説明

綿・絹混紡繊維の処理方法

【課題】綿・絹混紡繊維の風合い向上加工における、セルラーゼ処理工程および塩縮加工工程にかかる作業工程数と時間を低減し、高機能な繊維、すなわち絹の肌触りと綿の優れた吸湿性を同時にあわせ持つ付加価値の高い綿・絹混紡繊維およびその繊維製品を低コストで提供すること。
【解決手段】綿・絹混紡繊維に対して、セルラーゼ処理を、セルラーゼ失活、および、塩縮加工を同浴水相で連続して行う方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、綿・絹混紡繊維の処理方法に関する。より詳しくは、所望の風合いをもった新規な繊維および繊維製品のための処理方法であって、セルラーゼ処理、および、セルラーゼ失活と塩縮加工を同浴で一括して行うことを特徴とする綿・絹混紡繊維の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
綿・絹混紡繊維は、絹の肌触りと綿の優れた吸湿性を同時に実現するため、原料綿と絹生糸を加工するプロセスが重要である。綿・絹混紡繊維に適度な綿と絹の風合いを付与する処理方法として、綿の精練漂白、および、絹の半練加工を行った繊維に対し、絹の塩縮加工を行い、綿のセルラーゼ処理加工を行う方法がある。絹の塩縮加工工程は硝酸カルシウム等の中性塩類の水溶液中で行われ、絹を膨潤し収縮させ、織物にクレープ状模様を施したり、紡績糸に嵩高さを付与し、絹の風合いを向上させる処理工程である。いっぽう、セルラーゼ処理工程は綿繊維よりセルロースを部分的に除去し、毛羽の除去や柔軟化および滑らかな肌触りなどを付与して、綿の風合い向上のために行われる処理工程である。これらの塩縮およびセルラーゼ処理工程は、互いに異なる処理溶液組成、pHおよび温度を要することから、綿・絹混紡繊維においては、適度な風合いを付与するためにこれらの処理工程を別浴でそれぞれ処理する必要があった。
【0003】
塩縮処理工程とセルラーゼ処理工程はどちらの工程を先に行っても構わないが、それぞれ、繊維の風合いに対して非常に強く影響する処理工程であり、このようにそれぞれの処理条件が異なるため、処理工程を確実に停止し、処理反応をよく制御されたものとするために、工程間で処理繊維を十分に洗浄する必要があった。特に、セルラーゼ処理については酵素反応を完全に停止させるため、熱やpH調整剤の添加による酵素失活処理を行う必要があった。ゆえに、綿・絹混紡繊維に対する塩縮処理工程とセルラーゼ処理工程は、作業工程数が多いという問題がある。また、工程数が多いことから、処理時間が長くなること、品質管理面から厳密な工程管理を必要とするためコストがかかるということ、および、廃液が多く環境への負荷が高いという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この出願の発明は、以上の通りの背景から、綿・絹混紡繊維の風合い向上加工における、セルラーゼ処理工程および塩縮加工工程にかかる作業工程数と時間を低減し、高機能な繊維、すなわち絹の肌触りと綿の優れた吸湿性を同時にあわせ持つ付加価値の高い綿・絹混紡繊維およびその繊維製品を短時間、かつ、低コストで提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この出願の発明の発明者らは綿・絹混紡繊維のセルラーゼ処理および塩縮加工方法に関する研究を鋭意すすめ、上記の問題点を解決するため、新規な処理方法を発明した。すなわち、この出願の発明は第1には綿・絹混紡繊維に対して、セルラーゼ処理、セルラーゼ失活、および、塩縮加工を同浴で連続して行うことを特徴とする綿・絹混紡繊維の処理方法を提供する。第2には、セルラーゼ失活処理が化学的処理によって行われることを特徴とする請求項1記載の処理方法が、さらに、第3にはセルラーゼ失活処理が物理的な熱変性によって行われることを特徴とする前記の綿・絹混紡繊維の処理方法を提供する。また、第4には前記の発明の処理方法によって処理された綿・絹混紡繊維を、および第5には、この綿・絹混紡繊維を使用した繊維製品を提供する。
【発明の効果】
【0006】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明により、従来の処理方法で解決できないセルラーゼ処理工程および塩縮加工工程にかかる作業工程数と時間を低減し、高機能な綿・絹混紡繊維、すなわち絹の肌触りと綿の優れた吸湿性を同時にあわせ持つ付加価値の高い綿・絹混紡繊が低コストで提供される。また、この綿・絹混紡繊維を含む高機能な製品が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
この出願の発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下に、この出願の発明の実施の形態について詳しく説明する。
【0008】
この出願の発明の綿・絹混紡繊維は、紡績糸、織布・不織布を問わず、綿および絹が原料の一部であることを特徴とする繊維である。もちろん、公知の天然繊維(麻、綿などの植物性繊維、および再生繊維(レーヨンなど)と、綿・絹の混紡繊維であってもよい。また、この出願の発明の方法は単に布状や糸状の繊維加工品だけでなく、それらを元に高次的加工を経た繊維製品に対しても適用できる。また、繊維材料として水溶液中に媒散した状態の繊維素片に対してもこの出願の発明の方法は適用できる。この出願の発明の綿・絹混紡繊維は、絹の紡績糸を含む織布であって、好ましくは、経糸を絹糸、緯糸を綿糸とし、例えば4枚朱子、5枚朱子または8枚朱子とした織布である。さらに、この出願の発明においては、綿および絹のみで構成される絹混紡繊維であって、その重量比が概ね絹1:綿9とした織布であることをより好ましい態様とする。
【0009】
この出願の発明の繊維製品とは、この出願の発明の方法により直接的に処理された混紡糸、織布だけでなく、それを素材または原料として使用した各種の高次的な加工品も含まれる。
【0010】
この出願の発明の方法の綿・絹混紡繊維は、セルラーゼ処理に先立って、繊維中の絹および綿の各繊維に対して、精練処理を行う。これらの工程はそれぞれを公知の方法行うことができ、好ましくは、過酸化水素を用いて綿の精練漂白と絹の半練工程を同時におこなう。過酸化水素処理は適当な反応助剤(例えばハイパーS88:大東薬品工業)を用い、処理温度95〜98℃で、過酸化水素は市販の35%過酸化水素を15〜20g/l、pHは9.8前後で行うことができる。過酸化水素による精練漂白工程において、繊維に白度を与えるためにはpHを高くする事が望ましい。しかしながら、高いpH、例えば10以上では、絹繊維の精練の程度が進みすぎて絹本来の風合いを損ねてしまう。絹本来の風合いの実現には絹に含まれるセリシンが関与していることが知られているが、この出願の発明の方法によれば、塩縮操作により絹生糸に25w%程度含まれるセリシンを若干残したまま除去する。絹生糸に対して含有されるセリシンを5〜15w%に、より好ましくは10〜12w%になるようにセリシンを一部を除去しながら精練漂白を行うことによって、絹本来の風合いを持ちつつ、白度のある美しい綿・絹混紡繊維を得る。
【0011】
この出願の発明においては精練を行った綿・絹混紡繊維に対して、セルラーゼ処理を行う。この出願の発明の一態様である綿・絹絹混紡繊維の処理方法においては、あらかじめ定法により綿・絹混紡繊維を精練した後に、まずセルラーゼ処理を行い、その後セルラーゼ失活および塩縮加工を同浴で連続処理する。この出願の発明において同浴とはすなわち単一の水相反応系で一括して行うことを指し、浴中の処理液を交換せずにそのまま用いることを言う。この系においては処理液が処理繊維に対して十分に潤沢であればよい。しかし、コスト面と処理装置の小型化の観点から処理液を少なくする必要がある。この出願の発明においては、処理する繊維重量に対して10〜20倍量の処理液、より好ましくは12倍程度の処理液を用いる。酵素処理のうち、セルラーゼ処理は一般的に市販されているセルラーゼ酵素試薬を用いることができ、好ましくは至適pH5.5以下、至適温度50〜55℃とするセルラーゼ酵素試薬を用いる。なお、pHの調整には後述のpH調整剤を用いることが好ましい。
【0012】
この出願の発明のセルラーゼ失活処理は、セルラーゼ処理をよく制御するための方法であって、pH調整剤の添加による中和処理、あるいは熱処理よって行うことができる。酵素としてセルラーゼを用いる場合、処理系の温度を保持したまま、系にpH調整剤を添加し、pH8前後で5〜10分失活処理を行うことを好ましい態様とする。この失活処理は酸性であった系のpHを中性もしくはpH7〜8程度の中性ないし弱アルカリ性とすることにより、セルラーゼ活性を失活させる処理である。中性でもセルラーゼ失活は可能であるが、後述の塩縮加工で必要とされるpH7〜8で失活処理を行うことも可能である。加えて、後述の塩縮加工に際して、加温が必要なことから、pH調整剤の添加後とともに加温して、あるいは加温しながらpH調整剤を添加し、pH処理だけでなく熱処理によってもセルラーゼを失活させることができる。
【0013】
この出願の発明の塩縮処理は、前記のセルラーゼ失活処理に引き続いて行う処理工程であり、適当なpH調整剤を用いて系を中性〜弱アルカリ性(pH7〜9)条件にして行うことを特徴とする。塩縮加工の処理温度は95〜98℃、塩縮剤濃度50g/l、pH7〜8が最も好ましい。塩縮剤としてはアルカリ金属、またはアルカリ土類金属の硝酸塩が好ましく、硝酸カルシウムや硝酸カリウムが特に好ましい。
【0014】
塩縮剤はpH調製前に添加するが、塩縮加工温度へ加温する前に添加しても、加温してから添加しても良い。pHや温度管理の観点から、酵素失活反応後の系にあらかじめ硝酸カリウムを添加して昇温することが好ましい。
【0015】
本発明においては、例えばセルラーゼ処理の場合は系のpHが酸性であって、セルラーゼ失活および塩縮加工に際して、系のpHを中和する必要がある。また、塩縮処理においては上述したとおりの所望のpHへの調整が必要とされる。本発明ではこれらのpH調整をpH調整剤により行うが、pH調整剤としては、pHを任意に増加または減少させることができる物質であればよく、例えば、塩酸、水酸化ナトリウムなどのpH調整試薬をもちいてよい。より好ましくは、セルラーゼ処理など、酸性条件を必要とする場合は、酢酸および硫酸アンモニウムが、セルラーゼの失活および塩縮加工処理は、中性からアルカリ性条件で行うためカヤクバッファーP7(日本化薬株式会社製)をpH調整剤として用いる。
【0016】
この出願の発明の綿・絹混紡繊維の処理方法においては、単一の処理液で酵素処理から塩縮加工までを行うため、途中の洗浄操作は不要ある。いっぽう、塩縮加工後には、塩縮剤を除去し、塩縮反応を停止させるために洗浄工程を必要とする。この洗浄工程は水洗または湯洗により行うことができ、より好ましくは40℃の湯洗を5分間、常温水洗を5分間行ったのちに再度常温水洗を5分間行う。洗浄工程を経た綿・絹混紡繊維は適当な方法で乾燥させ加工に供することができる。
〔実施例〕綿・絹混紡繊維
縦糸として絹21中/2生糸(50本/cm)、横糸として綿40/2ガスコーマ糸(29本/cm)を用い、重量比が絹10%、綿90%である8枚繻子の混織布(幅144cm×長さ61cm)を作成し、これを精練漂白処理した。精練漂白処理は、35v%過酸化水素、反応助剤ハイパーS−88、および、0.03v%マルチノールC−58(精練剤、主成分アルキルエチレンオキサイド化合物)を添加してpH9.8前後に調整した処理液に、混織布を浸漬し、処理液を加温して、98℃30分間処理を行った。その後、混織布を2回常温水で洗浄した。なお、1回目の洗浄においては中和剤として0.1ml/lのKY30(米山化学)を、2回目の洗浄においては過酸化水素分解酵素として、0.1ml/lのレオネットF35(ナガセ生化学)を添加した。2回目の洗浄後、パーオキサイトテスト用紙(メルクジャパン)で過酸化水素は検出されなかった。
【0017】
この精練漂白した混織布を図1に示す工程であって本発明の一態様である処理方法で処理した。混織布に対して12倍程度の水溶液を浸漬させ、これを処理系として用いた。
【0018】
まず、酢酸および硫酸アンモニウム(硫安)を用いて系のpHを5.5、温度を55℃に調整し、セルラーゼ(セルライザーDX、ナガセ生化学製)を添加して、製品添付のプロトコールに従ってpH5.5、55℃の条件にて、セルラーゼ処理を30分行った。
【0019】
酵素処理後、55℃の温度条件を維持したまま、系にpH調整剤として約1g/lのソーダ灰(徳山ソーダ株式会社)および約2g/lのカヤクバッファーP7(日本化薬株式会社)を添加し、系のpHを8.0に設定し、これを5分間保持し、セルラーゼの失活処理を行った。
【0020】
この後、系に塩縮剤として50g/lの硝酸カリウムを添加して、系の温度を98℃とし、40分間塩縮処理を行った。
【0021】
塩縮処理後、処理浴から処理液を排水し、混織布を脱水後、40℃の湯浴で5分間振盪して湯洗した。同様に排水後、混織布を脱水して、同様に常温水浴で5分間振盪して水洗を2回行った。2回目の水洗処理後の処理浴においてpH7.0および硝酸カリウムが検出されないことを定法で確認した。また、混織布に含まれる絹繊維についてセリシンを測定し、絹繊維中のセリシン量が12w%であることを確認した。
【0022】
上記のとおりの方法で得たこの出願の発明の混織布について物性試験を行った。測定条件は、サンプル数3点で、いずれも繰り返し回数1回である。
【0023】
【表1】

表中WARPは横方向の生地のもどりを、WEFTは縦方向の生地の滑りを示す。各特性項目については次の通りである。
【0024】
【表2】

これより、この出願の発明の方法による混織布は、せん断試験によれば、生地がやわらかく、せん断回復性が高いことが確認された。これよりこの出願の発明の方法による混織布は、優れた物性値を示すことが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例の処理工程−温度管理図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
綿・絹混紡繊維に対して、セルラーゼ処理、セルラーゼ失活、および、塩縮加工を同浴で連続して行うことを特徴とする綿・絹混紡繊維の処理方法。
【請求項2】
セルラーゼ失活処理が化学的処理によって行われることを特徴とする請求項1記載の処理方法。
【請求項3】
セルラーゼ失活処理が物理的な熱変性によって行われることを特徴とする請求項1または請求項2記載の処理方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3記載の処理方法によって処理された綿・絹混紡繊維。
【請求項5】
請求項4記載の綿・絹混紡繊維を使用した繊維製品。

【図1】
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【公開番号】特開2006−207095(P2006−207095A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−24192(P2005−24192)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(505038977)有限会社小池経編染工所 (2)
【Fターム(参考)】