説明

紙幣識別装置

【課題】紙幣の非通過時の信号が活用できないので、微小なレベルを精密に検知することができず、識別が困難であった。
【解決手段】紙幣2の挿入口22と、この挿入口22に連結して設けられた通路23と、この通路23に設けられた搬送手段26と、通路23の壁面に設けられた磁気センサ27と、この磁気センサ27の出力が接続された増幅器28と、この増幅器28の出力が供給される識別部32と、この識別部32の出力が接続された出力端子33とを備え、紙幣2の非通過時または紙幣2の非磁気印刷部の通過時における増幅器28の出力を、識別部32の入力範囲内とするとともに、紙幣2の非通過時または紙幣2の非磁気印刷部の通過時における増幅器28の出力を基準レベルとし、この基準レベルに基づいて紙幣2の識別を行うものである。これにより、所期の目的を達成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動販売機等に搭載される紙幣識別装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
以下、従来の紙幣識別装置について説明する。従来の紙幣識別装置1は、図8に示すように、紙幣2の挿入口3と、この挿入口3に連結して設けられた通路4と、この通路4に設けられた搬送手段5と、通路4の壁面に設けられた磁気センサ6と、この磁気センサ6の出力が接続された増幅器7と、この増幅器7の出力が接続されたサンプルホールド回路8と、このサンプルホールド回路8の出力が接続されたアナログ/デジタル(以下A/Dという)変換器9と、このA/D変換器9を含む識別部10と、この識別部10の出力が接続された出力端子11と、搬送手段5を動作させると共に識別部10を制御する制御部12と、増幅器7とサンプルホールド回路8へ基準電圧を供給する基準電圧作成回路13とで構成されていた。
【0003】
以上のように構成された紙幣識別装置1において、以下にその動作を説明する。挿入口3へ挿入された紙幣2は、搬送手段5により通路4内を搬送される。そして、この搬送の途中、通路4の壁面に設けられた磁気センサ6により、紙幣2に磁気印刷された磁気情報が読み取られる。磁気センサ6で読み取られた磁気情報は、増幅器7で増幅された後、サンプルホールド回路8を介してA/D変換器9でデジタルデータに変換される。そして、このデジタルデータに基づいて識別部10で、紙幣2の真偽と金種が識別される。識別結果は出力端子11から出力される。
【0004】
ここで、増幅器7とサンプルホールド回路8には、図9に示すような基準電圧作成回路13が接続されており、図10に示すように磁気センサ6で読み取られた磁気情報14のうち、ノイズ15が識別部10の入力範囲を越えるように基準電圧を設定することにより、ノイズ15を取り除いた後、A/D変換器9に入力していた。従って、ノイズ15を処理する必要がなく能率的な識別を行っていた。
【0005】
図10において、14aは、紙幣2に印刷された強い磁性インクの場所か或いは紙幣2の表面に磁気センサ6が接触している場合の出力波形であり、14bは、紙幣2の弱い磁性インクで印刷された場所か或いは紙幣2の裏面に磁気センサ6が接触している場合の出力波形である。
【0006】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【特許文献1】特開2001−12610号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながらこのような従来の紙幣識別装置1は、増幅器7とサンプルホールド回路8では、基準電圧作成回路13を用いて、磁気センサ6で読み取られた磁気情報14のうち、ノイズ15の分を全て削除していた。そのため、このノイズ15のレベルに近い微弱なレベルの磁気情報は削除されてしまい、弱い磁性インクで印刷された場所や、紙幣2が裏面側から挿入された場合には、識別が困難な場合もあった。
【0008】
本発明は、このような問題を解決したもので、識別精度の高い紙幣識別装置を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために本発明の紙幣識別装置は、紙幣の非通過時または前記紙幣の非磁気印刷部の通過時における増幅器の出力を、識別部の入力範囲内とするとともに、前記紙幣の非通過時または前記紙幣の非磁気印刷部の通過時における前記増幅器の出力を基準レベルとし、この基準レベルに基づいて前記紙幣の識別を行うものである。これにより、所期の目的を達成することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、紙幣の非通過時または前記紙幣の非磁気印刷部の通過時における増幅器の出力を、識別部の入力範囲内とするとともに、前記紙幣の非通過時または前記紙幣の非磁気印刷部の通過時における前記増幅器の出力を基準レベルとし、この基準レベルに基づいて前記紙幣の識別を行うものであり、紙幣の非磁気印刷部以前の時点における磁気情報に基づいて、弱小レベルの磁気情報も取り込むことができるので、これらの弱小レベルの磁気情報も識別材料に加えることができ、より識別精度の高い紙幣識別装置を提供することができる。
【0011】
また、磁気センサ出力に基づいて識別の基準レベルを決定するので、たとえ、外的条件で磁気センサ出力が変動したとしても、基準レベルもこれに連動して変わるので、安定した識別が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
(実施の形態)
図1は本発明の一実施の形態における紙幣識別装置21のブロック図である。図1において、22は紙幣2が挿入される挿入口であり、この挿入口22には通路23が連結されている。そして、この通路23の挿入口22寄りの壁面には紙幣2の挿入を検知する入口センサ24が装着されており、その出力は制御部25に接続されている。
【0014】
また、通路23の壁面には、紙幣2を搬送する搬送手段26が設けられている。この搬送手段26は、通路23の挿入口22側と通路23の出口側に夫々設けられたプーリ26a、26bと、これらのプーリ26a、26b間に架けられた搬送ベルト26cと、プーリ26bを駆動するモータ26dと、このモータ26dを制御部25の出力で駆動する駆動回路26eとで構成されている。
【0015】
27は、磁気センサであり、搬送ベルト26c上を通過する紙幣2を検知すべく、通路23の壁面に設けられている。この磁気センサ27は、通路23側に配置されたGMR(巨大磁気抵抗効果式)素子とこの奥に配置されて磁石とで構成されている。27aは、押さえピースであり、紙幣2を磁気センサ27側に押圧すべく磁気センサ27に対向して設けられている。従って、紙幣2の印刷情報を安定して読み取ることができる。なお、この磁気センサ27は10V電源で駆動されている。
【0016】
磁気センサ27の出力は、オペアンプで構成された増幅器28に接続されている。この増幅器28は、増幅度が調整可能な増幅回路とこの増幅回路に接続されたローパスフィルタ回路とで構成されている。また、増幅回路には基準電圧作成回路29が接続されており、増幅回路のバイアス電圧を決定している。
【0017】
増幅器28の出力は、サンプルホールド回路30に接続されている。このサンプルホールド回路30は、リセット回路を内蔵している。また、このサンプルホールド回路30には、基準電圧作成回路29から基準電圧が供給されている。
【0018】
サンプルホールド回路30の出力は、識別部32に接続されている。識別部32は、サンプルホールド回路30の出力をデジタルデータに変換するA/D変換器31と、このA/D変換器31の出力が一方の出力に接続されるとともに、他方の入力はメモリ32aに接続された比較器32bと、この比較器32bの出力に接続された判定器32cとで構成されている。そしてこの判定器32cの出力は出力端子33に接続されている。
【0019】
以上のように構成された紙幣識別装置21の動作を以下説明する。図2に紙幣2の一例を示す。この紙幣2は、長さ方向の寸法2aが160mmであり、幅方向の寸法2bが76mmである。また、紙幣2の始端2cから磁気2dが印刷されているところまでの寸法2eは5mmである。
【0020】
図3において、挿入口22には、図2に示すような紙幣2が挿入される。挿入された紙幣2は、入口センサ24で検知される。そうすると、この入口センサ24の検知信号で搬送手段26が働き、紙幣2を通路23内へと引き込む。即ち、モータ26d(図1参照)が回転し、搬送ベルト26cで紙幣2が搬送される。
【0021】
この搬送の途中、磁気センサ27により紙幣2の磁気情報が検知される。この磁気センサ27は、樹脂で形成されたケース27g及びこのケース27gに嵌合するGMR素子27bと、このGMR素子に装着されたキャップ27dと、前記GMR素子27bとケース27gの底面(奥側)との間に装着された磁石27cとで構成されている。
【0022】
GMR素子27bのキャップ27d側には感知部27eが設けられており、この感知部27eとキャップ27dとの間には、厚さ20ミクロンの空洞部27fが形成されている。この空洞部27fは、5ミクロン以上50ミクロン以下の空洞(隙間)を設けている。空洞部27fの厚みが50ミクロン以上であると、感知部27eの感度が低下する。また、5ミクロン以下であると振動によるノイズレベルが大きくなる。
【0023】
本実施の形態では、厚み20ミクロンの空洞部27fを形成してノイズ幅の縮小を実現している。なお、GMR素子27bのキャップ27dへの装着は、GMR素子27bの肩の部分でキャップ27dへ接着剤で接着しており、通路23との間の正確な位置決めを実現している。
【0024】
また、GMR素子27bに対向して押さえピース27aが設けられており、紙幣2はこの押さえピース27aでGMR素子27bの感知部27e側へ押圧される。従って、紙幣2は磁気センサ27に密着し、安定した磁気情報の検出をすることができる。紙幣2の場所2fは、強い磁気インク部、或いはGMR素子27bの接触面(紙幣2の表面)であり、場所2gは、弱い磁気インク部、或いはGMR素子27bの非接触面(紙幣2の裏面)である。
【0025】
図4は、これら紙幣2の夫々の場所における磁気センサ27から出力される出力波形である。図4において、波形35aは紙幣2が挿入される前、正確には紙幣2が入口センサ24で検知される3.2秒前までの出力波形である。波形35bは、入口センサ24で紙幣2の始端2cが検知されてから、この始端2cが磁気センサ27で検知されるまでの期間約0.5秒間の出力波形である。また、波形35cは、磁気センサ27が始端2cを検知してから磁気2dを検知するまで約0.03秒間の出力波形である。
【0026】
また、波形35dは、紙幣2の場所2fに対応する出力波形であり、波形35eは、紙幣2の場所2gに対応する出力波形である。本実施の形態では、特に波形35eも併せて精密に検知することにより高精度の識別を実現している。
【0027】
図5は、磁気センサ27の出力を精密に検知する要部回路のブロック図である。図5において、基準電圧作成回路29は、A/D変換器31へ供給する電源と同じ5Vの電源36(磁気センサ27に供給される10Vの電源と異なる)を用いて増幅器28及びサンプルホールド回路30の基準電圧を生成している。従って、たとえこの電源36が変動することにより基準電圧が変動しても、増幅器28及びサンプルホールド回路30やA/D変換器31も同様の割合で変動するので、精密な識別が可能となる。
【0028】
また、この基準電圧作成回路29は、電源36を抵抗29a、29bで分割しており、その分割された電圧はオペアンプ29cで構成されたバッファを介して、増幅器28のバイアス電圧と、サンプルホールド回路30の基準電圧を生成している。このように、オペアンプ29cで構成されたバッファを介して供給しているので、安定した基準電圧を供給することができる。
【0029】
図6は、A/D変換器31から出力される波形図である。図6において、A/D変換器31からは、ノイズも含めた波形35a〜35fが出力される。本実施の形態では、0Vから4.95Vまでの範囲を255等分して、この中に波形35a〜35fを当てはめている。増幅器28のバイアス電圧は4.6Vであり、0V〜4.6Vまでの波形35a〜35fが得られる。
【0030】
このうち、紙幣2が入口センサ24で検知される3.2秒前までの非通過時(待機時)の波形35aの平均を取って基準レベル40としている。そして、この基準レベル40から255分の16の電圧を加えて閾値41としており、この閾値41から波形35a〜35fのレベルの相違を用いて紙幣2の真偽と金種を識別している。本実施の形態における基準レベル40は、紙幣2の非通過時の時間幅を3.2秒と大きくとることができるので、この波形35aの平均は安定しており、正確な基準レベル40を得ることができる。この基準レベル40を用いることにより、待機時のノイズを波形35a〜35fから除くことができる。
【0031】
また、この基準レベル40の他に、紙幣2が入口センサ24から磁気センサ27に到達するまでの波形35bの平均をとって、基準レベルとしても良い。この場合、搬送手段26を構成するモータ26dから発生するノイズを波形35a〜35fから除くことができる。
【0032】
更に、紙幣2の始端2cから磁気2dまでの波形35cの平均をとって、基準レベルとしても良い。この場合は、搬送手段26を構成するモータ26dから発生するノイズと、紙幣2の凹凸の振動ノイズを波形35a〜35fから共に除くことができる。
【0033】
これら何れの場合も閾値は、夫々の平均値から算出した基準レベルから255分の16の電圧を閾値41とする。
【0034】
このように、紙幣2の非通過時または非磁気印刷部の通過時における磁気情報に基づいて、強い磁気レベルの波形35dのみならず、弱小レベルの磁気情報(波形35e、35f)も取り込むことができる。従って、これらの弱小レベルの磁気情報も識別材料に加えることができ、より識別精度の高い紙幣識別装置21を得ることができる。
【0035】
また、磁気センサ27の出力に基づいて識別の基準レベルを決定するので、たとえ、外的条件で磁気センサ27の出力が変動したとしても、基準レベルもこれに連動して変わるので、安定した識別が可能となる。
【0036】
図7(a)は、本実施の形態において識別に直接活用している紙幣2の波形35d、35e、35fであり、強い磁気レベル35dのみならず、弱い磁気レベルの波形35e、35fも精密に検知することができる。従って、精度の高い識別が可能となる。
【0037】
これに対して、図7(b)に示す従来の識別では、紙幣2の弱い磁気レベルの波形14bを精密に検知することができず、どうしても識別精度に限界がある。
【0038】
このようにして、識別部32で識別された紙幣2の真偽と金種は、出力端子33から出力される。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の紙幣識別装置は、識別精度が高いので、自動販売機等に使用する紙幣識別装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施の形態における紙幣識別装置のブロック図
【図2】同、紙幣識別装置で識別される紙幣の平面図
【図3】同、紙幣識別装置の要部断面図
【図4】同、磁気センサから出力される波形図
【図5】同、要部ブロック図
【図6】同、A/D変換器から出力される波形図
【図7】波形の比較図であり、(a)は、本実施の形態における識別に活用する波形図、(b)は、従来の識別に活用する波形図
【図8】従来の紙幣識別装置のブロック図
【図9】同、紙幣識別装置を構成する基準電圧作成回路の回路図
【図10】同、従来の識別に活用する波形図
【符号の説明】
【0041】
2 紙幣
21 紙幣識別装置
22 挿入口
23 通路
26 搬送手段
27 磁気センサ
28 増幅器
32 識別部
33 出力端子
40 基準レベル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙幣の挿入口と、この挿入口に連結して設けられた通路と、この通路に設けられた搬送手段と、前記通路の壁面に設けられた磁気センサと、この磁気センサの出力が接続された増幅器と、この増幅器の出力が供給される識別部と、この識別部の出力が接続された出力端子とを備え、前記紙幣の非通過時または前記紙幣の非磁気印刷部の通過時における前記増幅器の出力を、前記識別部の入力範囲内とするとともに、前記紙幣の非通過時または前記紙幣の非磁気印刷部の通過時における前記増幅器の出力を基準レベルとし、この基準レベルに基づいて前記紙幣の識別を行う紙幣識別装置。
【請求項2】
基準レベルは、紙幣非通過時の予め定められた一定時間の磁気センサ出力の平均値に基づいて設定された請求項1に記載の紙幣識別装置。
【請求項3】
挿入口の壁面に入口センサを設け、この入口センサが紙幣を検出した時点で搬送手段が前記紙幣の搬送を開始する請求項1に記載の紙幣識別装置において、基準レベルは、前記搬送手段が搬送を開始した時点から前記紙幣が磁気センサに到達するまでの時間内における磁気センサ出力の平均値に基づいて設定された紙幣識別装置。
【請求項4】
基準レベルは、紙幣の始端と磁気印刷開始間における磁気センサ出力の平均値に基づいて設定された請求項1に記載の紙幣識別装置。
【請求項5】
識別部では、基準レベルに予め定められた値を加算して閾値を設定する請求項1に記載の紙幣識別装置。
【請求項6】
識別部は、増幅器の出力が供給されるA/D変換器を備え、前記増幅器及び前記A/D変換器の基準電圧を第1の電源から供給する請求項1に記載の紙幣識別装置。
【請求項7】
磁気センサの電源は第1の電源と異なる第2の電源から供給する請求項6に記載の紙幣識別装置。
【請求項8】
磁気センサは、キャップと、このキャップに装着されたGMR素子を有するとともに、このGMR素子の感知部と前記キャップとの間には空洞部が設けられた請求項1に記載の紙幣識別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−3678(P2009−3678A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−163495(P2007−163495)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】