説明

繁殖用雌牛の飼育方法

【課題】発情回帰日数の短縮、分娩間隔日数の短縮、受胎率の向上や子牛生時体重の増加などによる繁殖用雌牛の繁殖成績を向上させることができる。
【解決手段】融点が−60〜40℃で、ヨウ素価が30〜470の範囲にあり、かつ分子内に二重結合2〜6個を有する炭素数12〜24の脂肪酸の金属塩を含有する飼料を、少なくとも、分娩前30日から、分娩後人工授精による受胎までの間に、上記脂肪酸に換算して1日1頭当たり20〜200g給与する、繁殖用雌牛の飼育方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繁殖用雌牛の飼育方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリグリセリド、脂肪酸など一般にいう脂質は三大栄養素のうち特にエネルギー源として優れており、古くから畜産用飼料に広く用いられているが、これらトリグリセリド、脂肪酸は、エネルギーを効率的に供給することを目的として一般の配合飼料に混合して用いられてきたものであり、特定の脂肪酸の生理活性などに注目して繁殖効率等の改善を目的として使用されたものではなかった。
一方、脂質の一種である脂肪酸カルシウムは、高エネルギー飼料として高泌乳牛やその他の家畜のエネルギー源として、特に暑熱時のエネルギー補給用に広く用いられている(非特許文献1参照)。また、脂肪酸カルシウムのその他の用途として、肉牛の育成時、ルーメンの発達のため牧草を中心に給与する際、不足しがちなエネルギーの供給にこの脂肪酸カルシウムを用いることにより健全なルーメンの発育と良好な増体を得る方法(非特許文献2参照)、魚油脂肪酸カルシウムを牛、ブタに給与し、エイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸を肉中に導入させる方法(特許文献1参照)、乳牛にアマニ油脂肪酸カルシウムを給与し、牛乳中にα−リノレン酸を導入させる方法(非特許文献3参照)などが知られている。
【0003】
以上のように、脂肪酸カルシウムは従来から広く飼料素材として利用されているが、これらの利用は、(1)効率的なエネルギー供給による増体、産乳などの改善、あるいは、(2)牛肉、牛乳、豚肉、鶏肉、鶏卵などの畜産物にある種の脂肪酸を導入する目的でされたものがほとんどであった。
近年、これら脂質の新しい用途として、特定の不飽和脂肪酸の生理活性に着目して、乳牛の繁殖に利用しようとする試みがなされている(非特許文献4参照)。また、これらの不飽和脂肪酸は、受精卵の死亡率を低下させ、その結果牛受胎率を向上させることも報告されている(非特許文献5参照)。
しかし、反芻動物である乳牛や黒毛和牛などに対して、不飽和脂肪酸やそのトリグリセリドをそのまま給与すると、第一胃(ルーメン)内の粗飼料繊維の表面を脂質が被覆し微生物発酵を阻害し、また脂質が持つ微生物への毒性作用によって第一胃内の微生物相に変化を与えるため、粗飼料の消化吸収率が低下し、代謝への悪影響が懸念される(非特許文献6参照)。このことから、第一胃内への影響を与えることなく脂肪酸カルシウムによって、繁殖成績を向上させようとする試みはいまだなされていない。
【0004】
【特許文献1】特開平8−289734号公報
【非特許文献1】「牛飼料への油脂利用資料集」全国酪農業協同組合連合会、1988年
【非特許文献2】「肉牛ジャーナル、2月号、3月号、7月号、8月号、9月号」寺田隆慶、1997年
【非特許文献3】「日畜会報」66巻、10号、889−897.石田修三他、1995年
【非特許文献4】「臨床獣医」14巻、7号、33−39、西貝正彦、1996
【非特許文献5】Thatcher,W,W,et.al、J.Anim.Sci.72(Suppl.3)16−30.1994
【非特許文献6】「牛飼料への油脂利用資料集」全国酪農業協同組合連合会、1988年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、(1)発情回帰日数の短縮、(2)分娩間隔日数の短縮、(3)受胎率の向上、(4)子牛生時体重の増加などにより、繁殖成績を向上させる繁殖用雌牛の飼育方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、この飼育方法に好適に用いられる繁殖用雌牛用飼料を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、融点及びヨウ素価が特定の範囲内にあり、かつ分子内に複数の二重結合を有する所定の炭素数を持つ脂肪酸の金属塩を、飼育時特定の期間、繁殖用雌牛に給与することで、上記本発明の目的を達成し得ることを見出した。本発明はかかる知見により完成したものである。
すなわち、本発明は、融点が−60〜40℃で、ヨウ素価が30〜470の範囲にあり、かつ分子内に二重結合2〜6個を有する炭素数12〜24の脂肪酸の金属塩を含有する飼料を、少なくとも、分娩前30日から、分娩後人工授精による受胎までの間に、上記脂肪酸に換算して1日1頭当たり20〜200g給与する、繁殖用雌牛の飼育方法、に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の飼育方法によれば、(1)発情回帰日数の短縮、(2)分娩間隔日数の短縮、(3)受胎率の向上、及び(4)子牛生時体重の増加、などにより、繁殖用雌牛の繁殖成績を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の繁殖用雌牛の飼育方法は、融点が−60〜40℃で、ヨウ素価が30〜470の範囲にあり、かつ分子内に二重結合2〜6個を有する炭素数12〜24の脂肪酸の金属塩を含有する飼料を、少なくとも、分娩前30日から、分娩後人工授精による受胎までの間に、上記脂肪酸に換算して1日1頭当たり20〜200g給与するものである。
本発明においては、飼料として、上記特定の性状を有する脂肪酸の金属塩が繁殖用雌牛に給与される。
表1に代表的な脂肪酸の炭素数、二重結合数、融点及びヨウ素価を示す。
【0009】
【表1】

【0010】
本発明においては、上記脂肪酸として、生理活性作用の点から、融点が−60〜40℃、好ましくは−55〜0℃、より好ましくは−50〜0℃であり、また、ヨウ素価が30〜470、好ましくは100〜470、より好ましくは150〜470の範囲にあり、かつ分子内に二重結合を2〜6個有する、炭素数12〜24、好ましくは16〜24、より好ましくは18〜24の脂肪酸が用いられる。
このような脂肪酸としては、具体的には、リノール酸、リノレン酸、ビスホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸及びエイコサペンタエン酸の中から選ばれる少なくとも一種を好ましく挙げることができる。
【0011】
前記例示の各脂肪酸は、例えば大豆油、菜種油、コーン油、紅花油、ヒマワリ油、米ぬか油、シソ油、月見草油、ボラージ油、アマニ油などの植物油や、カツオ、サバ、イワシ、マグロなどからの魚油、更にはハエカビ目のConidiobolus属、Entomophthora属、ケカビ目のMortierella属など各種の微生物由来のトリグリセリドなどの油脂を加水分解又は精製処理することにより、得ることができる。本発明においては、家畜飼料として大量に入手可能である点から、好ましくは大豆油、菜種油、ヒマワリ油、ボラージ油、アマニ油等の油脂が使用できる。
本発明においては、上記油脂の中で、前記融点が−60〜40℃で、ヨウ素価が30〜470の範囲にあり、かつ分子内に二重結合2〜6個を有する炭素数12〜24の脂肪酸の含有量が高いものを用いることが望ましく、リノール酸、リノレン酸、ビスホモ‐γ‐リノレン酸、アラキドン酸及びエイコサペンタエン酸の含有量が高いものを用いることがより好ましく、このようなものとして、大豆油、菜種油、ヒマワリ油、ボラージ油、アマニ油等の油脂が好ましく使用できる。
【0012】
上記脂肪酸の金属塩としては、家畜に対する必須ミネラル成分である点から、前記の各種脂肪酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩が好適であり、これらは一種で用いてもよく、二種を組み合わせて用いてもよい。このような脂肪酸の金属塩は常温では固体であり、取り扱いの容易さ及び飼料に混和し易さの点で、また、反芻動物のルーメンへの影響を考慮して、脂質の中ではこの脂肪酸金属塩が好ましく、特に固体粉末状あるいは顆粒状の脂肪酸カルシウムや脂肪酸マグネシウムを用いることがより好ましい。なお、この脂肪酸の金属塩の製造方法については、後で説明する
【0013】
本発明においては、雌牛に給与される飼料は、融点が−60〜40℃で、ヨウ素価が30〜470の範囲にあり、かつ分子内に二重結合2〜6個を有する炭素数12〜24の脂肪酸を、好ましくは20〜99重量%、より好ましくは25〜99重量%、更に好ましくは30〜99重量%の割合で含有する脂肪酸金属塩を含む。この含有量が上記範囲内であれば、1日当たり20g以上の上記脂肪酸を供給しうることから、過剰の脂質を供給する必要がなく、その結果エネルギー過剰による過肥の問題から繁殖効率が低下する恐れや、他の栄養素(炭水化物、蛋白質など)の含量が相対的に低下する恐れもない。
【0014】
本発明においては、上述の脂肪酸金属塩を基礎飼料に混合して、飼料として用いる。使用しうる基礎飼料としては、繁殖用雌牛用配合飼料として一般に販売されている飼料がいずれも使用でき、例えば、表2に示される配合のものが使用できる。
【0015】
【表2】

【0016】
基礎飼料と前記脂肪酸金属塩との混合割合は、繁殖成績に及ぼす効果の点から、上記脂肪酸に換算して1日1頭当たり20〜200g、好ましくは30〜200g給与しうるように決定するのがよく、なお、1日当たりの雌牛の飼料摂取量は雌牛の品種により異なるが、栄養要求量の点から、1日1頭当たり7〜25kgであることが一般的である。
このような飼料は、脂肪酸金属塩と基礎飼料を混合しただけの粉末状、いわゆるマッシュタイプで用いてもよいし、適当な押出成形機を用いてペレット化して用いてもよい。
【0017】
前記脂肪酸の金属塩は、脂肪酸と金属酸化物又は金属水酸化物との反応によって製造することができ、例えば、(1)湿式直接法、(2)複分解法、(3)乾式直接法などの方法(例えば吉田時行他編、金属石鹸の性質と応用、幸書房、1988年参照)が知られているが、本発明においても、前記の脂肪酸を多く含み、融点の低い脂肪酸金属塩を効率よく製造する方法としては、特に制限されるものではないが、高い反応率が得られて製造能力の高い方法として、脂肪酸と金属酸化物又は金属水酸化物とを反応させるに際し、混合、撹拌器としてエクストルーダを用いる製造方法が好ましく用いられる。
【0018】
本発明の繁殖用雌牛の飼育方法においては、上記飼料を、少なくとも、分娩前30日から、分娩後人工授精による受胎までの間に、上記脂肪酸金属塩中の上記脂肪酸に換算して1日1頭当たり20〜200g給与する。
本発明においては、上記飼料を、上記脂肪酸金属塩中の上記脂肪酸に換算して1日1頭当たり20〜200g給与するが、好ましくは30〜200g給与する。給与量が上記範囲内であれば、これらの脂肪酸金属塩の効果が十分に発揮され、エネルギー過剰による悪影響もない。なお、1日当たりの飼料摂取量は雌牛の品種により異なるが、前述のとおり、1日1頭当たり7〜25kgであることが一般的である。すなわち、本発明においては、飼料として1日1頭当たり7〜25kg、かつ上記脂肪酸金属塩中の上記脂肪酸に換算して、1日1頭当たり20〜200gの割合で給与するのが好ましい。
【0019】
本発明の飼育方法においては、上記飼料の繁殖用雌牛への給与期間は、少なくとも、分娩前30日から、分娩後人工授精による受胎までの間である。本発明においては、少なくとも、分娩前30日から分娩の間に、飼料を、総量で上記脂肪酸金属塩中の上記脂肪酸に換算して0.6〜6kg程度給与することが好ましく、0.9〜6kg程度給与することがより好ましく、また、好ましくは上記期間の少なくとも80%以上の期間、より好ましくは90%以上の期間、更に好ましくは毎日給与する。
また、分娩から人工授精による受胎までの間においては、飼料を、総量で上記脂肪酸金属塩中の上記脂肪酸に換算して2.4〜24kg程度給与することが好ましく、3.6〜24kg程度給与することがより好ましく、また、好ましくは上記期間の少なくとも80%以上の期間、より好ましくは90%以上の期間、更に好ましくは毎日給与する。
【0020】
本発明においては、少なくとも、分娩前30日から、分娩後人工授精による受胎までの間に、飼料を、総量で上記脂肪酸金属塩中の上記脂肪酸に換算して3.0〜30kg程度給与することが好ましく、4.5〜30kg程度給与することがより好ましく、また、好ましくは上記期間の少なくとも80%以上の期間、より好ましくは90%以上の期間、更に好ましくは毎日給与する。
【0021】
本発明においては、上記期間内に所要給与量を満たす場合は、繁殖成績向上効果が充分となり好ましい。また、上記給与期間より長く給与してもそれ以上の効果は得られない。また、本発明においては、少なくとも、分娩前30日から飼料を給与することが上記効果の点で必要であるが、それ以前から、給与することも可能であり、例えば、分娩前40日位から給与することが好ましく、50日前から、更には60日前から給与することも有効であるが、本発明の効果の点から、給与開始の日は、分娩前40日以降であることが好ましい。
本発明の飼育方法は、人工授精による雌牛に適用するのが、最も一般的な繁殖方法である点から好ましい。なお、本発明において、「人工授精による受胎までの間」の「人工授精による受胎」は、獣医師等の資格者による妊娠鑑定により確認され、具体的には、卵巣に妊娠黄体が確認された日を「人工授精による受胎」の日とする。また、「分娩前30日」の日は、当該雌牛の人工受精による受胎の日から一般に周知された280日目を分娩の日の目安とし、これから適宜設定することができる。
【0022】
本発明においては、上記飼育方法により、(1)発情回帰日数の短縮、(2)分娩間隔日数の短縮、(3)受胎率の向上、(4)子牛生時体重の増加、などが可能となり、これにより、繁殖用雌牛の繁殖成績を向上させることができる。本発明によれば、(1)発情回帰日数を、例えば黒毛和種で60日以下、ホルスタイン種で90日以下、更には黒毛和種で50日以下、ホルスタイン種で80日以下とすることができ、また、(2)分娩間隔日数を、例えば黒毛和種で360日以下、ホルスタイン種で420日以下、更には黒毛和種で350日以下、ホルスタイン種で410日以下とすることができ、(3)受胎率を、例えば黒毛和種で60%以上、ホルスタイン種で50%以上、更には黒毛和種で65%以上、ホルスタイン種で55%以上とすることができ、更には、(4)子牛生時体重を、例えば黒毛和種で30kg以上、ホルスタイン種で43kg以上、更には黒毛和種で35kg以上、ホルスタイン種で45kg以上とすることができる。
【実施例】
【0023】
次に、実施例等により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
製造例1〜6
水400kgを入れた反応槽に微粉状の水酸化カルシウム20kg(井上石灰工業(株)製)を加え、良く撹拌し分散させる。攪拌しながらこの反応槽に予め60℃に加温した脂肪酸100kgを30分で滴下し、中和反応させる。滴下終了後1時間の攪拌、熟成を行った後、ろ過して脂肪酸カルシウムを集め、このろ過物を80℃で3時間熱風乾燥して、各脂肪酸カルシウム120kgを得た。各脂肪酸カルシウムの脂肪酸組成(重量%)を表3に示す。なお、エクストラα−リノレニック70は日本油脂(株)の製品である。
【0024】
製造例7
EA−100型エクストルーダ〔(株)スエヒロEPM製〕の第1バレル原料投入口より、予め40℃に加温したエクストラビスホモ−γ−リノレニック90(EBLN−90、日本油脂(株)製)を100kg/h、水酸化カルシウム20kg/hの割合で供給した。第1バレル上部にある注入口より、水を3kg/hで供給した。第1、第2バレル(原料供給部)ジャケットの温度を70℃、第3、第4バレル(混練・反応部)ジャケットの温度を180℃、第5、第6バレル(冷却部)ジャケットの温度を−10℃にそれぞれ設定し、スクリュー回転数120回転/分で5時間の連続反応を行い、エクストラビスホモ−γ−リノレニック90カルシウム製品が得られた。各脂肪酸カルシウムの脂肪酸組成(重量%)を表4に示す。
【0025】
製造例8
製造例7において、エクストラビスホモ-γ-リノレニック90(EBLN−90)をエクストラアラキドニック90(EAA−90、日本油脂(株)製)にした以外は同様に反応を行い、エクストラアラキドニック90カルシウム製品を得た。脂肪酸カルシウムの脂肪酸組成(重量%)を表4に示す。
【0026】
製造例9
製造例7において、エクストラビスホモ−γ−リノレニック90(FBLN−90)をエクストラEPA90(EEAA−90、日本油脂(株)製)にした以外は同様に反応を行い、エクストラEPA90カルシウム製品を得た。脂肪酸カルシウムの脂肪酸組成(重量%)を表4に示す。
【0027】
製造例10
製造例7において、水酸化カルシウム20kg/hを水酸化マグネシウム16kg/hに、スクリュー回転数120回転/分を100回転/分にした以外は同様に反応を行い、エクストラビスホモ−γ−リノレニック90マグネシウム製品を得た。得られた脂肪酸マグネシウムの脂肪酸組成(重量%)を表5に示す。
【0028】
製造例11
製造例7において、エクストラビスホモ−γ−リノレニック90(EBLN−90)を大豆油脂肪酸に、水酸化カルシウム20kg/hを水酸化マグネシウム16kg/hに、スクリュー回転数120回転/分を100回転/分にした以外は同様に反応を行い、大豆油脂肪酸マグネシウム製品を得た。得られた脂肪酸マグネシウムの脂肪酸組成(重量%)を表5に示す。
【0029】
製造例12
製造例7において、エクストラビスホモ−γ−リノレニック90(EBLN−90)をアマニ油脂肪酸に、水酸化カルシウム20kg/hを水酸化マグネシウム16kg/hに、スクリュー回転数120回転/分を100回転/分にした以外は同様に反応を行い、アマニ油脂肪酸マグネシウム製品を得た。得られた脂肪酸マグネシウムの脂肪酸組成(重量%)を表5に示す。
【0030】
【表3】

【0031】
【表4】

【0032】
【表5】

【0033】
以下の調製例において基礎飼料として用いる粗飼料と配合飼料の組成を表6に示す。
【表6】

【0034】
調製例1〜12
黒毛和牛に給与する飼料として、製造例1、2、4の各々で製造した表3に組成を示す菜種油脂肪酸、大豆油脂肪酸、アマニ油脂肪酸の脂肪酸カルシウム3種類と、製造例7〜9の各々で製造した表4に示すエクストラビスホモ−γ−リノレニック90、エクストラアラキドニック90及びエクストラEPA90の脂肪酸カルシウム3種類と、製造例10〜12の各々で製造したエクストラビスホモ−γ−リノレニック90、大豆油及びアマニ油の脂肪酸マグネシウム3種類を、各々表7に示す量でリボンミキサーにて基礎飼料と混合して、飼料を調整した。得られた飼料を試料1〜12とした。各試料中の脂肪酸金属塩由来のリノール酸、リノレン酸、ビスホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸及びEPA含量を表7に示す。
【0035】
【表7】

【0036】
調製例13〜24
ホルスタイン牛に給与する飼料として、製造例3、5、6の各々で製造した表3に示すヒマワリ油脂肪酸、エクストラα‐リノレニック70脂肪酸、ボラージ油脂肪酸の脂肪酸カルシウム3種類と、製造例7〜9の各々で製造した表4に示すエクストラビスホモ−γ−リノレニック90、エクストラアラキドニック90及びエクストラEPA90の脂肪酸カルシウム3種類と、製造例10〜12の各々で製造した大豆油、アマニ油及びエクストラビスホモ−γ−リノレニック90の脂肪酸マグネシウム3種類を、各々表8に示す量でリボンミキサーにて前記基礎飼料と混合して、飼料を調整した。得られた飼料を試料13〜24とした。試料中の脂肪酸金属塩由来のリノール酸、リノレン酸、ビスホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸及びEPA含量を表8に示す。
【0037】
【表8】

【0038】
調製例25〜31
黒毛和牛に給与する飼料の比較用試料として、表9に組成を示したパーム硬化油、パーム油脂肪酸及び大豆油脂肪酸の3種を用いて、表10に示す量でリボンミキサーにて基礎飼料と混合して、それぞれ飼料を調整した。得られた飼料をそれぞれ試料25〜30とした。また、基礎飼料のみを用いた飼料を調整し、試料31とした。試料中の各脂質由来のリノール酸、リノレン酸、ビスホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸及びEPAの含量を表10に示す。
【0039】
【表9】

【0040】
【表10】

【0041】
調製例32〜38
ホルスタイン牛に給与する飼料の比較用試料として、表9に組成を示したパーム硬化油、パーム油脂肪酸及び大豆油脂肪酸の3種を用いて、表11に示す量でリボンミキサーにて基礎飼料と混合して、飼料を調整した。得られた飼料をそれぞれ試料32〜37とした。また、基礎飼料のみを用いた飼料を調整し、試料38とした。試料中の各脂質由来のリノール酸、リノレン酸、ビスホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸及びEPAの含量を表11に示す。
【0042】
【表11】

【0043】
実施例1〜12及び比較例1〜10
雌の黒毛和牛220頭を10頭ずつの22群に分けた。そのうちの任意の12群の各々について、分娩の日前30〜40日の間で各個体差に応じて調整した日より分娩後、人工授精による受胎までの毎日、試料1〜12の各々を各群に1日1頭当たり8.0kg給与した(実施例1〜12)。比較例として、任意の7群について、同様に分娩の日前30〜40日の間で調整した日より分娩後、人工授精による受胎までの毎日、各群に試料25〜31をそれぞれ1日1頭当たり8.0kg給与した(比較例1〜7)。また、残りの各群の各々について、分娩の日前5〜15日の間で同様に調整した日から分娩後、人工授精による受胎までの間毎日(比較例8)、分娩後から人工授精による受胎までの間毎日(比較例9)、分娩の日30〜40日前から分娩後発情回帰時までの間毎日(比較例10)、試料1をそれぞれ1日1頭あたり8.0kg給与した。なお、本実施例において、給与開始日は、各雌牛の人工受精による受胎の日から一般に周知された280日目を分娩の日の目安とし、これから各雌牛の固体差を考慮して適宜決定したものである。以下同じ。
【0044】
それぞれの分娩に際して各群(10頭)について発情回帰日数、分娩間隔、初回種付受胎率及び産子体重を記録し、10頭の平均の結果を表12に示した。本実施例に用いた試料のうち、試料25、26、28及び31の各々がリノール酸、リノレン酸、ビスホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、EPAの給与量が、1日1頭あたり20g未満であった。試料1〜12の脂肪酸カルシウムまたは脂肪酸マグネシウムを配合した飼料を給与した群(実施例1〜12)は、飼料25〜31を給与した群(比較例1〜7)に比べて4項目全てにおいて良好な繁殖成績を示した。特に、試料27、29及び30の各々を給与した群(比較例3、5、6)では、脂肪酸による第一胃内における粗飼料の発酵への悪影響による代謝異常によって、繁殖成績の向上が見られなかった。比較例8〜10は、いずれも短期給与のため効果が十分ではなく、実施例に比べて4項目全てにおいて成績が低下した。
【0045】
なお、発情回帰日数、分娩間隔及び初回種付受胎率の各々は、以下のように評価した。
発情回帰日数: 分娩後から初回発情を迎えるまでの日数。
分娩間隔: 試料給与中の分娩から次回分娩までの日数。
初回種付受胎率: 初回種付けを行った雌牛のうち、受胎を確認した牛の割合。
【0046】
【表12】

【0047】
実施例13〜24及び比較例11〜20
雌のホルスタイン牛、220頭を10頭ずつの22群に分けた。そのうちの任意の12群の各々について、分娩の日前30〜40日の間で実施例1と同様に調整した日より分娩後、人工授精による受胎までの毎日、試料13〜24を1日1頭当たり18.0kg給与した(実施例13〜24)、また、比較として、任意の7群の各々について、分娩の日前30〜40日の間で同様に調整した日より分娩後、人工授精による受胎までの毎日、各群に試料32〜38をそれぞれ1日1頭当たり18.0kg給与した(比較例11〜17)。また、残りの各群について、分娩の日前5〜15日の間で同様に調整した日から分娩後、人工授精による受胎までの毎日(比較例18)、分娩後から次回受胎までの毎日(比較例19)、分娩の日前30〜40日の間で同様に調整した日から発情回帰時までの毎日(比較例20)、試料13をそれぞれ1日1頭あたり18.0kg給与した。
【0048】
それぞれの分娩に際して各群(10頭)について発情回帰日数、分娩間隔、初回種付受胎率及び産子体重を記録し、10頭の平均の結果を表13に示した。本実施例に用いた試料のうち、試料32、33、35及び38の各々がリノール酸、リノレン酸、ビスホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、EPAの給与量が、1日1頭あたり20g以下であった。試料13〜24の脂肪酸カルシウムまたは脂肪酸マグネシウムを配合した飼料を給与した群(実施例13〜24)は、飼料32〜38を給与した群(比較例11〜17)に比べて4項目全てにおいて良好な繁殖成績を示した。特に、試料34、36及び37の各々を給与した群(比較例13、15、16)では、脂肪酸による第一胃内における粗飼料の発酵への悪影響による代謝異常によって、繁殖成績の向上が見られなかった。比較例18〜20はいずれも短期給与のため効果が十分ではなく、実施例に比べて4項目全てにおいて成績が低下した。
【0049】
【表13】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の飼育方法により、発情回帰日数の短縮、分娩間隔日数の短縮、受胎率の向上や子牛生時体重の増加などによる繁殖雌牛の繁殖成績を大幅に改善することができることから、繁殖用雌牛の飼育において産業上特に有利になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が−60〜40℃で、ヨウ素価が30〜470の範囲にあり、かつ分子内に二重結合2〜6個を有する炭素数12〜24の脂肪酸の金属塩を含有する飼料を、少なくとも、分娩前30日から、分娩後人工授精による受胎までの間に、上記脂肪酸に換算して1日1頭当たり20〜200g給与する、繁殖用雌牛の飼育方法。
【請求項2】
脂肪酸の金属塩が脂肪酸のカルシウム塩及びマグネシウム塩の中から選ばれる少なくとも一種である、請求項1記載の飼育方法。
【請求項3】
前記脂肪酸が、リノール酸、リノレン酸、ビスホモ‐γ‐リノレン酸、アラキドン酸及びエイコサペンタエン酸の中から選ばれる少なくとも一種である、請求項1又は2に記載の飼育方法。
【請求項4】
飼料を、少なくとも、分娩前30日から分娩までの間、毎日給与する、請求項1〜3のいずれかに記載の飼育方法。
【請求項5】
飼料を、少なくとも、分娩前30日から、分娩後人工授精による受胎までの間、毎日給与する、請求項1〜4のいずれかに記載の飼育方法。
【請求項6】
発情回帰日数の短縮、分娩間隔日数の短縮、受胎率の向上、及び子牛生時体重の増加を可能にする、請求項1〜5のいずれかに記載の飼育方法。

【公開番号】特開2008−125377(P2008−125377A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−311214(P2006−311214)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(591247868)ニチユソリューション株式会社 (6)
【Fターム(参考)】