説明

組織間固定装置およびその使用方法

【課題】 外科処置の侵襲性を低減することができる組織間固定装置およびその使用方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、第1の生体組織を1つ以上の別の生体組織層に固定するための装置およびその使用方法に関する。装置は、体腔内に設置可能な複数の個々のアンカーセグメントを含む。セグメントは、前記生体組織層を通過して当該装置を初期配置すべく、セグメント同士が互いに移動可能であるとともに、共通の第1縦軸に沿って整列可能な第1の弛緩状態をとることができる。体腔内に配置されると、アンカーセグメントはアクチュエータによって操作され、第1縦軸に対する横角度をもって、アンカーセグメント同士が互いに剛形態となる第2の剛状態とをとる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1の生体組織を1つ以上の別の生体組織層に固定するための装置に関する。本発明に係る装置は、患者の胃に直接的に栄養供給するために使用される栄養供給チューブの使用に先立って、患者の胃壁を腹壁に固定するために使用される。特に、本発明は、様々な胃カテーテルの経皮的設置や、胃腸管へのアクセスを可能にするストーマの形成や、ストーマの形成時に2つ以上の組織層を両者が融合するまでの固定に関する手順に使用される。
【背景技術】
【0002】
胃や小腸等の内臓への経皮的なアクセスが必要となる種々の医学的状況が存在する。嚥下能力を喪失した患者に長期間に渡って栄養供給する場合は、胃や腸へ直接的に栄養供給する必要がある。この種の供給は、一端が患者の胃内に配置され、他端が栄養供給源との接続のために患者の体外に位置されるように、栄養供給チューブを患者の胃内に挿管することによって実現される。栄養供給チューブは、様々な方法で、患者の胃内に挿管され得る。例えば、栄養供給チューブは、内視鏡的に、切開口を通じて外科的に、腹腔鏡的に、又は、内視鏡、蛍光透視鏡若しくは超音波の誘導下で経皮的に挿管され得る。また、様々な種類の栄養供給チューブが、例えば、胃瘻造設術、空腸造瘻術又は胃空腸吻合術等の術式を用いて挿管され得る。これらのチューブは、様々な保持用固定器具によって身体管腔(胃や腸)内に保持される。そのような固定機構としては、膨張可能バルーン、閉鎖可能ドーム、固定ドーム型バンパや縫合ウイング等がある。
【0003】
経腸栄養供給器具を挿管する前に、胃腹壁固定術を行うことが必要である。胃腹壁固定術は、最終的に排泄管が形成される部分において、胃壁を腹壁側に引き寄せるものである。この固定は、内臓壁と腹部が意図せずに離れて腹腔が汚染されて、腹膜炎が発生するのを防止するために重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
初期設置した装置は、多くの場合は、侵襲的外科処置以外では容易に取り除くことができない。すなわち、多くの場合、初期設置された固定装置は、さらなる処置を行うことなく容易に取り除くことができない剛性の保持部材を含んでいるためである。これらの保持部材は、一般的に剛性を有するT字形またはH字形の金属性の締結部材(「T字形バー」という)であり、取り除くことができず、患者の便通と共に自然に排出させるようにする。しかしながら、多くの場合、T字形バーは身体管腔を通過することができずに身体管腔内に残ってしまう。さらに、ストーマが形成されるまでの6〜8週間の間、従来の胃腹壁固定装置の固定機構は胃壁や腸壁に埋没し、究極的には感染症の原因となり得る。また、T字形バーは尖った縁部を有しているため、患者に不快感を与えるおそれがある。
【0005】
上述した術式の多くでは、胃と腹壁との間を所望のように密着させるために、前記固定機構に引張力が加えられる。引張力は、胃内腔を腹壁の方へ引っ張るように加えられ、組織層が両者を癒合させる。この引張力は、ストーマ部位が十分に治癒するまで数日間から数週間の期間に渡って加える必要がある。この期間中、患者はあまり動くことができないため、術後合併症が発生するおそれがある。
【0006】
そこで、初期設置やストーマ部形成の際に使用可能な組織固定装置が求められている。このような装置は、胃壁の腹壁への恒久的な結合を促進し、外科処置の侵襲性を減少させるのに役立ち、創傷治癒を著しく向上させ、設置後に栄養供給及び排液のための胃への迅速なアクセスを可能にし、そして究極的には、無傷での交換を可能にすることができるであろう。したがって、身体管腔内に容易に設置でき、身体管腔と体外との間に瘻孔を形成することができ、かつ不要になった際にユーザが容易に取り出せるような固定装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の対象や利点を以下の詳細な説明に基づいて説明する。本発明の対象や利点は、詳細な説明から明らかになるとともに、本発明の実施形態を通して理解される。
【0008】
本発明は、第1の生体組織層を第2の生体組織層に固定するために身体管腔内に挿入される装置を目的とする。一実施形態では、装置は、少なくとも2つの生体組織層を貫通し、身体管腔内に挿入される複数のそれぞれが実質的に剛体であるアンカーセグメントを有する。アンカーセグメントは、ニードル(中空針)またはトロカール型の導入器を通して、組織層を貫通し、体腔内に導入される。アンカーセグメントは、第1の弛緩状態において縦方向に整列されており、互いに移動可能となっている。アンカーセグメントは、体腔内で第2の剛状態へと操作される。セグメントは、それぞれが引き寄せられて1つの剛性が高い形態になり、縦軸に沿った初期配列に対して横角度をもって延設される。例えば、アンカーセグメントの少なくとも2つの横枝部が、第1縦軸から垂直方向に延設される。それぞれの枝部には少なくとも1つのアンカーセグメントが含まれている。1つ以上のセグメントが含まれている各枝部は、中央のアンカーセグメントから延設されてよい。
【0009】
アンカーセグメントは、様々な適切な形状および形態を取ることができ、患者に与える不快感を最小化するために鋭角や角が取り除かれていることが望ましい。一実施形態では、アンカーセグメントは、通路を有する実質的に円筒状の要素である。
【0010】
アンカーセグメントに接続されたアクチュエータは、中央のアンカーセグメントを貫通して各枝部の端部に配置されたセグメントの遠位端へと延びている。アクチュエータは、アンカーセグメント26を第1の弛緩状態から、剛状態に操作するための手段を臨床医に提供する。一実施形態では、アクチュエータは、分離したフィラメントを含む。フィラメントは、中央のセグメントシャフトを通過し、アンカーセグメントの各横枝部に延び、各横枝部の端部に配置されたセグメントの端面に固定される。
【0011】
フィラメントは、組織層を貫通して延び、フィラメントの他端は、生体から外部へと延出している。これらの端部は、臨床医によって引っ張られ、あるいは張力が加えられ、アンカーセグメント同士が引き寄せられて、第2の剛状態を呈する。ここで使用される「フィラメント」は、可撓性の細長い部材であり、アンカーセグメントに接続され、組織層を貫通して延び、装置を駆動する。
【0012】
一実施形態では、装置は2つの横アンカーセグメントと、1つの中央のセグメントとを含んでよく、各横アンカーセグメントは中央のアンカーセグメントから横方向に延設される。横アンカーセグメントは、相反する方向(すなわち、180°離れている)に延設されてもよいし、相反する方向よりも小さい角度をもって延設されてもよい(すなわち、角度が180°以下)。
【0013】
他の実施形態では、複数のアンカーセグメントが両横方向に延設された枝部に含まれている。例えば、装置は、中央のアンカーセグメントから両横方向に延設された少なくとも2つのアンカーセグメントを有してもよい。この実施形態では、個々のアンカーセグメントは、装置の第1の弛緩状態において、互いに分離されており、移動自在となっている。アクチュエータは、各枝部のアンカーセグメントの全てを貫通しており、張力が加えられた際に、セグメント同士を剛性が高い形態に引き寄せ、第2の剛状態にする。
【0014】
アンカーセグメントは、アクチュエータに十分な張力が加えられた際に、軸方向に隣接して配置される比較的平坦な表面を有してよい。他の実施形態では、アンカーセグメントの端面は、雄部と雌部との係合のような係合構造を含んでもよく、これにより第2の剛状態においてアンカー部材の整列および保持が補助される。この構造は、例えば、一のアンカーセグメントの端面に形成されたテーパ状の凸部と、他のアンカーセグメントの隣接する端面に凸部に対応する形状に形成され、凸部と係合するスロットとを有してよい。
【0015】
アンカーセグメントは、アクチュエータに加えられる一定の外部張力によって、第2の剛状態に維持され、張力が解放されたときに第1の弛緩状態になる。
【0016】
装置は、アクチュエータフィラメントを支持するとともに、引っ張った、または緊張した状態に維持する扁平状の外部固定部材をさらに含んでもよい。外部固定部材は、フィラメントが通され、結び付けられるスロットまたは孔を有する簡素なプレート状部材であってよい。
【0017】
装置の構成要素の少なくとも1つは、患者内で時間経過に伴い分解する再吸収可能な材料から形成されることが望ましい。例えば、アクチュエータとアンカーセグメントとの連結は、このような材料から形成され得る。ストーマが形成され、もはや装置が必要でなくなったときに、再吸収可能な材料は、装置の構成要素の分解および患者の消化管を通過して装置の排出を助ける。再吸収可能な構成要素は小片に分解され、体内に引っ掛かる可能性が低減されて、消化管を通して容易に通過する。
【0018】
本発明は、ここに記載した装置を使用して、第1の生体組織層を第2の生体組織層に固定するための外科的方法を含んでいる。このような方法は、腹腔を含む生体組織層の1つを、胃を含む他の層に固定する胃腹壁固定術に有用である。
【0019】
本発明の対象、利点、装置は、以下の本発明の好ましい実施形態の詳細な説明と添付の図面から明らかとなろう。図面中の同一の符号は、同一または同等の構成要素を示す。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る固定装置を患者の腹壁と胃とに挿入した状態を示す説明図
【図2】本発明の一実施形態に係る固定装置を患者の適所に導入するための導入器に挿入した状態を示す斜視図
【図3】アンカーセグメントが第2の剛状態となっている図2の固定装置を示す斜視図
【図4】相反する横方向に延設された単一のアンカーセグメントを備えたアンカー装置の他の実施形態を示す部分断面図
【図5】相反する横方向に延設されるとともに、個々のセグメント間に位置決め構造を備えた複数のアンカーセグメントからなるアンカーセグメントの一実施形態を示す部分断面図
【図6A】端面に位置決め構造を有するアンカーセグメントを備えた固定装置の他の実施形態を示す斜視図
【図6B】端面に位置決め構造を有するアンカーセグメントを備えた固定装置の他の実施形態を示す断面図
【図6C】端面に位置決め構造を有するアンカーセグメントを備えた固定装置の他の実施形態を示す斜視図
【図7A】再吸収可能な材料を含むアンカーセグメントの実施形態を示す斜視図
【図7B】再吸収可能な材料を含むアンカーセグメントの実施形態を示す斜視図
【図8】患者の外部にアクチュエータフィラメントを固定するために使用される固定部材の実施形態を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態について図面を参照して説明する。各実施形態は、本発明の一側面として例示するものであり、本発明を限定するものではない。例えば、一実施形態の一部として図示または記載された形状は、他の実施形態においても使用され得る。本発明は、種々の改変や変更を発明の範囲および思想の範囲内で行うことが可能である。
【0022】
本発明は、第1の生体組織を第2の生体組織に固定するための装置およびその装置の使用方法に関する。
【0023】
この装置は、身体の外部部分から身体内に挿入され、少なくとも2以上の生体組織層を横切り、その遠位端が適切な体腔や身体管腔内に配置され、少なくとも2以上の生体組織層を接触した状態に引き寄せ、それらを固定する。この装置は、特に、ストーマが最終的に形成される腹腔の部位へ胃壁を引き寄せる胃腹壁固定術に有用である。この装置は、不慮の分離や腹膜腔の汚染を防ぎ、腹膜炎を防止するために重要である。
【0024】
図1には、本発明の一実施形態に係る装置10が示されている。装置10は、第1の生体組織層12を少なくとも1つの他の生体組織層14に固定すべく、身体管腔または体腔に挿入して使用される。装置10は、患者の栄養補給用ストーマを形成するための胃腹壁固定術において、腹腔組織12と胃壁14とを固定するために使用される。装置10は、体腔内に設けられた(例えば、胃壁を通して胃の内部に設けられた)複数のアンカーセグメント26を含んでいる。アクチュエータ40は、アンカーセグメント26に接続され、生体組織層12,14を通過して延び、アンカーセグメントを引いて剛状態に変化させるために使用される。剛状態では、アンカーセグメントはアクチュエータ40の縦軸に対して横角度をもって延設されている、またはアクチュエータは、中央のアンカーセグメント29の相反する側部から延びている。アクチュエータ40は、以下により詳細に示すように、患者に設けられた外部固定部材48に外部から固定されている。
【0025】
ここでは、一般的に、遠位側は患者側を示し、近位側は使用者側を示す。
【0026】
装置10の様々な構成要素は、生体適合性金属や高分子材料から形成されてよい。このような高分子材料には、ポリウレタン(PU)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテラフタル酸エステル(PETA)が含まれる。材料の特性を改変するために、共重合体混合物を使用することが可能である。例えば、低密度ポリエチレンとエチレン−酢酸ビニル共重合体(LDPE−EVA)や、上述した材料の混合物(例えば、PUとPVCの混合物、PUとPAとの混合物)が、装置に適していると考えられる。
【0027】
以下により詳細に示すように、装置10を形成する構成要素は、時間経過に伴って劣化し、分解する再吸収可能な材料で一部または全体が形成されてよい。これらの材料は、加水分解または酵素作用によって分解される一般的な高分子材料であり、シーラント、縫合糸、ステープル、インプラント等の医療用器具に現在使用されている材料である。例えば、このような材料は、骨セメントを含む天然または準合成高分子を含む。材料は、殺菌され、生体適合性(無毒)および生化学分解能を備えた部材である。当業者であれば、適切な再吸収可能な材料の幅広い種類を理解している。胃腹壁固定術での再吸収可能な材料は、強酸および酵素下の比較的厳しい胃環境内で、ストーマを適切に形成するために十分な時間(理想的には約6週間)、完全な(初期の)形態を維持できなけばならない。現在のところ、芳香族ポリエステルとラクチド、ポリジオキサノン、ポリ酸無水物の共重合体が、胃腹壁固定術に対する本発明の装置に使用する再吸収可能な材料に最適である。
【0028】
図2に示すように、装置10は、導入器56に装填される。導入器56は、ボア58を有するトロカールまたはニードルであってよい。導入器56は、生体組織層を貫通し、装置10の体腔への挿入するために使用され得る。また、導入器56は、前もって形成された穿刺部位を通して挿入されてもよい。
【0029】
特に図2および図3に示す実施形態では、アンカーセグメント26は、複数の円筒状セグメント28を含む。円筒状セグメント28は、それ自体が貫通されたボアをなす。図2に示すように、円筒状セグメント28は、セグメント28同士が互いに移動自在な第1の弛緩状態において、第1の縦軸20に沿って導入器56の内部で整列されられる。この方法では、生体組織層を通過して装置10を初期配置するために、円筒状セグメント28は導入器56の内部に容易に挿入可能となっている。
【0030】
図2に示すように、導入器の遠位端が体腔内に挿入された状態において、導入器の外部にアンカーセグメントを押し出すための挿入器具16が導入器56の内部に挿入されている。この挿入器具16は、剛体の棒状部材であって、アクチュエータ40が挿通されるボア18を有する。図3に示すように、アンカーセグメント26が導入器から押し出された後に、導入器56と挿入器具16は取り除かれ、アクチュエータ40の端部は身体の外部に保持される。アクチュエータ40から挿入器具16を抜き出すことによって、挿入器具16は導入器から取り除かれ得る。
【0031】
導入器56からアンカーセグメント26を押し出すために、他の駆動力が用いられてもよい。例えば、アンカーセグメントを導入器56から押し出すために、導入器に液体を注入してもよい。
【0032】
図3に示すように、装置10が適所に配置されると、アンカーセグメント26は操作され、第2の剛状態となる。セグメントは、縦軸20に対して横角度を有する剛性が高い形態を呈する。図示した実施形態では、アンカーセグメント26の少なくとも2つの横枝部が、軸20から相反する垂直方向に延設されている。
【0033】
図2および図3に示すように、複数の個々の円筒状セグメント28は、中央の円筒状セグメント29の相反する側部に配置されたアンカーセグメント26の各枝部に一列に並べられる。アクチュエータ40は、中央セグメント28を貫通してアンカーセグメント26の各枝部に伸びている。アクチュエータ40に加えられる外部からの垂直な引張力は、アンカーセグメント同士を中央セグメント29側に引っ張る概ね横方向の力に変換され、アクチュエータ40は構造を形成する。各枝部は、任意の数の円筒状セグメント28を含んでよい。図4に例示するように、各枝部は単一の円筒状セグメントのみを含んでもよい。
【0034】
アンカーセグメント26は、適切な形状や形態をとることができるが、患者が感じる不快感を最小化すべく、鋭角部や角部が取り除かれていることが好ましい。円筒状セグメント28は、この理由を満たしている。
【0035】
アクチュエータ40は、アンカーセグメント26に接続されており、中央セグメント29から各横枝部のアンカーセグメント26の遠位端へと延びている。アクチュエータ40は、アンカーセグメント26を図2に示す第1の弛緩状態から、図3に示す第2の剛状態に操作するための手段を臨床医に提供する。一実施形態では、アクチュエータ40は、分離したフィラメント42,44を含む。フィラメント42,44は、軸20に沿って生体組織層を貫通し、中央セグメント29の内部に入り、各横枝部のアンカーセグメント26を通過して延びている。図3から図5に特に示すように、フィラメント42,44は、アンカーセグメントの各横枝部における中央セグメント29から最も離れたアンカーセグメント26の端部に固定される。フィラメントは、アンカーセグメント26のボアを縫うように通過し、最も離れたセグメント26の端面30に固定、または結び付けられている。
【0036】
図1および図3に特に示すように、アクチュエータ40の他端は、生体組織層の外部に延びている。アンカーセグメント26が導入器56から体腔内に押し出された後、アクチュエータ40(図示された実施形態ではフィラメント42,44)は、セグメント26が図3に示すような第2の剛状態を呈するように、臨床医によって引っ張られ、あるいは張力が加えられ、アンカーセグメント同士を中央セグメント29側に引き寄せる。アンカーセグメントが剛状態を維持するように、アクチュエータフィラメント42,44は、結び付けられ、縫合され、あるいは生体の外部に固定され、張力がアンカーセグメント26に維持される。
【0037】
個々の円筒状セグメント28のようなアンカーセグメント26は、フィラメント42,44に十分な張力が加えられた際に、軸方向に互いに隣接する平坦な端面30,32を有する。また、例えば図5に示すように、円筒状セグメント28の端面は、第2の剛状態における円筒状セグメント28の整列を助ける係合位置決め構造34を含む。位置決め構造34は、適切な雄部および雌部からなる係合構造を含む。位置決め構造34は、例えば、円筒状セグメント28の第1端面30に形成された凸部36と、隣接する円筒状セグメント28の第2端面32に形成された凹部38とを有する。図5に特に示すように、シャフト16の遠位端は、シャフト16側に引き寄せられる円筒状セグメント28の凹部38に嵌合する凸部25を含んでもよい。
【0038】
図6Aから図6Cには、隣接するアンカーセグメント26間の係合構造の他の実施形態を示している。この実施形態では、アンカーセグメント16は、中央セグメント29に近接する端面32から突出するテーパ状の凸部27を含む。図6Aおよび図6Bに特に示すように、凸部27は、中央セグメント29に形成された対応する形状のスロット31に嵌合する。アクチュエータフィラメント44を引っ張られることによって、アンカーセグメント26の端面32は中央セグメント29側に引き寄せられ、凸部27が凹部31内にスライドして嵌り込む。この形態は、セグメントの枝部における複数のアンカーセグメント26の隣接する端面間に設けられてもよい。凸部と凹部との嵌合によるこの種の構造は、第2の剛状態にセグメントを維持するために、アクチュエータフィラメント42,44に加える必要がある張力が小さくなることが好ましい。
【0039】
図6Aから図6Cの実施形態における中央セグメント29は、垂直に配向された円筒状セグメントである。このセグメントは、水平に配向されてもよい。
【0040】
図3から図6の実施形態では、アンカーセグメント26は、外部からアクチュエータフィラメント42,44に加えられる一定の張力によって、第2の剛状態を維持することができる。例えば、フィラメント42,44を切断または緩めることによって張力が取り除かれると、アンカーセグメント26は移動自在となり、第1の弛緩状態になる。
【0041】
図7Aは、円筒状セグメント28の実施形態を示している。挿通可能なボアを有する高分子コア部材55の周囲に、再吸収可能な材料54の円周部分が形成された円筒状セグメント28は、アンカーセグメント26として使用され得る。再吸収可能な材料54が分解された後は、中央のコア部分55が残るが、コア部分55は比較的小さく、患者から容易に排出される。図7Bの実施形態では、円筒状セグメント28は、再吸収可能な材料54から形成されている。上述したように、ストーマが組織層に形成され、装置10がもはや必要でなくなった後に、再吸収可能な材料は、装置の分解を容易にし、装置の構成要素が患者の消化管を通過することを容易にする。再吸収可能な要素は、小片に分解され、体内に引っ掛かる可能性が低減され、患者の消化管を通って容易に排出される。
【0042】
外部固定部材48(図8)が、アクチュエータフィラメント42,44の患者に対しての近位端に使用されてもよい。図1および図8の実施形態では、外部固定部材48は、スロットまたは孔52が形成された比較的平坦なディスク状部材50であり、フィラメント42,44を受け止める。アクチュエータフィラメント42,44は、ある手法で結びとめられており、生体組織層を通って引っ張り込まれることが防止されている。例えば、フィラメント42,44は、固定部材48に縛られ、あるいは固定されている。この装置の利点は、ディスクの材質に応じて、ディスク50を例えば1〜2mmのように可能な限り薄く形成することができる点にある。この形態における固定部材48は、扁平であり、患者の皮膚を覆う包帯によって容易に隠蔽される。これにより、装置10は、周囲から目立たない(気付かれ難い)状態で、設置される。また、この形態は、部位の滅菌状態の維持を容易にするとともに、部位への不慮の損傷の可能性を低減する。
【0043】
図示しない固定部材48の他の実施形態では、複数の構成要素からなる構造が使用されてもよい。この構造は、図8に示す実施形態と類似し、患者の身体に対向するとともに、アクチュエータフィラメント42,44を受けるベースプレートシートを備える。蓋やカップが、生体から突出するシャフト16の一部と同様にベースプレートに固定される。
【0044】
装置10は分解可能であるため、装置の除去工程では、従来の装置と比較して外傷がはるかに少なくなる。除去工程では、最初に、アクチュエータ40は「弛緩」され(例えば、外部固定部材48から切断または解くことによって)、アンカーセグメント26が第2の剛状態を維持できなくなる。アンカーセグメント26は、分離自在となり、第1の弛緩状態に変化する。アンカーセグメント26は、患者の内部に留まることが許容され、最終的には患者から排出される。特に実施形態では、アンカーセグメント26は、個々が比較的に小さな円筒状セグメント28によって形成されている。
【0045】
他の除去工程では、アクチュエータフィラメント42,44は時間経過に伴って分解する再吸収可能な材料から形成され、アンカーセグメント26は剛状態から弛緩し、患者から排出される。上述したように、セグメント26は、再吸収可能な材料から形成され、患者から排出可能な小片に分解される。
【0046】
本発明についてその特定の実施形態に関して詳細に説明してきたが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく本発明に対して種々の修正、改変及びその他の変更がなされ得ることは当業者に明らかであろう。従って、特許請求の範囲に含まれる請求項が、そのような改変、修正及びその他の変更が全て網羅することを意図している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の生体組織層を第2の生体組織層に固定するために身体管腔内に挿入される装置であって、
体腔内に配置され、それぞれが実質的に剛体である複数のアンカーセグメントと、
前記アンカーセグメントに接続されるとともに、前記組織層を貫通して外部部分に延出するアクチュエータと
を備え、
前記アンカーセグメントは、前記生体組織層を通過して当該装置を初期配置すべく、当該アンカーセグメント同士が互いに移動可能であるとともに、共通の第1縦軸に沿って整列可能な第1の弛緩状態と、前記第1縦軸に対する横角度をもって、当該アンカーセグメントが互いに剛形態となる第2の剛状態とをとり、
前記アクチュエータは、外部から操作され、前記アンカーセグメントを前記第1の弛緩状態と前記第2の剛状態との間で設定することを特徴とする装置。
【請求項2】
少なくとも2つの前記アンカーセグメントを備え、
前記第2の剛状態では、少なくとも1つの前記アンカーセグメントが、前記第1縦軸から互いに相反する横方向に延設され、
前記アクチュエータは、各横方向に延設された前記アンカーセグメントに関連するフィラメントを備えていることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
中央アンカーセグメントを備え、
前記少なくとも2つのアンカーセグメントが、前記中央アンカーセグメントから互いに相反する方向に延設されていることを特徴とする、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記フィラメントは、前記アンカーセグメントを貫通し、各横方向に延設された前記アンカーセグメントの遠位端に固定されることを特徴とする、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
各横方向に延設された複数の前記アンカーセグメントを備え、
前記アンカーセグメントは、前記第1の弛緩状態において、互いに分離しており、移動可能となっていることを特徴とする、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記アンカーセグメントは、その端面に係合位置決め構造を備えることを特徴とする、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記アンカーセグメントは、実質的に円筒状のセグメントであり、前記アクチュエータに貫通され、各横方向に延設された当該アンカーセグメントの端のものが前記アクチュエータに固定されることを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれかの項に記載の装置。
【請求項8】
前記アンカーセグメントは、前記アクチュエータに外部から張力が加えられることによって前記第2の剛状態に維持され、前記張力が解放されることによって前記第1の弛緩状態になることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかの項に記載の装置。
【請求項9】
患者に関連する部位に前記アクチュエータを固定する外部固定部材を備えることを特徴とする、請求項1〜請求項8のいずれかの項に記載の装置。
【請求項10】
前記アンカーセグメントの少なくとも一部は、再吸収可能な材料から形成され、時間が経過した当該アンカーセグメントは、患者の内部で大きさが小さくなることを特徴とする、請求項1〜請求項9のいずれかの項に記載の装置。
【請求項11】
前記アンカーセグメントは、前記再吸収可能な材料から実質的に全体が形成されていることを特徴とする、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記アクチュエータは、再吸収可能な材料から形成され、患者の内部で時間経過に伴って分解され、前記アンカーセグメントを当該アクチュエータから分離させることを特徴とする、請求項1〜請求項11のいずれかの項に記載の装置。
【請求項13】
第1の生体組織層を第2の生体組織層に固定するために身体管腔内に挿入される装置であって、
挿通可能な通路をそれぞれ有する複数のアンカーセグメントを備え、
前記アンカーセグメントは、前記生体組織層を通過して当該装置を初期配置すべく、当該アンカーセグメント同士が互いに移動可能であるとともに、共通の第1縦軸に沿って整列可能な第1の弛緩状態と、前記第1縦軸に対する横角度をもって、当該アンカーセグメント同士が互いに剛形態となる第2の剛状態とをとり、中央アンカーセグメントから相反する横方向に延設され、前記第1の弛緩状態において互いに分離されるとともに移動自在であり、
前記横方向に延設されたアンカーセグメントの各組に接続されたフィラメントアクチュエータを備え、
前記フィラメントアクチュエータは、前記中央アンカーセグメントを貫通し、前記アンカーセグメントの前記通路を通過して延び、各横方向における前記アンカーセグメントの端部に配置されたものに固定され、外部から操作されて、前記アンカーセグメントを前記第1の弛緩状態と前記第2の剛状態との間で設定することを特徴とする装置。
【請求項14】
前記アンカーセグメントは、その端面に係合位置決め構造を備えることを特徴とする、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記アンカーセグメントは、前記アクチュエータフィラメントに外部から張力が加えられることによって前記第2の剛状態に維持され、前記張力が解放されることによって前記第1の弛緩状態になることを特徴とする請求項13または請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記アンカーセグメントの少なくとも一部は、再吸収可能な材料から形成され、時間が経過した前記アンカーセグメントは、患者の内部で大きさが小さくなることを特徴とする、請求項13〜請求項15のいずれかの項に記載の装置。
【請求項17】
前記アクチュエータフィラメントは、再吸収可能な材料から形成され、前記アンカーセグメントがシャフトから分離した後に患者の内部で時間経過に伴って分解されることを特徴とする、請求項1〜請求項11のいずれかの項に記載の装置。
【請求項18】
第1の生体組織層を第2の生体組織層に固定する方法であって、
前記生体組織層を通過して初期配置されるべく、互いに移動可能であるとともに、縦方向に整列された第1の弛緩状態をとり、アクチュエータに接続された複数の個々のアンカーセグメントを有するニードルまたはトロカールである導入器を少なくとも前記第1の生体組織層と前記第2の生体組織層とを貫通して体腔内へと挿入する工程と、
前記アンカーセグメントを前記導入器から押し出し、前記アンカーセグメントを前記体腔内に初期配置するとともに、前記アクチュエータが体外から延びるようにする工程と、
前記アンカーセグメントに接続された前記アクチュエータを外部から引っ張ることによって、前記アンカーセグメントを、前記アクチュエータに対する横角度をもって互いに剛形態となる第2の剛状態に変化させる工程と、
前記生体組織層に前記アンカーセグメントを取り付けておく必要がある限り、前記アンカーセグメントを固定することによって、前記アンカーセグメントを前記第2の剛状態に維持する工程と
を含むことを特徴とする方法。
【請求項19】
当該方法は、胃腹壁固定術を行うためのものであり、前記生体組織層は、腹壁と胃とを含むことを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
アンカーセグメントが、前記第2の剛状態において、中央のアンカーセグメントに対して異なる横方向に延出するように操作する工程と、
前記アクチュエータに外部から張力を加えることによって前記第2の剛状態を維持する工程と含むことを特徴とする、請求項18または請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記患者の外部に設けられた固定装置に前記アクチュエータを引っ張られた状態に固定する工程を含むことを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記第2の剛状態から前記アンカーセグメントを解放し、前記アンカーセグメントが前記患者の消化管を通過することを許容する工程を含むことを特徴とする、請求項18〜請求項21のいずれかの項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−512820(P2010−512820A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540893(P2009−540893)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【国際出願番号】PCT/IB2007/053196
【国際公開番号】WO2008/075211
【国際公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(504460441)キンバリー クラーク ワールドワイド インコーポレイテッド (396)
【Fターム(参考)】