説明

結晶材料及びその製造方法

【課題】新しいデバイスへの応用が可能な従来にない結晶材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
接合する際にその接合面に、転位を有する小角粒界を形成する2つの結晶性材料を作製する工程と、上記2つの結晶性材料のうち、少なくとも一方の結晶性材料の接合面に、上記結晶性材料と異なる異種金属材料を設ける工程と、上記小角粒界において、上記異種金属材料を狭持した状態で結晶性材料の接合面近傍の拡散によって、上記2つの結晶性材料を一体化させる工程と、2つの結晶性材料の間に設けられた異種金属材料を、上記転位に沿って浸透させ、2つの結晶性材料間に転位に沿った細線を設ける工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ細線等の細線を利用する各種デバイスに有用な結晶材料とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に酸化物材料の多くは結晶性材料であり、その機械的特性や電気的特性などは、材料中における結晶格子欠陥構造と密接に関係している。酸化物材料は多結晶体として用いられることが多いため、結晶粒間の境目すなわち粒界は、材料特性全体に対して大きな影響力をもつ。したがって、酸化物材料における各種の物性を理解する上では、粒界の微細構造を解明することが重要となる。
【0003】
そのような理由から、酸化物結晶の拡散接合を利用する双結晶実験は、結晶同士の原子レベルでの接合を実現できるため、粒界構造の解明を主目的とした基礎的研究として行われてきた。これらの研究の中には、結晶学的観点から粒界の原子配列を精緻に考察し、結晶中に意図的な転位配列を実現したり、転位の特異な物性の応用を目指す研究も行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、結晶粒界または異相界面を利用して、金属元素を含む細線の配置を制御する技術が開示されている。まず、2つの結晶を接合して結晶粒界を所定の位置に形成し、その結晶粒界が露出した表面に金属薄膜を設ける。このようにして、転位内部に金属チタンを浸透させることで、転位に沿って複数の細線を導入している。この技術によれば、高密度で高配向の細線を結晶母材中に制御性よく導入することが期待される。
【特許文献1】特開2005−279843
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記技術では、界面に極微量の異種金属元素を浸透させることができても、浸透には元素依存性があり、任意の金属元素を浸透させるといったことは困難であった。また、金属元素の浸透が転位網の形態に依存しているため、金属元素の結晶粒界における配置の制御が困難であった。
【0006】
2枚の精密な研磨が施された酸化物結晶は、拡散接合により、接着剤等用いることなく、完全に原子レベルでの接合をすることができることが知られており、2枚の結晶を接合してできた結晶は、格子欠陥をほとんど含まない、ほぼ完全な単結晶となる。ここで2つの結晶間に金属元素等による異種中間層がある場合、中間層を超えた元素拡散が困難であるため、原子レベルでの接合が非常に困難であった。例えば中間層が1nmを超えれば接合することがほとんどできなかった。なお、例外として、異種金属元素による中間層が接着剤として働く場合もあるが、2つの結晶の方位差が接合に影響を与えず、転位列または転位網に依存した金属元素ネットワークは形成されないことになる。
【0007】
本発明は、接合前に2つの結晶間に金属元素等による異種中間層を設置した場合においても、2つの結晶間の原子レベルの接合を可能とし、結晶界面に異種元素からなるナノスケールの金属元素ネットワークを作製することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、接合する際にその接合面に、転位を有する小角粒界を形成する2つの結晶性材料を作製する工程と、上記2つの結晶性材料のうち、少なくとも一方の結晶性材料の接合面に、上記結晶性材料と異なる異種金属材料を設ける工程と、上記小角粒界において、上記異種材料を介した状態で結晶性材料を加熱等により拡散を励起することで、上記2つの結晶性材料を接合させる工程と、2つの結晶性材料の間に設けられた異種金属材料を、拡散加熱により上記転位に沿って浸透させ、2つの結晶性材料間に転位に沿った細線を設ける工程と、
を有する結晶材料の製造方法である。
【0009】
また、本発明では、小角粒界を小傾角粒界にすることもできるし、ねじり粒界にすることもできる。
【0010】
本発明によれば、結晶方位がわずかに異なる、いわゆる転位を有する結晶同士を接合させることにより、2つの結晶性材料間に異種金属中間層がある場合であっても、原子レベルで接合することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、結晶方位がわずかに異なる結晶同士を接合させることにより、2つの結晶間に金属元素等による異種中間層がある場合であっても、原子レベルで接合することができる。そして、このような結晶の原子レベルでの拡散接合はこれまでにない新規デバイスを実現することも可能であり、例えば結晶界面に異種元素からなるナノスケールのワイヤー網を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施形態に係る結晶材料の製造方法を示す図
【図2】第1の実施形態における2つの結晶母体間の結晶粒界を示す図
【図3】第1の実施形態における2つの結晶母体の作製工程を示す図
【図4】第2の実施形態に係る結晶材料の製造方法を示す図
【図5】第2の実施形態における2つの結晶母体の作製工程を示す図
【図6】接合実験に用いた単結晶サファイア基板の模式図
【図7】接合状態の成否判断のための参考写真を含む図
【図8】小傾角粒界が存在している場合の接合結果を示す図
【図9】ねじり粒界が存在している場合の接合結果を示す図
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施形態について説明する。図1は、第1の実施形態に係る結晶材料の製造方法を示す図である。図2は、第1の実施形態における2つの結晶母体間の結晶粒界を示す図である。図3は、第1の実施形態における2つの結晶母体の作製工程を示す図である。
【0014】
本実施形態の製造方法は、図1に示すように、傾角粒界が形成される2つの結晶母体101、102を準備し(図1A)、その結晶母体101、102の間に異種金属元素103を介在させ(図1B)、異種金属元素103に転位104を発生させながら拡散接合を行うことで(図1C)、内部に異種金属元素が埋設された結晶材料を形成する(図1D)。
【0015】
以下、本発明の第1の実施形態について詳細に説明する。まず、図1Aに示すように、小角粒界の一形態である傾角粒界が形成されるよう2つの結晶母体101、102を準備する。
【0016】
ここで、上記小角粒界とは,結晶粒界,結晶粒あるいは単結晶中の亜境界に見られる型で,粒界の両側での結晶の方位が,一つの結晶軸のまわりに,わずかに傾いているものをいい、傾角粒界とねじり粒界に分類される。
【0017】
本実施形態では、図2に示すように、2つの結晶母体101、102間に傾角粒界が形成される場合について説明する。この傾角粒界は,粒界の両側の結晶の原子配列が,粒界面に対して両結晶が鏡面対称と見なせる位置にくる対称傾角粒界と対称位置ではない非対称傾角粒界に分けることができるが,これまでの研究例のほとんどはモデル計算における周期性等の問題から前者を対象としている.
【0018】
傾角粒界では,その傾角によってさらに2つに分類することが可能であり,傾角がおおよそ15°以下では小傾角粒界,それ以上では大傾角粒界と呼ばれる.小傾角粒界においては二つの結晶の相対方位差が小さく,転位が周期的に導入されることでその相対傾角を補償している.小傾角粒界では平行な完全転位の刃状転位の列が形成されると一般には説明されている.実際には、個々の刃状転位は複数の部分転位に分解していることもある。
【0019】
15°以下のある角度θを有する粒界をつくると,粒界には粒界面に垂直なバーガース・ベクトルを持つ刃状転位が周期的に導入される.この時,転位以外の部分は整合構造を維持することが可能であり,エネルギー的にも非常に安定な構造である.また,この時の転位の間隔Dは相対方位差θ,転位のバーガース・ベクトルをbとすると、D=b/2sin(θ/2)となり,θが非常に小さい場合には、D=b/θで与えられる.これはフランクの式と呼ばれるもので,粒界に対して対称な小傾角粒界に対して適用される.
【0020】
本実施形態では、図3Aに示すように、対向面の格子状結晶配列を合せる形に所定角度2θずらした状態で、母材100の2箇所を切断することで、小傾角粒界が形成される結晶母体101、102を作製する。なお、小傾角粒界の形成方法については特に限定せず、別の方法により小傾角粒界を形成しても良い。このようにして1つの結晶母体100を分割することにより、小傾角粒界が形成される2つの結晶母体を準備するする。なお、図2Bに示すように、小傾角粒界が形成される場合には、転位はライン状に形成される。
【0021】
結晶母体101、102の材料は、結晶性材料であれば特に制限はなく、所望の特性、用途等に応じ、種々の材料を選択すればよい。本実施形態では、優れた機械的・熱的特性、化学的安定性、光透過性などの特性を有することからサファイアが用いられている。
【0022】
なお、各結晶母体の切断面には精密に鏡面研磨を施し、後述する拡散接合の際に完全に原子レベルでの接合を可能にすることができる状態にしておく。
【0023】
次に、少なくとも一方の結晶母体102の切断面102aに異種金属元素を薄膜として形成する(図1B)。異種金属元素103は、結晶母体101、102とは異なる組成を有していれば、特に制限されるわけではなく、例えば、Ti、Cu、Mn、Fe、Ni、Au、Ag等種々の金属元素を用いることができる。
【0024】
薄膜の形成方法を特に限定はせず、例えば、スパッタリング法、化学蒸着法等の気相成膜法、メッキ法等の液相成膜法により形成してもよい。
【0025】
本実施形態での薄膜形成は、膜厚計の付属した蒸着機を用いて、鏡面研磨後の結晶母体表面に真空中で蒸着により行う。金属元素103の結晶母体102表面への蒸着については、公知のスパッタリング装置や薄膜製造装置を用いてもよい。蒸着は膜厚計により測定しながら行うことができるので、蒸着量の制御は可能である。蒸着は、接合前の2つの結晶母体101、102の接合面のうち、一方のみでも両方でもよい。このようにして、予め結晶の接合面に異種金属元素を薄膜として配置しておく。
【0026】
そして、図1Cに示すように、小傾角粒界において、結晶母体102の接合面に異種金属元素103を蒸着した状態で、2つの結晶母体101、102を再接合する。具体的には、接合面を接触させた状態で加熱することにより転位部104を除く接合面で拡散接合させ、格子状結晶配列を周期的に規則正しく構成するよう2つの結晶母体101、102を再接合する。
【0027】
本実施形態の高温拡散接合ではサファイアなどのセラミック単結晶からなる2枚の結晶母体を重ね合わせて加圧・加熱することで、高温状態でイオンを結晶内及び界面内で移動させ、拡散現象を起こさせることによって結晶母体の面同士を接合させている。このような拡散接合技術の大きな利点としては,インサートメタルなどの接着剤を必要としないため界面に異種元素層を生成しないということがある。また、別の利点として接合前の結晶基板表面に微細構造を構築するような加工を施し、その表面同士を接合することが可能であれば、接合によりできる双結晶の内部に結晶構造と異なる,ナノスケールの微細な内部構造を持たせることができるということが挙げられ,これにより物理的・化学的にこれまでにない新規特性を有する結晶製品を生み出すことが可能になると期待される。
【0028】
以上の高温拡散接合によれば、接合面に精密な研磨が施されたセラミック結晶は、接着剤等用いることなく、完全に原子レベル接合をすることができる。このとき、結晶が同一方位であれば、2枚の結晶を接合してできた結晶は、格子欠陥をほとんど含まない、ほぼ完全な単結晶状態を形成することができる。
【0029】
最後に、接合部の転位部104に異種金属元素103を含浸させながら、熱処理により結晶母体と一体化させる。すなわち、拡散接合の際に結晶間にわずかな方位差があることで、界面は小傾角粒界となり、そこには転位網が形成されることになる。転位には、溶質元素を偏析させる効果があり、転位に沿った溶質元素の偏析は溶媒となる結晶のみでは見られない新規物性を発現させることが期待される。
【0030】
わずかな方位のずれにより接合が可能になる理由は、結晶間の相対方位差が小さい転位である。この転位は、異種元素の拡散パスや蓄積ポイントとして作用することが知られている。そして、接合時の転位は、結晶の相対方位差がおおよそ15°以下の時に形成されるが、その密度は方位差が大きいほど高いという特徴を有する。すなわち、拡散接合時において、転位が中間層の金属元素の拡散パスおよび蓄積ポイントとして作用したことが、接合を可能にした理由である。そして、中間層の厚みの限界は、転位密度を高めることで、つまり結晶方位差を大きくすることで、より大きくなると考えられる。
【0031】
このようにして、図1Dに示すように、接合面の転位部104に平行線状に金属元素由来の細線105が埋設された結晶材料106を作製することができる。
【0032】
以上、本実施形態の結晶材料は、わずかに結晶方位の異なる結晶同士を接合させることにより、結晶界面に異種元素からなるナノスケールのワイヤー網を作製することが可能となる。また、接合前の結晶表面に対してレーザー加工を行い、凹凸のある結晶同士の接合を行うことにより、ナノ〜ミリスケールの構造を結晶内部に作製することもできる。
【0033】
次に、第2の実施形態に係る結晶材料の製造方法について説明する。第1の実施形態と共通する点は説明を省略し、主として異なる点について説明する。図4は、第2の実施形態に係る結晶材料の製造方法を示す図である。図5は、第2の実施形態における2つの結晶母体の作製工程を示す図である。
【0034】
本実施形態では、2つの結晶母体210、202間に形成される小角粒界がねじり粒界である点で、第1の実施形態と異なる。ねじり粒界とは結晶の半分を粒界面に垂直な一つの軸の周りに少し回転させてできる粒界である。このとき粒界はらせん転位の網で置き換えて考えることができる。らせん転位のバーガース・ベクトルは、粒界面上にある。ねじりの角度が大きくなるほど、らせん転位の網目は小さくなる。これらは簡単なねじり粒界の場合であるが、実際の結晶では,傾けてからねじってできるような粒界もある。こうしたものも、傾け方、ねじり方が小さければ、全て転位の網によって表すことができる。このように、ねじり粒界では転位部は網目状に形成される。
【0035】
以下、本実施形態の製造方法について詳細に説明する。まず、ねじり粒界が形成された2つの結晶母体201、202を用意する(図4A)。結晶母体201、202は、図5Aに示すように、母材200を切断して2つの結晶母体201、202を作製しても良いし、既に市場に流通している表面が研磨済みの同一の基板又はウエハを用いても良い。
【0036】
次に、少なくとも一方の結晶母体201の一面に異種金属元素203を、例えば上述の蒸着等により薄膜として形成する。この異種金属元素203を介した状態で、図5Bに示すように、2つの結晶母体201、202を上下に重ねた状態で互いにねじって回転させることで、上下に配置した結晶母体間にねじり粒界を形成する。
【0037】
そして、ねじり粒界において、結晶母体201の接合面に異種金属元素203を蒸着した状態で、2つの結晶母体201、202を再接合する(図4B)。具体的には、接合面を接触させた状態で加熱することにより転位部を除く接合面を高温拡散接合させ、格子状結晶配列を周期的に規則正しく構成するよう2つの結晶母体201、202を再接合する。
【0038】
このようにして、図4Cに示すように、接合面の転位部に網目状に異種金属205が埋設された結晶材料206を作製することができる。
【0039】
以上、本実施形態の結晶材料は、結晶粒界に異種元素からなるナノスケールの転位網と転位に沿ったナノ細線を作製することが可能となる。なお、本実施形態のねじり粒界の場合は、傾角粒界の場合より容易に実施できるという利点がある。また、ねじり粒界の方が傾角粒界よりも、転位密度を高めることが可能であり、中間層である異種金属の厚みをより大きくすることができる利点がある。
【0040】
次に、異種金属の蒸着量と結晶の方位差との関係を示す実験結果について説明する。
以下、実験方法について説明する。本実験では、結晶母体にはサファイア基板を用い、異種金属材料にはクロム(Cr)を用いた。
【0041】
サファイア基板2枚を重ね合わせて高温拡散接合させたのち,接合状態および界面構造を解析するために、透過型電子顕微鏡法(Transmission Electron Microscopy; TEM)を用いて、接合界面領域の観察を行った。
【0042】
図6は、接合実験に用いた単結晶サファイア基板の模式図を示す。基板寸法は10mm×12mm×1mmであり、長辺方向の方位を[11-20]、短辺方向の方位を[1-100]、面方位を(0001)とした基板である。結晶基板の両面には鏡面研磨処理が施されている。この結晶基板間にクロムを介した状態で接合が可能かどうかを調べるための実験を行った。
【0043】
接合の前処理として、まず2枚の結晶基板表面を純水で洗浄したのち、水分や不純物をブロワーで吹き飛ばしておく。次に、一方の結晶基板に所定量のクロムを蒸着し、その基板同士の結晶方位を合わせて重ね合わせる。重ね合わせた状態の基板を更に高純度アルミナの板で挟みこみ、それらの下には高密度のSiC製のブロックを置き、上には高純度アルミナのボールを置いた状態で接合炉にセットした。
【0044】
その後,試料にわずかに圧縮応力がかかるように0.05MPa以上の荷重を接合炉にセットする.
【0045】
セット完了後、接合処理を以下の手順で行った。まず、基板表面に残った水分を蒸散させるために接合炉の温度を100〜200℃まで昇温し、短時間その状態で保持する。次に,そこから1500℃まで毎時300℃で4時間40分かけて昇温したのちに10時間保持することで基板を接合させた。その後5時間かけて室温まで温度をさげた。以上のような手順で接合したサファイアについて、その基板同士の接合界面領域を透過型電子顕微鏡(JEOL製JEM-2100)を用いて観察した。
【0046】
基板間の接合が成功しているか否かは、以下に示す方法で確認した。すなわち、基板同士が接合されていなければ,その接合界面での光の反射や干渉縞の発生が起こる。接合界面での光の反射や干渉縞は認められない場合は、2枚の結晶基板が良好に接合された状態であるといえる。図7に、例として、良好に接合された場合と未接合の場合を示す。
【0047】
また、このサファイアの接合界面領域を、界面に平行な<11-20>方向から観察することで、サファイア基板同士が原子レベルで拡散接合しているか否かを確認した。すなわち、界面近傍を制限視野電子線回折(Selected Area Electron Diffraction; SAED)法によって解析した。その結果,得られたSAEDパターンはいずれも元のサファイア単結晶と同じ結晶方位のもののみであり,アモルファスや結晶方位が異なる領域などは認められなければ,サファイア基板同士が原子レベルで拡散接合していることが確認できる。
【0048】
図8は、第1の実施形態の接合結果を示す図である。図9は、第2の実施形態の接合結果を示す図である。図8及び図9の横軸は接合実験時の2つの結晶の相対方位差を示し、縦軸は蒸着されたクロムの厚みを示している。図中の○印は接合に成功していることを示しており、×印は接合に成功していないことを示している。
【0049】
図8は、界面に小傾角粒界が存在している場合の接合結果である。これによれば、方位差がない場合(すなわち方位差0°であり、小傾角粒界が存在していない場合)には、クロムを膜厚1nm以上蒸着すると、すなわち、ごく微量のクロムが形成されていると、拡散接合を行えないことを示している。これに対して、小傾角粒界の方位差が2°の場合は、膜厚2.0nmのクロムが介在していても、拡散接合を行うことができることが分かる。さらに、小傾角粒界の方位差が1°の場合は、結晶基板間に膜厚が1.5nmのクロムが介在していても、拡散接合を行うことができることが分かる。
【0050】
以上より、界面に小傾角粒界が存在している場合には、クロムが介在していても拡散接合を行うことができることが確認できた。また、小傾角粒界の方位差が大きくなるにつれてクロムの接合限界の厚みが増大していることが分かる。これは角度の増加に伴い転位密度が高くなるためであると考えられる。
【0051】
図9は、界面にねじり粒界が存在している場合の接合結果である。これによれば、方位差がない場合(すなわち方位差0°であり、ねじり粒界が存在していない場合)には、クロムを膜厚1nm以上蒸着すると、すなわち、ごく微量のクロムが形成されていると、拡散接合を行えないことを示している。これに対して、方位差がおおよそ3°の場合、2nmのクロムが介在しても拡散接合可能であった。また方位差がおおよそ6°の場合は、基板間に膜厚4nmのクロムが介在していても、拡散接合を行うことができていた。
【0052】
以上より、界面にねじり粒界が存在している場合には、クロムが介在していても拡散接合を行うことができることが確認できた。また、小ねじり粒界において、相対方位差が大きくなるにつれてクロムの接合限界の厚みが増大していることが分かる。これは角度の増加に伴い転位密度が高くなるためであると考えられる。
【0053】
本発明に係る結晶材料の製造方法は、従来にない結晶の接合と結晶内への微構造形成を可能にする基礎技術であるため、様々な新しいデバイスへの応用が期待できる。例えば、絶縁体や半導体の結晶中の導電経路形成や、これまでにないテラヘルツ領域の波長変換フィルターや網目状細線による偏光フィルターなどの光物性デバイスの創製、局所レーザー発光材料などの開発が期待できる。
【符号の説明】
【0054】
100 母材
101、102 結晶母体
103 異種金属材料
104 転位
105 細線
106 結晶材料




【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合する際にその接合面に、転位を有する小角粒界を形成する2つの結晶性材料を作製する工程と、
上記2つの結晶性材料のうち、少なくとも一方の結晶性材料の接合面に、上記結晶性材料と異なる異種金属材料を設ける工程と、
上記小角粒界において、上記異種金属材料を狭持した状態で結晶性材料の接合面近傍の拡散によって、上記2つの結晶性材料を一体化させる工程と、
2つの結晶性材料の間に設けられた異種金属材料を、上記転位に沿って浸透させ、2つの結晶性材料間に転位に沿った細線を設ける工程と、
を有する結晶材料の製造方法。
【請求項2】
上記小角粒界が線状の転位を有する小傾角粒界である請求項1記載の結晶材料の製造方法。
【請求項3】
上記小角粒界が網状の転位を有するねじり粒界である請求項1記載の結晶材料の製造方法。
【請求項4】
線状の転位を有する小傾角粒界を形成する2つの結晶性材料が、上記転位部を除いて拡散接合により一体化した接合結晶と、
上記結晶性材料と異なる異種金属材料からなり、上記線状の転位に沿って上記接合結晶内部に埋設された細線と、
を有することを特徴とする結晶材料。
【請求項5】
網状の転位を有するねじり粒界を形成する2つの結晶性材料が、上記転位部を除いて拡散接合により一体化した接合結晶と、
上記結晶性材料と異なる異種金属材料からなり、上記転位部に沿って上記接合結晶内部に埋設された網状の細線と、
を有することを特徴とする結晶材料。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−200957(P2011−200957A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69301(P2010−69301)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(506122327)公立大学法人大阪市立大学 (122)