説明

糸含浸デバイス

含浸しようとするマルチフィラメント糸1を浸すための含浸液3を充填する糸含浸室7、およびマルチフィラメント糸1が通る経路内で糸含浸室7の下流に配置され、糸溝11を有する糸ガイド要素10を備え、糸溝11の断面は、含浸液3に浸されたマルチフィラメント糸1が糸溝11を通るとき、含浸液3をマルチフィラメント糸1へと押し込む圧力を生成するような寸法である、ヤーン加工機のための糸含浸デバイス4が提案される。
糸含浸室7は糸入口8を有し、糸入口8は、糸含浸室7の床部分を形成する糸含浸室7の壁部分の孔として設計される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含浸しようとするマルチフィラメント糸を浸すための含浸液が充填される糸含浸室、およびマルチフィラメント糸が通る経路内で糸含浸室の下流に配置され、糸溝を有する糸ガイド要素を備え、糸溝の断面は、含浸液に浸されたマルチフィラメント糸が糸溝を通るとき、含浸液をマルチフィラメント糸へと押し込む圧力が生成されるような寸法である、ヤーン加工機のための糸含浸デバイス、ならびにこの種の糸含浸デバイスを備えたヤーン加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
ヤーン加工機を使用してヤーンを製造するとき、ヤーンの特性を修正するために、ヤーンを液に含浸する必要があることが多い。ヤーンを含浸するために、例えばヤーンを液に含浸する。ヤーンがマルチフィラメントヤーンの形態である場合、含浸に使用する含浸液が、マルチフィラメントヤーンの個々のフィラメント間に十分に浸透しないという問題が起きる。その結果、マルチフィラメントヤーンの個々のフィラメント間に未処理の部分が残る。
【0003】
国際公開第03/078510号または国際公開第01/70855号から、ガラス、アラミド、またはカーボンファイバーのマルチフィラメントヤーンをポリテトラフルオロエチレン(PTFE)でコーティングすることによって含浸することは既知の技術であり、マルチフィラメントヤーンの糸は最初にPTFE分散液に含浸され、次いでノズルとして設計された糸溝を通って導かれ、それにより圧力下で含浸される。したがって、糸の個々のフィラメント間に存在する空気は押し出され、個々のフィラメントは十分にPTFEでコーティングされ、次いで乾燥される。
【0004】
含浸プロセスでは、糸は通常、含浸液の入った槽を通って導かれる。槽内部には、含浸液の液面より下に糸を曲げるデバイスがあり、糸は含浸液に完全に含浸された後、含浸液から出て再び導かれ得るようになっている。このように、糸は常に最大量の含浸液を吸収する。吸収された含浸液を測定することは不可能である。次いで、糸が通る経路において、吸収された含浸液の一部が、例えば加速条件下で移動するプロセスによって糸から再び遠心分離され得、または糸がその後に通過するノズルの先で一部が集められる。後者は、特に含浸液がPTFEなど空気中で硬化する材料の形態である場合、ヤーン加工機の運転に問題をもたらすことがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、先行技術の欠点を回避する糸含浸デバイスを提供することであり、特に、糸含浸デバイスを備えたヤーン加工機において、付着物によって起きる運転障害を防ぐ。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、独立請求項の糸含浸デバイスによって達成される。従属請求項は、本発明の好ましい実施形態を表す。
【0007】
本発明によるヤーン加工機のための糸含浸デバイスは、含浸しようとするマルチフィラメント糸を浸すための含浸液が充填される糸含浸室、およびマルチフィラメント糸が通る経路内で糸含浸室の下流に配置された糸ガイド要素を有する。糸ガイド要素は糸溝を有し、糸溝の断面は、含浸液に浸されたマルチフィラメント糸が糸溝を通るとき、含浸液をマルチフィラメント糸へと押し込む圧力が生成されるような寸法となっている。
【0008】
本発明によると、糸含浸室は糸入口を有し、糸入口は、糸含浸室の床部分を形成する糸含浸室の壁部分の孔として設計されている。このように、糸含浸室が含浸液で充填されるとき、孔は常に含浸液によって形成される含浸液の液面の下にくる。
【0009】
本発明による糸含浸室の配置およびその糸入口により、計量しながら糸含浸室を含浸液で充填することができ、マルチフィラメント糸が糸含浸室内に保持された含浸液を通るときに吸収する含浸液の量が、マルチフィラメント糸を含浸液に浸す所望の計量と一致するようになっている。後者は、糸含浸室内の含浸液の液面の高さによって調節することができる。この含浸液の液面が高いほど、マルチフィラメント糸が含浸液を通過する時間が長くなり、より多くの含浸液がマルチフィラメント糸に吸収され、または取り込まれる。マルチフィラメント糸の表面に付着される含浸液の量は、このようにして計量することもできる。マルチフィラメント糸が含浸液を通過するときにマルチフィラメント糸に供給される、すなわち提供される含浸液の量は、特に、マルチフィラメント糸が吸収することができる含浸液の最大量より少なくすることができる。すなわち、マルチフィラメント糸の保持容量より少なくすることができる。吸収される含浸液の量は、マルチフィラメント糸が通る他の経路において、実質的に、含浸液がマルチフィラメント糸から遠心分離されることがないように、調整することができる。したがって、含浸液の付着によるヤーン加工機の運転障害を防ぐことができる。
【0010】
さらに、本発明による糸含浸デバイスでは、糸を糸含浸デバイスを通して直線状に導くことが可能であり、それにより糸にかかる引張力が低減される。
【0011】
十分な含浸液が利用可能な場合、すなわち糸含浸室内へと導入される場合、マルチフィラメント糸は、本発明による糸含浸デバイスを通過するとき、完全に含浸され、マルチフィラメント糸の外側部分だけが浸されることはない。後者は、マルチフィラメント糸が通過する糸溝において生じる圧力を受けて、すなわち、含浸液によってマルチフィラメント糸から空気が除去され、これにより、マルチフィラメント糸のフィラメント間に含浸液が浸透することによって達成される。この圧力は糸が糸溝を通る速度とともに高くなるため、本発明による糸含浸デバイスは、特に巻き取り速度が速いヤーン加工機での使用に十分に適したものになっている。含浸液は、それによりマルチフィラメント糸のフィラメント間の空間へと押し込まれる例えば数バールの圧力を受ける。
【0012】
本発明による糸含浸デバイスは、どのようなマルチフィラメント糸の含浸にも適している。したがって例えばガラス、プラスチック、またはカーボンファイバーなどの人工繊維のマルチフィラメント糸も、例えば綿または絹などの天然繊維と同様に、含浸することができる。撚糸および撚糸でないマルチフィラメント糸のどちらも、含浸することができる。含浸しようとするマルチフィラメント糸を、本発明による糸含浸デバイスを通過中に撚ることもでき、ヤーン加工機としてのヤーンまたはヤーン撚糸の製造機において、ヤーン製造プロセスまたは撚りプロセスの間またはプロセスの下流で、含浸を実行することも可能である。
【0013】
糸溝の断面の寸法については、次のような手順で定めることができる。まず、理論上の糸直径を計算することができる。これは、当該マルチフィラメントヤーン内に平行に走らせるフィラメントの数および円柱状配置での最も密集したパッキングを想定したマルチフィラメントヤーンの直径を考慮することで行うことができ、対応する円柱の直径から決定された直径を理論上の糸直径とする。したがって、理論上の糸直径または糸断面は、糸が単一のフィラメントからまさに作られた場合の糸断面と一致する。この理論上の糸直径から、例えばマルチフィラメント糸が糸溝を通過するときにマルチフィラメント糸の表面に存在する液の量の寸法を考慮するなど、因子を適切に乗算することによって、糸溝の断面が計算される。次いで、これによって得られた直径に従って、糸溝の断面を選択することができる。
【0014】
したがって、マルチフィラメント糸に加えて、マルチフィラメント糸とともに運ばれ、糸に含浸される含浸液もまた、糸溝(圧力溝)を通過する必要がある。マルチフィラメント糸とともに圧力溝によって圧縮される含浸液の量は、糸が糸含浸デバイスを通過し含浸液が硬化した後、マルチフィラメント糸に付着する含浸液中の固体の濃度、およびマルチフィラメント糸に付着させたい量、すなわちこれらの固体の厚さの関数である。濃度が高いほど、および付着させたい量が少ないほど、圧力溝の選択される断面は小さくなる。圧力溝の断面は、それにより理論上の糸断面の例えば1.5から3.5倍の大きさとすることができる。同じ糸番手、言い換えると、糸長さの単位あたり重量が同じヤーンは、マルチフィラメント糸を構成し得る様々な材料によって理論上の糸断面が異なるが、これはそれらの材料の密度が異なるためである。ガラスのマルチフィラメント糸の糸溝は、例えば同じ糸番手、濃度および付着量では、例えば同じ濃度および付着量で含浸されるポリエステルの糸溝より、小さい。糸含浸室の床部分に糸入口を形成する孔の直径または断面は、圧力溝の断面に従って選択することができる。
【0015】
糸ガイド要素が糸含浸室を覆って閉じ、糸溝が糸含浸室の糸出口を形成する場合、糸含浸デバイス内でマルチフィラメント糸の誘導を、糸入口および糸出口に関して完全に画定することができる。さらに、マルチフィラメント糸が比較的多量の含浸液に含浸されるとき、糸含浸室から遠心分離される含浸液が流出しないようになっている。
【0016】
糸含浸室は、好ましくは、通気口を備える閉じた室として形成される。糸溝において糸含浸室の方向に押し出される空気を、マルチフィラメント糸の隙間から、通気口を通して逃がすことができる。したがって、糸含浸室の容積は、原則的にマルチフィラメント糸が吸収する含浸液の容積と一致させることができる。その結果、含浸液は、空気と最小限しか接触しない。
【0017】
含浸液取り入れ口が糸含浸室、好ましくはその床部分に設けられている場合、含浸液を、計量しながら特に簡単に糸含浸室へと導入することができる。
【0018】
特に好ましい方法では、糸ガイド要素は糸溝構成要素および糸溝構成要素から取り外すことができる閉鎖構成要素を有し、糸溝表面には、糸溝の少なくとも一部を形成する溝が設けられており、閉鎖構成要素が溝を覆うことによって糸溝を閉じる。その結果、マルチフィラメント糸を、糸通し処理を行わずに、非常に単純な方法で糸溝内に置くことができる。
【0019】
糸含浸室が糸溝構成要素および/または閉鎖構成要素の凹部から形成される場合、本発明による糸含浸デバイスを特にコンパクトな形態で達成することができる。
【0020】
含浸液が密閉されるように糸溝構成要素を閉鎖構成要素で覆うことによって糸含浸室を閉じることができ、糸入口を形成する孔の縁の一部が糸溝構成要素から、一部が閉鎖構成要素から形成される場合、マルチフィラメント糸は糸入口に糸通しする必要もなくなる。閉鎖構成要素で溝を覆うことによって糸溝を閉じる前に、マルチフィラメント糸を単に糸溝内に置くだけでよい。
【0021】
ここで、糸入口を形成する孔は、糸溝構成要素の溝から形成されることが好ましい。このように、糸溝および糸入口が位置合わせされ、糸が糸含浸デバイス内で直線状の経路を取るようになっている。
【0022】
好適には、糸溝構成要素は金属またはセラミックのブロックの形態の構成要素として実現され、糸溝構成要素の糸溝表面と反対側の糸溝構成要素の糸溝表面に、予備の糸溝としてさらに溝が形成される。糸溝が摩耗した場合、または予備の糸溝の断面が糸溝の断面と異なる場合、糸溝構成要素は、予備の糸溝を使用するために、必要に応じて単に回転することができる。ここで、糸含浸室は、2部品から形成する必要がないように、閉鎖構成要素の凹部から形成されることが好ましい。
【0023】
糸溝の糸含浸室内に面した側の端部および/または糸含浸室と反対に面した側の糸入口を形成する孔が広がって漏斗形を形成する場合、含浸されるマルチフィラメント糸から径方向に突き出た個々のフィラメントの端部を、糸溝および/または糸入口に入る前に、マルチフィラメント糸に押し込むことができ、その結果、マルチフィラメント糸が本発明による糸含浸デバイスを通過するときに、マルチフィラメント糸からこれらの端部が分離しないようにすることができる。
【0024】
加熱デバイスが糸含浸デバイスに設けられ、加熱デバイスによって少なくとも糸含浸室を加熱することができる場合、本発明による糸含浸デバイスで、マルチフィラメント糸の熱含浸を行うことができる。
【0025】
より好適には、糸溝構成要素および閉鎖構成要素はハウジング内に配置され、糸溝構成要素または閉鎖構成要素が、好ましくはハウジング上に設けられた偏心レバーを特徴とするロック機構によって糸溝を閉じるように、可動に支持される。このように、閉鎖構成要素は、糸溝を閉じるために、最初は糸溝構成要素の正確に反対側に配置され得る。したがって、本発明による糸含浸デバイスを、基本的に他の調整を行う必要のないモジュールとして、ヤーン加工機に取り付けることができる。
【0026】
ヤーン加工機は、本発明による糸含浸デバイスを有する。ここで、糸含浸デバイスは、ヤーン加工機に好ましくは垂直またはほぼ垂直に配置され、含浸しようとするマルチフィラメント糸が通る経路が、糸含浸室へと糸入口を通って下側から入り、糸溝へと上向きに出るようになっている。このように、糸含浸室へと導入される含浸液は、常に糸入口のすぐ上に集められ、マルチフィラメント糸に割り当てられる含浸液の明確な計量が簡略化されるようになっている。
【0027】
以下、図面を参照して実施形態を例に取りながら、本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明によるヤーン加工機の構造的原理を示す図である。
【図2】本発明による糸含浸デバイスの好ましい実施形態を示す図である。
【図3a】本発明による糸含浸デバイスの糸ガイド要素の、特に好ましい実施形態の断面図である。
【図3b】本発明による糸含浸デバイスの糸ガイド要素の、特に好ましい実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図の描写は、本発明の主題を非常に概略的に示すものであり、等縮尺であると理解するべきではない。本発明の主題の個々の構成要素は、これらのアセンブリが良く示されるように表示されている。
【0030】
図1は、本発明によるヤーン加工機の構造的原理を示す。マルチフィラメントヤーンが給送スプール2に保持され、マルチフィラメントヤーンの含浸しようとするマルチフィラメント糸1が、給送スプール2から巻き出される。含浸液3に含浸しようとするマルチフィラメント糸1が通る経路は、本発明による糸含浸デバイス4を通って、巻き上げスプール5へと続いている。糸含浸デバイス4内で処理された、すなわち通常含浸されたマルチフィラメント糸1は、巻き上げスプール5へと巻き取られる。マルチフィラメント糸1の移動方向は、マルチフィラメント糸1上の矢印記号で図中に示されている。もちろん、ヤーン加工機は、例えば糸ガイドなど、他の構成要素を有することもでき、および/またはヤーン加工機は、マルチフィラメント糸の製造のために、糸含浸デバイスの上流のプロセスとして配備されることもできる。糸含浸デバイス4を通過した後、マルチフィラメント糸1に付着した含浸液は、例えば乾燥によって、硬化することができる。後者は、例えば糸加熱ユニット(図示せず)を使用して、加速することができる。
【0031】
糸含浸デバイス4は、糸含浸室7を備えた閉鎖ハウジングとして実現されている。糸含浸室7は、糸含浸室7の床部分を形成する糸含浸室7の壁部分の孔として設計された糸入口8を有する。糸含浸室7の上側部分は、糸ガイド要素10をカバーとして閉じられている。この糸ガイド要素10は、糸含浸室7の糸出口を形成する糸溝11を有する。
【0032】
糸含浸デバイス4は、含浸しようとするマルチフィラメント糸1が通る経路が、糸含浸室7へと糸入口8を通って下側から入り、糸溝11へと、すなわち糸出口を通って上向きに出るように、ヤーン加工機に垂直に配置されている。
【0033】
含浸液3は、保存タンク15から、供給ライン16および含浸室7の床部分に設けられた含浸液取り入れ口17を通って、糸含浸デバイス4、すなわち糸含浸室7へと流れる。糸入口8および糸出口は、含浸されるマルチフィラメント糸1の糸の太さに合わせた寸法であり、および所望する量の含浸液が付着するようにした寸法であり、含浸液3、またはほぼどのような液も、糸入口8を通って流れることがないようになっている。後者は、マルチフィラメント糸1が糸入口8を糸溝11の方向に通過するとき、流れ出ようとする含浸液3を引きずり込むことからも恩恵も得ている。
【0034】
糸入口8を形成する孔が、糸含浸室と反対の側に漏斗形の拡張部20を備えて設けられており、マルチフィラメント糸1が糸入口8を通過するとき、マルチフィラメント糸1から径方向に突き出たフィラメント端部および/またはフィラメントから形成されるマルチフィラメント糸1の膨隆部が、マルチフィラメント糸1に押し込まれるようになっている。
【0035】
糸溝11、すなわち糸出口の断面は、含浸液3に浸されたマルチフィラメント糸が糸溝11を通るとき、含浸液3をマルチフィラメント糸1へと押し込む圧力が生成されるような寸法になっている。
【0036】
糸溝11を通るマルチフィラメント糸1の通路および含浸液3を使用することによって、引き込みの圧力が生成され、引き込まれた含浸液3はマルチフィラメント糸1の内部、言い換えると、マルチフィラメント糸1の個々のフィラメントの隙間に確実に浸透する。圧力を加え、含浸液3をマルチフィラメント糸1に浸透させた結果、マルチフィラメント糸1内にある空気が特に隙間から押し出され、通気口21を通って糸含浸室7から排出することができる。
【0037】
給送スプール2から巻き上げスプールへと、マルチフィラメント糸1の再巻き取りが速いほど、すなわちマルチフィラメント糸1の糸速度が速いほど、糸溝11、すなわち糸出口における圧力が高くなる。
【0038】
糸入口8を形成する孔は、糸溝11の糸含浸室内に面した側の端部に、漏斗形の拡張部を備えている。
【0039】
調節バルブによって、保存タンク15から供給ライン16を通って糸含浸室7に供給される含浸液の量が、マルチフィラメント糸1が引き込むことができるのと同じ量の含浸液3、または引き込むべき量の含浸液3だけが、糸含浸室7へと流入するようになっている。調節バルブ25のかわりに、所望する量の含浸液を糸含浸室7へと導入するために、計量ポンプまたは別の供給デバイスを設けることもできる。
【0040】
図2は、本発明による糸含浸デバイス4の好ましい実施形態を示す。ここで、糸ガイド要素は、糸溝構成要素30および糸溝構成要素30から取り外すことができる閉鎖構成要素31として設計されている。糸溝構成要素30の糸溝表面には、糸溝11を形成する線形溝が設けられている。閉鎖構成要素31は、溝を覆うことによって糸溝11を閉じることができ、糸溝11は含浸液が密閉される管路を形成するようになっている。糸溝構成要素30および閉鎖構成要素31はどちらも、ブロックの形態で金属またはセラミックの構成要素として実現される。
【0041】
図では、閉鎖構成要素31および糸溝構成要素30が、溝内にあり糸溝11を通過するマルチフィラメント糸1を見ることができるように、互いに離間して示されている。糸溝構成要素30および閉鎖構成要素31は、ハウジング35内に配置されている。このハウジング35は、例えばウルフティースとして実現される、2つの糸ガイド36を有し、それによりマルチフィラメント糸1を溝、すなわち糸溝11内へと置くことが簡略化される。糸溝30は、ハウジング35に設けられたスタッド37上に取り付けられ、その結果、閉鎖構成要素31で覆う際に正確に配置される。
【0042】
閉鎖構成要素31は、ハウジング35に設けられた偏心レバー38を含むロック機構によって、糸溝11を閉じるために可動に支持されている。偏心レバー38を、例えば図中に矢印で示す方向に動かすことによって、閉鎖構成要素31を糸溝構成要素30の方向に変位させることができ、糸溝構成要素30上に確実に押し付けることができる。可動支持は、図中に二重矢印として示されている。
【0043】
溝を覆って糸溝11を閉鎖するために、偏向レバー38の動作後、互いに重なる糸溝構成要素30および閉鎖構成要素31の表面は、糸溝を閉鎖して液を密閉するために精密に加工される。糸含浸室7は閉鎖構成要素31の凹部から形成され、糸溝構成要素30を閉鎖構成要素31で覆うことによって、含浸液が密閉されるように閉じることができる。ここで糸入口8を形成する孔の縁の一部は糸溝構成要素30から形成され、一部は閉鎖構成要素31から形成される。すなわち、孔は糸溝構成要素30の溝からも構成される。したがって、糸溝11および孔は、同一平面で縦に並んで配置されている。
【0044】
糸含浸室7の通気口21および含浸液取り入れ口17は、閉鎖構成要素31の孔として設計されている。これらの孔は、それぞれハウジング35内のホース40または管を通って外向きに経路が作られている。例えば、含浸液取り入れ口17を通して、吸収のためにマルチフィラメント糸1に対して糸含浸室7内で利用可能な含浸液の量が、マルチフィラメント糸1の保持容量より常に少ない、または同等である場合、糸入口8での含浸液の逆流がないよう、および通気口21を通って含浸液が流出しないようにすることができる。
【0045】
図3aは、図2に示す本発明による糸含浸デバイスの糸ガイド要素10の、特に好ましい実施形態を通して、糸溝11の部分で糸が通る経路に対して直角に見た断面図である。糸溝構成要素30の糸溝表面で糸溝11を形成する溝を見ることができる。液が密閉されるよう糸溝11を閉じるためにこの溝を覆う閉鎖構成要素31は、糸溝11の部分において平面をまさに有する。したがって、例に表示された糸溝11は円形断面ではなく、径方向に非対称な断面となっている。表示された断面形状、すなわち、特に、溝を覆う閉鎖構成要素31の表面が平面の実施形態を使用することによって、閉鎖構成要素31および/または糸溝構成要素30の縁が糸溝11内へ突出しないようになっている。
【0046】
ブロックの形態で金属またはセラミックの構成要素として実現されている糸溝構成要素30の糸溝表面と反対側の表面には、予備の糸溝45として、さらに溝が形成されている。この予備の糸溝45は、糸溝構成要素30を単に回転し、ハウジング内に位置決めのために設けられたスタッドに、図2のとおり対応するように取り付けることによって、使用することができる。ここで、予備の糸溝45は、糸溝11と同一になるように、すなわち同じ断面で実現する必要はない。予備の糸溝45および糸溝11は、糸溝45、11を異なる太さのマルチフィラメント糸の含浸に使用することができるように、異なる断面とすることもできる。
【0047】
図3bは、図2に示す本発明による糸含浸デバイスの糸ガイド要素10の特に好ましい実施形態による、糸溝11の方向の断面図である。糸溝構成要素30をハウジング内のスタッドに、図2のとおり取り付けるための糸溝構成要素30の開口48が、糸溝45、11を形成する溝とともに示される。閉鎖構成要素31内の糸含浸室7を形成する凹部ならびに閉鎖構成要素31内の通気口21および含浸液取り入れ口17を形成する孔も示される。閉鎖構成要素31はまた、閉鎖構成要素31を、例えば図2の偏心レバーに取り付けるための、ねじ挿入溝51を備えた開口50も有する。
【0048】
糸含浸デバイスは、例えば図1に示すように、水平位置で運転することもでき、および/または糸の経路も、特に糸溝および糸入口が同一断面の場合、図1の矢印で示す方向と逆にすることもできることが理解されよう。
【0049】
含浸液の計量も可能であることに加えて、本発明によるデバイスは、含浸プロセス中、糸に作用する引張力が低減され(方向は変化しない)、液含浸室が閉じられていることによって、液表面の硬化に影響を及ぼすことがある濃縮が起きないようにすることができる、という点で際立っている。
【0050】
本発明が提案するのは、含浸しようとするマルチフィラメント糸1を浸すための含浸液3を充填される糸含浸室7、およびマルチフィラメント糸1が通る経路内で糸含浸室7の下流に配置され、糸溝11を有する糸ガイド要素10を備え、糸溝11の断面は、含浸液3に浸されたマルチフィラメント糸1が糸溝11を通るとき、含浸液3をマルチフィラメント糸1へと押し込む圧力を生成するような寸法である、ヤーン加工機のための糸含浸デバイス4である。
【0051】
糸含浸室7は糸入口8を有し、糸入口8は、糸含浸室7の床部分を形成する糸含浸室7の壁部分の孔として設計されている。
【0052】
本発明は、上記で特定された実施形態の例に制限されない。むしろ多くの変形形態が企図されており、それらは基本的に異なるタイプの本発明の特徴の実施形態においても、解決策を利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヤーン加工機のための糸含浸デバイス(4)であって、
含浸しようとするマルチフィラメント糸(1)を浸すための含浸液(3)を充填する糸含浸室(7)と、
前記マルチフィラメント糸(1)が通る経路内で前記糸含浸室(7)の下流に配置され、糸溝(11)を有する糸ガイド要素(10)とを含み、前記糸溝(11)の断面は、前記含浸液(3)に浸された前記マルチフィラメント糸(1)が前記糸溝(11)を通るとき、前記含浸液(3)が前記マルチフィラメント糸(1)へと押し込む圧力を生成するような寸法である糸含浸デバイスにおいて、
前記糸含浸室(7)が糸入口(8)を有し、前記糸入口(8)は、前記糸含浸室(7)の床部分を形成する前記糸含浸室(7)の壁部分の孔として設計されていることを特徴とする糸含浸デバイス。
【請求項2】
前記糸ガイド要素(10)が前記糸含浸室(7)を覆うことによって閉じ、前記糸溝(11)が前記糸含浸室(7)の糸出口を形成することを特徴とする、請求項1に記載の糸含浸デバイス。
【請求項3】
前記糸含浸室(7)が、通気口(21)を備えた閉じた室から形成されることを特徴とする、請求項2に記載の糸含浸デバイス。
【請求項4】
前記糸含浸室(7)の、好ましくは床部分に、含浸液取り入れ口(17)が設けられていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の糸含浸デバイス。
【請求項5】
前記糸ガイド要素(10)が糸溝構成要素(30)および前記糸溝構成要素(30)から取り外すことができる閉鎖構成要素(31)を有し、前記糸溝構成要素(30)の糸溝表面に、前記糸溝(11)の少なくとも一部を形成する溝が設けられ、前記閉鎖構成要素(31)が溝を覆うことによって前記糸溝(11)を閉じることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の糸含浸デバイス。
【請求項6】
前記糸含浸室(7)が前記糸溝構成要素(30)および/または前記閉鎖構成要素(31)の凹部から形成されることを特徴とする、請求項5に記載の糸含浸デバイス。
【請求項7】
前記糸含浸室(7)は、前記含浸液が密閉されるように、前記糸溝構成要素(30)を前記閉鎖構成要素(31)で覆うことによって閉じることができ、前記糸入口(8)を形成する孔の縁の一部が前記糸溝構成要素(30)から、一部が前記閉鎖構成要素(31)から形成されることを特徴とする、請求項6に記載の糸含浸デバイス。
【請求項8】
前記糸入口(8)を形成する孔が、前記糸溝構成要素(30)の溝から形成されることを特徴とする、請求項7に記載の糸含浸デバイス。
【請求項9】
前記糸溝構成要素(30)が金属またはセラミックのブロックの形態の構成要素として実現され、前記糸溝構成要素(30)の糸溝表面と反対側に、予備の糸溝(45)としてさらに溝が形成されることを特徴とする、請求項5から8のいずれか一項に記載の糸含浸デバイス。
【請求項10】
前記糸溝(11)の前記糸含浸室内に面した側の端部および/または前記糸含浸室と反対に面した側の前記糸入口(8)を形成する孔が漏斗形の拡張部(20)を有することを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の糸含浸デバイス。
【請求項11】
加熱デバイスが設けられ、前記加熱デバイスによって少なくとも前記糸含浸室(7)を加熱することができることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の糸含浸デバイス。
【請求項12】
前記糸溝構成要素(30)および前記閉鎖構成要素(31)がハウジング(35)内に配置され、前記糸溝構成要素(30)または前記閉鎖構成要素(31)が、好ましくは前記ハウジング(35)上に設けられた偏心レバー(38)を特徴とする、ロック機構によって、前記糸溝(11)を閉じるように、可動に支持されることを特徴とする、請求項5から11のいずれか一項に記載の糸含浸デバイス。
【請求項13】
前記請求項の一項に記載の糸含浸デバイスを備えたヤーン加工機。
【請求項14】
含浸しようとする前記マルチフィラメント糸(1)が通る経路が、前記糸含浸室(7)へと前記糸入口(8)を通って下側から入り、前記糸溝(11)へと上向きに出るように、前記糸含浸デバイス(4)が前記ヤーン加工機に垂直またはほぼ垂直に配置されることを特徴とする、請求項13に記載のヤーン加工機。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【公表番号】特表2010−522831(P2010−522831A)
【公表日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−500067(P2010−500067)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【国際出願番号】PCT/DE2008/000528
【国際公開番号】WO2008/119335
【国際公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(509267247)
【氏名又は名称原語表記】FRENKEN, Johannes Jakob
【Fターム(参考)】