説明

糸巻取装置及び動作原点位置調整方法

【課題】糸巻取装置において、常に、動作部の原点が正しく調整された状態で巻取を行う。
【解決手段】巻取ユニットは、動作部として、開閉部材、糸寄せレバー、ペッグ、可動筒体、糸継装置、上糸捕捉案内部材、下糸捕捉案内部材、及び、シャッターを備え、これらの動作部を動作させて糸の巻取を行う巻取運転モードと、保全を行うために動作部を停止させる保全モードのいずれかのモードで動作する。ある巻取ユニットにおいて、保全モードから巻取運転モードに切り換えられたときには、当該巻取ユニットの各動作部の動作原点位置の調整を行ってから、糸の巻取を再開させる。また、複数の巻取ユニットを備えた自動ワインダーの電源がオンになったときに、全ての巻取ユニットにおいて、各動作部の動作原点位置の調整を行う。複数の動作部の動作原点位置の調整は、一斉には行わず、一部分ずつ、所定の順序に沿って行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給糸ボビンから解舒した糸を巻き取る糸巻取装置、及び、糸巻取装置における動作原点位置調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の巻取ユニット(糸巻取装置)は、通常の巻取動作を行う通常巻取モード(巻取運転モード)と、各構成部分を保全するための保全モードのいずれかのモードが選択的に実行可能となっている。そして、通常巻取モードでの動作中に不具合が発生したときに、通常巻取モードから保全モードに切り換えた上でオペレータが必要な修理等を行い、修理等が完了したときに、保全モードから通常巻取モードに切り換えて、糸の巻取を再開させる。
【0003】
特許文献2に記載の糸条巻取機においては、糸継ぎ用カムの原点検出器、糸継ぎ用カムの特定角度検出器、バルーン制御部材用検出器、動作開始検出器、中継パイプの原点検出器といった、糸条巻取機の動作部の動作原点位置を検出するための光電センサが設けられている。そして、これらの光電センサの検出結果により、各動作部の動作原点位置が適切に設定されているか否かを検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−16631号公報
【特許文献2】特開2003−112854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1に記載の巻取ユニットでは、保全モードにおいて修理等を行う際に、オペレータが巻取ユニットの動作部に触れるなどして、動作部の動作原点位置がずれてしまうことがある。一方、特許文献2に記載されているような光電センサは、各動作部の動作原点位置をピンポイントで検出できるものではなく、検出範囲に幅がある。そのため、保全モードにおいて、巻取ユニットの動作部が上記検出範囲内でずれた場合には、光電センサによってそのずれを検出することはできない。そして、このような光電センサの検出範囲内でのずれが生じた状態で、保全モードから通常運転モードに切り換えられて糸の巻取が再開されると、巻取動作に影響が生じる虞がある。
【0006】
本発明の目的は、常に、動作部の原点が正しく調整された状態で、巻取を行うことが可能な糸巻取装置、及び、糸巻取装置における動作原点位置調整方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明に係る糸巻取装置は、給糸ボビンから解舒された糸を巻取ってパッケージを形成する糸巻取装置であって、駆動源からの駆動力を受けて動作する少なくとも1つの動作部と、前記動作部の動作原点位置を検出する原点センサと、前記動作部を制御する制御装置と、前記動作部を動作させることによって糸を巻取る巻取運転モードと、保全のために前記動作部を停止させる保全モードの、少なくとも2つのモードから1つのモードを選択して、前記制御装置に実行させる、モード選択部と、を有し、前記制御装置は、前記動作部の動作原点位置の調整を行う原点調整制御部を備え、前記原点調整制御部は、前記モード選択部により前記保全モードが選択された後、前記モード選択部により他のモードが選択されて糸の巻取が開始される前に、原点センサを用いて前記動作部の動作原点位置の調整を行うことを特徴とする。
【0008】
第17の発明に係る動作原点位置調整方法は、駆動源からの駆動力を受けて動作する少なくとも1つの動作部と、前記動作部の動作原点位置を検出する原点センサとを備え、前記動作部を動作させることによって、給糸ボビンから解舒された糸を巻取ってパッケージを形成する巻取運転モードと、保全のために前記動作部を停止させる保全モードの、少なくとも2つのモードのうちいずれか1つのモードで選択的に動作する糸巻取装置において、前記動作部の動作原点位置の調整を行う動作原点位置調整方法であって、前記保全モードが選択された後、他のモードが選択されて糸の巻取が開始される前に、前記原点センサを用いて前記動作部の動作原点位置の調整を行うことを特徴とする。
【0009】
保全モード時は、装置の様々な箇所を点検、補修等を行うために、動作部の動作原点位置がずれる可能性がある。しかし、原点センサは動作部の動作原点位置をピンポイントで検出できるものではなく検出範囲に幅があるため、保全モードでの点検等の間に、原点センサの検出範囲内で動作部の動作原点位置がわずかにずれた場合にそのずれはわからない。しかしながら、そのようなわずかなずれが存在する状態で巻取運転モードに移行すると、巻取動作に影響が出る虞がある。
【0010】
これに対して、これらの発明では、保全モードが選択された後、他のモードが選択されて糸の巻取が開始される前に、無条件に動作部の動作原点位置の調整を行うことで、常に、動作部の動作原点位置が正しく調整された状態で、巻取を行うことができる。
【0011】
第2の発明に係る糸巻取装置は、第1の発明に係る糸巻取装置において、前記モード選択部は、糸の巻取を停止させる停止モードをさらに選択できるようになっており、前記巻取運転モードと前記保全モードとの間でのモードの切換は、前記停止モードを介してのみ可能となっており、前記原点調整制御部は、前記モード選択部により、前記保全モードから前記停止モードに切り換えられたとき、あるいは、この後、さらに前記巻取運転モードに切り換えられたときに、原点センサを用いて前記動作部の動作原点位置の調整を行うことを特徴とする。
【0012】
本発明によると、保全モードから直接巻取運転モードに切り換えられてしまうことがないため、保全モードで、点検、補修等を行っているときに、誤って巻取運転モードに切り換えてしまうのを防止することができる。
【0013】
第3の発明に係る糸巻取装置は、第1又は第2の発明に係る糸巻取装置において、前記動作部を複数有し、前記原点調整制御部は、これら複数の動作部についての動作原点位置の調整を、時間をずらして行うことを特徴とする。
【0014】
本発明によると、複数の動作部について、動作原点の調整を行う時間をずらすことで、動作範囲が重なるものについて、動作原点位置の調整時に干渉することが防止される。また、動作原点位置の調整を行う動作部の数が多い場合には、複数の動作部の動作原点位置の調整を時間をずらして行うことにより、急激な消費電力の上昇を抑えることができる。
【0015】
第4の発明に係る糸巻取装置は、第3の発明に係る糸巻取装置において、前記複数の動作部には、それらの動作範囲が重なるものが含まれることを特徴とする。
【0016】
本発明によると、複数の動作部について、動作原点位置の調整を行う時間をずらすことで、動作範囲が重なるものについて、動作原点位置の調整時に干渉することが防止される。
【0017】
第5の発明に係る液体吐出装置は、第1又は第2の発明に係る糸巻取装置において、前記駆動源は、ステッピングモータであり、前記原点調整制御部は、前記ステッピングモータによってステップ単位で前記動作部を動作させて、前記原点センサによって前記動作部が検出される範囲を検出し、検出された範囲の中央の位置を前記動作原点位置とすることを特徴とする。
【0018】
本発明によると、原点センサによって動作部が検出される範囲の中央の位置が動作原点位置となるため、動作部を適切に原点調整することができる。
【0019】
第6の発明に係る糸巻取装置は、第1〜第5のいずれかの発明に係る糸巻取装置において、装置への電源投入時にも、前記原点調整制御部は、前記動作部の動作原点位置の調整を行うことを特徴とする。
【0020】
電源投入前には、各動作部がずれていることがあるが、本発明によると、電源投入時に動作原点位置の調整が行われるため、電源投入後、動作部の原点が正しく調整された状態で、巻取を開始することができる。
【0021】
第7の発明に係る糸巻取装置は、第6の発明に係る糸巻取装置において、前記巻取運転モード選択時において、糸の巻取が一時的に中断してから再開する際に、前記原点センサによって前記動作部の動作原点位置がずれていることが検出された場合には、前記原点調整制御部は、前記動作部の動作原点位置の調整を行うことを特徴とする。
【0022】
糸継など、糸の巻き取りが一時的に中断されている間に、各動作部がずれていることがあるが、本発明によると、糸の巻き取りの再開前に、動作原点位置の調整が行われるため、動作部の動作原点位置が正しく調整された状態で、巻取を再開することができる。
【0023】
第8の発明に係る糸巻取装置は、第6の発明に係る糸巻取装置において、前記動作部は、給糸ボビン側の糸とパッケージ側の糸を繋ぐ糸継装置を含むことを特徴とする。
【0024】
第9の発明に係る糸巻取装置は、第8の発明に係る糸巻取装置において、前記動作部は、負圧源に接続されて前記給糸ボビン側の糸端を捕捉するとともに、捕捉した糸端を前記糸継装置へ案内する、第1糸端捕捉案内部材を含むことを特徴とする。
【0025】
第10の発明に係る糸巻取装置は、第9の発明に係る糸巻取装置において、前記動作部は、前記給糸ボビンの糸端を前記第1糸端補足案内部材により捕捉可能な位置まで案内する糸寄せ部材を含むことを特徴とする。
【0026】
第11の発明に係る糸巻取装置は、第8の発明に係る糸巻取装置において、前記動作部は、負圧源に接続されて前記パッケージ側の糸端を捕捉するとともに、捕捉した糸端を前記糸継装置へ案内する、第2糸端捕捉案内部材を含むことを特徴とする。
【0027】
第12の発明に係る糸巻取装置は、第11の発明に係る糸巻取装置において、前記動作部は、前記第2糸端捕捉案内部材と、前記負圧源との間を開閉するシャッターを含むことを特徴とする。
【0028】
第13の発明に係る糸巻取装置は、第6の発明に係る糸巻取装置において、前記動作部は、前記給糸ボビンを保持するボビン保持部を含むことを特徴とする。
【0029】
第14の発明に係る糸巻取装置は、第6の発明に係る糸巻取装置において、複数の前記給糸ボビンを収容するとともに、その中の1つを前記ボビン保持部に供給するマガジンカンをさらに備え、前記動作部は、前記マガジンカンと前記ボビン保持部の間において開閉可能に設けられて、前記マガジンカンの1つの前記給糸ボビンを前記ボビン保持部へ落下させる、開閉装置を含むことを特徴とする。
【0030】
第15の発明に係る糸巻取装置は、第6の発明に係る糸巻取装置において、前記動作部は、前記給糸ボビンが載せられたトレイを搬送するトレイ搬送装置であることを特徴とする。
【0031】
第16の発明に係る糸巻取装置は、第6の発明に係る糸巻取装置において、前記動作部は、前記給糸ボビンの端部に被せられて、前記給糸ボビンからの糸解舒に伴ってその軸方向に移動して、糸の解舒を補助する糸解舒補助装置であることを特徴とする。
【0032】
これらの発明によると、保全モードが選択された後、巻取運転モードが選択されて糸の巻取が開始される前に、糸巻取装置の動作部となる各構成部分の動作原点位置を調整することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、保全モードが選択された後、巻取運転モードが選択されて糸の巻取が開始される前に、無条件に動作部の動作原点位置の調整を行うことで、常に、動作部の動作原点位置が正しく調整された状態で、巻取を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施の形態に係る自動ワインダーの概略構成図である。
【図2】図1の自動ワインダーの動作を制御する制御部の機能ブロック図である。
【図3】自動ワインダーの動作を示すフローチャートである。
【図4】図3の巻取工程における動作を示すフローチャートである。
【図5】変形例1の図3相当の図である。
【図6】変形例2の図1相当の図である。
【図7】変形例2の図2相当の図である。
【図8】変形例3の図3相当の図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
次に、本発明の実施の形態について説明する。本実施形態は、給糸ボビンから解舒された糸を巻取管に巻取って巻取パッケージを形成する巻取ユニット(糸巻取装置)を多数備えた、自動ワインダーに本発明を適用した一例である。自動ワインダーは、1つのパッケージを形成する巻取ユニットが、一方向に多数列設された構成を有する。図1は、自動ワインダーの1つの巻取ユニットの側面図である。なお、図1において、右側を作業者が巻取ユニット1に対して作業を行う前側(正面側)、左側をその反対の後側(背面側)と定義する。
【0036】
図1に示すように、巻取ユニット1の各々は、ボビン供給装置2、ボビン支持部3、及び、糸巻取部4を備えている。また、巻取ユニット1の動作は、制御装置50によって制御されている。そして、巻取ユニット1は、ボビン供給装置2から供給された給糸ボビン8をボビン支持部3で保持しつつ、この給糸ボビン8から解舒される紡績糸Yをトラバースさせながら巻取管6に巻き付けて、所定形状のパッケージPを形成する。
【0037】
ボビン供給装置2は、芯管に糸が巻き付けられてなる筒状の給糸ボビン8を複数貯留するとともに、貯留している給糸ボビン8のうちの1つをボビン支持部3に供給する。詳細には、ボビン供給装置2は、複数の給糸ボビン8を収容する円柱状のマガジンカン10と、マガジンカン10に収容された給糸ボビン8の糸Yの糸端を吸引して保持する糸端保持部18と、マガジンカン10の下方に配置され、マガジンカン10に収容された複数の給糸ボビン8のうちの1つをボビン支持部3へ向けて案内しながら落下させるガイドシュート11と、ボビン支持部3に挿入された給糸ボビン8の糸Yを、後述する下糸捕捉案内部材25の吸引口25bの近傍まで案内する糸寄せレバー19を有する。なお、巻取ユニット1の機台7に、支持フレーム12が、例えばネジ止めによって、着脱可能に設けられており、マガジンカン10とガイドシュート11は、ボビン支持部3のペッグ16に向くように鉛直方向に対して前側にやや傾いた姿勢で、それぞれ支持フレーム12に取り付けられている。
【0038】
マガジンカン10には、周方向に配置されて、それぞれ給糸ボビン8が収容される複数のボビン収容孔13aが形成されている。また、マガジンカン10の下側には、複数のボビン収容孔13aにそれぞれ収容された複数の給糸ボビン8を受けるボビン受け板14が設けられており、ボビン受け板14には切欠部14aが形成されている。
【0039】
マガジンカン10は、ステッピングモータなどの位置制御可能な駆動源であるモータ61a(図2参照)を駆動させることによって、支持フレーム12に取り付けられた回動軸13を中心に回動させることができるようになっており、マガジンカン10が回動して、あるボビン収容孔13aが、切欠部14aの上方に位置したときに、そのボビン収容孔に収容された給糸ボビン8が、切欠部14aを介して、ガイドシュート11へ落下するように構成されている。
【0040】
ガイドシュート11は左右1対の開閉部材15を有し、開閉部材15が開放状態であるときに、マガジンカン10から落下してきた給糸ボビン8をボビン支持部3まで案内する。また、開閉部材が閉止状態であるときには、マガジンカン10からボビン支持部3への給糸ボビン8の落下が阻止される。ここで、開閉部材15は、マガジンカン15と駆動連結されており、マガジンカン10と同じモータ61a(図2参照)を駆動させることによって、解放状態と閉止状態とを切り換えることができるようになっている。
【0041】
また、本実施の形態では、センサ62a(図2参照)によって、開閉部材15の動作原点位置が適切であるか否かを検出することができるようになっている。より詳細に説明すると、開閉部材15の動作原点位置とは、例えば、開放状態よりも少し閉じた状態での開閉部材15の位置のことである。そして、例えば、センサ62aにより、上述の開放状態よりも少し閉じた状態において開閉部材15の特定部分に設けられたセンサ感応部が検出されるか否かによって、閉止部材15の動作原点位置が適切であるか否かを検出することができるようになっている。
【0042】
ここで、上記センサ感応部は、例えば、マグネットであり、センサ62aはマグネットを検出可能マグネットセンサである。なお、以下に出てくるセンサ62b〜62h、及び、センサ62b〜62hによって検出されるセンサ感応部も同様である。
【0043】
糸寄せレバー19は、マガジンカン10とガイドシュート11との間に配置されており、ステッピングモータなどの位置制御可能な駆動源であるモータ61b(図2参照)を駆動させることによって、上下方向に延びた回動軸19aを中心に回動させることができるようになっている。
【0044】
また、本実施の形態では、センサ62b(図2参照)によって、糸寄せレバー19の動作原点位置が適切であるか否かを検出することができるようになっている。より詳細に説明すると、糸寄せレバー19の動作原点位置とは、例えば、糸巻取時において糸寄せレバー19が待機する待機位置のことである。そして、例えば、センサ62bにより、この状態において糸寄せレバー19のセンサ感応部が検出されるか否かによって、糸寄せレバー19の動作原点位置が適切であるか否かを検出することができるようになっている。
【0045】
ボビン支持部3は、給糸ボビン8の芯管の下端部に挿入されることによって給糸ボビン8を保持するペッグ16と、ペッグ16に保持されている給糸ボビン8をボビン支持部3の外に排出する跳ね板17を有する。
【0046】
ペッグ16は、ステッピングモータなどの位置制御可能な駆動源であるモータ61c(図2参照)を駆動することによって、前後方向に揺動させることができるようになっており、ボビン供給装置2から給糸ボビン8が供給される際には、その先端部がガイドシュート11側を向くように前側に傾いた姿勢となり、糸Yの巻取時には、直立した姿勢となる。
【0047】
また、本実施の形態では、センサ62c(図2参照)によって、ペッグ16の動作原点位置が適切であるか否かを検出することができるようになっている。より詳細に説明すると、ペッグ16の動作原点位置とは、例えば、直立した姿勢の状態でのペッグ16の位置のことである。そして、例えば、センサ62cにより、この状態においてペッグ16のセンサ感応部が検出されるか否かによって、ペッグ16の動作原点位置が適切であるか否かを検出することができるようになっている。
【0048】
跳ね板17は、ペッグ16によって給糸ボビン8が直立状態で保持されているときには、図1に示す水平な状態で待機しており、このとき、跳ね板17には給糸ボビン8の下端が当接している。この状態から跳ね板17が前方に回動し、その上に載っている給糸ボビン8を前方へ跳ね飛ばすことによって、給糸ボビン8を排出する。なお、跳ね板17は、ペッグ16と同じモータ61c(図2参照)によって駆動される。
【0049】
ボビン支持部3と糸巻取部4との間の糸走行経路には、ボビン支持部3側から順に、糸解舒補助装置20、テンション付与装置21、糸継装置22、クリアラー23、ワキシング装置24が配設されている。
【0050】
糸解舒補助装置20は、給糸ボビン8の上端部に被せられる可動筒体31を、糸Yの解舒が進行するに従って下降させる(給糸ボビン8の軸方向に移動させる)ことで、解舒中の糸Yの膨らみ(バルーン)を規制し、これにより、解舒張力を安定させる。可動筒体31は、ステッピングモータなどの位置制御可能な駆動源であるモータ61d(図2参照)によって昇降させることができるようになっている。
【0051】
また、本実施の形態では、センサ62d(図2参照)によって、可動筒体31の動作原点位置が適切であるか否かを検出することができるようになっている。より詳細に説明すると、可動筒体31の動作原点位置とは、例えば、最大限上方まで移動させたときの可動筒体31の位置のことである。そして、例えば、センサ62dにより、この状態において可動筒体31のセンサ感応部が検出されるか否かによって、可動筒体31の動作原点位置が適切であるか否かを検出することができるようになっている。
【0052】
テンション付与装置21は、走行する糸Yに所定のテンションを付与するためのものである。このテンション付与装置21としては、例えば、固定櫛歯とこの固定櫛歯に対して移動可能に配設された可動櫛歯とを有する、ゲート式のものを使用できる。なお、本実施の形態では、テンション付与装置21については、他の動作部に比べて原点位置がずれにくいソレノイドを駆動源としているため、原点位置調整を行わないが、テンション付与装置21についても原点位置調整を行ってもよい。
【0053】
糸継装置22は、次述のクリアラー23が糸欠陥を検出して行う糸切断時、又は給糸ボビン8からの糸解舒中の糸切れ時に、給糸側の糸(下糸)と、巻取側の糸(上糸)とを糸継ぎするものである。この糸継装置22としては、例えば、上糸端と下糸端のそれぞれの撚り戻しを行う解撚ノズルと、解撚された両糸端に旋回空気流を作用させて撚り合わせを行う撚り掛けノズルとを有する、いわゆる、エア式の糸継装置(エアスプライサー)を使用できる。また、糸継装置22は、糸Yを導入するための糸導入レバー、糸Yを切断するためのカッター、及び、導入した糸Yを把持するためのクランプなどを備えている。
【0054】
また、糸継装置22は、ステッピングモータなどの位置制御可能な駆動源であるモータ61e(図2参照)によって、解撚ノズル及び撚り掛けノズルを移動させることができるようになっている。さらに、本実施の形態では、センサ62e(図2参照)によって、糸継装置22の糸導入レバー、カッター及びクランプの動作原点位置が適切であるか否かを検出することができるようになっている。より詳細に説明すると、糸導入レバー、カッター及びクランプの動作原点位置とは、例えば、待機状態での糸導入レバー、カッター及びクランプの位置のことであり、待機状態では、糸継装置20は、糸Yを導入して切断するために開放された状態となっている。そして、例えば、センサ62eにより、この状態において解撚ノズル及び撚り掛けノズルのセンサ感応部が検出されるか否かによって、解撚ノズル及び撚り掛けノズルの動作原点位置が適切であるか否かを検出することができるようになっている。
【0055】
クリアラー23はスラブ等の糸欠陥や、糸の有無を検出するためのものであって、糸欠陥検出時の糸切断用のカッター46(図2参照)が付設されている。そして、モータ63a(図2参照)によりカッター46を駆動することで、糸Yを切断することができるようになっている。ワキシング装置24は、糸Yにワックスを塗布するためのものである。
【0056】
糸継装置22の上下には、給糸ボビン8側の下糸を吸引捕捉して糸継装置22へ案内する下糸捕捉案内部材25(第1糸端補足案内部材)と、パッケージP側の上糸を吸引捕捉して糸継装置22へ案内する上糸捕捉案内部材26(第2糸端補足案内部材)が設けられている。
【0057】
上糸捕捉案内部材26はパイプ状に構成されており、ステッピングモータなどの位置制御可能な駆動源であるモータ61f(図2参照)を駆動することにより、軸26aを中心に上下回動させることができるようになっているとともに、その先端部にマウス26bが設けられている。さらに、上糸捕捉案内部材26には、負圧源66が接続されているとともに、その先端のマウス26bから空気を吸引して糸端を捕捉することができるようになっている。
【0058】
また、本実施の形態では、センサ62f(図2参照)によって、上糸捕捉案内部材26の動作原点位置が適切であるか否かを検出することができるようになっている。より詳細に説明すると、上糸捕捉案内部材26の動作原点位置とは、例えば、糸巻取時に上糸捕捉案内部材26が待機する、上糸捕捉案内部材26の回動範囲の下限の位置のことである。そして、例えば、センサ62fにより、この状態において上糸捕捉案内部材26のセンサ感応部が検出されるか否かによって、上糸捕捉案内部材26の動作原点位置が適切であるか否かを検出することができるようになっている。
【0059】
下糸捕捉案内部材25もパイプ状に構成されており、ステッピングモータなどの位置制御可能な駆動源であるモータ61g(図2参照)を駆動することにより、軸25aを中心に上下回動させることができるようになっているとともに、その先端部には吸引口25bが設けられている。さらに、下糸捕捉案内部材25には、負圧源66が接続されているとともに、その先端の吸引口25bから空気を吸引して糸端を捕捉することができるようになっている。
【0060】
また、給糸ボビン8の交換時に、マガジンカン10からペッグ16に給糸ボビン8が供給された後、図1に一点鎖線で示すように、下糸捕捉案内部材25を図1における前側の位置まで回動させた状態で、糸寄せレバー19を後側に回動させると、マガジンカン10(糸端吸引部18)とペッグ16との間の糸Yが糸寄せレバー19によって下糸捕捉案内部材25の吸引口25bの近傍まで案内される。これにより、当該糸Yは、吸引口25bから吸引されるとともに、下糸捕捉案内部材25により糸継装置22に案内される。
【0061】
また、本実施の形態では、センサ62g(図2参照)によって、下糸捕捉案内部材25の動作原点位置が適切であるか否かを検出することができるようになっている。より詳細に説明すると、下糸捕捉案内部材25の動作原点位置とは、例えば、糸巻取時に下糸捕捉案内部材25が待機する、下糸捕捉案内部材25の回動範囲の下限の位置のことである。そして、例えば、センサ62gにより、この状態において下糸捕捉案内部材25のセンサ感応部が検出されるか否かによって、下糸捕捉案内部材25の動作原点位置が適切であるか否かを検出することができるようになっている。
【0062】
上糸捕捉案内部材26と負圧源66との間には、シャッター68が設けられている。シャッター68は、ステッピングモータなどの位置制御可能な駆動源であるモータ61h(図2参照)を駆動することによって、上糸捕捉案内部材26と負圧源66との間を開閉する。
【0063】
また、本実施の形態では、センサ62h(図2参照)によって、シャッター68の動作原点位置が適切であるか否かを検出することができるようになっている。より詳細に説明すると、シャッター68の動作原点位置とは、例えば、上糸捕捉案内部材26と負圧源66との接続が遮断されている状態でのシャッター68の位置のことである。そして、例えば、センサ62hにより、この状態においてシャッター68のセンサ感応部が検出されるか否かによって、シャッター68、69の動作原点位置が適切であるか否かを検出することができるようになっている。
【0064】
糸巻取部4は、巻取管6を回転自在かつ着脱可能に支持する1対のクレードルアームを有するクレードル27と、クレードル27に支持された巻取管6の表面、又は、巻取管6に形成されたパッケージPの表面に接触可能な綾振ドラム28を備えている。そして、糸巻取部4は、綾振ドラム28が巻取管6(又は、パッケージPの表面)に接触した状態で、モータ63b(図2参照)により綾振ドラム28を回転駆動することで、糸Yを綾振りしながら巻取管6を従動回転(連れ回り)させて、巻取管6の外周にパッケージPを形成するように構成されている。
【0065】
また、機台7の正面側には、操作部35が設けられている。オペレータは、操作部35を操作して、巻取ユニット1の後述するモード(停止モード、巻取運転モード、保全モード)を切り換えることができる。
【0066】
次に、自動ワインダーの動作を制御する制御装置50について説明する。制御装置50は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などからなり、これらが、図2に示すように、巻取制御部51、異常検出部52、糸継制御部53、給糸制御部54、原点調整制御部55、モード選択部56などとして動作する。
【0067】
巻取制御部51は、巻取ユニット1において糸Yを巻き取る際に、綾振ドラム28を駆動するモータ63bなどの制御を行う。異常検出部52は、クリアラー23の検出結果にから糸欠点や糸切れが発生したことを検出する、センサ62a〜62hの検出結果から巻取ユニット1の各動作部の動作原点位置がずれたことを検出するなど、巻取ユニット1において異常が発生したことを検出する。また、異常検出部52は、異常が発生したことを検出した場合には、例えば、図示しない表示ランプを点灯させる、図示しないアラームを鳴らすなどして、オペレータに異常が発生したことを知らせる。
【0068】
糸継制御部53は、巻取ユニット1において糸継を行う際の、糸継装置22、下糸捕捉案内部材25、上糸捕捉案内部材26、カッター46、糸寄せレバー19など(具体的にはこれらを駆動するモータ61b、61e〜61gなど)の動作を制御する。給糸制御部54は、ボビン支持部3の給糸ボビン8が交換されるときに、マガジンカン10、開閉部材15、ペッグ16、跳ね板17など(具体的にはこれらを駆動するモータ61a〜61cなど)の動作を制御する。
【0069】
原点調整制御部55は、後述する動作原点位置の調整時に、センサ62a〜62hの検出結果に基づいて、モータ61a〜61hなどの動作を制御して、開閉部材15、糸寄せレバー19、ペッグ16、可動筒体31、糸継装置22、上糸捕捉案内部材26、下糸捕捉案内部材25、及び、シャッター68の動作原点位置の調整を行う。なお、本実施の形態では、開閉部材15、糸寄せレバー19、ペッグ16、可動筒体31、糸継装置22、上糸捕捉案内部材26、下糸捕捉案内部材25、及び、シャッター68が、それぞれ、本発明に係る動作部に相当する。
【0070】
モード選択部56は、巻取ユニット1の動作モードを切り換える。より詳細に説明すると、巻取ユニット1は、停止モード、巻取運転モード及び保全モードのいずれかのモードで選択的に動作可能であり、オペレータが、自動ワインダーの操作部35を、停止指示状態、運転指示状態及び保全指示状態に切換操作することによって、停止モード、巻取運転モード及び保全モードを選択することができるようになっている。また、モードの選択は、巻取ユニット1毎に個別に行うことができる。
【0071】
停止モードは、糸Yの巻取を停止するモードである。巻取運転モードは、糸Yを巻き取ってパッケージPを形成するモードであり、停止モードとの間で切換可能となっている。保全モードは、必要な修理、点検などを行うためのモードであり、巻取運転モードへの切換ができないようにロックされ、停止モードとの間で切換可能となっている。
【0072】
次に、自動ワインダーの動作について図3、図4のフローチャートを用いて説明する。図3のフローチャートは、自動ワインダーの電源がオンとなったとき(電源投入されたとき)に開始され、電源がオフとなったときに終了する。
【0073】
自動ワインダーの電源がオンとなると、入電が確認される(ステップS101:NO、以下、単にS101などとする)まで待機する。そして、入電が確認されると(S101:YES)、停止モード及び巻取運転モードのいずれかである場合(S102:NO)、全ての巻取ユニット1において、マガジンカン10、開閉部材15、糸寄せレバー19、ペッグ16、可動筒体31、糸継装置22、上糸捕捉案内部材26、下糸捕捉案内部材25、及び、シャッター68の動作原点位置の調整が行われる(S103)。なお、動作原点位置の調整の具体的な方法については後述する。
【0074】
そして、動作原点位置の調整が完了した後、停止モードの場合(S104:NO)には、後述のS111、S112に進む。一方、巻取運転モードの場合には(S104:YES)、巻取を開始させ(S105)、巻取が開始された後には、巻取を継続するための後述する巻取継続動作を実行させる(S106)。そして、巻取運転モードから停止モードに切り換えられるまで(S107:NO)、巻取継続動作を繰り返し実行させ、停止モードに切り換えられたときに(S107:YES)、巻取を停止させて(S108)、後述のS111、S112に進む。
【0075】
S106の巻取径継続動作では、図4に示すように、クリアラー23により糸切れが検出されるか否かを判断する(S201)。ここで、クリアラー23により糸切れが検出されるのは、例えば、糸が張力で切れた場合、糸欠点が検出されて、カッター46により糸Yの糸欠点のある部分が切断された場合、ボビンBの糸がなくなった場合などである。そして、糸切れが検出されないときには(S201:NO)、S107に進む。
【0076】
一方、糸切れが検出された場合には(S201:YES)、糸Yの巻取を停止させる(S202)。続いて、センサ62a〜62hの検出結果から、開閉部材15、糸寄せレバー19、ペッグ16、可動筒体31、糸継装置22、上糸捕捉案内部材26、下糸捕捉案内部材25、及び、シャッター68のいずれかの動作原点位置にずれがあるか否かが判断される(S203)。
【0077】
そして、動作原点位置にずれがある場合には(S203:YES)、ずれが検出された動作部について動作原点位置の調整を行ってから(S204)、S205に進む。一方、開閉部材15、糸寄せレバー19、ペッグ16、可動筒体31、糸継装置22、上糸捕捉案内部材26、下糸捕捉案内部材25、及び、シャッター68のいずれにおいても動作原点位置にずれがない場合には(S203:NO)、動作原点位置の調整を行わず、そのまま、S205に進む。
【0078】
S205では、図示しない下糸センサにより、給糸ボビン8側の糸Y(下糸)の有無を判断する。そして、下糸がある場合(S205:YES)、つまり、糸Yが張力によって切れた場合又は糸欠点が検出されて糸Yが切断された場合には、そのまま、糸継を開始する(S207)。また、下糸がない場合(S205:NO)、つまり、給糸ボビン8の糸Yがなくなった場合には、給糸ボビン8を交換してから(S206)、糸継を開始する(S207)。そして、糸継の完了後、糸Yの巻取を再開して(S209)、S107に進む。
【0079】
一方、入電が確認されたときに(S101:YES)、保全モードとなっている場合には(S102:YES)、必要な点検、補修などが行われて停止モードに切り換えられるまで待機し(S109:NO)、点検、補修などの完了後、停止モードに切り換えられたときに(S109:YES)、全ての巻取ユニット1において、マガジンカン10、開閉部材15、糸寄せレバー19、ペッグ16、可動筒体31、糸継装置22、上糸捕捉案内部材26、下糸捕捉案内部材25、及び、シャッター68の動作原点位置の調整が行われ(S110)、動作原点位置の調整後、S111、S112に進む。
【0080】
S111、S112では、停止モードから保全モード及び巻取運転モードのいずれかに切り換えられるまで待機し(S111:NO、S112:NO)、保全モードに切り換えられたときに(S111:YES)、S109に進む。また、巻取運転モードに切り換えられたときに(S111:NO、S112:YES)、S105に進む。
【0081】
次に、上記S103、S110の動作原点位置の調整の方法について説明する。なお、上記S103の動作原点位置の調整と、上記S110の動作原点位置の調整とは、全ての巻取ユニット1において行うか、1つの巻取ユニット1において行うかは異なっているが、動作原点位置の調整の方法自体は、どちらも同じである。
【0082】
動作原点位置の調整を行うためには、モータ61a〜61hをそれぞれ1〜3ステップ単位で動作させることによって、各動作部の特定部分がセンサ62a〜62hにより検出される範囲をそれぞれ検出する。そして、検出された範囲の中央の位置に特定部分がくるように、各動作部の位置を調整する。これにより、各動作部が、センサ62a〜62hにより検出される範囲の中央の位置に調整されるため、動作原点位置の調整を精度よく行うことができる。
【0083】
このとき、開閉部材15、糸寄せレバー19、ペッグ16、可動筒体31、糸継装置22、上糸捕捉案内部材26、下糸捕捉案内部材25、及び、シャッター68の動作原点位置の調整は、一斉には行わず、各動作部の動作原点位置の調整を時間をずらして行う。
【0084】
例えば、まず、最初にシャッター68の動作原点位置の調整を行う。そして、シャッター68の動作原点位置の調整が完了した後、所定時間(例えば2秒)が経過してから、糸継装置22及び開閉部材15の動作原点位置の調整を行う。このとき、開閉部材15の動作原点位置の調整が完了した後、続けて、ペッグ16の位置合わせを行う。そして、糸継装置22、開閉部材15及びペッグ16の動作原点位置の調整が全て完了した後、所定時間(例えば5秒)が経過してから、下糸捕捉案内部材25及び糸寄せレバー19の動作原点位置合わせを行う。このとき、下糸捕捉案内部材25の動作原点位置の調整が完了した後、続いて、上糸捕捉案内部材26の動作原点位置の調整を行う。そして、下糸捕捉案内部材25、糸寄せレバー19及び上糸捕捉案内部材26の動作原点位置の調整が全て完了した後、所定時間(例えば10秒)が経過してから、最後に、可動筒体31の動作原点位置の調整を行う。
【0085】
ここで、巻取ユニット1においては、保全モードにおいて、巻取ユニット1の各部分の点検、補修等を行う際に、オペレータが巻取ユニット1の各動作部に触れるなどして、巻取ユニット1の各動作部の動作原点位置がずれてしまうことがある。一方、センサ62a〜62hのようなマグネットセンサは、通常、検出範囲に幅を有している。そのため、動作原点位置が大きくずれた場合には、動作原点位置がずれたことを検出することができるが、動作原点位置のずれが検出範囲内の小さなものである場合には、動作原点位置のずれを検出することができない。そして、仮に、このような小さな動作原点位置のずれが生じた状態で糸Yの巻取を再開すると、糸Yの巻取に何らかの影響を与えてしまう虞がある。
【0086】
これに対して、本実施の形態では、上述したように、保全モードから停止モードに切り換えられ、さらに巻取運転モードに切り換えられたときに、無条件に、動作原点位置の調整を行ってから糸Yの巻取を開始させるため、各動作部の動作原点位置が正しく調整された状態で糸Yの巻取を再開することができる。
【0087】
さらに、本実施の形態では、電源がオンになったときにも巻取ユニット1の各動作部の動作原点位置の調整が行われるため、電源がオンにされた後、保全モードに切り換えられることなく、巻取運転モードに切り換えられたときにも、各動作部の動作原点位置が正しく調整された状態で巻取を開始することができる。
【0088】
また、糸継前には、糸の巻取が一時中断されるため、この際に、オペレータが巻取ユニット1の動作部に触れるなどして、これらの動作原点位置がずれてしまうことがある。ただし、糸Yの巻取が一時中断されてから糸継が開始されるまでの時間はそれほど長くはないため、この間にオペレータが巻取ユニット1の動作部に触れてしまう可能性は、点検、補修などが行われる保全モードにおいて、オペレータが巻取ユニット1の動作部に触れてしまう可能性に比べれば、それほど高いものではない。そのため、糸継前に無条件に動作原点位置の調整を行うと、糸Yの巻取が一時中断されてから再開されるまでの時間が長くなってしまい、巻取ユニット1の運転効率が悪くなってしまう。
【0089】
そこで、本実施の形態では、S203において、センサ62a〜62hにより動作原点位置のずれが検出された場合にのみ、S204で糸継前に動作原点位置の調整を行う。これにより、糸継前に動作原点位置が大きくずれた場合には、各動作部の動作原点位置が正しく調整された状態で糸継、及び、糸Yの巻取を再開することができるとともに、巻取ユニット1の運転効率がそれほど悪くなることもない。
【0090】
また、本実施の形態では、開閉部材15とペッグ16(ペッグ16に保持された給糸ボビン8)の動作範囲が重なるが、開閉部材15の動作原点位置の調整が完了した後に、ペッグ16の動作原点位置の調整を行っているため、動作原点位置の調整を行う際に、ペッグ16に保持された給糸ボビン8が開閉部材15に干渉してしまうことを防止することができる。
【0091】
また、本実施の形態では、下糸捕捉案内部材25と上糸捕捉案内部材26の動作範囲が重なるが、下糸捕捉案内部材25の動作原点位置の調整が完了してから上糸捕捉案内部材26の動作原点位置の調整を行っているため、動作原点位置の調整を行う際に、下糸捕捉案内部材25と上糸捕捉案内部材26とが干渉してしまうのを防止することができる。
【0092】
また、仮に、全ての動作部(巻取ユニット1のマガジンカン10、開閉部材15、糸寄せレバー19、ペッグ16、可動筒体31、糸継装置22、上糸捕捉案内部材26、下糸捕捉案内部材25、及び、シャッター68、69)の動作原点位置の調整を一斉に行うと、巻取ユニット1の消費電力が急激に上昇してしまう。特に、上記S101で、全ての巻取ユニット1において、全て動作部の動作原点位置の調整を一斉に行うと、複数の巻取ユニット1を備えた自動ワインダーの消費電力がきわめて急激に上昇してしまう。これに対して、本実施の形態では、上述のように、巻取ユニット1の各動作部の動作原点位置の調整を時間をずらして順に行うことにより、上述したような消費電力の急激な上昇を抑えることができる。
【0093】
また、本実施の形態では、停止モードを介してのみ巻取運転モード保全モードとの間での切換が可能となっており、保全モードから直接巻取運転モードに切り換えられてしまうことがないため、保全モードで、点検、補修等を行っているときに、誤って巻取運転モードに切り換えてしまうのを防止することができる。
【0094】
次に、本実施の形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。ただし、本実施の形態と同様の構成については適宜その説明を省略する。
【0095】
上述の実施の形態では、糸継前に、センサ62a〜62hにより動作原点位置のずれが生じている場合にのみ、動作原点位置の調整を行っていたが、糸継前に無条件に動作原点位置の調整を行ってもよい。この場合には、巻取ユニット1の運転効率は悪くなってしまうものの、糸継前に動作原点位置がセンサ62a〜62hの検出範囲内でずれた場合にも、各動作部の動作原点位置が正しく調整された状態で糸継、及び、糸Yの巻取を行うことができる。
【0096】
あるいは、糸継前に動作原点位置の調整が行われなくてもよい。上述したように、糸継前に巻取ユニット1の各動作部の動作原点位置がずれる可能性はそれほど高くはないため、この場合でも、以降の糸Yの巻取において問題が発生することは少ない。
【0097】
また、上述の実施の形態では、電源がオンになった直後に、全ての巻取ユニット1において動作原点位置の調整が行われていたが、電源がオンになった直後の動作原点位置の調整は行われなくてもよい。この場合でも、例えば、電源がオンになったときには必ず保全モードとなるようにすれば、その後、停止モードに切り換えられ、さらに巻取運転モードに切り換えられたときに、原点位置調整が行われるため、各動作部の動作原点位置が適切に調整された状態で糸Yの巻取を行うことができる。
【0098】
また、巻取ユニット1の各動作部の動作原点位置の調整の順序は、上述の実施の形態のものには限られず、消費電力、各動作部の動作範囲などを考慮して適宜変更することが可能である。
【0099】
また、上述の実施の形態では、巻取ユニット1の複数の構成部分の動作原点位置の調整を一斉には行わず、時間をずらして順に行うようにしたが、全ての構成部分の動作原点位置の調整を一斉に行ってもよい。この場合でも、例えば、開閉部材15とペッグ16と、及び、下糸捕捉案内部材25及び上糸捕捉案内部材26を、それぞれ、互いの動作範囲の重なる位置に、異なるタイミングで移動してくるように制御するなどすれば、これらの動作原点位置の調整を同時に行うことが可能である。また、例えば、巻取ユニット1における各動作部の消費電力の合計がそれほど多くない場合や、自動ワインダーの巻取ユニット1の数が少ない場合などには、全ての巻取ユニット1の動作原点位置の調整を一斉に行っても、消費電力がそれほど急激に上昇することはない。
【0100】
また、上述の実施の形態では、制御装置50の各制御部51、53、55が、直接モータ61a〜61h、63a、63bの動作を制御していたが、これには限られない。例えば、図5に示すように、制御装置50とは別に、綾振ドラム28を回転させるモータ63bの制御を行うための、ドライバ71が設けられており、このドライバ71が、巻取制御部51からの制御信号を受けて、モータ63bの制御を行うように構成されていてもよい(変形例1)。また、モータ61a〜61h、63aについても、制御装置50とは別に設けられたドライバによってその動作が制御されるように構成されていてもよい。
【0101】
また、上述の実施の形態では、巻取ユニット1において、マガジンカン10、ボビンシュート11、糸寄せレバー19などを備えたボビン供給装置2と、ペッグ16、跳ね板17などを備えたボビン支持部3が設けられていることにより、巻取ユニット1への給糸ボビン8の供給、糸Yのなくなった給糸ボビン8(芯管)の排出が可能となっていたが、これには限られない。
【0102】
一変形例(変形例2)では、図6に示すように、巻取ユニット1の下端部に、ボビン通路101が設けられている。ボビン通路101は、一方の端(図6における左側の端)においてボビン供給路102と接続されているともに、他方の端(図6における右側の端)においてボビン排出路103と接続されている。
【0103】
そして、ボビン通路101には、ボビン供給路102からトレイTが供給される。トレイTは、給糸ボビン8を下方から支持するとともに、当該給糸ボビン8を直立した姿勢に保持する。また、ボビン通路101には、トレイ搬送装置104が設けられており、トレイ搬送装置104は、糸Yがなくなった給糸ボビン8(芯管)を支持するトレイTを、ボビン排出路103に搬送し、これと同時に、ボビン供給路102から供給されたトレイTを、可動筒体31のほぼ真下の位置まで移動させる。これにより、巻取ユニット1への給糸ボビン8の供給、及び、糸Yのなくなった給糸ボビン8の排出が行われる。
【0104】
また、トレイ搬送装置104は、巻取作業位置(可動筒体31のほぼ真下)へのトレイTの導入、巻取作業位置におけるトレイTの保持、巻取作業位置からのトレイTの排出を行うための揺動板を備えている。揺動板は、図7に示すように、ステッピングモータなどの位置制御可能な駆動源であるモータ61iによって駆動される。さらに、当該変形例では、図7に示すように、センサ62iによって、トレイ搬送装置104の動作原点位置が適切であるか否かを検出することができるようになっている。より詳細に説明すると、トレイ搬送装置104の動作原点位置とは、例えば、トレイTが巻取作業位置にきた状態でのトレイ搬送装置104の位置のことである。そして、例えば、センサ62iにより、この状態においてトレイ搬送装置104の特定部分が検出されるか否かによって、トレイ搬送装置104の動作原点位置が適切であるか否かを検出することができるようになっている。
【0105】
そして、本変形例においても、保全モードから停止モードに切り換えられ、さらに巻取運転モードに切り換えられたとき、巻取ユニットの電源がオンになったとき、糸継前に動作原点位置のずれが検出されたときなどに、動作原点位置の調整を行う。ただし、本変形例では、マガジンカン10、開閉部材15、ペッグ16及び糸寄せレバー19(図1参照)の動作原点位置の調整を行う代わりに、トレイ搬送装置104の動作原点位置の調整を行う。すなわち、本変形例では、マガジンカン10、開閉部材15、ペッグ16及び糸寄せレバー19(図1参照)に代わって、トレイ搬送装置104が、本発明に係る動作部となっている。
【0106】
また、巻取ユニット1は、動作原点位置の調整が可能な動作部として、以上に説明した構成に加えて、あるいは、以上に説明した構成の代わりに、別の動作部を備えていてもよい。また、巻取ユニット1は、動作原点位置の調整が可能な動作部を複数有していることには限られず、少なくとも1つの動作部を有するものであればよい。
【0107】
また、上述の実施の形態では、保全モードから停止モードに切り換えられた後、さらに巻取運転モードに切り換えられたときに、原点位置調整を行ったが、これには限られない。例えば、保全モードから停止モードに切り換えられたときに、原点位置調整を行ってもよい。
【0108】
また、上述の実施の形態では、巻取ユニット1において、停止モード、巻取運転モード及び保全モードの3つのモードが選択可能であったが、上記3つのモード以外にさらに別のモードが選択可能となっていてもよい。
【0109】
あるいは、巻取運転モード及び保全モードの2つのモードのみが選択可能であってもよい。例えば、別の一変形例(変形例3)では、図8に示すように、自動ワインダーの電源がオンとなると、上述の実施の形態と同様、入電が確認されると(S301:YES)、
巻取運転モードである場合には(S302:NO)、上述のS103と同様、全ての巻取ユニット1において、マガジンカン10、開閉部材15、糸寄せレバー19、ペッグ16、可動筒体31、糸継装置22、上糸捕捉案内部材26、下糸捕捉案内部材25、及び、シャッター68の動作原点位置の調整が行われる(S303)。一方、保全モードである場合には(S302:YES)、必要な点検、補修などが行われて巻取運転モードに切り換えられるまで待機し(S304:NO)、点検、補修などの完了後、保全モードから巻取運転モードに切り換えられたときに(S304:YES)、上記動作原点位置の調整が行われる(S303)。
【0110】
そして、動作原点位置の調整が完了した後、巻取を開始させ(S305)、巻取が開始された後には、上述のS106と同様の巻取継続動作を実行させる(S306)。そして、巻取運転モードから保全モードに切り換えられるまで(S307:NO)、巻取継続動作を繰り返し実行させ、保全モードに切り換えられたときに(S307:YES)、巻取を停止させて(S308)、上記S304に進む。
【0111】
また、上述の実施の形態では、綾振ドラム28により糸Yのトラバースが行われるようになっていたが、これには限られず、例えば、アームを揺動させることによって糸をトラバースさせる、いわゆるアーム式の綾振装置(特開2011−126639号等参照)など、別の綾振装置によって糸Yのトラバースが行われるようになっていてもよい。
【0112】
また、以上では、給糸ボビンから供給された糸を巻取管に巻き取ってパッケージを形成する自動ワインダーに本発明を適用した例について説明したが、紡績部において紡績された糸をボビンに巻き取る糸巻取装置など、自動ワインダー以外の糸巻取装置に本発明を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0113】
1 巻取ユニット
8 給糸ボビン
10 マガジンカン
15 開閉部材
16 ペッグ
19 糸寄せレバー
20 糸継装置
25 下糸捕捉案内部材
26 上糸捕捉案内部材
31 可動筒体
66、67 負圧源
68、69 シャッター
50 制御装置
56 モード選択部
61a〜61k モータ
62a〜62k センサ
104 トレイ搬送装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
給糸ボビンから解舒された糸を巻取ってパッケージを形成する糸巻取装置であって、
駆動源からの駆動力を受けて動作する少なくとも1つの動作部と、
前記動作部の動作原点位置を検出する原点センサと、
前記動作部を制御する制御装置と、
前記動作部を動作させることによって糸を巻取る巻取運転モードと、保全のために前記動作部を停止させる保全モードの、少なくとも2つのモードから1つのモードを選択して、前記制御装置に実行させる、モード選択部と、を有し、
前記制御装置は、前記動作部の動作原点位置の調整を行う原点調整制御部を備え、
前記原点調整制御部は、
前記モード選択部により前記保全モードが選択された後、前記モード選択部により他のモードが選択されて糸の巻取が開始される前に、原点センサを用いて前記動作部の動作原点位置の調整を行うことを特徴とする糸巻取装置。
【請求項2】
前記モード選択部は、
糸の巻取を停止させる停止モードをさらに選択できるようになっており、
前記巻取運転モードと前記保全モードとの間でのモードの切換は、前記停止モードを介してのみ可能となっており、
前記原点調整制御部は、
前記モード選択部により、前記保全モードから前記停止モードに切り換えられたとき、あるいは、この後、さらに前記巻取運転モードに切り換えられたときに、原点センサを用いて前記動作部の動作原点位置の調整を行うことを特徴とする請求項1に記載の糸巻取装置。
【請求項3】
前記動作部を複数有し、
前記原点調整制御部は、これら複数の動作部についての動作原点位置の調整を、時間をずらして行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の糸巻取装置。
【請求項4】
前記複数の動作部には、それらの動作範囲が重なるものが含まれることを特徴とする請求項3に記載の糸巻取装置。
【請求項5】
前記駆動源は、ステッピングモータであり、
前記原点調整制御部は、
前記ステッピングモータによってステップ単位で前記動作部を動作させて、前記原点センサによって前記動作部が検出される範囲を検出し、検出された範囲の中央の位置を前記動作原点位置とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の糸巻取装置。
【請求項6】
装置への電源投入時にも、前記原点調整制御部は、前記動作部の動作原点位置の調整を行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の糸巻取装置。
【請求項7】
前記巻取運転モード選択時において、糸の巻取が一時的に中断してから再開する際に、前記原点センサによって前記動作部の動作原点位置がずれていることが検出された場合には、前記原点調整制御部は、前記動作部の動作原点位置の調整を行うことを特徴とする請求項6に記載の糸巻取装置。
【請求項8】
前記動作部は、給糸ボビン側の糸とパッケージ側の糸を繋ぐ糸継装置を含むことを特徴とする請求項6に記載の糸巻取装置。
【請求項9】
前記動作部は、負圧源に接続されて前記給糸ボビン側の糸端を捕捉するとともに、捕捉した糸端を前記糸継装置へ案内する、第1糸端捕捉案内部材を含むことを特徴とする請求項8に記載の糸巻取装置。
【請求項10】
前記動作部は、前記給糸ボビンの糸端を前記第1糸端補足案内部材により捕捉可能な位置まで案内する糸寄せ部材を含むことを特徴とする請求項9に記載の糸巻取装置。
【請求項11】
前記動作部は、負圧源に接続されて前記パッケージ側の糸端を捕捉するとともに、捕捉した糸端を前記糸継装置へ案内する、第2糸端捕捉案内部材を含むことを特徴とする請求項8に記載の糸巻取装置。
【請求項12】
前記動作部は、前記第2糸端捕捉案内部材と、前記負圧源との間を開閉するシャッターを含むことを特徴とする請求項11に記載の糸巻取装置。
【請求項13】
前記動作部は、前記給糸ボビンを保持するボビン保持部を含むことを特徴とする請求項6に記載の糸巻取装置。
【請求項14】
複数の前記給糸ボビンを収容するとともに、その中の1つを前記ボビン保持部に供給するマガジンカンをさらに備え、
前記動作部は、前記マガジンカンと前記ボビン保持部の間において開閉可能に設けられて、前記マガジンカンの1つの前記給糸ボビンを前記ボビン保持部へ落下させる、開閉装置を含むことを特徴とする請求項6に記載の糸巻取装置。
【請求項15】
前記動作部は、前記給糸ボビンが載せられたトレイを搬送するトレイ搬送装置であることを特徴とする請求項6に記載の糸巻取装置。
【請求項16】
前記動作部は、前記給糸ボビンの端部に被せられて、前記給糸ボビンからの糸解舒に伴ってその軸方向に移動して、糸の解舒を補助する糸解舒補助装置であることを特徴とする請求項6に記載の糸巻取装置。
【請求項17】
駆動源からの駆動力を受けて動作する少なくとも1つの動作部と、前記動作部の動作原点位置を検出する原点センサとを備え、前記動作部を動作させることによって、給糸ボビンから解舒された糸を巻取ってパッケージを形成する巻取運転モードと、保全のために前記動作部を停止させる保全モードの、少なくとも2つのモードのうちいずれか1つのモードで選択的に動作する糸巻取装置において、前記動作部の動作原点位置の調整を行う動作原点位置調整方法であって、
前記保全モードが選択された後、他のモードが選択されて糸の巻取が開始される前に、前記原点センサを用いて前記動作部の動作原点位置の調整を行うことを特徴とする動作原点位置調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−79147(P2013−79147A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−109416(P2012−109416)
【出願日】平成24年5月11日(2012.5.11)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】