説明

細胞処理装置

【課題】大量の細胞懸濁液から一度に多くの細胞塊を得る装置の提供。
【解決手段】上部が大気圧開放され、下部に液体の排出口2bを有する筒状の容器2と、該容器2内の空間を上下に区画する位置に配置され、液体および気体の通過を許容し、細胞の通過を禁止する複数の透孔3aを有するフィルタ3と、容器2内のフィルタ3より上方の空間を上下に密閉状態に区画するとともに、上下方向に移動可能に設けられ、下方に向かう押圧力が作用させられる可動区画部材4とを備える細胞処理装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞懸濁液から細胞を濃縮して細胞塊を形成する方法として、底面に凹凸パターンを有する容器内に細胞懸濁液を供給し、底面方向に向かう遠心力または磁力を作用させながら培養することで、凹凸パターンを鋳型として三次元形状の生体組織を製造する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−161953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の方法では、細胞塊を形成するための押圧力を遠心力によって得ているので、容器ごと回転させて遠心力を作用させる必要がある。このため、大量の細胞懸濁液から一度に多くの細胞塊を得るためには、容器およびこれを回転させる装置として大型のものを採用しなければならないという不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、大量の細胞懸濁液から一度に多くの細胞塊を得ることができるコンパクトな細胞処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、上部が大気圧開放され、下部に液体の排出口を有する筒状の容器と、該容器内の空間を上下に区画する位置に配置され、液体および気体の通過を許容し、細胞の通過を禁止する複数の透孔を有するフィルタと、前記容器内の前記フィルタより上方の空間を上下に密閉状態に区画するとともに、上下方向に移動可能に設けられ、下方に向かう押圧力が作用させられる可動区画部材とを備える細胞処理装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、容器内のフィルタと可動区画部材との間に細胞懸濁液を供給すると、細胞懸濁液を構成している液体が、フィルタに備えられた透孔を介してフィルタの下方の空間に移動し、容器の下部に設けられている排出口から排出される。一方、細胞懸濁液内の細胞は、透孔を通過できずにフィルタ上に残るので、可動区画部材を下方に移動させてフィルタ上の細胞群に対して上方から押圧力を作用させることにより、細胞群を押し固めて細胞塊を生成することができる。すなわち、容器を回転させて遠心力を作用させるような大型の装置を用いることなく、コンパクトな装置によって大量の細胞懸濁液から一度に多くの細胞塊を得ることができる。
【0008】
上記発明においては、前記可動区画部材に、下方に向かう押圧力を作用させる加圧手段を備えていてもよい。
このようにすることで、加圧手段の作動により、可動区画部材に下方に向かう押圧力を作用させて細胞群を加圧し、一度に多くの細胞塊を生成することができる。
【0009】
また、上記発明においては、前記加圧手段が、前記容器内における前記フィルタの下方の空間を大気圧より低い圧力となるように減圧するポンプであってもよい。
このようにすることで、ポンプの作動によりフィルタの下方の空間を吸引すると、可動区画部材の下方の空間が大気圧より低い圧力に減圧され、可動区画部材を挟んだ上下の空間の圧力差により、可動区画部材が下方に移動させられ、可動区画部材とフィルタとの間に配置された細胞群を加圧することができる。
【0010】
また、上記発明においては、前記可動区画部材が、伸縮可能な材質からなる膜状部材であってもよい。
このようにすることで、フィルタの下方の空間が減圧されると、可動区画部材がその両面にかかる圧力差によって下方に伸び、細胞群の上面に密着して、外部の大気圧により細胞群を押圧し、細胞塊を形成することができる。
【0011】
また、上記発明によれば、前記可動区画部材が、前記容器内を摺動させられる板状部材であってもよい。
このようにすることで、フィルタの下方の空間が減圧されると、可動区画部材がその両面にかかる圧力差によって下方に移動し、細胞群の上面に密着して、外部の大気圧により細胞群を押圧し、細胞塊を形成することができる。
【0012】
また、上記発明によれば、前記可動区画部材が、前記容器内を摺動させられ、下方に向かって押圧可能なピストンであってもよい。
このようにすることで、ピストンを下方に押圧することにより、ピストンを容器内を修道させて押し下げ、細胞群の上面に密着させ、その押圧力によって細胞塊を形成することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、装置の小型化を図りつつ、大量の細胞懸濁液から一度に多くの細胞塊を得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る細胞処理装置を示す縦断面図である。
【図2】図1の細胞処理装置の容器内に細胞懸濁液を供給する工程を説明する縦断面図である。
【図3】図1の細胞処理装置の容器内から液体を吸引して排出する工程を説明する縦断面図である。
【図4】図1の細胞処理装置の膜状部材によって細胞群を押圧して細胞塊を生成する工程を説明する縦断面図である。
【図5】図1の細胞処理装置の第1の変形例を示す縦断面図である。
【図6】図1の細胞処理装置の第2の変形例を示す縦断面図である。
【図7】図1の細胞処理装置の第3の変形例を示す縦断面図である。
【図8】図7の細胞処理装置の可動板によって細胞群を押圧して細胞塊を生成する工程を説明する縦断面図である。
【図9】図1の細胞処理装置の第4の変形例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係る細胞処理装置1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る細胞処理装置1は、図1に示されるように、筒状の容器2と、該容器2内の空間を上下に区画する位置に配置されたフィルタ3と、容器2内のフィルタ3よりも上方の空間をさらに上下に区画する位置に配置された膜状部材(可動区画部材)4とを備えている。
【0016】
容器2は、下側に配置される底面2aと、該底面2a近傍に設けられた排出口2bと、容器2内の上部空間を大気圧開放する上部開口2cと、フィルタ3と膜状部材4との間の空間に細胞懸濁液Aを導入する供給口2dとを備えている。排出口2bには、容器2内からの液体および気体を吸引して容器2外に排出させるポンプ(加圧手段)5が備えられている。供給口2dにはバルブ6が設けられており、細胞懸濁液Aの供給時以外においては供給口2dを閉止することができるようになっている。
【0017】
フィルタ3は、液体および気体の通過を許容し、細胞Bの通過を禁止する大きさ(口径約1μm)の複数の透孔3aを有している。細胞懸濁液Aがフィルタ3と膜状部材4との間の空間に供給されると、細胞懸濁液Aに含有される液体は透孔3aを介してフィルタ3下部の空間に流下する一方、細胞Bは透孔3aを通過できずにフィルタ3上方の空間に留まるようになっている。また、液体がフィルタ3下方の空間に流下した後には、フィルタ3上方の空間内の気体も、液体と同じ経路を介してフィルタ3下方の空間に流れることができるようになっている。
【0018】
膜状部材4は、例えば、熱可塑性エラストマーやラテックスのように、伸縮自在な材質からなるとともに、容器2内のフィルタ3よりも上方の空間を上下に密封状態に区画している。したがって、膜状部材4は、フィルタ3との間の空間が減圧されるに従って、大気圧との圧力差により下方に向かって伸びるように変形するようになっている。
【0019】
このように構成された本実施形態に係る細胞処理装置1の作用について以下に説明する。
図1に示される空の容器2内に、供給口2dを介して細胞懸濁液Aを供給すると、図2に示されるように、容器2内に供給された細胞懸濁液Aに含有される液体Cはフィルタ3の透孔3aを介してフィルタ3の下方の空間に流下し、透孔3aを通過できない細胞Bがフィルタ3上に堆積していく。
【0020】
この状態で、図3に示されるように、ポンプ5を駆動して、排出口2bから液体Cを容器2外に排出していくと、フィルタ3下方の空間に流下していた液体Cが容器2内から排出されていくとともに、フィルタ3下方の空間が減圧されていくことになる。フィルタ3下方の空間が減圧されると、フィルタ3上方の細胞懸濁液A内の液体Cもフィルタ3下方の空間に吸引されて移動し、液体Cがほぼ移動し終えた状態で、液体Cの移動経路と同じ経路を介して、フィルタ3上方の空間に存在する気体もフィルタ3下方の空間に吸引される。
【0021】
膜状部材4は、容器2内の空間を密封状態に区画しているので、気体が透孔3aを介してフィルタ3の下方に吸引されることにより、フィルタ3と膜状部材4との間の空間も減圧される。これにより、膜状部材4は、その表裏面に発生する圧力差(P1−P2)によって下方に押されて、図3に示されるように伸びていく。
【0022】
そして、図4に示されるように、フィルタ3と膜状部材4との間の空間の空気が十分に吸引されると、膜状部材4は、フィルタ3の上面に堆積されている細胞群Bの上面に密着し、大気圧P1によって細胞群Bを下方に押圧するようになる。その結果、細胞群Bが押し固められることにより細胞塊が形成される。
【0023】
すなわち、本実施形態に係る細胞処理装置1によれば、遠心力をかけることなく、容器2内の空気を吸引して排出するだけで、大量の細胞懸濁液Aから一度に細胞塊を生成することができる。したがって、大型の容器を回転させて遠心力を作用させる遠心分離機のような大型の装置が不要であり、装置の小型化を図りつつ、大量の細胞懸濁液Aから一度に多くの細胞塊を得ることができるという利点がある。
【0024】
なお、本実施形態においては、ポンプ5による液体Cの吸引過程において、フィルタ3が目詰まりした場合には、フィルタ3と膜状部材4との間の空間内の空気を十分に排出できず、膜状部材4を細胞群Bに密着させることができなくなる。その場合には、ポンプ5を逆転させて、フィルタ3下方の空間の圧力を上昇させることにより、フィルタ3の透孔3aを介して気体をフィルタ3上方に供給し、目詰まりを解消した後に、ポンプ5を再度正転させることにすればよい。
【0025】
また、本実施形態においては、フィルタ3下方の空間をポンプ5によって吸引することにより減圧することとしたが、図5に示されるように、過度に吸引するとフィルタ3に負担がかかるため、フィルタ3下方の空間の圧力を検出する圧力センサ7を配置して、検出された圧力に基づいて、圧力が閾値を超えないように、制御部8がポンプ5を制御することにしてもよい。
【0026】
また、本実施形態においては、フィルタ3下方の空間をポンプ5によって吸引することにより、膜状部材4の表裏面に圧力差を生じさせることとしたが、これに代えて、図6に示されるように、天板2eによって膜状部材4の上方の空間を密閉された空間とし、該空間内の圧力を増大させるポンプ5’を接続することにしてもよい。
【0027】
また、本実施形態においては、圧力差によって伸縮する膜状部材4によって可動区画部材を構成したが、これに代えて、図7に示されるように、容器2の横断面より若干小さい横断面を有する平板状の可動板9を採用してもよい。可動板9の全周には、容器2の内面との隙間を気密状態に密閉しかつ、可動板9を容器2の内面に沿って上下方向に移動可能に取り付けるシール部材10が設けられている。これにより、可動板9は、その上下の圧力差によって上下方向に移動できるようになっている。
【0028】
図中、符号11は、可動板9の下面に接触して容器2の内面から突出状態に配された係合部材である。この係合部材11は、図示しないバネにより矢印Dで示される方向に付勢されていて、細胞懸濁液Aの容器2内への供給によって可動板9とフィルタ3との間の圧力が増加し、あるいは細胞懸濁液A自体によって可動板9が上方に押されると、バネの付勢力によって、図8に示されるように容器2内面の凹部12内に収容されて凹部12を密閉するようになっている。
【0029】
また、この図7および図8に示す例では、容器2の上端部は天板2eにより閉塞されているが、容器2内の上部空間は通気管13によって大気圧開放されている。通気管13には細菌等の侵入を防止しつつ空気の流入を許容するフィルタ14が設けられている。
【0030】
係合部材11が凹部12内に収容された後には、可動板9は容器2内を上下方向に自由に移動できるようになるので、ポンプ5の作動によって、容器2内の圧力を低下させていくと、可動板9の上下の圧力差によって、図8に示されるように、容器2内で下降させられ、膜状部材4と同様に、細胞群Bを押圧して細胞塊を生成することができる。
【0031】
また、本実施形態においては、ポンプ5の作動によって発生する圧力差によって可動板9を下方に移動させることとしたが、これに代えて、図9に示されるように、外部から加えられる外力によって下降させることができるピストン15を採用してもよい。この場合、容器2の上端を閉塞する天板2eとピストン15のロッド15aとの摺動部を介した細菌等の容器2内への侵入を防止するために、可撓性を有する材質からなるカバー16によって覆っておくことが好ましい。
【符号の説明】
【0032】
B 細胞
C 液体
1 細胞処理装置
2 容器
2b 排出口
3 フィルタ
3a 透孔
4 膜状部材(可動区画部材)
5,5’ ポンプ(加圧手段)
9 可動板(板状部材、可動区画部材)
15 ピストン(可動区画部材)
15a ロッド(加圧手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部が大気圧開放され、下部に液体の排出口を有する筒状の容器と、
該容器内の空間を上下に区画する位置に配置され、液体および気体の通過を許容し、細胞の通過を禁止する複数の透孔を有するフィルタと、
前記容器内の前記フィルタより上方の空間を上下に密閉状態に区画するとともに、上下方向に移動可能に設けられ、下方に向かう押圧力が作用させられる可動区画部材とを備える細胞処理装置。
【請求項2】
前記可動区画部材に、下方に向かう押圧力を作用させる加圧手段を備える請求項1に記載の細胞処理装置。
【請求項3】
前記加圧手段が、前記容器内における前記フィルタの下方の空間を大気圧より低い圧力となるように減圧するポンプである請求項2に記載の細胞処理装置。
【請求項4】
前記可動区画部材が、伸縮可能な材質からなる膜状部材である請求項3に記載の細胞処理装置。
【請求項5】
前記可動区画部材が、前記容器内を摺動させられる板状部材である請求項3に記載の細胞処理装置。
【請求項6】
前記可動区画部材が、前記容器内を摺動させられ、下方に向かって押圧可能なピストンである請求項1に記載の細胞処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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