説明

線輪部品

【課題】 低背化とヒートサイクル試験で求められる耐久性を同時に実現する線輪部品を提供すること。
【解決手段】 巻芯部の両端に鍔を有する磁芯1を備え、前記鍔の間に、巻線2および55重量%以上の金属粉末を含む樹脂混和物3とを配置した線輪部品で、前記巻線2を内側に配置し、前記樹脂混和物3を前記巻線2の外側に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器用のチョークコイル、トランス等の線輪部品に関する。
【背景技術】
【0002】
電源用途等の電流対応コイル(チョークコイル等)は、所望のインダクタ特性を確保しつつ、特に線輪部品の外形寸法が低背であることが必要である。このため高さ方向の磁芯の鍔の厚みが薄くなる傾向にある。一方で、温度、湿度などの環境負荷試験後の信頼性の確保が求められている。
【0003】
従来の線輪部品の主な構造としては、上鍔及び下鍔の間を連結する巻芯部に巻線を巻回したドラム型磁芯にスリーブコアを外周に配置する構造が一般的である。
【0004】
上記従来の線輪部品の構造として、特許文献1には、ドラム型フェライトコアを用いたコイル部品の構造が従来技術として記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平7−115023号公報
【特許文献2】特開2005−21005号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来のドラム型フェライトコアを用いた線輪部品において、低背化を推し進めるには、部品点数が多くコスト的に不利で且つ構造的にも低背化に不向きである。
【0007】
一般的に求められるヒートショック試験(−40℃〜+85℃、10サイクル)において、ドラム型フェライトコアの鍔の強度が対抗できず、鍔に割れ(クラック)が生じることを避けるため、特許文献1に示すドラム型フェライトコアの線膨張係数と磁性粉含有外装樹脂の線膨張係数とを近い値にする方法や、特許文献2に示す磁性粉の充填量を55重量%未満に減らした上で結着樹脂の選択をすることで解決していた。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、低背化とヒートサイクル試験で求められる耐久性を同時に実現する線輪部品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、55重量%以上の金属粉末を含む樹脂混和物を用いても、鍔に割れ(クラック)を避けることができる。
【0010】
(1)本発明によれば、上鍔と中芯と下鍔からなる磁芯と、当該磁芯の上鍔と下鍔との間に、「巻線」および「55重量%以上の金属粉末を含む樹脂混和物」とを配置した線輪部品を備えることを特徴とする面実装コイル部品が得られる。
【0011】
(2)また、本発明によれば、巻線を、当該磁芯の上鍔と下鍔との間の内周部に配置し、その外周部に金属粉末を含む樹脂混和物を配置することを特徴とする線輪部品が得られる。
【0012】
(3)また、本発明によれば、上鍔と下鍔に挟まれた溝の体積の80%以下を、金属粉末を含む樹脂混和物で占めることを特徴とする線輪部品が得られる。
【0013】
(4)さらに、本発明によれば、金属粉末を含む樹脂混和物の弾性物性として、上鍔と下鍔間の熱膨張による変形で、磁芯の破壊強度よりも大きいならば、塑性変形することを特徴とする線輪部品が得られる。
【0014】
(5)また、本発明によれば、金属粉末を含む樹脂混和物の弾性物性として、上鍔と下鍔間の熱膨張による変形で、磁芯の破壊強度よりも小さいならば、弾性変形することを特徴とする線輪部品が得られる。
【0015】
(6)次に、本発明によれば、金属粉末を含む樹脂混和物の弾性物性として、上鍔と下鍔間の熱収縮による変形で、磁芯の破壊強度よりも大きいならば、塑性変形することを特徴とする線輪部品が得られる。
【0016】
(7)さらに、本発明によれば、金属粉末を含む樹脂混和物の弾性物性として、上鍔と下鍔間の熱収縮による変形で、磁芯の破壊強度よりも小さいならば、弾性変形することを特徴とする線輪部品が得られる。
【0017】
(8)本発明によれば、この磁芯の初透磁率は100以上、金属粉末を含む樹脂混和物の初透磁率は1.3以上であることを特徴とする線輪部品が得られる。
【0018】
即ち、本発明は、巻芯部の両端に鍔を有する磁芯を備え、前記鍔の間に、巻線および55重量%以上の金属粉末を含む樹脂混和物とを配置したことを特徴とする線輪部品である。
また、本発明は、前記巻線を内側に配置し、前記樹脂混和物を前記巻線の外側に配置したことを特徴とする上記の線輪部品である。
また、本発明は、前記鍔の間に形成された空間の体積の80%以下を、前記樹脂混和物で占めることを特徴とする上記の線輪部品である。
また、本発明は、前記磁芯の初透磁率は100以上であり、前記樹脂混和物の初透磁率は1.3以上であることを特徴とする上記の線輪部品である。
また、本発明は、前記樹脂混和物に、1重量%以上40重量%以下の非磁性粉末を含むことを特徴とする上記の線輪部品である。
【発明の効果】
【0019】
次の(A)と(B)とを両立できる効果がある。
(A)飽和磁束密度の高い金属粉を55重量%以上充填率する樹脂混和物を用いることで、低背かつ高定格電流のインダクタが得られる。また、構成として、直流電流重畳特性の適合化を、金属粉末を含む樹脂混和物の使用体積を増減することによって調整できる。
(B)ヒートショックなどの環境負荷試験後の信頼性の確保、鍔の割れの発生を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は、本発明に係る面実装コイル部品(線輪部品)の構造を示す、上方から見た断面図である。図1に示すように、この実施の形態の面実装コイル部品は、磁芯1と、巻線2と、金属粉末を含む樹脂混和物3と、端子部4とからなる。一例として、磁芯1には、NiZnフェライトコアで上鍔の外形が3mm、厚みが0.2から0.3mmで、巻芯部の直径は1.6mmのものを用いることができる。
【0021】
外周からの径方向の最大張り出し寸法は、高さ寸法Hを抑えた中でのドラム型フェライト単体で巻線と金属粉末を含む樹脂混和物の容積を確保するための空間である。なお、上記上鍔の厚みの下限はフェライト材の加工技術、焼結製造技術の進展によって可及的に小さい寸法となるべきである。
【0022】
まず、金属粉末を含む樹脂混和物の高温時の応力歪曲線において、金属粉末を含む樹脂混和物の弾性物性として、上鍔と下鍔間の熱膨張による変形で、磁芯の破壊強度よりも小さいならば、弾性変形し、破壊強度よりも大きいならば、塑性変形すること、次に、金属粉末を含む樹脂混和物の低温時の応力歪曲線において、金属粉末を含む樹脂混和物の弾性物性として、上鍔と下鍔間の熱収縮による変形で、磁芯の破壊強度よりも小さいならば、弾性変形し、破壊強度よりも大きいならば、塑性変形することが、鍔の割れを防止する効果を得るための要件である。
【0023】
最大温度270℃10秒リフローを2回通過させた試料について、さらにヒートショックの条件は、−40℃(30分)から+120℃(30分)24サイクルである。各サンプル(各条件のサンプル数n=3から10個)に対して、リフロー後およびヒート試験後のクラック発生状況を調べた。
【0024】
上記樹脂としては、例えば熱硬化性の、加とう性およびゴム弾性のエポキシ樹脂の配合を調整し、樹脂単体かつ室温での弾性率を0.2MPaから400MPa(配合1)〜(配合5)までを準備し、鍔厚を0.2から0.3mmと変えて、85重量%の金属粉末を含む樹脂混和物の鍔間の空間占有率を100%(巻線なし)のTEG(検出精度アップのテストゲージ)でリフローとさらにヒートショックに対する信頼性の確認を行った。その結果を表1に示す。また、巻線をした場合(2Tまたは6T)を表2に示す。表中、数値はリフロー割れ発生率を示し、斜体字はヒートショック割れ発生率を示す。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
さらに、表2の鍔厚0.25mm、室温弾性率40MPa、金属粉88重量%(※で示す)について鍔間の空間占有率を88%、66%、44%、22%と変えて、巻線した場合の結果を表3に示す。
【0028】
【表3】

【0029】
また、表1のヒートショック割れ発生率(斜体字)で、略球状のシリカ(SiO2)の量を変えた場合の結果を表4に示す。
【0030】
【表4】

【0031】
本実施の形態の金属粉末(鉄)は、3%シリコン、9%クロムのアトマイズ粉末(略球状)を用いた。この場合の、充填率と材料透磁率との関係を図2に示す。真空の透磁率1に対して約2倍以上は必要であり好ましくは透磁率10以上がよい、即ちインダクタ特性向上のためにフェライト磁性粉55重量%以上、好ましくは85重量%以上を含有した混和物が望ましい。また、略球状のシリカを1〜40重量%添加することで、割れの発生確率を低減できた。
【0032】
なお、ドラム型フェライトコアの形状は、中芯は円柱状或いは略四角柱状でもよく、上鍔と下鍔は円盤状或いは正方形や長方形の矩形板状でもよい。また端子部は下鍔の下面に少なくとも一対或いは二対配設されていればよい。
【0033】
本発明により、リフローやヒートショックに対して信頼性を確保し、かつ図3のような直流電流重畳特性の良い金属モールドの線輪部品を得た。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る面実装コイル部品の構造を示す、上方から見た断面図。
【図2】本発明に係る面実装コイル部品における充填率と材料透磁率との関係を示す図。
【図3】本発明に係る面実装コイル部品における直流電流重畳特性を示す図。
【符号の説明】
【0035】
1 磁芯
2 巻線
3 樹脂混和物
4 端子部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻芯部の両端に鍔を有する磁芯を備え、前記鍔の間に、巻線および55重量%以上の金属粉末を含む樹脂混和物とを配置したことを特徴とする線輪部品。
【請求項2】
前記巻線を内側に配置し、前記樹脂混和物を前記巻線の外側に配置したことを特徴とする請求項1記載の線輪部品。
【請求項3】
前記鍔の間に形成された空間の体積の80%以下を、前記樹脂混和物で占めることを特徴とする請求項1又は2記載の線輪部品。
【請求項4】
前記磁芯の初透磁率は100以上であり、前記樹脂混和物の初透磁率は1.3以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の線輪部品。
【請求項5】
前記樹脂混和物に、1重量%以上40重量%以下の非磁性粉末を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の線輪部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−300653(P2008−300653A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−145521(P2007−145521)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)