説明

細胞治療用材料、及び血管内治療方法

動脈瘤等の血管内病変に対して、非常に有効な血管内治療方法を提供する。血栓化及び/または血栓の器質化を促進すると共に被注入者によって拒絶されない細胞(例えば、線維芽細胞)を、生体外では液状でありかつ生体内では半固形状(ゲル状)となる培地(例えば、タイプIコラーゲンまたは水溶性エラスチンを含有する培地)と共に、血栓化及び/または血栓の器質化を促したい場所に注入することにより達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、血管内治療方法に関するものであり、より具体的には、大動脈、大静脈および内臓、骨盤腔、四肢、脳内動静脈等の血管内治療方法に関するものである。
【背景技術】
近年、各医療分野で疾患の治療を目的とした細胞治療、細胞移植技術、血管内治療が研究開発されている。このうち、循環器に対する技術としては、主に、臓器虚血に対する血管新生・再生、心筋細胞の再生・増殖、または心筋機能の補助を目標としたものが多い。すなわち、下肢虚血、心筋梗塞、狭心症に対する血管新生や心筋梗塞、心不全に対する心筋細胞の再生・移植などである。さらに血管に対しての細胞治療、細胞移植技術、血管内治療の研究では、動脈硬化の防止や狭窄部の憎悪の防止、拡張療法後の再狭窄の防止などが行われている。これらの研究において血栓に対しては、その形成を防止する、或いは溶解する方向の研究がなされてきた。
また、細胞治療法においては、心不全治療への適用を目指した研究が行われているが(特開2002−145797)、血管内治療への適用を目指した研究は知られていない。
一方、従来の考え方に対して、発想を転換し、不安定血栓の血栓化・器質化を促すことにより、血管内治療を行おうとする試みがなされている。このような方法としては、各種薬剤や組織片の注入、高分子材料の使用、生体糊の使用等が試みられたが、未だ成功に至っていない。
【発明の開示】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、動脈瘤等の血管内病変に対して、非常に有効な血管内治療方法を提供すること、及びそのような治療方法に用いることができる細胞治療用材料を提供することにある。
本発明者らは、血管内治療に対する発想を転換し、血管内の血栓形成を促進することにより、不安定な血栓を安定化、器質化させることで、動脈瘤等を治癒できることを確認し、基本的には本発明を完成するに至った。
上記目的を達成するために、第1の発明に係る血管内治療方法は、血栓化及び/または血栓の器質化を促進すると共に被注入者によって拒絶されない細胞を、生体外では液状でありかつ生体内では半固形状(ゲル状)となる培地と共に、血栓化及び/または血栓の器質化を促したい場所に注入することを特徴とする。
また、第2の発明に係る細胞治療用材料は、血栓化及び/または血栓の器質化を促進すると共に被注入者によって拒絶されない細胞が、生体外では液状でありかつ生体内では半固形状(ゲル状)となる培地中に含有されたことを特徴とする。
「血栓」とは、血液が凝固してできた塊を意味し、「血栓化」とは、血管内の所定の場所に血栓を形成させることを意味している。なお、血液が血栓を形成する段階で、血液が凝固しつつ一方では同時に線溶(血栓の溶解)が亢進し、十分に血栓の形成が進まず、柔らかなゲル状のままであることがある。このような血栓化を「不十分な血栓化」という。また、血栓は、一般には肉芽組織で置き換えられて「器質化」する傾向にある。このように器質化してゆくと、肉芽組織内に新しく血管が形成され、各種細胞、生理的活性物質が血栓内に行き渡り、膠原繊維が増生し瘢痕収縮をおこすようになる。つまり、血栓は線維組織に置き換わると、完全に器質化しているものと言え、圧ストレスに耐えうるようになる。
一般に、他人の組織・細胞等を移植片として移植された場合には、免疫反応によって、その移植片が拒絶されてしまう。このため、「被注入者によって拒絶されない」細胞とは、そのような移植後の拒絶を避けられる細胞のことを意味しており、例えば被注入者の自己細胞が例示される。この他に、免疫学的に被注入者によって拒絶されない細胞が見出された場合(例えば、(a)バイオテクノロジーによって、免疫学的な改良を受けた細胞、(b)その他、偶然に見出された細胞)には、そのような細胞を含む。なお、自己細胞を使用した場合には、自家細胞移植であるため、拒絶反応等の副作用の心配がない。また、自己細胞を用いる場合には、結合組織由来の細胞、筋組織由来の細胞、血管由来の細胞、骨髄細胞などを用いることができる。
本発明においては、被注入者の体内に注入された細胞は、血流等の影響を受けず、血栓化等を望む所定の部位に留まることが必要となることから、半固形状(ゲル状)であることが望まれる。加えて、血栓化等を望む所定の部位に対して細胞と培地とを注入する際には、空間的に狭い場所(例えば、針内・カテーテル内など)を通ることから、生体外では取扱の容易な液状であることが望まれる。また、そのような培地に細胞が含有されていれば、被注入者を切開等することなく、経皮的に注入することが可能であるため、取扱が容易となる。「生体外では液状でありかつ生体内では半固形状(ゲル状)となる」とは、上記のような特性を満たすために培地に望まれる要件である。このような培地としては、例えばタイプIコラーゲン(Type I collagen)を含んだ培地、水溶性エラスチン(Elastin)(例えば、不溶性エラスチンをシュウ酸加水分解処理により水溶化し、そのうち高分子量タンパク(分子量15,000以上)を分画・精製することで水溶性エラスチンを得る)を含んだ培地が例示される。特に、水溶性エラスチンを含有した培地では、エラスチンがプロテオグリカン等の細胞外マトリックスとの結合性を有するため、ゲル内部にbFGF、VEGF等の細胞増殖因子等を容易に保持でき、導入した自己細胞の増殖を促進可能とすることができる。上記のような培地を用いて、更に細胞成長因子などを含有させておけば、培地から徐放させることが可能となるため、移植細胞の分化誘導や増殖を促進させることができる。また2種類以上の細胞を用い、細胞間の分化誘導の相互作用を利用すれば細胞増殖因子等を用いなくとも同様に移植細胞の分化誘導や増殖を促進させることができる。
なお、タイプIコラーゲンまたは水溶性エラスチンを用いる場合には、その濃度は、上記培地の特質(つまり、生体外では液状でありかつ生体内では半固形状となる)を備えている限りにおいて、任意に設定できる。具体的には、タイプIコラーゲンの場合には、約0.02質量%〜約2.0質量%、好ましくは約0.05質量%〜約1.0質量%、更に好ましくは約0.1質量%〜約0.5質量%である。また、水溶性エラスチンを用いる場合には、約1.0質量%〜約80質量%、好ましくは5.0質量%〜約40質量%、更に好ましくは約10質量%〜約30質量%である。
「注入」するとは、例えば針・カテーテルなどの先細状の器具を用いて、所定の場所に、細胞と培地とを導入することを意味している。
本発明によれば、例えば急性大動脈解離の治療においては、解離偽腔の血栓化、器質化を促すことにより、解離腔の破裂、進展、瘤化などを防止し、手術治療を回避し治癒に結び付けることが可能である。また、動脈瘤の被覆型破裂(count ained rupture)例に応用することにより、形成された血栓を器質化させて、治癒に導くことが可能となり、外科手術が不要となる。
また、大動脈疾患に対する血管内治療においては、従来技術であるステントグラフトに対して、本発明を併用することにより、ステントグラフトにより隔離(Exclusion)された瘤または偽腔内に形成された不十分な血栓の血栓化を促し、更に形成された不安定な血栓を器質化することが可能となる。これにより、かかる血管内治療での最大の問題点である血液の瘤または解離偽腔内への流入(endoleak)や隔離された瘤または解離偽腔内血圧の持続(endotension)の克服が可能となり、劇的な治療成績の向上が期待できる。
一方、骨盤腔、内臓、四肢、頭蓋内などの末梢動脈瘤に対する血管内治療においては、本発明は、コイルを留置した動脈瘤内に形成された不十分な血栓の血栓化を促進し、更に不安定な血栓を器質化することによりコイルが圧縮されて血栓が器質化しないという状態(coil compaction)を防止できるし、内蔵や四肢静脈瘤への応用、動静脈瘻への応用なども可能である。
このように血栓化を促進し、更にその器質化を促すという本発明は、血管内治療の分野においては大変に応用範囲が広いが、線維化の促進法として捉えた場合には、血管内治療に限らず、手術材料など、更に他の分野における様々な使用法が開発できると期待される。
【図面の簡単な説明】
図1は、ラット頚動脈結紮モデルを作製したときの写真図である。
図2Aは、細胞治療から4週間後に摘出された頚動脈標本写真図である。I群における代表例を示す。
図2Bは、細胞治療から4週間後に摘出された頚動脈標本写真図である。II群における代表例を示す。
図2Cは、細胞治療から4週間後に摘出された頚動脈標本写真図である。III群における代表例を示す。
図2Dは、細胞治療から4週間後に摘出された頚動脈標本写真図である。IV群における代表例を示す。IV群においては、肉眼上でも明らかな血栓の器質化が認められる。
図3Aは、摘出頚動脈標本にDiIを用いて、移植細胞を同定したときの顕微鏡写真図である(I群)。
図3Bは、摘出頚動脈標本にDiIを用いて、移植細胞を同定したときの顕微鏡写真図である(II群)。
図3Cは、摘出頚動脈標本にDiIを用いて、移植細胞を同定したときの顕微鏡写真図である(III群)。
図3Dは、摘出頚動脈標本にDiIを用いて、移植細胞を同定したときの顕微鏡写真図である(IV群)。III群及びIV群においては、移植された細胞(オレンジ色に光っている)が同定されており、生存していることが示されている。
図4Aは、摘出頚動脈標本をHoechst33342により染色して、生細胞を同定したときの顕微鏡写真図である(I群)。
図4Bは、摘出頚動脈標本をHoechst33342により染色して、生細胞を同定したときの顕微鏡写真図である(II群)。
図4Cは、摘出頚動脈標本をHoechst33342により染色して、生細胞を同定したときの顕微鏡写真図である(III群)。
図4Dは、摘出頚動脈標本をHoechst33342により染色して、生細胞を同定したときの顕微鏡写真図である(IV群)。III群及びIV群においては、生存した細胞(青色に光っている)が血栓内に多数同定された。図3A−図3Dの所見と合わせることにより、移植した細胞が生着していることが確認された。
図5Aは、摘出頚動脈標本をトリクロム染色してコラーゲン線維を同定したときの顕微鏡写真図である(I群)。
図5Bは、摘出頚動脈標本をトリクロム染色してコラーゲン線維を同定したときの顕微鏡写真図である(II群)。
図5Cは、摘出頚動脈標本をトリクロム染色してコラーゲン線維を同定したときの顕微鏡写真図である(III群)。
図5Dは、摘出頚動脈標本をトリクロム染色してコラーゲン線維を同定したときの顕微鏡写真図である(IV群)。IV群では、他の群に比べると、コラーゲン線維(青色に染まっている)が血栓内に多量に同定された。
図6Aは、摘出頚動脈標本をHE染色したときの顕微鏡写真図である(I群)。
図6Bは、摘出頚動脈標本をHE染色したときの顕微鏡写真図である(II群)。
図6Cは、摘出頚動脈標本をHE染色したときの顕微鏡写真図である(III群)。
図6Dは、摘出頚動脈標本をHE染色したときの顕微鏡写真図である(IV群)。III群及びIV群においては、細胞成分が豊富な血栓を認めた。また、IV群においては、器質化血栓内に血管新生が認められた。
図7Aは、摘出頚動脈標本を抗α平滑筋アクチン(smooth muscle actin)抗体を用いて染色したときの、III群の顕微鏡写真図である。
図7Bは、摘出頚動脈標本を抗α平滑筋アクチン(smooth muscle actin)抗体を用いて染色したときの、IV群の顕微鏡写真図である。IV群では、器質化血栓内に抗α平滑筋アクチン抗体で染まった平滑筋に分化した細胞(グリーンに光っている)が多数確認された。図6A−図6Dの所見と合わせることにより、IV群では、圧ストレスに耐えうる器質化血栓が広範囲に形成されていることが確認された。
図8は、治療4週間後のコラーゲン線維化率を示すグラフである。図5A−図5Dに示したトリクロム染色標本を用い、各群における血栓中に形成されたコラーゲン線維の断面積を画像解析ソフトを用い測定し、血栓全体の断面積に対する百分率で示した。
図9Aは、採取した外頚静脈パッチの写真図である。
図9Bは、外頚静脈パッチを大動脈壁切開部に縫着し大動脈瘤を作製した術中写真図である。
図10は、術後1週間後の下行大動脈のDSA(血管造影)像の写真図である。嚢状瘤が作製されている。
図11は、Zステントをe−PTFEで被覆し作製したステントグラフトの写真図である。
図12Aは、大動脈瘤をエクスクルージョンし胸部大動脈瘤に血管内治療をおこなったあとのDSA(血管造影)像の写真図である。嚢状瘤がエクスクルージョンされている。
図12Bは、大動脈瘤をエクスクルージョンし胸部大動脈瘤に血管内治療をおこなったあとのDSA(血管造影)像の写真図である。嚢状瘤がエクスクルージョンされている。
図13Aは、大動脈瘤摘出標本をHE染色したときの顕微鏡写真図である。血管内治療のみのコントロール例では器質化は不十分で矢印の部位に赤血球をみとめる。
図13Bは、大動脈瘤摘出標本をHE染色したときの顕微鏡写真図である。細胞移植付加例では瘤内腔すべてが器質化し明らかな赤血球は認めなかった。
図14Aは、大動脈瘤摘出標本をHE染色したときの強拡大顕微鏡写真図である。血管内治療のみのコントロール例では矢印の部位に形態が保たれた赤血球が確認され血流の残存が推測さる。
図14Bは、大動脈瘤摘出標本をHE染色したときの強拡大顕微鏡写真図である。細胞移植付加例では瘤内腔すべてが器質化し極一部に矢印の部位の如く赤血球がすでに破壊され吸収されている像のみ認めた。
図15Aは、大動脈瘤摘出標本をトリクロム染色してコラーゲン繊維を同定したときの顕微鏡写真図である(コントロール例)。
図15Bは、大動脈瘤摘出標本をトリクロム染色してコラーゲン繊維を同定したときの顕微鏡写真図である(細胞移植付加例)。血管内治療のみのコントロール例にくらべ細胞移植付加例ではコラーゲン繊維(青色に染まっている)が瘤内腔内に多量に同定された。
【発明を実施するための最良の形態】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は、下記の実施形態によって限定されるものではなく、その要旨を変更することなく、様々に改変して実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
本発明を具体化する方法としては、例えば次のような工程が例示される。
(1)自己細胞を採取した後に培養し、細胞数を増加させる初代大量培養工程、(2)こうして増加させた細胞を生体外では液状でありかつ生体内では半固形状となる培地に3次元培養する3次元培養工程、(3)この3次元培養工程を経た自己細胞を含む培地を針、カテーテルなどを用いて、被注入者の生体内において、血栓化及び/または血栓の器質化を促したい場所に注入する注入工程の各工程を経る。
【実施例】
1.純系ラットを用いた同種移植実験
a.移植細胞の準備
i)筋衛星細胞の採取(初代大量培養工程)
ルイスラットの中殿筋および大腿四頭筋を採取し、D−MEM培地に浸漬した。この筋を培地中で細かく切り刻み(mince)、TypeXIコラーゲナーゼに二時間浸漬した。更に、ディスパーゼに一時間浸漬後、撹拌し、上澄みを遠心分離、洗浄し、細胞を回収した。回収した細胞をフィブロネクチンシャーレにて、10%FBSを含有するD−MEM培地中で30分間培養し、振盪後培養液を回収した。次いで、細胞をラミニンシャーレにて、10%FBSを含有するD−MEM培地中でコンフルエントとなるまで、4日間培養した。コンフルエントとなった所で筋衛星細胞を回収し、−80℃にて凍結保存した。
ii)線維芽細胞の採取(初代大量培養工程)
ルイス新生児ラット皮膚を採取し、D−MEM培地に浸漬した。採取したラット皮膚をTypeXIコラーゲナーゼに4℃にて40時間浸漬後、真皮組織を剥脱採取した。この真皮細胞を10%FBSを含有するD−MEM培地にて、コンフルエントとなるまで、10日間培養した。コンフルエントとなった所で線維芽細胞を回収し、−80℃にて凍結保存した。
b.細胞治療材料の調製と細胞治療
i)TypeI(タイプI)コラーゲンゲル3次元培地の作成
4℃に保ったまま、(1)0.3%酸可溶性TypeIコラーゲン溶液(Cellmatrix TypeI−A,新田ゼラチン社製)、(2)10倍濃度のD−MEM培地、(3)再構成用緩衝液(0.05N水酸化ナトリウム溶液100mL+重炭酸ナトリウム2.2g+HEPES4.77g)を調整し、用量比8:1:1で混和した後、氷中にて保存した。
ii)治療溶液の調製
上記a.i)、a.ii)で準備した線維芽細胞、及び筋衛星細胞を解凍し、これらの細胞をDiI(Cell TrackerTM CM−DiI,Molecular Probes Inc.社製,Eugene Oregon)にてラベルした。治療溶液として、コントロール群を含む、下記4種類の溶液を調整した。
(1)I群:D−MEM培地のみ50μL
(2)II群:TypeIコラーゲン培地のみ
(3)III群:線維芽細胞を1x10個含んだTypeIコラーゲンゲル培地50μL
(4)IV群:線維芽細胞、筋衛星細胞を各々0.5x10個含んだTypeIコラーゲンゲル培地50μL
なお、上記(3)、(4)溶液は、4℃に保ったTypeIコラーゲンゲル培地に上記細胞を混和し、3次元培養とした。
c.不安定血栓モデルの作成と細胞治療の実施
i)12週齢ラットにネンブタール50mg/kgを腹腔内投与し、アトロピン0.01mg/kgを筋注することで麻酔をかけた。麻酔下ラットの左総頚動脈を露出し、内外頚動脈の分岐部において、4−0絹糸を用いて結紮し、中枢側に不安定血栓を作成した。
ii)結紮部中枢側に24Gサーフローを刺入し、b.ii)で用意した各溶液を左総頚動脈内に注入し、4群のモデルを作成した(図1)。
d.治療効果の病理組織学的検討
細胞治療の実施から、2週後及び4週後に、ホルマリンにて權流固定し、頚動脈を摘出し(図2A−図2D)、血栓化の程度を肉眼所見で観察した。また、頚動脈をHE染色により検討するとともに、Hoechst 33342染色及びDiIにてラベルした移植細胞の生存率(viability)を評価した。更に、トリクロム染色にてコラーゲン線維の形成程度を検討し、α−平滑筋アクチン(smooth muscle actin)抗体(SIGMA社製,St.Louis,Missouri)にて免疫組織染色し、細胞の分化能を検討した。
また、コラーゲン線維の形成程度を定量的に比較するため、NIH(米国国立衛生研究所)イメージ解析ソフトを用い、4週後のトリクロム染色標本における血栓全体の断面積に対するコラーゲン線維形成面積の割合を測定した。
上記試験の結果、以下のことが確認された。
(1)TypeIコラーゲンを注入時に4℃に保つことにより、液状のままであり、24G針により注入可能である一方、生体内に注入された後には、半固形状となった。
(2)移植した線維芽細胞、筋衛星細胞は生存可能(viable)であり、移植4週後においても、注入された血管内に生着し増殖していた(図3A−図3D、図4A−図4D)。
(3)線維芽細胞移植群(III群)、線維芽細胞+筋衛星細胞移植群(IV群)では、D−MEM培地のみ(I群)やTypeIコラーゲンゲル培地のみ(II群)を注入した場合に比べると、明らかにコラーゲン線維の形成が促進されていた(図5A−図5D)。
(4)線維芽細胞+筋衛星細胞移植群(IV群)では、他の群に比べて、平滑筋に分化した細胞を多数有しており、線維化が促進され、毛細血管が増生した、圧ストレスに耐え得る器質化血栓が広範囲に形成されていた(図6A−図6D、図7A−図7B)。
(5)イメージ解析ソフトによる解析の結果、定量的にも線維芽細胞+筋衛星細胞移植群(IV群)では、他の群に比べると、明らかにコラーゲン線維の形成が促進されていることが確認された(図8)。
なお、上記実施例では、自己細胞として、線維芽細胞、筋衛星細胞を選択しているが、血栓化、血栓の器質化を促す細胞を、採取可能な自己細胞であれば幾種類でも自由に選択し組み合わせて用いることができる。
2.ビーグル犬を用いた大動脈瘤治療モデル実験
a.胸部大動脈瘤モデルの作製
ビーグル犬を全身麻酔気管挿管下に左開胸を施行、下行大動脈を剥離する。
ヘパリンを1mg/kg全身投与し下行大動脈を遮断する。
予め採取しておいた3cm長の外頚静脈パッチを大動脈壁切開部に縫着し(図9A−図9B)大動脈瘤を作製する。術後1週間後にDSAを施行し嚢状大動脈瘤が作製されたことを確認した(図10)。
b.移植細胞の準備
i)筋衛星細胞、線維芽細胞の採取(初代大量培養工程)
a.で大動脈瘤を作製したビーグル犬の中殿筋を4g採取し、D−MEM培地に浸漬した。この筋を培地中で細かく切り刻み(mince)、Type XI コラーゲナーゼに二時間浸漬した。更に、ディスパーゼに一時間浸漬後、撹拌し、上澄みを遠心分離、洗浄し、細胞を回収した。回収した細胞をフィブロネクチンシャーレにて、10%FBSを含有するD−MEM培地中で30分間培養し、振盪後培養液を回収した。回収した培養液をラミニンシャーレにて、10%FBSを含有するD−MEM培地中でコンフルエントとなるまで、4日間培養した。コンフルエントとなった所で筋衛星細胞を回収し、−80℃にて凍結保存した。一方前術の培養液を回収したあとのフィブロネクチンシャーレを10%FBSを含有するD−MEM培地にて、細胞がコンフルエントとなるまで培養した。コンフルエントとなった所で一度継代し線維芽細胞を回収し、−80℃にて凍結保存した。
c.大動脈瘤血管内治療モデルの作成と細胞治療の実施
i) a.で大動脈瘤を作製したビーグル犬を全身麻酔気管挿管下に開胸開腹し、腹部大動脈より胸部大動脈瘤部にZステントをe−PTFEで被覆し作製したステントグラフト(図11)を留置、大動脈瘤をエクスクルージョンし胸部大動脈瘤に血管内治療をおこなった(図12A−図12B)。
ii)上記b.で準備した線維芽細胞、及び筋衛星細胞を解凍し、線維芽細胞、筋衛星細胞を各々1x10個/mLを4℃に保ったType I コラーゲンゲル培地に混和し、3次元培養とし治療溶液を調製した。
iii)胸部大動脈瘤に血管内治療をおこなった後引き続き、ii)で作製した治療溶液1.5mLをエクスクルージョンした胸部大動脈瘤壁内にシリンジにて注入し細胞治療を実施した。
d.治療効果の病理組織学的検討
胸部大動脈瘤に血管内治療をおこなったのみのビーグル犬(コントロール例)と胸部大動脈瘤に血管内治療を行い引き続き細胞治療を実施したビーグル犬(細胞移植付加例)を4週後に犠死させ、胸部大動脈瘤を摘出しホルマリンにて固定し、HE、マッソントリクロム染色を行いエクスクルージョンされた瘤内の血栓の器質化の程度を比較検討した。
上記試験の結果、以下のことが確認された。
(1)血管内治療によりエクスクルージョンされた大動脈瘤内に自己線維芽細胞、筋衛星細胞を移殖すると、移植しない場合より血栓の器質化が明らかに進んでおり(図13A−図13B)、移植していないものは瘤壁の直下では赤血球が同定でき器質化はしていなかったが移植したものは瘤壁の直下まで器質化していた(図14A−図14B)。
(2)マッソントリクロム染色では、移植していないものに比べ移植したものはコラーゲン繊維が豊富に染まりより器質化していた。
これらの結果より、本実施例1.及び2.の所見をあわせると、我々が開発した細胞治療用材料及び血管内治療方法は、生体内で不安定血栓の血栓化及び/または器質化を促す画期的な成果をあげることが証明された。
【図1】























【図8】



【図10】

【図11】










【特許請求の範囲】
【請求項1】
血栓化及び/または血栓の器質化を促進すると共に被注入者によって拒絶されない一種類または多種類の細胞を、生体外では液状でありかつ生体内では半固形状(ゲル状)となる細胞治療用材料と共に、血栓化及び/または血栓の器質化を促したい場所に注入することを特徴とする血管内治療方法。
【請求項2】
血栓化及び/または血栓の器質化を促進すると共に被注入者によって拒絶されない細胞が、生体外では液状でありかつ生体内では半固形状(ゲル状)となる培地中に含有されたことを特徴とする細胞治療用材料。
【請求項3】
前記培地には、タイプIコラーゲン、または水溶性エラスチンのうちの少なくとも一種が含有されていることを特徴とする請求項2に記載の細胞治療用材料。
【請求項4】
被注入者によって拒絶されない前記細胞には、線維芽細胞と筋衛星細胞(筋芽細胞)が同時に含有されていることを特徴とする請求項2に記載の細胞治療用材料。

【国際公開番号】WO2004/082694
【国際公開日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【発行日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503752(P2005−503752)
【国際出願番号】PCT/JP2004/003730
【国際出願日】平成16年3月19日(2004.3.19)
【出願人】(504107133)コスモテック株式会社 (2)
【Fターム(参考)】