説明

精製セルロース繊維の製造方法

【課題】環境負荷の高い副産物を生じることなく、レーヨンと同様の強度を有する精製セルロース繊維を製造することができ、且つ、製造時の作業環境、及び粘度の低下による作業性の向上が可能な精製セルロース繊維の製造方法の提供。
【解決手段】精製セルロース繊維を製造する方法であって、少なくとも1種のイオン液体と、少なくとも1種の水溶性高分子と、セルロース原料とを混合してセルロースを溶解させ、セルロース溶解液を作製する工程と、非溶媒中に、前記セルロース溶解液を添加して、セルロース繊維を析出させ、セルロース繊維からイオン液体と水溶性高分子とを分離してセルロース繊維を製造する工程と、を含むことを特徴とする精製セルロース繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース原料から精製セルロース繊維を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは、多糖類に分類される天然高分子であり、セルロースから人工的に製造されるセルロース繊維は、様々な用途において幅広く且つ大量に用いられている。
従来、セルロース繊維としては、ビスコース法により製造されるレーヨン等の再生セルロース繊維が主流であった。しかしながら、ビスコース法では、製造工程において有害な二硫化炭素が発生するという問題があった。
上記問題を解決するため、近年、N−メチルモルフォリン−N−オキシド(NMMO)を溶媒として用いた精製セルロース繊維の製造方法が開発され、実用に供されている。該製造方法を用いた場合、有害物質の発生が無く、環境負荷が低いという利点がある。一方で、該製造方法で製造された精製セルロース繊維は、前記ビスコース法により製造されるレーヨン等の再生セルロース繊維に比べて、強度や耐疲労性が劣るという問題がある。
【0003】
そこで最近では、イオン液体を用いた新たな精製セルロース繊維の製造方法や、該製造方法に利用可能な技術が検討されている。
例えば、特許文献1には、イオン液体並びに、水および/または水混和性有機溶媒からなる溶解溶剤に、セルロースまたはセルロース誘導体を加え、溶解が完結するまで混合物を40〜100℃で攪拌する工程を含むセルロース誘導体の溶解方法が記載され、水混和性有機溶媒を用いるとセルロース溶解性が向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−50595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載されたようなイオン液体は、単体では粘度が高いため、作業性の向上を目的として有機溶媒等を添加している。しかしながら、有機溶媒は繊維を紡糸する際や、紡糸後に揮発することから、作業環境の危険性が懸念されている。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、環境負荷の高い副産物を生じることなく、レーヨンと同様の強度を有する精製セルロース繊維を製造することができ、且つ、製造時の作業環境、及び粘度の低下による作業性の向上が可能な精製セルロース繊維の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、イオン液体と併せて水溶性高分子を用いることで、有機溶剤を用いることなく、セルロース溶解液の粘度を低くできることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、下記の特徴を有する精製セルロース繊維の製造方法を提供するものである。
(1)精製セルロース繊維を製造する方法であって、少なくとも1種のイオン液体と、少なくとも1種の水溶性高分子と、セルロース原料とを混合してセルロースを溶解させ、セルロース溶解液を作製する工程と、非溶媒中に、前記セルロース溶解液を添加して、セルロース繊維を析出させ、セルロース繊維からイオン液体と水溶性高分子とを分離してセルロース繊維を製造する工程と、を含むことを特徴とする精製セルロース繊維の製造方法。
(2)前記水溶性高分子の平均重合度が、3〜20である(1)の精製セルロース繊維の製造方法。
(3)前記水溶性高分子が、非プロトン供与性高分子である(1)又は(2)の精製セルロース繊維の製造方法。
(4)前記水溶性高分子が、直鎖状である(1)〜(3)のいずれかの精製セルロース繊維の製造方法。
(5)前記水溶性高分子が、ポリオールである(1)〜(4)のいずれかの精製セルロース繊維の製造方法。
(6)前記水溶性高分子が、ポリエチレングリコールである(5)の精製セルロース繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、二硫化炭素等の有害物質を生じることなく、閉鎖系で精製セルロース繊維を製造することができるため、環境負荷を低減することができる。
また、本発明により得られる精製セルロース繊維は、レーヨン等の再生セルロース繊維と同等かそれ以上の強度を有するため、利用価値が高い。
さらに、本発明で得られるセルロース溶解液は、その粘度が低いため作業性がよく、有機溶剤を用いていないため、有機溶剤の揮発により作業環境が悪化するおそれがない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1における、試料15を用いて26Gの注射針により得られたセルロース繊維を観察した時の撮像データである。
【図2】実施例1における、試料15を用いて27Gの注射針により得られたセルロース繊維を観察した時の撮像データである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の精製セルロース繊維の製造方法は、少なくとも1種のイオン液体と、少なくとも1種の水溶性高分子と、セルロース原料とを混合してセルロースを溶解させ、セルロース溶解液を作製する工程と、非溶媒中に、前記セルロース溶解液を添加して、セルロース繊維を析出させ、セルロース繊維からイオン液体と水溶性高分子とを分離してセルロース繊維を製造する工程と、を含む。
以下、工程ごとに説明する。
【0011】
本発明の精製セルロース製造方法では、まず、少なくとも1種のイオン液体と、少なくとも1種の水溶性高分子と、セルロース原料とを混合してセルロースを溶解させ、セルロース溶解液を作製する。
【0012】
本発明において、セルロース原料は、セルロースを含むものであれば特に限定されず、植物由来のセルロース原料であってもよく、動物由来のセルロース原料であってもよく、微生物由来のセルロース原料であってもよく、再生セルロース原料であってもよい。
植物由来のセルロース原料としては、木材、綿、麻、その他の草本類等の未加工の天然植物由来のセルロース原料や、パルプ、木材粉、紙製品等の予め加工処理を施された植物由来の加工セルロース原料が挙げられる。
動物由来のセルロース原料としては、ホヤ由来のセルロース原料が挙げられる。
微生物由来のセルロース原料としては、Aerobacter属、Acetobacter属、Achromobacter属、Agrobacterium属、Alacaligenes属、Azotobacter属、Pseudomonas属、Rhizobium属、Sarcina属等に属する微生物の産生するセルロース原料が挙げられる。
再生セルロース原料としては、上記のような植物、動物、又は微生物由来のセルロース原料を、ビスコース法等の公知の方法により再生したセルロース原料が挙げられる。
なかでも、本発明におけるセルロース原料としては、イオン液体に特に良好に溶解するパルプが好ましい。
【0013】
本発明において、セルロース原料を、イオン液体と、水溶性高分子と混合する前に、イオン液体への溶解性を向上させる目的でセルロース原料に前処理を施すことができる。前処理として具体的には、乾燥処理や、粉砕、摩砕等の物理的粉砕処理や、酸やアルカリを用いた化学的変性処理等を行うことができる。これらはいずれも常法により行うことができる。
【0014】
本発明においてイオン液体とは、150℃以下で液体であり、且つ、有機イオンを含む液体をいう。
本発明におけるイオン液体のアニオン部としては、特に限定されるものではなく、一般的にイオン液体のアニオン部に用いられるものを使用することができる。
なかでも、本発明におけるイオン液体のアニオン部の好ましいものとしては、ハロゲンアニオン、カルボキシラートアニオン、リン酸アニオン、シアン化物アニオン等が挙げられる。
【0015】
ハロゲンアニオンとしては、フッ素アニオン(F)、塩素アニオン(Cl)、臭素アニオン(Br)、ヨウ素アニオン(I)が挙げられる。
カルボキシラートアニオンとしては、ギ酸アニオン(HCOO)、酢酸アニオン(CHCOO)、プロピオン酸アニオン(CHCHCOO)等が挙げられる。
リン酸アニオンとしては、リン酸二水素アニオン(HPO)、アルキルリン酸アニオン(R’PO;R’は後述する炭素数1〜30のアルキル基と同様のアルキル基である。)等が挙げられる。
シアン化物アニオンとしては、チオシアン酸アニオン(SCN)等が挙げられる。
なかでも、本発明におけるイオン液体のアニオン部としては、ハロゲンアニオンまたはリン酸アニオンであることが好ましく、塩素アニオンまたは下記一般式(A1)で表されるアニオン部であることがより好ましい。
【0016】
【化1】

[式中、R11、R12は、それぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基である。]
【0017】
式(A1)中、R11、R12の炭素数1〜4のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよいが、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であることが好ましく、炭素数1又は2のアルキル基であることがより好ましい。
また、R11、R12は、それぞれ同じであっても、異なっていてもよい
式(A1)で表されるアニオン部の好ましい具体例を、下記式(A2)〜(A3)として示す。
【0018】
【化2】

【0019】
本発明におけるイオン液体のカチオン部としては、特に限定されるものではなく、一般的にイオン液体のカチオン部に用いられるものを使用することができる。
なかでも、本発明におけるイオン液体のカチオン部の好ましいものとしては、フォスフォニウムカチオン、含窒素芳香族カチオン等が挙げられる。
【0020】
フォスフォニウムカチオンとしては、「P」を有するものであれば特に限定されるものではなく、好ましいものとして具体的には、一般式「R(複数のRは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜30の炭化水素基である。)」で表されるものが挙げられる。
炭素数1〜30の炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基であってもよく、芳香族炭化水素基であってもよい。
脂肪族炭化水素基は、飽和炭化水素基(アルキル基)であることが好ましく、該アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよい。
直鎖状のアルキル基としては、炭素数が1〜20であることが好ましく、炭素数が1〜16であることがより好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基等が挙げられる。
分岐鎖状のアルキル基としては、炭素数が3〜30であり、炭素数が3〜20であることが好ましく、炭素数が3〜16であることがより好ましい。具体的には、1−メチルエチル基、1,1−ジメチルエチル基、1−メチルプロピル基、2−メチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基などが挙げられる。
環状のアルキル基としては、炭素数が3〜30であり、炭素数が3〜20であることが好ましく、炭素数が3〜16であることがより好ましく、単環式基であっても、多環式基であってもよい。具体的には、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等の単環式基、ノルボルニル基、アダマンチル基、イソボルニル基等の多環式基が挙げられる。
芳香族炭化水素基は、炭素数が6〜30であることが好ましく、具体的には、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、ビフェニル基、トリル基等のアリール基や、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基等のアリールアルキル基が挙げられる。
ここで、一般式「R」中の複数のRは、それぞれ同じであっても、異なっていてもよい。
【0021】
なかでも、フォスフォニウムカチオンとしては、下記式(C1)で表されるカチオン部が好ましい。
【0022】
【化3】

[式中、R〜Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜16のアルキル基である。]
【0023】
式(C1)中、R〜Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜16のアルキル基である。
炭素数1〜16のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよく、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましく、直鎖状であることがより好ましい。ここで、直鎖状、分岐鎖状、環状のアルキル基としては、上記同様のものが挙げられる。
また、R〜Rは、それぞれ同じであっても、異なっていてもよいが、入手の容易さから、R〜Rの3つ以上が同じであることが好ましい。
【0024】
なかでも、本発明において、R〜Rのアルキル基としては、炭素数1〜14の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が好ましく、炭素数1〜10の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜8の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基がさらに好ましく、炭素数1〜5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が特に好ましい。
式(C1)で表されるカチオン部の好ましい具体例を、下記式(C2)として示す。
【0025】
【化4】

【0026】
含窒素芳香族カチオンとして、具体的には、例えばピリジニウムカチオン、ピリダジニウムカチオン、ピリミジニウムカチオン、ピラジニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピラゾニウムカチオン、オキサゾリウムカチオン、1,2,3−トリアゾリウムカチオン、1,2,4−トリアゾリウムカチオン、チアゾリウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン等が挙げられる。
なかでも、本発明の含窒素芳香族カチオンとしては、イミダゾリウムカチオンが好ましく、下記一般式(C3)で挙げられるイミダゾリウムカチオンがより好ましい。
【0027】
【化5】

[式中、R〜Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキル基、又はアリル基であり、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜10のアルキル基である。]
【0028】
式(C3)中、R〜Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキル基又はアリル基である。
炭素数1〜10のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよく、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましく、直鎖状であることがより好ましい。ここで、直鎖状、分岐鎖状、環状のアルキル基としては、上記R〜Rのアルキル基と同様のものが挙げられる。
また、R〜Rは、それぞれ同じであっても、異なっていてもよい。
【0029】
式(C3)中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜10のアルキル基である。
炭素数1〜10のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよく、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましく、直鎖状であることがより好ましい。ここで、直鎖状、分岐鎖状、環状のアルキル基としては、上記R〜Rのアルキル基と同様のものが挙げられる。
また、R〜Rは、それぞれ同じであっても、異なっていてもよい。
【0030】
式(C3)で表されるイミダゾリウムカチオンの好ましい具体例を、下記式(C4)として示し、式(C4)で表されるイミダゾリウムカチオンの好ましい具体例を、下記式(C5)〜(C6)として示す。
【0031】
【化6】

[式中、R〜Rは、上記同様である。]
【0032】
【化7】

【0033】
本発明におけるイオン液体は、上述したようなカチオン部とアニオン部とから構成することができる。カチオン部とアニオン部との組合せは、特に限定されるものではなく、セルロース原料を好適に溶解しうるものを適宜選択することができる。
また、本発明では、1種のイオン液体のみを用いてもよく、2種以上のイオン液体を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
本発明において、イオン液体の使用量は特に限定されるものではないが、セルロース原料1質量部に対して、1〜50質量部であることが好ましく、3〜30質量部であることが好ましく、5〜25質量部であることがより好ましい。上記範囲とすることにより、より適度な粘度のセルロース溶解液とすることができる。
【0035】
本発明において水溶性高分子としては特に限定されるものではないが、非プロトン供与性高分子であることが好ましい。非プロトン供与性高分子としては、例えば、ポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、多糖、ポリヒドロキシエチルメタクリレート等のポリオール;ポリアクリル酸;ポリアクリルアミド等が挙げられ、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリアルキレングリコールであることが好ましく、ポリエチレングリコールであることが特に好ましい。
本発明における水溶性高分子の平均重合度は特に限定されるものではないが、3〜20であることが好ましく、3〜15であることがより好ましく、3〜9であることがさらに好ましい。水溶性高分子がポリエチレングリコールである場合、その質量平均分子量は180〜1000であることが好ましく、180〜700であることがより好ましく、180〜500であることが更に好ましい、
【0036】
本発明では、1種の水溶性高分子のみを用いてもよく、2種以上の水溶性高分子を組み合わせて用いてもよい。
本発明において、水溶性高分子の使用量は特に限定されるものではないが、イオン液体1質量部に対して、0.1〜2質量部であることが好ましく、0.2〜1.5質量部であることが好ましく、0.3〜1質量部であることがより好ましい。上記範囲とすることにより、イオン液体によりセルロース溶解液が高粘度となることをより効果的に抑制することができる。
【0037】
本発明において、イオン液体と、水溶性高分子と、セルロース原料とを混合する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、イオン液体と、水溶性高分子とを予め混合して得た液に、セルロース原料を添加して溶解してもよく;イオン液体と、セルロース原料とを予め混合して得た液に、水溶性高分子を添加して溶解してもよく;イオン液体と、水溶性高分子と、セルロース原料とを同時に混合し、溶解してもよい。
なかでも、本発明では、イオン液体と、水溶性高分子とを予め混合して得た液に、セルロース原料を接触させ、必要に応じて加熱や攪拌を行うことにより、セルロース溶解液を得ることが好ましい。
【0038】
本発明において、イオン液体と、水溶性高分子とを予め混合して液を得る場合、該液の80℃における粘度は、100〜10000000Pa・sであることが好ましく、105〜1000000Pa・sであることがより好ましく、110〜100000Pa・sであることがさらに好ましい。上記範囲とすることによって、より好適に精製セルロース繊維を製造することができる。ここで、該液の粘度は、常法により測定することができる。具体的には、JIS Z8803に準拠し、市販の粘度計、粘弾性測定装置等を用いて測定することができる。
【0039】
溶解の際に加熱を行う場合、加熱温度は、30〜200℃であることが好ましく、70〜120℃であることがより好ましい。加熱を行うことにより、セルロース原料の溶解性が特に向上するため好ましい。
攪拌の方法は、特に限定されるものではなく、攪拌子、攪拌羽根、攪拌棒等を用いて機械的に攪拌してもよく、密閉容器に封入し、容器を振とうすることにより攪拌してもよい。攪拌の時間は、特に限定されるものではなく、セルロース原料が好適に溶解されるまで行うことが好ましい。
【0040】
また、本発明において、セルロース溶解液は、イオン液体、水溶性高分子、及びセルロース原料以外の成分(以下、「その他の成分」という。)を含有していてもよく、含有していなくてもよい。その他の成分としては、ジメチルアセトアミド、水等が挙げられる、
その他の成分を用いる場合、その他の成分は、イオン液体、水溶性高分子、及びセルロース原料の混合の任意の時点においてそれらに接触させ、混合することができる。
【0041】
本発明において、セルロース溶解液の、80℃における粘度は、100〜10000000Pa・sであることが好ましく、105〜1000000Pa・sであることがより好ましく、110〜100000Pa・sであることがさらに好ましい。上記範囲とすることによって、より好適に精製セルロース繊維を製造することができる。セルロース溶解液の粘度は、上記イオン液体を含む液の粘度と同様にして測定することができる。
【0042】
本発明の精製セルロース繊維の製造方法では、次に、非溶媒中に、前記セルロース溶解液を添加して、セルロース繊維を析出させ、セルロース繊維からイオン液体と水溶性高分子とを分離してセルロース繊維を製造する。
【0043】
本発明において非溶媒とは、セルロース繊維を析出させ得るもの、つまりセルロースの貧溶媒であれば特に限定されるものではなく、具体的には、水、メタノール、エタノール、プロパノール等が挙げられ、水が好ましい。
非溶媒の使用量は特に限定されるものではないが、セルロース溶解液1質量部に対して、50〜3000質量部であることが好ましく、100〜2000質量部であることがより好ましく、200〜1000質量部であることがさらに好ましい。
上記のような非溶媒にセルロース溶解液を添加することにより、非溶媒にセルロースが接触してセルロース繊維が析出し、それを取り出すことにより、セルロース溶解液内に存在するイオン液体と水溶性高分子とがセルロース繊維から分離することで、不純物の少ないセルロース繊維を得ることができる。非溶媒が水等の水を含む溶媒である場合、水溶性高分子は該非溶媒の水に良好に溶解し、その結果として水溶性高分子がセルロース繊維からより一層分離され、不純物のさらに少ないセルロース繊維が得られるため、好ましい。
【0044】
また、本発明では、特に不純物の少ないセルロース繊維を得ることを目的として、取り出したセルロース繊維を洗浄することができる。洗浄の方法は特に限定されるものではなく、常法により行うことができるが、例えば、水等の水溶性高分子を溶解するものを洗浄液として行うことが好ましい。
本発明の製造方法によれば、水溶性高分子が非溶媒との相溶性が高いため、セルロースを取り出したときに水溶性高分子を容易に除去することができる。したがって、セルロース繊維中における水溶性高分子等の不純物の残存が抑制されるので、高純度な精製セルロース繊維が得られる。
【0045】
本発明の精製セルロース繊維の製造方法により製造される精製セルロース繊維は、従来の再生セルロース繊維と同等の強度を有するため、好ましい。
【実施例】
【0046】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下「%」とは、特に記載が無い限り、「質量%」を意味する。
【0047】
[実施例1]
イオン液体及び水溶性高分子の種類による、セルロース原料の溶解性の違いと作業性の違いとを検討した。
まず、セルロース原料として、パルプを110℃のオーブンで8時間加熱した後、デシケーター内に12時間静置し、乾燥パルプを得た。得られた乾燥パルプを、ミキサー(BM−HE08、象印マホービン社製)により10分間摩砕し、粒径20mm以下の摩砕パルプを得た後、篩振とう機(VSS−50、筒井理化学器械社製)により、10分間分級を行い、粒径が10mm以上のもののみからなるパルプを得た。
次に、表1に示すイオン液体4.5gに、表1に示す水溶性溶媒1.5gを添加し、80℃で30分間、振とう機を用いて攪拌し、イオン液体と水溶性溶媒とを含む液を調整した。
上記にて得られたパルプ0.25gに、調製された上記液を4.75g添加し、高温振とう水槽(NTS−210、東京理化器械社製)を用いて、80℃で4時間振とう攪拌を行い、セルロース溶解液(試料1〜20)を得た。
得られたセルロース溶解液におけるセルロース溶解性を、下記基準に従って5名のパネラーが目視により評価して点数化し、その平均値を溶解性の結果とした。結果を表1に併記する。
【0048】
上記にて得られたセルロース溶解液3mLを80℃まで加熱した後、26G(外径0.45mm、内径0.27mm)又は27G(外径0.40mm、内径0.22mm)の注射針を備えたプラスチック製注射器(容量6mL、テルモ社製)内に移し、注射針を通して非溶媒である水の中に押し出した。押し出された糸状の物質をピンセットを用いて引くことにより、紡糸を行い、精製セルロース繊維を得た。
【0049】
試料15のセルロース溶解液を用いて得られた精製セルロース繊維を、デジタルカメラにより観察した際の撮像データを図1〜2に示す。図1は26Gの注射針を用いた場合の撮像データであり、図2は27Gの注射針を用いた場合の撮像データである。
図1〜2の撮像データより、精製セルロース繊維が得られたことが確認できた。また、得られた精製セルロース繊維は、従来のレーヨン等の再生セルロース等と同等の強度を有していた。
また、上記精製セルロース繊維の製造において、セルロースをイオン液体と水溶性溶媒とを含む液に溶解する際の臭気と、セルロース溶解液を用いて紡糸する際の臭気とを、下記基準に従って評価し、○以上を合格とした。結果を表1に併記する。
【0050】
<セルロース溶解性>
5:セルロース原料が完全に溶解し、均一な溶解液となった。
4:セルロース原料の一部が溶解せず、セルロース原料の塊がごく僅かに見られた。
3:セルロース原料の半量程度が溶解せず、セルロース原料の塊が多少見られた。
2:セルロース原料の大部分が溶解せず、かなりの量のセルロース原料が、イオン液体を含む液中に沈殿した。
1:セルロース原料は全く溶解せず、セルロース原料の全量が、イオン液体を含む液中に沈殿した。
【0051】
<作業性>
(溶解時)
◎:溶解時に臭気を感じない。
○:溶解時に臭気をわずかに感じる。
△:溶解時に臭気を明らかに感じる。
×:溶解時の臭気がきつい。
(紡糸時)
◎:紡糸時にセルロース溶解液から臭気を感じない。
○:紡糸時にセルロース溶解液から臭気をわずかに感じる。
△:紡糸時にセルロース溶解液から臭気を明らかに感じる。
×:紡糸時のセルロース溶解液からの臭気がきつい。
【0052】
【表1】

【0053】
上記の結果から、本発明に係るイオン液体と、水溶性高分子とをセルロース溶解液に用いた場合(試料5〜7、15〜17)、セルロースの溶解性は他の例と同等に良好であり、且つ、溶解時及び紡糸時の作業性が良好であることが確認できた。
また、水溶性溶媒を用いたセルロース溶解液(試料1〜9、試料11〜19)では、いずれも溶解時の粘度が適度に保たれ、作業性が高かった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の精製セルロース繊維の製造方法は、繊維産業分野で特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精製セルロース繊維を製造する方法であって、
少なくとも1種のイオン液体と、少なくとも1種の水溶性高分子と、セルロース原料とを混合してセルロースを溶解させ、セルロース溶解液を作製する工程と、
非溶媒中に、前記セルロース溶解液を添加して、セルロース繊維を析出させ、セルロース繊維からイオン液体と水溶性高分子とを分離してセルロース繊維を製造する工程と、を含むことを特徴とする精製セルロース繊維の製造方法。
【請求項2】
前記水溶性高分子の平均重合度が、3〜20である請求項1に記載の精製セルロース繊維の製造方法。
【請求項3】
前記水溶性高分子が、非プロトン供与性高分子である請求項1又は2に記載の精製セルロース繊維の製造方法。
【請求項4】
前記水溶性高分子が、直鎖状である請求項1〜3のいずれか一項に記載の精製セルロース繊維の製造方法。
【請求項5】
前記水溶性高分子が、ポリオールである請求項1〜4のいずれか一項に記載の精製セルロース繊維の製造方法。
【請求項6】
前記水溶性高分子が、ポリエチレングリコールである請求項5に記載の精製セルロース繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−92467(P2012−92467A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242370(P2010−242370)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】