説明

締結部材締め忘れ防止システム

【課題】ボルト等の締結部材の締め忘れを防止できる締結部材締め忘れ防止システムの提供。
【解決手段】ボルトBの締付トルクが設定トルク値に達したことを検知するトルクリミッターセンサを有すると共に、締付トルク値を検出するトルクセンサを有し、締付トルク値が背低トルク値に達するとボルトBにマークMをマーキングするマーカー付きのトルクレンチ30と、トルクレンチ30により締め付けられた特定領域A中の所定数のボルトBを撮影するカメラ1と、カメラ1の撮影情報を表示する画像表示部4と、トルクレンチ30からのセンサ情報に基づいて、ボルトBの前記トルクリミッターセンサがONしたときのトルク値を締付トルク値として表示するトルク値表示部4を有する判定装置2とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルト、ナット等の締結部材の締め忘れを防止するために、例えばボルトの頭部に締結済を示すマーキングを施すマーカー付きトルクレンチを用いてボルト締めを行うことに加え、締付済みのボルト頭部をデジタルカメラで撮影し、撮影画像とそのボルトの締付トルクとを表示して、目視により所定のボルトの締結が確実に実行されたことを確認でき、また記録できる締結部材締め忘れ防止システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ボルト、ナット等の締結部材の締め忘れをチェック可能とするトルクレンチとして、マーカー付きトルクレンチが提案されている(特許文献1)。
【0003】
このマーカー付きトルクレンチは、設定トルク値で締め付けたボルトの頭部にマーカーでマーキングを施すもので、マーキングが施されていれば設定トルク値での締め付けが完了したことを目視により確認することが可能となる。
【0004】
また、マーカー付きトルクレンチによる締付作業を行った領域をデジタルカメラにより撮影し、この画像データに基づいてマーキング部分を判別する画像処理を行って、マーキング部分の個数をカウントすることで、この撮影領域におけるボルト数との比較により締結部材の締め忘れを自動チェックする締結部材締め忘れ防止システムが提案されている(特許文献2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06−297352号公報
【特許文献2】特開2004−249388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に示す締結部材締め忘れ防止システムにおいては、マーキング箇所の画像処理を行って締結部材の締め忘れを自動チェックするようにしているが、単に所定位置に、例えば前回の締め付けで既にマーキング施されたボルトがボルト穴に装着されているだけであって、ボルト締めが一切行われていなくても、外観検査ではボルトが設定トルク値で締め付けられていると判断されるおそれがある。
【0007】
本発明は、斯かる観点に鑑み、所定の領域内における所定数のボルト等の締結部材がマーカー付きトルクレンチで締め付けられたこと、および設定トルク値での締め付けが行われたこと、を撮影画面と各締結部材の実際の締付トルク値とを照合して確認でき、ボルト等の締結部材の締め忘れを防止できる締結部材締め忘れ防止システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的を実現する締結部材締め忘れ防止システムは、特定領域中に存在する1又は複数の所定数の締結部材を検査対象とする締結部材締め忘れ防止システムであって、締結部材の締付トルクが設定トルク値に達したことを検知するトルクリミッターセンサを有すると共に、締付トルク値を検出するトルクセンサを有し、締付トルク値が背低トルク値に達すると前記締結部材にマークをマーキングするマーカー付きのトルクレンチと、前記トルクレンチにより締め付けられた前記特定領域中の所定数の締結部材を撮影するカメラと、前記カメラの撮影情報を表示する画像表示部と、前記トルクレンチからのセンサ情報に基づいて、前記締結部材の前記トルクリミッターセンサがONしたときのトルク値を締付トルク値として表示するトルク値表示部を有する判定装置と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、画像表示部による画像表示とトルク値表示部の締付トルク値との併用によるダブルチェックで締め忘れの確認を行うことができる。したがって、マークが付いたボルト等の締結部材を単にボルト穴に差し込んだだけの不適切な状態が存在した場合、画像表示部のチェックではこれが見破れないが、トルク値表示部のトルク値をチェックすることで、この不適切な状態を見破ることができる。このため、ボルトそのものを装着しない締め忘れも含めて確実にボルトなど締結部材の締め忘れ防止を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明による締結部材締め忘れ防止システムの実施形態を示す図。
【図2】図1に示す判定装置の表示部の拡大図
【図3】図1に示すマーカー付きトルクレンチの詳細図で、(a)は上面図、(b)は正面図、(c)は(a)のAーA矢視断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明による締結部材締め忘れ防止システムを図1から図3に示す実施形態に基づいて説明する。
【0012】
図1において、ボルトの締め忘れを検査する検査対象領域である検査対象領域Aには、複数のボルトB(図1では15本)が締め付けられている。本実施形態において、これらのボルトBは図3に示すマーカー付きトルクレンチ30により締め付けられ、マークMをボルトBの頭部にマーキングすることにより設定トルク値で締め付けたことを示す。マーカー付きトルクレンチ30は、ボルトBの締付トルクが設定トルク値に達したことを検知するトルクリミッターセンサ71と、締付トルク値を検出する歪みゲージ等のトルクセンサ73を有し、トルクリミッターセンサ71とトルクセンサ73のセンサ情報を無線送信機74に出力する。無線送信機74が送信するセンサ情報としては、トルクリミッターセンサ71がONしたときにトルクセンサ73のトルク値を締付トルク値として送信し、あるいはトルクセンサ73のトルク値を連続的に判定装置2に送信し、判定装置2でトルクリミッターセンサ71がONしたときのトルク値を締付トルク値とするようにしてもよい。無線送信機74は、パソコンなどの判定装置2に接続される無線受信機6に前記センサ情報を送信し、判定装置2のメモリ(不図示)に前記センサ情報をメモリする。
【0013】
本実施形態において、検査対象領域Aにおける所定本数のボルトBの締付が完了すると、検査員がデジタルカメラ1により検査対象領域Aを撮影する。デジタルカメラ1に記録された画像は、例えば非接触データ送信器5にデジタルカメラ1を載置することで、非接触データ送信器5から判別装置2の前記メモリに送信され、検査対象領域Aの画像が前記メモリに保存される。
【0014】
判定装置2は、キーボード等の操作部3とモニター画面等の表示部4等を備え、図2に示すように、表示部4は画像表示部4Aと締結部材のトルク値表示部4Bとを備えている。
【0015】
画像表示部4Aには、前記メモリに保存された検査対象領域Aの画像が表示され、トルク値表示部4Bには締め付けたボルトのトルク値を締付順に従って表示する(本実施形態では1〜15番)。
【0016】
検査員は、画像表示部4Aに表示される全てのボルトBにマークMがマーキングされているか否かを確認し、全てのボルトBにマークMがマーキングされていることを確認すると、次に全てのボルトBの締付トルク値をチェックする。
【0017】
検査対象領域Aにおいて、全てのボルトBの設定トルク値が等しい場合には、締付トルク値を直読することで、適正にボルトBを締め付けたか否かを判断することができる。
【0018】
すなわち、本実施形態によれば、画像表示部4Aによる画像表示とトルク値表示部4Bの締付トルク値との併用によるダブルチェックで締め忘れの確認を行うことができる。したがって、マークMが付いたボルトBを単にボルト穴に差し込んだだけの不適切な状態が存在した場合、画像表示部4Aのチェックではこれが見破れないが、トルク値表示部4Bのトルク値をチェックすることで、この不適切な状態を見破ることができる。
【0019】
上記した本実施形態の構成では、検査員が予め締付トルク値を知っていることを前提としている。しかし、予め操作部3の操作により、設定トルク値をインプットすることもできる。この場合、ボルトBの締付トルクが設定トルク値に対して適正範囲内であればそのボルトの表示、例えば2番のボルトの締付トルク値が適正範囲外であれば赤色表示として適正に締め付けられていないことを警告し、特に適正範囲よりも大幅に小さな値あるいは零であると点滅表示によりボルトが全く締め付けられていないことを警告するようにしてもよい。
【0020】
また、検査対象領域Aにおける複数のボルトBについて、締付順が予め決められている場合であって、設定トルク値が異なっている場合であっても、締付順と設定トルク値を記載した表を見ながら検査員が設定トルク値を確認することができる。また、操作部3により締付順と設定トルク値をインプットしてもよい。
【0021】
次に、マーカー付きトルクレンチ30の構成を図3に基づいて説明する。トルクレンチ本体31は、トルクリミッターであるトグル機構32を内装したチューブ33と、このチューブ33の先端部に取付けた支軸34に軸支されるヘッド35と、チューブ33の尾端部に取付けられている柄36を有している。
【0022】
トルクレンチ本体31には、トグル機構32の動作でマーカーを連動させるためのマーカー駆動機構37が設けられている。マーカー駆動機構37は、チューブ33の外側に固定されている支軸ピン38に軸支されているL字形のリンク39を有し、このリンク39の一端は、螺着されている調整ねじ40を介してヘッド35の側面に当接され、またリンク39の他端は、レバー41に球体42を介して当接されている。
【0023】
本実施形態において、トグル機構32が設定トルク値に達したこと、すなわちトルクリミッターが動作することをMR素子などのトルクリミッターセンサ71で検出している。トルクリミッターセンサとしてのMR素子71は、リンク39に設けた永久磁石72に近接して配置され、リンク39の回動によって永久磁石72がMR素子71に近づくとトルクリミッター動作信号を出力する。また、ヘッド35には、歪みゲージ等のトルクセンサ73が貼り付けられ、締付トルク値を出力する。
【0024】
レバー41の一端は、チューブ33に軸支され、他端は、マーカー機構43のマーカーヘッド44に係合されている。45はマーカー駆動機構37のカバーを示す。
【0025】
マーカー機構43の構造を以下に説明する。46はヘッド35内に設けられているラチェット47を有するラチェット筒であって、このラチェット筒46の下端に形成されている6角軸部48に、筒状アダプタ49の上端が結合ねじ50によって結合保持されている。筒状アダプタ49の下端部にはソケット51がその軸方向に摺動自在に嵌合されているが、この摺動範囲は、筒状アダプタ49の母線方向に長い長孔52と、この長孔52内に遊嵌されかつソケット51に植設されているガイドピン53によって規制されるものである。
【0026】
マーカーヘッド44には、ラチェット筒46筒状アダプタ49の内部に挿通されるマーカーロッド54の上端を保持し、そのマーカーロッド54の下端には、例えばスポンジに着色インクを含浸せしめたマーカー55を保持するマーカーケース56が、連結ピン57及びOリング58を介して保持されている。
【0027】
なお、59はマーカーロッド54の上下動を許すスプリング、60はレバー41の復元用スプリング、61はソケット51の上端と、筒状アダプタ49に設けた止め輪62との間に介在されて、ソケット51を常に押し下げているスプリングである。63はナット、64はそのボルトである。
【0028】
ナット63を締付ける前のマーカー43のソケット51は、スプリング61の弾圧力に押されてガイドピン53が、長孔52の下端で係合停止されている。
【0029】
この状態のマーカー機構43を設けているトルクレンチ本体31により、ナット63のねじ締めを行なうとき、ソケット51をナット63に嵌合し、しかる後トルクレンチ本体31の柄36を往復動作させることでラチェット筒46、筒状アダプタ49を介してソケット51が回転し、ナット63の締付けがなされ、その締付けトルクが所定値に達すればトルクレンチ本体1内のトグル機構32が動作する。
【0030】
トグル機構32が動作することでヘッド35は、支軸34を支点として反時計回り方向に動作するため、このヘッド35の動作でリンク39が支持ピン38を支点として時計回り方向に回動する。リンク39の動作により、一端部がレバー支点65に支持されているレバー41は、その他端部が図3(b)において鎖線で示すように押し下げられるため、このレバー41の先端に係合されているマーカーヘッド44が押し下げられる。このマーカーヘッド44が押し下げられることで、マーカーロッド54がスプリング60の弾圧力に抗して押し下げられて、マーカーロッド54の下端に取付けられているマーカー55がボルト64の先端に押し当てられてねじ締めが完了されたことを印すマーキングがなされるものである。
【0031】
なお、本発明のマーカー付きトルクレンチは、上記した図3に示す構成に限定されるものではなく、他の構成のマーカー付きトルクレンチであってもよい。
【0032】
また、デジタルカメラの撮影データを直接判定装置2に保存するようにしてもよい。
【0033】
さらに、本実施形態では、締め忘れ検査対象領域Aにおける複数のボルトBを検査対象としているが、1本のボルト(締結部材)であってもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 デジタルカメラ
2 判定装置
3 操作部
4 表示部
5 非接触データ伝送器
6 受信機
30 マーカー付きトルクレンチ
71 送信機
A 締め忘れ検査対象領域
B ボルト
M マーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定領域中に存在する1又は複数の所定数の締結部材を検査対象とする締結部材締め忘れ防止システムであって、
締結部材の締付トルクが設定トルク値に達したことを検知するトルクリミッターセンサを有すると共に、締付トルク値を検出するトルクセンサを有し、締付トルク値が背低トルク値に達すると前記締結部材にマークをマーキングするマーカー付きのトルクレンチと、
前記トルクレンチにより締め付けられた前記特定領域中の所定数の締結部材を撮影するカメラと、
前記カメラの撮影情報を表示する画像表示部と、前記トルクレンチからのセンサ情報に基づいて、前記締結部材の前記トルクリミッターセンサがONしたときのトルク値を締付トルク値として表示するトルク値表示部を有する判定装置と、
を備えたことを特徴とする締結部材締め忘れ防止システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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