説明

紙送りローラ

【課題】紙粉の付着による摩擦係数の低下を生じにくく、より長期間に亘って良好な紙送りを維持できる紙送りローラを提供する。
【解決手段】筒状の内側ゴム層4の外周に、紙送りローラ1の外周面6を構成する筒状の外側ゴム層5を被覆するとともに、前記外周面6に、当該外周面6より径方向内方に凹入させて、環状の凹溝7を少なくとも1つ設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電式複写機や各種プリンタ等において紙送りに用いられる紙送りローラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば静電式複写機、レーザープリンタ、普通紙ファクシミリ装置、インクジェットプリンタ、自動現金預払機(ATM)等の機器類における紙送り機構には、各種の紙送りローラが組み込まれている。前記紙送りローラとしては、紙(プラスチックフィルム等を含む。以下同様。)と接触しながら回転して摩擦によって紙を搬送する、例えば給紙ローラ、搬送ローラ、プラテンローラ、排紙ローラ等が挙げられる。
【0003】
前記紙送りローラとして、従来は、例えば天然ゴム(NR)、ウレタンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、ポリノルボネンゴム、シリコーンゴム、塩素化ポリエチレンゴム等の各種ゴムからなるローラが一般的に用いられている。
しかし前記紙送りローラの外周面には紙から発生する紙粉が付着しやすく、紙と繰り返し接触するうちに前記外周面に紙粉が蓄積されることで紙に対する紙送りローラの摩擦係数が低下して、比較的早期に紙の搬送不良を生じる場合がある。
【0004】
特に近年、前記機器類のランニングコスト低減のため、灰分の多い安価な紙が多く出回っているが、かかる灰分の多い紙は紙粉が発生しやすく、前記紙粉の蓄積とそれによる紙の搬送不良とを生じやすい。
特許文献1には、筒状の少なくとも2層のゴム層を積層するとともに、そのうち最外層以外の少なくとも1層のゴム層の外周面にローレット溝を形成することで、前記ローレット溝とその外周側のゴム層との間に空隙を設けた紙送りローラが記載されている。
【0005】
かかる紙送りローラによれば、前記空隙によりゴム層全体の硬度を低下させることで、前記紙送りローラの外周面の、紙に対する接触面積を増加させて摩擦係数を高めることができるとされている。
しかし前記構成では、紙粉の蓄積による摩擦係数の低下を防止することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−15792号公報
【特許文献2】特開平8−26511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、紙粉の付着による摩擦係数の低下を生じにくく、より長期間に亘って良好な紙送りを維持できる紙送りローラを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、筒状の内側ゴム層、前記内側ゴム層の外周に積層されて前記紙送りローラの外周面を構成する筒状の外側ゴム層、および前記内側ゴム層の中心に挿通されたシャフトが一体に形成され、前記外周面には、その周方向に沿って、前記外周面より径方向内方に凹入させた環状の凹溝が少なくとも1つ設けられていることを特徴とする紙送りローラである。
【0009】
発明者の検討によると、紙送りローラと紙との摩擦係数は、前記紙送りローラの外周面の全体で均一ではない。前記摩擦係数は、前記外周面のうち軸方向の両端部において、他の領域よりも大きくなる傾向を示す。前記両端部が、紙送りローラの外周面の、紙への接触ポイントとして機能して、前記紙送りローラの全体での摩擦係数が確保される。
これに対し本発明では、前記のように紙送りローラの外周面の、軸方向の途中の位置に、その周方向に沿って、前記外周面より径方向内方に凹入させた環状の凹溝を設けているため、前記外周面のうち凹溝の両側のエッジ部をも、本来の両端部と同様に摩擦係数の大きい端部、すなわち紙への接触ポイントとして機能させることができる。
【0010】
そのため1つの紙送りローラの外周面に存在する前記接触ポイント数をこれまでよりも増加させて、全体での摩擦係数を向上させることができる。
また前記凹溝は、紙から発生した紙粉を蓄積して、外周面に蓄積される紙粉の量を減少させるためにも機能する。
したがって本発明の紙送りローラによれば、紙粉の付着による摩擦係数の低下を生じにくくして、より長期間に亘って良好な紙送りを維持することが可能となる。
【0011】
なお特許文献2の図1には、一見すると本発明と同様の構造が開示されているようにも見える。しかし特許文献2に記載のものは、同一のシャフト上にそれぞれ独立して、前記シャフトにワンウェイクラッチを介して連結される分離ローラと、シャフトと一体化されたピックアップローラとを前記シャフトの軸方向に配列した給送装置であり、本発明の紙送りローラとは全く異質のものである。
【0012】
本発明の紙送りローラは、むしろ前記特許文献2の給送装置を構成する分離ローラやピックアップローラそれ自体として適用されるものであり、それによって特許文献2の給送装置においても、より長期に亘って良好な紙送りが可能となる。
本発明の紙送りローラは、前記シャフトが挿通される筒状の樹脂コアをも備えるとともに、前記樹脂コアの外周面には、その周方向に沿って、前記外周面より径方向内方に凹入させた環状の凹部が少なくとも2つ、軸方向に互いに離間させて設けられており、それぞれの凹部に別個に前記内側ゴム層が嵌め合わされ、かつ各々の内側ゴム層の外周にそれぞれ別個に前記外側ゴム層が被覆されて、前記軸方向に隣り合う内側ゴム層間、および外側ゴム層間に前記溝が設けられているのが好ましい。
【0013】
凹溝は、例えば外側ゴム層の断面形状を工夫して、前記外側ゴム層内に形成してもよい。また内側ゴム層の断面形状を工夫して、前記内側ゴム層に凹溝の基部を形成するとともに、前記内側ゴム層の外周のうち凹溝以外の部分に、選択的に外側ゴム層を被覆して凹溝を形成してもよい。
しかし前記両ゴム層は、いずれも紙送り時に紙に圧接されて変形が繰り返されるものであるため、前記のように凹溝を含む断面形状に形成した場合には、前記変形が繰り返されることで、凹溝の内側の角部等が、応力集中によって比較的短期間で破損してしまうおそれがある。
【0014】
これに対し前記構造によれば、両ゴム層の断面形状を単純化して、前記応力集中等による短期間での破損を抑制することができる。
前記内側ゴム層は、紙との摩擦によって「鳴き」が生じるのを防止することを考慮すると、特に室温(5〜35℃)付近での振動減衰性能に優れたブチルゴムによって形成するのが好ましい。また外側ゴム層は、外周面の摩耗による摩擦係数の低下をできるだけ抑制することを考慮すると、耐摩耗性に優れたエチレンプロピレンゴムによって形成するのが好ましい。
【0015】
前記外側ゴム層は、内側ゴム層の外周に直接に被覆され、前記両ゴム層間の摩擦係数によって内側ゴム層と一体化されているのが好ましい。
これにより、接着剤を介して接着したり、加硫接着したり、熱溶着したりしないため、両層を積層する工程および構成を簡略化し、かつ紙送りローラの低コスト化を図ることができる。
【0016】
また両ゴム層の、接着剤に対する親和性や、両ゴム層同士の加硫接着性、あるいは熱溶着時の相溶性等を考慮する必要がないため、前記のようにそれぞれのゴム層に求められる特性に優れたゴムを選択して使用することができるとともに、両ゴム層の汎用性を向上することもできる。
また外側ゴム層が摩耗した際には前記外側ゴム層のみを交換すればよく、交換の手間、およびコストを省略することもできる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、紙粉の付着による摩擦係数の低下を生じにくく、より長期間に亘って良好な紙送りを維持できる紙送りローラを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の紙送りローラの、実施の形態の一例の外観を示す一部切欠き斜視図である。
【図2】前記例の紙送りローラの内部構造を示す断面図である。
【図3】前記例の紙送りローラを各部に分解した状態を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の紙送りローラの、実施の形態の一例の外観を示す一部切欠き斜視図である。図2は、前記例の紙送りローラの内部構造を示す断面図である。図3は、前記例の紙送りローラを各部に分解した状態を示す分解斜視図である。
図1〜図3を参照して、この例の紙送りローラ1は、シャフト2、前記シャフト2が挿通される筒状の樹脂コア3、前記樹脂コア3の外周に嵌め合わされる2つの筒状の内側ゴム層4、および前記2つの内側ゴム層4の外周にそれぞれ嵌め合わされる2つの筒状の外側ゴム層5を備えている。前記シャフト2、樹脂コア3、内側ゴム層4、および外側ゴム層5はそれぞれ同心状に配設されている。
【0020】
外側ゴム層5により、紙送りローラ1の外周面が構成されている。すなわち外側ゴム層5の外周面6が、紙送りローラ1の外周面とされている。
それぞれ2つずつの内側ゴム層4、および外側ゴム層5は、樹脂コア3の軸方向に互いに離間させて設けられており、隣り合う内側ゴム層4間、および外側ゴム層5間に、前記外周面6より径方向内方に凹入させた環状の凹溝7が形成されている。
【0021】
シャフト2は、例えば樹脂や金属等によって、図の例の場合は直径が一定の円柱状に形成されている。
樹脂コア3は、中心に前記シャフト2が挿通される通孔8を備えた円筒状のコア本体9、前記コア本体9の軸方向の両端に設けられた一対の外フランジ10、および前記コア本体9の軸方向の中央に設けられた1つの中フランジ11を備えている。前記各部を、例えば比較的硬質の樹脂によって一体に成形する等して樹脂コア3が構成されている。
【0022】
通孔8は内径が一定に形成され、コア本体9は外径が一定に形成されている。またコア本体9の外周面12は、通孔8の内周面、および前記通孔8内に挿通されるシャフト2と同心状に配設されている。
外フランジ10、および中フランジ11は、いずれもコア本体9の軸方向と直交する径方向外方へ延設されており、面方向には互いに平行に配設されている。
【0023】
また各フランジ10、11は、いずれも同径で、かつ厚みが一定の円板状に形成されている。
各フランジ10、11の外縁は、それぞれ通孔8の内周面、および前記通孔8内に挿通されるシャフト2の外周面と同心状に配設されて、樹脂コア3の円筒状の外周面13を構成している。前記外周面13は、コア本体9の外周面12、通孔8の内周面、および前記通孔8内に挿通されるシャフト2と同心状に配設されている。
【0024】
一対の外フランジ10のうちの一方と、中フランジ11との間の領域は、前記外周面13から径方向内方へ凹入されてコア本体9の外周面12に達する凹部14とされている。また他方の外フランジ10と中フランジ11との間の領域も、前記外周面13から径方向内方へ凹入されてコア本体9の外周面12に達する凹部14とされている。
両凹部14は、ともに外周面13の周方向に沿って環状に形成されている。また両凹部14は、中フランジ11を隔てることで、その全周に亘って、軸方向に互いに離間させて設けられている。
【0025】
また両凹部14は、前記のように外フランジ10と中フランジ11とが面方向に互いに平行に配設されることで、外周面13の全周に亘って、いずれも軸方向の幅が一定に形成されている。また図の例では、一対の外フランジ10と中フランジ11とが軸方向に等間隔に設けられることで、両凹部14の幅が等しくなっている。
さらに両凹部14は、前記のように樹脂コア3の外周面13とコア本体9の外周面12とが同心状に配設されることで、前記外周面13の全周に亘って、深さが一定に形成されているとともに、互いの深さが等しくされている。
【0026】
内側ゴム層4は、中心に樹脂コア3のコア本体9が挿通される通孔15を備えた、外径が一定の円筒状に形成されている。通孔15は、その内径が一定に形成されるとともに、内側ゴム層4の中心に同心状に配設されている。すなわち通孔15の内周面は、内側ゴム層4の外周面16と同心状に配設されている。
内側ゴム層4の、軸方向の両端面は、前記軸方向と直交する平面とされている。内側ゴム層4の、前記両端面間の長さ(軸方向の長さ)は、前記樹脂コア3の、外フランジ10と中フランジ11との間の、軸方向の間隔と等しくされている。
【0027】
内側ゴム層4は、例えばニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、天然ゴム、ウレタンゴム等のゴム、スチレン系熱可塑性エラストマ等の熱可塑性エラストマ、ポリエチレン、ポリプロピレン等の軟質樹脂などの1種または2種以上によって形成される。
特に内側ゴム層4は、ブチルゴムによって形成するのが好ましい。前記ブチルゴムは、特に室温(5〜35℃)付近での振動減衰性能に優れるため、紙との摩擦によって前記「鳴き」が生じるのを防止する効果に優れている。
【0028】
内側ゴム層4は多孔質でも非多孔質でもよい。内側ゴム層4の振動減衰性能を向上することを考慮すると多孔質であるのが好ましいが、耐久性を考慮すると非多孔質であるのが好ましい。特に振動減衰性能と耐久性とを両立させることを考慮すると、前記ブチルゴムからなる非多孔質の内側ゴム層4が好ましい。
内側ゴム層4は、ブチルゴム等を含むゴム組成物を、例えばプレス加硫等によって円筒状に成形し、所定の長さにカットする等して形成される。
【0029】
2つの内側ゴム層4は、それぞれ樹脂コア3の凹部14に嵌め合わされている。
前記のように2つの凹部14は、その全周に亘って、樹脂コア3の軸方向に互いに離間させて形成されている。そのため、それぞれの凹部14に嵌め合わされた内側ゴム層4も、その全周に亘って、前記軸方向に互いに離間させて配設されている。したがって、隣り合う内側ゴム層4間に、前記環状の凹溝7の基部が形成されている。
【0030】
通孔15の内径は、樹脂コア3の、コア本体9の外径と等しいか、または前記外径よりも僅かに小さくされている。そのため前記嵌め合わせにより、それぞれの内側ゴム層4は、樹脂コア3のコア本体9の外周に直接に被覆され、前記内側ゴム層4の摩擦によって樹脂コア3と一体化されている。
これにより、接着剤を介して接着したり、熱溶着したりする工程を省略して、紙送りローラ1の低コスト化を図ることができる。
【0031】
また内側ゴム層4と樹脂コア3の、接着剤に対する親和性や、あるいは熱溶着時の相溶性等を考慮する必要がないため、前記のように内側ゴム層4に求められる特性に優れたゴムを選択して使用することができるとともに、前記内側ゴム層4の汎用性を向上することもできる。
また、例えば内側ゴム層4がヘタリ等を生じた際には前記内側ゴム層4のみを交換すればよく、交換の手間、およびコストを省略することもできる。
【0032】
内側ゴム層4の外径は、両フランジ10、11の外径より小さくされており、それによって前記両フランジ10、11は、凹部14に嵌め合わせた内側ゴム層4の外周面16よりも径方向外方に突出されている。
外側ゴム層5は、中心に内側ゴム層4が挿通される通孔17を備えた、外径が一定の円筒状に形成されている。通孔17は、その内径が一定に形成されるとともに、外側ゴム層5の中心に同心状に配設されている。すなわち通孔17の内周面は、外側ゴム層5の外周面6と同心状に配設されている。
【0033】
外側ゴム層5の、軸方向の両端面は、前記軸方向と直交する平面とされている。外側ゴム層5の、前記両端面間の長さ(軸方向の長さ)は、前記樹脂コア3の、外フランジ10と中フランジ11との間の、軸方向の間隔と等しくされている。
外側ゴム層5は、例えばエチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、ウレタンゴム、NBR等のゴム、ポリエステル系熱可塑性エラストマ、スチレン系熱可塑性エラストマ、ウレタン系熱可塑性エラストマ等の熱可塑性エラストマ、ポリエチレン、ポリプロピレン等の軟質樹脂などの1種または2種以上によって形成される。
【0034】
特に外側ゴム層5は、エチレンプロピレンゴム、中でもEPDMによって形成するのが好ましい。前記エチレンプロピレンゴムは耐摩耗性に優れるため、外周面の摩耗による摩擦係数の低下をできるだけ抑制することができる。
外側ゴム層5は多孔質でも非多孔質でもよい。外側ゴム層5の紙に対する摩擦係数を向上することを考慮すると多孔質であるのが好ましいが、耐久性を考慮すると非多孔質であるのが好ましい。特に摩擦係数と耐久性とを両立させることを考慮すると、前記EPDMからなる非多孔質の外側ゴム層5が好ましい。
【0035】
外側ゴム層5は、EPDM等を含むゴム組成物を、例えばプレス加硫等によって円筒状に成形し、所定の長さにカットする等して形成される。
2つの外側ゴム層5は、それぞれ樹脂コア3の凹部14に嵌め合わされた内側ゴム層4の外周にそれぞれ別個に被覆されている。また2つの外側ゴム層5は、それぞれ内側ゴム層4の外周より径方向外方に突出された両フランジ10、11間に挟まれている。
【0036】
前記のように2つの凹部14は、その全周に亘って、樹脂コア3の軸方向に互いに離間させて形成されている。また、それぞれの凹部14に嵌め合わされた内側ゴム層4も、その全周に亘って、前記軸方向に互いに離間させて配設されている。
そのため両フランジ10、11間に挟まれた状態で、それぞれの内側ゴム層4の外周に被覆された2つの外側ゴム層5も、その全周に亘って、前記軸方向に互いに離間させて配設されている。したがって、隣り合う外側ゴム層5間に、前記環状の凹溝7が形成されている。
【0037】
通孔17の内径は、内側ゴム層4の外径と等しいか、または前記外径よりも僅かに小さくされている。そのため前記被覆により、それぞれの外側ゴム層5は、内側ゴム層4の外周に直接に被覆され、両ゴム層4、5間の摩擦によって互いに一体化されている。
これにより、接着剤を介して接着したり、加硫接着したり、熱溶着したりしないため、両ゴム層4、5を積層する工程および構成を簡略化し、かつ紙送りローラ1の低コスト化を図ることができる。
【0038】
また両ゴム層4、5の、接着剤に対する親和性や、両ゴム層4、5同士の加硫接着性、あるいは熱溶着時の相溶性等を考慮する必要がないため、前記のようにそれぞれのゴム層4、5に求められる特性に優れたゴムを選択して使用することができるとともに、両ゴム層4、5の汎用性を向上することもできる。
また外側ゴム層5が摩耗した際には前記外側ゴム層5のみを交換すればよく、交換の手間、およびコストを省略することもできる。
【0039】
前記各部を備えた、この例の紙送りローラ1においては、その外周面6の軸方向の両端部P1を、紙への接触ポイントとして機能させることができる。のみならず、凹溝7の両側のエッジ部P2をも、本来の両端部P1と同様に摩擦係数の大きい端部、すなわち紙への接触ポイントとして機能させることができる。
そのため1つの紙送りローラ1の外周面6に存在する前記接触ポイント数をこれまでよりも増加させて、全体での摩擦係数を向上させることができる。
【0040】
また前記凹溝7は、紙から発生した紙粉を蓄積して、外周面6に蓄積される紙粉の量を減少させるためにも機能する。
したがって前記紙送りローラ1によれば、紙粉の付着による摩擦係数の低下を生じにくくして、より長期間に亘って良好な紙送りを維持することが可能となる。
なお本発明の構成は、以上で説明した図1〜3の例には限定されない。
【0041】
例えば凹溝7は2つ以上設けてもよい。その場合は、例えば樹脂コア3の外フランジ10間に中フランジ11を2つ以上形成することで、前記樹脂コア3の外周面13に3つ以上の凹部14を設け、それぞれの凹部14に1つずつ内側ゴム層4を嵌め合わせるとともに、各内側ゴム層4の外周を外側ゴム層5で被覆すればよい。
後述する実施例の結果からも明らかなように、凹溝7の数を増やすほど、紙粉の付着による摩擦係数の低下を生じにくくして、より長期間に亘って良好な紙送りを維持することが可能となる。
【0042】
ただし凹溝7の数を増やすほど外周面6の面積が減少するため、数を増やしすぎると、却って摩擦係数が低下するおそれがある。そのため外周面6に凹溝7をいくつ設けるかは、前記外周面6の軸方向の全長や、凹溝7の軸方向の幅等に応じて適宜設定するのが好ましい。
凹溝7の軸方向の幅をどの程度に設定するかも、特に限定はされないが、幅が狭すぎる場合は、紙送り時に紙に圧接させた際の変形によって凹溝7の両側の外側ゴム層5が接触してしまい、前記凹溝7を設けることによる効果が十分に発揮されないおそれがある。また広すぎる場合は外周面6の面積が減少するため、摩擦係数が低下するおそれがある。そのため凹溝7の幅は、両ゴム層4、5の硬さや外周面6の外径、あるいは前記外周面6の軸方向の全長や、凹溝7の数等に応じて適宜設定するのが好ましい。
【0043】
凹溝7は、例えば外側ゴム層5の断面形状を工夫して、前記外側ゴム層5内に形成してもよい。また内側ゴム層4の断面形状を工夫して、前記内側ゴム層4に凹溝7の基部を形成するとともに、前記内側ゴム層4の外周のうち凹溝7以外の部分に、選択的に外側ゴム層5を被覆して凹溝を形成してもよい。
しかし前記両ゴム層4、5は、いずれも紙送り時に紙に圧接されて変形が繰り返されるものであるため、前記のように凹溝7を含む断面形状に形成した場合には、前記変形が繰り返されることで、凹溝7の内側の角部等が、応力集中によって比較的短期間で破損してしまうおそれがある。
【0044】
これに対し図1〜図3の例の構造によれば、両ゴム層4、5の断面形状を単純化して、前記応力集中等による短期間での破損を抑制することができるため好ましい。
両ゴム層4、5の硬さや厚み等は、任意に設定できる。いずれの場合も、凹溝7の機能により、長期間に亘って良好な紙送りを維持することが可能となる。
その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を施すことができる。
【実施例】
【0045】
〈実施例1〉
(内側ゴム層の作製)
表1に示す各成分を160℃×30分間プレス加硫して、内径φ12.6、外径φ21、長さ60mmの、内側ゴム層のもとになる円筒体(コット)を形成した。次いでこの円筒体を長さ13.5mmにカットして、図1〜図3に示す円筒状の内側ゴム層4を作製した。
【0046】
【表1】

【0047】
表1中の各成分は下記のとおり。
ブチルゴム:エクソンモービル社製のブチル268
炭酸カルシウム:備北粉化工業(株)製のBF300
カーボンブラックHAF:東海カーボン(株)製のシースト3
パラフィンオイル:出光興産(株)製のダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW−380
酸化亜鉛2種:三井金属鉱業(株)製
ステアリン酸:日油(株)製の商品名「つばき」
粉末硫黄:鶴見化学工業(株)製
促進剤TBT:大内新興化学工業(株)製のノクセラー(登録商標)TBT、テトラブチルチウラムジスルフィド
促進剤DM:大内新興化学工業(株)製のノクセラーDM、ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド
(外側ゴム層の作製)
表2に示す各成分を160℃×20分間プレス加硫して、内径φ14、外径φ25、長さ60mmの、内側ゴム層のもとになる円筒体(コット)を形成した。次いでこの円筒体を、円筒研削盤を用いて外径がφ24になるまで研磨し、さらに長さ13.5mmにカットして、図1〜図3に示す円筒状の外側ゴム層5を作製した。
【0048】
【表2】

【0049】
表2中のEPDM、酸化珪素、酸化チタン、および促進剤TETは下記のとおり。他の成分は表1と同じ。
EPDM:住友化学(株)製のエスプレン(登録商標)670F、油展EPDM、EPDM:油展オイル=100:100(質量比)
酸化珪素:東ソー・シリカ(株)製のNipsil(登録商標)VN3
酸化チタン:チタン工業(株)製の商品名クロノスKR380
促進剤TET:大内新興化学工業(株)製のノクセラーTET、テトラエチルチウラムジスルフィド
(樹脂コア)
樹脂コア3としては、全体を硬質樹脂によって、図1〜図3に示す立体形状に形成してなり、コア本体9の外径が14mm、各フランジ10、11の外径が22mm、厚みが1.5mm、中フランジ11の個数が1つ、凹部14の個数が2つ、各フランジ10、11間の軸方向の間隔、すなわち2つの凹部14の軸方向の幅がいずれも13.5mmであるものを用意した。
【0050】
(紙送りローラ)
前記樹脂コア3の2つの凹部14に、それぞれ前記内側ゴム層4を嵌め合わせるとともに、前記内側ゴム層4の外周に、それぞれ前記外側ゴム層5を被覆して、図1〜図3に示す紙送りローラ1を構成した。
前記紙送りローラ1の、外側ゴム層5によって構成される外周面6の外径は24.6mm、軸方向の全長は28.5mm、凹溝7の個数は1つ、凹溝7の軸方向の幅は1.5mmであった。
【0051】
〈実施例2〉
内側ゴム層4としては、実施例1で形成したのと同じ円筒体を長さ8.5mmにカットしたものを用意した。また外側ゴム層5としては、実施例1で形成したのと同じ円筒体を、円筒研削盤を用いて外径がφ24になるまで研磨し、さらに長さ8.5mmにカットしたものを用意した。
【0052】
樹脂コア3としては、コア本体9の外径、および各フランジ10、11の外径と厚みが実施例1と同じ、中フランジ11の個数が2つ、凹部14の個数が3つ、各フランジ10、11間の軸方向の間隔、すなわち3つの凹部14の軸方向の幅がいずれも8.5mmであるものを用意した。
前記樹脂コア3の3つの凹部14に、それぞれ前記内側ゴム層4を嵌め合わせるとともに、前記内側ゴム層4の外周に、それぞれ前記外側ゴム層5を被覆して紙送りローラ1を構成した。
【0053】
前記紙送りローラ1の、外側ゴム層5によって構成される外周面6の外径は24.6mm、軸方向の全長は28.5mm、凹溝7の個数は2つ、凹溝7の軸方向の幅は1.5mmであった。
〈実施例3〉
内側ゴム層4としては、実施例1で形成したのと同じ円筒体を長さ6mmにカットしたものを用意した。また外側ゴム層5としては、実施例1で形成したのと同じ円筒体を、円筒研削盤を用いて外径がφ24になるまで研磨し、さらに長さ6mmにカットしたものを用意した。
【0054】
樹脂コア3としては、コア本体9の外径、および各フランジ10、11の外径と厚みが実施例1と同じ、中フランジ11の個数が3つ、凹部14の個数が4つ、各フランジ10、11間の軸方向の間隔、すなわち4つの凹部14の軸方向の幅がいずれも6mmであるものを用意した。
前記樹脂コア3の4つの凹部14に、それぞれ前記内側ゴム層4を嵌め合わせるとともに、前記内側ゴム層4の外周に、それぞれ前記外側ゴム層5を被覆して紙送りローラ1を構成した。
【0055】
前記紙送りローラ1の、外側ゴム層5によって構成される外周面6の外径は24.6mm、軸方向の全長は28.5mm、凹溝7の個数は3つ、凹溝7の軸方向の幅は1.5mmであった。
〈比較例1〉
内側ゴム層4としては、実施例1で形成したのと同じ円筒体を長さ28.5mmにカットしたものを用意した。また外側ゴム層5としては、実施例1で形成したのと同じ円筒体を、円筒研削盤を用いて外径がφ24になるまで研磨し、さらに長さ28.5mmにカットしたものを用意した。
【0056】
樹脂コア3としては、コア本体9の外径、および外フランジ10の外径と厚みが実施例1と同じ、中フランジ11がなし(個数が0)、凹部14の個数が1つ、外フランジ10間の軸方向の間隔、すなわち1つの凹部14の軸方向の幅が28.5mmであるものを用意した。
前記樹脂コア3の1つの凹部14に、前記内側ゴム層4を嵌め合わせるとともに、前記内側ゴム層4の外周に、前記外側ゴム層5を被覆して紙送りローラ1を構成した。
【0057】
前記紙送りローラ1の、外側ゴム層5によって構成される外周面6の外径は24.6mm、軸方向の全長は28.5mm、凹溝7の個数は0であった。
〈摩擦係数試験および通紙状況評価〉
各実施例、比較例の紙送りローラを日本ヒューレットパッカード(株)製のレーザープリンタHP Laser Jet 4350nに組み込んで、紙〔ゼロックス社製のXerox Business4200〕を1万枚通紙した。
【0058】
次いで前記紙送りローラを取り出し、テフロン(登録商標)板の上に載置した幅60mm×長さ120mmの紙〔前記と同じゼロックス社製のXerox Business4200〕の上に300gfの鉛直荷重をかけながら圧接させた状態で、周速度150mm/秒で回転させた際に、前記紙に加わる搬送力Fを、ロードセルを用いて測定して、式(1):
摩擦係数=F/300 (1)
により耐久後の摩擦係数を求めた。
【0059】
また、前記連続通紙時の通紙状況を観察して、途中で紙送りの不良が生じた回数を記録した。
結果を表3に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
表の実施例1〜3、比較例1の結果より、外周面に凹溝を設けることで、紙粉の付着による摩擦係数の低下を生じにくくして、より長期間に亘って良好な紙送りを維持できることが判った。また実施例1〜3を比較した結果より、凹溝の数を増やすほど、前記効果を向上できることが判った。
【符号の説明】
【0062】
1 紙送りローラ
2 シャフト
3 樹脂コア
4 内側ゴム層
5 外側ゴム層
6 外周面
7 凹溝
8 通孔
9 コア本体
10 外フランジ
11 中フランジ
12 外周面
13 外周面
14 凹部
15 通孔
16 外周面
17 通孔
P1 両端部
P2 エッジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙送りローラであって、筒状の内側ゴム層、前記内側ゴム層の外周に被覆されて前記紙送りローラの外周面を構成する筒状の外側ゴム層、および前記内側ゴム層の中心に挿通されたシャフトを備え、前記外周面には、その周方向に沿って、前記外周面より径方向内方に凹入させた環状の凹溝が少なくとも1つ設けられていることを特徴とする紙送りローラ。
【請求項2】
前記シャフトが挿通される筒状の樹脂コアをも備えるとともに、前記樹脂コアの外周面には、その周方向に沿って、前記外周面より径方向内方に凹入させた環状の凹部が少なくとも2つ、軸方向に互いに離間させて設けられており、それぞれの凹部に別個に前記内側ゴム層が嵌め合わされ、かつ各々の内側ゴム層の外周にそれぞれ別個に前記外側ゴム層が被覆されて、前記軸方向に隣り合う内側ゴム層間、および外側ゴム層間に前記溝が設けられている請求項1に記載の紙送りローラ。
【請求項3】
前記内側ゴム層はブチルゴム、外側ゴム層はエチレンプロピレンゴムからなる請求項1または2に記載の紙送りローラ。
【請求項4】
前記外側ゴム層は、内側ゴム層の外周に直接に被覆され、前記両ゴム層間の摩擦によって内側ゴム層と一体化されている請求項1ないし3のいずれか1項に記載の紙送りローラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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