説明

細胞増殖培地

この発明は、フィーダー及び血清不存在の条件下で、霊長類胚性幹細胞を培養する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフィーダー細胞及び血清非添加での培養における霊長類、望ましくはヒトの胚性幹細胞(hES)の維持に関する。
【背景技術】
【0002】
真核細胞、例えばある種の哺乳類の細胞の培養は今や一般的な方法となっており、ある種の細胞を増殖させうる細胞培養条件は確立している。一般的なやり方としては、哺乳類の細胞培養には通常はプラスチック製の滅菌済み容器と増殖培地を必要とする。例えば、胚性幹細胞の増殖にはフィーダー細胞と血清が必要である。フィーダー細胞の役割については正確には分かっていない。しかしながら、フィーダー細胞は細胞増殖を活性化する増殖シグナルを発信したり、かつ/または未分化状態に細胞を維持するために機能している可能性が推察されている。フィーダー細胞には、増殖出来ないように処理された(マイトマイシン又は放射線処理)線維芽細胞が一般的には使われる。一般的にネズミ由来の線維芽細胞をフィーダー細胞に使うことが多いが、他の種由来のものを使う場合もある。
【0003】
「幹細胞」という言葉は自己再生能を有する未分化細胞でありつつ、一方で分化した細胞や組織を形成する変動能力をも保持する細胞の総括的分類を表している。幹細胞は分化全能性、多能性ないしは多分化能性である場合がある。また、分化能力を喪失した派生幹細胞が発生することもあり、これらは“無能性”幹細胞と名付けられている。分化全能性幹細胞は原型を保った生物に見いだされる全ての細胞や組織を形成する能力を有する細胞であり、この組織としては胚体外の組織(例えば胎盤)をも含むものである。分化全能性細胞はごく早期の胚(8細胞期)を構成し、原型を保った生物を形成する能力を有している。多能性細胞は原型を保った生物に見られる全ての組織を形成する能力を有しているが、原型を保った生物を作り上げることは出来ない。多分化能性細胞は限られた分化細胞や組織を形成する能力のみを有している。一般的に成体にある幹細胞は多分化能性細胞であり、これらはある種の細胞や組織のみを形成し、老化や損傷を受けた細胞や組織を補充することのできる前駆体幹細胞ないしは系統の制限された幹細胞といったものである。これらの細胞は生物に見られる全ての組織を形成することは出来ないと一般には言われているが、ある種の報告では、このような“成体”の幹細胞であっても、従来の予想以上に多様な能力を有している、ともされている。
【0004】
多能性胚性幹細胞は主に2つの胚性組織から派生している。内細胞塊から単離される細胞は胚性幹(ES)細胞と称される。実験マウスにおいてはこれと類似した細胞が性交後8.5−12.5日胚の腸間膜や生殖隆起から単離される始原生殖細胞より派生してくる。これらの細胞は胚性生殖(EG)細胞と呼ばれている。これら多能性細胞の各々のタイプは相互の細胞種への分化という点においては似通った発生過程での能力を有しているが、その挙動において生じうる相違(例えばインプリンティングの点において)によりこれらの細胞は互いに区別されうる。しかしながら、“多能性胚性幹細胞”という用語は内細胞塊および始原生殖細胞由来の両方の細胞を含んでいる。
【0005】
霊長類胚性幹細胞の体外培養の確立については疑わしい点が明らかになってきている。hES細胞の培養系での樹立条件が確定したという表記はWO96/22362に記載されている。WO96/22362には、多能性幹細胞に関連する一連の特徴やマーカーを提示している霊長類ES細胞の持続的な増殖を実現する細胞株や培養条件が記載されている。これらには、線維芽細胞のフィーダー層上にて維持した場合の最低でも20回の継代細胞の維持、胚様体と称される細胞クラスターの形成、浮遊培養をした際における単層培養での様々な細胞種に分化しうる能力、免疫不全マウスへの注入により様々な分化細胞種からなる異種移植の奇形腫形成、そして特にSSEA3、SSEA4、TRA−1−60、TRA−1−81、アルカリフォスファターゼそしてOct4といった胚性幹細胞特異的なマーカーの発現といった記載が含まれているが、これに限られる訳ではない。WO96/22362はマウス線維芽細胞からなるフィーダー細胞と血清存在下での未分化状態の霊長類ES細胞の維持方法を開示している。
【0006】
治療組織工学における胚性幹細胞、特にヒトES(hES)細胞の潜在的な利用方法について十分な立証が存在する。該細胞の多能性という性質は、hES細胞のいかなる細胞/組織タイプへの選択及び分化を可能とする。しかしながら、ウシ胎児血清やネズミ由来のフィーダー細胞に曝した細胞を治療に使用した場合、プリオンやウイルスといった外来因子が患者に感染する危険性が潜在的に存在することとなる。それ故、こうした危険性を最小限に止めるようにhES細胞の細胞培養は実施されることが必要である。フィーダー細胞や血清の無い培養条件の開発は該危険性の軽減に有効である。
【0007】
これに加えて、特定の細胞種に分化したhES細胞は新薬や既存薬のターゲット遺伝子の同定をする上で有用である。なぜなら、該細胞は、遺伝子型として均一であり、安定かつ由来が知られているからである。また遺伝子型の明らかなES細胞株を使用することは、薬理ゲノミクスに適した方法で薬のスクリーニングや毒物研究に可能な道筋を提供することとなる。
【0008】
霊長類ES細胞の培養における無血清条件の開発は知られている。例えば、WO01/66697では、無血清での霊長類ES細胞培養において、血清の替わりに線維芽細胞増殖因子、一般的にはヒト塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF 4mg/ml)で置き換えることを開示している。本細胞培養培地にはKnockOut SRtm(WO98/30679に記載されており、これはそのままリファレンスとして取り込まれている)にbFGFを添加したものを含有している。しかしながら、該細胞培養は放射線照射したマウス線維芽細胞によるフィーダー細胞をも含んでいる。
【0009】
hES細胞の増殖における無血清及びフィーダー細胞のない培養方法の開発はWO2006/029198に開示されている。該培養条件は高濃度のbFGF(40−100ng/ml)、ガンマアミノ酪酸、ピペコリン酸やリチウムといった添加因子、そしてアミノ酸、脂質、ビタミン類やブドウ糖を含んでいる。WO2006/029198はまたファイブロネクチン、ビトロネクチンやラミニンといったヒト蛋白より構成される細胞培養の基質を使用することも開示している。
【0010】
更に、Furueら(In vitro Cell Dev.Biol.Animal 41:19−28,2005)は、血清およびフィーダーが無く、白血病抑制因子(LIF)の存在下でのマウスの胚性幹細胞の増殖について開示している。これはまたWO2005/063968に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第WO96/22362号パンフレット
【特許文献2】国際公開第WO01/66697号パンフレット
【特許文献3】国際公開第WO98/30679号パンフレット
【特許文献4】国際公開第WO2006/029198号パンフレット
【特許文献5】国際公開第WO2005/063968号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
もし、ウシ胎児血清やマウスフィーダー細胞といった生体にとって異物となる材料の付加を必要としない単純な培養条件を確立することが出来れば、これは大きな意義をもつ。なぜなら、該材料を使用することにより、培養下で成長する哺乳類の細胞に感染力をもつ因子(例えば、ウシ由来の産物においてはウイルスやプリオン、マウスフィーダー細胞においてはマウスのウイルス)に感染する可能性が増大するからである。本出願は、これらに替わり得るシンプルな細胞培養培地について開示しており、該培地により、血清およびフィーダーのない条件にてhES細胞を維持することが可能となるものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一側面としては、フィーダー細胞や血清のない細胞培養条件で、霊長類の胚性幹細胞を維持するための方法が提供されており、これは、培養容器を用い、線維芽細胞増殖因子、ヘパリンやアスコルビン酸又はリン酸化アスコルビン酸、又はこれらの誘導体を添加した細胞培養培地により霊長類胚性幹細胞を調製すること、及び、該霊長類胚性幹細胞を未分化状態で維持すること、より構成される。
【0014】
本発明の一側面としては、フィーダー細胞や血清のない細胞培養条件で、霊長類の胚性幹細胞を維持するための方法が提供されており、これは以下の段階より構成される:
i)タンパク質より成る基礎的な培養支持体にてコートした培養容器を用い、インシュリン、トランスフェリン、セレン酸ナトリウム、エタノールアミン、2−メルカプトエタノール、脂肪酸除去したウシアルブミンと複合させたオレイン酸より構成され、更に線維芽細胞増殖因子、ヘパリンやアスコルビン酸又はリン酸化アスコルビン酸、又はこれらの誘導体を添加した細胞培養培地により霊長類胚性幹細胞を調製すること
及び
ii)該霊長類胚性幹細胞を未分化状態で維持すること
【0015】
本出願による開示は霊長類、特にヒトの多能性胚性幹細胞及び胎児性奇形癌(EC)細胞として知られる奇形癌由来の幹細胞を包含する。“多能性胚性幹細胞”とは内細胞塊及び始原生殖細胞(EG)由来の両細胞に関連する。また、可能性として、体細胞又は胚体外性の分化細胞、又はより限られた幹細胞を早期胎児由来のES細胞に類似した多能性状態へ再プログラミングすることも含まれる。該再プログラミングを実現する方法としては、分化細胞由来の体細胞核を徐核した卵に移転し、これを胎児として、ES細胞株が派生する未分化胚芽細胞の段階まで発生させるべく刺激を加えることによるものが挙げられている。また、細胞融合を用いる実験では、EC細胞やES細胞の細胞質も体細胞やその他の際病種をES様状態に再プログラミングする能力を有していることを示している。
【0016】
該発明の好ましい方法としては、上述の細胞として安定な核型を有するものを用いる。
【0017】
該発明の更に好ましい方法としては、アスコルビン酸はリン酸化アスコルビン酸を用いる。
【0018】
アスコルビン酸及びリン酸化アスコルビン酸の機能的な誘導体は技術的に知られている。例としては、EP1666484の内容はリファレンスとしてまるごと組み込まれており、これには、熱や酸化に対してより高い安定性を示すアスコルビン酸の安定な誘導体が記載されている。
【0019】
該発明の好ましい方法としては、上述の霊長類胚性幹細胞は多能性ヒト胚性幹細胞である。
【0020】
該発明の好ましい具体例としては、該霊長類胚性幹細胞は細胞培養を通じて、少なくとも内胚葉、中胚葉および外胚葉組織への分化能を維持している。
【0021】
該発明の更に好ましい方法としては、線維芽細胞増殖因子(FGF)は以下の因子よりなるグループから選択される:bFGF/FGF−2,以下酸性FGF/FGF−1,bFGF,FGF−4,FGF−9,FGF−17又はFGF−18。
【0022】
該発明の好ましい方法としては、該線維芽増殖因子はbFGFであり、好ましくは、bFGFは1−50ng/mlの間(特に好ましくは10ng/ml)の濃度で供される。
【0023】
好ましくは、線維芽細胞増殖因子は組み換え体によるものである。
【0024】
該発明のさらに好ましい方法としては、リン酸化アスコルビン酸は10−300μg/mlの濃度(特に好ましくはおよそ100μg/ml)で供される。
【0025】
該発明のさらに好ましい方法としては、2−エタノールアミンは0.05−2.0μg/mlの濃度(特に好ましくはおよそ0.6μg/ml)で供される。
【0026】
該発明のさらに好ましい方法としては、オレイン酸は3−15μg/mlの濃度(特に好ましくはおよそ9.5μg/ml)で供される。
【0027】
該発明のさらに好ましい方法としては、へパリンは10−500ng/mlの濃度(特に好ましくはおよそ100ng/ml)で供され、該へパリンはヘパリン硫酸塩であることが好ましい。
【0028】
該発明の好ましい方法としては、上記のタンパク性細胞培養支持体はコラーゲンを基礎とする。
【0029】
該発明のさらに好ましい方法としては、コラーゲンを基礎とした該細胞培養支持体はI型コラーゲンより成り、好ましくは組み換え体I型コラーゲンである。
【0030】
該発明の上記に替わりうる好ましい方法としては、上記細胞培養支持体は以下の種類よりなるグループから選択される組み換え体ヒトタンパクより構成される:コラーゲンI、コラーゲンVI、ファイブロネクチン、ラミニンおよびビトロネクチン。
【0031】
該発明の好ましい方法としては、上述の細胞支持体は以下の種類よりなるグループから選択される少なくとも2種類の組み換え体タンパクより構成される:コラーゲンI、コラーゲンVI、ファイブロネクチン、ラミニンおよびビトロネクチン。
【0032】
該発明の好ましい方法としては、上記細胞支持体は組み換え体タンパクであるコラーゲンI、コラーゲンVI、ファイブロネクチン、ラミニンおよびビトロネクチンより構成される。
【0033】
該発明の好ましい方法としては、上記細胞培養支持体はMatrigeltmである。
【0034】
該発明の好ましい方法としては、上記霊長類胚性幹細胞は、細胞培養容器にEDTAを添加後、継代されている。
【0035】
該発明の上記に替わりうる好ましい方法としては、上記霊長類胚性幹細胞はコラゲナーゼ、好ましくはコラゲナーゼIVの添加後、継代される。
【0036】
該発明の上記に替わりうる好ましい方法としては、上記霊長類胚性幹細胞はディスパーゼの添加後、継代される。
【0037】
該発明の上記に替わりうる好ましい方法としては、上記霊長類胚性幹細胞はトリプシン/EDTA,好ましくは組み換え体トリプシンの添加後、継代される。
【0038】
該発明のさらに好ましい方法としては、上記霊長類胚性幹細胞はクローン化されている。
【0039】
該発明の好ましい方法としては、該細胞培養培地は緩衝剤試薬HEPESを含んでいない。
【0040】
本発明のさらなる側面としては、フィーダー細胞や血清のない細胞培養条件で、霊長類の胚性幹細胞を少なくとも1細胞種に分化させるための方法が提供されており、これは以下の段階より構成される:
i)タンパク質より成る基礎的な培養支持体にてコートした培養容器を用い、インシュリン、トランスフェリン、セレン酸ナトリウム、エタノールアミン、2−メルカプトエタノール、脂肪酸除去したウシアルブミンと複合させたオレイン酸より構成され、更に線維芽細胞増殖因子やヘパリンを添加した細胞培養培地により霊長類胚性幹細胞を調製すること
及び
ii)少なくとも1細胞種への該霊長類胚性幹細胞の分化を誘導する因子を添加すること。
【0041】
該発明の好ましい方法としては、上記霊長類胚性幹細胞はヒト多能性胚性幹細胞である。
【0042】
該発明の好ましい方法としては、該細胞種は神経細胞である。
【0043】
該発明の上記に替わりうる方法としては、該細胞種は上皮細胞である。
【0044】
該発明の好ましい方法としては、上記タンパク質より成る基礎的な細胞培養支持体はラミニンである。
【0045】
本発明のさらなる側面としては、細胞培養物が提供されており、これは、タンパク質をベースとする培養支持体上の霊長類胚性幹細胞、及びインシュリン、トランスフェリン、セレン酸ナトリウム、エタノールアミン、2−メルカプトエタノール、脂肪酸除去したウシアルブミンと複合させたオレイン酸を含む細胞培養培地を含み、更に線維芽細胞増殖因子、ヘパリン及びアスコルビン酸又はリン酸化アスコルビン酸、又はこれらの誘導体が添加されている。
【0046】
該発明の好ましい実施例としては、該霊長類胚性幹細胞は多能性ヒト胚性幹細胞である。
【0047】
本発明のさらなる側面としては、細胞培養物が提供されており、これは霊長類胚性幹細胞より構成されている。該細胞培養物は、タンパク質をベースとする培養支持体上の霊長類胚性幹細胞、及びインシュリン、トランスフェリン、セレン酸ナトリウム、エタノールアミン、2−メルカプトエタノール、脂肪酸除去したウシアルブミンと複合させたオレイン酸を含む細胞培養培地を含み、更に線維芽細胞増殖因子及びヘパリンが添加されており、さらに該霊長類胚性幹細胞の少なくとも1細胞種への分化を誘導させる少なくとも1種類の因子を含むことにより特徴づけられている。
【0048】
該発明の好ましい実施例としては、上記霊長類胚性幹細胞は多能性ヒト胚性幹細胞である。
【0049】
本発明のさらなる側面としては、細胞培養容器が提供されており、これは、インシュリン、トランスフェリン、セレン酸ナトリウム、エタノールアミン、2−メルカプトエタノール、脂肪酸除去したウシアルブミンと複合させたオレイン酸を含み、更に線維芽細胞増殖因子、ヘパリンやアスコルビン酸又はリン酸化アスコルビン酸、又はこれらの誘導体を添加した細胞培養培地を含んでいる。
【0050】
該発明の好ましい実施例としては、上記細胞培養容器はさらに霊長類胚性幹細胞を含み、好ましくは、多能性ヒト胚性幹細胞である。
【0051】
該発明のさらに好ましい実施例としては、上記容器はペトリ皿、細胞培養瓶またはフラスコ、複数穴プレートよりなるグループから選択される。「容器」とは霊長類胚性幹細胞培養を行うのに適した何らかの装置として解釈される。
【0052】
本発明のさらなる側面としては、細胞培養培地容器が提供されており、これは、インシュリン、トランスフェリン、セレン酸ナトリウム、エタノールアミン、2−メルカプトエタノール、脂肪酸除去したウシアルブミンと複合させたオレイン酸より構成され、更に線維芽細胞増殖因子、ヘパリンやアスコルビン酸又はリン酸化アスコルビン酸、又はこれらの誘導体を添加した細胞培養培地を含んでいる。
【0053】
本発明のさらなる側面としては、細胞培養容器を提供しており、これは、インシュリン、トランスフェリン、セレン酸ナトリウム、エタノールアミン、2−メルカプトエタノール、脂肪酸除去したウシアルブミンと複合させたオレイン酸より構成され、更に線維芽細胞増殖因子やヘパリンを添加した細胞培養培地を含んでいる。
【0054】
本明細書の記載およびクレームを通して、「含む」と「含有する」という言葉及び「含んでいる」や「含有している」といったこれらの言葉の派生語は、「含んでいるが、それに限定されない」ことを意味し、他の部分、添加物、成分、完全体または段階を除外することを意図しないし、除外しない。
【0055】
本明細書の記載およびクレームを通して、前後関係より単数と複数が区別される場合でなければ、単数形の表記は複数形の場合をも意味している。特に不定冠詞が使われている箇所においては、前後関係より単数と複数が区別さえる場合でなければ、本明細書では単数のみならず複数をも意図しているものとして理解するべきである。
【0056】
本発明の特定の局面、実施例または例示と関連する特徴、完全体、特性、化合物、化学成分や群(グループ)は、それと両立しえない場合を除いて、ここに記載された他のいかなる局面、実施例または例示にも当てはめうるものとして理解するべきである。
【0057】
本発明の実施例は例示のみにより、および以下の図を参照して記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1はbFGFのヒト胚性幹細胞増殖への効果を示している。
【図2】図2はbFGFとヘパリンのヒト胚性幹細胞増殖と形態への効果を示している。
【図3】図3はフィーダー非存在下で培養された細胞におけるヒト胚性幹細胞マーカーの発現を示している。
【図4】図4は様々な培地でのヒト胚性幹細胞の増殖を示している。
【図5】図5はフィーダー非存在条件でのヒト胚性幹細胞株HUESの増殖曲線を示している。
【図6】図6はフィーダー非存在条件でのヒト胚性幹細胞株Shef1の増殖曲線を示している。
【0059】
表1はフィーダー非存在条件でヒト胚性幹細胞を培養するための細胞培養培地組成の要約を示している。
【実施例】
【0060】
ヒト胚性幹細胞のフィーダー非存在培養における材料と方法
hESF9は表1に明示されている。Hesf5培地はHesf9培地と、ウシアルブミンと複合させたオレイン酸、リン酸化アスコルビン酸、bFGF及びヘパリン硫酸塩を添加することを除いて同一のものである。
【0061】
A.試薬
1.ヒト未分化胚性幹細胞を培養しているT25フラスコ
2.hESF9培地:HEPES不含で、インシュリン、トランスフェリン、セレン酸ナトリウム、2−メルカプトエタノール、2−エタノールアミン、ウシアルブミンと複合させたオレイン酸、リン酸化アスコルビン酸、bFGF及びヘパリン硫酸塩という9種の因子を添加したESF基礎培地
3.EDTA溶液
4.1型コラーゲン(新田ゼラチン社.大阪、日本)
【0062】
B.手順
1.T25フラスコ(corning社)を100μg/cm1型コラーゲンにてコートする。
2.ES細胞コロニーはDulbeccoのCa2+およびMg2+不含リン酸緩衝生理食塩水に溶解した0.45mMから0.5mM DETA4Na(シグマ社)により遊離させる(該細胞は単細胞レベルまでは分離させず、EDTA濃度は細胞株に依存する)。
3.hESF9培地にて細胞を回収。
4.該細胞懸濁液を3分800rpmの条件で沈降。
5.該細胞をhESF培地にて再懸濁。
6.該細胞懸濁液を3分800rpmの条件で沈降。
7.該細胞をhESF培地にて再懸濁。
8.該細胞を100μg/cmI型コラーゲンによってコートした25cmフラスコ上にhESF9培地中にて播種する。
9.37度、10%COの多湿環境下にて培養。
【0063】
神経への分化方法
A.試薬
1.ヒト未分化胚性幹細胞を培養しているT25フラスコ
2.hESF9培地
2.hESF5培地:HEPES不含で、インシュリン、トランスフェリン、セレン酸ナトリウム、2−メルカプトエタノール、2−エタノールアミンという5種の因子を添加したESF基礎培地
3.EDTA溶液
4.ラミニン(Sigma社)
5.bFGFとヘパリン
【0064】
B.手順
1.プラスチック製培養皿を5μg/cmラミニンにてコートする。
2.未分化ES細胞をDETA溶液により回収する。
3.該細胞をラミニンにてコートした培養皿上に10ng/mlbFGFおよび100ng/mlへパリンを添加したhESF5培地中にて播種する。
選択肢として、該細胞をラミニンにてコートした培養皿上にhESF9培地中にて播種し、翌日該培地を10ng/mlbFGFおよび100ng/mlへパリンを添加したhESF5培地に交換する。
4.37度、5%COの多湿環境下にて1日間インキュベート。
5.翌日、10ng/mlbFGFを該培養に添加。
6.培養開始後2〜4日目に培地をhESF5培地に交換。
7.2日おきに該培地を新たなhESF5培地に交換。
P12
8.培養開始後7〜10日目に神経細胞が出現。
【0065】
上皮様細胞への分化
A.試薬
1.ヒト未分化胚性幹細胞を培養しているT25フラスコ
2.hESF9培地
2.FA−BSA添加hESF5培地:HEPES不含で、インシュリン、トランスフェリン、セレン酸ナトリウム、2−メルカプトエタノール、2−エタノールアミンという5種の因子と0.5mg/ml脂肪酸を除去したウシアルブミン(FA−BSA)を添加したESF基礎培地
3.EDTA溶液
4.ラミニン(Sigma社)
5.BMP4
【0066】
B.手順
1.プラスチック製培養皿を5μg/cmラミニンにてコートする。
2.未分化ES細胞をDETA溶液により回収する。
3.該細胞をラミニンにてコートした培養皿上にFA−BSAおよび10ng/mlBMP4を添加したhESF5培地中にて播種する。
4.2日おきに該培地を新たなFA−BSAおよび10ng/mlBMP4を添加したhESF5培地に交換。
8.培養開始後3日目に上皮様細胞が出現。
【0067】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
線維芽細胞増殖因子、ヘパリンやアスコルビン酸又はリン酸化アスコルビン酸、又はこれらの誘導体を添加した細胞培養培地により構成された細胞培養容器において霊長類胚性幹細胞を調製すること、及び、該霊長類胚性幹細胞を未分化状態で維持すること、より構成される、フィーダー細胞や血清のない細胞培養条件で、霊長類の胚性幹細胞を維持するための方法。
【請求項2】
以下の工程i)及びii):
i)タンパク質より成る基礎的な培養支持体にてコートした培養容器を用い、該培養容器の中でインシュリン、トランスフェリン、セレン酸ナトリウム、エタノールアミン、2−メルカプトエタノール、脂肪酸除去したウシアルブミンと複合させたオレイン酸より構成され、更に線維芽細胞増殖因子、ヘパリンやアスコルビン酸又はリン酸化アスコルビン酸、又はこれらの誘導体を添加した細胞培養培地により霊長類胚性幹細胞を調製する工程、及び
ii)該霊長類胚性幹細胞を未分化状態で維持する工程、
より構成される、フィーダー細胞や血清のない細胞培養条件で、霊長類の胚性幹細胞を維持するための方法。
【請求項3】
前記霊長類胚性幹細胞が安定な核型である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記アスコルビン酸がリン酸化アスコルビン酸である請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記霊長類胚性幹細胞が多能性ヒト単細胞である請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記霊長類胚性幹細胞が細胞培養を通じて少なくとも内胚葉、中胚葉そして外胚葉組織に分化する特徴を維持している請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記線維芽細胞増殖因子(FGF)がaFGF,bFGF,FGF−4,FGF−9,FGF−17またはFGF−18より形成されるグループから選択される請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記線維芽細胞増殖因子が1〜100ng/mlの間の濃度で供されている請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記線維芽細胞増殖因子が約10ng/mlの濃度で供されている請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記線維芽細胞増殖因子がbFGFである請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記線維芽細胞増殖因子が組み換え体である請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記アスコルビン酸またはリン酸化アスコルビン酸、またはこれらの誘導体が0.01〜0.2mg/mlの濃度で供されている請求項1から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記アスコルビン酸またはリン酸化アスコルビン酸、またはこれらの誘導体がおよそ0.1mg/mlで供されている請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記2−エタノールアミンが0.1〜1.0mg/ml濃度で供されている請求項1から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記2−エタノールアミンがおよそ0.6mg/mlで供されている請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記オレイン酸が3〜15μg/mlの濃度で供されている請求項1から15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記オレイン酸がおよそ9.5μg/mlで供されている請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ヘパリンが10〜500ng/mlの濃度で供されている請求項1から17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記ヘパリンがおよそ100ng/mlで供されている請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ヘパリンがヘパリンナトリウム塩である請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記タンパク質性の細胞培養支持体がコラーゲンを材料とするものである請求項1から20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記コラーゲンを原料とする細胞培養支持体がI型コラーゲンよりなる請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記I型コラーゲンが組み換え体I型コラーゲンである請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞培養支持体がI型コラーゲン、IV型コラーゲン、ファイブロネクチン、ラミニンおよびビトロネクチンよりなる群から選択された組み換え体ヒトタンパクよりなる請求項1から20のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記細胞支持体がIV型コラーゲン、ファイブロネクチン、ラミニンおよびビトロネクチンよりなる群から選択される少なくとも2種類の組み換え体タンパクよりなる請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記細胞支持体が組み換え体タンパクであるIV型コラーゲン、ファイブロネクチン、ラミニンおよびビトロネクチンよりなる請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記タンパク性細胞培養支持体がMatrigeltmである請求項1から20のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
前記霊長類の胚性幹細胞がEDTAの培養容器への添加後に継代される請求項1から27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
前記霊長類の胚性幹細胞がコラゲナーゼ、好ましくはIV型コラゲナーゼの添加後に継代される請求項1から27のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
前記霊長類の胚性幹細胞がディスパーゼの添加後に継代される請求項1から27のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
前記霊長類の胚性幹細胞がトリプシン/EDTA,好ましくは組み換え体トリプシンの添加後に継代される請求項1から27のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
前記霊長類の胚性幹細胞がクローンである請求項1から31のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
前記細胞培養培地が緩衝物質HEPESを含んでいない請求項1から32のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
以下の工程i)及びii):
i)タンパク質より成る基礎的な培養支持体にてコートした培養容器を用い、インシュリン、トランスフェリン、セレン酸ナトリウム、エタノールアミン、2−メルカプトエタノール、脂肪酸除去したウシアルブミンと複合させたオレイン酸より構成され、更に線維芽細胞増殖因子及びヘパリンを添加した細胞培養培地により霊長類胚性幹細胞を調製する工程、及び
ii)少なくとも1細胞種への該霊長類胚性幹細胞の分化を誘導する因子を添加する工程、
より構成される、フィーダー細胞や血清のない細胞培養条件で、霊長類の胚性幹細胞を少なくとも1細胞種に分化させるための方法。
【請求項35】
前記霊長類の胚性幹細胞がヒト多能性胚性幹細胞である請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記細胞種が神経細胞である請求項34または35に記載の方法。
【請求項37】
前記細胞種が上皮細胞である請求項34または35に記載の方法。
【請求項38】
前記タンパク質より成る基礎的な培養支持体がラミニンである請求項34から37のいずれかに記載の方法。
【請求項39】
タンパク質をベースとする培養支持体上の霊長類胚性幹細胞、及び、インシュリン、トランスフェリン、セレン酸ナトリウム、エタノールアミン、2−メルカプトエタノール、脂肪酸除去したウシアルブミンと複合させたオレイン酸を含む細胞培養培地を含み、該細胞培養培地に、更に線維芽細胞増殖因子、ヘパリン及びアスコルビン酸又はリン酸化アスコルビン酸、又はこれらの誘導体を添加されている細胞培養物。
【請求項40】
前記霊長類の胚性幹細胞が多能性ヒト胚性幹細胞である請求項39に記載の細胞培養物。
【請求項41】
タンパク質をベースとする培養支持体上の霊長類胚性幹細胞、及び、インシュリン、トランスフェリン、セレン酸ナトリウム、エタノールアミン、2−メルカプトエタノール、脂肪酸除去したウシアルブミンと複合させたオレイン酸を含む細胞培養培地を含み、該細胞培養培地に、更に線維芽細胞増殖因子、ヘパリン及びアスコルビン酸又はリン酸化アスコルビン酸、又はこれらの誘導体を添加されており、当該培地が、さらに霊長類胚性幹細胞の少なくとも1細胞種への分化を誘導させる少なくとも1種類の因子を含む細胞培養物。
【請求項42】
前記霊長類の胚性幹細胞が多能性ヒト胚性幹細胞である請求項41に記載の細胞培養物。
【請求項43】
インシュリン、トランスフェリン、セレン酸ナトリウム、エタノールアミン、2−メルカプトエタノール、脂肪酸除去したウシアルブミンと複合させたオレイン酸を含み、更に線維芽細胞増殖因子、ヘパリン及びアスコルビン酸又はリン酸化アスコルビン酸、又はこれらの誘導体を添加した細胞培養培地を含んでなる細胞培養容器。
【請求項44】
前記細胞培養容器がさらに霊長類の胚性幹細胞を含む請求項43に記載の細胞培養容器。
【請求項45】
前記霊長類の胚性幹細胞が霊長類の胚性幹細胞が多能性ヒト胚性幹細胞である請求項43または44に記載の細胞培養培地容器。
【請求項46】
前記容器が、ペトリ皿、細胞培養瓶またはフラスコ、複数穴プレートよりなる群から選択される請求項43から45のいずれかに記載の細胞培養容器。
【請求項47】
インシュリン、トランスフェリン、セレン酸ナトリウム、エタノールアミン、2−メルカプトエタノール、脂肪酸除去したウシアルブミンと複合させたオレイン酸を含み、更に線維芽細胞増殖因子、ヘパリン及びアスコルビン酸又はリン酸化アスコルビン酸、又はこれらの誘導体を添加した細胞培養培地を含む細胞培養培地容器。
【請求項48】
インシュリン、トランスフェリン、セレン酸ナトリウム、エタノールアミン、2−メルカプトエタノール、脂肪酸除去したウシアルブミンと複合させたオレイン酸を含み、更に線維芽細胞増殖因子及びヘパリンを添加した細胞培養培地を含む細胞培養培地容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−542247(P2009−542247A)
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−518958(P2009−518958)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【国際出願番号】PCT/GB2007/002584
【国際公開番号】WO2008/007082
【国際公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(500085769)ユニヴァーシティー オヴ シェフィールド (7)
【Fターム(参考)】