説明

糸巻型フィルタ及び水処理方法

【課題】水が繊維の巻回体層を偏りなく透過し、しかも巻回体層の水の透過量を十分に確保することができる糸巻型フィルタと、この糸巻型フィルタを用いた水処理方法とを提供する。
【解決手段】糸巻型フィルタ1は、水透過性の筒体2と、この筒体2の外周に巻回された繊維の巻回体層3とを備えている。巻回体層3は、相当直径1〜1000nmの単繊維を複数本、撚りをかけて集束して1次繊維束とし、この1次繊維束をさらに通算n回(nは2以上の整数)集束してn次繊維束としたものである。単繊維は、カチオン交換基、アニオン交換基及びキレート基の少なくとも1種が付与されていることが好ましく、これにより糸巻型フィルタにイオン除去性能が付与される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水、水溶液、有機溶媒等の液体の処理に用いられる糸巻型フィルタと、この糸巻型フィルタを用いた水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体の濾過処理に用いられる糸巻型フィルタとして、多数の孔が開いた筒体の外周にイオン交換繊維を巻回したものが特開昭63−315109及び特開平7−47242に記載されている。
【0003】
前者の特開昭63−315109の第3頁右上欄には、イオン交換糸を補強糸と束ねて巻くことにより、イオン交換性フィルタの強度が高くなることが記載されている。
【0004】
後者の特開平7−47242には、イオン交換繊維を筒体に巻き付けるとだけ記載されており、イオン交換繊維を集束させて巻回することについての記載はない。
【特許文献1】特開昭63−315109
【特許文献2】特開平7−47242
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
イオン交換繊維の単繊維をそのまま筒体に巻回したのでは、繊維の巻回体が緻密になり、水の透過性に不足するようになるか、逆に局部的に大きな隙間が生じ、水がこの隙間に集中して短絡的に流れるようになり、十分な濾過性能を得ることができないことが多い。
【0006】
イオン交換繊維を撚りをかけながら集束した1次繊維束を巻回した場合には、この傾向は若干は緩和されるものの、不十分である。
【0007】
本発明は、上記従来の問題点を解決し、水が繊維の巻回体層を偏りなく透過し、しかも巻回体層の水の透過量を十分に確保することができる糸巻型フィルタと、この糸巻型フィルタを用いた水処理方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の糸巻型フィルタは、透液性の筒壁を有した筒体の外周に繊維を巻回してなる糸巻型フィルタにおいて、相当直径1〜1000nmの複数本の単繊維を撚りをかけて集束して一次繊維束を形成し複数本の一次繊維束を通算n回(nは2以上の整数)集束して形成したn次繊維束からなる複次繊維束を前記筒体に巻回したことを特徴とするものである。
本発明では、(n−1)次繊維束を集束してn次繊維を形成することをn回目の集束と呼ぶ。
【0009】
請求項2の糸巻型フィルタは、請求項1において、前記複次繊維束の直径が1〜20mmであることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3の糸巻型フィルタは、請求項1又は2において、nが2〜10の整数であることを特徴とするものである。
【0011】
請求項4の糸巻型フィルタは、請求項3において、通算m回目の集束によって形成したm次繊維束(mは2〜nの整数の少なくとも1つ)は、(m−1)次の繊維束を撚りをかけて集束したものであることを特徴とするものである。
【0012】
請求項5の糸巻型フィルタは、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記複次繊維束の巻回厚が2〜100mmであることを特徴とするものである。
【0013】
請求項6の糸巻型フィルタは、請求項1ないし5のいずれか1項において、アニオン交換基、カチオン交換基、及びキレート基からなる群の少なくとも1種の官能基が前記単繊維に付与されていることを特徴とするものである。
【0014】
請求項7の水処理方法は、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の糸巻型イオン交換フィルタに被処理水を透過させることにより処理水を得ることを特徴とするものである。
【0015】
請求項8の水処理方法は、請求項7において、被処理水が金属イオン濃度0.5〜5ng/Lの超純水であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の糸巻型フィルタにあっては、相当直径1〜1000nmの細い単繊維を撚りをかけて集束して1次繊維束とし、この繊維束をさらに通算n回(nは2以上の整数)集束してn次繊維束からなる複次繊維束とし、この複次繊維束を透過性筒体の外周に巻回している。
【0017】
かかる糸巻型フィルタの繊維束巻回体層は、単繊維同士が撚られた繊維束を巻回して形成したものであり、単繊維同士の間に微小な隙間が存在する。
【0018】
そして、この1次繊維束をさらに集束して複次繊維束としているので、繊維束同士の間にも隙間が存在する。このような単繊維間の隙間及び繊維束間の隙間は、繊維束巻回体層の全体に均等に分布して存在するので、本発明の糸巻型フィルタでは、水が濾過層(繊維束巻回体層)の全体を満遍なく透過するようになり、十分に濾過流量を確保しつつ、水質の良い濾過水を得ることができるようになる。
【0019】
なお、(n−1)次繊維束をさらに集束してn次繊維束を形成するときに、(n−1)次繊維束を撚りをかけて集束することにより、複次繊維束同士の間にも隙間が形成され、この隙間が濾過層の全体に均等に分布して存在するようになるので、透過水量を多くし、濾過水質を高めることができる。
【0020】
また、複次繊維束を筒体に巻回する場合、1次繊維束を筒体に巻回する場合に比べて巻回作業を短時間で行うことができ、糸巻型フィルタの製造効率が良い。ただし、過度に高次に集束すると、複次繊維束の径が過大となるので、巻回される複次繊維束の直径は10mm以下が好ましく、集束回数は通算10回以下が好ましい。
【0021】
巻回体の層厚は、過大であると圧損が大きくなり、過小であると濾過性能が低下するので、2〜100mm程度が好適である。
【0022】
上記の単繊維にアニオン交換基、カチオン交換基又はキレート基を付与することにより、糸巻型フィルタにイオン交換性能が付与される。
【0023】
本発明の糸巻型フィルタは、超純水などの製造に用いるのに好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明について詳細に説明する。第1図は実施の形態に係る糸巻型フィルタの筒軸と垂直方向の断面図である。
【0025】
この糸巻型フィルタ1は、水透過性の筒体2と、この筒体2の外周に巻回された繊維の巻回体層3とを備えている。
【0026】
筒体2は円筒状であり、直径1〜100mm程度の小孔2aを開口率30〜99%、特に50〜80%程度となるように設けたものである。なお、筒体2を多孔質の金属又はセラミックス焼結体のように透水性材料にて構成し、小孔2aを省略してもよい。
【0027】
筒体2の内径は10〜100mm程度が好適であるが、これに限定されない。筒体2の肉厚は1〜10mm程度が好適であるが、これに限定されない。
【0028】
なお、筒体2の長手方向の両端にフランジを設けてもよい。
【0029】
繊維の巻回体層3の外周及び/又は内周にさらに別の濾材が巻回されてもよい。巻回体層3を取り巻くように外筒が配置され、この外筒が上記フランジに連結されてもよい。フランジや外筒を連結する場合、接着剤を使用すると、成分の溶出のおそれがあるので、これらを熱融着性材料にて構成し、熱融着によって接合するのが好ましい。熱融着性材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、EVA、ポリウレタン、アクリルなどが例示されるが、これらに限定されない。
【0030】
[繊維及び繊維束の説明]
次に、巻回体層3を構成する繊維及び繊維束について説明する。
【0031】
巻回体層3は、相当直径1〜1000nmの単繊維を複数本、撚りをかけて集束して1次繊維束とし、この1次繊維束をさらに通算n回(n≧2)集束してn次繊維束としたものである。
【0032】
上記の「相当直径」とは、(相当直径)=4×(断面積)/(断面の外周長さ)によって定義される。
【0033】
本発明では、相当直径1〜1000nmの細い単繊維を用いる。このように細い繊維は、比表面積が大きく、被処理水中の被分離物質の除去性能が高い。除去性能と強度、製造の難易度を加味すると好ましい相当直径は10〜900nm、特に50〜700nmである。
【0034】
この単繊維は、カチオン交換基、アニオン交換基及びキレート基の少なくとも1種が付与されていることが好ましく、これにより糸巻型フィルタにイオン除去性能が付与される。
【0035】
繊維の材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、PTFE、CTFE、PFA、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素樹脂、ポリ塩化ビニルなどのハロゲン化ポリオレフィン、ナイロン−6、ナイロン−66などのポリアミド、ユリア樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリスチレン、セルロース、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリアクリルニトリル、ポリエーテルニトリル、ポリビニルアルコールおよびこれらの共重合体などの素材が使用できるが、この限りではない。特に1種類の素材に限定されることはなく、必要に応じて種々の素材を選択できる。
【0036】
単繊維にイオン交換能を与える場合、イオン交換基としては、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、カルボン酸基、水酸基、フェノール基、4級アンモニウム基、1〜3級アミン基、ピリジン基、アミド基、などがあるがこの限りではない。これらの官能基はH型、OH型だけでなく、Naなどの塩型であってもよい。本発明では、これらの官能基が少なくとも一種類以上導入された糸を使用してもよいし、それぞれ異なったイオン交換基が導入された糸を複数種用いて、異なる交換基をもつ複合フィルタとしてもよい。
【0037】
官能基の導入方法は単繊維の素材材質によって異なり、適当な導入方法を選択する。例えば、ポリスチレンの場合、硫酸溶液中にパラホルムアルデヒドを適量添加し、加熱架橋することで、スルホン酸基の導入が可能である。ポリビニルアルコールの場合は、水酸基に、トリアルコキシシラン基やトリクロロロシラン基、あるいはエポキシ基などを作用させることなどにより、官能基を導入することができる。材質によって直接官能基を導入できない場合は、まず、スチレンなどの反応性の高いモノマー(反応性モノマーと呼ぶ)を導入した上で、官能基を導入するといったような、2段階以上の導入操作を経て、目的とする官能基を導入しても良い。これらの反応性モノマーとしては、グリシジルメタクリレート、スチレン、クロロメチルスチレン、アクロレイン、ビニルピリジン、アクリロニトリルなどがあるが、この限りではない。官能基は、単繊維化する前に導入されていてもよいが、単繊維を作製したり、単繊維を集束する際に、イオン交換能を有する高分子や樹脂を溶解あるいは微粉砕したものを、塗布したり、混練したり、化学反応によって結合させることによって、イオン交換基を導入しても良い。
【0038】
この単繊維を集束して1次繊維束を形成する場合、集束の本数は3〜3000本特に10〜1000本程度が好ましい。この単繊維は、撚りをかけて集束するが、その際の撚りはS撚り、Z撚りなどのいずれでもよい。撚りのターン数は3〜1000ターン/cm特に10〜100ターン/cm程度が好ましい。
【0039】
本発明では、1次繊維束をさらに集束して2次繊維束とし、この2次繊維を筒体2に巻回してもよく、この2次繊維束をさらに集束して3次繊維としたり、3次繊維束をさらに集束して4次繊維としたり、4次繊維束をさらに集束して5次繊維としたり、5次繊維束をさらに集束して6次繊維としたり、6次繊維束をさらに集束して7次繊維としたり、7次繊維束をさらに集束して8次繊維としたり、8次繊維束をさらに集束して9次繊維としたり、9次繊維束をさらに集束して10次繊維としてもよく、この3次ないし10次繊維束のいずれかを筒体2に巻回してもよい。巻回する複次繊維束の次数は、好ましくは2〜10次、特には2〜8次とりわけ2〜5次である。
【0040】
(n−1)次繊維束を集束してn次繊維束を形成する場合、3〜3000本、特に10〜1000本の(n−1)次繊維束を集束してn次繊維束を形成するのが好ましく、この場合、(n−1)次繊維束を撚りをかけて集束することもできる。この撚りのターン数は、1〜1000ターン/cm特に3〜100ターン/cm程度が好ましい。
【0041】
筒体2に巻回する複次繊維束の直径は1〜20mm特に2〜10mm程度が好ましい。
【0042】
なお、この直径が過度に小さいと、繊維束同士の隙間が過度に小さくなると共に、巻回に手間がかかる。また、この直径が過度に大きいと、繊維束同士の隙間が過大となる。ただし、巻回の際に中心寄りを密に、外周寄りを粗となるように巻回の圧力を調整することによって、繊維束同士の隙間を調整することができる。
【0043】
この複次繊維束を巻回して形成した巻回体層3の層厚は2〜100mm特に10〜50mm程度が好適である。この層厚が過度に小さいと、濾過性能が不足し、過大であると通水圧損が過度に高くなる。
【0044】
このように構成された糸巻型フィルタ1を用いて水処理を行う場合、被処理水は巻回体層3の外周面から巻回体層3を厚さ方向(第1図の求心方向)に透過し、小孔2aから筒体2内に流入し、濾過水として取り出される。ただし、被処理水を筒体2内に供給し、小孔2aから巻回層体3を厚さ方向(第1図の放射方向)に透過させ、巻回体層3の外周面から濾過水を流出させるようにしてもよい。
【0045】
本発明は、金属イオン濃度0.5〜5ng/Lの超純水を濾過処理し、金属イオン濃度を0.1ng/L以下程度にする場合に用いるのに好適である。
【0046】
第2図は、第1図の糸巻型フィルタ1を組み込んだフィルタカートリッジの一例を示す断面図である。
【0047】
このフィルタカートリッジ10は、被処理水の流入口11と濾過水の流出口12とを有したケーシング13内に、糸巻型フィルタ1を、筒軸方向が上下方向となるように配置したものである。
【0048】
糸巻型フィルタ1の下面には、筒体2の一端側を閉塞するエンドプレートを兼ねたフランジ4が設けられている。糸巻型フィルタ1の上端面にはフランジ5が設けられ、巻回体層3はこれらのフランジ4,5間において筒体2に巻回されている。筒体2の上端は、上方に延出し、その先端に連結用フランジ2bが設けられている。
【0049】
流出口12には、濾過水取出管14が連なっている。この取出管14の下端にフランジ14aが設けられ、上記筒体2のフランジ2bと連結されている。
【0050】
被処理水は、流入口11からケーシング13内に導入され、糸巻型フィルタ1の巻回体層3を求心方向に透過し、小孔2aから筒体2内に流入し、取出管14、流出口12を介して取り出される。
【0051】
第3図は、このフィルタカートリッジ10を備えた超純水製造用2次純水システムのフロー図である。
【0052】
1次純水システムなどからの水がサブタンク20へ導入され、ポンプ20aから低圧UV酸化器21に送られ、水中の微量有機物がUV照射によりイオン性低分子量物質に分解される。低圧UV酸化器からの水は、イオン交換樹脂塔22に通水され、イオン性物質が除去された後、脱気膜塔23に通水され、脱気処理される。この脱気膜塔23の1次側は真空ポンプ24によって真空引きされている。脱気膜塔23の2次側には窒素ガスが供給可能とされている。脱気膜塔23からの水は、UF膜(限外濾過膜)装置25に通水されて超純水となる。この超純水は、ライン26を通ってサブタンク20に戻される。ライン26の途中からライン27が分岐しており、このライン27からライン28が分岐しているこのライン29から取出ライン30が分岐しており、上記フィルタカートリッジ10へ超純水が導入され金属イオン濃度レベルがさらに低下された後、ユースポイントへ送水される。フィルタカートリッジ10へ導入される超純水の金属イオン濃度は0.5〜5ng/L程度であるが、フィルタカートリッジ10で濾過処理されることにより、0.1ng/L以下程度まで低下させることができる。
【実施例】
【0053】
[実施例1]
Aldrich製PVDF(ポリフッ化ビニリデン)(Mw=273,000)をDMA(ジメチルアセトアミド)に25wt%で溶解したものを20kVの電圧で電界紡糸し、平均繊維径500nmの単繊維を得た。さらにこれを50本、10ターン/cmにて撚りをかけながら集束し、直径7μmの1次繊維束とした。これを1000本撚りをかけずに集束させて直径2mmの2次繊維束とした。これを、外径35mmの有孔筒に巻き付けて糸巻型フィルタとした。巻きつけた後の糸巻型フィルタの直径は65mmであった。この糸巻型フィルタを用いて第2図に示すフィルタカートリッジを製作した。このフィルタカートリッジを用い、圧力0.02MPaで、野木町水を濾過し、透過流量と配管から発生している鉄分の除去性を測定した。供給水中の全鉄は0.1mg/L程度である。結果を表1に示す。表1の通り、透過流量を高く保ちながら、鉄のリークを抑えることができた。
【0054】
[実施例2]
1次繊維束を100本、5ターン/cmにて撚りをかけながら集束させて50μmの2次繊維束とした以外は、実施例1と同様の条件として試験を行った。結果を表1に示す。表1の通り、実施例1と比べて透過流量は落ちるが、鉄のリークをより低く抑えることができた。
【0055】
[比較例1]
ADVANTEC製ポリプロピレン糸巻きフィルタカートリッジ(TCW−05N−PPS)を用い、実施例1と同じ条件で試験を実施した。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
[実施例3]
関東化学製ポリビニルアルコール2000(Mw=88,000)を90℃の純水に20wt%で溶解させたものを40kVの電圧で電界紡糸し、平均繊維径200nmの単繊維を得た。この単繊維に、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、亜硫酸ナトリウムを反応させ、スルホン基を導入した。この単繊維を10本、10ターン/cmにて撚りをかけながら集束し、直径1μmの1次繊維束とした。これを100本撚りをかけずに集束させて直径50μmの2次繊維束とした。さらにこれを100本撚りをかけずに集束させて直径1mmの3次繊維束とした。これを外径40mmの有孔筒に巻き付けて糸巻型フィルタとした。巻きつけた後の糸巻型フィルタの直径は80mmであった。
【0058】
この糸巻型フィルタを用いて第2図に示すフィルタカートリッジを製作した。このフィルタカートリッジを5%の塩酸で十分に洗浄した後、超純水で塩酸を洗い流した。その後、被処理水の金属(Na、Mg、Al、K、Ca、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Pb)イオン濃度が10ng/Lになるように原子吸光用標準液を希釈調製してライン注入により添加した超純水を20L/minで通水処理したところ、処理水中のすべての金属濃度を分析下限値である0.1ng/L未満にできた。結果を表2に示す。なお測定はサンプリング水を濃縮してからICPMS(横河アナリティカルシステムズAgilent−4500)で分析した。
【0059】
[実施例4]
Aldrich製PVDF(Mw=273,000)をDMAに20wt%で溶解したものを20kVの電圧で電界紡糸し、平均繊維径300nmの単繊維を得た。この単繊維を、Dupon社製Nafion(登録商標)を水、メタノールの混合溶媒に20wt%で溶解したものに含浸させた。
【0060】
この単繊維を10本、10ターン/cmにて撚りをかけながら集束し、直径1.5mmの1次繊維束とした。これを100本撚りをかけずに集束させて直径50μmの2次繊維束とした。さらにこれを100本撚りをかけずに集束させて直径1mmの3次繊維束とした。これを外径40mmの有孔筒に巻き付けて糸巻型フィルタとした。巻きつけた後の糸巻型フィルタの直径は80mmであった。この糸巻型フィルタを用いて第2図に示すフィルタカートリッジを製作した。フィルタカートリッジを5%の塩酸で十分に洗浄した後、超純水で塩酸を洗い流した。実施例3と同様の試験を実施した。結果を表2に示す。
【0061】
[比較例2]
イオン交換不織布、ポリスルホン多孔質膜、ポリプロピレン不織布(流路材)を積層しプリーツ型フィルタを作製し、実施例3と同様の試験を実施した。結果を表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
[実施例5]
第3図に示す超純水製造システムのフィルタカートリッジ10に実施例4のフィルタカートリッジを用いて、長期間の通水試験を実施した。被処理水のNa濃度が1ng/Lになるように原子吸光用のNa標準液を希釈調製して、ライン注入した。被処理水の流量は20L/minである。その処理水質は通水397日目に0.1ng/L以上になった。
【0064】
[比較例3]
比較例2のフィルタを用いて、実施例5と同様の通水試験を実施したところ、通水2日後に処理水質は0.1ng/L以上になった。
【0065】
[参考測定例1]
実施例3において、糸巻型フィルタの通水抵抗と比表面積を測定した。
【0066】
また、実施例3において単繊維の繊維径を50、100又は500nmとしたこと以外は同様にして製作した糸巻型フィルタについても通水抵抗及び比表面積を測定した。これらの結果を第4図に示す。
【0067】
[参考測定例2]
上記参考測定例1において、単繊維径を0.3,0.5,1又は1.5mmとした。これを集束させることなく、そのまま通水抵抗に巻回して糸巻型フィルタを製作し、通水抵抗及び比表面積を測定した。その結果を第5図に示す。
【0068】
第4図及び第5図の通り、細い単繊維を撚りをかけながら集束して1次繊維束とし、これを撚らずに集束させた2次繊維束を用いると、糸巻型フィルタの通水抵抗が小さく、比表面積が大きくなることが認められる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】実施の形態に係る糸巻型フィルタの断面図である。
【図2】フィルタカートリッジの断面図である。
【図3】超純水製造システムのフロー図である。
【図4】通水抵抗及び比表面積の測定例を示すグラフである。
【図5】通水抵抗及び比表面積の測定例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0070】
1 糸巻型フィルタ
2 通水抵抗
2a 小孔
2b フランジ
3 巻回体
10 フィルタカートリッジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透液性の筒壁を有した筒体の外周に繊維を巻回してなる糸巻型フィルタにおいて、
相当直径1〜1000nmの複数本の単繊維を撚りをかけて集束して一次繊維束を形成し複数本の一次繊維束を通算n回(nは2以上の整数)集束して形成したn次繊維束からなる複次繊維束を前記筒体に巻回したことを特徴とする糸巻型フィルタ。
【請求項2】
請求項1において、前記複次繊維束の直径が1〜20mmであることを特徴とする糸巻型フィルタ。
【請求項3】
請求項1又は2において、nが2〜10の整数であることを特徴とする糸巻型フィルタ。
【請求項4】
請求項3において、通算m回目の集束によって形成したm次繊維束(mは2〜nの整数の少なくとも1つ)は、(m−1)次の繊維束を撚りをかけて集束したものであることを特徴とする糸巻型フィルタ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記複次繊維束の巻回厚が2〜100mmであることを特徴とする糸巻型フィルタ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、アニオン交換基、カチオン交換基、及びキレート基からなる群の少なくとも1種の官能基が前記単繊維に付与されていることを特徴とする糸巻型フィルタ。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の糸巻型イオン交換フィルタに被処理水を透過させることにより処理水を得ることを特徴とする水処理方法。
【請求項8】
請求項7において、被処理水が金属イオン濃度0.5〜5ng/Lの超純水であることを特徴とする水処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−34646(P2009−34646A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−203273(P2007−203273)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】