細胞分離装置および細胞分離方法
【課題】簡易な構成で、誘電泳動特性の異なる複数種類の細胞を効率的に分離する。
【解決手段】誘電泳動特性の異なる複数種の細胞A,Bを含む細胞浮遊液を流動させる流路2と、該流路2の流動方向Lに交差する方向に対向して配置される電極3a,3bと、該電極3a,3b間に形成される電界強度に勾配を生じさせる電界勾配形成手段4と、電極3a,3b間に直流成分を有する交流電圧を加える電源5とを備える細胞分離装置1を提供する。
【解決手段】誘電泳動特性の異なる複数種の細胞A,Bを含む細胞浮遊液を流動させる流路2と、該流路2の流動方向Lに交差する方向に対向して配置される電極3a,3bと、該電極3a,3b間に形成される電界強度に勾配を生じさせる電界勾配形成手段4と、電極3a,3b間に直流成分を有する交流電圧を加える電源5とを備える細胞分離装置1を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞分離装置および細胞分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電気泳動特性の差を利用して粒子を分離する技術が知られている(例えば、特許文献1〜4参照。)。
特許文献1に開示された技術は、平板電極からなる複数のトラップを流路中に配置して、ある細菌を特異的に吸着する抗体を被覆したビーズを電極に捕集させておき、そこに分析したい汚水を流通させて、誘電泳動特性により電極に近接する細菌をビーズに捕集させるものである。
【0003】
特許文献2に開示された技術は、波状の電極を複数並べた流路を形成し、その電極の配列方向に複数種の粒子を流動させることにより、誘電泳動特性の差を利用して、粒子を分離するものである。
特許文献3に開示された技術は、超音波により粒子を移動させた後に、電界を加えて誘電泳動により分離するものである。
特許文献4に開示された技術は、2種類以上の周波数の電界を加えることで、粒子に複数の誘電泳動力が作用するようにして粒子を分離するものである。
【0004】
【特許文献1】国際公開第97/034689号パンフレット
【特許文献2】国際公開第01/005512号パンフレット
【特許文献3】国際公開第01/005513号パンフレット
【特許文献4】国際公開第01/005514号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術は、流路の下流に分析用のチャンバを用意しておき、予め、細菌を捕集していない誘電泳動特性を測定しておき、ある細菌が捕集されたビーズを電極から遊離させ、分析用チャンバまで流し込み、測定および捕集していないビーズとの特性の差を見ることで、細菌を定量するものであり、工程が複雑であるという不都合がある。
【0006】
また、特許文献2の技術は、電極の配列方向に流動する粒子を分離するために、波形の電極形状を採用する必要があり、装置が複雑で高価になるとともに、効率的に分離することができないという不都合がある。
【0007】
また、特許文献3の技術は、超音波のような余分のエネルギを必要とするという不都合がある。
さらに、特許文献4の技術は、2種類の周波数の電界を加える点において、複雑であるという問題がある。
【0008】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、簡易な構成で、誘電泳動特性の異なる複数種類の細胞を効率的に分離することができる細胞分離装置および細胞分離方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、誘電泳動特性の異なる複数種の細胞を含む細胞浮遊液を流動させる流路と、該流路の流動方向に交差する方向に対向して配置される電極と、該電極間に形成される電界強度に勾配を生じさせる電界勾配形成手段と、前記電極間に直流成分を有する交流電圧を加える電源とを備える細胞分離装置を提供する。
【0010】
本発明によれば、電源の作動により電極間に直流成分を有する交流電圧をかけると、電界勾配形成手段の作動により電極間に電界強度に勾配のある電界が形成されるとともに、交流電圧に含まれる直流成分によって、一方の電極側に電荷が偏ることになる。すなわち、細胞浮遊液内に含まれる複数種の細胞は全て、電荷の偏りによる電気泳動力を受ける。一方、細胞浮遊液内に含まれる負の誘電泳動特性を有する細胞は電界強度が弱まる方向に誘電泳動力を受け、正の誘電泳動特性を有する細胞は電界強度が強まる方向に誘電泳動力を受ける。また、誘電泳動特性を有しない細胞、例えば、死細胞には誘電泳動力は作用せず、電気泳動力のみが作用する。
【0011】
したがって、誘電泳動特性の異なる細胞に対して、異なる方向の誘電泳動力および電気泳動力を作用させることができ、そのバランスを図ることによって、誘電泳動特性の異なる細胞を効果的に分離することができる。
すなわち、例えば、負の誘電泳動力の作用する方向と、電気泳動力の作用する方向とを逆方向に設定しておくと、負の誘電泳動特性を有する細胞に対しては、誘電泳動力と電気泳動力とを相殺させた比較的弱い力を作用させることができる一方、誘電泳動特性を有しない細胞に対しては、電気泳動力のみからなる比較的大きな力を作用させることができる。したがって、誘電泳動特性を有しない細胞を電気泳動力により吸着し、負の誘電泳動特性を有する細胞を流動方向に流動させて分離することができる。
【0012】
上記発明においては、前記電界勾配形成手段が、前記電極間に配置された一以上の開口部を有する絶縁部材であることとしてもよい。
このようにすることで、絶縁部材によって電極間に形成される電気力線を開口部のみに通過させるように絞ることができ、電界強度に勾配を有する電界を電極間に簡易に形成することができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記電極が、ほぼ一様な電界強度を有する電界を形成する平行平板電極であることとしてもよい。
このようにすることで、簡易な構成の電極と絶縁板との組み合わせにより、電界強度に勾配を有する電界を電極間に、さらに簡易に形成することができる。
【0014】
また、上記発明においては、前記電界勾配形成手段が、一方の電極を他方の電極に対して小さく形成することにより構成されていることとしてもよい。
このようにすることで、小さい電極から大きい電極に向かう電気力線に粗密を設けることで、電界強度に勾配を有する電界を簡易に形成することができる。
【0015】
また、本発明は、誘電泳動特性の異なる複数種の細胞を含む細胞浮遊液を流動させ、該流路の流動方向に交差する方向に対向して配置された電極間に、電界強度に勾配を有する電界を形成するとともに、前記電極間に直流成分を有する交流電圧を加える細胞分離方法を提供する。
本発明によれば、電極間に直流成分を有する交流電圧をかけると、電極間に電界強度に勾配のある電界が形成されるとともに、交流電圧に含まれる直流成分によって、一方の電極側に電荷が偏ることになる。すなわち、細胞浮遊液内に含まれる複数種の細胞は全て、電荷の偏りによる電気泳動力を受ける。一方、細胞浮遊液内に含まれる負の誘電泳動特性を有する細胞は電界強度が弱まる方向に誘電泳動力を受け、正の誘電泳動特性を有する細胞は電界強度が強まる方向に誘電泳動力を受ける。また、誘電泳動特性を有しない細胞、例えば、死細胞には誘電泳動力は作用せず、電気泳動力のみが作用する。
【0016】
したがって、誘電泳動特性の異なる細胞に対して、異なる方向の誘電泳動力および電気泳動力を作用させることができ、そのバランスを図ることによって、誘電泳動特性の異なる細胞を効果的に分離することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡易な構成で、誘電泳動特性の異なる複数種類の細胞を効率的に分離することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の一実施形態に係る細胞分離装置1について、図1〜図4を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る細胞分離装置1は、図1および図4に示されるように、複数種の細胞A,B、例えば、生細胞Aの中に死細胞Bが混在した細胞浮遊液を一方向に流動させる流路2と、流路2に配置された電極3a,3bと、電極3a,3b間に配置された絶縁板4と、電極3a,3bに電圧を加える電源5とを備えている。
【0019】
流路2は絶縁板4によって、流動方向に沿って延びる第1の流路2aと第2の流路2bとに区画されている。
電極3a,3bは、例えば、平行平板電極であって、流路の対向する壁面に、流動方向Lに直交する方向に対向して配置されている。
【0020】
また、絶縁板4は、前記電極3a,3bの間隔方向の中央位置に配置される平板状に形成され、1つ以上の貫通孔4aを有している。
したがって、第1の流路2aと第2の流路2bとは、絶縁板4の貫通孔4aによって相互に連絡している。
【0021】
これにより、電源5を作動させることによって電極3a,3bの一側から他側に向かって発生する電気力線Cは、絶縁板4により遮られるので、図3に示されるように、絶縁板4に形成された貫通孔4aのみを通過するようになる。すなわち、電気力線Cは、貫通孔4aにおいて束ねられてその密度が高くなるので、電極3a,3b間に形成される電界は、貫通孔4aにおいて電界強度が最も高くなり、両側の電極3a,3bに向かうに従って弱くなるような勾配を形成するようになっている。
前記電源5は、図2に示されるように、一方向(例えば、+方向)にオフセットした直流成分を有する正弦波からなる交流電圧を電極3a,3b間に加えるようになっている。
【0022】
このように構成された本実施形態に係る細胞分離装置1を用いた細胞分離方法について、以下に説明する。
本実施形態に係る細胞分離装置1を用いて誘電泳動特性の異なる複数種の細胞A,Bを分離するには、電源5を作動させて電極3a,3b間に交流電圧を加え、図3に示されるような電気力線Cを電極3a,3b間に形成する。
【0023】
この状態で、誘電泳動特性の異なる複数種の細胞A,Bを含む細胞懸濁液を第1の流路2a内に流動させる。ここでは、例えば、−側電極3aと絶縁板4との間の第1の流路2aに細胞懸濁液を流動させ、+側電極3bと絶縁板4との間の第2の流路2bには、細胞A,Bを含まない媒体を流動させる。細胞懸濁液および媒体の流速は十分に低く設定しておく。
【0024】
負の誘電泳動特性を有する細胞Aが電極3a,3b間にさしかかると、当該細胞Aには、図3に示されるように、電極3a,3b間に形成されている電界強度に勾配のある電界によって、電界強度が低くなる方向に向かう誘電泳動力f1を受ける。また、電源5から供給される交流電圧には直流成分が含まれているので、細胞A,Bは、その有する電荷に応じて、例えば、図3に示されるように、誘電泳動力f1とは逆方向に電気泳動力f2を受ける。したがって、細胞Aに作用する誘電泳動力f1と電気泳動力f2とがバランスしていれば、負の誘電泳動特性を有する細胞Aは、電極3a,3bによって吸引されることなく、第1の流路2a内の細胞懸濁液の流れに従ってそのまま流動させられることになる。
【0025】
一方、誘電泳動特性を有しない細胞Bに対しては、誘電泳動力f1が発生しないので、電気泳動力f2のみが作用する。その結果、当該細胞Bは電気泳動力f2によって、+側の電極3bに吸引され、絶縁板4の貫通孔4aを通過して第2の流路2b内に流れ込むことになる。
【0026】
すなわち、電源5を操作して、電極3a,3bに加える交流電圧の振幅または周波数を調節することにより、誘電泳動特性を有する細胞Aに作用する誘電泳動力f1を調節し、交流電圧に含める直流成分の絶対値を調節することにより、細胞A,Bに作用する電気泳動力f2を調節する。これにより、誘電泳動特性の異なる細胞A,Bに作用する力f1,f2の総和を変化させ、図4に示されるように、第1の流路2a内をそのまま流動する細胞Aと、電極3a,3bに吸引されて第2の流路2bに流入する細胞Bとを構成し、両者を効率的に分離することができる。
【0027】
このように、本実施形態に係る細胞分離装置1および細胞分離方法によれば、細胞懸濁液を流動させる流路2に、平行平板からなる電極3a,3bと、絶縁板4を配置するだけの簡易な構成によって、誘電泳動特性の異なる複数種の細胞A,Bを効率的に分離することができるという利点がある。
【0028】
なお、本実施形態においては、電極3a,3b間に配置した絶縁板4に1以上の貫通孔4aを設けることとしたが、その数は制限されるものではない。また、貫通孔4aの形状、配列や間隔についても、十分な電界強度の勾配を形成し得るものであれば任意でよい。
【0029】
また、平行平板からなる電極3a,3bの間隔方向の中央位置に絶縁板4を配置することとしたが、これに代えて、図5に示されるように、平行平板からなる電極3a,3bの一方の電極3a表面に絶縁板4を密着させて配置してもよい。この場合には、絶縁板4により被覆された電極3aにおいては、貫通孔4aから露出する部分のみから電気力線Cが形成され、他方の電極3bに向かって、電界強度が漸次低下していくような電界が形成される。これにより、上記と同様にして、流路2における流動方向Lに交差する方向に、誘電泳動特性の異なる細胞A,Bを分離することが可能となる。
【0030】
ここで、図5の細胞分離装置1を用いた実験例について、図6を参照して説明する。
電極3a,3bとして、厚さ1mmのチタン製の一対の平板状の電極3a,3bを用いた。電極3a,3b間の間隔は約1mmとした。また、絶縁板4として、厚さ50μmのカプトン膜を用いた。また、絶縁板4に形成された貫通孔4aとしては約100μmの孔を採用した。
【0031】
また、誘電泳動特性を有する細胞A,Bの代わりに、径寸法約10μmのポリスチレンビーズからなる粒子Dを使用した。
交流電圧としては、振幅1V,1.2V,1.5V、直流成分0〜3V、周波数10kHz,100kHz,500kHz、1MHz.5MHz.10MHzの正弦波状に変化する電圧を用いた。
【0032】
その結果を図6に示す。
図6は、絶縁板4の貫通孔4aに対応する位置において、絶縁板4から一定の距離に配される位置に粒子Dを静止させるための、交流電圧の振幅、直流成分および周波数の関係を示している。すなわち、交流電圧の振幅を1V,1.2V,1.5Vに設定し、それぞれ周波数を順次変化させたときに、粒子Dがいずれの電極3a,3bにも吸着されないための直流成分の値をプロットしている。
【0033】
いずれの振幅の場合においても、周波数1MHz付近において、必要な直流成分の値が極大値となり、大きな電気泳動力f2が粒子Dに作用していることがわかる。したがって、周波数1MHz付近において、大きな電気泳動力f2に対抗する大きな誘電泳動力f1が作用していることがわかる。
【0034】
その結果、交流電圧の振幅と、直流成分とを調節することにより、電気泳動力f2によって粒子Dを電極3aの方向に泳動させ、誘電泳動力F1が作用する粒子Dはそのまま流動させ、あるいは反対方向に泳動させることにより、分離することができる。
【0035】
また、上記実施形態においては、電極3aの表面に絶縁板4を被覆することにより、貫通孔4aから露出する部分のみを電極3aとして構成することとしたが、もともと貫通孔4aの面積と同様に狭い面積を有する電極(図示略)を採用することにしてもよい。
【0036】
ここで、図1の細胞分離装置1を用いた別の実験例について、図7および図8を参照して説明する。
装置条件としては、電極3a,3b間の間隔は約1.2mmとし、厚さ0.2mmの絶縁板4を用いた。流路2の幅は0.5mm(流路2aおよび流路2bの幅をそれぞれ0.5mm)とし、絶縁板4に形成された貫通孔4aとしては約0.2mmの孔を採用した。
【0037】
生細胞および死細胞は培養2日目の3−2H3細胞を用い、周囲溶媒は8.5wt%スクロースと0.3wt%グルコース水溶液の混合溶液とした。
図7は、交流電圧の振幅80Vとし、周波数を1kHz,5kHz,10kHzに変化させた場合の生細胞保持境界の周波数特性を示す。図7に示されるように、周波数が5kHzでオフセット電圧が最も高く出力されるとともに、保持領域が広範囲になることがわかる。
【0038】
図8は、周波数を5kHzとし、交流電圧の振幅を60V,80V,100V,120Vと変化させた場合の生細胞および死細胞の保持境界および保持領域を示す。図8に示される分離可能領域の範囲となるように細胞分離装置1の条件設定を行うことにより、死細胞が透過し生細胞を保持することができるため、生細胞と死細胞とを分離することができる。
【0039】
ここで、図9の細胞分離装置111を用いたさらに別の実験例について、図9から図11を参照して説明する。
装置条件としては、幅12mm、長さ90mm、高さ30mmの細胞分離装置111について、電極3a,3b間の間隔は約1.2mmとし、厚さ0.2mmの絶縁板4を用いた。孔数は約1000個とし、絶縁板4に形成された貫通孔4aとしては約0.2mmの孔を採用した。孔間距離は図10に示されるような配列で0.3mmおよび0.6mmとした。
【0040】
図9に示されるように、細胞懸濁液はポンプPを介して細胞分離装置111に導入され、周囲溶媒とともに流動方向Lに沿って移動する。任意波形ジェネレータGの作動により交流電圧をかけると、絶縁板4の作動により電極3a,3b間に電界強度に勾配のある電界が形成されるとともに、交流電圧に含まれる直流成分によって、一方の電極側に電荷が偏ることになる。例えば、生細胞はこの電荷の偏りによって電界強度が弱まる方向に誘電泳動力を受け、誘電泳動特性を有しない死細胞には誘電泳動力は作用せずに電気泳動力のみが作用することにより、生細胞を保持側、死細胞を透過側に分離することができる。あるいは、生細胞はこの電荷の偏りによって電界強度が強まる方向に誘電泳動力を受けるよう電界を形成させると、誘電泳動特性を有しない死細胞には誘電泳動力は作用せずに電気泳動力のみが作用することにより、生細胞を透過側、死細胞を保持側に分離することもできる。
【0041】
図11は、周波数を5kHz、交流電圧の振幅を100Vとし、オフセット電圧を0から1.0V出力させて生細胞・死細胞の混合分離を行った場合の生細胞および死細胞の保持率を示す。
流量はそれぞれ細胞懸濁液流量0.3ml/min、周囲溶媒流量0.3ml/min、保持液流量0.2ml/min、透過液流量0.4ml/minに設定した。
【0042】
生細胞および死細胞は培養2日目の3−2H3細胞をそれぞれ5.0×105cells/mlずつ用い、周囲溶媒は8.5wt%スクロースと0.3wt%グルコース水溶液の混合溶液とした。
図11に示されるように、細胞分離装置111によれば、オフセット電圧が出力されることにより、死細胞は保持率が低下して透過され、高い保持率を維持たままの生細胞と保持率が低下した死細胞とを分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態に係る細胞分離装置を示す模式的な全体構成図である。
【図2】図1の細胞分離装置の電源により発生する交流電圧波形を示す図である。
【図3】図1の細胞分離装置の電極間に形成される電気力線と細胞に作用する力を示す図であり,(a)分離前の状態、(b)分離後の状態をそれぞれ示している。
【図4】図1の細胞分離装置により異なる誘電特性を有する細胞の分離動作を説明する図である。
【図5】図1の細胞分離装置の変形例を示す部分的な拡大縦断面図である。
【図6】図5の細胞分離装置を用いて発生した交流電圧の周波数変化を示すグラフである。
【図7】細胞保持境界の周波数特性を示すグラフである。
【図8】生細胞および死細胞の保持境界および保持領域を示すグラフである。
【図9】本発明の一実施形態に係る細胞分離装置を示す模式的な全体構成図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る細胞分離装置の多細孔絶縁板の概略を示す図である。
【図11】生細胞および死細胞の保持率を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
A,B 細胞
C 電気力線
D 粒子
G 任意波形ジェネレータ
L 流動方向
P ポンプ
1 細胞分離装置
2 流路
2a 第1の流路(流路)
2b 第2の流路(流路)
3a,3b 電極
4 絶縁板(絶縁部材:電界勾配形成手段)
4a 貫通孔(開口部)
5 電源
111 細胞分離装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞分離装置および細胞分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電気泳動特性の差を利用して粒子を分離する技術が知られている(例えば、特許文献1〜4参照。)。
特許文献1に開示された技術は、平板電極からなる複数のトラップを流路中に配置して、ある細菌を特異的に吸着する抗体を被覆したビーズを電極に捕集させておき、そこに分析したい汚水を流通させて、誘電泳動特性により電極に近接する細菌をビーズに捕集させるものである。
【0003】
特許文献2に開示された技術は、波状の電極を複数並べた流路を形成し、その電極の配列方向に複数種の粒子を流動させることにより、誘電泳動特性の差を利用して、粒子を分離するものである。
特許文献3に開示された技術は、超音波により粒子を移動させた後に、電界を加えて誘電泳動により分離するものである。
特許文献4に開示された技術は、2種類以上の周波数の電界を加えることで、粒子に複数の誘電泳動力が作用するようにして粒子を分離するものである。
【0004】
【特許文献1】国際公開第97/034689号パンフレット
【特許文献2】国際公開第01/005512号パンフレット
【特許文献3】国際公開第01/005513号パンフレット
【特許文献4】国際公開第01/005514号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術は、流路の下流に分析用のチャンバを用意しておき、予め、細菌を捕集していない誘電泳動特性を測定しておき、ある細菌が捕集されたビーズを電極から遊離させ、分析用チャンバまで流し込み、測定および捕集していないビーズとの特性の差を見ることで、細菌を定量するものであり、工程が複雑であるという不都合がある。
【0006】
また、特許文献2の技術は、電極の配列方向に流動する粒子を分離するために、波形の電極形状を採用する必要があり、装置が複雑で高価になるとともに、効率的に分離することができないという不都合がある。
【0007】
また、特許文献3の技術は、超音波のような余分のエネルギを必要とするという不都合がある。
さらに、特許文献4の技術は、2種類の周波数の電界を加える点において、複雑であるという問題がある。
【0008】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、簡易な構成で、誘電泳動特性の異なる複数種類の細胞を効率的に分離することができる細胞分離装置および細胞分離方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、誘電泳動特性の異なる複数種の細胞を含む細胞浮遊液を流動させる流路と、該流路の流動方向に交差する方向に対向して配置される電極と、該電極間に形成される電界強度に勾配を生じさせる電界勾配形成手段と、前記電極間に直流成分を有する交流電圧を加える電源とを備える細胞分離装置を提供する。
【0010】
本発明によれば、電源の作動により電極間に直流成分を有する交流電圧をかけると、電界勾配形成手段の作動により電極間に電界強度に勾配のある電界が形成されるとともに、交流電圧に含まれる直流成分によって、一方の電極側に電荷が偏ることになる。すなわち、細胞浮遊液内に含まれる複数種の細胞は全て、電荷の偏りによる電気泳動力を受ける。一方、細胞浮遊液内に含まれる負の誘電泳動特性を有する細胞は電界強度が弱まる方向に誘電泳動力を受け、正の誘電泳動特性を有する細胞は電界強度が強まる方向に誘電泳動力を受ける。また、誘電泳動特性を有しない細胞、例えば、死細胞には誘電泳動力は作用せず、電気泳動力のみが作用する。
【0011】
したがって、誘電泳動特性の異なる細胞に対して、異なる方向の誘電泳動力および電気泳動力を作用させることができ、そのバランスを図ることによって、誘電泳動特性の異なる細胞を効果的に分離することができる。
すなわち、例えば、負の誘電泳動力の作用する方向と、電気泳動力の作用する方向とを逆方向に設定しておくと、負の誘電泳動特性を有する細胞に対しては、誘電泳動力と電気泳動力とを相殺させた比較的弱い力を作用させることができる一方、誘電泳動特性を有しない細胞に対しては、電気泳動力のみからなる比較的大きな力を作用させることができる。したがって、誘電泳動特性を有しない細胞を電気泳動力により吸着し、負の誘電泳動特性を有する細胞を流動方向に流動させて分離することができる。
【0012】
上記発明においては、前記電界勾配形成手段が、前記電極間に配置された一以上の開口部を有する絶縁部材であることとしてもよい。
このようにすることで、絶縁部材によって電極間に形成される電気力線を開口部のみに通過させるように絞ることができ、電界強度に勾配を有する電界を電極間に簡易に形成することができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記電極が、ほぼ一様な電界強度を有する電界を形成する平行平板電極であることとしてもよい。
このようにすることで、簡易な構成の電極と絶縁板との組み合わせにより、電界強度に勾配を有する電界を電極間に、さらに簡易に形成することができる。
【0014】
また、上記発明においては、前記電界勾配形成手段が、一方の電極を他方の電極に対して小さく形成することにより構成されていることとしてもよい。
このようにすることで、小さい電極から大きい電極に向かう電気力線に粗密を設けることで、電界強度に勾配を有する電界を簡易に形成することができる。
【0015】
また、本発明は、誘電泳動特性の異なる複数種の細胞を含む細胞浮遊液を流動させ、該流路の流動方向に交差する方向に対向して配置された電極間に、電界強度に勾配を有する電界を形成するとともに、前記電極間に直流成分を有する交流電圧を加える細胞分離方法を提供する。
本発明によれば、電極間に直流成分を有する交流電圧をかけると、電極間に電界強度に勾配のある電界が形成されるとともに、交流電圧に含まれる直流成分によって、一方の電極側に電荷が偏ることになる。すなわち、細胞浮遊液内に含まれる複数種の細胞は全て、電荷の偏りによる電気泳動力を受ける。一方、細胞浮遊液内に含まれる負の誘電泳動特性を有する細胞は電界強度が弱まる方向に誘電泳動力を受け、正の誘電泳動特性を有する細胞は電界強度が強まる方向に誘電泳動力を受ける。また、誘電泳動特性を有しない細胞、例えば、死細胞には誘電泳動力は作用せず、電気泳動力のみが作用する。
【0016】
したがって、誘電泳動特性の異なる細胞に対して、異なる方向の誘電泳動力および電気泳動力を作用させることができ、そのバランスを図ることによって、誘電泳動特性の異なる細胞を効果的に分離することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡易な構成で、誘電泳動特性の異なる複数種類の細胞を効率的に分離することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の一実施形態に係る細胞分離装置1について、図1〜図4を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る細胞分離装置1は、図1および図4に示されるように、複数種の細胞A,B、例えば、生細胞Aの中に死細胞Bが混在した細胞浮遊液を一方向に流動させる流路2と、流路2に配置された電極3a,3bと、電極3a,3b間に配置された絶縁板4と、電極3a,3bに電圧を加える電源5とを備えている。
【0019】
流路2は絶縁板4によって、流動方向に沿って延びる第1の流路2aと第2の流路2bとに区画されている。
電極3a,3bは、例えば、平行平板電極であって、流路の対向する壁面に、流動方向Lに直交する方向に対向して配置されている。
【0020】
また、絶縁板4は、前記電極3a,3bの間隔方向の中央位置に配置される平板状に形成され、1つ以上の貫通孔4aを有している。
したがって、第1の流路2aと第2の流路2bとは、絶縁板4の貫通孔4aによって相互に連絡している。
【0021】
これにより、電源5を作動させることによって電極3a,3bの一側から他側に向かって発生する電気力線Cは、絶縁板4により遮られるので、図3に示されるように、絶縁板4に形成された貫通孔4aのみを通過するようになる。すなわち、電気力線Cは、貫通孔4aにおいて束ねられてその密度が高くなるので、電極3a,3b間に形成される電界は、貫通孔4aにおいて電界強度が最も高くなり、両側の電極3a,3bに向かうに従って弱くなるような勾配を形成するようになっている。
前記電源5は、図2に示されるように、一方向(例えば、+方向)にオフセットした直流成分を有する正弦波からなる交流電圧を電極3a,3b間に加えるようになっている。
【0022】
このように構成された本実施形態に係る細胞分離装置1を用いた細胞分離方法について、以下に説明する。
本実施形態に係る細胞分離装置1を用いて誘電泳動特性の異なる複数種の細胞A,Bを分離するには、電源5を作動させて電極3a,3b間に交流電圧を加え、図3に示されるような電気力線Cを電極3a,3b間に形成する。
【0023】
この状態で、誘電泳動特性の異なる複数種の細胞A,Bを含む細胞懸濁液を第1の流路2a内に流動させる。ここでは、例えば、−側電極3aと絶縁板4との間の第1の流路2aに細胞懸濁液を流動させ、+側電極3bと絶縁板4との間の第2の流路2bには、細胞A,Bを含まない媒体を流動させる。細胞懸濁液および媒体の流速は十分に低く設定しておく。
【0024】
負の誘電泳動特性を有する細胞Aが電極3a,3b間にさしかかると、当該細胞Aには、図3に示されるように、電極3a,3b間に形成されている電界強度に勾配のある電界によって、電界強度が低くなる方向に向かう誘電泳動力f1を受ける。また、電源5から供給される交流電圧には直流成分が含まれているので、細胞A,Bは、その有する電荷に応じて、例えば、図3に示されるように、誘電泳動力f1とは逆方向に電気泳動力f2を受ける。したがって、細胞Aに作用する誘電泳動力f1と電気泳動力f2とがバランスしていれば、負の誘電泳動特性を有する細胞Aは、電極3a,3bによって吸引されることなく、第1の流路2a内の細胞懸濁液の流れに従ってそのまま流動させられることになる。
【0025】
一方、誘電泳動特性を有しない細胞Bに対しては、誘電泳動力f1が発生しないので、電気泳動力f2のみが作用する。その結果、当該細胞Bは電気泳動力f2によって、+側の電極3bに吸引され、絶縁板4の貫通孔4aを通過して第2の流路2b内に流れ込むことになる。
【0026】
すなわち、電源5を操作して、電極3a,3bに加える交流電圧の振幅または周波数を調節することにより、誘電泳動特性を有する細胞Aに作用する誘電泳動力f1を調節し、交流電圧に含める直流成分の絶対値を調節することにより、細胞A,Bに作用する電気泳動力f2を調節する。これにより、誘電泳動特性の異なる細胞A,Bに作用する力f1,f2の総和を変化させ、図4に示されるように、第1の流路2a内をそのまま流動する細胞Aと、電極3a,3bに吸引されて第2の流路2bに流入する細胞Bとを構成し、両者を効率的に分離することができる。
【0027】
このように、本実施形態に係る細胞分離装置1および細胞分離方法によれば、細胞懸濁液を流動させる流路2に、平行平板からなる電極3a,3bと、絶縁板4を配置するだけの簡易な構成によって、誘電泳動特性の異なる複数種の細胞A,Bを効率的に分離することができるという利点がある。
【0028】
なお、本実施形態においては、電極3a,3b間に配置した絶縁板4に1以上の貫通孔4aを設けることとしたが、その数は制限されるものではない。また、貫通孔4aの形状、配列や間隔についても、十分な電界強度の勾配を形成し得るものであれば任意でよい。
【0029】
また、平行平板からなる電極3a,3bの間隔方向の中央位置に絶縁板4を配置することとしたが、これに代えて、図5に示されるように、平行平板からなる電極3a,3bの一方の電極3a表面に絶縁板4を密着させて配置してもよい。この場合には、絶縁板4により被覆された電極3aにおいては、貫通孔4aから露出する部分のみから電気力線Cが形成され、他方の電極3bに向かって、電界強度が漸次低下していくような電界が形成される。これにより、上記と同様にして、流路2における流動方向Lに交差する方向に、誘電泳動特性の異なる細胞A,Bを分離することが可能となる。
【0030】
ここで、図5の細胞分離装置1を用いた実験例について、図6を参照して説明する。
電極3a,3bとして、厚さ1mmのチタン製の一対の平板状の電極3a,3bを用いた。電極3a,3b間の間隔は約1mmとした。また、絶縁板4として、厚さ50μmのカプトン膜を用いた。また、絶縁板4に形成された貫通孔4aとしては約100μmの孔を採用した。
【0031】
また、誘電泳動特性を有する細胞A,Bの代わりに、径寸法約10μmのポリスチレンビーズからなる粒子Dを使用した。
交流電圧としては、振幅1V,1.2V,1.5V、直流成分0〜3V、周波数10kHz,100kHz,500kHz、1MHz.5MHz.10MHzの正弦波状に変化する電圧を用いた。
【0032】
その結果を図6に示す。
図6は、絶縁板4の貫通孔4aに対応する位置において、絶縁板4から一定の距離に配される位置に粒子Dを静止させるための、交流電圧の振幅、直流成分および周波数の関係を示している。すなわち、交流電圧の振幅を1V,1.2V,1.5Vに設定し、それぞれ周波数を順次変化させたときに、粒子Dがいずれの電極3a,3bにも吸着されないための直流成分の値をプロットしている。
【0033】
いずれの振幅の場合においても、周波数1MHz付近において、必要な直流成分の値が極大値となり、大きな電気泳動力f2が粒子Dに作用していることがわかる。したがって、周波数1MHz付近において、大きな電気泳動力f2に対抗する大きな誘電泳動力f1が作用していることがわかる。
【0034】
その結果、交流電圧の振幅と、直流成分とを調節することにより、電気泳動力f2によって粒子Dを電極3aの方向に泳動させ、誘電泳動力F1が作用する粒子Dはそのまま流動させ、あるいは反対方向に泳動させることにより、分離することができる。
【0035】
また、上記実施形態においては、電極3aの表面に絶縁板4を被覆することにより、貫通孔4aから露出する部分のみを電極3aとして構成することとしたが、もともと貫通孔4aの面積と同様に狭い面積を有する電極(図示略)を採用することにしてもよい。
【0036】
ここで、図1の細胞分離装置1を用いた別の実験例について、図7および図8を参照して説明する。
装置条件としては、電極3a,3b間の間隔は約1.2mmとし、厚さ0.2mmの絶縁板4を用いた。流路2の幅は0.5mm(流路2aおよび流路2bの幅をそれぞれ0.5mm)とし、絶縁板4に形成された貫通孔4aとしては約0.2mmの孔を採用した。
【0037】
生細胞および死細胞は培養2日目の3−2H3細胞を用い、周囲溶媒は8.5wt%スクロースと0.3wt%グルコース水溶液の混合溶液とした。
図7は、交流電圧の振幅80Vとし、周波数を1kHz,5kHz,10kHzに変化させた場合の生細胞保持境界の周波数特性を示す。図7に示されるように、周波数が5kHzでオフセット電圧が最も高く出力されるとともに、保持領域が広範囲になることがわかる。
【0038】
図8は、周波数を5kHzとし、交流電圧の振幅を60V,80V,100V,120Vと変化させた場合の生細胞および死細胞の保持境界および保持領域を示す。図8に示される分離可能領域の範囲となるように細胞分離装置1の条件設定を行うことにより、死細胞が透過し生細胞を保持することができるため、生細胞と死細胞とを分離することができる。
【0039】
ここで、図9の細胞分離装置111を用いたさらに別の実験例について、図9から図11を参照して説明する。
装置条件としては、幅12mm、長さ90mm、高さ30mmの細胞分離装置111について、電極3a,3b間の間隔は約1.2mmとし、厚さ0.2mmの絶縁板4を用いた。孔数は約1000個とし、絶縁板4に形成された貫通孔4aとしては約0.2mmの孔を採用した。孔間距離は図10に示されるような配列で0.3mmおよび0.6mmとした。
【0040】
図9に示されるように、細胞懸濁液はポンプPを介して細胞分離装置111に導入され、周囲溶媒とともに流動方向Lに沿って移動する。任意波形ジェネレータGの作動により交流電圧をかけると、絶縁板4の作動により電極3a,3b間に電界強度に勾配のある電界が形成されるとともに、交流電圧に含まれる直流成分によって、一方の電極側に電荷が偏ることになる。例えば、生細胞はこの電荷の偏りによって電界強度が弱まる方向に誘電泳動力を受け、誘電泳動特性を有しない死細胞には誘電泳動力は作用せずに電気泳動力のみが作用することにより、生細胞を保持側、死細胞を透過側に分離することができる。あるいは、生細胞はこの電荷の偏りによって電界強度が強まる方向に誘電泳動力を受けるよう電界を形成させると、誘電泳動特性を有しない死細胞には誘電泳動力は作用せずに電気泳動力のみが作用することにより、生細胞を透過側、死細胞を保持側に分離することもできる。
【0041】
図11は、周波数を5kHz、交流電圧の振幅を100Vとし、オフセット電圧を0から1.0V出力させて生細胞・死細胞の混合分離を行った場合の生細胞および死細胞の保持率を示す。
流量はそれぞれ細胞懸濁液流量0.3ml/min、周囲溶媒流量0.3ml/min、保持液流量0.2ml/min、透過液流量0.4ml/minに設定した。
【0042】
生細胞および死細胞は培養2日目の3−2H3細胞をそれぞれ5.0×105cells/mlずつ用い、周囲溶媒は8.5wt%スクロースと0.3wt%グルコース水溶液の混合溶液とした。
図11に示されるように、細胞分離装置111によれば、オフセット電圧が出力されることにより、死細胞は保持率が低下して透過され、高い保持率を維持たままの生細胞と保持率が低下した死細胞とを分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態に係る細胞分離装置を示す模式的な全体構成図である。
【図2】図1の細胞分離装置の電源により発生する交流電圧波形を示す図である。
【図3】図1の細胞分離装置の電極間に形成される電気力線と細胞に作用する力を示す図であり,(a)分離前の状態、(b)分離後の状態をそれぞれ示している。
【図4】図1の細胞分離装置により異なる誘電特性を有する細胞の分離動作を説明する図である。
【図5】図1の細胞分離装置の変形例を示す部分的な拡大縦断面図である。
【図6】図5の細胞分離装置を用いて発生した交流電圧の周波数変化を示すグラフである。
【図7】細胞保持境界の周波数特性を示すグラフである。
【図8】生細胞および死細胞の保持境界および保持領域を示すグラフである。
【図9】本発明の一実施形態に係る細胞分離装置を示す模式的な全体構成図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る細胞分離装置の多細孔絶縁板の概略を示す図である。
【図11】生細胞および死細胞の保持率を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
A,B 細胞
C 電気力線
D 粒子
G 任意波形ジェネレータ
L 流動方向
P ポンプ
1 細胞分離装置
2 流路
2a 第1の流路(流路)
2b 第2の流路(流路)
3a,3b 電極
4 絶縁板(絶縁部材:電界勾配形成手段)
4a 貫通孔(開口部)
5 電源
111 細胞分離装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電泳動特性の異なる複数種の細胞を含む細胞浮遊液を流動させる流路と、
該流路の流動方向に交差する方向に対向して配置される電極と、
該電極間に形成される電界強度に勾配を生じさせる電界勾配形成手段と、
前記電極間に直流成分を有する交流電圧を加える電源とを備える細胞分離装置。
【請求項2】
前記電界勾配形成手段が、前記電極間に配置された一以上の開口部を有する絶縁部材である請求項1に記載の細胞分離装置。
【請求項3】
前記電極が、ほぼ一様な電界強度を有する電界を形成する平行平板電極である請求項2に記載の細胞分離装置。
【請求項4】
前記電界勾配形成手段が、一方の電極を他方の電極に対して小さく形成することにより構成されている請求項1に記載の細胞分離装置。
【請求項5】
誘電泳動特性の異なる複数種の細胞を含む細胞浮遊液を流動させ、
該流路の流動方向に交差する方向に対向して配置された電極間に、電界強度に勾配を有する電界を形成するとともに、前記電極間に直流成分を有する交流電圧を加える細胞分離方法。
【請求項1】
誘電泳動特性の異なる複数種の細胞を含む細胞浮遊液を流動させる流路と、
該流路の流動方向に交差する方向に対向して配置される電極と、
該電極間に形成される電界強度に勾配を生じさせる電界勾配形成手段と、
前記電極間に直流成分を有する交流電圧を加える電源とを備える細胞分離装置。
【請求項2】
前記電界勾配形成手段が、前記電極間に配置された一以上の開口部を有する絶縁部材である請求項1に記載の細胞分離装置。
【請求項3】
前記電極が、ほぼ一様な電界強度を有する電界を形成する平行平板電極である請求項2に記載の細胞分離装置。
【請求項4】
前記電界勾配形成手段が、一方の電極を他方の電極に対して小さく形成することにより構成されている請求項1に記載の細胞分離装置。
【請求項5】
誘電泳動特性の異なる複数種の細胞を含む細胞浮遊液を流動させ、
該流路の流動方向に交差する方向に対向して配置された電極間に、電界強度に勾配を有する電界を形成するとともに、前記電極間に直流成分を有する交流電圧を加える細胞分離方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−65967(P2009−65967A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−197043(P2008−197043)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]