説明

結合ドメイン−免疫グロブリン融合タンパク質

【課題】免疫活性のある組換え結合タンパク質、詳しくは一本鎖Fv-免疫グロブリン融合タンパク質を含む、分子的に操作された結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質を提供すること。
【解決手段】本発明は、抗原、カウンターレセプターなどのコグネイト構造の結合ドメイン、システイン残基を有さない、または1個有するヒンジ領域ポリペプチド、および免疫グロブリンCH2およびCH3ドメインを特徴とし、主として単量体タンパク質として存在しながらADCCおよび/またはCDC能を有する新規な結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質を提供する。これらの融合タンパク質は高い発現レベルで組換え発現し得る。また、関連の組成物および免疫療法適用をはじめとする方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、免疫活性のある組換え結合タンパク質、詳しくは一本鎖Fv-免疫グロブリン融合タンパク質を含む、分子的に操作された結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質に関する。本発明はまた、自己抗体の産生を特徴とする疾病をはじめとする悪性症状およびB細胞疾患を治療する組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫グロブリン分子は、鎖間ジスルフィド結合によって結合して高分子となる2つの同一の軽鎖と2つの同一の重鎖からなる。鎖内ジスルフィド結合は同じポリペプチド鎖の異なる領域を連結し、その結果、隣接するアミノ酸を伴って免疫グロブリンドメインを構成するループが形成される。各軽鎖および各重鎖は抗体ごとに著しいアミノ酸組成のバリエーションを示す単一の可変領域を有する。軽鎖可変領域VLは重鎖可変領域VHと会合して免疫グロブリンの抗原結合部位Fvを形成する。軽鎖は1つの不変領域ドメインを有し、重鎖は数個の不変領域ドメインを有する。クラスIgG、IgA、およびIgEはCH1、CH2、およびCH3と呼ばれる3つの不変領域ドメインを有し、クラスIgMおよびIgEは4つの不変領域を有する。
【0003】
免疫グロブリンの重鎖は、Fd、ヒンジおよびFcの3つの機能的領域に分けることができる。Fd領域はVHおよびCH1ドメインを含み、軽鎖との組合せでFabを形成する。Fcフラグメントは一般に補体結合およびFcレセプターとの結合といった免疫グロブリンのエフェクター機能をつかさどると考えられている。ヒンジ領域はIgG、IgA、およびIgDクラスで見られ、柔軟なスペーサーとして働き、Fab部分がスペース内を自由に移動できるようにする。不変領域とは対照的に、このヒンジドメインは構造的に多様であり、免疫グロブリンのクラスおよびサブクラス間で配列、長さとも様々である。例えば、3つのヒトIgGサブクラスIgG1、IgG2、およびIgG4は12〜15個のアミノ酸のヒンジ領域を有するが、IgG3は21個のプロリン残基と11個のシステイン残基を含むおよそ62個のアミノ酸を含む。結晶学的研究によれば、ヒンジはさらに機能上、上方ヒンジ、コア、そして下方ヒンジの3つの領域に細分することができる(Shin et al., Immunological Reviews 130:87 (1992))。上方ヒンジはCH1のカルボキシル末端から、動きを制限するヒンジの最初の残基、通常は2つの重鎖間で鎖間ジスルフィド結合を形成する最初のシステイン残基までのアミノ酸を含む。上方ヒンジ領域の長さは抗体のセグメントの柔軟性と相関している。コアヒンジ領域は重鎖内ジスルフィド架橋を含み、下方ヒンジ領域はCH2ドメインのアミノ末端を連結し、CH2の残基を含む(同上)。ヒトIgG1のコアヒンジ領域はCys-Pro-Pro-Cysの配列を含むが、これはジスルフィド結合が形成された際に旋回軸として働くと考えられる環状オクタペプチドが生じ、これにより柔軟性が付与される。ヒンジ領域はまた炭水化物結合部位を含み得る。例えば、IgA1はヒンジ領域の17個のアミノ酸セグメント内に5つの炭水化物部位を含み、分泌免疫グロブリンに有利な特性であると考えられるヒンジの腸管プロテアーゼ耐性を排除する。
【0004】
ヒンジ領域の構造と柔軟性に許容されるコンホメーション変化はその抗体のFc部分のエフェクター機能に影響を及ぼし得る。Fc領域に関連するエフェクター機能の3つの一般的なカテゴリーとしては、(1)従来の補体カスケードの活性化、(2)エフェクター細胞との相互作用、および(3)免疫グロブリンのコンパートメント化が挙げられる。異なるヒトIgGサブクラスは補体カスケードのステップを活性化および増幅させる相対活性が異なる。一般に、IgG1およびIgG3が最も効果的に補体と結合し、IgG2はその効果が低く、IgG4は補体を活性化しない。補体の活性化は抗原-抗体複合体に、カスケードの最初の補体C1のサブユニットであるC1qが結合することで開始される。C1qの結合部位が抗体のCH2ドメインに位置するとしても、ヒンジ領域は抗体がカスケードを活性化させる能力に影響を与える。例えば、ヒンジ領域を欠く組換え免疫グロブリンは補体を活性化させることができない(同上)。ヒンジ領域によって柔軟性が付与されなければ、抗原に結合した抗体のFab部分はC1qのCH2への結合を可能とするのに必要なコンホメーションを採用できない可能性がある(同上参照)。研究ではヒンジの長さとセグメントの柔軟性が補体の活性化に相関していることが示されているが、この相関は絶対的なものではない。IgG4と同じほど硬質の変化したヒンジ領域を有するヒトIgG3分子はなおこのカスケードを効果的に活性化する。
【0005】
またヒンジ領域の欠損も、ヒトIgG免疫グロブリンが免疫エフェクター細胞のFcレセプターに結合する能力に影響を与える。免疫グロブリンとFcレセプターとの結合は、腫瘍細胞の排除に重要な手段であると考えられる抗体依存細胞傷害作用(ADCC)を助長する。ヒトIgG Fcレセプターファミリーは、IgGと高い親和性で結合し得るFcγRI(CD64)、いずれも親和性の低いレセプターであるFcγRII(CD32)、およびFcγRIII(CD16)の3つの群に分類される。これらの3種の各レセプターと免疫グロブリンの間の分子的相互作用はまだ厳密には定義されていないが、実験では、CH2ドメインのヒンジ隣接領域の残基が抗体とFcレセプターの間の相互作用の特異性に重要であることが示されている。さらにまた、ヒンジ領域を欠いたIgG1メラノーマタンパク質および組換えIgG3キメラ抗体は、おそらくCH2への接近が低下しているためにFcγRIと結合できない(Shin et al., Intern. Rev. Immunol. 10:177, 178-79 (1993))。
【0006】
モノクローナル抗体技術および遺伝子操作法はヒト疾病の診断および治療用の免疫グロブリン分子の迅速な開発をもたらした。コグネイト抗原に対する抗体の親和性を向上させるため、免疫原性に関する問題をなくすため、また、抗体のエフェクター機能を変化させるためにタンパク質工学が適用されてきた。免疫グロブリンのドメイン構造は、抗原結合ドメインおよびエフェクター機能を付与するドメインが免疫グロブリンクラスおよびサブクラス間で交換可能であるという点で操作しやすいものである。
【0007】
さらにまた、全免疫グロブリン療法に付随する問題を克服するために小免疫グロブリン分子が構築されている。一本鎖Fv(scFv)は短いリンカーペプチドを介して軽鎖可変ドメインと連結した重鎖可変ドメインを含む(Huston et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 5879-83, 1988)。scFv分子が小さいので、それらは全免疫グロブリンよりも極めて迅速な血漿および組織からのクリアランスとより有効な組織浸透を示す。抗腫瘍scFvは対応するキメラ抗体よりも迅速な腫瘍浸透およびより均一な腫瘍分布を示した(Yokota et al., Cancer Res. 52, 3402-08 (1992))。scFvと、毒素などの別の分子との融合は標的組織へ毒素を送達するため、scFvの特異的な抗原結合活性と小型であることを利用するものである(Chaudary et al., Nature 339:394 (1989); Batra et al., Mol. Cell. Biol. 11:2200 (1991))。
【0008】
scFv分子は血清療法を実現するという利点にもかかわらず、この治療アプローチにはいくつかの欠点がある。scFvの迅速なクリアランスが正常細胞における有毒作用を軽減するものの、このように迅速なクリアランスは標的組織への最小有効用量の送達を妨げてしまうことがある。scFvの発現および単離が困難で生産量に悪影響を及ぼすことから、患者への投与に十分量のscFvを製造する試みが続いている。発現中、scFv分子は安定性を欠き、別の分子の様々な領域が対合することで凝集することが多い。さらに、哺乳類発現系におけるscFv分子の産生レベルは低く、治療向けのscFv分子の効率的な製造の可能性を制限している(Davis et al, J. Biol. Chem. 265:10410-18 (1990); Traunecker et al., EMBO J. 10: 3655-59 (1991))。可変領域に対するグリコシル化部位の付加をはじめ、生産を向上させる戦略が探求されている(Jost, C. R. 米国特許第5,888,773号, Jost et al, J. Biol. Chem. 269: 26267-73 (1994))。
【0009】
scFVに対する毒素の結合または融合により極めて有効な分子が得られるが、毒素分子からの毒性によって投与は制限される。有毒作用としては、肝臓酵素の上昇および血管漏出症候群が挙げられる。さらに、免疫毒素は高い免疫原性を持ち、毒素に対して生じた宿主抗体はその反復治療の可能性を制限する。
【0010】
治療にscFvを用いるさらなる利点としては、エフェクター機能がないことである。免疫グロブリンの不変領域に関連する細胞溶解機能、ADCCおよび補体依存細胞傷害作用(CDC)のないscFvは疾病の治療に有効ではないものと思われる。scFv技術の開発が12年前に始まっているにもかかわらず、現在に至ってまだ治療が認可されているscFvはない。
【0011】
疾病の治療に対する抗体不変領域に関連するエフェクター機能のため、非免疫グロブリン配列が抗体可変領域に置換されている融合タンパク質の開発が促された。例えば、HIVにより認識されるT細胞表面タンパク質であるCD4が免疫グロブリンFcエフェクタードメインと組換え融合された(Sensel et al., Chem. Immunol. 65:129-158 (1997)参照)。このような分子の生物活性は選択された不変領域のクラスまたはサブクラスに部分的に依存するであろう。IL-2-IgG1融合タンパク質は補体により媒介されるIL-2レセプター保有細胞の溶解をもたらした(同上参照)。これら、またその他の融合タンパク質の構築を目的とした免疫グロブリン不変領域の使用はまた、薬物動態特性の向上をもたらし得る。
【0012】
数種の免疫グロブリン療法に従うものと思われる疾病および疾患としては、癌および免疫系疾患が挙げられる。癌は世界で約4人に1人が罹患する広範な疾患である。急速で制御されない悪性細胞の増殖が血液の悪性症状をはじめ多種の癌の特徴である。血液の悪性症状を有する患者は過去20年間の癌治療の進展から最も恩恵を受けてきた(Multani et al., J. Clin. Oncology 16: 3691-3710, 1998)。緩解率は高まってきているが、大部分の患者がなお再発し、その疾病に屈している。細胞傷害薬による治癒の障壁としては腫瘍細胞の耐性、および多くの患者で最適な投与の妨げとなる化学療法の高い毒性が挙げられる。モノクローナル抗体(mAb)をはじめ、悪性細胞と特異的に結合する分子を用いたターゲッティングに基づく新しい治療は毒性を高めることなく効果を向上させることができる。
【0013】
1975年に初めてmAbが記載されて以来(Kohler et al., Nature 256:495-97 (1975))、多くの患者が腫瘍細胞で発現した抗原に対するmAbを用いて治療されてきた。これらの研究は治療に適した標的抗原の選択に関する重要な教訓となっている。第一に最も重要なこととしては、標的抗原は重要な正常組織によっては発現されてはならない。幸いにも、血液の悪性細胞は幹細胞その他の必須細胞では発現しない多くの抗原を発現する。血液起源の正常および悪性細胞の双方を枯渇させる血液の悪性症状の治療は、治療が終わった後に始原細胞から正常細胞の再生が起こるので許容されてきた。第二に、標的抗原は腫瘍細胞の全てのクローン原性集団で発現しなければならず、かつ、発現は免疫グロブリン療法の選択圧によらず持続しなければならない。このようにB細胞悪性症状の治療のための表面イディオタイプの選択は、その抗原が高い腫瘍選択性を示したとしても、表面イディオタイプの発現の変化を伴う腫瘍細胞変異体の派生物によって制限されたものとなっている(Meeker et al., N. Engl. J. Med. 312:1658-65 (1985))。第三に、選択された抗原は、免疫グロブリンがそれと結合した後に適宜移動しなければならない。免疫グロブリンが標的抗原と結合した後のその抗原の放出またはインターナリゼーションは腫瘍細胞を破壊から逃れさせる可能性があり、従って、血清療法の有効性を制限する。第四に、活性化シグナルを伝達する、免疫グロブリンと標的抗原との結合は増殖の停止とアポトーシスをもたらす腫瘍細胞の機能的応答の向上をもたらし得る。これらの特性は全て重要であるが、免疫グロブリンが抗原と結合した後のアポトーシスの誘発は血清療法の成功を達成する上で重要な因子であり得る。
【0014】
BおよびT細胞悪性症状の血清療法の標的として試験された抗原としては、Igイディオタイプ(Brown et al., Blood 73:651-61 (1989))、CD19(Hekman et al., Cancer Immunol. Immunother. 32:364-72 (1991); Vlasveld et al., Cancer Immunol. Immunother. 40: 37-47 (1995))、CD20(Press et al., Blood 69: 584-91 (1987); Maloney et al., J. Clin. Oncol. 15:3266-74, (1997)) CD21 (Scheinberg et. al., J. Clin. Oncol. 8:792-803, (1990))、CD5(Dillman et. al., J. Biol. Respn. Mod. 5:394-410 (1986))、およびCD52(CAMPATH)(Pawson et al., J. Clin. Oncol. 15:2667-72, (1997))が挙げられる。これらのうち、B細胞リンパ腫の治療標的としてCD20を用いる場合で最も成功が得られている。その他の標的は各々抗原の生物特性によって制限されている。例えば、表面イディオタイプは体細胞突然変異によって変更される可能性があり、腫瘍細胞を逃れさせることがある。CD5、CD21、およびCD19は、もしmAbが毒素分子と結合していなければ、mAbと結合した後に速やかにインターナライズされて腫瘍細胞を破壊から逃れさせてしまう。CD22はB細胞リンパ腫のサブセットでしか発現しないが、CD52はT細胞およびB細胞の双方で発現し、T細胞の枯渇から免疫抑制を生じる。
【0015】
CD20はB細胞悪性症状の治療に適当な標的抗原の選択に関して上記した基本的な基準を満たす。キメラCD20 mAbを用いた低悪性度または濾胞性B細胞リンパ腫を有する患者の治療は多くの患者で部分的または完全応答を誘導する(McLaughlin et al, Blood 88:90a (abstract, suppl. 1)(1996); Maloney et al, Blood 90: 2188-95 (1997))。しかし、一般に6ヶ月から1年以内に腫瘍の再発が起こる。従って、低悪性度B細胞リンパ腫においてより持続的な応答を誘導し、高悪性度リンパ腫その他のB細胞疾患の効果的な治療を可能とするには血清療法にさらなる改善が必要である。
【0016】
CD20血清療法を改善する一つの試みはCD20に特異的なmAbを用いてB細胞リンパ腫に放射性同位元素をターゲッティングすることであった。治療の有効性は高まっているものの、放射性抗体のin vivo半減期が長いことに関連する毒性も高まり、患者が幹細胞救助を受ける必要が生じることもある(Press et al., N. Eng. J. Med. 329: 1219-1224, 1993; Kaminski et al., N. Eng.J. Med. 329:459-65 (1993))。CD20に対するMAbは放射性同位元素の結合前にプロテアーゼにより切断されてF(ab')2 またはFabフラグメントを生じる。これは放射性同位元素コンジュゲートの腫瘍への浸透を高め、in vivo半減期を短縮することで正常組織への毒性を軽減する。しかし、補体結合およびADCCをはじめ、CD20 mAbのFc領域によって供されるエフェクター機能の利点は失われている。従って、放射性同位元素の送達の向上のためには、Fc依存性のエフェクター機能を保持するが大きさが小さいCD20 mAb誘導体を作出し、それにより腫瘍への浸透を高め、かつ、mAbの半減期を短縮する戦略が必要である。
【0017】
CD20はモノクローナル抗体によって認識される最初のヒトB細胞系特異的表面分子であったが、B細胞の生物学におけるCD20の機能はまだ完全には理解されていない。CD20は細胞質内にアミノおよびカルボキシ両末端を有する35kDaの非グルコシル化疎水性リンタンパク質である(Einfeld et al, EMBO J. 7:711-17 (1988))。CD20の天然リガンドはまだ同定されていない。CD20は全ての正常な成熟B細胞により発現されるが、B細胞前駆体によっては発現されない。
【0018】
CD20 mAbsは正常B細胞へ生存力および成長に影響を及ぼすシグナルを伝達する(Clark et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83:4494-98 (1986))。最近のデータでは、CD20の大規模な架橋がBリンパ腫細胞系のアポトーシスを誘導し得ることが示されている(Shan et al., Blood 91:1644-52 (1998))。チロシン残基における細胞基質のリン酸化を測定することで検出されたことであるが、細胞表面におけるCD20の架橋はシグナル変換の大きさおよび速度を高める(Deans et al., J. Immunol. 146:846-53 (1993))。重要なこととしては、RamosBリンパ腫細胞のアポトーシスはFcレセプター陽性細胞の付加によるCD20 mAbの架橋によっても誘導された(Shan et al., Blood 91: 1644-52 (1998))。従って、補体およびADCC機構による細胞涸渇に加え、in vivoにおけるCD20 mAbによるFcレセプター結合もCD20の架橋による悪性B細胞のアポトーシスを促進することが可能であった。この理論はSCIDマウスモデルにおけるヒトリンパ腫のCD20療法の有効性がCD20 mAbによるFcレセプター結合に依存していたことを示す実験と一致する(Funakoshi et al., J. Immunotherapy 19:93-101 (1996))。
【0019】
CD20ポリペプチドは4つのトランスメンブランドメインを含む(Einfeld et al., EMBO J. 7: 711-17, (1988); Stamenkovic et al., J .Exp. Med. 167:1975-80 (1988); Tedder et. al., J. Immunol. 141:4388-4394 (1988))。この複数の膜貫通ドメインは抗体結合後のCD20のインターナリゼーションを妨げる。このCD20の特性は、B細胞リンパ腫を有する患者にネズミCD20 mAbである1F5を注射した際に悪性細胞の著しい涸渇と部分的な臨床応答をもたらす、細胞悪性症状の効果的な療法にとっての重要な特徴と認識された(Press et al., Blood 69: 584-91 (1987))。
【0020】
正常な成熟B細胞もまたCD20を発現することから、CD20抗体療法中には正常なB細胞も涸渇される(Reff, M.E. et al, Blood 83: 435-445, 1994)。しかし、治療が完了した後にCD20陰性B細胞前駆体から正常なB細胞が再生するので、抗CD20療法で処置した患者は顕著な免疫抑制を受けることはない。正常なB細胞の涸渇は、自己抗体の不適切な産生を含む疾病またはB細胞が役割を果たすと考えられるその他の疾病に有用であり得る。ヒトIgG1重鎖およびヒトκ軽鎖不変領域と融合したマウス起源の重鎖および軽鎖可変領域からなるCD20特異的キメラmAbはCD20との結合およびADCCを媒介して補体と結合する能力を保持していた(Liu et al., J. Immunol. 139:3521-26 (1987); Robinson et al., 米国特許第5,500,362号)。この研究は、現在米国食品医薬品局によりB細胞リンパ腫療法として認可されているキメラCD20 mAbであるRituximab(商標)の開発をもたらした。Rituximabによる治療後には多くの場合で臨床応答が見られるが、6〜12ヶ月後に再発する患者が多い。
【0021】
Rituximab(商標)は、この分子がおよそ150kDaという大きなものであって、多数の腫瘍細胞が存在しているリンパ組織中では拡散が制限されることから、静脈注射のためには高用量が必要となる。Rituximab(商標)の抗腫瘍活性のメカニズムはADCC、補体の結合およびアポトーシスを誘導する悪性B細胞におけるシグナルの引き金を含む、いくつかの活性の組合せであると考えられる。サイズの大きなRituximab(商標)は悪性B細胞を含むリンパ組織へのこの分子の最適な拡散の妨げとなり、それによりこれらの抗腫瘍活性も制限される。上記で論じたように、プロテアーゼによるCD20 mAbのFabまたはF(ab')2フラグメントへの切断により、それらはより小さくなり、リンパ組織へ浸透しやすくなるが、抗腫瘍活性にとって重要なエフェクター機能が失われる。CD20 mAbフラグメントは放射性同位元素の送達のためには完全抗体よりも有効であり得るが、Fc部分のエフェクター機能を保持しているが、大きさが小さく、良好な腫瘍浸透を促進し、かつ、半減期がより短くなるCD20 mAb誘導体を構築することが望ましい。
【0022】
CD20はB細胞リンパ腫および慢性リンパ性白血病(CLL)をはじめとするB細胞起源の悪性細胞によって発現される。CD20は急性リンパ芽球性白血病などの悪性のB細胞前駆体によっては発現されない。従って、CD20はB細胞リンパ腫、CLLおよびその他、B細胞が疾病の活動に関わる疾病の治療によい標的となる。その他のB細胞疾患としては、B細胞の形質細胞への分化中に自己抗体が産生される自己免疫疾患が挙げられる。B細胞疾患の例としては、グレーブス病および橋本病をはじめとする自己免疫性甲状腺疾患、慢性関節リウマチ、全身性紅斑性狼瘡(SLE)、シェーグレン症候群、免疫血小板減少性紫斑病(ITP)、多発性硬化症(MS)、重症性筋無力症(MG)、乾癬、強皮症、ならびにクローン病および潰瘍性大腸炎をはじめとする炎症性腸疾患が挙げられる。
【0023】
以上から悪性症状およびB細胞疾患を治療する組成物および方法の改良には明確な必要性が明らかである。本発明の組成物および方法は、免疫グロブリン重鎖CH3不変領域ポリペプチドと融合した免疫グロブリン重鎖CH2不変領域ポリペプチドと融合した免疫グロブリンヒンジ領域ポリペプチドと融合した結合ドメインポリペプチドを含む結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質を提供することで先行技術の制限を克服するものであり、ここでは結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質がADCCまたは補体結合を媒介し得る。さらに、これらの組成物および方法はその他の関連の利点も示す。
【発明の開示】
【0024】
(本発明の要約)
本発明の1つの態様は、(a)免疫グロブリンヒンジ領域ポリペプチドと融合した結合ドメインポリペプチド、なおこのヒンジ領域ポリペプチドは(i)システイン残基を含まず、かつ、1以上のシステイン残基を有する野生型免疫グロブリンヒンジ領域ポリペプチドに由来する変異型ヒンジ領域ポリペプチド、(ii)1つのシステイン残基を含み、かつ、2以上のシステイン残基を有する野生型免疫グロブリンヒンジ領域ポリペプチドに由来する変異型ヒンジ領域ポリペプチド、(iii)野生型ヒトIgAヒンジ領域ポリペプチド、(iv)システイン残基を含まず、かつ、野生型ヒトIgA領域ポリペプチドに由来する変異型ヒトIgAヒンジ領域ポリペプチド、および(v)1つのシステイン残基を含み、かつ、野生型ヒトIgA領域ポリペプチドに由来する変異型ヒトIgAヒンジ領域ポリペプチドからなる群から選択される;(b)ヒンジ領域ポリペプチドと融合した免疫グロブリン重鎖CH2不変領域ポリペプチド;および(c)CH2不変領域ポリペプチドと融合した免疫グロブリン重鎖CH3不変領域ポリペプチドを含み、(1)結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質が抗体依存細胞媒介性細胞傷害作用および補体結合からなる群から選択される少なくとも1つの免疫活性能を持ち、かつ、(2)結合ドメインポリペプチドが抗原に対して特異的結合能を持つ、結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質を提供することである。ある実施形態では、この免疫グロブリンヒンジ領域ポリペプチドは変異型ヒンジ領域ポリペプチドであり、かつ、野生型ヒト免疫グロブリンGヒンジ領域ポリペプチドに比べて低い二量体形成能を示す。もう1つの実施形態では、この結合ドメインポリペプチドは、免疫グロブリン軽鎖可変領域ポリペプチドまたは免疫グロブリン重鎖可変領域ポリペプチドである少なくとも1つの免疫グロブリン可変領域ポリペプチドを含む。さらなる実施形態では、この免疫グロブリン可変領域ポリペプチドはヒト免疫グロブリンに由来する。
【0025】
もう1つの実施形態では、結合ドメインFv-免疫グロブリン融合タンパク質結合ドメインポリペプチドは、(a)少なくとも1つの免疫グロブリン軽鎖可変領域ポリペプチド;(b)少なくとも1つの免疫グロブリン重鎖可変領域ポリペプチド;および(c)(a)のポリペプチドかつ(b)のポリペプチドと融合している少なくとも1つのリンカーペプチドを含む。さらなる実施形態では、この免疫グロブリン軽鎖可変領域および重鎖可変領域ポリペプチドはヒト免疫グロブリンに由来する。
【0026】
もう1つの実施形態では、免疫グロブリン重鎖CH2不変領域ポリペプチドおよび免疫グロブリン重鎖CH3不変領域ポリペプチドの少なくとも1つがヒト免疫グロブリン重鎖に由来する。もう1つの実施形態では、免疫グロブリン重鎖不変領域CH2およびCH3ポリペプチドはヒトIgGおよびヒトIgAから選択されるイソタイプのものである。もう1つの実施形態では、抗原はCD19、CD20、CD37、CD40およびL6からなる群から選択される。上記の融合タンパク質のさらなる特定の実施形態では、このリンカーポリペプチドはGly-Gly-Gly-Gly-Ser[配列番号21]のアミノ酸配列を有する少なくとも1つのポリペプチドを含み、その他の特定の実施形態では、このリンカーポリペプチドはGly-Gly-Gly-Gly-Ser[配列番号21]のアミノ酸配列を有するポリペプチドの少なくとも3つのリピートを含む。特定の実施形態では、この免疫グロブリンヒンジ領域ポリペプチドはヒトIgAヒンジ領域ポリペプチドを含む。特定の実施形態では、この結合ドメインポリペプチドはCD154細胞外ドメインを含む。
特定の実施形態では、この結合ドメインポリペプチドはCD154細胞外ドメインおよび少なくとも1つの免疫グロブリン可変領域ポリペプチドを含む。
【0027】
他の実施形態では、本発明は、上記のいずれかの結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質をコードする単離ポリヌクレオチドを提供し、関連の実施形態では、本発明は、かかるポリヌクレオチドを含む組換え発現構築物を提供し、さらなる特定の実施形態では、本発明は、かかる組換え発現構築物で形質転換またはトランスフェクトされた宿主細胞を提供する。もう1つの実施形態では、本発明は、結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質の作製方法であって、(a)上記の宿主細胞を結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質の発現を可能とする条件下で培養し;さらに(b)その宿主細胞培養物から結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質を単離するステップを含む方法を提供する。
【0028】
本発明はまた、特定の実施形態において上記の結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質を生理学上許容される担体とともに含む医薬組成物を提供する。もう1つの実施形態では、治療上有効量の上記結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質を患者に投与することを含む、悪性症状またはB細胞疾患を有する、または有することが疑われる被験体を治療する方法を提供する。さらなる特定の実施形態では、この悪性症状またはB細胞疾患はB細胞リンパ腫または自己抗体の産生を特徴とする疾病であり、他の特定の実施形態では、この悪性症状またはB細胞疾患は慢性関節リウマチ、重症性筋無力症、グレーブス病、I型糖尿病、多発性硬化症または自己免疫疾患である。
【0029】
本発明のこれら、およびその他の態様は以下の詳細な説明および添付の図面を参照すれば明らかとなる。本明細書に開示されている参照文献は全て出典明示によりその全内容があたかも個々に組み入れられているように本明細書の一部とする。
【0030】
図面の簡単な説明
図1A CD20と特異的に結合し得る結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質である2H7 scFv-IgのDNAおよび推定アミノ酸配列[配列番号__]を示す。
図1B CD20と特異的に結合し得る結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質である2H7 scFv-IgのDNAおよび推定アミノ酸配列[配列番号__]を示す。
図2 トランスフェクトされた安定なCHO系統による2H7 scFv-Igの産生レベルおよび精製2H7 scFv-IgとCD20発現CHO細胞との結合による標準曲線の作製を示す。
図3 単離2H7scFv-Igタンパク質の複数の調製物のSDS-PAGE解析を示す。
図4A 2H7scFv-Igによる補体結合(図4A)および抗体依存性細胞傷害作用(ADCC、図4B))を示す。
図4B 2H7scFv-Igによる補体結合(図4A)および抗体依存性細胞傷害作用(ADCC、図4B))を示す。
図5 正常B細胞の増殖に対するCD20およびCD40の同時連結の作用を示す。
図6 Bリンパ芽球細胞系統におけるCD95の発現およびアポトーシスの誘導に対するCD20およびCD40の同時連結の作用を示す。
図7A CD20およびCD40と特異的に結合し得る結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質2H7scFv-CD154 L2(図7A、配列番号__)および2H7scFv-CD154 S4(図7B、配列番号__)のDNAおよび推定アミノ酸配列[配列番号__]を示す。
図7B CD20およびCD40と特異的に結合し得る結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質2H7scFv-CD154 L2(図7A、配列番号__)および2H7scFv-CD154 S4(図7B、配列番号__)のDNAおよび推定アミノ酸配列[配列番号__]を示す。
図7C CD20およびCD40と特異的に結合し得る結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質2H7scFv-CD154 L2(図7A、配列番号__)および2H7scFv-CD154 S4(図7B、配列番号__)のDNAおよび推定アミノ酸配列[配列番号__]を示す。
図7D CD20およびCD40と特異的に結合し得る結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質2H7scFv-CD154 L2(図7A、配列番号__)および2H7scFv-CD154 S4(図7B、配列番号__)のDNAおよび推定アミノ酸配列[配列番号__]を示す。
図8 フローイムノサイトフルオリメトリーによる2H7scFv-CD154結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質とCD20+CHO細胞との結合を示す。
図9 2H7scFv-CD154結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質と細胞との結合後のアネキシンVとB細胞系統Ramos、BJABおよびT51との結合を示す。
図10 2H7scFv-CD154結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質の結合後のB細胞系統T51の増殖に対する作用を示す。
図11 CytoxBまたはCytoxB誘導体:CytoxB-MHWTG1C(2H7 ScFv、変異型ヒンジ、野生型ヒトIgG1 Fcドメイン)、CytoxB-MHMG1C(2H7 ScFv、変異型ヒンジ、変異型ヒトIgG1 Fcドメイン)およびCytoxB-IgAHWTHG1C(2H7 ScFv、ヒトIgA由来ヒンジ[配列番号__]、野生型ヒトIgG1 Fcドメイン)と呼ばれる2H7ScFv-Ig融合タンパク質[配列番号__]の構造の模式図を示す。矢印はFcR結合およびADCC活性(濃い矢印)、および補体結合(薄い矢印)に関与すると考えられるアミノ酸残基の位置番号を示す。鎖間ジスルフィド結合が存在しないことに着目。
図12 単離CytoxBおよび2H7scFv-CD154結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質のSDS-PAGE解析を示す。
図13 CytoxB誘導体の抗体依存細胞媒介性細胞傷害作用(ADCC)活性を示す。
図14 CytoxB誘導体の補体依存細胞傷害作用(CDC)を示す。
図15 マカク血液サンプルにおけるCytoxB-MHWTG1Cの血清半減期の測定を示す。
図16 マカク血液サンプルにおける循環CD40+B細胞のレベルに対するCytoxB-MHWTG1の作用を示す。
図17 トランスフェクト哺乳類細胞系統によるHD37(CD19特異的)ScFv-Igの産生レベルおよび精製HD37 ScFv-IgとCD19発現細胞との結合による標準曲線の作製を示す。
図18 トランスフェクトされた安定なCHO系統によるL6(癌腫抗原)ScFv-Igの産生レベルおよび精製L6 ScFv-IgとL6抗原発現細胞との結合による標準曲線の作製を示す。
図19 結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質2H7 ScFv-Ig、HD37 ScFv-IgおよびG28-1(CD37特異的)ScFv-IgのADCC活性を示す。
図20 L6 ScFv-Ig融合タンパク質のADCC活性を示す。
図21 L6 ScFv-Igおよび2H7 ScFv-Ig融合タンパク質のSDS-PAGE解析を示す。
図22 G28-1 ScFv-IgおよびHD37 ScFv-Ig融合タンパク質のSDS-PAGE解析を示す。
【0031】
(本発明の詳細な説明)
本発明は、免疫治療および免疫診断用途に有用であって、先行技術の抗原特異的ポリペプチドに優る特定の利点を供する結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質、ならびに関連の組成物および方法を目的とする。本発明の融合タンパク質は好ましくは適切な部分として以下の融合ドメイン:結合ドメインポリペプチド、免疫グロブリンヒンジ領域ポリペプチド、免疫グロブリン重鎖CH2不変領域ポリペプチド、および免疫グロブリン重鎖CH3不変領域ポリペプチドを含むポリペプチド一本鎖である。特に好ましい実施形態では、その結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質のポリペプチドドメインはヒト遺伝子配列の産物であるポリペプチドを含むか、またはそれに由来するものであるが、本発明はこれに限定される必要はなく、実際には、本明細書に記載の結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質に関する遺伝子操作ポリペプチドおよび/または変異型ポリペプチドをはじめ、いずれの天然源または人工源に由来するものであってもよい。
【0032】
本発明は1つには、本明細書に記載の結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質が免疫活性能を有するという驚くべき知見に関する。より詳しくは、これらのタンパク質は、そのようなエフェクター活性を促進し得るとは予測されない構造を有するにもかかわらず、抗体依存細胞媒介性細胞傷害作用(ADCC、例えば適当な条件下で、細胞表面への抗原の結合に続いて起こる、FcRγIIIを有するナチュラルキラー(NK)細胞など、適当なFcレセプターを有する細胞傷害性エフェクター細胞の会合および誘導)および/または補体依存細胞傷害作用(CDC、例えば細胞表面への抗原の結合に続いて起こる、血液補体カスケードの成分である細胞溶解タンパク質の動員および活性化)の補体結合をはじめとする周知の免疫エフェクター活性に関与する能力を保持する。以下にさらに詳細に記載するが、ADCCおよびCDCは対象となる融合タンパク質に対して選択された構造、特に、鎖間ホモ二量体ジスルフィド結合を形成し得るそれらの能力に妥当なヒンジ領域ポリペプチドの選択に好ましい免疫グロブリン重鎖領域を含む単量体タンパク質にとっては予測できない作用である。
【0033】
本発明によって与えられるもう1つの利点は先行技術の一本鎖抗体構築物で通常得られるものより典型的に多い実質的量で産生することができる結合ドメイン-免疫グロブリン融合ポリペプチドである。好ましい実施形態では、本発明の結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質は哺乳類発現系で組換え発現され、in vivoで(例えば、生理条件下で)安定なポリペプチドを提供するという利点を供する。特定の理論に限定されるものではないが、このような安定性は1つには融合タンパク質の翻訳後修飾、具体的にはグリコシル化によるものであり得る。組換え哺乳類発現を通じた本発明の結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質の産生は静置細胞培養物において培養上清1リットル当たり50mgを超えるレベルで得られており、通常、このような培養物では10〜50mg/lで認められ、従って、静置培養条件下では少なくとも10〜50mg/lが産生されることが好ましく、また、 「フェッドバッチ(fed batch)」(すなわち、非静置)産生などの当技術分野で受け入れられているスケールアップ法を用いて融合タンパク質の産生向上も考えられ、これによればタンパク質産物にもよるが、少なくとも5-500mg/l、場合によっては少なくとも0.5〜1gm/lの収率が得られる。
【0034】
本発明によれば結合ドメインポリペプチドはコグネイト生体分子、あるいは1を超える分子の複合体、または安定的なものであれ一時的なものであれ、このような分子の集合体または凝集体を特異的に認識して結合する能力を有するいずれのポリペプチドであってもよく、このような分子としてはタンパク質、ポリペプチド、ペプチド、アミノ酸、またはその誘導体;脂質、脂肪酸など、またはその誘導体;炭水化物、糖など、またはその誘導体;核酸、ヌクレオチド、ヌクレオシド、プリン、ピリミジンもしくは関連の分子、またはその誘導体など;あるいは例えば糖タンパク質、糖ペプチド、糖脂質、リポタンパク質、 タンパク脂質などのそのいずれかの組合せ;あるいは生体サンプルに存在し得る他のいずれかの生体分子が挙げられる。生体サンプルは血液サンプル、生検標本、組織外植片、器官培養物、体液またはその他被験体もしくは生物源のいずれかの組織もしくは細胞調製物を採取することで得られる。被験体または生物源はヒトもしくは非ヒト動物、一次細胞培養物、限定されるものではないが、染色体に組み込まれているかエピソーム組換えされた核酸配列を含み得る遺伝子操作細胞系統、不死化された、もしくは不死化可能な細胞系統、体細胞雑種細胞系統、分化した、もしくは分化可能な細胞系統、形質転換された細胞系統などをはじめとする培養に適合した細胞系統であり得る。本発明の特定の好ましい実施形態では、被験体または生物源は上記で示した悪性症状またはB細胞疾患を有することが疑われる、またはそのリスクがあるものであり、さらなる特定の好ましい実施形態では自己免疫疾患であり、本発明のその他の特定の好ましい実施形態では、この被験体または生物源はかかる疾病のリスクがない、またはかかる疾病が存在しないことが分かっているものであり得る。
【0035】
従って結合ドメインポリペプチドは目的の標的構造をとる、本明細書で示されたコグネイト生体分子(本明細書では「抗原」と呼ぶ)の天然に存在する、または組換え産生された結合相手であってもよいが、本開示によれば本発明の融合タンパク質が特異的に結合することが望ましい、いずれの標的生体分子も包含するものとする。結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質は「免疫特異的」である、すなわちそれらが結合するならば、本明細書で示される抗原などの所望の標的分子と、約104M-1以上、好ましくは約105M-1以上、より好ましくは約106M-1以上、いっそう好ましくは約107M-1のKaで特異的に結合し得るものと定義される。本発明の結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質の親和性は常法、例えばScatchard et al., Ann. N.Y. Acad. Sci. 51:660 (1949)に記載の方法を用いて容易に測定することができる。このような目的の標的抗原と結合する融合タンパク質の決定はもまた、他のタンパク質またはポリペプチドと特異的に相互作用するタンパク質を同定および獲得する多くの公知の方法のいずれか、例えば米国特許第5,283,173号および同第5,468,614号に記載のものなどの酵母ツーハイブリッドスクリーニング系を用いて行うことができる。
【0036】
本発明の結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質の好ましい実施形態は、本明細書に記載の抗原またはその他目的の標的構造と特異的に結合する限り、重鎖または軽鎖V領域の全てまたは一部またはフラグメントなど、少なくとも1つの免疫グロブリン可変領域ポリペプチドを含む結合ドメインを含む。他の好ましい実施形態では、結合ドメインは、少なくとも1つの免疫グロブリン軽鎖V領域の全てまたは一部および少なくとも1つの免疫グロブリン重鎖V領域の全てまたは一部を含んでもよく、それらのV領域と融合したリンカーをさらに含む、一本鎖免疫グロブリン由来Fv産物を含み、このような構築物の調製および試験は本明細書にさらに詳細に記載され、また当技術分野でも周知のものである。その他の結合ドメインポリペプチドは、非免疫グロブリンをはじめ、本明細書で示される抗原と特異的に結合する能力を保持するいずれかのタンパク質またはその一部を含み得る。従って本発明では、ホルモン、サイトカイン、ケモカインなどのようなポリペプチドリガンド;このようなポリペプチドリガンドの細胞表面または可溶性レセプター;レクチン;特異的白血球インテグリン、セレクチン、免疫グロブリン遺伝子スーパーファミリーメンバー、細胞間接着分子(ICAM-1、-2、-3)などのような細胞間接着レセプター;組織適合性抗原などに由来する結合ドメインポリペプチドを含む融合タンパク質を意図する。
【0037】
結合ドメインポリペプチドを提供し、かつ、本発明の結合ドメイン-Ig融合タンパク質が望ましく結合する標的分子または抗原としても選択され得る細胞表面レセプターの例としては次のものなどが挙げられる:HER1(例えば、GenBank受託番号U48722、SEG_HEGFREXS, KO3193)、HER2(Yoshino et al., 1994 J. Immunol. 152:2393; Disis et al., 1994 Canc. Res. 54:16;また例えば、GenBank受託番号X03363、M17730、SEG_HUMHER20も参照)、HER3(例えば、GenBank受託番号U29339、M34309)、HER4(Plowman et al., 1993 Nature 366:473;また例えば、GenBank受託番号L07868、T64105も参照)、上皮成長因子レセプター(EGFR)(例えば、GenBank受託番号U48722、SEG_HEGFREXS、KO3193)、血管内皮細胞成長因子(例えば、GenBank受託番号M32977)、血管内皮細胞成長因子レセプター(例えば、GenBank受託番号AF022375、1680143、U48801、X62568)、インスリン様成長因子-I(例えば、GenBank受託番号X00173、X56774、X56773、X06043、また、欧州特許第GB2241703号も参照)、インスリン様成長因子-II(例えば、GenBank受託番号X03562、X00910、SEG_HUMGFIA、SEG_HUMGFI2、M17863、M17862)、トランスフェリンレセプター(Trowbridge and Omary, 1981 Proc. Nat. Acad. USA 78:3039;また例えば、GenBank受託番号X01060、M11507も参照)、エストロゲンレセプター(例えば、GenBank受託番号M38651、X03635、X99101、U47678、M12674)、プロゲステロンレセプター(例えば、GenBank受託番号X51730、X69068、M15716)、卵胞刺激ホルモンレセプター(FSH-R)(例えば、GenBank受託番号Z34260、M65085)、レチノイン酸レセプター(例えば、GenBank受託番号L12060、M60909、X77664、X57280、X07282、X06538)、MUC-1(Barnes et al., 1989 Proc. Nat. Acad. Sci. USA 86:7159;また例えば、GenBank受託番号SEG_MUSMUCIO、M65132、M64928も参照)、NY-ESO-1(例えば、GenBank受託番号AJ003149、U87459)、NA 17-A(例えば、欧州特許第WO96/40039号)、Melan-A/MART-1(Kawakami et al., 1994 Proc. Nat. Acad. Sci. USA 91:3515;また例えば、GenBank受託番号U06654、U06452も参照)、チロシナーゼ(Topalian et al., 1994 Proc. Nat. Acad. Sci. USA 91:9461;また例えば、GenBank受託番号M26729、SEG_HUMTYR0も参照、またWeber et al., J. Clin. Invest (1998) 102:1258も参照)、Gp-100(Kawakami et al., 1994 Proc. Nat. Acad. Sci. USA 91:3515;また例えば、GenBank受託番号S73003も参照、また欧州特許第EP668350; Adema et al., 1994 J. Biol. Chem. 269:20126も参照)、MAGE(van den Bruggen et al., 1991 Science 254:1643;また例えば、GenBank受託番号U93163、AF064589、U66083、D32077、D32076、D32075、U10694、U10693、U10691、U10690、U10689、U10688、U10687、U10686、U10685、L18877、U10340、U10339、L18920、U03735、M77481)、BAGE(例えば、GenBank受託番号U19180、また米国特許第5,683,886号および同第5,571,711号も参照)、GAGE(例えば、GenBank受託番号AF055475、AF055474、AF055473、U19147、U19146、U19145、U19144、U19143、U19142)、特にSSX2遺伝子によってコードされるHOM-MEL-40抗原を含むCTAクラスのレセプターのいずれか(例えば、GenBank受託番号X86175、U90842、U90841、X86174)、癌胎児抗原(CEA, Gold and Freedman, 1985 J. Exp. Med. 121:439;また例えば、GenBank受託番号SEG_HUMCEA、M59710、M59255、M29540も参照)、およびPyLT(例えば、GenBank受託番号J02289、J02038)。
【0038】
結合ドメインポリペプチドの供給源であり得るか、またはコグネイト抗原であり得るさらなる細胞表面レセプターとしては次のものなどが挙げられる:CD2(例えば、GenBank受託番号Y00023、SEG_HUMCD2、M16336、M16445、SEG_MUSCD2、M14362)、4-1BB(CDw137, Kwon et al., 1989 Proc. Nat. Acad. Sci. USA 86:1963)、4-1BBリガンド(Goodwin et al., 1993 Eur. J. Immunol. 23:2361; Melero et al., 1998 Eur. J. Immunol. 3:116)、CD5(例えば、GenBank受託番号X78985、X89405)、CD10(例えば、GenBank受託番号M81591、X76732)、CD27(例えば、GenBank受託番号M63928、L24495、L08096)、CD28(June et al., 1990 Immunol. Today 11:211;また例えば、GenBank受託番号J02988、SEG_HUMCD28、M34563も参照)、CTLA-4(例えば、GenBank受託番号L15006、X05719、SEG_HUMIGCTL)、CD40(例えば、GenBank受託番号M83312、SEG_MUSC040A0、Y10507、X67878、X96710、U15637、L07414)、インターフェロン-γ(IFN-γ;また例えば、Farrar et al. 1993 Ann. Rev. Immunol. 11:571およびそこに挙げられている参照文献, Gray et al. 1982 Nature 295:503, Rinderknecht et al. 1984 J. Biol. Chem. 259:6790, DeGrado et al. 1982 Nature 300:379も参照)、インターロイキン-4(IL-4;また例えば、53rd Forum in Immunology, 1993 Research in Immunol. 144:553-643; Banchereau et al., 1994 in The Cytokine Handbook, 2nd ed., A. Thomson, ed., Academic Press, NY, p. 99; Keegan et al., 1994 J Leukocyt. Biol.. 55:272およびそこに挙げられている参照文献参照)、インターロイキン-17(IL-17)(例えば、GenBank受託番号U32659、U43088)およびインターロイキン-17レセプター(IL-17R)(例えば、GenBank受託番号U31993、U58917)。以上にもかかわらず、本発明は米国特許第5,807,734号および同第5,807,734号に開示されるいずれの免疫グロブリン融合タンパク質も明らかに含まない。
【0039】
結合ドメインポリペプチドの供給源であり得るか、またはコグネイト抗原であり得るさらなる細胞表面レセプターとしては次のものなどが挙げられる:CD59(例えば、GenBank受託番号SEG_HUMCD590、M95708、M34671)、CD48(例えば、GenBank受託番号M59904)、CD58/LFA-3(例えば、GenBank受託番号A25933、Y00636、E12817;また日本国特許JP1997075090-Aも参照)、CD72(例えば、GenBank受託番号AA311036、S40777、L35772)、CD70(例えば、GenBank受託番号Y13636、S69339)、CD80/B7.1(Freeman et al., 1989 J. Immunol. 43:2714; Freeman et al., 1991 J. Exp. Med. 174:625;また例えば、GenBank受託番号U33208、I683379)、CD86/B7.2(Freeman et al., 1993 J. Exp. Med. 178:2185, Boriello et al., 1995 J. Immunol. 155:5490;また例えば、GenBank受託番号AF099105、SEG_MMB72G、U39466、U04343、SEG_HSB725、L25606、L25259)、CD40リガンド(例えば、GenBank受託番号SEG_HUMCD40L、X67878、X65453、L07414)、IL-17(例えば、GenBank受託番号U32659、U43088)、CD43(例えば、GenBank受託番号X52075、J04536)およびVLA-4(α4β7)(例えば、GenBank受託番号L12002、X16983、L20788、U97031、L24913、M68892、M95632)。次の細胞表面レセプターは典型的にB細胞と会合する:CD19(例えば、GenBank受託番号SEG_HUMCD19W0、M84371、SEG_MUSCD19W、M62542)、CD20(例えば、GenBank受託番号SEG_HUMCD20、M62541)、CD22(例えば、GenBank受託番号I680629、Y10210、X59350、U62631、X52782、L16928)、CD30リガンド(例えば、GenBank受託番号L09753、M83554)、CD37(例えば、GenBank受託番号SEG_MMCD37X、X14046、X53517)、CD106(VCAM-1)(例えば、GenBank受託番号X53051、X67783、SEG_MMVCAM1C、また米国特許第5,596,090号も参照)、CD54(ICAM-1)(例えば、GenBank受託番号X84737、S82847、X06990、J03132、SEG_MUSICAM0)、インターロイキン-12(例えば、Reiter et al, 1993 Crit. Rev. Immunol. 13:1およびそこに挙げられている参照文献参照)。また、補助細胞剤としては、典型的に樹状細胞と会合する次の細胞表面レセプターのいずれかが挙げられる:CD83(例えば、GenBank受託番号AF001036、AL021918)、DEC-205(例えば、GenBank受託番号AF011333、U19271)。
【0040】
上記で論じた免疫グロブリンヒンジ領域ポリペプチドとしては、天然に存在する、または人工ペプチドとしての、もしくは遺伝子操作の結果としてのものであって、CH1およびCH2領域における鎖内免疫グロブリン-ドメインジスルフィド結合の形成に関与するアミノ酸残基間の免疫グロブリン重鎖ポリペプチドに位置するいずれのヒンジペプチドまたはポリペプチドも含み、本発明で用いるヒンジ領域ポリペプチドとしてはまた、変異型ヒンジ領域ポリペプチドも含み得る。従って、免疫グロブリンヒンジ領域ポリペプチドは上記のように、従来ヒンジ機能を有するものとされている免疫グロブリンポリペプチド鎖領域に由来するものであってもよいし、あるいはその一部またはフラグメント(すなわち、ペプチド結合の1以上のアミノ酸、典型的には5〜65のアミノ酸、好ましくは10〜50、より好ましくは15〜35、いっそう好ましくは18〜32、いっそう好ましくは20〜30、いっそう好ましくは21、22、23、24、25、26、27、28または29のアミノ酸)であってもよい。しかしながら、本発明で用いるヒンジ領域ポリペプチドはこのように限定する必要はなく、CH1ドメインまたはCH2ドメインなどの隣接する免疫グロブリンドメイン、または人為的に操作した特定の免疫グロブリン構築物の場合には免疫グロブリン可変領域ドメインに位置するアミノ酸を含み得る(当技術分野で知られているように、様々であり得る特定のドメインに対して特定の残基を割り付ける構造基準に従う)。
【0041】
野生型免疫グロブリンヒンジ領域ポリペプチドとしては、免疫グロブリンの不変領域ドメインCH1およびCH2の間に位置する天然型のヒンジ領域のいずれもを含む。野生型免疫グロブリンヒンジ領域ポリペプチドは好ましくはヒトIgG免疫グロブリン由来のヒンジ領域、より好ましくはヒトIgG1イソ型由来のヒンジ領域ポリペプチドを含むヒト免疫グロブリンヒンジ領域ポリペプチドであることが好ましい。当技術分野で公知のように、免疫グロブリンアミノ酸配列が全体として著しく多様であるにもかかわらず、免疫グロブリンの一次構造は、免疫グロブリンポリペプチド鎖の特定の部分において、顕著にはそれらのメルカプト基によって、利用可能な他のメルカプト基とのジスルフィド結合の形成の可能性を与えるシステイン残基の存在に関して高い程度の配列保存を示す。従って、本発明の内容では、野生型免疫グロブリンヒンジ領域ポリペプチドは1以上の高度に保存された(例えば統計学的に有意な割合で優勢である)システイン残基を特徴とするものであると考えられ、特定の好ましい実施形態では、変異型ヒンジ領域ポリペプチドはシステイン残基を含まないか、または1つ含み、かつ、 かかる野生型ヒンジ領域に由来するものが選択され得る。
【0042】
変異型免疫グロブリンヒンジ領域ポリペプチドはCH2およびCH3ドメインのものとは異なる種、免疫グロブリンイソ型もしくはクラス、または免疫グロブリンサブクラスの免疫グロブリンにその起源を有するヒンジ領域を含み得る。例えば、本発明の特定の実施形態では、結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質は、本明細書に記載のようにシステイン残基を含まないか、または1個のみ含む野生型ヒトIgAヒンジ領域ポリペプチドまたは変異型ヒトIgAヒンジ領域ポリペプチドを含む免疫グロブリンヒンジ領域ポリペプチドと融合した結合ドメインポリペプチドを含み得る。このようなヒンジ領域ポリペプチドは別のIgイソ型またはクラス、例えばIgGサブクラス(特定の好ましい実施形態ではIgG1サブクラスである)由来の免疫グロブリン重鎖CH2領域ポリペプチドと融合されていてもよい。
【0043】
例えば、以下にさらに詳細に記載するが、本発明の特定の実施形態では、免疫グロブリンヒンジ領域ポリペプチドは天然型として3つのシステインを含む野生型ヒトIgAヒンジ領域に由来しするものから選択され、ここでその選択されたヒンジ領域ポリペプチドは1個のシステイン残基のみが残るように、完全ヒンジ領域に対して末端切断されている(例えば、配列番号35〜36)。同様に、本発明の他の特定の実施形態では、結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質は、アミノ酸置換または欠失によりシステイン残基の数が減っている変異型ヒンジ領域ポリペプチドを含む免疫グロブリンヒンジ領域ポリペプチドと融合した結合ドメインポリペプチドを含む。このように変異型ヒンジ領域ポリペプチドは1以上のシステイン残基を含む野生型免疫グロブリンヒンジ領域に由来するものであってもよい。特定の実施形態では、変異型ヒンジ領域ポリペプチドはシステイン残基を含まないか、または1個のみ含んでよく、この変異型ヒンジ領域ポリペプチドはそれぞれ1以上または2以上のシステイン残基を含む野生型免疫グロブリンヒンジ領域に由来するものである。この変異型ヒンジ領域ポリペプチドにおいては、野生型免疫グロブリンヒンジ領域のシステイン残基はジスルフィド結合を形成できないアミノ酸で置換されていることが好ましい。本発明のある実施形態では、変異型ヒンジ領域ポリペプチドは、4つのヒトIgGイソ型サブクラスIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4のいずれかを含んでなり得るヒトIgG野生型ヒンジ領域ポリペプチドに由来する。特定の好ましい実施形態では、変異型ヒンジ領域ポリペプチドはヒトIgG1野生型ヒンジ領域ポリペプチドに由来する。例としては、ヒトIgG1野生型ヒンジ領域ポリペプチド由来の変異型ヒンジ領域ポリペプチドは野生型免疫グロブリンヒンジ領域の3つのシステイン残基のうち2つにおける突然変異、または3つのシステイン残基全てにおける突然変異を含み得る。
【0044】
野生型免疫グロブリンヒンジ領域に存在し、かつ、本発明の特に好ましい実施形態の突然変異誘発によって除去されるシステイン残基としては、鎖間ジスルフィド結合を形成する、または形成し得るシステイン残基が挙げられる。理論に拘束されるものではないが、本発明は鎖間ジスルフィド架橋の形成に関与すると考えられているかかるヒンジ領域システイン残基の突然変異が、驚くことに、その融合タンパク質が抗体依存細胞媒介性細胞傷害作用(ADCC)を促進する、または補体と結合する能力をなくすことなく、鎖間ジスルフィド結合の形成を介して本発明の結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質の二量体(またはより高次のオリゴマー)形成能を低下させることを意図する。特に、ADCC(例えば、FcRIII、CD16)を媒介するFcレセプター(FcR)は免疫グロブリンFcドメインに対して低い親和性を示すが、このことはFcとFcRとの機能的結合には通常の抗体の重鎖の二量体構造によるFc-FcR複合体のアビディティの安定化、および/または通常のAb Fc構造によるFcRの凝集および架橋を必要とする(Sonderman et al., 2000 Nature 406:267; Radaev et al., 2001 J. Biol. Chem. 276:16469; Radaev et al., 2001 J. Biol. Chem. 276:16478; Koolwijk et al., 1989 J. Immunol. 143:1656; Kato et al., 2000 Immunol. Today 21:310)。よって、本発明の結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質は一本鎖免疫グロブリン融合タンパク質に付随した利点を提供しながら、予期されないことに免疫活性を保持している。同様に、補体と結合する能力もFcを含むものなどの重鎖不変領域に関して二量体である免疫グロブリンに不随しているのが典型であり、それと同時に本発明の結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質は予期されない補体結合能を示す。
【0045】
上記で示したように、結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質は、限定されない理論によれば、それらの二量体形成能に妥当なものであると考えられ、さらに理論によれば、この特性は融合タンパク質の構築に含めることを目的に選択された免疫グロブリンヒンジ領域ポリペプチドに存在するシステイン残基の数が減る結果である。ポリペプチドの相対的二量体形成能の決定は十分関連技術の知識の範囲内であり、確立されているいくつかの方法論のうちのいずれかを適用してタンパク質の二量体形成を検出することができる(例えば、Scopes, Protein Purification: Principles and Practice, 1987 Springer-Verlag, New York参照)。例えば、分子サイズをもとにタンパク質を分離する生化学的分離技術(例えば、ゲル電気泳動、ゲル濾過クロマトグラフィー、分析的超遠心分離など)、および/またはメルカプト活性剤(例えば、ヨードアセトアミド、N-エチルマレイミド)またはジスルフィド還元剤(例えば、2-メルカプトエタノール、ジチオスレイトール)導入前後のタンパク質の物理化学的特性の比較、またはその他同等の方法論は全てポリペプチドの二量体形成またはオリゴマー形成の程度の測定、およびこのような、とり得る第四級構造に対するジスルフィド結合の可能性のある関与の判断のために用いることができる。特定の実施形態では、本発明は、本明細書で示されるように野生型ヒト免疫グロブリンGヒンジ領域ポリペプチドに比べて低い(すなわち、適当なIgG由来対照に対して統計学的に有意に)二量体形成能を示す結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質に関する。従って、当業者ならば特定の融合タンパク質がこのような低い二量体形成能を示すかどうかを容易に決定することができる。
【0046】
免疫グロブリン融合タンパク質の調製のための組成物および方法は例えば単一コードポリヌクレオチドの産物であるが、本発明の結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質ではない組換え抗体を開示する米国特許第5,892,019号に記載されているものなど、当業者で周知である。
【0047】
ヒトでの使用を意図した本発明の免疫グロブリン融合タンパク質では、可能性のある抗ヒト免疫応答を最小にし、適当なエフェクター機能を提供するためにこれらの不変領域は典型的にはヒト配列起源のものとなる。抗体不変領域をコードする配列の操作は、Morrison and OiのPCT公報WO89/07142に記載されている。特に好ましい実施形態では、CH1ドメインは欠失され、結合ドメインのカルボキシ末端、または結合ドメインが2つの免疫グロブリン可変領域ポリペプチドを含む場合には第2の(すなわち、C末端により近い)可変領域はヒンジ領域を介してCH2のアミノ酸末端に連結される。二例の結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質の構造を示した模式図が図11に示されているが、ここで、特に好ましい実施形態では鎖間ジスルフィド結合は存在せず、他の実施形態では、野生型ヒンジ領域ポリペプチドが代わりに存在した場合に存在する結合の数に比べて限定された数の鎖間ジスルフィド結合しか存在せず、また、他の実施形態では、融合タンパク質は野生型ヒトIgGヒンジ領域ポリペプチドに比べて低い二量体形成能を示す変異型ヒンジ領域ポリペプチドを含むことを注記しておかねばならない。このように、この単離ポリヌクレオチド分子は、選択された抗原に対して特異的結合親和性を提供する結合ドメインを有する一本鎖免疫グロブリン融合タンパク質をコードする。
【0048】
上記に示したように、特定の実施形態では、結合タンパク質-免疫グロブリン融合タンパク質は軽鎖または重鎖変領域ポリペプチドであり得る少なくとも1つの免疫グロブリン可変領域ポリペプチドを含み、また特定の実施形態では、融合タンパク質は少なくとも1つのかかる軽鎖V領域と1つのかかる重鎖V領域およびこれらV領域の各々と融合した少なくとも1つのリンカーペプチドを含む。このような結合ドメイン、例えば一本鎖Fvドメインの構築は当技術分野で周知のものであり、以下の実施例にもさらに詳細に記載され、また、例えば米国特許第5,892,019号およびそこに挙げられている参照文献にも記載されており、一本鎖可変領域、ならびに重鎖由来および軽鎖由来V領域の各々と融合させ得るリンカーポリペプチドの選択および構築(例えば、一本鎖Fvポリペプチドを含む結合ドメインを作出するため)も当技術分野で公知であり、本明細書にも記載され、また、例えば米国特許第5,869,620号、同第4,704,692号および同第4,946,778号にも記載されている。特定の実施形態では、非ヒト源に由来する免疫グロブリン配列の全てまたは一部はヒト化抗体、すなわちヒト免疫系がこのようなタンパク質を外来のものとして認識する程度を引き下げるためにヒトIg配列が導入される免疫グロブリン配列の作出を目的に認知されている手法に従って「ヒト化」してもよい(例えば、米国特許第5,693,762号、同第5,585,089号、同第4,816,567号、同第5,225,539号、同第5,530,101号およびそこに挙げられている参照文献参照)。
【0049】
本明細書で示したような結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質がひと度デザインされれば、そのポリペプチドをコードするDNAを、例えばSinha et al., Nucleic Acids Res., 12, 4539-4557 (1984)に記載のようなオリゴヌクレオチド合成によって合成し、例えばInnis, Ed., PCR Protocols, Academic Press (1990)、またBetter et al. J. Biol. Chem. 267, 16712-16118 (1992)に記載のようなPCRによって構築し、例えばAusubel et al., Eds., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York (1989)、またRobinson et al., Hum. Antibod. Hybridomas, 2, 84-93 (1991)に記載のような標準的手法によってクローニングおよび発現させ、さらに例えばHarlow et al., Eds., Antibodies: A Laboratory Manual, Chapter 14, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor (1988)およびMunson et al., Anal. Biochem., 107, 220-239 (1980)に記載のように特異的抗原結合活性について試験することができる。
【0050】
Fv領域の単一ポリペプチド鎖結合分子、すなわち一本鎖Fv分子の調製は出典明示により本明細書に組み入れる米国特許第4,946,778号に記載されている。本発明では、一本鎖Fv様分子は重鎖または軽鎖の第1の可変領域をコードし、それぞれ対応する軽鎖または重鎖の可変領域に対する1以上のリンカー続けることで合成される。2つの可変領域間の適当なリンカーの選択については米国特許第4,946,778号に記載されている。本明細書に記載されるリンカー例は(Gly-Gly-Gly-Gly-Ser)3である。このリンカーを用いて、自然凝集しているが化学的に分離する重鎖および軽鎖を単一ポリペプチド鎖のアミノ末端抗原結合部分へと変換するが、この抗原結合部分は2つのポリペプチド鎖からなる元の構造と同様の構造へと折りたたむことから、目的抗原との結合能を保持する。リンカーをコードする配列によって連結される重鎖および軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列は抗体不変領域をコードするヌクレオチド配列と連結される。これらの不変領域は結果として得られたポリペプチドに鎖間ジスルフィド結合を形成させて二量体を形成させ、抗体依存細胞傷害作用(ADCC)を媒介する能力など所望のエフェクター機能を含むものである。ヒトでの使用を意図した本発明の免疫グロブリン様分子としては、これらの不変領域は可能性のある抗ヒト免疫応答を最小にし、かつ、エフェクター機能に妥当性を与えるために実質的にヒトであることが典型である。抗体不変領域をコードする配列の操作は、出典明示により本明細書に組み入れるMorrison and OiのPCT公報WO89/07142に記載されている。好ましい実施形態では、CH1ドメインは欠失され、第2の可変領域のカルボキシ末端はヒンジ領域を介してCH2のアミノ酸末端に連結されている。軽鎖の対応するCysとジスルフィド結合を形成して天然抗体分子の重鎖および軽鎖を折りたたむヒンジのCys残基は欠失させてもよいし、あるいは好ましくは例えばPro残基などで置換する。
【0051】
上記のように、本発明は本明細書で示す結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質の発現を命令し得る組換え発現構築物を提供する。本明細書に言及される種々のアミノ酸配列に見られるアミノ酸は公知の三文字または一文字略号に従って示されている。本明細書で言及される種々のDNA配列またはその断片に見られるヌクレオチドは当技術分野で通常用いられる標準的な一文字表記で示されている。記載のアミノ酸配列は例えば例示であって限定されるものではないが、共有結合化学修飾、挿入、欠失および置換など微細な変化のみを有する同等のアミノ酸配列も包含してもよく、さらに保存的置換も含み得る。互いによく似たアミノ酸配列は実質的な配列相同領域を共有し得る。同様に、ヌクレオチド配列も、例えば例示であって限定されるものではないが、共有結合化学修飾、挿入、欠失および置換など微細な変化のみを有する実質的に同等のヌクレオチド配列も包含し、さらに遺伝コードの縮重によるサイレント変異も含み得る。互いによく似たヌクレオチド配列は実質的な配列相同領域を共有し得る。
【0052】
被験体における悪性症状の存在とは、例えば新生物、腫瘍、非接触阻害または発癌転換細胞などをはじめとする被験体における異形成、癌化および/または悪性転換細胞の存在をさす。本発明が意図する好ましい実施形態では、例えばかかる癌細胞は、リンパ系の悪性転換細胞、特にB細胞リンパ腫などの悪性造血系細胞であり、特定の好ましい実施形態では、癌細胞は癌腫細胞などの上皮細胞であってもよい。本発明はまたB細胞疾患も包含し、B細胞を侵す特定の悪性症状(例えば、B細胞リンパ腫)を含み得るが、これに限定されるものではなく、自己免疫疾患、特に自己抗体の産生を特徴とする疾病、疾患および症状も含む。
【0053】
自己抗体とは自己抗原と反応する抗体である。自己抗体はいくつかの自己免疫疾患(すなわち、宿主免疫系が不適切な抗「自己」免疫反応を生じる疾病、疾患または症状)で検出され、そこではそれらが疾病の活動に関与している。これら自己免疫疾患の現行の治療薬は継続投与を要し、特異性を欠き、重い副作用を引き起こす免疫抑制剤である。最小の毒性で自己抗体の産生をなくし得る新しいアプローチは、多くの人々を侵す疾病範囲に必要なまだ見ぬ医療に取り組むものである。本発明の結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質はリンパ組織への浸透を高めるようデザインされている。Bリンパ球の涸渇は自己抗体の産生サイクルを妨げ、骨髄の前駆体から新しいBリンパ球が産生される際に免疫系がリセットさせる。
【0054】
限定されるものではないがある理論によれば、B細胞涸渇療法から有益な効果が得られるものと確信されるいくつかの疾病が確認されており、以下、これらの疾病のいくつかの例を簡単に説明する。
【0055】
自己免疫甲状腺疾患としてはグレーブス病および橋本甲状腺炎が挙げられる。米国だけでも数形態の自己免疫甲状腺疾患を有する患者が約2千万人存在する。自己免疫甲状腺疾患は甲状腺を刺激して甲状腺機能亢進を引き起こす(グレーブス病)か、または甲状腺を破壊して甲状腺機能低下を引き起こす(橋本甲状腺炎)自己抗体の産生によるものである。甲状腺刺激は甲状腺刺激ホルモン(TSH)レセプターと結合してこれを活性化する自己抗体によって引き起こされる。甲状腺の破壊は他の甲状腺抗原と反応する自己抗体によって引き起こされる。
【0056】
グレーブス病の現行の治療法としては、外科術、放射性ヨウ素、または抗甲状腺薬療法が挙げられる。抗甲状腺投薬は重い副作用を有し、疾病の再発率も高いことから放射性ヨウ素が広く用いられている。外科術は大きな甲状腺腫を有する患者、または極めて速やかな甲状腺機能の正常化が必要な場合に限られる。TSHレセプターの刺激に関与する自己抗体の産生をターゲッティングする治療法はない。橋本甲状腺炎の現行の治療法はレボチロキシンナトリウムであり、緩解の可能性は低いので、この治療法は通常延命措置である。抑制療法は橋本甲状腺炎において甲状腺腫を退縮させることが示されているが、自己抗体の産生を減らしてこの疾病メカニズムをターゲッティングする治療法は知られていない。
【0057】
慢性関節リウマチ(RA)は腫脹、痛み、および機能欠損をきたす間接の炎症を特徴とする慢性疾患である。米国ではRAは推定250万人に達している。RAは初期感染または傷害、異常な免疫応答、および遺伝的因子をはじめとする事柄の組合せによって引き起こされる。RAでは自己反応性T細胞およびB細胞が存在するが、RAの診断には関節に集まり、リウマチ因子と呼ばれる高レベルの抗体の検出が用いられる。RAの現行の治療法としては、痛みを管理し疾病の進行を遅らせる多くの投薬法が挙げられる。この疾病を治癒できる治療法はまだ見つかっていない。投薬法には非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDS)および疾病改善抗リウマチ薬(DMARDS)が挙げられる。NSAIDSは良性疾患には効果的であるが、重度のRAにおける関節の破壊および弱化への進行を防ぐことはできない。NSAIDSにもDMARDSにも重い副作用が伴う。唯一新しいDMARDであるレフルノミドだけが10年間にわたって認可され続けている。レフルノミドは自己抗体の産生を遮断し、炎症を軽減し、RAの進行を遅らせる。しかし、この薬剤も悪心、下痢、脱毛、発疹および肝傷害をはじめとする重い副作用を引き起こす。
【0058】
全身性紅斑性狼瘡(SLE)は腎臓、皮膚および関節をはじめとする多臓器の血管への頻発傷害によって引き起こされる自己免疫疾患である。米国ではSLEは50万人を超えるに達している。SLE患者では、T細胞とB細胞の間の不完全な相互作用が細胞核を攻撃する自己抗体の産生をもたらす。これらには抗二本鎖DNAおよび抗Sm抗体が含まれる。また、SLE患者の約半数ではリン脂質と結合する自己抗体も見られ、血管損傷および低血球数の原因となっている。免疫複合体はSLE患者の腎臓、血管、および関節に集積し、そこでこれらは炎症および組織損傷を引き起こす。この疾病を治癒させるSLE治療は見つかっていない。この疾病の重篤度によってNSAIDSおよびDMARDSが治療法として用いられている。血漿交換によって自己抗体を除去する血漿瀉血はSLE患者における一時的改善をもたらすことができる。自己抗体がSLEの原因であることは一般に合意されているので、B細胞系を涸渇させ、前駆体から新たなB細胞が生じた際に免疫系をリセットさせる新しい療法はSLE患者に長期的利益の期待を与えるものである。
【0059】
シェーグレン症候群は体の水分産生腺の破壊を特徴とする自己免疫疾患である。シェーグレン症候群は最も罹患率の高い自己免疫疾患の1つであり、米国では400万人に達するまでになっている。シューグレン症候群の約半数は慢性関節リウマチなどの結合組織の疾患も有するが、他方の半数は他の併発自己免疫疾患を伴わない原発性のシューグレン症候群を有する。シューグレン症候群患者には抗核抗体、リウマチ因子、抗フォドリン、および抗ムスカリンレセプターをはじめとする自己抗体がしばしば存在する。従来の治療法としてはコルチコステロイドがある。
【0060】
免疫血小板減少性紫斑病(ITP)は血小板と結合してそれらの破壊を引き起こす自己抗体によって引き起こされる。ITPの症例には薬物によって引き起こされるものもあれば、感染、妊娠またはSLEなどの自己免疫疾患に関連するものもある。全症例の約半数が、その原因が不明であることを意味する「特発性」として分類されている。ITPの治療は徴候の重篤度によって決定される。いくつかの症例では治療は必要ない。大多数の症例では、T細胞を涸渇させるためコルチコステロイドまたは免疫グロブリンの静脈点滴をはじめとする免疫抑制薬を用いる。通常血小板数の増加をもたらすもう1つの治療法として抗体によってコートされた血小板を破壊する臓器である脾臓の摘出がある。重篤な症例を有する患者には、シクロスポリン、シクロホスファミドまたはアザチオプリンをはじめとするより効力のある免疫抑制薬を用いる。重篤な疾病を有する患者では第2の治療法として患者の血漿をAタンパク質カラムに通すことによる自己抗体の除去が用いられる。
【0061】
多発性硬化症(MS)は中枢神経系の炎症、ならびに脳、脊髄および身体の神経細胞繊維を絶縁するミエリンの破壊を特徴とする自己免疫疾患である。MSの原因は分かっていないが、自己免疫T細胞がこの疾病の病因の主たる一因であると広く考えられている。しかし、MS患者の脳脊髄液には高レベルの抗体が存在し、抗体産生をもたらすB細胞の応答がこの疾病の媒介に重要であると推定する説もある。MS患者ではB細胞涸渇療法は研究されたことはない。MSに確かな治療法はない。現行の治療法としてはコルチコステロイドがあり、これは発作の持続時間および重さを軽減することができるが、時間が経つにつれMSの経過に作用しなくなる。最近になってMSに対する新しいバイオテクノロジーインターフェロン(IFN)療法が認可された。
【0062】
重症性筋無力症(MG)は随意筋群の虚弱を特徴とする慢性自己免疫性神経筋疾患である。MGは米国で約40,000人に達している。MGは神経筋接合部で発現するアセチルコリンレセプターと結合する自己抗体によって引き起こされる。これらの自己抗体はアセチルコリンレセプターを減少させるか、または遮断して神経から筋肉へのシグナル伝達を妨げる。MGに知られている治療法はない。一般的な処置としてはコルチコステロイド、シクロスポリン、シクロホスファミド、またはアザチオプリンによる免疫抑制が挙げられる。自己免疫応答を弱めるために胸腺の外科摘出がしばしば用いられる。MGには血液中の自己抗体レベルを引き下げるために用いる血漿瀉血が効果的であるが、自己抗体の産生は継続するので一時的なものである。血漿瀉血は通常、外科術に先立ち重度の筋肉虚弱の場合に限られる。
【0063】
乾癬はおよそ500万人に達している。皮膚の自己免疫性炎症。30%が関節炎を伴う乾癬(乾癬性関節炎)。ステロイド、紫外線レチノイド、ビタミンD誘導体、シクロスポリン、メトトレキサートをはじめとする多くの治療法がある。
【0064】
強皮症は全身性硬化症としても知られる結合組織の慢性自己免疫疾患である。強皮症はコラーゲンの過剰生産を特徴とし、皮膚の肥厚をきたす。米国ではおよそ300,000人が強皮症である。
【0065】
クローン病および潰瘍性大腸炎をはじめとする炎症性腸疾患は消化器系の自己免疫疾患である。
【0066】
本発明はさらに、結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質をコードする構築物、特に例えばかかるポリペプチドの断片、類似体および誘導体として発現し得るタンパク質をコードする組換え構築物を投与する方法に関する。結合ドメイン-免疫グロブリン融合ポリペプチドまたは融合タンパク質についていう場合の「断片」、「誘導体」および「類似体」とは、いずれの結合ドメイン-免疫グロブリン融合ポリペプチドまたはかかるポリペプチドと実質的に同じ生物作用もしくは活性を保持する融合タンパク質をもさす。従って類似体は、活性型の結合ドメイン-免疫グロブリン融合ポリペプチドの生成を目的としたプロタンパク質部分の切断によって活性化され得るプロタンパク質を含む。
【0067】
本明細書で言及されるcDNAによりコードされる結合ドメイン-免疫グロブリン融合ポリペプチドまたは融合タンパク質をはじめとする、結合ドメイン-免疫グロブリン融合ポリペプチドまたは融合タンパク質の断片、誘導体または類似体は、(i)1以上のアミノ酸残基が保存的または非保存的アミノ酸残基(好ましくは保存的アミノ酸残基)で置換されているもの(このような置換アミノ酸残基は遺伝コードによってコードされるものであってもなくともよい)、あるいは(ii)1以上のアミノ酸残基が置換基を含むもの、あるいは(iii)結合ドメイン-免疫グロブリン融合ポリペプチドまたはプロタンパク質配列の検出または特定の機能変更に用いられるアミノ酸をはじめ、さらなるアミノ酸が結合ドメイン-免疫グロブリン融合ポリペプチドに融合しているものであってもよい。本明細書における教示からこのような断片、誘導体および類似体も当業者の範囲内であると考えられる。
【0068】
本発明のポリペプチドとしては、結合ドメイン-免疫グロブリン融合ポリペプチド、および当技術分野で公知の配列と同一または同等の結合ドメインポリペプチドアミノ酸配列を有する融合タンパク質、あるいはその断片または一部が挙げられる。例えば例示であって、限定されるものではないが、ヒトCD154分子細胞外ドメインは、報告されているポリペプチドおよびそのようなポリペプチドの一部と少なくとも70%の類似性(好ましくは70%の同一性)、より好ましくは90%の類似性(より好ましくは90%の同一性)、いっそう好ましくは95%の類似性(いっそう好ましくは95%の同一性)を有するポリペプチドである場合は本発明の使用に意図され、ここでこのような結合ドメイン-免疫グロブリン融合ポリペプチドの一部とは一般に少なくとも30のアミノ酸、より好ましくは少なくとも50のアミノ酸を含む。
【0069】
当技術分野で知られているように、2つのポリペプチド間の「類似性」は、あるポリペプチドのアミノ酸配列およびそれに対する保存的アミノ酸置換を他方のポリペプチドの配列と比較することで調べる。本発明のポリペプチドをコードする核酸の断片または一部を用いて本発明の全長核酸を合成してもよい。本明細書において「同一性%」とは、2以上のポリペプチドのアライメントを行い、それらの配列を、the National Institutes of Health/ NCBI database (Bethesda, MD;www.ncbi.nlm.nih.gov/cgi-bin/BLAST/nph-newblast参照)により提供される初期加重値に従って配列ギャップおよび配列ミスマッチを負荷するギャップBLASTアルゴリズム(例えば、Altschul et al., 1997 Nucl. Ac. Res. 25:3389)を用いて分析した場合の、対応するアミノ酸残基位置に位置する同一のアミノ酸のパーセンテージをいう。
【0070】
「単離」とは、その材料がその元の環境(例えば、それが天然に存在するならばその天然環境)から取り出されていることを意味する。例えば、天然に存在する核酸または動物生体に存在するポリペプチドは単離されてはいないが、天然系で共存しているいくつか、または全てのものから分離された同じ核酸またはポリペプチドは単離されている。このような核酸はベクターの一部であってもよいし、かつ/またはこのような核酸またはポリペプチドは組成物の一部であってもよく、このようなベクターまたは組成物はその天然環境の一部ではないという点でやはり単離されている。
【0071】
「遺伝子」とは、ポリペプチド鎖の産生に関与するDNAのセグメントを意味し、コード領域「リーダーおよびトレーラー」前後に領域を、ならびに個々のコードセグメント(エクソン)間に介在配列(イントロン)を含む。
【0072】
本明細書に記載のように、本発明は、例えば例示であって限定されるものではないが、融合タンパク質の欠失、機能変更、単離および/または精製を可能とする付加的な機能的ポリペプチド配列と融合した結合ドメインポリペプチド配列の発現のために供する付加的な免疫グロブリンドメインコード配列とフレーム内融合した結合ドメインコード配列を有する核酸によってコードされる結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質を提供する。このような融合タンパク質は、例えば(上記のように)ジスルフィド結合の形成に関与するメルカプト基の利用能を引き下げることにより、また、ADCCおよび/またはCDCを増強する能力を付与することによって融合産物の挙動に影響を及ぼす付加的な免疫グロブリン由来ポリペプチド配列を含めることで、結合ドメインの機能変更を可能とする。
【0073】
ポリペプチドの修飾は当業者に公知のいずれの手段によって達成してもよい。本明細書において好ましい方法は融合タンパク質をコードするDNAの修飾および修飾されたDNAの発現に頼るものである。上記の結合ドメイン-免疫グロブリン融合物の1つをコードするDNAは以下に記載されるものをはじめ標準的な方法論を用いて突然変異誘発できる。例えば、そうでなければ多量体形成を促進する、または特定の分子コンホメーションを促すシステイン残基をポリペプチドから欠失させるか、または例えば凝集塊の形成に関与するシステイン残基を置換することができる。必要であれば、凝集塊の形成に寄与するシステイン残基の識別は、システイン残基を欠失および/または置換して生じたタンパク質が生理学上許容されるバッファーおよび塩を含有する溶液中で凝集するかどうかを確認することにより経験的に行うことができる。さらに、結合ドメイン-免疫グロブリン融合物の断片を構築して使用してもよい。上記で示したように、当業者が即製の発現構築物のコード産物に含めるのに適当なポリペプチドドメインを容易に選択できるよう、多くの候補結合ドメイン-免疫グロブリン融合物のカウンターレセプター/リガンド結合ドメインを描写した。
【0074】
保存的アミノ酸置換は周知のものであり、一般に、得られる結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質分子の生物活性を変更することなく行える。例えば、このような置換は一般に、極性残基群、電荷残基群、疎水性残基群、小残基群などの中で相互交換することで行う。必要であれば、このような置換は実験的に、単にin vitro生物アッセイにおいて適当な細胞表面レセプターと結合する能力、または適当な抗原もしくは所望の標的分子と結合する能力に関して得られた修飾タンパク質を試験することで確認することができる。
【0075】
本発明はさらに本明細書で示される結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質コードポリヌクレオチド配列とハイブリダイズする核酸、または配列間に少なくとも70%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%の同一性があれば、当業者に容易に明らかとなるそれらの相補物に関する。本発明は特に本明細書で言及される結合ドメイン-免疫グロブリン融合物コード核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸に関する。本明細書において「ストリンジェントな条件」とは、配列間に少なくとも95%、好ましくは少なくとも97%の同一性がある場合に限ってハイブリダイゼーションが起こることを意味する。本明細書で言及される結合ドメイン-免疫グロブリン融合物コード核酸とハイブリダイズする核酸は、好ましい実施形態では、本明細書に挙げられている参照文献のcDNAによってコードされる結合ドメイン-免疫グロブリン融合ポリペプチドと実質的に同等の生物作用または活性を保持するポリペプチドをコードする。
【0076】
本発明で用いる場合、特定のストリンジェンシーの条件下で「ハイブリダイズする」とは、2つの二本鎖核酸分子間で生じたハイブリッドの安定性を表すのに用いる。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーはこのようなハイブリッドがアニーリングおよび洗浄されるイオン強度および温度条件で表すのが典型である。典型的には「高」、「中」および「低」ストリンジェンシーは次の条件またはそれと同等の条件を含む:高ストリンジェンシー:0.1xSSPEまたはSSC、0.1% SDS、65℃;中ストリンジェンシー:0.2xSSPEまたはSSC、0.1% SDS、50℃;および低ストリンジェンシー:1.0xSSPEまたはSSC、0.1% SDS、50℃。当業者に知られているように、ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーのバリエーションは回数、温度および/またはプレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーションおよび洗浄工程に用いる溶液の濃度を変更することで達成でき、好適な条件は1つには用いるプローブの特定のヌクレオチド配列、およびブロットされた発端の核酸サンプルのヌクレオチド配列によっても異なる。従って、プローブの所望の選択性を確認する過度な実験を行わなくとも、1以上のある発端とはハイブリダイズし得るが、他の特定の発端配列とはハイブリダイズしないことをもとに、好適なストリンジェント条件を容易に選択することができると考えられる。
【0077】
本発明の核酸は、本明細書ではポリヌクレオチドとも呼ばれ、RNAの形態であってもDNAの形態であってもよく、DNAとしてはcDNA、ゲノムDNAおよび合成DNAが含まれる。DNAは一本鎖であっても二本鎖であってもよく、一本鎖であればコード鎖であっても非コード鎖(アンチセンス鎖)であってもよい。本発明に従って用いられる結合ドメイン-免疫グロブリン融合ポリペプチドをコードするコード配列はあるいずれかの結合ドメイン-免疫グロブリン融合物として当技術分野で公知のコード配列に等しいものであってもよいし、あるいは遺伝コードの重複または縮重の結果として同じ結合ドメイン-免疫グロブリン融合ポリペプチドをコードする異なるコード配列であってもよい。
【0078】
本発明に従って用いられる結合ドメイン-免疫グロブリン融合ポリペプチドをコードする核酸としては、限定されるものではないが、結合ドメイン-免疫グロブリン融合ポリペプチドのコード配列のみ;結合ドメイン-免疫グロブリン融合ポリペプチドのコード配列および付加的なコード配列;結合ドメイン-免疫グロブリン融合ポリペプチド(および所望により付加的なコード配列)、およびイントロン、または結合ドメイン-免疫グロブリン融合ポリペプチドのコード配列の5'および/または3'側の非コード配列のような非コード配列(これはさらに例えば、限定されるものではないが、調節または調節可能なプロモーター、エンハンサー、その他の転写調節配列、レプレッサー結合配列、翻訳調節配列またはその他いずれかの調節核酸配列であり得る1以上の調節核酸配列を含んでもよい)が挙げられる。従って、結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質を「コードする核酸」または「コードするポリヌクレオチド」とは、結合ドメイン-免疫グロブリン融合ポリペプチドのコード配列のみ、ならびに付加的なコード配列および/または非コード配列を含む核酸を含む核酸を包含する。
【0079】
本明細書に記載の使用のための核酸およびオリゴヌクレオチドは当業者に公知のいずれかの方法によって合成することができる(例えば、WO93/01286、米国出願第07/723,454号、米国特許第5,218,088号、同第5,175,269号、同第5,109,124号参照)。本発明で用いるオリゴヌクレオチドおよび核酸配列の同定には当技術分野で周知の方法が含まれる。例えば、有用なオリゴヌクレオチドの望ましい特性、長さおよびその他の特徴は周知のものである。特定の実施形態では、ホスホロチオエート、メチルホスホネート、スルホン、スルフェート、ケチル、ホスホロジチオエート、ホスホロアミデート、リン酸エステルなどの結合、その他アンチセンス適用に有用であることが分かっている結合を含めることで、内在する宿主細胞の核分解酵素による分解に耐性のある合成オリゴヌクレオチドおよび核酸配列をデザインすることができる(例えば、Agrwal et al., Tetrehedron Lett. 28:3539-3542 (1987); Miller et al., J. Am. Chem. Soc. 93:6657-6665 (1971); Stec et al., Tetrehedron Lett. 26:2191-2194 (1985); Moody et al., Nucl. Acids Res. 12:4769-4782 (1989); Uznanski et al., Nucl. Acids Res. (1989); Letsinger et al., Tetrahedron 40:137-143 (1984); Eckstein, Annu. Rev. Biochem. 54:367-402 (1985); Eckstein, Trends Biol. Sci. 14:97-100 (1989); Stein In: Oligodeoxynucleotides. Antisense Inhibitors of Gene Expression, Cohen, Ed, Macmillan Press, London, pp. 97-117 (1989); Jager et al., Biochemistry 27:7237-7246 (1988)参照)。
【0080】
ある実施形態では、本発明は、結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質に用いる末端切断型成分(例えば、結合ドメインポリペプチド、ヒンジ領域ポリペプチド、リンカーなど)を提供し、もう1つの実施形態では、本発明は、このような末端切断型成分を有する結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質をコードする核酸を提供する。末端切断型分子はその分子の全長型よりも短いいずれの分子であってもよい。本発明によって提供される末端切断型分子は末端切断型生体ポリマーを含んでもよく、好ましい実施形態では、このような末端切断型分子は末端切断型核酸分子または末端切断型ポリペプチドであってもよい。末端切断型核酸分子は公知の、または記載されている核酸分子の全長ヌクレオチド配列より短く、このような公知の、または記載されている核酸分子は当業者がそれを全長分子とみなす限りは天然に存在する核酸分子であっても、合成核酸分子であっても、組換え核酸分子であってもよい。このように例えば、遺伝子配列に相当する末端切断型核酸分子は全長遺伝子よりも短く、この遺伝子はコード配列および非コード配列、プロモーター、エンハンサーその他の調節配列、フランキング配列など、ならびにその他その遺伝子の一部と認識されている機能的および非機能的配列を含む。もう1つの例では、mRNA配列に相当する末端切断型核酸分子は全長mRNA転写物より短く、種々の翻訳領域および非翻訳領域ならびにその他機能的および非機能的配列を含み得る。
【0081】
その他の好ましい実施形態では、末端切断型分子は特定のタンパク質またはポリペプチド成分の全長アミノ酸より短い。本明細書において「欠失」とは、当業者に理解されている一般的な意味を有し、例えば、本明細書で提供される末端切断型分子の場合と同様、対応する全長分子に対して末端または非末端領域のいずれかに由来する1以上の配列部分を欠いた分子をさし得る。核酸分子またはポリペプチドなどの直鎖生体ポリマーである末端切断型分子は分子の末端に由来するか分子の非末端領域に由来するかのいずれかの1以上の欠失を有する場合があり、このような欠失は1〜1500の連続するヌクレオチドまたはアミノ酸残基、好ましくは1〜500の連続するヌクレオチドまたはアミノ酸残基、より好ましくは1〜300の連続するヌクレオチドまたはアミノ酸残基の欠失であり得る。ある特定の好ましい実施形態では、末端切断型核酸分子は270〜330の連続するヌクレオチドの欠失を有し得る。他のある特定の実施形態では、末端切断型ポリペプチド分子は80〜140の連続するアミノ酸残基の欠失を有し得る。
【0082】
本発明はさらに結合ドメイン-免疫グロブリン融合ポリペプチドの断片、類似体および/または誘導体をコードする本明細書に記載の核酸の変異体に関する。結合ドメイン-免疫グロブリン融合物をコードする核酸の変異体は核酸の天然に存在する対立遺伝子変異体であっても、あるいは天然には存在しない変異体であってもよい。当技術分野で知られているように、対立遺伝子変異体は1以上のヌクレオチドの置換、欠失または付加を少なくとも1以上有し得る核酸配列の変異型であり、それはいずれもコードされる結合ドメイン-免疫グロブリン融合ポリペプチドの機能を実質的に変更しない。
【0083】
結合ドメイン-免疫グロブリン融合物の変異体または誘導体は結合ドメイン-免疫グロブリン融合ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の突然変異によって得られる。天然型アミノ酸配列の変更はいくつかの常法のうちのいずれかによって達成できる。天然配列の断片との連結を可能とする制限部位によってフランキングされた変異配列を含むオリゴヌクレオチドを合成することにより特定の遺伝子座に突然変異を導入することができる。連結後、得られた再構成配列は所望のアミノ酸挿入、置換または欠失を有する類似体をコードする。
【0084】
あるいは、オリゴヌクレオチドによって指定される位置特異的突然変異誘発法を用いて所定のコドンが置換、欠失または挿入によって変更され得る変異遺伝子を得ることができる。このような変更をなす方法例がWalder et al. (Gene 42:133, 1986); Bauer et al. (Gene 37:73, 1985); Craik (BioTechniques, January 1985, 12-19); Smith et al. (Genetic Engineering: Principles and Methods BioTechniques, January 1985, 12-19); Smith et al. (Genetic Engineering: Principles and Methods, Plenum Press, 1981); Kunkel (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:488, 1985); Kunkel et al. (Methods in Enzymol. 154:367, 1987);および米国特許第4,518,584および同第4,737,462号に開示されている。
【0085】
一例として、DNAの修飾は、プライマーを用いたDNA増幅法を併用して、そのタンパク質をコードするDNAの位置指定突然変異誘発を行ってオーバーラップエクステンションによるPCRスプライシング(SOE)など、DNA鋳型に変異を導入、増幅することによって行える。位置指定突然変異誘発は典型的には 周知であって市販されているM13ファージベクターなどの一本鎖および二本鎖型のファージベクターを用いて行う。一本鎖ファージ複製起点を含む他の好適なベクターも使用できる(例えば、Veira et al., Meth. Enzymol. 15:3, 1987参照)。一般に、位置指定突然変異誘発は目的タンパク質(例えば、ある結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質の全てまたは成分)をコードする一本鎖ベクターを製造することによって行う。一本鎖ベクターのDNAと相同な領域内に所望の突然変異を含むオリゴヌクレオチドプライマーをベクターにアニーリングした後、二本鎖領域をプライマーとして用いて、一方の鎖が変異配列をコードし、他方の鎖がオリジナル配列をコードするヘテロ二重らせんを形成する大腸菌(E. coli)DNAポリメラーゼI(クレノウフラグメント)などのDNAポリメラーゼIを添加する。このヘテロ二重らせんを適当な細菌細胞に導入し、所望の突然変異を含むクローンを選択する。得られた変異型DNA分子は適当な宿主細胞で組換え発現させて修飾タンパク質を産生させることができる。
【0086】
生物活性に必要でない種々のアミノ酸残基もしくは配列の付加または置換、あるいは末端または内部残基または配列の欠失をコードする同等のDNA構築物も本発明に包含される。例えば、上記で論じたように、生物活性に望まれない、または必須でないCys残基をコードする配列をCys残基を欠失させるか、あるいは他のアミノ酸で置換して変化させ、復元時に不適切な分子間ジスルフィド架橋の形成を妨げることができる。
【0087】
宿主生物としては、in vitroおよびin vivo発現を含め、細菌(例えば、大腸菌)、酵母(例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)およびピチア・パストリス(Pichia pastoris))、昆虫細胞および哺乳類細胞など、本発明の組換え構築物によってコードされる結合ドメイン-免疫グロブリン融合産物の組換え生産が起こり得る生物が挙げられる。従って宿主生物には本明細書で提供されるワクチン生産における構築、増殖、発現またはその他の工程のための生物が含まれ、宿主としてはまた上記のように免疫応答が生じる対象が含まれる。現在のところ好ましい宿主生物としては大腸菌株、ネズミ近交系およびネズミ細胞株、ならびにヒト細胞、被験体および細胞株がある。
【0088】
所望の結合ドメイン-免疫グロブリン融合物をコードするDNA構築物は適当な宿主での発現のためのプラスミドに導入する。好ましい実施形態では、この宿主は細菌宿主である。リガンドまたは核酸結合ドメインをコードする配列は特定の宿主での発現のためにコドンを至適化するのが好ましい。従って例えば、ヒト結合ドメイン-免疫グロブリン融合物を細菌で発現させる場合にはコドンを細菌向けに至適化する。短いコード領域では、遺伝子は単一のオリゴヌクレオチドとして合成され得る。大きなタンパク質では、複数のオリゴヌクレオチドのスプライシング、突然変異誘発またはその他当業者に公知の技術を用いてもよい。プロモーターおよびオペレーターなどの調節領域であるプラスミド中のヌクレオチド配列は転写のために互いに作動可能なように連結する。結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列はまた分泌シグナルををコードするDNAを含んでもよく、それにより生じたペプチドはタンパク質前駆体となる。生じたプロセッシングタンパク質は周辺質空間または発酵培地から回収できる。
【0089】
好ましい実施形態では、DNAプラスミドはまた転写ターミネーター配列も含む。本明細書において「転写ターミネーター領域」とは、転写終結のシグナル伝達を行う配列である。完全な転写ターミネーターは、挿入された結合ドメイン-免疫グロブリン融合物コード遺伝子またはプロモーター供給源と同一であっても異なっていてもよいタンパク質コード遺伝子から得られる。転写ターミネーターは本明細書の発現系の任意の成分であるが、好ましい実施形態では用いられる。
【0090】
本明細書で用いるプラスミドは目的のタンパク質またはポリペプチドをコードするDNAと作動可能なように連結したプロモーターであり、所望のプラスミドの用途(例えば、結合ドメイン-免疫グロブリン融合物コード配列を含むワクチンの投与)によって上記のような好適な宿主(例えば、細菌、ネズミ、またはヒト)でのタンパク質の発現向けにデザインされたものである。本明細書のタンパク質およびポリペプチドの発現に好適なプロモーターは広く入手可能であって、当技術分野で周知のものである。調節領域と連結した誘導プロモーターまたは構成プロモーターが好ましい。かかるプロモーターとしては、限定されるものではないが、T7ファージプロモーター、ならびにT3、T5およびSP6プロモーターなどのその他のT7様ファージプロモーター、大腸菌由来のtrp、lpp、およびlacプロモーター(lacUV5など)、バキュロウイルス/昆虫細胞発現系のP10またはポリヘドリン遺伝子プロモーター(例えば、米国特許第5,243,041号、同第5,242,687号、同第5,266,317号、同第4,745,051号および同第5,169,784号参照)および他の真核生物発現系由来の誘導プロモーターが挙げられる。タンパク質発現のためにはこのようなプロモーターはlacオペロンなどの対照領域をプラスミド中に作動可能なように連結して挿入する。
【0091】
好ましいプロモーター領域としては大腸菌で誘導可能かつ機能的なものである。好適な誘導プロモーターおよびプロモーター領域の例としては、限定されるものではないが、イソプロピルβ-D-チオガラクトピラノシド(IPTG;Nakamura et al., Cell 18:1109-1117, 1979参照)応答性の大腸菌lacオペレーター;重金属(例えば亜鉛)誘導応答性のメタロチオネインプロモーター金属調節エレメント(例えば、Evans et al.の米国特許第4,870,009号参照);IPTG応答性のファージT7lacプロモーター(例えば、米国特許第4,952,496号;およびStudier et al., Meth. Enzymol. 185:60-89, 1990参照)およびTACプロモーターが挙げられる。
【0092】
これらのプラスミドは所望により宿主内で機能的な選択マーカー遺伝子を含んでよい。選択マーカー遺伝子は形質転換細菌細胞の同定および多数の非形質転換細胞からの選択的増殖を可能とする表現型を細菌に付与するいずれの遺伝子も含む。細菌宿主に好適な選択マーカー遺伝子としては例えばアンピシリン耐性遺伝子(Ampr)、テトラサイクリン耐性遺伝子(Tcr)およびカナマイシン耐性遺伝子(Kanr)が挙げられる。現在のところカナマイシン耐性遺伝子が好ましい。
【0093】
これらのプラスミドはまた、作動可能なように連結されたタンパク質の分泌のためのシグナルをコードするDNAを含んでもよい。使用に好適な分泌シグナルは広く入手可能であって、当技術分野で周知のものである。大腸菌で機能的な原核生物および真核生物分泌シグナルを用いてもよい。現在のところ好ましい分泌シグナルとしては、限定されるものではないが、以下の大腸菌遺伝子:ompA、ompT、ompF、ompC、β-ラクタマーゼ、アルカリ性ホスファターゼなどによってコードされるものが挙げられる(von Heijne, J. Mol. Biol. 184:99-105, 1985)。さらにまた、細菌pelB遺伝子分泌シグナル(Lei et al., J. Bacteriol. 169:4379, 1987)、phoA分泌シグナルおよび昆虫細胞で機能的なcek2を用いてもよい。最も好ましい分泌シグナルは大腸菌ompA分泌シグナルである。当業者に公知のその他の原核生物および真核生物分泌シグナルを利用してもよい(例えば、von Heijne, J. Mol. Biol. 184:99-105, 1985参照)。当業者ならば本明細書に記載の方法を用いて酵母、昆虫または哺乳類細胞のいずれかでこれらの細胞からのタンパク質の分泌に機能的な分泌シグナルを代用することができる。
【0094】
大腸菌の形質転換に好ましいプラスミドとしてはpET発現ベクター(例えば、pET-11a、pET-12a-c、pET-15b;米国特許第4,952,496号;Novagen, Madison, WI.から入手可能)が挙げられる。他の好ましいプラスミドとしては、pKKプラスミド、特にtacプロモーターを含むpKK 223-3(Brosius et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 81:6929, 1984; Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology;米国特許第5,122,463号、同第5,173,403号、同第5,187,153号、同第5,204,254号、同第5,212,058号、同第5,212,286号、同第5,215,907号、同第5,220,013号、同第5,223,483号、および同第5,229,279号参照)が挙げられる。プラスミドpKKはアンピシリン耐性遺伝子をカナマイシン耐性遺伝子に置き換えることで改変されたものである(Pharmaciaから入手可能;pUC4Kから獲得、例えば、Vieira et al. (Gene 19:259-268, 1982;および米国特許第4,719,179号参照)。また、昆虫細胞におけるポリペプチドの発現のためにはpBlueBac(pJVETLおよびその誘導体とも呼ばれる)、特にpBlueBac III(例えば、米国特許第5,278,050号、同第5,244,805号、同第5,243,041号、同第5,242,687号、同第5,266,317号、同第4,745,051号、および同第5,169,784号参照;Invitrogen, San Diegoから入手可能)などのバキュロウイルスベクターを使用してもよい。その他のプラスミドとしてはpIN-IIIompA2などのpIN-IIIompAプラスミド(米国特許第4,575,013号参照;また、Duffaud et al., Meth. Enz. 153:492-507, 1987も参照)が挙げられる。
【0095】
このDNA分子は細菌細胞、好ましくは大腸菌で複製することが好ましい。好ましいDNA分子としてはまた、細菌の世代間でのDNA分子の維持を確保する細菌複製起点も挙げられる。このような場合、細菌の複製によって大量のDNA分子が生産できる。好ましい細菌複製起点としては、限定されるものではないが、f1-oriおよびcol E1複製起点が挙げられる。好ましい宿主は、lacUVプロモーターなどの誘導プロモーターと作動可能なように連結されたT7 RNAポリメラーゼをコードするDNAの染色体コピーを含む(米国特許第4,952,496号参照)。このような宿主としては、限定されるものではないが、溶原大腸菌HMS174(DE3)pLysS株、BL21(DE3)pLysS株、HMS174(DE3)株およびBL21(DE3)株が挙げられる。BL21(DE3)株が好ましい。pLys株は低レベルの、T7 RNAポリメラーゼ阻害剤T7ライソザイムを提供する。
【0096】
提供されるDNA分子はまたレプレッサータンパク質をコードする遺伝子を含んでもよい。レプレッサータンパク質はレプレッサータンパク質が結合するヌクレオチドの配列を含むプロモーターの転写を抑制し得る。このプロモーターは細胞の生理条件を変更することによって脱抑制し得る。例えばこの変更は、オペレーターと、または調節タンパク質もしくはその他のDNA領域と相互作用する能力を阻害する分子を増殖培地に加えることにより、あるいは増殖培地の温度を変更することにより達成することができる。好ましいレプレッサータンパク質としては、限定されるものではないが、IPTG誘導反応性の大腸菌lacIレプレッサー、温度感受性λcI857レプレッサーなどが挙げられる。大腸菌lacIレプレッサーが好ましい。
【0097】
一般に、本発明の組換え構築物はまた、転写および翻訳に必要なエレメントを含む。特にこのようなエレメントは結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質をコードする核酸配列を含む組換え発現構築物が宿主細胞または生物での発現のために意図される場合に好ましい。本発明の特定の実施形態では、細胞結合ドメイン-免疫グロブリン融合物コード遺伝子の細胞種選択的または細胞種特異的発現はその遺伝子をプロモーターの制御下に置くことで達成し得る。プロモーターの選択肢は形質転換する細胞種および望まれる制御の程度またはタイプによって異なる。プロモーターは構成型でも活性型のものでもよく、さらに細胞種特異的、組織特異的、個々の細胞特異的、事象特異的、時間特異的または誘導型のものでもよい。細胞種特異的プロモーターまたは事象種特異的プロモーターが好ましい。構成的または非特異的プロモーターの例としてはSV40初期プロモーター(米国特許第5,118,627号)、SV40後期プロモーター(米国特許第5,118,627号)、CMV初期遺伝子プロモーター(米国特許第5,168,062号)、およびアデノウイルスプロモーターが挙げられる。ウイルスプロモーターの他、細胞プロモーターも本発明の内容に従う。特にいわゆるハウスキーピング遺伝子の細胞プロモーターが有用である。ウイルスプロモーターは一般に細胞プロモーターよりも強力なプロモーターであるので好ましい。プロモーター領域は高等真核生物を含む多くの真核生物の遺伝子で同定されているので、当業者ならば個々の宿主で用いるのに好適なプロモーターを容易に選択することができる。
【0098】
また、誘導プロモーターを使用してもよい。これらのプロモーターとしてはデキサメタゾンにより誘導可能なMMTV LTR(PCT WO91/13160)、重金属により誘導可能なメタロチオネインプロモーター、およびcAMPにより誘導可能なcAMP応答エレメントを有するプロモーターが挙げられる。誘導プロモーターを用いることで、結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質をコードする核酸配列を本発明の発現構築物により細胞へ送達し、インデューサーを添加するまで停止させておくことができる。これはさらに遺伝子産物の産生のタイミングにおいて制御可能である。
【0099】
事象種特異的プロモーターは腫瘍形成またはウイルス感染などの事象が起こったときにのみ活性化またはアップレギュレートされる。HIV LTRは事象特異的プロモーターの周知の例である。このプロモーターはウイルス感染時に生じるtat遺伝子産物が存在しない限り不活性である。いくつかの事象種プロモーターは組織特異的でもある。
【0100】
さらにまた、特定の細胞遺伝子で協調調節されるプロモーターを用いてもよい。例えば特定の結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質コード遺伝子の発現が1以上の付加的内在性または外から導入された遺伝子の発現と協調して望まれる場合に協調発現される遺伝子のプロモーターを用い得る。この種のプロモーターは免疫系の特定の組織における免疫応答の誘導に関する遺伝子発現パターンを知る際に特に有用であり、これによりその組織内の特異的免疫担当細胞が活性化されるか、そうでなければ免疫応答に参加するべく動員される。
【0101】
例えば宿主が治療戦略の一環として一時的に免疫無防備にする場合などの特定の状況では、プロモーターの他、レプレッサー配列、ネガティブレギュレーター、または組織特異的サイレンサーを挿入して結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質コード遺伝子の非特異的発現を低下させてもよい。プロモーター領域には複数のレプレッサーエレメントを挿入し得る。転写抑制はレプレッサーエレメントの配向やプロモーターからの距離には依存しない。ある種のレプレッサー配列は絶縁配列である。このような配列は転写を阻害し(Dunaway et al., Mol Cell Biol 17: 182-9, 1997; Gdula et al., Proc Natl Acad Sci USA 93:9378-83, 1996, Chan et al., J Virol 70: 5312-28, 1996; Scott and Geyer, EMBO J 14:6258-67, 1995; Kalos and Fournier, Mol Cell Biol 15:198-207, 1995; Chung et al., Cell 74: 505-14, 1993)、バックグラウンド転写をサイレンシングする。
【0102】
またレプレッサーエレメントはII型(軟骨)コラーゲン、コリンアセチルトランスフェラーゼ、アルブミン(Hu et al., J. Cell Growth Differ. 3(9):577-588, 1992)、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK-2)(Misuno et al., Gene 119(2):293-297, 1992)遺伝子のプロモーター領域で、また6-ホスホフルクト-2-キナーゼ/フルクトース-2,6-ビスホスファターゼ遺伝子(Lemaigre et al., Mol. Cell Biol. 11(2):1099-1106)でも同定されている。さらにいくつかの肝特異的遺伝子では負の調節エレメントTse-1が同定され、肝細胞におけるcAMP応答エレメント-(CRE)によって媒介される遺伝子活性化誘導を遮断することが示されている(Boshart et al., Cell 61(5):905-916, 1990)。
【0103】
好ましい実施形態では、所望の産物の発現を増強するエレメントを構築物に組み込む。このようなエレメントとしては内部リボソーム結合部位(IRES; Wang and Siddiqui, Curr. Top. Microbiol. Immunol 203:99, 1995; Ehrenfeld and Semler, Curr. Top. Microbiol. Immunol. 203:65, 1995; Rees et al., Biotechniques 20:102, 1996; Sugimoto et al., Biotechnology 12:694, 1994)が挙げられる。IRESは翻訳効率を高める。同様に他の配列も発現を高め得る。いくつかの遺伝子では特に5'末端の配列が転写および/または翻訳を阻害する。これらの配列は通常パリンドロームとなっていてヘアピン構造を形成することがある。送達すべき核酸中にこのような配列があれば一般に欠失させる。転写または翻訳産物の発現レベルをどの配列が発現を左右するかを確認または突き止めるべくアッセイする。転写レベルはノーザンブロットハイブリダイゼーション、RNアーゼプローブ保護などをはじめとするいずれの公知の方法によってアッセイしてもよい。タンパク質レベルはELISA、ウエスタンブロット、免疫組織化学またはその他の周知の技術をはじめ、いずれの公知の方法によってアッセイしてもよい。
【0104】
本発明の結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質コード構築物にその他のエレメントを組み込んでもよい。好ましい実施形態では、構築物はポリアデニル化配列、スプライス供与部位および受容部位、ならびにエンハンサーをはじめとする転写ターミネーター配列を含む。哺乳類細胞またはその他の真核細胞での構築物の発現および維持に有用なその他エレメントも組み込んでよい(例えば、複製起点)。これらの構築物は細菌細胞で便宜に産生されるので、細菌中での増殖に必要な、または細菌での増殖を増強するエレメントを組み込む。このようなエレメントとしては複製起点、選択マーカーなどがある。
【0105】
本明細書で示されるように、本発明の構築物を用いて細胞へ送達された結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質をコードする核酸の発現のさらなるレベルの制御は2以上の示差的に調節される核酸構築物を同時に送達することによって得られる。このような複数の核酸構築アプローチを用いることで、例えば細胞種および/または別の発現コード成分の存在に依存する時間的空間的協調といった免疫応答の協調調節が可能となる。当業者ならば複数の調節遺伝子発現レベルも同様に、限定されるものではないが、プロモーター、エンハンサー、およびその他周知の遺伝子調節エレメントをはじめとする好適な調節配列の選択によって達成できることが分かるであろう。
【0106】
本発明はまた、ベクター、および本発明の核酸を含む公知のベクターから製造した構築物、特に上記で示したような本発明の結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質およびポリペプチドをコードする核酸のいずれかを含む「組換え発現構築物」、本発明のベクターおよび/または構築物で遺伝子操作した宿主細胞、ならびに組換え技術による、本発明のかかる結合ドメイン-免疫グロブリン融合ポリペプチドおよび融合タンパク質をコードする核酸配列、またはその断片もしくは変異体を含む発現構築物を投与する方法に関する。結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質は構築物の性質(例えば、上記のようにプロモーターの種類)および所望の宿主細胞の性質(例えば、有糸分裂後の分化終期か活発な分裂期か;例えば、発現構築物が宿主細胞においてエピソームとして存在するか宿主細胞ゲノムに組み込まれるか)によって、適当なプロモーターの制御下、実質的にいずれの宿主細胞でも発現し得る。原核生物および真核生物宿主とともに用いるのに適当なクローニングおよび発現ベクターは上記で示したようにSambrook, et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor, NY, (1989)に記載されており、本発明の特に好ましい実施形態では、組換え発現は本発明の組換え発現構築物でトランスフェクトまたは形質転換した哺乳類細胞で行う。
【0107】
典型的には、これらの構築物はプラスミドベクターに由来する。好ましい構築物としては、アンピシリン耐性遺伝子、ポリアデニル化シグナルおよびT7プロモーター部位をコードする核酸配列を有する改変型pNASSベクター(Clontech, Palo Alto, CA)がある。他の好適な哺乳類発現ベクターも周知である(例えば、Ausubel et al., 1995; Sambrook et al., 上記参照;また、例えば、Invitrogen, San Diego, CA; Novagen, Madison, WI; Pharmacia, Piscataway, NJその他のカタログも参照)。現在のところ、結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質の高産生レベルをもたらすため、好適な調節制御下にジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)コード配列を含む好ましい構築物が製造し得るが、このレベルは適当な選択剤(例えば、メトトレキサート)の適用後の遺伝子増幅によるものである。
【0108】
一般に組換え発現ベクターは宿主細胞の形質転換を可能とする複製起点および選択マーカー、ならびに上記のように下流構造配列の転写を命令するため、高レベルで発現する遺伝子に由来するプロモーターを含む。この異種構造配列は翻訳開始および終結配列に対して適当な位相に組み込む。従って例えば、本明細書で提供される結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質コード核酸は、宿主細胞で結合ドメイン-免疫グロブリン融合ポリペプチドを発現させるための組換え発現構築物として、種々の発現ベクター構築物のいずれか1つに含めればよい。特定の好ましい実施形態では、これらの構築物はin vivoに投与される製剤中に含める。このようなベクターおよび構築物としては染色体配列、非染色体配列および合成DNA配列、例えばSV40の誘導体;細菌プラスミド;ファージDNA;酵母プラスミド;プラスミドとファージDNA、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、鶏痘ウイルスおよび仮性狂犬病ウイルス、または以下に記載する複製欠陥レトロウイルスなどのウイルスDNAとの組合せに由来するベクターが挙げられる。しかしながら、組換え発現構築物の製造のためにその他のベクターを用いてもよく、好ましい実施形態では、このようなベクターは宿主中で複製可能で生存力を持つものである。
【0109】
これら適当なDNA配列は種々の手法によりベクターへ挿入できる。一般に、このDNA配列は当技術分野で公知の手法によって適当な制限エンドヌクレアーゼ部位へ挿入する。DNAリガーゼ、DNAポリメラーゼ、制限エンドヌクレアーゼなどの酵素反応のためのクローニング、DNA単離、増幅および精製の標準的な技術ならびに種々の分離技術は当業者に公知であり、一般に用いられているものである。標準的な技術のいくつかが、例えばAusubel et al. (1993 Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publ. Assoc. Inc. & John Wiley & Sons, Inc., Boston, MA); Sambrook et al. (1989 Molecular Cloning, Second Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Plainview, NY); Maniatis et al. (1982 Molecular Cloning, Cold Spring Harbor Laboratory, Plainview, NY); Glover (Ed.) (1985 DNA Cloning Vol. I and II, IRL Press, Oxford, UK); Hames and Higgins (Eds.), (1985 Nucleic Acid Hybridization, IRL Press, Oxford, UK)その他に記載されている。
【0110】
発現ベクター中のDNA配列は、mRNA合成を命令すべく少なくとも1つの好適な発現制御配列(例えば、構成プロモーターまたは調節プロモーター)に作動可能なように連結されている。このような発現制御配列の代表例としては上記のような真核細胞またはそれらのウイルスのプロモーターが挙げられる。プロモーター領域はCAT(クロラムフェニコールトランスフェラーゼ)ベクターまたはその他のベクターを選択マーカーとともに用いていずれの所望の遺伝子からでも選択できる。真核プロモーターとしてはCMV前初期、HSVチミジンキナーゼ、初期および後期SV40、レトロウイルス由来のLTR、およびマウスメタロチオネイン-Iが挙げられる。適当なベクターおよびプロモーターの選択は十分当業者のレベルの範囲内にあり、本明細書では結合ドメイン-免疫グロブリン融合ポリペプチドをコードする核酸と作動可能なように連結された少なくとも1つのプロモーターまたは調節プロモーターを含む特定の特に好ましい組換え発現構築物の製造を記載する。
【0111】
高等真核生物による本発明のポリペプチドをコードするDNAの転写はベクターにエンハンサー配列を挿入することによって増強することができる。エンハンサーとは、プロモーターに作用してその転写を増強する通常約10〜300bpの、DNAのcis作用エレメントである。例としては複製起点の後期部位bp100〜bp270のSV40エンハンサー、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後期部位のポリオーマエンハンサー、およびアデノウイルスエンハンサーが挙げられる。
【0112】
本明細書で示されるように、特定の実施形態では、このベクターはレトロウイルスベクターなどのウイルスベクターであってもよい(Miller et al., 1989 BioTechniques 7:980; Coffin and Varmus, 1996 Retroviruses, Cold Spring Harbor Laboratory Press, NY.)。例えばレトロウイルスプラスミドベクターを誘導し得るレトロウイルスとしては、限定されるものではないが、モロニーネズミ白血病ウイルス、脾臓壊死ウイルス、レトロウイルス(ラウス肉腫ウイルス、ハーヴィー肉腫ウイルス、鳥類白血症ウイルス、テナガザル白血病ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、アデノウイルス、骨髄増殖性肉腫ウイルス、および乳癌ウイルスなど)が挙げられる。
【0113】
レトロウイルスは複製し、DNA中間体を通じて宿主細胞のゲノムに組み込まれ得るRNAウイルスである。このDNA中間体、すなわちプロウイルスは宿主細胞のDNAへ安定して組み込まれる。本発明の特定の実施形態によれば、ワクチンは、通常のレトロウイルスRNAの代わりに外来タンパク質をコードする外来遺伝子が組み込まれているレトロウイルスを含み得る。レトロウイルスRNAが感染と同時に宿主細胞に入る際、この外来遺伝子も細胞に導入され、その後、それがレトロウイルスゲノムの一部であったかのように宿主細胞DNAへ組み込まれる。宿主内でこの外来遺伝子が発現すると、外来タンパク質が発現することになる。
【0114】
遺伝子治療向けに開発されたほとんどのレトロウイルスベクター系はネズミレトロウイルスを基にしたものである。このようなレトロウイルスはビリオンと呼ばれる遊離型のウイルス粒子として、または宿主細胞DNAへ組み込まれたプロウイルスとしての2形態で存在する。ビリオン形態のウイルスはレトロウイルスの構造タンパク質および酵素タンパク質(逆転写酵素を含む)、ウイルスゲノムの2つのRNAコピー、およびウイルスエンベロープ糖タンパク質を含有するソース細胞の原形質膜部分を含む。このレトロウイルスゲノムは4つの主要領域、すなわち転写の開始と終結に必要なcis作用エレメントを含み、コード遺伝子の5'および3'双方に位置する長い末端反復配列(LTR)、ならびに3つのコード遺伝子gag、pol、およびenvへと組織される。これらの3つの遺伝子gag、pol、およびenvはそれぞれ内部ウイルス構造、酵素タンパク質(インテグラーゼなど)、およびウイルスの感染力と宿主域特異性を付与するエンベロープ糖タンパク質(gp70およびp15eと呼ばれる)、ならびにまだ機能の同定されていない「R」ペプチドをコードする。
【0115】
本発明により提供されるワクチンにおけるそれらの使用をはじめ、レトロウイルスの使用に関する安全的懸念のため、個別のパッケージング細胞系統およびベクター産生細胞系統が開発されている。要するに、この方法論ではレトロウイルスベクターとパッケージング細胞系統(PCL)の二成分の使用を採用する。レトロウイルスベクターは長い末端反復配列(LTR)、導入する外来DNAおよびパッケージング配列(y)を含む。このレトロウイルスベクターは構造タンパク質およびエンベロープタンパク質をコードする遺伝子をベクターゲノム内に含まないのでそれ自体は再生しない。PCLはgag、pol、およびenvタンパク質をコードする遺伝子を含むが、パッケージングシグナル「y」を含まない。従って、PCLそれ自体によっては空のビリオン粒子しか形成することができない。この一般法の中では、レトロウイルスベクターをPCLに導入し、それによりベクター産生細胞系統(VCL)を作り出す。このVCLはレトロウイルスベクターの(外来の)ゲノムのみを含むビリオン粒子を作り、従って、これまでのところ治療用として安全なレトロウイルスベクターであると考えられている。
【0116】
「レトロウイルスベクター構築物」とは、本発明の好ましい実施形態では、結合ドメイン-免疫グロブリン融合物コード核酸配列などの目的配列または目的遺伝子の発現を命令し得る集合体をさす。要するに、このレトロウイルスベクター構築物は5' LTR、tRNA結合部位、パッケージングシグナル、第二鎖DNA合成の起点および3' LTRを含んでいなければならない。例えば、タンパク質(例えば、細胞傷害性タンパク質、疾病関連抗原、免疫補助分子、または置換遺伝子)をコードする配列、または分子それ自体として有用なもの(例えば、リボザイムまたはアンチセンス配列)をはじめ、ベクター構築物には多様な異種配列を含め得る。
【0117】
本発明のレトロウイルスベクター構築物は、例えばB、CおよびD型レトロウイルス、ならびにスプマウイルスおよびレンチウイルスをはじめとする多様なレトロウイルスから容易に構築することができる(例えば、RNA Tumor Viruses, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory, 1985参照)。このようなレトロウイルスはAmerican Type Culture Collection ("ATCC"; Rockville, Maryland)などの寄託先またはコレクションから容易に得られるか、または一般に利用可能な技術を用いて既知起源から単離することができる。上記のレトロウイルスはいずれも、本明細書の開示および標準的な組換え技術(例えば、Sambrook et al, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2d ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989; Kunkle, PNAS 82:488, 1985)に示される本発明のレトロウイルスベクター構築物、パッケージング細胞、または産生細胞を組立てまたは構築すべく容易に使用できる。
【0118】
一般にウイルスベクターで用いるのに好適なプロモーターとしては、限定されるものではないが、レトロウイルスLTR;SV40プロモーター;およびMiller, et al., Biotechniques 7:980-990 (1989)に記載のヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、またはその他いずれかのプロモーター(例えば、限定されるものではないが、ヒストン、pol III、およびβ-アクチンプロモーターをはじめとする真核細胞プロモーターなどの細胞プロモーター)が挙げられる。用い得るその他のプロモーターとしては、限定されるものではないが、アデノウイルスプロモーター、チミジンキナーゼ(TK)プロモーター、およびB19パルボウイルスプロモーターが挙げられる。好適なプロモーターの選択は、当業者には本明細書に含まれている教示から明らかであり、上記のような調節プロモーターまたはプロモーターのいずれかから選択すればよい。
【0119】
上記のように、パッケージング細胞系統に形質導入して産生細胞系統を形成するにはレトロウイルスプラスミドベクターを用いる。トランスフェクトし得るパッケージング細胞の例としては、限定されるものではないが、PE501、PA317、Ψ-2、Ψ-AM、PA12、T19-14X、VT-19-17-H2、ΨCRE、ΨCRIP、GP+E-86、GP+envAm12、およびMiller, Human Gene Therapy, 1:5-14 (1990)に記載のDNA細胞系統が挙げられる。このベクターは当技術分野で公知のいずれかの手段によってパッケージング細胞に形質導入し得る。このような手段としては、限定されるものではないが、エレクトロポレーション、リポソームの使用、およびCaPO4沈殿法が挙げられる。1つの選択肢としては、レトロウイルスプラスミドベクターをリポソームに封入するか脂質と結合させた後、宿主に投与してもよい。
【0120】
産生細胞系統は結合ドメイン-免疫グロブリン融合ポリペプチドまたは融合タンパク質をコードする核酸配列を含む感染力のあるレトロウイルスベクター粒子を生じる。次に、このようなレトロウイルスベクター粒子を用いてin vitroまたはin vivoのいずれかで真核細胞に形質導入すればよい。形質導入された真核細胞は結合ドメイン-免疫グロブリン融合ポリペプチドまたは融合タンパク質をコードする核酸配列を発現する。形質導入し得る真核細胞としては、限定されるものではないが、胚幹細胞ならびに造血系幹細胞、肝細胞、繊維芽細胞、循環末梢血単球および骨髄単球をはじめとする多形核細胞、リンパ球、筋芽細胞、組織マクロファージ、樹状細胞、クップファー細胞、リンパ節および脾臓のリンパ様細胞および網内皮細胞、ケラチノサイト、内皮細胞および気管支上皮細胞が挙げられる。
【0121】
ウイルスベクターを用いて組換え結合ドメイン-免疫グロブリン融合発現構築物を製造する本発明の実施形態のもう1つの例として、ある好ましい実施形態では、結合ドメイン-免疫グロブリン融合ポリペプチドまたは融合タンパク質の発現を命令する組換えウイルス構築物によって形質導入された宿主細胞は、ウイルスの出芽の際、ウイルス粒子により組み込まれた宿主細胞膜の部分に由来する発現結合ドメイン-免疫グロブリン融合ポリペプチドまたは融合タンパク質を含有するウイルス粒子を生じ得る。
【0122】
もう1つの態様では、本発明は、上記の組換え結合ドメイン-免疫グロブリン融合発現構築物を含む宿主細胞に関する。宿主細胞は、本発明のベクターおよび/または発現構築物(例えばクローニングベクター、シャトルベクターまたは発現構築物であってもよい)で遺伝子操作(形質導入、形質転換またはトランスフェクト)される。このベクターまたは構築物は例えばプラスミド、ウイルス粒子、ファージなどの形態であってもよい。これら操作された宿主細胞は、プロモーターの活性化、形質転換体の選択、または結合ドメイン-免疫グロブリン融合ポリペプチドまたは結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質をコードする遺伝子などの特定の遺伝子の増幅に適当なように改変した 従来の栄養培地で培養することができる。温度、pHなど、発現のために選択された個々の宿主の培養条件は当業者ならば容易に明らかとなる。
【0123】
宿主細胞は哺乳類細胞などの高等真核細胞または酵母細胞などの下等真核細胞であってもよく、あるいは宿主細胞は細菌細胞などの原核細胞であってもよい。本発明の適当な宿主細胞の代表例としては、限定されるものではないが、大腸菌、放線菌(Streptomyces)、ネズミチフス菌(Salmonella tyvphimurium)などの細菌細胞;酵母などの真菌細胞;ドロソフィラ(Drosophila)S2およびスポドプテラ(Spodoptera)Sf9などの昆虫細胞;CHO、COSまたは293細胞などの動物細胞;アデノウイルス;植物細胞、あるいはin vitro増殖にすでに適合されているか、またはそのようにde novoで確立された好適ないずれかの細胞が挙げられる。適当な宿主の選択は本明細書の教示から当業者の範囲内にあるものと思われる。
【0124】
種々の哺乳類細胞培養系を用いて組換えタンパク質を発現させることができる。哺乳類発現系の例としては、Gluzman, Cell 23:175 (1981)に記載されているサル腎繊維芽細胞のCOS-7系統、ならびに例えばC127、3T3、CHO、HeLaおよびBHK細胞系統などの適合ベクターを発現し得る他の細胞系統が挙げられる。哺乳類発現ベクターは複製起点、好適なプロモーターおよびエンハンサーを含み、また、例えば結合ドメイン-免疫グロブリン融合発現構築物の製造に関して本明細書に記載されているものなど、必要があればリボゾーム結合部位、ポリアデニル化部位、スプライス供与部位および受容部位、転写終結配列、および5'フランキング非転写配列を含む。SV40スプライス部位およびポリアデニル化部位に由来するDNA配列を用いて必要な非転写遺伝エレメントを提供してもよい。宿主細胞へのこの構築物の導入は、限定されるものではないが、例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAEデキストラン媒介トランスフェクション、またはエレクトロポレーション(Davis et al., 1986 Basic Methods in Molecular Biology)をはじめとする当業者に公知の種々の方法によって達成することができる。
【0125】
本発明の結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質は周知の方法による投与向けの医薬組成物へと調剤できる。医薬組成物は一般に1以上の組換え発現構築物、および/またはそのような構築物の発現産物を、医薬上許容される担体、賦形剤または希釈剤と組み合わせて含む。このような担体は用いる用量および濃度でレシピエントに無毒なものである。核酸を基にした製剤、または本発明の組換え構築物の発現産物を含む製剤としては、約0.01μg/kg〜約100mg/体重kgを典型的には皮内、皮下、筋肉内または静脈経路、あるいはその他の経路によって投与する。好ましい用量は約1μg/kg〜約1mg/kgであり、約5μg/kg〜約200μg/kgが特に好ましい。当業者ならば投与の回数および頻度が宿主の応答によって異なることが明らかであろう。治療用途の「医薬上許容される担体」は製薬分野で周知のものであり、例えばRemingtons Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co. (A.R. Gennaro edit. 1985)に記載されている。例えば、滅菌生理食塩水およびリン酸緩衝生理食塩水を生理学的pHで用いればよい。この医薬組成物には保存剤、安定剤、染料および香味剤も供してよい。例えば安息香酸ナトリウム、ソルビン酸およびp-ヒドロキシ安息香酸エステルを保存剤として添加してもよい(同上、1449)。さらに抗酸化剤および沈殿防止剤を用いてもよい(同上)。
【0126】
「医薬上許容される塩」とは、このような化合物および有機もしくは無機酸(酸付加塩)または有機もしくは無機塩基(塩基付加塩)の組合せから誘導される本発明の化合物の塩をさす。本発明のこれらの化合物は遊離塩基または塩形態のいずれで用いてもよく、両形体とも本発明の範囲内にあるとみなされる。
【0127】
1以上の結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質コード構築物(またはそれらの発現産物)を含む医薬組成物は、その組成物の患者への投与を可能とするいずれの形態であってもよい。例えば、この組成物は固体、液体または気体(エアゾール)の形態であってもよい。典型的な投与経路としては、限定されるものではないが、経口、局所、非経口(舌下または口内)、舌下、直腸、膣および鼻内が挙げられる。本明細書において非経口とは、皮下注射、静脈内、筋肉内、胸骨内、海綿内、くも膜下内、道内、尿道内注射または点滴法が挙げられる。この医薬組成物は、組成物を患者に投与した際にそこに含まれる有効成分がバイオアベラブルとなるように調剤する。患者へ投与する組成物は1以上の投与単位の形態をとり、例えば錠剤は単一の投与単位であり、エアゾール形態の本発明の1以上の化合物の容器は複数投与単位であり得る。
【0128】
経口投与としては、賦形剤および/または結合剤が存在してもよい。例としてスクロース、カオリン、グリセリン、デンプンデキストリン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、およびエチルセルロースが挙げられる。着色剤および/または香味剤が存在してもよい。コーティング剤皮を用いてもよい。
【0129】
組成物は例えばエリキシル、シロップ、溶液、エマルションまたは懸濁液などの液体形態であってもよい。液体は二例として経口投与用または注射送達用であり得る。経口投与を意図する場合、好ましい組成物は1以上の結合ドメイン-免疫グロブリン融合構築物または発現産物の他、1以上の甘味剤、保存剤、染料/着色剤および香味強化剤を含む。注射投与を意図する組成物では、1以上の界面活性剤、保存剤、湿潤剤、分散剤、沈殿防止剤、バッファー剤、安定剤、および等張剤を含んでもよい。
【0130】
本明細書において液体医薬組成物は、溶液であれ懸濁液であれ、その他も同様の形態であっても、以下の1以上のアジュバントを含んでよい:注射水、塩水、好ましくは生理食塩水、リンゲル液、等張塩化ナトリウム、溶媒または懸濁媒として用いられる合成モノもしくはジグリセリドなどの固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたはその他の溶媒などの滅菌希釈剤;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸または重亜硫酸ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;酢酸、クエン酸またはリン酸などのバッファー、および塩化ナトリウムもしくはデキストロースなどの張力調節剤。
【0131】
非経口製剤はガラスまたはプラスチック製のアンプル、ディスポーザブルシリンジ、または多用量バイアルに封入することができる。生理食塩水が好ましいアジュバントである。注射用医薬組成物は滅菌することが好ましい。
【0132】
また製剤中には、限定されるものではないが、アルミニウム塩、油中水エマルション、生分解性オイルビヒクル、水中油エマルション、生分解性マイクロカプセル、およびリポソームをはじめとする送達ビヒクルなどの他の成分を含むことも望まれる。このようなビヒクルにおいて用いられる免疫刺激物質(アジュバント)の例としては、N-アセチルムラミル-L-アラニン-D-イソグルタミン(MDP)、リポポリ多糖類(LPS)、グルカン、IL-12、GM-CSF、γインターフェロンおよびIL-15が挙げられる。
【0133】
本発明の医薬組成物には当業者に公知の好適な担体はいずれも用い得るが、担体の種類は投与様式および徐放性が求められるかどうかによって異なる。皮下注射などの非経口投与では、担体は好ましくは水、塩水、アルコール、油脂、ワックスまたはバッファーを含む。経口投与では上記担体またはマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、ナトリウムサッカリン、タルク、セルロース、グルコース、スクロースおよび炭酸マグネシウムなどの固形担体はいずれも用い得る。生分解性ミクロスフェア(例えば、ポリ乳酸ガラクチド)も本発明の医薬組成物の担体として用い得る。好適な生分解性ミクロスフェアは例えば米国特許第4,897,268号および同第5,075,109号に開示されている。これに関しては、ミクロスフェアがおよそ25μより大きいことが望ましい。
【0134】
医薬組成物はまた、バッファーなどの希釈剤、アスコルビン酸などの抗酸化剤;低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質;アミノ酸;グルコース、スクロースまたはデキストリンをはじめとする炭水化物;EDTAなどのキレート剤、グルタチオン、ならびにその他の安定剤および賦形剤を含んでもよい。中性緩衝塩水または非特異的血清アルブミンと混合した塩水は適当な希釈剤の例である。好ましくは製剤は希釈剤として適当な賦形剤溶液(例えば、スクロース)を用いて凍結乾燥物として調剤する。
【0135】
上記のように、本発明は結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質をコードする核酸分子を送達し得る組成物を含む。このような組成物としては組換えウイルスベクター(例えば、レトロウイルス(WO90/07936、WO91/02805、WO93/25234、WO93/25698、およびWO94/03622参照)、アデノウイルス(Berkner, Biotechniques 6:616-627, 1988; Li et al., Hum. Gene Ther. 4:403-409, 1993; Vincent et al., Nat. Genet. 5:130-134, 1993;およびKolls et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:215-219, 1994参照)、ポックスウイルス(米国特許第4,769,330号、同第5,017,487号、およびWO89/01973参照)、ポリ陽イオン分子と複合化した組換え発現構築物核酸分子(WO93/03709参照)、およびリポソームと会合した核酸(Wang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:7851, 1987参照)が挙げられる。特定の実施形態では、このDNAは死滅または不活性化アデノウイルスと結合させてもよい(Curiel et al., Hum. Gene Ther. 3:147-154, 1992; Cotton et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:6094, 1992参照)。他の好適な組成物としてはDNA-リガンド(Wu et al., J. Biol. Chem. 264:16985-16987, 1989参照)および脂質-DNAの組合せ(Felgner et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:7413-7417, 1989参照)が挙げられる。
【0136】
直接in vivo法の他、宿主細胞から細胞を取り出し、改変して、同じまたは別の宿主動物に入れるex vivo法を用いてもよい。ex vivoに関して結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質または結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質コード核酸分子を組織細胞へ導入するのに、上記で示したいずれの組成物を用いてもよいことは明らかである。ウイルス的、生理的および化学的取り込み法のプロトコールは当技術分野で周知のものである。
【0137】
よって、本発明はB細胞疾患または悪性症状を有する患者の治療、あるいはこのような患者に由来する細胞培養物の処置に有用である。本明細書において「患者」とは、温血動物、好ましくはヒトをさす。患者はB細胞リンパ腫などの癌に罹患していても正常(すなわち、検出可能な疾病および感染がない)であってもよい。「細胞培養物」とは、ex vivo処理に従ういずれかの調製物であり、例えば免疫担当細胞または免疫系の単離細胞(限定されるものではないが、T細胞、マクロファージ、単球、B細胞および樹状細胞を含む)を含む調製物がある。このような細胞は当業者に周知の種々の技術のいずれによって単離してもよい(例えば、フィコール-ハイパーク密度勾配遠心分離)。細胞は(必ずしもその必要はないが)B細胞疾患または悪性症状に罹患した患者から単離されたものであって、処置後に患者に再導入されるものであってもよい。
【0138】
非経口または経口投与のいずれかを意図した液体組成物は好適な用量が得られるような量の結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質コード構築物または発現産物を含んでいなければならない。典型的には、この量は組成物中、結合ドメイン-免疫グロブリン融合物構築物または発現産物の少なくとも0.01重量%である。経口投与を意図する場合、この量は組成物重量の0.1から約70%の間で異なる。好ましい経口組成物は約4%から約50%の間の結合ドメイン-免疫グロブリン融合構築物または発現産物を含有する。好ましい組成物および製剤としては、非経口投与単位が有効化合物0.01から1重量%となるように調製する。
【0139】
この医薬組成物は、担体が溶液、エマルション、軟膏またはジェル基剤を適宜含み得る場合には局所投与も意図し得る。例えば基剤は以下のものの1以上を含み得る:ワセリン、ラノリン、ポリエチレングリコール、蜜蝋、鉱油、水およびアルコールなどの希釈剤、ならびに乳化剤および安定剤。局所投与用医薬組成物中には増粘剤が存在してもよい。経皮投与を意図する場合には、組成物は経皮パッチまたはイオン導入装置を含んでもよい。局所製剤は約0.1から約10% w/v(単位容量当たりの重量)の濃度の結合ドメイン-免疫グロブリン融合構築物または発現産物を含めばよい。
【0140】
この組成物は例えば直腸内で融解して薬剤を放出する坐剤の形態で直腸投与を意図してもよい。直腸投与用の組成物は好適な無刺激性賦形剤として油性基剤を含み得る。このような基剤としては、限定されるものではないが、ラノリン、カカオ脂、およびポリエチレングリコールが挙げられる。
【0141】
本発明の方法では、結合ドメイン-免疫グロブリン融合物コード構築物または発現産物はインサート、ビーズ、徐放性製剤、パッチ、または速放性製剤の使用によって投与してもよい。
【0142】
以下の実施例は例示のために示すものであって、これに限定されない。
【実施例1】
【0143】
2H7可変領域のクローニングと2H7scFV-Igの構築および配列決定
本実施例はモノクローナル抗体2H7の重鎖および軽鎖可変領域をコードするcDNA分子のクローニングについて示す。本実施例はまた2H7scFv-Igの構築、配列決定および発現についても示す。
【0144】
CD20と特異的に結合する2H7モノクローナル抗体を発現するハイブリドーマ細胞はワシントン州立大学(Seattle, WA)のEd Clarkにより提供されたものである。採取に先立ち、ハイブリドーマ細胞はグルタミン、ピルビン酸、DMEM非必須アミノ酸、およびペニシリン-ストレプトマイシンを添加したRPMI 1640培地(Life Technologies, Gaithersburg, MD)中で数日間、対数増殖期で維持した。細胞を遠心分離により培地からペレット化し、2×107細胞を用いてRNAを調製した。Pharmingen (San Diego, CA)全RNA単離キット(カタログ番号45520K)を用いキットに付随する製造業者の説明書に従って2H7産生ハイブリドーマ細胞からRNAを単離した。1□gの全RNAを鋳型として用い、逆転写によりcDNAを調製した。RNAおよび300ngのランダムプライマーを合わせ、酵素の添加前に72℃で10分間変性させた。酵素を添加した5X第二鎖バッファーおよび0.1M DTTの存在下、Superscript II逆転写酵素(Life Technologies)をRNAとプライマー混合物へ総量25□lで添加した。逆転写反応を42℃で1時間進行させた。
【0145】
ランダムプライム逆転写酵素反応で生成した2H7 cDNAおよびV領域特異的プライマーを用い、PCRにより2H7抗体の軽鎖および重鎖可変領域を増幅した。このV領域特異的プライマーは公開されている配列(Genbank受託番号はVLがM17954、VHがM17953)を指標として用いてデザインした。この2つの可変鎖を適合末端配列を用い、増幅および制限酵素消化の後にこの2つのV領域を連結することによってscFvが構築できるようにデザインした。
【0146】
この2つのV領域の間に挿入される(gly4ser)3 ペプチドリンカーを、2H7のVLのアンチセンスプライマーに付加的なヌクレオチドを加えることで組み込んだ。またSac I制限部位もこの2つのV領域の間の接合部に導入した。HindIII制限部位と軽鎖リーダーペプチドを含み、2H7 VLの増幅に用いたセンスプライマーは、5'-gtc aag ctt gcc gcc atg gat ttt caa gtg cag att ttt cag c-3'(配列番号__)であった。アンチセンスプライマーは、5'-gtc gtc gag ctc cca cct cct cca gat cca cca ccg ccc gag cca ccg cca cct ttc agc tcc agc ttg gtc cc-3'(配列番号__)であった。V領域のリーディングフレームは太字の下線のコドンで示し、HindIIIおよびSacI部位は斜体下線の配列で示す。
【0147】
VHドメインはリーダーペプチドを用いずに増幅したが、VLとの融合のための5' SacI制限部位、ならびにヒトIgG1 Fcドメインおよび末端切断型CD40リガンドであるCD154をはじめとする種々のテールとの融合のための3’末端にBclI制限部位を含んだ。センスプライマーは、5'-gct gct gag ctc tca ggc tta tct aca gca agt ctg g-3'(配列番号__)であった。SacI部位は斜体下線フォントで示し、VHドメインの最初のアミノ酸コドンのリーディングフレームは太字下線で示す。アンチセンスプライマーは5'-gtt gtc tga tca gag acg gtg acc gtg gtc cc-3'(配列番号__)であった。BclI部位は斜体下線で示し、VHドメイン配列の最後のセリンは太字下線で示す。
【0148】
2H7 scFv HindIII-BclI断片をヒトIgG1ヒンジ、CH2、およびCH3領域を含み、制限酵素HindIIIおよびBclIで消化したpUC19へ挿入することでscFv-Igを構築した。連結後、連結産物をDH5α菌へ形質転換した。診断部位として2H7のVL-VH接合部にあるSacI部位を用い、適切に断片が挿入されたかどうかで陽性クローンをスクリーニングした。この2H7scFv-Ig cDNAに対して、PE 9700サーモサイクラーにて96℃10秒の変性、50℃30秒のアニーリング、および72℃4分の伸張による25サイクルのプログラムを用い、サイクルシーケンシングを行った。シーケンシングプライマーはpUCフォワードおよびリバースプライマーならびにIgG不変領域部分においてヒトCH2ドメインとアニーリングされた内部プライマーとした。シーケンシング反応はBig Dye Terminator Ready Sequencing Mix (PE-Applied Biosystems, Foster City, CA)を製造業者の説明書に従って用いて行った。次に、Centrisepカラム(カタログ番号CS-901, Princeton Separations, Adelphia, N.J.)を用いてサンプルを精製し、Savant真空乾燥機で溶出物を乾燥させ、Template Suppression Reagent (PE-ABI)で変性し、ABI 310 Genetic Analyzer (PE-Applied Biosystems)で解析した。配列を編集、翻訳し、Vector Ntiバージョン6.0 (Informax, North Bethesda, MD)を用いて解析した。図1は2H7scFv-Ig構築物のcDNAおよび推定アミノ酸配列を示す。
【実施例2】
【0149】
安定なCHO細胞系統における2H7scFV-Igの発現
本実施例は真核細胞系統における2H7scFv-Igの発現、ならびにSDS-PAGEによる、また、ADCCおよび補体結合を含む機能的アッセイによる発現2H7scFv-Igの特性決定について示す。
【0150】
正確な配列の2H7scFv-Ig HindIII-XbaI(〜1.6kb)断片を哺乳類発現ベクターpD18へ挿入し、陽性クローン由来のDNAをQIAGENプラスミド調製キット(QIAGEN, Valencia, CA)を用いて増幅した。次に、組換えプラスミドDNA(100□g)をAscI消化により非必須領域で線状化し、フェノール抽出により精製し、組織培養培地Excell 302(カタログ番号14312-79P, JRH Biosciences, Lenexa, KS)に再懸濁させた。トランスフェクション用の細胞CHO DG44細胞は対数増殖期で維持し、各トランスフェクション反応につき107細胞を採取した。エレクトロポレーションのため、線状DNAをこのCHO細胞に総量0.8mlで加えた。
【0151】
2H7 scFv-Ig融合タンパク質(配列番号10)の安定生産は、CMVプロモーターの制御下に2H7 scFv-Ig cDNAを含む選択的増幅プラスミドpD18の、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞へのエレクトロポレーションによって達成した。2H7発現カセットを〜1.6kb HindIII-XbaI断片としてベクター多重クローニング部位のCMVプロモーターの下流にサブクローニングした。このpD18ベクターはプラスミドの選択圧を高めるべく弱化したプロモーターとともにDHFR選択マーカーをコードするpcDNA3である。Qiagen maxiprepキットを用いてプラスミドDNAを調製し、精製したプラスミドを固有AscI部位で線状化した後、フェノール抽出およびエタノール沈降を行った。サケ精子DNA(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)を担体DNAとして加え、各100□gのプラスミドおよび担体DNAを用いてエレクトロポレーションにより107 CHO DG44細胞をトランスフェクトした。細胞をグルタミン(4mM)、ピルビン酸、組換えインスリン、ペニシリン-ストレプトマイシン、および2X DMEM非必須アミノ酸(全てLife Technologies, Gaithersburg, Marylandより)を含有するExcell 302培地(JRH Biosciences)(以下、「Excell 302完全」培地と呼ぶ)で対数増殖期まで増殖させた。非トランスフェクト細胞用の培地にはHT(ヒポキサンチンおよびチミジンの100X溶液から希釈)(Life Technologies)も含んだ。選択下のトランスフェクション用培地には選択剤として50nM〜5□Mの範囲の種々のレベルのメトトレキサート(Sigma-Aldrich)を含んだ。エレクトロポレーションは275ボルト、950□Fで行った。トランスフェクト細胞を非選択培地で一晩回復させた後、96ウェル平底プレート(Costar)に125細胞/ウェル〜2000細胞/ウェルの範囲の種々の希釈シリーズで選択平板培養した。細胞のクローニング用の培地は100nMのメトトレキサートを含有するExcell 302完全培地とした。クローン増殖が十分となったところでマスターウェルからの培養上清の希釈シリーズについてCD20-CHOトランスフェクト細胞と結合するかどうかスクリーニングする。融合タンパク質の産生の最も高いクローンをT25次いでT75フラスコと拡張し、冷凍および2H7scFvIgのスケールアップ生産に十分な数の細胞を得た。さらに、メトトレキサート含有培地で連続的に増幅することで3つのクローン由来の培養物の産生レベルを高めた。細胞の各連続継代培養では、Excell 302完全培地には増加濃度のメトトレキサートを含み、DHFRプラスミドを増幅した細胞だけが生き残るようにした。
【0152】
2H7scFv-Igを発現するCHO細胞から上清を回収し、0.2□mのPES発現フィルター(Nalgene, Rochester, NY)で濾過し、Aタンパク質-アガロース(IPA 300架橋アガロース)カラム(Repligen, Needham, MA)に通した。このカラムをPBSで洗浄した後、結合したタンパク質を0.1Mクエン酸バッファーpH3.0で溶出した。画分を回収し、溶出タンパク質を1M Tris, pH 8.0で中和した後、PBS中で一晩透析した。精製した2H7scFv-Ig(配列番号__)の濃度は280nmの吸光度で測定した。Vector Ntiバージョン6.0ソフトウエアパッケージ(Informax, North Bethesda, MD)を用い、吸光率1.77が測定された。このプログラムはアミノ酸組成を用いて吸光率を算出するものである。
【0153】
トランスフェクトされた安定なCHO細胞による2H7scFv-Igの産生レベルはフローサイトメトリーで分析した。精製したCHO細胞に対する2H7scFv-IgをCD20を発現したCHO細胞(CD20 CHO)に結合させ、フルオレセイン結合抗ヒトIgG セカンドステップリージェント(カタログ番号H10101およびH10501, CalTag, Burlingame, CA)を用い、フローサイトメトリーにより分析した。図2(上)はCD20 CHOに結合している2H7scFv-Igを滴定することで作製した標準曲線を示す。各濃度の2H7scFv-Igに対し、フルオレセインシグナルの平均明度が直線上に示されている。次に、2H7scFv-Igを発現する安定なCHO細胞クローンを含むTフラスコから回収した上清をCD20 CHOと結合させ、その結合をフローサイトメトリーによって分析した。上清に含まれていた2H7scFv-Igによって生じたフルオレセインシグナルを測定し、上清中の2H7scFv-Ig濃度を標準曲線から算出した(図2、下)。
【0154】
精製した2H7scFv-Ig(配列番号__)をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動により解析した。それぞれAタンパク質アガロースカラムに流すことにより精製した2H7scFv-Igサンプルをジスルフィド結合を還元しないSDSサンプルバッファー中で煮沸し、SDS 10% Tris-BISゲル(カタログ番号NP0301, Novex, Carlsbad, CA)に適用した。各精製バッチ20μgをゲルにロードした。電気泳動後、クーマシーブルー染色(Pierce Gel Code Blue Stain Reagent, カタログ番号24590, Pierce, Rockford, IL)によりタンパク質を可視化し、蒸留水中で脱色した。同じゲルに分子量マーカーも含めた(Kaleidoscope Prestained Standards, カタログ番号161-0324, Bio-Rad, Hercules, CA)。結果は図3に示す。レーンの上の数字は各々の精製バッチを示す。図の左側に分子量マーカーの分子量kDaを示す。別のサンプル調製条件を用いたさらなる実験では、DTTまたは2-メルカプトエタノールを含有するSDSサンプルバッファー中でタンパク質を煮沸することでジスルフィド結合を還元すると2H7scFv-Igの凝集が生じることが示された。
【0155】
当技術分野で周知の通常のアッセイを用い、他のいくつかの免疫学的パラメーターをモニタリングしてもよい。これらには例えば抗体依存細胞媒介性細胞傷害作用(ADCC)アッセイ、in vitro二次抗体応答、十分確立されたマーカー抗原系を用いる種々の抹消血またはリンパ系単核細胞部分集団のフロー免疫細胞蛍光測定解析、免疫組織化学またはその他関連のアッセイが含まれる。これらおよびその他のアッセイは例えばRose et al. (Eds.), Manual of Clinical Laboratory Immunology, 5th Ed., 1997 American Society of Microbiology, Washington, DCに見出せる。
【0156】
補体の存在下で2H7scFv-IgがCD20陽性細胞を死滅させる能力はB細胞系統RamosおよびBjabを用いて試験した。このアッセイにはウサギ補体(Pel-Freez, Rogers, AK)を1/10の最終濃度で用いた。精製2H7scFv-IgをB細胞および補体とともに37℃で45分間インキュベートした後、トリパンブルー排除により生細胞と死細胞を計数した。図4Aの結果はウサギ補体の存在下で2H7scFv-IgがCD20を発現するB細胞を溶解したことを示す。
【0157】
末梢血単核細胞(PBMC)の存在下、2H7scFv-IgがCD20陽性細胞を死滅させる能力は、100:1比のPBMCおよびBjabを用い、4時間のアッセイ中、標識Bjab細胞からの51Crの放出を測定することにより試験した。図4Bに示される結果は、PBMCおよび2H7scFv-Igの双方の存在下ではPBMCまたは2H7scFv-Igいずれか単独の存在下よりも51Crの放出が高いことから、2H7scFv-Igが抗体依存細胞傷害作用(ADCC)を媒介し得ることが示された。
【実施例3】
【0158】
正常B細胞の増殖およびCD95の発現に対するCD20およびCD40の同時連結の作用、ならびにアポトーシスの誘導
本実施例は細胞増殖に対する細胞表面で発現したCD20およびCD40の架橋の作用について示す。
【0159】
稠密な休止B細胞をヒト扁桃からパーコール密度勾配によって単離し、Eロゼット形成試験によりT細胞を取り出した。休止中の稠密な扁桃B細胞の増殖は4日間の実験のうち最後の12時間の3[H]-チミジン取り込みによって測定した。示されたように、増殖は4回の培養における平均値±標準誤差として測定した。ネズミ抗ヒトCD20 mAb 1F5は単独で用いるか(抗CD20)、または抗ネズミκmAb 187.1と架橋した(抗CD20XL)。CD40の活性化はネズミCD8と融合した可溶性ヒトCD154(CD154)(Hollenbaugh et al., EMBO J. 11: 4212-21 (1992))を用いて行い、CD40の架橋は抗ネズミCD8 mAb 53-6 (CD154XL)を用いて行った。この手順により細胞表面におけるCD20およびCD40の同時架橋が可能であった。結果は図5に示す。
【0160】
Bリンパ腫細胞系統であるRamos細胞に対するCD20およびCD40架橋の作用を調べた。CD20(1F5)およびCD40(G28-5)と特異的に結合するネズミmAbを用いた処理(ヤギ抗マウスIgG(GAM)は含まない)および/または架橋(+GAM)8時間後のRamos細胞のCD95(Fas)発現およびアポトーシス%を分析した。対照はCD3に特異的な非結合イソ型対照(64.1)で処理した。
【0161】
処理したRamos細胞を回収し、FITC-抗CD95とともにインキュベートし、フローサイトメトリーによる分析で、CD20またはCD40架橋後の細胞表面のFasの相対的発現レベルを求めた。データは示された刺激による処理後の細胞の平均蛍光としてプロットしたものである(図6A)。
【0162】
同じ実験の、処理したRamos細胞を採取し、アネキシンVの結合を測定して処理した培養物におけるアポトーシス%を示した。アポトーシスは、1F5およびG28-5を用いてCD20およびCD40を架橋してから18時間後にアネキシンVを結合させ、その後、GAMと架橋させることで測定した。アネキシンVの結合はFITC-アネキシンVキット(カタログ番号PN-IM2376, Immunotech, Marseille, France)を用いて測定した。アネキシンVの結合は細胞がアポトーシスへと進む初期段階であることが知られている。アポトーシス、すなわちプログラムされた細胞死は自殺による細胞死をもたらす異化反応のカスケードを特徴とするプロセスである。アポトーシスの初期段階において、細胞が形態変化してDNAを加水分解するまでは細胞膜の完全性は維持されるが、細胞は膜のリン脂質の非対称性を失い、細胞表面にホスファチジルセリンなどの負電荷リン脂質が露出する。カルシウムおよびリン脂質結合タンパク質であるアネキシンVは優先的かつ高い親和性でホスファチジルセリンと結合する。FASレセプター(CD95)の発現に対するCD20およびCD40両者の架橋の作用を示す結果が図6Bに示されている。細胞へのアネキシンVの結合に対するCD20およびCD40両者の架橋の作用は図6Bに示されている。
【実施例4】
【0163】
2H7 scFV-CD154融合タンパク質の構築および特性決定
CD20およびCD40の両者と結合し得る分子を構築するため、2H7 scFvをコードするcDNAをCD40リガンドであるCD154をコードするcDNAと融合させた。この2H7 scFvIg構築物から、HindIII-BclI断片にコードされている2H7 scFv cDNAを取り出し、ヒトCD154の細胞外ドメインをコードするBamHI-XbaI cDNA断片とともにpD18ベクターに挿入した。この細胞外ドメインは他のII型膜タンパク質と同様、CD154のカルボキシ末端にコードされている。
【0164】
このヒトCD154の細胞外ドメインを、ランダムプライマーおよびPHA(フィトヘマグルチニン)で活性化したヒトTリンパ球由来RNAを用いて作製したcDNAを用いてPCR増幅した。これらのプライマー対は2つの異なる5’またはセンスプライマーを含んでおり、CD154の細胞外ドメイン内の2つの異なる位置に融合接合部を作り出した。2つの異なる融合接合部をデザインし、これらはCD154の細胞外ドメインのアミノ酸108(Glu)-261(Leu)+(Glu)を含む短鎖または末端切断型(S4型)とアミノ酸48(Arg)-261(Leu)+(Glu)を含む長鎖または完全型(L2型)を生じ、両者ともBamHI-XbaI断片として構築されたものである。2つの異なる末端切断型細胞外ドメインと2H7scFvを融合させるセンスプライマーはクローニングのためのBamHI部位を含む。CD154 cDNAのS4型に対するセンスプライマーは配列番号11またはCD154BAM108で示され、以下の配列:5'-gtt gtc gga tcc aga aaa cag ctt tga aat gca a-3'を有する34マーをコードし、一方、アンチセンスプライマーは配列番号12またはCD154XBAで示され、以下の配列:5'-gtt gtt tct aga tta tca ctc gag ttt gag taa gcc aaa gga cg-3'を有する44マーをコードする。
【0165】
アミノ酸48(Arg)-261(Leu)+(Glu)をコードするCD154細胞外ドメインの長鎖型(L2)の増幅に用いるオリゴヌクレオチドプライマーは以下の通りである。センスプライマーはCD154 BAM48(配列番号13)で示され、以下の配列:5'-gtt gtc gga tcc aag aag gtt gga caa gat aga ag-3'を有する35マーをコードする。アンチセンスプライマーはCD154XBA(配列番号__)で示され、5'-gtt gtt tct aga tta tca ctc gag ttt gag taa gcc aaa gga cg-3'の44マーをコードする。その他のPCR反応条件は2H7 scFvの増幅に用いたものと同じとした(実施例1参照)。PCRクイックキット(QIAGEN, San Diego, CA)によりPCR断片を精製し、30□l ddH2Oで溶出し、反応量40□l、37℃にて3時間、BamHIおよびXbaI(Roche)制限エンドヌクレアーゼで消化した。断片をゲル精製し、QIAEXキットを製造業者(QIAGEN)の説明書に従って用いて精製し、HindIII+XbaIで消化したpD18発現ベクター中へ2H7 HindIII-BclI断片とともに連結した。連結反応物をDH5-α化学適合菌へ形質転換し、100□g/mlアンピシリンを含有するLBプレートで平板培養した。形質転換体を37℃で一晩培養し、単離したコロニーを用い、100□g/mlアンピシリンを含有するLuria Broth中3mlの液体培養物へ接種した。ミニプラスミドプレパレーション(QIAGEN)の後、2H7 scFvおよびCD154両者の細胞外ドメイン断片が挿入されているかどうかでクローンをスクリーニングした。
【0166】
2H7scFv-CD154構築物cDNAに対して、PE 9700サーモサイクラーにて96℃10秒の変性、50℃5秒のアニーリングおよび60℃4分の伸張を含む25サイクルを用いてサイクルシーケンシグを行った。用いたシーケンシグプライマーはpD18フォワード(配列番号__: 5'-gtctatataagcagagctctggc-3')およびpD18リバース(配列番号__: 5'-cgaggctgatcagcgagctctagca-3')プライマーであった。さらにヒトCD154配列(配列番号__: 5'-ccgcaatttgaggattctgatcacc-3')と相同性を有する内部プライマーを用いた。シーケンシング反応には3.2pmolのプライマー、およそ200ngのDNA鋳型、および8□lのシーケンシング混合物を含んだ。シーケンシング反応はBig Dye Terminator Ready Sequencing Mix (PE-Applied Biosystems, Foster City, CA)を製造業者の説明書に従って用いて行った。次に、Centrisepカラム(Princeton Separations, Adelphia, NJ)を用いてサンプルを精製した。溶出物をSavant急速真空乾燥機で乾燥させ、20□lのTemplate Suppression Reagent (ABI)中、95oCで2分間変性させ、ABI 310 Genetic Analyzer (PE-Applied Biosystems)で解析した。配列を編集、翻訳し、Vector Ntiバージョン6.0 (Informax, North Bethesda, MD)を用いて解析した。2H7scFv-CD154 L2のcDNA配列および推定アミノ酸は図7Aに示され、2H7scFv-CD154 S4のcDNA配および推定アミノ酸配列は図7Bに示されている。
【0167】
2H7 scFv-CD154融合タンパク質(配列番号: __および__)のCD20およびCD40に対する結合活性はフローサイトメトリーによって同時に測定した。このアッセイではCD20を発現するCHO細胞標的を用いた。2H7 scFv-CD154発現プラスミドでトランスフェクトした細胞からの上清とともにCD20 CHO細胞を45分間インキュベートした後、CD20 CHO細胞を2回洗浄し、PBS/2% FBS中、ビオチン結合CD40-Ig融合タンパク質とともにインキュベートした。45分後、細胞を2回洗浄し、PBS/2% FBS中、1:100で、ヒコエリスリン(PE)標識ストレプトアビジン(Molecular Probes, Eugene OR)とともにインキュベートした。さらに30分間インキュベートした後、細胞を2回洗浄し、フローサイトメトリーにより分析した。結果は2H7 scFv-CD154分子が細胞表面でCD20と結合し、ビオチン結合CD40を溶液から取り込むことができたことを示す(図8)。
【0168】
Bリンパ腫およびリンパ芽球様細胞系統の増殖および生存力に対する2H7scFv-CD154の作用を調べるため、細胞を12時間、2H7scFv-CD154 L2(配列番号__)とともにインキュベートした後、アネキシンVの結合に関して調べた。アネキシンVの結合はFITC-アネキシンVキット(Immunotech, Marseille, France, カタログ番号PN-IM2376)を用いて測定した。B細胞系統を、分泌型の2H7scFv-CD154融合タンパク質を発現する細胞からの上清を濃縮、透析したものの希釈物とともに1ml培養物中でインキュベートした。結果は図9に示す。
【0169】
2H7scFv-CD154の存在下のRamos Bリンパ腫細胞系統の増殖速度を、24時間の培養のうち少なくとも6時間の間の3H-チミジン取り込みによって調べた。細胞増殖に対する2H7scFv-CD154の作用は図10に示されている。
【実施例5】
【0170】
CytoxB抗体誘導体の構築および特性決定
CytoxB抗体は2H7 scFv-IgGポリペプチド由来のものであった。2H7 scFv(実施例1参照)を改変型ヒンジドメイン(11参照)を介してヒトIgG1 Fcドメインと連結した。ヒンジ領域中のシステイン残基を位置指定突然変異誘発およびその他当技術分野で公知の方法によってセリン残基に置換した。この変異型ヒンジを野生型Fcドメインと融合してCytoB-MHWTG1Cと呼ばれる構築物を作出するか、あるいはCH2ドメインにさらなる突然変異を導入した変異型Fcドメイン(CytoxB-MHMG1C)と融合した。エフェクター機能に関連するCH2のアミノ酸残基は図11に示されている。これらの残基の1以上の突然変異はFcR結合およびエフェクター機能の媒介を低下させ得る。本実施例では、2H7 scFv融合タンパク質において、当技術分野でFcレセプター結合に重要であることが分かっているロイシン残基234を変異させた(CytoxB-[MG1H/MG1C])。また別の構築物では、ヒトIgG1ヒンジ領域を、野生型ヒトFcドメインと融合したヒトIgAヒンジ部分に置換した(CytoxB-IgAHWTHG1C)(図11参照)。この変異型ヒンジ領域はヒトIgG1 CH2およびCH3ドメインの機能特性を保持する単量体および二量体分子の混合物を発現させる。これらの分子の合成組換えcDNA発現カセットを構築し、実施例2に記載の方法に従ってポリペプチドをCHODG44細胞で発現させた。
【0171】
CytoxB-scFvIg分子の精製した融合タンパク質誘導体を実施例2に記載の方法に従いSDS-PAGEによって解析した。ポリアクリルアミドゲルの泳動は非還元および還元条件下で行った。2つの異なる分子量マーカーセット、BioRadプレステインマーカー(BioRad, Hercules, CA)およびNovex Multimark分子量マーカーを各ゲルにロードした。種々の構築物およびRituximab(商標)の移動パターンを図12に示す。
【0172】
CytoxB-scFvIg分子の種々の誘導体がADCCを媒介する能力は、標的としてBjab Bリンパ腫細胞を、エフェクター細胞として新たに調製したヒトPBMCを用いて測定した(実施例2参照)。エフェクターと標的の比率は70:1、35:1、および18:1と変え、ウェル当たりのBjab細胞数は一定としてPBMCの数を変えた。Bjab細胞は51Crで2時間標識し、平底96ウェルプレートの各ウェルに5x104細胞/ウェルの細胞密度で分注した。精製した融合タンパク質またはrituximabを種々の希釈率のPBMCに10mg/mlの濃度で加えた。PBMCまたは融合タンパク質を添加せずに自然放出を測定し、適当なウェルに洗剤(1% NP-40)を加えることで最大放出を測定した。反応物を4時間インキュベートし、培養上清100μlをLumaplate (Packard Instruments)に採取し、一晩乾燥させた後、放出されたcpmを測定した。結果は図13に示す。
【0173】
CytoxB誘導体の補体依存細胞傷害(CDC)活性も測定した。反応は実質的に実施例2に記載した通りに行った。結果は、各濃度の融合タンパク質について全細胞に対する死細胞のパーセンテージとして図14に示す。
【実施例6】
【0174】
マカクにおけるin vivo研究
CytoxB誘導体の最初のin vivo研究はヒトでない霊長類で行った。図15はサルにおけるCytoxBの血漿半減期を特徴付けるデータを示す。測定は、矢印で示した日に各サルに6mg/kgの用量を投与した後、2個体の異なるマカク(J99231およびK99334)から得た血漿サンプルで行った。各サンプルについて存在する2H7scFvIgのレベルを精製CytoxB-(MHWTG1C)-Ig融合タンパク質とCD20 CHO細胞との結合によって作製した標準曲線に当てはめて推定した(実施例2参照)。データは図15の下のパネルの表で示す。
【0175】
マカクの循環CD40+細胞のレベルに対するCytoxB-(MHWTG1C)Ig融合タンパク質の作用を調べた。図16で示した日にそれぞれ完全な血球を計数した。さらに細胞集団の中からB細胞を検出するCD40特異的フルオレセイン結合抗体を用い、末梢血リンパ球に対してFACS(蛍光活性化細胞選別)アッセイを行った。次に陽性細胞のパーセンテージを用いて元のサンプルのB細胞数を算出した。データは注射後の示された日に測定した血液のマイクロタイター当たりのB細胞1000個としてグラフで示す(図16)。
【実施例7】
【0176】
抗CD19 scFV-Ig融合タンパク質の構築および発現
抗CD19 scFv-Ig融合タンパク質を構築し、真核細胞へトランスフェクトし、実施例1、2および5に記載の方法および当技術分野の標準に従って発現させた。CD19と特異的に結合する抗体HD37を産生するハイブリドーマ細胞から単離したRNAから可変重鎖領域および可変軽鎖領域をクローニングした。HD37scFv-IgAHWTG1CおよびHD37scFv-IgMHWTG1Cの発現レベルを測定し、精製HD37 scFvIgを用いて作製した標準曲線に当てはめた。結果は図17に示す。
【実施例8】
【0177】
抗L6 scFV-IG融合タンパク質の構築および発現
scFv-Ig融合タンパク質を抗癌腫mAb、L6に由来する可変領域を用いて構築した。この融合タンパク質を構築し、真核細胞へトランスフェクトし、実施例1、2および5に記載の方法および当技術分野の標準に従って発現させた。L6scFv-IgAHWTG1CおよびL6scFv-IgMHWTG1Cの発現レベルを測定し、精製HD37 scFvIgを用いて作製した標準曲線に当てはめた。結果は図18に示す。
【実施例9】
【0178】
種々のscFV-Ig融合タンパク質の特性決定
すでに記載したscFv-Ig融合タンパク質の他、G28-1(抗CD37)scFv-Ig融合タンパク質を実質的に実施例1および5に記載のようにして調製した。重鎖および軽鎖可変領域を当技術分野で公知の方法に従ってクローニングした。2H7-MHWTG1C、2H7-IgAHWTG1C、G28-1-MHWTG1C、G28-1 IgAHWTG1C、HD37-MHWTG1C、およびHD37-IgAHWTG1CのADCC活性を上記の方法(実施例2参照)に従って測定した。結果は図19に示す。L6scFv-IgAHWTG1CおよびL6scFv-IgMHWTG1CのADCC活性は2981ヒト肺癌細胞系統を用いて測定した。結果は図20に示す。ネズミL6モノクローナル抗体はADCC活性を阻害しないことが分かっている。
【0179】
精製したタンパク質を還元および非還元条件下でSDS-PAGEにより解析した。実質的に実施例2および5に記載のようにしてサンプルを調製し、ゲル泳動を行った。L6および2H7 scFv-Ig融合タンパク質に関する結果は図21に示し、G28-1およびHD37 scFv-Ig融合タンパク質に関する結果は図22に示す。
【0180】
例示を目的に本発明の特定の実施形態を本明細書に記載してきたが、以上から、本発明の精神および範囲を逸脱することなく様々な改変を行えることが分かるであろう。よって、本発明は添付のクレーム以外のものに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0181】
【図1A】CD20と特異的に結合し得る結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質である2H7 scFv-IgのDNAおよび推定アミノ酸配列[配列番号__]を示す。
【図1B】CD20と特異的に結合し得る結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質である2H7 scFv-IgのDNAおよび推定アミノ酸配列[配列番号__]を示す。
【図2】トランスフェクトされた安定なCHO系統による2H7 scFv-Igの産生レベルおよび精製2H7 scFv-IgとCD20発現CHO細胞との結合による標準曲線の作製を示す。
【図3】単離2H7scFv-Igタンパク質の複数の調製物のSDS-PAGE解析を示す。
【図4A】2H7scFv-Igによる補体結合(図4A)および抗体依存性細胞傷害作用(ADCC、図4B))を示す。
【図4B】2H7scFv-Igによる補体結合(図4A)および抗体依存性細胞傷害作用(ADCC、図4B))を示す。
【図5】正常B細胞の増殖に対するCD20およびCD40の同時連結の作用を示す。
【図6】Bリンパ芽球細胞系統におけるCD95の発現およびアポトーシスの誘導に対するCD20およびCD40の同時連結の作用を示す。
【図7A】CD20およびCD40と特異的に結合し得る結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質2H7scFv-CD154 L2(図7A、配列番号__)および2H7scFv-CD154 S4(図7B、配列番号__)のDNAおよび推定アミノ酸配列[配列番号__]を示す。
【図7B】CD20およびCD40と特異的に結合し得る結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質2H7scFv-CD154 L2(図7A、配列番号__)および2H7scFv-CD154 S4(図7B、配列番号__)のDNAおよび推定アミノ酸配列[配列番号__]を示す。
【図7C】CD20およびCD40と特異的に結合し得る結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質2H7scFv-CD154 L2(図7A、配列番号__)および2H7scFv-CD154 S4(図7B、配列番号__)のDNAおよび推定アミノ酸配列[配列番号__]を示す。
【図7D】CD20およびCD40と特異的に結合し得る結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質2H7scFv-CD154 L2(図7A、配列番号__)および2H7scFv-CD154 S4(図7B、配列番号__)のDNAおよび推定アミノ酸配列[配列番号__]を示す。
【図8】フローイムノサイトフルオリメトリーによる2H7scFv-CD154結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質とCD20+CHO細胞との結合を示す。
【図9】2H7scFv-CD154結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質と細胞との結合後のアネキシンVとB細胞系統Ramos、BJABおよびT51との結合を示す。
【図10】2H7scFv-CD154結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質の結合後のB細胞系統T51の増殖に対する作用を示す。
【図11】CytoxBまたはCytoxB誘導体:CytoxB-MHWTG1C(2H7 ScFv、変異型ヒンジ、野生型ヒトIgG1 Fcドメイン)、CytoxB-MHMG1C(2H7 ScFv、変異型ヒンジ、変異型ヒトIgG1 Fcドメイン)およびCytoxB-IgAHWTHG1C(2H7 ScFv、ヒトIgA由来ヒンジ[配列番号__]、野生型ヒトIgG1 Fcドメイン)と呼ばれる2H7ScFv-Ig融合タンパク質[配列番号__]の構造の模式図を示す。矢印はFcR結合およびADCC活性(濃い矢印)、および補体結合(薄い矢印)に関与すると考えられるアミノ酸残基の位置番号を示す。鎖間ジスルフィド結合が存在しないことに着目。
【図12】単離CytoxBおよび2H7scFv-CD154結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質のSDS-PAGE解析を示す。
【図13】CytoxB誘導体の抗体依存細胞媒介性細胞傷害作用(ADCC)活性を示す。
【図14】CytoxB誘導体の補体依存細胞傷害作用(CDC)を示す。
【図15】マカク血液サンプルにおけるCytoxB-MHWTG1Cの血清半減期の測定を示す。
【図16】マカク血液サンプルにおける循環CD40+B細胞のレベルに対するCytoxB-MHWTG1の作用を示す。
【図17】トランスフェクト哺乳類細胞系統によるHD37(CD19特異的)ScFv-Igの産生レベルおよび精製HD37 ScFv-IgとCD19発現細胞との結合による標準曲線の作製を示す。
【図18】トランスフェクトされた安定なCHO系統によるL6(癌腫抗原)ScFv-Igの産生レベルおよび精製L6 ScFv-IgとL6抗原発現細胞との結合による標準曲線の作製を示す。
【図19】結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質2H7 ScFv-Ig、HD37 ScFv-IgおよびG28-1(CD37特異的)ScFv-IgのADCC活性を示す。
【図20】L6 ScFv-Ig融合タンパク質のADCC活性を示す。
【図21】L6 ScFv-Igおよび2H7 ScFv-Ig融合タンパク質のSDS-PAGE解析を示す。
【図22】G28-1 ScFv-IgおよびHD37 ScFv-Ig融合タンパク質のSDS-PAGE解析を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)免疫グロブリンヒンジ領域ポリペプチドと融合した結合ドメインポリペプチド、なおこのヒンジ領域ポリペプチドは(i)システイン残基を含まず、かつ、1以上のシステイン残基を有する野生型免疫グロブリンヒンジ領域ポリペプチドに由来する変異型ヒンジ領域ポリペプチド、(ii)1つのシステイン残基を含み、かつ、2以上のシステイン残基を有する野生型免疫グロブリンヒンジ領域ポリペプチドに由来する変異型ヒンジ領域ポリペプチド、(iii)野生型ヒトIgAヒンジ領域ポリペプチド、(iv)システイン残基を含まず、かつ、野生型ヒトIgA領域ポリペプチドに由来する変異型ヒトIgAヒンジ領域ポリペプチド、および(v)1つのシステイン残基を含み、かつ、野生型ヒトIgA領域ポリペプチドに由来する変異型ヒトIgAヒンジ領域ポリペプチドからなる群から選択される;
(b)ヒンジ領域ポリペプチドと融合した免疫グロブリン重鎖CH2不変領域ポリペプチド;および
(c)CH2不変領域ポリペプチドと融合した免疫グロブリン重鎖CH3不変領域ポリペプチド
を含み、
(1)結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質が抗体依存細胞媒介性細胞傷害作用および補体結合からなる群から選択される少なくとも1つの免疫活性能を持ち、かつ、
(2)結合ドメインポリペプチドが抗体に対して特異的結合能を持つ、
結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2008−260781(P2008−260781A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−159145(P2008−159145)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【分割の表示】特願2002−557417(P2002−557417)の分割
【原出願日】平成14年1月17日(2002.1.17)
【出願人】(503256494)トルビオン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド (6)
【氏名又は名称原語表記】TRUBION PHARMACEUTICALS, INC.
【Fターム(参考)】