説明

絶縁トランス

【課題】製品全体の大型化を招くことなく、簡易な構造によって所望とされる1次側と2次側との間の絶縁距離を確保することが可能となる1入力2出力型の絶縁トランスを提供する。
【解決手段】1次コイルが巻回された筒状の第1のボビン1と、2次コイル9が巻回された2組の巻線部10間に第1のボビン1の収納部16が形成された筒状の第2のボビン2と、第1のボビン1の孔部および第2のボビン2の孔部11内に挿入された内側コア7aおよび第2のボビン2の外周に沿って配置された外側コア7bとによって閉磁路を形成するコア部材とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1組の1次コイルと2組の2次コイルとを有し、1次側と2次側との間に高い絶縁性能を備えた絶縁トランスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータや薄型テレビジョン等の表示装置として用いられている液晶ディスプレイには、画面照射用の光源として複数本の冷陰極管が用いられている。そして、これらの冷陰極管の放電・点灯を行うために、インバータトランスが用いられている。
【0003】
このインバータトランスは、発信回路において直流入力電圧から変換された交流電圧を1次コイルに入力し、これを2次コイルにおいて1000〜2000Vに昇圧して上記冷陰極管に出力するものである。
【0004】
このような冷陰極管点灯用のインバータトランスにあっては、当該冷陰極管が多数本用いられているために、回路基板への実装上、その小型化を図るために、2本の上記冷陰極管を同時に、あるいは差動によって点灯させるための2組の2次コイルを備えた1入力2出力型のものが多用されている。
【0005】
ところで、上記インバータトランスにおいては、1次コイルへの入力電圧が数百Vの高電圧仕様のものが普及しつつあり、安全規格上の要請から、一般の低電圧仕様のトランスと比較して、上記1次コイルと2次コイルとの間に、一層長い絶縁距離(沿面距離)を確保して、相互間の絶縁性を担保することが要求されている。
【0006】
他方、下記特許文献1には、1入力1出力型の絶縁トランスとして、絶縁ケース内に、1次巻線が巻回されるとともに1次端子が設けられた1次ボビンと、2次巻線が巻回されるとともに2次端子が設けられた2次ボビンとを、上記絶縁ケースに一体成形された仕切板を間に介して直線状に配することにより、上記1次コイルと2次コイルとの間の絶縁距離を確保した絶縁コンバータトランスが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−92224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載の構造を、1次ボビンと2組の2次ボビンを有する1入力2出力型の絶縁トランスに適用して、所望の絶縁距離を得ようとすると、絶縁ケースが大型化して、製品全体の外形形状も嵩張るものとなり、実装する回路基板の小型化に逆行するという問題点があった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、製品全体の大型化を招くことなく、簡易な構造によって所望とされる1次側と2次側との間の絶縁距離を確保することが可能となる1入力2出力型の絶縁トランスを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の本発明に係る絶縁トランスは、1次コイルが巻回された筒状の第1のボビンと、2次コイルが巻回された2組の巻線部間に上記第1のボビンの収納部が形成された筒状の第2のボビンと、上記第1および第2のボビンの孔部内に挿入された内側コアおよび上記第2のボビンの外周に沿って配置された外側コアとによって閉磁路を形成するコア部材とを備えてなることを特徴とするものである。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記第2のボビンの外周部には、一方の面側に上記外側コアが配置され、かつ他方の面側から上記2次コイルの端部が巻回された端子が突出する端子装着部が形成されるとともに、上記一方の面には、上記外側コアと上記端子との間の空間距離が1mm以上になるように当該外側コアを位置決めする突起部が形成されていることを特徴とするものである。
【0012】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、上記コア部材は、上記内側コアと、この内側コアと平行に上記第2のボビンの一側面に沿って配設された上記外側コアとによってロ字状に形成されてなり、かつ上記収納部は、上記一側面に対して反対側に位置する他側面に、上記第1のボビンが挿入される開口部が形成されるとともに、上記第1のボビンは、上記1次コイルの端部が巻回された端子が植設された端子装着部を上記開口部から突出させて上記収納部内に収納されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1〜3のいずれかに記載の発明によれば、絶縁性を有する素材からなる第2のボビンの、各々2次コイルが巻回される2組の巻線部の間に収納部を形成し、この収納部内に1次コイルが巻回された第1のボビンを収納しているために、当該収納部を画成する隔壁によって、1次コイルと2次コイルとの間に、所望の絶縁距離を得ることができる。
【0014】
また、請求項2に記載の発明によれば、上記第2のボビンの外周部に端子装着部を形成し、この端子装着部の一方の面に突起部を形成して外側コアを位置決めすることにより、当該外側コアと、上記端子装着部の他方の面側から突出する2次コイルの端子との間に、1mm以上の空間を形成することができる。この結果、上記2次コイルとコア部材との間にも、確実に絶縁距離を確保することができる。
【0015】
加えて、請求項3に記載の発明によれば、第2のボビンの一側面に沿って外側コアを配置し、この外側コアに対して反対側となる他の側面に、第1のボビンの収納部の開口部を形成するとともに、当該開口部から1次コイルの端子が植設された端子装着部を突出させているために、上記1次コイルとコア部材との間にも、十分な絶縁距離を確保することができる。
【0016】
以上のように、本発明に係る絶縁トランスによれば、製品全体の大型化を招くことなく、簡易な構造によって所望とされる1次側と2次側との間の絶縁距離を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る絶縁トランスの一実施形態を示す分解斜視図である。
【図2】図1の第1のボビンの形状を示すもので、(a)は正面図、(b)は底面図、(c)は側面図である。
【図3】図1の第2のボビンの形状を示すもので、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図4】図3のX−X線視断面図である。
【図5】上記絶縁トランスの全体形状を示すもので、(a)は平面図、(b)は(a)のY−Y線視図である。
【図6】図5(a)の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1〜図6は、本発明に係る絶縁トランスをインバータトランスに適用した一実施形態を示すもので、このインバータトランスにおいては、1次コイルが巻回される第1のボビン1と、2組の2次コイルが巻回される第2のボビン2とに分割されている。
第1のボビン1は、図2に示すように、電気絶縁性を有する合成樹脂からなる方形筒状の巻線部3の外周に1次コイル(図示を略す。)が巻回され、この巻線部3の軸線方向両端側に、鍔部4が形成されたものである。
【0019】
そして、両方の鍔部4の外面側には、それぞれ巻線部3の軸線と直交する方向に延出するとともに、先端部に1次コイルの端部が接続される端子5が植設された端子装着部6が一体に形成されている。また、この第1のボビン1の中心部には、後述するU字状コア7の内側コア7aが挿入される孔部8が形成されている。
【0020】
他方、第2のボビン2は、図3および図4に示すように、同様に電気絶縁性を有する合成樹脂からなる全体として略方形筒状の部材で、その軸線方向の両端部側に、それぞれ2次コイル9が巻回される巻線部10が形成されている。なお、各巻線部10の外周には、高圧の2次コイル9における沿面放電を防止するための複数の仕切り板10aが軸線方向に等間隔をおいて一体に形成されている。また、第2のボビン2の中心部には、U字状コア7の内側コア7aが挿入される孔部11が形成されている。
【0021】
そして、各巻線部10の両端部には、それぞれ巻線部10の軸線と直交する方向に、第2のボビン2の一側面2a側へと突出する端子装着部12、13が形成されている。ここで、第2のボビン2の両端部に位置する端子装着部12は、巻線部10の孔部11が開口するように、その表面12aが孔部11の内壁面と同一平面上に連続するように形成されている。
【0022】
そして、各端子装着部12は、孔部11側に面する先端部の一方の面12bに、突起部14が一体に形成されるとともに、この面12bの裏面側の面12cには、2次コイル9の端部が巻回された端子15が突設されている。また、端子装着部13にも、同様に2次コイル9の端部が巻回された端子15が突設されている。さらに、両端子装着部13間には、U字状コア7の外側コア7bが載置される支持部21が形成され、この支持部21の先端部に、上面が端子装着部12の突起部14と同一平面上となる突起部22が形成されている。
【0023】
そして、第2のボビン2は、2組の巻線部10間に位置する中央部分に、第1のボビン1の収納部16が形成されている。
この収納部16は、端子装着部12、13が突出する一側面2aの反対側の側面2bに開口部17が形成された箱状の空間で、内壁には巻線部10の孔部11と連通する開口部18が穿設されている。
【0024】
そして、この収納部16内に第1のボビン1が挿入されている。ここで、第1のボビン1は、図1に示すように、2つ割れの絶縁カバー19によって1次コイルの外周面、鍔部4の外面および孔部8の内周面の全面が覆われた状態で上記収納部16内に設けられている。すなわち、この絶縁カバー19は、第1のボビン1の鍔部4の端面を覆う平板部19aと、1次コイルの外周を覆う外被部19bと、第1のボビン1の孔部8の内周面を覆う内被部19cとから形成されたもので、外被部19bの開口部に端子装着部6が配置されている。
【0025】
なお、平板部19aおよび外被部19bは、第1のボビン1を収納部16内に収納した際に、その一部が収納部16から突出する大きさに形成されている。そして、第1のボビン1は、平板部19aおよび外被部19bの一部ならびに端子装着部6を開口部17から突出させて収納部16内に収納されている。
【0026】
以上の構成からなる第1のボビン1および第2のボビン2の周囲には、閉磁路を形成するコア部材20が配置されている。ここで、コア部材20は、一対のU字状コア7によって全体としてロ字状に形成されたもので、各々のU字状コア7の一方の辺部が、内側コア7aとして第2のボビン2の孔部11から、収納部16内の第1のボビン1の孔部8を覆う絶縁カバー19の内被部19c内に挿入されている。
【0027】
また、U字状コア7の他方の辺部は、外側コア7bとして第2のボビン2の端子装着部12の面12a上から第2のボビン2の一側面2aに沿って配置され、端子装着部12および支持部21の突起部14、22上に載置されている。
ここで、突起部14、22の高さ寸法は、図6に示すように、外側コア7bの下面と端子15との間の空間距離Lが、1mm以上になるように設定されている。
【0028】
そして、一対のU字状コア7は、内周コア7aおよび外周コア7bの端面同士を当接して配置されている。
また、2次コイル9の外周には、絶縁テープ23が巻回されている。
【0029】
以上の構成からなるインバータトランスによれば、第2のボビン2の各々2次コイル9が巻回される2組の巻線部10の間に収納部16を形成し、この収納部16内に1次コイルが巻回された第1のボビン1を収納しているために、収納部16を画成する隔壁によって、1次コイルと2次コイル9との間に所望の絶縁距離を得ることができる。
【0030】
また、第2のボビン2の外周部に端子装着部12、13を形成し、この端子装着部12の一方の面12bに突起部14を形成して外側コア7bを位置決めすることにより、外側コア7bと、端子装着部12、13の他方の面12c側から突出する2次コイルの端子15との間に、安全規格上ギャップとして規定されている1mm以上の空間距離Lを形成することができる。この結果、上記2次コイルとコア部材との間にも、確実に絶縁距離を確保することができる。
【0031】
加えて、第2のボビン2の一側面2aに沿って外側コア7bを配置し、この外側コア7bに対して反対側となる他の側面2bに、第1のボビン1の収納部16の開口部17を形成するとともに、この開口部17から第1のボビン1における1次コイルの端子5が植設された端子装着部6を突出させている。このため、外側コア7bと1次コイルの端子5との間に長い絶縁距離を形成することができる。
【0032】
しかも、第1のボビン1の鍔部4の端面、1次コイルの外周面および孔部8の内周面を、絶縁カバー19によって覆うとともに、当該絶縁カバー19の一部も開口部17から突出させている。これにより、第1のボビン1に巻回した1次コイルと、孔部8、11内に挿入された内側コア7aとの間にも、十分な絶縁距離を確保することができる。
【0033】
なお、上記実施形態においては、全体としてロ字状の閉磁回路を形成するコア部材20を、一対のU字状コア7によって構成した場合に付いてのみ説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば孔部8、11内に挿入されるI型の内側コアと、第2のボビンの外周に配設されたC側の外側コアとの両端部同士を互いに磁気的に接続することによって構成することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
薄型テレビジョン等の表示装置として用いられている液晶ディスプレイの冷陰極管を点灯させるためのインバータトランス等として用いられる1入力2出力型の絶縁トランスとして利用可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 第1のボビン
2 第2のボビン
2a 一側面
2b 反対側の側面
3、10 巻線部
5、15端子
6、12、13 端子装着部
7 U字状コア
7a 内側コア
7b 外側コア
8、11 孔部
9 2次コイル
12b 一方の面
12c 他方の面
14、22 突起部
16 収納部
17 開口部
20 コア部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次コイルが巻回された筒状の第1のボビンと、2次コイルが巻回された2組の巻線部間に上記第1のボビンの収納部が形成された筒状の第2のボビンと、上記第1および第2のボビンの孔部内に挿入された内側コアおよび上記第2のボビンの外周に沿って配置された外側コアとによって閉磁路を形成するコア部材とを備えてなることを特徴とする絶縁トランス。
【請求項2】
上記第2のボビンの外周部には、一方の面側に上記外側コアが配置され、かつ他方の面側から上記2次コイルの端部が巻回された端子が突出する端子装着部が形成されるとともに、上記一方の面には、上記外側コアと上記端子との間の空間距離が1mm以上になるように当該外側コアを位置決めする突起部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の絶縁トランス。
【請求項3】
上記コア部材は、上記内側コアと、この内側コアと平行に上記第2のボビンの一側面に沿って配設された上記外側コアとによってロ字状に形成されてなり、かつ上記収納部は、上記一側面に対して反対側に位置する他側面に、上記第1のボビンが挿入される開口部が形成されるとともに、上記第1のボビンは、上記1次コイルの端部が巻回された端子が植設された端子装着部を上記開口部から突出させて上記収納部内に収納されていることを特徴とする請求項1または2に記載の絶縁トランス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−74547(P2012−74547A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218373(P2010−218373)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000237721)FDK株式会社 (449)