説明

繊維トウの捲縮装置及び捲縮繊維トウの製造方法

【目的】 捲縮繊維トウに単糸切れや、押込みロールへの引っ掛かりなどの不都合が生ずることなく、かつ、トウはみ出し防止用押え板などの過剰摩耗による停機による修理などを繁雑に起こさず、高品質の捲縮繊維トウが連続して得られる繊維トウの押し込み捲縮装置とその捲縮繊維トウの連続製造方法とを提供する。
【構成】 一対の繊維トウ押込みロールのトウ導入部(10)の前記押し込みロール(1,2) のニップ点(9) より上流側にトウ幅規制部(10a) を配するとともに、同トウ幅規制部(10a) に続いて繊維トウ(8) の繊維のはみ出しを防止するトウはみ出し防止部(11a) を前記一対の押し込みロール(1,2) のニップ点(9) を含むロール側面に配している。押し込みロール幅Aと一対のはみ出し防止用押え板(15)の内壁面間距離Bとの差を12mm以下、0.2mm以上とし、且つトウ幅規制部先端(10a) と押し込みロール(1,2) のニップ点(9) との間の距離Cを6.0mm以下、0mmより大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維トウに座屈捲縮を付与する繊維トウの押し込み捲縮装置及び繊維トウの製造方法に関し、さらに詳しくは、押し込みロールを通した繊維トウに対する捲縮付与時における運転操作性に優れ、ダメージのない捲縮繊維トウを連続的に効率よく生産し得る捲縮装置及び捲縮繊維トウの連続製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維トウへの捲縮付与方式としては、押し込みロールを用いた捲縮装置が広く用いられており、この押し込みロールを用いた捲縮装置は、繊維トウを一対の押し込みロールを通して捲縮室に押し込むことによって捲縮繊維トウを作るものである。この装置により捲縮繊維トウを作るには、押し込みロールが繊維トウに対して所定の把持圧をもって把持することが必要であり、一対の押し込みロールで挟圧された繊維トウはその押し込みロールの間で両側に広がろうとする。この押し込みロールの左右両側面からはみ出そうとする繊維トウのはみ出しを防止するため、押し込みロールにおける繊維トウを把持するニップ点付近の両側面に押え板(摺動板)を押しあてており、この押え板は繊維トウの押し込みロール両側へのはみ出し圧と、押し込みロールの回転による負荷とが継続して同時に繊維トウにかかるため、捲縮装置の運転時間の経過とともに押え板が溝状に摩耗するという問題を有している。
【0003】
押え板の摩耗が進行すると、繊維トウが当該摩耗部に引っ掛かって切れたり、不均一な捲縮が繊維トウに発生するといった捲縮繊維トウの品質への悪影響が現われる。このため、所定の捲縮品質を維持した捲縮繊維トウを得るために、押え板及び押し込みロールの定期的な交換が必要となる。その交換のため捲縮装置を停止せざるを得ず、この停止に伴い捲縮繊維トウの生産効率の低下をもたらす。そのため、捲縮繊維トウの生産効率の低下を改善し得る装置と方法の開発が強く望まれていた。
【0004】
こうした背景から、例えば実開昭49−42249号公報(特許文献1)には繊維トウの捲縮装置における一対の押し込みロールの両側面に押し付けられる一対の押え板(摺動板)の摺動面の一部に耐焼付き性に優れた材質を配し、その一部を除く他のトウ繊維との摺接面に耐磨耗性に優れた材質を配した複合構造とし、耐焼付き性に優れた材質が配された表面を、耐磨耗性に優れた材質が配される表面よりも高くしている。その結果、ニップロールとの焼付きがなく、しかもトウによる摩耗が著しく減少し、捲縮の乱れや糸切れ等を発生することなく長時間の運転が可能となるというものである。
【0005】
また、例えば実開昭50−77554号公報(特許文献2)には、押し込みロールの少なくとも表面を合金工具鋼で構成することにより、ステンレス鋼(SUS420)に比して寿命が著しく向上するばかりでなく、超硬合金と比較して脆くなく加工性に優れているため取り扱いやすく、加工精度が向上するとしている。また、例えば実開昭51−43653号公報(特許文献3)及び実公昭52−13391号公報(特許文献4)によれば、摺動片(押え板)の中心をロールのニップ点から外して配してあり、摺動片(押え板)がその中心回りを自在に回転できるようにしている。これにより、摺動板の摩耗が防止できるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭49−42249号公報
【特許文献2】実開昭50−77554号公報
【特許文献3】実開昭51−43653号公報
【特許文献4】実公昭52−13391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、これらの提案は押え板(摺動板)や押し込みロールの寿命延長に効果が認められるものの、押え板、押し込みロール、繊維束相互の摩擦発生要因を根本的に解消するものではなく、捲縮の乱れのような捲縮繊維トウの品質異常を抑制するには十分な効果を得ることができなかった。
【0008】
本発明は、かかる課題を解消すべくなされたものであり、その具体的な目的は、押え板、押し込みロール、繊維束相互の摩擦発生要因を根本的に解消して、高品質な捲縮繊維トウを製造できるトウベルトの押し込み捲縮装置及び捲縮方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、この種の押し込み捲縮装置における押え板の寿命延長という難しい手段や装置の運転中に押え板を交換するという危険な行為に頼らずに、これらの問題を根本的に改善し得た構造を有する捲縮装置を開発すべく鋭意検討した結果、押し込みロール前にトウ幅規制部を設けることにより、繊維トウの捲縮乱れが生ずることなく、かつ、押え板の摩耗や破損などの不都合の生じにくい繊維トウの捲縮装置と方法とを開発し得ることを見出し本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明の第1の基本構成は、一対のトウ押し込みロールの両側面にトウのはみ出し防止用押え板が配され、その一対のトウ押し込みロールの後部にクリンパーボックスが配され、連続して供給される繊維トウを前記一対のトウ押し込みロール間を通して前記クリンパーボックスに押し込み、繊維トウに捲縮を付与するトウの押し込み捲縮装置であって、前記トウのはみ出し防止用押え板が、押し込みロールのトウ導入部に配され繊維トウのトウ幅を規制する一対のトウ幅規制部と、トウ導入部から前記押し込みロールのトウ導出部にかけて配され、トウのはみ出しを防止するトウはみ出し防止部とを備えており、前記押し込みロールのロール幅Aと、前記一対のトウ幅規制部の内壁面間距離Bと、トウ幅規制部の先端と押し込みロールのニップ点との間の距離Cとが、以下の(1)及び(2)式を満足してなる繊維トウの押し込み捲縮装置にある。
12mm≧A−B≧0.2mm (1)
6mm≧C>0mm (2)
【0011】
好適な態様によれば、前記押し込みロール幅Aと一対のトウ幅規制部の内壁面間距離Bとが、12mm≧A−B≧0.2mmなる条件を満足することが望ましく、より好ましくは押し込みロール幅Aと前記内壁面間距離Bとの差が、2mmから0.2mmの範囲内に設定する。一方、トウ幅規制部の先端と押し込みロールのニップ点との間の好ましい距離Cは、6mm≧C≧0mmであるとよい。そして、前記はみ出し防止用押え板を耐焼付き性に優れた材質から構成し、前記トウ幅規制部は耐磨耗性や耐衝撃性に優れた材質から構成することが望ましい。
【0012】
また、本発明の第2の基本構成は、一対のトウ押し込みロールの両側面にトウのはみ出し防止用押え板を有し、前記一対のトウ押し込みロールの後部にクリンパーボックスが配され、連続して供給される繊維トウを前記一対のトウ押し込みロール間を通して前記クリンパーボックスに押し込み、繊維トウに捲縮を付与することにより捲縮繊維トウを製造する捲縮繊維トウの製造方法であって、
前記繊維トウのはみ出し防止用押え板が、押し込みロールのトウ導入部に配した繊維トウのトウ幅を規制する一対のトウ幅規制部と、トウ導入部から前記押し込みロールのトウ
導出部にかけて配したトウのはみ出しを防止するトウはみ出し防止部とを備えること、
前記押し込みロールのロール幅をA、前記一対のはみ出し防止用押え板の内壁面間距離をB、トウ幅規制部の先端と押し込みロールのニップ点との間の距離をCとするとき、以下の(1)及び(2)式を満足させることを特徴とする、捲縮繊維トウの製造方法にある。
12mm≧A−B≧0.2mm (1)
6mm≧C>0mm (2)
【0013】
ここで、トウ幅規制部の材質は、耐摩耗性や耐衝撃性を備えているものならば、いずれの素材も用いることができ、例えば、ステンレス鋼、合金工具鋼、超硬合金等を用いることができ、特に、耐食性を備えたステンレス鋼を用いることが好ましい。
一方、トウはみ出し防止部の材質は、耐焼き付き性に優れたセラミックスを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る繊維トウの押し込み捲縮装置の特徴は、押し込みロールのトウ導入部に前方に一対のトウ幅規制部を配し、押し込みロールのトウ導入部からトウ導出部にわたる押し込みロールの左右側面にトウはみ出し防止部を設けた点にある。トウ捲縮装置にかかる構造を採用することにより、従来のごとき格別にトウ幅規制部を備えていない捲縮装置に比べ、押し込みロールに供給される繊維トウの走行状態に蛇行やゆれを生ずることなく、押し込みロールのニップ点に向けて均等なトウ幅を維持しながら安定して供給できる。
【0015】
トウ幅規制部を通過した繊維トウは、続くトウはみ出し防止部へと送り込まれる。このとき繊維トウは一対の押し込みロールの押圧作用を受けて、幅方向の外側に向けて拡がり始めようとするが、前記トウ導入部及び導出部にかけて配されたトウはみ出し防止部が押し込みロールの側面に圧接しており、上下ロール間の隙間から繊維トウが異常にはみ出そうとしても、それを確実に抑制する。
【0016】
このように、本発明では、はみ出し防止用押え板をトウ幅規制部及びはみ出し防止部により構成することにより、一対の押し込みロールの間へと送り込まれる以前に、繊維トウの幅を予め設定されているトウ幅に規制して、その幅をもって一対の押し込みロールの間へと送り込み、そこで繊維トウを徐々に押圧し、押し込みロールのニップ点を通過したのち徐々に押圧が解除されて、前方のクリンパーボックスへと送り込む。クリンパーボックスのトウ出口部はトウの自由な通過が抑止され、押し込みロールから押し出される繊維トウはクリンパーボックス内で波状に屈曲変形しながら、順次トウ出口へと移動する。このとき、繊維トウの構成繊維自体に細かな捲縮がなされる。
【0017】
ここで、クリンパーボックスのトウ入口のトウ幅方向の入口幅が前記一対のトウはみ出し防止部の内壁間距離よりも僅かに長く設定されている。そのため、このトウはみ出し防止部の終点とクリンパーボックスのトウ入口との間において繊維トウの左右端縁部に存在する繊維の緻密性が解かれ、繊維トウの幅方向における緻密性が均等となり、そこで捲縮の付与がなされることになり、繊維トウの長さ方向及び幅方向のいずれにあっても均一な捲縮が得られる。更には、前記トウはみ出し防止用押え板に過剰な押圧力を加えなくても、本発明に係る繊維トウの押し込み捲縮装置を、安定して運転できるという大きなメリットがある。
【0018】
特に、押し込みロール幅Aと一対のトウはみ出し防止用押え板の内側距離Bとが、12mm≧A−B≧0.2mmなる条件を満足させると、トウの蛇行や押し込みロールでのはみ出しがなく、捲縮繊維トウの品質異常による捲縮装置の運転を停止させることがほとんどなくなる。また、一対の押し込みロールのニップ点とトウ幅規制部の先端との距離(C
)を、6mm≧C≧0mmとすることにより、更に上記した押え板、押し込みロール、繊維束相互の摩擦などの要因による不都合を生ずることなく装置を安定して長期間の運転をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る繊維トウの連続捲縮装置の要部を一部切開して示す側面図である。
【図2】図1のII-II 線に沿った矢視断面図である。
【図3】図2のIII-III 線に沿った矢視断面図である。
【図4】図3のS部を拡大して示す断面図である。
【図5】本発明におけるトウ幅規制部及びトウはみ出し防止部の構成を示す縦断面図である。
【図6】前記トウ幅規制部及びトウはみ出し防止部と押し込みロールとの配置関係を示す側面図である。
【図7】前記トウ幅規制部及びトウはみ出し防止部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面に基づいて本発明の代表的な実施形態である繊維トウの捲縮装置について具体的に説明する。
図1及び図2において、符号1,2は上下一対の第1及び第2押し込みロールであって、それぞれが第1及び第2回転軸1a,2aの先端(図2の右端)にて固定支持されている。第1及び第2回転軸1a,2aの途中と他端部(図2の左端部)は下部ハウジング4及び上部ハウジング5に取り付けられた複数の軸受にて回転自在に支持されており、第2回転軸2aの他端は図示せぬ駆動源と連結されている。第1回転軸1aは歯車3を介して第2回転軸2aと連結され、繊維トウ8の押し込み方向に等速度で正回転する。後部ハウジング6の上下部位には、それぞれ水噴射スプレー7a,7bが配されており、各スプレー7a,7bは前記第1及び第2押し込みロール1,2の各表面に向けられ、水噴射によりロールの加熱が防止され、はみ出し防止用押え板のはみ出し防止部11aの摩耗が抑制される。
【0021】
前記第1及び第2押し込みロール1,2は同一の径を有しており、その外面中央部にそれぞれヨーク1bと円形プレート2bとが固着されている。この第1及び第2押し込みロール1,2のトウニップ点9を挟んで、図3及びその拡大図である図4に示す、矢印方向に走行する繊維トウ8の進行方向前後にわたり、本発明の特徴部の一部となる繊維トウ8の導入部10と、繊維トウ8の導出部11とを有している。導入部10は、繊維トウ8の第1及び第2押し込みロール1,2への導入領域であり、前記導出部11はニップ点9を過ぎてクリンパーボックス12に押し込まれる領域である。本実施形態では、それぞれの領域が第1及び第2押し込みロール1,2の径の1/4程度の領域である。繊維トウ8は、導入部10にて第1及び第2押し込みロール1,2によって徐々に押圧され、ニップ点9を過ぎて前記導出部11に入ると、前記押圧が徐々に解除される。
【0022】
クリンパーボックス12のトウ出口付近には繊維トウ8の通過を抑制する後述するフラッパー12b(図1)が配されているため、第1及び第2押し込みロール1,2により押圧されてクリンパーボックス12に押し出される繊維トウ8は、導出部11において強制的に押し出されて細かな捲縮が付与されながら前進しようとする。ここで、繊維トウ8は第1及び第2押し込みロール1,2の周面の間に形成される三角形状の空間を進み、この空間内を波形に折り畳まれながらクリンパーボックス12内に充填される。この充填された繊維トウ8は前記フラッパー12bの抑制力に抗しながら一定の速度で、クリンパーボックス12のトウ出口から外部へと引き出される。従って、導出部11から捲縮繊維トウ8aのトウ出口までがクリンパーボックス12を構成している。
【0023】
本発明における繊維トウ8のはみ出し防止用押え板15は図4〜図7に示すように、繊維トウ8のトウ幅を一定の幅に規制しながら第1及び第2押し込みロール1,2間に向けて案内する左右一対のトウ幅規制部10aと、第1及び第2押し込みロール1,2の側面からの繊維トウ8のはみ出しを防止する左右一対のはみ出し防止部11aとを備えている。また、前記トウ幅規制部10aと前記はみ出し防止部11aとの背面には、各部材補強支持するバックアップ板10bが固設されている。前記トウ幅規制部10aの全体は、上記ニップ点9寄りの端部が二等辺三角状の楔型とされた矩形板材からなり、その楔型部分10a−2のトウ通過面とは反対側の表面のトウ幅規制部10aの全体長さの略1/2弱を段差を介して切り欠いて第1薄肉部10a−3を形成している。
【0024】
更に前記楔型部分10a−2の先端のトウ通過側表面を段差を介して前記楔型部分10a−2の略1/3の長さ部分を切り欠いて第2薄肉部10a−4を形成している。因みに、本実施形態によれば、前記トウ幅規制部10aの全体長さは94.86mm、本体部分10a−1の肉厚は6.7mm、第1薄肉部10a−3の肉厚は2mm、第2薄肉部10a−4の肉厚は0.6mmである。これらの値は周辺部材の材質や仕様によって変更される。
【0025】
また、前記トウ幅規制部10aのトウ通過面の幅方向中央部には、その一端から前記第1薄肉部10a−3の先端まで連続して延びる、凹断面をもつトウ側縁案内溝10a−5が形成されており、同トウ側縁案内溝10a−5の底面に、トウ導入部10に導入された繊維トウ8の幅方向端縁が摺動しながら案内される。このトウ側縁案内溝10a−5の底面は前記第2薄肉部10a−4のトウ通過側の表面と同一平面上にある。トウ側縁案内溝10a−5を通る繊維トウ8のトウ幅は、図4に示すように、トウ導入部10に導入される前のトウ幅よりも小さな幅に規制される。トウ導入部10のトウ通路を挟んで配された左右一対の前記トウ側縁案内溝10a−5の対向する底面間の距離(内壁面間距離)Bは、トウ導入部10に供給される繊維トウ8のトウ幅と、そのトウ幅によって決まる第1及び第2押し込みロール1,2の周面ロール幅Aによって決まる。
【0026】
上記左右一対のはみ出し防止部11aは、図5〜図7に示すように、前記トウ幅規制部10aの上記楔型部分10a−2を構成する第1薄肉部10a−3の段部を起点として、第2薄肉部10a−4の先端を越えて所要の長さ延びている。そのため、このはみ出し防止部11aは、図4及び図6に示すように、第1及び第2押し込みロール1,2によって形成される上記トウ導入部10及びトウ導出部11にわたって、第1及び第2押し込みロール1,2の側面に近接させて配設される。本実施形態によれば、前記はみ出し防止部11aのトウ通過側表面は上記トウ側縁案内溝10a−5の底面及び前記楔型部分10a−2の表面とほぼ同一の平面上にある。因みに、上記トウ幅規制部10aは、その母材がSUS440Cであり、その表面を耐磨耗性及び耐衝撃性に優れたクローム溶射により仕上げている。一方、トウはみ出し防止部11aの材質は、アルミナなどの各種セラミックスが使われており、その肉厚は4.7mm、板幅はトウ幅規制部10aの本体部分10a−1の板幅と等しい22.6mmである。
【0027】
更に、左右の上記トウ幅規制部10aとはみ出し防止部11aの内面間の間隔を調整する規制幅調整装置13が、左右のトウ幅規制部10a及びはみ出し防止部11aの外側に配されている。前記規制幅調整装置13は、図4に示すように、楔板状のスライダー13aと、同楔板状のスライダー13aの底面に取り付けられた調節ねじ13bとを有しており、前記調節ねじ13bを回転させることにより、スライダー13aを長さ方向に変位させて、左右のトウ幅規制部10a及びはみ出し防止用押え板15を互いに接近及び離間方向に移動させ、その間隔を調整して繊維トウ8の幅寸法を規制する。
【0028】
一方、前記繊維トウ8の導出部11の下流側に形成されるクリンパーボックス12は、図1に示すように、そのニップ点9側の半部が第1及び第2押し込みロール1,2の周面にほぼ沿った円弧状に形成された、全体が略楔状を呈する上下一対のドクタブレード12aと、各ドクタブレード12aを上下から支持するブラケット14とを備えている。このブラケット14の上下対向面の間に、捲縮繊維トウ8aが通過する捲縮繊維トウ通路12cが形成されており、そのトウ出口側端部に空気圧により上方から下方に向けて付勢するフラッパー12bが設けられている。このフラッパー12bは、クリンパーボックス12内の繊維トウ8をトウ出口に向けて自由に走行できないように繊維トウ8の走行を抑制するものである。クリンパーボックス12のトウ出口側半部の外郭形状は立方体の箱型とされている。このクリンパーボックス12の左右側壁間の間隔は、第1及び第2押し込みロール1,2のロール幅により異なるが、たばこフィルター用のトウ(総繊度19000dtex〜44000dtex)の場合には10mmから21mmまでの間のロール幅Bにするとよい。
【0029】
ここで、特に押し込みロール幅Aと一対のトウはみ出し防止用押え板15の壁面間距離Bとの差が、12mm≧A−B≧0.2mmなる条件を満足させることにより、トウの蛇行や第1及び第2押し込みロール1,2におけるトウのはみ出しがなく、特にはみ出し防止部11aにおける第1及び第2押し込みロール1,2とトウはみ出し防止用押え板15の磨耗と焼き付きが低減され、捲縮繊維トウ8aの品質異常もたらすことなく、繊維トウ8の捲縮装置を長期間にわたって運転をすることができる。また、一対の押し込みロール1,2のニップ点とトウ幅規制部10aの先端との距離(C)を、6mm≧C≧0mmとしておくことにより、更に上記した不都合を生ずることなく装置を運転することができる。
【0030】
以下、実験例をもって本発明をより具体的に説明する。
[実験例]
押し込みロールの幅が19mmであり、トウ幅規制部の材質が表面をクローム溶射により仕上げているSUS440Cのステンレス鋼であり、トウはみ出し防止用押え板の材質がアルミナのセラミックである図1、図2に示したたばこフィルター用のアセテート繊維トウの押し込み捲縮装置を用意し、表1に示すように、第1及び第2の押し込みロール幅Aとトウ幅規制部とトウはみ出し防止部とを有する左右一対のトウはみ出し防止用押え板の壁面間距離Bとの差(A−B)を0.4mm、1mm、5mm、10mm、15mmの5通りと、トウ幅規制部先端と押し込みロールのニップ点との距離Cを、各トウ幅規制部とトウはみ出し防止用押え板の壁面間距離Bとの差(A−B)ごとに1mm、3mm、5mm、7mmの4通りの計20通りを、トウ幅規制部を設置した(トウ幅規制部あり)場合と、各20通りのトウ幅規制部を排除した直後(トウ幅規制部なし)の場合とについて、それぞれ3ヵ月間同一条件で運転を続け、その間に発生する装置の調整回数及び捲縮不良の回数を集計するとともに、得られる捲縮繊維トウの捲縮状態の良し悪しを判定した。
【0031】
本実験で使用した繊維トウは、単糸繊度が3.3dtex、総繊度が40,000dtexのアセテートの繊維トウとした。トウはみ出し防止用押え板を備えつけたときの押し込みロール前後のトウ導入部及びトウ導出部において得られる繊維トウの異常及び捲縮不良の判定は、トウの単糸切れ、捲縮不均一、押し込みロールへの引っ掛かり等の品質異常の発生回数と、それにともなう装置調整の回数とを表1に示した。
【0032】
【表1】

【0033】
表1に示したとおり、本発明の装置によれば、押し込みロール幅Aと一対のはみ出し防止用押え板間の距離Bとの差を12mm以下、0.2mm以上とし、且つトウ幅規制部先端と押し込みロールのニップ点との間の距離Cを6mm以下、0mmより大きくとすることにより、捲縮繊維トウの品質異常が著しく減少していることがわかる。また、前述の範囲を外れた場合では、繊維束端部の捲縮がのこぎり状に乱れ、製品価値を損なう結果となった。
【符号の説明】
【0034】
1,2 第1及び第2押し込みロール
1a,2a 第1及び第2回転軸
1b ヨーク
2b 円形プレート
3 歯車
4 下部ハウジング
5 上部ハウジング
6 後部ハウジング
7a,7b 水噴射スプレー
8 繊維トウ
8a 捲縮繊維トウ
9 ニップ点
10 (トウ)導入部
10a トウ幅規制部
10a−1 本体部分
10a−2 楔型部分
10a−3 第1薄肉部
10a−4 第2薄肉部
10a−5 トウ側縁案内溝
10b バックアップ板
11 (トウ)導出部
11a トウはみ出し防止部
12 クリンパーボックス
12a ドクターブレード
12b フラッパー
12c 捲縮繊維トウ通路
13 規制幅調整装置
13a 楔板状のスライダー
13b 調節ねじ
14 ブラケット
15 トウはみ出し防止用押え板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のトウ押し込みロールの両側面にトウのはみ出し防止用押え板が配され、その一対のトウ押し込みロールの後部にクリンパーボックスが配され、連続して供給される繊維トウを前記一対のトウ押し込みロール間を通して前記クリンパーボックスに押し込み、繊維トウに捲縮を付与するトウの押し込み捲縮装置であって、
前記トウのはみ出し防止用押え板は、
押し込みロールのトウ導入部に配され、繊維トウのトウ幅を規制する一対のトウ幅規制部と、トウ導入部から前記押し込みロールのトウ導出部にかけて配され、繊維トウのはみ出しを防止するトウはみ出し防止部とを備えてなり、
前記押し込みロールのロール幅Aと、前記一対のトウ幅規制部の内壁面間距離Bと、トウ幅規制部の先端と押し込みロールのニップ点との間の距離Cとが、以下の(1)及び(2)式を満足してなる繊維トウの捲縮装置。
12mm≧A−B≧0.2mm (1)
6mm≧C>0mm (2)
【請求項2】
前記トウ幅規制部は、そのトウ導入部が走行方向先端部を鋭角とする略二等辺三角形状の楔型を呈する板材からなり、前記トウはみ出し防止部は矩形状の板材からなり、
前記押し込みロールのロール幅Aと一対の前記トウのはみ出し防止用押え板の内壁面間距離Bとが、2mm≧A−B≧0.2mmなる条件を満足することを特徴とする請求項1記載の繊維トウの捲縮装置。
【請求項3】
一対のトウ押し込みロールの両側面に繊維トウのはみ出し防止用押え板を有し、前記一対のトウ押し込みロールの後部にクリンパーボックスが配され、連続して供給される繊維トウを前記一対のトウ押し込みロール間を通して前記クリンパーボックスに押し込み、繊維トウに捲縮を付与することにより捲縮繊維トウを製造する捲縮繊維トウの製造方法であって、
繊維トウの前記はみ出し防止用押え板が、押し込みロールのトウ導入部に配した繊維トウのトウ幅を規制する一対のトウ幅規制部と、トウ導入部から前記押し込みロールのトウ導出部にかけて配した繊維トウのはみ出しを防止するトウはみ出し防止部とを備えること、
前記押し込みロールのロール幅をA、前記一対のはみ出し防止用押え板の内壁面間距離をB、トウ幅規制部の先端と押し込みロールのニップ点との間の距離をCとするとき、以下の(1)及び(2)式を満足させることを特徴とする、捲縮繊維トウの製造方法。
12mm≧A−B≧0.2mm (1)
6mm≧C>0mm (2)
【請求項4】
前記トウ幅規制部は、そのトウ導入部が走行方向先端部を鋭角とする略二等辺三角形状の楔型を呈する板材からなり、前記トウはみ出し防止部は矩形状の板材からなり、
前記押し込みロールのロール幅Aと一対の前記トウのはみ出し防止用押え板の内壁面間距離Bとが、2mm≧A−B>0.2mmなる条件を満足することを特徴とする請求項3記載の捲縮繊維トウの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−28875(P2013−28875A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165673(P2011−165673)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】