説明

細胞改変方法

【課題】細胞の性質を変化させることのできる細胞改変方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る細胞改変方法では、一対の電極間に印加したパルス電圧により生じる電界中に細胞を暴露し、同細胞の性質を変化させることとした。また、前記パルス電圧の印加時間は10nsec〜300nsecであることや、前記電界の強度は、1kV/cm〜30kV/cmであること、前記細胞は酵母であること、前記性質は、細胞の増殖速度であること等にも特徴を有する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞に対して刺激を付与し、その性質を改変する細胞改変方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療や食品分野を中心に幅広い産業分野において、単細胞の微生物や多細胞生物を構成する細胞(以下、総称して細胞という。)の培養が頻繁に行われている。
【0003】
特に有用な性質を獲得した細胞は、各産業での細胞の培養目的において、生産効率を向上させたり、飛躍的な技術革新をもたらすことがある。
【0004】
このような何らかの性質を獲得した細胞を得るためには、例えば、細胞を紫外線や放射線に曝露したり、遺伝物質を細胞内に取り込ませたりする方法が行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−093051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、細胞の性質を改変する方法は各種提案されているが、細胞は与える刺激の種類により異なる性質を示す場合もあり、産業分野における細胞の利便性の向上を図るためには、更なる細胞改変方法が求められている。
【0007】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、細胞の性質を変化させることのできる細胞改変方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記従来の課題を解決するために、請求項1に係る細胞改変方法では、一対の電極間に印加したパルス電圧により生じる電界中に細胞を暴露し、同細胞の性質を変化させることとした。
【0009】
また、請求項2に係る細胞改変方法では、請求項1に記載の細胞改変方法において、前記パルス電圧の印加時間は10nsec〜300nsecであることに特徴を有する。
【0010】
また、請求項3に係る細胞改変方法では、請求項1又は請求項2に記載の細胞改変方法において、前記電界の強度は、1kV/cm〜30kV/cmであることに特徴を有する。
【0011】
また、請求項4に係る細胞改変方法では、請求項1〜3いずれか1項に記載の細胞改変方法において、前記細胞は酵母であることに特徴を有する。
【0012】
また、請求項5に係る細胞改変方法では、請求項1〜4いずれか1項に記載の細胞改変方法において、前記性質は、細胞の増殖速度であることに特徴を有する。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る本発明では、一対の電極間に印加したパルス電圧により生じる電界中に細胞を暴露し、同細胞の性質を変化させることとしたため、細胞の性質を変化させることのできる細胞改変方法を提供することができる。
【0014】
また、請求項2に係る本発明では、前記パルス電圧の印加時間は10nsec〜300nsecであることとしたため、極短時間にパルス電圧を印加することができ、細胞の性質を効率よく変化させることができる。
【0015】
また、請求項3に係る本発明では、前記電界の強度は、1kV/cm〜30kV/cmであることとしたため、細胞を強い電場に曝すことができ、細胞の性質を効率よく変化させることができる。
【0016】
また、請求項4に係る本発明では、前記細胞は酵母であることとしたため、性質が変化した酵母を得ることができる。
【0017】
また、請求項5に係る本発明では、前記性質は、細胞の増殖速度であることとしたため、増殖速度の大きな細胞を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】細胞に対して付与する刺激の強さを概念的に示した説明図である。
【図2】パルスパワー印加装置及びキューベットの外観を示した説明図である。
【図3】パルスパワー印加装置の構成を示したブロック図である。
【図4】細胞に印加する電界の波形を示した説明図である。
【図5】酵母の形態及び形質を示した説明図である。
【図6】酵母の増殖曲線を示した説明図である。
【図7】パルス電界処理直後の生酵母数を示した説明図である。
【図8】パルス電界処理を行った際の生酵母の比率を示した説明図である。
【図9】パルス電界処理を行った酵母の増殖曲線を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、一対の電極間に印加したパルス電圧により生じる電界中に細胞を暴露し、同細胞の性質を変化させる細胞改変方法を提供するものである。以下の説明において、上述した一対の電極間に印加したパルス電圧により生じる電界をパルス電界ともいい、パルス電界中に細胞を暴露する処理をパルス電界処理ともいう。
【0020】
一般に細胞は、タンパク質や核酸などの構成物質が変質しない比較的穏やかな条件を生育や増殖の至適条件としている場合が多い。
【0021】
その一方で細胞は、外部環境に大きな変化が生じると、その環境変化に適応するために、至適条件下のような通常の状態では発現させていない形質を現すことがある。
【0022】
そこで本発明では、エネルギーを時間的に圧縮した衝撃力(パルスパワー)を細胞に対して付与し、通常時には発現させていない形質(以下、非通常時形質ともいう。)を発現させて、通常時の細胞には観察されない現象を誘導するようにしている。
【0023】
細胞に対して付与するパルスパワーの波形は特に限定されるものではなく、例えば矩形波状、三角波状、正弦波状などのいずれであっても良い。
【0024】
細胞に非通常時形質を発現させるためには、図1に示すように、細胞に対して付与する刺激が所定の好適な範囲内であるのが望ましい。この好適な範囲よりも刺激が小さいと細胞は非通常時形質を発現しにくく(不感)、また、刺激が大きすぎるとアポトーシスまたはネクローシスなどの過程を経て死ぬ細胞が増加し、細胞の改変効率が低下してしまうこととなる(不活化)。なお、この非通常時形質を発現させる刺激の好適な範囲(以下、発現刺激好適範囲ともいう。)から外れた刺激を付与した場合であっても、必ずしも非通常時形質の発現が不可能となる訳ではない。
【0025】
非通常時形質を発現させるためには、所定の刺激を細胞に対して付与する必要があるが、このような刺激の一例を挙げるとすると、パルス電圧の細胞への極短時間での印加を挙げることができる。また、この際の発現刺激好適範囲は、細胞に付与するパルス電圧の印加時間を10nsec〜300nsec、より好ましくは70nsec〜100nsecとすることが挙げられる。
【0026】
パルス電圧の印加時間をこのような条件とすることにより、細胞に対して与える刺激を極短時間とすることができ、細胞に対するダメージを可及的防止しながら、細胞の非通常時形質の発現を促すことができる。
【0027】
また、他の所定の刺激としては、例えば、大きな電界強度への細胞の曝露を挙げることができ、この際の発現刺激好適範囲としては、例えば、細胞を曝露させる電界の強度を1kV/cm〜30kV/cm、より好ましくは5kV/cm〜25kV/cmとすることが挙げられる。
【0028】
電界強度をこのような条件とすることにより、細胞に対して大きな刺激を付与することができ、細胞に非通常時形質の発現を効果的に促すことができる。
【0029】
ところで、本実施形態に係る細胞改変方法によって性質を変化させることのできる細胞は、特に限定されるものではない。
【0030】
具体的には、ヒトを含む動物、植物、担子菌類の子実体、複数の細胞よりなる微生物などの多細胞生物を構成している細胞や、同多細胞生物から分離した細胞、単細胞生物のいずれであっても良い。
【0031】
例えば、多細胞生物を構成している細胞に対して刺激を付与する場合には、一対の電極間に多細胞生物を配置してパルス電圧を印加することで、細胞に対して刺激を付与することができる。
【0032】
また、多細胞生物から分離した細胞や単細胞生物の場合も同様に、一対の電極間に細胞を配置してパルス電圧を印加することで細胞に対して刺激を付与することができる。
【0033】
特に、細胞としては酵母を選択することができる。酵母は食品分野や工業分野で広く用いられており、各分野における酵母の使用目的においてより好適な酵母に改変することが可能となる。
【0034】
また、いずれの細胞であっても良いのであるが、改変する性質は増殖速度であっても良い。増殖速度は、改変前に比して遅くても良く、また、早くても良い。
【0035】
増殖速度を改変前より早くなるように細胞を改変した際には、例えば、細胞を用いて所定の物質を生産しているような工業において、その生産効率を飛躍的に向上させることができる。また、増殖速度を改変前より遅くなるように細胞を改変した際には、例えば、微生物の発育を抑制して、食品製造等における過剰発酵を防止する場合などに応用することができる。
【0036】
また、例えば、前述の酵母の場合、酵母の生産量を増加させることができる。
【0037】
以下、本実施形態に係る細胞改変方法について、図面を参照しながら更に具体的に説明する。
【0038】
〔パルスパワー印加装置〕
まず、後に説明する各試験に用いた機器類の構成について説明する。図2(a)にはパルスパワー発生装置Aの外観を示し、図2(b)にはキューベットBの外観を示す。各試験では、細胞に付与するパルスパワーを発生させるパルスパワー発生装置Aと、同パルスパワー発生装置Aに電気的に接続したキューベットBとにより、パルスパワー印加装置Cを構成している。
【0039】
具体的に説明すると、図3のブロック図に示すように、パルスパワー発生装置Aは、電圧調整手段11と、パルス電圧発生手段12と、制御手段13と、入力手段14とを備えている。
【0040】
電圧調整手段11は、電源10より供給される電力の電圧を調整するものであり、パルス電圧発生手段12に供給する電圧の昇圧や降圧を行う。
【0041】
パルス電圧発生手段12は、11より供給される電力をパルス状に変換して端子部12a,12bより出力する役割を有する。
【0042】
制御手段13は、前述の電圧調整手段11及びパルス電圧発生手段12に電気的に接続されており、電圧調整手段11及びパルス電圧発生手段12の制御を行う。
【0043】
また、制御手段13にはコントロールパネルやキーボード等よりなる入力手段14が接続されており、使用者が同入力手段14を操作することにより、制御手段13に対して操作信号を入力可能に構成している。
【0044】
このような構成を有するパルスパワー発生装置Aでは、使用者が制御手段13に対し、入力手段14を用いて所定の電圧や印加時間、パルス波形等について入力すると、制御手段13は、電圧調整手段11に対して電圧を調整する信号を送信するとともに、パルス電圧発生手段12に対してパルス波形を調整する信号を送信する。
【0045】
電圧調整手段11は、制御手段13より送信された電圧調整信号に基づいてパルス電圧発生手段12へ供給する電力の電圧を調整する。
【0046】
また、パルス電圧発生手段12は、制御手段13より送信されたパルス波形調整信号に基づいて、電圧調整手段11より出力される電力をパルス状に変換し、端子部12a,12bより出力することとなる。図4は、パルスパワー発生装置Aより出力したパルスパワーの一例である。図4では、キューベットBに印加するパルスパワーの電圧波形を示しており、その印加時間は70nsとしている。ただし、パルスパワー発生装置の回路構成を変えることによって、10nsec〜300nsの印加時間をキューペット内の生物試料に提供することができる。
【0047】
キューベットBは、図2(b)にも示したように有底の矩形筒状としており、その内部には、内壁を中途部から底部にかけて内方にせり出させて狭隘部20を形成している。
【0048】
この狭隘部20の両側壁には、一対の電極23,23が、キューベットB内に収容した培地21に接触するように配置されており、各電極23,23は、それぞれパルス電圧発生手段12の端子部12a,12bに接続されている。なお、本実施形態にて使用するキューベットの電極23,23間の距離は4mmである。
【0049】
また、キューベットB内には培地21が収容されており、この培地21には細胞24が懸濁されている。
【0050】
このような構成としたパルスパワー印加装置Cにおいて、前述のようにパルスパワー発生装置Aからパルスパワーを出力させると、所定のパルス波形を有する電圧が電極23,23間に印加され、キューベットB内の細胞24をパルス電界中に曝露させて刺激を付与することができる。
【0051】
〔細胞について〕
次に、後述の試験にて使用する細胞について説明する。以下の試験では、細胞の一例として酵母細胞(以下、単に酵母という。)を用いることとした。
【0052】
酵母は、図5にも示すように、Saccharomyces cerevisiae BY4741a株を使用した。また酵母は、パルスパワーを付与するに際し、図6の増殖曲線中に示すように、32℃にて振盪培養し80〜120分経過した生育期の酵母(点線で示す)を使用することとした。
【0053】
〔上限電界強度調査試験〕
次に、酵母に対して付与する刺激としての電界強度の発現刺激好適範囲の上限値、換言すれば、酵母に対してどの程度の刺激を与えると生酵母数が減少するかを調べるための試験を行った。
【0054】
15ml容量の培養瓶に10mlのYPD液体培地を分注した。このYPD液体培地は、1000mlの蒸留水に、10gのBacto Yeast Extract、20gのBacto Pepton、20gのD-(+)-Glucoseを溶解し、オートクレーブにて120℃20分間殺菌処理したものを用いた。
【0055】
次に、平板寒天培地上にて単一コロニーを形成している前述の酵母を、培養瓶中の培地に一白金耳植菌し、TAITEC社製振盪培養器を用い32℃にて24時間160rpmで振盪培養を行った。
【0056】
このようにして得られた酵母培養液(1×105cfu/ml)を滅菌済みのマイクロピペットで0.8ml採取し、キューベットに分注してパルス電界処理に供した。
【0057】
本試験で、酵母を曝したパルスパワーの電界強度は、10kV/cm, 15kV/cm, 20kV/cm, 25kV/cmの4種類とした。また、電界に曝露する回数(以下、酵母をn回電界に曝すことを「nショット」というように表現する。)を重ねて、細胞に付与するエネルギーをそれぞれ違えることとした。複数ショットのパルス電界を細胞に対して付与することにより、細胞に与えるエネルギー(投入エネルギー)を増加させることができる。その結果を図7に示す。
【0058】
図7はパルス電界処理直後の生酵母数を示しており、縦軸に生酵母数、横軸は単位体積あたりの投入エネルギーを示している。また、パルス電界処理を行っていない時の生酵母数をコントロールとして示している。
【0059】
図7からも分かるように、10kV/cm及び15kV/cmにおいては、約20J/mlのパルスエネルギーを付与した場合であっても、パルス電界処理直後の生酵母数はコントロールに対して顕著な差異は見られなかった。
【0060】
一方、20kV/cm及び25kV/cmにおいては、約5J/ml以上のパルスエネルギーを付与することにより、105程度の生酵母数が最大で103程度まで減少する結果となった。
【0061】
これらの結果を総合的に勘案し、最大で25kV/cmの電界強度を付与する場合には、投入エネルギーを約2J/ml以下とすることにより、生酵母の減少割合を1/10以下に抑えることが可能であることが示唆された。
〔パルス電界処理後に一定時間培養した際の生酵母数の検証〕
【0062】
次に、生酵母数が106cfu/mlの培養液をキューベットB内に分注し、5kV/cm〜25kV/cmの電界強度にて0.01J/ml〜10J/mlのエネルギーを付与し、その後4時間培養したときの生酵母数の検証を行った。その結果を図8に示す。
【0063】
図8(a)は各電界強度でのパルス電界処理直後の生酵母数を示し、図8(b)はその後4時間培養を行った際の生酵母数を示している。なお、図8(a)における縦軸はパルス電界処理を行わなかった際の生酵母数を100%としており、また、図8(b)における縦軸はパルス電界処理を行わず4時間培養した後の生酵母数を100%としている。
【0064】
図8(a)からも分かるように、電界強度5〜25kV/cmの範囲で投入エネルギーを0.01〜10J/mlの範囲とした場合には、いずれの電界強度においても、パルス電界処理を行わなかった際の生酵母数に比して0%〜30%程度の減少に留まっていた。
【0065】
一方、図8(b)に示すように、パルス電界処理後に4時間培養を行うと、いずれの電界強度においても、投入エネルギーを0.01J/ml〜10J/mlとした場合には、パルス電界処理を行わず4時間培養した後の生酵母数に比して、より多くの生酵母数が確認された。
【0066】
また、電界強度を5〜15kV/cmの範囲とし、投入エネルギーを1J/ml〜10J/mlとした場合においても、パルス電界処理を行わず4時間培養した後の生酵母数に比して、より多くの生酵母数が確認された。
【0067】
しかしながら、電界強度を20〜25kV/cmとし、投入エネルギーを1J/ml〜10J/mlとした場合には、パルス電界処理を行わず4時間培養した後の生酵母数に比して、同等かそれ以下の生酵母数しか確認されなかった。
【0068】
これらの結果から、酵母に対して所定の電界強度にて刺激を与える際の発現刺激好適範囲は、電界強度が5〜15kV/cmで投入エネルギーが0.01J/ml〜10J/ml、又は電界強度が15〜25kV/cmで投入エネルギーが0.01J/ml〜1J/mlであることが示唆された。
【0069】
〔パルス電界処理後の生酵母数の経時変化〕
次に、パルス電界処理を行った酵母が培養中において、生酵母数がどのように経時変化するかについて検証を行った。
まず、パルス電界処理を施すための酵母の培養を行った。15ml容量の培養瓶に10mlのYPD液体培地を分注した。このYPD液体培地は、1000mlの蒸留水に、10gのBacto Yeast Extract、20gのBacto Yest Pepton、20gのD-(+)-Glucoseを溶解し、オートクレーブにて120℃20分間殺菌処理したものを用いた。
【0070】
次に、平板寒天培地上にて単一コロニーを形成している前述の酵母を、培養瓶中の培地に一白金耳植菌し、TAITEC社製振盪培養器を用い32℃にて24時間160rpmで振盪培養を行った。
【0071】
このようにして得られた酵母培養液(1×105 cfu/ml)を滅菌済みのマイクロピペットで0.8ml採取し、キューベットに分注してパルス電界処理に供した。
【0072】
本試験では、パルス電界処理における電界強度は10kV/cmに固定し、0ショット(コントロール)、3ショット、10ショット、30ショット、100ショット、200ショットの6種類の投入エネルギーの異なるサンプルを作成した。
【0073】
次いで、パルス電界処理を施した酵母を、キューベット中から滅菌ピペットにて0.5ml取りだし、4.5mlのYPD液体培地を分注した15ml容量の培養瓶に接種し、TAITEC社製振盪培養器を用い32℃にて24時間160rpmでそれぞれ振盪培養を行いつつ、生酵母数の経時変化を観察した。生酵母数の測定は、パルス電界処理直後(0h)、4時間培養後、12時間培養後、16時間培養後において行った。その結果を図9に示す。
【0074】
図9からも分かるように、パルス電界処理直後の細胞はいずれのサンプルも同程度の生酵母数であったが、4時間培養を行った時点では、パルス電界処理を行ったサンプルはいずれも、コントロールに比して増殖速度の向上が見られた。また培養12時間後では、コントロールに対する生酵母数の差が維持されていた。また、培養16時間後では、コントロールに対する生酵母数の差がやや縮小する傾向が観察された。
【0075】
これらの結果から、パルス電界処理を施した細胞(酵母)は、パルス電界処理を施していないコントロールの細胞(酵母)に比べ、処理後0〜4時間という比較的早期に増殖速度を増加できることが示された。すなわち、酵母に対してパルス電界処理を施すことにより、非通常時形質として、増殖速度の増加を発現させることができた。
【0076】
上述してきたように、本実施形態に係る細胞改変方法によれば、一対の電極間に印加したパルス電圧により生じる電界中に細胞を暴露することにより、例えば増殖速度など細胞の性質を変化させることができる。
【0077】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0078】
10 電源
11 電圧調整手段
12 パルス電圧発生手段
13 制御手段
14 入力手段
20 狭隘部
21 培地
23 電極
24 細胞
A パルスパワー発生装置
B キューベット
C パルスパワー印加装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極間に印加したパルス電圧により生じる電界中に細胞を暴露し、同細胞の性質を変化させる細胞改変方法。
【請求項2】
前記パルス電圧の印加時間は10nsec〜300nsecであることを特徴とする請求項1に記載の細胞改変方法。
【請求項3】
前記電界の強度は、1kV/cm〜30kV/cmであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の細胞改変方法。
【請求項4】
前記細胞は酵母であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の細胞改変方法。
【請求項5】
前記性質は、細胞の増殖速度であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の細胞改変方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−213353(P2012−213353A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80533(P2011−80533)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】