絶縁服
【課題】作業者の運動性を低下させない絶縁服を提供する。
【解決手段】作業者の身体を感電から防護するための絶縁服であって、電気絶縁性及び可撓性を備えた薄手の生地素材10によって着用時に動きやすいように形成され、電気自動車の整備に用いられること。また、生地素材10を溶着することによって形成され、少なくとも作業者の臀部に相当する溶着部分は、生地パーツ25Pの端部と生地パーツ27Pの端部との表面側同士が内側に巻き込まれて溶着され、さらに該溶着部分が生地パーツ27の裏面側に折り返されて二重溶着となっていること。
【解決手段】作業者の身体を感電から防護するための絶縁服であって、電気絶縁性及び可撓性を備えた薄手の生地素材10によって着用時に動きやすいように形成され、電気自動車の整備に用いられること。また、生地素材10を溶着することによって形成され、少なくとも作業者の臀部に相当する溶着部分は、生地パーツ25Pの端部と生地パーツ27Pの端部との表面側同士が内側に巻き込まれて溶着され、さらに該溶着部分が生地パーツ27の裏面側に折り返されて二重溶着となっていること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感電防止に用いられる絶縁服に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、感電災害の虞がある作業現場において、作業者は安全性確保のために絶縁材料によって形成された絶縁服を着用して作業を行っていた。このような絶縁服は、もともと高圧電線における活線作業において使用されることを主たる目的としている。そのため数千ボルト程度の高電圧に対して安全に使用できるだけの電気絶縁性を獲得するために、一般の衣服に比し生地素材が厚くならざるを得ず、着用した作業者の運動性が著しく低下する要因となっている。
【0003】
ところで、感電災害の虞がある作業現場においては作業者の安全が第一に優先される。そこで、多少の運動性の低下があったとしても、作業者の安全が確実に確保できる絶縁服でなければならないため、絶縁服は「高電圧」に耐えうるものという固定概念があった。そのため、電圧が比較的低いと想定される作業現場であっても、専用の絶縁服ではなく、7000V程度の高電圧に耐えうる絶縁服が用いられていた。このような電圧が比較的低いと想定される作業の一つに電気自動車の整備が挙げられる。電気自動車は車種によって違いはあるが、想定される電圧が600V以下とされる。
【0004】
ここで、絶縁服等の絶縁用保護具は、常温において試験交流(50ヘルツ又は60ヘルツの周波数の交流で、その波高率が、1.34から1.48までのものをいう)による耐電圧試験を行ったときに、交流の電圧が300Vを超え600V以下である電路について用いるものは3000V、交流の電圧が600Vを超え3500V以下である電路又は直流の電圧が750Vを超え、3500V以下である電路について用いるものは12000V、そして電圧が3500Vを超え7000V以内である電路について用いるものは20000Vの電圧に対して一分間耐える性能を有するものでなければならない旨が労働安全衛生法によって定められている。
【0005】
感電災害の虞のある作業現場で用いられる絶縁服として、例えば特許文献1に記載の活線作業用絶縁衣がある。これは、肩や肘といった関節に対応する部分に蛇腹状の伸縮部を設けることによって、肩や肘を屈伸した際に屈伸運動に応じて伸縮部が伸縮作用して運動性を損なわないように設計されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実公平3−54102号公報(第3欄12行目〜同欄21行目)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の活線作業用絶縁衣のように伸縮部を設けたとしても、肩や肘といった所定の部分のみが伸縮容易となるだけであり、複雑な作業者の動作の全てに対応できるものではなかった。また、伸縮部が蛇腹状に設けられるため、該伸縮部がかさばってしまい、却って運動性が損なわれてしまう虞がある。
【0008】
本発明は、従来の固定概念を覆し、感電災害として想定される最大電圧が600V以下の比較的低電圧である作業である電気自動車における整備作業用に用途を限定することにより、従来の絶縁服に比し作業者の運動性を低下させない絶縁服を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決するため、本発明による絶縁服は、作業者の身体を感電から防護するための絶縁服であって、電気絶縁性及び可撓性を備えた薄手の生地素材によって着用時に動きやすいように形成され、電気自動車の整備に用いられることを特徴とする。
また、腕が感電から防護される腕筒部と胴体が感電から防護される胴筒部とを有する絶縁上衣を含むことを特徴とする。
また、腰が感電から防護される腰筒部と脚が感電から防護される脚筒部とを有する絶縁下衣を含むことを特徴とする。
また、前記生地素材を溶着することによって形成され、少なくとも作業者の臀部に相当する溶着部分は、一の前記生地素材の端部と他の前記生地素材の端部との表面側同士が内側に巻き込まれて溶着され、さらに該溶着部分が前記一の生地素材の裏面側に折り返されて溶着されていることを特徴とする。
また、前記絶縁下衣の前記腰筒部の前側には前立て部が設けられ、該前立て部の下端部は前記生地素材が溶着されるとともに該溶着部分が縫成されることによって補強され、該補強部分は別の前記生地素材によって被覆されていることを特徴とする。
また、立体裁断された前記生地素材によって形成されていることを特徴とする。
【0010】
絶縁服の用途を電気自動車の整備作業に限定することによって、所定の電気絶縁性と可撓性を備えつつ従来に比し厚さが薄い生地素材で絶縁服を形成することができる。これにより、作業者が着用した際に運動性を損ないにくい絶縁服を提供することができる。また、立体裁断によって立体的に絶縁服を形成することにより、絶縁服が作業者の動きに追従しやすくなっている。生地素材は電気自動車の整備作業において感電に対する安全性が確保できる電気絶縁性を備え、かつ可撓性を備えた薄手のものであれば特に限定されるものではない。
【0011】
また、生地素材を溶着する際に、作業者の動作によって負担が掛かりやすく損壊しやすいと想定される臀部に対して二重溶着することで、溶着箇所の損壊が起こりにくいようにしている。このような二重溶着は、臀部以外にも損壊しやすいと想定される部分に行うことができる。
【0012】
作業者が装着及び脱衣を繰り返すことにより損壊しやすいと想定される前立て部の下端部は、単に溶着によって接合するのではなく、縫成によっても接合することによって、該部分が補強されるため損壊が起こりにくくなっている。この際、縫成による補強箇所に対して絶縁性を備えた生地で被覆することによって作業者の感電に対する安全性を確保している。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電気自動車の整備作業において用いられ、作業者の運動性を低下させない絶縁服を提供することができる。また、所定の耐久性を備えた絶縁服を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態である絶縁下衣の正面図及び部分拡大図である。
【図2】本発明の一実施の形態である絶縁下衣の背面図である。
【図3】本発明の一実施の形態である絶縁下衣の平面図である。
【図4】本発明の一実施の形態である絶縁下衣の底面図である。
【図5】本発明の一実施の形態である絶縁下衣の右側面図である。
【図6】生地素材の断面模式図である。
【図7】本発明の一実施の形態である絶縁下衣の正面図である。
【図8】図1のA−A断面模式図である。
【図9】図1のB−B断面模式図である。
【図10】図1のC−C断面模式図である。
【図11】図1のD−D断面模式図である。
【図12】図1のE−E断面模式図である。
【図13】図1の絶縁下衣を作業者が装着したときの参考図である。
【図14】本発明の他の実施の形態である絶縁上衣の正面図である。
【図15】本発明の他の実施の形態である絶縁上衣の背面図である。
【図16】他の生地素材の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。便宜上、同一の作用効果を奏する部分には同一の符号を付け、その説明を省略する。
【0016】
図1は絶縁服の一例である絶縁下衣1の正面図、図2は背面図、図3は平面図、図4は底面図、図5は右側面図である(左側面図は右側面図と同じであるため省略する)。この絶縁下衣1は作業者が下半身を感電から防護するために着用するもので、作業者の腰を感電から防護する腰筒部3と脚を感電から防護する脚筒部5を備えている。脚筒部5は右脚と左脚にそれぞれ対応して設けられる。図示例では、腰筒部3と脚筒部5とが一体に形成されているが、これに限られず、例えば腰筒部3と脚筒部5とを別々に形成し、高周波によるウェルダー溶着(ウェルダ−加工)等によって接合しても構わない。
【0017】
腰筒部3及び脚筒部5を構成する生地素材10は、例えば図6に示されるように、合成繊維布11の表裏に対して電気絶縁性を備えた樹脂材料13が被覆された、電気絶縁性及び可撓性を備えた薄手の生地素材である。これは、例えばポリエステルの表裏をポリ塩化ビニルによって被覆することで構成され、この場合、厚さが約0.5mm程度で良好な電気絶縁性と可撓性が得られる。樹脂材料13はポリ塩化ビニル以外にも所定の電気絶縁性と可撓性を備えていればよく、例えばエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂等が利用できる。
【0018】
図示例における絶縁下衣1の腰筒部3及び脚筒部5は、生地素材10が立体裁断された右前面部21、左前面部23、右背面部25及び左背面部27を構成する各生地パーツ21P,23P,25P及び27Pによって立体的に形成されているため、作業者が着用した際により動きやすくなっている。また、右背面部25及び左背面部27を構成する生地パーツ25P,27Pは、右前面部21及び左前面部23を構成する生地パーツ21P,23Pより幅方向が広く形成されるため、例えば臀部等に余裕が生じ屈伸運動のような動作が楽に行える。
【0019】
絶縁下衣1の上部には作業者の肩に掛けられるベルト対31が設けられている。ベルト対31は右前面部21の上端と左背面部27の上端とに固定されるベルト31Aと、左前面部23の上端と右背面部25とに固定されるベルト31Bとからなり、これらは作業者の背面において交差するように着用される。ベルト対31にはそれぞれ長さ調節部33と着脱自在のバックル35が設けられている。
【0020】
腰筒部3の前側開口部である前立て部40には係合手段として右前面部21及び左前面部23の所定部分に着脱自在な一対の面ファスナ41,42が設けられる(図7参照)。これにより、作業者は絶縁下衣1の装着及び脱衣を容易に行うことができる。
【0021】
次に実施例における各生地パーツ21P,23P,25P,27P同士の接合及び面ファスナ41,42の接合について説明する。
【0022】
左前面部23の生地パーツ23Pと左背面部27の生地パーツ27Pとの接合は、図1のA−A断面模式図である図8に示す通り、生地パーツ23P,27Pの各端部が内側に巻き込まれて、該端部表面側同士がウェルダー溶着Wされている(このようなウェルダー溶着部分は図中「W」で模式的に示す)。これにより、生地パーツ23P及び生地パーツ27Pによって左側の脚筒部が形成される。また、図1のB−B断面模式図である図9に示すように、生地パーツ23P,27Pの上端縁及び下端縁(裾)は各生地パーツ23P,27Pが内側に折り返され、生地素材の裏面同士がウェルダー溶着Wされている。右前面部21の生地パーツ21Pと右背面部25の生地パーツ25Pとの接合も同様にして行われる。
【0023】
右背面部25の生地パーツ25Pと左背面部27の生地パーツ27Pとの接合は、図1のC−C断面模式図である図10、D−D断面模式図である図11に示す通り、各生地パーツ25P,27Pの端部が内側に巻き込まれて、該端部表面側同士がウェルダー溶着されたうえで、さらに該溶着部分を一方に(図面では左背面部27側)折り曲げてウェルダー溶着される(以下、このような溶着を「二重溶着」と呼び、図中「2W」で模式的に示す)。この部分は作業者が着用したときの臀部付近に対応しており、屈伸等の動作を行った場合には特に負担がかかりやすいが、上述のように二重溶着2Wとしているため溶着部分の損壊がし難い。また、生地パーツ21P、23P,25P及び27Pの接合部分には図1、図11に示すように生地素材10によって円形に形成された補強パッチ60が溶着される。
【0024】
右前面部21の生地パーツ21Pと左前面部23の生地パーツ23Pとの接合は、図10、図11の断面模式図に示す通り、主として係合手段である着脱自在な一対の面ファスナ41,42によってなされており、面ファスナ41,42を剥がした状態において前面部が開状態となる(図7参照)。図示例においては、図1の部分拡大図(円内)に示すように右前面部21の生地パーツ21Pと左前面部23の生地パーツ23Pとの接合部分のうちの下部は二重溶着2Wされており、該二重溶着部分の上端部分は縫成Sされている。該縫成部分によって面ファスナの着脱による前側開口(前立て部)の開閉を繰り返しても、右前面部21の生地パーツ21Pと左前面部23の生地パーツ23Pと二重溶着2W部分が損壊し難くなっている。特に縫成部分が傾斜しているため、前側開口の際に力が均一に加わりやすい。
【0025】
面ファスナ41,42の取付について図10を参照して説明する。左前面部23の生地パーツ23Pに対して取り付けられる方形の面ファスナ42は、面ファスナ42より大きな方形であって生地素材10からなるシート44に縫成Sされ固定される。そして、シート44は左前面部23の生地パーツ23Pの内側面において、腰筒部3の前側開口に相当する位置にウェルダー溶着Wされる。この際、図に示す通り、生地パーツ23Pとシート44とが重なり合うように配置され、開口側端部のウェルダー溶着は生地パーツ23Pの端部が内側に折り返され、該折り返された部分にシート44の端部が重ねられて溶着されるため二重溶着2Wとなる。これによって、面ファスナ41,42の着脱を繰り返し行っても、シート44と生地パーツ23Pとの溶着部分が損壊し難くなっている。
【0026】
右前面部21の生地パーツ21Pに対して取り付けられる方形の面ファスナ41は、面ファスナ41より大きな方形であって生地素材10からなるシート43に縫成され固定される。そして、シート43は右前面部21の生地パーツ21Pの外側面において、腰筒部3の前側開口に相当する位置に溶着される。この際、図に示す通り、生地パーツ21Pの端部とシート43の端部とがウェルダー溶着され、該溶着部分はシート43の端部が内側に折り返され、該折り返された部分に生地パーツ21Pの端部が重ねられて溶着されているため二重溶着2Wとなる。
【0027】
このシート43は、材料を同じくする耐電圧補強部45によって内側が耐電圧補強される。耐電圧補強部45の形状は、図1の部分拡大図に示すように、シート43より大なる幅L1を有し、上下方向の一方の長さ(短辺L2)がシート43と略同じで、他方の長さ(長辺L3)が長く形成される。なお、長辺L3の長さは短辺L2の長さより、例えば60mm程度以上長いことが好ましい。このような耐電圧補強部45は、短辺L2側の端部がシート43の端部にウェルダー溶着Wされ、長辺L3側の端部が生地パーツ21Pにウェルダー溶着Wされる。これによって、面ファスナ41とシート43との縫成部分と上述した右前面部21の生地パーツ21Pと左前面部23の生地パーツ23Pとの縫成部分の両方を覆うことができ、着用の際に作業者が縫成部分に接触することがないため、この部分からの感電が防止され安全性が高められる。
【0028】
なお、図1のE−E断面模式図である図12に示す通り、シート43及びシート44は下端部において、前側開口部側を生地パーツ23Pに対して縫成Sされているため、面ファスナ41,42の着脱による前側開口部の開閉を繰り返しても、右前面部21の生地パーツ21Pと左前面部23の生地パーツ23Pと二重溶着2W部分が損壊し難くなっている。
【0029】
各部の寸法は、例えば丈M1が約1040mm〜約1130mm、股下M2が約720mm〜約780mm、腰幅M3が約580mm〜約645mm、裾幅M4が約245mm〜約250mmである。これら寸法は一例に過ぎないが、一般的な衣服に比し幅方向に大きく形成されている。これによって、作業者と絶縁下衣1との間に隙間が生じさらに動作の制限が緩和される。なお、図13は上述のような絶縁下衣1を作業者が着用した様子を示す参考図である。作業者の肩にはベルト対31が掛けられ、右前面部21及び左前面部23が正面となっている。
【0030】
図14は絶縁服の一例である絶縁上衣100の正面図、図15は背面図である。絶縁上衣100は作業者が上半身を感電から防護するために着用するもので、作業者の腕を感電から防護する腕筒部130と胴体を感電から防護する胴筒部150を備えている。また、作業者の首に相当する位置には首回りを感電から防護するための襟部140が設けられる。図示例では、腕筒部130がラグランスリーブとなっているが、これに限定されず、例えばセットインスリーブ等であっても構わない。
【0031】
腕筒部130、胴筒部150及び襟部140を構成する生地素材は、上述した絶縁下衣同様、例えば合成繊維布の表裏に対して電気絶縁性を備えた樹脂材料が被覆された、電気絶縁性及び可撓性を備えた薄手の生地素材10である。
【0032】
図示例における絶縁上衣100は、腕筒部130を構成する右腕部131及び左腕部133を形成する生地パーツ131P,133Pと、胴筒部150を構成する右前面部151、左前面部153及び背面部155を形成する生地パーツ151P,153P,155Pと、襟部140を形成する生地パーツ140Pとからなる。これら各生地パーツは前記生地素材10を立体裁断することによって形成されており、作業者が着用した際により動きやすくなっている。
【0033】
図示例において、絶縁上衣100の胴筒部150の前側開口には係合手段として複数のボタン110が設けられているが、例えば上述の絶縁下衣1の如く着脱自在な一対の面ファスナによって係合手段を構成しても構わない。面ファスナを設ける場合には、上述の如く補強生地等によって強度の向上及び感電防止が図られる。
【0034】
次に実施例における各生地パーツ同士131P,133P,151P,153P,155P,140Pの接合について説明する。右前面部151の生地パーツ151Pと左前面部153の生地パーツ153Pが背面部155の生地パーツ155Pの左右両端に対して所定部分がウェルダー溶着されることによって、生地パーツ151P,153P及び155Pが筒型状に形成される(前側開口は係合手段によって係合されているものとする)。また、右腕部131の生地パーツ131P及び左腕部133の生地パーツ133Pはそれぞれ筒型状になるようウェルダー溶着される。
【0035】
そして、このように筒型状に形成された右腕部131及び左腕部133が胴筒部150に対してウェルダー溶着される。なお、右腕部131及び左腕部133の胴筒部150に対するウェルダー溶着は、上述した絶縁下衣1における右背面部25と左背面部27との接合同様に二重溶着とすることができる。胴筒部150の腕筒部130に対する接合部分は、他の接合部分に比し作業者の動作によって負荷がかかりやすいが、このように二重溶着することによって損壊し難くなる。なお、襟部140の生地パーツ140Pは上述のように形成された胴筒部150及び腕筒部130に対してウェルダー溶着されることになる。
【0036】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【0037】
例えば、生地素材の構成は上述した材料に限られず、適宜変更可能である。例えば、上述の生地素材を複数積層することもできるし、その際、図16に示すように生地素材10と生地素材10との中間に別途絶縁層111を設けることもできる。薄い生地素材を複数積層した場合と厚く形成された生地素材とでは、薄い生地素材を複数積層する方が作業者の動作を妨げ難いため、電気自動車の整備の際に想定される感電の電圧が高い場合に有効である。なお、生地素材の厚さは作業において想定される感電の電圧によって適宜変更することができる。
【0038】
また、損壊しやすいと想定される部分(例えば、臀部等)のみ二重溶着することとしたが、これに限られず、全ての溶着部分に対して二重溶着することとしても構わない。この場合、より損壊し難い構造となる反面、製造工程が煩雑になる。実施例においては、損壊しやすい部分のみ二重溶着としているため、製造が容易となっている。
【0039】
また、絶縁下衣と絶縁上衣とは作業者が別々に装着することはもちろん、同時に装着することができる。この場合、絶縁下衣の上端部分が絶縁上衣の下端部分に覆われることが好ましい。
【符号の説明】
【0040】
1……絶縁下衣、3……腰筒部、5……脚筒部、10……生地素材、11……合成繊維布、13……樹脂素材、21……右前面部、23……左前面部、25……右背面部、27……左背面部、21P,23P,25P,27P……生地パーツ、31……ベルト、40……前立て部(前側開口部)、41,42……面ファスナ(係合手段)、43,44……シート、45……耐電圧補強部、50……シート部材、55……補強生地、60……補強パッチ、
100……絶縁上衣、111…絶縁層、130……腕筒部、131……右腕部、133……左腕部、140……襟部、150……胴筒部、151……右前面部、153……左前面部、155……背面部、131P,133P,151P,153P,155P……生地パーツ、
W……ウェルダー溶着部分、2W……二重溶着部分
【技術分野】
【0001】
本発明は、感電防止に用いられる絶縁服に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、感電災害の虞がある作業現場において、作業者は安全性確保のために絶縁材料によって形成された絶縁服を着用して作業を行っていた。このような絶縁服は、もともと高圧電線における活線作業において使用されることを主たる目的としている。そのため数千ボルト程度の高電圧に対して安全に使用できるだけの電気絶縁性を獲得するために、一般の衣服に比し生地素材が厚くならざるを得ず、着用した作業者の運動性が著しく低下する要因となっている。
【0003】
ところで、感電災害の虞がある作業現場においては作業者の安全が第一に優先される。そこで、多少の運動性の低下があったとしても、作業者の安全が確実に確保できる絶縁服でなければならないため、絶縁服は「高電圧」に耐えうるものという固定概念があった。そのため、電圧が比較的低いと想定される作業現場であっても、専用の絶縁服ではなく、7000V程度の高電圧に耐えうる絶縁服が用いられていた。このような電圧が比較的低いと想定される作業の一つに電気自動車の整備が挙げられる。電気自動車は車種によって違いはあるが、想定される電圧が600V以下とされる。
【0004】
ここで、絶縁服等の絶縁用保護具は、常温において試験交流(50ヘルツ又は60ヘルツの周波数の交流で、その波高率が、1.34から1.48までのものをいう)による耐電圧試験を行ったときに、交流の電圧が300Vを超え600V以下である電路について用いるものは3000V、交流の電圧が600Vを超え3500V以下である電路又は直流の電圧が750Vを超え、3500V以下である電路について用いるものは12000V、そして電圧が3500Vを超え7000V以内である電路について用いるものは20000Vの電圧に対して一分間耐える性能を有するものでなければならない旨が労働安全衛生法によって定められている。
【0005】
感電災害の虞のある作業現場で用いられる絶縁服として、例えば特許文献1に記載の活線作業用絶縁衣がある。これは、肩や肘といった関節に対応する部分に蛇腹状の伸縮部を設けることによって、肩や肘を屈伸した際に屈伸運動に応じて伸縮部が伸縮作用して運動性を損なわないように設計されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実公平3−54102号公報(第3欄12行目〜同欄21行目)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の活線作業用絶縁衣のように伸縮部を設けたとしても、肩や肘といった所定の部分のみが伸縮容易となるだけであり、複雑な作業者の動作の全てに対応できるものではなかった。また、伸縮部が蛇腹状に設けられるため、該伸縮部がかさばってしまい、却って運動性が損なわれてしまう虞がある。
【0008】
本発明は、従来の固定概念を覆し、感電災害として想定される最大電圧が600V以下の比較的低電圧である作業である電気自動車における整備作業用に用途を限定することにより、従来の絶縁服に比し作業者の運動性を低下させない絶縁服を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決するため、本発明による絶縁服は、作業者の身体を感電から防護するための絶縁服であって、電気絶縁性及び可撓性を備えた薄手の生地素材によって着用時に動きやすいように形成され、電気自動車の整備に用いられることを特徴とする。
また、腕が感電から防護される腕筒部と胴体が感電から防護される胴筒部とを有する絶縁上衣を含むことを特徴とする。
また、腰が感電から防護される腰筒部と脚が感電から防護される脚筒部とを有する絶縁下衣を含むことを特徴とする。
また、前記生地素材を溶着することによって形成され、少なくとも作業者の臀部に相当する溶着部分は、一の前記生地素材の端部と他の前記生地素材の端部との表面側同士が内側に巻き込まれて溶着され、さらに該溶着部分が前記一の生地素材の裏面側に折り返されて溶着されていることを特徴とする。
また、前記絶縁下衣の前記腰筒部の前側には前立て部が設けられ、該前立て部の下端部は前記生地素材が溶着されるとともに該溶着部分が縫成されることによって補強され、該補強部分は別の前記生地素材によって被覆されていることを特徴とする。
また、立体裁断された前記生地素材によって形成されていることを特徴とする。
【0010】
絶縁服の用途を電気自動車の整備作業に限定することによって、所定の電気絶縁性と可撓性を備えつつ従来に比し厚さが薄い生地素材で絶縁服を形成することができる。これにより、作業者が着用した際に運動性を損ないにくい絶縁服を提供することができる。また、立体裁断によって立体的に絶縁服を形成することにより、絶縁服が作業者の動きに追従しやすくなっている。生地素材は電気自動車の整備作業において感電に対する安全性が確保できる電気絶縁性を備え、かつ可撓性を備えた薄手のものであれば特に限定されるものではない。
【0011】
また、生地素材を溶着する際に、作業者の動作によって負担が掛かりやすく損壊しやすいと想定される臀部に対して二重溶着することで、溶着箇所の損壊が起こりにくいようにしている。このような二重溶着は、臀部以外にも損壊しやすいと想定される部分に行うことができる。
【0012】
作業者が装着及び脱衣を繰り返すことにより損壊しやすいと想定される前立て部の下端部は、単に溶着によって接合するのではなく、縫成によっても接合することによって、該部分が補強されるため損壊が起こりにくくなっている。この際、縫成による補強箇所に対して絶縁性を備えた生地で被覆することによって作業者の感電に対する安全性を確保している。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電気自動車の整備作業において用いられ、作業者の運動性を低下させない絶縁服を提供することができる。また、所定の耐久性を備えた絶縁服を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態である絶縁下衣の正面図及び部分拡大図である。
【図2】本発明の一実施の形態である絶縁下衣の背面図である。
【図3】本発明の一実施の形態である絶縁下衣の平面図である。
【図4】本発明の一実施の形態である絶縁下衣の底面図である。
【図5】本発明の一実施の形態である絶縁下衣の右側面図である。
【図6】生地素材の断面模式図である。
【図7】本発明の一実施の形態である絶縁下衣の正面図である。
【図8】図1のA−A断面模式図である。
【図9】図1のB−B断面模式図である。
【図10】図1のC−C断面模式図である。
【図11】図1のD−D断面模式図である。
【図12】図1のE−E断面模式図である。
【図13】図1の絶縁下衣を作業者が装着したときの参考図である。
【図14】本発明の他の実施の形態である絶縁上衣の正面図である。
【図15】本発明の他の実施の形態である絶縁上衣の背面図である。
【図16】他の生地素材の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。便宜上、同一の作用効果を奏する部分には同一の符号を付け、その説明を省略する。
【0016】
図1は絶縁服の一例である絶縁下衣1の正面図、図2は背面図、図3は平面図、図4は底面図、図5は右側面図である(左側面図は右側面図と同じであるため省略する)。この絶縁下衣1は作業者が下半身を感電から防護するために着用するもので、作業者の腰を感電から防護する腰筒部3と脚を感電から防護する脚筒部5を備えている。脚筒部5は右脚と左脚にそれぞれ対応して設けられる。図示例では、腰筒部3と脚筒部5とが一体に形成されているが、これに限られず、例えば腰筒部3と脚筒部5とを別々に形成し、高周波によるウェルダー溶着(ウェルダ−加工)等によって接合しても構わない。
【0017】
腰筒部3及び脚筒部5を構成する生地素材10は、例えば図6に示されるように、合成繊維布11の表裏に対して電気絶縁性を備えた樹脂材料13が被覆された、電気絶縁性及び可撓性を備えた薄手の生地素材である。これは、例えばポリエステルの表裏をポリ塩化ビニルによって被覆することで構成され、この場合、厚さが約0.5mm程度で良好な電気絶縁性と可撓性が得られる。樹脂材料13はポリ塩化ビニル以外にも所定の電気絶縁性と可撓性を備えていればよく、例えばエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂等が利用できる。
【0018】
図示例における絶縁下衣1の腰筒部3及び脚筒部5は、生地素材10が立体裁断された右前面部21、左前面部23、右背面部25及び左背面部27を構成する各生地パーツ21P,23P,25P及び27Pによって立体的に形成されているため、作業者が着用した際により動きやすくなっている。また、右背面部25及び左背面部27を構成する生地パーツ25P,27Pは、右前面部21及び左前面部23を構成する生地パーツ21P,23Pより幅方向が広く形成されるため、例えば臀部等に余裕が生じ屈伸運動のような動作が楽に行える。
【0019】
絶縁下衣1の上部には作業者の肩に掛けられるベルト対31が設けられている。ベルト対31は右前面部21の上端と左背面部27の上端とに固定されるベルト31Aと、左前面部23の上端と右背面部25とに固定されるベルト31Bとからなり、これらは作業者の背面において交差するように着用される。ベルト対31にはそれぞれ長さ調節部33と着脱自在のバックル35が設けられている。
【0020】
腰筒部3の前側開口部である前立て部40には係合手段として右前面部21及び左前面部23の所定部分に着脱自在な一対の面ファスナ41,42が設けられる(図7参照)。これにより、作業者は絶縁下衣1の装着及び脱衣を容易に行うことができる。
【0021】
次に実施例における各生地パーツ21P,23P,25P,27P同士の接合及び面ファスナ41,42の接合について説明する。
【0022】
左前面部23の生地パーツ23Pと左背面部27の生地パーツ27Pとの接合は、図1のA−A断面模式図である図8に示す通り、生地パーツ23P,27Pの各端部が内側に巻き込まれて、該端部表面側同士がウェルダー溶着Wされている(このようなウェルダー溶着部分は図中「W」で模式的に示す)。これにより、生地パーツ23P及び生地パーツ27Pによって左側の脚筒部が形成される。また、図1のB−B断面模式図である図9に示すように、生地パーツ23P,27Pの上端縁及び下端縁(裾)は各生地パーツ23P,27Pが内側に折り返され、生地素材の裏面同士がウェルダー溶着Wされている。右前面部21の生地パーツ21Pと右背面部25の生地パーツ25Pとの接合も同様にして行われる。
【0023】
右背面部25の生地パーツ25Pと左背面部27の生地パーツ27Pとの接合は、図1のC−C断面模式図である図10、D−D断面模式図である図11に示す通り、各生地パーツ25P,27Pの端部が内側に巻き込まれて、該端部表面側同士がウェルダー溶着されたうえで、さらに該溶着部分を一方に(図面では左背面部27側)折り曲げてウェルダー溶着される(以下、このような溶着を「二重溶着」と呼び、図中「2W」で模式的に示す)。この部分は作業者が着用したときの臀部付近に対応しており、屈伸等の動作を行った場合には特に負担がかかりやすいが、上述のように二重溶着2Wとしているため溶着部分の損壊がし難い。また、生地パーツ21P、23P,25P及び27Pの接合部分には図1、図11に示すように生地素材10によって円形に形成された補強パッチ60が溶着される。
【0024】
右前面部21の生地パーツ21Pと左前面部23の生地パーツ23Pとの接合は、図10、図11の断面模式図に示す通り、主として係合手段である着脱自在な一対の面ファスナ41,42によってなされており、面ファスナ41,42を剥がした状態において前面部が開状態となる(図7参照)。図示例においては、図1の部分拡大図(円内)に示すように右前面部21の生地パーツ21Pと左前面部23の生地パーツ23Pとの接合部分のうちの下部は二重溶着2Wされており、該二重溶着部分の上端部分は縫成Sされている。該縫成部分によって面ファスナの着脱による前側開口(前立て部)の開閉を繰り返しても、右前面部21の生地パーツ21Pと左前面部23の生地パーツ23Pと二重溶着2W部分が損壊し難くなっている。特に縫成部分が傾斜しているため、前側開口の際に力が均一に加わりやすい。
【0025】
面ファスナ41,42の取付について図10を参照して説明する。左前面部23の生地パーツ23Pに対して取り付けられる方形の面ファスナ42は、面ファスナ42より大きな方形であって生地素材10からなるシート44に縫成Sされ固定される。そして、シート44は左前面部23の生地パーツ23Pの内側面において、腰筒部3の前側開口に相当する位置にウェルダー溶着Wされる。この際、図に示す通り、生地パーツ23Pとシート44とが重なり合うように配置され、開口側端部のウェルダー溶着は生地パーツ23Pの端部が内側に折り返され、該折り返された部分にシート44の端部が重ねられて溶着されるため二重溶着2Wとなる。これによって、面ファスナ41,42の着脱を繰り返し行っても、シート44と生地パーツ23Pとの溶着部分が損壊し難くなっている。
【0026】
右前面部21の生地パーツ21Pに対して取り付けられる方形の面ファスナ41は、面ファスナ41より大きな方形であって生地素材10からなるシート43に縫成され固定される。そして、シート43は右前面部21の生地パーツ21Pの外側面において、腰筒部3の前側開口に相当する位置に溶着される。この際、図に示す通り、生地パーツ21Pの端部とシート43の端部とがウェルダー溶着され、該溶着部分はシート43の端部が内側に折り返され、該折り返された部分に生地パーツ21Pの端部が重ねられて溶着されているため二重溶着2Wとなる。
【0027】
このシート43は、材料を同じくする耐電圧補強部45によって内側が耐電圧補強される。耐電圧補強部45の形状は、図1の部分拡大図に示すように、シート43より大なる幅L1を有し、上下方向の一方の長さ(短辺L2)がシート43と略同じで、他方の長さ(長辺L3)が長く形成される。なお、長辺L3の長さは短辺L2の長さより、例えば60mm程度以上長いことが好ましい。このような耐電圧補強部45は、短辺L2側の端部がシート43の端部にウェルダー溶着Wされ、長辺L3側の端部が生地パーツ21Pにウェルダー溶着Wされる。これによって、面ファスナ41とシート43との縫成部分と上述した右前面部21の生地パーツ21Pと左前面部23の生地パーツ23Pとの縫成部分の両方を覆うことができ、着用の際に作業者が縫成部分に接触することがないため、この部分からの感電が防止され安全性が高められる。
【0028】
なお、図1のE−E断面模式図である図12に示す通り、シート43及びシート44は下端部において、前側開口部側を生地パーツ23Pに対して縫成Sされているため、面ファスナ41,42の着脱による前側開口部の開閉を繰り返しても、右前面部21の生地パーツ21Pと左前面部23の生地パーツ23Pと二重溶着2W部分が損壊し難くなっている。
【0029】
各部の寸法は、例えば丈M1が約1040mm〜約1130mm、股下M2が約720mm〜約780mm、腰幅M3が約580mm〜約645mm、裾幅M4が約245mm〜約250mmである。これら寸法は一例に過ぎないが、一般的な衣服に比し幅方向に大きく形成されている。これによって、作業者と絶縁下衣1との間に隙間が生じさらに動作の制限が緩和される。なお、図13は上述のような絶縁下衣1を作業者が着用した様子を示す参考図である。作業者の肩にはベルト対31が掛けられ、右前面部21及び左前面部23が正面となっている。
【0030】
図14は絶縁服の一例である絶縁上衣100の正面図、図15は背面図である。絶縁上衣100は作業者が上半身を感電から防護するために着用するもので、作業者の腕を感電から防護する腕筒部130と胴体を感電から防護する胴筒部150を備えている。また、作業者の首に相当する位置には首回りを感電から防護するための襟部140が設けられる。図示例では、腕筒部130がラグランスリーブとなっているが、これに限定されず、例えばセットインスリーブ等であっても構わない。
【0031】
腕筒部130、胴筒部150及び襟部140を構成する生地素材は、上述した絶縁下衣同様、例えば合成繊維布の表裏に対して電気絶縁性を備えた樹脂材料が被覆された、電気絶縁性及び可撓性を備えた薄手の生地素材10である。
【0032】
図示例における絶縁上衣100は、腕筒部130を構成する右腕部131及び左腕部133を形成する生地パーツ131P,133Pと、胴筒部150を構成する右前面部151、左前面部153及び背面部155を形成する生地パーツ151P,153P,155Pと、襟部140を形成する生地パーツ140Pとからなる。これら各生地パーツは前記生地素材10を立体裁断することによって形成されており、作業者が着用した際により動きやすくなっている。
【0033】
図示例において、絶縁上衣100の胴筒部150の前側開口には係合手段として複数のボタン110が設けられているが、例えば上述の絶縁下衣1の如く着脱自在な一対の面ファスナによって係合手段を構成しても構わない。面ファスナを設ける場合には、上述の如く補強生地等によって強度の向上及び感電防止が図られる。
【0034】
次に実施例における各生地パーツ同士131P,133P,151P,153P,155P,140Pの接合について説明する。右前面部151の生地パーツ151Pと左前面部153の生地パーツ153Pが背面部155の生地パーツ155Pの左右両端に対して所定部分がウェルダー溶着されることによって、生地パーツ151P,153P及び155Pが筒型状に形成される(前側開口は係合手段によって係合されているものとする)。また、右腕部131の生地パーツ131P及び左腕部133の生地パーツ133Pはそれぞれ筒型状になるようウェルダー溶着される。
【0035】
そして、このように筒型状に形成された右腕部131及び左腕部133が胴筒部150に対してウェルダー溶着される。なお、右腕部131及び左腕部133の胴筒部150に対するウェルダー溶着は、上述した絶縁下衣1における右背面部25と左背面部27との接合同様に二重溶着とすることができる。胴筒部150の腕筒部130に対する接合部分は、他の接合部分に比し作業者の動作によって負荷がかかりやすいが、このように二重溶着することによって損壊し難くなる。なお、襟部140の生地パーツ140Pは上述のように形成された胴筒部150及び腕筒部130に対してウェルダー溶着されることになる。
【0036】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【0037】
例えば、生地素材の構成は上述した材料に限られず、適宜変更可能である。例えば、上述の生地素材を複数積層することもできるし、その際、図16に示すように生地素材10と生地素材10との中間に別途絶縁層111を設けることもできる。薄い生地素材を複数積層した場合と厚く形成された生地素材とでは、薄い生地素材を複数積層する方が作業者の動作を妨げ難いため、電気自動車の整備の際に想定される感電の電圧が高い場合に有効である。なお、生地素材の厚さは作業において想定される感電の電圧によって適宜変更することができる。
【0038】
また、損壊しやすいと想定される部分(例えば、臀部等)のみ二重溶着することとしたが、これに限られず、全ての溶着部分に対して二重溶着することとしても構わない。この場合、より損壊し難い構造となる反面、製造工程が煩雑になる。実施例においては、損壊しやすい部分のみ二重溶着としているため、製造が容易となっている。
【0039】
また、絶縁下衣と絶縁上衣とは作業者が別々に装着することはもちろん、同時に装着することができる。この場合、絶縁下衣の上端部分が絶縁上衣の下端部分に覆われることが好ましい。
【符号の説明】
【0040】
1……絶縁下衣、3……腰筒部、5……脚筒部、10……生地素材、11……合成繊維布、13……樹脂素材、21……右前面部、23……左前面部、25……右背面部、27……左背面部、21P,23P,25P,27P……生地パーツ、31……ベルト、40……前立て部(前側開口部)、41,42……面ファスナ(係合手段)、43,44……シート、45……耐電圧補強部、50……シート部材、55……補強生地、60……補強パッチ、
100……絶縁上衣、111…絶縁層、130……腕筒部、131……右腕部、133……左腕部、140……襟部、150……胴筒部、151……右前面部、153……左前面部、155……背面部、131P,133P,151P,153P,155P……生地パーツ、
W……ウェルダー溶着部分、2W……二重溶着部分
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業者の身体を感電から防護するための絶縁服であって、
電気絶縁性及び可撓性を備えた薄手の生地素材によって着用時に動きやすいように形成され、電気自動車の整備に用いられることを特徴とする絶縁服。
【請求項2】
腕が感電から防護される腕筒部と胴体が感電から防護される胴筒部とを有する絶縁上衣を含むことを特徴とする請求項1記載の絶縁服。
【請求項3】
腰が感電から防護される腰筒部と脚が感電から防護される脚筒部とを有する絶縁下衣を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の絶縁服。
【請求項4】
前記生地素材を溶着することによって形成され、少なくとも作業者の臀部に相当する溶着部分は、一の前記生地素材の端部と他の前記生地素材の端部との表面側同士が内側に巻き込まれて溶着され、さらに該溶着部分が前記一の生地素材の裏面側に折り返されて溶着されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一記載の絶縁服。
【請求項5】
前記絶縁下衣の前記腰筒部の前側には前立て部が設けられ、該前立て部の下端部は前記生地素材が溶着されるとともに該溶着部分が縫成されることによって補強され、該補強部分は別の前記生地素材によって被覆されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一記載の絶縁服。
【請求項6】
立体裁断された前記生地素材によって形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一記載の絶縁服。
【請求項1】
作業者の身体を感電から防護するための絶縁服であって、
電気絶縁性及び可撓性を備えた薄手の生地素材によって着用時に動きやすいように形成され、電気自動車の整備に用いられることを特徴とする絶縁服。
【請求項2】
腕が感電から防護される腕筒部と胴体が感電から防護される胴筒部とを有する絶縁上衣を含むことを特徴とする請求項1記載の絶縁服。
【請求項3】
腰が感電から防護される腰筒部と脚が感電から防護される脚筒部とを有する絶縁下衣を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の絶縁服。
【請求項4】
前記生地素材を溶着することによって形成され、少なくとも作業者の臀部に相当する溶着部分は、一の前記生地素材の端部と他の前記生地素材の端部との表面側同士が内側に巻き込まれて溶着され、さらに該溶着部分が前記一の生地素材の裏面側に折り返されて溶着されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一記載の絶縁服。
【請求項5】
前記絶縁下衣の前記腰筒部の前側には前立て部が設けられ、該前立て部の下端部は前記生地素材が溶着されるとともに該溶着部分が縫成されることによって補強され、該補強部分は別の前記生地素材によって被覆されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一記載の絶縁服。
【請求項6】
立体裁断された前記生地素材によって形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一記載の絶縁服。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図7】
【公開番号】特開2010−270412(P2010−270412A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123146(P2009−123146)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000115382)ヨツギ株式会社 (20)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000115382)ヨツギ株式会社 (20)
【Fターム(参考)】
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