説明

絶縁液体を用いた変圧器

【課題】 絶縁液体の対流を阻害することに起因する冷却性能の低下を生じることなく、絶縁液体の液量を低減した変圧器を提供する。
【解決手段】 絶縁液体Lを用いた変圧器では、タンク内に変圧器本体3が占める以外の空間がある。変圧器本体3以外の空間中、絶縁液体の対流を阻害しない領域である上部空間、下部空間、タンク9のコーナー部、コイル2の横空間、鉄心1の横空間、変圧器本体3内の隙間等に、それぞれ、上部絶縁物14、下部絶縁物15、コーナー絶縁物16、コイル横絶縁物17、鉄心横絶縁物18等を配置する。これらの絶縁物は、対流を阻害しないので、冷却性能を低下させることなく絶縁液体Lの液量を低減し、タンク9の内部圧力を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンク内に配置した鉄心とコイルとから成る変圧器本体を、同じくタンク内に収容された絶縁液体によって冷却する変圧器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的に、変圧器は鉄心とコイルからなる中身が密封容器内に電気絶縁油とともに収納されている。密封容器は、鉄心、コイルの損失によって生じる熱を放熱するため、表面積を大きくした容器が採用されている。さらに防災性を高めた変圧器として、密封容器内に電気絶縁油のかわりに不燃性ガスであるSFガス又は難燃性液体であるシリコーン液やエステル液を封入したものがある。ただし、SFガスは地球温暖化ガスに指定され、その排出が規制されている。
【0003】
シリコーン液やエステル液は高価であるため、経済性のある変圧器とするには絶縁液体の液量を低減する必要がある。液量を低減することは、機器運転時の体積膨張を減少し、内厚上昇を抑制することにもつながる。内圧上昇を抑制することは、コンサベーターの使用やタンク強度をあげる必要がなくなり、製造コストの増大を避けることができる。
【0004】
絶縁液体を用いた変圧器はタンク内に変圧器本体以外の空間があり、絶縁液体の液量を増加させているので、その対策として絶縁性節液材をタンク内に配置することが提案されている。しかしながら、絶縁物を配置することにより絶縁液体の対流が阻害された場合、冷却性能が低下し絶縁液体の体積膨張が増大するという問題がある。従来の変圧器では、そうした点まで充分に考慮されているとは言えない。
【0005】
図2は従来の変圧器の一例を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。図2に示す変圧器において、巻線1と鉄心2からなる変圧器本体3は、タンク9に収納されている。通常の変圧器では、絶縁液体のみが占めている空間が存在し、絶縁液体の液量を増加させている。図2には、変圧器本体3から発する熱を受けて絶縁液体Lがする対流10の様子が示されている。絶縁液体Lの対流10を阻害することは、冷却性能の低下に繋がる。図2に示すように、絶縁液体Lのみが占めている空間としては、鉄心1とコイル2からなる変圧器本体3の上部空間4及び下部空間5、タンク9の四隅のようなコーナー部6、コイル2の横近傍を占めるコイル横空間7、鉄心1の横近傍を占める鉄心横空間8、変圧器本体3内の隙間等が挙げられる。
【0006】
開口部が設けられたゴム製の袋体の弾力性を利用して油入変圧器のタンクの構造的な強度の低減をした油入り電気機器が提案されている(特許文献1参照)。これによれば、変圧器本体、台板及び吊り棒が袋体の内部に収容され、袋体の開口部が蓋板の連通口部分に吊持され、変圧器本体が吊持機構によって蓋板に吊持される。変圧器本体がタンクの内部に収容されていない状態で、連結部材を介して袋体内部の真空引き及び袋体内部への絶縁油の注入を行い、しかる後に、変圧器本体及び絶縁油等の収容された袋体をタンク主部に収容して、油入変圧器が構成される。真空引きは袋体の内部のみで行われるので、タンクには耐真空強度を有する構造を設ける必要を解消することを図っている。
【0007】
絶縁液体が非常に高価であることに鑑み、鉄心とコイルとを、絶縁物と一緒に絶縁液体内に収容して、絶縁液体の使用量を減少させることを図ったものがある(特許文献2参照)。都市に設置する変圧器には、防災上、不燃化の要望が強く、また、大容量化、据付けスペ−スの縮小化、低騒音化、省力化の要求も強い。電気絶縁油のかわりに不燃性ガスであるSFガスを用いた変圧器が存在し、不燃化の要求に応えている。しかしSFガスは冷却性能が悪く、不燃化以外の上記要求へは対応が困難である。そのため、冷却性能をあげるために、不燃性の絶縁液体であるパーフルカーボン液(主成分がC18O)を使用したものがあるが、この液は非常に高価であり、経済性のある変圧器にするには、使用液量を極力少なくするため、絶縁性節液材が、タンク内壁面および他の構造物から適正な隙間を設けて、比較的大きな空隙部に配設されている。
【特許文献1】特開2001−210529号公報(段落[0015]〜[0025]、図1〜図4)
【特許文献2】特開平5−21236号公報(段落[0002],[0008]、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、変圧器において、変圧器本体の冷却に必要な絶縁液体の液量を低減しつつ、タンク内に配置する絶縁物が絶縁液体の対流を阻害するのを回避して、冷却効率の維持を図る点で解決すべき課題がある。
【0009】
本発明の目的は、冷却効率を下げることなく、変圧器本体の損失による熱を放熱するための絶縁液体の液量を低減し、製造コストを低減した変圧器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、この発明による変圧器は、鉄心とコイルとから成る変圧器本体をタンクに収容された絶縁液体の中に浸して成り、前記タンク内には、前記絶縁液体に浸した状態で前記絶縁液体の対流を阻害しない領域に絶縁物を配置したことを特徴としている。
【0011】
この変圧器によれば、タンク内には、絶縁液体に浸した状態で絶縁物を配置しているので、浸される絶縁物の体積分だけ必要な絶縁液体の量を低減することができる。しかも、絶縁物は、変圧器本体の冷却のために変圧器本体から発生する熱を受けて絶縁液体が対流するのを考慮して、その対流を阻害しない領域に配置されているので、絶縁液体を介した変圧器本体の冷却効率を維持することができる。
【0012】
この変圧器において、前記絶縁物の配置場所は、前記変圧器本体の上部空間、下部空間、前記タンクのコーナー部、前記コイル横の空間、及び前記鉄心の横空間から選択される一つの場所又は複数の場所の組合せとすることができる。これらの空間や隙間は、変圧器本体から熱を受けて対流する際に、変圧器本体の表面とその近傍において絶縁液体がスムーズに上昇し得るように、変圧器本体との間で縦の隙間を置いて配置するのが好ましい。
【0013】
この変圧器において、前記絶縁液体はシリコーン液とすることができる。シリコーン液は、難燃性に優れ、長期に渡って劣化がなく、他の絶縁物との相互作用も少ない絶縁液体である。ただし、熱による体積膨張の係数が大きいという性質がある。
【0014】
この変圧器において、前記鉄心は非晶金属とすることができる。鉄心材料として非晶質(アモルファス)磁性合金薄帯(以下、単に磁性薄帯という)は、磁性合金の溶融体を超急冷して製造するもので、非常に低鉄損であるという優れた磁気特性を備えている。但し、非晶質磁性薄帯は珪素鋼帯に比べて非常に薄く、しかも、加工歪の除去及び鉄心特性の向上の目的で磁場焼鈍を行うと極めて脆弱となり、硬くて脆いという性質がある。
【0015】
この変圧器において、前記絶縁物は、樹脂が含浸処理された木材とすることができる。木材は良好な絶縁物であり、しかも安価に入手可能であって、ワニスのような樹脂で含浸処理した上でタンク内に封入すれば腐化することもなく、長期に渡って安全に使用し得る材質である。
【発明の効果】
【0016】
本発明による変圧器によれば、変圧器の絶縁液体を介する冷却性能を低下させることなく、絶縁液体の液量を低減することができる。絶縁液体の液量を低減することにより、絶縁液体のコストを低下させるだけでなく、機器運転時における絶縁液体の体積膨張を減少させることができる。体積膨張が減少すれば、タンクの内圧上昇が抑制されるため、タンク強度を低下させることができ、更に製造コストを削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明による変圧器の実施例となる、絶縁液体にシリコーン液を用いた変圧器について、図を用いて説明する。図1は、この発明による変圧器の実施例を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【0018】
図1において、絶縁物を配置し得る領域は、図2において絶縁液体Lのみが存在する領域であり、変圧器本体3の上部空間4及び下部空間5、タンク9の四隅のようなコーナー部6、コイル横空間7、鉄心横空間8、変圧器本体3内の隙間等である。これらの領域は、絶縁液体Lが変圧器本体3の特にコイル2から熱を受け取って対流するとき、その対流10に与える影響が少ない領域である。
【0019】
各絶縁物は、絶縁液体Lの対流(一例として、符号10でその様子を示す)を阻害すると冷却性能を落とすことになるので、絶縁物の配置領域は対流10を阻害しない位置に限られる。したがって、絶縁物は、鉄心1とコイル2からなる変圧器本体3の上部空間4に配置された上部絶縁物14、及び下部空間5に配置された下部絶縁物15、タンク9のコーナー部6に配置されたコーナー絶縁物16、コイル横空間7に配置されたコイル横絶縁物17、鉄心横空間8に配置された鉄心横絶縁物18、及び変圧器本体3内の隙間に配置された隙間絶縁物等に限定される。
【0020】
上記した各領域に絶縁物を配置することで、各絶縁物14〜18は絶縁液体Lの対流を阻害せず、機器運転時の冷却性能を低下することなく、絶縁物が押し退けた体積に相当する分だけ、絶縁液体Lの使用液量を低減することができる。絶縁液体Lの使用液量が少ないと、温度変化に起因する体積膨張が下がるため、タンク9内の内圧上昇が抑制される。本例では、絶縁液体の液量が従来の変圧器と比較して25%程度低減し、内圧上昇の程度も50%程度減少するという結果が得られている。
【0021】
この実施例では、鉄心1としてはアモルファス金属のような非晶金属からなる鉄心が用いられており、低鉄損という磁気特性を享受できる。また、絶縁液体にはシリコーン液が用いられており、難燃性に優れ、長期に渡って劣化がなく、他の絶縁物との相互作用も少ないという利点を享受できる。シリコーン液のみが占めている領域に配置される絶縁物としては、ワニスを含浸処理した木材(絶木)が挙げられる。絶木を配置することにより、シリコーン液の液量が減少する。シリコーン液は体積膨張率が大きいため内圧上昇の増大は従来では深刻な問題となるが、この変圧器においては内圧上昇が抑制されるため、タンク9の構造は従来のままで、絶縁液体として有利なシリコーン液を用いることができる。
【0022】
実施例は、鉄心に非晶金属を使用しているが、その他の磁性金属であっても構わない。絶縁液体もシリコーン液に限らず、絶縁液体を使用する場合には全て適用できる。実施例では、内部に配置した絶縁物は絶木であるが、絶縁物の種類も本例に限定されない。なお、タンク9及び変圧器本体3の具体的な形状・構造に従って、絶縁液体のみが存在する領域は変わり得るので、絶縁物を配置し得る領域としても、上記の領域のうち一つの領域、又は複数の領域の組合せと成り得る。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明を用いれば、冷却性能を低下させずに、絶縁液体の液量を低減できるため、産業上の利用は有望である。本発明は、また他の絶縁液体入りの電気機器にも適用可能であることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明による変圧器の実施例を示す図。
【図2】従来の変圧器の一例を示す図。
【符号の説明】
【0025】
1 鉄心
2 コイル
3 変圧器本体
4 上部空間
5 下部空間
6 コーナー部
7 コイル横空間
8 鉄心横空間
9 タンク
10 対流
14 上部絶縁物
15 下部絶縁物
16 コーナー絶縁物
17 コイル横絶縁物
18 鉄心横絶縁物
L 絶縁液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄心とコイルとから成る変圧器本体をタンクに収容された絶縁液体の中に浸して成り、前記タンク内には、前記絶縁液体に浸した状態で前記絶縁液体の対流を阻害しない領域に絶縁物を配置したことを特徴とする変圧器。
【請求項2】
前記絶縁物の配置場所は、前記変圧器本体の上部空間、下部空間、前記タンクのコーナー部、前記コイルの横空間及び前記鉄心の横空間から選択される一つの場所又は複数の場所の組合せであることを特徴とする請求項1に記載の変圧器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−12919(P2007−12919A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−192527(P2005−192527)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(502129933)株式会社日立産機システム (1,140)
【Fターム(参考)】