説明

細胞分離装置および細胞分離方法

【課題】細胞をより確実に分離するとともに分離効率を向上して短時間で分離する。
【解決手段】細胞懸濁液を一方向に流動させる流路4と、該流路4を挟んで対向する第1の電極5および第2の電極6と、これらの電極5,6間に高周波電圧を加える電圧供給部7とを備え、第1の電極5が、流動方向に沿って配置された平坦な表面形状を有し、第2の電極6が、流動方向に交差する方向に沿って形成された溝状の凹部14の底面に配置されている細胞分離装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞分離装置および細胞分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、誘電泳動特性の差を利用して粒子を分離する技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】国際公開第01/005512号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術は、電極の配列方向に流動する粒子を分離するために、波形の電極形状を採用する必要があり、装置が複雑で高価になるとともに、効率的に分離することができないという不都合がある。また、細胞の誘電泳動特性の相違に基づき細胞毎に作用する誘電泳動力、重力、浮力あるいは流動力をバランスさせて、正の誘電泳動特性を有する細胞を電極側に保持し、負の誘電泳動特性を有するものについては電極に保持させることなく流動させることで細胞を分離するものであるため、細胞懸濁液の流動速度を微妙に調節する必要があり、その調節は困難である。
【0005】
そのため、細胞懸濁液の流動速度が速すぎると電極側に引き寄せられた正の誘電泳動特性を有する細胞がそのまま負の誘電泳動特性を有する細胞とともに流されてしまう場合がある。一方、流動速度を遅くすると細胞の保持はより確実に行われるが、分離効率が低下し、分離に多くの時間を要するという不都合がある。
【0006】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、細胞をより確実に分離するとともに分離効率を向上して短時間で分離することができる細胞分離装置および細胞分離方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、細胞懸濁液を一方向に流動させる流路と、該流路を挟んで対向する第1の電極および第2の電極と、これらの電極間に高周波電圧を加える電圧供給部とを備え、前記第1の電極が、流動方向に沿って配置された平坦な表面形状を有し、前記第2の電極が、流動方向に交差する方向に沿って形成された溝状の凹部の底面に配置されている細胞分離装置を提供する。
【0008】
本発明によれば、電圧供給部の作動によって第1の電極と第2の電極との間に高周波電圧を加えることにより、電極間に高周波不平等電界が形成されるので、電極に挟まれる流路内を流動する細胞懸濁液内の各細胞には、それらの細胞の誘電泳動特性に基づいて誘電泳動力が作用し、正の誘電泳動特性を有する細胞は高周波不平等電界の勾配が大きい方へと引き寄せられる。この場合に、第2の電極が溝の底部のみに設けられているので、高周波不平等電界は第2の電極に向かって勾配が大きくなっていく。
【0009】
したがって、正の誘電泳動特性を有する細胞は、第2の電極に引き寄せられ、溝内に入る。溝が流動方向に交差する方向に沿って形成されているので、第2の電極に引き寄せられた細胞は溝に捕捉され、他の細胞は流れに従って流路内を流動し続ける。その結果、正の誘電泳動特性を有する細胞を他の細胞から分離することができる。この場合に、流路内における細胞懸濁液の流動速度を増大させても細胞が溝に捕捉された状態に維持されるので、分離効率を向上し、短時間で分離することができる。
【0010】
上記発明においては、前記凹部が前記流動方向に間隔をあけて複数設けられ、前記第2の電極が、各凹部の底面に配置されていてもよい。
このようにすることで、最初の溝に捕捉されなかった正の誘電泳動特性を有する細胞はそれ以降に配列されている他の溝内の第2の電極に引き寄せられて順次細くされていくので、分離効率をさらに向上することができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記第2の電極が、平坦な表面形状を有する電極部材の表面に設けられた絶縁性の材料からなる絶縁層を部分的に除去して形成された前記凹部の底面に前記電極部材の表面を部分的に露出させることにより設けられていてもよい。
このようにすることで、細胞懸濁液の流動方向に間隔をあけて複数の溝が設けられ、該溝の底面にそれぞれ第2の電極が配置された細胞分離装置を簡易に構成することができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記第1の電極が前記流路の下面に設けられ、前記第2の電極が前記流路の上面に設けられていてもよい。
このようにすることで、溝内に捕捉された正の誘電泳動特性を有する細胞は電極間に加えていた高周波電圧を低下させ、あるいは、遮断することにより、重力により下方の流路内に下降する。したがって、細胞懸濁液を流動させて細胞を捕捉した後、等張液等の細胞を含まない液体を流動させた状態で電極間の高周波電圧を降圧させることにより、第2の電極に捕捉されていた細胞を下降させ、流路を介して簡易に回収することができる。
【0013】
また、本発明は、上記いずれかの細胞分離装置の前記電極間に高周波電圧を加えつつ前記流路内に細胞懸濁液を流動させる捕捉ステップと、該捕捉ステップ後に前記電極間に高周波電圧を加えつつ前記流路内に等張液を流動させる洗浄ステップと、該洗浄ステップ後に前記電極間に加えていた高周波電圧を低下させる降圧ステップと、該降圧ステップにより高周波電圧を低下させた状態のままで前記流路内に等張液を流動させる回収ステップとを備える細胞分離方法を提供する。
【0014】
本発明によれば、捕捉ステップにおいて溝内に正の誘電泳動特性を有する細胞を捕捉した後、洗浄ステップにおいて、細胞を溝内に捕捉させたままの状態で等張液により流路を洗浄することができる。そして、降圧ステップにおいて電極間に加えていた高周波電圧を低下させることにより、第2の電極への吸着状態を解除して、溝内に細くされていた細胞を解放する。その後、回収ステップにおいて、流路内に等張液を流動させることにより、解放された細胞を等張液によって押し流し、簡易に回収することができる。
【0015】
上記発明においては、前記降圧ステップが、前記第2の電極を振動させる振動ステップを備えることとしてもよい。
このようにすることで、第2の電極に吸着されていた細胞が、振動により第2の電極から解放され易くなり、さらに容易に、残らず回収することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、細胞をより確実に分離するとともに分離効率を向上して短時間で分離することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の一実施形態に係る細胞分離装置1および細胞分離方法について、図1〜図3を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る細胞分離装置1は、図1に示されるように、細胞懸濁液Aを貯留する懸濁液容器2と、等張液Bを貯留する等張液容器3と、これらの容器2,3の下流側に配置される流路4と、該流路4を上下に挟んで対向する第1、第2の電極5,6と、該電極5,6間に高周波電圧を加える電圧供給部7と、流路4の下流側に配置された廃液容器8および回収容器9と、流路4の両端にそれぞれ配置された三方弁10,11と、これらの三方弁10,11および電圧供給部7を制御する制御部12とを備えている。
【0018】
制御部12により流路4の上流側の三方弁10が制御され、懸濁液容器2または等張液容器3のいずれかが流路4に接続されると、流路4に細胞懸濁液Aまたは等張液Bのいずれかが流動させられるようになっている。また、制御部12により流路4の下流側の三方弁11が制御され、廃液容器8または回収容器9のいずれかが流路4に接続されると、流路4内を流動してきた細胞懸濁液Aまたは等張液Bが回収されるようになっている。
【0019】
第1の電極5は、図2に示されるように、流路4の下面に長手方向に沿って配置された平板状電極である。第2の電極6は、流路4の上面に長手方向に沿って第1の電極5と平行間隔をあけて配置される平板状電極の表面に、所定の厚さの絶縁材料からなる絶縁層13を形成することにより構成されている。絶縁層13は流路4の長手方向に間隔をあけて複数箇所で途切れており、これによって、長手方向に直交する方向に直線状に延びる複数の溝14が形成され、これらの溝14の底面に平板状電極を部分的に露出させている。すなわち、第2の電極6は、流路4の長手方向に間隔をあけて複数設けられた直線状の溝14の底面にそれぞれ設けられている。
【0020】
電圧供給部7の作動により第1の電極5と第2の電極6との間に高周波電圧を加えると、図3に示されるように、第1の電極5から第2の電極6に向けて電界の勾配が徐々に大きくなる高周波不平等電界Eが流路4の上下方向に形成されるようになっている。
【0021】
このように構成された本実施形態に係る細胞分離装置1を用いた細胞分離方法について、以下に説明する。
本実施形態に係る細胞分離装置1を用いて細胞懸濁液A内に含まれる正の誘電泳動特性を有する細胞(図3中黒塗りの円で示される細胞)Xを分離回収するには、制御部12が、まず、図4に示されるように、三方弁10,11によって懸濁液容器2、流路4および廃液容器8を接続し、懸濁液容器2内の細胞懸濁液Aを流路4に流通させる。図中、黒塗りされた三方弁の方向が閉止されていることが示されている。
【0022】
このとき、制御部12は、第1、第2の電極5,6間に高周波電圧を加えることにより、流路4内に高周波不平等電界Eを形成する(捕捉ステップ)。これにより、細胞懸濁液A内に含まれている正の誘電泳動特性を有する細胞Xは、電界Eの勾配が大きくなる方向、すなわち、第2の電極6に向けて上方に引き寄せられ、第2の電極6に吸着される。一方、正の誘電泳動特性を有しない細胞(図3中黒塗りされていない円で示される細胞)Yは第2の電極6に吸着されることなく、流路4内をそのまま流動して廃液容器8に回収される。
【0023】
第2の電極6は、流路4の上面に形成された溝14の底面に配置されているので、吸着された細胞Xは、図3に示されるように溝14内に収容され、細胞懸濁液Aの流れにかかわらず、流されることなく第2の電極6に捕捉された状態に維持される。
【0024】
次いで、制御部12は、図5に示されるように、三方弁10を切り替えて等張液容器3と流路4とを接続し、高周波不平等電界Eを流路4内に形成したままの状態で等張液Bを流路4内に流通させる(洗浄ステップ)。これにより、流路4内に残留していた細胞懸濁液Aが廃液容器8内に排出される。
【0025】
この状態で、制御部12は、図6に示されるように、三方弁11を切り替えて、廃液容器8と流路4との接続を遮断し、回収容器9と流路4とを接続する。そして、制御部12は、電圧供給部7による高周波電圧の供給を停止する(降圧ステップ)。これにより、流路4内に形成されていた高周波不平等電界Eが消滅し、第2の電極6に吸着されていた正の誘電泳動特性を有する細胞Xが解放されるので、溝14内から重力によって下降し流路4内に放出される。流路4内には等張液Bが流動されているので、放出された細胞Xは等張液Bに乗って回収容器9に回収される(回収ステップ)。
【0026】
このように、本実施形態に係る細胞分離装置1および細胞分離方法によれば、第2の電極6に吸着された細胞Xが、凹部14に収容されるので、流路4内において細胞懸濁液Aが比較的速い速度で流動しても捕捉され続け、他の細胞Yからより確実に分離することができる。また、本実施形態に係る細胞分離装置1によれば、第2の電極6が設けられた溝14が、流動方向に間隔をあけて複数設けられているので、正の誘電泳動特性を有する細胞Xが上流側の溝14から順次捕捉されていく。したがって、細胞Xをより確実に分離することができる。
【0027】
また、本実施形態においては、細胞Xを捕捉する溝14を流路4の上面側に配置したので、高周波不平等電界Eを消滅させるだけで、重力の作用により細胞Xを容易に流路4内に放出させることができ、捕捉された細胞Xを簡易に回収することができる。
【0028】
また、平板状電極の表面に絶縁層13を形成し、その絶縁層13を部分的に切り欠いた形態とすることで、溝14の底面に第2の電極6を露出させることとしたが、これに代えて、絶縁層に形成した溝14の底面に個別に第2の電極6を配置してもよい。
【0029】
なお、本実施形態においては、第2の電極5を流路4の上面に配置したが、これに代えて、下面または側壁に設けることにしてもよい。
また、本実施形態においては、降圧ステップにおいて電極5,6間に加えていた電圧の供給を停止することとしたが、これに代えて、細胞Xの吸着状態が解除される程度に電圧を低下させることにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係る細胞分離装置を示す全体構成図である。
【図2】図1の細胞分離装置の流路と電極の配置例を示す模式的な縦断面図である。
【図3】図2の電極に高周波電圧を加えて高周波不平等電界を形成し、細胞を捕捉する捕捉ステップを示す縦断面図である。
【図4】図3の捕捉ステップを説明する全体構成図である。
【図5】図4の捕捉ステップ後の洗浄ステップを説明する全体構成図である。
【図6】図5の洗浄ステップ後の回収ステップを説明する全体構成図である。
【符号の説明】
【0031】
A 細胞
B 等張液
1 細胞分離装置
2 懸濁液容器
3 等張液容器
4 流路
5 第1の電極
6 第2の電極
7 電圧供給部
8 廃液容器
9 回収容器
10,11 三方弁
12 制御部
13 絶縁層
14 溝(凹部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞懸濁液を一方向に流動させる流路と、
該流路を挟んで対向する第1の電極および第2の電極と、
これらの電極間に高周波電圧を加える電圧供給部とを備え、
前記第1の電極が、流動方向に沿って配置された平坦な表面形状を有し、
前記第2の電極が、流動方向に交差する方向に沿って形成された溝状の凹部の底面に配置されている細胞分離装置。
【請求項2】
前記凹部が前記流動方向に間隔をあけて複数設けられ、
前記第2の電極が、各凹部の底面に配置されている請求項1に記載の細胞分離装置。
【請求項3】
前記第2の電極が、平坦な表面形状を有する電極部材の表面に設けられた絶縁性の材料からなる絶縁層を部分的に除去して形成された前記凹部の底面に前記電極部材の表面を部分的に露出させることにより設けられている請求項2に記載の細胞分離装置。
【請求項4】
前記第1の電極が前記流路の下面に設けられ、
前記第2の電極が前記流路の上面に設けられている請求項1から請求項3のいずれかに記載の細胞分離装置。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の細胞分離装置の前記電極間に高周波電圧を加えつつ前記流路内に細胞懸濁液を流動させる捕捉ステップと、
該捕捉ステップ後に前記電極間に高周波電圧を加えつつ前記流路内に等張液を流動させる洗浄ステップと、
該洗浄ステップ後に前記電極間に加えていた高周波電圧を低下させる降圧ステップと、
該降圧ステップにより高周波電圧を低下させた状態のままで前記流路内に等張液を流動させる回収ステップとを備える細胞分離方法。
【請求項6】
前記降圧ステップが、前記第2の電極を振動させる振動ステップを備える請求項5に記載の細胞分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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