説明

紫外線酸化処理装置及び水の紫外線酸化処理方法

【課題】紫外線酸化処理装置内での被処理水のショートパスを防止し、極低濃度のTOC濃度の処理水を得ることの可能な紫外線酸化処理装置を提供する。
【解決手段】還流板11は、円環状の還流板本体部12と、この還流板本体部12の外周に配置されたシール部材13とから構成されている。還流板本体部12は、中央は石英保護管6から離間して開口しており、中間部の小径部12Bと両側面部の大径部12Aとにより外周に凹部が形成されている。シール部材13は、ステンレス鋼との摩擦の小さな合成樹脂あるいはエラストマーなどからなり、外径がシリンダ2の内径とほぼ等しいリング状体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中の有機物や難分解性物質を分解するための紫外線酸化処理装置に関し、特に分解処理能力が高く、かつ処理効率の高い紫外線酸化処理装置に関する。また、本発明は、水中の有機物や難分解性物質を分解するための紫外線酸化処理方法に関し、特に分解処理能力が高く、かつ処理効率の高い紫外線酸化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水中の有機物や難分解性物質の分解や殺菌を目的として紫外線が用いられている。特に低圧紫外線放電灯は、主波長である254nmの波長の紫外線と、220nm以下の短波長の紫外線とを同時に放射するため、汎用的に用いられている。この低圧紫外線放電灯を用いた分解反応においては、220nm以下の短波長紫外線は強いエネルギーを有することから、水中の有機物分解に有効である。この短波長紫外線による有機物の分解のメカニズムは、まず、水分子が220nm以下の短波長紫外線のエネルギーで解離することで、ヒドロキシラジカルが生成される(反応式(1))。
【0003】
【化1】

【0004】
ここで生成したヒドロキシラジカルは強力な酸化剤であるため、下記に示すように水中の有機物と連鎖的な酸化反応を経て二酸化炭素、水、反応中間体としての有機酸、及び副生物としての過酸化水素が生成されることが広く知られている(反応式(2))。
【0005】
【化2】

【0006】
さらに、上記反応で副生される過酸化水素が、低圧紫外線放電灯の主波長である254nmの波長の紫外線で分解されると、ヒドロキシラジカルが生成される(反応式(3))。この反応は、AOP(促進酸化プロセス)として広く知られており、反応式(3)で生成されたヒドロキシラジカルは、上記反応式(1)の反応で水分子から生成するヒドロキシラジカルと同様に有機物の酸化分解反応を引き起こす。
【0007】
【化3】

【0008】
このような紫外線酸化による水中の有機物処理を効率的に行うためには、上記反応式(1)〜(3)の反応メカニズムにおいて、
(I)被処理水に波長220nm以下の短波長紫外線を照射する
(II)波長254nmの紫外線も活用できるように反応時間を確保する
という2条件が重要である。
【0009】
しかしながら、この2条件は、実際の装置化にあたっては相反する条件である。すなわち、波長220nm以下の紫外線と波長254nmの紫外線とを同時に、かつ経済的に得ることができるのは、一般的には低圧紫外線放電灯である。この低圧紫外線放電灯は、放射する主波長が254nmであり、同時に254nmの出力の20%程度の出力の波長185nmの紫外線を得ることが可能である。ところが、波長185nmの紫外線は、水による吸収が激しく、不純物をほとんど含まない超純水中であっても10mm以下の光路長でほぼ完全に吸収される。つまり、波長185nmの紫外線が届く範囲は、石英保護管の外表面から10mm以下であり、それより離れた位置を流通する水ではヒドロキシラジカルが生成しない。そこで、紫外線酸化処理装置の流路部分の水の厚みをすべて10mm以下に薄層化することが考えられるが、そうすると装置の内容量が小さくなり、照射装置内での滞留時間(反応時間)を極短時間しか確保できなくなる。
【0010】
このため、この相反する条件をできるだけ両立するように外筒体(シリンダ)内に還流板を設けた紫外線酸化処理装置が実用上は用いられている。このような還流板を設けた紫外線酸化処理装置の一例を図12及び図13に示す。紫外線酸化処理装置1は、給水部たる処理水流入口3を一側に、排水部たる処理水流出口4を他側にそれぞれ有する円筒状のステンレス鋼製シリンダ2と、石英保護管6内に収納することで液密状態に隔離した低圧紫外線放電灯5とからなる基本構造を有する。そして、このシリンダ2内に、一対のロッド7に所定の間隔で固定された複数枚の環状の還流板8a〜8eが配置されている。なお、9a,9bは図示しないOリングにより液密状態に固定されたエンドプレートである。
【0011】
上述したような装置において、被処理水Wが処理水流入口3から導入されると、低圧紫外線放電灯5から紫外線が照射され、処理水流出口4に向かって流れる。このとき、途中に還流板8a〜8eが配置されているので、被処理水Wが処理水流入口3と処理水流出口4間をショートパスするのを防止して、低圧紫外線放電灯5の近傍を流れつつ、滞留時間を確保することが可能となっている。なお、紫外線酸化による水中の有機物除去処理においては、前述したとおり反応中間体としての有機酸と二酸化炭素とが生成するため、これらの除去を目的として後段にイオン交換処理装置を配置するのが普通である。
【0012】
しかしながら、この紫外線酸化処理装置1では、円筒状のステンレス鋼製シリンダ2内に、一対のロッド7に固定された複数枚の環状の還流板8a〜8eを挿入することになるため、これらの還流板8a〜8eもまた、超純水処理装置等に適用するには、耐溶出性、耐紫外線性の観点からステンレス鋼等の金属製とすることが避けられない。このため、還流板8a〜8eの外縁とシリンダ2の内面との隙間(クリアランス)をぎりぎりに設定すると、ステンレス同士が接触してしまう。ステンレス同士は摩擦力が大きく、還流板8a〜8eをシリンダ2内に収めることができなくなってしまうため、還流板8a〜8eの外縁とシリンダ2の内面との間には、ある程度のクリアランスを確保せざるを得ない。
【0013】
そして、このような従来型の還流板を用いた紫外線酸化処理装置1では、処理水流量が多く高流速の場合には、シリンダ2内部の還流板8a〜8eで比較的大きな圧力損失が発生するため、被処理水Wの大部分は、前述した還流板8a〜8eとシリンダ2の間のクリアランス部分よりも間隙の大きい石英保護管6と還流板8a〜8eとの間の流路を多く通過することになり、問題が顕在化しない。しかしながら、非常にTOC濃度の低い処理水を得るときには、処理水流量を少なくして流速を低くするため、還流板8a〜8eで発生する圧力損失も小さくなる。このため、シリンダ2内を通過する被処理水Wは、還流板8a〜8e及びシリンダ2の間のクリアランスの面積と、還流板8a〜8e及び石英保護管6の間の流路面積との面積比に近似するように分流し、高流速で処理する場合に比べてショートパス分の割合が増加する。この還流板8a〜8eとシリンダ2の内面との間のクリアランスの箇所は、低圧紫外線放電灯5から最も離れているため、そこを通過する被処理水Wは、波長が短く最も酸化能力が高い185nmの紫外線の照射をほとんど受けることができない。このため還流板8a〜8eとシリンダ2の内面との間のクリアランス部分をショートパスする被処理水Wは、十分な紫外線酸化を受けることができず、TOC成分が除去されずに残留し、処理水全体のTOC濃度を十分に低下させることができないという問題点があった。
【0014】
特に、近年、超純水処理装置に要求される処理水(超純水)のTOC濃度1μg/L未満を達成するためには、このショートパスの問題は重大である。
【0015】
このような問題点を解決することを目的として、種々の紫外線酸化処理装置が提案されている。例えば、特許文献1には、波長240nm以下の紫外線の出力の維持率を高めることを目的とする、合成石英ガラス製の発光管を有する放電灯を用いた紫外線酸化処理装置が開示されている。また、特許文献2には、被処理水を滞留させることを目的とする、シリンダの内面に堰板を固着した紫外線酸化処理装置が開示されている。特許文献3には、被処理水に旋回流を与えることを目的とする、シリンダの内面に攪拌板を固着した紫外線酸化処理装置が開示されている。さらに、特許文献4には、四角形断面で内部に多数の紫外線ランプを設け、被処理水が紫外線ランプに対して直角方向に流れるように混合板を設置した紫外線酸化処理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2003−144912号公報
【特許文献2】特開平10−43753号公報
【特許文献3】特開2003−24934号公報
【特許文献4】特許第2696636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、特許文献1に記載された紫外線酸化処理装置は、紫外線の出力の維持率を高めることはできるものの、被処理水Wの還流板8a〜8eとシリンダ2の内面との間のクリアランスにおけるショートパスを防止することができない、という問題点がある。
【0018】
また、特許文献2及び3に記載された紫外線酸化処理装置は、還流板をシリンダ本体内に溶接等で直接固定するものであり、装置、特にシリンダの製造が煩雑で高価になる、石英保護管が破損した場合にシリンダ内の破片除去が困難になる、という問題点がある。
【0019】
さらに、特許文献4に記載された紫外線酸化処理装置は、反応容器が角形であり、水処理装置で必要とされる耐圧性能に劣るものである。そこで、容器の肉厚を厚くすることが考えられるが、シリンダ(円筒)形状と同等の耐圧性を確保するためには、容器の肉厚が厚くなり、装置重量が増えるだけでなく、高価で取り扱いが難しくなる、という問題点がある。また、円筒形状では、被処理水が紫外線ランプに対して直角にかつ均一に流れるように混合板を設置すること自体が困難である。
【0020】
このように従来は、簡便かつ実用的な構造で、TOC濃度1μg/L未満の超純水を確実に得ることのできる紫外線酸化処理装置はなかった。
【0021】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、紫外線酸化処理装置内での処理水のショートパスを防止し、極低濃度のTOC濃度の処理水を得ることの可能な紫外線酸化処理装置及び水の紫外線酸化処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するために、第一に本発明は、管状の低圧紫外線放電灯が収容され、前記低圧紫外線放電灯の周囲に一端から他端側に向けて水が流通する外筒体と、前記外筒体内に、前記低圧紫外線放電灯の外周方向に当該低圧紫外線放電灯より離間して設けられてなる複数の還流板とを有する紫外線酸化処理装置において、前記還流板が、前記外筒体の内面との間をシールするシール部を有することを特徴とする紫外線酸化処理装置を提供する(請求項1)。
【0023】
上記発明(請求項1)によれば、還流板と外筒体の内面との間をシールするシール部を有することで、還流板と外筒体との間のクリアランスが実質的になくなるため、外筒体の一端(給水部)から被処理水を供給し、他端(排水部)から排出する過程において、クリアランス部分を通ることで十分な紫外線照射を受けることなく被処理水が流出してしまう「漏洩流」を防止することができ、有機物濃度が極低濃度の超純水を得ることができる。また、この結果、被処理水が低圧紫外線放電灯の照射を十分に受けることになるため、難分解性物質の分解・除去においても高い効果が得られる。
【0024】
上記発明(請求項1)においては、前記シール部が、前記低圧紫外線放電灯からの紫外線の照射を直接受けない構造であるのが好ましい(請求項2)。
【0025】
上記発明(請求項2)によれば、シール部を合成樹脂、エラストマー等で構成したとしても、低圧紫外線放電灯からの紫外線照射による劣化を防止することができる。
【0026】
特に、前記還流板が、円環状であり、前記還流板が、円環状の還流板本体部と当該還流板本体部の外周に配置されたシール部とからなるのが好ましい(請求項3,4)。
【0027】
上記発明(請求項3,4)によれば、シール部が円環状の還流板本体部の外周に配置されているので、還流板と外筒体との間のクリアランスをシール部が閉鎖するとともに、このシール部が低圧紫外線放電灯からの紫外線照射による劣化を防止することができる。
【0028】
さらに、上記発明(請求項1〜4)においては、前記シール部が、前記低圧紫外線放電灯から照射された紫外線に対して耐性を有する材料からなるのが好ましい(請求項5)。これにより、低圧紫外線放電灯からの紫外線照射等によるシール部の劣化を完全に防止することができる。
【0029】
そして、第二に本発明は、上記発明(請求項1〜5)に係る紫外線酸化処理装置を用いて水の紫外線酸化処理を行うことを特徴とする水の紫外線酸化処理方法を提供する(請求項6)。
【0030】
上記発明(請求項6)によれば、還流板と外筒体の内面との間をシールするシール部を有することで、還流板と外筒体との間のクリアランスが実質的になくなるため、外筒体の一端(給水部)から被処理水を供給し他端(排水部)から排出する過程において、被処理水がクリアランス部分を通ることで十分な紫外線照射を受けることなく流出してしまう「漏洩流」を防止することができ、有機物濃度が極低濃度の超純水を得ることができる。また、この結果、被処理水が低圧紫外線放電灯からの紫外線照射を十分に受けることになるので、難分解性物質の分解・除去においても高い効果が得られる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、紫外線酸化処理装置の還流板に、シリンダ内面との間のクリアランス部分をなくすための充填物としてのシール部が設けられていることにより、被処理水がこのクリアランス部分を通過することで十分な紫外線照射を受けることなく紫外線酸化処理装置から流出してしまう「漏洩流」を防止することができるため、有機物濃度が極低濃度の超純水を得ることができる。また、難分解性物質の分解・除去においても高い効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る紫外線酸化処理装置の還流板を示す平面図である。
【図2】前記第一の実施形態に係る紫外線酸化処理装置の還流板を示す側面図である。
【図3】前記第一の実施形態に係る紫外線酸化処理装置を示す拡大断面図である。
【図4】本発明の第二の実施形態に係る紫外線酸化処理装置の還流板を示す平面図である。
【図5】前記第二の実施形態に係る紫外線酸化処理装置の還流板を示す側面図である。
【図6】前記第二の実施形態に係る紫外線酸化処理装置の還流板を示す縦断面図である。
【図7】前記第二の実施形態に係る紫外線酸化処理装置を示す拡大断面図である。
【図8】本発明の第三の実施形態に係る紫外線酸化処理装置の還流板を示す平面図である。
【図9】前記第三の実施形態に係る紫外線酸化処理装置の還流板を示す断面図である。
【図10】本発明の第四の実施形態に係る紫外線酸化処理装置を示す拡大断面図である。
【図11】試験用の紫外線酸化処理システムを示すフロー図である。
【図12】従来の紫外線酸化処理装置を概略的に示す断面図である。
【図13】従来の紫外線酸化処理装置の還流板を概略的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の紫外線酸化処理装置の第一の実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。
【0034】
本実施形態に係る紫外線酸化処理装置は、還流板以外は、基本的には前述した図12及び図13に示す従来の紫外線酸化処理装置1と同じ構成を有するものであり、同一の構成には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0035】
図1〜3において、還流板11は、円環状の還流板本体部12と、この還流板本体部12の外周に配置されたシール部としてのシール部材13とから構成されている。なお、図1において、14は一対のロッド7が挿入される挿入孔である。
【0036】
ここで、還流板本体部12は、ステンレス鋼製であって、ミシンのボビン又はVベルトのプーリーのような形状をしており、中央には石英保護管6から10mm以下程度、特に3〜10mm程度離間する径の開口部が形成されていて、軸方向では中間部の小径部12Bと両側面部の大径部12Aとにより外周の端部に凹部が形成されている。この還流板本体部12は小径部12Bと大径部12Aとが一体に成形されたものでもよく、またこれらが別々の成形体であってネジ等で一体に組み立てられたものでもよい。
【0037】
このような還流板本体部12の凹部(小径部12Bの外周面)にシール部材13が設けられる。シール部材13は、ステンレス鋼との摩擦の小さい合成樹脂又はエラストマー等からなり、外径がシリンダ2の内径とほぼ等しくリング状体であって、弾性を有するものであるのが好ましい。具体的には、Oリング、バックアップリング等を用いることができる。なお、シール部材13を構成する合成樹脂又はエラストマーとしては、耐水溶出性を備えていれば特に制限はないが、紫外線に対して不活性又は高耐久性を有するのが好ましい。また、表面に金属又はDLC(ダイヤモンドライクカーボン)のような紫外線に対して不活性又は高耐久性の材料による遮光層を備えたものも好適に用いることができる。
【0038】
上述したような還流板11は、挿入孔14,14にロッド7,7を挿入して、複数枚(本実施形態においては5枚)を所定の間隔で当該ロッド7,7に固定される。そして、エンドプレート9a,9b及び石英保護管6が未装着の状態で、シリンダ2内にロッド7ごと還流板11を押し入れて仮固定し、続いてエンドプレート9a,9bを装着することにより、ロッド7と還流板11とを固定し、その後石英保護管6を挿入するという順で紫外線酸化処理装置を組み立てればよい。
【0039】
ここで、シール部材13として、ステンレス鋼との摩擦を十分小さくできる材料が選択されているため、還流板本体部12とシール部材13との間、シール部材13とシリンダ2の内面間とのクリアランスがほとんどなくでも、シリンダ2内にロッド7で結合した複数の還流板11を装填することが可能であり、また必要に応じて取り出すことも可能となっている。
【0040】
前述したような還流板11を有する本実施形態の紫外線酸化処理装置の作用について説明する。図3に示すように、処理水流入口3から導入された被処理水Wは、石英保護管6と還流板11aとの間の流路を通過して、照射スペースSに流入する。この照射スペースSは、2枚の還流板11a,11bにより区画されているため、被処理水Wはここで滞留し、低圧紫外線放電灯5からの紫外線照射による十分な反応時間を確保した後、隣の照射スペースに向かって移動する。このとき、照射スペースSの石英保護管6から10mm以上離間した部分では、波長が短く最も酸化能力が高い波長185nmの紫外線の照射をほとんど受けることができないが、シール部材13の外径と、シリンダ2の内径とがほぼ等しく、還流板11a及び11bの外周縁とシリンダ2の内面とのクリアランス(隙間)が実質的にないため、被処理水Wは還流板11bと石英保護管6との間の流路を通過せざるを得ない。この結果、被処理水Wの全てが波長185nmの紫外線の照射を受けることになり、ヒドロキシラジカルが生成される。これを5枚の還流板により形成された4個の照射スペースSにおいて繰り返すことにより、十分にTOC成分を分解することができる。また、低圧紫外線放電灯からの紫外線照射を十分に受けることになるので、難分解性物質を高水準で分解することができる。
【0041】
次に、本発明の紫外線酸化処理装置の第二の実施形態について図4〜図7に基づいて詳細に説明する。
本実施形態に係る紫外線酸化処理装置1は、還流板の形状が異なる以外、前述した第一の実施形態と同じ構成を有する。還流板21は、円環状の還流板本体部22と、この還流板本体部22の外周に配置されたシール部材13とから構成されている。なお、図4において、23は一対のロッド7の挿入孔である。
【0042】
ここで、還流板本体部22は、軸方向では中間部の小径部22Bと両側面部の大径部22Aとにより外周の端部に凹部24が形成されていて、大径部22Aの外縁部が軸方向に長く形成されている以外は前述した第一の実施形態と同じ構成を有する。
【0043】
前述したような還流板21を有する本実施形態に係る紫外線酸化処理装置の作用について説明する。図7に示すように、処理水流入口から導入された被処理水Wは、石英保護管6と還流板21aとの間の流路を通過して、照射スペースSに流入する。この照射スペースSは、2枚の還流板21a,21bにより区画されているため、被処理水Wはここで滞留し、低圧紫外線放電灯5からの紫外線照射による十分な反応時間を確保した後、隣の照射スペースに向かって移動する。このとき、照射スペースSの石英保護管6から10mm以上離間した部分では、波長が短く最も酸化能力が高い波長185nmの紫外線の照射をほとんど受けることができないが、シール部材13の外径と、シリンダ2の内径とがほぼ等しく、還流板21a及び21bの外周縁とシリンダ2の内面とのクリアランス(隙間)が実質的にないため、被処理水Wは還流板21bと石英保護管6との間の流路を通過せざるを得ない。この結果、被処理水Wの全てが十分な紫外線酸化を受けることになり、ヒドロキシラジカルが発生する。これを5枚の還流板により形成された4個の照射スペースSにおいて繰り返すことにより、十分にTOC成分を分解することができる。また、低圧紫外線放電灯の照射を十分に受けることになるので、難分解性物質を高水準で分解することができる。
【0044】
さらに、本発明の紫外線酸化処理装置の第三の実施形態について、図8及び図9に基づいて詳細に説明する。本実施形態の紫外線酸化処理装置1は還流板の形状が異なる以外、前述した第一の実施形態と同じ構成を有する。
【0045】
同図において、還流板31は、中央には石英保護管6から10mm以下程度、特に3〜10mm程度離間する径の開口部が形成された円板状の還流板本体部32と、この還流板本体部32の外周に固着されたシール部材33とから構成されている。なお、図8において、34は一対のロッド7の挿入孔である。前述したようにシール部材33が紫外線照射による劣化を受けない構成からなるものである場合には、このような構成とすることができる。
【0046】
以上、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明してきたが、シール部材は、リング状のものに限定されるものではなく、例えば、第一の実施形態において図10に示すように合成樹脂又はエラストマーをコイル状に巻いたシール部材13Aとしてもよい。また、紫外線酸化処理装置としては、図12及び図13に示す形態のものに限られず、種々の紫外線酸化処理装置における還流板として適用可能である。
【実施例】
【0047】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は、下記の各実施例に何ら限定されるものではない。
【0048】
〔試験用紫外線酸化処理システムの準備〕
図12に示すような構造を有する紫外線酸化処理装置1を用い、図11に示す純水製造装置を準備した。この純水製造装置は、紫外線(UV)酸化装置41と、イオン交換樹脂カラム42とからなり、紫外線(UV)酸化装置41には、TOCタンク43から薬注ポンプ44によりTOCを添加した超純水を供給して処理を行い、TOC計45により紫外線(UV)酸化装置41の給水のTOC濃度と、イオン交換樹脂カラム42を通過した処理水のTOC濃度とをそれぞれ測定する、というものである。
【0049】
なお、後述する各実施例及び比較例において、共通する装置としては以下のものを使用した。
低圧紫外線放電灯:低圧水銀ランプAZ−26(日本フォトサイエンス社製)
放電灯用安定器:電子安定器FM−10Kd(日本フォトサイエンス社製)
イオン交換樹脂カラム:「KR−UC1」2Lと「KR−UA1」3L(いずれも栗田工業社製)を混床で使用
TOC源:特級2−プロパノール及び特級尿素(いずれも関東化学社製)のそれぞれを超純水で希釈
TOC計:SieversPPT(Sievers社製)
評価試験時の処理水流量:7.5L/分
【0050】
〔実施例1及び比較例1,2〕
シリンダ径50mmφのUV酸化装置41と、図1及び図2に示す還流板11(Aタイプ)とを使用して、TOC源として2−プロパノールを約10μg/Lの濃度で添加して処理を行った。この給水及び処理水のTOC濃度の測定結果を表1に示す。なお、還流板11は、還流板本体部12がステンレス製で、シール部材13がFEP(フッ素系樹脂)製のものを使用した。また、還流板11と石英保護管との間隔は約5mmとした。
【0051】
また、比較のために還流板を使用しなかった場合(比較例1)、及び従来の還流板11(シール部材13を有しないもの)を使用した場合(比較例2)についても同様に処理を行い、給水及び処理水のTOC濃度を測定した。結果を表1にあわせて示す。
【0052】
〔実施例2及び比較例3,4〕
シリンダ径80mmφのUV酸化装置41と、これに適合した大きさの図1及び図2に示す還流板11(Aタイプ)とを使用した以外は実施例1と同様にしてTOC源として2−プロパノールを約10μg/Lの濃度で添加した給水の処理を行った。この給水及び処理水のTOC濃度の測定結果を表1に示す。
【0053】
また、比較のために還流板を使用しなかった場合(比較例3)、及び従来の還流板11(シール部材13を有しないもの)を使用した場合(比較例4)についても同様に処理を行い、給水及び処理水のTOC濃度を測定した。結果を表1にあわせて示す。
【0054】
〔実施例3〕
シリンダ径80mmφのUV酸化装置41と、これに適合した大きさの図3〜図5に示す還流板21(Bタイプ)とを用いた以外は実施例1と同様にしてTOC源として2−プロパノールを約10μg/Lの濃度で添加した給水の処理を行った。この給水及び処理水のTOC濃度の測定結果を表1に示す。なお、還流板21は、還流板本体部22がステンレス製で、シール部材13がポリエチレン樹脂製成形体の表面にチタン薄膜処理を施したものを使用した。
【0055】
【表1】

【0056】
表1から明らかなとおり、TOC源として2−プロパノールを用いた実施例1〜3及び比較例1〜4において、実施例1〜3は処理水のTOC濃度が0.5μg/L以下であったのに対し、還流板を使用していない比較例1及び3は1.0μg/Lを超えるものであり、従来型の還流板を用いた比較例2及び4は0.5μg/Lを超えるものであった。この結果から、本発明の紫外線酸化処理装置によれば、TOC濃度が極低濃度の処理水を得られることが裏付けられた。
【0057】
〔実施例4及び比較例5,6〕
シリンダ径50mmφのUV酸化装置41と、図1及び図2に示す還流板11(Aタイプ)とを使用し、TOC源として尿素を約5μg/Lの濃度で添加して処理を行った。この給水及び処理水のTOC濃度の測定結果を表2に示す。
【0058】
また、比較のために還流板を使用しなかった場合(比較例5)、及び従来の還流板11(シール部材13を有しないもの)を使用した場合(比較例6)についても同様に処理を行い、給水及び処理水のTOC濃度を測定した。結果を表2にあわせて示す。
【0059】
〔実施例5及び比較例7,8〕
シリンダ径80mmφのUV酸化装置41と、これに適合した大きさの図1及び図2に示す還流板11(Aタイプ)とを使用した以外は実施例4と同様にしてTOC源として尿素を約5μg/Lの濃度で添加した給水の処理を行った。この給水及び処理水のTOC濃度の測定結果を表2に示す。
【0060】
また、比較のために還流板を使用しなかった場合(比較例7)、及び従来の還流板11(シール部材13を有しないもの)を使用した場合(比較例8)についても、同様に処理を行い、給水及び処理水のTOC濃度を測定した。結果を表2にあわせて示す。
【0061】
〔実施例6〕
シリンダ径80mmφのUV酸化装置41と、これに適合した大きさの図3〜図5に示す還流板21(Bタイプ)とを使用した以外は実施例4と同様にしてTOC源として尿素を約5μg/Lの濃度で添加した給水の処理を行った。この給水及び処理水のTOC濃度の測定結果を表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
表2から明らかなとおり、TOC源として尿素を用いた実施例4〜6及び比較例5〜8においては、実施例4〜6は処理水の尿素濃度が3.0μg/L以下と約半分にまで減少したのに対し、還流板を使用していない比較例5及び7は4.0μg/Lを超えるものであり、従来型の還流板を用いた比較例6及び8は3.0μg/Lを超えるものであり、その除去率は非常に低かった。この結果から、本発明の紫外線酸化処理装置によれば、難分解性物質である尿素の分解・除去においても、優れた効果が得られることが裏付けられた。
【符号の説明】
【0064】
1…紫外線酸化処理装置
2…シリンダ(外筒体)
3…処理水流入口(給水部)
4…処理水流出口(排水部)
5…低圧紫外線放電灯
6…石英保護管
11,11a,11b,21,21a,21b,31…還流板
12,22,32…還流板本体部
13,13A,33…シール部材
41…紫外線(UV)酸化装置
W…被処理水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状の低圧紫外線放電灯が収容され、前記低圧紫外線放電灯の周囲に一端から他端側に向けて水が流通する外筒体と、前記外筒体内に、前記低圧紫外線放電灯の外周方向に当該低圧紫外線放電灯より離間して設けられてなる複数の還流板とを有する紫外線酸化処理装置において、
前記還流板が、前記外筒体の内面との間をシールするシール部を有することを特徴とする紫外線酸化処理装置。
【請求項2】
前記シール部が、前記低圧紫外線放電灯からの紫外線の照射を直接受けないことを特徴とする請求項1に記載の紫外線酸化処理装置。
【請求項3】
前記還流板が、円環状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の紫外線酸化処理装置。
【請求項4】
前記還流板が、円環状の還流板本体部と当該還流板本体部の外周に配置されたシール部とからなることを特徴とする請求項3に記載の紫外線酸化処理装置。
【請求項5】
前記シール部が、前記低圧紫外線放電灯から照射された紫外線に対して耐性を有する材料からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の紫外線酸化処理装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の紫外線酸化処理装置を用いて水の紫外線酸化処理を行うことを特徴とする水の紫外線酸化処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−234209(P2010−234209A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83376(P2009−83376)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】