細胞電気生理センサアレイおよびその製造方法
【課題】細胞電気生理センサをアレイ状に配置した効率的な細胞電気生理センサの構造を実現することによって一括して測定ができる細胞電気生理センサアレイおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】ウエルプレート1と、第一の貫通孔6a,6bと電極9,10を有したチッププレート2と、溝14を有した溝プレート3を接合することによって、第一の貫通孔6a,6bが同一の溝14の内部で連結するように形成し、細胞電気生理センサ4を第一の貫通孔6a,6bに埋め込んだ構成とする。
【解決手段】ウエルプレート1と、第一の貫通孔6a,6bと電極9,10を有したチッププレート2と、溝14を有した溝プレート3を接合することによって、第一の貫通孔6a,6bが同一の溝14の内部で連結するように形成し、細胞電気生理センサ4を第一の貫通孔6a,6bに埋め込んだ構成とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の活動によって発生する物理化学的変化を測定するために用いられる細胞内電位あるいは細胞外電位等の細胞電気生理現象を測定するための細胞電気生理センサアレイおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電気生理学におけるパッチクランプ法は、細胞膜に存在するイオンチャンネル機能を測定する方法として知られており、このパッチクランプ法によってイオンチャンネルの様々な機能が解明されてきた。そして、イオンチャンネルの働きは細胞学において重要な関心ごとであり、これは薬剤の開発にも応用されている。
【0003】
しかし、一方でパッチクランプ法は測定技術に微細なマイクロピペットを1個の細胞に高い精度で挿入するという極めて高い能力を必要としているため、熟練作業者が必要であり、高いスループットで測定を必要とする場合には適切な方法でない。
【0004】
このため、微細加工技術を利用した平板型プローブの開発がなされており、これらは個々の細胞についてマイクロピペットの挿入を必要としない自動化システムに適している。
【0005】
例えば、2つの領域を分離するキャリアに穴を有し、このキャリアの上下に設置した電極によって電界を発生させることで細胞を穴に効率よく保持し、上下の電極間で電気的測定を行うことで細胞の電気生理的測定を可能にしたり(特許文献1参照)、平板のデバイスに複数の貫通孔を設け、ここに接着した細胞の連続層を含み、電極で電位依存性のイオンチャンネル活性を測定する技術などが開示されている(特許文献2参照)。
【0006】
また、基板に複数設けたキャビティの内部にそれぞれ設けたマイクロエレメントと、このマイクロエレメントにつながる流路を減圧することにより細胞をマイクロエレメントに引きつけて、細胞の電気生理現象を測定する技術(特許文献3参照)、基板の平面部に穴を設け、基板に基準電極および測定電極が一体化されていることにより、細胞の電気生理現象を測定する技術(特許文献4参照)、一つのチャネルが貫通している表面に、細胞の下面から吸引して位置決めした後、圧力差を増大させて細胞の下面一部を破裂させることにより、液体中に含まれる細胞の測定を行う方法(特許文献5参照)について開示している。
【0007】
さらに、使用時に物体がオリフィスをシールし、これによって電気的に絶縁された第一および第二の空洞部が形成されるように構成し、第一および第二の空洞部にそれぞれ設置された電極間のインピーダンスの変化によって、媒体中の物体の電気的測定を行う装置(特許文献6参照)について開示している。
【0008】
また、基板の上に設けられた細胞保持手段を供えたウエルと、このウエルの電気信号を検出する測定用電極と、基準電極とを備えた細胞外電位測定用デバイスによって細胞外電位を測定する技術(特許文献7参照)を開示している。
【0009】
SiO2のメンブレンの内部に設けた2.5μmの穴に、ヒト培養細胞株の一種であるHEK293細胞を保持させて高い密着性を確保して高精度に細胞外電位を測定する技術(非特許文献1参照)を開示しており、これは平板に作成された貫通孔はガラスピペットにおける先端穴と同様の役割を果たし、高精度な細胞の電気生理現象を記録できるとともに、平板の裏面側からの吸引などの方法により細胞が自動的に引きつけられ、細胞を容易に保持できるという利点を有している。
【0010】
また、オリフィスに物体をシールさせて、これによって電気的に絶縁された空洞間の電極インピーダンスを測定することによって、物体の状態変化を検出する装置について開示されており、物体が置かれている液体環境を迅速に除去・交換するために液体供給毛細管と液体吸引毛細管を備えた液体供給手段についても開示している(特許文献8参照)。
【特許文献1】特表2002−508516号公報
【特許文献2】特表2002−518678号公報
【特許文献3】米国特許第6315940号明細書
【特許文献4】特表2003−511668号公報
【特許文献5】特表2003−511699号公報
【特許文献6】特表2003−527581号公報
【特許文献7】国際公開第02/055653号パンフレット
【特許文献8】特表2003−527581号公報
【非特許文献1】T.Sordel et al, Micro Total Analysis Systems2004,P521〜522(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前記従来における細胞電気生理センサの主な目的は細胞の電気生理現象を従来のパッチクランプ法で使われるガラス微細プローブを用いることなく簡便に計測することであり、この細胞電気生理センサを用いることによって計測手続きが簡便化できるが、さらに一度にたくさんの測定処理を行うことができる構造に関する記述はほとんどなく、効率的な構造については知られていない。
【0012】
本発明は前記従来の課題を解決するもので、細胞電気生理センサをアレイ状に配置した効率的な細胞電気生理センサの構造を実現することによって一括して測定ができる細胞電気生理センサアレイおよびその製造方法を実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記従来の課題を解決するために、本発明は、複数のウエルを有したウエルプレートと、複数の第一の貫通孔と2種類の電極を有したチッププレートと、複数の溝を有した溝プレートとを有し、前記チッププレートと前記溝プレートが張り合わされることで、複数の第一の貫通孔が同一の溝内部で連結するように形成されるとともに、内部に第二の貫通孔を有した薄板を備えた細胞電気生理センサを前記第一の貫通孔の内部に埋め込んだ構成としたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の細胞電気生理センサアレイおよびその製造方法は、使用に際して、一括して効率的な測定を可能にするとともに量産性に優れた製造方法を実現するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1における細胞電気生理センサアレイおよびその製造方法について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は本発明の実施の形態1における細胞電気生理センサアレイの構造を説明するための断面図であり、図2は図1におけるA部の拡大断面図、図3および図4は図1におけるB部の拡大断面図である。
【0017】
図1〜図4において、本発明の実施の形態1における細胞電気生理センサアレイは複数のウエル5a,5b,5c,5d,5eを有したウエルプレート1と、複数の第一の貫通孔6a,6b、複数の流出入孔7a,7bおよび、一つの電極取り出し孔8を一直線上に所定のピッチで並ぶように構成しており、さらに、第一の電極9および第二の電極10をその一面側に有したチッププレート2と、直線上の溝14を有した溝プレート3からなり、さらに細胞電気生理センサ4を第一の貫通孔6a,6bの内部に埋め込み、第二の電極10の一端を電極取り出し孔8に埋め込んだ構成としている。また、第一の貫通孔6a,6b、流出入孔7a,7bおよび電極取り出し孔8は、それぞれ各ウエル5c,5d,5a,5e,5bの下面にある開口部の内方に配置しており、さらに直線で並んだ第一の貫通孔6a,6b、流出入孔7a,7bおよび、電極取り出し孔8の下面には直線の溝14を配置した構成としている。そして、前記ウエルプレート1、チッププレート2および溝プレート3は互いに接合しており、これによって第一の貫通孔6a,6bは溝プレート3の溝14によって連結した構造としている。つまり、細胞電気生理センサ4の下面は溝14によって構成された領域として外部から仕切られている。
【0018】
ここで、第一の電極9および第二の電極10はクロム、チタン、銅、金、白金、銀および塩化銀からなる電極材料から選択される少なくとも一つを含む電極で構成することが好ましく、さらにチッププレート2の同一面に前記二種類の電極9,10を形成することが好ましい。
【0019】
特に、銅は後に述べる熱可塑性樹脂に密着性よく付着することを確認しており、銀および塩化銀は後に述べる電解液との電気接触抵抗を軽減することが可能である。
【0020】
また、好ましくは電極取り出し孔8の内部には第二の電極10の一端と接続されるように銀・塩化銀が微粒子状態で混合された導電性接着剤である電極ペースト11を埋め込んでいる。これによって、電極取り出し孔8を確実に塞ぐことができ、溝14は外部から遮断される。
【0021】
このような構成とすることによって、電極取り出し孔8を完全に塞ぐことによって溝14を流れる細胞内液15の気泡の発生を抑制することができるとともに、細胞内液15と電極ペースト11を介して第二の電極10へと電気的に接続することができることから一面に電極9,10を形成することによってプローブなどとの接触を容易にするとともに生産性に優れた構造を実現することができる。
【0022】
また、図2に示すように導電性接着剤である電極ペースト11が溝14側に露出しているので、溝14の内部に蓄積される電解液の電位状態を測定することができる。
【0023】
また、好ましくは本実施の形態1のように2種類の電極、つまり第一の電極9と第二の電極10はチッププレート2の一面にのみ形成している。これによって、すべての電極の引き出しパターンはウエルプレート1とチッププレート2の間に埋め込まれることになり、電極の保護に有効である。さらに、同じ面にこれらの電極を形成していることから、外部装置への接続が容易になるという利点も有している。
【0024】
そして、ウエルプレート1、チッププレート2、溝プレート3はすべて熱可塑性樹脂で形成している。そして、これらの熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、オレフィンポリマ、ポリメタクリル酸メチルアセテート樹脂、のいずれか、またはこれらの組み合わせを用いることが好ましい。さらに、環状オレフィンポリマ、線状オレフィンポリマ、またはこれらが共重合した環状オレフィンコポリマ、およびポリエチレンからなる材料から選択される少なくとも一つの樹脂を含むことがより好ましい。
【0025】
また、図4に示すように細胞電気生理センサ4の薄板13の内部には第二の貫通孔12を形成しており、この第二の貫通孔12は極めて小さく、少なくとも直径5μm以下となっている。
【0026】
次に、以上説明したような構成を有する細胞電気生理センサアレイを用いて、細胞の電気生理現象を測定する方法について説明する。
【0027】
図5〜図7は本発明の細胞電気生理センサアレイの使用例を示す断面図であり、図8は図7の要部拡大断面図である。
【0028】
まず、図5に示すように、流出入孔7aから細胞内液15を投入して、細胞内液15が流出入孔7bへ到達するまで溝14の内部を細胞内液15で満たす。なお、ここで細胞内液15とはほ乳類筋細胞の場合、代表的にはK+イオンが155mM、Na+イオンが12mM程度、Cl−イオンが4.2mM程度添加された電解液であり、後に述べる細胞外液16とは、K+イオンが4mM程度、Na+イオンが145mM程度、Cl−イオンが123mM程度添加された電解液である。
【0029】
次に、図6に示すようにウエル5c,5dの内部に細胞外液16を投入した状態で、第一の電極9と第二の電極10との電気抵抗を測定すると、100kΩ〜10MΩ程度の抵抗値を観測することができる。
【0030】
これは細胞電気生理センサ4の薄板13の内部に設けた第二の貫通孔12に電解液である細胞内液15あるいは細胞外液16が浸透し、細胞外液16はウエル5c,5dの内部で第一の電極9と接触し、細胞内液15は溝14の内部の電極取り出し孔8において導電性接着剤である電極ペースト11と接触することで電気回路を構成しているからである。
【0031】
次に、図7に示すようにウエル5c,5dの内部へ細胞17を投入して、流出入孔7aあるいは7bから吸引を行うと、ウエル5c,5dの内部の細胞17は細胞外液16とともに第二の貫通孔12へ引きつけられる。
【0032】
そして、図8に示すように細胞17が第二の貫通孔12を完全に塞ぐように密着すると、細胞外液16と細胞内液15の電気抵抗は大きくなり、通常100MΩ以上、好ましくは1GΩ以上の抵抗値となる。このように、電気抵抗が大きくなった状態では、細胞17の内部へ流れ込む、あるいは流れ出すイオンの数がわずかであっても、高精度に細胞17の内外を流れるイオンの動きを測定できるようになる。これが細胞17の電気生理現象であるイオンチャネルの測定である。
【0033】
本実施の形態1における細胞電気生理センサアレイは、前記イオンチャネルを測定できる細胞電気生理センサ4を複数備えているので、同時に効率的な測定を行うことができる。
【0034】
なお、本実施の形態1の説明では細胞電気生理センサ4は2つだけについて説明したが、さらに多くの細胞電気生理センサ4を備えていてもよく、好ましくは12×8列の96個、もしくは24×16列の384個、もしくは48×32列の1536個のウエル5を備えており、この中に細胞電気生理センサ4を配置することがよい。図9、図10および図11は24×16列の384個のウエル5が並んだウエルプレート1を用いた細胞電気生理センサアレイの一例である分解斜視図、上面図および断面図である。図9では、24×16列の384個の配列でウエル5が並んでおり、このうち、細胞電気生理センサ4は図10に示すように、列番号E,F,G,H,I,J,K,Lにおける行番号3〜22においてウエル5を合計で160個配置し、行番号1および行番号24のウエル5を流出入孔7a,7bと接続し、行番号2もしくは行番号23のウエル5を電極取り出し孔8とそれぞれ接続している。
【0035】
このように格子状に細胞電気生理センサ4を並べることによって、細胞内液15を流す溝14が直線で効率的に配置できる。さらに前記ウエル5の配列は他の多くの関連装置(たとえば複数の種類の薬剤を作るアッセイ工程、細胞を分ける分注工程等)で一般に使われる配列なので、分注ロボットなどが兼用できる汎用性も有している。このことは、薬剤をスクリーニングする関連工程との連携を効率よくする重要な要素である。
【0036】
以上、本実施の形態1で示した構成とすることで、複数の細胞電気生理センサ4と、細胞外液16や刺激薬剤及び細胞17を投与・蓄積できるウエル5と、細胞内液15を流入させる溝14と、細胞外液16に設置された第一の電極9と、細胞内液15と接続された電極ペースト11および第二の電極10が一体化されることと、同一面上に全てを構成することによって測定のためのプローブなどを上面で行うことが可能となることによって、効率の良い測定を一括して行うことが可能となる細胞電気生理センサアレイを実現することができる。
【0037】
このように、第二の電極10をチッププレート2の同一面に形成することによって、電極パターンを片面にまとめて形成することによって生産性の高い細胞電気生理センサアレイを実現することができる。
【0038】
また、細胞電気生理センサ4はシリコン、ガラス等の無機材料で構成されており、通常これら無機材料に薄板13および第二の貫通孔12を精度良く加工するには高価な装置が必要なので、全てをこの構造で作製すると細胞電気生理センサ4の価格は高くなってしまうが、本発明のように、安価な熱可塑性樹脂で形成されたチッププレート2において、高精度な加工が必要な細胞電気生理センサ4を第一の貫通孔6a,6bの内部に埋め込むことによって、細胞電気生理センサ4が複数構成されていたとしても、安価な細胞電気生理センサアレイを提供できる。
【0039】
さらに本発明で示したような樹脂材料を選択することで、ウエルプレート1、チッププレート2、溝プレート3は接着剤を使うことなしに、互いに強固に接合できる熱溶着や溶剤溶着を用いることができるという製造上の利点を有する。
【0040】
次に、本発明の細胞電気生理センサアレイを製造する方法について図面を用いて説明する。
【0041】
図12〜図15は、本発明の実施の形態1における細胞電気生理センサアレイを製造する様子を示す断面図である。
【0042】
まず、図12に示すようにウエルプレート1を所定の配置でウエル5が構成されるように形成する。通常、この工程は樹脂材料を用いたときには射出成型を用いることが効率が良く、熱可塑性樹脂を加熱しながら射出することで所望の形状を得る。
【0043】
一方、図13に示すように2つの液体の流出入孔7a,7b、2つの第一の貫通孔6a,6b、および電極取り出し孔8を直線的に並べた配列とし、さらに同一の面上に第一の電極9、第二の電極10を形成したチッププレート2を作製する。なお、これらの電極9,10の形成方法、第一の貫通孔6a,6bの形成方法は本発明の構成要件ではないので、詳細な説明を省く。
【0044】
ここで、前記チッププレート2はウエルプレート1と同じ熱可塑性樹脂材料であることが好ましく、より効果的にはポリカーボネート樹脂(PC)、ポリエチレン樹脂(PE)、オレフィンポリマ、ポリメタクリル酸メチルアセテート樹脂(PMMA)のいずれか、またはこれらの組み合わせを用いることである。これらの樹脂材料は材料どうしでの固溶性が高く、相互に貼り合わせが容易である。また、後ほど述べるが、材料に透明性を付与することが容易である。
【0045】
これらの構成によって、図14に示すように次の工程において、ウエルプレート1にチッププレート2を貼り付けることが容易にできるようになる。このとき、貼り付ける方法としては、樹脂材料の貼り合わせ面にレーザ光線を照射して、貼り合わせ面を溶着させて固着させることが容易にできる。そして、この方法を実現するためには、少なくとも片側の樹脂材料がレーザ光線に対して透明性を有しており、さらに2つの樹脂材料が同じであるか、相互に固溶するものであることが望ましい。好ましくは環状オレフィンポリマ、線状オレフィンポリマ、またはこれらが重合した環状オレフィンコポリマ、またはポリエチレンからなる樹脂材料から選択されることが好ましい。この場合には、これら樹脂材料において、相互に貼り合わせたときの密着力が高いばかりでなく、特に環状オレフィンコポリマの場合は耐熱性が向上し、酸・アルカリなどへの耐薬剤性も増すという利点を有している。
【0046】
なお、このとき、本実施の形態1ではチッププレート2の一面に第一の電極9および第二の電極10を構成しているが、前記工程において接合面をレーザ光線によって溶着させると、これらの電極9,10はウエルプレート1とチッププレート2の間に埋め込まれることになり、これらの電極9,10の表面を必要な場所以外は液体に触れることなく保護することができる。
【0047】
次に、図15に示すように、電極取り出し孔8に銀・塩化銀からなる電極ペースト11を埋め込み、第二の電極10の一端に接続する。
【0048】
次に、図16に示すように、第一の貫通孔6a,6bの内部に細胞電気生理センサ4を埋め込み、周囲を接着剤18でシールする(図8参照)。
【0049】
次に、図17に示すように溝14を形成した溝プレート3をウエルプレート1とチッププレート2を貼り合わせた方法と同じ手段によって貼り合わせることにより、図18に示す細胞電気生理センサアレイを得る。このため、溝プレート3の材料はチッププレート2と同材料かこれと固溶する樹脂材料であることが望ましい。なお、溝プレート3に溝14を形成する方法はウエルプレート1と同様に、射出成型によって作製することが可能である。
【0050】
なお、ウエルプレート1、チッププレート2および溝プレート3を貼り合わせる方法は前記の他に、貼り合わせ面に非極性有機溶剤を塗布することによって貼り合わせ面を貼り合わせることもできる。
【0051】
例えば、これら樹脂材料が環状オレフィンコポリマの場合には、非極性有機溶剤として代表的にはトルエンを含有した溶剤を塗布することで、前記樹脂材料が固溶し、固着させることができる。この場合には、貼り合わせ面に熱が発生することがないので、貼り合わせ面に熱に弱い電極などの電子回路を埋め込む必要があるときに有効である。
【0052】
以上、説明してきたような製造方法によって、複数の細胞電気生理センサ4が効率よく配置された細胞電気生理センサアレイを作製することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上のように、本発明にかかる細胞電気生理センサアレイおよびその製造方法は、複数の細胞電気特性の測定処理を同時に行うことができるので高速で薬理判定を行う、薬品スクリーニング等の測定器に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の細胞電気生理センサアレイの断面図
【図2】同要部拡大断面図
【図3】同要部拡大断面図
【図4】同要部拡大断面図
【図5】本発明の細胞センサアレイの使用方法を説明する断面図
【図6】同断面図
【図7】同断面図
【図8】同要部拡大断面図
【図9】本発明の細胞電気生理センサアレイの一例を示す分解斜視図
【図10】同上面図
【図11】同断面図
【図12】本発明の細胞センサアレイの製造方法を説明するための断面図
【図13】同断面図
【図14】同断面図
【図15】同断面図
【図16】同断面図
【図17】同断面図
【図18】同断面図
【符号の説明】
【0055】
1 ウエルプレート
2 チッププレート
3 溝プレート
4 細胞電気生理センサ
5,5a,5b,5c,5d,5e ウエル
6a,6b 第一の貫通孔
7a,7b 流出入孔
8 電極取り出し孔
9 第一の電極
10 第二の電極
11 電極ペースト
12 第二の貫通孔
13 薄板
14 溝
15 細胞内液
16 細胞外液
17 細胞
18 接着剤
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の活動によって発生する物理化学的変化を測定するために用いられる細胞内電位あるいは細胞外電位等の細胞電気生理現象を測定するための細胞電気生理センサアレイおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電気生理学におけるパッチクランプ法は、細胞膜に存在するイオンチャンネル機能を測定する方法として知られており、このパッチクランプ法によってイオンチャンネルの様々な機能が解明されてきた。そして、イオンチャンネルの働きは細胞学において重要な関心ごとであり、これは薬剤の開発にも応用されている。
【0003】
しかし、一方でパッチクランプ法は測定技術に微細なマイクロピペットを1個の細胞に高い精度で挿入するという極めて高い能力を必要としているため、熟練作業者が必要であり、高いスループットで測定を必要とする場合には適切な方法でない。
【0004】
このため、微細加工技術を利用した平板型プローブの開発がなされており、これらは個々の細胞についてマイクロピペットの挿入を必要としない自動化システムに適している。
【0005】
例えば、2つの領域を分離するキャリアに穴を有し、このキャリアの上下に設置した電極によって電界を発生させることで細胞を穴に効率よく保持し、上下の電極間で電気的測定を行うことで細胞の電気生理的測定を可能にしたり(特許文献1参照)、平板のデバイスに複数の貫通孔を設け、ここに接着した細胞の連続層を含み、電極で電位依存性のイオンチャンネル活性を測定する技術などが開示されている(特許文献2参照)。
【0006】
また、基板に複数設けたキャビティの内部にそれぞれ設けたマイクロエレメントと、このマイクロエレメントにつながる流路を減圧することにより細胞をマイクロエレメントに引きつけて、細胞の電気生理現象を測定する技術(特許文献3参照)、基板の平面部に穴を設け、基板に基準電極および測定電極が一体化されていることにより、細胞の電気生理現象を測定する技術(特許文献4参照)、一つのチャネルが貫通している表面に、細胞の下面から吸引して位置決めした後、圧力差を増大させて細胞の下面一部を破裂させることにより、液体中に含まれる細胞の測定を行う方法(特許文献5参照)について開示している。
【0007】
さらに、使用時に物体がオリフィスをシールし、これによって電気的に絶縁された第一および第二の空洞部が形成されるように構成し、第一および第二の空洞部にそれぞれ設置された電極間のインピーダンスの変化によって、媒体中の物体の電気的測定を行う装置(特許文献6参照)について開示している。
【0008】
また、基板の上に設けられた細胞保持手段を供えたウエルと、このウエルの電気信号を検出する測定用電極と、基準電極とを備えた細胞外電位測定用デバイスによって細胞外電位を測定する技術(特許文献7参照)を開示している。
【0009】
SiO2のメンブレンの内部に設けた2.5μmの穴に、ヒト培養細胞株の一種であるHEK293細胞を保持させて高い密着性を確保して高精度に細胞外電位を測定する技術(非特許文献1参照)を開示しており、これは平板に作成された貫通孔はガラスピペットにおける先端穴と同様の役割を果たし、高精度な細胞の電気生理現象を記録できるとともに、平板の裏面側からの吸引などの方法により細胞が自動的に引きつけられ、細胞を容易に保持できるという利点を有している。
【0010】
また、オリフィスに物体をシールさせて、これによって電気的に絶縁された空洞間の電極インピーダンスを測定することによって、物体の状態変化を検出する装置について開示されており、物体が置かれている液体環境を迅速に除去・交換するために液体供給毛細管と液体吸引毛細管を備えた液体供給手段についても開示している(特許文献8参照)。
【特許文献1】特表2002−508516号公報
【特許文献2】特表2002−518678号公報
【特許文献3】米国特許第6315940号明細書
【特許文献4】特表2003−511668号公報
【特許文献5】特表2003−511699号公報
【特許文献6】特表2003−527581号公報
【特許文献7】国際公開第02/055653号パンフレット
【特許文献8】特表2003−527581号公報
【非特許文献1】T.Sordel et al, Micro Total Analysis Systems2004,P521〜522(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前記従来における細胞電気生理センサの主な目的は細胞の電気生理現象を従来のパッチクランプ法で使われるガラス微細プローブを用いることなく簡便に計測することであり、この細胞電気生理センサを用いることによって計測手続きが簡便化できるが、さらに一度にたくさんの測定処理を行うことができる構造に関する記述はほとんどなく、効率的な構造については知られていない。
【0012】
本発明は前記従来の課題を解決するもので、細胞電気生理センサをアレイ状に配置した効率的な細胞電気生理センサの構造を実現することによって一括して測定ができる細胞電気生理センサアレイおよびその製造方法を実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記従来の課題を解決するために、本発明は、複数のウエルを有したウエルプレートと、複数の第一の貫通孔と2種類の電極を有したチッププレートと、複数の溝を有した溝プレートとを有し、前記チッププレートと前記溝プレートが張り合わされることで、複数の第一の貫通孔が同一の溝内部で連結するように形成されるとともに、内部に第二の貫通孔を有した薄板を備えた細胞電気生理センサを前記第一の貫通孔の内部に埋め込んだ構成としたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の細胞電気生理センサアレイおよびその製造方法は、使用に際して、一括して効率的な測定を可能にするとともに量産性に優れた製造方法を実現するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1における細胞電気生理センサアレイおよびその製造方法について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は本発明の実施の形態1における細胞電気生理センサアレイの構造を説明するための断面図であり、図2は図1におけるA部の拡大断面図、図3および図4は図1におけるB部の拡大断面図である。
【0017】
図1〜図4において、本発明の実施の形態1における細胞電気生理センサアレイは複数のウエル5a,5b,5c,5d,5eを有したウエルプレート1と、複数の第一の貫通孔6a,6b、複数の流出入孔7a,7bおよび、一つの電極取り出し孔8を一直線上に所定のピッチで並ぶように構成しており、さらに、第一の電極9および第二の電極10をその一面側に有したチッププレート2と、直線上の溝14を有した溝プレート3からなり、さらに細胞電気生理センサ4を第一の貫通孔6a,6bの内部に埋め込み、第二の電極10の一端を電極取り出し孔8に埋め込んだ構成としている。また、第一の貫通孔6a,6b、流出入孔7a,7bおよび電極取り出し孔8は、それぞれ各ウエル5c,5d,5a,5e,5bの下面にある開口部の内方に配置しており、さらに直線で並んだ第一の貫通孔6a,6b、流出入孔7a,7bおよび、電極取り出し孔8の下面には直線の溝14を配置した構成としている。そして、前記ウエルプレート1、チッププレート2および溝プレート3は互いに接合しており、これによって第一の貫通孔6a,6bは溝プレート3の溝14によって連結した構造としている。つまり、細胞電気生理センサ4の下面は溝14によって構成された領域として外部から仕切られている。
【0018】
ここで、第一の電極9および第二の電極10はクロム、チタン、銅、金、白金、銀および塩化銀からなる電極材料から選択される少なくとも一つを含む電極で構成することが好ましく、さらにチッププレート2の同一面に前記二種類の電極9,10を形成することが好ましい。
【0019】
特に、銅は後に述べる熱可塑性樹脂に密着性よく付着することを確認しており、銀および塩化銀は後に述べる電解液との電気接触抵抗を軽減することが可能である。
【0020】
また、好ましくは電極取り出し孔8の内部には第二の電極10の一端と接続されるように銀・塩化銀が微粒子状態で混合された導電性接着剤である電極ペースト11を埋め込んでいる。これによって、電極取り出し孔8を確実に塞ぐことができ、溝14は外部から遮断される。
【0021】
このような構成とすることによって、電極取り出し孔8を完全に塞ぐことによって溝14を流れる細胞内液15の気泡の発生を抑制することができるとともに、細胞内液15と電極ペースト11を介して第二の電極10へと電気的に接続することができることから一面に電極9,10を形成することによってプローブなどとの接触を容易にするとともに生産性に優れた構造を実現することができる。
【0022】
また、図2に示すように導電性接着剤である電極ペースト11が溝14側に露出しているので、溝14の内部に蓄積される電解液の電位状態を測定することができる。
【0023】
また、好ましくは本実施の形態1のように2種類の電極、つまり第一の電極9と第二の電極10はチッププレート2の一面にのみ形成している。これによって、すべての電極の引き出しパターンはウエルプレート1とチッププレート2の間に埋め込まれることになり、電極の保護に有効である。さらに、同じ面にこれらの電極を形成していることから、外部装置への接続が容易になるという利点も有している。
【0024】
そして、ウエルプレート1、チッププレート2、溝プレート3はすべて熱可塑性樹脂で形成している。そして、これらの熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、オレフィンポリマ、ポリメタクリル酸メチルアセテート樹脂、のいずれか、またはこれらの組み合わせを用いることが好ましい。さらに、環状オレフィンポリマ、線状オレフィンポリマ、またはこれらが共重合した環状オレフィンコポリマ、およびポリエチレンからなる材料から選択される少なくとも一つの樹脂を含むことがより好ましい。
【0025】
また、図4に示すように細胞電気生理センサ4の薄板13の内部には第二の貫通孔12を形成しており、この第二の貫通孔12は極めて小さく、少なくとも直径5μm以下となっている。
【0026】
次に、以上説明したような構成を有する細胞電気生理センサアレイを用いて、細胞の電気生理現象を測定する方法について説明する。
【0027】
図5〜図7は本発明の細胞電気生理センサアレイの使用例を示す断面図であり、図8は図7の要部拡大断面図である。
【0028】
まず、図5に示すように、流出入孔7aから細胞内液15を投入して、細胞内液15が流出入孔7bへ到達するまで溝14の内部を細胞内液15で満たす。なお、ここで細胞内液15とはほ乳類筋細胞の場合、代表的にはK+イオンが155mM、Na+イオンが12mM程度、Cl−イオンが4.2mM程度添加された電解液であり、後に述べる細胞外液16とは、K+イオンが4mM程度、Na+イオンが145mM程度、Cl−イオンが123mM程度添加された電解液である。
【0029】
次に、図6に示すようにウエル5c,5dの内部に細胞外液16を投入した状態で、第一の電極9と第二の電極10との電気抵抗を測定すると、100kΩ〜10MΩ程度の抵抗値を観測することができる。
【0030】
これは細胞電気生理センサ4の薄板13の内部に設けた第二の貫通孔12に電解液である細胞内液15あるいは細胞外液16が浸透し、細胞外液16はウエル5c,5dの内部で第一の電極9と接触し、細胞内液15は溝14の内部の電極取り出し孔8において導電性接着剤である電極ペースト11と接触することで電気回路を構成しているからである。
【0031】
次に、図7に示すようにウエル5c,5dの内部へ細胞17を投入して、流出入孔7aあるいは7bから吸引を行うと、ウエル5c,5dの内部の細胞17は細胞外液16とともに第二の貫通孔12へ引きつけられる。
【0032】
そして、図8に示すように細胞17が第二の貫通孔12を完全に塞ぐように密着すると、細胞外液16と細胞内液15の電気抵抗は大きくなり、通常100MΩ以上、好ましくは1GΩ以上の抵抗値となる。このように、電気抵抗が大きくなった状態では、細胞17の内部へ流れ込む、あるいは流れ出すイオンの数がわずかであっても、高精度に細胞17の内外を流れるイオンの動きを測定できるようになる。これが細胞17の電気生理現象であるイオンチャネルの測定である。
【0033】
本実施の形態1における細胞電気生理センサアレイは、前記イオンチャネルを測定できる細胞電気生理センサ4を複数備えているので、同時に効率的な測定を行うことができる。
【0034】
なお、本実施の形態1の説明では細胞電気生理センサ4は2つだけについて説明したが、さらに多くの細胞電気生理センサ4を備えていてもよく、好ましくは12×8列の96個、もしくは24×16列の384個、もしくは48×32列の1536個のウエル5を備えており、この中に細胞電気生理センサ4を配置することがよい。図9、図10および図11は24×16列の384個のウエル5が並んだウエルプレート1を用いた細胞電気生理センサアレイの一例である分解斜視図、上面図および断面図である。図9では、24×16列の384個の配列でウエル5が並んでおり、このうち、細胞電気生理センサ4は図10に示すように、列番号E,F,G,H,I,J,K,Lにおける行番号3〜22においてウエル5を合計で160個配置し、行番号1および行番号24のウエル5を流出入孔7a,7bと接続し、行番号2もしくは行番号23のウエル5を電極取り出し孔8とそれぞれ接続している。
【0035】
このように格子状に細胞電気生理センサ4を並べることによって、細胞内液15を流す溝14が直線で効率的に配置できる。さらに前記ウエル5の配列は他の多くの関連装置(たとえば複数の種類の薬剤を作るアッセイ工程、細胞を分ける分注工程等)で一般に使われる配列なので、分注ロボットなどが兼用できる汎用性も有している。このことは、薬剤をスクリーニングする関連工程との連携を効率よくする重要な要素である。
【0036】
以上、本実施の形態1で示した構成とすることで、複数の細胞電気生理センサ4と、細胞外液16や刺激薬剤及び細胞17を投与・蓄積できるウエル5と、細胞内液15を流入させる溝14と、細胞外液16に設置された第一の電極9と、細胞内液15と接続された電極ペースト11および第二の電極10が一体化されることと、同一面上に全てを構成することによって測定のためのプローブなどを上面で行うことが可能となることによって、効率の良い測定を一括して行うことが可能となる細胞電気生理センサアレイを実現することができる。
【0037】
このように、第二の電極10をチッププレート2の同一面に形成することによって、電極パターンを片面にまとめて形成することによって生産性の高い細胞電気生理センサアレイを実現することができる。
【0038】
また、細胞電気生理センサ4はシリコン、ガラス等の無機材料で構成されており、通常これら無機材料に薄板13および第二の貫通孔12を精度良く加工するには高価な装置が必要なので、全てをこの構造で作製すると細胞電気生理センサ4の価格は高くなってしまうが、本発明のように、安価な熱可塑性樹脂で形成されたチッププレート2において、高精度な加工が必要な細胞電気生理センサ4を第一の貫通孔6a,6bの内部に埋め込むことによって、細胞電気生理センサ4が複数構成されていたとしても、安価な細胞電気生理センサアレイを提供できる。
【0039】
さらに本発明で示したような樹脂材料を選択することで、ウエルプレート1、チッププレート2、溝プレート3は接着剤を使うことなしに、互いに強固に接合できる熱溶着や溶剤溶着を用いることができるという製造上の利点を有する。
【0040】
次に、本発明の細胞電気生理センサアレイを製造する方法について図面を用いて説明する。
【0041】
図12〜図15は、本発明の実施の形態1における細胞電気生理センサアレイを製造する様子を示す断面図である。
【0042】
まず、図12に示すようにウエルプレート1を所定の配置でウエル5が構成されるように形成する。通常、この工程は樹脂材料を用いたときには射出成型を用いることが効率が良く、熱可塑性樹脂を加熱しながら射出することで所望の形状を得る。
【0043】
一方、図13に示すように2つの液体の流出入孔7a,7b、2つの第一の貫通孔6a,6b、および電極取り出し孔8を直線的に並べた配列とし、さらに同一の面上に第一の電極9、第二の電極10を形成したチッププレート2を作製する。なお、これらの電極9,10の形成方法、第一の貫通孔6a,6bの形成方法は本発明の構成要件ではないので、詳細な説明を省く。
【0044】
ここで、前記チッププレート2はウエルプレート1と同じ熱可塑性樹脂材料であることが好ましく、より効果的にはポリカーボネート樹脂(PC)、ポリエチレン樹脂(PE)、オレフィンポリマ、ポリメタクリル酸メチルアセテート樹脂(PMMA)のいずれか、またはこれらの組み合わせを用いることである。これらの樹脂材料は材料どうしでの固溶性が高く、相互に貼り合わせが容易である。また、後ほど述べるが、材料に透明性を付与することが容易である。
【0045】
これらの構成によって、図14に示すように次の工程において、ウエルプレート1にチッププレート2を貼り付けることが容易にできるようになる。このとき、貼り付ける方法としては、樹脂材料の貼り合わせ面にレーザ光線を照射して、貼り合わせ面を溶着させて固着させることが容易にできる。そして、この方法を実現するためには、少なくとも片側の樹脂材料がレーザ光線に対して透明性を有しており、さらに2つの樹脂材料が同じであるか、相互に固溶するものであることが望ましい。好ましくは環状オレフィンポリマ、線状オレフィンポリマ、またはこれらが重合した環状オレフィンコポリマ、またはポリエチレンからなる樹脂材料から選択されることが好ましい。この場合には、これら樹脂材料において、相互に貼り合わせたときの密着力が高いばかりでなく、特に環状オレフィンコポリマの場合は耐熱性が向上し、酸・アルカリなどへの耐薬剤性も増すという利点を有している。
【0046】
なお、このとき、本実施の形態1ではチッププレート2の一面に第一の電極9および第二の電極10を構成しているが、前記工程において接合面をレーザ光線によって溶着させると、これらの電極9,10はウエルプレート1とチッププレート2の間に埋め込まれることになり、これらの電極9,10の表面を必要な場所以外は液体に触れることなく保護することができる。
【0047】
次に、図15に示すように、電極取り出し孔8に銀・塩化銀からなる電極ペースト11を埋め込み、第二の電極10の一端に接続する。
【0048】
次に、図16に示すように、第一の貫通孔6a,6bの内部に細胞電気生理センサ4を埋め込み、周囲を接着剤18でシールする(図8参照)。
【0049】
次に、図17に示すように溝14を形成した溝プレート3をウエルプレート1とチッププレート2を貼り合わせた方法と同じ手段によって貼り合わせることにより、図18に示す細胞電気生理センサアレイを得る。このため、溝プレート3の材料はチッププレート2と同材料かこれと固溶する樹脂材料であることが望ましい。なお、溝プレート3に溝14を形成する方法はウエルプレート1と同様に、射出成型によって作製することが可能である。
【0050】
なお、ウエルプレート1、チッププレート2および溝プレート3を貼り合わせる方法は前記の他に、貼り合わせ面に非極性有機溶剤を塗布することによって貼り合わせ面を貼り合わせることもできる。
【0051】
例えば、これら樹脂材料が環状オレフィンコポリマの場合には、非極性有機溶剤として代表的にはトルエンを含有した溶剤を塗布することで、前記樹脂材料が固溶し、固着させることができる。この場合には、貼り合わせ面に熱が発生することがないので、貼り合わせ面に熱に弱い電極などの電子回路を埋め込む必要があるときに有効である。
【0052】
以上、説明してきたような製造方法によって、複数の細胞電気生理センサ4が効率よく配置された細胞電気生理センサアレイを作製することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上のように、本発明にかかる細胞電気生理センサアレイおよびその製造方法は、複数の細胞電気特性の測定処理を同時に行うことができるので高速で薬理判定を行う、薬品スクリーニング等の測定器に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の細胞電気生理センサアレイの断面図
【図2】同要部拡大断面図
【図3】同要部拡大断面図
【図4】同要部拡大断面図
【図5】本発明の細胞センサアレイの使用方法を説明する断面図
【図6】同断面図
【図7】同断面図
【図8】同要部拡大断面図
【図9】本発明の細胞電気生理センサアレイの一例を示す分解斜視図
【図10】同上面図
【図11】同断面図
【図12】本発明の細胞センサアレイの製造方法を説明するための断面図
【図13】同断面図
【図14】同断面図
【図15】同断面図
【図16】同断面図
【図17】同断面図
【図18】同断面図
【符号の説明】
【0055】
1 ウエルプレート
2 チッププレート
3 溝プレート
4 細胞電気生理センサ
5,5a,5b,5c,5d,5e ウエル
6a,6b 第一の貫通孔
7a,7b 流出入孔
8 電極取り出し孔
9 第一の電極
10 第二の電極
11 電極ペースト
12 第二の貫通孔
13 薄板
14 溝
15 細胞内液
16 細胞外液
17 細胞
18 接着剤
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも両端に二つの開口部を有した一つの曲面からなる壁面を設けたウエルを整列して配置したウエルプレートと、
このウエルの開口部の下面に、少なくとも二つの流出入孔を設け、この少なくとも二つの流出入孔の中間に複数の第一の貫通孔と少なくとも一つの電極取り出し孔を規則的に配列し、少なくとも一面に二種類の電極を設けたチッププレートと、
前記チッププレートの流出入孔、第一の貫通孔および電極取り出し孔の下面に少なくとも一つの直線状の溝を有した溝プレートと、
前記チッププレートと溝プレートを接合することによって流出入孔、第一の貫通孔および電極取り出し孔が前記溝で連結するとともに、少なくとも一つの第二の貫通孔を有した薄板を設けた細胞電気生理センサチップを前記第一の貫通孔の内部に埋め込んだ細胞電気生理センサアレイ。
【請求項2】
ウエルプレート、チッププレートおよび溝プレートを熱可塑性樹脂とした請求項1に記載の細胞電気生理センサアレイ。
【請求項3】
熱可塑性樹脂をポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、オレフィンポリマ樹脂、ポリメタクリル酸メチルアセテート樹脂のいずれか一つを含む熱可塑性樹脂とした請求項2に記載の細胞電気生理センサアレイ。
【請求項4】
熱可塑性樹脂をポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、オレフィンポリマ樹脂、ポリメタクリル酸メチルアセテート樹脂のいずれか一つを含む熱可塑性樹脂とした請求項2に記載の細胞電気生理センサアレイ。
【請求項5】
ウエルプレートの内部に配置したウエルの配列を12×8の96個フォーマット、24×16の384個フォーマット、48×32の1536個フォーマットのいずれかの格子状配列とした請求項1に記載の細胞電気生理センサアレイ。
【請求項6】
チッププレートに配置した2種類の電極はクロム、チタン、銅、金、白金、銀および塩化銀からなる電極材料群から選ばれた少なくとも一種類を用いた請求項1に記載の細胞電気生理センサアレイ。
【請求項7】
二種類の電極をチッププレートの同一面に配置した請求項1に記載の細胞電気生理センサアレイ。
【請求項8】
二種類の電極の一つは電極取り出し孔の内部に導電性接着剤を充填して電極取り出し孔を封止した請求項7に記載の細胞電気生理センサアレイ。
【請求項9】
導電性接着剤を銀・塩化銀の微少粒子を混合した電極とした請求項8に記載の細胞電気生理センサアレイ。
【請求項10】
少なくとも両端に二つの開口部を有した一つの曲面からなる壁面を設けたウエルを一定の間隔で整列して配置した熱可塑性樹脂からなるウエルプレートを準備する工程と、
このウエルの開口部の下面に、少なくとも2つの液体の流出入孔を有し、この少なくとも二つの流出入孔の中間に複数の第一の貫通孔と少なくとも一つの電極取り出し孔を規則的に配列し、少なくとも一面に二種類の電極を有した熱可塑性樹脂からなるチッププレートを準備する工程と、
前記チッププレートの流出入孔、第一の貫通孔および電極取り出し孔の下面に少なくとも一つの直線状の溝を有した熱可塑性樹脂からなる溝プレートを準備する工程と、
前記ウエルプレートとチッププレートを熱溶着もしくは溶剤溶着によって貼り合わせる工程と、
内部に第二の貫通孔を有した薄板を備えた細胞電気生理センサを前記第一の貫通孔の内部に配置して前記細胞電気生理センサとチッププレートの間に隙間がないよう封止する工程と、
前記チッププレートと前記溝プレートを熱溶着もしくは溶剤溶着によって貼り合わせることによって第一の貫通孔が同一の溝で連結するように形成する工程を含む細胞電気生理センサアレイの製造方法。
【請求項11】
熱溶着をレーザ光線を貼り合わせ面に照射して熱溶着させる請求項10に記載の細胞電気生理センサアレイの製造方法。
【請求項12】
溶剤溶着を非極性有機溶剤と貼り合わせ面に塗布して溶剤溶着させる請求項10に記載の細胞電気生理センサアレイの製造方法。
【請求項1】
少なくとも両端に二つの開口部を有した一つの曲面からなる壁面を設けたウエルを整列して配置したウエルプレートと、
このウエルの開口部の下面に、少なくとも二つの流出入孔を設け、この少なくとも二つの流出入孔の中間に複数の第一の貫通孔と少なくとも一つの電極取り出し孔を規則的に配列し、少なくとも一面に二種類の電極を設けたチッププレートと、
前記チッププレートの流出入孔、第一の貫通孔および電極取り出し孔の下面に少なくとも一つの直線状の溝を有した溝プレートと、
前記チッププレートと溝プレートを接合することによって流出入孔、第一の貫通孔および電極取り出し孔が前記溝で連結するとともに、少なくとも一つの第二の貫通孔を有した薄板を設けた細胞電気生理センサチップを前記第一の貫通孔の内部に埋め込んだ細胞電気生理センサアレイ。
【請求項2】
ウエルプレート、チッププレートおよび溝プレートを熱可塑性樹脂とした請求項1に記載の細胞電気生理センサアレイ。
【請求項3】
熱可塑性樹脂をポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、オレフィンポリマ樹脂、ポリメタクリル酸メチルアセテート樹脂のいずれか一つを含む熱可塑性樹脂とした請求項2に記載の細胞電気生理センサアレイ。
【請求項4】
熱可塑性樹脂をポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、オレフィンポリマ樹脂、ポリメタクリル酸メチルアセテート樹脂のいずれか一つを含む熱可塑性樹脂とした請求項2に記載の細胞電気生理センサアレイ。
【請求項5】
ウエルプレートの内部に配置したウエルの配列を12×8の96個フォーマット、24×16の384個フォーマット、48×32の1536個フォーマットのいずれかの格子状配列とした請求項1に記載の細胞電気生理センサアレイ。
【請求項6】
チッププレートに配置した2種類の電極はクロム、チタン、銅、金、白金、銀および塩化銀からなる電極材料群から選ばれた少なくとも一種類を用いた請求項1に記載の細胞電気生理センサアレイ。
【請求項7】
二種類の電極をチッププレートの同一面に配置した請求項1に記載の細胞電気生理センサアレイ。
【請求項8】
二種類の電極の一つは電極取り出し孔の内部に導電性接着剤を充填して電極取り出し孔を封止した請求項7に記載の細胞電気生理センサアレイ。
【請求項9】
導電性接着剤を銀・塩化銀の微少粒子を混合した電極とした請求項8に記載の細胞電気生理センサアレイ。
【請求項10】
少なくとも両端に二つの開口部を有した一つの曲面からなる壁面を設けたウエルを一定の間隔で整列して配置した熱可塑性樹脂からなるウエルプレートを準備する工程と、
このウエルの開口部の下面に、少なくとも2つの液体の流出入孔を有し、この少なくとも二つの流出入孔の中間に複数の第一の貫通孔と少なくとも一つの電極取り出し孔を規則的に配列し、少なくとも一面に二種類の電極を有した熱可塑性樹脂からなるチッププレートを準備する工程と、
前記チッププレートの流出入孔、第一の貫通孔および電極取り出し孔の下面に少なくとも一つの直線状の溝を有した熱可塑性樹脂からなる溝プレートを準備する工程と、
前記ウエルプレートとチッププレートを熱溶着もしくは溶剤溶着によって貼り合わせる工程と、
内部に第二の貫通孔を有した薄板を備えた細胞電気生理センサを前記第一の貫通孔の内部に配置して前記細胞電気生理センサとチッププレートの間に隙間がないよう封止する工程と、
前記チッププレートと前記溝プレートを熱溶着もしくは溶剤溶着によって貼り合わせることによって第一の貫通孔が同一の溝で連結するように形成する工程を含む細胞電気生理センサアレイの製造方法。
【請求項11】
熱溶着をレーザ光線を貼り合わせ面に照射して熱溶着させる請求項10に記載の細胞電気生理センサアレイの製造方法。
【請求項12】
溶剤溶着を非極性有機溶剤と貼り合わせ面に塗布して溶剤溶着させる請求項10に記載の細胞電気生理センサアレイの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2007−174990(P2007−174990A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−377934(P2005−377934)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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