説明

糖アルコールの選択方法

【課題】複数の糖アルコールのうち、アミン構造を有する医薬化合物と配合した際にメイラード反応による医薬化合物の分解の程度が少ない糖アルコールを、簡便且つ短時間に評価する方法の提供。
【解決手段】複数の糖アルコール中に含まれる還元末端量をビシンコニン酸法(BCA法)により定量することにより、当該糖アルコールを医薬化合物の配合剤として用いたときの医薬化合物の分解の程度を予測し、最適な糖アルコールを選択する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアミン構造を有する医薬化合物との配合に適した糖アルコールの選択方法に関する。

【背景技術】
【0002】
アミン構造を有する医薬化合物は、乳糖などのある種の賦形剤を配合すると、分解反応を起こし、着色する。この分解、着色は、賦形剤中の還元末端、例えば還元糖、とアミン構造を有する医薬化合物との反応(メイラード反応)により引き起こされる。
【0003】
一般的に還元末端を有していないといわれている糖アルコールなどの賦形剤においても、アミン構造を有する医薬化合物と配合した状態で中〜長期間保存することにより分解、着色する場合があるが、それは賦形剤中に不純物として含有される微量の還元末端に由来する。したがって、たとえ還元末端を有していないといわれている賦形剤であっても、医薬組成物中の医薬化合物の安定性を評価する場合には、このような微量な還元末端による分解反応も評価する必要がある。
【0004】
例えば、D−マンニトールは複数のメーカーにより生産されているが、メーカーの違いにより純度や不純物が異なることがある。また、同一のメーカーで生産されたD−マンニトールであっても、グレードの違いにより純度や不純物が異なる。そして、このようにメーカーやグレードが異なるD−マンニトールは、医薬化合物と配合した際、分解、着色の程度が異なることが経験的に見出されている。
【0005】
従来、メイラード反応による医薬化合物の分解の程度を評価するには、実際に医薬化合物と賦形剤の配合試験を行うのが一般的であった(非特許文献1)。しかしながら、通常、医薬化合物と糖アルコールとのメイラード反応の進行は遅いため、評価が可能となるまで分解、着色させるには数週間から数ヶ月、場合によっては数年の期間を要する。
【0006】
ところで、現在、糖アルコール中に不純物として含まれる糖類の試験としてはフェーリング反応が一般的に用いられている。例えば、キシリトール(非特許文献2)、D−マンニトール(非特許文献2)、エリスリトール(非特許文献3)の純度試験としてフェーリング反応が用いられている。一方、フェーリング試験と比較すると報告例が少ないものの、ビシンコニン酸法(BCA法)を用いた還元末端の定量も報告されている。例えば、Cellodextrinsの還元末端量(非特許文献4)、澱粉、ポリガラクツロン酸及びキチンからのオリゴ糖の還元末端量(非特許文献5)、炭水化物、糖タンパク質など単糖類の還元末端量(非特許文献6)の測定にBCA法が用いられている。しかしながら、これまでに、糖アルコール中の還元末端量をBCA法により測定する方法については報告されていない。また、糖アルコール中の還元末端量から、当該糖アルコールをアミン構造を有する医薬化合物の配合剤として用いた際の、メイラード反応による医薬化合物の分解の程度を予測する方法についても知られていなかった。

【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Wirth DD et al., J. Pharm.Sci., 1998, 87(1), 31-39
【非特許文献2】「第十五改正 日本薬局方」厚生労働省、2006年3月31日告示
【非特許文献3】「医薬品添加物事典 2007」株式会社 薬事日報社、2007年7月25日発行
【非特許文献4】Y.-H. Percival Zhang et al., Biomacromolecules, 2005, 6, 1510-1515
【非特許文献5】Doner L W et al., Anal. Biochem., 1992, 202(1), 50-53
【非特許文献6】Waffenschmids S et al., Anal. Biochem., 1987, 165(2),337-340
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
複数の種類、メーカー、グレードの糖アルコールのなかで、アミン構造を有する医薬化合物と配合した際にメイラード反応による医薬化合物の分解の程度が少ない糖アルコールを、簡便且つ短時間に再現性よく評価する方法を確立することにある。

【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、糖アルコール中に含まれる還元末端量から、メイラード反応による医薬化合物の分解の程度を予測する方法を確立すべく鋭意検討を行った。その結果、糖アルコール中に含まれる極めて微量の還元末端量をBCA法により定量する方法を確立するとともに、糖アルコール中の還元末端量と医薬化合物の分解の程度が相関することを見出した。これらの知見により、複数の種類、メーカー、グレードの糖アルコール中に含まれる還元末端量をBCA法により定量するのみで、当該糖アルコールをアミン構造を有する医薬化合物の配合剤として用いたときの医薬化合物の分解の程度を予測し、メイラード反応による分解物量が少ない、最適な糖アルコールを選択する本発明を完成した。すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
【0010】
1)複数の糖アルコール中に含まれる還元末端量をBCA法により測定した後、当該複数の糖アルコールのうち、還元末端量が相対的に少ない糖アルコールを、アミン構造を有する医薬化合物の配合剤として選択する方法、
2)複数の糖アルコール中に含まれる還元末端量をBCA法により測定した後、当該複数の糖アルコールのうち、還元末端量が最も少ない糖アルコールを、アミン構造を有する医薬化合物の配合剤として選択する方法、
3)糖アルコールが同一成分名の糖アルコールである、1)〜2)に記載の糖アルコール選択方法、
4)糖アルコールが同一メーカーの異なるグレードの糖アルコールである、1)〜3)に記載の糖アルコール選択方法、
5)糖アルコールが異なるメーカーの糖アルコールである、1)〜3)に記載の糖アルコール選択方法、
6)糖アルコールがキシリトール、エリスリトール及びマンニトールから選ばれる、1)〜5)に記載の糖アルコール選択方法、
7)糖アルコールがD−マンニトールである、1)〜6)に記載の糖アルコール選択方法。

【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、糖アルコール中に含まれる還元末端量を定量するのみで、成分名、メーカー、グレードが異なる複数の糖アルコールのうち、アミン構造を有する医薬化合物への配合に適した糖アルコールを簡便かつ短時間に評価、選択することが可能である。また、本発明によれば、一度に多数の糖アルコール中の還元末端量を測定することが可能である。

【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】BCA法で測定したD−マンニトール中の還元末端量と、p−アミノ安息香酸エチルの分解物量の相互関係を示すグラフである。
【図2】日本薬局方の方法(日局法)で測定したD−マンニトール中の還元末端量と、p−アミノ安息香酸エチルの分解物量の相互関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明で用いられる用語の定義及び具体例を以下に示す。
【0014】
糖アルコールとは、アルドースやケトースのカルボニル基が還元された化合物を表し、例えば、エリスリトール、キシリトール、グリセリン、ソルビトール、マルチトール、マンニトール、ラクチトールなどが挙げられ、好ましくはキシリトール、エリスリトール又はマンニトールであり、特に好ましくはD−マンニトールである。
還元末端とは、アルデヒド基またはケトン基を表す。還元末端を有する化合物としては、例えば、マンノースなどの還元糖などが挙げられる。
アミン構造を有する医薬化合物とは、一級アミノ基又は二級アミノ基を有する脂肪族又は芳香族化合物を表す。
【0015】
成分名とは、化合物の一般名を表し、例えば、D−マンニトールなどが挙げられる。
メーカーとは、糖アルコールを製造した会社を表す。
グレードとは、メーカーが純度等の品質に基づいて糖アルコールに付した等級である。
分解とは、アミン構造を有する医薬化合物と糖アルコール中の還元末端とのメイラード反応の結果、アミン構造を有する医薬化合物が分解物となることを表す。
分解物とは、アミン構造を有する医薬化合物と糖アルコール中の還元末端とのメイラード反応の結果生じる、単一の化合物、または多数の化合物からなる混合物を表す。
BCA法とは、BCA(ビシンコニン酸)と一価の銅イオンが562nmに吸収を持つ錯体を形成することを利用し、還元物質の量を定量する方法を表す。二価の銅イオンが還元物質と反応し一価の銅イオンに変化した後、ビシンコニン酸と錯体を形成する。この錯体の量を562nmの吸光度から求めることにより、還元物質の量を定量する。
【0016】
本発明の実施形態には、BCA法により、糖アルコール中の還元末端量を定量する工程が含まれる。本発明で扱う糖アルコールとしては特に制限はないが、好ましくはキシリトール、エリスリトール又はマンニトールであり、特に好ましくはD−マンニトールである。なお、反応に使用する糖アルコールの量とBCA液の量に制限はなく、吸光度が1以下になるよう任意に調整すればよい。BCA法による還元末端の定量は、糖アルコールに水及びBCA液を加えることにより実施できるが、吸光度が1を超える場合は、水及びBCA液の量を増やすか、糖アルコール量を減らし、吸光度が1以下になるように任意に調整すればよい。吸光度が0.1未満の場合は、糖アルコール量を増やし、吸光度が0.1以上になるよう任意に調整すればよい。このように、本発明では、反応液や糖アルコールの量を調整することで、幅広い濃度範囲の還元末端量の測定が可能である。
【0017】
また、本発明の実施形態には、アミン構造を有する医薬化合物の配合剤として適した糖アルコールを選択する工程が含まれる。複数の糖アルコールのうち、BCA法で定量した結果、還元末端量が最も少ない糖アルコールから順に医薬化合物の配合剤の候補として選択する。好ましくは、還元末端量が最も少ない糖アルコールを、アミン構造を有する医薬化合物の配合剤として選択する。
【0018】
以下に本発明の具体例を実施例として示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。

【実施例1】
【0019】
(糖アルコール中の還元末端量の測定)
D‐マンニトール5種類(糖アルコールA〜E)、エリスリトール(糖アルコールF)、キシリトール(糖アルコールG)について、下記のBCA法を用いて糖アルコール中に含まれる還元末端量を測定した。なお、糖アルコールAとBは互いに同一メーカーの異なるグレードの糖アルコールであり、糖アルコールCとDは互いに同一メーカーの異なるグレードの糖アルコールである。また、糖アルコールA、C、Eは異なるメーカーの糖アルコールである。
【0020】
測定に用いたBCA液は、以下に示すA液及びB液を1:1の割合で混合することで調製した。A液は、ビシンコニン酸二ナトリウム0.97g、炭酸ナトリウム27.10g及び炭酸水素ナトリウム12.10gに水500mLを加えて攪拌することにより調製した。B液は、硫酸銅五水和物0.62g及びL−セリン0.63gに水500mLを加えて攪拌することにより調製した。
【0021】
2〜40μmol/LのD‐グルコース水溶液4mL及びBCA液4mLをねじ口試験管に入れた後密栓し、攪拌しながら75℃で30分保温後、室温まで放置冷却したものを検量線溶液とした。また、糖アルコール各500mgをそれぞれねじ口試験管に量り取り、水4mL及びBCA液4mLを加えた後密栓し、攪拌しながら75℃で30分保温後、室温まで放置冷却したものを試料溶液とした。検量線溶液及び試料溶液について、紫外可視分光光度計(島津製作所製、UV‐2450型)を用いて562nmの吸光度を測定した。
【0022】
検量線溶液のグルコース濃度(BCA液を加える前の濃度)をx軸、吸光度をy軸として回帰分析を実施し、傾き及び切片を求め、下記の数式により、各糖アルコール中に不純物として含有する還元末端量を算出した。

【0023】
【数1】

【0024】
結果を表1に示す。

【0025】
【表1】

【0026】
糖アルコールの種類の違い(成分名の違い)により還元末端量に違いが認められた(糖アルコールA〜G)。また、D−マンニトールの中でも、メーカーやグレードの違いにより還元末端量に違いが認められた(糖アルコールA〜E)。
【0027】
表1から、糖アルコール中の還元末端量は、糖アルコールB<A<C<E<D<F<Gであることがわかる。糖アルコールBが最も還元末端量が少なく、次いで糖アルコールAの還元末端量が少ないことから、糖アルコールBを第一候補、糖アルコールAを第二候補の配合剤として選択する。

【0028】
次に、糖アルコール中の還元末端量と、メイラード反応による分解物量の相関を示す。

【0029】
<試験例1>糖アルコールとアミン構造を有する医薬化合物とのメイラード反応による分解物量の測定
アミン構造を有する医薬化合物のモデルとしてp‐アミノ安息香酸エチルを用い、D−マンニトール(糖アルコールA〜E)とp‐アミノ安息香酸エチルとを混合し長期保存したときの分解物量を測定した。

【0030】
1)糖アルコールA
糖アルコールA5gおよびp‐アミノ安息香酸エチル(和光純薬工業製)50mgを乳鉢中で混合した後、混合末1gをガラス瓶に充てんし、開栓および密栓の状態で40℃/75%RH、3週間保存した。保存した混合末100mgに水/メタノール混液(1:1)2mLを加え、30分間攪拌した後、メンブレンフィルター(クロマトディスク、GLサイエンス製、水系/非水系用)を用いてろ過し、ろ液中のp‐アミノ安息香酸エチル及び分解物のピーク面積をそれぞれ液体クロマトグラフィーで測定し、全ピーク面積に対する分解物のピーク面積の割合から、分解物の含量を百分率で求めた。
【0031】
液体クロマトグラフィーによる試験条件
カラム:内径4.6mm、長さ150mmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充てんし、分離カラムとした(ジーエルサイエンス、Inertsil ODS−3V)。
A液:0.1%トリフルオロ酢酸水溶液
B液:液体クロマトグラフィー用メタノール
送液:A液及びB液の混合比を変えて濃度勾配を制御した。
検出器:フォトダイオードアレイ検出器(測定波長:190〜400nm、解析波長:224nm)

【0032】
2)糖アルコールB
糖アルコールB5gおよびp‐アミノ安息香酸エチル(和光純薬工業製)50mgを乳鉢中で混合した後、混合末1gをガラス瓶に充てんし、開栓および密栓の状態で40℃/75%RH、3週間保存した。保存した混合末100mgに水/メタノール混液(1:1)2mLを加え、30分間攪拌した後、メンブレンフィルター(クロマトディスク、GLサイエンス製、水系/非水系用)を用いてろ過し、ろ液中のp‐アミノ安息香酸エチルの分解生成物量を液体クロマトグラフィーで測定し、その含量を百分率で表した。液体クロマトグラフィーによる試験条件は1)と同様である。

【0033】
3)糖アルコールC
糖アルコールC5gおよびp‐アミノ安息香酸エチル(和光純薬工業製)50mgを乳鉢中で混合した後、混合末1gをガラス瓶に充てんし、開栓および密栓の状態で40℃/75%RH、3週間保存した。保存した混合末100mgに水/メタノール混液(1:1)2mLを加え、30分間攪拌した後、メンブレンフィルター(クロマトディスク、GLサイエンス製、水系/非水系用)を用いてろ過し、ろ液中のp‐アミノ安息香酸エチルの分解生成物量を液体クロマトグラフィーで測定し、その含量を百分率で表した。液体クロマトグラフィーによる試験条件は1)と同様である。

【0034】
4)糖アルコールD
糖アルコールD5gおよびp‐アミノ安息香酸エチル(和光純薬工業製)50mgを乳鉢中で混合した後、混合末1gをガラス瓶に充てんし、開栓および密栓の状態で40℃/75%RH、3週間保存した。保存した混合末100mgに水/メタノール混液(1:1)2mLを加え、30分間攪拌した後、メンブレンフィルター(クロマトディスク、GLサイエンス製、水系/非水系用)を用いてろ過し、ろ液中のp‐アミノ安息香酸エチルの分解生成物量を液体クロマトグラフィーで測定し、その含量を百分率で表した。液体クロマトグラフィーによる試験条件は1)と同様である。

【0035】
5)糖アルコールE
糖アルコールE5gおよびp‐アミノ安息香酸エチル(和光純薬工業製)50mgを乳鉢中で混合した後、混合末1gをガラス瓶に充てんし、開栓および密栓の状態で40℃/75%RH、3週間保存した。保存した混合末100mgに水/メタノール混液(1:1)2mLを加え、30分間攪拌した後、メンブレンフィルター(クロマトディスク、GLサイエンス製、水系/非水系用)を用いてろ過し、ろ液中のp‐アミノ安息香酸エチルの分解生成物量を液体クロマトグラフィーで測定し、その含量を百分率で表した。液体クロマトグラフィーによる試験条件は1)と同様である。

【0036】
結果を表2に示す。

【0037】
【表2】

【0038】
表2に示す試験結果から明らかなように、配合剤として用いたD−マンニトールのメーカーやグレードにより、p‐アミノ安息香酸エチルの分解物量が異なることが分かった。

【0039】
<試験例2>還元末端量と分解物量の相関
実施例1で定量したD−マンニトール中に不純物として含有される還元末端量と、試験例1で測定したp‐アミノ安息香酸エチルの分解物量の相互関係を以下のように検討した。
還元末端量をx軸に、分解物量をy軸にプロットし、相互関係を調べた(図1)。開栓条件の場合、還元末端量と分解物量は比例関係にあり、相関係数は0.99であった(図1、open)。密栓条件の場合、還元末端量と分解物量のプロットは直線状のグラフとはならなかった(図1、close)。これは、3週の保存では、還元末端量が一定量以下の添加剤(糖アルコールA〜C)では液体クロマトグラフィーで検出可能な量の分解物が生成しなかったためである。一方、還元末端を多く含む糖アルコール(D、E)では分解物の生成が認められていることから、密栓条件でも還元末端量と分解物量には正の相関関係が認められる。以上の結果から、BCA法により糖アルコール中に不純物として含まれる還元末端量を定量することで、相対的に分解が起こりにくい糖アルコールを短期間で選定できることが示された。

【0040】
<比較例1>BCA法と日本薬局方の方法(日局法)の比較
先述のように、糖アルコール中に不純物として含まれる糖類の試験としてはフェーリング反応が一般的に用いられている。そこで、日本薬局方のD−マンニトールの純度試験をもとにした方法にて、5種のD‐マンニトール(糖アルコールA〜E)について還元末端量を測定した。
【0041】
D‐マンニトール1gに水20mL及びフェーリング試液40mLを加えて穏やかに3分間煮沸した後、放置することで酸化銅(I)を沈殿させた。次いで上澄液をガラスろ過器(G4)を用いてろ過し、沈殿を温湯で洗液がアルカリ性を呈しなくなるまで洗い、洗液は先のガラスろ過器でろ過した。フラスコ内の沈殿に硫酸鉄(III)試液20mLを加えて溶かし、これを先のガラスろ過器を用いてろ過した後、水洗いし、ろ液及び洗液を合わせ80℃に加熱し、0.02mol/L過マンガン酸カリウム液で滴定した。

【0042】
下記の数式により、還元末端量を算出した。

【0043】
【数2】

【0044】
結果を表3に示す。

【0045】
【表3】

【0046】
日局法で測定した還元末端量をx軸に、分解物量をy軸にプロットし、相互関係を調べた(図2)。図2から、日局法で測定した還元末端量は、分解物量と相関しないことがわかる。これは、糖アルコール中の還元末端量が微量であり、日局法の定量限界を下回っているためと思われる。一方、本発明のBCA法では、このような微量の還元末端であっても定量が可能であり、他の定量法と比較したときの利点といえる。
上記結果から、従来用いられていた糖アルコールの純度試験に従って測定した還元末端量からでは、アミン構造を有する医薬化合物と糖アルコールとのメイラード反応による分解反応の程度を予測することができないことが示された。すなわち、本発明では糖アルコール中の還元末端量はBCA法で測定することが重要である。

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、異なるグレード又はメーカーの糖アルコール中に含まれる微量の還元末端量を測定するのみで、当該糖アルコールの中でメイラード反応が起こりにくい糖アルコールを選択することができる。これにより、従来、数週間〜数年間が必要であった最適な糖アルコールの評価が、1日〜数日で行えるようになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の糖アルコール中に含まれる還元末端量をBCA法により測定した後、当該複数の糖アルコールのうち、還元末端量が相対的に少ない糖アルコールを、アミン構造を有する医薬化合物の配合剤として選択する方法。
【請求項2】
複数の糖アルコール中に含まれる還元末端量をBCA法により測定した後、当該複数の糖アルコールのうち、還元末端量が最も少ない糖アルコールを、アミン構造を有する医薬化合物の配合剤として選択する方法。
【請求項3】
糖アルコールが同一成分名の糖アルコールである、請求項1〜2に記載の糖アルコール選択方法。
【請求項4】
糖アルコールが同一メーカーの異なるグレードの糖アルコールである、請求項1〜3に記載の糖アルコール選択方法。
【請求項5】
糖アルコールが異なるメーカーの糖アルコールである、請求項1〜3に記載の糖アルコール選択方法。
【請求項6】
糖アルコールがキシリトール、エリスリトール及びマンニトールから選ばれる、請求項1〜5に記載の糖アルコール選択方法。
【請求項7】
糖アルコールがD−マンニトールである、請求項1〜6に記載の糖アルコール選択方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−195557(P2011−195557A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103053(P2010−103053)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000001395)杏林製薬株式会社 (120)
【Fターム(参考)】