説明

縫糸及び布帛縫製品

ポリトリメチレンテレフタレート系短繊維を少なくとも30wt%以上含有する縫糸であって、破断伸度が30%〜100%、5%伸長時の瞬間伸長弾性率が30〜75%である縫糸。この改良された縫糸は、縫可縫性に優れた縫糸であり、この縫糸を用いて圧迫感が無く着心地に優れた縫製品衣服を調製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、ポリトリメチレンテレフタレート系短繊維からなる伸縮性を有し、本縫可縫性に優れた縫糸ならびに該縫糸で縫製された布帛縫製品に関する。
【背景技術】
従来、伸縮性のない一般の縫糸を用いて例えば伸縮性を有する布帛を縫製した場合、当然のことながら縫目部の布帛の伸縮性が低下して、布帛の特徴が活かされない。加えて、伸縮性布帛の縫製においては、縫目部に過度の伸長力が加わった場合には、伸縮性がない縫糸が容易に破断する欠点がある。
そこで、縫目部に伸縮性を付与することが必要な場合には、2重環縫いやオーバーロック縫い、又は千鳥縫いなどの構造をもった縫目を形成することで縫目に伸縮性を発現させることが行われている。しかし、これらの縫目はその構造形成に特殊ミシンが要る外、縫製にも長時間を要し、縫糸の使用量が多くなり、しかも縫目外観が劣るといった欠点がある。また、縫目部の布帛の伸縮性も必ずしも充分なものではなかった。
伸縮性布帛の縫製に用いられる公知ミシン糸として、ポリウレタン系等の弾性繊維と可溶性繊維の複合したものが知られているが、可縫性に劣るばかりか、可溶性繊維の除去といった工程が必要となり縫製コストがアップするといった問題があった。
国際公開第00/73553号パンフレットには、伸縮性布帛の縫製に適したミシン糸が開示されている。この公知のミシン糸はポリトリメチレンテレフタレートマルチフィラメント糸で構成され、特定の伸度曲線を有し、本縫い縫製が可能で縫目ストレッチ性が良好であり、また、得られた縫製品は圧迫感が無く着心地に優れたものを得ると開示されている。この公開発明では、ポリトリメチレンテレフタレート繊維の高い破断伸度を有しながらも優れた伸長弾性率を持つ特性を生かしたものであり、縫目ストレッチ性に優れた特徴を有しており、特に伸縮性の高い布帛の縫糸としては非常に優れたものとされている。
しかしながら、縫製時のミシンの回転数が1000rpm程度では十分な可縫性レベルを保持しているものの、商業ベースでの製品縫製、すなわちミシンの回転数が4000rpm程度における可縫性レベルは必ずしも満足できるものではないことが判明した。又、可縫性向上のため、一般的にはシリコーン付与等を行うことがあるが、この場合僅かながらの可縫性は改善される傾向にはあるものの、これも満足できるレベルにはなかった。
【発明の開示】
本発明の目的は、高い伸縮性を有し、布帛の本縫可縫性が良好な伸縮性ミシン糸ならびに外観が良好でかつ伸縮性を有する縫目が形成された伸縮性布帛の縫製品を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために、先ず、縫目形成メカニズムとミシン糸の伸長特性との相関を検討した。
本縫における縫目は、ミシン針が下死点をすぎて僅かに上方へ移動したところで、ミシン針の針穴付近に上糸のループが作られ、それを剣先がすくうことにより形成される。そのため、可縫性を向上させるためには、ループをいかに安定して大きく形成させるかがポイントとなる。
一般の非伸縮性の縫糸では、ミシン針と共に上糸(縫糸)が生地を通過する際に、摩擦抵抗等によってミシン糸の伸びが抑えられることで、ループが大きく安定して形成され、可縫性に支障がないが、国際公開第00/73553号パンフレットに開示されているような伸長性を有するミシン糸では、縫製時に上糸が生地を通過する際にミシン糸が伸ばされ、且つ、伸長弾性率が非常に優れているために、ループ形成段階で上糸が縮み、小さいループしか形成されない。すなわち1000rpm程度の回転数では特に支障がでないが、商業ベースでの製品縫製、つまり回転数が4000rpm程度の高速下においては、小さいループ故に可縫性が低下することが判明した。このように、縫目のストレッチ性付与のため、高い破断伸度と優れた伸長弾性率を有するミシン糸を用いると、上記の縫目形成メカニズムからは可縫性は逆比例するように低下するものであり、縫目のストレッチ性付与と可縫性は両立しないものであった。
本発明者らは、かかる知見に基づいて、縫目形成メカニズムとミシン糸の種々の伸長特性との相関を詳細にかつ個々の要素毎に分解して検討した結果、先ず、可縫性に関しては、破断伸度よりも伸長弾性率の寄与が大きいことを究明し、次いで、各々の伸度における伸長弾性率と可縫性について徹底した相関関係を検討した結果、可縫性には、低伸度領域での瞬間的な伸長弾性率が大きく寄与すること、次に、縫目のストレッチ性付与には、破断伸度の寄与が大きいことを見出した。
すなわち可縫性に関しては、低伸度領域での瞬間的な伸長弾性率が高いと大きなループ形成が困難となり、瞬間的な伸長弾性率を抑制することで、ループ形成が安定し、特に高速下においてもその作用効果が十分に発揮されること、次に縫目のストレッチ性付与には、低伸度領域での瞬間的な弾性回復率の寄与よりも、破断伸度の寄与が大きいことを見出した。
これらの知見に基づいて、さらに詳細な検討を加えた結果、可縫性と5%伸長時の瞬間伸長弾性率が、さらに縫目のストレッチ性付与と破断伸度が大きな相関があることを究明した。本発明者らは、以上の知見に基づいて、縫糸を構成する各種要件、すなわち繊維種、繊維長、繊度、撚数等の組み合わせと、伸長特性との関連を詳細かつ徹底的な試作と実験を繰り返して検討した結果、驚くべきことにポリトリメチレンテレフタレート系繊維の短繊維を用いることにより、本発明の課題が達成されることを見出して本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、従来の技術思想からは、縫目のストレッチ性付与と可縫性は両立しないという課題の究明に始まって、可縫性に直結する新たな特性値を見出し、さらにこの特性値を満足する各種縫糸を詳細かつ徹底的な試作と実験の繰り返しによって到達したものである。
本発明は以下の通りである。
1.ポリトリメチレンテレフタレート系短繊維を少なくとも30wt%以上含有する縫糸であって、破断伸度が30%〜100%、5%伸長時の瞬間伸長弾性率が30〜75%であることを特徴とする縫糸。
2.20%伸長時の伸長弾性率が60%以上であることを特徴とする1.記載の縫糸。
3.30%伸長時の伸長弾性率が60%以上であることを特徴とする1.記載の縫糸。
4.1.〜3.のいずれかに記載された縫糸による縫目が形成されていることを特徴とする布帛縫製品。
5.布帛縫製品が伸縮性布帛縫製品であることを特徴とする4.記載の布帛縫製品。
以下本発明について詳述する。
本発明におけるポリトリメチレンテレフタレート系短繊維とは、ポリトリメチレンテレフタレート100%及び/又は少なくとも一方がポリトリメチレンテレフタレートで構成された複合繊維からなる短繊維である。
本発明において、ポリトリメチレンテレフタレートとは、トリメチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステルであり、トリメチレンテレフタレート単位を、好ましくは約50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、最も好ましくは90モル%以上のものをいう。従って、第三成分として他の酸成分及び/又はグリコール成分の合計量が、好ましくは約50モル%以下、より好ましくは30モル%以下、さらに好ましくは20モル%以下、最も好ましくは10モル%以下の範囲で含有されたポリトリメチレンテレフタレートを包含する。
ポリトリメチレンテレフタレートは、テレフタル酸、又は例えばテレフタル酸ジメチルなどのテレフタル酸の機能的誘導体と、トリメチレングリコール又はその機能的誘導体とを、触媒の存在下で、適当な反応条件下に重縮合せしめることにより製造される。この製造過程において、適当な一種又は二種以上の第三成分を添加して共重合してもよい。あるいは、ポリエチレンテレフタレート等のポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステルやナイロン等と、ポリトリメチレンテレフタレートとをブレンドしてもよい。
添加することができる第三成分としては、脂肪族ジカルボン酸(シュウ酸、アジピン酸等)、脂環族ジカルボン酸(シクロヘキサンジカルボン酸等)、芳香族ジカルボン酸(イソフタル酸、ソジウムスルホイソフタル酸等)、脂肪族グリコール(エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、テトラメチレングリコール等)、脂環族グリコール(シクロヘキサンジメタノール等)、芳香族を含む脂肪族グリコール(1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等)、ポリエーテルグリコール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等)、脂肪族オキシカルボン酸(ω−オキシカプロン酸等)、芳香族オキシカルボン酸(p−オキシ安息香酸等)等が挙げられる。又、1個又は3個以上のエステル形成性官能基を有する化合物(安息香酸等又はグリセリン等)も、重合体が実質的に線状である範囲内で用いることもできる。
ポリトリメチレンテレフタレート系繊維には、二酸化チタン等の艶消剤、リン酸等の安定剤、ヒドロキシベンゾフェノン誘導体等の紫外線吸収剤、タルク等の結晶化核剤、アエロジル等の易滑剤、ヒンダードフェノール誘導体等の抗酸化剤、難燃剤、制電剤、帯電防止剤、艶消し剤、顔料、蛍光増白剤、赤外線吸収剤、消泡剤等の改質剤を含有させてもよい。
本発明において、ポリトリメチレンテレフタレート系短繊維は、一種類のポリトリメチレンテレフタレートからなる短繊維に限られるものではなく、重合度や共重合組成等の異なる二種以上のポリトリメチレンテレフタレートを含む短繊維、または、少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートであってさらに他の成分を含有する短繊維などでもよい。例えば、潜在捲縮発現性ポリエステル短繊維は好ましいものとして挙げられる。
潜在捲縮発現性ポリエステル短繊維とは、少なくとも二種のポリエステル成分で構成(具体的には、サイドバイサイド型又は偏芯鞘芯型に接合されたものが多い)されているものであり、熱処理によって捲縮を発現するものである。二種のポリエステル成分の複合比(一般的に、70/30〜30/70(質量比)の範囲内のものが多い)、接合面形状(直線又は曲線形状のものがある)等は特に限定されない。又、単糸繊度は0.5〜10dtexが好ましく用いられるが、これに限定されるものではない。
潜在捲縮発現性ポリエステル短繊維は、少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートであればよい。具体的には、特開2001−40537号公報に開示されているようなポリトリメチレンテレフタレートを少なくとも一成分とするものがある。すなわち二種のポリエステルポリマーをサイドバイサイド型又は偏芯鞘芯型に接合された複合繊維であり、サイドバイサイド型の場合、二種のポリエステルポリマーの溶融粘度比は1.00〜2.00が好ましく、偏芯鞘芯型の場合は、鞘ポリマーと芯ポリマーのアルカリ減量速度比が、3倍以上鞘ポリマーが速いことが好ましい。
本発明において、潜在捲縮発現性ポリエステル短繊維は、短繊維を構成するポリエステル成分の少なくとも一方がポリトリメチレンテレフタレートであり、例えば、第一成分がポリトリメチレンテレフタレートであり、第二成分がポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステルから選ばれたポリマーを並列的あるいは偏芯的に配置したサイドバイサイド型又は偏芯鞘芯型に複合紡糸したものが挙げられる。特に、ポリトリメチレンテレフタレートと共重合ポリトリメチレンテレフタレートの組み合わせや固有粘度の異なる二種類のポリトリメチレンテレフタレートの組み合わせが好ましい。
このような潜在捲縮発現性ポリエステル短繊維の具体例は、前記の特開2001−40537号公報以外にも、特公昭43−19108号公報、特開平11−189923号公報、特開2000−239927号公報、特開2000−256918号公報、特開2000−328382号公報、特開2001−81640号公報等に開示されている。
2種類のポリトリメチレンテレフタレートの固有粘度差は0.05〜0.4(dl/g)であることが好ましく、より好ましくは0.1〜0.35(dl/g)、さらに好ましくは0.15〜0.35(dl/g)である。例えば、高粘度側の固有粘度を0.7〜1.3(dl/g)から選択した場合には、低粘度側の固有粘度は0.5〜1.1(dl/g)から選択されるのが好ましい。なお、低粘度側の固有粘度は0.8(dl/g)以上が好ましく、より好ましくは0.85〜1.0(dl/g)、さらに好ましくは0.9〜1.0(dl/g)である。
また、このような複合繊維の平均固有粘度は、0.7〜1.2(dl/g)が好ましく、より好ましくは0.8〜1.2(dl/g)、さらに好ましくは0.85〜1.15(dl/g)、最も好ましくは0.9〜1.1(dl/g)である。
なお、本発明でいう固有粘度の値は、使用するポリマーの粘度ではなく、紡糸された糸の粘度を指す。この理由は、ポリトリメチレンテレフタレートがポリエチレンテレフタレート等と比較して熱分解が生じ易く、高い固有粘度のポリマーを使用しても、紡糸工程での熱分解によって固有粘度が低下するため、得られた複合繊維においては、原料ポリマーの固有粘度差をそのまま維持することが困難なためである。
本発明で用いられるポリトリメチレンテレフタレート系短繊維は、例えば、次のような方法で得られる。
固有粘度0.4〜1.9、好ましくは0.7〜1.2のポリトリメチレンテレフタレートを溶融紡糸して、1500m/分程度の巻取り速度で未延伸糸を得た後、2〜3.5倍程度で延伸する方法や、紡糸−延伸工程を直結した直延法(スピンドロー法)、巻取り速度5000m/分以上の高速紡糸法(スピンテイクアップ法)等により長繊維を得る。
得られた長繊維を連続的に束にしてトウを形成するか、あるいは一度パッケージに巻き取った長繊維を再度解舒して束にしてトウを形成し、紡績用の油剤を付与し、必要に応じて熱処理を行った後、捲縮加工を施して捲縮を付与し、所定の長さに切断して短繊維を得る。一度パッケージに巻き取った長繊維を再度解舒して束にする場合は、長繊維用の仕上げ油剤が付与されているため、油剤を除去した後に紡績用の油剤を付与するのが好ましい。なお、溶融紡糸した未延伸糸を束にしてトウを形成した後に延伸してもよいが、均一な短繊維を得るためには、延伸後にトウを形成するのが好ましい。
溶融紡糸において、好ましくは2000m/分以上、より好ましくは2500〜4000m/分の巻取り速度で引取って得られる部分配向未延伸糸を用いることもできる。この場合には、自然延伸倍率以下の倍率で延伸した後に、捲縮加工を施すのが好ましい。また、あらかじめ短繊維に切断せずにトウの状態で紡績工程に投入し、トウ牽切機により切断して短繊維となし、紡績糸としてもよい。
ポリトリメチレンテレフタレート系繊維は、ポリエチレンテレフタレート繊維等と比較して繊維間摩擦力が高いという特有の問題があるが、適正な紡績用油剤を適正量付与することにより、良好な紡績性と高い均斉度を有する紡績糸を得ることができる。ポリトリメチレンテレフタレート系短繊維に付与する油剤は、制電性を付与すると共に繊維間摩擦力を下げて開繊性を向上させ、一方では適度な集束性を付与し、更に繊維対金属摩擦力を下げて、開繊工程における繊維の損傷を防ぐことを主な目的としている。油剤としては、制電剤としてよく使用されるアニオン界面活性剤が好ましく、例えば、アルキル基の平均炭素数が8〜18のアルキル燐酸エステル塩を主成分とする油剤が好ましい。更に好ましくは、アルキル基の平均炭素数が8〜18のアルキル燐酸エステルカリウム塩を主成分とする油剤であり、アルキル基の平均炭素数が10〜15のアルキル燐酸エステルカリウム塩を主成分とする油剤が最も好ましい。
アルキル燐酸エステル塩の具体例としては、ラウリル燐酸エステルカリウム塩(平均炭素数12)、セチル燐酸エステルカリウム塩(平均炭素数16)、ステアリル燐酸エステルカリウム塩(平均炭素数18)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。油剤成分中のアルキル燐酸エステル塩の含有率は50〜100wt%が好ましく、70〜90wt%がより好ましい。
更に他の油剤成分として、平滑性を向上させ繊維の損傷を防ぐ目的から、動植物油、鉱物油、脂肪酸エステル系化合物、または、脂肪族の高級アルコールあるいは多価アルコールの脂肪酸エステルのオキシエチレン、オキシプロピレン化合物等からなる非イオン活性剤を、50wt%以下、好ましくは10〜30wt%含有してもよい。
紡績用油剤の付着量は、0.05〜0.5%omfが好ましく、0.1〜0.35%omfがより好ましく、0.1〜0.2%omfが更に好ましい。油剤の選択が適切で、付着量が上記の範囲であると、可紡性に優れ、均斉度の高い紡績糸が得られる。しかし、油剤の付着量が多すぎると、カード工程でシリンダーに巻き付いたり、練条工程、粗紡工程、精紡工程等のローラードラフト工程においてトップローラー(ゴムローラー)への巻き付きが発生しやすくなったりする。逆に油剤の付着量が少なすぎると、開繊工程で短繊維の損傷が起きやすくなったり、前記のローラードラフト工程において静電気の発生が過多になり、ボトムローラー(金属ローラー)への巻き付きが発生しやすくなったりする。油剤の影響は、特に精紡工程において顕著であり、上記したようなトップローラーやボトムローラーへの短繊維の巻き付きは、糸切れの増加を招くとともに、糸の均斉度も低下させる。
また、ポリトリメチレンテレフタレート系繊維に捲縮加工を施す場合、捲縮加工の方法は特に限定されるものではなく、生産性、捲縮形態の良好さの点から、スタッファボックスを用いた押込み捲縮加工方法が好ましい。紡績工程における短繊維の開繊性、工程通過性を良好にするためには、捲縮数(JIS−L−1015:けん縮数試験方法による)は3〜30個/25mmが好ましく、5〜20個/25mmがより好ましい。また、捲縮率(JIS−L−1015:けん縮率試験方法による)は2〜30%が好ましく、4〜25%がより好ましい。
また、繊維長が短いほど、上記範囲内で捲縮数は多く、捲縮率は大きくする方が好ましい。より具体的には、繊維長38mm(綿紡方式)の場合には、捲縮数は16±2個/25mm、捲縮率は18±3%であることが好ましく、繊維長51mm(合繊紡方式)の場合には、捲縮数は12±2個/25mm、捲縮率は15±3%であることが好ましく、繊維長64mm以上のバイアスカット(梳毛紡方式)の場合には、捲縮数は8±2個/25mm、捲縮率は12±3%であることが好ましい。また、紡毛方式(繊維長51mmで等長)の場合は、捲縮数は18±2個/25mm、捲縮率は20±3%の範囲が好ましい。また、高速度タイプのカードに仕掛ける場合は、捲縮が伸ばされ易くなるため、捲縮率を上記範囲よりも2〜5%大きくするのが好ましい。
捲縮数や捲縮率が前記の範囲内であると、カード工程において集束カレンダーローラーでウェブが垂れ落ちることや、コイラーカレンダーローラーでスライバー切れが発生したりすること等が無く、カード通過性が良好であり、また、開繊性が良好でネップやスラブが少なく、可紡性に優れ、均斉度の高い紡績糸が得られる。本発明で用いられるポリトリメチレンテレフタレート系短繊維は、その単糸の断面が長さ方向に均一なものや太細のあるものでもよく、断面形状が丸型、三角、L型、T型、Y型、W型、八葉型、、偏平(扁平度1.3〜4程度のもので、W型、I型、ブーメラン型、波型、串団子型、まゆ型、直方体型等がある)、ドッグボーン型等の多角形型、多葉型、中空型や不定形なものでもよいが、特に丸型断面形状が好ましい。
また、単糸繊度は0.1dtex以上10.0dtex以下が好ましく、縫糸に用いる場合には1.0dtex以上6.0dtex以下がより好ましい。短繊維の繊維長は約30mm〜約160mmの範囲内で、用途や紡績方式、複合相手素材の繊維長等に応じて選べば良いが、縫糸としては30mm〜約120mm、好ましくは30mm〜50mmである。可紡性が良く品質の良好な紡績糸を得るためには、過長繊維割合(設定繊維長よりも長い繊維長を持つ単繊維の含有割合)が0.5%以下とするのが好ましい。
本発明で用いられるポリトリメチレンテレフタレート系短繊維からなる紡績糸の製造方法は特に限定されるものではなく、短繊維の繊維長に応じて通常の綿紡方式(繊維長32mm、38mm、44mm)、合繊紡方式(繊維長51mm、64mm、76mm)、梳毛紡方式(繊維長は64mm以上のバイアスカット)、トウ紡績法(トウを使用)等の紡績方法を適用すればよいが、縫糸としては綿紡方式が好ましい。また、精紡方法も特に限定されるものではなく、リング精紡法、ローター式オープンエンド精紡法、フリクション式オープンエンド精紡法、エアジェット精紡法、ホロースピンドル精紡法(ラッピング精紡法)、セルフツイスト精紡法等を適用すればよいが、ポリトリメチレンテレフタレート系繊維のソフトさを活かした縫糸を得るためにはリング精紡法が好ましい。
紡績糸の撚数は、綿番手換算の撚り係数K(K=撚数(T/2.54cm)/(綿番手)0.5)が1.98〜4.63、メートル番手換算の撚り係数α(α=撚数(T/m)/(メートル番手)0.5)が60〜140の範囲となるように、繊維長に応じて適宜設定すれば良い。また、紡績糸の撚トルクを軽減するために、常法に従ってスチームセットを実施しても構わないし、紡績糸の毛羽が目立場合には、毛焼、機械的に紡績糸表面を摩擦して毛羽を脱落させる、刃に糸を走らせ表面の毛羽を削ぎ落とす等の処理を実施してもかまわない。
本発明においては、縫糸を構成する繊維はポリトリメチレンテレフタレート系短繊維を少なくとも30wt%以上含有することが重要である。すなわち、本発明の縫糸は、ポリトリメチレンテレフタレート系短繊維100%からなる紡績糸、もしくはポリトリメチレンテレフタレート系短繊維と他の短繊維が少なくとも1種類以上混紡され、ポリトリメチレンテレフタレート系短繊維を30wt%以上、好ましくは50%、特に好ましくは70%以上含有する複合紡績糸の撚糸からなるものである。ポリトリメチレンテレフタレート系短繊維の含有率が30wt%以上であると、縫糸の破断伸度を30%以上とすることができ、縫目ストレッチ性に優れたものとなる。含有率が30wt%未満の場合には、本縫で可縫性は優れるものの、縫目ストレッチ性が劣るものとなる。
本発明の縫糸を構成するポリトリメチレンテレフタレート系短繊維以外の繊維としては特に限定されるものではなく、綿、麻、ウール、絹等の天然繊維、キュプラ、ビスコース、ポリノジック、精製セルロース、アセテート等の化学繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系繊維、アクリル、ナイロン等の各種人造繊維、さらにはこれらの共重合タイプや、同種又は異種ポリマー使いの複合繊維(サイドバイサイド型、偏芯鞘芯型等)のいずれであってもよいが、本発明の縫糸の強力を高くできる点からポリエチレンテレフタレートやナイロンとの複合紡績糸が好ましい。
複合紡績糸の複合方法も特に限定されるものではなく、混打綿あるいはカード工程で原綿を混綿する方法、練条工程やミキシングギル工程でスライバーを重ね合わせて複合する方法、精紡工程で粗糸あるいはスライバーを複数本供給して精紡交撚(サイロスパン)を行う方法等が挙げられる。
本発明の縫糸を構成する短繊維からなる紡績糸は、破断強度が1.0〜4.5cN/dtex、破断伸度20〜100%、5%伸長時の弾性回復率が70〜100%の物性を有することが好ましい。
本発明の縫糸は、破断伸度が30〜100%であることが必要であり、好ましくは40〜80%である。破断伸度がこの範囲であると、縫糸としての縫目ストレッチ性に優れたものとなる。破断伸度が30%未満の場合は、縫目ストレッチ性が不十分なものとなり、100%を超える場合には、縫目の伸びは得られるものの、回復性が劣るものとなり、縫目の形態安定性が不十分なものとなる。
更に、本発明の縫糸は、5%伸長時の瞬間伸長弾性率が30〜75%であることが必要である。この範囲内であれば、本縫での可縫性が優れたものとなる。5%伸長時の瞬間伸長弾性率が30%未満の場合には、本縫の可縫性は向上するものの、上記の破断伸度範囲を満足することができない。また、75%を超える場合には、本縫での上糸ループの形状が小さくなるため、縫目形成が困難となり、可縫性が不良となる。本発明の縫糸は、20%伸長時の伸長弾性率が60%以上、より好ましくは60〜90%である。伸長弾性率がこの範囲にあると、伸縮性布帛を縫製した場合に布帛との追従性が良好となる。更に、本発明の縫糸は、30%伸長時の伸長弾性率が60%以上、より好ましくは60〜80%である。伸長弾性率がこの範囲にあると、特に高い伸縮性を有する布帛を縫製した場合に布帛との追従性が良好となる。
本発明の縫糸は、破断強度が1.0〜4.5cN/dtex、特に2.5〜4.0cN/dtexを有することが好ましい。破断強度が1.0cN/dtex未満では、布帛縫製品に十分な縫目強力を付与することが困難であり、一方、破断強度が4.5cN/dtexを超えると、縫糸は破断伸度が低いものとなり、布帛縫製品の縫目ストレッチ性が著しく低くなり、その着用感が劣るものとなる場合がある。
本発明の縫糸は、紡績糸の繊度、紡績糸の合糸数、諸糸とする場合の撚数や撚糸方向について特に限定されない。番手は、縫糸の用途、要求仕様に対応して、ポリエステル縫糸に関する規格(JIS−L−2511)に準じて適宜選定することができる。例えば、縫糸番手#5、#8、#10、#20、#30、#40、#50、#60、#80、#100などに合わせて適宜に選定することができる。
縫糸を構成する場合、ポリトリメチレンテレフタレート系短繊維からなる紡績糸に、更に撚糸を付与してもかまわない。紡績糸の合糸本数は2本引き揃えて撚り合わせた2子撚糸(双糸撚糸)、3本を引き揃えて撚り合わせた3子撚糸、又、予め2本を引き揃えて撚り合わせたものを更に3本引き揃えた2本×3本の撚糸など種々のものを選定することができる。通常、上撚数については下撚り(紡績糸の場合は実撚数)1に対し上撚りを(〔撚り合わせ本数〕−0.5×0.85)倍〜(〔撚り合わせ本数〕−0.5×1.15)倍として撚りビリができるだけ発生しないようにするのが望ましい。しかし、2本×3本撚糸等の場合、中撚り1に対する上撚りの回数は上記の通りに撚糸することで撚りビリが抑えられるので、必ずしも、下撚り(紡績糸の実撚)1に対する中撚りの関係は上記の通りで無くても構わない。また上撚りの方向は、基本的にはZ方向とするのがよいが、2本針本縫い縫糸などの縫糸ではS撚、Z撚両方を用いる方がよい場合もあり、特に限定するものではない。
次に、本発明の縫糸の製造方法について述べる。
本発明の縫糸は、前述した物性を有する所望繊度の紡績糸(紡績糸の撚方向は同方向、異方向を含む)を引き揃えて合撚するか、該合撚糸を引き揃えて合撚して得られる複合合撚糸(以下、単に合撚糸という)を調製した後、該合撚糸で巻糸体を作成し、この状態にて90℃以上で湿熱処理することによって製造することができる。
ここに、紡績糸の引き揃え本数、合撚の回数および合撚で付与される撚り方向、撚り数などは既知の縫糸の設計仕様に準じて適宜選択され、イタリー式撚糸機などの既知の合撚機を用いて所定のプライからなる合撚糸を調製させる。
合撚糸の巻糸体は、合撚糸をその合撚の最終過程でソフトワインド機などの巻き取り手段により紙管などのボビン上に所定の糸巻き密度を有する合撚糸のコーンもしくはチーズである。
湿熱処理は、過熱蒸気もしくは90℃以上の水を巻糸体層に少なくとも10分以上貫通して循環させることによって行われる。この湿熱処理がパッケージ精練機または染色機を用いる縫糸の精練または染色加工を兼ねて行なわれることが便利であり、最も好ましい。パッケージ精練機または染色機を用いることにより、湿熱媒体を巻糸体の所定密度の合撚糸層にアウト−インまたはイン−アウトで所定時間循環させることで、糸層を乱さないで均一に弛緩でき縫糸の表面および内層部の構造と物性を所定の条件に調整することができる。湿熱処理を受ける合撚糸の巻糸体の巻き密度は0.25〜0.7g/cmに形成されていることが好ましい。巻き密度が0.25g/cm未満では巻糸体の形状が不安定でパッケージ精練機や染色機内での巻糸体の形態が崩れ易く、縫糸が不均一になったり、合撚糸を染色する場合では均一な染色液の通液が行われないために染め斑や物性斑が生じるおそれがある。
一方、巻き密度が0.7g/cmを超えると精練、染色中に縫糸の熱収縮により巻糸体の巻き糸密度が高くなり、染色液の通液性が阻害され巻糸体の内外層で染着斑や物性斑が生じ易くなる。また、必要に応じて、パッケージ精練、染色で十分な均染性、均一物性を得るために、巻糸体の巻き密度を0.25〜0.7g/cmにする以外にも、チーズに巻く糸管をつぶれ糸管を用いて、前記の適性巻き密度でソフトワインドを行い、パッケージ染色時に糸収縮により巻糸体の巻き密度が高くなるのを糸管がつぶれることにより防ぐ方法や、糸管に形成した所定の巻き密度の巻糸体を差し替え率が5〜30%、好ましくは5〜15%の多数の通液孔が設けられた通液処理ボビンと差し替えて湿潤熱処理する方法が好適な方法である。ここで、差し替え率(%)は、巻き取り機の巻き取り紙管などの巻き取りボビンの外径をAとし、通液ボビンの外径をBとした場合、(1−〔B/A〕)×100で求められる値である。
縫糸の収束性や可縫性を向上させる目的で、精練後もしくは、染色後脱水してから可縫性向上剤、平滑剤や収束剤液を巻糸体に循環させて付着させてもよく、湿潤処理後の巻糸体の染色乾燥後に連続糸処理機(巻糸体から糸を連続解舒しながら加工剤液を付着させ乾燥して巻き取る装置:例えばユニサイザー〔株〕梶製作所製)を用いて付着させても良い。可縫性向上剤、平滑剤としては、シリコーン系化合物、ポリエチレン系エマルジョン、ワックス系化合物等が挙げられる。収束剤としては、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。
合撚糸の湿熱処理を精練法で行う方法は、原糸油剤などを除去する精練剤、例えばノニオン系界面活性剤、炭酸ソーダなどを添加した精練液を用いて、50〜100℃で10〜30分行う方法が有る。染色方法で行う方法は、合撚糸の精練に続いて分散染料を用い分散剤、酢酸を添加した染液を巻糸体に対しアウト−イン、イン−アウト又はイン−アウト−アウト−インで循環させながら、染色温度は90〜130℃で15〜120分、より好ましくは110〜130℃で行い、より短時間で均一な所定の物性を有する染色ミシン糸を製造することができる。染色における巻糸体の巻き密度を0.25〜0.7g/cmにし、染色チューブ(通液処理ボビン)への差し替え率を5〜30%にしてパッケージ染色法で得られる縫糸は、均染性と湿熱処理による縫糸物性の均一化が同時に達成されているので特に好ましい。
本発明において伸縮性布帛とは、経及び/又は緯方向の伸長率が5〜200%の布帛を意味する。ここでいう伸長率とは、引張側を布帛の経方向及び緯方向とした140mm×165mm(引張側×拘束側)の大きさの2種の試料を用意し、それぞれの試料を、速度60cm/分で引張り、伸長応力曲線を描き、この曲線から幅5cm当たり2kgの応力が加わったときの布帛の伸度を算出したものをいう。なお、この測定にはカトーテック社製2軸伸長試験機(KES−G2型)を用いる。布帛の形態としては織物、編物、不織布が挙げられるが特に織物、編物が好ましい。これらの布帛に伸縮性を付与する手段としては、布帛を構成する糸条の伸縮性を利用したものや組織の伸縮性を利用したもの、及びこれらの組み合わせを利用したものが挙げられる。具体例としては、ポリウレタン系繊維のベア使いやカバリング等の複合糸を用いたもの、仮撚加工で糸条に捲縮を与え伸縮性を利用したもの、更にはこれらを混用したものなどである。組織に伸縮性を付与した具体例としては、丸編、経編、横編が代表例として挙げられる。
本発明の伸縮性布帛の具体例としては、以下の例が挙げられる。
シャツ、ブラウス、作業着、ユニフォーム、スラックス、ジャケット、スーツ、コート等の伸長率が10〜25%を示すもの、スポーツジャケット、トレーニングウェア、プレイウェア、Tシャツ、肌着、セーター類等の伸長率が20〜40%を示すもの、更に、ファンデーション類、レオタード、水着、スキーウェア、スケートウェア等の40〜200%の伸長率を示すものである。本発明の縫糸はこれら全ての伸縮性布帛を縫製することができるが、20%以上、特に60%以上の伸長率を有する布帛においても縫目のストレッチ性が優れ、得られた縫製品は圧迫感がなく着心地に優れる効果が得られるので好ましい。
本発明の縫糸は、ミシン糸(工業用、資材用、家庭用)、としての使用に限定されるものではなく、手縫糸、芯糸、リンキング糸、刺繍糸等に使用しても構わない。
発明の実施の最良の形態
以下、実施例などにより本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例における評価は以下の方法により測定した。
(1)破断強度、破断伸度
JIS−L−1095の一般紡績糸の試験方法に定める初荷重を加え、定速伸長型引張試験機のつかみ間隔を30cm、引張速度を1分間あたりつかみ間隔の100%として引張試験を行い、破断強度(cN/dtex)、破断伸度(%)=破断時の伸びのつかみ間隔に対する比を求める。
(2)瞬間伸長弾性率の評価
5%伸長時の瞬間伸長弾性率は、試料に0.882cN/dtexの初荷重をかけ、つかみ間隔を20cm、引張速度を毎分つかみ間隔の5%で伸長し、伸度5%になったところで今度は逆に同じ速度で収縮させて、応力−歪曲線を画く。収縮中、応力が初荷重と等しい0.882cN/dtexにまで低下した時の残留伸度をL(%)とし、下記式で算出した。
5%伸長時の瞬間伸長弾性率=〔(5−L)/5〕×100(%)
(3)伸長弾性率の評価
紡績糸に、JIS−L−1095の一般紡績糸の試験方法に定める初荷重を加え、伸長弾性率試験方法(A法)に準じて、定速伸長型引張試験機のつかみ間隔を20cm、引張速度を1分間あたりつかみ間隔の100%として一定伸びL(20%=4cm、30%=6cm)まで引き伸ばし、1分間放置後、同じ速度で元の長さまで戻し、3分間放置後、再び同じ速度で初荷重の加わる点L1まで引き伸ばし、次の式によって伸長弾性率(%)を求める。
伸長弾性率(%)=〔(L−L1)/L〕×100
なお、試験回数は5回とし、その平均値を求めた。
(4)固有粘度[η]の測定
固有粘度[η](dl/g)は、次式の定義に基づいて求められる値である。
[η]=lim(ηr−1)/C
C→0
定義中のηrは純度98%以上のo−クロロフェノール溶媒で溶解したポリマーの稀釈溶液の35℃での粘度を、同一温度で測定した上記溶媒の粘度で除した値であり、相対粘度と定義されているものである。Cはg/100mlで表されるポリマー濃度である。
(5)縫製品の評価
▲1▼縫目のストレッチ性評価
28GGの丸編機にてポンチローマ組織を次の糸配列にて編成した。
・インターロック部:
ポリエチレンテレフタレート(カチオン可染糸)56dtex/キュプラ33dtex混繊糸
・シリンダーの天竺部:
ポリエチレンテレフタレート(カチオン可染糸)56dtex/キュプラ33dtex混繊糸
・ダイヤルの天竺部:
ポリウレタン系弾性繊維(旭化成社製商品名ロイカ)22dtexを2.5倍に伸長しつつ、インターロック部と同じ混繊糸と引き揃えて給糸編成した編地を、それぞれ精練、プレセット(180℃)、100℃にて2浴30分染色後、170℃で仕上げした。得られた伸縮性編地(以下編地という)をカトーテック社製2軸伸長試験機を用いてストレッチ率を測定した結果、2kg/5cmの条件下で経140.0%、緯88.5%であった。
この編地を経10cm、緯20cmの大きさに採取し、経方向の中央部をJUKI(株)製の本縫いミシン(DDL−555)を用いて、ミシン針11番Jポイント針、運針数5針/cm、回転数1000rpmの条件で縫製後、東洋ボールドウィン社製テンシロンを用い、JIS−L−1093のグラブ法に準じて縫目と平行方向に伸長し、伸長率60%並びに100%の時の応力A(cN/cm)を測定した。次いで、縫製前の編地も同様に、伸長率60%並びに100%の時の応力B(cN/cm)を測定した。
縫目のストレッチ性は伸長率60%並びに100%の時における両者の差(応力A−応力B)で評価した。この値が小さい方がストレッチ性に優れている。
▲2▼着用感の評価
▲1▼で得られた編地を用いて次の条件でスパッツを作製した。
・サイズ・・・9号
・地の目・・・緯方向
・ゆとり率・・・マイナス5%
・縫製条件・・・本縫い :JUKI(株)製(DDL−555)
ミシン針:11番Jポイント針
運針数 :5針/cm
回転数 :1000rpm
標準サイズのパネラー5名を選出し、上記スパッツを着用、階段昇降及び屈伸さらに自転車こぎの動作を行うことによる着用感を◎(極めて快適)、○(快適)、△(やや快適)、×(不快)の4段階で評価した。
(6)本縫可縫性評価
(5)の▲1▼で得られた編地を経10cm、緯100cmの大きさに採取し、経方向の中央部をJUKI(株)製の本縫いミシン(DDL−555)を用いて、ミシン針11番Jポイント針、運針数5針/cm、回転数4000rpmの条件で3枚を連続縫製した。可縫性評価はミシン縫製時の糸切れ性及び縫目外観の評価した。下記は評価の基準である。
「糸切れ性」
○:3枚の縫製で糸切れが発生せず。
△:3枚の縫製で糸切れが1回以内。
×:3枚の縫製で糸切れが2回以上。
「縫目外観」
○:縫目が均一で、目飛び、パッカリングがない
△:縫目が不均一である
×:目飛びのあるもの、またはパッカリングのあるもの
【実施例1】
[η]=0.92のポリトリメチレンテレフタレートを紡糸温度265℃、紡糸速度1200m/分で紡糸して未延伸糸を得、次いで、ホットロール温度60℃、ホットプレート温度140℃、延伸倍率3倍、延伸速度800m/分で延撚して、84dtex/50fの延伸糸を得た。延伸糸の強度、伸度並びに弾性率は、各々3.5cN/dtex、45%並びに25.3cN/dtexであった。得られた延伸糸200本を束にし、精練工程にて長繊維用の仕上げ剤を除去した後、ラウリル燐酸エステルカリウム塩を主成分とする紡績用油剤を0.1%owf付与し、スチーム処理工程で110℃の条件で熱処理をした後、スタッファボックスを用いて95℃の条件で押込み捲縮加工を行い、ECカッターを用いて繊維長38mmの長さに切断してポリトリメチレンテレフタレート系短繊維を得た。得られたポリトリメチレンテレフタレート系短繊維の捲縮数は16.4個/25mm、捲縮率は15.8%であった。
得られたポリトリメチレンテレフタレート系短繊維を通常の綿紡方式の紡績工程に投入し、リング精紡機で紡績糸を製造し、80℃×15分の条件で真空セッターを用いて撚り止めセットを行った。得られた紡績糸の番手は綿番手で20/1(296dtex)、撚り係数Kは3.3(撚数S14.76T/2.54cm)であり、その物性は表1に示した。
得られた紡績糸2本をイタリー撚糸機で820t/m(Z方向)の上撚りを加え双糸を得た。得られた双糸を神津社製ソフトワインダーを用い紙管径78mmの紙管に巻き密度0.40g/cmで1kg巻きした。このチーズを外径69mmの染色チューブ(通液処理ボビン)に差し替え、パッケージ染色機(日阪製作所社製)にセットして、花王社製スコアロールFC−250(1g/リットル)を添加して流量40リットル/minで常温から2℃/minの昇温速度で60℃昇温し、60℃で10分間精練を行った。精練後、脱液、水洗を行い分散染料(ダイスター社製:Dianix YellowAC−E0.06%omf、Dianix Blue AC−E0.08%omf、Dianix RedACE0.06%omf)、分散剤(明成化学社製:ディスパーTL0.5g/リットル)を加え、更に酢酸にてpH5に調整した後、流量40リットル/minでイン−アウトで染液を循環し、2℃/minの昇温速度で120℃まで昇温し、120℃で30分染色を行った。染色後脱液、水洗を行った後、シリコーン系油剤(大日本インキ社製:ディックシリコーンソフナー500)を5%omf添加し50℃で20分オイリング処理を行った。脱水後、乾燥を行い#50相当の縫糸を得た。得られた縫糸の均染性は優れていた。この縫糸の物性は表2に、縫糸を用いた縫製品の着用感及び本縫可縫性の評価結果は表3に示した。
この縫糸は本縫可縫性に優れ、縫目外観も良好で、縫目ストレッチ性に優れた縫糸であり、得られた縫製品は圧迫感が無く着心地に優れたものであった。
[比較例1]
実施例1のポリトリメチレンテレフタレート系短繊維の代わりに繊度1.7dtex、繊維長38mmのポリエチレンテレフタレート短繊維を用い、パッケージ染色での染色温度を130℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法で紡績糸を製造し、合撚糸、パッケージ染色を行って縫糸を得た。尚、紡績糸の物性は表1、縫糸の物性は表2、縫糸を用いた縫製品の着用感及び本縫可縫性の評価結果は表3に示した。
この縫糸はポリエチレンテレフタレート系短繊維100%であるため、縫目ストレッチ性に劣るものであり、得られた縫製品は圧迫感を強く感じ、着心地が悪いものであった。
【実施例2】
実施例1で用いたポリトリメチレンテレフタレート系短繊維を30wt%、比較例1で用いたポリエチレンテレフタレート短繊維を70wt%の割合で練条工程にて混紡し、パッケージ染色での染色温度を130℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法で紡績糸を製造し、合撚糸、パッケージ染色を行って縫糸を得た。尚、紡績糸の物性は表1、縫糸の物性は表2、縫糸を用いた縫製品の着用感及び本縫可縫性の評価結果は表3に示した。
この縫糸は本縫可縫性に優れ、縫目外観も良好で、縫目ストレッチ性に優れた縫糸であり、得られた縫製品は圧迫感が無く着心地に優れたものであった。
【実施例3】
実施例2のポリトリメチレンテレフタレート系短繊維とポリエチレンテレフタレート短繊維の混率を70wt%と30wt%に変更した以外は実施例2と同様に行って縫糸を得た。なお、紡績糸の物性は表1、縫糸の物性は表2、縫糸を用いた縫製品の着用感及び本縫可縫性の評価結果は表3に示した。この縫糸は本縫可縫性に優れ、縫目外観も良好で、縫目ストレッチ性に優れた縫糸であり、得られた縫製品は圧迫感が無く着心地に優れたものであった。
【実施例4】
固有粘度の異なる二種類のポリトリメチレンテレフタレートを重量比率1:1で偏芯鞘芯型(高粘度側が芯部)に押し出し、紡糸温度265度、紡糸速度1500m/分で未延伸糸を得た。次いで、ホットロール温度55℃、ホットプレート温度140℃、延伸速度400m/分で、延伸倍率は延伸後の繊度が84dtexとなるように設定して延撚し、84dtex/36fの偏芯鞘芯型複合マルチフィラメントを得た。得られた複合マルチフィラメントの固有粘度は、高粘度側が[η]=0.92、低粘度側が[η]=0.70であった。
得られた複合マルチフィラメントを用い、スタッファボックスによる押込み捲縮加工を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして繊維長38mmのポリエチレンテレフタレート系短繊維を得た。得られたポリトリメチレンテレフタレート系短繊維の捲縮数は13.2個/25mm、捲縮率は17.5%であった。
得られたポリトリメチレンテレフタレート系短繊維を実施例1と同様の方法で紡績糸を製造し、合撚糸、パッケージ染色を行って縫糸を得た。尚、紡績糸の物性は表1、縫糸の物性は表2、縫糸を用いた縫製品の着用感及び本縫可縫性の評価結果は表3に示した。この縫糸は本縫可縫性に優れ、縫目外観も良好で、縫目ストレッチ性に優れた縫糸であり、得られた縫製品は圧迫感が無く着心地に優れたものであった。
[比較例2]
[η]=0.8のポリトリメチレンテレフタレートを紡糸温度265℃、紡糸速度1200m/分で未延伸糸を得、次いで、ホットロール温度60℃、ホットプレート温度140℃、延伸倍率3倍、延伸速度800m/分で延撚して、84dtex/36fの延伸糸を得た。延伸糸の物性は表1に示した。
得られたポリトリメチレンテレフタレート繊維マルチフィラメント原糸1本をイタリー撚糸機にて800t/m(S方向)の下撚りをかけ、それを3本引き揃えて600t/m(Z方向)の上撚りを加え3子撚糸を得た。
得られた3子撚糸を実施例1と同様にして縫糸を得た。
尚、糸の物性は表1、縫糸の物性は表2、縫糸を用いた縫製品の着用感及び本縫可縫性の評価結果は表3に示した。
この縫糸は5%伸長時の瞬間伸長弾性率が90%と高く、縫目ストレッチ性に優れた縫糸であり、得られた縫製品は圧迫感が無く着心地に優れたものであったが、本縫可縫性に劣るものであった。



【産業上の利用可能性】
本発明の縫糸は、本縫可縫性に優れ、縫目外観が良好で、縫目ストレッチ性に優れた伸縮性縫糸であり、伸縮性布帛の縫製に優れた適応性を発揮する縫糸である。本発明の縫糸の使用により得られる縫製製品は、動的追従性に優れた縫合部の縫目が形成されているので、圧迫感が軽減された着心地に優れた縫製衣料を提供することができる。本発明の縫糸の使用により、縫合布帛の伸縮に動的に追従することができる美観に優れた縫目を有する伸縮性布帛縫製品を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリトリメチレンテレフタレート系短繊維を少なくとも30wt%以上含有する縫糸であって、破断伸度が30%〜100%、5%伸長時の瞬間伸長弾性率が30〜75%であることを特徴とする縫糸。
【請求項2】
20%伸長時の伸長弾性率が60%以上であることを特徴とする請求項1記載の縫糸。
【請求項3】
30%伸長時の伸長弾性率が60%以上であることを特徴とする請求項1記載の縫糸。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載された縫糸による縫目が形成されていることを特徴とする布帛縫製品。
【請求項5】
布帛縫製品が伸縮性布帛縫製品であることを特徴とする請求項4記載の布帛縫製品。

【国際公開番号】WO2004/063442
【国際公開日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−507972(P2005−507972)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000065
【国際出願日】平成16年1月8日(2004.1.8)
【出願人】(302071162)ソロテックス株式会社 (45)
【Fターム(参考)】