説明

縫合針計数方法および縫合針計数装置

【課題】持針器による把持を解除するときの縫合針の取り扱いの困難さを克服しながら、確実な縫合針計数を行えるようにする。
【解決手段】使用済みの手術用縫合針を計数する縫合針計数方法であって、縫合針を把持した持針器を、所定の計数領域内を通過させたときに計数し、把持解除して縫合針を収納容器内に落下させ、前記持針器を前記計数領域内から退去させるようにする。縫合針を計数対象とせず、それを把持した持針器を計数する。縫合針は計数後に把持解除するだけでよいので、取り扱いが簡単であるし確実に計数できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済みの手術用縫合針を計数する縫合針計数方法、および、縫合針計数装置に関する。
【背景技術】
【0002】
縫合針が使用される外科手術において、患者の体内への縫合針の置き忘れを防ぐために、使用済みの縫合針の本数を数えることが行われている。特許文献1では、スポンジやコルク等にて形成された針刺固定体を土台に対して斜めに取り付けた手術用縫合針カウンターが開示されている。特許文献1の手術用縫合針カウンターを使用する際には、縫合針を把持した持針器を縫合針の湾曲に合わせて回転させることにより、縫合針の先端が針刺固定体に差し込まれて縫合針が針刺固定体に固定される。手術用縫合針カウンターでは、土台上面の針刺固定体近傍に縫合針の計数に利用される番号が印刷されている。手術用縫合針カウンターに固定された縫合針の計数が終了すると、針刺固定体は土台から取り外されて廃棄用容器内に収容されて廃棄される。
【0003】
特許文献2では、スポンジにて形成された複数の円柱状または五角形以上の角柱状のカウンター本体が、セパレート材の剥離面上に剥離可能に接着された縫合針カウンターが開示されている。縫合針カウンターが使用される際には、カウンター本体がセパレート材から剥離され、未使用の縫合針が収容されているパッケージに貼り付けられる。カウンター本体の上面には縫合針の計数に利用される番号が印刷されており、使用済みの縫合針は、カウンター本体の側面の当該番号に対応する位置に順番に刺されてカウンター本体に固定される。
【0004】
特許文献3では、二つ折りにされた上下のプラスチックシートからなり、下方シートの内表面の一部に第一接着テープが設けられ、上方シートの一辺の縁部に第二接着テープが設けられている。第一接着テープの上又は下に所定の間隔を置いて平行に複数のゴムマグネット片が設けられ、ゴムマグネット片の接着された下方シート上に剥離紙が設けられている。穿刺後の手術用針は、下方シートに設けられた両面接着テープやゴムマグネット片に付着させるようになっている。
【0005】
特許文献4では、使用済みの手術用縫合針を収容する縫合針ケースが開示されている。縫合針ケースは、ケース底部有するケース本体と、ケース本体の上部開口を閉塞する蓋部と、を備えている。ケース底部および蓋部の少なくとも一部が、内部に収容された手術用縫合針を計数するための透光性を有する透光部となっている。縫合針の計数は、透光性を有する透光部となっている部位を介して視認により行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−224603公報
【特許文献2】特開2005−334123公報
【特許文献3】特開2002−238910公報
【特許文献4】特開2010−154988公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した何れの先行技術も、持針器の把持解除により解放された縫合針そのものを計数しようとするものである。しかし、縫合針の計数に際してもっとも問題となるのは、持針器の把持を解除するときの縫合針の取り扱いの困難さである。すなわち、使用済みの縫合針や持針器の把持部には、血液や薬品などが付着している。特に血液は粘性があるため、解除したつもりの縫合針が把持部に付着したままになってしまうことが少なくない。各先行技術が示すようにスポンジやコルク等に突き刺したり、粘着テープに貼りつけたり、また、容器内に置いたりしようとしても、持針器に縫合針が付着していると突き刺した縫合針が抜けてしまったり貼りつけた縫合針が剥がれてしまったり、さらに、置いたつもりの縫合針が容器外へ飛び出してしまったりする等の問題が生じる。縫合針の抜けや剥がれ、さらには飛び出し等を防ぐためには、持針器を握る手と反対の手で縫合針を押えてから把持解除を行う方向が考えられる。しかし、およそ外科手術なるもの、短時間のうちにたくさんの事を迅速に行わなくてはならない中で、たとえ短時間とはいえ縫合針計数のために両手を使う余裕はない。本発明が解決しようとする課題は、上述した持針器による把持を解除するときの縫合針の取り扱いの困難さを克服しながら、確実な縫合針計数を行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために発明者は、縫合針計数のための計数対象を縫合針とする従来の考え方から発想の転換を行い、縫合針ではなく縫合針を把持した持針器を計数するという考えに至った。計数後の縫合針は持針器の把持を解除することにより、単純に落下させるようにすれば、上述したような問題が発生しないからである。本発明は、このような発想の転換に端を発している。その詳しい内容については、項を改めて説明する。なお、いずれかの請求項記載の発明の構成を説明するに当たり行う用語の定義等は、発明のカテゴリーの違いや記載順に関わらず、他の請求項記載の発明にも適用があるものとする。
【0009】
(請求項1記載の発明の特徴)
請求項1記載の発明に係る縫合針計数方法(以下、適宜「請求項1の計数方法」という)は、使用済みの手術用縫合針を計数する縫合針計数方法である。具体的には、縫合針を把持した持針器を、所定の計数領域内を通過させたときに計数し、把持解除して縫合針を収納容器内に落下させ、前記持針器を前記計数領域内から退去させることを特徴とする。
【0010】
請求項1の計数方法によれば、縫合針を把持している持針器を、縫合針を把持したまま計数領域内を通過させて計数する。縫合針は計数対象としていないが、計数後に把持解除して縫合針を落下させるので持針器の通過回数と縫合針の個数とは数の上で一致する。落下した縫合針は、収納容器内に収容されるので紛失の心配がない。縫合針の把持解除は、持針器の解除機構を片手で操作するだけでできるから、片手で簡単に縫合針計数を行うことができる。さらに、スポンジやコルク等に突き刺したり、粘着テープに貼りつけたり、また、容器内に置いたりした縫合針のように、その解除に際して持針器に付着するおそれがない。したがって、縫合針の取り扱いが楽になり、手術に関わる医師や看護師の負担を大幅に軽減することができる。
【0011】
(請求項2記載の発明の特徴)
請求項2記載の発明に係る縫合針計数方法(以下、「請求項2の計数方法」という)は、請求項1の計数方法であって、前記収納容器の上方に落下領域があり、前記落下領域と前記計数領域の間に、スリットを有する仕切壁を設けてあり、前記スリットは、縫合針を把持した持針器の長手方向通過を許すも縫合針の厚み方向通過を許さないように形成してあることを特徴とする。
【0012】
請求項2の計数方法によれば、請求項1の計数方法の作用効果に加え、仮に把持解除したつもりの縫合針が持針器に付着していたとしても、持針器をスリットから抜き取るときに縫合針がしごき落とされる。縫合針を確実に落下させるので、計数間違えをより確実に防止することができる。仕切壁には、縫合針や持針器先端に付着した血液等が使用者側に飛び散るのを防ぐ目的もある。
【0013】
(請求項3記載の発明の特徴)
請求項3記載の発明に係る縫合針計数方法(以下、適宜「請求項3の計数方法」という)は、請求項2の計数方法であって、前記仕切壁は、可撓性部材(たとえば、シリコンゴムやウレタンゴム)により構成してあり、前記スリットは、持針器の通過により復帰可能に変形することを特徴とする。
【0014】
請求項3の計数方法によれば、請求項2の計数方法の作用効果に加え、仕切壁の変形により持針器の通過を円滑に行うことができる。また、その変形も持針器の形に合わせた変形となるので、持針器と仕切壁との隙間が最小限なものとなる。これによって、縫合針等に付着している血液の飛散をより効果的に防ぐことができ、使用者の安全性の確保に貢献する。
【0015】
(請求項4記載の発明の特徴)
請求項4記載の発明に係る縫合針の計数方法(以下、適宜「請求項4の計数方法」という)は、請求項2または3の計数方法であって、前記スリットの終点(たとえば、スリットが縦ならその下端、横なら横の一端)にはストッパが配してあり、前記ストッパは、前記スリットを通過させた持針器を衝突させ、当該衝突による衝撃により持針器使用者に計数領域の通過修了を知らせることを特徴とする。
【0016】
請求項4の計数方法によれば、請求項2または3の計数方法の作用効果に加え、持針器の使用者が持針器(縫合針)の計数修了を、視覚ではなく聴覚(音)と触覚(衝撃)で感じ取ることができる。計数修了のタイミングを確実に知ることは持針器の解除操作のタイミングを正しく知ることになり、持針器操作面で計数ミスを有効に防いでくれる。
【0017】
(請求項5記載の発明の特徴)
請求項5記載の発明に係る縫合針計数装置(以下、適宜「請求項5の計数装置」という)は、使用済みの手術用縫合針を計数する縫合針計数装置である。具体的には、計数機構による計測が可能な計数領域と、上面開口の収納容器を下方に備える落下領域と、前記計数領域と前記落下領域との間を仕切る仕切壁と、を設けてあり、前記仕切壁には、縫合針を把持した持針器の長手方向の通過を許し、かつ、縫合針の厚み方向通過を許さないスリットを形成してある。ここで、前記計数機構は、把持した縫合針を前記落下領域に配しつつ前記スリット内を通過させた持針器のうち、前記計数領域内にある部位を計数可能に構成してあり、前記収納容器は、持針器の把持解除により落下した縫合針を収納可能に構成してあることを特徴とする。
【0018】
請求項5の計数装置によれば、縫合針を把持している持針器を、縫合針を把持したまま計数領域内を通過させて計数する。縫合針は計数対象としていないが、計数後に把持解除して縫合針を落下させるので持針器の通過個数と縫合針の個数は一致する。落下した縫合針は、収納容器内に収容されるので紛失の心配がない。縫合針の把持解除は、持針器の解除機構を片手で操作するだけでてできるから、片手で簡単に縫合針計数を行うことができる。さらに、スポンジやコルク等に突き刺したり、粘着テープに貼りつけたり、また、容器内に置いたりした縫合針のように、その解除に際して持針器に付着するおそれがない。したがって、縫合針の取り扱いが楽になり、手術に関わる医師や看護師の負担を大幅に軽減することができる。仮に把持解除したつもりの縫合針が持針器に付着していたとしても、持針器をスリットから抜き取るときに縫合針がしごき落とされる。縫合針を確実に落下させるので、計数間違えをより確実に防止することができる。仕切壁には、縫合針や持針器先端に付着した血液等が使用者側に飛び散るのを防ぐ目的もある。
【0019】
(請求項6記載の発明の特徴)
請求項6記載の発明に係る縫合針計数装置(以下、適宜「請求項6の計数装置」という)は、請求項5の計数装置であって、前記仕切壁は、可撓性部材により構成してあり、
前記スリットは、持針器の通過により復帰可能に変形することを特徴とする。
【0020】
請求項6の計数装置によれば、請求項5の計数装置の作用効果に加え、仕切壁の変形により持針器の通過を円滑に行うことができる。また、その変形も持針器の形に合わせた変形となるので、持針器と仕切壁との隙間が最小限なものとなる。これによって、縫合針等に付着している血液の飛散をより効果的に防ぐことができ、使用者の安全性の確保に貢献する。
【0021】
(請求項7記載の発明の特徴)
請求項7記載の発明に係る縫合針計数装置(以下、適宜「請求項7の計数装置」という)は、請求項5または6の計数装置であって、前記スリットの終点には、持針器を衝突させるためのストッパが配してあることを特徴とする。
【0022】
請求項7の計数装置によれば、請求項5または6の計数装置の作用効果に加え、針器の使用者が持針器(縫合針)の計数修了を、視覚ではなく聴覚(音)と触覚(衝撃)で感じ取ることができる。計数修了のタイミングを確実に知ることは持針器の解除操作のタイミングを正しく知ることになり、持針器操作面で計数ミスを有効に防いでくれる。
【0023】
(請求項8記載の発明の特徴)
請求項8記載の発明に係る縫合針計数装置(以下、適宜「請求項8の計数装置」という)は、請求項5ないし7いずれかの計数装置であって、前記収納容器は、分離可能であって、分離後に前記上面開口を水密閉鎖する蓋部を備えていることを特徴とする。
【0024】
請求項8の計数装置によれば、請求項5ないし7いずれかの計数装置の作用効果に加え、装置から分離した収納容器は、縫合針を収納したまま医療廃棄物として廃棄することができる。水密閉鎖してあるので、縫合針はもとより付着している血液等が収納容器外部に漏れだすことがないので、廃棄に当たりその安全性を確保することができる。
【0025】
(請求項9記載の発明の特徴)
請求項9記載の発明に係る縫合針計数装置(以下、適宜「請求項9の計数装置」という)は、使用済みの手術用縫合針を計数する縫合針計数装置である。具体的には、縫合針を把持した状態の持針器先端を挿入可能な挿入口と、前記挿入孔に連続するとともに縫合針を把持した持針器把持部の長手方向の通過を許し、かつ、縫合針の厚み方向通過を許さないスリットと、のみによって容器内外が仕切られる縫合針収納容器と、前記縫合針収納容器の内外いずれかにおいて、前記スリットを通過する持針器を計数する計数機構と、を備えていることを特徴とする。計数機構は縫合針収納容器の内部に配してもよいし外部に配してもよい。廃棄のときに外せるように、計数機構は縫合針収納容器に対して着脱可能に構成することもできる。
【0026】
請求項9の計数装置によれば、縫合針を把持している持針器の先端を、縫合針を把持したまま挿入口から挿入し、その状態のままでスリットの長手方向に移動させる。持針器の移動は、縫合針収納容器の内部または外部において計数機構により計測される。計測後に縫合針の把持を解除した持針器をスリットから抜いて縫合針収納容器外に退去させることによって縫合針の計数を修了する。把持が解除された縫合針は、縫合針収納容器内に残される。残したつもりの縫合針が、血液の粘性等によって持針器先端に付着していたとしても、持針器をスリットから抜くときにしごき落とされるので外部に出ることはない。挿入口とスリットは、上記作用効果を阻害しないのであれば、可撓性部材により閉鎖しておいてもよい。縫合針を収容した縫合針収納容器は、それを水密の袋などに入れたり、挿入口やスリットを適当な方法で水密閉鎖したりすることにより、医療廃棄物として廃棄可能である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、持針器による把持を解除するときの使用済み縫合針の取り扱いの困難さを克服しながら、確実な縫合針計数を行うことができる。このため、手術の際の縫合針の置き忘れ防止の措置を行わなければならない医師や看護師等の負担を大幅に軽減することができる。患者にとっても安心して手術を受けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施形態に係る縫合針計数装置の斜視図である。
【図2】図1に示す縫合針計数装置の正面図である。
【図3】図1に示す縫合計数装置の平面図である。
【図4】図1に示す縫合針計数装置の部分側面図である。
【図5】縫合針計数装置の他の実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
各図を参照しながら、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。ここでは、まず縫合針計数装置(以下、単に「計数装置」という)について解説し、その後、この計数装置を用いて行う縫合針計数方法(以下、「計数方法」という)について言及する。最後は、本実施形態の変形例について解説する。
【0030】
(計数装置の概略構造)
図1ないし4に示す計数装置1は、ケース3によってその外観がほぼ構成されている。本実施形態のケース3は、合成樹脂製を主材料として一体に構成してあるが、ステンレスなどの金属板を板金加工するなどして構成してもよい。また、作り易くするために必要であれば、複数の部材に分けて作り、それらを組み立てるようにしてもよい。
【0031】
(ケースの概略構造)
ケース3は、前板部3a、両側板部3b、背板部3c、底板部3d、および、天板部3eによって構成された縦長の直方体類似の形状になっている。前板部3aは背板部3cよりも僅かに低くなっていて、これにより、天板部3eは前板部3aに向かって下り傾斜している。下り傾斜させることは必ずしも必要なことではないが、下り傾斜させることによる特有の利点がある。この利点については、次項で述べる。
【0032】
(天板部の挿入口)
図1ないし3が示すように、天板部3eには、ケース3の外部と内部(落下領域7、図4参照)とを連通する挿入口3hを形成してある。本実施形態では矩形としたが挿入口3hの形状は丸でもそれ以外の形状でも構わないが、図3に示すように、持針器101の把持部103を、縫合針Nを把持したまま、手術の際に使用者が簡単に挿入するために充分な大きさであることが必要である。挿入口3hは、後述する仕切壁11のスリット11aの上端と繋がっていて、その中に挿入した把持部103(縫合針Nを把持している)を、そのままスリット11a内に導けるようになっている。前項で述べたように天板部3eを傾斜させたのは、傾斜させることにより使用者に対し正対する(使用者が天板部3eの真上にいることはほとんどない)ようになり、挿入口3hを正面から見ることが可能になる。斜めに見た場合に比べ正面から見れば挿入口3hが最も大きい状態で見ることができるので、挿入口3hに把持部103を挿入しやすくなる。これが、天板部3eを傾斜させた利点の一つである。
【0033】
(計数領域と落下領域)
前板部3aの幅方向中央には、その上端から縦方向半分ほどまで延びる開口空間が形成されている。この開口空間は、図2が両脇を開口側壁部5a,5bにより、背面を仕切壁11により、さらに底面を開口底板部5cにより、それぞれ囲まれ、仕切壁11から見た前方(図3の上から下方向)と上方は閉鎖されていない。この開口空間のことを、計数領域5とする。計数領域5は、仕切壁11を挟んで落下領域7と対向している。落下領域7は、縫合針Nを落下させるための領域であり(図4参照)、ケース3の内部空間のほとんどがその領域となる。仕切壁11は、落下領域7にある縫合針Nや把持部103に付着した血液等が、計数領域5(その延長線上の使用者)へ飛散しないようにする役目も担っている。開口底板部5cは、後述するように計数
【0034】
(仕切壁の構造)
仕切壁11の幅方向中央には、計数領域5の上端から下端まで延びるスリット11aを形成してある。スリット11aは、縫合針Nを把持した持針器101の把持部103を、把持したままの状態で長手方向(図4では上下方向)へ通過させるための溝であって、縫合針Nの厚み方向(同図の左右方向)通過を許さない幅寸法に形成してある。仕切壁11は、シリコンゴムのような可撓性部材によって構成してあるため、仕切壁11に外力を加えると変形して(撓んで)スリット11aの幅が広くなるが、変形後の仕切壁11は、外力を取り去ることにより元の形状に弾性復帰する。このため、実際には、スリット11aの幅寸法は、変形がなくては把持部103を通過させられないが、変形により通過できるように設定してある。把持部103と仕切壁11との間に、できるだけ隙間ができないようにすることにより、計数領域5側への血液等の飛散防止がより有効なものとなる。なお、縫合針Nはスリット11aを通過できないように構成したのは、計数領域5の外へ退去させようとする持針器101の把持部103縫合針Nが付着していたときにその縫合針Nをしごき落とすためである。スリット11aの中を通過する持針器101は、仕切壁11を扉のように押し広げながら、把持部103が縫合針Nとともに落下領域7を、同じく握り部105が計数領域5を、それぞれ通過することになる。
【0035】
(縫合針の計数)
縫合針Nの計数は、計数機構13によって行われる。計数機構13は、マイクロスイッチ13aと、マイクロスイッチ13aを駆動させるレバー13bと、マイクロスイッチ13aの計数結果を表示する表示器13cと、から構成してある。マイクロスイッチ13aは、ケース3の前板部3aの計数領域5の側方内面に取り付けてあり、レバー13bは開口側壁部5aに形成した側壁開口5dから計数領域5内に突出している(図2、4参照)。これに加え、レバー13bの先端部は、側壁開口5dを貫通して開口側壁部5bの裏側に突出していて、結果としてレバー13bは計数領域5を横断する形になっている。表示器13cは、内蔵電池(図示を省略)を電源とした液晶表示を行う。液晶の代わりに、たとえば、より見やすくするためにティルト機構付きのLED(発光ダイオード)を採用してもよい。また、計数機構13の全体を電池不要のメカニカル式のものとすれば、電池を不要としたことによって、より環境に配慮した廃棄が可能になる。
【0036】
ここで、持針器101が計数領域5を通過しこれによりレバー13bが押し下げられるとマイクロスイッチ13aが駆動し、駆動回数は表示器13cが積算表示する。押し下げられたレバー13bは、持針器101の負荷から解放されると、マイクロスイッチ13aの内部にある付勢部材(図示を省略)の作用により定常位置に復帰する。図1の表示器13cは、持針器101が計数領域5を12回通過したことを示している。定常位置にあるレバー13bの先端部は、側壁開口5dの周縁上端に当接して、その位置よりも上に行けないようになっている。これは、一度通過した持針器101が、使用者が誤って持ちあげようとしても、レバー13bがストッパとして機能してそれより上に行けないようにするためである。上に行くことを許すと、上に行った持針器101が再度計数されてしまい、計数誤差が生じてしまうのでその防止のためである。以上が、計数機構13の構成と作用効果である。なお、レバー13bのストッパ機能と併用もしくはこれの代わりに、持針器101の逆戻りを防ぐためのストッパ構造(図示せず)を設けることを妨げない。
【0037】
上述したように、持針器101が計数領域5を通過する通過回数は計数機構13によって計数されが、この計数は、縫合針Nを対象とするものではない。しかし、把持部103によって把持された状態で落下領域7を通過する縫合針Nは、持針器101の計数後に把持解除されるので、持針器101の通過回数と縫合針Nの個数は数の上で一致する。これにより、持針器101の通過回数を縫合針Nの個数とみなすことができるので、問題は生じない。縫合針Nの個数を直接計数し、計数後に把持解除しようとする従来の技術に比べ正確な計数ができる。
【0038】
(計数の完了)
計数領域5の下端は、開口底板部5cによって仕切られている。この点は既に述べた。この開口底板部5cは、スリット11aの終点を定める部位でもある(図2参照)。使用者は、計数のために持針器101を押し下げることになるが、この押し下げをスリット11aの途中で止めることは、よほど意図的でないとできない。したがって、スリット11aを通過した持針器101は、やがて開口底板部5cに衝突する。この衝突は、使用者をして持針器101(縫合針N)の計数修了を手を介した触覚(衝撃)で感じ取らせることになる。計数修了のタイミングを確実に知ることは持針器の解除操作のタイミングを使用者に正しく知らせることになり、持針器101の操作面で計数ミスを有効に防いでくれる。上記衝突する部位にセンサー(図示せず)を配しておき、そのセンサーの検知信号を受け、たとえば、「ピッ」や「ピンポーン」というチャイムを鳴らせるにしておけば、触覚に併せ聴覚によっても計数修了を知らせることができる。
【0039】
(収納容器の配置と作用効果)
ケース3内の落下領域7下方には収納容器21を配してある(図2、4参照)。収納容器21は、上面開口21aを備えている。収納容器21は、たとえば、ケース3の背板部3cを取り外し可能もしくは開閉可能に構成しておき(図示省略)、取り外しもしくは開いたときにケース3から出し入れできるように(分離収納可能に)構成する。上面開口21aは、落下領域7全体を水平方向にカバーしており、落下してくる縫合針Nを収容可能に、かつ、さらに、落下してきた縫合針Nが底面に当たって跳ね返っても外部に飛びださない程度の深さを持っている。縫合針Nの跳ね返り防止と付着した血液等の吸収などの目的で、収納容器21の底面にガーゼなどの吸収材を敷いておくことは有効である。収納容器21は、その上面開口21aを蓋部23によって水密閉鎖できるように構成してある。ケース3から取り出した収納容器21に蓋部23を被せ(中には縫合針Nが収容されている)、水密状態を確保してから医療廃棄物として容器ごと廃棄するようにしてもよい。したがって、収納容器21や蓋部23は、これらを合成樹脂によって構成することが好ましい。透明な合成樹脂によって構成すれば、中にある縫合針Nの存在を目視することができ、縫合針Nの存在や個数を再確認するのに便利である。
【0040】
(縫合針計数方法)
図1ないし4を参照しながら、前述した縫合針計数装置1を用いて実施する縫合針Nの計数方法について説明する。まず、使用済みの縫合針Nをその把持部103で把持した持針器101を挿入口3hから挿入し(図4の矢印(1))、仕切壁11のスリット11aを通過させる(図4の矢印(2))。このとき持針器101は、計数領域5内を通過するときに計数機構13のレバー13bを押し下げてマイクロスイッチ13aを駆動させる。マイクロスイッチ13aの駆動により持針器101の通過が計数される。使用者は、持針器101が計数された後、握り部105を操作して縫合針Nの把持を解除する。把持解除された縫合針は、収納容器21内に落下する(図4の矢印(3))。最後に、持針器101を計数領域5内であるケース3内から退去させて縫合針計数を完了する。計数結果は、表示器13cに表示される。
【0041】
(本実施形態の変形例)
図5を参照しながら、本実施形態の変形例について説明する。計数装置51は、合成樹脂製のケース53を備えている。他の素材を利用してもよいが合成樹脂製としたのは、コスト面で有利であるとともに、医療廃棄物として廃棄しやすいからである。中身が見えるように透明なものとすると、収容された縫合針を目視確認するために便利である。ケース53は、側板部53aと天板部53bを含む横長の直方体形状を有する。天板部53bには、持針器101の把持部103を、縫合針Nを把持した状態で挿入するための天板挿入口55と、挿入口55に連続するスリット57とが形成してある。スリットは天板部53bに形成した天板スリット57aと、側板部53aに形成した側板スリット57bに分かれ、両者によってスリット57はL字状に構成される。
【0042】
スリット57は、縫合針Nを把持したまま天板挿入口55を通過した(図5の矢印(1))把持部103の長手方向の通過を許し(図5の矢印(2))、かつ、縫合針Nの厚み方向通過を許さない(縫合針Nの長さより狭い幅)ように形成してある。スリット57の途中には、計数機構61がある。計数機構61は、天板部53bの裏面に固定したマイクロスイッチ61aと、マイクロスイッチ61aを駆動するためのレバー61bと、計数結果を表示する表示器61cとから構成してある。レバー61bはスリット57を横切るように配してあり、通過する持針器101によって押し動かされるようになっている。スリット57を通過し計数されたら、使用者は握り部105を操作して縫合針Nの把持を解除し、持針器101全体をケース53の外部へ引き抜く(図5の矢印(3))。これで、縫合針Nの計数が完了する。解除により縫合針Nは収納容器の機能を兼ねるケース53の底部に落下する。なお、計数機構61を電池不要のメカニカル式とすることが可能であることは、本実施形態における計数機構13の場合と同じである。
【0043】
レバー61bをケース53内に配したので、ここでは計数領域と落下領域がケース53内に併存している。レバー61bをケース53の外に置いたときは、計数領域がケース53の外に位置することになる。外に位置させたときの天板部53bは、スリットを有する仕切壁として機能する。縫合針Nを収容した計数装置51(ケース53)は、たとえば、水密の袋や箱に入れてから廃棄することが好ましい。天板挿入口55やスリット57が開口したままだからである。もっとも、天板挿入口55とスリット57をテープなどで水密閉鎖すれば、計数容器51をそのまま廃棄することもできる。
【符号の説明】
【0044】
1 計数装置(縫合針計数装置)
3 ケース
3a 前板部
3b 側板部
3c 背板部
3d 底板部
3e 天板部
3h 挿入口
5 計数領域
5a 開口側壁部
5b 開口側壁部
5c 開口底板部(ストッパ)
5d 側壁開口
5e 側壁開口
7 落下領域
11 仕切壁
11a スリット
13 計数機構
13a マイクロスイッチ
13b レバー
13c 表示器
21 収納容器
21a 上面開口
23 蓋部
51 計数装置(縫合針計数装置)
53 ケース
53a 側板部
53b 天板部
55 天板挿入口
57 スリット
57a 天板スリット
57b 側板スリット
61 計数機構
61a マイクロスイッチ
61b レバー
61c 表示器
101 持針器
103 把持部
105 握り部
N 縫合針

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済みの手術用縫合針を計数する縫合針計数方法であって、
縫合針を把持した持針器を、所定の計数領域内を通過させたときに計数し、
把持解除して縫合針を収納容器内に落下させ、
前記持針器を前記計数領域内から退去させる
ことを特徴とする縫合針計数方法。
【請求項2】
前記収納容器の上方に落下領域があり、
前記落下領域と前記計数領域の間に、スリットを有する仕切壁を設けてあり、
前記スリットは、縫合針を把持した持針器の長手方向通過を許すも縫合針の厚み方向通過を許さないように形成してある
ことを特徴とする請求項1の縫合針計数方法。
【請求項3】
前記仕切壁は、可撓性部材により構成してあり、
前記スリットは、持針器の通過により復帰可能に変形する
ことを特徴とする請求項2記載の縫合針計数方法。
【請求項4】
前記スリットの終点にはストッパが配してあり、
前記ストッパは、前記スリットを通過させた持針器を衝突させ、当該衝突による衝撃により持針器使用者に計数領域の通過修了を知らせる
ことを特徴とする請求項2または3記載の縫合針計数方法。
【請求項5】
使用済みの手術用縫合針を計数する縫合針計数装置であって、
計数機構による計測が可能な計数領域と、上面開口の収納容器を下方に備える落下領域と、前記計数領域と前記落下領域との間を仕切る仕切壁と、を設けてあり、
前記仕切壁には、縫合針を把持した持針器の長手方向の通過を許し、かつ、縫合針の厚み方向通過を許さないスリットを形成してあり、
前記計数機構は、把持した縫合針を前記落下領域に配しつつ前記スリット内を通過させた持針器のうち、前記計数領域内にある部位を計数可能に構成してあり、
前記収納容器は、持針器の把持解除により落下した縫合針を収納可能に構成してある
ことを特徴とする縫合針の計数装置。
【請求項6】
前記仕切壁は、可撓性部材により構成してあり、
前記スリットは、持針器の通過により復帰可能に変形する
ことを特徴とする請求項5記載の縫合針計数装置。
【請求項7】
前記スリットの終点には、持針器を衝突させるためのストッパが配してある
ことを特徴とする請求項5または6記載の縫合針計数装置。
【請求項8】
前記収納容器は、分離可能であって、
分離後に前記上面開口を水密閉鎖する蓋部を備えている
ことを特徴とする請求項5ないし7いずれか記載の縫合針計数装置。
【請求項9】
使用済みの手術用縫合針を計数する縫合針計数装置であって、
縫合針を把持した状態の持針器先端を挿入可能な挿入口と、前記挿入口に連続するとともに縫合針を把持した持針器把持部の長手方向の通過を許し、かつ、縫合針の厚み方向通過を許さないスリットと、のみによって容器内外が仕切られる縫合針収納容器と、
前記縫合針収納容器の内外いずれかにおいて、前記スリットを通過する持針器を計数する計数機構と、を備えている
ことを特徴とする縫合針の計数装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−99395(P2013−99395A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244130(P2011−244130)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(511270664)