説明

糸貯留引き出し装置及び糸巻取機

【課題】貯留された糸に乱れが発生することを防止できる糸貯留引き出し装置を提供する。
【解決手段】糸貯留引き出し装置は、糸貯留装置18と、巻取部と、を有する。糸貯留装置18は、第1糸接触部32aを有する糸貯留ローラ32と、第2糸接触部31aを有し前記糸貯留ローラ32の回転軸に沿う方向に設けられた糸渡し部材31と、を備える。また、当該糸貯留装置18は、前記第1糸接触部32aと前記第2糸接触部31aとにまたがって交互に糸を掛け渡して貯留する。巻取部は、糸貯留装置18に貯留された糸を糸貯留ローラ32の回転軸方向に引き出して解舒する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、糸巻取機が備える糸貯留引き出し装置の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
紡績機において、糸貯留体(糸貯留ローラ)の周囲に糸を巻き付けて糸を貯留する糸貯留装置が知られている(例えば特許文献1)。
【0003】
以下、従来の糸貯留装置の一例を、図11及び図12を参照して簡単に説明する。図11に示すように、従来の糸貯留装置100は、糸貯留ローラ101の外周面に、糸20を螺旋状に巻き付けて貯留する構成である。この糸貯留ローラ101は、その軸線を回転軸として、ローラ駆動モータ102によって回転駆動される。糸貯留ローラ101に糸を巻き付けた状態で、当該糸貯留ローラ101を回転駆動することにより、上流側の糸20aを糸貯留ローラ101の外周面に順次巻き付けていくことができる。
【0004】
新しく巻き取られる糸20aは、既に糸貯留ローラ101に巻き付いている糸20を押し退けながら巻き付いていく。すると、押し退けられた糸20は、自分が隣接する糸20を更に押す。このように糸貯留ローラ101上の糸20は、互いに押し合いながら、新しい糸20aが巻き取られる側とは反対側(図11の右側)へ向かって順次移動していく。なお以下の説明で、糸貯留ローラ101の軸線方向で、糸が新しく巻き付けられる側(図11の左側)を基端側と呼び、その反対側(図11の右側)を解舒側と呼ぶ。従来の糸貯留ローラ101の外周面のうち、糸20を巻き付ける部分には、解舒側に向かって糸20を移動させ易くするため、解舒側へ進むに従って径が縮小するようにわずかなテーパが形成されている。なお、図11においては、図示の関係上、糸貯留ローラ101上の糸20の間には間隔が空いているように描かれているが、実際には、上記のように糸同士が押し合うことにより糸貯留ローラ101上の糸は密集して巻かれている。
【0005】
一方、特許文献2は、糸貯留装置を自動ワインダに取り付けて、糸継ぎ時や給糸ボビン交換時に、パッケージへの糸の巻取りを停止させないようにした構成を開示している。即ち、糸継ぎ時や給糸ボビン交換時のように、給糸ボビンからの糸の供給が一時的に中断した場合であっても、糸貯留装置上には一定量の糸が貯留されているので、当該糸貯留装置上の糸を巻き取ることにより、パッケージへの糸の巻取りを継続することができる。なお、特許文献2が備える糸貯留装置は、図11の糸貯留装置とは構成が異なっているものの、糸貯留体(貯留部)の周囲に糸を巻き付けて貯留するという点では共通している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−77576号公報
【特許文献2】特開2009−242042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図11のような従来の糸貯留装置100では、糸貯留ローラ101に巻き取られる糸20は、図12に示すように、糸貯留ローラ101の外周面を周方向に締め付けるようにして巻き付いていくことになる。このように糸20が糸貯留ローラ101を締め付けているので、当該糸20は、糸貯留ローラ101の表面において自然に緩んでしまうということがない。
【0008】
ところで、図11の糸貯留装置100において、糸貯留ローラ101の回転速度が変化したり、糸貯留ローラ101の上流側で糸のテンションが変動したりすると、糸貯留ローラ101に新たに巻き取られる糸20aのテンションが変動することになる。そして、巻き取られる糸20aのテンションが高い場合には、当該糸20aは糸貯留ローラ101にキツく巻かれ、テンションが低い場合には、当該糸20aは糸貯留ローラ101に緩く巻かれる。従来の糸貯留装置100においては、糸貯留ローラ101上の糸が緩むということがないため、糸貯留ローラ101にキツく巻かれた部分(高いテンションで巻かれた部分)はキツく巻かれたままの状態で残り、緩く巻かれた部分(低いテンションで巻かれた部分)は緩く巻かれた状態のままで残る。
【0009】
このように、キツく巻かれた部分と緩く巻かれた部分が糸貯留ローラ101上に混在していると、糸貯留ローラ101上で糸20の乱れが発生し易くなる。なお、糸20が螺旋状に規則正しく巻き付いている状態を、糸20が乱れていない状態とする。従って、糸20が乱れた状態とは、例えば、上記螺旋の一部が自分自身と重なり合ったり、螺旋のピッチが不規則になったりしている状態をいう。
【0010】
例えば、キツく巻かれた部分と緩く巻かれた部分が糸貯留ローラ101上に混在していると、隣接する糸20同士が押し合うときに、緩く巻かれた糸の下にキツく巻かれた糸が潜り込んでしまい、糸20同士が重なりあうといった乱れが発生してしまう。
【0011】
糸貯留ローラ101に巻かれた糸20に乱れが生じると、糸貯留装置100から糸を解舒するときに、スラッフィング(糸貯留ローラ101上の糸が塊になって一度に抜けてしまう現象)や、糸切れなどが発生するおそれがある。また、スラッフィングや糸切れが発生しない場合であっても、糸貯留ローラ101上の糸20が乱れていると、当該糸貯留ローラ101から糸20を解舒する際のテンションが不均一になってしまい、糸貯留装置100の下流側でテンションを適切に制御することが難しいという問題があった。
【0012】
上記のような糸の乱れは、精紡機用の小容量の糸貯留装置(特許文献1の糸貯留装置)においては、それほど問題にはならなかった。しかし、精紡機に比べると、自動ワインダは糸の巻取速度が速いため、糸貯留装置から糸が解舒される速度も速い。従って、自動ワインダに設ける糸貯留装置は、精紡機の場合に比べて、より多くの糸を貯留できるように構成しなければならない。しかし上記のようなタイプの糸貯留装置は、糸の貯留量が多くなればなるほど、糸貯留体に巻かれた糸に乱れが生じ易くなる。
【0013】
このため、自動ワインダに適用させるために糸の貯留量を増やしても、貯留した糸に乱れが発生しにくい糸貯留装置が求められていた。
【0014】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、貯留された糸に乱れが発生することを防止できる糸貯留引き出し装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0015】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0016】
本発明の観点によれば、以下のように構成された糸貯留引き出し装置が提供される。即ち、この糸貯留引き出し装置は、糸貯留装置と、引き出し装置と、を有する。前記糸貯留装置は、第1糸接触部を有する回転体と、第2糸接触部を有し前記回転体の回転軸に沿う方向に設けられた糸渡し部材と、を備える。また、当該糸貯留装置は、前記第1糸接触部と前記第2糸接触部とにまたがって交互に糸を掛け渡して貯留する。前記引き出し装置は、前記糸貯留装置に貯留された糸を前記回転体の回転軸方向に引き出して解舒する。
【0017】
このように、回転体と糸渡し部材との間に交互に糸をかけ渡した状態で回転体を回転させることにより、糸は回転体の表面と糸渡し部材の表面とを交互に通過する。このとき、回転体と糸渡し部材との間の糸に「張り」と「緩み」が与えられるので、一定のテンション、一定のピッチで糸を貯留することができる。
【0018】
上記の糸貯留引き出し装置において、前記第2糸接触部は、前記回転体の回転軸と平行であることが好ましい。
【0019】
これにより、回転体と糸渡し部材との間で無理なく糸を掛け渡すことができる。また回転体と糸渡し部材の周囲に巻き付いた糸の周長が一定になるので、当該糸が緩むことを防止できる。
【0020】
上記の糸貯留引き出し装置において、前記糸渡し部材は棒状部材であることが好ましい。
【0021】
このように、棒状部材と回転体との間で糸を掛け渡すことにより、糸を良好に貯留することができる。
【0022】
上記の糸貯留引き出し装置において、前記糸渡し部材を、その長手方向に直交する平面で切断したときの断面形状は円形であることが好ましい。
【0023】
これにより、糸渡し部材に糸が接触する部分において、当該糸渡し部材の表面形状が角ばっていることがないので、糸がダメージを受けることを防止することができる。
【0024】
上記の糸貯留引き出し装置においては、前記糸渡し部材を、前記円形断面の中心を軸に回転可能に支持する回転支持部が設けられていることが好ましい。
【0025】
このように糸渡し部材を回転可能に支持することにより、糸と糸渡し部材との間で発生する摩擦を低減できるので、糸のダメージを軽減するとともに、糸渡し部材及び糸の発熱を抑えることができる。
【0026】
上記の糸貯留引き出し装置において、前記回転支持部には、前記糸渡し部材の回転に対して抵抗を与える抵抗付与部が設けられていることが好ましい。
【0027】
これにより、糸渡し部材に接触する糸に対して抵抗を与えることができるので、回転体と糸渡し部材との間の糸に適度な「張り」と「緩み」を与えることができる。
【0028】
上記の糸貯留引き出し装置は、以下のように構成することもできる。即ち、前記回転支持部には、前記糸渡し部材を回転駆動する駆動部が設けられる。そして、前記駆動部により、前記第1糸接触部の周速度よりも前記第2糸接触部の周速度が遅く設定されている。
【0029】
このように、糸渡し部材の方を回転体よりも遅く回転させることにより、糸渡し部材に接触する糸に対して抵抗を与えることができるので、回転体と糸渡し部材との間の糸に「張り」と「緩み」を与えることができる。そして、駆動部によって糸渡し部材の回転速度を適宜制御することにより、上記「張り」と「緩み」の程度を調整できるので、糸の巻き付け状態、ピッチ等を、糸の巻取り条件や糸の種類に応じて調整することができる。
【0030】
上記の糸貯留引き出し装置において、前記回転体及び前記糸渡し部材の周囲に巻き付けられた糸は、前記回転体の回転軸の延長線上に配置された糸ガイドによってガイドされつつ解舒されるように構成することができる。
【0031】
即ち、回転体の周囲に糸を巻き付ける構成の糸貯留装置の場合は、回転軸の延長線上に配置された糸ガイドを介して糸を解舒すると、当該糸ガイドと回転体の周囲との間で糸が振り回されてバルーンが発生してテンションが増大してしまう。この点、本発明の糸貯留装置は、糸渡し部材と回転体の周囲に糸を巻き付けているので、振り回される糸の軌道が非円形となる結果、糸があまり振り回されず、バルーンの発生を抑制してテンションの増大を防止できる。
【0032】
上記の糸貯留引き出し装置において、前記糸渡し部材は複数設けることができる。
【0033】
糸渡し部材の数を変更することにより、糸に「張り」と「緩み」を与える回数を変更できるので、巻き付けピッチを変更することができる。
【0034】
上記の糸貯留引き出し装置において、前記複数の糸渡し部材は、前記回転体の回転軸を中心とする仮想円上に設けられていることが好ましい。
【0035】
このように、複数の糸渡し部材を、回転体から同じ距離に配置することで、糸の解舒を安定させることができる。
【0036】
上記の糸貯留引き出し装置において、前記糸渡し部材は3つ設けられていることが好ましい。
【0037】
即ち、糸渡し部材を3つとすれば、糸貯留装置からの糸の解舒が特に安定するので好適である。
【0038】
上記の糸貯留引き出し装置において、前記3つの糸渡し部材は、前記回転体の回転軸に直交する平面による断面において、仮想的な正三角形のそれぞれの頂点に配置されていることが好ましい。
【0039】
このように、3つの糸渡し部材を正三角形状に配置することで、糸の解舒を更に安定させることができる。
【0040】
上記の糸貯留引き出し装置は、前記回転体の回転軸に直交する平面による断面において、前記回転体の断面形状は円形であり、その半径は、前記3つの糸渡し部材を頂点として形成される仮想的な三角形の重心から各辺への垂線の長さよりも長いことが好ましい。
【0041】
糸渡し部材をこのように配置することにより、糸が回転体に接触することができる。従って、回転体によって糸に搬送力が付与され、糸貯留装置に糸を貯留する事ができる。
【0042】
本発明の別の観点によれば、以下の構成の糸巻取機が提供される。即ち、この糸巻取機は、上記の糸貯留引き出し装置と、糸を供給する給糸部とを備える。前記糸貯留装置は、前記給糸部と前記引き出し装置との間に配置され、給糸部より供給された糸を貯留する。前記引き出し装置は、前記糸貯留装置に貯留された糸を巻き取ってパッケージを形成する巻取部である。
【0043】
この糸巻取機は、解舒テンションが安定している本発明の糸貯留装置の糸を巻き取ってパッケージを形成するので、高品質なパッケージを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第1実施形態に係る自動ワインダが備えたワインダユニットの側面図。
【図2】本発明の第1実施形態に係る糸貯留装置の側面図。
【図3】糸貯留ローラの回転軸に直交する平面によって切断した、第1実施形態の糸貯留装置の模式的な断面図。
【図4】第1実施形態に係る糸貯留装置の側面断面図。
【図5】第1実施形態の変形例に係る糸貯留装置の側面図。
【図6】第1実施形態の変形例に係る糸貯留装置の側面断面図。
【図7】第2実施形態に係る糸貯留装置の側面断面図。
【図8】糸貯留ローラの回転軸に直交する平面によって切断した、第2実施形態の糸貯留装置の模式的な断面図。
【図9】糸貯留ローラの回転軸に直交する平面によって切断した、第3実施形態の糸貯留装置の模式的な断面図。
【図10】糸貯留ローラの回転軸に直交する平面によって切断した、第4実施形態の糸貯留装置の模式的な断面図。
【図11】従来の糸貯留装置の側面図。
【図12】糸貯留ローラの回転軸に直交する平面によって切断した、従来の糸貯留装置の模式的な断面図。
【発明を実施するための形態】
【0045】
次に、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る糸巻取機としての自動ワインダが備えるワインダユニット2の概略的な側面図である。本実施形態の自動ワインダは、多数のワインダユニット2を並べて配置した構成となっている。また、この自動ワインダは、前記ワインダユニット2を集中的に管理するための図略の機台管理装置と、圧縮空気源及び負圧源を備えた図略のブロアボックスと、を備えている。
【0046】
図1に示すように、ワインダユニット2は、給糸部7と、糸貯留引き出し装置5と、を主に備えている。このワインダユニット2は、給糸部7に支持された給糸ボビン21の糸(紡績糸)20を解舒して、パッケージ30に巻き返すように構成されている。なお、図1は、通常の巻取時におけるワインダユニット2の様子を示している。本明細書において、「通常の巻取時」とは、給糸ボビン21とパッケージ30との間で糸が連続状態であり、かつ給糸ボビン21から糸が解舒されてパッケージ30に糸が巻き取られている状態をいう。
【0047】
給糸部7は、糸を供給するための給糸ボビン21を略直立状態で保持することが可能に構成されている。また、この給糸部7は、空になった給糸ボビン21を排出することができるように構成されている。
【0048】
糸貯留引き出し装置5は、巻取部(引き出し装置)8と、糸貯留装置18と、を有している。巻取部8は、巻取ボビン22を装着可能に構成されたクレードル23と、糸20をトラバースさせるとともに前記巻取ボビン22を駆動する綾振ドラム24と、を備えている。糸貯留装置18は、巻取部8と給糸部7との間に配置され、給糸部7から供給された糸を一時的に貯留するように構成されている。
【0049】
綾振ドラム24は巻取ボビン22に対向して配置されており、この綾振ドラム24を回転駆動することにより、巻取ボビン22を従動回転させる。これにより、前記糸貯留装置18に貯留された糸20を解舒して引き出し、巻取ボビン22に巻き取ることができる。また、綾振ドラム24の外周面には図略の綾振溝が形成されており、この綾振溝によって糸20を所定の幅でトラバース(綾振り)することが可能になっている。以上の構成で、糸20をトラバースさせながら巻取ボビン22に巻き付けて、所定長で所定形状のパッケージ30とすることができる。なお、以下の説明において「上流側」「下流側」という時には、糸の走行方向で見たときの上流側及び下流側をいうものとする。
【0050】
各ワインダユニット2は、制御部25を備えている。この制御部25は、図略のCPU、ROM、RAM等のハードウェアと、前記RAMに記憶された制御ブログラム等のソフトウェアと、から構成されている。そして、前記ハードウェアとソフトウェアとが協働することにより、ワインダユニット2の各構成を制御するように構成されている。また、各ワインダユニット2が備える制御部25は、前記機台管理装置と通信可能に構成されている。これにより、自動ワインダが備える複数のワインダユニット2の動作を、機台管理装置において集中的に管理することが可能となっている。
【0051】
またワインダユニット2は、給糸部7と巻取部8との間の糸走行経路中に、各種の装置を備えている。具体的に説明すると、前記糸走行経路には、給糸部7側から巻取部8側へ向かって順に、解舒補助装置10と、下糸吹上げ部11と、第1テンション付与装置12と、上糸捕捉部13と、糸継装置14と、ヤーントラップ15と、カッタ16と、クリアラ(糸欠陥検出装置)17と、上糸引出し部48と、前記糸貯留装置18と、第2テンション付与装置19と、が配置されている。
【0052】
解舒補助装置10は、給糸ボビン21から解舒される糸20が振り回されて給糸ボビン21上部に形成されるバルーンに対し、可動部材40を接触させ、当該バルーンの大きさを適切に制御することによって糸20の解舒を補助するためのものである。
【0053】
下糸吹上げ部11は、解舒補助装置10のすぐ下流側に配置されたエアサッカー装置であり、給糸ボビン21側の下糸を糸継装置14側に向かって吹き上げることができるように構成されている。給糸ボビン21と糸貯留装置18との間で糸20が分断状態となったときには、下糸吹上げ部11によって給糸ボビン21の糸を吹き上げて、糸継装置14まで案内することができる。
【0054】
第1テンション付与装置12は、走行する糸20に所定のテンションを付与するものである。本実施形態の第1テンション付与装置12は、固定の櫛歯に対して可動の櫛歯を配置するゲート式に構成されており、櫛歯の間に糸を走行させることで所定の抵抗を付与するように構成されている。可動側の櫛歯は、櫛歯同士の噛合せ状態を調整できるように、ソレノイドによって移動可能に構成されている。制御部25は、前記ソレノイドを制御することにより、第1テンション付与装置12によって糸に付与するテンションを調整することができる。もっとも、第1テンション付与装置12の構成はこれに限らず、例えばディスク式のテンション付与装置でも良い。
【0055】
上糸捕捉部13は、糸継装置14のすぐ上流側に配置されている。この上糸捕捉部13は図略の負圧源に接続されており、糸継時に吸引空気流を発生させて、糸貯留装置18側の糸を吸引捕捉するように構成されている(詳しくは後述)。
【0056】
ヤーントラップ15は、カッタ16の上流側であって糸継装置14のすぐ下流側に配置されている。このヤーントラップ15の先端は筒状の部材として形成されており、糸20の走行経路に接近して設けられているとともに、図略の負圧源に接続されている。この構成で、ヤーントラップ15の先端に吸引空気流を発生させて、走行する糸20に付着している風綿などのゴミを吸引除去することができる。
【0057】
クリアラ17は、糸20の糸太さを監視することにより、スラブ等の糸欠陥(糸欠点)を検出するように構成されている。クリアラ17は、糸の欠陥を検出すると、当該糸欠陥の切断除去を指示する分断信号を制御部25等に送信する。クリアラ17の近傍には、前記分断信号に応じて直ちに糸20を切断するためのカッタ16が配置されている。
【0058】
上糸引出し部48はエアサッカー装置であり、糸継時において、糸貯留装置18に貯留されている糸を引き出して、糸案内部材60(後述)に向けて吹き飛ばすことができるように構成されている。
【0059】
糸貯留装置18は、略円筒状の糸貯留ローラ(回転体)32と、当該糸貯留ローラ32との間で糸を掛け渡す糸渡し部材31と、前記糸貯留ローラ32をその軸線を回転軸として回転駆動するローラ駆動モータ33と、を備えている。ローラ駆動モータ33は、制御部25によって制御される。この構成で、糸貯留ローラ32を回転駆動することにより、給糸ボビン21から解舒された糸20を、糸貯留ローラ32及び糸渡し部材の周囲に巻き付けて一時的に貯留することが可能である。そして、糸貯留ローラ32及び糸渡し部材の周囲に巻き付けられた糸は、糸貯留ローラ32の軸線に沿う方向に引き出された後、巻取部8に巻き取られる。なお、糸貯留装置18の詳細な構成については後述する。
【0060】
糸継装置14は、クリアラ17が糸欠陥を検出してカッタ16で糸を切断する糸切断時、給糸ボビン21からの解舒中の糸の糸切れ時、又は給糸ボビン21の交換時等、給糸ボビン21と糸貯留装置18との間の糸20が分断状態となったときに、給糸ボビン21側の糸と、糸貯留装置18側の糸とを糸継ぎするものである。このような糸継装置14としては、圧縮空気等の流体を用いるものや、機械式のものを使用することができる。
【0061】
第2テンション付与装置19は、糸貯留装置18から引き出された糸に対して所定のテンションを付与するものであり、これにより巻取部8に巻き取られる際の糸20のテンションを制御する。第2テンション付与装置19は、第1テンション付与装置と同じくゲート式のテンサとして構成されている。制御部25は、第2テンション付与装置19のソレノイドを適宜制御することにより、第2テンション付与装置19によって糸に付与するテンションを調整することができる。もっとも、第2テンション付与装置19の構成はこれに限らず、例えばディスク式のテンション付与装置でも良い。
【0062】
また、ワインダユニット2の正面側には、マガジン式のボビン供給装置26が配置されている。このボビン供給装置26は、回転式のマガジンカン27を備えている。このマガジンカン27は予備の給糸ボビン21を複数保持することが可能に構成されている。ボビン供給装置26は、マガジンカン27を間欠的に回転駆動することにより、給糸部7に対して新しい給糸ボビン21を供給することができるように構成されている。また、ボビン供給装置26は、マガジンカン27に保持された給糸ボビン21の糸端を吸引保持する糸端保持部28を備えている。
【0063】
次に、本実施形態の自動ワインダにおける糸継動作について説明する。
【0064】
即ち、糸切れや、カッタ16による糸切断、又は給糸ボビン21の交換などにより、糸貯留装置18側の糸と、給糸ボビン21側の糸と、が分断状態となったときには、糸継装置14による糸継作業が行われる。具体的には、まず、制御部25は、下糸吹上げ部11によって、給糸ボビン21側の糸20を上に向けて吹き上げる。吹き上げられた20糸は、ヤーントラップ15に吸引捕捉される。このヤーントラップ15はヤーントラップ駆動部47によって移動可能に構成されている。そして、ヤーントラップ15は、給糸ボビン21側の糸端を吸引捕捉した状態で移動することにより、当該給糸ボビン21側の糸を糸継装置14に導入することができるように構成されている。
【0065】
また、これと前後して、制御部25は、糸貯留装置18の糸貯留ローラを逆回転させながら、上糸引出し部48によって糸貯留装置18に貯留された糸20を吹き飛ばす。上糸引出し部48が糸20を吹き出した先には、湾曲したチューブ状の糸案内部材60が設けられている。前記吹き飛ばされた糸20は、糸案内部材60の一端から当該糸案内部材60の内部に吹き込まれ、空気の流れに乗って、糸案内部材60の他端側まで案内される。糸案内部材60の他端側の出口の先には、上糸捕捉部13が配置されている。以上の構成で、上糸引出し部48によって吹き飛ばされた糸貯留装置18側の糸20は、上糸捕捉部13に吸引捕捉される。なお、チューブ状の糸案内部材60には、その長手方向に沿ったスリットが形成されており、当該スリットを介して糸案内部材60内の糸20を外側に取り出すことができるように構成されている。糸案内部材60から取り出された糸は、上糸捕捉部13によって更に吸引されることにより、糸継装置14に導入される。なお制御部25は、糸貯留装置18側の糸が糸継装置14に導入されると、糸貯留ローラ32の逆回転を停止する。
【0066】
以上の動作により、給糸ボビン21側の糸と、糸貯留装置18側の糸を、糸継装置14に導入することができる。そして制御部25はこの状態で糸継装置14を作動させることにより、給糸ボビン21側の糸と、糸貯留装置18側の糸と、を接合することができる。制御部25は、糸継動作が終了すると、糸貯留装置18の正回転を再開することにより、糸貯留装置18への糸の巻き取りを再開する。
【0067】
なお、上記のように給糸ボビン21と糸貯留装置18との間の糸が分断状態となった場合であっても、巻取部8におけるパッケージ30への糸20の巻き取りは、中断することなく継続することができる。即ち、本実施形態の自動ワインダでは、上記のように、給糸部7と巻取部8との間に糸貯留装置18を介在させ、当該糸貯留装置18上に一定量の糸20を貯留している。そして、巻取部8は、糸貯留装置18上に貯留された糸を巻き取るように構成されているので、何らかの理由で給糸ボビン21からの糸の供給が中断された場合(例えば糸継動作の最中)であっても、パッケージ30への糸20の巻取を継続することができるのである。
【0068】
このように、巻取部8における巻取動作が糸継動作等によって中断されないので、高速かつ安定してパッケージ30を生成することができる。また、給糸ボビン21との間に糸貯留装置18を介在させているので、給糸ボビン21から糸を解舒する際のテンション変動の影響を受けずに、巻取部8での巻取りを行うことができる。
【0069】
次に、図2及び図3を参照して、本実施形態の糸貯留装置18について説明する。
【0070】
前述のように、この糸貯留装置18は、糸貯留ローラ32と、糸渡し部材31と、ローラ駆動モータ33とを備える。
【0071】
糸渡し部材31は、丸棒状に形成され、糸貯留ローラ32の外周面に近接させて配置されている。そして、本実施形態の糸貯留装置は、図2及び図3に示すように、糸貯留ローラ32と、糸渡し部材31と、の間に糸20を交互にかけ渡すようにしながら、当該糸20を、糸貯留ローラ32及び糸渡し部材31の周囲に略螺旋状に巻き付けて貯留するように構成されている。
【0072】
この構成で、糸貯留ローラ32を回転駆動すると、糸貯留ローラ32の表面に接触している糸20に対して、糸貯留ローラ32の回転方向に沿った方向の搬送力を付与することができる。これにより、糸貯留ローラの軸線方向で見ると(図3)、糸貯留ローラ32及び糸渡し部材31の周囲に略螺旋状に巻き付いている糸20全体を、糸貯留ローラ32の回転方向(図3に白抜きの矢印で示す向き)と同じ方向(図3に太線の矢印で示す向き)に周回させることができる。これにより、糸貯留装置18よりも上流側の糸20aを、糸貯留ローラ32及び糸渡し部材31の周囲に順次巻き取っていくことができる。
【0073】
図3に示すように、糸貯留装置18に貯留されている糸20は、糸貯留ローラ32が回転駆動されることにより、糸貯留ローラ32に接触した状態で、当該糸貯留ローラ32の回転方向下流側に搬送された後、糸貯留ローラ32の表面をからいったん離れて糸渡し部材31へと向かう。糸渡し部材31に接触した糸20は、更に下流側へ向かって搬送され、再び糸貯留ローラ32の外周面に接触する。
【0074】
本実施形態において、糸渡し部材31は固定されており、糸貯留ローラのように回転駆動されていない。従って、糸渡し部材31に接触して周回する糸20には、摩擦による抵抗が付与されている。これにより、糸貯留ローラ32の外周面から離れて糸渡し部材31に向かう糸20は、糸貯留ローラ32によって押されているような状態となるので、テンションが低い状態、即ち緩んだ状態となる。一方、糸渡し部材31から糸貯留ローラ32へと向かう部分の糸20は、糸貯留ローラ32によって引っ張られているような状態なので、テンションが高い状態、即ち糸が張った状態となる。
【0075】
このように、本実施形態の糸貯留装置18において、糸貯留ローラ32を回転駆動することにより、貯留している糸20に対して「緩み」と「張り」を与えることができる。このように、糸20をいったん緩ませて、その後、張りを与えつつ糸貯留ローラ32に巻き取るので、糸を巻き直したのと同じ効果が得られる。そして、図2に示すように、糸貯留装置18上の糸20は、糸貯留ローラ32と糸渡し部材31の周囲を複数回周回するようにして巻き付いている。従って、糸貯留ローラ32を回転駆動することにより、糸貯留装置18上の糸20に対して、上記の「巻き直し」を複数回適用することができる。
【0076】
このように巻き直しが繰り返し行われる結果、糸がキツく巻かれた部分(テンションが高い部分)や緩く巻かれた部分(テンションが低い部分)があったとしても、そのようなテンションの不均一は速やかに解消され、糸貯留装置18に貯留された糸20全体のテンションが均一化される。従って、糸貯留装置18の上流側の糸20aのテンションが変動したとしても、糸貯留装置18上の糸20には、キツく巻かれた部分や緩く巻かれた部分が残ることがない。従って、本実施形態の糸貯留装置18の構成によれば、上流側の糸20aのテンション変動の影響を受けることなく、一定のテンションで糸20を貯留するができる。
【0077】
図2に示すように、糸貯留ローラ32の軸線の延長線上には糸ガイド29が配置されており、糸貯留装置18から解舒された糸20は、この糸ガイド29を介して巻取部8に巻き取られる。このように、糸貯留ローラ32の軸線の延長線上に配置された糸ガイド29を介して糸20が引き出されるので、糸貯留ローラ32及び糸渡し部材31の周囲に巻き付いている糸は、糸貯留ローラ32の軸線に沿う方向に引っ張られる力を受け、この方向に解舒されていく。
【0078】
ここで、図11の従来の糸貯留装置100において、糸ガイド29を介して糸を解舒する方向に引っ張った場合、当該引っ張る力で動かすことができるのは糸貯留ローラ101上で最も解舒側に巻かれている糸20だけであり、糸貯留ローラ101の基端側寄りに巻き付いている糸20は動かすことができない。これは、図11の従来の糸貯留装置100においては、糸20が糸貯留ローラ101を締め付けるように巻き付いているので、糸貯留ローラ101の軸線に沿う方向に糸20を引っ張る力を伝えることができないためである。
【0079】
一方、本実施形態の糸貯留装置18においては、前述のように、貯留した糸20のテンションを全体で均一化することができるので、糸貯留ローラ32の軸線に沿う方向に引っ張る力を、糸貯留装置18に貯留された糸20全体に均一に伝えることができる。より詳細には、糸貯留ローラ32上の糸20が所定の引き出し角度で引き出される時に、次層の糸(糸貯留ローラ32の軸線方向で隣接する糸)に対して、解舒側に向かう斜めの引っ張り力を与える。当該次層の糸は、前記「巻き直し」で「緩み」が与えられた際に、前記引っ張り力によって解舒側に移動し、次に「張り」が与えられることで巻き締まる。さらにその次の層の糸も同様に、解舒側に移動しつつ巻き締まる。このように、「巻き直し」が繰り返されることにより、引っ張り力が順次伝播していく。
【0080】
これにより、糸貯留ローラ32及び糸渡し部材31の周囲に巻き付いている糸20を、前記引っ張る力によって、全体的に解舒側に向かって移動させることができる。このように、引っ張られる力によって糸20が解舒側に向けて移動するので、糸貯留ローラ32の基端側端部に新しく巻き付けられる糸20aは、既に巻き付いている糸20を押し退ける必要がない。即ち、本実施形態の糸貯留装置18では、螺旋状に巻き付いた糸20同士が押し合うことが無いので、当該螺旋の乱れが発生しにくくなっており、糸20を整然と巻き付けて貯留することが可能となる。
【0081】
特に、前記引っ張る力は、糸貯留ローラ32及び糸渡し部材31の周囲に略螺旋状に巻き付いた糸20の全体に均一に伝えられるので、当該螺旋状の糸20が解舒側に向かって移動する間に、前記螺旋のピッチが自然と均一化される。このように、本実施形態の構成によれば、糸貯留ローラ32と糸渡し部材31の周囲に、均一なピッチで整然と糸20を巻き付けることができる。
【0082】
以上のように、本実施形態の糸貯留装置18は、上流側の糸のテンション変動に関わらず、貯留した糸のテンションを一定とし、かつ均一なピッチで巻き付けることができる。これにより、貯留した糸20が乱れにくくなる。そして、このように糸20が乱れにくくなるので、糸貯留装置18を大型化し、大量の糸20を貯留するように構成することができるようになる。
【0083】
また、糸貯留装置18上に乱れなく整然と糸が貯留されるので、当該糸貯留装置18から糸を解舒する際のテンションも安定する。従って、当該糸貯留装置18の下流側において、巻取部8は、安定したテンションでパッケージ30に糸20を巻き取ることが可能となり、高品質なパッケージ30を形成することができる。
【0084】
また、本実施形態の糸貯留装置18によれば、バルーンの発生を抑制することができる。即ち、図11に示すような従来の糸貯留装置100では、糸貯留ローラ101の外周に螺旋状に巻き付いた糸を糸ガイド29を介して引き出す際に、バルーンが発生していた。このバルーンというのは、糸貯留ローラ101上に螺旋状に巻き付いた糸が、当該糸貯留ローラ101の軸線に沿う方向に引き出される際に、糸貯留ローラ101の周囲で振り回されて外側に膨らむ現象をいう。このように糸が振り回されて外側に膨らむと、遠心力によって糸20に過大なテンションがかかり、糸貯留ローラ101からの糸20の解舒が不安定になる場合があった。
【0085】
この点、本実施形態の糸貯留装置18において、糸貯留ローラ32の周囲の糸には、「張り」と「緩み」が交互に与えられているので、当該糸貯留ローラ32から解舒される糸は、張った部分と緩んだ部分を交互に繰り返しつつ振り回される。この結果、糸貯留ローラ32から糸を解舒する際に発生するバルーンが不安定となり、当該バルーンが大きくなることを防止できる。また、本実施形態では、糸貯留ローラ32の軸線方向で見たときに(図3)に、糸貯留ローラ32と糸渡し部材31の周囲の糸20は非円形状に巻き付いているので、円形状に振り回される場合(図11の従来の糸貯留装置100の場合)にくらべてバルーンが大きくならない。このように、本実施形態の糸貯留装置18は、バルーンの発生を抑制して糸20を解舒する際のテンションを安定させることができるのである。
【0086】
なお、特許文献(特開平7−81843)には、積極駆動するフィードローラと、従動回転するガイドローラと、の両者からなるフィードローラ方式の糸張力調整手段が開示されている。この糸張力調整手段は、ローラと、このローラに近接する部材と、の間で糸を掛け渡した状態でローラを駆動するという点で、本実施形態の糸貯留装置18と類似している。
【0087】
しかし、この糸張力調整手段は、巻き付けた糸をフィードローラの外周面の接線方向に引き出す構成であり、糸貯留ローラ32の軸線に沿う方向に糸を解舒する本実施形態の糸貯留装置18とは全く技術思想が異なるものである。即ち、ローラ外周面の接線方向に糸を引き出す構成の場合、ローラに糸を巻き取る速度と、ローラから糸を引き出す速度と、は常に一致しなければならない。一方、本実施形態のようにローラの軸線に沿う方向に糸を解舒する構成の場合は、ローラの回転速度にかかわらず(ローラへの糸の巻取速度にかかわらず)、ローラから糸を引き出すことができる。このような性質があるから、本実施形態の糸貯留装置18は、糸継作業時のように上流側からの糸の巻き取りを行っていない状態(糸貯留ローラ32の回転停止時)でも、下流側の巻取部8に向けて糸を解舒することができるのである。
【0088】
続いて、図4を参照して、本実施形態の糸貯留装置18についてより詳しく説明する。
【0089】
糸貯留ローラ32は金属製であり、ローラ状の部材として構成されている。即ち、この糸貯留ローラ32は、その軸線方向と直交する平面で切断したときの断面輪郭形状が、円形となるように形成されている。当該糸貯留ローラ32の少なくとも一部は、円筒状(又は円柱状)に形成された第1糸接触部32aとして構成されており、その外周表面に糸を接触させるように構成されている。そして、この第1糸接触部32aに糸を接触させた状態で糸貯留ローラ32を回転駆動することにより、前述のように、糸貯留ローラ32及び糸渡し部材31の周囲に巻き付けた糸を周回させることができる。
【0090】
なお、前述のように、図11の従来の糸貯留装置100においては、糸貯留ローラ101上の糸を解舒側に移動させるため、糸貯留ローラ101には解舒側の径が小さくなるような微小なテーパを形成する必要があった。これは、図11の構成では、糸を解舒側に移動させようとする力が、基端側に新たに巻き付けられた糸20aが古い糸20を押し退ける力のみであるため、基端側から離れるに従って(解舒側にいくに従って)糸20が移動しにくくなるためである。しかし、このようにテーパ状に形成した部分に糸20を巻き付けると、当該巻き付けた糸20が解舒側に進むにつれて弛んでしまうという問題があった。
【0091】
この点、本実施形態の糸貯留装置18は、前述のように、貯留した糸20全体に対して引っ張る力を均一に作用させることにより、当該糸20の全体を解舒側に向けて移動させることができる。従って、本実施形態の糸貯留装置18では、糸貯留ローラ32にテーパがなくても、糸20を解舒側に移動させることができる。そこで本実施形態の糸貯留装置18において、第1糸接触部32aは、径が均一な(テーパを形成しない)円筒状に形成されている。これにより、糸貯留ローラ32及び糸渡し部材31の周囲に巻き付いている糸20が解舒側に進んでも、弛んでしまうことがない。
【0092】
糸渡し部材31には、糸20に接触する第2糸接触部31aが細長く形成されている。より具体的には、糸渡し部材31は丸棒状に形成されており、その長手方向と直交する平面による断面形状は円形である。そして、当該丸棒の外周面が、第2糸接触部31aとなっている。
【0093】
以上の構成で、本実施形態の糸貯留装置18は、糸貯留ローラ32の第1糸接触部32aと、糸渡し部材31の第2糸接触部31aと、の間で糸20を掛け渡しつつ貯留するように構成されている。
【0094】
また、糸貯留ローラ32の回転軸方向の長さ(図4の左右方向の長さ)を考えたときに、第1糸接触部32aの長さと、第2糸接触部31aの長さと、が略一致するように構成されている。これにより、糸貯留ローラ32の第1糸接触部32aを最大限に利用して糸を貯留することができる。
【0095】
また、糸渡し部材31の長手方向(第2糸接触部31aの長手方向)は、糸貯留ローラ32の軸線と平行となるように配置されている。これにより、糸渡し部材31と糸貯留ローラ32との間で無理なく糸20を掛け渡すことができる。また、糸渡し部材31と糸貯留ローラ32とが平行に配置されることにより、糸貯留ローラ32と糸渡し部材31との間に掛け渡されて周回する20糸の周長は、常に一定となっている。これにより、糸貯留装置18に貯留された糸が解舒側に向けて移動しても周長が変化しないので、当該糸20に弛みが発生することがない。
【0096】
また図示は省略するが、糸貯留ローラ32の近傍には、糸貯留装置18上の糸20の貯留量を検出する貯留量センサが配置されている。貯留量センサの検出結果は、制御部25へと送られる。
【0097】
制御部25は、糸貯留装置18上の糸が下限量未満になったことを検出すると、ローラ駆動モータ33を適宜制御して糸貯留ローラ32の回転速度を増大させる。これにより、糸貯留装置18へ糸20が巻き取られる速度が増大する結果、糸貯留装置18上の糸20の貯留量を徐々に増やすことができる。一方、制御部25は、糸貯留装置18上の糸が上限量以上となったことを検出すると、ローラ駆動モータ33を適宜制御して糸貯留ローラ32の回転速度を減少させる。これにより、糸貯留装置18へ糸20が巻き取られる速度が減少する結果、糸貯留装置18上の糸20の量を徐々に減らすことができる。上記のような制御により、糸貯留装置18上の糸20の貯留量を、下限量以上、上限量未満に保つことができる。
【0098】
また本実施形態の糸貯留装置18は、糸貯留ローラ32及び糸渡し部材31の解舒側端部に、テンション付与部50を有している。このテンション付与部は、リング状フレーム51と、ゴムリング52と、を備えている。
【0099】
リング状フレーム51は、リング状に形成されるとともに、その中心を糸貯留ローラ32の軸線に一致させるようにして、当該糸貯留ローラ32の解舒側端部に固定されている。これにより、リング状フレーム51は、糸貯留ローラ32と一体回転するように構成されている。
【0100】
図4に示すように、リング状フレーム51は、基端側に向けて突出するように形成された鍔部51aを有している。この鍔部51aの径は、糸貯留ローラ32の中心軸から糸渡し部材31の糸接触面までの距離よりも長くなるように設定されている。そして図4に示すように、糸渡し部材31は、その解舒側端部が、前記鍔部51aの半径方向内側に挿入されるようにして配置されている。
【0101】
前記鍔部51aの外周面には、凹部51bが形成されている。そして、当該凹部51bには、ゴムリング(輪ゴム)52が取り付けられている。当該ゴムリング52は、前記凹部51bを適度に締め付けることができるように構成されている。
【0102】
そして本実施形態の糸貯留装置18は、糸貯留ローラ32及び糸渡し部材31の周囲から解舒される糸20を、鍔部51aとゴムリング52との間を介して引き出すように構成されている。この構成により、糸貯留装置18から糸20が引き出される際に、鍔部51aとゴムリング52の間に糸20が挟み込まれて抵抗が与えられるので、当該引き出される糸20に適度なテンションを付与することができる。また、上記のように糸20に抵抗を付与するので、糸20が過度に振り回されることを防止し、バルーンの発生を抑えることができる。
【0103】
以上で説明したように、本実施形態の糸貯留引き出し装置5は、糸貯留装置18と、巻取部8と、を有する。糸貯留装置18は、第1糸接触部32aを有する糸貯留ローラ32と、第2糸接触部31aを有し前記糸貯留ローラ32の回転軸に沿う方向に設けられた糸渡し部材31と、を備える。また、当該糸貯留装置18は、前記第1糸接触部32aと前記第2糸接触部31aとにまたがって交互に糸を掛け渡して貯留する。巻取部8は、糸貯留装置18に貯留された糸を糸貯留ローラ32の回転軸方向に引き出して解舒する。
【0104】
このように、糸貯留ローラ32と糸渡し部材31との間に交互に糸20をかけ渡した状態で糸貯留ローラ32を回転させることにより、糸20は糸貯留ローラ32の表面と糸渡し部材31の表面とを交互に通過する。このとき、糸貯留ローラ32と糸渡し部材31との間の糸20に「張り」と「緩み」が与えられるので、一定のテンション、一定のピッチで糸20を貯留することができる。
【0105】
また本実施形態の糸貯留引き出し装置5において、第2糸接触部31aは糸貯留ローラ32の回転軸と平行である。
【0106】
これにより、糸貯留ローラ32と糸渡し部材31との間で無理なく糸20を掛け渡すことができる。また糸貯留ローラ32と糸渡し部材31の周囲に巻き付いた糸20の周長が一定になるので、当該糸20が緩むことを防止できる。
【0107】
また本実施形態の糸貯留引き出し装置5において、糸渡し部材31は棒状部材である。
【0108】
このように、棒状部材と糸貯留ローラ32との間で糸を掛け渡すことにより、糸を良好に貯留することができる。
【0109】
また本実施形態の糸貯留引き出し装置5において、前記糸渡し部材を、その長手方向に直交する平面で切断したときの断面形状は円形である。
【0110】
これにより、糸渡し部材に糸が接触する部分において、当該糸渡し部材の表面形状が角ばっていることがないので、糸がダメージを受けることを防止することができる。
【0111】
また本実施形態の糸貯留引き出し装置5において、糸貯留ローラ32及び糸渡し部材31の周囲に巻き付けられた糸20は、糸貯留ローラ32の回転軸の延長線上に配置された糸ガイド29によってガイドされつつ解舒される。
【0112】
即ち、糸貯留ローラ32の周囲に糸20を巻き付ける構成の糸貯留装置の場合は、回転軸の延長線上に配置された糸ガイド29を介して糸を解舒すると、当該糸ガイド29と糸貯留ローラ32の周囲との間で糸が振り回されてバルーンが発生してテンションが増大してしまう。この点、本実施形態の糸貯留装置18は、糸渡し部材31と糸貯留ローラ32の周囲に糸を巻き付けているので、振り回される糸20の軌道が非円形となる結果、糸20があまり振り回されず、バルーンの発生を抑制してテンションの増大を防止できる。
【0113】
そして本実施形態の自動ワインダは、上記の糸貯留引き出し装置5と、糸20を供給する給糸部7と、を備える。糸貯留装置18は、給糸部7と巻取部8との間に配置され、給糸部7より供給された糸20を貯留する。巻取部8は、糸貯留装置18に貯留された糸20を巻き取ってパッケージを形成する。
【0114】
この自動ワインダは、解舒テンションが安定している本実施形態の糸貯留装置18の糸を巻き取ってパッケージ30を形成するので、高品質なパッケージ30を形成することができる。
【0115】
次に、図5及び図6を参照して、第1実施形態の変形例を説明する。この変形例に係る糸貯留引き出し装置が有する糸貯留装置181は、第1実施形態の糸貯留装置が備えていたテンション付与部50を省略したものである。このようにテンション付与部50を省略した構成であっても、糸渡し部材31によるバルーンの抑制、糸の乱れの防止といった本発明の効果を発揮することができる。なお、この糸貯留装置181の糸貯留ローラ32において、第1糸接触部32aの解舒側端部には、テーパ部32cが形成されている。このテーパ部32cは、端部側に近づくにつれて径が拡大するように形成されている。このテーパ部32cにより、糸貯留ローラ32上の糸が、当該糸貯留ローラ32の解舒側端部から一度に抜けてしまうことを防止することができる。
【0116】
次に、図7及び図8を参照して、本発明の第2実施形態を説明する。なお以下の説明で、上記第1実施形態と同一又は類似する構成については、図面に同一の符号を付して説明を省略する。
【0117】
上記第1実施形態においては、糸渡し部材31は固定としていたので、当該糸渡し部材31と、糸20と、の間で過剰な摩擦が発生して糸20がダメージを受けたり、糸渡し部材31及び糸20が発熱したりしてしまう場合が考えられる。
【0118】
そこで本実施形態の糸貯留引き出し装置が備える糸貯留装置182は、糸渡し部材31を回転自在とした構成としている。具体的には、以下のとおりである。本実施形態では、糸渡し部材31を、第1実施形態と同様に断面円形の丸棒として構成している。そして、図7に示すように、本実施形態の糸貯留装置182は、前記円形断面の中心を通る軸を回転軸として糸渡し部材31を回転自在に支持する回転支持部53を備えている。
【0119】
この構成により、糸貯留ローラ32を回転駆動すると、図8に示すように、糸貯留ローラ32及び糸渡し部材31の周囲を周回する糸20に連られて、糸渡し部材31が従動回転する。これにより、糸渡し部材31を固定とする場合に比べて、糸渡し部材31に接触する糸20が受ける抵抗を低減できる結果、糸20のダメージを抑えるとともに、糸20や糸渡し部材31が発熱することを防止できる。
【0120】
なお、糸渡し部材31の回転が完全に自由であると、当該糸渡し部材31に接触しながら周回する糸に対して抵抗を与えることができないので、当該糸20に対して「緩み」と「張り」を与えることができなくなってしまう。そこで、本実施形態の回転支持部53は、糸渡し部材31の回転に回転抵抗を付与する抵抗付与部を備えている。この抵抗付与部は、例えばトルクリミッタとして構成することができる。この構成により、糸20へのダメージを抑えつつ、糸20に対して抵抗を付与することができる。
【0121】
また、上記抵抗付与部は、糸渡し部材31の回転に付与する回転抵抗を適宜変更可能な、可変ブレーキ機構として構成されていても良い。この場合、この可変ブレーキ機構は、制御部25によって制御可能に構成されていれば更に好適である。これによれば、糸渡し部材31に接触する糸20に与える抵抗を調整することができる。即ち、「緩み」と「張り」の強さを調整できるので、糸貯留装置18上の糸20の巻き付け状態や、糸20のピッチを、糸20の巻取条件や糸20の種類に応じて調整することが可能となる。
【0122】
以上で説明したように、本実施形態の糸貯留引き出し装置が備える糸貯留装置182には、糸渡し部材31を、その円形断面の中心を軸に回転可能に支持する回転支持部53が設けられている。
【0123】
このように糸渡し部材31を回転可能に支持することにより、糸20と糸渡し部材31との間で発生する摩擦を低減できるので、糸のダメージを軽減するとともに、糸渡し部材及び糸の発熱を抑えることができる。
【0124】
また、本実施形態の糸貯留引き出し装置が備える糸貯留装置182において、回転支持部53には、前記糸渡し部材31の回転に対して抵抗を与える抵抗付与部が設けられている。
【0125】
これにより、糸渡し部材31に接触する糸20に対して抵抗を与えることができるので、糸貯留ローラ32と糸渡し部材31との間の糸20に適度な「張り」と「緩み」を与えることができる。
【0126】
次に、上記第2実施形態の変形例について説明する。
【0127】
即ち、上記第2実施形態のように糸渡し部材31を回転可能に支持する場合、回転支持部53は、糸渡し部材31に回転抵抗を付与する抵抗付与部の代わりに、当該糸渡し部材31を回転駆動する駆動部を備えるように構成しても良い。この駆動部の動作は、制御部25によって制御可能に構成されていれば更に好適である。このように構成すれば、駆動部を適宜制御して糸渡し部材31の回転速度を変更することにより、糸渡し部材に接触する糸に与える抵抗を調整することができる。即ち、「緩み」と「張り」の強さを調整できるので、糸貯留装置18上の糸20の巻き付け状態や、糸20のピッチを、糸20の巻取条件や糸20の種類に応じて調整することが可能となる。
【0128】
ただし、糸渡し部材31が糸に接触している部分(第2糸接触部31a)の周速度が、糸貯留ローラ32の第1糸接触部32aの周速度より速くなると、糸渡し部材31に接触する糸20に対して抵抗を付与することができなくなってしまう。そこで、上記のように回転支持部53が駆動部を備える構成とした場合、当該駆動部は、第2糸接触部31aの周速度が第1糸接触部32aの周速度よりも遅くなるように駆動制御を行う。
【0129】
以上のように、本変形例に係る糸貯留引き出し装置が備える糸貯留装置は、回転支持部53に、糸渡し部材31を回転駆動する駆動部が設けられる。そして、前記駆動部により、第1糸接触部32aの周速度よりも第2糸接触部31aの周速度が遅く設定されている。
【0130】
このように、糸渡し部材31の方を糸貯留ローラ32よりも遅く回転させることにより、糸渡し部材31に接触する糸20に対して抵抗を与えることができるので、糸貯留ローラ32と糸渡し部材31との間の糸に「張り」と「緩み」を与えることができる。そして、駆動部によって糸渡し部材31の回転速度を適宜制御することにより、上記「張り」と「緩み」の程度を調整できるので、糸20の巻き付け状態、ピッチ等を、糸20の巻取り条件や糸の種類に応じて調整することができる。
【0131】
また、糸渡し部材31を回転駆動する駆動部の駆動トルクに基づいて、糸貯留装置に巻き付けられた糸の量を推定するように構成することも可能である。即ち、巻かれている糸の量が多くなると駆動トルクも大きくなり、巻かれている糸の量が少なくなると駆動トルクは小さくなるので、前記駆動トルクの大小を検出することにより、糸貯留装置に貯留された糸の量を推定することが可能となる。これにより、別途糸量を測定するためのセンサを設ける必要がなくなる。
【0132】
続いて、図9を参照して、本発明の第3実施形態について説明する。なお以下の説明で、上記第1実施形態と同一又は類似する構成については、図面に同一の符号を付して説明を省略する。
【0133】
図9に示すように、本実施形態に係る糸貯留引き出し装置が有する糸貯留装置183は、糸渡し部材31を複数備えた構成である。このように、糸渡し部材31の数は1つに限らず、複数の糸渡し部材31を備えていても良い。
【0134】
糸渡し部材31の数を増やすと、糸貯留装置183に貯留された糸20が「巻き直し」作用を受ける回数が増える結果、当該糸20全体が解舒側に向かって移動し易くなる。このように、糸20が解舒側に向かって移動し易くなると、糸貯留ローラ32と糸渡し部材31の周囲に略螺旋状に巻き付けられた糸20の、前記螺旋のピッチが荒くなるという傾向がある。
【0135】
螺旋のピッチが荒くなると、糸貯留装置183に貯留することができる糸20の量が少なくなる。これを逆に言うと、糸渡し部材31の数を変更することにより、糸貯留装置183に貯留する糸20の量を調整することができる。従って、糸20の貯留量を多くしたい場合には糸渡し部材31の数を減らし、貯留量を少なくしたい場合には糸渡し部材31の数を増やせば良い。
【0136】
なお、本願発明者らの実験によれば、糸渡し部材31を3つ備えた構成とした場合に、バルーンの発生を最も効果的に防止できることがわかった。従って、バルーンの発生を防止して、糸貯留装置183からの糸の解舒を安定させるという観点からは、糸渡し部材31の数を3つとすることが最も好適である。
【0137】
また、糸貯留装置183から安定して糸20を解舒するという観点から、3つの糸渡し部材31は、糸貯留ローラ32からの距離が同じになるように配置されている。より具体的には、糸貯留ローラ32の軸線に直交する平面による断面(図9)において、3つの糸渡し部材31は、糸貯留ローラの軸線を中心とした仮想円70上に配置されている。
【0138】
また、同じく糸貯留装置183から安定して糸20を解舒するという観点から、3つの糸渡し部材31は、糸貯留ローラの軸線に直交する平面による断面(図9)において、等間隔となるように配置されている。
【0139】
以上により、本実施形態の糸貯留装置183では、糸貯留ローラ32の軸線に直交する平面による断面(図9)において、糸貯留ローラ32の軸線を重心とする仮想的な正三角形71の各頂点を構成するように、3つの糸渡し部材31が配置されている。
【0140】
なお、糸貯留ローラ32は、糸20に接触しないと搬送力を発揮することができないので、糸貯留ローラ32は、糸渡し部材31の間の糸に接触するように配置されている。より具体的には、糸貯留ローラの軸線に直交する平面による断面(図9)において、糸貯留ローラの半径R1は、上記仮想的な正三角形71の重心から各辺への垂線の長さL1よりも長くなるように設定されている(即ち、糸貯留ローラ32が上記正三角形71の各辺に干渉するように構成されている)。これにより、糸貯留ローラ32の表面が糸20に接触できるので、当該糸貯留ローラ32の回転によって糸20を搬送し、糸貯留装置183に糸を貯留することができる。
【0141】
以上で説明したように、本実施形態の糸貯留引き出し装置が有する糸貯留装置183には、糸渡し部材31が複数設けられている。
【0142】
このように糸渡し部材31の数を変更することにより、糸20に「張り」と「緩み」を与える回数を変更できるので、巻き付けピッチを変更することができる。
【0143】
また本実施形態の糸貯留引き出し装置が有する糸貯留装置18において、複数の糸渡し部材31は、糸貯留ローラ32の回転軸を中心とする仮想円70上に設けられている。
【0144】
このように、複数の糸渡し部材31を、糸貯留ローラから同じ距離に配置することで、糸20の解舒を安定させることができる。
【0145】
また本実施形態の糸貯留引き出し装置が有する糸貯留装置183において、糸渡し部材31は3つ設けられている。
【0146】
即ち、糸渡し部材を3つとすれば、バルーンの発生を抑制して、糸貯留装置183からの糸20の解舒を特に安定させることができる。
【0147】
また本実施形態の糸貯留引き出し装置が有する糸貯留装置183において、3つの糸渡し部材31は、糸貯留ローラ32の回転軸に直交する平面による断面において、仮想的な正三角形71のそれぞれの頂点に配置されている。
【0148】
このように、3つの糸渡し部材31を正三角形状に配置することで、糸の解舒を更に安定させることができる。
【0149】
また本実施形態の糸貯留引き出し装置が有する糸貯留装置183において、糸貯留ローラ32の回転軸に直交する平面による断面において、糸貯留ローラ32の断面形状は円形であり、その半径R1は、3つの糸渡し部材31を頂点として形成される仮想的な三角形71の重心から各辺への垂線の長さL1よりも長い。
【0150】
糸渡し部材31をこのように配置することにより、糸20が糸貯留ローラ32に接触することができる。従って、糸貯留ローラ32によって糸20に搬送力が付与され、糸貯留装置183に糸20を貯留する事ができる。
【0151】
次に、図10を参照して、本発明の第4実施形態について説明する。なお以下の説明で、上記第1実施形態と同一又は類似する構成については、図面に同一の符号を付して説明を省略する。
【0152】
図10に示すように、この実施形態の糸貯留引き出し装置が有する糸貯留装置184は、糸貯留ローラ32を複数備える構成である。具体的には、糸貯留ローラ32の回転軸に直交する平面による断面(図10)において、各糸貯留ローラ32が正六角形の各頂点を構成するように配置する。また、糸渡し部材31は、前記正六角形の外側において適宜の位置に3つ設けられている。
【0153】
この糸貯留装置184は、6つの糸貯留ローラ32及び3つの糸渡し部材31を結ぶ9角形の外側から糸20を巻き付けるようにして、当該糸20を貯留する。このように糸貯留ローラ32を複数備える構成の場合も、各糸貯留ローラ32を等速で同一方向に回転駆動することにより、糸渡し部材31に接触する糸に抵抗を付与することになるので、糸20に対して「緩み」と「張り」を与えることができる。従って、このように糸貯留ローラ32を複数備える構成であっても、上記第1から第3実施形態と同様の効果を発揮させることができる。
【0154】
以上に本発明の好適な実施の形態及び変形例を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0155】
第1実施形態において、糸貯留ローラ32の軸線と、糸渡し部材31の長手方向と、が平行であるとしたが、これに限らず、糸渡し部材31は若干斜めになっていても良い。また糸渡し部材31は直線状であるに限らず、湾曲して形成されていても良い。つまり、糸貯留ローラ32と糸渡し部材31との間で糸20を適切に掛け渡すことができれば良いのであり、糸渡し部材31の形状や配置位置、配置方向などは適宜変更することができる。
【0156】
また上記実施形態では、糸渡し部材31は、その長手方向と直交する平面による断面形状が円形であるとしたが、これに限らず、非円形としても良い。例えば、断面形状がD字状であるように構成することができる。ただし、糸20にダメージを与えないようにするため、糸渡し部材31は、糸20と接触する部分の断面輪郭には尖った部分が無いようすることが好ましい。
【0157】
また、上記実施形態において回転体は糸貯留ローラとしたが、このようにローラ状の部材に限らず、回転軸に直交する平面による断面形状が非円形の回転体を用いても良い。
【0158】
制御部25は、ワインダユニット2ごとに備える構成に限らず、1つの制御部によって複数のワインダユニットを制御するように構成されていても良い。また、上記の説明では、1つの制御部25によって複数の部材の制御をまとめて行うように構成しているが、これに限らず、例えば、制御対象の部材ごとに個別に制御部を設けても良い。
【0159】
制御部25は、ハードウェアとソフトウェアから構成されるとしたが、その機能の一部又は全部が専用のハードウェアから構成されていても良い。
【0160】
上記実施形態のワインダユニット2はマガジン式のボビン供給装置26によって給糸ボビン21を供給する構成であるが、この構成に限定されない。例えば、給糸ボビン21をセットしたトレイを適宜の経路に沿って搬送することでワインダユニット2に給糸ボビン21を供給する構成に変更することもできる。
【0161】
上記実施形態において、巻取部8は、綾振ドラム24によって糸20をトラバースさせる構成であるが、例えばアーム式の綾振り機構で糸20をトラバースさせる構成としても良い。
【0162】
上記実施形態の自動ワインダは、糸継装置14に対して糸を吹き飛ばして案内する構成であるが、これに限らず、例えば給糸ボビン21の糸や糸貯留ローラ32上の糸を吸引捕捉し、当該吸引捕捉した糸を適宜の駆動手段によって糸継装置14まで案内する構成としても良い。
【0163】
図2のように糸貯留装置18がテンション付与部50を備えている場合であって、当該テンション付与部50のみで巻取部8に巻き取られる糸のテンションを良好に制御できる場合は、第2テンション付与装置19を省略することもできる。
【0164】
また、本発明の構成は、自動ワインダに限らず、糸継装置を備えた他の種類の糸巻取装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0165】
5 糸貯留引き出し装置
8 巻取部(引き出し装置)
18 糸貯留装置
31 糸渡し部材
31a 第2糸接触部
32 糸貯留ローラ(回転体)
32a 第1糸接触部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1糸接触部を有する回転体と、第2糸接触部を有し前記回転体の回転軸に沿う方向に設けられた糸渡し部材と、を備え、前記第1糸接触部と前記第2糸接触部とにまたがって交互に糸を掛け渡して貯留する糸貯留装置と、
前記糸貯留装置に貯留された糸を前記回転体の回転軸方向に引き出して解舒する引き出し装置と、
を有することを特徴とする糸貯留引き出し装置。
【請求項2】
請求項1に記載の糸貯留引き出し装置であって、
当該第2糸接触部は、前記回転体の回転軸と平行であることを特徴とする糸貯留引き出し装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の糸貯留引き出し装置であって、
前記糸渡し部材は棒状部材であることを特徴とする糸貯留引き出し装置。
【請求項4】
請求項3に記載の糸貯留引き出し装置であって、
前記糸渡し部材は、その長手方向に直交する平面で切断したときの断面形状が円形であることを特徴とする糸貯留引き出し装置。
【請求項5】
請求項4に記載の糸貯留引き出し装置であって、
前記糸渡し部材を、前記円形断面の中心を軸に回転可能に支持する回転支持部が設けられていることを特徴とする糸貯留引き出し装置。
【請求項6】
請求項5に記載の糸貯留引き出し装置であって、
前記回転支持部には、前記糸渡し部材の回転に対して抵抗を与える抵抗付与部が設けられていることを特徴とする糸貯留引き出し装置。
【請求項7】
請求項5に記載の糸貯留引き出し装置であって、
前記回転支持部には、前記糸渡し部材を回転駆動する駆動部が設けられ、
前記駆動部により、前記第1糸接触部の周速度よりも前記第2糸接触部の周速度が遅く設定されていることを特徴とする糸貯留引き出し装置。
【請求項8】
請求項1から7までの何れか一項に記載の糸貯留引き出し装置であって、
前記回転体及び前記糸渡し部材の周囲に巻き付けられた糸は、前記回転体の回転軸の延長線上に配置された糸ガイドによってガイドされつつ解舒されるように構成されていることを特徴とする糸貯留引き出し装置。
【請求項9】
請求項1から8までの何れか一項に記載の糸貯留引き出し装置であって、
前記糸渡し部材は複数設けられていることを特徴とする糸貯留引き出し装置。
【請求項10】
請求項9に記載の糸貯留引き出し装置であって、
前記複数の糸渡し部材は、前記回転体の回転軸を中心とする仮想円上に設けられていることを特徴とする糸貯留引き出し装置。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の糸貯留引き出し装置であって、
前記糸渡し部材は3つ設けられていることを特徴とする糸貯留引き出し装置。
【請求項12】
請求項11に記載の糸貯留引き出し装置であって、
前記3つの糸渡し部材は、前記回転体の回転軸に直交する平面による断面において、仮想的な正三角形のそれぞれの頂点に配置されていることを特徴とする糸貯留引き出し装置。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の糸貯留引き出し装置であって、
前記回転体の回転軸に直交する平面による断面において、前記回転体の断面形状は円形であり、その半径は、前記3つの糸渡し部材を頂点として形成される仮想的な三角形の重心から各辺への垂線の長さよりも長いことを特徴とする糸貯留引き出し装置。
【請求項14】
請求項1から13までの何れか一項に記載の糸貯留引き出し装置と、
糸を供給する給糸部と、
備え、
前記糸貯留装置は、前記給糸部と前記引き出し装置との間に配置され、前記給糸部より供給された糸を貯留し、
前記引き出し装置は、前記糸貯留装置に貯留された糸を巻き取ってパッケージを形成する巻取部であることを特徴とする糸巻取機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−96867(P2012−96867A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244380(P2010−244380)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)