説明

細胞活性化装置

【課題】 従来技術の癌に対する温熱治療の問題点を解決することを目的とし、癌の進行を抑え、癌細胞の消滅に資することができる細胞活性化装置を提供する。
【解決手段】 本発明の細胞活性化装置100は、癌細胞を含む患部に対して、熱線として作用する7.5μmより大きな波長の赤外線をカットし、7.5μm以下の波長の赤外線を照射せしめることにより、細胞が本来備えている遺伝子修復機構を活性化して癌治療を支援する。7.5μm以下の波長を用いた赤外線照射療法は、遺伝子修復機構を活性化するという本来の人体の細胞が持つ機能を呼び起こす緩やかな療法であり、患者の非接触で赤外線を照射するタイプとすれば、身体の自由度を奪うこともなく、日常生活を送りながら細胞を活性化させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の活性化を支援する細胞活性化装置に関する。特に、癌細胞および周辺細胞に対して働きかけ、細胞が本来備える遺伝子修復機構を活性化し、癌細胞の増殖を抑制し、癌細胞を消滅させる細胞活性化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現状の癌治療では、発見が遅れると完治できず、たとえ早期に発見しても癌の発生部位によっては摘出手術ができない場合もあり、放射線療法や化学療法等では副作用を伴うなど、多くの問題が山積している。また、たとえ早期に発見でき癌の発生部位が摘出可能な部位であっても、癌摘出という外科的治療は人体に損傷を与える侵襲的治療方法である。
このような現状を踏まえ、癌治療研究および癌治療用の機器開発は活発に行われているが、まだ決定的な癌治療方法は見出されていないのが現状である。
【0003】
従来の公知文献の中において、非侵襲的治療である癌治療方法として温熱療法に関するもの(特許文献1:特開2003−126275号公報)がある。特許文献1の中では、癌細胞が高温に弱いとの仮定のもと、主に熱線として作用する赤外線を患部や全身に照射するものである。この温熱療法では患部深部の体温を41℃〜42℃程度に上げることが必要であるとされている。
特許文献1では、頭部以外の全身を密閉収容するカプセル状の容器に患者を入れ、赤外線を照射して赤外線照射手段による輻射熱と密閉容器内の空気による伝導熱とによって患者の頭部以外のほぼ全身を加温し、患部の深部体温を短時間で41℃〜42.5℃に到達させる技術が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−126275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の技術には以下の問題がある。
まず、特許文献1の技術では、全身または患部の深部体温を41℃〜42℃程度に上げるためには血液を45℃〜46℃に加温する必要があり、通常血液の凝固を防止する等のために例えばへパリン等を投与するため、治療時間は1時間程度が限度であり、治療後数日間は立ち上がれないほどの肉体的負担を生ずることである。
【0006】
また、特許文献1の技術では、体温を上昇させることを目的として赤外線の輻射熱を人体に加えるため、患部体温を41℃〜42℃に上げるには皮膚の温度が65℃以上となるため、長時間照射すると低温やけどを生ずる。このため、治療時間はやはり1時間程度が限度とされていた。
一方、正常細胞については生理的範囲である43℃以下に抑える必要があるため、正常細胞を保護しつつ患部体温を41℃〜42℃に上げることは難しいという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、赤外線の照射により細胞が本来持つ遺伝子修復回路を活性化し、細胞活性化効果を引き出すことができる細胞活性化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者島博基は医者として癌治療の研究に長年続ける中、従来の癌治療方法より一層効果の上がる癌治療方法を発見するに至った。この研究は世界で高く評価され、英科学専門誌「ネイチャー」の電子版(Nature Preceding : hdl : 10101/ npre. 2008.1980.1: Posted 17 Jun 2008)に掲載されるに至っている。
本発明の細胞活性化装置は、発明者島博基がさらに研究を進めて得た新たな知見をもとに開発したものであり、従来技術とは異なる構成により赤外線を細胞に照射することにより細胞本来が持つ遺伝子修復回路を活性化させるものである。
【0009】
本発明の細胞活性化装置は、細胞に赤外線を照射せしめる細胞活性化装置であって、熱源部と温度制御部と赤外線放射体部を備え、前記温度制御部を介して前記赤外線放射体部の輻射線の波長を制御し、前記赤外線放射体部から7.5μm以下の波長の赤外線(可視光の波長以上でかつ7.5μm以下の波長の赤外線)のみを細胞に放射せしめる細胞活性化装置である。
【0010】
ここで、上記構成において、前記赤外線放射体部の表面に7.5μm以下の波長の赤外線のみを透過させるフィルターを備え、主に熱線として作用する7.5μmよりも大きな波長の赤外線を遮断し、7.5μm以下の波長の赤外線のみを前記細胞に照射する構成とすることが好ましい。
【0011】
また、上記構成において、前記赤外線放射体部の表面に細孔が設けられ、細孔の径を15μm以下にすることにより、主に熱線として作用する7.5μmよりも大きな波長の赤外線を発生せず、7.5μm以下の波長の赤外線のみを前記細胞に照射せしめる構成とすることが好ましい。
【0012】
また、上記構成において、前記赤外線放射体部の表面の前記細孔の深さを前記径よりも大きくし、前記赤外線放射体部からの放射線に指向性を持たせた構造とすることが好ましい。
【0013】
また、上記構成において、前記赤外線放射体部の表面に、石英ガラス製の容器でその内部に水を満たした水性フィルターである第1のフィルターと、主に熱線として作用する7.5μmよりも大きな波長の赤外線を遮断する第2のフィルターとを設けた構成とすることが好ましい。
【0014】
また、上記構成において、前記温度制御部は前記熱源部の温度分布を略一定に維持せしめるものであり、また、前記赤外線放射体部の表面温度を特定温度の範囲内となるように維持せしめるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の細胞活性化装置は、赤外線のうち、熱線として身体を大きく加温してしまう波長をカットし、7.5μm以下の波長の赤外線のみを照射することにより、各細胞の遺伝子修復機構を活性化することができ、癌細胞を正常細胞に転化させたり、アポトーシス回路を立ち上げることにより癌細胞を消滅させたりする効能が認められる。また、癌細胞の周囲の正常細胞が癌化することを防止させたりする効果も期待できる。
また、本発明の細胞活性化装置は、正常細胞を活性させることができるので、癌の予防のみならず、他の疾病の予防にも役立つ効能が認められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について実施例により具体的に説明する。なお、本発明の技術的思想の範囲はこれらの実施例の具体的な形状や数値に限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
まず、本発明の細胞活性化装置100の基本原理の知見が得られる実験を示す。
図1は、癌細胞検体を用いた7.5μm以下の波長の赤外線照射によるヒト癌細胞に対する効果を確認する実験の概要を示す図である。
図1(a)に示すように、シャーレ40内に検体10と培養液20を入れ、シャーレ40の上側に赤外線放射材料30aを配し,シャーレ40の下側にも赤外線反射材料30bを敷いたものを用意した。
図1(b)は、図1(a)に示した各構成の位置関係を示した縦断面図である。
【0018】
検体10は、ヒト癌細胞を含む組織片である。一例としてヒト由来の前立腺癌細胞を用いた。
培養液20は、一般的な培養液組成で良い。ここでは、ウシ胎仔血清、L−グルタミン、ペニシリンを含むアミノ酸液を用いた。
【0019】
赤外線放射材料30a,30bは、赤外線を放射する素材であり、この実験では一例としてゴム製平板に微小な穴を開け、人体から放射される赤外線を反射する構造としたラバー素材(山本化学工業製:バイオラバー(登録商標))を用いた。図2は本実験に用いたラバー素材の分光反射率を示す図である。図2に示すように、本実験に用いた赤外線放射材料30a,30bの分光特性は1〜20μmにわたってほぼフラットな分光特性を示すものとなっている。
【0020】
シャーレ40はポリスチレン製のものを用いた。その分光透過率を図3に示す。図3に示すように、5μm以上の赤外線はほぼ遮断され、7.5μm以上となると透過率はゼロとなっている。図3には実験に用いたシャーレの分光透過率と、同じポリスチレン製素材のフロッピーディスクの分光透過率を併せて示している。また、シリコン(Si)の分光透過率も示している。シリコン(Si)の分光透過率はほぼフラットな分光特性を示すものとなっている。シリコン素材を用いたフィルターについては後述する。
【0021】
図1に示す実験構成においてシャーレ40がフィルターの働きをし、赤外線放射材料30a,30bから放射された赤外線のうち、7.5μmより大きな赤外線はシャーレ40により遮断され、検体10には7.5μm以下の赤外線のみが照射される仕組みとなっている。
図1に示した実験装置を設置したインキュベータ内即ち培養槽の庫内の温度を37℃に保ち、一般の培養実験と同様、炭酸ガス濃度を5%に保った。
【0022】
実験を開始すると、シャーレ40内の培養液20の温度は、赤外線放射材料30aおよび30bを設置した場合には検体10の細胞増殖熱も加わるため少し高くなり37.68℃となったが、赤外線放射材料30aおよび30bを設置しない場合は検体10の細胞増殖熱も加わっても37.32℃であった。
【0023】
実験期間は28日間行い、インキュベータ内の温度を常時37℃に保ち、検体10等の温度が37.68℃となった状態にて21日間検体10の培養を続けた後、生きている癌細胞を集めて数を勘定した後、各癌細胞を再びシャーレ40内の培養液20に入れて、さらに7日間培養した後に29日目に癌細胞を回収し、生きている癌細胞の数を勘定した。細胞増殖数はXTTアッセイを行って生細胞数を調べた。使用したキットはCell Proliferation Kit II (Roche Diagnostics, Mannheim, Germany)である。
【0024】
図4に実験結果を示す。グラフは、21日目の細胞数を基点にして29日目の細胞数増加率を%で表している。
実験の結果、癌細胞に関しては、赤外線放射材料30aおよび30bを設置しない場合に比較して、赤外線放射材料30aおよび30bを設置した場合の癌細胞数は統計学的に有意に58.5%減少し、41.5%となった。一方、正常細胞(ヒト上皮細胞)に関しては、赤外線放射材料30aおよび30bを設置しない場合に比較して、赤外線放射材料30aおよび30bを設置した場合の正常細胞数は統計学的に有意に69.5%増加し、169.5%となった。
【0025】
以上の実験結果から、ヒト癌細胞が58.5%も死滅した理由としては、2つ考えられる。1つ目は、培養液20の温度が37.68℃において、図1(c)の上段に示すように、細胞においてアポトーシス回路が立ち上がり、ヒト癌細胞等の異常細胞が自滅するに至るためと考えられる。また、2つ目は、図1(c)の中段に示すように、ヒト癌細胞において遺伝子修復回路が立ち上がり、癌細胞が正常化に向かうために癌細胞特有の速い増殖速度が遅くなってきたと考えられる。つまり、遺伝子修復機構が活性化され、癌細胞が減少し、正常細胞に修復されたことが分かる。
【0026】
一方、正常細胞(ヒト上皮細胞)では、細胞が活性化されて活発に増殖するとともに遺伝子修復機構も活性化されていることが分かる。つまり、アポトーシス回路が立ち上がらず、細胞の増殖が良くなるのは損傷を受けた正常細胞の遺伝子が修復されるからであると考えられる。
【0027】
遺伝子修復回路が活性化された理由は、単に検体10の温度が37.68℃に保たれたことではなく、赤外線放射材料30aおよび30bにより細胞増殖に伴う赤外線が反射され、さらに、シャーレ40により7.5μmより大きな波長の赤外線は遮断され、7.5μm以下の赤外線が検体10に照射され、検体10の深部まで到達したためと考えられる。
【0028】
ここで、7.5μm以下の波長の赤外線が検体10の深部に到達するものであるか否かを考察する。上記したように、図1に示す実験構成では、シャーレ40がフィルターの働きをし、37.68℃の赤外線放射材料30aおよび30bから放射された赤外線のうち、7.5μmより大きな波長の赤外線はシャーレ40により遮断され、検体10には7.5μm以下の波長の赤外線のみが照射される仕組みとなっている。
【0029】
シャーレ40を通過した7.5μm以下の波長の赤外線は、シャーレ40内の炭酸ガス濃度が5%の気中を通過し、培養液、細胞壁、さらには細胞質を通過することとなる。炭酸ガス分子による分光透過率は図5に示すように一部吸収スペクトルに示されている如く7.5μm以下の波長の赤外線はほぼ透過することが分かる。また、ミトコンドリア表面の細孔など、2〜7μm程度の微小な穴が細胞中に無数にあるので、これら穴の径よりも小さい波長の赤外線は細胞壁から細胞質内に入射するものと考えられる。また、人体は約90%が水分で構成されている。水分子による分光透過率は図5に示すように7.5μm以下の波長の赤外線は一部の波長の赤外線を除き、ほぼ透過することが分かる。
【0030】
以上の考察から、図1に示す実験構成において、7.5μm以下の波長の赤外線が検体10の深部まで到達し、検体10の癌細胞の遺伝子修復回路とアポトーシス回路を活性化させ、癌細胞数を減少させたものと考えられる。
【0031】
次に、赤外線反射材料として使用したバイオラバー(登録商標)の特性について述べる。
本実験で赤外線放射材料として用いたバイオラバー(登録商標)は、通常、人体に被服する赤外線反射材料として用いられているものである。つまり、バイオラバー(登録商標)は人体の被服素材としてウェットスーツ等の形で装着し、人体から放射された赤外線を再び人体に反射帰還するものである。つまり、本来のバイオラバー(登録商標)を、人体に装着したのみでは体温36.5℃の人体から放射された赤外線を受けて人体側に帰還するだけのものとなり、輻射する赤外線において必要な強度が不足している。
【0032】
図6は、熱源部を用いずに、バイオラバー(登録商標)を用いて、人体から輻射される赤外線を受けて人体側に反射する反射型構成とした場合のヒト癌細胞に対する効能を確認する実験の様子を示す図である。ここではヌードマウスを用いて実験した。なお、この実験例では赤外線の波長を調整するフィルター類は設けていない。また、図6ではバイオラバー(登録商標)はゲージの上面しか図示せず他の面では図示を省略したが実際には側面や底面にもバイオラバー(登録商標)で覆った。
図6に示すように、癌細胞を移植したマウス300a,300bを別々のゲージ200a,200bに入れ、上段に示したゲージ200aの周りには赤外線放射材料110であるバイオラバー(登録商標)で覆い、下段に示したゲージ200bの周りには赤外線放射材料110を設けない構成としている。
【0033】
ヒト前立腺癌細胞300万個程度をヌードマウス300a,300bの背部皮下に移植し腫瘍の増殖の大きさを観察した。なお、ヌードマウスにはT細胞がないため拒絶反応が起こらない。ゲージ200aのヌードマウス300aには恒常的に7.5μm以下の波長の赤外線が照射するが、ゲージ200bのヌードマウス300bには7.5μm以下の波長の赤外線を照射せずに通常の環境で飼育されている。
【0034】
マウス300a、マウス300bは体温に対応した赤外線を周囲に放射しているが、ゲージ200a側では赤外線放射材料110が設けられているため赤外線が反射され、赤外線放射材料110からマウス300aに対して赤外線が再度帰還されることとなる。
ゲージ内の温度を23℃、湿度を40%に保ち、93日間にわたり実験を行った。実験結果を図7に示す。ヒト癌細胞は単に放置しておくとマウス体内で増殖を繰り返すので細胞数は右肩上がりに増えて行く。図7に示すように、赤外線放射を行わないゲージ200bのマウス300bにおいてはヒト癌細胞の数は右肩上がりに増えて行っている。一方、赤外線が照射されているゲージ200aのマウス300bは当初はヒト癌細胞の数が右肩上がりに上がってゆくが、70日目を過ぎたあたりから有意に減少に転じている。この結果より、赤外線を照射することにより70日間程度という長期間を要するもののヒト癌細胞が有意に減少に転じる効能が得られることが分かる。
【0035】
しかし、上記の図4にまとめたように、7.5μm以下の波長の赤外線を照射すればヒト癌細胞に対する効能は十分に確認されていることから、図6の構成のように熱源部を設けず、マウス自体から輻射される赤外線を単にバイオラバー(登録商標)で反射した場合、効能が認められる7.5μm以下の波長の赤外線の照射強度が不足し、ヒト癌細胞が有意に減少に転じる効能が得られるまで70日間程度という長期間を要したことが分かる。
つまり、単に赤外線反射材料110であるバイオラバー(登録商標)を人体(マウス)に被服させて人体(マウス)から輻射される赤外線を反射するのみでは7.5μm以下の波長の赤外線の強度が不足しているため、ヒト癌細胞増殖を抑える効果が顕れるのが遅くなったことが分かる。
そこで、本発明の細胞活性化装置100は、熱源部を備え、照射する赤外線の波長を7.5μm以下となるように工夫し、正常細胞を活性化し、結果的にヒト癌細胞のような異常細胞の増殖を抑える効果をできるだけ早期に得るようにしたものである。
【0036】
そこで、本発明の細胞活性化装置は、赤外線反射材料110を用いつつ、能動的に7.5μm以下の赤外線を輻射させ、また、常時患部に対して赤外線を放射するようにして、正常細胞や癌細胞など細胞本来が持つ遺伝子修復回路を活性化させるものとした。
【0037】
なお、本発明の細胞活性化装置は、いわゆる人体非接触型の装置構成とした。従来のバイオラバー(登録商標)は、人体に被服するものであるので、上記実験のように常時患部に対して赤外線を放射させるためには、一日24時間常時バイオラバー(登録商標)を装着せざるを得ず、患者の行動の自由度を奪うこととなってしまうからである。
【0038】
図8は、本発明の細胞活性化装置100の基本構成を模式的に示す図である。
本発明の細胞活性化装置100は、図8に示すように、7.5μm以下の波長の赤外線を照射するものとなっている。また、患者患部とは離した位置に設置するいわゆる非接触タイプにて7.5μm以下の波長の赤外線を外部から照射する赤外線照射装置となっている。
【0039】
図8に示すように、細胞活性化装置100は、赤外線放射部110、熱源部120、赤外線波長調整部130、温度制御回路140を備えている。
赤外線放射部110は、前述したように、赤外線を放射する素材であり、温度に応じて赤外線を輻射するものである。素材としては温度に比例して赤外線を放射する材料であれば特に限定する必要はない。例えば前述したバイオラバー(登録商標)、瓦などのセラミックス、銅版、アルミニウム板などの金属材料が挙げられる。
【0040】
熱源部120は、発熱し、赤外線放射部110に熱を供給するものである。熱源部120としてはその発熱量が制御できるものであれば特に限定されないが、例えば、面状ヒーターなど電流・電圧で温度を制御できるものが適用できる。
【0041】
赤外線波長調整部130は、熱線として作用する7.5μmより大きな波長の赤外線をカットし、細胞活性化に有効な7.5μm以下の波長の赤外線のみを透過させる要素である。ここでは、光学的フィルターとする。フィルターとして適する材料としては、前述のバイオラバー(登録商標)、水、ポリスチレン樹脂などがある。なお、水やポリスチレン樹脂のほかにも7.5μmより大きな波長の赤外線をカットし、7.5μm以下の赤外線を通過させる特性を備えた素材であれば特に限定されない。
なお、フィルターに熱がこもって温度が上昇しないようにフィルターを冷却する必要がある場合、ヒートシンクを用いた熱伝導放熱、媒体を用いた空冷や水冷、冷却材を用いた冷却など多様な方法が適用可能であり、このような冷却装置を搭載することができる。
【0042】
温度制御回路140は、熱源部120の温度を精度良く制御する回路である。
温度制御回路の回路構成としては多様なものがあるが、公知技術であり、特に限定されない。この例では入力電圧(AC100V)を受けて温度を調整するため、例えば電圧制御回路を含むものである。
【0043】
以上の構成の細胞活性化装置100により、熱線として作用する7.5μmより大きな波長の赤外線をカットし、細胞活性化に有用な7.5μm以下の赤外線のみを患部に向けて照射することができる。
【0044】
図8に示すように、非接触で細胞を活性化するための必要量の赤外線を放射する装置の実現は可能であり、7.5μより大きな熱線として作用する赤外線をフィルターによりカットし、7.5μm以下の赤外線を照射することで、癌細胞をアポトーシスさせるに十分な細胞活性化装置が実現可能であることが分かる。
【0045】
図9は、本発明の細胞活性化装置の原理を応用した細胞活性化ベッドの構成例である。図9に示すように、ベッドの下部には熱源部と赤外線放射材料とフィルターが組み込まれており、患者がベッドに寝ているだけでベッド下方から7.5μm以下の赤外線が常時照射される仕組みとなっている。なお、ベッド下部に熱源部を設けるため、熱がこもらないように放熱対策は十分に行う必要がある。
なお、図9ではベッドの下部に熱源部120と赤外線放射材料110とフィルター130が組み込まれた構成としたが、例えば、熱源部120と赤外線放射材料110とフィルター130を天井照明体などに組み込み、頭上から7.5μm以下の波長の赤外線に放射するタイプであっても良い。
【0046】
次に、遺伝子修復回路を活性化することにより癌が治癒する原理について説明しておく。
癌が生じる原因には未解明の部分があるが、何らかの原因で遺伝子が傷ついてしまうことが挙げられる。人体の各細胞には、生来、自らの遺伝子が傷ついた場合に正常な遺伝子に戻すべく遺伝子修復機構を持っており、傷ついた遺伝子を修復する性質が備わっている。
【0047】
しかし、細胞の加齢に伴う修復速度の低下や、環境要因のよる損傷速度の増大により遺伝子修復が追いつかなくなると、老化(細胞老化)と呼ばれる不可逆な休眠状態に陥るか、アポトーシスあるいはプログラム細胞死と呼ばれる細胞の自殺となるか、癌化してしまうかのいずれかとなる。結局、一部の細胞は損傷した遺伝子が修復されない限り、癌化してしまい、癌化した細胞は癌細胞として増殖してゆく。
【0048】
図10は、遺伝子修復機構を模式的に示した図である。遺伝子がダメージを受けた細胞において、遺伝子が正常に修復されるサイクルを模式的に示している。遺伝子修復回路が活性化されておれば、癌化した細胞の損傷を受けた遺伝子が修復され、正常な細胞へと転化してゆくことができる。
一方、ヒト癌細胞が増殖してゆく状態は、その細胞が本来持っている遺伝子修復機構がうまく機能せず、ヒト癌細胞が増殖を繰り返すため癌が進行することとなる。
【0049】
本発明の細胞活性化装置100は、各細胞が本来持っているこの遺伝子修復機構を活性化することにより、癌化してしまっている細胞を正常細胞に戻すこと、および、癌化してしまった細胞のアポトーシスを促すことでヒト癌細胞を自滅させるものである。また、癌細胞の周囲にある正常細胞の癌化を防御する効果も期待するものである。
【0050】
次に、ヒト癌細胞に対する7.5μm以下の波長の赤外線照射により癌細胞が実際に減少したことを可視化して確認した。
7.5μm以下の波長の赤外線照射を行いつつヒト癌細胞を28日間培養し、21日目に35mmの培養皿に細胞を移して観察した。図11(a)に示すように、これらの細胞の核をプロピジウムヨウ化物で染めた後TUNEL {Termi-nal deoxynucleotidyl transferase (TdT)-mediated deoxyuridine
triphosphate (dUTP)-digoxigenin nick end labeling (TUNEL) }染色を行いガン細胞のアポトーシスを蛍光顕微鏡で観察したところ、赤外線を照射された癌細胞において断片化した細胞(矢印)が認められアポトーシスが起こっていることがわかる。
【0051】
図11(b)に示すように、これらの細胞を10,000倍の倍率にて電子顕微鏡で観察すると7.5μm以下の波長の赤外線を放射された実験群の癌細胞ではミトコンドリアが膨化しクリスタが不明瞭化、また核膜の膨化と波状変化、細胞質の空胞化が起きていることが観察される。
【0052】
このように、上記実験を通じて、身体の深部を加温しない7.5μm以下の波長の赤外線のみを照射することにより、各細胞の遺伝子修復機構が活性化され、癌細胞を正常細胞に転化させたり、癌細胞を消滅させたり、癌細胞の周囲の正常細胞が癌化することを防止させたりする効能が認められることが実証できた。
なお、以上の細胞実験において、照射赤外線量について便宜的に温度を用いて説明してきたが、その理由は、温度が赤外線波長と振動数がもたらすエネルギー量に依存するからである。
【実施例2】
【0053】
実施例1の構成例では、図8に示すように、7.5μmより大きい波長の赤外線をカットする構成要素としてフィルターを用いた例となっていたが、本発明の細胞活性化装置における7.5μmより大きい赤外線を遮断する構成要素は光学的なフィルターに限定されることなく、他のもので代替することは可能である。実施例2では光学的フィルター以外の構成要素で代替した例を説明する。
【0054】
まず、光学的フィルターの代替構成要素として、表面に細孔を持った板状体がある。例えば、樹脂板、瓦、その他の部材の表面において、カットする赤外線波長の約2倍の大きさを持つ細孔を設けたものにて代替することが可能である。表面に多数の細孔を設けた部材であれば、細孔の径の約1/2より大きな波長は通過しないという性質を持っており、細孔の径を15μm程度とすればその遮断周波数は7.5μmとなるので、7.5μmより大きい波長の赤外線をカットするというフィルターの特性と同等の機能を発揮することができ、フィルターの代替が可能となる。
【0055】
図12は、実施例2にかかる細胞活性化装置100aの基本構成を模式的に示す図である。
実施例2の細胞活性化装置100aは、図12に示すように、表面に直径15μmの細孔が多数設けられた瓦などの赤外線放射率の高いセラミックス130aを備えた例となっている。なお、細孔の加工が可能であれば、セラミックス130a以外の板状体であっても適用することができる。
【0056】
図12の構成において、赤外線放射材料130aから放射された赤外線のうち、7.5μm以下の波長の赤外線のみ板状体を通過し、7.5μmより大きな波長の赤外線は板状体で遮断される。これらの板状体で遮断された7.5μmより大きな波長の赤外線は温度放射の作用で7.5μm以下の赤外線を再放出することになり赤外線放射効率向上に役立つことになる。
なお、この板状体を用いた構成において、赤外線の方向に指向性を持たせることが可能である。図13は、細孔の深さ(d)と径(r)と反射される赤外線の指向性との関係を模式的に示す図である。赤外線の放射性素材であるセラミックス130aの表面に細孔を設けた構成においてその細孔の径と深さの関係により指向性が生じることが知られている。つまり、細孔の径に比べて細孔の深さが深いほど細孔の軸方向への指向性が強まるという性質がある。この性質を利用すれば、本発明の細胞活性化装置のように、非接触で患者患部まで多少の距離(例えば数十センチから数メートル)があっても、有意な赤外線を非接触で患者の患部に照射することが可能となる。なお、上記の例ではセラミックスであったが、表面に所定径の細孔を穿つことのできる板状体であれば、ラバーなど多様な素材であっても採用することができる。
【0057】
次に、光学的フィルターの代替構成要素として、水を封入した石英ガラス製水フィルター130bがある。図14は水を封入した石英ガラス製水フィルター130bを模式的に示した図である。石英ガラス自体は、1〜10μmの波長の赤外線に対する分光透過率は略一定であるため、水を封入した石英ガラス製水フィルター130bの性能としては、水の分光透過率により決まることとなる。水は、7.5μmより大きな波長の赤外線は吸収して透過させず、7.5μm以下の波長の赤外線は透過させるので、水を封入した石英ガラス製水フィルター130bは実施例1に示した赤外線波長調整部である光学的フィルター130の代替構成要素となり得る。ただし、水フィルターの場合、10μm以上の波長の赤外線も通してしまうので、10μm以上の波長の赤外線をカットする光学フィルターを併用することが好ましい。
【0058】
以上、本発明の細胞活性化装置における好ましい実施形態を図示して説明してきたが、本発明の技術的範囲を逸脱することなく種々の変更が可能であることは理解されるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の細胞活性化装置は、細胞活性化を行う装置として広く用いることができる。例えば、癌治療の支援に対して広く用いることができ、患者は日常生活を送りながら癌の治療を支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】癌細胞検体を用いた7.5μm以下の波長の赤外線照射によるヒト癌細胞に対する効果を確認する実験の概要を示す図
【図2】本実験に用いたラバー素材の分光反射率を示す図
【図3】ポリスチレン製のシャーレの分光透過率、ポリスチレン製のフロッピーの分光透過率、シリコンの分光透過率を示す図
【図4】ヒト癌細胞および正常細胞に対して7.5μm以下の波長の赤外線を照射した実験結果を示す図
【図5】水分子の赤外線透過率を知る手掛かりとなる、大気中の水分子および炭酸ガス分子による分光透過率を示す図
【図6】熱源部を用いずに人体から輻射される赤外線を人体側に反射する構成とした場合のヒト癌細胞に対する効能を確認する実験の様子を示す図
【図7】図6に示した実験の結果を示す図
【図8】本発明の細胞活性化装置100の基本構成を模式的に示す図
【図9】本発明の細胞活性化装置の原理を応用した細胞活性化ベッドの構成例を示す図
【図10】遺伝子修復機構を模式的に示した図
【図11】7.5μm以下の波長の赤外線照射により癌細胞が実際に減少したことを可視化した図
【図12】実施例2にかかる細胞活性化装置100aの基本構成を模式的に示す図
【図13】細孔の深さ(d)と径(r)と反射される赤外線の指向性との関係を模式的に示す図
【図14】石英ガラス容器に水を封入した水フィルターを模式的に示した図
【符号の説明】
【0061】
10 検体
20 培養液
30 赤外線放射部
40 フィルター
100 細胞活性化装置
110 熱源部
120 赤外線放射部
130 赤外線波長調整部(光学フィルター)
130a セラミックス
130b 石英ガラス製水フィルター
140 温度制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌細胞を含む患部に対して赤外線を照射せしめる細胞活性化装置であって、
熱源部と温度制御部と赤外線放射体部を備え、前記温度制御部を介して前記赤外線放射体部の輻射線の波長を制御し、前記赤外線放射体部から7.5μm以下の波長の赤外線のみを細胞に放射せしめる細胞活性化装置。
【請求項2】
前記赤外線放射体部の表面に7.5μm以下の波長の赤外線のみを透過させるフィルターを備え、主に熱線として作用する7.5μmよりも大きな波長の赤外線を遮断し、7.5μm以下の波長の赤外線のみを前記細胞に照射する請求項1に記載の細胞活性化装置。
【請求項3】
前記赤外線放射体部の表面に細孔が設けられ、細孔の径を15μm以下にすることにより、主に熱線として作用する7.5μmよりも大きな波長の赤外線を発生せず、7.5μm以下の波長の赤外線のみを前記細胞に照射せしめる請求項1または2に記載の細胞活性化装置。
【請求項4】
前記赤外線放射体部の表面の前記細孔の深さを前記径よりも大きくし、前記赤外線放射体部からの放射線に指向性を持たせた構造としたことを特徴とする請求項3に記載の細胞活性化装置。
【請求項5】
前記赤外線放射体部の表面に、石英ガラス製の容器でその内部に水を満たした水性フィルターである第1のフィルターと、主に熱線として作用する7.5μmよりも大きな波長の赤外線を遮断する第2のフィルターとを設けたことを特徴とする請求項2に記載の細胞活性化装置。
【請求項6】
前記温度制御部により前記熱源部の温度分布を略一定に維持せしめることができる請求項1から5のいずれか1項に記載の細胞活性化装置。
【請求項7】
前記温度制御部により、前記赤外線放射体部の表面温度を略一定に維持せしめることができる請求項1から6のいずれか1項に記載の細胞活性化装置。

【図1】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−78541(P2011−78541A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−232790(P2009−232790)
【出願日】平成21年10月6日(2009.10.6)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(305027135)
【Fターム(参考)】