面と外装材213の一端側の内側面とが突き合わされる界面に、複数の案内溝212aが螺旋状に刻設し、当該案内溝212aを第一の吹き出し口210aの周囲に開口させて第二の吹き出し口210bとして形成してある。
案内溝212aは、本実施形態では、センターノズル211の先端部212の表面に所定の螺旋形状の溝を刻設することにより設けてある。
このように本実施形態ではセンターノズル211の表面に案内溝212aを形成することで、所望の形状・数の案内溝212aを容易に設けることができるようになっている。
また、センターノズル211は送風ノズル210と一体として着脱・交換することができ、これによって、溝の形状や数、開口径(第二の吹き出し口210bの径)等の異なる案内溝212aや、先端開口径(第一の吹き出し口210aの径)の異なる複数のセンターノズル211を交換・使用することができる。
【0037】
ここで、センターノズル211に刻設する案内溝212aの形状(螺旋の傾斜角度)や数、溝の太さ・深さ、開口径等は、成形対象となるプリフォームの大きさや曲率等に応じて任意に設定することができ、また、センターノズル211を複数用意することで、異なる大きさ、曲率等のプリフォームの成形にも対応することが可能となる。
例えば、案内溝212aによって構成される第二の吹き出し口210bの開口径を、加工対象となるプリフォームの外周径に対応してφ6,8,10,12,14,15,16,18,20等と、複数の開口径サイズのセンターノズル211を用意することができる。また、この場合、各サイズのセンターノズル211を備えた送風ノズル210を用意し、そのサイズ等の識別表示を送風ノズル210の表面に刻印等することで表示することができる。
センターノズル211を含む送風ノズル210の交換は、例えばノズル基部214の部分から第一のダクト211a及び第二のダクト214aを取り外すことで、送風ノズル210全体を着脱・交換することで行える。
【0038】
なお、以上のような螺旋状気流を噴出するための案内溝212aは、センターノズル211の開口部近傍の外側面と外装材213の内側面とが対向する界面に設けられればよく、従って、上述したセンターノズル211側に刻設される以外の構成を採用することもできる。
例えば、螺旋状の溝を外装材の内周面に刻設することで案内溝212aを設けることもでき、熔融ガラス塊に対して螺旋状の気流を噴出できる構造であれば、どのような構成としても良い。
【0039】
外装材213には、センターノズル211の第一のダクト211aとは別系統の第二のダクト214aが接続されている。
図2(a)に示すように、外装材213は、後端側にノズル基部214が連接されており、この外装材213及びノズル基部214の内周面とセンターノズル212の外周との間に空隙213aが形成される。そして、この空隙213aに第二のダクト214aが連通・接続されている。
図2(a)に示す例では、外装材213(又はノズル基部214)の側面に第二のダクト214aが連通・接続されており、これによって第二のダクト214aと空隙213a、及び案内溝212aが連通するようになっている。そして、図2(a)では図示を省略してあるが、この第二のダクト214aが送風装置200の本体に接続されるようになっている。
【0040】
これにより、上述した第一の吹き出し口210aから噴出されるガスとは別系統で、エアブロー制御により送風装置200の本体から送られてくるガスが、第二のダクト214a・空隙213a・案内溝212aを経由して、第一の吹き出し口210aの周囲に開口する第二の吹き出し口210bから螺旋状に噴出するようになっている。
なお、この第二の吹き出し口210bから螺旋状に噴出させるガスは、センターノズル211の第一の吹き出し口210aから噴出させるガスと同様、例えば空気、窒素などの不活性ガス、又はそれらの混合ガス等が用いられる。
【0041】
ここで、センターノズル211の第一のダクト211aと、外装材213の第二のダクト214aへのガスの供給は、二系統のエアブロー制御によってそれぞれ独立して行うことができ、センターノズル211の第一の吹き出し口210aからと、外装材213の空隙213aを経由した第二の吹き出し口210bからと、独立してガスを噴出させることができる。
従って、送風ノズル210からは、第一の吹き出し口210a及び第二の吹き出し口210bからそれぞれ所定のタイミングでガスを噴出させることができ、また、第一の吹き出し口210a又は第二の吹き出し口210bのいずれか一方からのみガスを噴出させることができ、また、第一の吹き出し口210a及び第二の吹き出し口210bの双方から同時あるいはほぼ同時にガスを噴出させることもできる。
【0042】
そして、以上のような送風ノズル210を備えた送風装置200は、ターンテーブル106により移送されてくる熔融ガラス塊を受けた成形型104の上方に送風ノズル210が配置された状態で、送風ノズル210の第二の吹き出し口210bから螺旋状に吹き出す気流を熔融ガラス塊の周縁に吹き付けることにより、熔融ガラス塊に鉛直方向に沿った軸周りに回転する力を与えることができる。
第二の吹き出し口210bから吹き出す気流は、螺旋状の案内溝212aに沿って噴出されるので、図3に示すように、螺旋状の気流(スパイラルエア)がノズル先端から広がりながら吹き出すことになる。従って、このように螺旋状に吹き出す気流(ガス・エア)を、成形型104内で浮上する熔融ガラス塊に対してその周縁に吹き付けることにより、熔融ガラス塊は当該熔融ガラス塊の中心部を回転中心として回転することになる。
【0043】
このように熔融ガラス塊を螺旋状気流(スパイラルエア)によって回転させることにより、成形型104内で浮上中の熔融ガラス塊(プリフォーム,ゴブ)の姿勢を安定・修正させることができ、これによって、成形型内で浮上するプリフォームの位置を、曲率の中心とプリフォーム外周の中心とが一致するように修正・保持しつつ、プリフォーム上面の曲率を調整することができる。
また、このように成形型104の上方から、成形型104とは独立した送風手段によって成形型内の熔融ガラス塊の位置と姿勢を安定・修正できるので、成形型自体は何ら変更・改良等する必要がなく、成形型を複雑な構造にすることなく、シンプルな構造によってプリフォームの位置制御・位置修正を実現することができる。従って、プリフォーム成形装置100の製造コストが増大することもなく、既存の装置等にも適用が容易で汎用性・拡張性に優れたプリフォーム成形装置の提供が可能となる。
【0044】
ここで、図3に示したように、スパイラルエアはノズル先端から広がりながら吹き出すことになる。このため、気流を熔融ガラス塊(プリフォーム)の周縁に当てて効果的に回転させるには、図4に示すように、案内溝212a(第二の吹き出し口210b)の開口径が、成形対象となる熔融ガラス塊(プリフォーム)の外径よりも若干小さいものを選択することが好ましい。
案内溝212a(第二の吹き出し口210b)の開口径の選択・変更は、上述したように複数の送風ノズル210(センターノズル211)を用意し、ノズルの選択・着脱・交換を行えばよい。
【0045】
また、送風ノズル210の高さを変えることによっても、熔融ガラス塊(プリフォーム)の周縁に当たる螺旋状気流の位置や範囲、強さを調整することができる。スパイラルエアがプリフォームの周縁部分に当たっていない場合や気流の勢いが弱い場合には、熔融ガラス塊をプリフォームの曲率中心を回転中心として十分に回転させることができない。一方で、エアを出し過ぎると、熔融ガラス塊が型内で動き過ぎて、T.Oミスや傷、汚れが多くなる等の弊害が生じる場合がある。
従って、例えば成形するプリフォームの品質等を見ながら送風ノズル210の高さ調整を行うようにすると、高精度・高品質のプリフォームを確実に成形することが可能となる。
なお、送風ノズル210の高さ調整を行う手段としては、特に図示しないが送風装置200の本体に備えられるダクト全体の高さを調整する公知の調整手段・調整装置等を使用することができる。
【0046】
また、以上のように螺旋状気流によって成形型内の熔融ガラス塊を回転させることにより、プリフォームの偏肉の発生や真円度の低下等も防止することができ、プリフォームの形状改善や曲率・肉厚調整等を図ることができる。
上述したように、本実施形態ではターンテーブル106により成形型104を移動させつつプリフォームの成形を行うようになってが、成形型104が移動することにより熔融ガラス塊は成形型上で特定方向に揺動することになる。従来のプリフォーム成形装置では、このような熔融ガラス塊が揺動することにより熔融ガラス塊に偏り等が発生し、プリフォーム外周の真円度が得られ難くなるという問題があった。
本実施形態では、上述のようにスパイラルエアによって成形型104内で熔融ガラス塊(プリフォーム)が回転することにより、成形型104の移動によって熔融ガラス塊が特定方向に揺れた場合にも、揺れによる力が熔融ガラス塊の一方向のみに働くことがなくなり、プリフォーム外周の真円度を高くすることができる。
その結果、偏りのない、真円度の高いプリフォームを成形・製造することができ、次工程のプレス成形時において偏肉が発生することを防止でき、精度の高い光学素子の成形・製造が可能となる。
【0047】
また、成形型104の上方に配置した送風ノズル210の周縁部(第二の吹き出し口210b)から螺旋状に気流を吹き出させて、当該気流の内側の雰囲気に負圧を発生させることができる。これにより、熔融ガラス塊の上面を吸引して当該上面の曲率を制御することができる。
上述のように、螺旋状の気流は送風ノズル210の第二の吹き出し口210bの先端から広がりながら、熔融ガラス塊の周縁部に沿って螺旋状に噴出される(図3参照)。このため、熔融ガラス塊の上方のスパイラルエアの内側は、気流が存在しない負圧状態となる。そして、この負圧状態により、熔融ガラス塊の上面には鉛直方向上向きに吸引力が発生する。
【0048】
従って、送風ノズル210の第二の吹き出し口210bからスパイラルエアを噴出させることで、気流内側に負圧を発生させ、この負圧によって熔融ガラス塊の上面を吸引することができ、これによって熔融ガラス塊の上面の曲率を制御することができる。
特に、負圧による吸引力を作用させるものであるので、プリフォームの上面中心を膨出させて頂部状に成形して曲率を制御する場合に好ましい。
これにより、螺旋状の気流によって、熔融ガラス塊を、曲率中心を回転中心として回転させつつ、その曲率中心を負圧により吸引・膨出させて曲率制御を行うことができるので、曲率の中心とプリフォーム外周の中心とが一致するようにプリフォーム上面の曲率を調整することができ、より高精度なプリフォーム成形を実現することができる。
【0049】
なお、この負圧による熔融ガラス塊の曲率制御においても、案内溝212a(第二の吹き出し口210b)の開口径のサイズや、送風ノズル210の高さ調整を行うことが望ましい。
従って、この場合も、成形するプリフォームの状態、曲率等を見ながら送風ノズル210の高さ調整を行い、また、送風ノズル210のサイズ等を選択・変更することで、所望の曲率のプリフォームを確実に成形することができるようになる。
【0050】
さらに、送風ノズル210の中央部から鉛直方向下向きに気流を吹き出させて、当該気流を熔融ガラス塊の中心に吹き付けることにより、熔融ガラス塊の上面を加圧して当該上面の曲率を制御することができる。
すなわち、本実施形態では、送風ノズル210のセンターノズル211の第一の吹き出し口210aから、鉛直下向きの気流(センターエア)を噴出させて熔融ガラス塊の上面を加圧でき、このエア加圧によってプリフォームの上面の曲率制御を行うことができる。
【0051】
本実施形態に係る送風ノズル210は、螺旋状気流とは別系統のエアブロー制御により、センターノズル211の第一の吹き出し口210aを介して熔融ガラス塊の上面に鉛直下向きの気流(センターエア)を噴出させることができる。
従って、送風ノズル210の第一の吹き出し口210aからセンターエアを噴出させることで、熔融ガラス塊の上面を直接加圧することができ、このエア加圧の作用によって熔融ガラス塊の上面の曲率を制御することができる。
特に、鉛直下向きの気流により加圧させるものであるので、プリフォームの上面中心を平坦化したり、凹状に窪ませるように成形する場合の曲率制御により好ましい。
さらに、熔融ガラス塊の上面全体にセンターエアが吹き付けられることで、熔融ガラス塊が冷却されて脈理の発生を防止する効果がある。
【0052】
これにより、第二の吹き出し口210bからの螺旋状の気流により熔融ガラス塊を曲率中心を回転中心として回転させつつ、その曲率中心を鉛直下向きのエアにより加圧して曲率制御を行うことができるので、曲率の中心とプリフォーム外周の中心とが一致するようにプリフォーム上面の曲率を調整することができ、より高精度なプリフォーム成形を実現することができる。
従って、センターノズル211の第一の吹き出し口210aからのセンターエアによる加圧を行う場合には、第二の吹き出し口210bからのスパイラルエアによる回転制御と併用して、両吹き出し口210a、201bからのエアを、同時、ほぼ同時、あるいは相前後して噴出させることが好ましい。
この場合、第一の吹き出し口210aからのセンターエアを先に噴出させてもよく、また、第二の吹き出し口210bからのスパイラルエアを先に噴出させることもできる。また、第一の吹き出し口210aからのセンターエアを噴出させないようにすることもできる。
【0053】
なお、第一の吹き出し口210aからのセンターエアによる熔融ガラス塊の曲率制御においても、センターノズル211(第一の吹き出し口210a)の開口径のサイズや、送風ノズル210の高さ調整を行うことが望ましい。
特に、センターノズル211からのセンターエアは、脈理を消す脈消し効果があるが、センターノズル211のサイズ(開口径)が小さ過ぎると、脈消しの効果が薄れて、プリフォームの中央部分だけ脈理が消えて周辺部分には残ってしまうおそれがある。このため、センターノズル211の開口径の選択は重要になる。
従って、このセンターノズル211から吹き出されるセンターエアについても、成形するプリフォームの状態、曲率、脈理の有無等を見ながら送風ノズル210の高さ調整を行い、また、送風ノズル210のサイズ等を選択・変更することで、所望の曲率のプリフォームを確実に成形することができる。
【0054】
以上のようにして送風装置200による成形及び冷却処理を経て所望のプリフォームが成形されると、当該プリフォームを保持・収容している成形型104は、ターンテーブル106の回転によって、図1におけるキャスト位置(二点鎖線で示された位置)から更に時計回りの方向へと移送され、移送過程でガラスの徐冷が行われつつ所定の取り出し位置(テイクアウト位置)まで搬送される。
そして、所定のテイクアウト位置において、図示しない取り出し手段により、例えば噴出するガスによって成形済みにプリフォームが成形型104から吹き飛ばされて、次工程のプレス成形装置へ搬送・回収される。なお、所定のテイクアウト位置におけるプリフォームは、ガラス転移点Tg以下の温度にまで徐冷されている。
【0055】
プリフォームが取り出されて凹部が空になった成形型104は、その後、図示しない加熱手段により熔融ガラスを受けるのに適した温度にまで加熱される。そして再度、熔融ガラス塊が供給されるキャスト位置へと移送され、熔融ガラス塊の供給を受けて次のプリフォームを成形する。
このようにして各成形型104を循環することによって順次、熔融ガラス塊から所望のプリフォームが高精度に成形・製造されることになる。
【0056】
[プリフォームの製造方法]
次に、以上のようなプリフォーム成形装置100を使用した本実施形態に係るプリフォームの製造方法について説明する。
まず、本実施形態のプリフォームの製造方法の実施にあたっては、送風装置200の使用・設置位置の選択と、送風ノズル210のサイズの選択を行う。
送風装置200の使用(設置)位置の選択は、送風装置200を設置する位置、すなわちキャスト位置で成形型104に供給された熔融ガラス塊にエアを吹き付ける位置によって、成形・製造されるプリフォームの結果が異なることがあるからである。
【0057】
具体的には、まず、本実施形態をプリフォームの形状改善を主目的として使用する場合には、送風装置200の使用位置として、図5に示すように2つの位置を想定している。
図5(a)に示す第一位置は、ターンテーブル上のキャスト位置102の次の成形型に対応する位置に送風ノズル210が配置されるように送風装置200を設置する場合である。
この場合、送風装置200の使用位置は、キャスト位置102から直後の位置にあたり、この位置では成形型104の熔融ガラス塊は熔融ガラス供給部102からの供給直後であり、より柔らかい状態にある。このため、本実施形態に係るスパイラルエアによって、柔らかい状態のうちに熔融ガラス塊を回転させることができ、真円度をより高精度にすることが可能となり、スパイラルエアによる形状改善の効果を発揮させ易い位置となる。
【0058】
一方、図5(b)に示す第二位置は、図5(a)に示した第一位置の次の成形型に対応する位置に送風ノズル210が配置されるように送風装置200を設置する場合である。
この場合、送風装置200の使用位置は、第一位置と比較して熔融ガラス塊が供給されてからの経過時間が長い位置となるため、熔融ガラス塊が第一位置におけるよりも冷却され、ある程度固まった状態となっている。このため、熔融ガラス塊をある程度固まった状態でスパイラルエアによって回転させることができることになり、脈理の影響が少ないプリフォーム成形が可能となる。
【0059】
なお、本実施形態に係るスパイラルエア(及びセンターエア)を曲率、肉厚調整を主目的として使用する場合には、送風装置200の使用位置は上記第一,第二位置のみに限定されず、任意の箇所に送風装置200を設置して、スパイラルエアの吸引効果、センターエアによる加圧効果等を活用することができる。
また、その場合、送風装置200を複数箇所に設置することも可能である。
【0060】
送風ノズル210のサイズの選択は、成形対象となるプリフォームの形状、大きさ等に応じて、送風ノズル210の第一の吹き出し口210a及び第二の吹き出し口210bの開口径、センターノズル211の案内溝211aの数や形状等に基づいて選択する。
このとき、第一、第二の吹き出し口210a,210bの開口径や案内溝211aの選択は、ノズル外面に表示された刻印等の情報に基づいて行うことができる。
【0061】
例えば、第二の吹き出し口210bから噴出されるスパイラルエアはノズル先端から広がりながら吹き出すため、気流を熔融ガラス塊(プリフォーム)の周縁に当てて効果的に回転させるには、図4に示すように、第二の吹き出し口210bの開口径が成形対象となる熔融ガラス塊(プリフォーム)の外径よりも若干小さいものを選択することが好ましい。
また、例えばセンターノズル211の第一の吹き出し口210aからのセンターエアは、プリフォームの脈消し効果があるが、センターノズル211の開口径が十分でないと、脈消しの効果が薄れて、プリフォームの中央部分だけ脈理が消えて周辺部分には残るおそれがある。このため、センターノズル211の開口径が小さすぎないように選択することが望ましい。
【0062】
以上のような送風装置200の使用位置と送風ノズル210の選択の後は、プリフォーム成形装置100に対して必要な準備を行い、装置を始動して製造を開始する。
まず、送風ノズル210のセンターエアとスパイラルエアの両方を使用する場合には、両エアを独立して制御する二系統のエアブロー制御を行うようにする。
また、プリフォーム成形装置100には、熔融ガラス塊をプリフォームに成形する成形型104を複数個(本実施形態では12個)用意する。
そして、これら成形型104は同一仕様とし、ターンテーブル106上の所定位置に配置して、ターンテーブル106をインデックス回転することにより、決められた停留位置に順次移動させながら周回させる。
【0063】
熔融ガラス塊の供給位置となるキャスト位置に停留する成形型104の上方には、熔融ガラスを流出する熔融ガラス供給部102の流出パイプ102aが配置されている(図1(b)参照)。
このキャスト位置に停留する成形型104が、ターンテーブル下部の成形型昇降部110により突き上げられ、流出パイプ102aの流出口に近づけられる。パイプ流出口からは公知の方法で清澄、均質化した熔融ガラスが一定流量で連続して流出する。
この熔融ガラスの下端を、成形型昇降部110で突き上げ状態の成形型104で受けて支持した後、所定のタイミングで成形型昇降部110の突き上げを解除することにより成形型を鉛直に急降下させる。
【0064】
これによって、熔融ガラスは流出パイプ側と成形型側に受けられた部分の間で分離し、成形型上に熔融ガラス塊が得られる。なお、流出パイプ102aと成形型104の距離の調整は、突き上げ量を所定単位、例えば10〜100μmの単位で調整する方式が精度よく距離調整を行うという観点から好ましい。
成形型104で受けられた熔融ガラス塊は、成形型104の凹部から噴出するエアにより浮上され、成形型104に接触することなく浮上された状態で保持される。
【0065】
次に、成形型104上の熔融ガラス塊は、ターンテーブル106の回転に伴って成形型104とともにキャスト位置から下流側に搬出・移送され、送風装置200による冷却及び成形処理が行われる。
ここで、プリフォームの形状改善を主目的としている場合には、上述したように、キャスト位置の次の成形型に対応する位置(図5(a)に示す第一位置)、又は、キャスト位置の次の次の成形型(キャスト位置から二つ目の成形型)に対応する位置(図5(b)に示す第二位置)において、送風装置200の送風ノズルからのエアの噴出により、熔融ガラス塊の冷却及び成形処理が行われる。
【0066】
まず、第一位置(図5(a))においてエアの噴出がされる場合、キャスト位置102の直後の位置にあたり、成形型104の熔融ガラス塊はより柔らかい状態にある。
このため、本実施形態に係るスパイラルエアを用いることによって、柔らかい状態のうちに熔融ガラス塊を回転させることができ、真円度をより高精度に出すことができる。これによって、形状改善されたプリフォームを得ることができる。
一方で、熔融ガラス塊が柔らかい状態でスパイラルエアの噴出を受けることで、スパイラルエアの負圧・吸引効果によって、熔融ガラス塊の表面が引っ張られて脈理が出やすくなる。
【0067】
そこで、この第一位置においては、第二の吹き出し口210bからのスパイラルエアとともに、第一の吹き出し口210aからのセンターエアを併用し、センターエアにより脈理の発生を防止しつつ、スパイラルエアによる回転・成形処理を行う。
ここで、スパイラルエアとセンターエアとは、ほぼ同時に噴出させることもできるが、センターエアによる脈消しの効果を高めるためには、センターエアを先に噴出させてスパイラルエアを遅らせて噴出させる方がより好ましい。
【0068】
一方、第二位置(図5(b))においてエアの噴出がされる場合は、第一位置の場合と比較して、熔融ガラス塊が供給されてからの経過時間が長いため、熔融ガラス塊が第一位置におけるよりも冷却されてある程度固まった状態となっている。
このため、本実施形態に係るスパイラルエアによって熔融ガラス塊を回転させても、ある程度固まった状態の熔融ガラス塊は脈理の影響がない。
従って、この場合には、センターエアは任意のタイミングで噴出させることができ、また、プリフォームの形状や曲率によっては、センターエアは使わなくてもよい。
【0069】
なお、スパイラルエア及びセンターエアを曲率、肉厚調整を主目的として使用する場合には、熔融ガラス塊の形状を見ながら、任意のタイミングでスパイラルエアとセンターエアを噴出・使用することができる。
この場合、ターンテーブル106を随時回転及び停止させ、得られたプリフォームを目視等により確認し、あるいは、所定のゲージ等でプリフォームの大きさや形状、曲率等をチェックし、エアの噴出位置や噴出量、噴出のタイミング等を随時変更・調整することができる。
【0070】
次に、送風ノズル210からのエアの噴出を停止するタイミングについて説明する。
エアの停止のタイミングとしては、まず、スパイラルエア(及びセンターエア)を、プリフォームの形状改善を主目的として使用している場合には、スパイラルエアはセンターエアと同時にストップするようにする。
スパイラルエアの停止がエンターエアの停止より早い場合、センターエアの押さえつけでプリフォームの曲率が大きめになる傾向がある。一方、スパイラルエアの停止がセンターエアの停止より遅い場合には、スパイラルエアの吸引効果によりプリフォームの曲率が盛り上がる傾向となる。このため、スパイラルエアとセンターエアは同時に停止することが望ましい。
【0071】
但し、両エアの停止タイミングは、プリフォームの品質を見ながら任意のタイミングとすることもできる。
また、スパイラルエア及びセンターエアを曲率、肉厚調整を主目的に使用する場合にも、両エアの停止タイミングは、プリフォームの形状等を見ながら任意のタイミングとする。
【0072】
以上のようにして送風ノズル210のエアにより冷却及び所定の成形処理が行われた後は、成形型104上のプリフォームは、ガラスが変形しない温度域にまで冷却され、所定の取り出し位置(テイクアウト位置)まで搬送され、成形型から取り出されて徐冷される。このプリフォームは、次工程である精密プレス成形工程に移送される。
プリフォームが取り出されて空になった成形型104は、ターンテーブル106の回転によりキャスト位置に移送され、上記工程が繰り返される。
複数の各成形型104について上記工程を繰り返し行うことにより、連続流出する熔融ガラス塊からプリフォームを次々と成形することができる。
【0073】
次に、成形・製造されたプリフォームに脈理がある場合について説明する。
まず、成形されたプリフォームに脈理がある場合には、脈理が発生したプリフォームと同じ成形工程において、スパイラルエアのみを停止させた状態でプリフォームを成形する。
そして、そのプリフォームについて再度脈理の有無を確認する。
【0074】
スパイラルエアのみを停止して成形したプリフォームに脈理がある場合には、その脈理発生はスパイラルエアの影響ではないことになるので、通常の脈理対策により調整を行う。
例えばセンターエアの位置や風量を調整したり、送風装置200の使用位置を変更することができる。
【0075】
一方、スパイラルエアのみを停止して成形したプリフォームに脈理がない場合には、その脈理発生はスパイラルエアの影響であることになる。
この場合には、次のような方法で調整を行う。
(1)センターエア(脈消し)を強める(早めに表面を固めることで脈理を消す)。
(2)スパイラルエアのタイミングを遅らせる。
(3)スパイラルエアの流量を弱める。
(4)スパイラルの高さを調整する。
上記のような調整を行い、得られたプリフォームを確認しながら、脈理が消えるまで調整を行う。
以上により、脈理のない高品質、高精度のプリフォームを成形することができるようになる。
【0076】
[光学素子の製造方法]
次に、以上のような本実施形態に係るプリフォーム成形装置及びプリフォームの製造方法により成形・製造されたプリフォーム(ゴブ)を用いた光学素子の製造方法について、精密プレス成形方法を例にとって説明する。
以下に示す光学素子の製造方法は、上述した実施形態で示したプリフォームの製造方法で製造・量産された精密プレス成形用プリフォームの一部または全部を精密プレス成形する方法である。
【0077】
精密プレス成形は、モールドオプティクス成形法とも呼ばれ、プレス成形によって光学機能面の形状を形成する方法であり、既に当該発明の属する技術分野においてはよく知られたものである。
光学素子の光線を透過したり、屈折させたり、回折させたり、反射させたりする面を光学機能面と呼ぶ。例えばレンズを例にとると非球面レンズの非球面や球面レンズの球面などのレンズ面が光学機能面に相当する。
精密プレス成形法は、プレス成形型の成形面を精密にガラスに転写することにより、プレス成形で光学機能面を形成する方法である。つまり光学機能面を仕上げるために研削や研磨などの機械加工を加える必要がない。
【0078】
精密プレス成形法に使用するプレス成形型としては、公知のもの、例えば炭化珪素、超硬材料などの型材の成形面に離型膜を設けたものを用いることができる。中でも、炭化珪素製のプレス成形型を用いることが好ましい。
離型膜としては、炭素含有膜、貴金属合金膜などを使用することができ、耐久性、コストの面などから、炭素含有膜を用いることが好ましい。
精密プレス成形法では、プレス成形型の成形面を良好な状態に保つため、成形時の雰囲気を非酸化性ガス雰囲気にすることが望ましい。非酸化性ガスとしては、窒素、窒素と水素の混合ガスなどを用いることが好ましい。
【0079】
次に本発明の光学素子の製造方法に特に好適な精密プレス成形法について説明する。
[精密プレス成形法1]
この方法は、プレス成形型に前記プリフォームを導入し、前記成形型とプリフォームを一緒に加熱し、精密プレス成形するというものである。
この精密プレス成形法1において、プレス成形型と前記プリフォームの温度をともに、プリフォームを構成するガラスが10〜1012dPa・sの粘度を示す温度に加熱して精密プレス成形を行うことが好ましい。
また前記ガラスが1012dPa・s以上、より好ましくは1014dPa・s以上、さらに好ましくは1016dPa・s以上の粘度を示す温度にまで冷却してから精密プレス成形品をプレス成形型から取り出すことが望ましい。
上記の条件により、プレス成形型成形面の形状をガラスにより精密に転写することができるとともに、精密プレス成形品を変形することなく取り出すこともできる。
【0080】
[精密プレス成形法2]
この方法は、 前記プリフォームを加熱した後に、プレス成形型に導入し、精密プレス成形する、すなわち、プレス成形型とプリフォームを別々に予熱し、予熱したプリフォームをプレス成形型に導入して精密プレス成形するというものである。この方法によれば、前記プリフォームをプレス成形型に導入する前に予め加熱するので、サイクルタイムを短縮化しつつ、表面欠陥のない良好な面精度の光学素子を製造することができる。
なお、プレス成形型の予熱温度をプリフォームの予熱温度よりも低く設定することが好ましい。このようにプレス成形型の予熱温度を低くすることにより、前記型の消耗を低減することができる。
また、この方法によれば、プリフォーム加熱をプレス成形型内で行う必要がないので、使用するプレス成形型の数を少なくすることもできる。
【0081】
精密プレス成形法2において、前記プリフォームを構成するガラスが10dPa・s以下、より好ましくは10dPa・sの粘度を示す温度に予熱することが好ましい。
また、前記プリフォームを浮上しながら予熱することが好ましく、さらに前記プリフォームを構成するガラスが105.5〜10dPa・s、より好ましくは105.5dPa・s以上10dPa・s未満の粘度を示す温度に予熱することがさらに好ましい。
また、プレス開始と同時またはプレスの途中からガラスの冷却を開始することが好ましい。
【0082】
なお、プレス成形型の温度は、前記プリフォームの予熱温度よりも低い温度に調温されるが、前記ガラスが10〜1012dPa・sの粘度を示す温度を目安にすればよい。
この方法において、プレス成形後、前記ガラスの粘度が1012dPa・s以上にまで冷却してから離型することが好ましい。
【0083】
本実施形態では、少なくとも上型と下型を有し、上型成形面の形状と下型成形面の形状が異なるプレス成形型を用い、予め加熱したプリフォームを前記下型上に供給してプレス成形を行うことができる。
また、本実施形態では、上面、下面とも所望の面形状を有するプリフォームを製造することができるので、このプリフォームを用いることにより、上型、下型の成形面形状が異なるプレス成形型を用いても、ガストラップなどの問題を引き起こすことなく、光学素子を高い生産性のもとに製造することができる。
精密プレス成形された光学素子はプレス成形型より取り出され、必要に応じて徐冷される。また、レンズを成形した場合には、心取り加工を行ってもよい。
【0084】
このようにして、本実施形態では、例えば球面レンズ、非球面レンズ、マイクロレンズなどの各種のレンズ、回折格子、回折格子付のレンズ、レンズアレイ、プリズムなどの各種光学素子、用途としてはデジタルカメラやフィルム内蔵カメラの撮像光学系を構成するレンズ、カメラ付携帯電話搭載の撮像レンズ、CDやDVDをはじめとする光記録式媒体のデータ読取および/またはデータ書込み用に使用する光線を導光するためのレンズなどの各種光学素子を作製することができる。また、銅含有ガラス製のプリフォームを使用すれば、半導体撮像素子の色補正機能を有する光学素子を作製することもできる。中でもデジタルカメラ搭載のレンズを製造する方法として好適である。
【0085】
なお、これら光学素子には必要に応じて、反射防止膜、全反射膜、部分反射膜、分光特性を有する膜などの光学薄膜を設けることもできる。
また、上述した光学素子の製造方法では、本実施形態に係るプリフォーム成形装置及びプリフォームの製造方法により製造されたプリフォームを、プレス成形により最終製品を作製する精密プレス成形のためのプレス素材として使用していたが、プレス成形して得られた成形品の表面を研削、研磨して最終製品に仕上げる後加工を行って光学素子を製造する場合のプレス・加工素材としても使用することができる。
【0086】
以上説明したように、本実施形態に係る精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法及び光学素子の製造方法によれば、プリフォーム成形装置100の成形型104に供給される熔融ガラス塊を、送風ノズル210から噴出される螺旋状気流(スパイラルエア)によって回転させることにより、成形型104内で浮上中の熔融ガラス塊の姿勢を安定・修正させることができる。これによって、成形型内で浮上するプリフォームの位置を、曲率の中心とプリフォーム外周の中心とが一致するように修正・保持しつつ、プリフォーム上面の曲率を調整することができる。
また、このように成形型104の上方から、成形型104とは独立した送風手段によって成形型内の熔融ガラス塊の位置と姿勢を安定・修正できるので、成形型自体は何ら変更・改良等する必要がなく、成形型を複雑な構造にすることなく、シンプルな構造によってプリフォームの位置制御・位置修正を実現することができる。従って、プリフォーム成形装置100の製造コストが増大することもなく、既存の装置等にも適用が容易で汎用性・拡張性に優れたプリフォーム成形装置の提供が可能となる。
【0087】
また、本実施形態では、送風ノズル210からのスパイラルエアによって成形型104内で熔融ガラス塊(プリフォーム)が回転することにより、成形型104の移動によって熔融ガラス塊が特定方向に揺れた場合にも、揺れによる力が熔融ガラス塊の一方向のみに働くことがなくなり、プリフォーム外周の真円度を高くすることができる。
その結果、偏りのない、真円度の高いプリフォームを成形・製造することができ、次工程のプレス成形時において偏肉が発生することを防止でき、精度の高い光学素子の成形・製造が可能となる。
【0088】
また、本実施形態では、送風ノズル210からスパイラルエアを噴出させることで、気流内側に負圧を発生させ、この負圧によって熔融ガラス塊の上面を吸引することができ、これによって熔融ガラス塊の上面の曲率を制御することができる。特に、負圧による吸引力を作用させるものであるので、プリフォームの上面中心を膨出させて頂部状に成形して曲率を制御することができる。
これにより、螺旋状の気流によって、熔融ガラス塊を曲率中心を回転中心として回転させつつ、その曲率中心を負圧により吸引・膨出させて曲率制御を行うことができるので、曲率の中心とプリフォーム外周の中心とが一致するようにプリフォーム上面の曲率を調整することができ、より高精度なプリフォーム成形を実現することができる。
【0089】
さらに、本実施形態に係る送風ノズル210は、螺旋状気流とは別系統のエアブロー制御により、センターノズル211から熔融ガラス塊の上面に鉛直下向きの気流(センターエア)を噴出させることができる。
送風ノズル210からセンターエアを噴出させることで、熔融ガラス塊の上面を直接加圧することができ、このエア加圧の作用によって熔融ガラス塊の上面の曲率を制御することができる。特に、鉛直下向きの気流により加圧させるものであるので、プリフォームの上面中心を平坦化したり、凹状に窪ませるように成形することが可能となる。
また、熔融ガラス塊の上面全体にセンターエアを吹き付けることにより、熔融ガラス塊が冷却されて脈理の発生を防止することができる。
【0090】
このようにして、本実施形態によれば、送風ノズル210からスパイラルエアを噴出させて熔融ガラス塊を曲率中心を回転中心として回転させつつ、その曲率中心を鉛直下向きにセンターエアにより加圧・冷却することで、プリフォームの曲率制御を行うことができる。
これにより、曲率の中心とプリフォーム外周の中心とが一致するようにプリフォーム上面の曲率を調整することができ、より高精度なプリフォーム成形を実現することができる。
【0091】
以上、本発明の精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法及び光学素子の製造方法の一実施形態について説明したが、本発明に係る精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法及び光学素子の製造方法は上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
【0092】
例えば、上述した実施形態においては、循環する複数の成形型に熔融ガラス塊を順次供給してプリフォームに成形する例を挙げて本発明を説明した。本発明は、このようなプリフォーム成形装置に適用するのが好適であるが、定められた位置に固定されてプリフォームの成形を行う浮上式の成形型を用いた場合であっても、曲率の中心とプリフォームの中心が一致したプリフォームを確実に成形することができ、プリフォームのプレス成形時の偏肉の発生等を防止して高精度な光学素子を製造することができる。
【0093】
また、上述した実施形態においては、プリフォーム成形装置の成形型には熔融させた状態のガラス塊を供給していたが、本発明は必ずしも熔融状態のガラス塊を使用する場合のみを対象とするものではなく、熔融状態にないガラス塊を使用することもできる。
具体的には、プリフォーム成形装置の成形型に熔融状態にないガラス塊を供給し、そのガラス塊を成形型内において熔融して本発明に係る螺旋状エアや鉛直下向きエアによる成形処理を行うこともできる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、精密プレス成形用のガラスプリフォームに成形するための精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造及び成形されたガラスプリフォームをプレス成形することによる光学素子の製造に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0095】
100 プリフォーム成形装置
102 熔融ガラス供給部
104 成形型
106 ターンテーブル
108 成形型移送部
110 成形型昇降部
200 送風装置
210 送風ノズル
211 センターノズル
212 外装材
213 案内溝



【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形型上に受けた被成形ガラス塊をプリフォームに成形する精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法であって、
鉛直方向下向きに気流を吹き出す第一の吹き出し口をノズル中央に設けるとともに、前記第一の吹き出し口の周囲に配されて螺旋状に気流を吹き出す第二の吹き出し口を設けた送風ノズルの下方に、前記被成形ガラス塊を浮上した状態で保持する前記成形型が位置するときに、
前記第二吹き出し口から螺旋状に吹き出す気流を前記被成形ガラス塊の周縁に吹き付けて、前記被成形ガラス塊に鉛直方向に沿った軸周りに回転する力を与え、前記成形型上で前記被成形ガラス素材をプリフォームに成形することを特徴とする精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法。
【請求項2】
前記第二の吹き出し口から螺旋状に気流を吹き出させるに際し、当該気流の内側の雰囲気に負圧を発生させることにより、前記熔融ガラス塊の上面を吸引して当該上面の曲率を制御する請求項1に記載の精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法。
【請求項3】
前記第一の吹き出し口から鉛直方向下向きに気流を吹き出させて、当該気流を前記熔融ガラス塊の中心に吹き付けることにより、前記溶融ガラス塊の上面を加圧して当該上面の曲率を制御する請求項1又は2のいずれか一項に記載の精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法。
【請求項4】
前記送風ノズルが、前記第一の吹き出し口となる開口部を有するセンターノズルと、前記センターノズルの開口部近傍の外側面に一端側が突き合わされて前記センターノズルとの間に所定の空隙が形成されるように装着される筒状の外装材とを備え、
前記センターノズルの開口部近傍の外側面と、前記外装材の一端側の内側面とが突き合わされる界面に、複数の案内溝を螺旋状に刻設するとともに、当該案内溝を前記第一の吹き出し口の周囲に開口させて前記第二の吹き出し口を形成した請求項1〜3いずれか一項に記載の精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか一項に記載の精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法によりガラスプリフォームを製造し、前記ガラスプリフォームをプレス成形して光学素子を製造する光学素子の製造方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−116689(P2012−116689A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266608(P2010−266608)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)