説明

紫外線抑制高圧蒸気放電灯

【目的】 無機系紫外線吸収剤を均一に分散させたエマルジョン塗料によってテフロン樹脂の下地皮膜を形成することにより、現行の塗装工程を増やすことなく、膜強度、密着性、透明性、紫外線吸収性に優れた飛散防止膜付きの紫外線抑制高圧蒸気放電灯を提供する。
【構成】 外管表面に下地皮膜を形成し、この下地皮膜上にテフロン皮膜を形成してなる飛散防止皮膜付きの紫外線抑制高圧蒸気放電灯である。下地皮膜は、親油性表面処理を施した酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム等の無機系紫外線吸収剤の超微粒子とエマルジョン樹脂とを混合してなる塗料によって形成されている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、テフロン皮膜により破損時のガラスの飛散を防止した高圧蒸気放電灯に係り、詳しくは紫外線放射を抑制した飛散防止膜付きの高圧蒸気放電灯に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に高圧蒸気放電灯には、破損した際ガラスが飛散するのを防止するため、バルブの外表面にテフロン皮膜が形成されている。このような飛散防止膜付き高圧蒸気放電灯では、通常バルブ表面に下地用塗料によって下地皮膜が形成され、さらにその上にテフロン樹脂粉末が静電塗装されてテフロン皮膜が形成されており、下地皮膜を介すことによってテフロン皮膜とガラスとの密着性が確保されている。ところで、このような高圧蒸気放電灯にあっては、その紫外線照射量を抑制する方法として、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム等の無機系紫外線吸収剤をテフロン樹脂中に混和する方法と、下地皮膜を形成する塗料中に混和する方法とが考えられる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前記紫外線吸収剤をテフロン樹脂中に混和する方法は、両者が粉末であり、しかも粒径差、比重差が大きいため均一に混合することが極めて困難であり、十分な紫外線吸収性能を有する皮膜を得ることができないといった問題がある。また、下地皮膜を形成するための塗料としては一般にテフロン系エマルジョン塗料が用いられるため、これに紫外線吸収剤を混和することは容易であるものの、前記無機系紫外線吸収剤はその粒子表面が親水性であることからエマルジョン塗料への分散性が悪く、該吸収剤を塗料に均一に分散させることは極めて困難である。したがって、吸収剤が均一に分散しないことから、下地皮膜を形成する塗料中に吸収剤を混和することによって得られる下地皮膜には、その強度、ガラスおよびテフロン樹脂との密着性、透明性に難がある。
【0004】さらに、従来技術により飛散防止皮膜付き高圧蒸気放電灯を作製しようとした場合、高圧蒸気放電灯の外管に紫外線吸収膜を形成し、さらに下地皮膜を形成し、その後テフロン樹脂を塗装しなければならず、通常の製造法より1工程増えてしまうといった不満がある。
【0005】本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、無機系紫外線吸収剤を均一に分散させたエマルジョン塗料によってテフロン樹脂の下地皮膜を形成することにより、現行の塗装工程を増やすことなく、膜強度、密着性、透明性、紫外線吸収性に優れた飛散防止膜付きの紫外線抑制高圧蒸気放電灯を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の紫外線抑制高圧蒸気放電灯では、下地皮膜を、親油性表面処理を施した酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム等の無機系紫外線吸収剤の超微粒子とエマルジョン樹脂とを混合してなる塗料によって形成したことを前記課題の解決手段とした。
【0007】以下、本発明の紫外線抑制高圧蒸気放電灯を詳しく説明する。本発明の紫外線抑制高圧蒸気放電灯では、無機系紫外線吸収剤を均一に分散させたエマルジョン塗料によってテフロン皮膜の下層となる下地皮膜を形成する。無機系紫外線吸収剤を均一分散させたエマルジョン塗料としては、粒径0.1μm以下の酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム等の無機系紫外線吸収剤超微粒子に親油性表面処理を施したものと、エマルジョンとをサンドグラインダー等の分散機によって攪拌したものが用いられる。
【0008】ここで、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム等の無機系紫外線吸収剤超微粒子を親油性表面処理する方法としては、高級脂肪酸を界面活性剤として用い、これによって前記超微粒子表面を改質する方法が好適に採用される。すなわち、他の一般的な界面活性剤を用いた場合には、該界面活性剤と超微粒子との親和性が弱いことから界面活性剤の表面吸着が十分なされず、よって処理後の超微粒子とエマルジョンとが十分に混合しないからである。
【0009】前記超微粒子を高級脂肪酸により処理する方法としては、酸化亜鉛微粒子を水に懸濁させて水懸濁液を得、この水懸濁液にオレイン酸、リノール酸等の高級脂肪酸の塩基性塩を加えるといった方法が採用される。このように水懸濁液に高級脂肪酸塩基性塩を加えると、微粒子表面にオレイン酸イオンやリノール酸イオンなどの2分子吸着が起こる。そして、この溶液に酸性溶液を加えてそのpHを7未満に調整し、さらにこの溶液をろ過して得られたケーキを100〜120℃で焼成する。すると、pHを7未満に調整したことによって超微粒子に2分子吸着したうちの第2層目(最外層)が遊離し、さらにろ過、洗浄がなされることによって高級脂肪酸イオンを1層吸着した超微粒子が分離される。そして、この分離された超微粒子からなるケーキを焼成することにより、オレイン酸イオンやリノール酸イオンを単分子吸着した、すなわち親油性処理されてなる超微粒子が得られるのである。
【0010】そして、このようにして得られた親油性超微粒子とエマルジョン樹脂とを混合することにより、下地皮膜用の塗料が得られるのである。なお、エマルジョン樹脂としては、テフロン系エマルジョン樹脂に限定されることなく、例えばアクリルエマルジョン樹脂、ウレタンエマルジョン樹脂など従来公知のものが使用可能である。
【0011】このようにして得られたエマルジョン塗料は、エマルジョン塗料の性状を損なうことなく、紫外線吸収剤超微粒子を均一に分散させたものとなり、その結果、これを用いて下地皮膜を形成し、さらにその上にテフロン樹脂粉末を静電塗装してテフロン皮膜を形成することにより、該下地皮膜は、膜強度、ガラスおよびテフロン皮膜との密着性、透明性、紫外線吸収性の全てに満足できる皮膜となる。また、この塗料を用いて本発明の紫外線抑制蒸気放電灯を製造するには、まず該下地塗料を高圧蒸気放電灯の外管表面にスプレー、ディップ、流し塗り等により塗布して乾燥し、下地皮膜を形成する。次に、テフロン樹脂粉末を静電塗装し、樹脂の溶融する温度で焼き付けてテフロン皮膜を形成する。
【0012】このようにして得られた紫外線抑制高圧蒸気放電灯にあっては、下地皮膜が、膜強度、ガラスおよびテフロン皮膜との密着性、透明性、紫外線吸収性の全てを満足することから特に飛散防止性、紫外線吸収性に優れたものとなり、しかも従来と同じ工程によって製造されることから製造コストの増加も回避することができる。
【0013】
【作用】本発明の紫外線抑制高圧蒸気放電灯によれば、親油性表面処理を施し、これによってエマルジョン樹脂への分散性を改善した無機系紫外線吸収剤の超微粒子と、エマルジョン樹脂とを混合してなる塗料によって下地皮膜を形成したことにより、下地皮膜が、膜強度、ガラスおよびテフロン皮膜との密着性、透明性、紫外線吸収性に優れたものとなる。
【0014】
【実施例】
(実施例1)以下、本発明を実施例により具体的に説明する。粒径0.1μm以下の酸化亜鉛超微粒子(住友セメント株式会社製;ZnO−100)を100重量部、オレイン酸ナトリウムを7.5重量部、水を800重量部用意してこれらを混合し、さらに得られた混合物を80℃に加熱して酸化亜鉛微粒子表面へのオレイン酸イオンの吸着反応を3時間行なった。
【0015】次に、反応後の混合液に1N−H2SO4水溶液を18重量部加え、溶液のpHを7未満となるように調整した。次いで、調整後の溶液を冷却し、さらにこの溶液をろ過してケーキを得るとともに該ケーキを洗浄して余剰のオレイン酸イオンやSO42-を取り除いた。次いで、洗浄後のケーキを120℃で一昼夜乾燥し、さらに乾燥後の固形分をボールミル等により微粒子状に粉砕して表面に親油性処理が施された酸化亜鉛微粒子を得た。
【0016】その後、このようにして得られた親油性酸化亜鉛を100重量部、テフロン系エマルジョン樹脂(商品名;テフロン458−500[デュポン社製])を250重量部、水を750重量部混合し、この混合物をサンドグラインダーにかけて1時間分散を行ない、紫外線吸収下地塗料を得た。
【0017】このようにして得られた塗料を、250Wメタルハライドランプ(東芝ライテック株式会社製)の外管に流し塗りによって塗布し、150℃で乾燥した。次いで、テフロン樹脂粉末を静電塗装により塗布し、さらに400℃で樹脂を溶融して皮膜とし、紫外線抑制高圧蒸気放電灯を得た。このようにして作製された放電灯の紫外線遮蔽率を測定したところ、400nm以下の紫外線を90%以上遮蔽することが確認され、また飛散防止効果については従来のものと全く変わりがなかった。
【0018】(実施例2、3)実施例1で用いた酸化亜鉛超微粒子に代えて、粒径0.1μm以下の酸化チタン超微粒子(住友セメント株式会社製;UFP−R100)、酸化セリウム超微粒子(住友セメント株式会社製;UFP−C100)をそれぞれ用い、実施例1に示した操作と同様にしてエマルジョン塗料を作製し、さらにこのエマルジョン塗料を用いて紫外線抑制高圧蒸気放電灯を得た。得られた放電灯の紫外線遮蔽率、飛散防止効果を調べたところ、実施例1と同様の結果が得られた。
【0019】
【発明の効果】以上説明したように本発明の紫外線抑制高圧蒸気放電灯は、親油性表面処理を施し、これによってエマルジョン樹脂への分散性を改善した無機系紫外線吸収剤の超微粒子と、エマルジョン樹脂とを混合してなる塗料によって下地皮膜を形成したものであるから、下地皮膜が、膜強度、ガラスおよびテフロン皮膜との密着性、透明性、紫外線吸収性に優れたものとなり、よって飛散防止性、紫外線吸収性に優れた効果を奏する。また、従来と同じ工程によって製造することができるので、従来のものに比べ製造コストが大幅に増加するのを回避することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 外管表面に下地皮膜を形成し、この下地皮膜上にテフロン皮膜を形成してなる飛散防止皮膜付きの高圧蒸気放電灯であって、前記下地皮膜を、親油性表面処理を施した酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム等の無機系紫外線吸収剤の超微粒子とエマルジョン樹脂とを混合してなる塗料によって形成したことを特徴とする紫外線抑制高圧蒸気放電灯。

【公開番号】特開平5−94805
【公開日】平成5年(1993)4月16日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−195541
【出願日】平成3年(1991)8月5日
【出願人】(000183266)住友セメント株式会社 (1,342)