説明

細胞凍結保存方法及び細胞培養方法

【課題】煩雑な細胞培養の手間と時間を削減し、凍結解凍障害を最小限に抑止できるような、細胞の凍結保存方法、および、融解後に、細胞の増殖能をはじめとする諸機能を速やかに回復し、培養状態を復元する方法の提供。
【解決手段】細胞凍結保存液を用いて、細胞を懸濁状態で、細胞培養装置内において凍結する細胞凍結保存方法。また、前記細胞凍結保存方法によって、細胞培養装置内で凍結保存された細胞に温めた培養液を加えることによって、当該細胞を急速に解凍し、細胞機能を維持したまま当該細胞を復元する細胞培養方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞凍結保存方法に関する。
また、本発明は上記細胞凍結保存方法によって凍結保存された細胞を復元する細胞培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞の冷凍保存技術及び凍結保存技術は、無駄な継代の削減、細菌類の汚染の減少、性質の変化の防止等の観点から、繁用されている技術である。
通常、細胞の凍結は、トリプシン等で培養細胞を培養基質から剥離し、種々の凍結保存液で懸濁し、凍結チューブやアンプル内に封入して行われる。近年、温度安定性・制御精度に優れたプログラムフリーザーの利用や、種々の凍結保存液の開発により、凍結細胞の生存率が上昇し、培養細胞の冷凍・凍結融解後における細胞機能も回復率が高まっている。
【0003】
しかし、上記方法では、冷凍凍結細胞を、融解後実際に使用するまでに、培養増殖する時間を要し、更に目的に沿った培養容器に播種し直して培養増殖させる必要がある。
【0004】
そこで、特公平5―77389号公報及び特開2004―254597号においては、足場依存性動物細胞を培養基質上で付着培養した状態で凍結保存、融解再利用する方法が記載されている。
【0005】
上記従来技術のうち、特公平5―77389号公報においては、凍結前の培養されている状態の細胞密度は個々の細胞同士が相互に密着し、細胞間の隙間がほぼなくなる程度(「コンフルエント confluent」)の状態で培養することが記載されている。
しかし、上記方法では、コンフルエントの状態から剥離する細胞が少しでも存在する場合には、細胞の密度が再びコンフルエントの状態に達するまでに長時間を要する点で依然として問題がある。
【0006】
また、特公平5―77389号公報においては、凍結保存の際に10%(v/v)のジメチルスルホキシド(DMSO)を含む培養液を用いて、培地交換後、培養基質ごと徐冷凍結することが記載されている。
しかしながら、凍結保存の際に培養液を用いると、凍結細胞の生存率が低下し、融解後の細胞の増殖に長時間を要する。
【0007】
また、上記方法では、凍結保存液の液量が増加して培養装置内に拡散してしまうため、均一な凍結が困難となる。凍結時に最も重要なことは、冷却が凍結保存液全体に均一に行われることである。しかしながら、上記方法では細胞培養装置内に凍結保存液が拡散してしまうため、均一に凍結することができない。さらに、直径100mmの細胞培養皿を用いる場合のように培養面積が広くなるに従って、その表面を覆うために必要な凍結保存液の量も増加し、培養装置の縁周辺から固化し、中心部での凍結保存液の組成が部分的に変化することにより、凍結細胞の生存率の低下を引き起こす。
【0008】
さらにまた、具体的に以下のような問題がある。
血液脳関門((blood―brain barrier;BBB)は、繊細な神経細胞が生きる、脳という特異な環境における神経細胞の生存と活動のために進化した環境整備機構である。血液から中枢神経系への物質の侵入の遮断(関門)と取り込み(輸送)という二律背反を、その構成単位である脳毛細血管内皮細胞、アストロサイト(星状膠細胞)およびペリサイト(周皮細胞)の3種類の細胞が機能的に一体となって克服した高度機能分化システムということができる。BBBの関門機能は脳毛細血管内皮細胞の細胞間接着構造であるタイトジャンクション(tight junction, 密着結合)に代表される。
登録商標 Transwell(コースター社製)などの立体培養装置内で複数の細胞を同時に培養する細胞系の場合、タイトジャンクション(tight junction 密着結合)が高度に発達した血液脳関門(blood―brain barrier;BBB)モデルは、細胞間相互の接着構造が構築されている。従って、従来技術のように培養基質ごと凍結しても、多くの細胞が培養基質から剥離し死滅してしまう。
【0009】
更にまた、血液脳関門(blood―brain barrier;BBB)モデル等においては、融解後に一部の細胞が生存したとしても、細胞間相互の接着構造が構築された細胞群は増殖率が低い。従って、コンフルエントの状態に達するまでに長時間を要する。
【0010】
更にまた、血液脳関門(blood―brain barrier;BBB)モデル等においては、細胞間に僅かに隙間が存在すれば、細胞機能を速やかに回復し、培養状態を回復することが困難である。そのため、立体培養装置内で凍結することも困難である。
【特許文献1】特公平5―77389号公報
【特許文献2】特開2004―254597
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の第1の目的は、煩雑な細胞培養の手間と時間を削減し、凍結解凍障害を最小限に抑止できるような、細胞の凍結保存方法を提供することである。また、融解後に、細胞の増殖能をはじめとする諸機能を速やかに回復し、培養状態を復元する細胞培養方法を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記第1の目的は、請求項1に記載の、本発明に係る細胞凍結保存方法、すなわち、細胞凍結保存液を用いて、細胞を懸濁状態で、細胞培養装置内において凍結する細胞凍結保存方法によって達成される。なお、懸濁のための細胞凍結保存液の量は50μL〜100μLである。また、凍結に用いる細胞凍結保存液の量は100μL〜300μLである。
【0013】
また、本発明の好ましい実施態様においては、請求項2に記載のように、細胞培養装置内が予め細胞接着因子でコーティングされている。
【0014】
さらに、本発明の好ましい実施態様においては、請求項3に記載のように、細胞凍結保存液を、半球状として作られる。なお、半球状の細胞凍結保存液は1個または複数個であってもよい。
【0015】
上記第2の目的は、請求項4に記載の細胞培養方法、すなわち、本発明の細胞凍結保存方法によって、細胞培養装置内で凍結保存された細胞に温めた培養液を加えることによって、当該細胞を急速に解凍し、細胞機能を維持したまま当該細胞を復元する細胞培養方法によって達成される。
温めた培養液の量は、プレート内に500μL〜1500μL用い、フィルター内に350μL〜800μL用いる。
【発明の効果】
【0016】
本願に係る細胞凍結保存方法によれば細胞凍結保存液を用いて、細胞を懸濁状態で細胞培養装置内で凍結保存するので、細胞培養を簡略化することができ、長期保存、長距離輸送に耐えることができる。
また、少量の凍結保存液を用い、細胞を懸濁状態で凍結するため、均一な凍結が可能となる。
さらに、本発明の細胞凍結保存方法によれば、細胞を懸濁状態で凍結するため、懸濁液の濃度を変えることによって、1滴あたりに含まれる細胞数を変化させることができ、または滴数を変化させることによって、細胞に適した播種濃度の設定が可能になる。その結果、細胞相互間の密度がコンフルエントに達するまでの時間を調節することができる。
【0017】
さらに、本願に係る細胞凍結保存方法によれば、細胞培養装置内が、予め接着促進因子であるコラーゲン、フィブロネクチン等でコーティングされているので、細胞凍結保存液等の半球状の滴が作製しやすくなる。従って、解凍培養時の培養細胞の接着率が向上する。
【0018】
さらにまた、本願に係る細胞培養方法によれば、凍結細胞に温めた培養液を十分量加えることによって、急速に解凍するので、細胞の凍結解凍障害を最小限に抑えることができる。
さらにまた、解凍された細胞が接着されるのを待ち、培地交換することによって、死滅細胞の除去が可能となり、通常培養の再現が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本願に係る細胞凍結保存方法及び前記細胞凍結保存方法によって凍結保存された細胞を復元する細胞培養方法について、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
本願に係る方法は、クライオチューブやアンプル内で封入し保存されてきた全ての細胞及びあらゆる培養装置に適応可能であることを申し添えておく。
尚、本発明において「細胞」とは凍結保存に付されることがある細胞であれば特に限定されない。動物細胞、植物細胞、微生物、細菌のいずれであってもよい。
【実施例1】
【0021】
立体培養装置での細胞凍結融解方法と培養方法
1―1.共培養作製方法
脳毛細血管内皮細胞、アストロサイト(星状膠細胞)およびペリサイト(周皮細胞)の3種類の細胞は、血液脳関門(blood−brain barrier;BBB)において、血液から中枢神経系への物質の侵入の遮断(関門)と取り込み(輸送)という二律背反を、機能的に一体となって克服するその構成単位である。
本願発明者による血液インヴィトロモデルの発明において、特願2005―364636号における明細書に記載した通り、血液脳関門の解剖学的な実体は密着結合した脳毛細血管内皮細胞であるが、その機能と維持にはアストロサイトやペリサイトが密接に関与していることが明らかとなった。In vitroにおいて脳毛細血管内皮細胞とアストロサイトを共培養すると、脳毛細血管内皮細胞に特異的な酵素であるalkaline phosphatase活性、γ−glutamyl transpeptidase活性の上昇 、膜抵抗の上昇 、tight junctionの増強 、P糖蛋白質の発現 (Sobue et al.,1999;Maxwell et al., 1987;Stanness et al.,1997;Fenart et al.,1998)、などの血液脳関門機能に特異的な機能が増強するとの報告がありアストロサイトの重要性を示している。
一方で、ペリサイトの血液脳関門に果たす役割は不明な点が多いが、近年になりペリサイトがBBBにおいて重要な役割をしている事が報告されている。
In vitroにおいて血管内皮細胞とペリサイトを共培養すると、膜抵抗が増強する(Dente et al.,2001)との報告は、ペリサイトが血液脳関門の維持機構を構成する素子としての重要性を示すものである。即ち、高度機能分化システムであるBBBは、内皮細胞単独では形成できず、内皮細胞、アストロサイト、ペリサイトの3種細胞のクロストークにより初めて構成され得ると考えられ、これら3種細胞を考慮したモデルが必要である。しかし、これまでのBBB in vitroモデルは、内皮細胞単層培養系や、内皮細胞とアストロサイトとの共培養系などの不完全なモデルしか報告されていない。
そこで、本願発明者により、初代培養脳毛細血管内皮細胞、ペリサイト、アストロサイトを共培養することにより、生体に近似し、高度な密着結合を有する血液脳関門モデルが開発されている。詳細は特願2005―364636号における明細書の記載を参照されたい。
【0022】
図4は本願発明者による血液脳関門インヴィトロ・モデルの実施形態の概略図である。
【0023】
培養容器3の中に培養液4を収容し、フィルター2を吊るすハンガー1によって、フィルター2を培養液4の中の所定の位置に浸漬させている。直径0.4μmの穴2aを多数持つフィルター2の上部は血管腔側10として想定され、その下部は脳実質側20として想定されている。即ち、フィルター2の表面に初代培養脳毛細血管内皮細胞Eを播き、フィルター2の裏側に初代培養脳ペリサイトPを播き、更にそのフィルター2の下方に初代培養アストロサイトAを播く事で、生体での血液脳関門を最も良く再現した構造であると考えられる。また、フィルター2の多孔性により、3種の細胞間のクロストークが可能であり、複雑な生体での血液脳関門の維持・調節機構をも再現する事が可能となっている。
【0024】
本願発明に係る細胞凍結方法及び融解・培養方法においては、脳毛細血管内皮細胞、アストロサイト、ペリサイトを、登録商標Transwell(Corning社製、0.4μm pore size)を用い、以下の種々のモデルを作成した。
【0025】
1―1.作成方法
(a)脳毛細血管内皮細胞Eの単層培養系(E00freeze
登録商標Transwellインサート(Corning社製、0.4μm pore size)の、厚さ10μmのpolyester membrane両面と、12−well cultureプレート(Corning社製)の底面を、接着促進物質であるcollagen(0.1mg/ml;Sigma社製)、fibronectine(0.1mg/mL;Sigma社製)でコーティングした。
【0026】
次に、細胞凍結保存液であるセルバンカー(十慈フィールド製)を、12−well cultureプレートの底面に表面張力を利用し、半球状に100μL〜300μL(好ましくは200μL)のせる。
【0027】
続いて、前記接着促進物質でコーティングした登録商標Transwellインサートを半球状のセルバンカーの上にのせ、内側に、セルバンカー50μL〜100μL(好ましくは70μL)で懸濁した、脳毛細血管内皮細胞E(2.5×10 cell/cm)を播種した。
【0028】
さらに続いて、登録商標Transwellの蓋と12−well cultureプレートをパラフィルムで固定し、−80℃で運転中のディープフリーザーに直接入れ急速に凍結した。その後、実験を行うまでディープフリーザー内に−80℃で保存した。
【0029】
ここで、「細胞凍結保存」とは継代培養することなしに細胞を長期間維持する目的で細胞を凍結保存させることをいい、凍結方法及び保存方法は特に限定されない。従って、例えばプログラムフリーザーその他の凍結装置を用いて凍結させ、保存する場合も含む。
【0030】
(b)脳毛細血管内皮細胞EとアストロサイトAが非接触状態の共培養系(E0Afreeze
登録商標Transwellインサートのpolyester membrane両面と、12―well cultureプレートの底面を、接着促進物質であるcollagen(0.1mg/ml)、fibronectine(0.1mg/mL)でコーティングした。
【0031】
次に、アストロサイト(星状膠細胞)A(2.5×10 cell/well)を細胞凍結保存液であるセルバンカー100μL〜300μL(好ましくは200μL)で懸濁し、12−well cultureプレートの底面に表面張力を利用し、半球状にのせた。
【0032】
続いて、前記接着促進物質でコーティングした、登録商標Transwellインサートを、半球状のアストロサイトA懸濁液の上にのせて、登録商標Transwellインサートの内側に、セルバンカー50μL〜100μL(好ましくは70μL)で懸濁した、脳毛細血管内皮細胞E(2.5×10 cell/cm)を播種した。
【0033】
さらに続いて、登録商標Transwellの蓋と12−well cultureプレートをパラフィルムで固定し、−80℃で運転中のディープフリーザー(日本フリーザー社製)に直接入れ急速に凍結した。その後、実験を行うまでディープフリーザー内に−80℃で保存した。
【0034】
(c)脳毛細血管内皮細胞EとペリサイトPが接触した状態の共培養系(EP0freeze
登録商標Transwellインサートのpolyester membrane両面を、接着促進物質であるcollagen(0.1mg/ml)、fibronectine(0.1mg/mL)でコーティングし、上下逆にディッシュに設置した。
続いて、TranswellインサートにペリサイトP(周皮細胞)(2.0×10 cell/cm)を播種し、6時間以上培養した。その後、ペリサイトが接着した登録商標Transwellインサートを12−well cultureプレートのwellに設置した。
【0035】
続いて、10%FBS(fetal bovine serum;GIBCO社製)―DMEM(Dulbecco‘s Modified Eagle’s Medium(DMEM;Sigma社製))に、gentamicin(50μg/mL:Sigma社製)を加えた培養液を用いて、インキュベーターを37℃、5%CO/95%大気下に設定し、一昼夜培養した。
【0036】
翌日、新しい12−well cultureプレートの底面を、接着促進物質であるcollagen(0.1mg/ml)、fibronectine(0.1mg/mL)でコーティングし、細胞凍結保存液であるセルバンカー100μL〜300μL(好ましくは200μL)を、12−well cultureプレートの底面に表面張力を利用し、半球状にのせた。
【0037】
続いて、ペリサイトPを培養した登録商標Transwellインサートを、半球状のセルバンカーの上にのせて、登録商標Transwellインサートの内側に、セルバンカー50μL〜100μL(好ましくは70μL)で懸濁した、脳毛細血管内皮細胞E(2.5×10cell/cm)を播種した。
【0038】
さらに続いて、登録商標Transwellの蓋と12−well cultureプレートをパラフィルムで固定し、−80℃で運転中のディープフリーザー(日本フリーザー社製)に直接入れ急速に凍結した。その後、実験を行うまでディープフリーザー内に−80℃で保存した。
【0039】
(d)脳毛細血管内皮細胞EとペリサイトPが接触し、アストロサイトAが非接触状態の共培養系 (EPAfreeze
登録商標Transwellインサートのpolyester membrane両面を、接着促進物質であるcollagen(0.1mg/ml)、fibronectine(0.1mg/mL)でコーティングし、上下逆にディッシュに設置した。そこに、ペリサイトP(2.0×10 cell/cm)を播種し、6時間以上培養した。
【0040】
ペリサイトが接着した、登録商標Transwellインサートを12―well cultureプレートのwellに設置し、10%FBS(fetal bovine serum;GIBCO社製)―DMEM(Dulbecco‘s Modified Eagle’s Medium(DMEM;Sigma社製))に、gentamicin(50μg/mL:Sigma社製)を加えた培地を用いて37℃、5%CO/95%大気下で一昼夜培養した。
【0041】
翌日、新しい12−well cultureプレートの底面を、接着促進物質であるcollagen(0.1mg/ml)、fibronectine(0.1mg/mL)でコーティングし、アストロサイトA(2.5×10 cell/well)を、細胞凍結保存液であるセルバンカー100μL〜300μL(好ましくは200μL)で懸濁し、12−well cultureプレートの底面に表面張力を利用し、半球状にのせた。
【0042】
続いて、ペリサイトPを培養した登録商標Transwellインサートを、半球状のアストロサイトA懸濁液の上にのせる。この時、ペリサイトPとアストロサイトA懸濁液は接触している。
続いて、登録商標Transwellインサートの内側に、セルバンカー50μL〜100μL(好ましくは70μL)で懸濁した、脳毛細血管内皮細胞E(2.5×10 cell/cm)を播種した。
【0043】
さらに続いて、登録商標Transwellの蓋と12−well cultureプレートをパラフィルムで固定し、−80℃で運転中のディープフリーザー(日本フリーザー社製)に直接入れ急速に凍結した。その後、実験を行うまでディープフリーザー内に−80℃で保存した。
【0044】
1―2.凍結BBBキットの融解ならびに培養方法
凍結していた4種類のBBBモデルを取り出し、クリーンベンチ内に入れる。20% PDS(Plasma derived serum)−DMEM/F12にbFGF(1mg/mL;Boehringer Manheim社製)、heparin(100μg/mL;Sigma社製)、gentamicin(50μg/mL;Sigma社製)を加えた培養液;RBEC培養液2を、予め37℃に温めておく。
【0045】
続いて、温めた培養液2を、素早く12−well cultureプレート内に500μL〜1500μL(好ましくは1mL)、登録商標Transwellインサート内に350μL〜800μL(好ましくは630μL)添加し、溶解する。このときトランズウェル内の内皮細胞は懸濁するが、プレートのアストロサイトは懸濁しない。
【0046】
続いて、インキュベーションを37℃、5%CO/95%大気下に設定し、約2時間培養し細胞を接着させた。
【0047】
細胞を接着させた後、培養液を20% PDS−DMEM/F12にbFGF(1ng/mL)、heparin(100μg/mL;Sigma社製)、gentamicin(50μg/mL)、hydrocortisone(500nM)を加えた培養液;RBEC培養液3に交換し、インキュベーションを37℃、5%CO/95%大気下に設定し、培養した。
【0048】
1―3.凍結BBBキットの電気抵抗(TEER)の検討
実施例1―1ならびに1―2で得られた4種類の凍結BBBモデルのバリアー機能が保たれているかを検討するために、経内電気抵抗の測定を行った。
【0049】
経内電気抵抗(Trans Endothelial Electrical Resistance;TEER)は、電気抵抗測定器(EVOM;WPI社製)に測定電極カップ(ENDOHM;WPI社製)を接続して測定した。ENDOHMの内側を70%エタノールで満たし、10分間滅菌した。
【0050】
続いて、37℃に温めた5mLのDMEM/F12に交換して洗浄した。
【0051】
さらに続いて、2.5mLのDMEM/F12に交換し、作製した各モデルを1インサートずつカップに入れ電気抵抗を測定した。電気抵抗はΩ・cmで表し、脳毛細血管内皮細胞の単層培養系E00freeze、脳毛細血管内皮細胞とアストロサイトが非接触状態の共培養系E0Afreeze、では、membraneのみの電気抵抗値を、脳毛細血管内皮細胞とペリサイトが接触状態の共培養系EP0freeze、アストロサイトが非接触状態の共培養系EPAfreezeでは、ペリサイトのみを培養させたmembraneの電気抵抗値を、差し引くことで算出した。
【0052】
図1は、4種類の凍結BBBモデルについて培養3日目の経内皮電気抵抗値の測定結果を示したグラフである。
【0053】
4種類の各凍結BBBモデルの経内皮電気抵抗値を比較すると、脳毛細血管内皮細胞の単層培養系(E00freeze)に比べ、脳毛細血管内皮細胞とアストロサイトが非接触状態の共培養系(E0Afreeze)、脳毛細血管内皮細胞とペリサイトが接触状態の共培養系(EP0freeze)、脳毛細血管内皮細胞とペリサイトが接触し、アストロサイトが非接触状態の共培養系(EPAfreeze)において、経内皮電気抵抗値の有意な上昇が認められ、その中でもEPAfreeze型が最も高い値を示した。
【0054】
これまでの研究によりBBBの共培養モデルの経内皮電気抵抗値において、脳毛細血管内皮細胞をアストロサイトやペリサイトと共培養するとバリアー機能が増強することが判明しており、本願に係る凍結保存方法によって作製した凍結BBBモデルにおいても、BBBモデルと同様の結果が得られたことから、各細胞が冷凍・凍結融解後においても増殖機能をはじめとする諸機能を回復していることが判る。
【0055】
非凍結BBBモデル(EPA)と凍結BBBモデル(EPAfreeze)の比較
凍結BBBモデルは、実施例1‐1(d)の方法で作成したEPAfreezeモデルを用いた。非凍結BBBモデルは以下の方法で作製した。
【0056】
12‐well−cultureプレートの底面をpoly−L−lysine溶液でコーティングし、アストロサイトA(1.0×10cell/cm)を播種した。
【0057】
続いて、10%FBS(fetal bovine serum;GIBCO社製)―DMEM(Dulbecco‘s Modified Eagle’s Medium(DMEM;Sigma社製))にgentamicin(50μg/mL)を加えた培養液を用いて、インキュベーションを37℃、5%CO/95%大気下に設定し、一昼夜培養した。
【0058】
また、同時に登録商標Transwell−インサート(0.4μm−pore−size)のpolyester−membrane両面を、接着促進物質である、collagen(0.1mg/ml)、fibronectine(0.1mg/mL)でコーティングし、上下逆にディッシュに設置し、ペリサイトP(2.0×10−cell/cm)を播種し、6時間以上培養した。
【0059】
続いて、登録商標Transwell−インサートを、アストロサイトAを播種した12−well−cultureプレートのwellに設置し、10%FBS―DMEMにgentamicin(50μg/mL)を加えた培養液を用いて、インキュベーションを37℃、5%CO/95%大気下に設定し、一昼夜培養した。
【0060】
翌日、培養液を前述のRBEC−培養液2に交換し、脳毛細血管内皮細胞E(1.5×10−cell/cm)を播種し、インキュベーションを37℃、5%CO/95%大気下に設定して培養した。
【0061】
図2は、EPAfreezeモデルにおける経内皮電気抵抗値測定結果の経日変化を示したグラフである。電気抵抗値は融解培養後2日から8日後まで測定し、EPAfreezeでは、ペリサイトのみを培養させたmembraneの電気抵抗値を差し引くことで算出した。
【0062】
本願発明に係る凍結保存方法によって作製したEPAfreezeモデルにおいて、各細胞が冷凍・凍結融解後においても正常なバリアー機能を回復していることが判る。
【0063】
図3は、非凍結BBBモデル(EPA)と凍結BBBモデル(EPAfreeze)の経内皮電気抵抗値測定結果を比較したグラフである。
【0064】
実施例1−2の方法で解凍した凍結モデルと、非凍結モデルの経内皮電気抵抗値を前述の方法で測定した。凍結モデルと、非凍結モデル間で有意な電気抵抗値の差はみられず、本凍結方法により正常な細胞機能が維持されていることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】4種類の凍結BBBモデルについて培養3日目の経内皮電気抵抗値の測定結果を示したグラフである。
【図2】EPAfreezeモデルにおける経内皮電気抵抗値測定結果の経日変化を示したグラフである。
【図3】非凍結BBBモデル(EPA)と凍結BBBモデル(EPAfreeze)の経内皮電気抵抗値測定結果を比較したグラフである。
【図4】本願発明者による血液脳関門インヴィトロ・モデルの実施形態の概略図である。
【符号の説明】
【0066】
1・・・・・ハンガー
2・・・・・フィルター
2a・・・・穴
3・・・・・容器
4・・・・・培養液
10・・・・血管腔側
20・・・・脳実質側
E・・・・・脳毛細血管内皮細胞
P・・・・・ペリサイト
A・・・・・アストロサイト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞凍結保存液を用いて、細胞を懸濁状態で、細胞培養装置内において凍結する細胞凍結保存方法。
【請求項2】
細胞培養装置内が予め細胞接着因子でコーティングされていることを特徴とする、請求項1に記載の細胞凍結保存方法。
【請求項3】
細胞凍結保存液を、半球状として作ることを特徴とする、請求項1又は2に記載の細胞凍結保存方法。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1つに記載の細胞凍結保存方法によって、細胞培養装置内で凍結保存された細胞に温めた培養液を加えることによって、当該細胞を急速に解凍し、細胞機能を維持したまま当該細胞を復元する細胞培養方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−212062(P2008−212062A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−54326(P2007−54326)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【出願人】(505467812)
【出願人】(305014836)ファーマコセル株式会社 (3)
【Fターム(参考)】