説明

糸継ぎ方法、糸継ぎ装置、ならびに自動ワインダ装置

【課題】2本の糸条を接着剤で継ぐ糸継ぎ方法であって、糸条に塗布する接着剤の供給量を正確に調節することができる糸継ぎ方法を提供することを目的とする。
【解決手段】2本の糸条Y・Yを接着剤で継ぐ糸継ぎ方法であって、2本の糸条Y・Yのうち一方又は双方に対して接着剤の液滴を噴射する接着剤塗布工程S110と、2本の糸条Y・Yを突き合わせる突き合わせ工程S120と、2本の糸条Y・Yの間に介在する接着剤層Gを硬化させる硬化処理工程S130と、を具備した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤を用いて2本の糸条を互いに継ぐ糸継ぎ方法、糸継ぎ装置、ならびに自動ワインダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、糸条を継ぐ技術として、2本の糸条を結ぶノッティング方式や、2本の糸端部を揃えた後に旋回気流を用いることで撚り上げるエアスプライサ方式等が知られている。ノッティング方式では、継ぎ目の強度に優れるものの、結び目ができるために、この結び目を裏地に押し込む作業等が必要であった。また、エアスプライサ方式では、撚り上げて継ぐために、継ぎ目は目立たないが強度に劣る場合や染めムラが生じる場合がある等の欠点があった。
【0003】
そこで、2本の糸条の糸端部同士を突き合わせて、突き合わせ部分に接着剤を付与することで糸条を継ぐ糸継ぎ方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、特許文献1に示す糸継ぎ方法に用いられる樹脂供給手段は、接着剤となる樹脂を貯溜する本体とシリンダとから構成される注射器型のものであるため、糸条に塗布する接着剤の供給量を正確に調節し難い点で不利であった。このため、接着剤の供給量が多くなることにより、糸条の継ぎ目が硬くなる問題や、接着剤の供給量が少なくなることにより、糸条の継ぎ目の強度が低くなる問題等があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−12232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の如き状況に鑑み、糸条に塗布する接着剤の供給量を正確に調節することができる糸継ぎ方法、糸継ぎ装置、ならびに自動ワインダ装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、第1の発明は、
2本の糸条を接着剤で継ぐ糸継ぎ方法であって、
前記2本の糸条のうち一方又は双方に対して接着剤の液滴を噴射する接着剤塗布工程と、
前記2本の糸条を突き合わせる突き合わせ工程と、
前記2本の糸条の間に介在する接着剤層を硬化させる硬化処理工程と、
を具備することを特徴とするものである。
【0009】
第2の発明は、
前記接着剤塗布工程は、
前記糸条の端面に対して前記接着剤の液滴を噴射することを特徴とするものである。
【0010】
第3の発明は、
前記接着剤は、光硬化性接着剤であり、
前記硬化処理工程は、前記接着剤層に光を照射することを特徴とするものである。
【0011】
第4の発明は、
2本の糸条を接着剤で継ぐ糸継ぎ装置であって、
前記2本の糸条のうち一方又は双方に対して前記接着剤の液滴を噴射する接着剤噴射部と、
前記接着剤噴射部からの液滴の数量を制御する制御部と、
を具備することを特徴とするものである。
【0012】
第5の発明は、
前記接着剤噴射部は、前記糸条の端面に対して前記接着剤の液滴を噴射することを特徴とするものである。
【0013】
第6の発明は、
前記接着剤は、光硬化性接着剤であり、
前記2本の糸条の間に介在する接着剤層に光を照射させる光照射部を更に具備することを特徴とするものである。
【0014】
第7の発明は、
第1から第3の発明に係る糸継ぎ装置を具備する自動ワインダ装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0016】
第1の発明においては、噴射する接着剤の液滴の数量を制御することによって、糸条に塗布する接着剤の量を精度良く調節することができる。
【0017】
第2の発明においては、糸条の端面に対して接着剤の液滴を噴射するため、糸条の繊維間に接着剤が浸透しやすい。このため、糸条の接着部分における空隙の発生を防止することができ、空隙の発生による接着力の低下を防止することができる。
【0018】
第3の発明においては、光照射部から光を照射することで、2本の糸条の間に介在する接着剤層を硬化させるため、所望のタイミングで接着剤を硬化させて2本の糸条を継ぐことができ、糸継ぎ作業にかかる時間を短縮することができる。
【0019】
第4の発明においては、制御部により、接着剤噴射部から噴射する接着剤の液滴の数量を制御することができるため、糸条に塗布する接着剤の量を精度良く調節することができる。
【0020】
第5の発明においては、糸条の端面に対して接着剤の液滴を噴射するため、糸条の繊維間に接着剤が浸透しやすい。このため、糸条の接着部分における空隙の発生を防止することができ、空隙の発生による接着力の低下を防止することができる。
【0021】
第6の発明においては、光照射部から光を照射することで、2本の糸条の間に介在する接着剤層を硬化させるため、所望のタイミングで接着剤を硬化させて2本の糸条を継ぐことができ、糸継ぎ作業にかかる時間を短縮することができる。
【0022】
第7の発明においては、糸継ぎ作業に使用する接着剤の量を精度良く調節することができ、巻き取る糸条の接着部の強度を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る糸継ぎ方法の第1実施形態を示す図。
【図2】糸継ぎ方法の第1実施形態に係る接着剤塗布工程を示す図。
【図3】糸継ぎ方法の第1実施形態に係る突き合わせ工程を示す図。
【図4】糸継ぎ方法の第1実施形態に係る硬化処理工程を示す図。
【図5】本発明に係る糸継ぎ方法の第2実施形態を示す図。
【図6】糸継ぎ方法の第2実施形態に係る突き合わせ工程を示す図。
【図7】糸継ぎ方法の第2実施形態に係る接着剤塗布工程を示す図。
【図8】本発明に係る自動ワインダ装置の一実施形態を示す右側面図。
【図9】一実施形態に係る自動ワインダ装置の動作態様を示す図。
【図10】一実施形態に係る自動ワインダ装置の切断動作を示す図。
【図11】一実施形態に係る自動ワインダ装置の配置動作を示す図。
【図12】一実施形態に係る自動ワインダ装置の配置動作を示す図。
【図13】本発明に係る糸継ぎ装置の第1実施形態を示す正面図。
【図14】接着剤噴射部を示す断面図。
【図15】第1実施形態に係る糸継ぎ装置の動作態様を示す図。
【図16】第1実施形態に係る糸継ぎ装置のクランプ動作を示す図。
【図17】第1実施形態に係る糸継ぎ装置の切除動作を示す図。
【図18】第1実施形態に係る糸継ぎ装置の接着剤塗布動作を示す図。
【図19】接着剤噴射部による接着剤の塗布の様子を示す図。
【図20】第1実施形態に係る糸継ぎ装置の突き合わせ動作を示す図。
【図21】第1実施形態に係る糸継ぎ装置の硬化処理動作を示す図。
【図22】第1実施形態に係る糸継ぎ装置による糸条の固定の解除の様子を示す図。
【図23】本発明に係る糸継ぎ装置の第2実施形態を示す正面図。
【図24】第2実施形態に係る糸継ぎ装置の動作態様を示す図。
【図25】第2実施形態に係る糸継ぎ装置の接着剤塗布動作を示す図。
【図26】接着剤噴射部を複数用いて接着剤を塗布する様子を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
まず、図1から図4までを用いて、本発明に係る糸継ぎ方法の第1実施形態について説明する。
【0025】
図1に示すように、本実施形態の糸継ぎ方法は、主に接着剤塗布工程S110、突き合わせ工程S120、硬化処理工程S130等を具備する。
【0026】
接着剤塗布工程S110は、2本の糸条Yのうち一方に対して接着剤の液滴を噴射する工程である。なお、以下の説明における接着剤は、所定の波長の光を照射されることによって硬化する光硬化性の接着剤である。また、当該光は、可視光又は不可視光のいずれであってもよい。
【0027】
図2に示すように、接着剤塗布工程S110において、移動自在なクランプCL・CLによって固定された2本の糸条Y・Yのうち、一方の糸条Yの端面に対し、接着剤の液滴が噴射される。前記接着剤の液滴は、ピコリットルオーダーの所定量の液滴である。噴射される接着剤の液滴の数量を制御することによって、糸条Yに塗布する接着剤の量を精度良く調節することができる。また、糸条Yの端面に対して接着剤の液滴を噴射するため、糸条Yの繊維間に接着剤が浸透しやすい。このため、糸条Yの接着部分における空隙の発生を防止することができ、空隙の発生による接着力の低下を防止することができる。
接着剤塗布工程S110の終了後、突き合わせ工程S120へと移行する。
【0028】
突き合わせ工程S120は、2本の糸条Y・Yを突き合わせる工程である。図3に示すように、突き合わせ工程S120において、クランプCLは2本の糸条Y・Yが突き合わされる位置まで移動する。この際、クランプCLは、一方の糸条Yに塗布された接着剤がもう一方の糸条Yに付着し、2本の糸条Y・Yの間に接着剤層Gが形成される程度の位置まで移動する。
突き合わせ工程S120の終了後、硬化処理工程S130へと移行する。
【0029】
硬化処理工程S130は、2本の糸条Y・Yの間に介在する接着剤層Gを硬化させる工程である。図4に示すように、硬化処理工程S130において、光照射部Lにより2本の糸条Y・Yの間に介在する接着剤層Gに対して、接着剤が硬化する波長に応じた光が照射される。これによって、接着剤層Gが硬化され、2本の糸条Y・Yが継がれる。このように、光照射部Lから光を照射することで、接着剤層Gを硬化させるため、所望のタイミングで接着剤を硬化させて当該2本の糸条Y・Yを継ぐことができ、糸継ぎ作業にかかる時間を短縮することができる。
【0030】
なお、本実施形態に係る接着剤塗布工程S110においては、2本の糸条Y・Yのうち一方に対して接着剤の液滴を噴射するものとしたが、本発明はこれに限るものではなく、2本の糸条Y・Y双方に対して接着剤の液滴を噴射するものとしてもよい。
【0031】
以下では、図5から図7までを用いて、本発明に係る糸継ぎ方法の第2実施形態について説明する。
【0032】
図5に示すように、本実施形態の糸継ぎ方法は、主に突き合わせ工程S210、接着剤塗布工程S220、硬化処理工程S130等を具備する。
【0033】
本実施形態の糸継ぎ方法は、突き合わせ工程と接着剤塗布工程の順序が逆である点で、第1実施形態の糸継ぎ方法と異なる。
【0034】
突き合わせ工程S210は、2本の糸条Y・Yを突き合わせる工程である。図6に示すように、突き合わせ工程S210において、クランプCLは2本の糸条Y・Yが突き合わされる位置まで移動する。この際、当該2本の糸条Y・Yの間の距離は、可能な限り狭められる、又は、後に塗布される接着剤が両糸条の間に接着剤層G(図7参照)を形成できる程度の距離に調節される。
突き合わせ工程S210の終了後、接着剤塗布工程S220へと移行する。
【0035】
接着剤塗布工程S220は、2本の糸条Y・Yに対して接着剤の液滴を噴射する工程である。図7に示すように、接着剤塗布工程S220において、2本の糸条Y・Yが突き合わされた部分に、接着剤の液滴が噴射される。これによって、当該2本の糸条Y・Yの間に接着剤層Gが形成される。前記接着剤の液滴は、ピコリットルオーダーの所定量の液滴である。噴射される接着剤の液滴の数量を制御することによって、2本の糸条Y・Yに塗布する接着剤の量を精度良く調節することができる。
【0036】
硬化処理工程S130は、2本の糸条Y・Yの間に介在する接着剤層Gを硬化させる工程である。図4に示すように、硬化処理工程S130において、光照射部Lにより2本の糸条Y・Yの間に介在する接着剤層Gに対して、接着剤が硬化する波長に応じた光が照射される。これによって、接着剤層Gが硬化され、2本の糸条Y・Yが継がれる。このように、光照射部Lから光を照射することで、接着剤層Gを硬化させるため、所望のタイミングで接着剤を硬化させて2本の糸条Y・Yを継ぐことができ、糸継ぎ作業にかかる時間を短縮することができる。
【0037】
なお、上述した実施形態においては、接着剤として光硬化性の接着剤を用いる構成としたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、接着剤として乾燥性の接着剤や湿気硬化性の接着剤等、種々の接着剤を用いることが可能であり、硬化処理工程S130を、例えば、2本の糸条Y・Yの間に介在する接着剤層Gを乾燥させる工程等とすることも可能である。
【0038】
次に、図8から図12までを用いて本発明に係る自動ワインダ装置の実施の一形態である自動ワインダ装置100について説明する。図8及び図10から図12までは、重力の作用方向を上下方向とし、図示右方を前側とした右側面図となっている。
【0039】
図8に示すように、自動ワインダ装置100は、給糸ボビン6から供給された糸条1に欠点が発見された場合に、当該欠点部1E(図13参照)を切断、除去することによって糸品質を整えるものである。自動ワインダ装置100には、糸条1の送り方向に沿って、主にバルーンコントローラ2、糸継ぎ装置3、ヤーンクリアラー4、ならびに綾振ドラム5等が備えられている。また、糸条1の糸道近傍には上糸用サクションアーム8ならびに下糸用サクションアーム9が各1台備えられている。
【0040】
バルーンコントローラ2は、糸条1に対して巻き始めから巻き終わりまで常に適切な張力を掛けることにより糸条1の高速巻取りを可能とするものである。
【0041】
糸継ぎ装置3は、糸条1の欠点部1Eの切断ならびに除去を行い、切断により上糸1Aと下糸1B(図10ならびに図11参照)とに分割された糸条1を継ぐものである。
【0042】
ヤーンクリアラー4は、糸条1の欠点部1Eを検出するものである。ヤーンクリアラー4は、図示せぬ制御部に電気的に接続されており、例えば発光ダイオードを光源として糸条1からの反射光量を検出することで、異物混入等の欠点部1Eの有無を判断するものである。
【0043】
綾振ドラム5は、図示せぬモータにより回転駆動することで、糸条1を巻き取るパッケージ7を従動回転させるとともに、糸条1を綾振することでパッケージ7に巻き取る際の偏りを防ぐものである。
【0044】
上糸用サクションアーム8は、自動ワインダ装置100の本体部に回動可能に軸着された吸気ダクトである。上糸用サクションアーム8の先端部には、空気吸い込み口8aが設けられており、該空気吸い込み口8aより空気を吸引することによって上糸1Aを吸着して保持することができる。また、上糸用サクションアーム8は、上糸1Aを保持したまま回動することにより、糸継ぎ時における所定の位置に上糸1Aを配置する。
【0045】
下糸用サクションアーム9は、自動ワインダ装置100の本体部に回動可能に軸着された吸気ダクトである。下糸用サクションアーム9の先端部には、空気吸い込み口9aが設けられており、該空気吸い込み口9aより空気を吸引することによって下糸1Bを吸着して保持することができる。また、下糸用サクションアーム9は、下糸1Bを保持したまま回動することにより、糸継ぎ時における所定の位置に下糸1Bを配置する。
【0046】
以下では、図8から図12までを用いて、自動ワインダ装置100の動作態様について説明する。
【0047】
図9に示すように、自動ワインダ装置100は、主に検出動作S310、切断動作S320、配置動作S330、糸継ぎ動作S340等を行う。
【0048】
検出動作S310は、給糸ボビン6から供給される糸条1の欠点部1Eを検出する動作である。
【0049】
図8に示すように、検出動作S310において、給糸ボビン6から供給された糸条1は、バルーンコントローラ2により常に適切な張力を掛けられて、ヤーンクリアラー4、綾振ドラム5を順次介してパッケージ7に巻き取られる。
【0050】
検出動作S310において、給紙ボビン6から供給された糸条1に異物混入等の欠点部1Eがある場合は、ヤーンクリアラー4によって該欠点部1Eが検出される。これは、前述のように発光ダイオード等を光源として糸条1からの反射光量が、欠点部1Eの部分で変化することにより検出される。
検出動作S310の終了後、切断動作S320へと移行する。
【0051】
切断動作S320は、糸条1の欠点部1Eを検出した際に当該糸条1を切断する動作である。
【0052】
図10に示すように、切断動作S320において、ヤーンクリアラー4が反射光量の変化を検出した際、つまり、欠点部1Eを検出した際には、ヤーンクリアラー4近傍に備えられた図示しないカッターが糸条1を切断し、綾振ドラム5の回転を停止する制御が行われる。これにより、糸条1の切断部より下流側である上糸1Aはパッケージ7に巻き取られた状態、糸条1の切断部より上流側である下糸1Bは下糸用サクションアーム9に保持された状態となる。なお、欠点部1Eの検出より、切断のタイミングが遅れるために、欠点部1Eは上糸1Aとしてパッケージ7に巻き取られている。
切断動作S320の終了後、配置動作S330へと移行する。
【0053】
配置動作S330は、上糸1A及び下糸1Bを糸継ぎ装置3の所定の位置へ配置する動作である。
【0054】
図11に示すように、配置動作S330において、パッケージ7に巻き取られた上糸1Aの糸端は、上糸用サクションアーム8を上方へ回動(図示反時計回転)することで、上糸用サクションアーム8の空気吸い込み口8aに吸引されて、保持される。
【0055】
そして、図12に示すように、上糸1Aの糸端を保持した状態で上糸用サクションアーム8を下方へ回動(図示時計回転)することで、上糸1Aは糸継ぎ装置3の所定の位置へ配置される。なお、上糸1Aの糸端は、上糸用サクションアーム8により吸引されているために上下方向に架け渡された状態となる。
【0056】
一方、図12に示すように、配置動作S330において、下糸用サクションアーム9に保持されている下糸1Bは、該下糸1Bを保持した状態で下糸用サクションアーム9を上方へ回動(図示反時計回転)することで糸継ぎ装置3の所定の位置へ配置される。なお、下糸1Bは、下糸用サクションアーム9により吸引されているために上下方向に架け渡された状態となる。
配置動作S330の終了後、糸継ぎ動作S340へと移行する。
【0057】
糸継ぎ動作S340は、上糸1Aと下糸1Bとを継ぐ動作である。糸継ぎ動作S340において、糸継ぎ装置3によって上糸1Aと下糸1Bとが継がれ、1本の糸条1が形成される。糸継ぎ動作S340の詳細については、後述する。
【0058】
図8に示すように、糸継ぎ動作S340において継がれた糸条1は、再びパッケージ7に巻き取られる。
【0059】
次に、図13ならびに図14を用いて、本発明に係る糸継ぎ装置の第1実施形態である糸継ぎ装置3について説明する。
【0060】
図13に示すように、糸継ぎ装置3は、主に基台10、上糸1Aを挟持するクランプ20A、下糸1Bを挟持するクランプ20B、上糸1Aを切断するカッター30A、糸条1ならびに下糸1Bを切断するカッター30B、上糸1Aと下糸1Bとを継ぐための接着剤を供給する接着剤噴射部40、接着剤を硬化させるための光照射部50等を備える。なお、これらは図示せぬ制御部に電気的に接続されており、当該制御部に予め記憶される制御プログラム等に従って、その動作を制御される。
【0061】
なお、本実施形態における接着剤は、所定の波長の光を照射されることによって硬化する光硬化性の接着剤である。また、当該光は、可視光又は不可視光のいずれであってもよい。
【0062】
基台10は、糸継ぎ装置の主たる構造体となるものである。基台10は、クランプ20A・20B、カッター30A・30B等を支持する。
【0063】
クランプ20Aは、対向するように配置された一対のアーム部材から構成される。クランプ20Aは、当該アーム部材を開閉することができ、アーム部材を閉じることにより、当該アーム部材間に配置される上糸1Aを挟持することができる。また、クランプ20Aは、基台10上を水平方向に移動することもできる。
【0064】
クランプ20Bは、対向するように配置された一対のアーム部材から構成される。クランプ20Bは、当該アーム部材を開閉することができ、アーム部材を閉じることにより、当該アーム部材間に配置される下糸1Bを挟持することができる。また、クランプ20Bは、基台10上を上下方向に移動することもできる。
【0065】
カッター30Aは、セラミック素材を用いた刃物であって、上糸1Aを切断するものである。カッター30Aは、クランプ20Aの下方かつ近傍に配置される。また、カッター30Bは、セラミック素材を用いた刃物であって、下糸1Bを切断するものである。カッター30Bは、クランプ20Bの上方かつ近傍に配置される。
【0066】
図13ならびに図14に示すように、接着剤噴射部40は、接着剤の液滴を下糸1Bに対して噴射することにより、当該下糸1Bに前記接着剤を塗布するものである。接着剤噴射部40は、カッター30Bの上方に配置される。接着剤噴射部40は、主にヘッド41、接続管42、熱線43、ピエゾ素子44、ノズル45等を備える。
【0067】
図14に示すように、ヘッド41は、接着剤噴射部40の主たる構造体となるものである。ヘッド41には、後述する接続管42から送り込まれる接着剤を受ける接続室41a、接続室41aに連設されて接着剤が溜められる貯溜室41b、ならびに貯溜室41bから分岐された圧力室41cが形成される。
【0068】
接続管42は、図示せぬタンクに溜められる接着剤を、接続室41aへと供給するための配管である。
【0069】
熱線43は、接続室41a内に配置され、接着剤を加熱して所定の温度に維持するものである。熱線43、ならびに接続室41a内の温度を検出する図示せぬ温度センサは、図示せぬ制御部に電気的に接続される。前記制御部は、前記温度センサによる検出結果と、予め設定される閾値と、を比較し、この比較結果に基づいて熱線43をオン・オフ制御することにより、接着剤を所定の温度に保つことができる。
【0070】
ピエゾ素子44は、圧力室41cに対する圧力の発生源となるものである。ピエゾ素子44は、圧力室41cの隔壁(図14における上壁)となる振動板44aの上部に配置される。ピエゾ素子44は、図示せぬ制御部に電気的に接続され、当該制御部からの信号に基づいて伸縮する。
【0071】
ノズル45は、圧力室41cに開設され、接着剤の噴き出し口となるものである。
【0072】
このような構成の接着剤噴射部40において、ピエゾ素子44の伸縮を受けて、図14に二点鎖線で示すごとく振動板44aが図面下方に膨らむ凸状に変位されると、圧力室41c内の体積が減少する。これによって、ノズル45から、ピコリットルオーダーの所定量の液滴からなる接着剤が噴射される。
【0073】
この状態から、図14に実線で示すごとく振動板44aが平らに戻されると、圧力室41c内の体積が増加する。これによって、貯溜室41bから圧力室41cへと接着剤が供給される。これに伴って、接着剤が、図示せぬタンクから接続管42、接続室41aを介して貯溜室41bへと供給される。
【0074】
このような構成の接着剤噴射部40において、前記制御部によってピエゾ素子44へと発信されるパルス信号の周波数、及び当該パルス信号の発信時間を制御することにより、接着剤噴射部40から噴射される接着剤の液滴の数量を制御することができる。これによって、接着剤噴射部40により塗布される接着剤の量を精度良く制御することができる。
【0075】
図13に示すように、光照射部50は、接着剤が硬化する波長に応じた発光ダイオード等を具備し、光硬化性の接着剤を硬化させるものである。光照射部50は、クランプ20Aの側方(図13における左方)かつクランプ20Bの上方に配置される。
【0076】
以下では、図13、ならびに図15から図22までを用いて、糸継ぎ装置3による糸継ぎ動作S340の態様について説明する。
【0077】
なお、図13には、自動ワインダ装置100の配置動作S330によって、上糸1Aがクランプ20Aを構成する一対のアーム部材の間を通るように、下糸1Bがクランプ20Bを構成する一対のアーム部材の間を通るように、それぞれ配置されている状態を示す。このとき、上糸1Aならびに下糸1Bは互いに平行であって、基台10に対して等しい高さとなるように配置される。このように上糸1A及び下糸1Bを配置することによって、後の突き合わせ動作S344における突き合わせを容易に行うことができる。
【0078】
図15に示すように、糸継ぎ装置3は、糸継ぎ動作S340において、主にクランプ動作S341、切除動作S342、接着剤塗布動作S343、突き合わせ動作S344、硬化処理動作S345等を行う。
【0079】
クランプ動作S341は、糸継ぎ装置3の所定の位置へと配置された上糸1A及び下糸1Bを、それぞれ固定する動作である。図16に示すように、クランプ動作S341において、上糸1Aならびに下糸1Bは、各クランプ20Aならびにクランプ20Bがそれぞれ閉駆動することによって挟持される。なお、上糸1Aの糸端部分にある欠点部1Eは、上糸用サクションアーム8の空気吸い込み口8aとクランプ20Aの間に位置することとなる。
クランプ動作S341の終了後、切除動作S342へと移行する。
【0080】
切除動作S342は、上糸1Aならびに下糸1Bを、それぞれ所定の位置で切断する動作である。図17に示すように、切除動作S342において、カッター30Aが駆動されることにより、上糸1Aがクランプ20Aの下方かつ近傍において切断される。また、カッター30Bが駆動されることにより、下糸1Bがクランプ20Bの上方かつ近傍において切断される。これによって、欠点部1Eは、上糸用サクションアーム8の空気吸い込み口8aに吸引され、除去することができる。また、下糸1Bのうち、カッター30Bの上方に位置する部分は、下糸用サクションアーム9の空気吸い込み口9aに吸引されて除去される。
切除動作S342の終了後、接着剤塗布動作S343へと移行する。
【0081】
接着剤塗布動作S343は、下糸1Bに対して接着剤の液滴を噴射することにより、当該下糸1Bに接着剤を塗布する動作である。図18に示すように、接着剤塗布動作S343において、接着剤噴射部40によって接着剤が下糸1Bに塗布される。
【0082】
図19に示すように、接着剤噴射部40は、下糸1Bの端面(以下、単に「糸端面1n」と記す)に対して接着剤を噴射する。本実施形態に係る接着剤噴射部40を用いて、噴射する接着剤の液滴の数量を調節することにより、下糸1Bに塗布する接着剤の供給量を正確に調節することができる。これによって、下糸1B(糸条1)の種類や径等に合わせて、接着剤の量を正確に調節することができ、無駄な接着剤の使用を防止することができる。
【0083】
また、従来、糸条1の側面から接着剤を塗布する場合、当該接着剤が糸条1に完全に浸透しない場合があり、糸条1の内部(糸条1に塗布された接着剤の内部)に空隙が発生することによって接着強度が低下するという問題があった。しかし、上述の如く、糸端面1nに対して接着剤を塗布するため、下糸1Bの繊維間に接着剤が浸透しやすい。このため、糸条1の接着部分における空隙の発生を防止することができ、空隙の発生による接着力の低下を防止することができる。
【0084】
また、接着剤噴射部40は、糸端面1nの中心に向けて接着剤を噴射することが望ましい。これによって、周囲の空気の流れ等の外因によって接着剤の噴射方向が多少変化した場合であっても、糸端面1nに接着剤を塗布することができる。なお、下糸1Bの軸線方向と、接着剤噴射部40により噴射される接着剤の液滴が経る噴射経路と、が成す角度Xは、装置の構成上の観点等から、0度以上90度未満で任意に設定することができる。
接着剤塗布動作S343の終了後、突き合わせ動作S344へと移行する。
【0085】
突き合わせ動作S344は、上糸1Aと下糸1Bとを突き合わせる動作である。図20に示すように、突き合わせ動作S344において、クランプ20Aは、上糸1Aを挟持した状態で水平方向(図20における左方向)に移動する。また、クランプ20Bは、下糸1Bを挟持した状態で上方向に移動する。クランプ20Aならびにクランプ20Bは、上糸1Aの切断面と、下糸1Bの切断面(糸端面1n)と、が突き合わされる位置まで移動する。この際における上糸1Aの切断面と下糸1Bの切断面(糸端面1n)との間の距離は、下糸1Bに塗布された接着剤が上糸1Aに付着する程度の距離である。
突き合わせ動作S344の終了後、硬化処理動作S345へと移行する。
【0086】
硬化処理動作S345は、下糸1Bに塗布された接着剤を硬化させ、上糸1Aと下糸1Bとを継ぐ動作である。図21に示すように、硬化処理動作S345において、光照射部50が光を照射することによって、下糸1Bに塗布され上糸1Aに付着した接着剤が硬化される。これによって、上糸1Aと下糸1Bとが継がれ、再び1本の糸条1となる。このように、光照射部50を用いて所望のタイミングで接着剤を硬化させることで、糸継ぎ作業にかかる時間を短縮することができる。
【0087】
硬化処理動作S345の終了後、図22に示すように、クランプ20Aならびにクランプ20Bによる糸条1の固定が解除され、糸条1は再びパッケージ7に巻き取られる。クランプ20Aならびにクランプ20Bは、元の位置(図13参照)まで移動する。
【0088】
なお、本実施形態においては、接着剤を下糸1Bにのみ塗布する構成としたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、接着剤を上糸1Aにのみ塗布する構成とすることや、上糸1Aならびに下糸1Bに塗布する構成とすることも可能である。この場合、接着部の軸径が糸条1の軸径よりも極端に大きくならないように、接着剤噴射部40による接着剤の噴射量を調節することが好ましい。
【0089】
以下では、図23を用いて、本発明に係る糸継ぎ装置の第2実施形態である糸継ぎ装置3について説明する。
【0090】
図23に示すように、第2実施形態に係る糸継ぎ装置3が、第1実施形態に係る糸継ぎ装置3(図13参照)と異なる点は、接着剤噴射部40が、上糸1Aと下糸1Bとが突き合わされる部分の側方に配置される点である。
【0091】
以下では、図23から図26までを用いて、本実施形態に係る糸継ぎ装置3による糸継ぎ動作S340の態様について説明する。
【0092】
図24に示すように、糸継ぎ装置3は、糸継ぎ動作S340において、主にクランプ動作S341、切除動作S342、突き合わせ動作S443、接着剤塗布動作S444、硬化処理動作S345等を行う。
【0093】
図24に示すように、第2実施形態に係る糸継ぎ装置3による糸継ぎ動作S340の態様が、第1実施形態に係る糸継ぎ装置3による糸継ぎ動作S340の態様(図15参照)と異なる点は、突き合わせ動作S443と接着剤塗布動作S444の順序が逆である点である。その他の動作においては、第1実施形態に係る糸継ぎ動作S340の態様と同一であるため、同一の符号を付し、説明は省略する。
【0094】
突き合わせ動作S443は、上糸1Aと下糸1Bとを突き合わせる動作である。図23に示すように、突き合わせ動作S443において、クランプ20Aは、上糸1Aを挟持した状態で水平方向(図23における左方向)に移動する。また、クランプ20Bは、下糸1Bを挟持した状態で上方向に移動する。クランプ20Aならびにクランプ20Bは、上糸1Aの切断面と、下糸1Bの切断面(糸端面1n)と、が突き合わされる位置まで移動する。この際における上糸1Aの切断面と下糸1Bの切断面(糸端面1n)との間の距離は、可能な限り狭められ、後に塗布される接着剤が両切断面間に十分浸透することができる程度の距離に調節されることが望ましい。
突き合わせ動作S443の終了後、接着剤塗布動作S444へと移行する。
【0095】
接着剤塗布動作S444は、上糸1Aならびに下糸1Bに対して接着剤の液滴を噴射することにより、当該上糸1Aならびに下糸1Bに接着剤を塗布する動作である。図25に示すように、接着剤塗布動作S444において、接着剤噴射部40によって、接着剤が上糸1Aと下糸1Bとの突き合わされた部分に塗布される。
【0096】
また、図26に示すように、接着剤噴射部40を複数(図26においては2台)用いる構成とすることも可能である。このように構成することにより、上糸1Aならびに下糸1Bに対して複数方向から接着剤を浸透させることができ、接着剤の空隙の発生を防止し、接着強度の低下を抑制することができる。
【0097】
上述した実施形態に係る糸継ぎ装置3を、自動ワインダ装置100に具備することにより、糸条1のうち糸継ぎを行った部分の接着強度を安定させることができる。
【0098】
なお、上述した実施形態においては、接着剤として光硬化性の接着剤を用いる構成としたが、本発明はこれに限るものではなく、乾燥性の接着剤や湿気硬化性の接着剤等、種々の接着剤を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0099】
Y 糸条
CL クランプ
G 接着剤層
L 光照射部
1 糸条
1A 上糸
1B 下糸
1n 糸端面
3 糸継ぎ装置
20A クランプ
20B クランプ
30A カッター
30B カッター
40 接着剤噴射部
50 光照射部
S110 接着剤塗布工程
S120 突き合わせ工程
S130 硬化処理工程
S340 糸継ぎ動作
S343 接着剤塗布動作
S344 突き合わせ動作
S345 硬化処理動作

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本の糸条を接着剤で継ぐ糸継ぎ方法であって、
前記2本の糸条のうち一方又は双方に対して接着剤の液滴を噴射する接着剤塗布工程と、
前記2本の糸条を突き合わせる突き合わせ工程と、
前記2本の糸条の間に介在する接着剤層を硬化させる硬化処理工程と、
を具備することを特徴とする糸継ぎ方法。
【請求項2】
前記接着剤塗布工程は、
前記糸条の端面に対して前記接着剤の液滴を噴射することを特徴とする請求項1に記載の糸継ぎ方法。
【請求項3】
前記接着剤は、光硬化性接着剤であり、
前記硬化処理工程は、前記接着剤層に光を照射することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の糸継ぎ方法。
【請求項4】
2本の糸条を接着剤で継ぐ糸継ぎ装置であって、
前記2本の糸条のうち一方又は双方に対して前記接着剤の液滴を噴射する接着剤噴射部と、
前記接着剤噴射部からの液滴の数量を制御する制御部と、
を具備することを特徴とする糸継ぎ装置。
【請求項5】
前記接着剤噴射部は、前記糸条の端面に対して前記接着剤の液滴を噴射することを特徴とする請求項4に記載の糸継ぎ装置。
【請求項6】
前記接着剤は、光硬化性接着剤であり、
前記2本の糸条の間に介在する接着剤層に光を照射させる光照射部を更に具備することを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の糸継ぎ装置。
【請求項7】
請求項4から請求項6までのいずれか一項に記載の糸継ぎ装置を具備することを特徴とする自動ワインダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2010−215322(P2010−215322A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62093(P2009−62093)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】