説明

細胞培養支持体の製造方法

【課題】本発明は、刺激応答性高分子が表面にグラフト化された細胞培養支持体における、細胞接着性、細胞シートの剥離性、又は単一細胞の剥離性を基材の種類に応じて最適化する技術を提供することを目的とする。
【解決手段】細胞培養支持体の製造において、刺激応答性高分子を形成し得るモノマーと、モノマーが重合してなるプレポリマーと、有機溶媒とを含む塗布用組成物中のモノマーの配合量を基材の種類に応じて選択することにより、細胞接着性、細胞シートの剥離性又は単一細胞の剥離性を最適化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞培養支持体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは既に放射線を用いて温度応答性ポリマーを基材表面にグラフト化させる製造方法において、表面に共有結合させるモノマーを基材に均一にコートし、均質で安定的なグラフト表面を得るために、重合前のモノマーを含有する塗布用組成物にオリゴマー又はプレポリマーを混入させることが良いということを発明し、特許出願済みである(特願2007-066700号)。
【0003】
従来、放射線を用いて温度応答性ポリマーを基材表面にグラフト化させる製造方法において作製された細胞培養支持体は、通常細胞培養に用いられるポリスチレンの細胞培養支持体より少し細胞接着が弱い傾向がある。このため、接着性の細胞においても通常の細胞培養支持体であるポリスチレン支持体と比較すると接着細胞数が少なかったり、そのために、細胞増殖が遅れたり、所望の細胞を増殖させるために、不要な細胞が増えたり、異なる細胞への分化が進んだり、細胞種によって所望の細胞シートを得るために不都合なことがあった。そのため、基材表面にゼラチンやコラーゲン、フィブロネクチン等のプレコートをして、未処理の支持体と細胞接着性と表面接着たんぱく質の構成を代えて細胞培養を行う場合があった。一部の強い接着性を持った細胞ではポリマーの下限臨界溶解温度以下でも細胞が剥がれ難く、ピペッティングやタッピングなどの物理的な刺激を加えてみたり、希釈したトリプシンやEDTAなどと温度処理の併用をしても細胞シートが得られないことがあった。
【0004】
また、細胞シートを再生医療の組織として用いる際は、培養に用いる培地には自己血清を入れるか無血清のものを用いる。さらに、各種細胞の分化・誘導を目的としたES細胞、間様系細胞、iPS細胞、前駆体細胞等では無血清培地を用いた培養を行うことが多い。こうした無血清培地を用いた細胞培養では細胞の支持体接着性が弱まる傾向があり、前述の天然物由来のプレコート等で複雑な接着条件設定、煩雑な操作、再現性の犠牲等が問題となった。
【0005】
このため、細胞培養支持体の細胞接着性は支持体へのプレコートで所望の細胞を接着・増殖させる上で適当な状態が求められ、温度応答性ポリマーを基材表面にグラフト化させる製造方法においても、プレコートに置換わる接着性・剥離性の強弱を制御できる方法が望まれた。
【0006】
また、本発明者らは特願2007-111757号で従来プラスチックシャーレ素材のポリスチレンや一部スライドガラス等のガラスにシラン処理したものでしか、実施されなかった温度応答性のグラフトについて、各種プラスチック素材へ展開する方法を示したが、ベース基材が異なると温度応答性を示すものの、細胞接着力、細胞剥離力が変化し、短期間で細胞シートを作製し、細胞シート剥離出来るものと、温度応答性細胞接着・脱離は観察されるが、細胞シートが得にくいもの等が観察された。その中で、適材適所の素材上に最適な温度応答性ポリマーを基材表面にグラフト化させる製造方法が求められた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、温度応答性ポリマー、pH応答性ポリマー及びイオン応答性ポリマーからなる群から選択される少なくとも1種の刺激応答性高分子が共有結合を介して表面に固定化された細胞培養支持体における、細胞接着性、細胞シートの剥離性、又は単一細胞の剥離性を基材の種類に応じて最適化する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、刺激応答性高分子が共有結合を介して表面に固定化された細胞培養支持体の製造において、前記刺激応答性高分子を形成し得るモノマーと、前記モノマーが重合してなるオリゴマー又はプレポリマーと、有機溶媒とを含む塗布用組成物中の前記モノマーの配合量を基材の種類に応じて選択することにより、細胞接着性、細胞シートの剥離性又は単一細胞の剥離性を最適化することができることを見出した。すなわち本発明は以下の発明を包含する。
【0009】
(1)温度応答性ポリマー、pH応答性ポリマー及びイオン応答性ポリマーからなる群から選択される少なくとも1種の刺激応答性高分子が共有結合により表面に固定化された細胞培養支持体の製造方法であって、放射線照射により重合して前記刺激応答性高分子を形成し得るモノマーと、前記モノマーが重合してなるオリゴマー又はプレポリマーと、有機溶媒とを含む塗布用組成物を、放射線照射により前記刺激応答性高分子が共有結合を介して導入され得る材料を含む表面を備えた基材に塗布して、前記基材の表面上に塗膜を形成する塗布工程と、前記塗膜に放射線を照射して、基材表面上における前記刺激応答性高分子の形成反応を進行させる放射線照射工程と、前記塗膜を乾燥させる乾燥工程とを含み、前記塗布用組成物中の前記モノマーの配合量が、製造される細胞培養支持体の細胞接着性、細胞シートの剥離性及び単一細胞の剥離性の少なくとも一つが所定の程度となるように決定された配合量である、前記方法。
(2)前記基材が、表面が接着処理されたポリエチレンテレフタレート、表面にウレタンアクリレートを被覆したポリエチレンテレフタレート、又は表面にウレタンアクリレートを被覆したポリカーボネートであり、前記塗布用組成物中の前記モノマーの配合量が3〜20重量%である、(1)の方法。
(3)前記基材が、表面がプラズマ処理されたポリカーボネート、又は表面化プラズマ処理されたポリカーボネートとABS樹脂のブレンド若しくはポリマーアロイであり、前記塗布用組成物中の前記モノマーの配合量が2〜8重量%である、(1)の方法。
(4)前記基材が、表面がプラズマ処理された多孔質のポリカーボネート、又は表面がプラズマ処理された多孔質のポリカーボネートとABS樹脂のブレンド若しくはポリマーアロイであるであり、前記塗布用組成物中の前記モノマーの配合量が1〜4重量%である、(1)の方法。
(5)前記塗布用組成物中の前記モノマーの配合量と前記オリゴマー又はプレポリマーの配合量との比が、製造される細胞培養支持体の細胞接着性、細胞シートの剥離性及び単一細胞の剥離性の少なくとも一つが所定の程度となるように決定された比である、(1)〜(4)のいずれかの方法。
(6)(1)〜(5)のいずれかの方法により製造された細胞培養支持体。
(7)温度応答性ポリマー、pH応答性ポリマー及びイオン応答性ポリマーからなる群から選択される少なくとも1種の刺激応答性高分子が共有結合により表面に固定化された細胞培養支持体の製造工程であって、放射線照射により重合して前記刺激応答性高分子を形成し得るモノマーと、前記モノマーが重合してなるオリゴマー又はプレポリマーと、有機溶媒とを含む塗布用組成物を、放射線照射により前記刺激応答性高分子が共有結合を介して導入され得る材料を含む表面を備えた基材に塗布して、前記基材の表面上に塗膜を形成する塗布工程と、前記塗膜に放射線を照射して、基材表面上における前記刺激応答性高分子の形成反応を進行させる放射線照射工程と、前記塗膜を乾燥させる乾燥工程とを含む前記製造工程において、製造される細胞培養支持体の細胞接着性、細胞シートの剥離性及び単一細胞の剥離性の少なくとも一つを調節する方法であって、
前記塗布用組成物中の前記モノマーの配合量を、前記基材の種類に応じて調節することを含む方法。
(8)前記塗布用組成物中の前記モノマーの配合量と前記オリゴマー又はプレポリマーの配合量との比を、前記基材の種類に応じて調節することを含む(7)の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、従来の技術では刺激応答性高分子を基材表面にグラフト化させると細胞接着性が低くなり、細胞シート形成が難しかった、親水性の高い基材、濡れ性の高い基材、または空隙率の高い(比重の低い)基材においても、ポリスチレンを基材とした場合と同等の細胞シートを安定的に量産作成することが可能な細胞培養支持体を製造することができる。
【0011】
本発明の他の一態様によれば、基材への細胞接着力の弱い細胞や、細胞間接着が弱く基材上でコンフレントを作製し難い細胞種の培養に適合した基材表面を形成することができる。
【0012】
本発明の更に他の一態様によれば、細胞接着力が強く、低温処理によって細胞外マトリクスと基材の接着力を弱めても細胞シート剥離し難かった細胞種の培養に適合した基材表面を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(刺激応答性高分子)
本発明は、温度応答性ポリマー、pH応答性ポリマー及びイオン応答性ポリマーからなる群から選択される少なくとも1種の刺激応答性高分子が共有結合により表面に固定化(すなわちグラフト化)された細胞培養支持体の製造方法に関する。
刺激応答性高分子としては特に温度応答性ポリマーが好ましいがこれには限定されない。
【0014】
本発明に好適に使用できる温度応答性ポリマーは細胞培養温度下(通常、37℃程度)において疎水性を示し、培養した細胞シートの回収時の温度下において親水性を示すものである。なお、温度応答性ポリマーが、疎水性から親水性に変化する温度(水に対する臨界溶解温度(T))としては、特に限定されないが、培養後の細胞シートの回収の容易さの観点からは、細胞培養温度よりも低い温度であることが好ましい。このような温度応答性ポリマー成分を含むことで、細胞培養時においては、細胞の足場(細胞接着面)が充分に確保されるため細胞培養を効率よく行うことができる。その一方、培養後の細胞シートの回収時においては、疎水性部分を親水性に変化させ、培養された細胞シートを細胞培養基材から分離させることで、細胞シートの回収をより一層容易にすることができる。特に所定の臨界溶解温度未満の温度で親水性を示し、同温度以上の温度で疎水性を示す温度応答性ポリマーが好ましい。このような温度応答性ポリマーにおける臨界溶解温度を特に下限臨界溶解温度と呼ぶ。
【0015】
本発明に好適に使用できる温度応答性ポリマーは具体的には下限臨界溶解温度Tが0〜80℃、好ましくは0〜50℃であるポリマーが好ましい。Tが80℃を越えると細胞が死滅する可能性があるので好ましくない。またTが0℃より低いと、一般に細胞増殖速度が極度に低下するか、または細胞が死滅してしまうため好ましくない。そのような好適なポリマーとしてはアクリル系ポリマー又はメタクリル系ポリマーが挙げられる。好適なポリマーは例えば特許文献3にも記載されている。具体的に適当なポリマーとしては、例えばポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(T=32℃)、ポリ−N−n−プロピルアクリルアミド(T=21℃)、ポリ−N−n−プロピルメタクリルアミド(T=32℃)、ポリ−N−エトキシエチルアクリルアミド(T=約35℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(T=約28℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(T=約35℃)、及びポリ−N,N−ジエチルアクリルアミド(T=32℃)等が挙げられる。その他のポリマーとしては、例えばポリ−N−エチルアクリルアミド、ポリ−N−イソプロピルメタクリルアミド、ポリ−N−シクロプロピルアクリルアミド、ポリ−N−シクロプロピルメタクリルアミド、ポリ−N−アクリロイルピロリジン、ポリ−N−アクリロイルピペリジン、ポリメチルビニルエーテル、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のアルキル置換セルロース誘導体や、ポリポリプロピレンオキサイドとポリエチレンオキサイドとのブロック共重合体等に代表されるポリアルキレンオキサイドブロック共重合体や、ポリアルキレンオキサイドブロック共重合体が挙げられる。
【0016】
これらのポリマーを形成するためのモノマーとしては、例えばモノマーの単独重合体がT=0〜80℃を有するようなモノマーであって、放射線照射によって重合し得るモノマーが挙げられる。モノマーとしては例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−(若しくはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体、及びビニルエーテル誘導体等が挙げられ、これらの1種以上を使用してよい。モノマーが一種類単独で使用された場合、基材上に形成されるポリマーはホモポリマーとなり、モノマーが複数種一緒に使用された場合、基材上に形成されるポリマーはコポリマーとなるが、どちらの形態も本発明に包含される。また、増殖細胞の種類によってTを調節する必要がある場合や、被覆物質と細胞培養支持体との相互作用を高める必要が生じた場合や、細胞支持体の親水・疎水性のバランスを調整する必要がある場合などには、上記以外の他のモノマー類を更に加えて共重合してよい。更に本発明に使用する上記ポリマーとその他のポリマーとのグラフトまたはブロック共重合体、あるいは本発明のポリマーと他のポリマーとの混合物を用いてもよい。また、ポリマー本来の性質が損なわれない範囲で架橋することも可能である。
【0017】
pH応答性ポリマーおよびイオン応答性ポリマーは作製しようとする細胞シートに適したものを適宜選択することができる。
【0018】
(基材)
塗布用組成物が塗布される基材は、その表面が、放射線照射により前記刺激応答性高分子が共有結合を介して導入され得る材料を含むものである限り特に限定されない。表面のみが、前記応答性ポリマーと放射線照射により共有結合し得る材料を含むものであってもよいし、基材の全部がそのような材料を含むものであってもよい。このような基材の材料は、通常細胞培養に用いられるガラス類、プラスチック類、セラミックス、金属等が挙げられるが、細胞培養が可能な材料であれば特に限定されない。基材の表面または中間層に本発明の目的を妨げない限り任意の層を設けてもよいし、任意の処理を施してもよい。例えば、支持体表面にオゾン処理、プラズマ処理、スパッタリング等の処理技術を用いて親水化を施すことができる。
【0019】
基材を構成する材料であって、それ自体が上記応答性ポリマーと共有結合を形成し得るものとしては、ポリスチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリウレタン、ウレタンアクリレート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリアミド(ナイロン)、ポリカーボネート、共役結合を持つ天然ゴム、共役結合を持つ合成ゴム、ポリシリコンを含有するシリコンゴム等が挙げられる。基材はこれらの材料を2種以上含むブレンドポリマー又はポリマーアロイからなるものであってもよい。
【0020】
上記応答性ポリマーと共有結合するように表面処理された基材としては、表面が易接着処理されたポリエチレンテレフタレート、表面がコロナ処理またはプラズマ処理された合成樹脂、表面がウレタンアクリレート等のアクリル系樹脂により被覆された合成樹脂等が挙げられる。基材はこれらの材料を2種以上含むブレンドポリマー又はポリマーアロイからなるものであってもよい。合成樹脂としてはナイロン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、ポリプロピレン又はポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン等が挙げられる。合成樹脂はこれらの材料を2種以上含むブレンドポリマー又はポリマーアロイからなるものであってもよい。
【0021】
基材の形状としては、ディッシュ形状や、フィルム形状などが挙げられる。フィルム形状基材を用いる場合、フィルム形状基材表面にグラフトポリマー層を形成した後、細胞培養に適した形状(例えばディッシュ形状)に加工することができる。加工の際は、必要に応じて他の材料からなる部材を前記基材と組み合わせて使用することもできる。ディッシュ形状基材を用いる場合、少なくとも細胞接着面となるディッシュ内底面部分がグラフトポリマー層により被覆されればよい。
【0022】
(塗布用組成物)
本発明の方法には、放射線照射により重合して前記ポリマーを形成し得るモノマーと、前記モノマーが重合してなるオリゴマー又はプレポリマーと、有機溶媒とを含む塗布用組成物を用いる。この塗布用組成物はオリゴマー又はプレポリマーを含むことから、有機溶媒が少量の場合にも結晶化しにくい。このため、この塗布用組成物を基材表面に塗布し、放射線照射により重合を進行させると、基材表面の全面に亘り均一なポリマー層を形成することができる。
放射線重合成のモノマーについては上記の通りである。塗布用組成物にはモノマーが単独又は複数種含まれる。
【0023】
塗布用組成物に含まれるオリゴマー又はプレポリマーの大きさはダイマー以上のものであれば特に限定されず、分子量約3,300(典型的には28分子ポリマー)より大きいものが好ましく、分子量5,700以上のものがより好ましい。上限は特に限定されず、分子量100万以上であってもよい。本発明ではこれらを総称して「オリゴマー又はプレポリマー」と呼ぶが、オリゴマーとプレポリマーとは特段区別されず、単に重合体と呼ぶこともできる。
【0024】
有機溶媒としてはモノマー、オリゴマー又はプレポリマーを溶解しうるものであれば特に限定されないが、常圧下に於いて沸点120℃以下、特に60〜110℃のものが好ましい。好ましい溶媒としては、具体的にはメタノール、エタノール、n(若しくはi)−プロパノール、2(若しくはn)−ブタノール、及び水等が挙げられ、それらの1種以上使用してよい。その他の溶媒、例えば1−ペンタノール、2−エチル−1−ブタノール、2−ブトキシエタノール、及びエチレン(若しくはジエチレン)グリコール又はそのモノエチルエーテル等も1種以上使用してよい。上記溶液にはその他添加剤として、硫酸等で代表される酸類、モール塩等を配合してよい。
塗布用組成物の粘度は5×10−3Pa・s〜10Pa・sであることが好ましい。
【0025】
(塗布用組成物の配合を調整することにより、細胞培養支持体の機能を最適化する方法)
親水性の高い基材、濡れ性の高い基材、および空隙率の高い(比重の低い)基材は、刺激応答性分子が細胞表面にグラフト化により導入されたとき、細胞接着性が低く、細胞シート及び単一細胞の剥離性が劣る傾向がある。一方、疎水性の高い基材、濡れ性の低い基材、および空隙率の低い(比重の高い)基材は、刺激応答性分子が細胞表面にグラフト化により導入されたとき、細胞接着性が高く、細胞シート及び単一細胞の剥離性が優れる傾向がある。本発明の特徴は、基材の親/疎水性、濡れ性、空隙率等の性質に応じて、塗布用組成物中のモノマーの配合量を調整することにより、得られる細胞培養支持体の細胞接着性、細胞シートの剥離性及び単一細胞の剥離性の少なくとも一つを所定の程度にすることにある。塗布用組成物中のモノマーの配合量とオリゴマー又はプレポリマーの配合量との比を、得られる細胞培養支持体の細胞接着性、細胞シートの剥離性及び単一細胞の剥離性の少なくとも一つを所定の程度にするように設定することが更に好ましい。
【0026】
基材の親/疎水性は表面の水接触角により評価することができる。例えば基材に使用できる材料の代表的なものの水接触角は以下の通りである。
【0027】
【表1】

【0028】
また実施例に使用した、易接着処理されたポリエチレンテレフタレートの水接触角は78°であり、プラズマ処理されたポリカーボネートの水接触角は72°であり、プラズマ処理された多孔質ポリカーボネート(孔径0.4μm、孔密度1.0 x 10E8/cm)は65°である。
【0029】
実施例に示す実験結果によれば、水接触角が小さい(親水性が高い)基材には、塗布用組成物中のモノマー配合量を比較的少なくすることで、細胞接着性、細胞シートの剥離性及び単一細胞の剥離性の少なくとも一つを最適化することができる。一方、水接触角が大きい(親水性が低い)基材には、塗布用組成物中のモノマー配合量を比較的多くすることで、細胞接着性、細胞シートの剥離性及び単一細胞の剥離性の少なくとも一つを最適化することができる。
【0030】
具体的には、基材が、表面が接着処理されたポリエチレンテレフタレート、表面にウレタンアクリレートを被覆したポリエチレンテレフタレート、表面にウレタンアクリレートを被覆したポリカーボネートである場合には、塗布用組成物は、塗布用組成物全量に対してモノマーを3〜20重量%含有することが好ましい。このとき、製造される細胞培養支持体は、その表面に固定化されたグラフトポリマー層の乾燥時の厚さが0.05〜10μmであることが好ましい。この場合は更に、塗布用組成物に配合されるモノマーの、オリゴマーもしくはプレポリマーに対する重量比は0.6〜6.7が好ましい。
【0031】
基材が、表面がプラズマ処理されたポリカーボネート、表面化プラズマ処理されたポリカーボネートとABS樹脂のブレンドまたはポリマーアロイである場合には、塗布用組成物は、塗布用組成物全量に対してモノマーを2〜8重量%含有することが好ましい。このとき、製造される細胞培養支持体は、その表面に固定化されたグラフトポリマー層の乾燥時の厚さが0.05〜10μmであることが好ましい。この場合は更に、塗布用組成物に配合されるモノマーの、オリゴマーもしくはプレポリマーに対する重量比は0.4〜2.0が好ましい。
【0032】
基材が、表面がプラズマ処理された多孔質のポリカーボネート、表面がプラズマ処理された多孔質のポリカーボネートとABS樹脂のブレンドまたはポリマーアロイである場合には、塗布用組成物は、塗布用組成物全量に対してモノマーを1〜4重量%含有することが好ましい。このとき、製造される細胞培養支持体は、その表面に固定化されたグラフトポリマー層の乾燥時の厚さが0.05〜10μmであることが好ましい。この場合は更に、塗布用組成物に配合されるモノマーの、オリゴマーもしくはプレポリマーに対する重量比は0.2〜0.8が好ましい。
【0033】
(塗布工程)
本発明の方法は、前記塗布用組成物を、前記基材の表面に塗布してその表面上に塗膜を形成する塗布工程を含む。
本工程で形成される塗膜の塗布量はグラフトポリマーが機能(例えば温度応答性)を発揮する必要な塗布量である50mg/m以上あればよい。塗布量の上限は特にないが、40g/m未満が好ましく、10g/m以下がより好ましい。塗布量が40g/m以上である場合には、厚みが増して塗膜厚が安定しないこと、厚みが増して放射線の貫通・照射量が安定しないこと、並びに照射エネルギーに由来する膜内の対流によりグラフトポリマーの被覆量にムラが生じることが本実施例中で確認されている。また、グラフトされない遊離のポリマーを洗浄するための洗浄時間を短くするためには塗膜量は10g/m以下が望ましい。
【0034】
塗布用組成物の基材への小面積への塗布方法としては公知のいずれの方法でもよく、例えばスピンコーター、バーコーター等による塗布法、噴霧塗布法等が挙げられる。
大面積への塗布方法としてはブレードコーティング法、グラビアコーティング法、ロッドコーティング法、ナイフコーディング法、リバースロールコーティング法、オフセットグラビアコーティング法等が使用できる。
【0035】
ベタ形成においては、グラビアコート法、ロールコート法、スロットコート法、キスコ−ト法、スプレーコート法、ファウンテンコーティング法等公知のコーティング法を用いて形成することが出来る。又、絵柄層のパターン形成においては、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法等公知の印刷法を用いることが出来る。塗布用組成物の基材への塗布方法としては連続のコート法又は印刷法を使用することもできる。連続のコート法又は印刷法としては、具体的にはホットメルトコート、ホットラッカーコート、グラビアダイレクトコート、グラビアリバースコート、ダイコート、マイクログラビアコート、スライドコート、スリットリバースコート、カーテンコート、ナイフコート、エアコート、ロールコート等の塗布方法が使用できるが、これらは例示に過ぎず、当業者であれば暫時適用可能なものを使用することができる。
【0036】
(放射線照射工程)
本発明の方法は、前記塗膜に放射線を照射して、基材表面上における前記刺激応答性高分子の形成反応(すなわちグラフト化)を進行させる放射線照射工程を含む。ここでいう形成反応(グラフト化)は、遊離のモノマーが基材表面に結合した後に当該モノマーを基点としてポリマー鎖が伸張する現象だけでなく、放射線照射による重合によってモノマーからin situで形成された遊離のポリマーが基材表面に結合する現象などを包含する。
【0037】
使用する放射線としては、α線、β線、γ線、電子線、紫外線等がある。所望のグラフトポリマーを作製するための合成にはγ線と電子線がエネルギー効率が良く、特に生産性の面からも電子線が好ましい。紫外線に関しては適当な重合開始剤や基材とのアンカー剤を組合せることで使用できる。
放射線の線量の範囲は、電子線であれば5Mrad〜50Mradが好ましく、γ線であれば0.5Mrad〜5Mradが好ましい。
【0038】
(乾燥工程)
本発明の方法は、前記塗膜を乾燥させて塗布用組成物に由来する有機溶媒を除去する乾燥工程を含む。
前記塗布工程で形成される塗膜は残留溶剤量の影響により結晶が形成されることがないため、乾燥前の塗膜に放射線を照射した後、乾燥を行ってもよいし、塗膜を乾燥した後に放射線を照射してもよい。ただし、乾燥前のウェットな状態の塗膜に放射線照射を行うと、環境変化や異物、塗膜厚変動等の影響を受ける可能性があることから、塗膜を乾燥した後に放射線を照射することが好ましい。
乾燥方法としては特に限定されないが、典型的にはドライエア乾燥法、熱風(温風)乾燥法、(遠)赤外乾燥法などが挙げられる。
【0039】
(洗浄工程)
上述の各工程を経て形成された細胞培養支持体のポリマー層には、基材表面上に共有結合により固定化されたポリマー分子だけでなく、固定化されていない遊離のポリマー分子や、モノマー又はオリゴマー分子等が存在している。そこでこれらの遊離ポリマー或いはモノマー又はオリゴマー分子を除去するために洗浄を行う洗浄工程を更に含むことが好ましい。
洗浄方法としては特に限定されないが、典型的には浸漬洗浄、遥動洗浄、シャワー洗浄、スプレー洗浄、超音波洗浄等が挙げられる。また洗浄液としては典型的には各種水系、アルコール系、炭化水素系、塩素系、酸・アルカリ洗浄液が挙げられる。洗浄方法と洗浄液の組み合わせは洗浄される細胞培養支持体に応じて適宜選択すればよい。
【0040】
(本発明の方法で製造された細胞培養支持体)
本発明はまた、本発明の方法により製造された細胞培養支持体に関する。本発明の細胞培養支持体は、細胞接着性、細胞シートの剥離性及び単一細胞の剥離性の少なくとも一つが所望の範囲に最適化されている。また発明の方法により製造された細胞培養支持体は、原料モノマー/溶媒混合物を塗布用組成物として用いる従来法により製造された細胞培養支持体と比較してより均一なグラフトポリマー層を有することを特徴とする。
【0041】
(細胞培養シートの作成方法)
本発明の細胞培養支持体を用いて、種々の細胞、例えば生体内の各組織、臓器を構成する上皮細胞や内皮細胞、収縮性を示す骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、神経系を構成するニューロン、グリア細胞、繊維芽細胞、生体の代謝に関係する肝実質細胞、非肝実質細胞や脂肪細胞、分化能を有する細胞として、種々組織に存在する幹細胞、さらには骨髄細胞、ES細胞等から細胞シートを作製することができる。こうして作製された細胞シートは表面の接着因子が損なわれていないことに加えて、細胞培養面に接した部分が均一な品質を有することから、再生医療などへの利用に適したものである。また、細胞シートを利用することでバイオセンサー等の検出デバイスへの応用へも展開できる。
【実施例】
【0042】
細胞培養支持体の作製
(試験1)
実施例1〜3として、イソプロピルアクリルアミドモノマー(興人社製)とポリイソプロピルアクリルアミド(アルドリッチ社製、565311)を、図1a, bに示す重量%となるようにイソプロピルアルコールに溶解して塗工液(塗布用組成物)とした。図1a, bにおいて重量%とは塗工液全量に対する重量%である。以下実施例では塗工液S、A、B、C、D、E、FおよびGと呼ぶ。
【0043】
この塗工液を以下の3種類の基材に塗布した。
基材1: 易接着ポリエチレンテレフタレート(PET)、水接触角:78
基材2:ポリカーボネート(PC)シート(200μm厚、帝人社製)、水接触角:72(プラズマ処理後)
基材3:サイクロポアメンブレンシート(20μm厚、ワットマン社製。材質ポリカーボネート、孔径0.4μm、孔密度1.0 x 10E8/cm2)、接触角:65(プラズマ処理後)
【0044】
塗工液を機材1〜3にワイヤーバー4番手で約5g/mの塗工厚で塗工し、ドライヤー乾燥で乾燥面質を確認した。この塗工基材の塗工面に低電圧電子線照射装置(岩崎電気社製 EC 250/15/180L)で電子線を線量24Mrad照射した。
各条件で作製した塗工フィルムを洗浄・乾燥し、ディッシュサイズに切り抜いたものを粘着剤でディッシュに固定してEOG滅菌して細胞培養支持体を得た。
実施例1〜3は基材1の易接着PET上に塗工液S(モノマー40%、ポリマー2%)、B、Eの3種類を用いて、細胞培養支持体を作製した。比較例1として市販のポリスチレン細胞培養ディッュ(Tissue Cell Poly Styrene (TCPS) ベクトンデッキントン社製)を用いた。
【0045】
評価方法は以下の3種類で行った。評価に用いた細胞は牛頚動脈正常血管内皮細胞(ヒューマンサイエンス研究資源バンク JCRB0099 通称HH)。培養液はイーグルダルベッコ改変培地に10%の牛血清を加えたものを用いた。
評価1: 細胞接着力の評価
35mm細胞培養ディツシユにトリプシン処理によって継代・剥離した6×10個のHH細胞懸濁液を実施例1〜3、比較例1の支持体(ディッシュ)に播種し、播種6時間後に培地交換とともに上清培養液を別の細胞培養ディッシュで18時間培養し、非接着細胞を観察した。
評価2: シングルセルの剥離性の評価
35mm細胞培養ディツシユにトリプシン処理によって継代・剥離した10個のHH細胞懸濁液を実施例1〜3、比較例1の支持体(ディッシュ)に播種し、24時間後に低温インキュベータ(20℃、5%CO)へ移動した、移動前(0分)、移動後10分、30分、60分、120分の接着細胞の剥離を観察した。
評価3: 細胞シートの剥離性の評価
35mm細胞培養ディツシユにトリプシン処理によって継代・剥離した6×10個のHH細胞懸濁液を実施例1〜3、比較例1の支持体(ディッシュ)に播種し、培養6日後のコンフレントな増殖・単層HH細胞を低温インキュベータ(20℃、5%CO)へ移動し、20分後にディッシュ底、約3〜5mm内側に単層細胞へ切り込みを入れ、円形の細胞シートが剥離しきるのを観察・時間計測した。測定は2回行い、それぞれについて剥離に要する時間を計測した。
【0046】
評価結果を表2に示す。易接着PETを基材にした温度応答性細胞培養支持体へのHH細胞の6時間の接着は、比較例細胞培養ディッシュに比べると若干の細胞接着残り(全て5%以下)を観察したが、目的の細胞を接着、増殖、継代、細胞シート剥離させる上に問題となるほどの差ではなかった。細胞接着残りを塗工液の組成の違う支持体間で比較するとモノマー比が高いもので若干多い傾向が観察された。
【0047】
評価2の支持体面積あたり少ない細胞数を播種して、細胞間接着の余り無い状態から低温化処理で細胞剥離を行うと、温度応答性ポリマーを基材表面にグラフト化されていない比較例1の細胞培養ディッシュ(TCPS)では2時間後も細胞は接着したままであった。しかしグラフト化された易接着PETでは経時的に細胞が支持体から剥離し、培養液中に浮遊して行く状態が観察された。1.5mm角視野を各観察経過時間で塗工液の組成の違う支持体間で比較するとモノマー比が低いもので視野から完全に細胞接着がなくなる時間が早いことが観察された。
【0048】
HH細胞を支持体上で播種後6日間接着増殖させてコンフレントな状態を得た。この支持体(ディッシュ)を評価3の方法で低温化・細胞シート剥離する状況を観察した。温度応答性ポリマーを基材表面にグラフト化されていない比較細胞培養ディッシュでは1日経過後も切り込み箇所以外に全く細胞シート剥離がみられなかった。易接着PET基材に温度応答性ポリマーをグラフト化した支持体では全てで細胞シートが得られた。塗工液Bで作製した支持体が塗工液S、Eを用いて作製した支持体よりも剥離時間が短いことが示された。このように、易接着PET基材を細胞培養支持体に加工する上での塗工液のモノマー・ポリマー比に最適条件が存在した。
【0049】
【表2】

【0050】
実施例4〜8は200μm厚ポリカーボネートシート(基材2)に塗工液A〜Eを実施例1〜3同様に塗工・乾燥・電子線照射・洗浄・乾燥・ディッシュへ貼付することで細胞培養支持体を得た。この支持体に評価方法1〜3のHH細胞播種による細胞接着・剥離の試験をおこなった。結果を表3に示す。
【0051】
加工前の基材2にプラズマ処理を施した。プラズマ処理は減圧真空下約60〜200mmTorrで酸素充填し、400 Wで3分間プラズマ放電して行った。
評価1および3の方法でHH細胞を播種したところ、支持体表面への6時間後接着残りの細胞数は塗工液のモノマー比率の高いものほど多く、塗工液AとBを用いた支持体では6日間で十分な接着・増殖が得られず、コンフレントな状態にならなかった。C〜Eは十分な増殖でコンフレント状態を得た。評価3の低温化処理ではC〜E全てで短時間で細胞シートを形成した。ただし、Cで細胞間接着が弱く、シート剥離時に破損するものが観察された。
評価2のシングルセル剥離では全ての支持体で60分以内に視野内の細胞が剥離し、培養液中に浮遊した。
【0052】
【表3】

【0053】
実施例9〜13は20μm厚サイクロポアメンブレンシート(基材3)に塗工液C〜Gを実施例1〜3同様に塗工・乾燥・電子線照射・洗浄・乾燥・ディッシュへ貼付することで細胞培養支持体を得た。この支持体に評価方法1〜3のHH細胞播種による細胞接着・剥離の試験をおこなった。結果を表4に示す。
【0054】
加工前の基材3にプラズマ処理を施した。プラズマ処理は減圧真空下約60〜200mmTorrで酸素充填し、400 Wで3分間プラズマ放電して行った。
評価1および3の方法でHH細胞を播種したところ、支持体表面への6時間後接着残りの細胞数は塗工液のモノマー比率の高いものほど多く、塗工液CとDを用いた支持体では6日間で十分な接着・増殖が得られず、コンフレントな状態にならなかった。E〜Gは十分な増殖でコンフレント状態を得た。評価3の低温化処理ではC〜E全てで短時間で細胞シートを形成した。ただし、Cで細胞間接着が弱く、シート剥離時に破損するものが観察された。
評価2のシングルセル剥離では全ての支持体で60分以内に視野内の細胞が剥離し、培養液中に浮遊した。
【0055】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1a】図1aは実施例に用いた塗工液の配合を示す。
【図1b】図1bは実施例に用いた塗工液の配合を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度応答性ポリマー、pH応答性ポリマー及びイオン応答性ポリマーからなる群から選択される少なくとも1種の刺激応答性高分子が共有結合により表面に固定化された細胞培養支持体の製造方法であって、放射線照射により重合して前記刺激応答性高分子を形成し得るモノマーと、前記モノマーが重合してなるオリゴマー又はプレポリマーと、有機溶媒とを含む塗布用組成物を、放射線照射により前記刺激応答性高分子が共有結合を介して導入され得る材料を含む表面を備えた基材に塗布して、前記基材の表面上に塗膜を形成する塗布工程と、前記塗膜に放射線を照射して、基材表面上における前記刺激応答性高分子の形成反応を進行させる放射線照射工程と、前記塗膜を乾燥させる乾燥工程とを含み、前記塗布用組成物中の前記モノマーの配合量が、製造される細胞培養支持体の細胞接着性、細胞シートの剥離性及び単一細胞の剥離性の少なくとも一つが所定の程度となるように決定された配合量である、前記方法。
【請求項2】
前記基材が、表面が接着処理されたポリエチレンテレフタレート、表面にウレタンアクリレートを被覆したポリエチレンテレフタレート、又は表面にウレタンアクリレートを被覆したポリカーボネートであり、前記塗布用組成物中の前記モノマーの配合量が3〜20重量%である、請求項1の方法。
【請求項3】
前記基材が、表面がプラズマ処理されたポリカーボネート、又は表面化プラズマ処理されたポリカーボネートとABS樹脂のブレンド若しくはポリマーアロイであり、前記塗布用組成物中の前記モノマーの配合量が2〜8重量%である、請求項1の方法。
【請求項4】
前記基材が、表面がプラズマ処理された多孔質のポリカーボネート、又は表面がプラズマ処理された多孔質のポリカーボネートとABS樹脂のブレンド若しくはポリマーアロイであるであり、前記塗布用組成物中の前記モノマーの配合量が1〜4重量%である、請求項1の方法。
【請求項5】
前記塗布用組成物中の前記モノマーの配合量と前記オリゴマー又はプレポリマーの配合量との比が、製造される細胞培養支持体の細胞接着性、細胞シートの剥離性及び単一細胞の剥離性の少なくとも一つが所定の程度となるように決定された比である、請求項1〜4のいずれかの方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの方法により製造された細胞培養支持体。
【請求項7】
温度応答性ポリマー、pH応答性ポリマー及びイオン応答性ポリマーからなる群から選択される少なくとも1種の刺激応答性高分子が共有結合により表面に固定化された細胞培養支持体の製造工程であって、放射線照射により重合して前記刺激応答性高分子を形成し得るモノマーと、前記モノマーが重合してなるオリゴマー又はプレポリマーと、有機溶媒とを含む塗布用組成物を、放射線照射により前記刺激応答性高分子が共有結合を介して導入され得る材料を含む表面を備えた基材に塗布して、前記基材の表面上に塗膜を形成する塗布工程と、前記塗膜に放射線を照射して、基材表面上における前記刺激応答性高分子の形成反応を進行させる放射線照射工程と、前記塗膜を乾燥させる乾燥工程とを含む前記製造工程において、製造される細胞培養支持体の細胞接着性、細胞シートの剥離性及び単一細胞の剥離性の少なくとも一つを調節する方法であって、
前記塗布用組成物中の前記モノマーの配合量を、前記基材の種類に応じて調節することを含む方法。
【請求項8】
前記塗布用組成物中の前記モノマーの配合量と前記オリゴマー又はプレポリマーの配合量との比を、前記基材の種類に応じて調節することを含む請求項7の方法。

【図1a】
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【図1b】
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【公開番号】特開2010−63439(P2010−63439A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−235553(P2008−235553)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】