説明

糸端処理装置を有する糸条巻取機

【課題】糸条がパッケージに巻き取られた際に、糸条の糸端部がパッケージの糸層表面に張り付いてしまうことを防止するとともに、糸条の糸端部がパッケージの糸層内部に食い込んでしまうことを防止して、これにより、糸継ぎ時のパッケージ側の口出しを容易とする、糸端処理装置を有する糸条巻取機を提供する。
【解決手段】パッケージ17、63に巻き取られる糸条13の糸道に、切断された糸条13の糸端部に絡み合い部分37を形成する糸端処理装置40を設け、切断された糸条13の糸端部は、糸端処理装置40で処理された後、パッケージ17、63に巻き取られる糸端処理装置40を有する糸条巻取機(精紡機1、ワインダー60)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
精紡機、ワインダー等において、糸条のパッケージ側の糸端部付近に絡み合い部分を形成する、糸端処理装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、精紡機、ワインダー等の糸条巻取機で糸条をパッケージに巻き取る場合において、糸欠点検知部が糸条の欠点部分を検知すると、糸切断部が糸条を切断する。糸切断部で糸条を切断した直後は、パッケージは惰性で回転しているため、パッケージ側の糸端部は、そのままパッケージに巻き込まれてしまう。パッケージに巻き込まれた糸端部は、糸継ぎ時のパッケージ側の口出しのために、パッケージ表面に近接させたサクションマウスの吸引空気流の作用で吸引捕捉される(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開平8−245081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、糸条の表面には微細な毛羽が多く出ており、糸条の糸端部がパッケージに巻き込まれてしまうと、糸条の糸端部の毛羽と、パッケージの糸層表面の毛羽とが絡んでしまい、糸条の糸端部がパッケージの糸層表面に張り付いてしまうという問題がある。特に、毛羽の多い麻糸や、細い糸条ではこの問題が顕著である。また、パッケージに糸条の糸端部が巻き取られる際に、パッケージ表面にローラーやドラムが接触していることがあり、この場合は、糸条の糸端部がローラーやドラムによって、パッケージの糸層に押し付けられ、糸条の糸端部がパッケージの糸層内部に食い込んでしまうという問題がある。このように糸条の糸端部がパッケージの糸層表面に張り付いた状態や、パッケージの糸層内部に食い込んだ状態では、サクションマウスの吸引力のみでは糸条の糸端部を吸引捕捉することが困難となり、糸継ぎ時のパッケージ側の口出しが困難になるという問題がある。
【0004】
本発明は、かかる問題を解決すべくなされたものであって、糸条がパッケージに巻き取られた際に、糸条の糸端部がパッケージの糸層表面に張り付きにくくするとともに、糸条の糸端部がパッケージの糸層内部に食い込みにくくして、これにより、糸継ぎ時のパッケージ側の口出しを容易とする、糸端処理装置を有する糸条巻取機の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0006】
第1の発明に係る糸端処理装置を有する糸条巻取機は、
切断された糸条の糸端部に絡み合い部分を形成する糸端処理装置を前記糸条の糸道に設け、
絡み合い部分が形成された前記糸条の糸端部がパッケージに巻き取られるものである。
【0007】
第2の発明に係る糸端処理装置を有する糸条巻取機は、第1の発明に係る糸端処理装置を有する糸条巻取機において、
前記糸端処理装置が、前記パッケージ側の糸端部付近に対して、流体を噴射することにより、前記糸端部付近に絡み合い部分を形成するものである。
【0008】
第3の発明に係る糸端処理装置を有する糸条巻取機は、第2の発明に係る糸端処理装置を有する糸条巻取機において、
前記糸端処理装置が、前記糸端部が通過する糸経路を備えており、前記糸経路内に流体を噴射するものである。
【0009】
第4の発明に係る糸端処理装置を有する糸条巻取機は、第1から第3の発明のいずれか1つに係る糸端処理装置を有する糸条巻取機において、
前記糸端処理装置が、前記パッケージに巻き取られる糸条が一時的に貯留される一時貯留部に対して、前記糸条の走行方向の下流側に設置されるものである。
【0010】
第5の発明に係る糸端処理装置を有する糸条巻取機は、第1から第4の発明のいずれか1つに係る糸端処理装置を有する糸条巻取機において、
前記絡み合い部分は、前記糸条が屈曲状あるいは波状に捲縮した状態、又は、前記糸条が絡み合った状態である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0012】
第1発明においては、切断された糸条の糸端部に絡み合い部分を形成する糸端処理装置を糸条の糸道に設け、絡み合い部分が形成された糸条の糸端部がパッケージに巻き取られることから、パッケージに巻き取られる前に、切断された糸条の糸端部に絡み合い部分を積極的に生じさせることができる。そして、積極的に生じさせた絡み合い部分をパッケージの糸表面に付着した状態で巻取りを中断することができる。そのため、パッケージの糸表面に付着した絡み合い部分をサクションマウスで吸引等することで、糸継ぎ時のパッケージ側の口出しを容易にすることができる。
【0013】
第2発明においては、糸端処理装置が、パッケージ側の糸端部付近に対して、流体を噴射することにより、糸端部付近に絡み合い部分を形成するため、高速で通過する糸条の糸端部付近にタイミングよく流体を噴射することで容易に絡み合い部分を形成することができる。
【0014】
第3発明においては、糸端処理装置が、糸端部が通過する糸経路を備えており、糸経路内に流体を噴射するため、流体による影響と、ノズル内壁に糸端部が接触する影響とが相俟って、高速で通過する糸条の糸端部付近に効率的に絡み合い部分を形成することができる。
【0015】
第4発明においては、糸端処理装置が、パッケージに巻き取られる糸条が一時的に貯留される一時貯留部に対して、糸条の走行方向の下流側に設置されるため、糸条が一時貯留部の上流で切断した場合に、糸条の糸端部が糸端処理装置に到達するまでに一定の時間差を確保することができる。そのため、糸端処理装置が糸条の糸端部を処理するまでに一定の時間を確保することができ、糸端処理装置の処理タイミングを容易に制御することができる。
【0016】
第5発明においては、絡み合い部分は、糸条が屈曲状あるいは波状に捲縮した状態、又は、糸条が絡み合った状態であることから、糸条の糸端部付近がパッケージに巻き取られても、絡み合い部分は他の部分よりも太くなっており、絡み合い部分の一部はパッケージの糸層表面に接触するが、その他の部分はパッケージの糸層表面から浮き上がった状態を保つこととなる。これにより、絡み合い部分の表面にある毛羽がパッケージの糸層表面の毛羽に絡み難くなり、糸条の糸端部がパッケージの糸層表面に張り付きにくくなって、糸継ぎ時のパッケージ側の口出しを容易とすることができる。また、糸条の糸端部がローラーやドラムによって、パッケージの糸層に押し付けられた場合でも、絡み合い部分は他の部分より太くなっているため、パッケージの糸層内部に食い込みにくく、糸継ぎ時のパッケージ側の口出しを容易とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の糸端処理装置を有する糸条巻取機の第1実施例について図面に基づいて説明する。図1は糸端処理装置40を有する精紡機1の概略図である。糸条巻取機である精紡機1は、ドラフト装置2と、精紡装置3と、糸送り装置4と、巻取装置5と、糸継装置6と、ヤーンクリアラー25(糸欠点検知部)と、カッター26(糸切断部)と、糸弛み取り装置27(一時貯留部)と、糸端処理装置40と、を具備する。
【0018】
ドラフト装置2は、スライバ7を挟み込んで延伸するドラフトローラ対を四組備えるものである。前記四組のドラフトローラ対は、スライバ7の走行方向に沿って配置されるバックローラ対8と、サードローラ対9と、セカンドローラ対10と、フロントローラ対11と、からなる。また、セカンドローラ対10には、皮又は合成ゴム製の無端帯であるエプロンバンド12が巻回されている。
【0019】
精紡装置3は、ドラフト装置2で延伸したスライバ7に旋回流を作用させることで、糸条(結束糸)13を形成する空気式の精紡装置である。
【0020】
糸送り装置4は、精紡装置3で形成された糸条13を巻取装置5へ送り出す装置である。糸送り装置4は、デリベリローラ14、及びニップローラユニット15を備えている。デリベリローラ14、及びニップローラユニット15は接触・離反自在に設けられている。糸条13は、デリベリローラ14と、ニップローラユニット15との間に挟持され、デリベリローラ14の回転駆動により巻取装置5へ送られる。
【0021】
巻取装置5は、精紡装置3で製造された糸条13をボビン16の軸方向に巻き取ってパッケージ17を形成する装置である。巻取装置5は、支軸18を中心として揺動可能に支持されるクレードルアーム19と、ボビン16やパッケージ17の周面に当接しながら回転駆動する巻取ドラム20と、糸条13を所定の幅でトラバースさせる図示しないトラバース装置とを備えている。クレードルアーム19は、糸条13が巻回されるボビン16を回転自在に挟持している。クレードルアーム19は、リフトアップシリンダ35と接続されている。リフトアップシリンダ35は、クレードルアーム19をリフトアップすることにより、パッケージ17の周面を巻取ドラム20から離間させる。クレードルアーム19は、ボビン16を挟持する部分に、パッケージブレーキ36が設けられている。パッケージブレーキ36は、クレードルアーム19のリフトアップによりパッケージ17の周面が巻取ドラム20から離間した直後に、ボビン16の回転を制動して停止する。巻取ドラム20は図示しない電動モータに接続されている。巻取ドラム20が当該電動モータにより回転駆動すると、巻取ドラム20に接触しているパッケージ17が従動して回転し、糸条13がパッケージ17に巻き取られる。
【0022】
ヤーンクリアラー25は、巻取装置5へ送られる途中の糸条13の欠点部分を検知する糸欠点検知部である。ヤーンクリアラー25は、制御部90(図4)に接続され、糸条13の欠点部分を検知した場合には検知信号を制御部90へ送信する。具体的には、ヤーンクリアラー25は、糸条13の太さを検知し、糸条13の太さが許容範囲から外れた場合には、糸条13が欠点部分を有しているとして、糸欠点検知信号を制御部90へ送信する。
【0023】
カッター26は、ヤーンクリアラー25の検知信号に基づいて、欠点部分が検知された糸条13を切断する糸切断部である。
【0024】
糸継装置6は、精紡装置3から送り出される上糸と、パッケージ17から吸引補足した下糸とを、糸継ぎする装置である。糸継装置6は、糸継部21と、糸継台車22と、サクションパイプ23と、サクションマウス24と、から構成されている。カッター26により糸条13が切断されると、糸継台車22は精紡機1の前まで自走する。サクションパイプ23は、図1の2点鎖線で示した位置で精紡装置3から送り出される糸端を吸い込みながら捕捉して回動しながら糸継部21へ案内する。サクションマウス24は、図1の2点鎖線で示した位置でパッケージ17から糸端を吸い込みながら捕捉して回動しながら糸継部21へ案内する。糸継部21は、サクションパイプ23から案内された上糸と、サクションマウス24から案内された下糸とを糸継ぎする。
【0025】
糸弛み取り装置27は、精紡装置3により紡績された糸条13が巻取装置5により巻き取られる前に、糸条13の巻取り張力を調整する装置である。糸弛み取り装置27は、糸条13が外周面に巻き付けられる弛み取りローラ28と、弛み取りローラ28への糸条13の巻付量を検知する巻付量センサ29と、を有する。糸弛み取り装置27は、弛み取りローラ28に糸条13を巻き付かせることにより、糸条13の弛みを解消するとともに巻取り張力を調整している。また、糸弛み取り装置27は、糸条13を精紡装置3から直接巻取装置5へ走行させずに一旦弛み取りローラ28を経由させてから巻取装置5へ走行させることから、一時的に糸条13を貯留する一時貯留部の機能を有する。従って、糸弛み取り装置27を糸切断部であるカッター26の下流側で、且つ糸端処理装置40の上流側に設けることにより、カッター26が糸条13を切断してから糸端処理装置40が糸条13の糸端部を処理するまでの間に一定の時間差を設けることができる。
【0026】
次に、糸端処理装置40について説明する。図2(a)は、糸端処理装置40の斜視図、図2(b)は、糸端処理装置40の断面図、図2(c)は、糸端処理装置40の側面の断面図である。
【0027】
図1に示すように、糸端処理装置40は、糸欠点検知部であるヤーンクリアラー25、及び糸切断部であるカッター26の下流側に設けられている。図2に示すように、糸端処理装置40は、処理装置本体41と、処理装置本体41が嵌め込まれるホルダ42と、から構成されている。処理装置本体41は、第1吹付部43と、第2吹付部44と、糸経路45と、を有する。
【0028】
図2に示すように、第1吹付部43、及び第2吹付部44は、糸経路45の周壁の略中程に開口し、糸経路45の円形断面の接線方向に設けられている。第1吹付部43、及び第2吹付部44は、流体としての圧縮空気を糸経路45内へ噴射する。第1吹付部43、及び第2吹付部44は、糸経路45内を走行する糸条13を中心に対向する位置にそれぞれ配置され、異なる方向から圧縮空気を噴射する。第1吹付部43、及び第2吹付部44から圧縮空気を噴射することにより、糸経路45の円形断面の円周に沿った旋回流46が形成される。第1吹付部43、及び第2吹付部44は、処理装置本体41、及びホルダ42に適宜形成された圧縮空気の供給経路47に接続されている。
【0029】
糸経路45は、糸条13の走行方向に沿って略円筒形状の周壁により延設されている。糸条13は、糸経路45内を通過する。糸経路45は、糸条13の走行方向に延設されるスリット状の開口部48を有する。開口部48は、旋回流46の方向とは逆の接線方向に開口している。このため、糸条13が旋回流46により開口部48から飛び出すことはない。開口部48は、片側端部に扇状に広がる傾斜面49が形成されている。糸継ぎされた糸条13は傾斜面49に沿って開口部48へ搬送されるため、糸条13を確実に糸経路45内に挿入することができる。
【0030】
このように、糸端処理装置40においては、糸経路45の周壁に2つの吹付部(第1吹付部43、第2吹付部44)を設け、そこから圧縮空気を噴射することにより旋回流を発生させているが、当該吹付部の構成、配置は、上記のものに限定されることはなく、噴射された圧縮空気が糸経路45内で旋回流動となる構成、配置であればよい。
【0031】
次に、糸条13の糸端部が、糸端処理装置40により処理され、パッケージ17に巻き付くまでのメカニズムについて説明する。図3は、糸端処理装置40により処理された糸条13の糸端部がパッケージ17に巻き付く際の概略図である。図1に示すように、カッター26により切断された糸条13の糸端部は、糸弛み取り装置27において一時的に貯留された後、糸端処理装置40へ導入される。糸端処理装置40は、糸条13の糸端部付近が糸経路45内を走行する間に第1吹付部43、及び第2吹付部44から圧縮空気を糸経路45内へ噴射する。当該圧縮空気は、糸経路45内へ噴射されることで糸経路45の周壁に沿って旋回流動し、糸条13の追撚方向に旋回する旋回流となる。糸条13の糸端部は、糸経路45内を走行しながら当該旋回流である圧縮空気によって追撚方向に力を受ける。そのため、糸条13の糸端部には、屈曲状あるいは波状に捲縮した状態、又は、糸条が絡み合った状態の絡み合い部分37(図3)が形成される。
【0032】
絡み合い部分37が形成された糸条13の糸端部は、そのまま巻取装置5まで走行する。巻取装置5は、糸弛み取り装置27の巻付量センサ29が巻付量を検知しなくなった際に発する糸無し検知信号に基づいて、クレードルアーム19をリフトアップさせるとともに、パッケージブレーキ36を作動させてボビン16の回転を制動する。巻取装置5がボビン16の回転を制動すると、糸条13の糸端部は、慣性によって回動するパッケージ17に付着する。図3に示すように、絡み合い部分37は、他の部分よりも太くなっており、絡み合い部分37の一部はパッケージ17の糸層表面に接触するが、その他の部分はパッケージ17の糸層表面から浮き上がった状態を保つこととなる。これにより、絡み合い部分37の表面にある毛羽がパッケージ17の糸層表面の毛羽に絡み難くなり、糸条13の糸端部がパッケージ17の糸層表面に張り付きにくくなって、糸継ぎ時のパッケージ17側の口出しを容易とすることができる。また、糸条13の糸端部が巻取ドラム20によって、パッケージ17の糸層に押し付けられた場合でも、絡み合い部分37は他の部分より太くなっているため、パッケージ17の糸層内部に食い込みにくく、糸継ぎ時のパッケージ17側の口出しを容易とすることができる。
【0033】
次に、糸端処理装置40の制御について説明する。図4は、精紡機1における糸端処理装置40、及びその周辺装置の回路構成を示すブロック図、図5は、精紡機1における糸端処理装置40の糸端処理のタイミングチャートである。
【0034】
図4に示すように、制御部90は、ヤーンクリアラー25と、カッター26と、糸弛み取り装置27と、糸端処理装置40と、に接続されている。制御部90は、精紡機1の各装置から送信される信号を受信し、当該信号に応じて糸端処理装置40を制御する。
【0035】
図5に示すように、許容範囲の太さから外れた糸条13が糸欠点検知部であるヤーンクリアラー25を通過すると、ヤーンクリアラー25が「ON」の状態となり(t1)、糸欠点検知信号を制御部90へ送信する。この時、糸弛み取り装置27の巻付量センサ29は「ON」の状態であり(t2)、検知信号を制御部90へ送信し続けている。
【0036】
制御部90は、糸欠点検知信号を受信すると、カッター26に対して糸条13を切断する旨の制御信号を送信する。カッター26は、当該制御信号を受信すると、「ON」の状態となり(t3)、糸条13を切断する。
【0037】
糸条13が切断されると、弛み取りローラ28に巻き付く糸条13の巻付量が減少し、最終的には弛み取りローラ28に糸条13が巻き付かなくなる。そのため、巻付量センサ29が糸条13の巻付量を検知せず「OFF」の状態となる(t4)。そして、巻付量センサ29は、制御部90に対して糸無しであることを示す糸無し検知信号を送信する。
【0038】
制御部90は、糸無し検知信号を受信すると、デレイタイマ91の作動を開始する。ここで、デレイタイマ91は、糸速度、糸条13の太さ等により予め作動タイミングが設定されている。また、糸端処理装置40、リフトアップシリンダ35、及びパッケージブレーキ36の作動タイミングは、デレイタイマ91の作動タイミングにより決められている。
【0039】
糸端処理装置40は、デレイタイマ91が作動することにより、バルブ50(図4)が「ON」の状態となり(t5)、第1吹付部43、及び第2吹付部44から糸経路45内へ圧縮空気が噴射され、糸条13の糸端部付近に絡み合い部分37を形成する。
【0040】
リフトアップシリンダ35は、デレイタイマ91が作動することにより、「ON」の状態となり(t6)、クレードルアーム19をリフトアップする。ここで、デレイタイマ91は、糸条13の糸端部が糸端処理装置40を通過し、巻取ドラム20に到達するまでにリフトアップシリンダ35が「ON」の状態となるタイミングで作動する。
【0041】
パッケージブレーキ36は、デレイタイマ91が作動することより、「ON」の状態となり(t6)、ボビン16の回転を制動する。ここで、デレイタイマ91は、クレードルアーム19がリフトアップすると同時にパッケージブレーキ36が「ON」の状態となるタイミングで作動する。
【0042】
次に、本発明の糸端処理装置を有する糸条巻取機の第2実施例について図面に基づいて説明する。尚、糸端処理装置40の構成については第1実施例に係る糸端処理装置40と同様であるため説明を省略する。図6は糸端処理装置40を有するワインダー60の概略図である。
【0043】
糸条巻取機であるワインダー60は、給糸ボビン61から解舒された糸条13を巻き返して、パッケージ63を形成する装置である。ワインダー60は、バルーンコントローラ64と、テンションコントローラ65と、糸継装置68と、糸速センサ66と、カッター26と、ヤーンクリアラー25と、糸端処理装置40と、綾振ドラム67と、から構成されている。給糸ボビン61から解舒されて上方へ引出された糸条13は、ワインダー60の最上位置に設ける綾振ドラム67を介して、パッケージ63に巻き取られる。
【0044】
バルーンコントローラ64は、給糸ボビン61の残糸に追随して降下し、1本の給糸ボビン61の解舒始めから解舒終わりまでの間を略一定の解舒テンションに維持する。テンションコントローラ65は、給糸ボビン61から解舒される糸条13に所定の巻き取りテンションを加える装置である。糸速センサ66は、非接触で糸条13の走行速度(糸速)を検知する装置である。
【0045】
ヤーンクリアラー25は、パッケージ63へ送られる途中の糸条13の欠点部分を検知する糸欠点検知部である。ヤーンクリアラー25は、制御部90(図7)に接続され、糸条13の欠点部分を検知した場合には検知信号を制御部90へ送信する。具体的には、ヤーンクリアラー25は、糸条13の太さを検知し、糸条13の太さが許容範囲から外れた場合には、糸条13が欠点部分を有しているとして、糸欠点検知信号を制御部90へ送信する。
【0046】
カッター26は、ヤーンクリアラー25の検知信号に基づいて、欠点部分が検知された糸条13を切断する糸切断部である。
【0047】
綾振ドラム67は、糸条13をパッケージ63に綾巻きする装置である。綾振ドラム67は、糸条13をパッケージ63の軸方向に振り動かす機能(トラバース機能)と、パッケージ63を回転させる機能(回転駆動機能)と、を有する。綾振ドラム67は、その外周面がパッケージ63の外周面と接触するように配置されており、綾振ドラム67が回転することでパッケージ63が連動して回転する。
【0048】
パッケージ63は、ボビン69の外周面上にコーン巻きで形成されるパッケージである。ボビン69は両端部をクレードルアーム70により挟持されている。クレードルアーム70は、リフトアップシリンダ71と接続されている。リフトアップシリンダ71は、クレードルアーム70をリフトアップすることにより、パッケージ63の周面を綾振ドラム67から離間させる。クレードルアーム70は、ボビン69を挟持する部分に、パッケージブレーキ72が設けられている。パッケージブレーキ72は、クレードルアーム70のリフトアップによりパッケージ63の周面が綾振ドラム67から離間した直後に、ボビン69の回転を制動する。
【0049】
糸継装置68は、給糸ボビン61側の下糸と、パッケージ63側の上糸とを、糸継ぎする装置である。糸継装置68は、空気流により上糸及び下糸の繊維同士を絡ませて糸継ぎをする空気ノズル装置73と、下糸を吸引捕捉して空気ノズル装置73に案内する下糸吸引装置74と、上糸を吸引補足して空気ノズル装置73に案内する上糸吸引装置75と、を具備する。カッター26での糸切断等により糸切れが発生すると、糸条13は上糸と下糸とに分離されるため、糸継装置6は上糸及び下糸を吸引補足して糸継ぎを行い、パッケージ63への巻返しを再開させる。
【0050】
次に、ワインダー60における糸端処理装置40の糸端処理のメカニズムについて説明する。図6に示すように、カッター26により切断された糸条13の糸端部は、糸端処理装置40へ導入される。糸端処理装置40は、糸条13の糸端部が糸経路45内を走行する間に第1吹付部43、及び第2吹付部44から圧縮空気を糸経路45内へ噴射する。当該圧縮空気は、糸経路45内に噴射されることで糸経路45の周壁に沿って旋回流動し、糸条13の追撚方向に旋回する旋回流となる。糸条13の糸端部は、糸経路45内を走行しながら当該旋回流である圧縮空気によって追撚方向に力を受ける。そのため、糸条13の糸端部には、屈曲状あるいは波状に捲縮した状態、又は、糸条が絡み合った状態の絡み合い部分が形成される。
【0051】
当該絡み合い部分が形成された糸条13の糸端部は、そのままパッケージ63まで走行する。クレードルアーム70は、カッター26が糸条13を切断した際に発する糸条切断信号に基づいて、リフトアップシリンダ71が作動することによりリフトアップされる。また、パッケージブレーキ72は、クレードルアーム70がリフトアップされると同時にボビン69の回転を制動する。ボビン16の回転が制動されると、糸条13の糸端部は、慣性によって回動するパッケージ63に付着する。当該絡み合い部分は、他の部分よりも太くなっており、当該絡み合い部分の一部はパッケージ63の糸層表面に接触するが、その他の部分はパッケージ63の糸層表面から浮き上がった状態を保つこととなる。これにより、当該絡み合い部分の表面にある毛羽がパッケージ63の糸層表面の毛羽に絡み難くなり、糸条13の糸端部がパッケージ63の糸層表面に張り付きにくくなって、糸継ぎ時のパッケージ63側の口出しを容易とすることができる。また、糸条13の糸端部が綾振ドラム67によって、パッケージ63の糸層に押し付けられた場合でも、当該絡み合い部分は他の部分より太くなっているため、パッケージ63の糸層内部に食い込みにくく、糸継ぎ時のパッケージ63側の口出しを容易とすることができる。
【0052】
次に、ワインダー60における糸端処理装置40の制御について説明する。図7は、ワインダー60における糸端処理装置40、及びその周辺装置の回路構成を示すブロック図、図8は、ワインダー60における糸端処理装置40の糸端処理のタイミングチャートである。
【0053】
図7に示すように、制御部90は、ヤーンクリアラー25と、カッター26と、糸端処理装置40と、に接続されている。制御部90は、ワインダー60の各装置から送信される信号を受信し、当該信号に応じて糸端処理装置40を制御する。
【0054】
図8に示すように、許容範囲の太さから外れた糸条13が糸欠点検知部であるヤーンクリアラー25を通過すると、ヤーンクリアラー25が「ON」の状態となり(t21)、糸欠点検知信号を制御部90へ送信する。制御部90は、糸欠点検知信号を受信すると、糸端処理装置40に対して圧縮空気を糸経路45内へ噴射する旨の制御信号を送信する。糸端処理装置40は、制御部90からの当該制御信号を受信すると、バルブ50(図7)が「ON」の状態となり(t22)、第1吹付部43、及び第2吹付部44から糸経路45内へ圧縮空気を噴射する。
【0055】
また、制御部90は、糸欠点検知信号を受信すると、カッター26に対して糸条13を切断する旨の制御信号を送信する。カッター26は、制御部90からの当該制御信号を受信すると、「ON」の状態となり(t23)、糸条13を切断する。
【0056】
さらに、制御部90は、糸欠点検出信号を受信すると、デレイタイマ91を介してリフトアップシリンダ71に対してクレードルアーム70をリフトアップする旨の制御信号を送信する。リフトアップシリンダ71は、制御部90からの当該制御信号を受信すると、「ON」の状態となり(t24)、クレードルアーム70をリフトアップする。
【0057】
さらにまた、制御部90は、クレードルアーム70のリフトアップと略同時にパッケージブレーキ72に対してボビン69の回転を制動する旨の制御信号を送信する。パッケージブレーキ72は、制御部90からの当該制御信号を受信すると、「ON」の状態となり(t24)、ボビン69の回転を制動する。
【0058】
このように、ワインダー60における糸端処理装置40は、カッター26により糸条13が切断される前に、予め糸経路45内へ圧縮空気を噴射するように制御され、その後切断され、走行する糸条13の糸端部を処理する。
【0059】
以上の精紡機1及びワインダー60における糸端処理装置40では、圧縮空気により糸条の糸端部を処理する場合に限定して説明したが、糸条の糸端部が糸端処理装置を走行する際に、屈曲状あるいは波状に捲縮した状態の、又は、糸条が絡み合った状態の絡み合い部分が糸条の糸端部に形成される構成であれば、上記の実施例に限定されない。
【0060】
例えば、摩擦板に糸条の糸端部を接触走行させて起毛状態の絡み合い部分を形成させる、或いは、一対の走行ベルト間に糸条の糸端部を接触走行させて絡み合いを形成する等のメカニカルな手段によることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】糸端処理装置40を有する精紡機1の概略図。
【図2】(a)は糸端処理装置40の斜視図、(b)は糸端処理装置40の断面図、(c)は糸端処理装置40の側面の断面図。
【図3】糸端処理装置40により処理された糸条13の糸端部がパッケージ17に巻き付く際の概略図。
【図4】精紡機1における糸端処理装置40、及びその周辺装置の回路構成を示すブロック図。
【図5】精紡機1における糸端処理装置40の糸端処理のタイミングチャート。
【図6】糸端処理装置40を有するワインダー60の概略図。
【図7】ワインダー60における糸端処理装置40、及びその周辺装置の回路構成を示すブロック図。
【図8】ワインダー60における糸端処理装置40の糸端処理のタイミングチャート。
【符号の説明】
【0062】
1 精紡機(糸条巻取機)
13 糸条
17 パッケージ
27 糸弛み取り装置(一時貯留部)
37 絡み合い部分
40 糸端処理装置
60 ワインダー(糸条巻取機)
63 パッケージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切断された糸条の糸端部に絡み合い部分を形成する糸端処理装置を前記糸条の糸道に設け、
絡み合い部分が形成された前記糸条の糸端部がパッケージに巻き取られることを特徴とする、糸端処理装置を有する糸条巻取機。
【請求項2】
前記糸端処理装置は、前記パッケージ側の糸端部付近に対して、流体を噴射することにより、前記糸端部付近に絡み合い部分を形成することを特徴とする請求項1に記載の糸端処理装置を有する糸条巻取機。
【請求項3】
前記糸端処理装置は、前記糸端部が通過する糸経路を備えており、前記糸経路内に流体を噴射することを特徴とする請求項2に記載の糸端処理装置を有する糸条巻取機。
【請求項4】
前記糸端処理装置は、前記パッケージに巻き取られる糸条が一時的に貯留される一時貯留部に対して、前記糸条の走行方向の下流側に設置されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の糸端処理装置を有する糸条巻取機。
【請求項5】
前記絡み合い部分は、前記糸条が屈曲状あるいは波状に捲縮した状態、又は、前記糸条が絡み合った状態であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の糸端処理装置を有する糸条巻取機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−242041(P2009−242041A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89595(P2008−89595)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)