説明

細菌検出用濃縮器

【課題】レジオネラ属菌を効率よく濃縮することのできる、新規の細菌検出用濃縮器を提供する。
【解決手段】芯部材1と、芯部材1を覆うセロファン2と、セロファン2と芯部材1との間に固定されたポリエチレングリコール粉末3とを備えた。検体水4中に浸漬することで、検体水4中の水がセロファン2を通過してポリエチレングリコール粉末3側に移動するため、検体水4を効率よく濃縮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジオネラ属菌などの細菌を検出するために用いられる細菌検出用濃縮器に関する。
【背景技術】
【0002】
レジオネラ属菌は、環境中に普通に存在し、通常では感染症を引き起こすことはあまりない。しかし、浴槽水中や空調用冷却水中などの環境下でレジオネラ属菌は増殖しやすく、このような環境下で増殖したレジオネラ属菌がレジオネラ肺炎などの重篤なレジオネラ症を引き起こすことが知られている。
【0003】
そして、日本では、特に入浴施設からの感染事例が多いため、厚生労働省により「公衆浴場における水質基準等に関する指針」が定められ、浴槽水の水質に関する基準としてレジオネラ属菌は10CFU/100mL未満であること、浴槽水等の水質検査は定期的に行うこと、が定められている。
【0004】
しかし、レジオネラ属菌の水質検査は寒天平板法により行われているため、検査結果が得られるまでに1〜2週間を要するという問題があった。このため、浴槽水の水質検査は、上記指針に定められた範囲内で行われているのに止まり、日常的には行われていないのが現状である。
【0005】
なお、特許文献1には、遺伝子検査法の一種であるLAMP法を用いた方法によって、短時間で検査結果を得ようとする試みがなされている。しかしながら、この方法は、検査工程が極めて煩雑であり高度な技術が必要であるという大きな欠点がある。
【0006】
一方、医療診断の分野では、検査が簡便であり、特別な装置を必要とせず、迅速に検査できることから、特許文献2に開示されているようなイムノクロマトグラフィーを用いた細菌の検査が行われている。しかし、イムノクロマトグラフィーを用いた検査では、上記指針に定められた浴槽水の水質検査により要求されるような低濃度のレジオネラ属菌を検出することはできない。
【0007】
また、特許文献3には、これらの欠点を補うために、レジオネラ属菌を含む検水を効率よく濃縮して、レジオネラ感染症を起こす可能性の高い約1,000CFU/mL以上の濃度のレジオネラ属菌を検出できるように改良された細菌検出用濃縮濾過器が記載されているが、温泉施設やプールなどの日常管理において厚生労働省が望ましい範囲とする100CFU/mL以下の検出感度においてレジオネラ属菌を検出するには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−265680号公報
【特許文献2】特開2010−60297号公報
【特許文献3】特願2010-211527号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は上記問題点に鑑み、イムノクロマトグラフィーを用いて、簡便かつ迅速に、かつ100CFU/mL以下の検出感度においてレジオネラ属菌を検出することを可能とするために、特許文献3に記載された細菌検出用濃縮濾過器によって濃縮されたレジオネラ属菌をさらに濃縮することのできる、新規の細菌検出用濃縮器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1記載の細菌検出用濃縮器は、芯部材と、この芯部材を覆うセロファンと、このセロファンと前記芯部材との間に固定されたポリエチレングリコール粉末とを備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項2記載の細菌検出用濃縮器は、請求項1において、前記芯部材は筒状であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1記載の細菌検出用濃縮器によれば、検体水中に浸漬することで、検体水中の水がセロファンを通過してポリエチレングリコール粉末側に移動するため、検体水を効率よく濃縮することができる。
【0013】
本発明の請求項2記載の細菌検出用濃縮器によれば、芯部材が筒状であるので、芯部材の軸を略鉛直方向として検体水中に浸漬することで、ポリエチレングリコール粉末と水の接触面積を大きくして、検体水をさらに効率よく濃縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1の細菌検出用濃縮器を示す斜視図である。
【図2】実施例1の細菌検出用濃縮器の使用状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の細菌検出用濃縮器の実施例について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0016】
図1、2を参照しながら説明すると、1は透明な合成樹脂からなり、筒状の形状を有する芯部材であり、この芯部材1を外側から覆うようにセロファン2が設けられている。そして、セロファン2と芯部材1との間に、ポリエチレングリコール粉末3が固定されている。なお、ポリエチレングリコール粉末3の量は、検体水4の量に応じて適宜変更できるようになっている。
【0017】
ここで、芯部材1を構成する合成樹脂としては、特定のものに限定されず、公知のあらゆる合成樹脂を用いることができる。また、セロファン2としては、特定のものに限定されないが、孔径が均一であることから、透析用セロファンが好適に用いられる。セロファンは、水や低分子物質は透過するが蛋白質などの高分子物質や細菌が透過しない孔径を有している。ポリエチレングリコール粉末3としては、常温で粉末状であればよく、特定のものに限定されない。
【0018】
検体水に本実施例の細菌検出用濃縮器を浸漬すると、検体水4中の水はセロファン2を通過して、ポリエチレングリコール粉末3が固定された筒部材1側に移動する。ポリエチレングリコール粉末3は水に溶解すると、浸透圧の作用によりさらに水が筒部材1側に移動する。ここで、細菌はセロファン2を通過できないので、セロファン2の外側に残留する。その結果、セロファン2の外側に細菌を含む検体水4が濃縮される。
【0019】
以上のように、本実施例の細菌検出用濃縮器は、芯部材1と、この芯部材1を覆うセロファン2と、このセロファン2と前記芯部材1との間に固定されたポリエチレングリコール粉末3とを備えたものであり、検体水4中に浸漬することで、検体水4中の水がセロファン2を通過してポリエチレングリコール粉末3側に移動するため、検体水4を効率よく濃縮することができる。
【0020】
また、前記芯部材1は筒状であるため、芯部材1の軸を略鉛直方向として検体水4中に浸漬することで、ポリエチレングリコール粉末3と水の接触面積を大きくして、検体水4をさらに効率よく濃縮することができる。また、芯部材1を自立させてポリエチレングリコール粉末3と水の接触面積を大きくすることもできる。
【0021】
本実施例の細菌検出用濃縮器は、浴槽水のほか、プールや空調設備のクーリングタワーのレジオネラ属菌の検査、水道水のクリプトスポリジウム属菌の検査、カイワレ大根等の水耕栽培の水質検査、飲料水の水質検査等にも用いることができる。
【0022】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の変形実施が可能である。
【実施例2】
【0023】
レジオネラ属菌の混入が疑われる浴槽水約20Lを、特許文献3に記載の細菌検出用濃縮濾過器を用いて濾過した。なお、特許文献3に記載の細菌検出用濃縮濾過器は、水中の細菌をフィルターにより濾過分離するものであり、フィルターとしては、直径47mmのガラス繊維濾紙(ワットマン社製 GF/B)を用いた。浴槽水は15分かけて濾過した。濾過後、5mlの希釈水(生理食塩水:アジ化ナトリウム0.1%入り)を入れた容量10mlの遠沈管にフィルターを浸漬して十分に撹拌し、約10mLの検体水を得た。この検体水中に、ポリエチレングリコール(PEG)粉末8gを備えた実施例1の細菌検出用濃縮器を図2に示すように、芯部材の軸が略鉛直方向を向くようにして浸漬した。
【0024】
ここで、細菌検出用濃縮器を検体水中に浸漬してから約2時間静置すると、検体水は約100〜500μLになる。したがって、この段階で浴槽水は約40,000〜200,000倍に濃縮されたことになる。しかし、実際は濃縮された検体水は容器などに付着するので、つぎのレジオネラ属菌の検出工程であるイムノクロマト法で使用する容量を考慮して、約500μLまで濃縮した。そして、これをイムノクロマト試験紙(自家調整 抗レジオネラ菌ニューモフィラI型モノクロナール抗体感作金コロイド塗布)に滴下して判定を行った。
【0025】
表1に、各種レジオネラ属菌濃度における一段濃縮(特許文献3に記載の細菌検出用濃縮濾過器を用いた濃縮のみ)と二段濃縮(一段濃縮+実施例1の細菌検出用濃縮器を用いた濃縮)での検出結果を示した。また、表2に、一段濃縮で約10mLまで濃縮した後、実施例1の細菌検出用濃縮器を用いて0.5mLまで(20倍濃縮)に要する時間を測定した。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
以上の結果より、第一段として特許文献3に記載の細菌検出用濃縮濾過器で約2,000倍に濃縮後、実施例1の細菌検出用濃縮器とイムノクロマトグラフィーを用いることにより、判定まで約10日間要する公定培養法と匹敵する感度でレジオネラ属菌を検出できることが確認された。
【符号の説明】
【0029】
1 芯部材
2 セロファン
3 ポリエチレングリコール粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部材と、この芯部材を覆うセロファンと、このセロファンと前記芯部材との間に固定されたポリエチレングリコール粉末とを備えたことを特徴とする細菌検出用濃縮器。
【請求項2】
前記芯部材は筒状であることを特徴とする請求項1記載の細菌検出用濃縮器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−249598(P2012−249598A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125910(P2011−125910)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(503143286)新潟バイオリサーチパーク株式会社 (6)
【Fターム(参考)】