説明

給湯用伝熱管

【課題】pHの低い水質の地域で使用しても、銅イオンの溶出量を低く維持することができる給湯用伝熱管を提供することを目的とする。
【解決手段】外部熱源によって管内を流れる流体を加熱する給湯用の伝熱管において、銅をベースとし、該ベースとなる銅材中に共添元素として、それぞれ所定量のアルミ、錫、リン、亜鉛を添加し、その銅イオン溶出抑制作用やロウ付け性能等を向上させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、給湯用の伝熱管の構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばヒートポンプ式給湯装置等のエコ給湯システムでは、常温の水道水を熱源側ヒートポンプユニットの作動媒体側熱交換器(放熱熱交換器)と該作動媒体側熱交換器に対して吸熱可能に結合される水側熱交換器(吸熱熱交換器)よりなるヒートポンプ式の熱交換器により加熱して、約90℃近くのお湯を作り、給湯用の温水タンク内に貯める方式を採用している(例えば特許文献1、特許文献2などを参照)。
【0003】
そして、上記ヒートポンプ式熱交換器の水側熱交換器の伝熱管には、通常のリン脱酸銅製の銅管(JIS・C1220)を使用し、同銅管の外面から作動媒体(例えば二酸化炭素)の120℃程度の凝縮熱で加熱することにより、管内部を流れる水の温度を例えば90℃程度に上昇させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−106963号公報(図1,図2参照)
【特許文献2】特開2003−83607号公報(図1参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような内側を流れる流体(水)と外側の熱源(作動媒体)との間に所定値以上の温度差(上記の例では30℃)があり、かつ銅をベースとした水側熱交換器の伝熱管の腐食形態について種々検討した結果、その腐蝕の原因は、全面腐食による銅イオンの溶出にあることが判明した。通常銅管は使用時間の経過とともに銅管内表面に酸化銅からなるスケールが生成することにより、銅イオンの溶出量が低減し、水質基準レベル(1ppm)未満に落ち着く。しかし、エコ給湯システムの場合、銅管内部を流れる水道水の水質は一定でなく、水道水の水質基準レベル(pH)が低い地域では銅管内面への酸化銅スケールの生成が充分でないケースが生じ、そのような状態において銅管外面から100℃近くの熱源で加熱される(所定温度以上の熱負荷を受ける)ことにより、この酸化銅スケール生成不足の現象はさらに顕著になるものと推測される。
【0006】
すなわち、通常の水質(pH7程度)であれば、銅管からの銅イオン溶出量は使用開始後は多くても、しばらく使用すると銅管内面に酸化銅の緻密なスケールが生成することによって、実用上問題のないレベルまで低下する。しかし、地域によってはpH値の低い水質の場合があり、このような水質の水道水では、銅イオンの溶出が長期に渡って低下しないケースがあり、その結果生じる実用面での問題として浴槽などに銅化合物が付着して青く着色するなどの問題が生じている。
【0007】
これまでのところ、冷凍装置用熱交換器等の伝熱管に関し、高価格な銅材の比率を低下させて低コスト化したり、機械的強度の向上や加工性の向上、伝熱性の向上、メッキ性向上などの観点から、銅材に対する共添元素の最適な組み合わせを選び、その目的に応じた特性を向上させたものはあるが、上述のような内側を流れる流体と外側を流れる流体との間に所定値以上の温度差がある場合における給湯用伝熱管の銅イオンの溶出に対する対応策を施したものは見出せない。
【0008】
そこで、本願発明は、そのような銅イオン溶出の問題を解決するために、仮に基準レベル以上にpH値の低い水質の地域で使用したとしても、銅イオンの溶出量を十分に低く維持することができる銅イオンの溶出抑制機能を有した給湯用伝熱管を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、同目的を達成するために、次のような課題解決手段を備えて構成されている。
【0010】
(1) 請求項1の発明
この発明の給湯用伝熱管は、外部熱源によって管内を流れる流体を加熱する給湯用の伝熱管であって、銅をベースとし、該銅材中にアルミ、錫、リン、亜鉛を添加したことを特徴としている。
【0011】
アルミは、銅の表面に酸化アルミニウムとして濃縮することにより、高温水中での銅イオンの溶出の抑制に有効に寄与する。
【0012】
他方、上記アルミの添加により表面に生成する酸化アルミニウムは、銅イオンの溶出抑制作用は高いのであるが、一部の水道水に見られるように水質中に塩素イオンが高濃度で含まれていると、酸化アルミニウム膜の欠陥部を介して塩素イオンが浸入し、その箇所において孔食(局部腐食)を発生させるケースがある。そこで、この課題を解決するために種々共添元素を検討した結果、錫(スズ)を添加することにより孔食発生を抑制できることを見出した。また錫は、アルミと共添されることにより、耐食性の向上に寄与するだけでなく、アルミ添加によるロウ付け性の低下を抑制する。
【0013】
またリンは、通常のリン脱酸銅に添加されているものと同じ効果を示し、添加範囲も同程度である。
【0014】
アルミ添加によるもう一つの弊害としてロウ付け性の低下がある。すなわち、銅の表面に濃縮した酸化アルミニウム膜がロウの濡れ性を低下させ、長期間大気中に放置した材料ではロウがはじく場合も生じる。
【0015】
そこで、この点を改善すべく種々の共添元素を検討した結果、上記錫に加えて、さらに亜鉛を添加することにより、ロウ付け性が十分に実用上支障のないレベルまで改善されることを見出した。
【0016】
なお、通常のリン脱酸銅に含まれている程度の不純物が、本銅合金に含まれていても、それが上記特性に影響を与えることはない。
【0017】
(2) 請求項2の発明
この発明の給湯用伝熱管は、上記請求項1の発明の給湯用伝熱管の構成において、アルミ、錫、リン、亜鉛各々の添加量は、アルミが重量比0.1〜2.0wt%、錫が重量比0.1〜アルミ添加量未満のwt%、リンが重量比0.001〜0.1wt%、亜鉛が重量比0.05〜アルミ添加量未満のwt%であることを特徴としている。
【0018】
上述のように、アルミは、銅の表面に酸化アルミニウムとして濃縮することにより、高温水中での銅イオンの溶出の抑制に有効に寄与する。
【0019】
しかし、このアルミの添加量が0.1wt%未満では、有効な効果は認められない。
【0020】
一方、添加量が3.0wt%を超えると、銅イオンの溶出抑制効果は得られても、耐孔食性およびロウ付け性能が著しく低下する。したがって、アルミは重量比0.1〜2.0wt%の範囲が好ましい。
【0021】
すなわち、上記アルミの添加により表面に生成する酸化アルミニウムは、銅のイオン溶出抑制作用は高いのであるが、一部の水道水に見られるように水質中に塩素イオンが高濃度で含まれていると、酸化アルミニウム膜の欠陥部を介して塩素イオンが浸入し、その箇所において孔食(局部腐食)を発生させるケースがある。そこで、この課題を解決するために種々共添元素を検討した結果、さらに錫(スズ)を添加することにより孔食発生を抑制できることを見出した。また錫は、アルミと共添されることにより、耐食性の向上に寄与するだけでなく、アルミ添加によるロウ付け性の低下をも抑制する。
【0022】
しかし、この錫の添加量が、0.1wt%未満では有効な効果が得られない。
【0023】
一方、錫をアルミ添加量以上に添加しても効果が飽和し、コストの上昇をもたらすのみである。したがって、錫は重量比0.1〜アルミ添加量未満のwt%の範囲が好ましい。
【0024】
リンは、通常のリン脱酸銅に添加されているものと同じ脱酸効果を示し、添加範囲も同程度である。すなわち、リンが0.001wt%未満では、有効な脱酸素効果が得られない。一方、0.1wt%を越えて添加されると加工性が著しく低下する。したがって、リンは重量比0.001〜0.1wt%の範囲が好ましい。
【0025】
アルミ添加によるもう一つの弊害としてロウ付け性の低下がある。銅表面に濃縮した酸化アルミニウム膜がロウの濡れ性を低下させ、長期間大気中に放置した材料ではロウがはじく場合も生じる。
【0026】
そこで、この点を改善すべく種々の共添元素を検討した結果、上記錫とは別に、さらに、亜鉛を添加することにより、ロウ付け性が実用上支障のないレベルまで改善されることを見出した。
【0027】
この場合、亜鉛の添加量が、0.05wt%未満では有効な効果が得られない。
【0028】
一方、アルミ添加量以上に添加しても効果が飽和する。
【0029】
したがって、亜鉛の添加量は重量比0.05〜アルミ添加量未満のwt%の範囲であることが好ましい。
【0030】
なお、通常のリン脱酸銅に含まれている程度の不純物が、本銅合金に含まれていても、それが上記特性に影響を与えることがないことは、上述の通りである。
(3) 請求項3の発明
この発明の給湯用伝熱管は、上記請求項1又は2の発明の給湯用伝熱管の構成において、給湯用伝熱管が、熱源側の作動媒体として二酸化炭素を採用したヒートポンプ式給湯装置の給湯用水側熱交換器の伝熱管であることを特徴としている。
【0031】
このような内側を流れる流体と外部熱源側作動媒体との間に所定値以上の温度差があり、かつ銅をベースとしたヒートポンプ式給湯装置の水側熱交換器の伝熱管の腐食形態について種々検討して見ると、その腐蝕の原因は、全面腐食による銅イオンの溶出にあることが見出される。通常銅管は使用時間の経過とともに銅管内表面に酸化銅からなるスケールが生成することにより、銅イオンの溶出量が低減し、水質基準レベル(1ppm)未満に落ち着く。しかし、エコ給湯システムの場合、銅管内部を流れる水道水の水質は一定でなく、水道水の水質基準レベル(pH)が低い地域では銅管内面への酸化銅スケールの生成が充分でないケースが生じ、そのような状態において銅管外面から100℃近くの熱源で加熱される(所定温度以上の熱負荷を受ける)ことにより、この酸化銅スケール生成不足の現象はさらに顕著になるものと推測される。
【0032】
すなわち、通常の水質(pH7程度)であれば、銅管からの銅イオン溶出量は使用開始後は多くても、しばらく使用すると銅管内面に酸化銅の緻密なスケールが生成することによって、実用上問題のないレベルまで低下する。しかし、地域によってはpH値の低い水質の場合があり、このような水質の水道水では、銅イオンの溶出が長期に渡って低下しないケースがあり、その結果生じる実用面での問題として浴槽などに銅化合物が付着して青く着色するなどの問題が生じている。
【0033】
上記請求項1,2の発明の給湯用伝熱管では、このようなヒートポンプ式給湯装置の水側熱交換器の問題を解決するのに特に有益である。
【発明の効果】
【0034】
以上の結果、本願発明によると、仮にpHの低い水質の地域で使用しても、銅イオンの溶出量を低く維持することができ、銅イオン溶出による浴槽等汚染の問題を招くことなく、しかもロウ付け性にすぐれたヒートポンプ式給湯装置の水側熱交換器の伝熱管等に適した給湯用の伝熱管を低コストに提供することができる。
【0035】
また、同給湯用伝熱管では、給湯温度を高くしても、腐食の発生を可及的に低く抑制することが可能となり、ヒートポンプ式給湯装置の水側熱交換器の熱交換性能を長期に亘って有効に維持させることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本願発明の実施の形態に係る給湯用伝熱管を用いて構成されたヒートポンプ式給湯装置の構成を示す図である。
【図2】同ヒートポンプ式給湯装置における水側熱交換器(吸熱熱交換器)の実験モデルの構成を示す図である。
【図3】同図3の実験モデル例による実験結果(溶出銅イオン濃度)を示すグラフである。
【図4】同図3の実験モデル例によるテストピースのロウ付け性能を試験する試験方法を経時的に示す説明図である((a)はロウ材の溶融前、(b)はロウ材の熔融後の状態を示す)。
【図5】同図4のロウ付け性能試験の結果を本実施例のものと比較例のものとを対比して示す説明図である((a)は本実施例のもの、(b)は比較例のもの)。
【発明を実施するための形態】
【0037】
先ず図1は、本願発明の実施の形態に係る給湯用伝熱管を採用して構成したヒートポンプ式給湯装置の構成を示している。
【0038】
<ヒートポンプ式給湯装置の全体的な構成>
この給湯装置は、例えば図1に示すように、作動媒体としての冷媒を圧縮して高温高圧の冷媒を得る圧縮機1、該圧縮機1で圧縮された高温高圧の冷媒を凝縮することによって冷媒からの熱を放熱する放熱熱交換器(凝縮器)2、該放熱熱交換器2で凝縮した高圧の冷媒を減圧する膨張弁3、該膨張弁3で減圧された冷媒を蒸発させることによってファン5を介して供給される空気からの熱を吸熱する空気熱交換器(蒸発器)4よりなる熱源側ヒートポンプユニットAの上記放熱熱交換器2に対して、給湯用の水を貯留した上下に長い水タンク(給湯タンク)7、該水タンク7の底部に外部からの水を供給する水供給配管11a、上記水タンク7の底部側から上部側にバイパス状態で連通し、当該水タンク7内の水を水ポンプ8により底部側から上部側に循環させる水循環配管10、該水循環配管10の途中にあって上記熱源側ヒートポンプユニットAの上記冷媒側熱交換器(放熱熱交換器)2に対して吸熱可能に結合される水側熱交換器(吸熱熱交換器)9よりなる給湯ユニットBを組み合わせ、上記給湯ユニットB側水循環配管10途中の水側熱交換器9を介して上記熱源側ヒートポンプユニットAの冷媒側熱交換器2により上記水タンク7内の水を加熱するようになっている。
【0039】
上記冷媒側熱交換器2と水側熱交換器9は、図1では便宜上相互に分離した形で示しているが、実際には水側熱交換器9の伝熱管に対して冷媒側熱交換器2の伝熱管が相互にキャピラリー構造に巻成一体化された構成(いわゆる蛇熱交型のもの)となっていて、冷媒側熱交換器2が水側熱交換器9に対する外部熱源として効率良く作用するようになっている。
【0040】
すなわち、同装置では、先ず水タンク7に対して水供給配管11aにより一定量の水が給水されて貯留され、その後、同水タンク7内の水が上記給湯ユニットB側水循環配管9の途中に設けられた水側熱交換器9を介して熱源側ヒートポンプユニットAの冷媒側熱交換器2の冷媒温度120℃により間欠的に所望の温度90℃程度まで湯沸しされて上層部に貯湯され、同貯湯された湯が給湯配管11bから取り出されて、例えば風呂、台所、シャワー等所望の用途に使用される。
【0041】
なお、図1中の符号6は、上記冷媒側熱交換器2と水側熱交換器9とを組み合わせて構成されたヒートポンプ式給湯装置の給湯用熱交換器を示している。
【0042】
<水側熱交換器の伝熱管部分の構成>
ところで、上述のような水側熱交換器9の伝熱管は、一般にリン脱酸銅製の銅管(JIS・C1220)を使用しているが、本願発明者は、このような水側熱交換器9の伝熱管の腐食形態について種々研究した結果、同腐蝕の原因は全面腐食による銅イオンの溶出にあることを見出した。
【0043】
通常、このような銅管は使用時間の経過とともに銅管内表面に酸化銅からなるスケールが生成することにより、銅イオンの溶出量が減少し、その銅イオン濃度が水質基準レベル(1ppm)未満に落ち着く。しかし、上記ヒートポンプ式給湯装置などのエコ給湯システムでは、使用される水道水の水質が一定でなく、水道水の水質のpH値が低い傾向の地域では銅管内面への酸化銅スケールの生成が充分でないケースが生じ、さらに銅管外面から100℃近くの熱源で加熱される(上記の例では所定温度、すなわち120℃−90℃=30℃以上の熱負荷を受けている)ことにより、この酸化銅スケールの生成が十分でない現象が、さらに顕著になるものと推測される。
【0044】
このような理由で、通常の水質であれば、銅管からの銅イオン溶出量は、使用開始後は多くても、しばらく使用すると銅管内面に酸化銅の緻密なスケールが生成することによって、実質上問題ないレベルまで低下するが、地域によりpH値の低い水質の場合には、銅イオンの溶出量が長期に渡って低下しないケースがあり、実用面での問題として浴槽などに銅化合物が付着して青く着色する問題が生じる。
【0045】
そこで、この実施の形態では、このような問題を解決するために、上記水側熱交換器9の伝熱管として、リン脱酸銅その他の銅材(Cu)をベースとし、該ベースとなる銅材(Cu)中にアルミ(Al)、錫(Sn)、リン(P)に加えて、さらに亜鉛(Zn)を添加して構成した銅合金製の伝熱管を使用している。
【0046】
アルミ(Al)は、銅(Cu)の表面に酸化アルミニウムとして濃縮することにより、高温水中での銅イオンの溶出の抑制に有効に寄与する。
【0047】
しかし、このアルミの添加量が0.1wt%未満では、有効な効果は認められない。
【0048】
一方、アルミの添加量が3.0wt%を超えると、銅イオンの溶出抑制効果は得られても、耐孔食性およびロウ付け性能が著しく低下する。したがって、アルミの添加量は重量比0.1〜2.0wt%の範囲が好ましい。
【0049】
すなわち、上記アルミの添加により表面に生成する酸化アルミニウムは、銅のイオン溶出抑制作用は高いのであるが、一部の水道水に見られるように水質中に塩素イオンが高濃度で含まれていると、酸化アルミニウム膜の欠陥部を介して塩素イオンが浸入し、その箇所において孔食(局部腐食)を発生させるケースがある。そこで、この課題を解決するために種々の共添元素を検討した結果、錫(Sn)を添加すると孔食の発生を抑制できることを見出した。また錫は、アルミと共添されることにより、耐食性の向上に寄与するだけでなく、アルミ添加によるロウ付け性能の低下をも抑制する。
【0050】
しかし、この錫の添加量が、0.1wt%未満では有効な効果が得られない。
【0051】
一方、この錫を上記アルミの添加量以上に添加しても効果が飽和し、コストの上昇をもたらすのみである。したがって、錫の添加量は重量比0.1〜アルミ添加量未満のwt%の範囲が好ましい。
【0052】
さらにリン(P)は、通常のリン脱酸銅に添加されているものと同じ脱酸効果を示し、添加範囲も同程度である。すなわち、0.001wt%未満では、有効な脱酸素効果が得られない。一方、0.1wt%を越えて添加されると加工性が著しく低下する。したがって、リンの添加量は、重量比0.001〜0.1wt%の範囲が好ましい。
【0053】
上記のようにアルミの添加による弊害としてロウ付け性の低下がある。すなわち、銅イオンの溶出を抑制する上記銅の表面に濃縮した酸化アルミニウム膜がロウの濡れ性を低下させ、長期間大気中に放置した材料ではロウがはじく場合も生じる。
【0054】
そこで、この欠点を改善すべく種々の共添元素を検討した結果、上記錫とは別に、さらに亜鉛を添加することにより、ロウ付け性能が実用上支障のないレベルまで改善されることを見出した。
【0055】
この場合、亜鉛(Zn)の添加量が、0.05wt%未満では有効な効果が得られない。
【0056】
一方、同亜鉛をアルミの添加量以上に添加しても効果が飽和し、コストが上昇するのみである。
【0057】
したがって、同亜鉛の添加量は0.05〜アルミ添加量未満のwt%の範囲であることが好ましい。
【0058】
なお、通常のリン脱酸銅に含まれている程度の不純物が、本銅合金中に含まれていても、それが上記の特性に影響を与えることはない。
【0059】
<試験例>
以上の組成の銅合金製伝熱管の作用効果の有効性を確認するために、以下の<表1>に示す組成の銅材(実施例1〜3および比較例1〜5)を各々溶解鋳造し、熱間圧延→冷間圧延工程を経て、板厚2mmの板状のテストピース16を製作した。さらに、それらを各々500℃で30分間歪み取り焼鈍を行ってから、その試験面をJIS1000番まで研磨し、アルコールで脱脂して、それぞれ耐銅イオン溶出性評価試験、耐孔食性評価試験、ロウ付け性評価試験に供した。
【0060】
【表1】

【0061】
<耐銅イオン溶出特性および耐孔食性の試験方法>
今、例えば上述の図1に示す水側熱交換器9の構成に対応する図2のようなモデル水側熱交換器を製作した。
【0062】
この水側熱交換器は、所定量の温水Wを貯留した有底筒状の温水タンク12と、該温水タンク12の底部12bの下面側にあって、貯留された温水Wの温度を上述した給湯温度90℃に保つ補助熱源としての補助ヒータ14を備えた温水撹拌機能をもったホットスタラー15と、上記温水タンク12内底部に延びて先端18a側を開口した二酸化炭素供給管18および同二酸化炭素供給管18の途中に設けられた開閉弁19を有し、上記温水タンク12内の温水W中の遊離炭酸濃度を高めて同温水WのpH値を低下させる二酸化炭素(CO2)を貯留した二酸化炭素ボンベ20と、上記温水タンク12の側壁部12aの一部を構成する形で取付けられた上記<表1>に示される各種板状のテストピース16(本実施例1〜3および比較例1〜5のもの)とからなり、該テストピース16の外周面には、同テストピース16の外周面側の温度を上述したヒートポンプ式給湯装置の冷媒側熱交換器2側の放熱温度120℃に維持するための主熱源としての主ヒータ17が設けられている。
【0063】
また、上記温水タンク12の上部側には、放熱可能な空冷用のガラスコンデンサー13aを有する放熱および排気用の筒状の開口13が設置されている。
【0064】
そして、上記板状のテストピース16の背面温度を、上述のように、図1の炭酸ガス(CO2)ヒートポンプ式給湯装置の冷媒側熱交換器2の放熱温度相当の120℃に設定し、また温水タンク12中の温水Wの温度を給湯温度90℃とすることにより、相互に(内外周面間で)約30℃の温度差をつけ、同板状のテストピース16に実機相当の熱負荷を与えるようにした。
【0065】
使用した水の水質は、上水道水をベースに、炭酸ガス(CO2)を連続して微量吹き込み、そのpH値を5.5程度まで低下させて銅イオンを溶出しやすい水質に調整した。そして、上記板状のテストピース16からの銅イオンの溶出量は、上記温水タンク12内の温水Wを定期的にサンプリングし、原子吸光分析計で測定した。
【0066】
また、耐孔食性についての評価は、6ケ月間の試験期間経過後に上記板状のテストピース16を取り出して、その試験面(内側の温水と接触している面)を拡大観察して、孔食の発生の有無を確認した。
【0067】
この結果、試験水中に溶出した銅イオン濃度の経時変化を、上記<表1>に示した本実施例1のテストピースの場合と比較例5のテストピースの場合で代表させて図3のグラフに示す(単位ppb)。この結果を見ると、本実施例1の場合には、銅イオンの溶出量が大きく抑制されていることが分る。
【0068】
本実施例2,3の場合には、さらにアルミの添加量が多いことから、同実施例1の場合以上に銅イオン溶出抑制効果が高く、また比較例1〜3の場合には、相当量のアルミが添加されているため、比較例5の場合に比べると同銅イオン抑制効果が高い。しかし、後述のようにロウ付け性や耐孔食性の点で劣る。
【0069】
<ロウ付け性の試験方法>
また図4(a)に示すように、上記板状のテストピース16の表面に一定量のロウ材21を置き、ガスバーナー22で一定時間加熱し、同ロウ材21が溶けた図4(b)の状態におけるロウ材21のテストピース16面上での広がり具合(図5(a),(b)の平面図および断面図の組み合わせを参照)から、その面積を計測して、各テストピース16におけるのロウ付け性の良否を評価した(広いほど良好)。
【0070】
<考察>
これらの試験結果によると、銅をベースとし、該銅材中にアルミを重量比0.1〜2.0wt%、錫を重量比0.1〜アルミ添加量未満のwt%、リンを重量比0.001〜0.1wt%、亜鉛を重量比0.05〜アルミ添加量未満のwt%添加して形成した本実施例1〜3のテストピースは、耐銅イオン溶出性、耐孔食性、ロウ付け性の何れの面においても評価基準をクリアしている(<表1>中に〇印で表示)。
【0071】
他方、アルミが重量比0.1〜2.0wt%、錫が重量比0.1〜アルミ添加量未満のwt%、リンが重量比0.001〜0.1wt%、亜鉛が重量比0.05〜アルミ添加量未満のwt%の範囲にない比較例1〜4の場合およびアルミ、錫、リン、亜鉛の添加がなく、リン脱酸銅だけの比較例5の場合には、それぞれ次の点で求められる評価基準をクリアすることができていない(<表1>中の×印を参照)。
【0072】
比較例1:アルミ添加量が2.0wt%を超えた場合は、耐孔食性の低下とロウ付け性の低下が生じる。
【0073】
比較例2:錫の添加量が少ないために、耐孔食性の改善効果が得られない。
【0074】
比較例3:亜鉛の添加量が少ないために、ロウ付け性の改善効果が得られない。
【0075】
比較例4:アルミの添加量が少ないために、銅イオンの溶出抑制効果が得られない。
【0076】
比較例5:通常のリン脱酸銅(JIS・C1220)であるため、すでに述べたように、銅イオンの溶出量が多い。
【符号の説明】
【0077】
Aはヒートポンプユニット、Bは給湯ユニット、1は圧縮機、2は放熱熱交換器、3は膨張弁、4は空気熱交換器、5はファン、7は水タンク、8は水ポンプ、9は水側熱交換器、10は水循環配管、11aは水供給配管、11bは給湯配管である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部熱源によって管内を流れる流体を加熱する給湯用の伝熱管であって、銅をベースとし、該銅材中にアルミ、錫、リン、亜鉛を添加したことを特徴とする給湯用伝熱管。
【請求項2】
アルミ、錫、リン、亜鉛各々の添加量は、アルミが重量比0.1〜2.0wt%、錫が重量比0.1〜アルミ添加量未満のwt%、リンが重量比0.001〜0.1wt%、亜鉛が重量比0.05〜アルミ添加量未満のwt%であることを特徴とする請求項1記載の給湯用伝熱管。
【請求項3】
給湯用伝熱管が、熱源側の作動媒体として二酸化炭素を採用したヒートポンプ式給湯装置の給湯用水側熱交換器の伝熱管であることを特徴とする請求項1又は2記載の給湯用伝熱管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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