糸球体上皮細胞障害の検査方法及び検査用キット
【課題】本発明は、早期に糸球体上皮細胞障害の罹患の有無や罹患可能性を判断できるとともに、糸球体上皮細胞障害の進展や予後、糸球体上皮細胞障害における治療反応性を評価できる簡便な方法を提供することを課題とする。
【解決手段】被検者の尿中のFGF受容体又はその下流のシグナル関連分子を検出する工程を含む、糸球体上皮細胞障害の検査方法を提供する。
【解決手段】被検者の尿中のFGF受容体又はその下流のシグナル関連分子を検出する工程を含む、糸球体上皮細胞障害の検査方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸球体上皮細胞障害の検査方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
糸球体上皮細胞障害を来たす病態は、その原因によって、糸球体自体の障害に起因する原発性(一次性)と、糖尿病・膠原病・悪性腫瘍・感染症などの全身性疾患に起因する二次性(続発性)に分類される。結果として種々の程度の蛋白尿を呈し、微量アルブミン尿からネフローゼ症候群を来たすものまで多岐にわたる。
中でもネフローゼ症候群は、高度の蛋白尿と、これに伴う低蛋白血症を呈する疾患群の総称である。1日あたりの尿中タンパク質量が3.5g以上となる状態が持続し、血清総タンパク質量が6.0g/dl以下(低アルブミン血症とする場合は、血清アルブミン量3.0g/dl以下)となることが診断のための必須条件であり、この基準を満たせば原因にかかわらずネフローゼ症候群と診断される。蛋白尿、低蛋白血症、及び浮腫を主症状とし、その他、高脂血症、全身倦怠感、胸水、腹水、腎機能障害、血圧低下等を認めることもある。
【0003】
糸球体上皮細胞障害を起こす原発性糸球体疾患には、主に、微小変化群(Minimal change nephrotic syndrome; MCNS)、単状分節状糸球体硬化症(Focal segmental glomerulosclerosis; FSGS)、膜性腎症(Membranous nephropathy; MN)、膜性増殖性糸球体腎炎(Membranoproliferative glomerulonephritis; MPGN)、及びIgA腎症がある。二次性には、例えば、糖尿病性腎症、ループス腎炎、腎アミロイド症があり、それぞれ糖尿病、膠原病、アミロイドーシスを原疾患とする。また、HIV、HBV、リーシュマニアなどの感染によって生じる腎障害に起因するものもある。
【0004】
蛋白尿が生じるメカニズムは、糸球体上皮細胞(ポドサイト等とも呼ばれる)の異常(例えば、足突起の癒合・消失やスリット膜の先天性異常・破壊など)によるものと考えられている。
【0005】
また、ある種のネフローゼ症候群は、線維芽細胞増殖因子-2(FGF2)シグナルが増悪因子であることが知られている(非特許文献1−4)。
本発明者らは、これまでに、グリピカン(GPC)5遺伝子上の特定の一塩基多型(SNP)がネフローゼ症候群に関連することを報告した(例えば、特許文献1)。
【0006】
上述のとおり、ネフローゼ症候群の診断は、アルブミンなどの尿中タンパク質量を測定して行われている。しかしながら、尿中アルブミンは、病早期発見を目指す場合にしばしば試験的に測定される微量アルブミンの場合、個々の症例での測定値のばらつきが多く、また標準物質もヒトであったりウシであったりと定まらず、臨床指標として多大な問題点を抱えている。つまり、尿中タンパク質は、タンパク質が漏出する程度まで糸球体の構造が破壊されないと尿中で診断を下せるレベルでは検出されない。従って、この方法は現状では早期診断に適しているとはいえない。
例えば、糖尿病性腎症は、その進行により第1期、第2期、第3期A、B、第4期、第5期に分類されるが、第1期では、尿中アルブミンは検出感度以下であり、第2期以降まで疾患が進行しないと、診断することができない。
【0007】
また、副腎皮質ホルモンや免疫抑制剤の適応がある疾患群において治療薬の効果を評価する場合も、尿中アルブミン/尿蛋白を指標とする場合、糸球体の構造が回復するまで測定値が変化しないため、治療反応性があるのか否か判定するのに、少なくとも2−3週間を要する。治療反応性がない場合にも、この期間は同じ治療を継続する必要があり、治療内容変更に2−3週間ものタイムラグが生まれてしまうので、入院期間・治療期間の延長とさらに副作用の高度化によるリスクの増大が生じる。
糖尿病性腎症においては、第2期以降はアルブミン尿で検出可能であるため、積極的に腎症進展予防薬を使う事ができるが、第1期の段階で第2期以降に進展しうるかどうかや第2期から第3期へ進展する群としない群を予測することは今までできなかった。更に、糖尿病性腎症では症例によって高度ネフローゼを示す症例があり、難治性であることが知られている。また、透析導入の原因としては、2型糖尿病に基づく腎症増悪が最も多い。血液透析治療は1兆円産業であり、毎年1万人ずつ膨張する患者数が医療費増大を大きく後押ししている。
【0008】
そのため、より早期に糸球体上皮細胞障害を判断できる方法や、治療反応性を評価できる方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開WO2010/084668パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Ray, P.E. et al. Pediatr Nephrol 13, 586-93 (1999).
【非特許文献2】Ogata, S. et al. J Am Soc Nephrol 12, 2787-96 (2001).
【非特許文献3】Floege, J. et al. J Clin Invest 96, 2809-19 (1995).
【非特許文献4】Kriz, W. et al. Kidney Int 48, 1435-50 (1995).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、早期に糸球体上皮細胞障害の罹患の有無や罹患可能性を判断できるとともに、糸球体上皮細胞障害の進展や予後、糸球体上皮細胞障害における治療反応性を評価できる簡便な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために研究を重ねた結果、糸球体上皮細胞にGPC5が高発現していること;GPC5−FGF2経路が糸球体上皮細胞の分化やアルブミン透過性に大きく影響すること;及び、GPC5のノックダウンによってFGF2シグナルが抑制されること、ネフローゼ症候群の発症や悪化が抑制され、蛋白尿を改善し、ポドサイトの足突起の癒合・消失を抑制することを確認した。
また、FGF2シグナルにおいては、FGF2がFGF受容体に結合するとFGF受容体の下流でFRS2αがリン酸化されるが、GPC5をノックダウンすると、糸球体上皮細胞におけるFRS2αのリン酸化が減少することを確認した。
以上の事実は、GPC5-FGF2経路が、糖尿病性腎症を含めたネフローゼ症候群の原因の一つであることを強く示唆するものである。
【0013】
一方で、ネフローゼ症候群に関連するGpc5遺伝子のSNPであるrs16946160のオッズ比を様々な糸球体上皮細胞障害で調べたところ、4種類の原発性ネフローゼ症候群のみならず、糖尿病性腎症でもオッズ比が1.0を超えることを確認した。このことは、GPC-FGF2経路が、原発性ネフローゼ症候群のみではなく、二次性ネフローゼ症候群も含む糸球体上皮細胞障害全般に関与していることを示す。
【0014】
さらに、本発明者らは、健常者の尿中では検出されない(あるいは極少量のみ検出される)リン酸化FRS2αが、ネフローゼ症候群患者の尿中からは検出できること;ネフローゼ症候群の治療を開始すると、尿中リン酸化FRS2αが速やかに減少すること;糖尿病性腎症の患者の尿中においては、第1期であってもリン酸化FRS2αが検出され、疾患の進行に伴ってその量が増加すること;糖尿病モデルマウスにおいては、腎皮質におけるFGF2発現が増加しているとともに、FGF受容体の発現も増加し、これによってFGF2シグナルが増強されていること;糸球体上皮細胞の細胞株を高血糖培地で培養すると、FGF受容体の発現が誘導されること;糖尿病マウスにFGF2を投与すると蛋白尿が誘導されること、を確認し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明は、
〔1〕被検者の尿中のFGF受容体又はその下流のシグナル関連分子を検出する工程を含む、糸球体上皮細胞障害の検査方法;
〔2〕前記FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子が、リン酸化FRS2α、活性型Ras、リン酸化Akt、リン酸化STAT3、リン酸化PI3K、及びリン酸化PLCγからなる群より選択される、上記〔1〕に記載の検査方法;
〔3〕前記FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子を検出する工程は、該FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子に対する抗体を用いたイムノアッセイによって行う、上記〔1〕又は〔2〕に記載の検査方法;
〔4〕前記イムノアッセイがELISA法である、上記〔3〕に記載の検査方法;
〔5〕前記糸球体上皮細胞障害が、原発性である、上記〔1〕から〔4〕のいずれか1項に記載の検査方法;
〔6〕前記糸球体上皮細胞障害が、二次性である、上記〔1〕から〔4〕のいずれか1項に記載の検査方法;
〔7〕糸球体上皮細胞障害の罹患の有無、罹患可能性、進展又は予後を判定するための検査方法である、上記〔1〕から〔6〕のいずれか1項に記載の検査方法;
〔8〕糸球体上皮細胞障害に対する治療反応性を判定するための検査方法である、上記〔1〕から〔6〕のいずれか1項に記載の検査方法;
〔9〕FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子に対する抗体を含む、糸球体上皮細胞障害の検査用キット;
〔10〕FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子に対する抗体が、抗リン酸化FRS2α抗体、抗活性型Ras抗体、抗リン酸化Akt抗体、抗リン酸化STAT3抗体、抗リン酸化PI3K抗
体、及び抗リン酸化PLCγ抗体からなる群より選択される、上記〔9〕に記載の検査用キット;
〔11〕FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子に対する抗体を含む2種以上の抗体が固定された尿検査用抗体アレイ;
〔12〕上記〔11〕に記載の検査用抗体アレイを含む、尿検査用キット;及び
〔13〕糸球体上皮細胞障害の治療又は予防薬のスクリーニング方法であって、
ヒトを除く哺乳動物に、候補化合物を投与する工程と、
前記哺乳動物の尿中のFGF受容体又はその下流のシグナル関連分子を検出する工程と、
を含む方法、に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、尿中のFGF受容体又はその下流のシグナル関連分子量を測定するという簡便な方法により、原発性及び二次性糸球体上皮細胞障害の罹患の有無、罹患可能性、進展、予後等を判定し、また、原発性及び二次性糸球体疾患の患者の治療反応性を評価することができる。
本発明によれば、例えば、糖尿病性腎症について、第1期の段階で第2期、第3期に進展するかどうか予測することが可能となる。進展しないと予測される群に対しては、現在行われているむやみな処方薬増加をコントロールすることが可能となり、医療費抑制や患者負担抑制に向けた診療変容へと導くことが可能となる。一方で、第2期、第3期に進展しうると予測される症例については、第1期から積極的に腎症進展予防薬を使うことにより、第2期への進行時期を遅らせることや、進行を防ぐことも可能となる。
本発明によれば、早期診断に基づいて適切な治療を選択することにより、将来的な透析導入を遅らせることや防ぐことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、糸球体サンプルにおけるGPC5の免疫蛍光染色の結果を示す。
【図2A】図2A−Eは、ラット培養糸球体上皮細胞を用いたin vitroのGPC5の機能解析の結果である。図2Aは、GPC5をノックダウンして、又はしないで、FGF2と受容体の結合能を測定した結果を示す。
【図2B】図2Bは、GPC5をノックダウンして、又はしないで、FGF2による刺激を行って、又は行わないで、FRS2αに対するリン酸化FRS2αの割合を測定した結果を示す。
【図2C】図2Cは、GPC5をノックダウンによる、FGF2による糸球体上皮細胞の脱分化への影響を観察した結果を示す。
【図2D】図2Dは、GPC5のノックダウンによる細胞周期への影響を測定した結果を示す。
【図2E】図2Eは、GPCのノックダウンによる糸球体上皮細胞のろ過機能への影響を、ケモタキシスチャンバーに培養した糸球体上皮細胞株を利用してアルブミン透過性を測定した結果を示す。
【図3A】図3A−Eは、ポドサイト特異的ノックダウンマウスを用いたin vivoのGPC5の機能解析の結果である。図3Aは、PAN及びFGF2でネフローゼ症候群を誘導し、ACRを測定した結果を示す。
【図3B】図3B上段は、PAN及びFGF2でネフローゼ症候群を誘導し、血清アルブミンを測定した結果を示し、下段は、BUNを測定した結果を示す。
【図3C】図3Cは、PAN及びFGF2でネフローゼ症候群を誘導し、腎皮質のPAS染色の結果を示す。
【図3D】図3Dは、PAN及びFGF2でネフローゼ症候群を誘導し、硬化スコアを求めた結果を示す。
【図3E】図3Eは、PAN及びFGF2でネフローゼ症候群を誘導し、電子顕微鏡で足突起癒合を観察した結果を示す。
【図4A】図4A−Dは、マウスに蛋白尿を誘導した後、GPC5-siRNAを全身投与した結果である。図4Aは、PAN及びFGFでネフローゼ症候群を誘導し、GPC5-siRNAを全身投与して、ACRを測定した結果を示す。
【図4B】図4Bは、PAN及びFGFでネフローゼ症候群を誘導し、GPC5-siRNAを全身投与して、血清アルブミンを測定した結果を示す。
【図4C】図4Cは、アドリアマイシンでネフローゼ症候群を誘導し、GPC5-siRNAを全身投与して、ACRを測定した結果を示す。
【図4D】図4Dは、アドリアマイシンでネフローゼ症候群を誘導し、GPC5-siRNAを全身投与して、足突起癒合を測定した結果を示す。
【図5】図5は、糖尿病患者及び健常者の尿中と血清中のリン酸化FRS2αを検出した結果を示す。
【図6】図6は、糖尿病モデルマウス(AKITAマウス)及びコントロールマウス(C57BL/6マウス)の腎皮質におけるFGF2の発現を測定した結果を示す。
【図7】図7は、糖尿病モデルマウス及びコントロールマウスの腎臓におけるFGF受容体の発現を測定した結果を示す。
【図8】図8は、糖尿病モデルマウスの糸球体内におけるFGFR1-4の発現を免疫蛍光染色法で検出した結果を示す。
【図9】図9は、マウス糸球体上皮細胞株における高血糖によるFGF受容体の発現の誘導を確認するために行った実験のスケジュールを示す。
【図10】図10は、図9に示す実験の結果を示す。
【図11】図11は、糖尿病モデルマウス及びコントロールマウスにFGF2を投与し、ACRを測定した結果を示す。
【図12】図12は、健常者(Healthy)、ネフローゼ症候群患者(NS)、糖尿病患者(DMN)の尿中のFRS2αを検出した結果を示す。NS+Txは、ネフローゼ症候群患者に治療を行った後の尿の測定結果である。
【図13】図13は、FGF2とFGF受容体の結合によって活性化される経路を示す。
【図14】図14は、ポドサイト特異的ノックダウンマウスの作製に用いたベクター(A)、腎皮質のウェスタンブロッティングの代表的な結果(B)、及び糸球体上皮細胞におけるGPC5の発現をウェスタンブロッティングで検出した代表的な結果(C)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る糸球体上皮細胞障害の検査方法は、被検者の尿中のFGF受容体又はその下流のシグナル関連分子を検出する工程を含む。
FGFは、線維芽細胞や内皮細胞の増殖を促進するタンパク質であり、多様な生物学的応答を惹起するFGFシグナル伝達経路を活性化するリガンドのファミリーである。チロシンキナーゼ活性を有するFGF受容体として、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4の4種類が知られている。
FGFがFGF受容体に結合すると、FGF受容体の細胞内ドメインであるFGF受容体チロシンキナーゼが活性化され、細胞内のFRS2αをリン酸化する。リン酸化FRS2αは、Grp2及びShp2と結合することにより、STAT3/PI3K/PLCγ/Ras/Akt経路等を活性化する。
FGFとFGF受容体の結合により活性化される経路を図13に示す。
【0019】
従来、FGFシグナル伝達は、GPC5によって増強されることが報告されている(Steinfeld, R. et al. J Cell Biol 133, 405-16 (1996).; Schlessinger, J. et al. Cell 83, 357-60 (1995).)。GPCファミリーは、FGFを含む多くの増殖因子に結合することが知られる。GPCは、細胞の増殖や形状を調節するいくつかのシグナル経路のカスケードで機能すると考えられており、特にGPC5は、FGFシグナルを介してがん細胞の増殖を促進することが報告されている。
GPC5は、ヒト成人においては腎臓、脳、肝臓で比較的発現が高いことが知られていた。今般、本発明者らは、GPC5が糸球体においても高発現していること、及び、その局在が、糸球体上皮細胞マーカーとヒト腎臓における毛細管内皮細胞の局在と一致していることを確認した。また、ポドサイト特異的ノックダウンマウスにおいては、糸球体におけるGPC5の発現はほとんど見られなかった。
これらの結果は、GPC5は、ポドサイトで発現が優勢であること、細胞表面の膜において発現していること、及び、その一部が糸球体間に分泌されていることを示す。
【0020】
実施例に示すとおり、in vitroで培養糸球体上皮細胞においてGpc5をノックダウンすると、受容体自体の発現は不変にもかかわらずFGF2の細胞表面への結合が減少し、FGF2シグナルの活性化を示すFRS2αのリン酸化比率が減少し、細胞の脱分化が抑制され、アルブミンの透過性が低下する。
また、ポドサイト特異的Gpc5ノックダウンマウスを作製し、PAN及びFGF2でネフローゼ症候群を誘導しても、蛋白尿は軽度であり、血清アルブミン値の減少もわずかである。糸球体の硬化もほとんど見られず、尿細管間質障害もほとんど生じない。足突起も正常なままである。
PAN及びFGF2でマウスにネフローゼ症候群を誘導し、Gpc5に対するsiRNAを投与すると、蛋白尿が有意に減少し、血清アルブミン値が増加するとともに、糸球体の病理学的障害も緩和された。
以上より、GPC5-FGF2シグナルは、糸球体上皮細胞の脱分化を誘導して足突起を癒合・消失させ、ろ過機能を低下させることにより、ネフローゼ症候群の発症及び悪化に深く関与していることが示唆される。
【0021】
本明細書において、「FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子(以下「検出対象分子」という場合もある。)」とは、FGFがFGF受容体に結合することにより活性化される経路に関与する分子をいい、例えば、FGF受容体、FRS2α、Grp2、Shp2、及びSTAT3/PI3K/PLCγ/Ras/Akt経路等に関与する分子、図13に示される分子が挙げられる。
検出対象分子には、これらの分子が、当該シグナル伝達の活性化の結果、各種の修飾(例えばリン酸化)を受けたものも含まれる。このような修飾を受けた分子としては、リン酸化FRS2α、活性型Ras、リン酸化Akt、リン酸化STAT3、リン酸化PI3K、及びリン酸化PLCγ等が挙げられる。中でもリン酸化FRS2α、リン酸化Stat3は、FGFシグナルへの特異性が高く、検出に適している。なお、2以上の残基がリン酸化されている場合、一部のリン酸化を検出してもよいし、すべてのリン酸化を検出してもよい。
【0022】
本発明の検査に用いられる尿は、常法に従って採取したものを用いることができる。濃縮された起床時尿が好ましい。また採取した尿は、検査時まで-20℃以下で保存し、凍結融解を繰り返さないことが好ましい。
リン酸化された分子を検出する場合脱リン酸化予防のため、採取した尿に、sodium orthovanadate(SOV)を加えてもよい。
【0023】
本明細書において、尿中の分子を「検出する」という場合、尿中におけるその分子の有無を調べることだけではなく、尿中に含まれるその分子の量を測定することも含む。
尿中の検出対象分子を測定する方法は、液体中の特定のタンパク質を検出、測定するためのあらゆる方法を用いて行うことができ、例えば、イムノアッセイ、凝集法、比濁法、ウェスタンブロッティング法、表面プラズモン共鳴(SPR)法等が挙げられるが、これらに限定されない。
検出対象分子に対する抗体と、尿サンプル中の検出対象分子との抗原抗体反応を利用して、検出対象分子の量を測定するイムノアッセイは特に簡便で好ましい。
【0024】
イムノアッセイは、検出可能に標識した検出対象分子に対する抗体、又は、検出可能に標識した検出対象分子に対する抗体に対する抗体(二次抗体)を用いる。抗体の標識法により、エンザイムイムノアッセイ(EIA又はELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、蛍光イムノアッセイ(FIA)、蛍光偏光イムノアッセイ(FPIA)、化学発光イムノアッセイ(CLIA)等に分類され、これらのいずれも本発明の方法に用いることができる。
ELISA法では、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ等の酵素、RIA法では、125I、131I、35S、3H等の放射性物質、FPIA法では、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ダンシルクロリド、フィコエリトリン、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、近赤外蛍光材料等の蛍光物質、CLIA法では、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、エクオリン等の発光物質で標識した抗体が用いられる。その他、金コロイド、量子ドットなどのナノ粒子で標識した抗体を検出することもできる。
また、イムノアッセイでは、検出対象分子に対する抗体をビオチンで標識し、酵素等で標識したアビジン又はストレプトアビジンを結合させて検出することもできる。
【0025】
イムノアッセイの中でも、酵素標識を用いるELISA法は、簡便且つ迅速に抗原を測定することができて好ましい。
ELISA法には競合法とサンドイッチ法がある。競合法では、マイクロプレート等の固相担体に検出対象分子に対する抗体を固定し、尿サンプルと酵素標識した検出対象分子を添加して、抗原抗体反応を生じさせる。いったん洗浄した後、酵素基質と反応、発色させ、吸光度を測定する。尿サンプル中の検出対象分子が多ければ発色は弱くなり、尿サンプル中の検出対象分子が少なければ発色が強くなるので、検量線を用いて検出対象分子量を求めることができる。
例えば、検出対象分子がリン酸化FRS2αの場合、検出対象分子に対する抗体としては、抗リン酸化FRS2α抗体や、リン酸化FRS2αに結合能を有する抗FRS2α抗体とすることができる。
【0026】
サンドイッチ法では、固相担体に検出対象分子に対する抗体を固定し、尿サンプルを添加し、反応させた後、さらに酵素で標識した別のエピトープを認識する検出対象分子に対する抗体を添加して反応させる。洗浄後、酵素基質と反応、発色させ、吸光度を測定することにより、検出対象分子量を求めることができる。サンドイッチ法では、固相担体に固定した抗体と尿サンプル中の検出対象分子を反応させた後、非標識抗体(一次抗体)を添加し、この非標識抗体に対する抗体(二次抗体)を酵素標識してさらに添加してもよい。
例えば、検出対象分子がリン酸化FRS2αの場合、一次抗体と二次抗体の組合せとして、異なるエピトープを認識する2種類の抗リン酸化FRS2α抗体の組合せ、リン酸化FRS2αに結合能を有する抗FRS2α抗体と抗リン酸化FRS2α抗体の組合せ、抗FRS2α抗体又は抗リン酸化FRS2α抗体と抗リン酸化チロシン抗体との組合せ、等を用いることができる。
例えば、検出対象分子がリン酸化STAT3の場合、一次抗体と二次抗体の組合せとして、異なるエピトープを認識する2種類の抗リン酸化STAT3抗体の組合せ、リン酸化STAT3に結合能を有する抗STAT3抗体と抗リン酸化STAT3抗体の組合せ、抗STAT3抗体又は抗リン酸化STAT3抗体と抗リン酸化チロシン抗体との組合せ、等を用いることができる。
【0027】
本明細書において、「固相担体」は、抗体を固定できる担体であれば特に限定されず、ガラス製、金属性、樹脂製等のマイクロタイタープレート、基板、ビーズ、ニトロセルロースメンブレン、ナイロンメンブレン、PVDFメンブレン等が挙げられる。
【0028】
酵素標識を検出するための酵素基質は、酵素がペルオキシダーゼの場合、3,3'-diaminobenzidine(DAB)、3,3',5,5'-tetramethylbenzidine(TMB)、o-phenylenediamine(OPD)等を用いることができ、アルカリホスファターゼの場合、p-nitropheny phosphate(NPP)等を用いることができる。
【0029】
また、上記イムノアッセイの中で、微量のタンパク質を簡便に検出できる方法として凝集法も好ましい。凝集法としては、例えば、抗体にラテックス粒子を結合させたラテックス凝集法が挙げられる。
ラテックス粒子に検出対象分子に対する抗体を結合させて尿サンプルに混合すると、検出対象分子が存在すれば、抗体結合ラテックス粒子が凝集する。そこで、サンプルに近赤外光を照射して、吸光度の測定(比濁法)又は散乱光の測定(比朧法)により凝集塊を定量し、抗原の濃度を求めることができる。
【0030】
本明細書において「抗体」は、抗原に特異的に結合する免疫グロブリンをいい、IgM、IgG、IgA、IgE、IgDのいずれのサブクラスであってもよい。また、抗原に特異的に結合する限り、Fab、F(ab')2、Fab'、scFv、di-scFv等のフラグメントであってもよい。
抗体は、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体のいずれも公知の方法に従って作製することができる。モノクローナル抗体は、例えば、検出対象分子又はその断片で免疫した非ヒト哺乳動物から抗体産生細胞を単離し、これを骨髄腫細胞等と融合させてハイブリドーマを作製し、このハイブリドーマが産生した抗体を精製することによって得ることができる。また、ポリクローナル抗体は、検出対象分子又はその断片で免疫した動物の血清から得ることができる。
【0031】
検出対象分子に対する抗体は、既存の抗体を用いてもよい。
検出対象分子がリン酸化FRS2αである場合、抗リン酸化FRS2α抗体として、例えば、Phospo-FRS2α(Tyr196)Antibody(Cell Signaling社)や、抗リン酸化FRS2抗体(Meso Scale Discovery社、Tyr196又はTyr436)を用いてもよい。また抗FRS2α抗体としては、FRS2 (H-91) antibody (Santa Cruz社)が挙げられる。検出対象分子がリン酸化STAT3である場合、Phospho-Stat3 (Tyr705) Antibody (Cell Signaling社)や、抗リン酸化STAT3抗体(Meso Scale Discovery社、Tyr705)を用いてもよい。また抗STAT3抗体としては、STAT3 (C-20) antibody (Santa Cruz社)が挙げられる。
【0032】
本明細書において「糸球体上皮細胞障害」は、その最も広い意味で用いられ、その原因を問わず、糸球体上皮細胞が障害を受けた病態をいう。糸球体上皮細胞障害には、糸球体自体の障害に起因する原発性と、他の全身性疾患に起因する二次性がある。
原発性糸球体上皮細胞障害には、病態として、原発性ネフローゼ症候群と、尿中タンパク質量がネフローゼ症候群の診断基準に満たない原発性軽度蛋白尿が含まれる。
二次性糸球体上皮細胞障害には、病態として、二次性ネフローゼ症候群と、尿中タンパク質量がネフローゼ症候群の診断基準に満たない二次性軽度蛋白尿が含まれる。
【0033】
本明細書において「ネフローゼ症候群」は、その最も広い意味で用いられ、蛋白尿(1日あたりの尿中タンパク質量が3.5g以上となる状態が持続する)、低蛋白血症(血清総タンパク質量が6.0g/100ml以下(低アルブミン血症とする場合は、血清アルブミン量3.0g/100ml以下))を呈する限り、その原因を問わず、原発性及び二次性ネフローゼ症候群を含む。
【0034】
原発性糸球体上皮細胞障害としては、例えば、微小変化群(Minimal change nephrotic syndrome; MCNS)、単状分節状糸球体硬化症(Focal segmental glomerulosclerosis; FSGS)、膜性腎症(Membranous nephropathy; MN)、膜性増殖性糸球体腎炎(Membranoproliferative glomerulonephritis; MPGN)、及びIgA腎症が挙げられる。
二次性糸球体上皮細胞障害としては、例えば、糖尿病に起因する糖尿病性腎症、膠原病に起因するループス腎炎、アミロイドーシスに起因する腎アミロイド症、HIV、HBV、リーシュマニアなどの感染症に起因する腎症などが挙げられる。
【0035】
特許文献1に記載したゲノムワイド関連解析を行った結果に基づいて、ネフローゼ症候群関連SNPであるrs16946160について、原因を異にする糸球体上皮細胞障害のそれぞれについてオッズ比を求めたところ、下表に示すとおり、種々の糸球体上皮細胞障害で1を超えるオッズ比が得られた。
このことは、GPC5が、ポドサイト障害及び蛋白尿に共通するパスウェイに関与していること、すなわち発症の原因にかかわらず糸球体上皮細胞障害に関与していることを支持するものである。
そうすると、GPC5-FGF2シグナルに関連する本発明の検査方法は、原因にかかわらず広く糸球体障害を認める疾患の検査に用いることができることが理解される。
【表1】
【0036】
中でも、本発明の検査方法は、糖尿病性腎症の検査に好ましく用いられる。
糖尿病性腎症は、進行に従って、第1期、第2期、第3期A、第3期B等に分類される。第1期は、腎症前期とも呼ばれ、糸球体ろ過量(GFR)が増加するが、症状はなく、尿中アルブミンも検出感度以下である。
第2期は、早期腎症とも呼ばれ、第1期から5−15年で発症する。尿中に微量のアルブミンが検出されるが、自覚症状はない。また高血圧を併発し、腎障害を悪化させる。
第3期Aは、自覚症状はないが、尿検査用試験紙で尿蛋白が陽性となる。第3期Bで続発性ネフローゼ症候群を呈し、低アルブミン血症、浮腫等を生じる。
【0037】
実施例に示すとおり、リン酸化FRS2αは、尿中アルブミンが検出限界以下である第1期においても、尿中で検出される。
従って、本発明の検査方法は、微量アルブミン尿を発症する前段階の腎障害の検査に使用してもよく、検査結果に基づいて進展や予後を予測することができる。
また、実施例に示すとおり、糖尿病モデルマウスにおいては、腎皮質のFGF2レベルが上昇し、腎臓、特に糸球体においてFGF受容体の発現が増加している。in vitroでは、高血糖によりFGF受容体3及び4の発現が誘導される。糖尿病モデルマウスは、FGFシグナルに対する感受性が高い。
【0038】
本明細書において「検査」は、診断に必要な情報を得るために、被検者から採取した試料を調べることを意味し、本発明の検査方法は、例えば検査会社等で実施され得る。
検査には、罹患の有無を調べる検査、罹患の可能性を調べる検査、疾患の進展や予後を調べる検査、治療反応性を調べる検査などが含まれるが、これらに限定されない。
なお、本発明に係る検査方法又は検査用キットを用いて検査した結果を、診断に用いることも可能である。
【0039】
本発明の検査方法の一態様は、被検者の尿中の検出対象分子の濃度と、健常者の尿中の検出対象分子の濃度とを比較する工程を含む。健常者の尿と比較して、被検者の尿中の検出対象分子の濃度が有意に高い場合に、該被検者は糸球体上皮細胞障害を来たしているあるいは将来的に来たす可能性が高い。
【0040】
また、本発明の検査方法の別の態様は、糸球体上皮細胞障害を来たしている者あるいは糸球体上皮細胞障害を引き起こす腎症の患者等から治療後に採取した尿中の検出対象分子の濃度を、治療前に測定した尿中の検出対象分子の濃度と比較する工程を含む。
治療後の尿中の検出対象分子の濃度が、治療前の尿中の検出対象分子の濃度と同等かそれ以上の場合、当該患者は、その治療に反応していない可能性が高いと評価される。治療後の尿中の検出対象分子の濃度が、治療前の尿中の検出対象分子の濃度より減少している場合、当該患者は、その治療に反応している可能性が高いと評価される。
【0041】
本明細書において「被検者」は、糸球体上皮細胞障害を来たしている可能性のある者、又は来たす可能性のある者とすることができる。健康診断等において、健常者を被検者としてもよい。また、被検者はヒトに限定されず、他の哺乳動物(ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル等)であってもよい。
【0042】
[糸球体上皮細胞障害の検査用キット]
本発明に係る糸球体上皮細胞障害検査用キットは、上述した検査方法を使用して、糸球体上皮細胞障害の罹患の有無、罹患可能性、進展や予後の検査を行うためのキットであり、検出対象分子に対する抗体を含む。
本発明の検査用キットは、例えば、検出対象分子に対する抗体と検出対象分子との抗原抗体反応を利用するイムノアッセイによって、検出対象分子の濃度を測定するために必要な試薬及び装置を含む。
検出対象分子がリン酸化FRS2αである場合、抗リン酸化FRS2α抗体、及び、抗リン酸化FRS2α抗体とリン酸化FRS2αとの抗原抗体反応によってリン酸化FRS2α量を測定するために必要な試薬、及び装置を含む。
必要な試薬、装置としては、例えば、固相担体、緩衝液、標識用試薬、酵素、酵素反応停止液、マイクロプレートリーダーが挙げられるがこれらに限定されない。
【0043】
以下、検出対象分子がリン酸化FRS2αである場合を例に挙げて、キットの概要を説明するが、本発明はこれに限定されない。
検査用キットの一態様は、サンドイッチ法によってリン酸化FRS2αを測定するためのものであり、マイクロタイタープレート;捕捉用の抗リン酸化FRS2α抗体;アルカリホスファターゼ又はペルオキシダーゼで標識した抗リン酸化FRS2α抗体;及び、アルカリホスファターゼの基質(NPP等)又はペルオキシダーゼの基質(DAB、TMB、OPD等)、を含む。
補足抗体と標識抗体は、異なるエピトープを認識する。
このようなキットでは、まず、マイクロタイタープレートに補足抗体を固定し、ここに尿サンプルを適宜希釈して添加した後インキュベートし、サンプルを除去して洗浄する。次に、標識した抗体を添加した後インキュベートし、基質を加えて発色させる。マイクロタイタープレートリーダー等を用いて発色を測定することにより、リン酸化FRS2α量を求めることができる。
【0044】
検査用キットの別の態様は、二次抗体を使用してサンドイッチ法によりリン酸化FRS2αを測定するためのものであり、マイクロタイタープレート;捕捉用の抗リン酸化FRS2α抗体;一次抗体として、抗リン酸化FRS2α抗体;二次抗体として、アルカリホスファターゼ又はペルオキシダーゼで標識した、抗リン酸化FRS2α抗体;及び、アルカリホスファターゼの基質(NPP等)又はペルオキシダーゼの基質(DAB、TMB、OPD等)、を含む。
補足抗体と一次抗体は、異なるエピトープを認識する。
このようなキットでは、まず、マイクロタイタープレートに補足抗体を固定し、ここに尿サンプルを適宜希釈して添加した後インキュベートし、サンプルを除去して洗浄する。続いて、一次抗体を添加してインキュベート及び洗浄を行い、さらに酵素標識した二次抗体を添加してインキュベートを行った後、基質を加えて発色させる。マイクロタイタープレートリーダー等を用いて発色を測定することにより、リン酸化FRS2α量を求めることができる。二次抗体を用いることにより、反応が増幅され検出感度を高めることができる。
【0045】
また、検査用キットの別の態様は、マイクロタイタープレート;一次抗体としての抗リン酸化FRS2α抗体;アルカリホスファターゼ又はペルオキシダーゼで標識した、抗リン酸化FRS2α抗体;及び、アルカリホスファターゼ又はペルオキシダーゼの基質、を含む。
かかるキットによれば、まず、適当な濃度に希釈したサンプルでマイクロタイタープレートをコーティングし、一次抗体を添加する。インキュベート及び洗浄を行った後、酵素標識した二次抗体を添加し、インキュベート及び洗浄を行い、基質を加えて発色させる。マイクロタイタープレートリーダー等を用いて発色を測定することにより、リン酸化FRS2α量を求めることができる。
【0046】
標識抗体は、酵素標識した抗体に限定されず、放射性物質(25I、131I、35S、3H等)、蛍光物質(フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ダンシルクロリド、フィコエリトリン、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、近赤外蛍光材料等)、発光物質(ルシフェラーゼ、ルシフェリン、エクオリン等)、ナノ粒子(金コロイド、量子ドット)等で標識した抗体であってもよい。また標識抗体としてビオチン化抗体を用い、キットに標識したアビジン又はストレプトアビジンを加えることもできる。
抗体は、公知の方法に従って作製したものでもよいし、既存の抗体を用いることもできる。
【0047】
本発明の検査用キットのさらに別の態様として、ラテックス凝集法によってリン酸化FRS2αを測定するためのものも挙げられる。このキットは、抗リン酸化FRS2α抗体感作ラテックスを含み、尿サンプルと抗リン酸化FRS2α抗体とを混合し、光学的方法で集塊を定量する。キットに凝集反応を可視化する凝集反応板が含まれていてもよい。
【0048】
[尿検査用抗体アレイ]
本明細書において、「尿検査用抗体アレイ」は、FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子に対する抗体を含む2種以上の抗体が固相担体に固定されたものをいう。即ち、尿検査用抗体アレイには、FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子に対する抗体以外の抗体が固定されていてもよい。FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子に対する抗体以外の抗体は、特定の疾患に関連して尿中の濃度が変化する分子(疾患関連分子)に対する抗体とすることができる。
かかる疾患関連分子としては、例えば、アディポネクチン、アミノペプチダーゼN、アンジオテンシノーゲン/セルピンA8、アネキシンV、β2ミクログロブリン、クラステリン、CXCL16、Cyr61/CCN、シスタチンC、DPPIV/CD26、EGF、EGF R/ErbB1、FABP1/L-FABP、Fetuin A、GRO-α/CXCL1、IL-1ra、IL-6、IL-10、TIM-1/KIM-1/HAVCR、リポカイン2/NGAL、MCP-1/CCL2、MMP-9、ネプリライシン、PSA/KLK-3、RAGE、RBP-4、レニン、レジスチン、SCF、セルピンA3、TNF-α、TNF-RI、トレフォイル因子3、トロンボスポンジン-1、TWEAK、uPA、VCAM-1、VEGF-A、アルブミン、α1ミクログロブリンが挙げられるがこれらに限定されない。
また、尿検査用抗体アレイは、FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子に対する抗体を2種以上固定したものであってもよい。
尿検査用抗体アレイによれば、患者から採取し、必要に応じて処理した尿サンプルをアレイと接触させるという簡単な方法により、糸球体上皮細胞障害を含む複数の疾患の検査を、一度に行うことができる。
【0049】
[尿検査用キット]
本明細書において、「尿検査用キット」とは、上述した尿検査用抗体アレイを含むキットをいい、糸球体上皮細胞障害の検査用キットと同様に、検出対象分子及び疾患関連分子を検出するために必要な各種試薬や装置を含む。
尿検査用キットによれば、糸球体上皮細胞障害を含む複数の疾患の罹患の有無、罹患可能性、進展や予後の検査を一度に行うことができる。
【0050】
[診断方法]
本発明は、被検者の尿中の検出対象分子を検出する工程を含む診断方法も包含する。
診断方法は、医師が、患者が糸球体上皮細胞障害に罹患しているか、又は罹患する可能性があるかを調べる方法、疾患の進展又は予後を調べる方法、治療反応性を調べる方法等をいうが、これらに限定されない。
【0051】
[スクリーニング方法]
本明細書において「スクリーニング方法」は、候補化合物から、糸球体上皮細胞障害の治療又は予防薬を選択する方法をいい、ヒトを除く哺乳動物に、候補化合物を投与する工程と、その哺乳動物の尿中のFGF受容体又はその下流のシグナル関連分子を検出する工程と、を含む。
哺乳動物の尿中のFGF受容体又はその下流のシグナル関連分子を検出する工程は、上述した、糸球体上皮細胞障害の検査方法に準じて行うことができる。
これまで、糸球体障害を改善する候補化合物をスクリーニングするためには、組織の糸球体上皮マーカーの検出や構造の評価以外の有効な指標がなく、実際に糸球体上皮細胞障害を起こさせその組織を採取しなければならなかった。
本発明のスクリーニング方法は、尿という非侵襲的に採取できる検体を用いることができるうえに、糸球体上皮細胞の状態を迅速に反映する指標を用いるので、候補化合物による効果をリアルタイムに検出することができる。しかも糸球体上皮細胞に障害がない状態であっても検出可能限界内であることから、予防薬のスクリーニングにも適する。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に何ら限定されない。
【0053】
[免疫蛍光染色]
ヒト糸球体の染色のために、the Human Tissues and Biofluids Bank(Asterand社)から腎臓サンプルを入手した。すべてのサンプルは、腎疾患ではなく、がん関連疾患の患者から外科的に切除されたものであった。GPC5とネフリンの二重染色には、凍結サンプルを使用した。凍結切片(厚さ5μm)は乾燥させ、室温で20分間、4%のパラホルムアルデヒドで固定した。スライドをPBSで3回洗浄した後、抗GPC5抗体(R&D Systems社)及び抗ネフリン抗体(Acris Antibodies GmbH社)と一緒にover nightインキュベートした。
マウスの染色のために、凍結サンプルを使用した。FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4とネフリンの二重染色には凍結サンプルを使用した。凍結切片(厚さ5μm)は乾燥させ、室温で20分間、冷アセトン固定で固定した。スライドをPBSで3回洗浄した後、抗FGFR1/2/3/4抗体(すべてabcam社)及び抗ネフリン抗体と一緒にover nightインキュベートした。
PBSでスライドを洗浄した後、蛍光標識した二次抗体(Invitrogen社)と一緒に45分間インキュベートした。各切片を、共焦点顕微鏡(LSM510 Meta NLO imaging system; Carl Zeiss社)又は蛍光顕微鏡(E600; Nikon社)により観察した。
【0054】
[In vitroノックダウン]
ラットの培養糸球体上状細胞(GEC)を用いて、in vitroノックダウンの実験を行った。予めデザインしたGpc5遺伝子を標的とするGpc5-siRNA(NM_001107285.1_stealth_1056; Invitrogen社)、又は、ネガティブコントロールとしてStealth RNAi Negative Control Med GC(Invitrogen社)を、Lipofectaimen 2000(Invitrogen社)を用いてGECに導入した。導入コントロールのために、BLOCK-iTTMAlexa Fluor(登録商標)Red Fluorescent Oligoを同時に導入した。
Gpc5-siRNAのセンス配列及びアンチセンス配列は以下のとおりである。
5'-GCAGGCGCUUAAUCUGGGCAUUGAA-3' (配列番号:1)
5'-UUCAAUGCCCAGAUUAAGCGCCUGC-3' (配列番号:2)
TRIzol(Invitrogen社)を用いて細胞RNAを抽出し、DNase I(Roche社)で処理した。一本鎖cDNAを上述の方法で合成した。ノックダウンの程度を評価するため、siRNAを導入後72時間後に細胞におけるGPC5をmRNAレベル及びタンパク質レベルで定量した。
【0055】
[フローサイトメトリーを用いたビオチン化FGF2の結合分析]
Pierce EZ-Link MicroSulfo-NHS-LC biotinylation kit(Thermo Fisher Scientific社)を用いて、組換えヒトFGF2(科研製薬株式会社より提供を受けた)をビオチン化した。25μgのFGF2の標識のために、8μlの9mM Sulfo-NHS-LC-Biotin溶液(ジメチルスルホキシド中)とFGF2を、全量300μlとして1時間室温でインキュベートした。Zeba desalt spin columnで過剰なビオチンを除去した。
上述のGpc5に対するリポソームを用いたsiRNAによるノックダウンの後、氷冷したPBSと3%熱失活ウシ胎児血清/2%アジ化ナトリウムで、GECを2回洗浄した。GECを、10nMのビオチン化FGF2と一緒に、4℃で45分インキュベートした。続いて、5μg/mlのR-フィコエリスリン標識ストレプトアビジン(Jackson ImmunoResearch Laboratories社)と共に、4℃で30分間暗室に静置した。GECを洗浄し、500μlのPBSに再懸濁した。細胞表面に残存したビオチン化されたFGF2を、FACScan analyzer(BD Biosciences社)で測定した。
【0056】
[シグナル伝達]
サブコンフルエントのGECを、18時間、血清飢餓培養(0.1% FBS)し、その後FGF2で刺激した。
細胞の形態学的分析として、細胞をFGF2(100nm/ml)で15分間処理した後、Nikon Eclipse microscopeで解析し、デジタルカメラで撮影した。
シグナル伝達解析として、細胞をFGF2(1ng/ml)で60分処理した後、氷冷したPBSでリンスし、緩衝液(0.5% Triton X-100, 50 mM Tris, pH 7.5, 150 mM sodium chloride, 1 mM phenylmethylsulfonyl fluoride, 1 mM sodium orthovanadate, and 1 Ag/ml of leupeptin, and aprotinin)中で溶解させた。細胞溶解物を5分間沸騰させ、SDS-PAGEに供した。
ウェスタンブロッティングのために、タンパク質を電気泳動によって膜に移し、5%スキムミルクでブロッキングした。膜を一次抗体と一緒にインキュベートした。一次抗体としては、抗GPC5抗体(R&D Systems社)、抗FRS2α抗体(Santa Cruz Biotechnology社)、抗リン酸化FRS2α抗体(Cell Signaling社)、及び抗アクチン抗体(Santa Cruz Biotechnology社)を用いた。ホースラディッシュペルオキシダーゼで標識した二次抗体、及びEnhanced ChemiLuminescence(ECL)を用い、使用説明書に従って免疫反応性を検出した。
【0057】
[細胞周期アッセイ]
細胞周期を分析するために、siRNA処理後の0.5×105個の細胞を、0.5mlの50μg/ml ヨウ化プロピジウム溶液(w/v)及び10μg/mlのRNase A(w/v)(PBS中)に再懸濁した。フローサイトメトリーを用いて、Transfection control positive cellsをゲーティングした後、公知の方法により(Lai, J.P. et al. Hepatology 47, 1211-22 (2008).)細胞周期を分析した。
【0058】
[アルブミン流出アッセイ]
単層の糸球体上皮細胞のろ過バリア機能を評価するため、Ricoらの方法(Rico, M. et al. Am J Physiol Renal Physiol 289, F431-41 (2005).)に従って、簡単なアルブミン流出アッセイを行った。まず、処理後のGEC細胞を24ウェルの1型コラーゲンでコーティングされたBD BioCoatTM cell culture insert(膜孔サイズ0.4μm、膜孔密度1,600,000/m2)に配置した(BD Company社)。
細胞を37℃で18時間培養し、カドヘリンによる細胞間結合を保護するため、1mmol/lのMgCl2及び1mmol/lのCaCl2を添加したPBSで2度洗浄した。分析時に十分コンフルエントになるように、培養細胞の濃度を調節した。フィルター上の単層の細胞の上部になるチャンバーは、0.6%のBSA(w/v)を含むRPMI1640培地(Invitrogen社)で満たし、下部チャンバーは、RPMI1640倍地のみで満たした。細胞を37℃で8時間インキュベートした後、Bradford assay(Bio-Rad社)により、下部チャンバーに対する上部チャンバーのアルブミン濃度比を測定した。
【0059】
[動物実験のプロトコル]
すべての動物実験は、アメリカ国立衛生研究所(NIH)のガイド(Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)に従って行った。
コンディショナルノックダウン実験のために、バックグラウンドをBDF1マウスとした、ポドサイト特異的GPC5ノックダウンマウスを用いた。このマウスは、マウスGpc5遺伝子に対するポドシンプロモーターに駆動されるmiRNAを用いたコンディショナルトランスジェニックシステムを利用して作製した。ベクターのコンストラクトは、ポドシンプロモーターと、Gpc5 mRNAをターゲットととする3種類のmiRNAを転写する配列を含む。これにより、ポドサイトにおける選択的なGpc5遺伝子のノックダウンが生じる(12-16週齢)。このマウスの野生型の兄弟は、コンディショナルノックダウン実験の同胞コントロールとして用いた。マウスの遺伝子型は、PCR及びサザンブロッティングによって決定し、ポドサイトにおけるGpc5遺伝子の選択的なノックダウンを確認した。(1)同胞コントロールマウスと(2)ノックダウンマウスとした。
コンディショナルノックダウン実験のネフローゼ症候群(NS)モデルとして、ピューロマイシンアミノヌクレオシド(PAN;Sigma-Aldrich社)を0日目に皮下注射によって投与した(300mg/kgBW)。FGF2は静脈注射によって0日目と1日目(5μg per animal)に投与した。
siRNA全身投与実験では、PAN-FGF誘導NSモデルに、野生型BDF1マウス(12−14週齢;Japan SLC社)を用い、アドリアマイシン誘導アルブミン尿モデルには、BALB/Cマウス(10−12週齢)を用いた。
マウスGpc5−siRNA及びスクランブルsiRNAは、Invitrogen社より、アニールされたものをin vivoグレードで入手した。
Gpc5-siRNAの配列は、
5'-GCAGGCGCUUAAUCUGGGCAUUGAA-3' (配列番号:1)
5'-UUCAAUGCCCAGAUUAAGCGCCUGC-3' (配列番号:2)
スクランブル−siRNAの配列は、
5'-CCUACAUGACGACGAUGUACCGUGA-3' (配列番号:3)
5'-TCACGGTACATCGTCGTCATGTAGG-3' (配列番号:4)
であった。
400μgの合成siRNAを0.8mlのPBSに溶解させ、速やかにハイドロダイナミック法(文献32、33)により速やかに静注した。動物は、(1)スクランブル−siRNAマウスと、(2)Gpc5-siRNAマウスの2群に分けた。
ネフローシスモデルにおいては、PANは0日目に皮下に注射し(500mg/kg)、FGF2は0、1、2及び3日目に静脈に注射し(5μg day per animal)、siRNAはsiRNA処理群に5日目に注射投与した。
アルブミン尿モデルにおいては、アドリアマイシンを0日目に静注し(10mg/kg)、siRNAはsiRNA処理群に0日目に注射投与した(図4C)。
実験中、尿サンプルは、1日目から7日目まで毎日回収し、それ以降は10目と14日目(アドリアマイシンモデルは21日目)に回収した。各群のマウスは、10日目と28日目(アドリアマイシンモデルは21日目)に解剖した。腎臓をPBSで完全に灌流した後、光学顕微鏡、電子顕微鏡、免疫蛍光染色のために摘出した。
【0060】
[尿中アルブミン、尿中クレアチニン、血清血液尿素窒素(BUN)及び血清アルブミンの解析]
マウス用microalbuminuria ELISA kit(AlbuwellM; Exocell社)を用いて、尿中及び血清中のアルブミンレベルを測定した。尿中クレアチニン濃度は、Nescoat VLII CRE(Alfresa Pharma)を用いて、血液尿素窒素は、BUN Wako B(Wako社)を用いてそれぞれ測定した。アルブミン尿は、尿中クレアチニンに対する尿中アルブミンの比(g/gCr; ACR)で評価した。すべての操作は、使用説明書に従って行った。
【0061】
[腎臓病理]
マウスから得た腎臓組織は、10%中性緩衝ホルマリンで直ちに一晩固定し、アルコールで脱水した後、パラフィン包埋し、光学顕微鏡での観察に供した。PAS染色切片において、硬化を示す糸球体を数えた。次に、以下のように硬化スコアを修正したスコアシステムを用いた評価した。各サンプルは、関連する糸球体内硬化の割合に応じて0から4のスコアに分類した(0%=0、1−25%=1、26−50%=2、51−75%=3、76−100%=4)(Saito, T. et al. Kidney Int 32, 691-9 (1987).)。25個の糸球体の各スコアを合計して、各サンプルについて0から100の範囲で定量化した。
電子顕微鏡による分析には、腎皮質を氷上で刻み、直ちに2.5%グルタルアルデヒド中で一晩固定し、50mMのTris-(hydroxylmethyl)aminomethane-HCl buffer(pH7.6)で洗浄した。サンプルをスクロース中で脱水し、OsO4中で固定し、Epon包埋した。ミクロトーム(MT2-B; Sorvall)のガラスナイフで極薄切片を作製し、染色せずに電子顕微鏡(Hitachi H-1000 electron microscope)で観察した。
【0062】
[統計解析]
データは、平均±SD(ヒト)又はSE(in vitro及び動物実験)で示す。P<0.05の場合を統計的に有意とした。
【0063】
結果
免疫染色
免疫染色の結果を図1に示す。GPC5が、糸球体において高発現していることを確認した。また、GPC5の局在は、糸球体上皮細胞マーカーとヒト腎臓における毛細管内皮細胞の局在と一致していた。
一方、ポドサイト特異的ノックダウンマウスにおいては、糸球体のGPC5発現はほとんど抑制されていた。
これらの結果は、GPC5は、ポドサイトで発現が優勢であること、細胞表面の膜で発現していること、一部が糸球体間に放出されることを示している。
【0064】
in vitroのGPC5ノックダウン解析
また、ラットの培養糸球体上皮細胞(GEC)(Kim, B.S., et al. J Am Soc Nephrol 13, 2027-36 (2002).; Chen, J. et al. Am J Physiol Cell Physiol 282, C1053-63 (2002).)を用いて、FGF2シグナル伝達とGPC5の関係を調べた結果を図2Aに示す。
siRNAによってGPC5をノックダウンしたGECにおいては、細胞表面へのFGF2の結合量が減少した。
ウェスタンブロッティングの結果を図2Bに示す。GPC5のノックダウンによって、FGF2によって誘導されるFRS2αのリン酸化が有意に抑制された。この結果は、ポドサイトにおいて、GPC5がFGFシグナルを増強していることを示唆する。
FGF2シグナルを増強した場合に、ポドサイトの形態に及ぼす影響を調べた結果を図2Cに示す。GPC5のノックダウンによって、円形化が減少し、FGF2誘導性の脱分化が抑制された。さらに、図2Dに示されるとおり、GPC5のノックダウンにより、GECは、G0/G1期が優勢となり、G2/M期が減少した。
また、ネフローゼ症候群に対するGPC5の機能的な関連を評価するため、GECのろ過機能をアルブミン透過性で評価した結果を図2Eに示す。Gpc5をノックダウンすると、細胞の単層を透過するアルブミン量が減少した。
これらのin vitroの実験結果は、GPC5-FGFシグナルが、ポドサイトの分化と、アルブミン透過性などの機能に大きく影響することを示している。
【0065】
ポドサイト特異的Gpc5ノックダウンマウスによる解析
ネフローゼ症候群におけるGPC5-FGFシグナルの重要性をさらに調べるために、ポドサイト特異的Gpc5ノックダウンマウスを作製した(図14)。このマウスは繁殖可能であり、成体になるまで特に表現型を示さない。
このマウスに、FGF2又はピューロマイシンアミノヌクレオシド(PAN)のいずれかを投与してもネフローゼ性の重篤な蛋白尿は引き起こされなかったので、PANとFGF2の両方を投与した。
結果を図3Aに示す。コントロールのマウスは重篤な蛋白尿を呈し、10日間以上その状態が続いた。一方、GPC5ノックダウンマウスは、軽度の蛋白尿を呈したのみであった。コントロールマウスは、10日目及び14日目において血清アルブミンの減少も示したが、GPC5ノックダウンマウスは、わずかな変化しか示さなかった。
また、コントロールマウスでは、7、10及び14日目に、血液尿素窒素(BUN)の増加が観察された(図3B)。顕微鏡で観察したところ、コントロールマウスでは、28日目に、約25%が糸球体の全硬化を示し、50%が部分的な硬化を示し、また、限局的な尿細管間質障害も見られた。
対照的に、GPC5ノックダウンマウスでは、90%の糸球体にはほとんど変化が見られず、尿細管間質障害も軽度であった(図3C)。
糸球体硬化スコアは、コントロールマウスと比較してGpc5ノックダウンマウスにおいて有意に低かった(図3D)。
電子顕微鏡で観察したところ、コントロールマウスでは、10日目に足突起の癒合が見られたが、GPC5ノックダウンマウスでは、ほぼ正常のままだった(図3E)。
これらのin vivoの実験は、ネフローゼ症候群の発症におけるGPC5-FGFシグナルの役割を強く示唆する。
【0066】
Gpc5-siRNAの全身投与
ネフローゼ症候群におけるGpc5の抑制による効果を明らかにするために、蛋白尿を誘導した後、siRNAの全身投与を行った。PAN及びFGF2の投与により、5日目から14日目に、BDF1マウスに重篤な蛋白尿が誘導された(図4A)。
5日目に、ハイドロダイナミック法により、Gpc5-siRNA又はスクランブルsiRNAを注射投与した。ノックダウンの効果を8日目に確認した。
Gpc5-siRNAを投与したマウスでは、7日目及び10日目にアルブミン尿が著しく減少し(図4A)、10日目及び14日目に血清アルブミンが上昇した(図4B)。糸球体の病理学的障害は、Gpc5-siRNAにより有意に緩和された。
siRNAの全身投与によるGpc5のノックダウンによって、ネフローゼ症候群が発症した後でも、蛋白尿が改善され、病理学的障害が低減されることが確認された。
これらの結果は、仲介的な役割をしているタンパク質であるGPC5が、血液内を循環しているFGF2を捕捉することによってポドサイト周辺のFGF2濃度を増加させ、ポドサイトにおいてFGFシグナルを誘導し、FGFシグナルがネフローゼ症候群を惹起する構造的な変化を生じさせることによるのかもしれない。
アドリアマイシンを用いた別のネフローゼモデルにおいても、Gpc5-siRNAの投与は、アルブミン尿及び足突起の消失を著しく抑制した(図4C、4D)。
これらのデータは、GPC5-FGFシグナルが、他の糸球体疾患において見られるポドサイトの障害にも強く関与していることを示唆する。
【0067】
糖尿病患者の尿中のFRS2α量の測定
糖尿病患者及び健常者から得た尿検体に、プロテアーゼ阻害カクテルとsodium orthovanadateを加えた。ProteoSpin Urin protein Concentration Micro Kit(Norgene社、Canada)を使用し、最終Cr(クレアチニン)5μg/μLになるように調整し、電気泳動の際、各wellに7.5μL相当の蛋白をアプライした。
次に、5% Skim milkで室温に1時間静置してブロッキングし、1次抗体として、 Phospho-FRS2α (Tyr196) Antibody (Cell signaling)を1000倍希釈して用い、Skim milk 5%含有TBS-T溶液中で、一晩4℃でインキュベートした。
2次抗体として抗ウサギHRP抗体を用い、5% Skim milk含有Canget signal 溶液2中で、1時間室温でインキュベートし、ECL Plus Western Blotting. Detection Reagentsで検出した。
結果を図A及びHに示す。糖尿病患者の尿中にはリン酸化FRS2αが検出されたが、健常者の尿中、及び健常者及び糖尿病患者の血清中では検出されなかった(図5)。
糖尿病患者の尿中のリン酸化FRS2α量は、疾患の進行とともに増加していた。尿タンパク質が検出限界以下である第1期や、自覚症状のない第2期の患者の尿中でもリン酸化FRS2αが検出された。
また、図12に示すとおり、尿中のリン酸化FRS2αは、治療に速やかに反応して減少することも確認した(NS+Tx)。(lane 1)微小変化群-治療前、(lane 2)微小変化群-副腎皮質ホルモン開始2週間後、(lane 3)巣状糸球体硬化症治療前、(lane 4)糖尿病性腎症。
【0068】
糖尿病モデルマウスを用いた検討
1.糖尿病モデルマウスの腎皮質におけるFGF2及びFGF受容体の発現
FGF2濃度は、Akita miceと同胞ワイルドマウスの腎皮質を粉砕しプロテアーゼ阻害カクテルとsodium orthovanadateを含むRAIPA液に溶解させたものをELISA(RayBiotech, Inc.)で測定した。FGF受容体のmRNAは、腎皮質より抽出したtotal RNAを用いてreal time PCRで定量化した。
結果を図6及び7に示す。糖尿病モデルマウスの腎皮質におけるFGF2の含有量は、コントロールマウスと比較して、有意に高くなっていた(図6)。また、糖尿病モデルマウスでは、FGF受容体についても、FGFR1、FGFR3及びFGFR4の発現が上昇していた(図7)。
【0069】
2.糖尿病モデルマウスの糸球体におけるFGF受容体の発現
上記免疫蛍光染色の方法に従って、糖尿病モデルマウスの糸球体内におけるFGF受容体の発現を調べた。
結果を図8に示す。FGFR3及びFGFR4の発現が亢進していた。
【0070】
糸球体上皮細胞の細胞株を用いた高血糖による発現誘導
図9に示すスケジュールで、マウス糸球体上皮細胞株とコントロールとしてNIH-3T3細胞株を、高血糖条件(グルコース2000mg/dlを培地に添加)又は低血糖条件(グルコース200mg/dl、及び1.8%D-マンニトールを培地に添加)で、細胞を培養した。
結果を図10に示す。糸球体上皮細胞の細胞株では、高血糖により、FGFR3及びFGFR4の発現が誘導された。
【0071】
糖尿病モデルマウスにおけるFGFシグナルに対する脆弱性
糖尿病モデルマウス(AKITA)及びコントロールマウス(C56B/6)に、FGF2を投与し(5μg/日で4日間)、尿中クレアチニンに対する尿中アルブミンの比(g/gCr; ACR)を測定した。
糖尿病モデルのAKITAマウスにFGF2を投与すると、ACRが上昇し蛋白尿を生じることを確認した(図11)。
【0072】
以上のとおり、糖尿病性腎症おいても、尿中のリン酸化FRS2α量が増加していることから、このことは、原発性、二次性に関わらず糸球体上皮細胞障害においてFGF2-FGF受容体-FRS2αリン酸化が関与していることが明らかとなった。
また、糖尿病性腎症の場合、高血糖により、糸球体でのFGF2及びFGF受容体の発現が増加することでFGFシグナルが増強され、糸球体上皮細胞障害が惹起されることが示唆された。
さらに、糖尿病モデルマウスをFGF2で刺激すると、蛋白尿を発症することがわかった。
【配列表フリーテキスト】
【0073】
配列番号:1は、Gpc5-siRNAのセンス配列である。
配列番号:2は、Gpc5-siRNAのアンチセンス配列である。
配列番号:3は、スクランブル-siRNAのセンス配列である。
配列番号:4は、スクランブル-siRNAのアンチセンス配列である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸球体上皮細胞障害の検査方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
糸球体上皮細胞障害を来たす病態は、その原因によって、糸球体自体の障害に起因する原発性(一次性)と、糖尿病・膠原病・悪性腫瘍・感染症などの全身性疾患に起因する二次性(続発性)に分類される。結果として種々の程度の蛋白尿を呈し、微量アルブミン尿からネフローゼ症候群を来たすものまで多岐にわたる。
中でもネフローゼ症候群は、高度の蛋白尿と、これに伴う低蛋白血症を呈する疾患群の総称である。1日あたりの尿中タンパク質量が3.5g以上となる状態が持続し、血清総タンパク質量が6.0g/dl以下(低アルブミン血症とする場合は、血清アルブミン量3.0g/dl以下)となることが診断のための必須条件であり、この基準を満たせば原因にかかわらずネフローゼ症候群と診断される。蛋白尿、低蛋白血症、及び浮腫を主症状とし、その他、高脂血症、全身倦怠感、胸水、腹水、腎機能障害、血圧低下等を認めることもある。
【0003】
糸球体上皮細胞障害を起こす原発性糸球体疾患には、主に、微小変化群(Minimal change nephrotic syndrome; MCNS)、単状分節状糸球体硬化症(Focal segmental glomerulosclerosis; FSGS)、膜性腎症(Membranous nephropathy; MN)、膜性増殖性糸球体腎炎(Membranoproliferative glomerulonephritis; MPGN)、及びIgA腎症がある。二次性には、例えば、糖尿病性腎症、ループス腎炎、腎アミロイド症があり、それぞれ糖尿病、膠原病、アミロイドーシスを原疾患とする。また、HIV、HBV、リーシュマニアなどの感染によって生じる腎障害に起因するものもある。
【0004】
蛋白尿が生じるメカニズムは、糸球体上皮細胞(ポドサイト等とも呼ばれる)の異常(例えば、足突起の癒合・消失やスリット膜の先天性異常・破壊など)によるものと考えられている。
【0005】
また、ある種のネフローゼ症候群は、線維芽細胞増殖因子-2(FGF2)シグナルが増悪因子であることが知られている(非特許文献1−4)。
本発明者らは、これまでに、グリピカン(GPC)5遺伝子上の特定の一塩基多型(SNP)がネフローゼ症候群に関連することを報告した(例えば、特許文献1)。
【0006】
上述のとおり、ネフローゼ症候群の診断は、アルブミンなどの尿中タンパク質量を測定して行われている。しかしながら、尿中アルブミンは、病早期発見を目指す場合にしばしば試験的に測定される微量アルブミンの場合、個々の症例での測定値のばらつきが多く、また標準物質もヒトであったりウシであったりと定まらず、臨床指標として多大な問題点を抱えている。つまり、尿中タンパク質は、タンパク質が漏出する程度まで糸球体の構造が破壊されないと尿中で診断を下せるレベルでは検出されない。従って、この方法は現状では早期診断に適しているとはいえない。
例えば、糖尿病性腎症は、その進行により第1期、第2期、第3期A、B、第4期、第5期に分類されるが、第1期では、尿中アルブミンは検出感度以下であり、第2期以降まで疾患が進行しないと、診断することができない。
【0007】
また、副腎皮質ホルモンや免疫抑制剤の適応がある疾患群において治療薬の効果を評価する場合も、尿中アルブミン/尿蛋白を指標とする場合、糸球体の構造が回復するまで測定値が変化しないため、治療反応性があるのか否か判定するのに、少なくとも2−3週間を要する。治療反応性がない場合にも、この期間は同じ治療を継続する必要があり、治療内容変更に2−3週間ものタイムラグが生まれてしまうので、入院期間・治療期間の延長とさらに副作用の高度化によるリスクの増大が生じる。
糖尿病性腎症においては、第2期以降はアルブミン尿で検出可能であるため、積極的に腎症進展予防薬を使う事ができるが、第1期の段階で第2期以降に進展しうるかどうかや第2期から第3期へ進展する群としない群を予測することは今までできなかった。更に、糖尿病性腎症では症例によって高度ネフローゼを示す症例があり、難治性であることが知られている。また、透析導入の原因としては、2型糖尿病に基づく腎症増悪が最も多い。血液透析治療は1兆円産業であり、毎年1万人ずつ膨張する患者数が医療費増大を大きく後押ししている。
【0008】
そのため、より早期に糸球体上皮細胞障害を判断できる方法や、治療反応性を評価できる方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開WO2010/084668パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Ray, P.E. et al. Pediatr Nephrol 13, 586-93 (1999).
【非特許文献2】Ogata, S. et al. J Am Soc Nephrol 12, 2787-96 (2001).
【非特許文献3】Floege, J. et al. J Clin Invest 96, 2809-19 (1995).
【非特許文献4】Kriz, W. et al. Kidney Int 48, 1435-50 (1995).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、早期に糸球体上皮細胞障害の罹患の有無や罹患可能性を判断できるとともに、糸球体上皮細胞障害の進展や予後、糸球体上皮細胞障害における治療反応性を評価できる簡便な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために研究を重ねた結果、糸球体上皮細胞にGPC5が高発現していること;GPC5−FGF2経路が糸球体上皮細胞の分化やアルブミン透過性に大きく影響すること;及び、GPC5のノックダウンによってFGF2シグナルが抑制されること、ネフローゼ症候群の発症や悪化が抑制され、蛋白尿を改善し、ポドサイトの足突起の癒合・消失を抑制することを確認した。
また、FGF2シグナルにおいては、FGF2がFGF受容体に結合するとFGF受容体の下流でFRS2αがリン酸化されるが、GPC5をノックダウンすると、糸球体上皮細胞におけるFRS2αのリン酸化が減少することを確認した。
以上の事実は、GPC5-FGF2経路が、糖尿病性腎症を含めたネフローゼ症候群の原因の一つであることを強く示唆するものである。
【0013】
一方で、ネフローゼ症候群に関連するGpc5遺伝子のSNPであるrs16946160のオッズ比を様々な糸球体上皮細胞障害で調べたところ、4種類の原発性ネフローゼ症候群のみならず、糖尿病性腎症でもオッズ比が1.0を超えることを確認した。このことは、GPC-FGF2経路が、原発性ネフローゼ症候群のみではなく、二次性ネフローゼ症候群も含む糸球体上皮細胞障害全般に関与していることを示す。
【0014】
さらに、本発明者らは、健常者の尿中では検出されない(あるいは極少量のみ検出される)リン酸化FRS2αが、ネフローゼ症候群患者の尿中からは検出できること;ネフローゼ症候群の治療を開始すると、尿中リン酸化FRS2αが速やかに減少すること;糖尿病性腎症の患者の尿中においては、第1期であってもリン酸化FRS2αが検出され、疾患の進行に伴ってその量が増加すること;糖尿病モデルマウスにおいては、腎皮質におけるFGF2発現が増加しているとともに、FGF受容体の発現も増加し、これによってFGF2シグナルが増強されていること;糸球体上皮細胞の細胞株を高血糖培地で培養すると、FGF受容体の発現が誘導されること;糖尿病マウスにFGF2を投与すると蛋白尿が誘導されること、を確認し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明は、
〔1〕被検者の尿中のFGF受容体又はその下流のシグナル関連分子を検出する工程を含む、糸球体上皮細胞障害の検査方法;
〔2〕前記FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子が、リン酸化FRS2α、活性型Ras、リン酸化Akt、リン酸化STAT3、リン酸化PI3K、及びリン酸化PLCγからなる群より選択される、上記〔1〕に記載の検査方法;
〔3〕前記FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子を検出する工程は、該FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子に対する抗体を用いたイムノアッセイによって行う、上記〔1〕又は〔2〕に記載の検査方法;
〔4〕前記イムノアッセイがELISA法である、上記〔3〕に記載の検査方法;
〔5〕前記糸球体上皮細胞障害が、原発性である、上記〔1〕から〔4〕のいずれか1項に記載の検査方法;
〔6〕前記糸球体上皮細胞障害が、二次性である、上記〔1〕から〔4〕のいずれか1項に記載の検査方法;
〔7〕糸球体上皮細胞障害の罹患の有無、罹患可能性、進展又は予後を判定するための検査方法である、上記〔1〕から〔6〕のいずれか1項に記載の検査方法;
〔8〕糸球体上皮細胞障害に対する治療反応性を判定するための検査方法である、上記〔1〕から〔6〕のいずれか1項に記載の検査方法;
〔9〕FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子に対する抗体を含む、糸球体上皮細胞障害の検査用キット;
〔10〕FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子に対する抗体が、抗リン酸化FRS2α抗体、抗活性型Ras抗体、抗リン酸化Akt抗体、抗リン酸化STAT3抗体、抗リン酸化PI3K抗
体、及び抗リン酸化PLCγ抗体からなる群より選択される、上記〔9〕に記載の検査用キット;
〔11〕FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子に対する抗体を含む2種以上の抗体が固定された尿検査用抗体アレイ;
〔12〕上記〔11〕に記載の検査用抗体アレイを含む、尿検査用キット;及び
〔13〕糸球体上皮細胞障害の治療又は予防薬のスクリーニング方法であって、
ヒトを除く哺乳動物に、候補化合物を投与する工程と、
前記哺乳動物の尿中のFGF受容体又はその下流のシグナル関連分子を検出する工程と、
を含む方法、に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、尿中のFGF受容体又はその下流のシグナル関連分子量を測定するという簡便な方法により、原発性及び二次性糸球体上皮細胞障害の罹患の有無、罹患可能性、進展、予後等を判定し、また、原発性及び二次性糸球体疾患の患者の治療反応性を評価することができる。
本発明によれば、例えば、糖尿病性腎症について、第1期の段階で第2期、第3期に進展するかどうか予測することが可能となる。進展しないと予測される群に対しては、現在行われているむやみな処方薬増加をコントロールすることが可能となり、医療費抑制や患者負担抑制に向けた診療変容へと導くことが可能となる。一方で、第2期、第3期に進展しうると予測される症例については、第1期から積極的に腎症進展予防薬を使うことにより、第2期への進行時期を遅らせることや、進行を防ぐことも可能となる。
本発明によれば、早期診断に基づいて適切な治療を選択することにより、将来的な透析導入を遅らせることや防ぐことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、糸球体サンプルにおけるGPC5の免疫蛍光染色の結果を示す。
【図2A】図2A−Eは、ラット培養糸球体上皮細胞を用いたin vitroのGPC5の機能解析の結果である。図2Aは、GPC5をノックダウンして、又はしないで、FGF2と受容体の結合能を測定した結果を示す。
【図2B】図2Bは、GPC5をノックダウンして、又はしないで、FGF2による刺激を行って、又は行わないで、FRS2αに対するリン酸化FRS2αの割合を測定した結果を示す。
【図2C】図2Cは、GPC5をノックダウンによる、FGF2による糸球体上皮細胞の脱分化への影響を観察した結果を示す。
【図2D】図2Dは、GPC5のノックダウンによる細胞周期への影響を測定した結果を示す。
【図2E】図2Eは、GPCのノックダウンによる糸球体上皮細胞のろ過機能への影響を、ケモタキシスチャンバーに培養した糸球体上皮細胞株を利用してアルブミン透過性を測定した結果を示す。
【図3A】図3A−Eは、ポドサイト特異的ノックダウンマウスを用いたin vivoのGPC5の機能解析の結果である。図3Aは、PAN及びFGF2でネフローゼ症候群を誘導し、ACRを測定した結果を示す。
【図3B】図3B上段は、PAN及びFGF2でネフローゼ症候群を誘導し、血清アルブミンを測定した結果を示し、下段は、BUNを測定した結果を示す。
【図3C】図3Cは、PAN及びFGF2でネフローゼ症候群を誘導し、腎皮質のPAS染色の結果を示す。
【図3D】図3Dは、PAN及びFGF2でネフローゼ症候群を誘導し、硬化スコアを求めた結果を示す。
【図3E】図3Eは、PAN及びFGF2でネフローゼ症候群を誘導し、電子顕微鏡で足突起癒合を観察した結果を示す。
【図4A】図4A−Dは、マウスに蛋白尿を誘導した後、GPC5-siRNAを全身投与した結果である。図4Aは、PAN及びFGFでネフローゼ症候群を誘導し、GPC5-siRNAを全身投与して、ACRを測定した結果を示す。
【図4B】図4Bは、PAN及びFGFでネフローゼ症候群を誘導し、GPC5-siRNAを全身投与して、血清アルブミンを測定した結果を示す。
【図4C】図4Cは、アドリアマイシンでネフローゼ症候群を誘導し、GPC5-siRNAを全身投与して、ACRを測定した結果を示す。
【図4D】図4Dは、アドリアマイシンでネフローゼ症候群を誘導し、GPC5-siRNAを全身投与して、足突起癒合を測定した結果を示す。
【図5】図5は、糖尿病患者及び健常者の尿中と血清中のリン酸化FRS2αを検出した結果を示す。
【図6】図6は、糖尿病モデルマウス(AKITAマウス)及びコントロールマウス(C57BL/6マウス)の腎皮質におけるFGF2の発現を測定した結果を示す。
【図7】図7は、糖尿病モデルマウス及びコントロールマウスの腎臓におけるFGF受容体の発現を測定した結果を示す。
【図8】図8は、糖尿病モデルマウスの糸球体内におけるFGFR1-4の発現を免疫蛍光染色法で検出した結果を示す。
【図9】図9は、マウス糸球体上皮細胞株における高血糖によるFGF受容体の発現の誘導を確認するために行った実験のスケジュールを示す。
【図10】図10は、図9に示す実験の結果を示す。
【図11】図11は、糖尿病モデルマウス及びコントロールマウスにFGF2を投与し、ACRを測定した結果を示す。
【図12】図12は、健常者(Healthy)、ネフローゼ症候群患者(NS)、糖尿病患者(DMN)の尿中のFRS2αを検出した結果を示す。NS+Txは、ネフローゼ症候群患者に治療を行った後の尿の測定結果である。
【図13】図13は、FGF2とFGF受容体の結合によって活性化される経路を示す。
【図14】図14は、ポドサイト特異的ノックダウンマウスの作製に用いたベクター(A)、腎皮質のウェスタンブロッティングの代表的な結果(B)、及び糸球体上皮細胞におけるGPC5の発現をウェスタンブロッティングで検出した代表的な結果(C)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る糸球体上皮細胞障害の検査方法は、被検者の尿中のFGF受容体又はその下流のシグナル関連分子を検出する工程を含む。
FGFは、線維芽細胞や内皮細胞の増殖を促進するタンパク質であり、多様な生物学的応答を惹起するFGFシグナル伝達経路を活性化するリガンドのファミリーである。チロシンキナーゼ活性を有するFGF受容体として、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4の4種類が知られている。
FGFがFGF受容体に結合すると、FGF受容体の細胞内ドメインであるFGF受容体チロシンキナーゼが活性化され、細胞内のFRS2αをリン酸化する。リン酸化FRS2αは、Grp2及びShp2と結合することにより、STAT3/PI3K/PLCγ/Ras/Akt経路等を活性化する。
FGFとFGF受容体の結合により活性化される経路を図13に示す。
【0019】
従来、FGFシグナル伝達は、GPC5によって増強されることが報告されている(Steinfeld, R. et al. J Cell Biol 133, 405-16 (1996).; Schlessinger, J. et al. Cell 83, 357-60 (1995).)。GPCファミリーは、FGFを含む多くの増殖因子に結合することが知られる。GPCは、細胞の増殖や形状を調節するいくつかのシグナル経路のカスケードで機能すると考えられており、特にGPC5は、FGFシグナルを介してがん細胞の増殖を促進することが報告されている。
GPC5は、ヒト成人においては腎臓、脳、肝臓で比較的発現が高いことが知られていた。今般、本発明者らは、GPC5が糸球体においても高発現していること、及び、その局在が、糸球体上皮細胞マーカーとヒト腎臓における毛細管内皮細胞の局在と一致していることを確認した。また、ポドサイト特異的ノックダウンマウスにおいては、糸球体におけるGPC5の発現はほとんど見られなかった。
これらの結果は、GPC5は、ポドサイトで発現が優勢であること、細胞表面の膜において発現していること、及び、その一部が糸球体間に分泌されていることを示す。
【0020】
実施例に示すとおり、in vitroで培養糸球体上皮細胞においてGpc5をノックダウンすると、受容体自体の発現は不変にもかかわらずFGF2の細胞表面への結合が減少し、FGF2シグナルの活性化を示すFRS2αのリン酸化比率が減少し、細胞の脱分化が抑制され、アルブミンの透過性が低下する。
また、ポドサイト特異的Gpc5ノックダウンマウスを作製し、PAN及びFGF2でネフローゼ症候群を誘導しても、蛋白尿は軽度であり、血清アルブミン値の減少もわずかである。糸球体の硬化もほとんど見られず、尿細管間質障害もほとんど生じない。足突起も正常なままである。
PAN及びFGF2でマウスにネフローゼ症候群を誘導し、Gpc5に対するsiRNAを投与すると、蛋白尿が有意に減少し、血清アルブミン値が増加するとともに、糸球体の病理学的障害も緩和された。
以上より、GPC5-FGF2シグナルは、糸球体上皮細胞の脱分化を誘導して足突起を癒合・消失させ、ろ過機能を低下させることにより、ネフローゼ症候群の発症及び悪化に深く関与していることが示唆される。
【0021】
本明細書において、「FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子(以下「検出対象分子」という場合もある。)」とは、FGFがFGF受容体に結合することにより活性化される経路に関与する分子をいい、例えば、FGF受容体、FRS2α、Grp2、Shp2、及びSTAT3/PI3K/PLCγ/Ras/Akt経路等に関与する分子、図13に示される分子が挙げられる。
検出対象分子には、これらの分子が、当該シグナル伝達の活性化の結果、各種の修飾(例えばリン酸化)を受けたものも含まれる。このような修飾を受けた分子としては、リン酸化FRS2α、活性型Ras、リン酸化Akt、リン酸化STAT3、リン酸化PI3K、及びリン酸化PLCγ等が挙げられる。中でもリン酸化FRS2α、リン酸化Stat3は、FGFシグナルへの特異性が高く、検出に適している。なお、2以上の残基がリン酸化されている場合、一部のリン酸化を検出してもよいし、すべてのリン酸化を検出してもよい。
【0022】
本発明の検査に用いられる尿は、常法に従って採取したものを用いることができる。濃縮された起床時尿が好ましい。また採取した尿は、検査時まで-20℃以下で保存し、凍結融解を繰り返さないことが好ましい。
リン酸化された分子を検出する場合脱リン酸化予防のため、採取した尿に、sodium orthovanadate(SOV)を加えてもよい。
【0023】
本明細書において、尿中の分子を「検出する」という場合、尿中におけるその分子の有無を調べることだけではなく、尿中に含まれるその分子の量を測定することも含む。
尿中の検出対象分子を測定する方法は、液体中の特定のタンパク質を検出、測定するためのあらゆる方法を用いて行うことができ、例えば、イムノアッセイ、凝集法、比濁法、ウェスタンブロッティング法、表面プラズモン共鳴(SPR)法等が挙げられるが、これらに限定されない。
検出対象分子に対する抗体と、尿サンプル中の検出対象分子との抗原抗体反応を利用して、検出対象分子の量を測定するイムノアッセイは特に簡便で好ましい。
【0024】
イムノアッセイは、検出可能に標識した検出対象分子に対する抗体、又は、検出可能に標識した検出対象分子に対する抗体に対する抗体(二次抗体)を用いる。抗体の標識法により、エンザイムイムノアッセイ(EIA又はELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、蛍光イムノアッセイ(FIA)、蛍光偏光イムノアッセイ(FPIA)、化学発光イムノアッセイ(CLIA)等に分類され、これらのいずれも本発明の方法に用いることができる。
ELISA法では、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ等の酵素、RIA法では、125I、131I、35S、3H等の放射性物質、FPIA法では、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ダンシルクロリド、フィコエリトリン、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、近赤外蛍光材料等の蛍光物質、CLIA法では、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、エクオリン等の発光物質で標識した抗体が用いられる。その他、金コロイド、量子ドットなどのナノ粒子で標識した抗体を検出することもできる。
また、イムノアッセイでは、検出対象分子に対する抗体をビオチンで標識し、酵素等で標識したアビジン又はストレプトアビジンを結合させて検出することもできる。
【0025】
イムノアッセイの中でも、酵素標識を用いるELISA法は、簡便且つ迅速に抗原を測定することができて好ましい。
ELISA法には競合法とサンドイッチ法がある。競合法では、マイクロプレート等の固相担体に検出対象分子に対する抗体を固定し、尿サンプルと酵素標識した検出対象分子を添加して、抗原抗体反応を生じさせる。いったん洗浄した後、酵素基質と反応、発色させ、吸光度を測定する。尿サンプル中の検出対象分子が多ければ発色は弱くなり、尿サンプル中の検出対象分子が少なければ発色が強くなるので、検量線を用いて検出対象分子量を求めることができる。
例えば、検出対象分子がリン酸化FRS2αの場合、検出対象分子に対する抗体としては、抗リン酸化FRS2α抗体や、リン酸化FRS2αに結合能を有する抗FRS2α抗体とすることができる。
【0026】
サンドイッチ法では、固相担体に検出対象分子に対する抗体を固定し、尿サンプルを添加し、反応させた後、さらに酵素で標識した別のエピトープを認識する検出対象分子に対する抗体を添加して反応させる。洗浄後、酵素基質と反応、発色させ、吸光度を測定することにより、検出対象分子量を求めることができる。サンドイッチ法では、固相担体に固定した抗体と尿サンプル中の検出対象分子を反応させた後、非標識抗体(一次抗体)を添加し、この非標識抗体に対する抗体(二次抗体)を酵素標識してさらに添加してもよい。
例えば、検出対象分子がリン酸化FRS2αの場合、一次抗体と二次抗体の組合せとして、異なるエピトープを認識する2種類の抗リン酸化FRS2α抗体の組合せ、リン酸化FRS2αに結合能を有する抗FRS2α抗体と抗リン酸化FRS2α抗体の組合せ、抗FRS2α抗体又は抗リン酸化FRS2α抗体と抗リン酸化チロシン抗体との組合せ、等を用いることができる。
例えば、検出対象分子がリン酸化STAT3の場合、一次抗体と二次抗体の組合せとして、異なるエピトープを認識する2種類の抗リン酸化STAT3抗体の組合せ、リン酸化STAT3に結合能を有する抗STAT3抗体と抗リン酸化STAT3抗体の組合せ、抗STAT3抗体又は抗リン酸化STAT3抗体と抗リン酸化チロシン抗体との組合せ、等を用いることができる。
【0027】
本明細書において、「固相担体」は、抗体を固定できる担体であれば特に限定されず、ガラス製、金属性、樹脂製等のマイクロタイタープレート、基板、ビーズ、ニトロセルロースメンブレン、ナイロンメンブレン、PVDFメンブレン等が挙げられる。
【0028】
酵素標識を検出するための酵素基質は、酵素がペルオキシダーゼの場合、3,3'-diaminobenzidine(DAB)、3,3',5,5'-tetramethylbenzidine(TMB)、o-phenylenediamine(OPD)等を用いることができ、アルカリホスファターゼの場合、p-nitropheny phosphate(NPP)等を用いることができる。
【0029】
また、上記イムノアッセイの中で、微量のタンパク質を簡便に検出できる方法として凝集法も好ましい。凝集法としては、例えば、抗体にラテックス粒子を結合させたラテックス凝集法が挙げられる。
ラテックス粒子に検出対象分子に対する抗体を結合させて尿サンプルに混合すると、検出対象分子が存在すれば、抗体結合ラテックス粒子が凝集する。そこで、サンプルに近赤外光を照射して、吸光度の測定(比濁法)又は散乱光の測定(比朧法)により凝集塊を定量し、抗原の濃度を求めることができる。
【0030】
本明細書において「抗体」は、抗原に特異的に結合する免疫グロブリンをいい、IgM、IgG、IgA、IgE、IgDのいずれのサブクラスであってもよい。また、抗原に特異的に結合する限り、Fab、F(ab')2、Fab'、scFv、di-scFv等のフラグメントであってもよい。
抗体は、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体のいずれも公知の方法に従って作製することができる。モノクローナル抗体は、例えば、検出対象分子又はその断片で免疫した非ヒト哺乳動物から抗体産生細胞を単離し、これを骨髄腫細胞等と融合させてハイブリドーマを作製し、このハイブリドーマが産生した抗体を精製することによって得ることができる。また、ポリクローナル抗体は、検出対象分子又はその断片で免疫した動物の血清から得ることができる。
【0031】
検出対象分子に対する抗体は、既存の抗体を用いてもよい。
検出対象分子がリン酸化FRS2αである場合、抗リン酸化FRS2α抗体として、例えば、Phospo-FRS2α(Tyr196)Antibody(Cell Signaling社)や、抗リン酸化FRS2抗体(Meso Scale Discovery社、Tyr196又はTyr436)を用いてもよい。また抗FRS2α抗体としては、FRS2 (H-91) antibody (Santa Cruz社)が挙げられる。検出対象分子がリン酸化STAT3である場合、Phospho-Stat3 (Tyr705) Antibody (Cell Signaling社)や、抗リン酸化STAT3抗体(Meso Scale Discovery社、Tyr705)を用いてもよい。また抗STAT3抗体としては、STAT3 (C-20) antibody (Santa Cruz社)が挙げられる。
【0032】
本明細書において「糸球体上皮細胞障害」は、その最も広い意味で用いられ、その原因を問わず、糸球体上皮細胞が障害を受けた病態をいう。糸球体上皮細胞障害には、糸球体自体の障害に起因する原発性と、他の全身性疾患に起因する二次性がある。
原発性糸球体上皮細胞障害には、病態として、原発性ネフローゼ症候群と、尿中タンパク質量がネフローゼ症候群の診断基準に満たない原発性軽度蛋白尿が含まれる。
二次性糸球体上皮細胞障害には、病態として、二次性ネフローゼ症候群と、尿中タンパク質量がネフローゼ症候群の診断基準に満たない二次性軽度蛋白尿が含まれる。
【0033】
本明細書において「ネフローゼ症候群」は、その最も広い意味で用いられ、蛋白尿(1日あたりの尿中タンパク質量が3.5g以上となる状態が持続する)、低蛋白血症(血清総タンパク質量が6.0g/100ml以下(低アルブミン血症とする場合は、血清アルブミン量3.0g/100ml以下))を呈する限り、その原因を問わず、原発性及び二次性ネフローゼ症候群を含む。
【0034】
原発性糸球体上皮細胞障害としては、例えば、微小変化群(Minimal change nephrotic syndrome; MCNS)、単状分節状糸球体硬化症(Focal segmental glomerulosclerosis; FSGS)、膜性腎症(Membranous nephropathy; MN)、膜性増殖性糸球体腎炎(Membranoproliferative glomerulonephritis; MPGN)、及びIgA腎症が挙げられる。
二次性糸球体上皮細胞障害としては、例えば、糖尿病に起因する糖尿病性腎症、膠原病に起因するループス腎炎、アミロイドーシスに起因する腎アミロイド症、HIV、HBV、リーシュマニアなどの感染症に起因する腎症などが挙げられる。
【0035】
特許文献1に記載したゲノムワイド関連解析を行った結果に基づいて、ネフローゼ症候群関連SNPであるrs16946160について、原因を異にする糸球体上皮細胞障害のそれぞれについてオッズ比を求めたところ、下表に示すとおり、種々の糸球体上皮細胞障害で1を超えるオッズ比が得られた。
このことは、GPC5が、ポドサイト障害及び蛋白尿に共通するパスウェイに関与していること、すなわち発症の原因にかかわらず糸球体上皮細胞障害に関与していることを支持するものである。
そうすると、GPC5-FGF2シグナルに関連する本発明の検査方法は、原因にかかわらず広く糸球体障害を認める疾患の検査に用いることができることが理解される。
【表1】
【0036】
中でも、本発明の検査方法は、糖尿病性腎症の検査に好ましく用いられる。
糖尿病性腎症は、進行に従って、第1期、第2期、第3期A、第3期B等に分類される。第1期は、腎症前期とも呼ばれ、糸球体ろ過量(GFR)が増加するが、症状はなく、尿中アルブミンも検出感度以下である。
第2期は、早期腎症とも呼ばれ、第1期から5−15年で発症する。尿中に微量のアルブミンが検出されるが、自覚症状はない。また高血圧を併発し、腎障害を悪化させる。
第3期Aは、自覚症状はないが、尿検査用試験紙で尿蛋白が陽性となる。第3期Bで続発性ネフローゼ症候群を呈し、低アルブミン血症、浮腫等を生じる。
【0037】
実施例に示すとおり、リン酸化FRS2αは、尿中アルブミンが検出限界以下である第1期においても、尿中で検出される。
従って、本発明の検査方法は、微量アルブミン尿を発症する前段階の腎障害の検査に使用してもよく、検査結果に基づいて進展や予後を予測することができる。
また、実施例に示すとおり、糖尿病モデルマウスにおいては、腎皮質のFGF2レベルが上昇し、腎臓、特に糸球体においてFGF受容体の発現が増加している。in vitroでは、高血糖によりFGF受容体3及び4の発現が誘導される。糖尿病モデルマウスは、FGFシグナルに対する感受性が高い。
【0038】
本明細書において「検査」は、診断に必要な情報を得るために、被検者から採取した試料を調べることを意味し、本発明の検査方法は、例えば検査会社等で実施され得る。
検査には、罹患の有無を調べる検査、罹患の可能性を調べる検査、疾患の進展や予後を調べる検査、治療反応性を調べる検査などが含まれるが、これらに限定されない。
なお、本発明に係る検査方法又は検査用キットを用いて検査した結果を、診断に用いることも可能である。
【0039】
本発明の検査方法の一態様は、被検者の尿中の検出対象分子の濃度と、健常者の尿中の検出対象分子の濃度とを比較する工程を含む。健常者の尿と比較して、被検者の尿中の検出対象分子の濃度が有意に高い場合に、該被検者は糸球体上皮細胞障害を来たしているあるいは将来的に来たす可能性が高い。
【0040】
また、本発明の検査方法の別の態様は、糸球体上皮細胞障害を来たしている者あるいは糸球体上皮細胞障害を引き起こす腎症の患者等から治療後に採取した尿中の検出対象分子の濃度を、治療前に測定した尿中の検出対象分子の濃度と比較する工程を含む。
治療後の尿中の検出対象分子の濃度が、治療前の尿中の検出対象分子の濃度と同等かそれ以上の場合、当該患者は、その治療に反応していない可能性が高いと評価される。治療後の尿中の検出対象分子の濃度が、治療前の尿中の検出対象分子の濃度より減少している場合、当該患者は、その治療に反応している可能性が高いと評価される。
【0041】
本明細書において「被検者」は、糸球体上皮細胞障害を来たしている可能性のある者、又は来たす可能性のある者とすることができる。健康診断等において、健常者を被検者としてもよい。また、被検者はヒトに限定されず、他の哺乳動物(ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル等)であってもよい。
【0042】
[糸球体上皮細胞障害の検査用キット]
本発明に係る糸球体上皮細胞障害検査用キットは、上述した検査方法を使用して、糸球体上皮細胞障害の罹患の有無、罹患可能性、進展や予後の検査を行うためのキットであり、検出対象分子に対する抗体を含む。
本発明の検査用キットは、例えば、検出対象分子に対する抗体と検出対象分子との抗原抗体反応を利用するイムノアッセイによって、検出対象分子の濃度を測定するために必要な試薬及び装置を含む。
検出対象分子がリン酸化FRS2αである場合、抗リン酸化FRS2α抗体、及び、抗リン酸化FRS2α抗体とリン酸化FRS2αとの抗原抗体反応によってリン酸化FRS2α量を測定するために必要な試薬、及び装置を含む。
必要な試薬、装置としては、例えば、固相担体、緩衝液、標識用試薬、酵素、酵素反応停止液、マイクロプレートリーダーが挙げられるがこれらに限定されない。
【0043】
以下、検出対象分子がリン酸化FRS2αである場合を例に挙げて、キットの概要を説明するが、本発明はこれに限定されない。
検査用キットの一態様は、サンドイッチ法によってリン酸化FRS2αを測定するためのものであり、マイクロタイタープレート;捕捉用の抗リン酸化FRS2α抗体;アルカリホスファターゼ又はペルオキシダーゼで標識した抗リン酸化FRS2α抗体;及び、アルカリホスファターゼの基質(NPP等)又はペルオキシダーゼの基質(DAB、TMB、OPD等)、を含む。
補足抗体と標識抗体は、異なるエピトープを認識する。
このようなキットでは、まず、マイクロタイタープレートに補足抗体を固定し、ここに尿サンプルを適宜希釈して添加した後インキュベートし、サンプルを除去して洗浄する。次に、標識した抗体を添加した後インキュベートし、基質を加えて発色させる。マイクロタイタープレートリーダー等を用いて発色を測定することにより、リン酸化FRS2α量を求めることができる。
【0044】
検査用キットの別の態様は、二次抗体を使用してサンドイッチ法によりリン酸化FRS2αを測定するためのものであり、マイクロタイタープレート;捕捉用の抗リン酸化FRS2α抗体;一次抗体として、抗リン酸化FRS2α抗体;二次抗体として、アルカリホスファターゼ又はペルオキシダーゼで標識した、抗リン酸化FRS2α抗体;及び、アルカリホスファターゼの基質(NPP等)又はペルオキシダーゼの基質(DAB、TMB、OPD等)、を含む。
補足抗体と一次抗体は、異なるエピトープを認識する。
このようなキットでは、まず、マイクロタイタープレートに補足抗体を固定し、ここに尿サンプルを適宜希釈して添加した後インキュベートし、サンプルを除去して洗浄する。続いて、一次抗体を添加してインキュベート及び洗浄を行い、さらに酵素標識した二次抗体を添加してインキュベートを行った後、基質を加えて発色させる。マイクロタイタープレートリーダー等を用いて発色を測定することにより、リン酸化FRS2α量を求めることができる。二次抗体を用いることにより、反応が増幅され検出感度を高めることができる。
【0045】
また、検査用キットの別の態様は、マイクロタイタープレート;一次抗体としての抗リン酸化FRS2α抗体;アルカリホスファターゼ又はペルオキシダーゼで標識した、抗リン酸化FRS2α抗体;及び、アルカリホスファターゼ又はペルオキシダーゼの基質、を含む。
かかるキットによれば、まず、適当な濃度に希釈したサンプルでマイクロタイタープレートをコーティングし、一次抗体を添加する。インキュベート及び洗浄を行った後、酵素標識した二次抗体を添加し、インキュベート及び洗浄を行い、基質を加えて発色させる。マイクロタイタープレートリーダー等を用いて発色を測定することにより、リン酸化FRS2α量を求めることができる。
【0046】
標識抗体は、酵素標識した抗体に限定されず、放射性物質(25I、131I、35S、3H等)、蛍光物質(フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ダンシルクロリド、フィコエリトリン、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、近赤外蛍光材料等)、発光物質(ルシフェラーゼ、ルシフェリン、エクオリン等)、ナノ粒子(金コロイド、量子ドット)等で標識した抗体であってもよい。また標識抗体としてビオチン化抗体を用い、キットに標識したアビジン又はストレプトアビジンを加えることもできる。
抗体は、公知の方法に従って作製したものでもよいし、既存の抗体を用いることもできる。
【0047】
本発明の検査用キットのさらに別の態様として、ラテックス凝集法によってリン酸化FRS2αを測定するためのものも挙げられる。このキットは、抗リン酸化FRS2α抗体感作ラテックスを含み、尿サンプルと抗リン酸化FRS2α抗体とを混合し、光学的方法で集塊を定量する。キットに凝集反応を可視化する凝集反応板が含まれていてもよい。
【0048】
[尿検査用抗体アレイ]
本明細書において、「尿検査用抗体アレイ」は、FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子に対する抗体を含む2種以上の抗体が固相担体に固定されたものをいう。即ち、尿検査用抗体アレイには、FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子に対する抗体以外の抗体が固定されていてもよい。FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子に対する抗体以外の抗体は、特定の疾患に関連して尿中の濃度が変化する分子(疾患関連分子)に対する抗体とすることができる。
かかる疾患関連分子としては、例えば、アディポネクチン、アミノペプチダーゼN、アンジオテンシノーゲン/セルピンA8、アネキシンV、β2ミクログロブリン、クラステリン、CXCL16、Cyr61/CCN、シスタチンC、DPPIV/CD26、EGF、EGF R/ErbB1、FABP1/L-FABP、Fetuin A、GRO-α/CXCL1、IL-1ra、IL-6、IL-10、TIM-1/KIM-1/HAVCR、リポカイン2/NGAL、MCP-1/CCL2、MMP-9、ネプリライシン、PSA/KLK-3、RAGE、RBP-4、レニン、レジスチン、SCF、セルピンA3、TNF-α、TNF-RI、トレフォイル因子3、トロンボスポンジン-1、TWEAK、uPA、VCAM-1、VEGF-A、アルブミン、α1ミクログロブリンが挙げられるがこれらに限定されない。
また、尿検査用抗体アレイは、FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子に対する抗体を2種以上固定したものであってもよい。
尿検査用抗体アレイによれば、患者から採取し、必要に応じて処理した尿サンプルをアレイと接触させるという簡単な方法により、糸球体上皮細胞障害を含む複数の疾患の検査を、一度に行うことができる。
【0049】
[尿検査用キット]
本明細書において、「尿検査用キット」とは、上述した尿検査用抗体アレイを含むキットをいい、糸球体上皮細胞障害の検査用キットと同様に、検出対象分子及び疾患関連分子を検出するために必要な各種試薬や装置を含む。
尿検査用キットによれば、糸球体上皮細胞障害を含む複数の疾患の罹患の有無、罹患可能性、進展や予後の検査を一度に行うことができる。
【0050】
[診断方法]
本発明は、被検者の尿中の検出対象分子を検出する工程を含む診断方法も包含する。
診断方法は、医師が、患者が糸球体上皮細胞障害に罹患しているか、又は罹患する可能性があるかを調べる方法、疾患の進展又は予後を調べる方法、治療反応性を調べる方法等をいうが、これらに限定されない。
【0051】
[スクリーニング方法]
本明細書において「スクリーニング方法」は、候補化合物から、糸球体上皮細胞障害の治療又は予防薬を選択する方法をいい、ヒトを除く哺乳動物に、候補化合物を投与する工程と、その哺乳動物の尿中のFGF受容体又はその下流のシグナル関連分子を検出する工程と、を含む。
哺乳動物の尿中のFGF受容体又はその下流のシグナル関連分子を検出する工程は、上述した、糸球体上皮細胞障害の検査方法に準じて行うことができる。
これまで、糸球体障害を改善する候補化合物をスクリーニングするためには、組織の糸球体上皮マーカーの検出や構造の評価以外の有効な指標がなく、実際に糸球体上皮細胞障害を起こさせその組織を採取しなければならなかった。
本発明のスクリーニング方法は、尿という非侵襲的に採取できる検体を用いることができるうえに、糸球体上皮細胞の状態を迅速に反映する指標を用いるので、候補化合物による効果をリアルタイムに検出することができる。しかも糸球体上皮細胞に障害がない状態であっても検出可能限界内であることから、予防薬のスクリーニングにも適する。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に何ら限定されない。
【0053】
[免疫蛍光染色]
ヒト糸球体の染色のために、the Human Tissues and Biofluids Bank(Asterand社)から腎臓サンプルを入手した。すべてのサンプルは、腎疾患ではなく、がん関連疾患の患者から外科的に切除されたものであった。GPC5とネフリンの二重染色には、凍結サンプルを使用した。凍結切片(厚さ5μm)は乾燥させ、室温で20分間、4%のパラホルムアルデヒドで固定した。スライドをPBSで3回洗浄した後、抗GPC5抗体(R&D Systems社)及び抗ネフリン抗体(Acris Antibodies GmbH社)と一緒にover nightインキュベートした。
マウスの染色のために、凍結サンプルを使用した。FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4とネフリンの二重染色には凍結サンプルを使用した。凍結切片(厚さ5μm)は乾燥させ、室温で20分間、冷アセトン固定で固定した。スライドをPBSで3回洗浄した後、抗FGFR1/2/3/4抗体(すべてabcam社)及び抗ネフリン抗体と一緒にover nightインキュベートした。
PBSでスライドを洗浄した後、蛍光標識した二次抗体(Invitrogen社)と一緒に45分間インキュベートした。各切片を、共焦点顕微鏡(LSM510 Meta NLO imaging system; Carl Zeiss社)又は蛍光顕微鏡(E600; Nikon社)により観察した。
【0054】
[In vitroノックダウン]
ラットの培養糸球体上状細胞(GEC)を用いて、in vitroノックダウンの実験を行った。予めデザインしたGpc5遺伝子を標的とするGpc5-siRNA(NM_001107285.1_stealth_1056; Invitrogen社)、又は、ネガティブコントロールとしてStealth RNAi Negative Control Med GC(Invitrogen社)を、Lipofectaimen 2000(Invitrogen社)を用いてGECに導入した。導入コントロールのために、BLOCK-iTTMAlexa Fluor(登録商標)Red Fluorescent Oligoを同時に導入した。
Gpc5-siRNAのセンス配列及びアンチセンス配列は以下のとおりである。
5'-GCAGGCGCUUAAUCUGGGCAUUGAA-3' (配列番号:1)
5'-UUCAAUGCCCAGAUUAAGCGCCUGC-3' (配列番号:2)
TRIzol(Invitrogen社)を用いて細胞RNAを抽出し、DNase I(Roche社)で処理した。一本鎖cDNAを上述の方法で合成した。ノックダウンの程度を評価するため、siRNAを導入後72時間後に細胞におけるGPC5をmRNAレベル及びタンパク質レベルで定量した。
【0055】
[フローサイトメトリーを用いたビオチン化FGF2の結合分析]
Pierce EZ-Link MicroSulfo-NHS-LC biotinylation kit(Thermo Fisher Scientific社)を用いて、組換えヒトFGF2(科研製薬株式会社より提供を受けた)をビオチン化した。25μgのFGF2の標識のために、8μlの9mM Sulfo-NHS-LC-Biotin溶液(ジメチルスルホキシド中)とFGF2を、全量300μlとして1時間室温でインキュベートした。Zeba desalt spin columnで過剰なビオチンを除去した。
上述のGpc5に対するリポソームを用いたsiRNAによるノックダウンの後、氷冷したPBSと3%熱失活ウシ胎児血清/2%アジ化ナトリウムで、GECを2回洗浄した。GECを、10nMのビオチン化FGF2と一緒に、4℃で45分インキュベートした。続いて、5μg/mlのR-フィコエリスリン標識ストレプトアビジン(Jackson ImmunoResearch Laboratories社)と共に、4℃で30分間暗室に静置した。GECを洗浄し、500μlのPBSに再懸濁した。細胞表面に残存したビオチン化されたFGF2を、FACScan analyzer(BD Biosciences社)で測定した。
【0056】
[シグナル伝達]
サブコンフルエントのGECを、18時間、血清飢餓培養(0.1% FBS)し、その後FGF2で刺激した。
細胞の形態学的分析として、細胞をFGF2(100nm/ml)で15分間処理した後、Nikon Eclipse microscopeで解析し、デジタルカメラで撮影した。
シグナル伝達解析として、細胞をFGF2(1ng/ml)で60分処理した後、氷冷したPBSでリンスし、緩衝液(0.5% Triton X-100, 50 mM Tris, pH 7.5, 150 mM sodium chloride, 1 mM phenylmethylsulfonyl fluoride, 1 mM sodium orthovanadate, and 1 Ag/ml of leupeptin, and aprotinin)中で溶解させた。細胞溶解物を5分間沸騰させ、SDS-PAGEに供した。
ウェスタンブロッティングのために、タンパク質を電気泳動によって膜に移し、5%スキムミルクでブロッキングした。膜を一次抗体と一緒にインキュベートした。一次抗体としては、抗GPC5抗体(R&D Systems社)、抗FRS2α抗体(Santa Cruz Biotechnology社)、抗リン酸化FRS2α抗体(Cell Signaling社)、及び抗アクチン抗体(Santa Cruz Biotechnology社)を用いた。ホースラディッシュペルオキシダーゼで標識した二次抗体、及びEnhanced ChemiLuminescence(ECL)を用い、使用説明書に従って免疫反応性を検出した。
【0057】
[細胞周期アッセイ]
細胞周期を分析するために、siRNA処理後の0.5×105個の細胞を、0.5mlの50μg/ml ヨウ化プロピジウム溶液(w/v)及び10μg/mlのRNase A(w/v)(PBS中)に再懸濁した。フローサイトメトリーを用いて、Transfection control positive cellsをゲーティングした後、公知の方法により(Lai, J.P. et al. Hepatology 47, 1211-22 (2008).)細胞周期を分析した。
【0058】
[アルブミン流出アッセイ]
単層の糸球体上皮細胞のろ過バリア機能を評価するため、Ricoらの方法(Rico, M. et al. Am J Physiol Renal Physiol 289, F431-41 (2005).)に従って、簡単なアルブミン流出アッセイを行った。まず、処理後のGEC細胞を24ウェルの1型コラーゲンでコーティングされたBD BioCoatTM cell culture insert(膜孔サイズ0.4μm、膜孔密度1,600,000/m2)に配置した(BD Company社)。
細胞を37℃で18時間培養し、カドヘリンによる細胞間結合を保護するため、1mmol/lのMgCl2及び1mmol/lのCaCl2を添加したPBSで2度洗浄した。分析時に十分コンフルエントになるように、培養細胞の濃度を調節した。フィルター上の単層の細胞の上部になるチャンバーは、0.6%のBSA(w/v)を含むRPMI1640培地(Invitrogen社)で満たし、下部チャンバーは、RPMI1640倍地のみで満たした。細胞を37℃で8時間インキュベートした後、Bradford assay(Bio-Rad社)により、下部チャンバーに対する上部チャンバーのアルブミン濃度比を測定した。
【0059】
[動物実験のプロトコル]
すべての動物実験は、アメリカ国立衛生研究所(NIH)のガイド(Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)に従って行った。
コンディショナルノックダウン実験のために、バックグラウンドをBDF1マウスとした、ポドサイト特異的GPC5ノックダウンマウスを用いた。このマウスは、マウスGpc5遺伝子に対するポドシンプロモーターに駆動されるmiRNAを用いたコンディショナルトランスジェニックシステムを利用して作製した。ベクターのコンストラクトは、ポドシンプロモーターと、Gpc5 mRNAをターゲットととする3種類のmiRNAを転写する配列を含む。これにより、ポドサイトにおける選択的なGpc5遺伝子のノックダウンが生じる(12-16週齢)。このマウスの野生型の兄弟は、コンディショナルノックダウン実験の同胞コントロールとして用いた。マウスの遺伝子型は、PCR及びサザンブロッティングによって決定し、ポドサイトにおけるGpc5遺伝子の選択的なノックダウンを確認した。(1)同胞コントロールマウスと(2)ノックダウンマウスとした。
コンディショナルノックダウン実験のネフローゼ症候群(NS)モデルとして、ピューロマイシンアミノヌクレオシド(PAN;Sigma-Aldrich社)を0日目に皮下注射によって投与した(300mg/kgBW)。FGF2は静脈注射によって0日目と1日目(5μg per animal)に投与した。
siRNA全身投与実験では、PAN-FGF誘導NSモデルに、野生型BDF1マウス(12−14週齢;Japan SLC社)を用い、アドリアマイシン誘導アルブミン尿モデルには、BALB/Cマウス(10−12週齢)を用いた。
マウスGpc5−siRNA及びスクランブルsiRNAは、Invitrogen社より、アニールされたものをin vivoグレードで入手した。
Gpc5-siRNAの配列は、
5'-GCAGGCGCUUAAUCUGGGCAUUGAA-3' (配列番号:1)
5'-UUCAAUGCCCAGAUUAAGCGCCUGC-3' (配列番号:2)
スクランブル−siRNAの配列は、
5'-CCUACAUGACGACGAUGUACCGUGA-3' (配列番号:3)
5'-TCACGGTACATCGTCGTCATGTAGG-3' (配列番号:4)
であった。
400μgの合成siRNAを0.8mlのPBSに溶解させ、速やかにハイドロダイナミック法(文献32、33)により速やかに静注した。動物は、(1)スクランブル−siRNAマウスと、(2)Gpc5-siRNAマウスの2群に分けた。
ネフローシスモデルにおいては、PANは0日目に皮下に注射し(500mg/kg)、FGF2は0、1、2及び3日目に静脈に注射し(5μg day per animal)、siRNAはsiRNA処理群に5日目に注射投与した。
アルブミン尿モデルにおいては、アドリアマイシンを0日目に静注し(10mg/kg)、siRNAはsiRNA処理群に0日目に注射投与した(図4C)。
実験中、尿サンプルは、1日目から7日目まで毎日回収し、それ以降は10目と14日目(アドリアマイシンモデルは21日目)に回収した。各群のマウスは、10日目と28日目(アドリアマイシンモデルは21日目)に解剖した。腎臓をPBSで完全に灌流した後、光学顕微鏡、電子顕微鏡、免疫蛍光染色のために摘出した。
【0060】
[尿中アルブミン、尿中クレアチニン、血清血液尿素窒素(BUN)及び血清アルブミンの解析]
マウス用microalbuminuria ELISA kit(AlbuwellM; Exocell社)を用いて、尿中及び血清中のアルブミンレベルを測定した。尿中クレアチニン濃度は、Nescoat VLII CRE(Alfresa Pharma)を用いて、血液尿素窒素は、BUN Wako B(Wako社)を用いてそれぞれ測定した。アルブミン尿は、尿中クレアチニンに対する尿中アルブミンの比(g/gCr; ACR)で評価した。すべての操作は、使用説明書に従って行った。
【0061】
[腎臓病理]
マウスから得た腎臓組織は、10%中性緩衝ホルマリンで直ちに一晩固定し、アルコールで脱水した後、パラフィン包埋し、光学顕微鏡での観察に供した。PAS染色切片において、硬化を示す糸球体を数えた。次に、以下のように硬化スコアを修正したスコアシステムを用いた評価した。各サンプルは、関連する糸球体内硬化の割合に応じて0から4のスコアに分類した(0%=0、1−25%=1、26−50%=2、51−75%=3、76−100%=4)(Saito, T. et al. Kidney Int 32, 691-9 (1987).)。25個の糸球体の各スコアを合計して、各サンプルについて0から100の範囲で定量化した。
電子顕微鏡による分析には、腎皮質を氷上で刻み、直ちに2.5%グルタルアルデヒド中で一晩固定し、50mMのTris-(hydroxylmethyl)aminomethane-HCl buffer(pH7.6)で洗浄した。サンプルをスクロース中で脱水し、OsO4中で固定し、Epon包埋した。ミクロトーム(MT2-B; Sorvall)のガラスナイフで極薄切片を作製し、染色せずに電子顕微鏡(Hitachi H-1000 electron microscope)で観察した。
【0062】
[統計解析]
データは、平均±SD(ヒト)又はSE(in vitro及び動物実験)で示す。P<0.05の場合を統計的に有意とした。
【0063】
結果
免疫染色
免疫染色の結果を図1に示す。GPC5が、糸球体において高発現していることを確認した。また、GPC5の局在は、糸球体上皮細胞マーカーとヒト腎臓における毛細管内皮細胞の局在と一致していた。
一方、ポドサイト特異的ノックダウンマウスにおいては、糸球体のGPC5発現はほとんど抑制されていた。
これらの結果は、GPC5は、ポドサイトで発現が優勢であること、細胞表面の膜で発現していること、一部が糸球体間に放出されることを示している。
【0064】
in vitroのGPC5ノックダウン解析
また、ラットの培養糸球体上皮細胞(GEC)(Kim, B.S., et al. J Am Soc Nephrol 13, 2027-36 (2002).; Chen, J. et al. Am J Physiol Cell Physiol 282, C1053-63 (2002).)を用いて、FGF2シグナル伝達とGPC5の関係を調べた結果を図2Aに示す。
siRNAによってGPC5をノックダウンしたGECにおいては、細胞表面へのFGF2の結合量が減少した。
ウェスタンブロッティングの結果を図2Bに示す。GPC5のノックダウンによって、FGF2によって誘導されるFRS2αのリン酸化が有意に抑制された。この結果は、ポドサイトにおいて、GPC5がFGFシグナルを増強していることを示唆する。
FGF2シグナルを増強した場合に、ポドサイトの形態に及ぼす影響を調べた結果を図2Cに示す。GPC5のノックダウンによって、円形化が減少し、FGF2誘導性の脱分化が抑制された。さらに、図2Dに示されるとおり、GPC5のノックダウンにより、GECは、G0/G1期が優勢となり、G2/M期が減少した。
また、ネフローゼ症候群に対するGPC5の機能的な関連を評価するため、GECのろ過機能をアルブミン透過性で評価した結果を図2Eに示す。Gpc5をノックダウンすると、細胞の単層を透過するアルブミン量が減少した。
これらのin vitroの実験結果は、GPC5-FGFシグナルが、ポドサイトの分化と、アルブミン透過性などの機能に大きく影響することを示している。
【0065】
ポドサイト特異的Gpc5ノックダウンマウスによる解析
ネフローゼ症候群におけるGPC5-FGFシグナルの重要性をさらに調べるために、ポドサイト特異的Gpc5ノックダウンマウスを作製した(図14)。このマウスは繁殖可能であり、成体になるまで特に表現型を示さない。
このマウスに、FGF2又はピューロマイシンアミノヌクレオシド(PAN)のいずれかを投与してもネフローゼ性の重篤な蛋白尿は引き起こされなかったので、PANとFGF2の両方を投与した。
結果を図3Aに示す。コントロールのマウスは重篤な蛋白尿を呈し、10日間以上その状態が続いた。一方、GPC5ノックダウンマウスは、軽度の蛋白尿を呈したのみであった。コントロールマウスは、10日目及び14日目において血清アルブミンの減少も示したが、GPC5ノックダウンマウスは、わずかな変化しか示さなかった。
また、コントロールマウスでは、7、10及び14日目に、血液尿素窒素(BUN)の増加が観察された(図3B)。顕微鏡で観察したところ、コントロールマウスでは、28日目に、約25%が糸球体の全硬化を示し、50%が部分的な硬化を示し、また、限局的な尿細管間質障害も見られた。
対照的に、GPC5ノックダウンマウスでは、90%の糸球体にはほとんど変化が見られず、尿細管間質障害も軽度であった(図3C)。
糸球体硬化スコアは、コントロールマウスと比較してGpc5ノックダウンマウスにおいて有意に低かった(図3D)。
電子顕微鏡で観察したところ、コントロールマウスでは、10日目に足突起の癒合が見られたが、GPC5ノックダウンマウスでは、ほぼ正常のままだった(図3E)。
これらのin vivoの実験は、ネフローゼ症候群の発症におけるGPC5-FGFシグナルの役割を強く示唆する。
【0066】
Gpc5-siRNAの全身投与
ネフローゼ症候群におけるGpc5の抑制による効果を明らかにするために、蛋白尿を誘導した後、siRNAの全身投与を行った。PAN及びFGF2の投与により、5日目から14日目に、BDF1マウスに重篤な蛋白尿が誘導された(図4A)。
5日目に、ハイドロダイナミック法により、Gpc5-siRNA又はスクランブルsiRNAを注射投与した。ノックダウンの効果を8日目に確認した。
Gpc5-siRNAを投与したマウスでは、7日目及び10日目にアルブミン尿が著しく減少し(図4A)、10日目及び14日目に血清アルブミンが上昇した(図4B)。糸球体の病理学的障害は、Gpc5-siRNAにより有意に緩和された。
siRNAの全身投与によるGpc5のノックダウンによって、ネフローゼ症候群が発症した後でも、蛋白尿が改善され、病理学的障害が低減されることが確認された。
これらの結果は、仲介的な役割をしているタンパク質であるGPC5が、血液内を循環しているFGF2を捕捉することによってポドサイト周辺のFGF2濃度を増加させ、ポドサイトにおいてFGFシグナルを誘導し、FGFシグナルがネフローゼ症候群を惹起する構造的な変化を生じさせることによるのかもしれない。
アドリアマイシンを用いた別のネフローゼモデルにおいても、Gpc5-siRNAの投与は、アルブミン尿及び足突起の消失を著しく抑制した(図4C、4D)。
これらのデータは、GPC5-FGFシグナルが、他の糸球体疾患において見られるポドサイトの障害にも強く関与していることを示唆する。
【0067】
糖尿病患者の尿中のFRS2α量の測定
糖尿病患者及び健常者から得た尿検体に、プロテアーゼ阻害カクテルとsodium orthovanadateを加えた。ProteoSpin Urin protein Concentration Micro Kit(Norgene社、Canada)を使用し、最終Cr(クレアチニン)5μg/μLになるように調整し、電気泳動の際、各wellに7.5μL相当の蛋白をアプライした。
次に、5% Skim milkで室温に1時間静置してブロッキングし、1次抗体として、 Phospho-FRS2α (Tyr196) Antibody (Cell signaling)を1000倍希釈して用い、Skim milk 5%含有TBS-T溶液中で、一晩4℃でインキュベートした。
2次抗体として抗ウサギHRP抗体を用い、5% Skim milk含有Canget signal 溶液2中で、1時間室温でインキュベートし、ECL Plus Western Blotting. Detection Reagentsで検出した。
結果を図A及びHに示す。糖尿病患者の尿中にはリン酸化FRS2αが検出されたが、健常者の尿中、及び健常者及び糖尿病患者の血清中では検出されなかった(図5)。
糖尿病患者の尿中のリン酸化FRS2α量は、疾患の進行とともに増加していた。尿タンパク質が検出限界以下である第1期や、自覚症状のない第2期の患者の尿中でもリン酸化FRS2αが検出された。
また、図12に示すとおり、尿中のリン酸化FRS2αは、治療に速やかに反応して減少することも確認した(NS+Tx)。(lane 1)微小変化群-治療前、(lane 2)微小変化群-副腎皮質ホルモン開始2週間後、(lane 3)巣状糸球体硬化症治療前、(lane 4)糖尿病性腎症。
【0068】
糖尿病モデルマウスを用いた検討
1.糖尿病モデルマウスの腎皮質におけるFGF2及びFGF受容体の発現
FGF2濃度は、Akita miceと同胞ワイルドマウスの腎皮質を粉砕しプロテアーゼ阻害カクテルとsodium orthovanadateを含むRAIPA液に溶解させたものをELISA(RayBiotech, Inc.)で測定した。FGF受容体のmRNAは、腎皮質より抽出したtotal RNAを用いてreal time PCRで定量化した。
結果を図6及び7に示す。糖尿病モデルマウスの腎皮質におけるFGF2の含有量は、コントロールマウスと比較して、有意に高くなっていた(図6)。また、糖尿病モデルマウスでは、FGF受容体についても、FGFR1、FGFR3及びFGFR4の発現が上昇していた(図7)。
【0069】
2.糖尿病モデルマウスの糸球体におけるFGF受容体の発現
上記免疫蛍光染色の方法に従って、糖尿病モデルマウスの糸球体内におけるFGF受容体の発現を調べた。
結果を図8に示す。FGFR3及びFGFR4の発現が亢進していた。
【0070】
糸球体上皮細胞の細胞株を用いた高血糖による発現誘導
図9に示すスケジュールで、マウス糸球体上皮細胞株とコントロールとしてNIH-3T3細胞株を、高血糖条件(グルコース2000mg/dlを培地に添加)又は低血糖条件(グルコース200mg/dl、及び1.8%D-マンニトールを培地に添加)で、細胞を培養した。
結果を図10に示す。糸球体上皮細胞の細胞株では、高血糖により、FGFR3及びFGFR4の発現が誘導された。
【0071】
糖尿病モデルマウスにおけるFGFシグナルに対する脆弱性
糖尿病モデルマウス(AKITA)及びコントロールマウス(C56B/6)に、FGF2を投与し(5μg/日で4日間)、尿中クレアチニンに対する尿中アルブミンの比(g/gCr; ACR)を測定した。
糖尿病モデルのAKITAマウスにFGF2を投与すると、ACRが上昇し蛋白尿を生じることを確認した(図11)。
【0072】
以上のとおり、糖尿病性腎症おいても、尿中のリン酸化FRS2α量が増加していることから、このことは、原発性、二次性に関わらず糸球体上皮細胞障害においてFGF2-FGF受容体-FRS2αリン酸化が関与していることが明らかとなった。
また、糖尿病性腎症の場合、高血糖により、糸球体でのFGF2及びFGF受容体の発現が増加することでFGFシグナルが増強され、糸球体上皮細胞障害が惹起されることが示唆された。
さらに、糖尿病モデルマウスをFGF2で刺激すると、蛋白尿を発症することがわかった。
【配列表フリーテキスト】
【0073】
配列番号:1は、Gpc5-siRNAのセンス配列である。
配列番号:2は、Gpc5-siRNAのアンチセンス配列である。
配列番号:3は、スクランブル-siRNAのセンス配列である。
配列番号:4は、スクランブル-siRNAのアンチセンス配列である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の尿中のFGF受容体又はその下流のシグナル関連分子を検出する工程を含む、糸球体上皮細胞障害の検査方法。
【請求項2】
前記FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子が、リン酸化FRS2α、活性型Ras、リン酸化Akt、リン酸化STAT3、リン酸化PI3K、及びリン酸化PLCγからなる群より選択される、請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
前記FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子を検出する工程は、該FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子に対する抗体を用いたイムノアッセイによって行う、請求項1又は2に記載の検査方法。
【請求項4】
前記イムノアッセイがELISA法である、請求項3に記載の検査方法。
【請求項5】
前記糸球体上皮細胞障害が、原発性である、請求項1から4のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項6】
前記糸球体上皮細胞障害が、二次性である、請求項1から4のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項7】
糸球体上皮細胞障害の罹患の有無、罹患可能性、進展又は予後を判定するための検査方法である、請求項1から6のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項8】
糸球体上皮細胞障害に対する治療反応性を判定するための検査方法である、請求項1から6のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項9】
FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子に対する抗体を含む、糸球体上皮細胞障害の検査用キット。
【請求項10】
FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子に対する抗体が、抗リン酸化FRS2α抗体、抗活性型Ras抗体、抗リン酸化Akt抗体、抗リン酸化STAT3抗体、抗リン酸化PI3Kリン酸化抗体、及び抗リン酸化PLCγ抗体からなる群より選択される、請求項9に記載の検査用キット。
【請求項11】
FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子に対する抗体を含む2種以上の抗体が固定された尿検査用抗体アレイ。
【請求項12】
請求項11に記載の検査用抗体アレイを含む、尿検査用キット。
【請求項13】
糸球体上皮細胞障害の治療又は予防薬のスクリーニング方法であって、
ヒトを除く哺乳動物に、候補化合物を投与する工程と、
前記哺乳動物の尿中のFGF受容体又はその下流のシグナル関連分子を検出する工程と、
を含む方法。
【請求項1】
被検者の尿中のFGF受容体又はその下流のシグナル関連分子を検出する工程を含む、糸球体上皮細胞障害の検査方法。
【請求項2】
前記FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子が、リン酸化FRS2α、活性型Ras、リン酸化Akt、リン酸化STAT3、リン酸化PI3K、及びリン酸化PLCγからなる群より選択される、請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
前記FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子を検出する工程は、該FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子に対する抗体を用いたイムノアッセイによって行う、請求項1又は2に記載の検査方法。
【請求項4】
前記イムノアッセイがELISA法である、請求項3に記載の検査方法。
【請求項5】
前記糸球体上皮細胞障害が、原発性である、請求項1から4のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項6】
前記糸球体上皮細胞障害が、二次性である、請求項1から4のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項7】
糸球体上皮細胞障害の罹患の有無、罹患可能性、進展又は予後を判定するための検査方法である、請求項1から6のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項8】
糸球体上皮細胞障害に対する治療反応性を判定するための検査方法である、請求項1から6のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項9】
FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子に対する抗体を含む、糸球体上皮細胞障害の検査用キット。
【請求項10】
FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子に対する抗体が、抗リン酸化FRS2α抗体、抗活性型Ras抗体、抗リン酸化Akt抗体、抗リン酸化STAT3抗体、抗リン酸化PI3Kリン酸化抗体、及び抗リン酸化PLCγ抗体からなる群より選択される、請求項9に記載の検査用キット。
【請求項11】
FGF受容体又はその下流のシグナル関連分子に対する抗体を含む2種以上の抗体が固定された尿検査用抗体アレイ。
【請求項12】
請求項11に記載の検査用抗体アレイを含む、尿検査用キット。
【請求項13】
糸球体上皮細胞障害の治療又は予防薬のスクリーニング方法であって、
ヒトを除く哺乳動物に、候補化合物を投与する工程と、
前記哺乳動物の尿中のFGF受容体又はその下流のシグナル関連分子を検出する工程と、
を含む方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−189417(P2012−189417A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52590(P2011−52590)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの。
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの。
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
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