説明

紡糸ノズル配列

本発明の課題は、前記欠点なしに生産性の増大、ひいては改善を可能にしかつノズルの領域においてできるだけ均一な温度を示す紡糸ノズル配列を提供することである。前記課題は、側壁(12,12′)と、カバープレート(14,14′)と、エンドプレートと、紡糸ノズル(10)の側壁(12)に対して平行に配置された複数の開口又はノズル(2)が設けられたベースプレート(1)と、ガラス溶融物(17)のためのフィードライン(13)とによって形成された溶融チャンバ(11)を有するガラス繊維の製造のための紡糸ノズル配列において、ベースプレート(1)の上側に、カバープレート(14,14′)と結合された付加的な剛性化エレメント(4)が設けられていることを特徴とする、ガラス繊維の製造のための紡糸ノズル配列によって達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ガラス繊維、特にガラス繊維強化プラスチックにおいて使用するためのガラス繊維の製造において、ガラスのための原料は炉で溶融させられ、形成されたガラス溶融物は様々な紡糸箇所へ供給され、これらの紡糸箇所において、ガラスの塊はガラス繊維ノズル、いわゆるブシュを通じて排出される。ノズルから排出されたガラス糸は、引き出され、例えば空冷又は水の吹付けによって冷却され、1つ以上の繊維束を形成するようにまとめて束ねられる。繊維束には必要であれば処理が施され、次いでボビンに巻き取られるか又は切断装置へ供給される。この材料はさらなる処理のために、例えばガラス繊維強化熱プラスチックの製造において使用される。
【0002】
欧州特許出願公開第229648号明細書には、ガラス繊維の紡糸のための典型的な紡糸ノズルが示されている。紡糸ノズルは、ベースプレートにおいて複数列の先端部を有しており、これらの先端部は、ノズルのエンドプレートからエンドプレートまで直線に沿って配置されている。それぞれのエンドプレートには2つの別個の電源が設けられている。電源を介して電流が紡糸ノズルに通電され、この紡糸ノズルはガラス溶融物の加熱を行うように設計されている。この幾何学的配列は、ガラス溶融物の加熱の均一性に関して従来技術に対する利点を提供するように設計されているが、このようなブシュの実地での使用は、温度分布のばらつきを生じ、その結果、ガラス繊維直径の不均一性を生じる。
【0003】
JP1333011号には、ガラス繊維紡糸ノズルの製造方法が記載されている。この方法では、紡糸ノズルのための先端部は、予備的に製造された円錐形の先端エレメントによって紡糸ノズルに取り付けられており、この先端エレメントは、プラチナワッシャを用いて、紡糸ノズルに形成されたボア内にろう接されている。この場合、先端部はそれぞれ2つの列に組み合わされており、これらの列は、紡糸ノズルのベースプレートを流れる加熱電流の方向に対して横方向に延びている。しかしながら、使用中に多くの問題が生じる。
【0004】
紡糸箇所における紡糸出力は、特に、紡糸ノズルにおけるノズル先端部(以下略して先端部という)の合計数又は単位面積当たりの数によって決定される。しかしながら、紡糸ノズル配列における先端部の数は制限されている。これは、1つには単位面積当たりの開口の数が制限されることによる。より多数の開口又はノズルを得るために、理論的には紡糸ノズル配列を無限に拡大することができるが、特に長さに対して幅が著しく拡大された時には、すでに多くの一般的に知られた問題が生ずる。最も頻度の高い問題は、紡糸ノズル配列の寿命が短くなることである。ノズル又は開口が設けられたベースプレートは通常、平面図で見て矩形であり、4つの側縁は、矩形ボディの対向した側壁と端壁とに直接に溶接されている。ベースプレートの幅が増大すると、ベースプレートは、中央で支持されない、側部と端部とにおいて支持された梁として作用する。重い溶融した材料と長期間接触することによって次第にベースプレートに影響する大きな曲げ応力は、時間依存塑性変形又は時間依存クリープの結果としてのたるみにつながる。このたるみは、不均一な熱分布につながるので、ベースプレートに沿った様々な直径の繊維の同時製造にとって不都合である。したがって、クリープの発生を制限しかつこれにより寿命を延長させるために、表面積の縮小が必要であるが、これは、出力の望ましくない低下につながる。
【0005】
これらの問題は、独国特許第19638056号明細書、欧州特許第1399393号明細書、及び欧州特許第1193225号明細書に言及されており、これらの明細書においては、ベースプレートの剛性を高めるために、ベースプレートに、紡糸ノズル配列の内部の剛性化エレメントとして金属板が溶接されている。米国特許第594813号明細書においては、その代わりに、ベースプレートにおけるビードによってもこの効果を得ることができることが示されている。
【0006】
しかしながら、これらの方法は全て完全に満足できるものではない。なぜならば、この形式では、一方では所望の有利な効果が制限され、これに対して他方ではベースプレートの表面積の一部がもはや開口又はノズルの形成のために利用できず、これは、ひいては出力の低下を生ずる。これは、さらなる拡大によって相殺することができるが、たるみの問題はこれによってさらに強まるため、強化手段が必要となり、これは結果的に、拡大に関連した生産性の拡大を結局は魅力のないものにしてしまう。
【0007】
別の問題は、紡糸ノズル配列への液状ガラス溶融物の流入の結果、流体力学上の圧力が生じ、これは、紡糸ノズル配列の他の側、例えば、側壁、エンドプレート、そして結局はベースプレートの拡大の際に益々大きな表面積を有するカバープレートにも作用する。ガラス繊維製造プラント内に組み込まれたこれらは外側から支持されるが、それでも応力は紡糸ノズル配列に生ぜしめられ、これは寿命をさらに短縮させる。
【0008】
本発明の課題は、前記欠点を有さずに生産性の増大、ひいては改善を可能にしかつノズルの領域においてできるだけ均一な温度分布を示すような紡糸ノズル配列を提供することである。
【0009】
前記課題は、ガラス繊維の製造のための紡糸ノズル配列(10)であって、側壁(12,12′)と、カバープレート(14,14′)と、エンドプレートと、紡糸ノズル(10)の側壁(12)に対して平行に配置された複数の開口又はノズル(2)が設けられたベースプレート(1)と、ガラス溶融物(17)のためのフィードライン(13)とによって形成された溶融チャンバ(11)を有する形式のものにおいて、ベースプレート(1)の上側に、カバープレート(14,14′)と結合された付加的な剛性化(剛性向上)エレメント(4)が設けられていることを特徴とする、ガラス繊維の製造のための紡糸ノズル配列によって達成される。
【0010】
本発明の核心は、流体力学上の圧力を利用しかつ生じた力をカバープレートと向き合って配置されたベースプレートへ逸らせ、これによって、再びベースプレートにおいてたるみを減じ、これにより紡糸ノズル配列の寿命を延長させることである。
【0011】
発明の1つの実施の形態では、剛性化エレメントはロッド状の構成である。
【0012】
これらの剛性化エレメントは、紡糸ノズル配列の構成に応じて、ベースプレートに対して直角に又は傾斜して配置することができる。
【0013】
有利には、剛性化エレメントは、1mm〜3mmの厚さを有する。
【0014】
力をカバープレート及び/又はベースプレートへさらによく分配させるために、剛性化エレメントは強化エレメントによって取り付けられている。強化エレメントは、例えば有利には剛性化エレメントの厚さの1.5〜10倍の厚さを有する強化ディスク、すなわち剛性化エレメントとしてのロッドの場合、対応する直径のディスクであることができる。開口又はノズル(2)は有利には、主要な列において、2つ以上、好適には3〜5つの列に組み合わされている。
【0015】
電力接続部(6)は有利には、またしばしば慣用的であるように、エンドプレート(5)及び(5′)を介して接続されている。
【0016】
剛性化エレメント(4)は、I字形、V字形、U字形、T字形又は二重T字形の輪郭と与えられた適切な寸法とを有する異形材、金属プレート、又は金属プレート部分として構成することもでき、必要であれば、前述のように、特に独国特許第19638056号明細書に記載のものと同じ形式で、ガラス溶融物の通過のための開口を有しており、これによって、一方では、流入を妨害せず、同時にガラス流を監視するために働くこともできる。剛性化エレメントに設けられたボアは、好適には5〜15mmの直径を有する。
【0017】
本発明はさらに、ガラス繊維の製造のための本発明による紡糸ノズル配列の使用、及び本発明による紡糸ノズル配列を有する、ガラス繊維の製造のための装置に関する。
【0018】
本発明はさらに、ガラス繊維の製造のための方法であって、ガラスの原料を溶融し、形成されたガラス溶融物を紡糸ノズル配列へ供給し、この紡糸ノズル配列においてガラス質量を開口を通じて排出し、ノズルから排出されたガラス糸を引き出し、冷却し、1つ以上の繊維束を形成するようにまとめて束ねる方法において、本発明による紡糸ノズル配列を使用することを特徴とする方法に関する。
【0019】
紡糸ノズル配列の先端部の主要な列はここでは紡糸ノズル配列の側壁に対して概して平行に配置されている。
【0020】
剛性化エレメントは好適には紡糸ノズル配列の他の構成部分と同じ材料、通常は10〜35質量%のロジウム成分又はイリジウム成分を有するプラチナ−イリジウム合金又はプラチナ−ロジウム合金、又はプラチナ、ロジウム、又はイリジウム自体から製造されており、これらの金属は特に有利には、酸化物拡散強化された、微粒子安定化された材料として使用される。
【0021】
金属プレート又は異形材、特にV字形異形材が使用される場合、これらは、できるだけ、エンドプレートにも結合される(例えば溶接される)。剛性化エレメントの設置は、ベースプレートに迅速かつより均一な温度分布を生ぜしめ、これにより、均一な糸の引き出しが可能になる。改善された温度分布の結果、繊維直径の標準偏差は20%改善する。ベースプレートの剛性化はさらに、ベースプレートの長期安定性の改善をもたらし、これにより、紡糸ノズル配列の寿命が著しく延長される。
【0022】
本発明による装置の別の好適な態様において、ベースプレートの下方において、先端部の主要な列の間に、例えば冷却管又は冷却フィンのような特別な冷却エレメントが取り付けられており、これらの冷却エレメントは、必要な場合には、熱交換を高めるために冷却エレメントの上側及び/又は下側に付加的な冷却フィンを有する。
【0023】
ノズルプレートの先端部は、製造方法に応じて円筒形又は円錐形であり、特に、1〜2.5mmのボア直径を有する。先端部主要列内の先端部の間の最小距離は、特に2.5mm以上、好適には2.5mm〜6mmである。
【0024】
電力接続部の厚さは、好適には2.5〜7mmであり、幅に応じて選択される。
【0025】
ガラス繊維の引出し速度はしばしば約600〜3000m/min、好適には600〜1500m/minである。
【0026】
剛性化エレメントは好適には、0.5〜3mm、特に0.5〜1.6mmの厚さを有する。
【0027】
電力接続部の接触面は概して20〜100mmの幅を有しており、これらの接触面の間には概して15〜30mmの間隙が存在する。本発明による紡糸ノズルは、特に8〜30μm、好適には9〜24μmの直径を有するガラス繊維の製造のために使用される。
【0028】
発明の別の好適な実施の形態は従属請求項から得られる。
【0029】
本発明は図面を参照して例示的な形式で以下により詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】剛性化エレメントを備えた、本発明による紡糸ノズル配列の内部を示す断面図である。
【図2】剛性化エレメントとしてのビードを有する公知の紡糸ノズル配列を示す断面図である。表面積損失がこの場合明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維の製造のための紡糸ノズル配列(10)であって、側壁(12,12′)と、カバープレート(14,14′)と、エンドプレートと、紡糸ノズル(10)の側壁(12)に対して平行に配置された複数の開口又はノズル(2)が設けられたベースプレート(1)と、ガラス溶融物(17)のためのフィードライン(13)とによって形成された溶融チャンバ(11)を有する形式のものにおいて、ベースプレート(1)の上側に、カバープレート(14,14′)と結合された付加的な剛性化エレメント(4)が設けられていることを特徴とする、ガラス繊維の製造のための紡糸ノズル配列。
【請求項2】
剛性化エレメントがロッド状の構成である、請求項1記載の紡糸ノズル配列(10)。
【請求項3】
剛性化エレメントがベースプレートに対して直角に又は傾斜して取り付けられている、請求項1又は2記載の紡糸ノズル配列(10)。
【請求項4】
剛性化エレメントが1mm〜3mmの厚さを有する、請求項1から3までの1つ以上に記載の紡糸ノズル配列(10)。
【請求項5】
剛性化エレメントが強化エレメントによってカバープレート、ベースプレート、又はカバープレートとベースプレートとの両方に取り付けられている、請求項1から4までの1つ以上に記載の紡糸ノズル配列。
【請求項6】
開口又はノズル(2)が、主要な列において互いに近くに、2つ以上、好適には3〜5つの列に組み合わされている、請求項1から5までの1つ以上に記載の紡糸ノズル配列(10)。
【請求項7】
電力接続部(6)がエンドプレート(5)及び(5′)を介して接続されている、請求項1から5までの1つ以上に記載の紡糸ノズル配列(10)。
【請求項8】
剛性化エレメント(4)が、必要な場合にはガラス溶融物(17)の通過のための開口を有する、I字形、V字形、U字形、T字形、又は二重T字形の異形材として構成されている、請求項1又は3から7の1つ以上に記載の紡糸ノズル配列(10)。
【請求項9】
ガラス繊維の製造のための、請求項1から8までの1つ以上に記載の紡糸ノズル配列の使用。
【請求項10】
請求項1から8までの1つ以上に記載の紡糸ノズル配列を有する、ガラス繊維の製造のための装置。
【請求項11】
ガラス繊維の製造のための方法であって、ガラスの原料を溶融させ、形成されたガラス溶融物を紡糸ノズル配列へ供給し、該紡糸ノズル配列においてガラスの塊を開口を通じて排出させ、ノズルから排出されたガラス糸を引き出し、冷却し、1つ以上の繊維束を形成するようにまとめて束ねる方法において、請求項1から8までの1つ以上に記載の紡糸ノズル配列を使用することを特徴とする、ガラス繊維の製造のための方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−509345(P2013−509345A)
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535677(P2012−535677)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際出願番号】PCT/EP2010/006599
【国際公開番号】WO2011/050965
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(501399500)ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト (139)
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Rodenbacher Chaussee 4,D−63457 Hanau,Germany
【Fターム(参考)】