説明

絶縁被覆電線

【課題】厚さが均一で滑らかな表面を有する半導電層を備え、インバータサージによる部分放電が発生しにくい絶縁被覆電線を提供する。
【解決手段】導体2の外周に、ベース樹脂に平均粒子径が1μm以下の金属微粒子が分散されている樹脂塗料を塗布して形成された半導電層4を有するものである。前記金属微粒子は、その表面に、界面活性剤からなる有機凝集抑制層を有するものが好ましい。また、前記金属微粒子は、Ag微粒子あるいはCu微粒子からなるのがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導電層を備えた絶縁被覆電線に係り、特に、耐部分放電特性に優れた絶縁被覆電線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車などの車両用として使用されるモータや発電機は、燃費改善や動力性能向上などの理由から高電圧でインバータ駆動されることが主流である。
【0003】
このモータや発電機のコイルに使用される絶縁被覆電線としてエナメル線があるが、モータや発電機が高電圧でインバータ駆動される際、このインバータ駆動によって過大な電圧(インバータサージ)がモータに発生すると、このインバータサージによってエナメル線の絶縁層に部分放電が発生してしまい、絶縁層が劣化、侵食して絶縁破壊に至るケースが高まっている。また、モータや発電機の駆動電圧が上昇すると、絶縁層に部分放電が発生するリスクはさらに高くなる。
【0004】
この部分放電の発生を抑制するために、絶縁層を形成する樹脂塗料中にカーボン粒子を含有させ、絶縁層を半導電層とすることにより、絶縁層に部分放電を発生させないようにする方法が知られている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0005】
また、絶縁層を形成する樹脂塗料中に酸化アルミ、シリカなどの無機フィラーを混入させることにより、絶縁層に部分放電が発生した場合においても絶縁層の劣化、侵食をしにくくして絶縁破壊を防止する方法が知られている(例えば、特許文献5、6参照)。
【0006】
【特許文献1】特許第3077982号公報
【特許文献2】特開2007−5174号公報
【特許文献3】特開2005−285755号公報
【特許文献4】特開2005−251573号公報
【特許文献5】特開2001−307557号公報
【特許文献6】特開2005−112908号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、絶縁層を形成する樹脂塗料にカーボン粒子を含有させて半導電層を形成する方法では、このカーボン粒子を含有することにより、樹脂塗料の粘度が著しく上昇してしまうおそれがあり、粘度の高い樹脂塗料を導体上に塗布、焼付すると半導電層の厚さにムラや凹凸が生じて、厚さが均一で滑らかな表面を有する半導電層が得られないという問題点がある。
【0008】
また、絶縁層を形成する樹脂塗料中に無機フィラーを含有させて絶縁層の劣化、侵食をしにくくして絶縁破壊を防止する方法では、部分放電に対する絶縁層の耐劣化特性を高める方法としては効果が期待できるものの、部分放電の発生自体を抑制するものではないため、部分放電に対して耐劣化特性を長期のあいだ維持する長期信頼性や、部分放電によるノイズの発生など、種々の問題が残っている。
【0009】
そこで、本発明の目的は、厚さが均一で滑らかな表面を有する半導電層を備え、インバータサージによる部分放電が発生しにくい絶縁被覆電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために創案された本発明は、導体の外周に、ベース樹脂に平均粒子径が1μm以下の金属微粒子が分散されている樹脂塗料を塗布して形成された半導電層を有する絶縁被覆電線である。
【0011】
前記金属微粒子は、その表面に、界面活性剤からなる有機凝集抑制層を有するとよい。
【0012】
前記金属微粒子は、Ag微粒子あるいはCu微粒子からなるとよい。
【0013】
前記ベース樹脂は、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、あるいはポリイミド樹脂のうち、少なくとも1種からなるとよい。
【0014】
前記半導電層は、前記ベース樹脂に、前記金属微粒子とカーボン粒子が分散されている樹脂塗料を塗布、焼付して形成されてもよい。
【0015】
前記半導電層の外周に、その半導電層を保護する保護層が形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、厚さが均一で滑らかな表面を有する半導電層を形成でき、インバータサージによる部分放電が発生しにくい絶縁被覆電線を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面にしたがって説明する。図1は、本発明の好適な実施形態を示す絶縁被覆電線の横断面図である。
【0018】
図1に示すように、本実施形態に係る絶縁被覆電線1は、導体2の外周に形成された絶縁層3の外周に、樹脂塗料を塗布、焼付して形成される半導電層4を有するものであって、その半導電層4が、ベース樹脂に、平均粒子径が1μm以下、好ましくは100nm以下、さらに好ましくは5〜50nmの金属微粒子が分散されている樹脂塗料からなる。
【0019】
平均粒子径は、レーザ回折法などによって得られる粒度分布から求められる平均径で表したものである。平均粒子径が100nm以下の金属微粒子は、金属ナノ粒子とも呼ばれる。
【0020】
一般に、カーボン粒子などの微粒子は、表面が活性であり、ベース樹脂中で凝集体を形成しやすく、ベース樹脂の粘度が増加してしまうため、この凝集体、特に、数μm程度以上の大きさの凝集体を含む樹脂塗料を導体の外周に直接、あるいは絶縁層を介して塗布、焼付して半導電層を形成すると、凝集体によって半導電層の厚さに凹凸やムラが発生しやすくなる。
【0021】
また、平均粒子径が1μmよりも大きい微粒子、あるいは凝集体を含む樹脂塗料では、半導電層の厚さ5μm程度の中で1μmよりも大きい固体が存在することになり、導体の外周に樹脂塗料を塗布する工程で塗膜に凹凸やムラを発生しやすくなり、厚さが均一で良好な表面を有する半導電層を得ることができないおそれがある。
【0022】
そこで、本実施形態では、ベース樹脂に分散される微粒子として、導電性を有する平均粒子径が1μm以下の金属微粒子を用いることにより、ベース樹脂中で凝集体が形成されにくくなり、ベース樹脂の粘度の増加を防止することができるため、導体2の外周に金属微粒子を含む樹脂塗料を塗布する工程において、塗膜の凹凸やムラが発生しにくくなる。これにより、導体2の外周に、絶縁層3を介して厚さが均一で良好な表面を有する半導電層4を形成することができる。
【0023】
また、金属微粒子を用いることにより、高電圧下の絶縁被覆電線1において、半導電層4中の金属微粒子がイオン化してイオン伝導なども起こり、半導電層4中の導通が増えるため、従来よりもインバータサージによる部分放電が発生しにくい絶縁被覆電線1が得られる。
【0024】
金属微粒子を分散させたベース樹脂に、カーボン粒子を凝集体とならない程度に少量添加して半導電層を形成してもよく、この場合においても金属微粒子のみをベース樹脂に分散させた場合と同様の作用、効果が得られる。
【0025】
半導電層4を形成するための樹脂塗料に含まれる金属微粒子の含有率は、ベース樹脂100重量%に対して2〜10重量%であるとよい。金属微粒子の含有率が2重量%未満であると、絶縁被覆電線1にインバータサージによる部分放電が発生しやすくなる。金属微粒子の含有率が10重量%を超えると、厚さが均一で滑らかな表面を有する半導電層の形成が難しくなる。
【0026】
半導電層4の厚さは、2〜10μmであるとよい。半導電層の厚さが2μm未満では、金属微粒子が分散されている樹脂塗料を均一な厚さで塗布するのが難しく、半導電層の厚さが10μmを超えると、絶縁被覆電線1の外径が大きくなり、モータや発電機などの小型化や軽量化の妨げになるからである。
【0027】
また、金属微粒子の凝集をさらに抑制して分散性、塗布均一性を高めるため、金属微粒子の表面に界面活性剤からなる有機凝集抑制層を有しているものが望ましい。例えば、金属微粒子の表面が脂肪族アミンなどの界面活性剤からなる有機凝集抑制層を有することで、この有機凝集抑制層によってベース樹脂中の金属微粒子同士が結合し、凝集してしまうのを抑制することができる。これにより、金属微粒子がベース樹脂中に均一に分散しやすくなり、凝集による半導電層の厚さのバラツキを低減することができるため、導体の外周に厚さが均一で滑らかな表面を有する半導電層を形成することができる。有機凝集抑制層は、金属微粒子を界面活性剤で表面処理することで、金属微粒子の表面に形成できる。
【0028】
金属微粒子としては、材質を特に限定するものではないが、導電率が比較的大きく、少量の添加で前記効果が得られ、製造、あるいは入手が比較的容易などという理由から、Ag微粒子、あるいはCu微粒子を用いることが好ましい。
【0029】
また、ベース樹脂としては、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂もしくはポリイミド樹脂などからなる耐摩耗性、耐熱性などの性能を有する絶縁被覆電線に用いる樹脂であれば特に限定するものではなく、場合によってはこれらの混合物であってもかまわない。
【0030】
このように、絶縁被覆電線1では、半導電層4がベース樹脂に平均粒子径が1μm以下の金属微粒子を含む樹脂塗料を塗布、焼付して形成されることにより、厚さが均一で滑らかな表面を有する半導電層4を備えた絶縁被覆電線を提供することができる。これにより、絶縁被覆電線1によれば、高い部分放電開始電圧特性を有し、インバータサージによる部分放電が発生しにくいため、高電圧でインバータ駆動させるモータや発電機などのコイルに使用可能であり、工業上有用である。
【0031】
図2に示す絶縁被覆電線21のように、図1で説明した絶縁被覆電線1の構成に加え、さらに半導電層4の外周に、外傷などの抑制を目的に半導電層4を保護する保護層5が形成されていてもよい。保護層5の材料としても絶縁層3と同様に、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂もしくはポリイミド樹脂、あるいはこれらの混合物からなる耐摩耗性、耐熱性などの性能を有する絶縁被覆電線に用いる樹脂であれば、特に限定するものではない。
【0032】
前記実施形態では、金属微粒子が分散されている樹脂塗料を塗布、焼付して半導電層4を形成する例で説明したが、金属微粒子が分散されている樹脂塗料を塗布、乾燥、硬化して半導電層4を形成してもよい。
【0033】
前記実施形態では、導体2の外周に絶縁層3を介して半導電層4が形成されている例で説明したが、導体の外周に半導電層が直接形成されている絶縁被覆電線に応用でき、この場合にも図1で説明した絶縁被覆電線1と同様の作用、効果が得られる。なお、本実施形態においては、少なくとも導体の外周に半導電層を有していれば、絶縁被覆電線という。
【0034】
また、前記実施形態では、絶縁層3を単層で形成した例で説明したが、導体の外周に2層以上の多層で絶縁層を形成してもよく、さらに、半導電層の外周に単層または多層の絶縁層を形成してもよい。
【実施例】
【0035】
実施例1〜4、および比較例1〜3における部分放電開始電圧の評価は、12cm間に1.5kg重を掛けて9回撚りした2本の絶縁被覆電線間に1kHzの正弦波電圧を印加昇圧し、検出感度10pCの漏れ電流を生じる電圧として測定を行った。また、実施例1〜4、および比較例1〜3で得られた絶縁被覆電線1の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、半導電層4の厚さと表面の状態を確認した。
【0036】
(実施例1)
外径1.0mmのCu導体2の外周に、ポリアミドイミド樹脂からなる樹脂塗料を塗布、焼付し、33μm厚の絶縁層3を形成した。さらに、平均粒子径が5nmのAg微粒子をポリアミドイミド樹脂の樹脂分100重量%に対して3重量%含有してなる樹脂塗料を塗布、焼付し、Ag含有の半導電層4を絶縁層3の外周に3μm厚さで形成して絶縁被覆電線1を得た。この絶縁被覆電線1の部分放電開始電圧は、5kV以上であった。また、半導電層4の厚さは均一で、滑らかな表面を有していた。
【0037】
(実施例2)
外径1.0mmのCu導体2の外周に、ポリアミドイミド樹脂からなる樹脂塗料を塗布、焼付し、33μm厚の絶縁層3を形成した。さらに、平均粒子径が20nmのCu微粒子をポリアミドイミド樹脂の樹脂分100重量%に対して3重量%含有してなる樹脂塗料を塗布、焼付し、Cu含有の半導電層4を絶縁層3の外周に3μm厚さで形成して絶縁被覆電線1を得た。この絶縁被覆電線1の部分放電開始電圧は、5kV以上であった。また、半導電層4の厚さは均一で、滑らかな表面を有していた。
【0038】
(実施例3)
外径1.0mmのCu導体2の外周に、ポリアミドイミド樹脂からなる樹脂塗料を塗布、焼付し、33μm厚の絶縁層3を形成した。さらに、平均粒子径が20nmのCu微粒子と、カーボン粒子としてのケッチェンブラックとをポリアミドイミド樹脂の樹脂分100重量%に対して、それぞれ2重量%、1重量%含有してなる樹脂塗料を塗布、焼付し、Cuとケッチェンブラックとを含む半導電層を絶縁層3の外周に3μm厚さで形成して絶縁被覆電線を得た。この絶縁被覆電線の部分放電開始電圧は、5kV以上であった。また、半導電層4の厚さは均一で、滑らかな表面を有していた。
【0039】
(実施例4)
外径1.0mmのCu導体2の外周に、ポリアミドイミド樹脂からなる樹脂塗料を塗布、焼付し、33μm厚の絶縁層3を形成した。さらに、平均粒子径が20nmのCu微粒子をポリアミドイミド樹脂の樹脂分100重量%に対して3重量%含有してなる樹脂塗料を塗布、焼付し、Cu含有の半導電層4を絶縁層3の外周に3μm厚さで形成した。さらにその上にポリアミドイミド樹脂からなる樹脂塗料を塗布し保護層5を形成して絶縁被覆電線21を得た。この絶縁被覆電線21の部分放電開始電圧は、5kV以上であった。また、半導電層4の厚さは均一で、滑らかな表面を有していた。
【0040】
(比較例1)
外径1.0mmのCu導体の外周に、ポリアミドイミド樹脂からなる樹脂塗料を塗布、焼付し、33μm厚の絶縁層を形成して絶縁被覆電線を得た。この絶縁被覆電線の部分放電開始電圧は、700Vであった。
【0041】
(比較例2)
外径1.0mmのCu導体の外周に、ポリアミドイミド樹脂からなる樹脂塗料を塗布、焼付し、33μm厚の絶縁層を形成した。さらに、平均粒子径が2μmのAg微粒子をポリアミドイミド樹脂の樹脂分100重量%に対して3重量%含有してなる樹脂塗料を塗布、焼付し、Ag含有の半導電層を絶縁層の外周に3μm厚さで形成して絶縁被覆電線を得た。この絶縁被覆電線では、半導電層の表面の荒れが激しく、所々に半導電層が被覆されていない部分が生じるなどの欠陥があり、部分放電開始電圧の測定に寄与できる絶縁被覆電線を得ることができなかった。
【0042】
(比較例3)
外径1.0mmのCu導体の外周に、ポリアミドイミド樹脂からなる樹脂塗料を塗布、焼付し、33μm厚の絶縁層を形成した。さらに、ケッチェンブラックをポリアミドイミド樹脂の樹脂分100重量%に対して6重量%含有してなる樹脂塗料を塗布、焼付し、ケッチェンブラック含有の半導電層を絶縁層の外周に3μm厚さで形成して絶縁被覆電線を得た。この絶縁被覆電線では、半導電層の表面の荒れが激しく、所々に半導電層が被覆されていない部分が生じるなどの欠陥があり、部分放電開始電圧の測定に寄与できる絶縁被覆電線を得ることができなかった。
【0043】
以上、本発明の実施形態および実施例を説明したが、上記に記載した実施形態および実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施形態で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の好適な実施形態を示す絶縁被覆電線の横断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態を示す絶縁被覆電線の横断面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 絶縁被覆電線
2 導体
3 絶縁層
4 半導電層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の外周に、ベース樹脂に平均粒子径が1μm以下の金属微粒子が分散されている樹脂塗料を塗布して形成された半導電層を有することを特徴とする絶縁被覆電線。
【請求項2】
前記金属微粒子は、その表面に、界面活性剤からなる有機凝集抑制層を有する請求項1記載の絶縁被覆電線。
【請求項3】
前記金属微粒子は、Ag微粒子あるいはCu微粒子からなる請求項1または2記載の絶縁被覆電線。
【請求項4】
前記ベース樹脂は、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、あるいはポリイミド樹脂のうち、少なくとも1種からなる請求項1〜3いずれかに記載の絶縁被覆電線。
【請求項5】
前記半導電層は、前記ベース樹脂に、前記金属微粒子とカーボン粒子が分散されている樹脂塗料を塗布、焼付して形成される請求項1〜4いずれかに記載の絶縁被覆電線。
【請求項6】
前記半導電層の外周に、その半導電層を保護する保護層が形成されている請求項1〜5いずれかに記載の絶縁被覆電線。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−108843(P2010−108843A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281422(P2008−281422)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】