説明

糖衣チューインガム及び糖衣チューインガムの製造方法

【課題】酵素の咀嚼放出速度が速く、口中への溶出性に優れ、かつ長期保存安定性に優れる糖衣チューインガムを得る。
【解決手段】チューインガム主体が、少なくとも3層の糖衣層で被覆された糖衣チューインガムであって、チューインガム主体を被覆する内層が、ゼラチンを含有する第1糖衣層であり、該第1糖衣層がゼラチン及び酵素を含有する第2糖衣層で被覆され、更に該第2糖衣層が酵素を含有しない第3糖衣層で被覆されてなる糖衣チューインガム。
(1)チューインガム主体を形成する工程、
(2)ゼラチンを含有する糖衣層成分で、チューインガム主体を被覆する第1糖衣層を形成する工程、
(3)更に、ゼラチン及び酵素を含有する糖衣層成分で、前記第1糖衣層を被覆する第2糖衣層を形成する工程、
(4)更に、酵素を含有しない糖衣層成分で、前記第2糖衣層を被覆する第3糖衣層を形成する工程
を含む上記糖衣チューインガムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素の咀嚼放出速度が速く、口中への溶出性に優れ、かつ長期保存安定性に優れた糖衣チューインガム及び糖衣チューインガムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガムベースを主成分としたチューインガムの主体表面を糖衣で被覆した糖衣チューインガムは公知である。
通常、糖衣の材料は、食用ガム質の水溶液に、砂糖、水飴等の甘味剤を、場合によっては更に色素、酸味料、ビタミン、香料等を混入してなるシロップ(以下、糖衣液と略記。)である。これを使用してチューインガム主体表面を糖衣被覆するには、例えば回転パンを回転させて、パン内に投入したチューインガム主体を転動させ、これに上記糖衣液を振りかけ、万遍なく糖衣液でチューインガム主体の表面を湿らせた後、回転中の回転パンに温風を吹き込んでチューインガム主体の表面に付着した糖衣液の水分を取り除き、チューインガム主体の表面を糖衣液固形分で被覆し、更に糖衣液を振りかける。この操作を繰り返すことによって、糖衣液固形分による皮膜を適度の厚さまで成長させ、糖衣層で被覆された糖衣チューインガムが出来上がる。
【0003】
一方、デキストラナーゼは、う蝕の原因となる歯垢を分解することにより、う蝕予防作用を発揮することから、口腔用組成物への配合成分として有用であることが知られており、デキストラナーゼ等の酵素を配合したチューインガムは公知である(特許文献1〜8参照)。
【0004】
チューインガム組成物へのデキストラナーゼの配合方法については、チューインガム主体あるいは糖衣へ配合する方法がある。
特許文献1には、デキストラナーゼを口腔用組成物に安定配合するためにゼラチンの配合が有効であることが提案され、デキストラナーゼを配合した板チューインガム組成が記載されている。特許文献2には、水溶性カルシウムを含むカゼイン液にレンニンを作用させたゲル状物にデキストラナーゼを含有させることでチューインガムに安定配合する技術、特許文献3には、失活因子又は酵素の一方をマイクロカプセル化して隔離することで、酵素活性が維持された食用組成物が提案されている。
【0005】
しかし、これらの技術では、デキストラナーゼ配合のチューインガム組成物を口中で咀嚼してもデキストラナーゼの放出に時間を要したり、咀嚼しても十分な量のデキストラナーゼが溶出され難いという問題があった。また、チューインガム主体中にデキストラナーゼを配合して糖衣チューインガムに調製しても、同様の問題があった。
【0006】
糖衣チューインガムの糖衣層にマルチトール等の糖アルコールが配合されること、糖衣チューインガムへデキストラナーゼ等の酵素を配合する技術は提案されている。
特許文献4,5には、トレハロースと共に、食品、医薬品、化粧品、及び工業化学品の原材料並びに加工中間体から選ばれる一種又は二種以上の成分を含んでなるトレハロース含有組成物及びその製造方法や、トレハロース含有粉末組成物が提案され、チューインガム等の食品として調製されること、グルカナーゼ等の酵素、マルチトール、ゼラチン等の各種成分が配合可能であることが記載されている。また、特許文献6には、歯磨剤等の口腔用組成物への酵素等の水存在下では不安定な有効成分を安定配合するために、ゼラチン及びポリオールを含有する非水系基剤を配合した口腔用組成物が提案され、特許文献7には、舌苔除去及び口臭除去を目的とした口臭予防用組成物が提案され、デキストラナーゼや、ゼラチン、マルチトールが配合可能成分として記載されている。
【0007】
しかし、これら技術では、酵素の放出時間がかかり、咀嚼しても十分な量のデキストラナーゼが溶出され難い問題があった。更に、酵素の長期保存安定性も満足し難いものであった。
【0008】
また、特許文献8には、デキストラナーゼを糖衣層に配合することにより、酵素の放出時間を速めた糖衣製品が提案されているが、この技術では、咀嚼しても配合量に対して十分な量のデキストラナーゼが溶出されるとは言い難く、未だ改善の余地があった。
【0009】
糖衣チューインガムへの酵素の応用については、咀嚼後の溶出率、口中への放出速度、長期保存安定性の全てを満足する技術が得られていないのが現状であった。
【0010】
従って、口中で咀嚼されることにより、酵素が口中に速やかに放出され、酵素の含有量に対する口中への溶出率が高く、長期保存安定性にも優れる糖衣チューインガム及び糖衣チューインガムの製造方法の開発が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭50−82242号公報
【特許文献2】特開昭51−79762号公報
【特許文献3】特開2005−151827号公報
【特許文献4】特開2000−159788号公報
【特許文献5】特開2000−159789号公報
【特許文献6】特開2002−114656号公報
【特許文献7】国際公開第03/090704号パンフレット
【特許文献8】特開2003−219809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、口中で咀嚼した際の酵素の放出速度が速く、口中への酵素の溶出率が高く、かつ長期保存安定性にも優れる糖衣チューインガム及び糖衣チューインガムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するため、糖衣チューインガムへ酵素を配合する技術について鋭意研究を重ねた結果、チューインガム主体が糖衣層で被覆された糖衣チューインガムにおいて、チューインガム主体を少なくとも3層の糖衣層で被覆し、チューインガム主体を被覆する内層を、ゼラチンを含有する第1糖衣層で形成し、前記第1糖衣層をゼラチン及び酵素を含有する第2糖衣層で被覆し、更に前記第2糖衣層を、酵素を含有しない第3糖衣層で被覆することにより、酵素の口腔中への放出速度が速く、口腔中へ酵素が効率良く溶出し、かつ長期保存安定性が優れることを知見した。この場合、糖衣層がマルチトールを含有することが特に好ましく、また、酵素がデキストラナーゼ及び/又はムタナーゼであることが特に好ましい。
【0014】
即ち、本発明者らは、酵素を配合したチューインガムが、口腔中で咀嚼してもデキストラナーゼ等の酵素が放出されるのに時間を要したり、咀嚼しても十分な量の酵素が溶出されないのは、酵素がチューインガム主体へ吸着することが一つの要因であると推測されることを突き止め、糖衣チューインガムに酵素を配合する技術について更に詳細に検討した。その結果、酵素がチューインガム主体と直接接触しないように、上記第1糖衣層を形成した後、酵素を含有する第2糖衣層を形成し、最後に酵素を含有しない第3糖衣層を形成し、かつ第1糖衣層及び第2糖衣層にゼラチンを含有させることにより、酵素のチューインガム主体への吸着が抑制され、酵素の口腔中への溶出率、口腔中への放出速度、及び長期保存安定性に優れることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0015】
従って、本発明は、下記の糖衣チューインガム及び糖衣チューインガムの製造方法を提供する。
請求項1;
チューインガム主体が、少なくとも3層の糖衣層で被覆された糖衣チューインガムであって、チューインガム主体を被覆する内層が、ゼラチンを含有する第1糖衣層であり、該第1糖衣層がゼラチン及び酵素を含有する第2糖衣層で被覆され、更に該第2糖衣層が酵素を含有しない第3糖衣層で被覆されてなることを特徴とする糖衣チューインガム。
請求項2;
糖衣層が、マルチトールを含有する請求項1記載の糖衣チューインガム。
請求項3;
酵素が、デキストラナーゼ及び/又はムタナーゼである請求項1又は2記載の糖衣チューインガム。
請求項4;
チューインガム主体が糖衣層で被覆された糖衣チューインガムの製造方法であって、
(1)チューインガム主体を形成する工程、
(2)ゼラチンを含有する糖衣層成分で、チューインガム主体を被覆する第1糖衣層を形成する工程、
(3)更に、ゼラチン及び酵素を含有する糖衣層成分で、前記第1糖衣層を被覆する第2糖衣層を形成する工程、
(4)更に、酵素を含有しない糖衣層成分で、前記第2糖衣層を被覆する第3糖衣層を形成する工程
を含むことを特徴とする糖衣チューインガムの製造方法。
請求項5;
糖衣層が、マルチトールを含有する請求項4記載の製造方法。
請求項6;
酵素が、デキストラナーゼ及び/又はムタナーゼである請求項4又は5記載の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の酵素含有の糖衣チューインガムは、酵素の口中への咀嚼放出速度が速く、かつ溶出性に優れる上、長期保存安定性に優れる。本発明の製造方法によれば、上記の優れた特性を有する糖衣チューインガムを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を更に詳しく説明する。本発明の糖衣チューインガムは、チューインガム主体が、少なくとも3層の糖衣層で被覆された糖衣チューインガムであって、チューインガム主体を被覆する内層が、ゼラチンを含有する第1糖衣層であり、該第1糖衣層がゼラチン及び酵素を含有する第2糖衣層で被覆され、更に該第2糖衣層が酵素を含有しない第3糖衣層で被覆されてなるものである。
以後、上述のチューインガム主体を被覆する第1の糖衣層を「第1糖衣層」、第1糖衣層を被覆する第2の糖衣層を「第2糖衣層」、第2糖衣層を被覆する第3の糖衣層を「第3糖衣層」と略記する。
【0018】
ここで、チューインガム主体は、公知のものを使用でき、具体的にはガムベースに甘味剤、香料、有効成分、着色料などが配合される。
糖衣層は、第1〜3糖衣層の少なくとも3層の糖衣層により構成され、チューインガム主体を直接被覆するゼラチンを含有する第1糖衣層と、酵素及びゼラチンを含有し、前記第1糖衣層を被覆する第2糖衣層と、前記第2糖衣層を被覆する第3糖衣層が積層されたものとして調製することができる。特に、第1糖衣層はゼラチンとマルチトールを含有し、第2糖衣層はゼラチンとマルチトールを含有し、第3糖衣層はマルチトールを含有することが好ましい。第2糖衣層が酵素含有層であり、チューインガム主体や第1糖衣層には酵素を配合しなくてもよい。第3糖衣層は酵素を含有しない。これらの第1〜3糖衣層には、それぞれ、更に食用ガム質等の結合剤、他の有効成分や甘味剤、色素、酸味料、香料等を配合することができる。
【0019】
なお、糖衣層は、必要に応じて更に他の糖衣層を上記チューインガム主体と糖衣層の間や、第1〜3糖衣層の間、第3糖衣層の表面を更に被覆するように形成し、4層以上であってもよい。
【0020】
本発明の糖衣チューインガムにおいて、第1〜3糖衣層等の糖衣層を形成するための各層の糖衣層成分には、それぞれ、例えばマルチトール、キシリトール、ソルビトール、パラチノース、パラチニット、ラクチトール、エリスルトール、トレハロース、還元水飴、グルコース、砂糖等の糖質を配合することができるが、酵素の溶出率及び長期保存安定性の点で、特にマルチトールを配合することが好ましい。糖質は市販品を使用できる。
【0021】
第1〜3糖衣層等の各層の糖衣層中の糖質の含有量は、各層の糖衣層成分中70〜99.9%(以降、特に断らない限り、%は質量%を表す。)、特に80〜99.9%の範囲が望ましい。また、糖衣層全体中の糖質の含有量は、70〜99.9%、特に80〜99.9%の範囲が望ましい。含有量が70%未満では酵素の長期保存安定性に支障をきたす場合があり、99.9%を超えると酵素の溶出率に支障をきたす場合がある。
【0022】
本発明では、第1糖衣層及び第2糖衣層がゼラチンを含有するもので、これにより酵素の溶出率及び酵素の保存安定性を高めることができる。更に、第3糖衣層にもゼラチンを配合してもよい。
【0023】
ゼラチンとしては、牛、豚、魚など由来は限定されず、ゼラチンの処理方法及び分子量や等電点などその物理化学的諸性質に関しても限定されず、市販品を使用でき、例えば新田ゼラチン社製のもの等を使用できる。第1糖衣層及び第2糖衣層の各糖衣層成分中のゼラチンの含有量は、それぞれ0.1〜5%、特に0.2〜2%が好適である。各糖衣層成分中の含有量がそれぞれ0.1%未満では酵素の保存安定性に劣る場合があり、5%を超えると酵素の口内への放出速度に劣る場合がある。なお、第1糖衣層と第2糖衣層とのゼラチンの含有量はそれぞれ同じでも異なっていてもよい。
【0024】
酵素の種類については、例えばデキストラナーゼ、ムタナーゼ、アミラーゼ、リゾチーム、溶菌酵素、プロテアーゼ、セルラーゼ、グルカナーゼ、酸化還元酵素、リパーゼなどが挙げられ、これらの中から少なくとも1種を単独で又は組み合わせて用いることができる。また、多機能蛋白質であるラクトフェリンも、単独もしくは、前述の酵素の中から少なくとも1種を組み合わせて配合できる。特に、デキストラナーゼ、ムタナーゼを用いることが望ましく、これによる歯垢除去作用によりう蝕を効果的に予防できる。
【0025】
酵素の配合量は、酵素の種類と力価に応じた有効量とすることができる。
デキストラナーゼの配合量は、12,000単位品を基準とした場合、糖衣チューインガムの製剤全体(糖衣チューインガムを調製するためのチューインガム主体成分及び糖衣層成分の総計。以下、同様に略記。)の0.01〜5%が好ましく、特に0.03〜3%がより好ましい。第2糖衣層成分全体中の含有量は0.03〜20%が好ましく、特に0.3〜10%がより好ましい。製剤全体の0.01%未満では、酵素溶出性や放出速度に劣り、歯垢除去効果が満足に得られない場合があり、5%を超えると酵素の保存安定性に支障をきたす場合がある。なお、デキストラナーゼ1単位とは、デキストランを基質として40℃で反応を行った場合に、1分間当たりにグルコース1μmolに相当する遊離還元糖を生じるデキストラナーゼの量である。
【0026】
また、ムタナーゼの配合量は、6,000単位品を基準とした場合、糖衣チューインガムの製剤全体の0.01〜5%が好ましく、特に0.03〜3%がより好ましい。第2糖衣層成分全体中の含有量は0.03〜20%が好ましく、特に0.3〜10%がより好ましい。製剤全体の0.01%未満では酵素溶出性や放出速度に劣り、歯垢除去効果が満足に得られない場合があり、5%を超えると酵素の保存安定性に支障をきたす場合がある。なお、ムタナーゼ1単位とは、ムタンを基質として40℃で反応を行った場合に、1分間当たりにグルコース1μmolに相当する遊離還元糖を生じるムタナーゼの量である。
なお、酵素の総含有量は、酵素の種類と力価に応じた配合量とすることができる。糖衣チューインガムの製剤全体の0.01〜5%が好ましく、特に0.03〜3%がより好ましい。第2糖衣層成分全体中の含有量は0.03〜20%が好ましく、特に0.3〜10%がより好ましい。製剤全体の0.01%未満では酵素溶出性や放出速度に劣り、歯垢除去効果が満足に得られない場合があり、5%を超えると酵素の保存安定性に支障をきたす場合がある。
【0027】
糖衣層には、上記成分以外に、必要に応じて安定化剤、香料、色素、セラック、ワックスをはじめとした、通常の糖衣液がけ工程に採用される公知成分を配合することができる。
【0028】
第1糖衣層の質量は、チューインガム主体1gに対して5〜600mgが望ましく、特に10〜500mgが望ましい。5mg未満では酵素の溶出率に支障をきたす場合があり、600mgを超えると酵素の保存安定性に支障をきたす場合がある。
【0029】
第2糖衣層の質量は、チューインガム主体1gに対して5〜600mgが望ましく、特に10〜500mgが望ましい。5mg未満では酵素の溶出率に支障をきたす場合があり、600mgを超えると酵素の保存安定性に支障をきたす場合がある。
【0030】
第3糖衣層の質量は、目的の厚みまで糖衣層を形成できれば特に制限はないが、目的の厚みに形成するのに好適な質量は、チューインガム主体1gに対して100〜1,000mgであり、特に150〜900mgが望ましい。100mg未満では酵素の保存安定性に支障をきたす場合があり、1,000mgを超えると酵素の放出速度に支障をきたす場合がある。
【0031】
本発明において、チューインガム主体に配合されるガムベースとしては、チューインガム組成物に通常用いられるものを使用でき、例えば平均重合度100〜1,000のポリ酢酸ビニル樹脂、天然樹脂類(チクル、ジェルトン、ソルバ等)、ポリイソブチレン、ポリブデン、エステルガム等のガムベース用樹脂(基礎剤)、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、タルク等の充填剤、ラノリン、ステアリン酸、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、グリセリルトリアセテート、グリセリン等の可塑剤又は軟化剤、更には天然ワックス、石油ワックス、パラフィン等を配合した市販のガムベースを使用できる。なお、上記ガムベースは、クチナシ、ベニバナ、ベニコウジ等の天然色素や二酸化チタン等の着色剤を含有していてもよい。
ガムベースの配合量は、糖衣チューインガムの製剤全体の10〜50%、特に15〜30%が好ましい。チューインガム主体中のガムベースの含有量は15〜80%、特に20〜60%とすることができる。
【0032】
本発明の糖衣チューインガムは、上記成分以外に必要に応じてチューインガムに配合される公知成分を添加してもよい。糖衣層には、それぞれ、更に食用ガム質等の結合剤、他の有効成分や甘味剤、色素、酸味料、香料等を配合することができ、チューインガム主体には甘味剤、色素、酸味料、香料等を配合することができる。
【0033】
糖衣層成分としては、更にその被覆性を向上させるために結合剤を配合してもよく、結合剤を配合することにより、より満足に糖衣層でチューインガム主体等を被覆することができる。
結合剤としては、例えばアラビアガム等の食用ガム質、でんぷんなどが好適に使用される。結合剤を配合する場合の配合量は、各層で同じでも異なっていてもよく、糖衣層成分中のマルチトール等の糖質に対して0.1〜20%、とりわけ1〜10%が好ましい。0.1%未満では十分糖衣がなされない場合があり、20%を超えると酵素の長期保存安定性などに影響をきたす場合がある。なお、ゼラチンが配合されている糖衣層は、その限りではなく、結合剤の配合を省略することもできる。
【0034】
本発明では、チューインガム主体に甘味を付与するために甘味剤を配合することができる。この甘味剤としては、通常用いられる甘味料、例えば、マルチトール、スクロース、グルコース、デキストロース、転化糖、フラクトース、砂糖、水飴、キシリトール、エリスリトール、ソルビトール、マンニトール、ラクチトール、パラチノース、パラチニット、トレハロース、オリゴ糖、還元水飴、ステビア、スクラロース、サッカリン、アスパルテームから選ばれる少なくとも1種を含有するのが好ましく、特に風味の点でマルチトール、スクラロース、キシリトール、パラチニット、エリスリトールを含有するのが好ましい。上記甘味剤のチューインガム主体中への配合量は、チューインガム主体全体の0.001〜85%、特に0.01〜80%が望ましい。
【0035】
また、香料を配合することができる。なお、香料は、糖衣に香味を付与する目的で糖衣層成分に配合しても、あるいはチューインガム主体に香味を付与するためにガムベースと共に配合してもよく、糖衣層成分及びチューインガム主体の両方に配合してもよい。
【0036】
香料としては、天然香料、合成香料などの油脂香料や粉末香料を1種又は2種以上使用するのが好ましいが、特に限定されない。例えば、天然香料として、マスティック油、パセリ油、アニス油、ユーカリ油、ウィンターグリーン油、カシア油、メントール油、スペアミント油、ペパーミント油、レモン油、コリアンダー油、オレンジ油、マンダリン油、ライム油、ラベンダー油、ローレル油、カモミール油、カルダモン油、キャラウェイ油、ベイ油、レモングラス油、パインニードル油、ネロリ油、ローズ油、ジャスミン油、イリスコンクリート、アブソリュートペパーミント、アブソリュートローズ、オレンジフラワー、シトラス油、ミックスフルーツ油、ストロベリー油、シナモン油、クローブ油、グレープ油等が挙げられる。
単品香料としては、カルボン、アネトール、サリチル酸メチル、シンナミックアルデヒド、リナロール、リナリールアセテート、リモネン、メントン、メンチルアセテート、ピネン、オクチルアルデヒド、シトラール、プレゴン、カルビールアセテート、アニスアルデヒド、エチルアセテート、エチルブチレート、アリルシクロヘキサンプロピオネート、メチルアンスラニレート、エチルメチルアンスラニレート、バニリン、ウンデカラクトン、ヘキサナール、エチノンアルコール、プロピルアルコール、ブタノール、イソアミルアルコール、ヘキセノール、ジメチルサルフェイド、シクロテン、フルフラール、トリメチルピラジン、エチルラクテート、エチルチオアセテート等が挙げられる。単品香料及び/又は天然香料を含む調合香料として、ストロベリーフレーバー、アップルフレーバー、バナナフレーバー、パイナップルフレーバー、グレープフレーバー、マンゴーフレーバー、トロピカルフルーツフレーバー、バターフレーバー、ミルクフレーバー、ヨーグルトフレーバー、フルーツミックスフレーバー、ハーブミントフレーバー等が挙げられる。また、香料の形態は、精油、抽出物、固形物、又はこれらを噴霧乾燥した粉体でも構わない。
【0037】
香料の総配合量は、糖衣チューインガムの製剤全体の0.001〜20%、特に0.001〜5%とすることが好ましく、配合量が0.001%未満では満足な効果が発揮されない場合があり、20%を超えると組成物の香味やテクスチャーを損なう場合がある。
【0038】
更に、糖衣チューインガムには、必要に応じて、その他の添加剤、例えば酸味料、光沢剤、増粘剤、乳化剤、pH調整剤、保存料等を本発明の効果を損なわない範囲で適宜添加してもよい。
【0039】
本発明の糖衣チューインガムは、
チューインガム主体が糖衣層で被覆された糖衣チューインガムの製造方法であって、
(1)チューインガム主体を形成する工程、
(2)ゼラチンを含有する糖衣層成分で、チューインガム主体を被覆する第1糖衣層を形成する工程、
(3)更に、ゼラチン及び酵素を含有する糖衣層成分で、前記第1糖衣層を被覆する第2糖衣層を形成する工程、
(4)更に、酵素を含有しない糖衣層成分で、前記第2糖衣層を被覆する第3糖衣層を形成する工程
を含む方法で製造することができる。
【0040】
糖衣チューインガムを製造するには、例えば、上記第1工程として、まず、ガムベース用樹脂を主成分とし、ワックス、乳化剤、充填剤等からなるガムベースに、必要により所定量の甘味料、香料、着色料、軟化剤、矯味物質等の添加剤を加え、50℃前後にてニーダーを用いて均一に混練し、次いで、板状、ブロック状などの適宜な形状に切断し、チューインガム主体を得ることができる。この際、チューインガム主体の質量が約1〜2gになるようにすることが好ましい。
第1工程で得られたチューインガム主体は、第1〜3糖衣層で被覆する前に、セラック等のコーティング剤で前処理してもよい。
【0041】
得られたチューインガム主体表面に、上記第2〜4工程を行って第1〜3糖衣層を形成するには、糖衣パンあるいは回転釜を使用し、通常の方法を採用して行うことができる。
なお、糖衣工程は、食用ガム質と糖衣液のみを使用するいわゆるハード糖衣方法と、粉糖等からなる微細粉末原料とかかる糖衣液とを交互にかけるいわゆるソフト糖衣方法のいずれによってもよい。どちらの方法においても、酵素とチューインガム主体とを直接接触させないように、チューインガム主体を第1糖衣層で被覆した後に、酵素を含有した第2糖衣層を形成させることが好ましい。更に、第2糖衣層を第3糖衣層で被覆し、糖衣層全体の厚みを目的に応じて適宜調整することができる。なお、糖衣層全体の質量は、チューインガム主体1gに対して0.1〜2.2gが望ましいが、目的に応じて適宜調整することができる。
【0042】
糖衣工程は、例えば下記方法で行うことができる。
糖衣パンあるいは回転釜は、駆動モータに接続され、垂直線に対して、例えば10〜60°傾斜させて配置された回転駆動軸に取り付けられた上方開口型の有底容器であるのが好ましい。具体的には、糖衣パンあるいは回転釜中にチューインガム主体を投入し、糖衣パンを5〜30回転/分で回転させながら糖衣層の原料、例えばマルチトールを含有する糖衣液を添加してチューインガム主体表面にかけ、この糖衣液によりチューインガム主体の表面全体が被覆されたところで、結晶化されたマルチトールなどの粉体成分やオイル香料、色素などの液体成分を投入し、送風により乾燥させて、糖衣層を形成させる。乾燥は、例えば、粉体成分を供給して被覆物全体に行き渡らせることにより行うことができ、あるいは、粉体成分での処理後に送風することにより行うこともできる。送風を行う場合、風量は3〜30m2/分とするのが好ましく、例えば水分含量が1〜3%となるように乾燥を行うのが好ましい。この工程を、全糖衣層の割合が糖衣チューインガム製剤全体の9〜69%、特に10〜55%、とりわけ20〜50%になるまで繰り返して糖衣層を形成することが好ましい。
【0043】
また、糖衣層を形成した後は、艶出しなどの更なる工程を採用してもよく、例えば、艶出し工程は、回転釜内に艶出しワックスを供給し、回転釜を回転させながら、糖衣チューインガムの糖衣層の表面にワックスをコーティングすることにより行うこともできる。この場合、ワックスにはカルナウバワックスやキャンデリラワックス等を用いてもよい。また、糖衣層被覆後のコーティングにセラックを用いてもよい。
【0044】
本発明の糖衣チューインガムは、丸状、四角状等の各種形状の糖衣チューインガムに調製されるが、特に四角形状に調製されることが、傷などにも強く、外観安定性の点から好適である。
【実施例】
【0045】
以下、実験例、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。なお、以下の例において配合量はいずれも質量%である。また、表記載の配合量は、水分を除いたドライアップ後の純分換算値である。
【0046】
〔実験例〕
下記の方法に準拠して、表1〜13、表15〜17に記載したチューインガム主体組成、糖衣層組成及び工程により、糖衣チューインガム(実施例、比較例)を調製し、下記の方法で評価を行った。結果を表14〜17に示す。
【0047】
糖衣チューインガムの調製
(1)チューインガム主体の調製:
表1に示す組成に従い、ガムベース〔ナチュラルベース(株)製〕、キシリトール〔三菱商事フードテック(株)製〕、マルチトール〔アマルティMR−100、三菱商事フードテック(株)製〕、還元水飴〔日研化成(株)製〕、スクラロース〔三栄源エフエフアイ(株)製〕、香料を加え、50℃前後にてニーダー中で均一に混練した。この混練物をブロック状に切断し、チューインガム主体(チューインガム層)を得た。この際、チューインガム主体の質量が約1gになるようにした。実施例1〜21及び比較例3〜8の糖衣チューインガムのチューインガム主体には、表1に示す組成を用いた。比較例1,2のチューインガム主体は、表5,6の組成に従い同様に調製した。
【0048】
(2)糖衣層の調製:
チューインガム主体に対して、表2〜4、表7〜13、表15〜17の記載に従い、各糖衣層の組成からなる糖衣液を用い、第1糖衣層、第2糖衣層、第3糖衣層の順番に糖衣層を形成、積層させて糖衣チューインガムを製造した。
具体的には、糖衣パンあるいは回転釜中に上記チューインガム主体を投入し、糖衣パンを15回転/分で回転させながら、第1糖衣層を形成するための糖衣液をチューインガム表面にかけ、送風により乾燥させ、チューインガム主体表面に糖衣層を形成させた。引き続き、糖衣パンを15回転/分で回転させながら、第2糖衣層を形成するための糖衣液を第1糖衣層表面にかけ、送風により乾燥させ、第1糖衣層表面に第2糖衣層を形成させた。更に、糖衣パンを15回転/分で回転させながら、第3糖衣層を形成するための糖衣液を第2糖衣層表面にかけ、送風により乾燥させ、第2糖衣層表面に第3糖衣層を形成させた。この工程により、第1糖衣層〜第3糖衣層までの糖衣層により被覆された糖衣チューインガムを製造した。この時に、糖衣液を乾燥させて得られる固形化した糖衣層は、チューインガム主体1gに対して0.5〜1g(500〜1,000mg)形成させた。
なお、比較例の糖衣チューインガムは、上記の方法に準じて、各組成を有する糖衣チューインガムを調製した。
【0049】
各例において、ゼラチンは新田ゼラチン(株)製のAP100、デキストラナーゼは三菱化学フーズ(株)製のデキストラナーゼ(12,000単位品)、ムタナーゼは天野エンザイム(株)製のムタナーゼ(6,000単位品)を使用した。マルチトールは三菱商事フードテック(株)製レシスを使用した。
【0050】
実験1:糖衣チューインガムからの酵素溶出率確認試験
糖衣チューインガム2粒を100mLビーカーに移し、10mMリン酸緩衝液(pH7)70mLに30分間糖衣層を溶解させた。溶解液を回収し、100mLにメスアップし、5分間超音波処理し、デキストラナーゼ活性又はムタナーゼ活性をソモギ法により測定した。デキストラナーゼ1単位とは、40℃における反応において、1分間当たりグルコース1μmol相当量の遊離還元糖を生成させる酵素量である。また、ムタナーゼ1単位とは、40℃における反応において、1分間当たりグルコース1μmol相当量の遊離還元糖を生成させる酵素量である。
下記の計算式により、酵素溶出率を計算した。
酵素溶出率(%)=
〔抽出液の活性値(U)/酵素の配合量からの理論活性値(U)〕×100
【0051】
実験2:糖衣チューインガムからの酵素の咀嚼放出試験
全て健常歯である10人を被験者として、1分間安静時の唾液を採取し、糖衣チューインガム2粒を10分間咀嚼させ、1分毎に唾液を採取した。10分後に糖衣チューインガムを吐き出し、その後1分間安静時の唾液を採取した。採取した唾液を10mMリン酸緩衝液(pH7)で希釈し、実験1と同じ方法で酵素活性を定量し、10名の結果を平均した。
【0052】
下記の式(i)、(ii)の式により、5分後、10分後の酵素の唾液中放出率を算出して、唾液中放出速度を下記の基準により評価した。
唾液中放出率(%)=
〔咀嚼5分間の酵素の活性総量*(U)/抽出液の酵素活性総量**(U)〕×100
・・・(i)
唾液中放出率(%)=
〔咀嚼10分間の酵素の活性総量*(U)/抽出液の酵素活性総量**(U)〕×100
・・・(ii)
* ;5分間又は10分間の間に唾液中から回収した酵素の活性総量値
**;実験1と同様に測定した2粒分の抽出液の酵素活性総量(U)
【0053】
上記結果から酵素放出速度を評価した。酵素放出速度の評価基準を以下に示す。
唾液中への酵素の放出率(10名の平均) 唾液中放出速度
5分以内に90%以上が放出 : ○
5分を超えて10分以内に90%以上が放出: △
10分を超えても酵素放出率が90%未満 : ×
【0054】
実験3:糖衣チューインガムの長期保存における酵素安定性試験
糖衣チューインガムを製造直後と室温に一年間放置した後の酵素活性を実験1と同様の測定方法で評価し、糖衣チューインガム長期保存における酵素安定性を求めた。
酵素保存安定性(%)=
〔室温一年保存後の酵素活性値(U)/製造直後の酵素活性値(U)〕×100
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

第1糖衣層にゼラチン、第2糖衣層にデキストラナーゼとゼラチン、第3糖衣層にアラビアガムを配合。
【0057】
【表3】

第1糖衣層にゼラチン、第2糖衣層にデキストラナーゼとゼラチン、第3糖衣層にゼラチンを配合。
【0058】
【表4】

第1糖衣層にゼラチン、第2糖衣層にデキストラナーゼとゼラチン、第1〜3糖衣層にアラビアガムを配合。
【0059】
【表5】

デキストラナーゼをチューインガム主体に配合。
【0060】
【表6】

デキストラナーゼ及びゼラチンをチューインガム主体に配合。
【0061】
【表7】

【0062】
【表8】

デキストラナーゼを糖衣層全体に配合。
【0063】
【表9】

デキストラナーゼとゼラチンを糖衣層全体に配合。
【0064】
【表10】

チューインガム主体を直接被覆する糖衣層(内層)にデキストラナーゼを配合。
【0065】
【表11】

ゼラチンを第2糖衣層にのみ配合。
【0066】
【表12】

ゼラチンを第1糖衣層にのみに配合。
【0067】
【表13】

デキストラナーゼを第3糖衣層に配合。
【0068】
【表14】

【0069】
表14の結果より、チューインガム主体に酵素を含有し、単一糖衣層で被覆された糖衣チューインガムは、酵素溶出率、放出速度及び保存安定性に劣り、酵素を糖衣層に含有する場合は、酵素放出速度が改善するものの、酵素溶出率及び保存安定性に劣っていた。また、酵素を糖衣層に含有し、複数の糖衣層が積層されていても、糖衣層が不適切な場合は、酵素溶出率及び保存安定性に劣っていた。
これらに対して、チューインガム主体の表面に、ゼラチンを含む第1糖衣層を形成した後、ゼラチンと酵素を含有する第2糖衣層を形成し、更に酵素を含有しない第3糖衣層を形成し、これら第1〜3糖衣層で被覆した糖衣チューインガム(実施例)は、酵素溶出性、酵素放出速度及び保存安定性に優れることがわかった。
【0070】
【表15】

【0071】
【表16】

【0072】
【表17】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューインガム主体が、少なくとも3層の糖衣層で被覆された糖衣チューインガムであって、チューインガム主体を被覆する内層が、ゼラチンを含有する第1糖衣層であり、該第1糖衣層がゼラチン及び酵素を含有する第2糖衣層で被覆され、更に該第2糖衣層が酵素を含有しない第3糖衣層で被覆されてなることを特徴とする糖衣チューインガム。
【請求項2】
糖衣層が、マルチトールを含有する請求項1記載の糖衣チューインガム。
【請求項3】
酵素が、デキストラナーゼ及び/又はムタナーゼである請求項1又は2記載の糖衣チューインガム。
【請求項4】
チューインガム主体が糖衣層で被覆された糖衣チューインガムの製造方法であって、
(1)チューインガム主体を形成する工程、
(2)ゼラチンを含有する糖衣層成分で、チューインガム主体を被覆する第1糖衣層を形成する工程、
(3)更に、ゼラチン及び酵素を含有する糖衣層成分で、前記第1糖衣層を被覆する第2糖衣層を形成する工程、
(4)更に、酵素を含有しない糖衣層成分で、前記第2糖衣層を被覆する第3糖衣層を形成する工程
を含むことを特徴とする糖衣チューインガムの製造方法。
【請求項5】
糖衣層が、マルチトールを含有する請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
酵素が、デキストラナーゼ及び/又はムタナーゼである請求項4又は5記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−41485(P2011−41485A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190174(P2009−190174)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】