説明

絨毛伸張剤

【課題】ヒトを含む動物において、小腸の絨毛伸張を促進せしめて消化吸収を改善しうる絨毛伸張剤を提供すること。
【解決手段】乳酸菌を培養後、培地成分を水で洗浄除去し、過熱殺菌し、ヒト乳幼児や離乳期にある仔ブタに経口投与又は経鼻投与し、小腸の絨毛伸張を促進させることにより、消化吸収不良に起因する疾患を改善する。また、小腸切除した短腸症候群の患者の消化吸収を改善し、低栄養状態を改善する。前記乳酸菌としては、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)EC−12であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌、その死菌体又はそれらの処理物を有効成分とするヒトや仔ブタ等の小腸絨毛伸張剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
小腸は上から順に十二指腸・空腸・回腸と呼ばれ、このうち、胃からつながる十二指腸は後腹壁に固定されているが、空腸・回腸は腸間膜にくっついていて、かなり自由に動くことができる。この空・回腸を腸間膜小腸といい、小腸とはこの部分をさす。小腸は、消化・吸収の面で消化管の中で最も重要な器官であり、消化・吸収面積を増大するために著しい形態的分化を遂げている。小腸の形態的特徴の一つである小腸絨毛は、小腸粘膜の突出であり、単層の上皮細胞によって覆われ、さらにその細胞表面には数千に達する微絨毛という突起がある。絨毛構造は小腸における一大特徴であり、吸収機能に大きく関与している。ヒトの小腸を単に円筒と考えた場合の表面積はおよそ0.33mであるが、輪状ヒダ数、さらに絨毛(長さ1mm、約500万個)の形成によってその表面積はおよそ10mに達する。また、吸収細胞1個当たり600個の微絨毛(長さ1μm)の存在によって、その表面積はさらに200m(約600倍)にも達し、吸収効率を著しく増大せしめている。即ち、腸容積わずか1μlが、約1cmの吸収表面積をもつものである。腸絨毛は、回腸の末端に近づくにつれて粗になり、絨毛と絨毛との間には小腸陰窩がある。その粘膜上皮のうち、大部分は盛んに細胞分裂、増殖を繰り返しながら吸収上皮や杯細胞に分化しながら絨毛表面を上方へ移動し、古い絨毛上皮と置き換わっていく。また、腸の上皮細胞には多くの内分泌細胞が混在し、局所的、全身的に様々なホルモンを分泌する。
【0003】
糖質、タンパク質、脂肪といった栄養素は微絨毛から吸収される。この部分には消化酵素がいつも待ちかまえており、栄養素がこの酵素にぶつかってバラバラになったところを、すばやく腸壁内に取り込むのである。微絨毛細胞の寿命は24時間、人体でもっとも短命な細胞である。人間生存のために必要不可欠な栄養吸収の現場では、いつでもフレッシュな感度をもった細胞が必要とされているということである。ちなみに、小腸はほぼ無菌状態である。哺乳動物の肉眼病変は小腸壁の菲薄化が特徴で、腸壁を通して内容物が透けて観察され、哺乳ブタでは未消化凝固物が胃内に貯留する。ウイルスは小腸の粘膜上皮細胞で増殖し、細胞の変性壊死を起こす。小腸絨毛の萎縮により絨毛丈と陰窩長の比は約1:1まで低下することがある。腸絨毛には外部からの異物を排除する強い免疫機構があるため、絨毛の萎縮が起こると細菌が侵入(感染)しやすくなり、普段は感染力のないような細菌に感染しやすくなる原因となることもある。
【0004】
体外環境との境界をなす消化管粘膜上皮は大量の食餌性抗原や腸内細菌叢、さらには外来性の細菌やウイルスなどの病原体に常に曝されている。消化管にはパイエル板をはじめとするリンパ組織が発達しており、腸内の微生物や食餌性高分子などの抗原を取り込んでモニターすることにより、免疫監視に重要な役割を果たしている。パイエル板を覆う上皮はFAE(follicle-associated epithelium)と呼ばれ、通常の絨毛上皮とは異なる性質を示すことが知られている。FAEにはM細胞と呼ばれる微絨毛の発達していない上皮細胞が点在し、トランスサイトーシスという細胞内輸送系を発達させて積極的に腸内抗原を取り込みパイエル板の免疫細胞に受け渡すことにより、免疫監視の発動に主要な役割を担うと考えられる。トランスサイトーシスをはじめとするM細胞の機能を理解し人為的に調節することができれば、免疫応答の制御に繋がる。しかし、M細胞はその絶対数が少なく特異的なマーカー分子も無いことから、その分子細胞生物学的解析はほとんど進んでいない。また、腸管上皮細胞のタイトジャンクションの膜分子のバリア機能(物質透過性)が、アレルギー疾患に関与している可能性も指摘されている。たとえば小児期のタイトジャンクション形成の不十分さによって、取り込まれる食物抗原の選択性が得られずアレルギー疾患症状を引き起こすとされている。
【0005】
従来、乳酸菌と腸絨毛高さとの関連についての文献は少なく、腸絨毛上皮細胞との関係については、例えば、動物の腸絨毛上皮細胞を、乳酸菌ストレプトコッカス・フェーカリス菌体の存在下に組織培養し、腸上皮細胞内に進入した菌株のみを選択採取し、この選択した菌株を用いて常法通り乳酸菌製剤とする腸管定着性の確実な乳酸製剤の製造法(例えば、特許文献1参照)等が知られている。また、最近では、腸絨毛高さを増加し、腸吸収を促進する作用を有する、短腸症候群を処置するのに有用なEGF(上皮成長因子)産生組換え乳酸菌、具体的にはEGF産生組換えラクトコッカス・ラクチス、EGF産生組換えラクトコッカス・カゼイが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
他方、乳酸菌それ自体、或いはその処理物の用途として、近年増加の一途をたどっているアレルギー性疾患の予防・治療を挙げることができる。例えば、ストレプトコッカス・フェカリス等の乳酸菌を所定の処理を施して、乳酸菌から抗アレルギー剤として有効な成分を抽出する方法(例えば、特許文献3参照)や、ストレプトコッカス属、エンテロコッカス属等に属する腸内細菌の生菌体を抗アレルギー成分とする腸内細菌叢改善組成物(例えば、特許文献4参照)や、ラクトバチルス・アシドフィルス等の乳酸菌の菌体を有効成分とするIgE抗体産生抑制剤又は抗アレルギー剤(例えば、特許文献5参照)が知られている。
【0007】
また、エンテロコッカス属に属する菌体の酵素処理菌を主成分とする抗アレルギー剤(例えば、特許文献6参照)や、ヒトの腸内細菌群より分離された乳酸菌として、エンテロコッカス・フェカリス(AD101株)、ラクトバシルス・ロイテリー(AD0002株)のうち1種類以上の菌体を含有するヒスタミン遊離抑制効果を有するI型アレルギー抑制剤(例えば、特許文献7参照)や、乳酸菌の菌体成分を主成分とするTヘルパー細胞1型(Th1)誘導剤(例えば、特許文献8参照)や、ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)に属する乳酸菌、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)に属する乳酸菌、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される乳酸菌を有効成分として含む抗アレルギー剤(例えば、特許文献9参照)が知られている。さらに、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)等の乳酸菌、その死菌体、その処理物あるいはメガスフェラ・エルスデニ(Megasphaera elsdenii)を有効成分とする、バンコマイシン等薬剤耐性菌保菌乃至感染している家畜・家禽又は魚介類の感染防除剤(例えば、特許文献10参照)が知られている。
【0008】
【特許文献1】特公昭46−38592号公報
【特許文献2】特表2005−529622号公報
【特許文献3】特開昭57−154132号公報
【特許文献4】特開平7−265064号公報
【特許文献5】特開平9−2959号公報
【特許文献6】特許第3040744号公報
【特許文献7】特開2000−95697号公報
【特許文献8】特開2003−137795号公報
【特許文献9】特開2004−26729号公報
【特許文献10】特開2006−89421号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
離乳仔ブタの消化器は、母乳から成ブタ用飼料へ移行するという急激な餌の変化と共に、離乳や環境の変化などのストレス状態にあり、このような状況下で、病原性大腸菌により下痢症状をひき起こすことがしばしば見受けられる。これは、離乳前後における仔ブタの腸管内の変化があるからであり、健康な腸絨毛は、長く伸び、これにより、腸の表面積が格段に広がって消化吸収を促進している。また、哺乳期間中は母乳中に含まれるIgA抗体が、毎回哺乳時に母乳から供給され、腸絨毛の表面を覆って、大腸菌等の病原性微生物が仔ブタの腸絨毛に付着するのを防いでいるといわれている。しかし、栄養豊富で消化のよい母乳が離乳により断ち切られ、急に成ブタ用飼料を食すると、腸粘膜での消化吸収は、その変化に追いつけず、腸絨毛は短くなって(Res Vet Sci 1986 Jan;40(1):32-40参照)、栄養成分の吸収力は低下する。この状態によって、吸収されない栄養分は大腸に至り、これら病原性微生物を含む各種の微生物の増殖をひき起こすことになる。本発明の課題は、ヒトを含む動物において、小腸の絨毛伸張を促進せしめて消化吸収を改善しうる絨毛伸張剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、先行技術のようにEGFを産生する組換え乳酸菌を用いずに、ある種のエンテロコッカス・フェカリスの死菌体を離乳期の仔ブタに経口又は経鼻投与し、小腸内の絨毛の長さを、投与した群と投与しない対照群を比較したところ、該乳酸菌を投与した小腸内の絨毛の高さが、対照群と比べて有意に伸長していることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、(1)乳酸菌(但し、EGF産生組換え乳酸菌は除く)、その死菌体及びそれらの処理物を有効成分として含有することを特徴とする動物の小腸絨毛伸張剤や、(2)乳酸菌がエンテロコッカス属に属する微生物であることを特徴とする前記(1)記載の動物の小腸絨毛伸張剤や、(3)エンテロコッカス属に属する微生物が、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)であることを特徴とする前記(2)に記載の動物の小腸絨毛伸張剤や、(4)エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)が、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)EC−12(FERM BP10284)であることを特徴とする前記(3)記載の動物の小腸絨毛伸張剤や、(5)経口投与又は経鼻投与されることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の動物の小腸絨毛伸張剤に関する。
【0012】
また本発明は、(6)乳酸菌(但し、EGF産生組換え乳酸菌は除く)、その死菌体及びそれらの処理物を動物の小腸絨毛伸張剤として使用する方法や、(7)乳酸菌がエンテロコッカス属に属する微生物であることを特徴とする前記(6)記載の方法や、(8)エンテロコッカス属に属する微生物が、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)であることを特徴とする前記(7)に記載の方法や、(9)エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)が、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)EC−12(FERM BP10284)であることを特徴とする前記(8)記載の方法や、(10)経口投与又は経鼻投与されることを特徴とする前記(6)〜(9)のいずれかに記載の方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の小腸絨毛伸張剤は、小腸絨毛を伸張させることにより、ヒト乳幼児期又は離乳期にある仔ブタの消化吸収を改善し、消化吸収不良に起因する疾患を改善することや、小腸切除した短腸症候群の患者の消化吸収を改善し、低栄養状態を改善することが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の小腸絨毛伸張剤としては、乳酸菌(但し、EGF産生組換え乳酸菌は除く)、その死菌体及びそれらの処理物を有効成分とするものであれば特に制限されるものではなく、また本発明の方法としては、乳酸菌(但し、EGF産生組換え乳酸菌は除く)、その死菌体及びそれらの処理物を動物の小腸絨毛伸張剤として使用する方法であれば特に制限されるものではなく、対象となる動物としては、ヒトの他家畜・家禽類やペット類を好適に例示することができ、家畜・家禽類としては、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギなどの家畜、ニワトリ、カモ、ダチョウ、アヒルなどの家禽を具体的に挙げることができ、ペット類としてはイヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター等を具体的に挙げることができる。また、使用方法における動物としては、家畜・家禽類やペット類を好適に例示することができる。
【0015】
上記乳酸菌としては、エンテロコッカス属(Entrococcus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、ストレプトコッカス属(Storeptococcus)、ラクトバシラス属(Lactobacillus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)又はテトラジェノコッカス属(Tetragenococcus)のいずれかに属する菌が好ましく、特にエンテロコッカス属に属する菌が好ましい。
【0016】
上記エンテロコッカス属に属する菌としては、エンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・フェシウム、エンテロコッカス・デュランス等を挙げることができ、エンテロコッカス・フェカリスEC−12が特に好ましい。上記ラクトコッカス属に属する菌としては、ラクトコッカス・ラクティス、ラクトコッカス・プランタラム、ラクトコッカス・ラフィノラクティス等を挙げることができる。上記ストレプトコッカス属に属する菌としては、ストレプトコッカス・サーモフィルス等を挙げることができる。上記ラクトバシラス属に属する菌としては、ラクトバシラス・アシドフィルス、ラクトバシラス・サリバリウス、ラクトバシラス・ブレビス、ラクトバシラス・ラムノサス、ラクトバシラス・プランタラム、ラクトバシラス・ヘルベティカス、ラクトバシラス・ファーメンタム、ラクトバシラス・パラカゼイ、ラクトバシラス・カゼイ、ラクトバシラス・デルブリュッキイ、ラクトバシラス・ロイテリ、ラクトバシラス・ガッセリ、ラクトバシラス・ジョンソニイ、ラクトバシラス・ケフィア、ラクトバシラス・ブルネリ等を挙げることができる。上記ロイコノストック属に属する菌としては、ロイコノストック・ラクティス、ロイコノストック・メセンテロイデス等を挙げることができる。上記ペディオコッカス属に属する菌としては、ペディオコッカス・ダムノサス等を挙げることができる。上記ビフィドバクテリウム属に属する菌としては、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス、ビフィドバクテリウム・ビフィダム等を挙げることができ、特にビフィドバクテリウム・ブレーベが好ましい。テトラジェノコッカス属に属する菌としては、テトラジェノ・ハロフィルス等を挙げることができる。
【0017】
これらの乳酸菌は、一種又は二種以上の菌種を配合して用いることができる。これらの乳酸菌等は、常法に従って任意の条件で培養することによって得ることができる。
【0018】
本発明において乳酸菌は、生菌、その死菌体又はその処理物として用いることができる。前記死菌体としては、常法により培養、集菌した乳酸菌の菌体を洗浄し、遠心脱水し、必要に応じて洗浄・脱水を繰り返した後、蒸留水、生理食塩水等に懸濁し、この懸濁液を、例えば80〜115℃で30分〜3秒間加熱することにより得られる死菌体懸濁液やその乾燥物、又は前記死菌体懸濁液にガンマ線或いは中性子線を照射することにより得られる死菌体懸濁液やその乾燥物を挙げることができる。該死菌体懸濁液の乾燥手段としては公知の乾燥手段であれば特に制限されないが、噴霧乾燥、凍結乾燥等を例示することができる。場合によっては、加熱等による殺菌処理の前後、あるいは、乾燥処理の前後に、酵素処理、界面活性剤処理、磨砕・粉砕処理を行うこともでき、これらの処理により得られるものも、本発明の死菌体又はその処理物に含まれる。
【0019】
本発明の小腸絨毛伸張剤としては、乳酸菌エンテロコッカス・フェカリスEC−12の死菌体又はその処理物を有効成分として含有する組成物が特に好ましい。エンテロコッカス・フェカリスEC−12は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)において2005年2月25日に「FERM BP−10284」としても寄託されている。このエンテロコッカス・フェカリスEC−12(FERM BP−10284)の培養方法としては、従来公知の乳酸菌の培養方法も含め特に制限されるものではないが、乳酸菌生育用培地を用い、37℃で培養pHを中性付近に維持しながら5〜120時間、好ましくは、16〜28時間培養し、生菌数約10〜1010/ml、好ましくは約10〜1010/mlの培養液を得る方法を好適に例示することができる。
【0020】
本発明の小腸絨毛伸張剤を製剤として用いる場合、デンプン、乳糖、大豆蛋白等の担体、賦形剤、結合材、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、懸濁剤等の添加剤を配合して、周知の方法で粉剤、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤等に製剤化することができる。またグルコン酸塩、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖などのオリゴ糖類やセルロース、βグルカン、キトサンなどの食物繊維素材などのプレバイオテクス素材と組み合わせてもちいることもできる。かかる製剤はそのまま投与することもできるが、ベビーフード、飼料等に混じて給餌させることもできる。
さらに、本製剤を小腸術後の患者等に小腸絨毛伸張剤として、食品や食品素材に添加して用いることができる。その種類としては特に制限されず、例えば、ミネラルウォーター、スポーツ飲料、ジュース、牛乳、豆乳、酒類、コーヒー、紅茶、煎茶、ウーロン茶等の各種飲料、ヨーグルト、ドリンクヨーグルトや、プリン、クッキー、パン、ケーキ、ゼリー、煎餅などの焼き菓子、羊羹などの和菓子、冷菓、チューインガム等のパン・菓子類や、うどん、そば等の麺類や、かまぼこ、ハム、魚肉ソーセージ等の魚肉練り製品や、みそ、しょう油、ドレッシング、マヨネーズ、甘味料等の調味類や、チーズ、バター等の乳製品や、豆腐、こんにゃく、その他佃煮、餃子、コロッケ、サラダ等の各種総菜を挙げることができる。
【0021】
本発明の小腸絨毛伸張剤や使用方法における投与量や投与回数は、対象となる動物の種類、体重、日齢、月齢、病状、回復状態に応じて、適宜決定することができるが、ヒトにあっては乳幼児や小腸切除後に投与することが好ましく、ブタ等の家畜にあっては離乳期に投与することが好ましい。例えば、エンテロコッカス・フェカリスEC−12の死菌体又若しくは処理物を用いる場合、ベビーフードや飼料に0.0001%〜0.2%、さらに望ましくは飼料に関しては0.01%〜0.05%含有させ、ヒト成人に対しては50mg〜600mg/日、通常の1日当たりの給餌量及び給餌回数とすることができる。
【0022】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
(実験目的)
仔ブタは離乳によって小腸絨毛が萎縮して消化吸収に悪影響を及ぼすため、絨毛高の萎縮予防もしくは早期回復が必要である。エンテロコッカス・フェカリスEC−12死菌体を経口又は経鼻投与した際の、小腸における絨毛高に及ぼす影響について組織学的な評価を行い、あわせて小腸組織培養中の免疫関連分子の遺伝子発現量を検討した。
【0024】
(エンテロコッカス・フェカリスEC−12死菌体の調製)
エンテロコッカス・フェカリスEC−12(FERM BP−10284)をロゴサ培地で37℃、24時間培養した前培養液を、酵母エキス4%、ポリペプトン3%、乳糖10%を含む液体培地に0.1(v/v)%接種し、pHスタットを用いてpH6.8〜7.0に苛性ソーダ水溶液で調整しながら、37℃で22〜24時間中和培養を行なった。培養終了後、連続遠心機で菌体を分離、回収した後、水を加えて元の液量まで希釈して再度連続遠心機で菌体を分離、回収した。この操作を合計4回繰り返して菌体を洗浄した。次いで、洗浄した菌体を適量の水に懸濁し、100℃で30分間殺菌した後、スプレードライヤーを用いて菌体を乾燥して加熱処理菌体粉末(以下、「EC−12乾燥粉末」という)を調製した。
【0025】
(方法)
EC−12乾燥粉末は予め小麦粉で10倍希釈したプレミックスを作製しておき、EC−12乾燥粉末を0.05%含有するように基礎飼料SDSNo.1(日本配合飼料株式会社製)に添加したものを用いた。また、対照飼料には、0.5%の市販小麦粉を基礎飼料に添加したものを用いた。被検動物として、離乳直後の仔ブタ6頭を、EC−12乾燥粉末経口投与群(OE群)と対照群(OC群)に分け、OE群にはEC−12乾燥粉末を前記のように0.05%(w/w)飼料中に添加して、OC群には前記対照試料をそれぞれ10日間又は11日間与えた。また、離乳直後の仔ブタ6頭をEC−12経鼻投与(NE群)群と対照群(NC群)に分け、NE群には10mg/kg体重のEC−12乾燥粉末懸濁PBSを、NC群にはPBSを左右鼻腔内に1mlずつ10日間又は11日間毎日スプレーした。飼育後小腸を摘出し一部を切り出し、薄切標本を作製した。より具体的には、小腸2部位(空腸末端部,回腸中央部)を展開後、内容物を除去するために生理食塩水で洗浄し、発泡スチロールに伸展貼り付けた。10%中性緩衝ホルマリンにて固定後、断面が出るように3〜5mm程の厚さに細切し、10%中性緩衝ホルマリンで再固定した。組織をパラフィンに包埋し、4μm厚で薄切後,スライドガラスに貼り付け、HE染色を施した。断面全てをCCDカメラにてデジタル撮影し、NIH Imageを用いて絨毛高さ及び陰窩深さを計測した。対物マイクロメーターの目盛りを別に計測し、比率でmm値を算出した。
【0026】
また小腸粘膜固有層を採取し組織片をRPMI1640培地内で37℃で2日間培養した。このとき抗原としてEC−12乾燥粉末を用い、培養上清中のIgA及びIgG濃度と培養後の組織における各種免疫物質遺伝子発現を解析した。IgA及びIgG濃度の測定には、Pig IgA ELISA QuantitationKit (Bethyl, Montgomery, TX, USA)及びPig IgGELISA Quantitation Kit (Bethyl)を用いた。各組織からNucleoSpinRNA II kit (Macherey-Nagel, Easton, PA, USA)を用いてmRNAを抽出し、ReverTra Ace (TOYOBO, Tokyo)を用いて逆転写を行った。IFN−γ、IL−8(好中球活性化因子)、IL−10(ケモカイン合成阻止因子)、TNF−αのmRNAの発現をリアルタイムPCRを用いて解析し、ハウスキーピング遺伝子GAPDHの数値で補正を行った。
【0027】
(結果)
図1は小腸組織の模式図(Kerr,1999)、図2は小腸組織の用語(絨毛,陰窩)を説明するための図であり、図3は、仔ブタ小腸(空腸部)絨毛高に対する乳酸菌EC−12乾燥粉末経口投与が与える影響を示す図である。図3から、EC−12乾燥粉末経口投与により、空腸部の絨毛が伸張して高くなっていることがわかる。また、EC−12乾燥粉末経口投与試験での回腸と空腸における絨毛高さの測定結果を表1に、EC−12乾燥粉末経鼻投与試験での回腸と空腸における絨毛高さの測定結果を表2にそれぞれ示す。表1からわかるように、OE群ではOC群と比較して小腸絨毛高が高値を示した。また、表2からわかるように、NE群でもNC群と比較して小腸絨毛高が高値を示した。経口投与及び経鼻投与ともに、絨毛/陰窩比が対照と比べて大きくなっていることから、回腸と空腸における絨毛が伸張していることが確認することができた。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
小腸粘膜組織の培養上清中のIgA及びIgG濃度を測定した結果、OE群とOC群及びNE群とNC群のいずれの場合でも、小腸粘膜組織の培養によって生産される免疫グロブリン量に大きな影響はなかった。小腸粘膜固有層の組織片からOE群ではIFN−γとIL−8の生産が増強され、逆にIL−10は低値を示す傾向にあった。NE群では、TNF−αの生産が亢進したが、IL−10の生産は低値を示す傾向にあった。EC−12乾燥粉末の投与により、小腸組織において炎症性サイトカインの生産が刺激され、それに伴って上皮細胞の増殖が刺激される可能性が示唆された。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】小腸組織の模式図(Kerr,1999)である。
【図2】小腸組織の用語(絨毛,陰窩)を説明するための図である。
【図3】仔ブタ小腸(空腸部)絨毛高に対する乳酸菌経口投与が与える影響を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸菌(但し、EGF産生組換え乳酸菌は除く)、その死菌体及びそれらの処理物を有効成分として含有することを特徴とする動物の小腸絨毛伸張剤。
【請求項2】
乳酸菌がエンテロコッカス属に属する微生物であることを特徴とする請求項1記載の動物の小腸絨毛伸張剤。
【請求項3】
エンテロコッカス属に属する微生物が、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)であることを特徴とする請求項2に記載の動物の小腸絨毛伸張剤。
【請求項4】
エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)が、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)EC−12(FERM BP10284)であることを特徴とする請求項3記載の動物の小腸絨毛伸張剤。
【請求項5】
経口投与又は経鼻投与されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の動物の小腸絨毛伸張剤。
【請求項6】
乳酸菌(但し、EGF産生組換え乳酸菌は除く)、その死菌体及びそれらの処理物を動物の小腸絨毛伸張剤として使用する方法。
【請求項7】
乳酸菌がエンテロコッカス属に属する微生物であることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
エンテロコッカス属に属する微生物が、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)であることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)が、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)EC−12(FERM BP10284)であることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
経口投与又は経鼻投与されることを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−255080(P2008−255080A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102123(P2007−102123)
【出願日】平成19年4月9日(2007.4.9)
【出願人】(391003912)コンビ株式会社 (165)
【Fターム(参考)】