説明

編織込み隠しスライドファスナー

テープ主体部(A)の経編糸(1,2)及び経織糸(21〜35−N)の全てを0.5〜1.5dTexの細い多数のフィラメントからなるマルチフィラメント糸を使うとともに、複数本の固定用糸条(11,11)による各エレメントの噛合頭部側の露呈部分を、各噛合頭部(Eh)の先端から連結部(Ec)の内面までの距離を(a)と、固定用糸条(11,11)により被覆されたエレメント(E)の被覆部分の脚部(El)方向の寸法(b)との比の値(b/a)を、1/2よりも大きく4/5以下とする。ファスナーエレメントが安定して強固に取り付けられ、たとえ使用中にスライドファスナーに強い横引力が加わっても、ファスナーエレメント列の噛合部分が外から見えにくい薄手で柔軟性を有する編織込み隠しスライドファスナーが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明はファスナーエレメント取付部及びテープ主体部とを有する経編組織又は織組織よりなる編織ファスナーテープのファスナーエレメント取付部に、合成樹脂製モノフィラメントからなる連続状ファスナーエレメント列の各噛合頭部がファスナーテープ主体部側に向けられてファスナーテープの編成又は織成と同時に順次編込まれ又は織込まれてなる編織込み隠しスライドファスナーに関し、特に柔軟性を有するファスナーテープを使った隠しスライドファスナーであっても、そのエレメント噛合部が外部から見えることがなく、同時に前記ファスナーに加わる強い折曲げ力や突上力に対しても噛合割れの生じない編成又は織成によるエレメントの同時編織込み隠しスライドファスナーに関する。
【背景技術】
隠しスライドファスナーには、予め編成又は織成により作成されたファスナーテープの一側縁部に形成されたファスナーエレメント取付部に縫製や成形によりファスナーエレメントを取り付ける方式と、ファスナーテープの編成又は織成と同時に、そのファスナーエレメント取付部に合成樹脂製モノフィラメントからなる連続状ファスナーエレメント列を編込み又は織込んで固定する方式とがある。
例えば、編込み隠しスライドファスナーは、ファスナーエレメント取付部及びテープ主体部を有する経編テープの編成時に、スタンピング加工により予め噛合頭部が成形された合成樹脂製のモノフィラメントをファスナーエレメント取付部に上下脚部を引き揃えた状態で連続して緯挿入することにより、連続するエレメント列をファスナーテープに編み込んで製造される。
通常の編込みスライドファスナーであれば、各噛合頭部をファスナーエレメント取付部の外側端縁から外方に突出させ、上下脚部の間を連結する各連結部をテープ主体部との境界部に配するように連続状ファスナーエレメント列を編み込んでいるが、編込み隠しスライドファスナーの場合には、例えば特開平8−228813号公報に開示されているように、ファスナーエレメントの噛合頭部をテープ主体部とファスナーエレメント取付部との境界部である折曲げ領域に沿って配するとともに、連結部をファスナーエレメント取付部の外側端縁に沿って配して編み込まれる。
こうして編成により得られる隠しスライドファスナーのストリンガーは、ファスナーエレメント列が外部に露呈するように、前記折曲げ領域に沿って折り畳まれてセット加工がなされ、折曲げ形態が固定される。折曲げ形態が固定された左右のストリンガーのファスナーエレメントを噛合させて、ファスナーチェーンが作成され、このファスナーチェーンに隠しスライドファスナー用のスライダーが通されたのち、所要の長さに切断されるとともに上下に止具が装着されて最終製品である隠しスライドファスナーが製造される。この隠しスライドファスナーは、ファスナーエレメント列を内側にして衣服などに縫製されるため、外からはファスナーエレメント列を見えないようにする。
上記特開平8−228813号公報(特許文献1)の特に図24及び図25と、その対応する説明によれば、コイル状ファスナーエレメント列を形成するモノフィラメントを同一コース内で往復動させて、上脚部と下脚部とを上下に揃え、噛合頭部をファスナーエレメント取付部の内側縁寄りに、連結部をファスナーテープの外側縁寄りに配置させて緯入れして、上下脚部をダブル組織にて編成する3本の固定用鎖編糸10により押えて、ファスナーテープの編成と同時にファスナーエレメント取付部にコイル状ファスナーエレメント列を固定して取り付けている。
一方、織込み隠しスライドファスナーとしては、例えば実開平2−132419号公報(特許文献2)、特開平2−283306号公報(特許文献3)、特開平9−234103号公報(特許文献4)などに開示されており、いずれも織組織をもつファスナーテープの織成と同時に、予め噛合頭部を成形してある合成樹脂製のモノフィラメントを、ファスナーテープのファスナーエレメント取付部に連続して織り込んでいる。
ところで、上述のような編織込み隠しスライドファスナーには、ファスナーエレメントを縫工、加締め或いは成形によってファスナーテープのエレメント取付部に固着させる方式とは異なり、通常、ファスナーテープのエレメント取付部には芯紐を存在させていないことが多い。この芯紐は、ファスナーテープの編織成時に、エレメント取付部の側縁寄りを経方向に挿入されることにより編込まれ又は織込まれる。こうして編込まれ又は織込まれた芯紐をファスナーエレメントの上下脚部の間で挟圧して各エレメントをファスナーテープに強固に固定させるものであり、ファスナーテープからファスナーエレメントを外れないようにする。
編織込み隠しスライドファスナーにあって、ファスナーテープに芯紐を編込み又は織込もうとすると、例えば上記特許文献4にも開示されているとおり、同芯紐を編込み又は織込むための格別の機構が必要となり、編機や織機の構造をより複雑化させてしまう。また、この種の編織込み隠しスライドファスナーは、そもそもが外衣などの外観を崩さずファッション性を高めるために開発されたものであって、特に近年では、柔軟性に富んだ薄物衣料に多用されるようになってきている。この薄物衣料に編織込み隠しスライドファスナーを縫製するには、ファスナーテープ自体を薄手に且つ柔軟性に富んだものとすると同時に、ファスナーエレメント自体の上下脚部間の間隙をなくし、可能であれば上下脚部間を密着させることが、隠しスライドファスナーの全体が薄くなることから望ましい。しかるに、芯紐の存在は、これらの要求に反することになる。
しかも、芯紐を排除した場合には、ファスナーエレメントはエレメント取付部に配されるエレメント固定用(締付用)の経編糸又は経織糸によって固定されるだけであるため、既述したとおり、ファスナーエレメントの取付位置がファスナーテープ上で変動し、噛合頭部の位置がファスナーテープのテープ幅方向に変位しやすくなる。そのため、噛合頭部の整列位置が不揃いになりやすくなる。これは、スライドファスナーの閉鎖時に、噛合頭部同士の噛合状態を被着体の外側から見えないようにすることを使命とする隠しスライドファスナーにとっては致命的な欠陥となる。
一方、この種の隠しスライドファスナーを被着体に縫製するに際し、編込み隠しスライドファスナーにあっては、その左右ストリンガーの各ファスナーエレメント列の折曲げ部、すなわち各ファスナーエレメント列の噛合頭部側に隣接する2本のウェール間に形成される溝に沿って縫製され、織込み隠しスライドファスナーにあっては、その左右ストリンガーの各ファスナーエレメント列の折曲げ部、すなわち各ファスナーエレメント列の噛合頭部側に隣接する複数の経糸間に沿って被着体に縫製される。
このようにして左右のスライドファスナーのストリンガーが縫糸により縫製されて取り付けられた被着体にあって、スライドファスナーが閉鎖状態にあるとき、左右の被着体を離間方向に強く引っ張ると、縫糸のループも被着体とともに引っ張られ、縫製されたスライドファスナーの左右のストリンガーのウェール方向に伸びる溝を挟んで、又は縫製位置にある経糸間の緯糸で離間方向に、左右の縫糸のループ位置が変位して、左右の被着体及びストリンガー間に間隙が生じ、ファスナーエレメントの噛合頭部が外から見えてしまうことが多い。
本発明は、上述の課題を解決すべくなされたものであり、具体的な目的は、特にファスナーテープの編成又は織成時に同時に連続上ファスナーエレメントを編込み又は織込む方式の隠しスライドファスナーにあって、スライドファスナーの閉鎖時において被着体間からファスナーエレメント列の噛合部が外から見えない隠しスライドファスナーを提供することにあり、特に薄手で且つ柔軟性に富んだファスナーテープであっても、ファスナーエレメント列に対して所要の取付強度が確保できる隠しスライドファスナーとしての機能を十分に備えたを隠しスライドファスナーを提供することにある。
【発明の開示】
ところで、ファスナーテープ自体を薄手で且つ柔軟性に富んだものとするには、その構成糸条の材質にもよるが、概して構成糸条の太さや構造による影響、又はその編組織や織組織による影響、或いはファスナーテープの編目度や織密度による影響が大きい。しかも、これらを適正に選択したとしても、ファスナーエレメントの所要の取付強度が得られる保証はない。十分なファスナーエレメントの取付強度を得ようとすれば、編組織又は織組織からなるファスナーテープのファスナーエレメント取付部に編込まれ又は織込まれるエレメント固定用の経編糸又は経織糸(締付糸)によるファスナーエレメントに対する締付力を増加させる必要がある。
特に、本発明の対象となる編織込み隠しスライドファスナーにあって、薄手で且つ柔軟性に富み、同時にファスナーエレメントの取付強度を得ようとするには、そこに使われるエレメント固定用の経編糸又は経織糸として、許される範囲内においてある程度太くしなければならない。一般に、スライドファスナーを柔軟で且つ薄手にする理由は、既述したとおり、スライドファスナーを取り付ける被着体自体が柔軟で且つ薄手であるとき、その縫製時及び縫製後の被着体にスライドファスナーがよく馴染むことが必要なためである。そのため、スライドファスナーに求められる柔軟性は、特にファスナーテープにおけるテープ主体部に求められる。勿論、同時にファスナーエレメント取付部自体の柔軟性も柔軟であることが望ましいが、そこにはある程度の剛直性をもつファスナーエレメントが存在することと、それらのファスナーエレメント同士を簡単には外れないように噛合させる必要があることから、ファスナーエレメント取付部自体には許容される範囲の柔軟性を満足すれば足りるとせざるを得ない。
こうした一般的な要求とは別に、特に編織込み隠しスライドファスナーには、同スライドファスナーの被着製品を使用するとき、そのスライドファスナーの噛合部分が外側から見えないことが肝要である。ところが、スライドファスナーの全体を薄手で且つ柔軟性のあるものとせんがため、スライドファスナーの構成糸条の全てに細い糸を使うと、上述のごとく、ファスナーエレメントに対して所要の取付強度が確保しにくく、同時にファスナーテープに対するエレメントの取付位置、或いは被着体の横引時にファスナーテープの折曲位置が変動しやすくなり、左右の被着体及びファスナーテープの縫製部分が左右に拡開され、その間に隙間が生じてスライドファスナーの被着製品の使用時においてスライドファスナーの噛合部分が外側から見えやすくなる。
本発明者らは、こうした点に着目して更に検討を重ねた結果、必ずしも薄手で且つ柔軟性にこだわらずとも、芯紐が存在しない編織込み隠しスライドファスナーにあっては、特にファスナーエレメントの固定用経編糸又は経織糸によるファスナーエレメントに対する被覆度、固定用の経編糸又は経織糸の糸構造及び太さ、或いはファスナーテープのエレメント取付部とテープ主体部との境界のテープ折曲領域の編織組織及びその糸使いが、スライドファスナーの被着製品を使用するときにも、その噛合頭部部分を外側に露呈させないで済むことを知った。
本発明の基本構成は、ファスナーエレメントに対する上記固定用経編糸又は経織糸の被覆度に特徴を有している。すなわち、ファスナーエレメント取付部及びテープ主体部とを有する経編組織又は織組織よりなる編織ファスナーテープのファスナーエレメント取付部に、合成樹脂製モノフィラメントからなる連続状ファスナーエレメント列の各噛合頭部がファスナーテープ主体部側に向けられてファスナーテープの編成又は織成と同時に順次編込まれ又は織込まれてなる編織込み隠しスライドファスナーであって、前記ファスナーエレメント取付部に編込まれ又は織込まれると共に、前記連続状ファスナーエレメント列の各エレメントをファスナーエレメント取付部に固定する複数本の固定用糸条を備えてなり、前記ファスナーエレメント列の各固定用糸条により被覆された各エレメントの露呈部分が噛合頭部側であって、各噛合頭部の先端から連結部の内面まで距離を(a)とし、エレメントの固定用糸条により被覆された脚部方向の寸法(b)としたとき、(b/a)の値が1/2よりも大きく4/5以下であることを特徴としている。
このように、ファスナーエレメント列の各固定用糸条により被覆される各エレメントの露呈部分を、各噛合頭部の先端から連結部の内面まで距離を(a)とし、エレメントの固定用糸条により被覆された脚部方向の寸法(b)としたとき、(b/a)の値が1/2よりも大きく4/5以下に設定すると、隠しスライドファスナーの被着製品に横引力が加えられ、その左右の縫製部において、たとえ隙間が生じたとしても各固定用糸条により各エレメントの上脚部表面の大部分が被覆されているため、その先端のファスナーエレメントの噛合部分も、それらの固定用糸条により隠蔽され、外部に露呈することがない。
この種の編織込み隠しスライドファスナーの被着製品にあって、被着体に対する前記スライドファスナーの縫製部は、同スライドファスナーの折曲部でもあり、被着体の端縁部の表側表面にファスナーテープのエレメント取付側とは反対側の端縁部表面を重ねて、エレメント取付部の固定用糸条に最も近いテープ主体部の経編糸(ウェール)又は経織糸群と同経編糸又は経織糸群に隣接するテープ主体部の経編糸(ウェール)又は経織糸群との間の溝部又は緯織糸群にわたる部分である。
このときの固定用糸条は少なくとも2本以上であってファスナーエレメントの上下脚部の長さ方向に2箇所以上で固定することが望ましく、また固定用の糸条単位を2本引揃えの双糸により構成することもできる。このように、少なくとも2本以上の固定用糸条、同固定用糸条自体に双糸を使うことにより、ファスナーエレメントに対する固定用糸条による締付力が上下脚部の長手方向に広く分散できるため、その締付けがより安定化するとともに強固となる。なお、各固定用糸条により被覆される各エレメントの上脚部表面の露呈部分が、各噛合頭部先端から連結部先端までの1/5より少ないと、固定用糸条とスライダーとが干渉してスライダーの摺動操作を妨げやすくして、噛合頭部同士の円滑な噛合が妨げられるため好ましくない。
また本発明にあって、各エレメントの上脚部表面を被覆する2以上の固定用糸条のトータル太さが、ファスナーテープの他の構成糸条の1.5〜5倍の太さを備えていることが好ましい。既述したとおり、スライドファスナーの全体として求められる柔軟性はテープ主体部により決まり、ファスナーエレメントが取り付けられるエレメント取付部の柔軟性は、ファスナーエレメントの噛合強度を確保するため、ある程度は犠牲にされてもやむを得ない。前記固定用糸条をファスナーテープの他の構成糸条の1.5〜5倍にすれば、その締付けによる固定が確実となり、たとえ芯紐が存在しなくともエレメントずれがなくなる。その太さが、ファスナーテープの他の構成糸条の1.5倍より小さいと、ファスナーエレメントに対する上記被覆度が得られ難くなり、5倍を越えるとファスナーエレメントに対する被覆度は得られるものの、テープ主体部に対するファスナーエレメントを含めたテープ取付部の厚さが厚くなりすぎて、被着体とのバランスが失われるだけでなく、身体との接触部分が硬くなり違和感が生じる。
既述のとおり、この種の隠しスライドファスナーにとって、ファスナーテープのエレメント取付部とテープ主体部との境界部であるテープ折曲領域の編織組織及びその糸使いは、ファスナー被着製品におけるスライドファスナー取付部に取付けられたファスナーエレメント列の噛合部分を外側から見えなくするために重要な役割をもつ。本発明にあっては、前記ファスナーエレメント列の噛合頭部列に隣接するファスナー主体部の折曲部における1本以上の経糸がマルチフィラメントから構成され、その経糸の構成フィラメントの単繊維繊度が0.5〜1.5dTexに設定されることが好ましい。通常の隠しスライドファスナーの前記折曲部に使われる経糸の構成フィラメントの単繊維繊度は、経糸のトータル繊度を同じとすると、本発明の略4倍の繊度、すなわちその構成フィラメント本数が略1/4になり、相対的に極めて硬い糸条となっている。
本発明では、前述のような単繊維繊度とすることにより、極めて細く柔軟性に富む多数のフィラメントをもって隠しスライドファスナーの前記折曲部に使われる経糸としている。このような多フィラメントからなる経糸は、従来よりも柔軟であるから、これを前記折曲部の経糸とすると、同経糸により構成される折曲部の全体の嵩も大きくなって、たとえ隠しスライドファスナーの被着製品に横引力が加えられ、その左右の縫製部において、たとえ隙間が生じたとしても前記折曲部の左右経糸部分が離間せず、スライドファスナーの噛合頭部の部分を外から隠蔽する。
また、同時に前記ファスナーエレメントの噛合頭部列に隣接するファスナーテープ主体部の折曲部における前記経糸のトータル太さがファスナーテープの地組織を構成する他の糸条の太さよりも太く設定されていることが望ましい。この折曲部における前記経糸のトータル太さがファスナーテープの地組織を構成する他の糸条の太さよりも太く設定すれば、隠しスライドファスナーの被着製品における左右の縫製部に隙間が生じたときの前記折曲部の左右経糸部分の接触状態が維持され、スライドファスナーの噛合部分を外から確実に隠蔽する。
更に本発明にあっては、ファスナーテープのエレメント取付部と同取付部に隣接するテープ主体部とを構成する少なくとも一部の緯糸が、ファスナーテープの他の構成糸条よりも8〜20%高い乾熱収縮率を有していることが好ましい。このファスナーテープの一部の地組織を構成する緯糸は、エレメント取付部に配されるファスナーエレメントの上記固定用経糸を締付ける機能をも有している。例えば、編込み隠しスライドファスナーにあっては、テープ主体部の大部分を乾熱収縮率の小さな通常の糸条をもって緯糸を構成するが、本発明にあっては特にエレメント取付部と同取付部にかかるテープ主体部に配される緯挿入糸に、その単繊維繊度が1.5〜4.0dTexのマルチフィラメント糸であって、高乾熱収縮性の糸条を用いることが好ましい。また、織込み隠しスライドファスナーであれば、エメント取付部に限らず、ファスナーテープの全幅にわたって一部の緯糸に乾熱収縮率の大きな糸条を使う。このように構成することにより、乾熱加工時に前記乾熱収縮率の大きな緯糸(緯挿入糸)が少なくともエレメント取付部に配されたエレメントの固定用経糸を地組織に強く引付け、同エレメントを強固に締付けるようになる。
また、本発明にあっては、更にエレメントの固定用経糸及び緯糸を除くファスナーテープの他の全ての構成糸条が撚りの少ない多数のフィラメント糸条からなり、その各フィラメント糸条の単繊維繊度を0.5〜1.5dTexとする場合もある。かかる構成を採用すると、スライドファスナーのエレメント取付部を除くと、ファスナーテープの長手方向の可撓性及び柔軟性が確保される。更には、上記テープ主体部の構成糸条の一部である緯糸の各構成フィラメントの単繊維繊度も0.5〜1.5dTexとする場合がある。かかる構成により、ファスナーテープの長手方向に限らず幅方向の可撓性及び柔軟性が確保される。
前記ファスナーテープが経編組織からなり、上記固定用経糸を例えば鎖編糸、トリコット編糸、二目編糸の単独又はそれらの組合せて使われ、その最もテープ主体部側に配されるウェールを構成する経編糸のトータル太さが前記固定用経編糸を除く地組織の他の構成編糸よりも太く設定されていることが望ましい。通常、この種の隠しスライドファスナーは被着体に対して、前記固定用経糸の最もテープ主体部側に隣接して配されるウェールを構成する経編糸と同ウェールに隣接するテープ主体部のウェールとの間の緯糸により構成される溝に沿って縫製され、同時にその縫着線に沿って被着体と共に折り曲げられる。
こうして得られた隠しスライドファスナーは、その左右ストリンガーの噛合部分を、前記固定用経糸の最もテープ主体部側に隣接して配される左右のウェール同士が圧接した状態となって外側から隠蔽する。このとき、同ウェールが所要の大きさをもっていれば、左右の被着体を左右に引っ張ったとしても、前記左右のウェール同士が離間しにくくなり、外側から噛合部分が見えにくくする。上述のように、前記左右のウェールに使われる経編糸自体の太さを太くすれば、当然に同ウェールの大きさも大きくなり、エレメント噛合部分の隠蔽機能が効果的に発揮される。このときの前記左右のウェールに使われる経編糸の太さは、同ウェールに配されるニードルループを構成する編糸全体の太さをいう。
前記固定用経編糸に最も隣接してテープ主体部に編成されるウェールを構成する編糸が2種類以上の経編糸と同ウェールにおいてコース方向に左右に折り返す緯挿入された2種類の緯挿入糸からなり、少なくとも同左右方向の緯挿入糸が同ウェールの他の構成編糸よりも8〜20%の高い乾熱収縮率を有していることが望ましい。このウェールと同ウェールに隣接するテープ主体部のウェールとの間に形成される溝部分が、被着体に縫糸をもって縫製される縫製部分である。
従って、この隠しスライドファスナーと被着体とが縫製されて折り曲げられたとき、前記固定用経編糸に最も隣接してテープ主体部に編成される左右の前記ウェールは互いに密接した状態となる部分である。このウェールに、前述のごとく2種類以上の経編糸と同ウェールにおいてコース方向に左右に折り返す2種類の緯挿入糸を使えば、同ウェールが大きくなりエレメント噛合時にエレメントが外から見えにくくなる。しかも、同ウェールを構成する左右方向の緯挿入糸として、他の構成編糸よりも8〜20%の高い乾熱収縮率を有する糸条を使うため、乾熱セット時に同緯挿入糸が同ウェールを構成する経編糸のニードルループを左右から引き締めるため、隣接するテープ主体部のウェールとの間に形成される溝形態が明確になり、縫製時の縫製作業を容易にする。
また、本発明にあっては前記固定用経編糸が鎖編糸により構成され、そのニードルループがファスナーエレメントの上脚部上面を跨ぎ、そのシンカーループが地組織に連結されていることが好ましい。このため、ファスナーエレメントに対する締付力が強くなるだけでなく、ファスナーエレメントに対する被覆度を増加させることになり、エレメントの取付強度の増加とともに外からより見えにくくする。
更に、固定用経編糸に最も隣接してテープ主体部に編成される前記ウェールを構成する編糸に鎖編糸とトリコット編糸又は二目編糸の2種類を同時に使うようにすることが望ましい。トリコット編糸及び二目編糸は、ウェールを形成すると同時にウェール間を連結する機能をも有しているため、編物形態を安定化させるとともに、ファスナーエレメントの固定機能をも有している。従って、これらの編糸を鎖編糸と併用させることにより、ファスナーエレメントに対する締付力が強くなるだけでなく、ファスナーエレメントの上脚部に対する被覆度を増加させるだけではなく、隣接するウェール間の溝形態をも安定して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の編込み隠しスライドファスナーの代表的な実施例を示す編組織図である。
図2は、同隠しスライドファスナーにおいて用いられる各編糸の組織図である。
図3は、同隠しスライドファスナーにおけるファスナーエレメント列の取付状態とファスナーテープの折曲形態とを模式的に示す要部斜視図である。
図4は、同ファスナーエレメントの取付状態を示す要部の横断面図である。
図5は、本発明の織込み隠しスライドファスナーの代表的な実施例を模式的に示す要部の斜視図である。
図6は、同隠しスライドファスナーにおけるファスナーエレメント列の取付状態とファスナーテープの折曲形態とを模式的に示す要部斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の代表的な実施形態を図示実施例に基いて具体的に説明する。
図1は本発明の編込み隠しスライドファスナーにおける代表的な実施例の編み組織図を示しており、図2は同実施例に使用する編糸単位の組織図、図3及び図4は連続状ファスナーエレメント列の取付状態とテープの折曲形態及び被着体に対する縫製位置とを示したものである。
本発明の編込み隠しスライドファスナーは、1列の針床をもつ、例えばラッセル編機などの経編機によって編成されるもので、図2に示すごとく、そのテープ主体部Aの地組織は、1−0/0−1の鎖編糸1と、1−2/1−0のトリコット編糸2と、ファスナーテープ4の3ウェールWにまたがってジグザグ状に挿入される0−0/3−3の緯挿入糸3とから構成される。そして、左右一対のファスナーテープ4,4’の長手側縁部の3列のウェールW〜Wからなるエレメント取付部Bは、1−2/1−0のトリコット編糸が排除されて、1−0/0−1の鎖編糸11と、ファスナーテープ4の3ウェールW〜W及びウェールWに隣接するテープ主体部Aの2列のウェールW,Wに跨がってジグザグ状に挿入される0−0/3−3の緯挿入糸12と、テープ主体部Aには存在しない同緯挿入糸12と交差するように同じくファスナーテープ4の2ウェールW,WとW,Wとに跨がってそれぞれジグザグ状に挿入される2−2/0−0の逆緯挿入糸13とから構成される。
なお、これらの編組織は図1〜図3に示す組織に限定されるものではなく、例えばファスナーテープ4のエレメント取付部BのウェールW及びWを構成する固定用鎖編糸11のニードルループに、図2に示すような0−0/1−1の組織からなる経挿入糸をジグザグ状に経方向に編み込んだり、0−2/2−0の二目編糸を編み込むこともでき、或いは上記緯挿入糸3及び12の編組織を0−0/4−4とするとともに、上記逆緯挿入糸13の編組織を3−3/0−0としてもよいし、或いはエレメント取付部Bの緯挿入糸12及び逆挿入糸の編組織を図1に示す0−0/3−3及び2−2/0−0として、テープ主体部Aの緯挿入糸を0−0/4−4とするなど、適宜変更することが可能である。
一方、コイル状ファスナーエレメント列ERを構成する噛合頭部Ehと隣接する上下脚部El,El同士を連結する連結部Ecとを予め賦形したナイロン、ポリエステル等からなる合成樹脂製モノフィラメント5が、上記エレメント取付部Bにおいて最も外側に配されるウェールWに隣接する2ウェールW,Wに跨がって、前記噛合頭部Ehをテープ主体部Aに向けるとともに連結部Ecをエレメント取付部Bの外側に向けて、1コースCを飛ばしながら同一コース内を横方向に往復動して走行し、図1、図3及び図4に示すごとく各ファスナーエレメントEの上下脚部El,Elを、エレメント取付部Bの地組織を構成する前記2ウェールW,Wにおいて1−0/0−1の2本の固定用鎖編糸11,11のニードルループにより押え付けるように編成し、ファスナーテープの編成と同時にファスナーエレメント列ERとして連続して編み込んでいる。
かかる編組織を備えた本実施例によるストリンガーSは、図3に示す折曲線Lに沿ってファスナーエレメント列ERを外側にしてファスナーテープ4がU字状に折り曲げられて熱セットされる。すなわち、本実施例にあって、上記エレメント取付部Bの最もテープ主体部側のエレメント固定用のウェールWに隣接するテープ主体部AのウェールWに沿って折曲げられて折曲部Dを構成し、同ウェールWに隣接するテープ主体部AのウェールWとの間に形成される溝Cに沿って被着体に縫糸をもって縫製される。なお、図3において各編糸1〜3と11〜14とを同一太さで且つ単一の糸条として示しており、またニードルループなどの編目をゆるめた状態で示している。実際には、それぞれの編成糸は編込みスライドファスナーとしての機能を考慮して、その太さや構成本数は適宜選定され、編目も緻密に締まったものとなっている。
そして本実施例によれば、エレメント取付部Bに配される2ウェールW,Wの固定用鎖編糸11,11をファスナーテープ4を構成する他の全ての編糸1〜3,12,13よりも太くしている。この固定用鎖編糸11,11としてはマルチフィラメント糸であるか撚糸であるかを問わない。因みに、本実施例にあっては1本の固定用鎖編糸11に2本のマルチフィラメントからなる撚糸を引き揃えて使っており、その各マルチフィラメント糸の太さは165dTexとされ、1本の固定用鎖編糸11のトータル太さを165×2(330)dTexに設定している。本実施例における固定用鎖編糸11のトータルフィラメント数は72本であり、その構成フィラメントの単繊維繊度は従来と変わるところがない。
このような固定用鎖編糸11を使うことにより、ファスナーエレメントEに対する所要の取付強度を確保することができるばかりでなく、固定用鎖編糸11のニードルループによってファスナーエレメントEの上脚部Elを跨いで強く締付けることにより、同固定用鎖編糸11が偏平化して上脚部Elの上面を長手方向に拡がり、同上脚部Elの大部分を被覆する。このときの被覆度は、固定用鎖編糸11,11により被覆したときのファスナーエレメントEの表面が外部に露呈する部分を、前記ファスナーエレメント列ERの各固定用鎖編糸11,11により被覆された各エレメントEの露呈部分が噛合頭部側であって、各噛合頭部Ehの先端から連結部Ecの内面までの距離を(a)とし、ファスナーエレメントEの固定用鎖編糸11,11により被覆された脚部E方向の寸法距離を(b)としたとき、(b/a)の値が1/2よりも大きく4/5以下であることが必要である。
(b/a)の値が1/2よりも小さいと、被着体に取り付けたスライドファスナーがファスナーテープ4に沿ってエレメントの噛合が外れる方向に通常の力で引っ張られても、その隙間からエレメントの噛合部分が外部から見えやすくなる。また、(b/a)の値が4/5を越えると、各固定用鎖編糸11,11が噛合頭部Ehの一部を被覆してしまって、スライダーの円滑な摺動操作を妨げるようになる。
一方、本実施例におけるテープ主体部Aを構成する大部分(ウェールW,W,…,Wn−1)の編糸(鎖編糸1、トリコット編糸2)には、同一太さの単一のマルチフィラメント糸が使われており、それぞれの太さを84dTexとしており、ファスナーテープ4の構成糸条としては最も細いものを使用している。これらの地組織の大部分を構成する鎖編糸1及びトリコット編糸2の構成する各マルチフィラメント糸の各フィラメント単位の単繊維繊度を0.5〜1.5dTexと極めて細く設定されている。因みに、ここで使われる1本のマルチフィラメント糸の構成フィラメント数は72本である。一方、地組織を構成する緯挿入糸3にはマルチフィラメントからなる嵩高加工糸が使われており、その太さは110dTexと前記鎖編糸1及びトリコット編糸2と比較すると僅かに太く設定され、その構成フィラメント数は48本と、他の編糸の構成フィラメント本数よりも少なく、各フィラメントの単繊維繊度を大きくしている。なお、エレメント取付部Bの最も外側に配されるウェールWを構成する鎖編糸もテープ主体部Aの鎖編糸1と同じ種類の編糸が使われており、またテープ主体部Aの最も外側に配されるウェールWを構成する鎖編糸については、その端縁の耳形態と強度を保持すべく上記固定用鎖編糸11と同じ種類の編糸が使われている。
しかして、このテープ主体部Aを構成する大部分の領域に形成されるウェールは、鎖編糸1及びトリコット編糸2と緯挿入糸3により構成されるため、各ウェールを構成するトータル糸条の太さは84×2+110(=278)dTexとなる。因みに、こうして形成される各ウェール間の溝は緯挿入糸3の繊度に依存するため、略110dTexの厚みとなる。こうして得られるテープ主体部Bは、全ての構成編糸が単繊維繊度が従来の1/4程度小さい多数のフィラメントから構成され、特にその緯挿入糸3が嵩高な加工糸であるため、極めて柔軟性とソフト感に優れたものとなる。
ところで、本実施例にあって上記固定用鎖編糸11に加えて、最も特徴とする部分は、上記エレメント取付部Bの最もテープ主体部側のエレメント固定用のウェールWに隣接するテープ主体部AのウェールWと、同ウェールWに隣接するテープ主体部AのウェールWとの間に形成される溝構造である。エレメント取付部Bの最もテープ主体部側に配されるエレメント固定用の前記ウェールWに隣接するテープ主体部AのウェールWは、ファスナーテープ4が図3に示す折曲線Lに沿って折曲げられたとき、図4に示すように、左右のストリンガーSの前記ウェールW同士が突き合わせ状態で密接する。この左右のウェールW,W同士が離間すると、その間の背面側に存在するファスナーエレメントEの噛合部分が外部から見えやすくなる。
そこで本実施例では、特に前記ウェールWのテープ刺通方向の厚みを大きくして、仮に隠しスライドファスナーに対して左右のエレメント列ERの噛合を外すような強い力が加わったとしても、前記ウェールW同士の密接状態を維持するようにしている。そのため、本実施例では同ウェールWを形成する編糸に太い糸条を使うとともに、そのウェール幅を狭くすべく左右から締付ける編構造を採用している。
すなわち、本実施例では前記ウェールWは、1−0/0−1の鎖編糸1’と、テープ主体部Aの地組織を構成する上記1−2/1−0のトリコット編糸2と、上記0−0/3−3の緯挿入糸12と、同緯挿入糸12と交差して緯挿入される2−2/0−0の逆緯挿入糸13との4種類により構成される。因みに、本実施例における前記鎖編糸1’は太さが84dTexである2本のマルチフィラメント糸からなり、そのトータル太さは84×2(168)dTexであって、そのトータルフィラメント数は144本である。これを従来の同一太さをもつマルチフィラメント糸(168dTex、36フィラメント)と比較すると、その構成フィラメントの単繊維繊度は従来の1/4と極めて細いフィラメントであることが理解できる。このように、同一太さの鎖編糸1’として、細繊度のフィラメントからなるマルチフィラメント糸を使うことにより、エレメント取付部Bと隣接するテープ主体部Aとの境界部における剛直性を小さくすることができ、柔軟性が確保される。
一方、上記0−0/3−3の緯挿入糸12及び同緯挿入糸12と交差して緯挿入される2−2/0−0の逆緯挿入糸13は、それぞれが165dTexの太さを有し、乾熱収縮率が8〜20%である高収縮性の糸条が使われる。なお、これらの緯挿入糸12,13には通常の単繊維繊度を有するフィラメントを使ったマルチフィラメント糸又は通常の撚糸などを使うことができる。なお、上記1−2/1−0のトリコット編糸2には他のテープ主体部に使われる上記トリコット編糸2と同種の編糸が使われる。
また、本実施例にあっては上記ウェールWに隣接するテープ主体部AのウェールWについても、他のテープ主体部Aを構成する地組織の編糸(鎖編糸1、トリコット編糸2及び緯挿入糸3)と一部を異なる編糸が使われる。すなわち、このウェールWの鎖編糸1”には48本のフィラメントからなる110dTexの太さをもつマルチフィメント糸が使われる。このマルチフィラメント糸としての太さ及び構成フィラメントの単繊維繊度は、テープ主体部Aの他の鎖編糸1よりも太いが、上記固定用鎖編糸11よりも細く、またエレメント取付部Bに隣接する上記ウェールWの鎖編糸1’よりも細い。このウェールWの他の構成編糸(トリコット編糸2及び緯挿入糸3)は前記ウェールWの対応する編糸に等しい。
さて、以上の構成を備えた本実施例に係る編込み隠しスライドファスナーによれば、ファスナーテープ4の全体にマルチフィラメント糸が使われており、特にエレメント取付部B及び一部の緯挿入糸12,13を除くファスナーテープ4の全体が、0.5〜1.5dTexという極めて細い単繊維繊度からなるマルチフィラメント糸を使っているため、全体が柔軟性に富み、同時にソフト感に優れたスライドファスナーが得られる。
しかも、エレメント取付部Aにあってはエレメント固定用鎖編糸11に太いマルチフィラメントを使うとともに、乾熱収縮率の大きな緯挿入糸12及び逆緯挿入糸13が使われ、たとえ芯紐を排除しても各ファスナーエレメントEの上下脚部El,Elを強力に締付固定することができるとともに、乾熱セットにより大きく収縮する緯挿入糸12及び逆緯挿入糸13により、前記エレメント固定用鎖編糸11をファスナーエレメントEの上下脚部El,Elの連結部Ec側へと引締めると同時に、マルチフィラメントからなる同エレメント固定用鎖編糸11を偏平化して上脚部Elの上面を大きく被覆させるため、被着体に縫製したのちに左右のストリンガーSに仮に強力な横引き力が働いて、ファスナーエレメント列ERの噛合部分が外部に露呈するようなことがあっても、エレメントEを外部から直接見えにくくして、隠しスライドファスナーとしての機能を十分に確保する。
また、特に本実施例にあっては、エレメント取付部Bのテープ主体部側のエレメント固定用のウェールWに隣接するテープ主体部AのウェールWと同ウェールWに隣接するテープ主体部AのウェールWの構成編糸、特にその鎖編糸1’,1”にテープ主体部Aの他の鎖編糸1よりも太いマルチフィラメント糸を使うとともに、同ウェールW及びWにて折り返すエレメント取付部B側の緯挿入糸として、上記エレメント固定用鎖編糸11に挿入される乾熱収縮性に優れた緯挿入糸12及び逆緯挿入糸13を併用するため、乾熱セット時に緯挿入糸12及び逆緯挿入糸13が大きく収縮し、両ウェールW,Wをエレメント取付部B側へと引き寄せる。特に、ウェールWの断面を大きく且つその厚みを厚くしているため、たとえばこの隠しスライドファスナーを縫製した被着製品のスライドファスナー被着部に連続状エレメント列ERの噛合を外すような強い横引き力が加わっても、ファスナーテープ4の折曲部Dにおいて密接する左右の前記ウェールW,Wが離間することはなく、外部からもエレメントEの噛合部分が見えにくくする。
また、上記ウェールWと同ウェールWに隣接するテープ主体部AのウェールWの断面形状をテープ主体部Aの他のウェールよりも大きく形成すると同時に、それらのウェールW,Wを緯挿入糸12及び逆緯挿入糸13をもって引き締めているため、各ウェールW,Wの厚みが他の地組織を構成するウェールよりも厚くなり、前記横引き力が加わったときに、縫製部の縫糸のループが同ウェールWに引っ掛かり、それ以上は移動せず、ファスナーテープ4の折曲部Dがそれ以上拡開することがなく、外部から連続エレメント列ERをより見えにくくする。また、上記ウェールW,W間に形成される溝形態も明確に表出するようになり、被着体に対する縫製作業が容易となる。このときの溝幅は、1〜1.5mm程度であることが被着体との間の縫製開きを生じさせないため好ましい。
図5及び図6は、本発明の他の代表的な実施例を示す織込み隠しスライドファスナーの連続状ファスナーエレメント列の織込構造例とその隠しスライドファスナーの折曲形態とを示している。
図示織込み隠しスライドファスナーにあって、エレメント取付部Bに配される経糸群は、各ファスナーエレメントEの上脚部Elの上面と隣接する下脚部Elの下面を交互に走り隣接するエレメントEの間で交差するエレメント固定用経糸21〜26群と、エレメントEの間で交差する一対のエレメント締付用経糸21,22;23,24;25,26の間に配され、前記エレメント列ERの各ファスナーエレメントEの上脚部Elの上面上と下脚部Elの下面上を、上下で交差させることなく、直線状に走り、各エレメントE間に緯入れされる2本1組の緯糸40によりエレメントEの上下脚部El,Elを上下から固定する4対組8本の上下エレメント固定用経糸27〜34群とにより構成される。
前記ファスナーエレメント列ERは、上述の実施例である編込み隠しスライドファスナーと同様に、予め噛合頭部Eh及び連結部Ecを賦形した合成樹脂製のモノフィラメントが、その噛合頭部Ehをテープ主体部Aに向け、連結部Ecをエレメント取付部Bの外縁に配し、上下脚部El,Elを上下に平行にして、ファスナーテープ4の織成と同時に順次織り込まれることにより、ファスナーテープ4のエレメント取付部Bに取り付けられる。本実施例にあっては、上記2本1組の緯糸40が2度の緯入れされたのちに、前記ファスナーエレメント列ERの各ファスナーエレメントEが緯入れされる。
本実施例におけるテープ主体部Aは、図1に符号35−1で示す経糸からエレメント取付部Bとは反対側のテープ側縁端に形成される隣接する緯糸40同士のループ端交絡耳部41に隣接する経糸35−Nまでの多数の経糸群と前記緯糸40とが順次交差する平織組織により構成される。なお、図5及び図6において、織物構造が明瞭となるようにファスナーテープ織製用の各経糸21〜35−Nの間、緯糸40間及び各ファスナーエレメントE間の間隔を大きく示しているが、実際には経糸21〜35−N及び隣接する緯糸40間の間隔はもっと緻密であり、各ファスナーエレメントE間のピッチももっと近い。また、以上の構成を備えた織込み隠しスライドファスナーは、例えば上記特許文献4に開示された製織法により製造することができる。
上述構成を備えたファスナーストリンガーSは、図6に示すように、上記エレメント列ERの最も噛合頭部Eh寄りに配され、各エレメントEの下脚部Elの下面上を走るエレメント固定用経糸32に隣接するテープ主体部Aの2本の経糸35−1及び35−2に沿って、ファスナーエレメント列ERを外側にしてファスナーテープ4が折曲げられ、乾熱セットによりその折曲形態が固定される。こうして得られる織込み隠しスライドファスナーにあって、左右一対のファスナーストリンガーSの対向側縁に沿って配された噛合頭部Eh同士を噛合させると、エレメント列ERの最も噛合頭部Eh寄りに配されたエレメント固定用経糸333,34に隣接するテープ主体部Aの各2本の経糸35−1,35−2の部分(折曲部D)が互いに密接し合い、外側からエレメント噛合部分を隠して見えないようにする。
この織込み隠しスライドファスナーにあっても、ファスナーエレメント列ERの所要の取付強度を確保するとともに、縫製により被着体に取り付けられたとき、仮に被着体を介して左右のストリンガーSに横引力が加えられても、ファスナーエレメント列ERの噛合部分が外側から見えないようにするため、上記エレメント取付部Bの固定用及び締付用の経糸21〜32、同取付部Bに隣接する折曲部Dに配されるテープ主体部Aの経糸35−1,35−2、及び上記緯糸40の各糸使いを中心に説明する。
本実施例にあっても、その基本的な技術的着想は図1〜図4に示した上記実施例と同様である。すなわち、上記エレメント取付部Bの固定用及び締付用の経糸21〜32、特に締付用経糸21〜26にファスナーテープ4を構成する他の糸条よりも太い糸条を使うとともに、同糸条には通常よりも細いフィラメント繊度をもつ多数のフィラメントからなるマルチフィラメントを使うことが好ましい。このような太いマルチフィラメントを使うことにより、各エレメントEを固定及び締付ける固定用及び締付用の経糸21〜34は各エレメントE上で偏平化し、上脚部Elの上面を広く被覆するようになり、同時に上下の脚部El,Elを互いに密着させることができ、芯紐が存在しなくとも、各エレメントEがテープ幅方向にずれることなく、ファスナーエレメント列ERをエレメント取付部Bに強固に取り付けることができる。
また、エレメント取付部Bに隣接するテープ主体部Aの折曲部Dに配される上記経糸35−1,35−2にもマルチフィラメント糸が使われる。これらの経糸35−1,35−2の太さは、上記各固定用及び締付用の経糸21〜34の太さよりも細いが、他の地組織を構成する経糸35−3〜35−Nと比較すると太く設定される。しかも、これらの折曲部Dに配される経糸35−1,35−2を構成する各フィラメントとその他の地組織を構成する経糸35−3〜35−Nの経糸の単繊維繊度に、上記実施例と同様に、0.5〜1.5dTexの範囲に入る極めて細いフィラメントが使われる。ここで、経糸密度を小さくすれば、各経糸35−1,35−2は緯糸40により締付けられるため、偏平化せずにテープ刺通方向の厚みが増し、左右のストリンガーSのファスナーエレメントEを噛合させたとき、同折曲部Dにおける左右の経糸35−1,35−2同士が強く密接状態となり、仮に被着体を介して左右のストリンガーSに横引力が加えられても、前記経糸35−1,35−2同士は離間することが少なくなり、ファスナーエレメント列ERの噛合部分が外側から見えることがなくなる。
これらの機能を更に確実にするには、上記緯糸40の少なくとも一部に乾熱収縮率の高い糸条を採用して、乾熱セット時の大きな収縮を利用して上記締付用経糸21〜26を密接する方向に絞るとともに固定用経糸27〜34を上下に配し、更には折曲部Dに配される経糸35−1,35−2をも互いに絞りあうようにするため好ましい。しかし、その製法上、テープ幅方向で緯糸の種類を切り換えることは難しいため、例えば緯糸40に乾熱収縮性の高い糸条を使って、テープ幅方向に収縮させるようにしてもよいが、テープ長さ方向で乾熱収縮率の高い緯糸と乾熱収縮率の低い緯糸とを分散して使うようにしてもよい。このように異なる収縮率の緯糸を使う場合には、乾熱収縮率の低い糸条として、例えばウーリー加工を施した伸縮糸を使えば、乾熱収縮率の低い糸条であっても、乾熱収縮率の高い糸条の熱収縮挙動によく追随することができ、しかも全体として柔軟性とソフト感に優れたスライドファスナーが得られる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ主体部(A)とファスナーエレメント取付部(B)とを有する経編組織又は織組織よりなる編織ファスナーテープ(4)のファスナーエレメント取付部(B)に、合成樹脂製モノフィラメントからなる連続状ファスナーエレメント列(ER)の各噛合頭部(Eh)がファスナーテープ主体部(A)側に向けられてファスナーテープ(4)の編成又は織成と同時に順次編込まれ又は織込まれてなる編織込み隠しスライドファスナーであって、
前記ファスナーエレメント取付部(B)に編込まれ又は織込まれると共に、前記連続状ファスナーエレメント列(ER)の各エレメント(E)をファスナーエレメント取付部(B)に固定する複数本の固定用糸条(11,21〜34)を備えてなり、
前記ファスナーエレメント列(ER)の各固定用糸条(11,21〜34)により被覆された各エレメント(E)の露呈部分が噛合頭部側であって、各噛合頭部(Eh)の先端から連結部(Ec)の内面までの距離を(a)とし、各エレメント(E)の固定用糸条(11,21〜34)により被覆されている脚部方向の寸法を(b)としたとき、(b/a)の値が1/2よりも大きく4/5以下であることを特徴とする編織込み隠しスライドファスナー。
【請求項2】
各エレメント(E)の上脚部表面を被覆する複数の各固定用糸条(11,21〜34)のトータル太さが、ファスナーテープの他の構成糸条(1〜3,35−1〜35−N)の1.5〜5倍の太さを備えてなることを特徴とする請求の範囲1項記載の編織込み隠しスライドファスナー。
【請求項3】
前記ファスナーエレメント列(ER)の噛合頭部列に隣接するファスナー主体部(A)の折曲部(D)における1本以上の経糸(1’,1”,35−1,35−2)がマルチフィラメントから構成され、その経糸(1’,1”,35−1,35−2)の構成フィラメントの単繊維繊度が0.5〜1.5dTexに設定されてなる請求の範囲1項記載の編織込み隠しスライドファスナー。
【請求項4】
前記ファスナーエレメント列(ER)の噛合頭部列に隣接するファスナーテープ主体部の折曲部(D)における前記各経糸(1’,1”,35−1,35−2)のトータル太さがファスナーテープの地組織を構成する他の経編糸(1,2)又は経織糸(35−1〜35−N)の太さよりも太く設定されてなる請求の範囲3項記載の編織込み隠しスライドファスナー。
【請求項5】
前記折曲部(D)における前記経糸(1’,1”,35−1,35−2)の単位糸条が2本以上の引揃え糸条から構成されてなる請求の範囲4項記載の編織込み隠しスライドファスナー。
【請求項6】
ファスナーテープ(4)のエレメント取付部(B)と同取付部(B)に隣接するテープ主体部(A)とを構成する少なくとも一部の緯糸(12,13,40)が、ファスナーテープの他の構成糸条(1,2,11,21〜35−N)よりも8〜20%高い乾熱収縮率を有してなる請求の範囲1〜5項のいずれかに記載の編織込み隠しスライドファスナー。
【請求項7】
上記固定用経糸(11,21〜34)及び緯糸(3,12,13,40)を除くファスナーテープ(4)の他の全ての構成糸条(1,1’,1”,2,35−1〜35−N)が多数のフィラメント糸からなり、その各構成フィラメントの単繊維繊度が0.5〜1.5dTexである請求の範囲4項記載の編織込み隠しスライドファスナー。
【請求項8】
上記テープ主体部(A)の構成糸条の一部である緯糸(3,40)の各構成フィラメントの単繊維繊度が1.5〜4.0dTexである請求の範囲7項記載の編織込み隠しスライドファスナー。
【請求項9】
前記ファスナーテープ(4)が経編組織からなり、上記固定用経糸が経編糸(11)からなり、その最もテープ主体部(A)側に配されるウェールに隣接する経編糸(1’)のトータル太さが前記固定用経編糸(11)を除く他の地組織の構成編糸(1,1”)よりも太く設定されてなる請求の範囲1〜3項のいずれかに記載の編織込み隠しスライドファスナー。
【請求項10】
前記固定用経編糸(11)に最も隣接してテープ主体部(A)に編成されるウェール(W)を構成する編糸が2種類以上の経編糸と、同ウェール(W)においてコース方向に左右に折り返す緯挿入された2種類の緯挿入糸(12,13)からなり、少なくとも同左右方向の緯挿入糸(12,13)が同ウェール(W)の他の構成編糸よりも8〜20%の高い乾熱収縮率を有してなる請求の範囲9項記載の編織込み隠しスライドファスナー。
【請求項11】
前記固定用経編糸(11)が鎖編糸により構成され、そのニードルループがファスナーエレメントの上脚部上面を跨ぎ、そのシンカーループが地組織に連結されてなる請求の範囲8又は9項記載の編織込み隠しスライドファスナー。
【請求項12】
前記固定用経編糸(11)に最も隣接してテープ主体部(A)に編成される前記ウェール(W)を構成する編糸が鎖編糸(1’)とトリコット編糸又は二目編糸とから構成されてなる請求の範囲10又は11項記載の編織込み隠しスライドファスナー。

【国際公開番号】WO2004/107902
【国際公開日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−500524(P2005−500524)
【国際出願番号】PCT/JP2003/006954
【国際出願日】平成15年6月2日(2003.6.2)
【出願人】(000006828)YKK株式会社 (263)
【Fターム(参考)】