説明

細胞培養基材及び細胞培養方法

【課題】従来、生体組織において共存する異種の細胞を共培養する場合、より生体に近い細胞の機能を発現させるために細胞をパターニングした状態での培養が検討されているが、そのパターニング基材の作製の煩雑さを解消することにある。
【解決手段】光応答性基を有し、光照射によって照射部の細胞接着性が変化するハイドロゲルを用いたことを特徴とする細胞培養基材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射によって細胞との接着性が変化するハイドロゲルと、それを足場材とする細胞培養基材、および該細胞培養基材を用いた細胞の培養・回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞培養技術は、生体を対象とする様々な分野で用いられる基本技術であり、細胞の生化学的現象や性質の解明、有用な物質の生産などの様々な目的で利用されている。特に生化学の分野では、医薬品の開発や診断などには欠くことのできない技術となっている。近年では、研究目的の細胞培養技術のみならず、生物学、医学、免疫学等の分野での利用を目的とした工業生産的培養方法も種々検討されており、医療分野においては、生体外で培養した細胞を人工臓器、人工歯骨、人工皮膚等の代替組織として利用する研究も行われている。
【0003】
細胞の機能を維持したまま細胞を培養する場合、一種類の細胞のみを用いる培養系よりも、より生体に近い状態、つまり共存する異種の細胞を同時に培養する共培養の形態が望ましく、例えば肝細胞と血管内皮細胞を同一平面状で培養した場合、肝細胞単独で培養した場合と比較して細胞の寿命が延びることが知られている。従来知られている共培養の方法としては、複数の細胞の混合物を同一の細胞培養基材上に播種し培養する方法、または、共存する細胞を逐次播種して培養する方法が挙げられる。このように生体組織において共存する異種の細胞を共培養する場合、より生体に近い細胞の機能を発現させるために、細胞をパターニングした状態での培養が検討されているが、そのパターニング基材の作製が煩雑であり、また、パターニングされた細胞を回収する際、細胞種によっては剥離が困難な場合があった。従来、細胞培養はガラス基板上、あるいは高分子基材の表面上で行われており、一例として、ポリスチレンのディッシュ状の成形品表面に低温プラズマ処理、コロナ放電処理等を施したものは既に市販されているが、このような細胞培養基材上で共培養された細胞を基材表面から剥離、回収する場合、トリプシンのようなタンパク分解酵素で細胞外マトリクスタンパクを分解し、カルシウムイオンを、キレート剤を用いて除去することが必要であった。このような手段により細胞を回収した場合、処理工程が煩雑であったり、また培養された細胞が前記処理により変性し、細胞の機能を維持したまま回収することが困難であった。これに対し、温度応答性の細胞培養基材を用いることで、培養時に細胞間、あるいは細胞と培養基材間に生成した細胞接着性タンパク質(フィブロネクチン)等の細胞外マトリックスを保持したまま、細胞をシート状、あるいは細胞塊状で剥離できるため、細胞の機能を損なわずに基材から分離、回収できる方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、培養する細胞をパターニングするためには、培養基材の表面に複数のポリマー領域をポリマー種毎に形成しなければならず、操作が煩雑であった。また、細胞をパターニングした形状で培養し、これを生きたまま転写して組織を形成する技術が提案されているが、細胞転写の時間がかかることや操作が煩雑であるといった課題があった(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】国際公開第01/68799号パンフレット
【特許文献2】特開2005−342112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、生体組織において共存する異種の細胞を共培養する場合、より生体に近い細胞の機能を発現させるために細胞をパターニングした状態での培養が検討されているが、そのパターニング基材の作製が煩雑さを解消することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、細胞を播種する前、及び/又は、後に光照射することにより細胞接着性を変化させることができる光応答性表面を有し、且つ温度によりゾル−ゲル相転移が起こる足場材を有する細胞培養基材を用いることで、培養機材表面の親水性部領域(細胞非接着性)と疎水性領域(細胞接着性)を簡便に任意の形状にパターニングでき、該基材表面で複数の細胞を共培養させた培養細胞を、その細胞機能を損傷することなく簡便に細胞を剥離、回収することが可能であることを見出した。
【0006】
本発明は、以下の構成により達成される。
1.光応答性基を有し、光照射によって照射部の細胞接着性が変化するハイドロゲルを用いたことを特徴とする細胞培養基材。
2.前記光応答性基が、アゾベンゼン、スピロピラン、フルギド、およびジアリールエテン構造を有するフォトクロミック基から選ばれる基であることを特徴とする前記1に記載の細胞培養基材。
3.前記ハイドロゲルが、低温でゾル状態、高温でゲル化する熱可逆的なゾル−ゲル転移現象を示すことを特徴とする前記1または2に記載の細胞培養基材。
4.前記ハイドロゲルが、0℃以上、45℃以下の温度範囲でゾル−ゲル転移現象を示すことを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載の細胞培養基材。
5.前記細胞培養基材が、水に対して曇点を有する単量体、親水性単量体、およびフォトクロミック基を有する単量体とを重合して得られるハイドロゲル形成重合体成分を含むことを特徴とする前記1〜4のいずれか1項に記載の細胞培養基材。
6.前記1〜5のいずれか1項に記載の細胞培養基材を用いる細胞培養方法であって、前記ハイドロゲル表面の所定領域に光照射し、光照射領域における細胞接着性を増強または低減させて細胞を選択的に播種、接着させ培養する工程、続いて細胞接着領域以外の領域に光照射して細胞接着性を増強させ他の細胞を選択的に播種、接着させ共培養する工程、および表面に複数種の細胞が共培養されたゲル状態のハイドロゲルをゾル−ゲル転移温度より低い温度でゾル状態として細胞を回収する工程を含む細胞培養方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、簡便な操作で共培養に必要なパターン化された培養表面を形成できる細胞培養基材を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0009】
本発明の細胞培養基材は光応答性基を有し、光照射によって照射部の細胞接着性が変化するハイドロゲルを足場材として用いるものであって、低温でゾル状態、高温でゲル化する熱可逆的なゾル−ゲル転移現象を示し、且つゾル−ゲル転移温度より高い温度において、該ゲルは水に対して不溶性であることを特徴としている。以下、本発明を更に詳しく説明する。
【0010】
(ハイドロゲル)
本発明で使用されるハイドロゲルは、少なくともアゾベンゼン、スピロピラン、スピロオキサジン、フルギド、およびジアリールエテン構造から選ばれる光応答性のフォトクロミック基を結合した単量体を含む単量体組成物を重合せしめた重合体を光応答性成分として含むものであり、且つ低温でゾル状態、高温でゲル状態となる熱可逆的なゾル−ゲル相転移現象を示し、ゾル−ゲル転移温度より高い温度では水に対して不溶性となる熱可逆性ハイドロゲルである。本発明の光応答性表面を発現する光応答性成分は、前記フォトクロミック基が光照射によって分子構造が変化し、その特性、特に分極率や溶媒親和性(親疎水性)が変化する性質を有しており、このような成分を含むハイドロゲルを培養基材として用いた場合、疎水性の状態では細胞が接着し易く、逆に親水性の状態では細胞が接着しにくい、あるいは剥がれやすい表面物性を示す。
【0011】
このような重合体としては、例えばアゾベンゼン、スピロピラン、フルギド、およびジアリールエテンから選ばれた光応答性基が結合された、重合性二重結合を有するモノマーをハイドロゲルを形成するモノマーと共重合させたものを使用することができる。
【0012】
これらの光応答性成分は、単独で、または使用目的によっては、2種類以上を適宜組み合わせて使用することができる。前記光応答性を有する重合体の光応答性基を有するモノマーユニットは、光応答性基を有する重合体を構成する全モノマーユニット数に対し、0.1〜100mol%、好ましくは1〜10mol%であり、より好ましくは1〜3mol%程度である。
【0013】
本発明のハイドロゲルのゾル−ゲル転移温度は0℃以上、45℃以下であり、好ましくは3℃以上、40℃以下である。本発明で用いられる熱可逆ハイドロゲル形成性の高分子は、曇点を有する複数のブロックと親水性のブロックが結合して構成されている高分子成分を含んでいる。
【0014】
疎水結合を利用してゲル化する親水性のブロックは、ゾル−ゲル転移温度より低い温度で該ハイドロゲルが水溶性となる機能を有し、また曇点を有する複数のブロックは、ハイドロゲルがゾル−ゲル転移温度より高い温度でゲル状態に変化する機能を有する。また、曇点を有するブロックは該曇点より低い温度では水に溶解し、該曇点より高い温度では水に不溶性に変化する。即ち、曇点より高い温度で該ブロックは、ゲルを形成するための疎水結合からなる架橋点を形成する。
【0015】
この熱可逆的なゾル−ゲル相転移現象は、疎水性結合が、温度の上昇と共に強くなり、その変化が温度に対して可逆的であるという性質を利用したものである。
【0016】
曇点を有するブロックを形成する単量体としては、N−アクリロイルピペリジン、N−n−プロピルメタアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルメタアクリルアミド、N−シクロプロピルアクリルアミド、N−アクリロイルピロリジン、N,N−エチルメチルアクリルアミド、N−シクロプロピルメタアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
親水性のブロックを形成する単量体としては、N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、アクリルアミド、メタアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルメタアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシメチルメタアクリレート、ヒドロキシメチルアクリレート、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸等、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリート、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、前記単量体の他に疎水性単量体を共重合させてもよく、疎水性単量体と共重合することで生成物の曇点は下降する。共重合に用いる単量体の選択により、所望の曇点を有するハイドロゲル形成性高分子を得ることができる。
【0018】
疎水性の単量体としては、例えば、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のアクリレート誘導体およびメタクリレート誘導体、N−n−ブチルメタアクリルアミド等のN−置換アルキルメタアクリルアミド誘導体、塩化ビニル、アクリロニトリル、スチレン、酢酸ビニル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。更に、より好ましくは前記光応答性の重合体成分の他に、天然高分子材料や合成高分子材料を適宜選択し、混合して用いることもできる。
【0019】
天然高分子材料としては、コラーゲン、ゼラチンなどの蛋白質、ヒアルロン酸、アルギン酸などの酸性多糖類やその塩、寒天、アガロース、セルロースなどの中性多糖類やその誘導体、キチン、キトサンなどの塩基性多糖類を挙げることができる。
【0020】
また、合成高分子材料としては、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリN−ビニルピロリドン、ポリビニルピリジン、ポリアクリルアミド、ポリメタアクリルアミド、ポリN−メチルアクリルアミド、ポリヒドロキシメチルアクリレート、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸およびそれらの塩、ポリN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、ポリN,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、ポリN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドおよびそれらの塩等が挙げられる。
【0021】
(培養基材の作製)
本発明のハイドロゲルを用いた培養基材を作製するには、上記の光応答性重合体成分を含むハイドロゲルをゾル−ゲル相転移温度以下の温度で培地溶液に溶解し、この溶液を培養支持体に展開した後、ゾル−ゲル相転移温度以上に温度を上げゲル化させて作製する。
【0022】
用いる培養支持体としては、通常細胞培養に用いられるガラス製、ポリスチレン製、ポリメチルメタクリレート製等の培養皿を用いればよいが、その素材や形状等は特に限定されるものではない。
【0023】
(培養基材のパターニングと細胞の培養方法)
得られた培養基材に細胞を播種する場合は、培養基材をゲル化温度以上で所望のパターン、形状、サイズの領域に紫外光を照射して照射部位の親疎水性を変化させ、細胞接着性の異なる領域をパターニングする。パターン化する場合は、所望のパターンを形成したマスクを用いて紫外光を照射する方法、あるいはUVレーザー等を用いてパターンを描画する方法等が挙げられる。
【0024】
ここで、光応答性基としてスピロピラン基を有する光応答性成分を含有するハイドロゲルを培養基材として用いた場合の基材表面のパターニングと細胞の播種方法について説明する。
【0025】
まず、培地溶液を含むハイドロゲル基材をゲル形成温度以上とし、所望のパターン形状のマスクで培養基材表面を覆った後、365nmの紫外光を照射する。光照射部は、スピロピラン基の開環反応によりメロシアニン構造に変化することで親水性となり、細胞が付着しない(し難い)領域が形成される。
【0026】
このパターン化された培養機材表面に、第一の細胞を播種し、37℃にて所定時間培養する。次に、ピペッティングにより光照射部のみから細胞を脱着させた後、培養基材に570nmの可視光を照射し、前記紫外線照射部のスピロピラン基の閉環反応により基材表面を疎水性に変化させる。
【0027】
この疎水性に変化した領域に第二の細胞を播種し、37℃にて所定時間共培養させる。
【0028】
得られた共培養シートを回収する場合は基材をハイドロゲルのゲル形成温度未満まで冷却すると基材がゾル化するため、細胞機能を保持したまま容易に回収できる。
【0029】
また、細胞の活性(機能発現)については、例えば、肝実質細胞については、アルブミン産生能(培地中に分秘されたアルブミン量を測定する)でみることができる。
【0030】
このように、細胞を播種する前、及び/又は、後に光照射することにより細胞接着性を変化させることができる光応答性表面を有し、且つ温度によりゾル−ゲル相転移が起こる足場材を有する細胞培養基材を用いることで、培養機材表面の親水性部領域(細胞非接着性)と疎水性領域(細胞接着性)を簡便に任意の形状にパターニングでき、細胞をパターニングした状態で複数の細胞を共培養させ、また、パターニングされた細胞を回収する際にも、細胞培養基材上で共培養された細胞をその細胞機能を損傷することなく基材表面から容易に剥離、回収できる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。
【0032】
製造例1
N−イソプロピルアクリルアミド(興人社製)40質量部、n−ブチルメタクリレート(和光純薬社製)5質量部、および光応答性の単量体としてN−[3−{3′,3′−ジメチル−6−ニトロスピロ(2H−1−ベンゾピラン−2,2′−インドリン)−1−イル−プロピオニル}−プロピル]−メタクリルアミド(Heterocycles,51,2639〜2651(1999)記載の製造方法に従って合成した)3質量部を、をエタノール500質量部に溶解し、ポリエチレンオキサイドモノアクリレート(日本油脂社製)30質量部を蒸留水150質量部に溶解した水溶液および蒸留水500質量部を加え、窒素気流下70℃で10質量%過硫酸アンモニウム(APS)水溶液500質量部、およびN,N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)10質量部を加え、窒素気流下70℃に保持したまま30分間反応させた。得られた反応液を4℃の蒸留水3000質量部で希釈し、該水溶液を4℃で限外濾過膜(バイオマックス100、P2B100V20、ミリポア社製)を用いて溶液を容量1/20まで濃縮した。濃縮液に蒸留水1000質量部を加えて希釈、再度濃縮を行い、この希釈、濃縮操作を更に9回繰り返し、未反応物および低分子量物を除去した。得られた最終濃縮液を凍結乾燥して、熱可逆性ハイドロゲル形成性高分子1を得た。
【0033】
得られたハイドロゲル形成性高分子1質量部に蒸留水を加えて全体を10質量部とし、4℃で溶解して濃度10質量%の均一水溶液とした。この水溶液を加温するとゲルを形成し、動的粘弾性の測定によりゾル−ゲル転移温度を求めると、昇温時および降温時ともに23℃であった。該水溶液は0℃〜17℃の温度領域では液状であり、ゲル化することはなかった。
【0034】
製造例2
コラーゲン(SCP−5100,分子量5,000、新田ゼラチン社製)30質量部を蒸留水100質量部に37℃で溶解し、N−アクリロイルスクシンイミド(国産化学社製)5質量部を加えて37℃で4日間反応させ、重合性コラーゲンペプチドの水溶液を得た。N−イソプロピルアクリルアミド(興人社製)40質量部、n−ブチルメタクリレート(和光純薬社製)5質量部、およびN−[3−{3′,3′−ジメチル−6−ニトロスピロ(2H−1−ベンゾピラン−2,2′−インドリン)−1−イル−プロピオニル}−プロピル]−メタクリルアミド(Heterocycles,51,2639〜2651(1999)記載の製造方法に従って合成)3質量部を、をエタノール500質量部に溶解し、上記の重合性コラーゲンペプチドの水溶液30質量部および蒸留水500質量部を加え、窒素気流下70℃で10質量%過硫酸アンモニウム(APS)水溶液500質量部、及びN,N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)10質量部を加え、窒素気流下70℃に保持したまま5時間反応させた。得られた反応液を4℃の蒸留水3000質量部で希釈し、該水溶液を4℃で限外濾過膜(バイオマックス100、P2B100V20、ミリポア社製)を用いて溶液を容量1/20まで濃縮した。濃縮液に蒸留水1000質量部を加えて希釈、再度濃縮を行い、この希釈、濃縮操作を更に9回繰り返し、未反応物および低分子量物を除去した。得られた最終濃縮液を凍結乾燥して、熱可逆ハイドロゲル形成性高分子2を得た。
【0035】
得られたハイドロゲル形成性高分子1質量部に蒸留水を加えて全体を10質量部とし、4℃で溶解して濃度10質量%の均一水溶液とした。この水溶液を加温するとゲルを形成し、動的粘弾性の測定によりゾル−ゲル転移温度を求めると、昇温時および降温時ともに20℃であった。該水溶液は0℃〜14℃の温度領域では液状であり、ゲル化することはなかった。
【0036】
製造例3
製造例1において、光応答性の単量体であるN−[3−{3′,3′−ジメチル−6−ニトロスピロ(2H−1−ベンゾピラン−2,2′−インドリン)−1−イル−プロピオニル}−プロピル]−メタクリルアミドを加えずに、他は同様の操作にて熱可逆ハイドロゲル形成性高分子3を得た。
【0037】
得られたハイドロゲル形成性高分子1質量部に蒸留水を加えて全体を10質量部とし、4℃で溶解して濃度10質量%の均一水溶液とした。この水溶液を加温するとゲルを形成し、動的粘弾性の測定によりゾル−ゲル転移温度を求めると、昇温時および降温時ともに21℃であった。該水溶液は0℃〜15℃の温度領域では液状であり、ゲル化することはなかった。
【0038】
実施例1
製造例1で得られた熱可逆ハイドロゲル形成性高分子1の10質量部をハンクス平衡塩液(HBSS、インビトロジェン社製)300質量部に4℃にて溶解し、得られた溶液を4℃にて市販のポリスチレン製細胞培養皿(ファルコン3002ペトリディッシュ、ベクトン・ディッキンソン・ラブウェア社製)に加えて流延した後、温度を37℃に上げてハイドロゲル溶液をゲル化させた。
【0039】
この培養皿表面に直径1mm、中心間距離が1.5mmの孔を有するマスクで被覆した後、37℃にて光照射装置(LC6、浜松ホトニクス社製)を用い、バンドパスフィルターを装着して主波長365nm、強度20mW/cmの紫外光を1分間照射して培養皿表面をパターン化した。次に、37℃にてこの表面にラット肝実質細胞を播種し、2日間培養した。培養後、ピペッティングにより紫外線照射された領域(親水性表面)の細胞を脱着させた。続いて温度を37℃に維持したままで、この培養皿表面にバンドパスフィルターを装着した光照射装置で570nmの可視光を1分間照射して細胞が脱着した親水性表面を疎水化した後、肝実質細胞が脱着した領域にラット血管内皮細胞を播種して3日間共培養した。共培養後の肝実質細胞の活性を表すアルブミン産生能について、その後、ELISA法により測定した結果を表1に示す。また、この共培養細胞は、培養皿を4℃まで冷却してハイドロゲルをゾル化させることで容易に回収することができた。
【0040】
実施例2
実施例1において、熱可逆ハイドロゲル形成性高分子1の代わりに熱可逆ハイドロゲル形成高分子2を用いること以外は実施例1と同様の操作によりラット肝実質細胞とラット血管内皮細胞を共培養した。共培養後の肝実質細胞のアルブミン産生能について、ELISA法により測定した結果を表1に示す。また、この共培養細胞は、培養皿を4℃まで冷却してハイドロゲルをゾル化させることで容易に回収することができた。
【0041】
比較例1
製造例3で得られた熱可逆ハイドロゲル形成性高分子1の10質量部をハンクス平衡塩液(HBSS、インビトロジェン社製)300質量部に4℃にて溶解し、得られた溶液を4℃にて市販のポリスチレン製細胞培養皿(ファルコン3002ペトリディッシュ、ベクトン・ディッキンソン・ラブウェア社製)に加えて流延した後、温度を37℃に上げてハイドロゲル溶液をゲル化させた。次に、37℃にてこの表面にラット肝実質細胞を播種し、5日間培養した。培養後の肝実質細胞のアルブミン産生能について、その後ELISA法により測定した結果を表1に示す。また、この培養細胞についても、培養皿を4℃まで冷却してハイドロゲルをゾル化させることで容易に回収することができた。
【0042】
【表1】

【0043】
表1より、本発明の培養方法を用いて肝細胞の共培養を行えば、肝細胞単独での培養細胞と比較して長期に亘り細胞活性を維持できており、細胞機能を保持できる培養方法であることが分かる。
【0044】
また、細胞の共培養に効果的な培養基材表面のパターンニングについては、従来行われていたように所望の親疎水性を有するポリマーをポリマー種毎に形成しなければならなかったが、本発明の培養基材では所望のパターンに合わせて光を照射するだけで容易にパターンニングが行えることから、本発明のハイドロゲルを用いた細胞培養方法は極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光応答性基を有し、光照射によって照射部の細胞接着性が変化するハイドロゲルを用いたことを特徴とする細胞培養基材。
【請求項2】
前記光応答性基が、アゾベンゼン、スピロピラン、フルギド、およびジアリールエテン構造を有するフォトクロミック基から選ばれる基であることを特徴とする請求項1に記載の細胞培養基材。
【請求項3】
前記ハイドロゲルが、低温でゾル状態、高温でゲル化する熱可逆的なゾル−ゲル転移現象を示すことを特徴とする請求項1または2に記載の細胞培養基材。
【請求項4】
前記ハイドロゲルが、0℃以上、45℃以下の温度範囲でゾル−ゲル転移現象を示すことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞培養基材。
【請求項5】
前記細胞培養基材が、水に対して曇点を有する単量体、親水性単量体、およびフォトクロミック基を有する単量体とを重合して得られるハイドロゲル形成重合体成分を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞培養基材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の細胞培養基材を用いる細胞培養方法であって、前記ハイドロゲル表面の所定領域に光照射し、光照射領域における細胞接着性を増強または低減させて細胞を選択的に播種、接着させ培養する工程、続いて細胞接着領域以外の領域に光照射して細胞接着性を増強させ他の細胞を選択的に播種、接着させ共培養する工程、および表面に複数種の細胞が共培養されたゲル状態のハイドロゲルをゾル−ゲル転移温度より低い温度でゾル状態として細胞を回収する工程を含む細胞培養方法。