説明

細胞活性制御方法及び装置

【課題】 生細胞の細胞活性を制御する方法及びこの制御方法を適用するための細胞活性制御装置を提供する。
【解決手段】 細胞活性制御装置は、300〜600nmの範囲にピーク波長を有し、且つ照射強度が500〜500、000μW/cm2である光を出力する光源部(16)と、光源部が出力した光を動物細胞にまで導き動物細胞に当該光を照射する照射部と、動物細胞に金属イオンを接触させる接触部(17)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の増殖活性を制御する方法に関し、特に動物細胞の増殖活性を制御する方法及びこの方法を適用する細胞活性制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍は、人の生命を脅かす重大な疾患である。このため悪性腫瘍を治療する方法が種々開発されている。悪性腫瘍の治療方法を大別すると外科療法、化学療法、放射線療法、光線力学療法(PDT)などがある。
【0003】
外科療法は、手術により直接的に腫瘍を取り去る治療法であり、化学療法は、抗腫瘍剤を投与し体中の腫瘍細胞を死滅ないしその増殖を抑制させる治療法である。外科療法は、目的とする腫瘍を手術により除去するので、その限りにおいて腫瘍が除去される。しかし、肉眼的に視認できない微小な腫瘍細胞を外科的に除去することは難しい。また、悪性腫瘍の場合には腫瘍細胞(例えば癌細胞)が他の場所に転移している可能性があるため、外科療法のみで悪性腫瘍細胞を完全取り除くことは困難である。そこで、一般に外科療法は、全身的に作用する化学療法と組み合わせて適用される。
【0004】
放射線療法は、高エネルギービームを患部に照射し、腫瘍細胞を殺す治療法である。高エネルギービームは、選択性がないため腫瘍細胞と正常細胞とを問わず破壊する。このため、限定された領域にのみピンポイントで照射されなければならない。それゆえ、非固形癌や存在確認ができにくい微小な腫瘍細胞群には適用できない。よって、放射線療法も他の治療法、特に化学療法と併用されることが多い。
【0005】
光線力学療法(PDT)は、ポルフィリン誘導体のような体細胞に吸収される光感受性化学物質を投与した後に患部にレーザー照射する療法である。ポルフィリン誘導体などの光感受性化学物質はレーザー光が当ると化学反応を起こし活性酸素を発生する性質を有する。人に投与されたポルフィリン誘導体は、正常な細胞からは急速に消失するが、腫瘍細胞には長時間とどまるので、この性質を利用し光感受性化学物質を投与後、所定時間経過後に患部にレーザー照射すると、腫瘍細胞のみを選択的に殺滅することが可能になる。
【0006】
上述のごとく、悪性腫瘍に対する種々の治療法において、生体内で特異な作用を奏する化学物質が利用されているが、悪性腫瘍細胞に対して特異な作用を有する物質として、白金化合物系の核酸代謝結抗剤が知られている。具体的には、シスプラチン(シス−ジクロロアミンプラチナム)、カルボン酸プラチナ、シリコンプラチナなどの白金錯体が知られている。これら白金錯体は、いずれも4価の白金を構造の中心にし、その周囲に、塩素、アンモニウム、カルボン酸、シリコンなどのイオンが結合した構造である。これらの白金錯体は、癌細胞内のDNAと結合し、DNA合成および、それに引続く癌細胞の分裂を阻害し、癌細胞を死滅させると考えられており、他の薬剤が有効な効果を示さない固形癌に卓効を示す場合が多い。
【0007】
よって上記白金錯体系の抗腫瘍剤は、有用な抗腫瘍剤ではある。しかし、上記白金錯体系抗腫瘍剤は、経口投与や静注投与において、激しい嘔吐をもよおし、また腎障害などの副作用を奏する。また、癌の発生部位の違いにより十分な効果が得られないことがある。また、長期の使用により薬剤耐性が発生(シスプラチン耐性癌の出現など)し効果が低下するという問題がある。
【0008】
このため、種類の異なる白金錯体系抗腫瘍剤を組み合わせたり、他の抗腫瘍剤と組み合わせた治療が行われているが、未だ十分に解決できていない。それゆえ、正常細胞には作用せず、腫瘍細胞にのみ選択的に作用する薬剤又は腫瘍細胞にのみ選択的に作用させる技術の開発が望まれている。
【0009】
腫瘍細胞にのみを選択的に死滅させる技術としては、例えば下記特許文献1、2がある。
【0010】
【特許文献1】特開2004−223175(請求項1など)
【特許文献2】特表2002−543164(請求項1など)
【0011】
特許文献1は、腫瘍内またはその表面に存在する気泡を破泡させることにより、前記腫瘍を構成する腫瘍細胞の少なくとも一部を死滅させる腫瘍治療装置に関する。
【0012】
特許文献2は、対象脊椎動物における組織を活性薬剤送達の標的とする方法であって、(a)該対象脊椎動物に該活性薬剤を含んでなる送達ビヒクルを投与する前、投与した後、投与中またはその組合わせの時点で、該組織を電離放射線照射に暴露すること;および(b)段階(a)における該組織の該暴露によって、該組織を該送達ビヒクル送達の標的とする、技術に関する。
【0013】
しかしながら、これらの技術は、未だ十分なものではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記に鑑みなされたものであって、その主たる目的は腫瘍細胞にのみ選択的に作用させることのできる技術を提供することにある。本発明者らは、この目的の下、独自の着眼に基づいて鋭意研究を行った。そして下記の知見を得た。
【0015】
(1)細胞に特定の光を照射すると、光照射しない場合に比較し、より多くのイオンを
細胞内に取り込ませることができる。
(2)細胞に特定の光を照射しない場合には、細胞外の金属イオンを細胞内に取り込ませることはできない。
(3)細胞に特定の光を照射することによる効果は、悪性の腫瘍細胞において一層顕著に認められる。
【0016】
本発明はこの知見に基づいて完成されたものである。本発明の第1の目的は、細胞活性を制御することのできる方法を提供することである。より詳しくは、標的とする生細胞にのみイオンを効率的かつ選択的に取り込ませる方法を提供し、もって標的細胞の細胞活性を抑制し又は細胞活性を増強する細胞活性制御方法を提供することである。本発明の第2の目的は、この方法を簡便に実施することのできる細胞活性制御装置を提供することである。
【0017】
本発明の細胞活性制御方法および装置は、例えば癌患者に適用することができる。本発明適用により、抗腫瘍作用を有する金属イオン種を悪性の腫瘍細胞にのみ効率よく取り込ませることができる。これにより、選択的に悪性腫瘍のみが殺滅され、副作用が低減する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するための細胞活性制御方法にかかる本発明は、イオンを用いて細胞活性を制御する方法であって、特定の光を細胞に照射した後に、又は照射しつつ、当該細胞にイオンを接触させることを特徴とする。
【0019】
この構成(以下、基本構成という)では、細胞にイオンを接触させつつ又は接触させたの後に特定の光を照射するが、細胞に特定の光を照射すると、イオンの細胞膜透過が容易になる。よって、接触させたイオンが効率よく細胞内に取り込まれる。
【0020】
すなわち、上記構成であると、光を照射した部位に存在する細胞にのみ、より多くのイオンを取り込ませることができる。細胞内に取り込まれたイオンは、直接的に細胞代謝に影響を与えるので、取り込ませるイオン種を選定することにより、細胞の増殖を増強したり、細胞の増殖を抑制したりすることが可能になる。つまり、上記構成によると、細胞活性を制御することができる。
【0021】
上記基本構成の本発明方法において、前記細胞を動物細胞とすることができる。また、上記基本構成における前記細胞活性の制御が、特定の光を動物細胞に照射した後に、又は照射しつつ、当該動物細胞に動物細胞の活性を低下させるイオンを接触させ前記イオンの動物細胞内への取り込み量を増やすことにより、当該細胞の増殖を抑制することを内容とする制御とすることができる。
【0022】
上記した本発明の作用効果は、動物細胞において一層有効に発揮される。この技術的意義を、腫瘍細胞を例にして説明する。
一般に腫瘍細胞、特に悪性腫瘍細胞は増殖活動が活発(細胞活性が高い状態)なので、これに特定の光を照射するとイオンの取り込みが加速され、かつ取り込まれたイオンの生体に対する作用が顕著に発現することになる。すなわち、腫瘍ができている患部に特定の光を照射し又は照射しつつ、抗腫瘍性イオンを適用すると、抗腫瘍性イオンが腫瘍細胞に高濃度に取り込まれ、細胞内で細胞増殖を抑制するように作用する。他方、特定の光が直接当っていない領域に存在する細胞は、抗腫瘍性イオンの取り込みがないか、または取り込まれたとしてもその量が少ないので、細胞増殖が抑制されない。更に、特定の光が照射等されている領域においても、正常細胞は悪性腫瘍細胞に比較し抗腫瘍性イオンの取り込み量が少ないので、正常細胞が殺滅されることはない。
【0023】
つまり、この構成であると、光を照射した腫瘍細胞にのみ選択的に抗腫瘍性イオン取り込ませることができる。よって、腫瘍細胞に対する殺滅効果が高く、正常細胞を損傷しない(副作用が小さい)という顕著な効果が得られる。また、この構成では、特定の光の照射等により、効率よく抗腫瘍性イオンを腫瘍細胞に取り込ませることができるので、患部への薬剤の適用量を少なくでき、これによっても副作用の低減が図れる。
【0024】
なを、本明細書における「増殖の抑制」は、細胞分裂の抑制のみならず、細胞自体の発育を抑制すること、免疫作用を弱めること、及び細胞分裂や発育が抑制された結果としての細胞の死滅、殺滅などを含む用語として使用されている。
【0025】
上記各構成においては、前記イオンとして金属イオンを用いることができる。また、前記金属イオンとして、銀イオン、銅イオン、または亜鉛イオンからなる群より選択された1種以上の金属イオンを用いることができる。
【0026】
金属イオンは、安定である点で好適に使用でき、特に銀イオン、銅イオン、亜鉛イオンからなる群より選択される金属イオンは、細胞活性への作用性が高い点で好ましい。また、特定光照射によるイオン取り込み量の増加効果は、金属イオンにおいて顕著に発揮される。
【0027】
また、上記構成において、前記金属イオンとして、金属イオン含有溶液に含まれる金属イオンを用いることができる。
【0028】
この構成であると、簡単に細胞にイオンを接触させることができる。例えば、金属イオン含有溶液が上記した白金錯体を含む溶液である場合、この溶液を腫瘍ができている患部に塗布することにより腫瘍細胞と抗腫瘍作用を有する金属イオンとを接触させることができ、この後、患部に特定の光を照射することにより、患部の悪性腫瘍細胞のみを殺滅等することできる。
【0029】
例えば、胃癌であれば、白金錯体を含む溶液を飲料した後に、先端に光照射機能を備えたファイバスコープで特定箇所を視認しつつ特定の光を照射することができる。また、先端に光照射機能と溶液塗布機能の双方を備えたファイバスコープを用いることにより、直接白金錯体含有溶液を患部(癌細胞)に塗布しつつ光照射することができ、これにより極めて合理的に、癌細胞のみの殺滅を図ることが可能になる。
【0030】
上記各構成においては、前記特定の光として、動物細胞膜のイオン透過チャンネルに作用する光を用いることができる。
【0031】
この構成を採用すると、特定の光の照射により、動物細胞膜のイオン透過チャンネルが開放され、イオンの膜透過が容易になる。よって、この構成であると、動物細胞に接触させたイオンを効率よく細胞内に取り込ませることができるので、効率よく細胞活性を制御することができる。
【0032】
ここで、動物細胞膜のイオン透過チャンネルとは、典型的には膜輸送タンパク質が関与する物質輸送機構における透過チャンネルを意味するが、これに限られるものではなく、外界から動物細胞膜を介して細胞内にイオンを取り込む全てのチャンネルを含めた意味で使用されている。
【0033】
上記各構成においては、前記特定の光として、300nm以上600nm以下の範囲にピーク波長を有する光を用いることができる。
【0034】
300nm以上600nm以下の範囲にピーク波長を有する光は、動物細胞におけるイオン透過性を増強する効果に優れるので、特定の光として好ましい。
【0035】
また、前記特定の光の照射強度を500〜500,000μW/cm2とすることができる。
【0036】
動物細胞におけるイオン透過性の増強作用は、光の波長と照射強度によっても影響を受けるが、上記範囲の照射強度の光であれば十分にその作用を発揮する。
【0037】
また、上記各構成において、前記動物細胞が、腫瘍細胞であるとすることができる。
【0038】
腫瘍細胞は、正常細胞よりも増殖活動が活発であるので、腫瘍細胞に対し、特定の光を照射した後に又は照射しつつイオンを接触させると、当該イオンの腫瘍細胞内への取り込みが顕著に加速され、取り込まれたイオンは増殖活動の活発である細胞内において一層顕著にその作用を発現する。よって、本発明方法は、腫瘍細胞に対する選択性、細胞活性制御性が強い。ここで、腫瘍細胞とは、良性、悪性を問わず、正常細胞とは生理学的、形態学的、ないし生化学的に差があるものをいう。また特に「悪性腫瘍細胞」というときは、他の組織との境界に侵入したり(浸潤)、あるいは転移して動物体内の各所で増大したりする性質を有する細胞、例えば癌細胞を指す。癌細胞としては、上皮細胞に生じる癌腫(胃癌、大腸癌、肺癌、肝臓癌、乳癌など)、非上皮性細胞に生じる肉腫(骨肉腫、軟骨肉腫、脂肪肉腫、血管肉腫など)、造血器の細胞に生じる造血器腫瘍(白血病、悪性リンパ腫、骨髄腫等)などを形成する細胞が挙げられる。
【0039】
また、上記構成においては、前記イオンとして、正常細胞に対するよりも、腫瘍細胞に対する増殖障害作用が大きいイオンを用いることができる。
【0040】
正常細胞と腫瘍細胞とでは生理学的ないし生化学的特性が異なるので、同一のイオン種を適用した場合であっても正常細胞と腫瘍細胞とでは増殖を障害または増殖を増強する程度が異なることが多い。それゆえ、腫瘍細胞に対する増殖障害作用の大きいイオンを用い、更に特定の光を照射する上記構成であると、より強力に腫瘍細胞の増殖のみを選択的に制御することができる。
【0041】
上記課題を解決するための細胞活性制御装置にかかる本発明は、300〜600nmの範囲にピーク波長を有し、且つ照射強度が500〜500、000μW/cm2である光を出力する光源部と、前記光源部が出力した光を動物細胞にまで導き動物細胞に当該光を照射する照射部と、動物細胞にイオンを接触させる接触部と、を備えた細胞活性制御装置である。
【0042】
この構成によると、光源部より出力された300〜600nmの範囲にピーク波長を有し且つ照射強度が500〜500,000μW/cm2である光が、照射部により動物細胞にまで導かれて光照射される。これにより、動物細胞のイオン透過チャンネルが開放される。また、接触部が上記動物細胞にイオンを接触する。これにより、イオンを動物細胞内に効率よく取り込ませることができる。よって、この構成を備えた装置によると、簡単かつ迅速に動物細胞の活性を制御することができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明によると、細胞、例えば人の悪性腫瘍細胞に、イオンを効率よく取り込ませることができるという顕著な効果が得られる。よって、取り込ませるイオン種と特定の光を適正に選択することにより、腫瘍細胞などの細胞活性を任意に制御することができ、例えば癌細胞の増殖のみを選択的に抑制することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
本発明は、生細胞に対し、短時間により多くのイオンを取り込ませる方法を提供すると共に、このような方法を適用する細胞活性制御装置を提供するものである。
【0045】
本発明の構成要素である「イオン」は、正または負の電荷をもつ原子または原子の集団をいい、本発明は、全てのイオン種を対象とする。イオンは反応性に富む粒子であるので、イオンを生物細胞内に入れると、生細胞に何らかの作用を与える。作用の程度や内容は、イオン種の種類に左右される。イオン種の種類とは、プラスイオン、マイナスイオンの別、金属イオン、有機イオン、無機イオンの違い、構成元素の違いなどをいう。また、作用の程度は、イオン種が同一であっても、その適用対象である細胞の種類や細胞内に取り込まれたイオン量によって異なる。したがって、イオン種を選択し、より多くのイオン種を生物細胞内に取り込ませれば、確実に生物細胞の細胞活性を制御することができる。
【0046】
本発明が対象とする細胞は、細胞膜を有する細胞であり、細胞膜を有する限り、植物細胞、動物細胞、微生物細胞、バクテリア、ウイルスなどの全てが対象となる。上記したようにイオンは、適用の目的(細胞活性の増強か抑制かなど)に合わせて選定することになるが、人および動物の悪性腫瘍細胞の活性を抑制する目的からは、金属イオン(プラスイオン)が有用である。細胞活性を抑制する作用に優れる金属イオンとしては、銀イオン、銅イオン、亜鉛イオン、カドミウムイオン、水銀イオンなどが例示できる。このうち銀及び/又は銅が、人体への安全性が高く、かつ腫瘍細胞に対する作用が強いので、悪性腫瘍細胞の増殖の抑制を図る目的において有用である。
【0047】
また、本発明の適用対象は特定種類の細胞に限定されないが、好適な適用対象は金属イオンを選択的に通過させる膜透過チャネルを有する動物細胞である。動物細胞は、外界(細胞外)の物質の通過を阻止する細胞膜を備えるが、動物細胞に特定の光を照射すると、金属イオン透過性が顕著に高まる。よって、特定の光を照射し又は照射しつつ動物細胞に金属イオンと接触させると、顕著な細胞活性制御効果を得ることができる。本発明は、特に悪性腫瘍細胞において、顕著な細胞活性制御効果を得ることができる。本発明を好適に適用できる悪性腫瘍細胞としては、例えば上皮細胞に生じる癌腫(胃癌、大腸癌、肺癌、肝臓癌、乳癌など)、非上皮性細胞に生じる肉腫(骨肉腫、軟骨肉腫、脂肪肉腫、血管肉腫など)、造血器の細胞に生じる造血器腫瘍(白血病、悪性リンパ腫、骨髄腫など)などの組織細胞が挙げられる。また、病原性ウイルスも、本発明の適用により、その増殖を抑制することができる。
【0048】
上記した金属イオンを選択的に通過させる膜透過チャネルの典型は、動物細胞膜内にある特異的な膜輸送タンパク質が関与する透過チャネルである。この透過チャネルは、特定の分子やイオン(金属イオン)のみを細胞内に輸送する。よって、膜透過チャネルが関与する透過の場合には、膜輸送タンパク質の種類により、膜を通過できる金属と、通過できない金属があり(選択性)、また金属の種類により膜を通過する速度が異なると考えられる。また、膜の通過速度には、細胞膜の外側と内側のイオン濃度の差(濃度勾配または電位勾配)なども関係すると考えられる。このような膜透過チャネルは、普段は外界に対し機能的に閉じており、一定の刺激があると開いて、特定の分子やイオンを透過させると考えられる。本発明は、特定の光により刺激を与えて、膜透過チャネルを機能的に開放させる。ただし、本発明は、特異的な膜輸送タンパク質が関与する透過チャネルに限られない。本発明でいうイオン透過チャネルには、特定の光の照射によって生細胞内へのイオン取り込み量が増える全てのチャネルを含む。
【0049】
本発明構成要素である特定の光は、適用対象となる細胞の種類に合わせて、細胞内へのイオン取り込み量及び/又はイオン取り込み速度を増加させることのできる波長の光を選ぶ。つまり、特定の光は、適用対象となる細胞の種類に合わせて決めればよいが、一般には300nm以上600nm以下の範囲にピーク波長を有する光を用いる。600nmよりも大きい波長の光は、イオン透過チャンネルを開放する作用が小さい一方、300nm未満の波長の光であると、光自体が正常細胞を傷つける恐れが大きくなるので好ましくない。また、300nm未満の波長の光は作業者を害する恐れがあるので、取り扱い性が悪くなるからである。
【0050】
特定波長の光の照射強度は、適用対象となる細胞の状態や細胞活性の目的に合わせて適宜決定すればよい。一般には、500〜500,000μW/cm2の範囲の強度とする。500μW/cm2以上の光照射強度であれば、動物細胞膜のイオン透過チャンネルに刺激を与えられる一方、光照射強度を500,000μW/cm2よりも大きくしても、イオン透過チャンネルへの作用がほぼ上限に達するので、コストパフォーマンスが悪くなるからである。
【0051】
上記特定の光を発生させる光源としては、LED(発光ダイオード)、LD(レーザダイオード)などの固体照明や、ブラックライト、ハロゲン光源などの管球型照明等を用いることができ、好ましくはLEDやLDを用いる。LEDやLDは、光の波長を規定することができ、細胞活性を制御する装置(細胞活性制御装置)への組み込みが容易であり、コスト的にも有利であるという利点を有する。
【0052】
細胞に対する光照射時間については、使用するイオンの種類、イオン濃度、細胞種およびや細胞量により適当に設定すればよい。例えば銀イオンを用いて喉頭癌由来の扁平上皮細胞の増殖を抑制する場合には、光照射時間を1分〜1時間程度とし、例えば5〜40分程度、または10〜20分程度の照射を行う。
【0053】
なお、特定の光は、光ファイバーなどに代表される光伝達装置を用いて適用対象部位(細胞)にまで配送することができる。また、イオンはイオン含有溶液として、例えばカニューレや注射器などを用いることにより容易に適用対象部位(細胞)に接触させることができる。
【0054】
以下、本発明実施例としての実験例に基づいて本発明の内容を具体的に説明する。
(実施例1)
実施例1は、本発明にかかる細胞活性制御方法に関する。
(第1実験)
細胞活性を制御するイオンとして銀イオンを用意した。銀は、イオン化傾向が小さく、電子を放出しにくく、酸化され難く、また標準単極電位が+0.8Vで陽イオンになり難いという特徴を有する。このため、金属状態の銀を水中に入れても容易に溶出しないので、実施例1では、銀イオン含有溶液の調製方法として、銀に電界をかける方法を用いた。具体的には、図1に示すように、溶液3を入れた容器1に、二枚の純銀プレート1を漬け、両プレート間に10〜50mAの電流が流れるように50Vまたはこれ以下の電圧を掛けた。これにより、溶液中に銀イオンを溶出させて銀イオン含有溶液を作製した。
【0055】
上記溶液としては、NaClが8.0g/L、KClが0.2g/L、Na2HPO4が1.15g/L、Na2PO4が0.2g/Lおよび水からなるリン酸緩衝液(PBS(−))を用いた。また、銀イオン含有溶液を生成する容器2(図1)としては、ガラス製のビーカーを用いた。なお、容器2の材質は、銀イオン含有溶液に対して不活性なものが好ましいので、ガラス製、アクリルなどの樹脂製、テフロン(登録商標)製、ステンレス製などの容器を用いるのがよい。
【0056】
上記方法によると、例えば12.5mAで60秒間通電することにより、1ppm程度の銀イオン溶液を生成させることができる。
【0057】
なお、銀イオン含有溶液は、銀イオンゼオライトを用いて作製することもできる。具体的には、シナネンゼオミック社製又はエヌ・エフ・ジー社製の銀イオンゼオライト(NFG Agイオンゼオライト)1gを純水10mL中に入れ攪拌することにより、100ppmの銀イオン含有溶液を調製することができる。
【0058】
次に、適用対象とする細胞として、ヒト喉頭癌由来扁平上皮細胞(悪性腫瘍細胞)を用意した。この細胞(2×105個)を、90mmシャーレ(IWAKI製ポリスチレンシャーレ)の底面に入れ、更に適量の培養液を入れた。培養液としては、イーグルMEM培地(ニッスイ製)に、L-グルタミン1%、炭酸水素ナトリウム10%、牛胎児血清10%、フェノールレッド適量を混合して調製した培養液を用いた。このようにして悪性腫瘍細胞を入れた試験シャーレC1・D1の2通り作製した。
【0059】
上記試験シャーレC1・D1を、CO2インキュベーター中で、シャーレ底面に8×105個の腫瘍細胞が増殖するまで2〜3日間培養した。その後、シャーレ中の培養液をアスピレーターで除去し、ダルベッコのリン酸緩衝液/リン酸緩衝液(−)10mLで細胞をリンスした。リンスは、培養液による影響を取り除き、銀イオンのみの作用を判定するための操作である。
【0060】
なお、リン酸緩衝液(−)は、上記と同様、NaClが8.0g/L、KClが0.2g/L、Na2HPO4が1.15g/L、Na2PO4が0.2g/Lおよび水からなる溶液である。
【0061】
図2に示すように、試験シャーレC1(図2符合5)とD1(図2符合6)を暗箱9中に入れて、リン酸緩衝液(−)で希釈された銀イオン濃度50ppmの銀イオン含有溶液6mLをシリンジで試験シャーレ内の細胞群4・4に注液した。注液の後、試験シャーレD1(図2符合6)に波長365nmの光を照射強度2mW/cm2で30分間照射した。他方、試験シャーレC(図2符合5)には光照射をせず、光照射効果を判断するリファレンスとした。
【0062】
上記光照射には、光源として日亜化学工業製紫外発光チップタイプLEDNCSU033A(T)を用い、光源から細胞面までの光リードとして、フッ素を含有したシリカガラス(モディファイドシリカ)が使用された昭和電線株式会社製の深紫外用光ファイバー(DUV−S)
を用いた。シリカガラスに微量のフッ素が添加された光ファイバーであると、紫外域での透過率が向上し,照射耐性が向上するので好ましい。なお、図2の符号8は、細胞に接触された銀イオンを示している。
【0063】
更に、銀イオンを含まないリン酸緩衝液(−)を用い、これ以外は上記と同様にして試験シャーレA1・B1の2通り作製した。これを、上記と同様にして暗箱9に入れ、シャーレB1にのみ波長365nmの光を照射強度2mW/cm2で30分間照射した。
【0064】
以上の各試験シャーレから溶液をアスピレーターで吸引し除去し、この後、各試験シャーレのそれぞれをリン酸緩衝液(−)10mLを用いて3回リンスした。リンス後、各試験シャーレにリン酸緩衝液(−)4mLを滴下した。
【0065】
以上の操作を行った試験シャーレA1〜D1について、同仁化学社製のセルステイン細胞二重染色キット(Cellstain - Double Staining Kit)を用いた蛍光染色法で、腫瘍細胞の増殖障害の程度を調べた。
【0066】
先ず、蛍光染色法について説明する。セルステイン細胞二重染色キットにおいては、Calcein-AMとPropidium Iodideがそれぞれ次のように機能する。生細胞染色用蛍光色素としてCalcein-AMが機能する。Calcein-AMは、Calceinの4つのカルボキシル基をアセトキシメチル化して脂溶性が高められている。よって、細胞膜透過性が高い。そして、Calcein-AM自体は蛍光を発しないが、これが生細胞内に入ると、細胞内のエステラーゼによりアセトキシメチル基が加水分解されて黄緑色の蛍光を発するようになる。他方、死細胞は、エステラーゼが失活しているので、Calcein-AMが加水分解されず、それゆえ蛍光を発しない。
【0067】
セルステイン細胞二重染色キットでは、死細胞染色用蛍光色素としてPropidium Iodide(PI)が機能する。Propidium Iodideは、細胞膜が破壊された場合にのみ細胞内に取り込まれ、DNAの二重らせん構造にインターカレートして赤色の蛍光を発する。その一方、Propidium Iodideは生細胞の細胞膜を通過できないので、生細胞では蛍光を発することがない。よって、セルステイン細胞二重染色キットを用い、バンドパスフィルターを介した400-440nmの波長で観察すると、生細胞と死細胞を同時に観察することができる。
【0068】
この実験では、A液としてのCalcein-AM stock solution (1mmol / L)を20μL、B液としてのPI stock solution (1.5mmol / L)を30μLを、リン酸緩衝液(−)10mlに混合して用いた。この混合溶液中のCalcein-AM濃度は2μ mol/L、 PI濃度は4μ mol/Lである。
【0069】
この混合溶液を各試験シャーレ内に2mLずつ滴下し、37℃の恒温槽で15分間インキュベートした。この後、490±10nmのフィルターを用い、黄緑色に染色された細胞(生細胞)の数と、赤色に染まった細胞(死細胞)の数とを数えた。
【0070】
測定結果を表1に一覧表示した。また、表1には、表2に示すヒト白血球抗原リンパ球細胞障害性試験法の判定基準による評価を合わせて記載した。
【0071】
【表1】

【0072】

【表2】


【0073】
表1の結果から、腫瘍細胞に銀イオンと光の双方を適用すると、銀イオンのみ(光照射なし)に比較し、死細胞率が5.5倍と、顕著に増加することが認められた。また、この効果は、光による細胞の死滅でないことが確認された。
【0074】
詳しくは、上記実験で用いた照射強度の特定の光(紫外光)のみでは腫瘍細胞の発育を実質的に障害することがないことが、試験シャーレA1と試験シャーレB1の結果比較から明らかとなった。また、試験シャーレB1とC1との結果比較から、両者の差は銀イオンの適用によるものであることが明らかとなった。
【0075】
これらを踏まえ、試験シャーレA1とB1とC1とD1との結果比較を行うと、試験シャーレD1における死細胞率の顕著な増加は、紫外光自体の増殖阻害効果と銀イオン自体の増殖阻害効果が単に加算されたものでないことが明らかとなる。
【0076】
以上から、試験シャーレD1における死細胞率の顕著な増加は、特定の光(ここでは紫外光)によって細胞内への金属イオン取り込みが促進されて、より多くの銀イオンが細胞内に取り込まれたため、銀イオンの生体に対する発育ないし増殖阻害作用が顕著に発揮された結果であると考察できる。
【0077】
この考察を検証するため、表1と同一の条件で処理した腫瘍細胞A1〜D1から、核、ミトコンドリア、核内タンパク質、サイトゾルを分画した各種試料を作製し、大型放射光施設(Spring−8)の放射光を各試料に照射し、蛍光X線の測定を行った。ここで、核、ミトコンドリアの分画には、ピアス社製のミトコンドリア抽出キットを用い、核タンパク質の抽出にはバイオラッド社製の核タンパク抽出キット(ReadyPrep Cytoplasmic / Nuclear)を用いた。
【0078】
また分析には、ビームラインBL37XU (硬X線領域アンジュレータービームライン、励起X線30keV、スリット:たて0.2mm×よこ0.5mm)を用い、試料から発する特性X線を、Si (Li)半導体検出器を備えた蛍光X線分析装置で測定した。
【0079】
上記測定の結果、銀イオンと波長365nmの光照射の双方を適用した細胞と、銀イオンのみを適用した細胞、光のみを適用した細胞、何れをも適用しない細胞との比較において、銀イオンと波長365nmの光照射の双方を適用した細胞は、他の細胞に比較し、細胞核やミトコンドリアといったオルガネラへの銀の取り込み量が多いことが認められた。また、銀は細胞核により多く取り込まれることが認められた。
【0080】
他方、サイトゾル中の銀量は少なく、サイトゾルについては光照射による取り込み量の増加は認められなかった。このため、細胞核への銀イオンの取り込みについて更に詳細な分析を行うべく、細胞核から、核内タンパク質を抽出し、DNA等の他の成分と分離して、核内タンパク質中の銀の存在を調べた。その結果、核内タンパク質の銀量はむしろ減少する傾向にあることが認められた。
【0081】
この結果と、光照射を行わない場合に比較し、光照射を行った細胞においては、核内への銀の取り込み量が増加する事実とを考え合わせると、細胞内に取り込まれた銀は、細胞核内の核酸成分と結合するものと考えられる。
【0082】
以上から、生細胞に銀イオンと特定の光の双方を適用する本発明によると、生細胞内に顕著に銀を取り込ませることができることが実証できた。また、このような作用効果は、生細胞の生育ないし増殖を障害することのない弱い光(特定の光)で足りることが実証できた。
【0083】
(第2実験)
上記喉頭癌由来の上皮細胞(悪性腫瘍細胞)に代えて、小腸腸管粘膜細胞(正常細胞)を用い、これ以外の事項については、上記第1実験と同様にして、試験シャーレA2〜D2を作製し、特定の光の影響を調べた。その結果を表3に示す。
【0084】

【表3】

【0085】
上記表3の結果より明らかなように、悪性腫瘍細胞でない小腸腸管粘膜細胞(正常細胞)においても、銀イオンと特定の光照射の併用により大幅に死細胞率が高まることが認められた。ただし、表1と表3の比較から明らかになるように、特定の光照射による死細胞率の増加効果(すなわち細胞増殖抑制効果)は、悪性腫瘍細胞の場合と正常細胞の場合とでは顕著な差があり、悪性腫瘍細胞の方が顕著に大きいことが認められた。
【0086】
このことから本発明方法を、例えば癌患者に適用した場合、その作用効果は癌細胞に強く現れ、正常細胞に弱く現れるので、好都合である。また、本発明方法は、特定の光を用いるが、光は指向性がよいので患部のみに照射できると共に、特定の光は細胞を損傷しない弱い光で足りるので、正常細胞に弱く現れるという上記特性と相まって正常細胞を全く損傷することなく、癌細胞のみを殺滅することが可能となる。
【0087】
(第3実験)
1つのシャーレの片側半分に、喉頭癌由来扁平上皮細胞(悪性腫瘍細胞)を入れ、他方の半分に小腸腸管粘膜細胞(正常細胞)を入れ、同一の条件で培養し、その他の事項については上記第1実験と同様にして、試験シャーレA3〜D3を作製した。これらの試験シャーレA3〜D3について上記第1実験と同様にして黄緑色に染まった生細胞と、赤色に染まった死細胞とを観察した。
【0088】
その結果、銀イオンと特定の光の双方を適用した試験シャーレD3において、試験シャーレの一方半面と他方半面との間に、極めて明瞭な差が認められた。すなわち、喉頭癌由来扁平上皮細胞を培養した半面は顕著に赤色が多く、小腸腸管粘膜細胞を培養した半面は黄緑色が多かった。この結果は、上記第1及び第2実験の結果と符号するものであり、この結果によっても、細胞を損傷しない特定の光の照射により、正常細胞以上に悪性腫瘍の銀イオン取り込み量が増大することが確認された。
【0089】
(第4実験)
銀イオン濃度を10ppm及び25ppmとしたこと以外は、上記第1実験と同様にして、試験シャーレE(25ppm)、F(25ppm)、G(10ppm)、H(10ppm)を作製した。これらの試験シャーレを用いて第1実施群と同様にして細胞増殖活性を調べた。その結果を、上記表1の結果と合わせて表4に一覧表示する。
【0090】
【表4】

【0091】
表4のC1,E,Gの結果比較から、特定の光を照射しない場合、銀イオン濃度がG(10ppm)⇒E(25ppm)⇒C1(50ppm)の順に高まるに従い、死細胞率が14.6%、16.6%、17.9%と大きくなる傾向が認められるが、その差は極めて小さかった。他方、D1,F,Hの結果比較から、特定の光を照射した場合においては、10ppm、25ppmの双方に比較して、50ppmにおいてのみ死細胞率が顕著に増加することが認められた。
【0092】
この結果は、細胞活性の制御効果には、銀イオンに対する濃度依存性があるものの、細胞死との関係が直線的でないことを意味する。よって、細胞活性制御の目的に合わせ、金属イオン濃度を適切に選定する必要がある。なお、銀イオン濃度と細胞死との関係が直線的でない理由としては、特定の光の照射により細胞内への銀イオンの取り込みが加速されるものの、外界の銀イオン濃度が低すぎると、一定時間内に細胞内に取り込まれる銀イオンの絶対量が少なくなるために、細胞死を招かないのではないかと推察できる。
【0093】
(第5実験)
特定の光として、波長が365nm、400nm、525nm、600nm、660nmの光を用い、光強度を照射強度2mW/cm2とする条件で、光の種類と喉頭癌由来扁平上皮細胞の銀イオン取り込み量との関係を、上記第1実験と同様な方法で調べた。その結果を表5に示す。なお、波長365nmについても前記第1実験とは別に再度の試験を行った。
【0094】

【表5】

【0095】
表5から、照射する光の波長により死細胞率が変化し、特に波長600nmと660nmとの間で大きな変動が認められ、死細胞率が94%から18%に低下した。
【0096】
このことから、特定の波長域の光を適用することにより、有効に細胞膜のイオン透過チャネルを開放させることができることが判った。なお、表5で読み取れる傾向からして、365nm未満の波長においても細胞活性を抑制する効果が得られる。ただし、300nm未満の波長光はそれ自体で正常細胞のDNAを損傷するので、生細胞のイオン透過チャネルを開放させる光としては適当でない。よって、特定の光としては、300nm以上、660nmが好ましく、より好ましくは、300nm以上、600nm、または300nm以上、525nm、更に好ましくは、365nm以上、525nmがよい。
【0097】
(実施例2)
実施例2は、実施例1で説明した細胞活性制御方法を適用するための細胞活性制御装置に関する。図3は、本発明にかかる細胞活性制御装置である。図3を参照しながら実施例2にかかる細胞活性制御装置の概要を説明する。
【0098】
この装置は、第1制御部20に接続された金属イオン発生容器11、金属プレート12、イオン-光搬送管14、シリンジ部15、第2制御部21に接続された光源部16、適用対象部(細胞)17、蛍光検出部18、コンピュータ19を備えている。第1制御部20は、コンピュータ19に格納されたプログラムに従い電圧印加量、印加時間等の必要条件を適正に制御して金属イオン発生容器11へ電圧を印加する装置であり、第2制御部21は、コンピュータ19に格納されたプログラムに従い、光源部16が適正な条件(光照射強度や照射時間等)で特定の光を出射するように制御する装置である。
【0099】
金属イオン発生容器11の内部には、金属プレート12が配置され、金属プレート12に直流の印加電圧13が加えられる。また、金属イオン発生容器11には、溶液を注入することのできる溶液注入口(不図示)が設けられており、必要に応じて溶液が注入できるようになっている。
【0100】
金属イオン発生容器11の少なくとも一方の金属プレーを、銀プレートとし、溶液注入口から下記するリン酸緩衝液(−)を注入し、しかる後に金属プレート12に電圧を印加する。これにより、リン酸緩衝液中に銀イオンが溶出してなる金属イオン(銀イオン)含有溶液が作成される。
【0101】
イオン-光搬送管14は、空洞部とこの空洞部を取り巻く光ファイバー部とからなり、軸心側の空洞部がイオン溶液を通す流路として機能し、光ファイバー部が光伝送路として機能するものである。シリンジ部15は、金属イオン溶液を上記空洞部に定量的に送液するものである。シリンジ部15は、金属イオン発生容器11とイオン-光搬送管14と間に配置されており、図3の装置例ではシリンジ部15の外側に光を伝達することのできる光ファイバー部材が配されている。
【0102】
光源部16は、300〜600nmの範囲にピーク波長を有し、且つ照射強度が500〜500、000μW/cm2である光(特定の光)を発生させることができる光源を備えており、光源部16の先端がシリンジ部15の外側の光ファイバー部材に接続されている。よって、光源部で発生させた特定の光は、シリンジ部15のファイバー部材およびイオン-光搬送管14のファイバー部を介して適用対象部(細胞)17にまで導かれる。な、シリンジ部15は必須ではなく、光源部16は、シリンジ部15を介することなく、イオン-光搬送管14の光ファイバ部に直結されていてもよい。
【0103】
なお、光源としては、例えば日亜化学工業株式会社製の紫外発光チップタイプLEDNCSU0
33A(T)を用いることができ、このLEDを1個以上1mm厚のアルミ基板に固定し、冷却のためファンとヒートシンクを兼ね備えた構成とすることができる。さらに光出力を可変できる構成とするのもよい。
【0104】
適用対象部17は、細胞活性制御方法が適用される対象となる細胞が存在する領域である。図3の例ではシャーレに入れた細胞群が適用対象部17となる。実際の適用においては、例えば腫瘍ができた患者の患部となる。
【0105】
蛍光検出部18は、細胞活性制御方法が適用された適用対象部における細胞の状態を光学的に判読するための装置であり、蛍光を照射しその反射光を検出する光センサーを有する。蛍光検出部18の光センサーが検出した情報はコンピュータ17に出力され、コンピュータ19が予め設定された画像処理プログラムに基づいて、この情報を処理し、適応対象部に存在する細胞の増殖活性レベルを判定し、例えばコンピュータ19のディスプレイ上に表示する。上記蛍光センサーとしては、例えばCCD(Charge Coupled Device)が使用できる。
【0106】
なお、金属イオン発生容器11の注入口に、溶液を定量的に又は連続的に注入する溶液注入装置を接続することもでき、この場合には金属イオン溶液を定量的に又は連続的に送液するシリンジ部4がなくともよい。
【0107】
以上で説明した細胞活性制御装置では、イオン-光搬送管14の光ファイバー部が、光源部の出力した光を動物細胞にまで導き動物細胞に当該光を照射する照射部となる。また、イオン-光搬送管14の空洞部の先端部分が細胞に金属イオンを接触させる接触部となる。つまり、上記装置では、イオン-光搬送管14が接触部と照射部とを兼ねている。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明にかかる細胞活性制御方法および装置は、例えば癌患者に適用することができ、本発明の適用により、抗腫瘍作用を発現するイオン種を悪性腫瘍細胞にのみ効率よく取り込ませることができる。これにより、選択的に悪性腫瘍細胞のみの殺滅を図ることができる。よって、その産業上の利用可能性は大きい。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】図1は、金属イオンを発生させる装置の概念図である。
【図2】図2は、本発明細胞活性制御方法を説明する図である。
【図3】図3は、本発明細胞活性制御装置の概念図である。
【符号の説明】
【0110】
1 容器
2 金属プレート
3 溶液
4 細胞
5 シャーレ
6 シャーレ
7 光源
8 細胞に接触されたイオン溶液
9 暗箱

11 金属イオン発生容器
12 金属プレート
13 印加電圧
14 イオン-光搬送管
15 シリンジ部
16 光源部
17 適用対象部(細胞)
18 蛍光検出部
19 コンピュータ
20 第1制御部
21 第2制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンを用いて細胞活性を制御する方法であって、
特定の光を細胞に照射した後に、又は照射しつつ、当該細胞にイオンを接触させることを特徴とする細胞活性制御方法。
【請求項2】
前記細胞は動物細胞である、
ことを特徴とする請求項1に記載の細胞活性制御方法。
【請求項3】
前記細胞活性の制御は、特定の光を動物細胞に照射した後に、又は照射しつつ、当該動物細胞に動物細胞の活性を低下させるイオンを接触させ前記イオンの動物細胞内への取り込み量を増やすことにより、当該細胞の増殖を抑制する制御である、
ことを特徴とする請求項1に記載の細胞活性制御方法。
【請求項4】
前記イオンが、金属イオンである、
ことを特徴とする請求項3に記載の細胞活性制御方法。
【請求項5】
前記金属イオンが、銀イオン、銅イオン、または亜鉛イオンからなる群より選択された1種以上の金属イオンである、
ことを特徴とする請求項4に記載の細胞活性制御方法。
【請求項6】
前記金属イオンが、金属イオン含有溶液に含まれる金属イオンである、
ことを特徴とする請求項4または5に記載の細胞活性制御方法。
【請求項7】
前記金属イオン含有溶液に含まれる金属イオンの濃度が、1ppb以上100ppm以下である、
ことを特徴とする請求項6に記載の細胞活性制御方法。
【請求項8】
前記特定の光が、動物細胞膜のイオン透過チャンネルに作用する光である、
ことを特徴とする請求項1ないし7の何れか1項に記載の細胞活性制御方法。
【請求項9】
前記特定の光が、300nm以上600nm以下の範囲にピーク波長を有する光である、
ことを特徴とする請求項1ないし7の何れか1項に記載の細胞活性制御方法。
【請求項10】
前記特定の光の照射強度が、500〜500,000μW/cm2である、
ことを特徴とする請求項9に記載の細胞活性制御方法。
【請求項11】
前記動物細胞が、腫瘍細胞である、
ことを特徴とする請求項2ないし10の何れか1項に記載の細胞活性制御方法。
【請求項12】
前記イオンとして、正常細胞に対するよりも、腫瘍細胞に対する増殖障害作用が大きいイオンを用いる、
ことを特徴とする請求項11の細胞活性制御方法。
【請求項13】
300〜600nmの範囲にピーク波長を有し、且つ照射強度が500〜500、000μW/cm2である光を出力する光源部と、
前記光源部が出力した光を動物細胞にまで導き動物細胞に当該光を照射する照射部と、
動物細胞にイオンを接触させる接触部と、
を備えた細胞活性制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−57363(P2009−57363A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90327(P2008−90327)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【分割の表示】特願2007−228389(P2007−228389)の分割
【原出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】