説明

絶縁構造材料およびその製造方法

【課題】木質系資源から抽出される有機フィラーを細かく粉砕し、熱硬化性樹脂中に一様に分散させる。
【解決手段】エポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂5と、熱硬化性樹脂5に充填される木質系資源から抽出されたセルロース、へミセルロース、リグノセルロース、リグニンの1種類以上からなる有機フィラー4と、熱硬化性樹脂5に充填されるシリカ、アルミナ、ムライトの1種類以上からなる無機フィラー3とを具備し、有機フィラー4は、液状酸無水物で膨潤され、無機フィラー3で攪拌することのより粉砕され、一様に分散されたものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力機器、受配電機器などの主回路を支持絶縁する固体絶縁物を製造するときに用いられる熱硬化性樹脂を成分とする絶縁構造材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂は、優れた電気的特性、機械的特性、熱的特性などを有し、電気、電子部品を構成する絶縁材料として広く用いられている。しかしながら、優れた耐久性能を備えているので、長年の使用に耐えた後も性能が不変であり、再利用や分解が困難であった。また、地球環境の観点から、石油に依存していた社会から脱却し、新しい機能を付加した絶縁材料が求められていた。
【0003】
このような要求に対して、自然界に存在する木質系資源を粉砕し、熱硬化性樹脂に充填する絶縁構造材料が提案されている。即ち、極力石油に依存しない新しい機能として、木質系資源から抽出した有機フィラーを付加したものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−312489号公報 (図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の従来の絶縁構造材料においては、木質系資源から有機フィラーを抽出し、粉砕して充填するものの、有機フィラーがバルク状態であり、充填材料として適切な大きさである数100μm以下まで粉砕することに大きな労力を必要としていた。なお、粉砕後の分級が不充分で所定以上の大きなものが充填されたり、充填時にエポキシ樹脂中で凝集したりすると、異物として作用し、電気的特性、機械的特性、熱的特性などを低下させる要因となる。
【0006】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、有機フィラーを容易に粉砕でき、熱硬化性樹脂中に一様に分散させることの可能な絶縁構造材料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、実施形態の絶縁構造材料は、熱硬化性樹脂と、前記熱硬化性樹脂に充填される木質系資源から抽出されたセルロース、へミセルロース、リグノセルロース、リグニンの1種類以上からなる有機フィラーと、前記熱硬化性樹脂に充填されるシリカ、アルミナ、ムライトの1種類以上からなる無機フィラーとを具備し、前記有機フィラーは、液状酸無水物で膨潤され、前記無機フィラーで攪拌することのより粉砕されたものであることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施例1に係る絶縁構造材料の製造方法を説明する図。
【図2】本発明の実施例1に係る膨潤した有機フィラーの状態を説明する図。
【図3】本発明の実施例1に係る無機フィラーで攪拌した状態を説明する図。
【図4】本発明の実施例1に係るエポキシ樹脂を充填した状態を説明する図。
【図5】本発明の実施例2に係る絶縁構造材料の製造方法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0010】
先ず、本発明の実施例1に係る絶縁構造材料を図1〜図4を参照して説明する。図1は、本発明の実施例1に係る絶縁構造材料の製造方法を説明する図、図2は、本発明の実施例1に係る膨潤した有機フィラーの状態を説明する図、図3は、本発明の実施例1に係る無機フィラーで攪拌した状態を説明する図である。
【0011】
図1に示すように、先ず、木質系資源から抽出した有機フィラーを乾燥する(st1)。有機フィラーは、例えばコーンコブから臨界水処理などで抽出されたセルロース、ヘミセルロース、リグノセルロース、リグニンからなり、粒径300μm程度まで粉砕されたものを用いる。これは、従来技術で得られるものと同様である。
【0012】
次に、有機フィラーを液状の酸無水物(日本化薬社製、カヤハードMCD)に数10分間浸漬する(st2)。有機フィラーは50重量部、酸無水物は86重量部とする。すると、図2に示すように、有機フィラーに液状酸無水物1が浸透し、体積が数10%膨潤した膨潤有機フィラー2となる。なお、液状酸無水物1は、後述するエポキシ樹脂の硬化剤として用いるものである。
【0013】
このように膨潤した状態の中に、シリカ(電気化学工業社製、FB−24R)を150重量部添加する(st3)。シリカは、粒径10〜50μmを用いる。なお、シリカのほかに、無機フィラーとして、アルミナ、ムライトなどを混合して用いることができる。
【0014】
そして、自公転式混合攪拌機で攪拌する(st4)。回転数は200〜1000rpmであり、数分間行う。すると、図3に示すように、膨潤して軟らかくなった膨潤有機フィラー2が無機フィラー3のせん断力によって粉砕され、粒径50〜100μmの粉砕有機フィラー4となる。
【0015】
次に、ビスフェノール型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、エピコート828)を100重量部混合する。同時に、シリカを350重量部追加し、混合する(st5)。その後、脱泡して金型に充填し、温度80℃で加熱して一次硬化させ、離型後に温度150℃で二次硬化させる(st6)。
【0016】
すると、図4に示すように、細かく粉砕された粉砕有機フィラー4と、無機フィラー3とが熱硬化性マトリックス5中に一様に分散し、優れた電気的特性、機械的特性、熱的特性などを有する注型絶縁物を製造することができる。一様とは、粉砕有機フィラー4や無機フィラー3が凝集したり、所定以上の大きいものが存在しないことをいう。なお、熱硬化性樹脂5中には、エポキシ樹脂と硬化剤の酸無水物とが存在する。また、熱硬化性樹脂としては、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂などがある。
【0017】
ここで、図2〜4には、膨潤有機フィラー2、粉砕有機フィラー4を四角形状、無機フィラー3を丸形状で表しているが、この形状に限定されるものではない。また、四角形状の場合は長辺側の長さ、丸形状の場合は長円側の長さを粒径(直径)として表している。
【0018】
このように表示した粉砕有機フィラー4は、無機フィラー3のボールミルのような効果によって、粒径が50〜100μmの粉砕され、無機フィラー3の粒径10〜50μmと同程度の大きさとなる。これを、有機フィラーが無機フィラー3と同程度の大きさに粉砕されると定義する。
【0019】
なお、金型に充填するエポキシ樹脂5の流動性を考慮して、エポキシ樹脂100重量部に対して、有機フィラー200重量部以下、無機フィラー600重量部以下にすることができる。即ち、木質系資源から得られる有機フィラーを、膨潤させて軟らかくすることにより、容易に粉砕することができ、エポキシ樹脂よりも多く充填することもできる。この結果、石油資源に配慮した固体絶縁物とすることができる。
【0020】
上記実施例1の絶縁構造材料によれば、木質系資源から抽出した有機フィラーを液状酸無水物1で膨潤させ、無機フィラー3で攪拌しながら粉砕して粉砕有機フィラー4とし、熱硬化性樹脂5を混合して加熱硬化させているので、熱硬化性樹脂5中に細かく粉砕された粉砕有機フィラー4と無機フィラー3とが一様に分散し、優れた諸特性を有する固体絶縁物を得ることができる。
【実施例2】
【0021】
次に、本発明の実施例2に係る絶縁構造材料を図5を参照して説明する。図5は、本発明の実施例2に係る絶縁構造材料の製造方法を説明する図である。
【0022】
なお、この実施例2が実施例1と異なる点は、有機フィラーの膨潤方法である。図5において、実施例1と同様の構成部分においては、同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0023】
図5に示すように、有機フィラーを乾燥させた後(st1)、アセトンのような低沸点の溶剤に浸漬させ(st2−1)、有機フィラーを膨潤させる。膨潤後は、アセトンを飛ばして乾燥させ(st2−2)、無機フィラーを添加し(st3)、有機フィラーを細かく粉砕する。なお、硬化剤となる酸無水物は、エポキシ樹脂混合時(st5)に添加するものとする。
【0024】
上記実施例2の絶縁構造材料によれば、実施例1と同様の効果のほかに、アセトンの浸透がスムースであり、有機フィラーの膨潤を確実に行うことができる。
【0025】
以上述べたような実施形態は、木質系資源から抽出した有機フィラーを酸無水物などで膨潤させ、無機フィラーで攪拌しながら有機フィラーを粉砕するので、細かく粉砕された有機フィラーと無機フィラーとが一様に分散した絶縁構造材料とすることができる。
【0026】
以上において幾つかの実施形態を述べたが、これらの実施形態は、単に例として示したもので、本発明の範囲を限定することを意図したものではない。実際、ここにおいて述べた新規な材料および方法は、種々の他の形態に具体化されてもよいし、さらに、本発明の主旨またはスピリットから逸脱することなく、ここにおいて述べた材料および方法の形態における種々の省略、置き換えおよび変更を行ってもよい。付随する請求項およびそれらの均等物または均等方法は、本発明の範囲および主旨またはスピリットに入るようにそのような形態若しくは変形を含むことを意図している。
【符号の説明】
【0027】
1 液状酸無水物
2 膨潤有機フィラー
3 無機フィラー
4 粉砕有機フィラー
5 熱硬化性樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂と、
前記熱硬化性樹脂に充填される木質系資源から抽出されたセルロース、へミセルロース、リグノセルロース、リグニンの1種類以上からなる有機フィラーと、
前記熱硬化性樹脂に充填されるシリカ、アルミナ、ムライトの1種類以上からなる無機フィラーとを具備し、
前記有機フィラーは、液状酸無水物で膨潤され、前記無機フィラーで攪拌することのより粉砕されたものであることを特徴とする絶縁構造材料。
【請求項2】
熱硬化性樹脂と、
前記熱硬化性樹脂に充填される木質系資源から抽出されたセルロース、へミセルロース、リグノセルロース、リグニンの1種類以上からなる有機フィラーと、
前記熱硬化性樹脂に充填されるシリカ、アルミナ、ムライトの1種類以上からなる無機フィラーとを具備し、
前記有機フィラーは、低沸点溶剤で膨潤され、この低沸点溶剤を除去して前記無機フィラーで攪拌することにより粉砕されたものであることを特徴とする絶縁構造材料。
【請求項3】
前記粉砕された有機フィラーと前記無機フィラーとは、同程度の大きさであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の絶縁構造材料。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂よりも前記有機フィラーの充填量が多いことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の絶縁構造材料。
【請求項5】
木質系資源からセルロース、へミセルロース、リグノセルロース、リグニンを有する有機フィラーを抽出し、
この有機フィラーを液状酸無水物に浸漬して膨潤させ、
膨潤した有機フィラーに無機フィラーを添加し、
これらを攪拌することにより前記有機フィラーを粉砕し、
粉砕した有機フィラーに熱硬化性樹脂を充填することを特徴とする絶縁構造材料の製造方法。
【請求項6】
木質系資源からセルロース、ヘミセルロース、リグノセルロース、リグニンを有する有機フィラーを抽出し、
この有機フィラーを低沸点溶剤に浸漬して膨潤させ、
膨潤した有機フィラーを乾燥後、無機フィラーを添加し、
これらを攪拌することにより前記有機フィラーを粉砕し、
粉砕した有機フィラーに熱硬化性樹脂を充填することを特徴とする絶縁構造材料の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−9233(P2012−9233A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143173(P2010−143173)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】