説明

繊維トウの梱包方法と同繊維トウの梱包装置

【課題】太繊度のトウを容器に安定して収納形態で収容でき、梱包重量の極大化を実現化するとともに、パッケージから引き取るときにも安定して引き取ることが可能な、特に炭素繊維前駆体トウ並びに耐炎繊維前駆体トウの梱包に好適な梱包方法とその梱包装置とを提供する。
【解決手段】トウ振込みシュート(62)の上端を揺動中心(O)として揺動させ、繊維トウ所定位置に配された梱包容器(63)内に振込むと同時に、該梱包容器をトウの振込み方向と直交する方向に往復動させる。このとき、前記トウ振込みシュート(62)の揺動方向における梱包容器(63)の端位置を検出し、検出された梱包容器の端位置の変位量に基づき、上記揺動中心に関して揺動シュートの折返し位置を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐炎繊維前駆体トウや炭素繊維前駆体トウなどの繊維トウの梱包方法及びそれら繊維トウの梱包装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化学繊維業界における繊維トウの梱包分野にあっても、一般の産業界と同様に生産性の大幅な向上と効率化とが要求され、その早期の実現が切望されている。特に、炭素繊維は、比強度、比弾性率、耐火性、耐熱性、耐久性などに優れることから、その適用分野はますます広がってきており、その需要も大幅に増えてきている。また、その需要の増加とともに更なる低価格の実現を余儀なくされている。この炭素繊維を現状の製造技術をもって品質を確保するには繊維の生産性を抑えざるを得ず、どうしても価格が高くなる。近年、炭素繊維の生産性を上げてコストダウンを図るため、総繊度が48000〜7200000dtexの太い炭素繊維前駆体トウが採用されるようになり、その結果、このような太繊度のトウを梱包するトウパッケージも極大化が余儀なくされている。一般に、パッケージの大型化には、トウの振り落としによる梱包方法が有利であるとされている。
【0003】
例えば、特開2003−182766号公報(特許文献1)によると、水分率を10〜34質量%に調整されたポリアクリロニトリル系繊維束を、ポリエチレンフィルム袋を収納した金網製容器に、ジグザグ状に振り込んで梱包する方法が開示されている。ここで、前記ポリアクリロニトリル系繊維束の総繊度は1.0×105 〜1.2×106 dtexの範囲であり、充填密度は150〜450kg/m3 が好ましいとしている。この梱包方法によれば、ポリアクリロニトリル系繊維束の絡まりやバラケが防止され、繊維束のシート形状を保持してポリアクリロニトリル系繊維束を搬送でき、次工程である酸化処理時の繊維の燃焼、切断が防止でき、高品位のポリアクリロニトリル系酸化繊維が得られるというにある。
【0004】
また、例えば特開2006−176328号公報(特許文献2)によれば、48000〜7200000dtexの太繊度の炭素繊維及び耐炎化繊維の前駆体トウの梱包方法が記載されている。前記トウを段ボール製の梱包容器に振り込む前に、予めポリエチレンフィルムからなる内装材を梱包容器に収納するとともに、前記トウに1〜5wt%の水分を付与しておき、トウの収納嵩比重が340kg/m3 以上となるように梱包容器に振込み梱包する。また、トウ振込みシュート先端の揺動速度を紡糸速度の0.75倍〜1.25倍となるよう揺動させるとともに、前記梱包容器を、紡速に対して1/100〜1/25にてシュートの揺動方向と直交する方向に往復させている。更に、トウの振込み初期段階から梱包容器の折り返し地点ごとに振込みトウに対してプレス板によりプレスを行っている。かかる構成により、収納嵩密度が高く、梱包時のトウの形態が安定し、梱包状態からトウを安定して引き取ることができる。
【0005】
更に、例えば特開2008−121147号公報(特許文献3)によれば、トウの振込み面の上昇に応じて、トウ振込みシュートを梱包容器に対して相対的に上昇させ、前記トウ振込みシュートのトウ振出し端の最低位置とトウの振込み面との間の距離a(mm)と、プレス板の厚みh(mm)と、プレス板とトウ振込みシュートとの間の最短距離y(mm)とを、トウの総繊度に応じて、10≦a≦400、及び(a−h)/y≦3.3、又は10≦a≦500、及びび(a−h)/y≦4.7の関係を満たすように制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−182766号公報
【特許文献2】特開2006−176328号公報
【特許文献3】特開2008−121147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のとおり、特許文献1では、トウに予め付与する水分率が高すぎるため、その防腐対策が必要となり、その結果、フィルムの密閉作業、脱酸素剤の封入、脱気、ガス置換、加熱処理などパッケージング作業を煩雑化せざるを得ない。これを回避するため、特許文献2では、トウに付与する水分率を下げるとともに、梱包容器の折り返し地点ごとにトウに対してプレス板によるプレスを行い、同時にトウ振込みシュート先端の揺動速度と梱包容器の往復速度とを、紡糸速度に対して所定の割合をもって制御し、収納嵩密度の高い梱包を可能にし、同時にトウ形態が安定した梱包及び容器からの安定したトウの引き取りを可能にしている。
【0008】
更に上記特許文献3では、特許文献2に加えて、トウ振込みシュートのトウ振出し端の最低位置とトウの振込み面との間の距離a(mm)、プレス板の厚みh(mm)及びプレス板とトウ振込みシュートとの間の最短距離y(mm)とを、それぞれ所定の数値範囲に規定することにより、トウ振込みシュートと梱包容器との相対位置が不変であることに起因して発生するトウの振込形態の不良や、プレス板の下降時に発生するプレス板上部への巻き込み流に起因する装置の動作不良など、特許文献2が抱える問題点を排除している。
【0009】
しかるに、上記特許文献1〜3を始めとして、その他の先行技術文献のいずれにも、以下に述べるような梱包容器の大型化に伴う多様な課題に着目するものはなかった。
その課題の一つに、梱包容器が大型化するにつれ、梱包容器内におけるトウの振込み面がトウの振込み方向においてトウを均等に積み上げることができなくなり、様々な偏りが見られるようになる。振込み面が偏ることにより収納嵩比重の低下が起こり、或いはプレスの際に局所的に負荷がかかることによってトウがダメージを受け毛羽の原因となる。これは、梱包容器が大型化すると、それに伴いトウ振込みシュートの揺動距離を長くせざるを得なくなり、均等な振込み条件を満足させることを難しくしていたがためである。
【0010】
本発明はこうした従来の様々な課題を解消することを目的としてなされたものであり、具体的には、太繊度のストレートなトウの容器への安定した収納と梱包重量の極大化を実現化するとともに、収納嵩密度が高く、梱包時のトウの形態が安定しており、パッケージから引き取るときにも安定して引き取ることが可能な、特に炭素繊維前駆体トウ並びに耐炎繊維前駆体トウの梱包に好適な梱包方法とその梱包装置とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題であるトウの均等な振込みを妨げる要因について様々な角度から検討を重ねた。その結果、トウの均等な振込みを妨げる要因の一つに、梱包容器の寸法精度があり、更には梱包容器を設置するときの設置位置のずれ等があることを知った。そこで、この梱包容器の寸法精度と梱包容器の設置時の位置ずれについて、更なる検討を重ねた。例えば、梱包容器の寸法精度を制御しようとすれば、厳密な寸法誤差の管理を行い、且つ梱包容器それ自体を容易に変形しない金属などの強固な素材を採用する必要がある。しかして、これらの素材を使って高精度な加工をすることは、材料費と加工費の増加に繋がる。また、梱包時の梱包容器の設置位置を制御しようとすれば、そのためのガイドや位置決め部材等を設置することが考えられるが、大型化に伴う梱包容器の寸法精度もあり、ガイドと梱包容器との間にいくらかの間隔を空けておく必要があるため、設置位置を完全に制御することは困難である。
【0012】
本発明の繊維トウの梱包方法と梱包装置は、例えばトウの総繊度が48000〜7200000dtexという太繊度の炭素繊維前駆体トウや耐炎繊維前駆体トウを大型の梱包容器に梱包する方法と装置に関し、その梱包方法の主たる構成は次のとおりである。ここで、本発明にて使用する梱包容器の素材は、其れ自体軽量で安価に大型化が可能であり、組み立て及び強度に優れた段ボールが好ましい。
すなわち、繊維トウを、トウ振込みシュートの上端を揺動中心として揺動させ、トウ振込みシュートを通して所定位置に配された梱包容器内に振込むと同時に、該梱包容器を該トウの振込み方向と直交する方向に往復動させる繊維トウの梱包方法において、前記シュートの揺動方向における梱包容器の端位置を検出すること、及び検出された梱包容器の端位置の変位量に基づき、上記揺動中心に関してトウ振込みシュートの折返し位置を制御することを含んでいる。
【0013】
前記梱包容器の端位置の検出は、望ましくは梱包容器の外面位置の基準位置に対する変位量を検出するか、梱包容器の内面位置の基準位置に対する変位量を検出し、又は梱包容器の底面位置の基準位置に対する変位量を検出する。或いは、これらの検出を組み合わせることもできる。そして、前記梱包容器の端位置の検出は、シュート揺動開始前に行うことができ、或いはシュート揺動中にも行われ、シュートの折返し位置を前記変位量に基づき任意に変更するとよい。これらの方法は、特に前記繊維トウが耐炎繊維前駆体トウ又は炭素繊維前駆体トウの梱包に適している。
【0014】
一方、本発明に係る繊維トウの梱包装置の主たる構成は、上端を揺動中心として揺動するトウ振込みシュートと、前記揺動中心の直下に配され、トウ振込みシュートを介して供給される繊維トウを揺動方向に振り込む梱包容器と、梱包容器を繊維トウの振込み方向と直交して往復動させる容器作動手段とを備えた繊維トウの梱包装置において、前記梱包容器におけるトウ振込み方向の容器位置を検出する検出手段と、該検出手段により検出された位置信号に基づき梱包容器の現位置を演算する第1演算手段と、第1演算手段による演算結果に基づき梱包容器の基準位置との間の変位量を演算する第2演算手段と、前記変位量に基づき、トウ振込み方向のトウ折返し位置を変更するトウ折返し位置変更手段とを含んでいる。
【0015】
好ましい態様によれば、前記検出手段が前記第1及び第2演算手段を備えているとよい。前記検出手段は、梱包容器のトウ揺動方向の外壁面に対向して配され、又は前記検出手段が接地センサーからなり、該接地センサーが梱包容器の下面側の梱包容器外に配されていることが好ましい。更には、前記検出手段はトウ振込みシュートの先端に配すことができ、或いは前記検出手段が、前記梱包容器外にあって、トウ揺動方向と平行に移動可能に配することできる。また更に、前記検出手段が、前記梱包容器の内面形状検出手段をも有しており、その検出形状に対応して前記トウ振込みシュートのトウ折返し位置を変更すると同時に、上記容器作動手段による梱包容器の往復量をも制御する制御手段を有してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る繊維トウの梱包方法及び梱包装置によれば、梱包容器の端位置を検出して、その検出結果に基づきトウの折り返し位置を自動的に制御するようにしたため、仮に梱包容器の設置時において、容器の設置位置にずれが生じたり、或いは容器が変形していても、或いは容器の大きさが異なっていても、それらの容器の接地位置のずれや容器の変形量に応じて、トウの振り幅を変更することにより、梱包容器の隅々までトウを均等に振り込むことができるようになり、トウの収容時における嵩高比重を高めることができ、同時にトウを安定した形状にて積層できるため、荷崩れがなくトウを梱包容器から取り出すときも円滑に取り出すことが可能となる。
【0017】
更に好ましい態様によれば、トウの振込み幅(長さ)の制御に加えて、トウの振込み方向に直交させて往復動させる梱包容器の往復量を制御することにより、ジグザグ状の折り返し幅(角度)も梱包容器内に均整に収容されるようになり、同時に容器内に収容されるトウの積層形態もより安定化する。
【0018】
このように、梱包容器に均等に収容されることから、例えば総繊度が48000〜7200000dtexの太繊度のトウを、例えば1m3 の大型化した梱包容器に収納嵩高比重を極めて高く梱包することが可能となる。また、梱包後のトウの形態も安定しており、梱包容器からトウを引き取るときにも安定して引き取ることを可能にする。従って、本発明の梱包体によれば、大量のトウを所定の大きさの梱包容器に従来よりもコンパクトに且つ高嵩高比重をもって梱包することができるため、例えばその後に行われる焼成工程などの炭素繊維製造工程への前記前駆体トウの運送を効率的に行うことができる。これにより、炭素繊維の生産性の向上に寄与し、炭素繊維のコストダウンを図ることができる。また、前述のようにトウの収納嵩比重が増大したことにより、パッケージの形態がより安定し、例えば梱包体を運送する際に、梱包体の型崩れもしにくくなる。
【0019】
本発明にあって、梱包容器の端位置検出手段は単一であっても、その設置位置を複数として複数の検出手段を組み合わせてもよい。更には、その検出はスポット状に検出しても、或いは線状又は帯状に検出することもできる。そのため、梱包容器外にスポット状の検出手段を配し、これを水平方向に移動させてもよい。また、前記検出手段をトウ振込みシュートのトウ振込端に配して、同トウ振込端が容器内壁面に最も近づいたときの内壁面との間の距離を検出して、トウ振込みシュートの振り幅を制御する。
【0020】
また、本発明の梱包方法は、上記特許文献2に記載されているように、トウを梱包容器に振り込む前に、予めトウに1〜5wt%の水分を付与することもできる。このように、トウを予めトウに所定量の水分を付与しておくと、シュート詰まりが生じ難く、またパッケージング前にバクテリアやカビの増殖を防止する防腐処理等が不要である。しかも、トウへの水分付与を行うことにより、梱包容器に収納されるトウの集束性が確保される。さらに、トウへ水分を付与した後に、トウを梱包容器に振り込み梱包することにより、500kg以上のトウ重量となるように安定して梱包を行うことができる。このようにトウの梱包を行えば、例えばその後に梱包容器からトウを引き出す際に、トウ間において解舒性に優れており、毛羽などの発生がなく円滑にトウの引き出しを行うことができる。
【0021】
また、トウを収容する梱包容器は、段ボールからなる梱包容器本体と、その梱包容器本体の内部に配され、梱包容器本体の内面形状と略同一形状をもつ薄膜状の非透湿性内装材とからなり、前記トウを前記内装材を介して梱包容器本体内に収納することができる。これにより、水分を付与したトウを梱包容器に振り込む際に、トウは段ボール内側面と直接接触しないため、梱包容器本体から摩擦、擦過等の損傷を受けなくてすむ。また、梱包容器本体が段ボールにより構成されていても、段ボールがトウに付与した水分を吸湿するのを防ぐことができる。
【0022】
また本発明は、トウに水分を付与したのち、更にトウをギヤロール間に通して引き取り前記梱包容器に振り込むことが望ましい。トウをギヤロール間に通して引き取るようにすると、トウを偏平化すると同時にごく軽度にトウにジグザク形状が付与される。このため、トウを梱包容器内に振り込むときに、例えば梱包容器内の端部でトウの折り返しをスムースに行うことができ、さらにトウの集束性やパッケージの形状安定性を高めることができる。また、本発明の梱包方法において、シュート先端の揺動速度を紡糸速度と所定の関係をもたせて揺動させるとよい。これにより、トウを梱包容器内の端から端まで均等に振り込むことができ、梱包容器内に無駄な隙間を作ることなく、トウを容器内でストレート
に引き揃えることができる。このようなトウの収納形態が、梱包容器内におけるトウの折り返し回数を極小化させることを可能とし、結果として梱包嵩密度の極大化につながる。
【0023】
また、本発明にあっても、上記特許文献2と同様に、トウの振込み初期段階から梱包容器の折り返し地点ごとに振込みトウに対してプレスを行うことが好ましい。このプレスは、容器の振り込んだトウの高さ位置が容器の底部にある段階から開始し、そのプレスの頻度は容器の往復に伴うそれぞれ両端の折り返し地点において行う。この容器の往復動における両端の折り返し位置の検出は、例えば光電管スイッチにて高精度に行い、プレス装置は、容器内において次第に上昇する振り込みトウの高さ位置(トウの振込み面)に追従させる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の太繊度繊維トウの代表的な梱包工程を概略で示す工程説明図である。
【図2】本発明に適用されるトウ導入部及びトウ振込機の外観の一例を示す立体図である。
【図3】基準セット位置からずれて設置された梱包容器へのトウ梱包時におけるトウ積層形態を示す説明図である。
【図4】梱包容器のセット位置のずれによって生じるトウの梱包形態の一例を模式的に示す断面図である。
【図5】梱包容器のセット位置のずれによって生じるトウの梱包形態の他例を模式的に示す断面図である。
【図6】本実施形態に係る梱包容器の設置位置のずれ量に対応するフィードバック制御の一例を示すブロック線図である。
【図7】本実施形態に適用されるトウ梱包容器の位置ずれを検出する位置検出手段の設置例を模式的に示す正面図である。
【図8】本実施形態に適用されるトウ梱包容器の位置ずれを検出する位置検出手段の他の設置例を模式的に示す正面図である。
【図9】本実施形態に適用されるトウ梱包容器の位置ずれを検出する位置検出手段の他の設置例を模式的に示す正面図である。
【図10】本実施形態に適用されるトウ梱包容器の位置ずれを検出する位置検出手段の他の設置例を模式的に示す正面図である。
【図11】本実施形態に適用されるトウ梱包容器の位置ずれを検出する位置検出手段の他の設置例を模式的に示す正面図である。
【図12】本発明における位置検出制御手法の一例を模式的に示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の太繊度からなる繊維トウの梱包方法と、その方法を実施するための梱包装置の好適な実施形態を、図示実施形態に基づいて図面を参照しながら具体的に説明する。なお、本実施形態では、前記太繊度の繊維トウとして炭素繊維前駆体トウ並びに耐炎繊維前駆体トウであるアクリロニトリル系繊維トウを例に挙げて説明するが、他の一般的な合成繊維トウや半合成繊維トウをも含むものである。
【0026】
図1は本発明の代表的な実施形態である紡糸工程に続いて耐炎繊維前駆体トウを梱包する梱包工程の全体を概略で示している。本実施形態によれば、湿式紡糸にて得られる、例えば単糸繊度が1.2dtex、フィラメント数50000本のアクリル繊維の集合体からなる小トウT1を3本並列させた状態で複数の乾燥ロール11が並列する乾燥工程10に連続して導入して乾燥させる。その後、同乾燥工程10のトウ導出口の直前に配された水槽の中にタッチロール12の一部を浸漬したタッチロール方式の水分付与手段をもって、小トウT1に1〜5wt%の水分を付与する。ここで、本発明において、上記水分付与
手段は、タッチロール方式の水分付与に限定されず、その他に例えば噴射ノズルによる噴霧などによっても水分付与を行うことができる。
【0027】
このように水分が付与された3本の小トウT1は、一旦そのトウ幅が均等になるように狭められ、それぞれが独立して次工程である小トウT1の構成繊維フィラメント同士を交絡させる単繊維交絡工程20へと同時に送り込まれる。この単繊維交絡工程20には、各小トウT1ごとに図示せぬ多数のエア噴出孔を有する上下一対の偏平ノズルが上下に所定の間隙をもって配されている。この単繊維交絡工程20に並列して同時に送り込まれた3本の小トウT1は、それぞれ独立して配された前記各偏平ノズルの間の間隙に導入され、そこでエアが吹き付けられて小トウT1ごとに、その構成フィラメントを交絡させる。同時に、各小トウT1の張力を700gとなるように張力制御している。
【0028】
単繊維交絡工程20にて、それぞれに単糸交絡がなされた小トウTは、図1に示すトウ寄せ工程30に導入されて、湾曲部材31の凹状湾曲面に沿って各小トウT1が中央へと引き寄せられて150000本の構成フィラメントからなる一枚の偏平化した大繊度のトウT2とされたのち図示せぬ交絡装置により隣接小トウ間の構成フィラメント同士が交絡され、次工程であるトウ振込機導入部50へと送られる。このトウ振込機導入部50と前記トウ寄せ工程30との間には、図1に示すように、複数のフィードロール41を備えたトウ送出し部40が配されており、前記フィードロール41によるフィード量を制御して、上記単繊維交絡工程20における小トウT1の張力を制御している。トウ寄せ工程30にて一本となった大繊度のトウT2は、複数のガイドロール42に案内されてほぼ水平に走行し、図1及び図2に示すように、前記トウ振込機導入部50にて変向ロール51に案内されて垂直下方へと向きを変え、直下に設置されたトウ振込機60の一対のギアロール61間へと送り込まれる。
【0029】
前記トウ振込機60は、図2に示すように、左右一対の前記ギアロール61と、この一対のギアロール61の間のトウ送出し位置の直下にトウ導入開口部62aを対向させるとともに、その上端のトウ導入開口部62aの近傍を揺動中心Oとして、全体が同一鉛直面内を揺動可能に支承されたトウ振込みシュート62と、同トウ振込みシュート62の下方にあってトウ梱包容器63の載置位置に配され、同トウ振込みシュート62の揺動方向と直交する方向にトウ梱包容器63を往復動させる容器往復駆動コンベア64と、前記トウ梱包容器63の往復動折返し位置のそれぞれ上方に配され、矢印方向に昇降する前後一対のプレス板65とを備えている。
【0030】
上記トウ振込みシュート62は、ステンレス、アルミ合金、銅合金などの金属板が使われ、同金属板をプレス加工したのち溶接などによって製作される方形筒体からなる。本実施形態によれば、図2に示すように、同トウ振込みシュート62のトウ導入開口部62aの開口断面は正方形に近く、その中間部62bの開口断面はトウ振込みシュート62の揺動方向の内壁間隔を揺動方向に直交する方向の間隙の略1/2と狭めた矩形状をなしており、更にその下端部のトウ振出し開口部62cの開口断面を前記矩形状の中間部開口断面よりも更に薄くして、トウ導入開口部62a、中間部62b、トウ振出し開口部62cへと連続して、その方形の開口断面をトウ振込みシュート62の揺動方向に順次薄くしている。
【0031】
この場合、トウ振込みシュート62の中間部62b及びトウ振出し開口部62cにおけるトウ幅方向の長さは、トウ振込みシュート62に導入されるトウの幅の略2倍に設定して幅方向に余裕を持たせることが好ましい。このように、トウ振込みシュート62のトウ振出し端において矩形開口をトウ幅方向で変えることなく、揺動方向(トウ厚み方向)で薄く形成するため、トウ振込みシュート62の内部を走行するトウT2の捩じれが防止でき、下方に振り出されるときもトウは捩じれずに、テープ状の偏平形態を保持できる。
【0032】
更に本実施形態では、トウ振込みシュート62内を走行するトウT2に振り出し方向へ引っ張り力を付与するために、トウ振込みシュート62のトウ導入開口部62aにトウ振込みシュート内部に向けて空気流をつくり出す図示せぬ給気部を設けるとよい。この給気部に代えて、トウ振込みシュート62のトウ振出し開口部62cの近傍に振り出し方向に向けてエアカーテン状の空気流をつくり出す給気部を設けることもできる。このトウ振込みシュート62を太繊度のトウT2が通過するときに、トウ振込みシュート62内でトウT2が摩擦による損傷を受けないようにトウ振込みシュート62の内面にはバフ研磨仕上げが施されていることが好ましい。
【0033】
また、本実施形態によるトウ振込みシュート62は、図2に示すように、同トウ振込みシュート62の揺動を左右方向とするとき、その前後側面のうちの一側面の上端に板材からなるブラケット62dの下半部を溶接などにより固設している。同ブラケット62dの上半部の中央部が、図示せぬサーボモーター73により駆動回転する回転軸62d’を介して結合され、前記回転軸62d’の軸線上を揺動中心Oとして所要の制御された揺動幅にてトウ振込みシュート62の全体を揺動させる。このときのトウ振込みシュート62のトウ振出し開口端の揺動幅は下方に配される梱包容器63の振込方向の内寸とほぼ一致させており、トウ振込みシュート62のトウ振出し開口端と梱包容器63の内面とが最も接近したときの間隔は10〜40mmの範囲に設定するとよい。10mmよりも狭いと、梱包形態が端部で盛り上がってしまい、40mm以上になるとトウと容器との間に間隙がけいせいされてしまう。より好ましくは、20〜30mmである。
【0034】
ところで、梱包容器63として、例えば既述したとおり最も安価で扱いやすく強度にも優れる段ボール容器を使用すると、組み立てる前の裁断寸法や原紙の形状にはバラツキがほとんどないにも関わらず、大型になればなるほど、組み立てられた後の梱包容器の寸法や容器形態にバラツキが生じやすくなる。これは段ボール原紙を折り曲げ線に沿って折り畳むときの折り方によって誤差が生じるがためである。因みに、その誤差は10mm程度となる場合がある。10mmの誤差があると、容器に収容されるトウの積層形態に大きく影響を与える。加えて、組み立てられた梱包容器をトウの振込み部にセットするにあたっても、梱包容器の組み立て時における変形や作業者の手によるセットであるため、セット位置は必ずしも決められた位置へと正確にセットされるとは限らない。
【0035】
そこで、このセット位置の正確を期すため、梱包容器を予め設定されたセット位置へと案内するレール状ガイドを梱包容器のトウ振込み方向の両側部に設けてはいるが、前述の容器寸法の誤差が無視できず、ガイドと容器との間に敢えてクリアランスを取らないと、ガイドに容器の一部が乗り上げた状態でセットが完了することがあり得る。そのため、ガイドと容器との間に所要の寸法の間隙を設けている。因みに、1140mm角の段ボール製梱包容器であれば、容器の組み立て時における変形誤差を考慮して、前記間隙の寸法は少なくとも10mm(片側の間隔5mm)が必要である。
【0036】
このように、梱包容器63の変形による誤差やセット時の偏位量が大きくなると、トウT2の梱包形態に大きな影響を与え、トウの積層形態に異常を来たし、結果として梱包重量の低下を招くばかりでなく、梱包を終えたトウを梱包容器から引き出すにあたって、トウの構成繊維同士の絡み合いや、トウ同士の絡み合いにより、円滑な引き出しができなくなる。更には、このようなトウの引き出しに円滑性を欠くだけでなく、繊維の絡み合いによる毛羽立ちや繊維切断が多発する。こうした積層形態の異常が発生する要因の一つである梱包容器63のセット位置が、トウの揺動中心Oを通る垂線に関してトウ振込み方向の一方にαだけ偏っている場合について、トウの振込み時における積層形態の変動を図3を参照しながら具体的に説明する。
【0037】
図3において、仮想線で示す梱包容器63は正確にセット位置にセットされたときの梱包容器を模式的に示したものであり、実線で示す梱包容器63はαだけトウ振込み方向の一方にずれてセットされたときのセット状態を模式的に示したものである。トウ振込みシュート62の上端の揺動中心Oは、梱包容器63が予め決められたセット位置に正確にセットされたときのトウ振込み方向の長さLの1/2の点を通る垂線上に配され、図4に示すように、トウ振込みシュート62の揺動可能な範囲内において、トウ振込みシュート62は梱包容器63の上方に配されている。トウ振込みシュート62の揺動中心Oは不動位置に固定されており、梱包容器63が繊維トウの積層高さに応じて昇降する。
【0038】
いま、揺動中心Oに関して、梱包容器63がトウ振込み方向の一方に変位(ずれ)量αだけ偏った、図3の実線で示す位置にセットされたとする。この状態で、揺動中心Oを中心に揺動するトウ振込みシュート62を通して繊維トウが梱包容器63に振り込まれる。このとき同時に、梱包容器自体もトウの振込方向に直交させて往復動する。梱包容器63のトウ振込み方向の寸法をLとすると、トウ振込みシュート62のトウ振込み開口は前記揺動中心Oを通る垂線に関して同一の振り幅(1/2)L−αでトウ振込み方向に揺動する。すなわち、トウ振込みシュート62の全振り幅はL−2αとなる。ここで、図示例にあっては、梱包容器63がαだけ変位している分、梱包開始時に振り幅を前記振り幅L−2αに設定する。以降、このトウ振込みシュート62の振り幅は一定であり、振り速度についても停止時や振り方向の転換時における停止、加減速などの通常の制御はなされるが、その他の格別の制御はなされていない。
【0039】
かかる振込み条件で繊維トウT2の梱包容器63への振込みがなされると、梱包容器63に積層されるトウのずれ方向端部の折り返し点とその対向する容器内壁面との間に、トウ振込みシュート62のトウ振込み開口端が届かず、トウT2が直接振り込まれない寸法2αをもつ隙間が存在することになる。そのため、振込み当初は容器内にL−2αの折り返し長さのトウT2が順次積み重ねられるが、或る高さに達すると、その隙間のある側のトウ折り返し端部を支持するものがないため、図3にハッチ部で示すように、上層から徐々に崩れ落ちて前記隙間を埋めながら積み上がっていく。このとき、上記特許文献2及び3のトウ梱包方法と同様に、トウT2の折り返し後に適宜タイミングを見て2枚のプレス板65により交互にプレスすると、そのプレス量が折り返し方向の左右で梱包量が異なる分だけ異なるため、全体としては図4に示すような段差ができ、梱包完了時には振込み方向の嵩密度が左右で異なってしまい、予定する梱包重量を大幅に下回ってしまう。また、トウの梱包面を1枚のプレス板によりプレスする場合には、図5に示すように、梱包完了後のトウ積層表面は均一にできるが、梱包容器のずれ側半部のトウ嵩密度は、反対側半部のトウ嵩密度よりも低くなり、均等とはならず、期待通りの均等な嵩密度が得られない。そこで本発明では、図2及び図6に示すように、サーボモーターを使ってトウ振込みシュート62の揺動(振り)幅をフィードバック制御する。
【0040】
本発明に係る繊維トウの梱包方法及び梱包装置の最も特徴とする点は、既述したとおり、繊維トウT2の梱包容器63が変形しても、或いは梱包容器63の最初のセット位置にずれが生じている場合でも、図6に示すブロック線図に従ってフィードバック制御を行うことにより、梱包容器63に収容されるトウT2を全体的に均等に積層し、同時にその嵩密度をも高く均一にすることができる点にある。その結果、トウT2も大型の梱包容器63内に均等に分布されるため、梱包容器63にかかる内圧も偏ることがなく、超大型の容器であっても取り扱いや運送が容易となり、更なる変形や損傷を防ぐことができる。更に加えて、以降の耐炎化工程や炭素化工程を通すときに、梱包容器63からトウ形態を崩すことなく繊維トウT2を円滑に引き出すことができ、高品位の炭素繊維を得ることができるようになる。
【0041】
本発明にあって、トウを均等に且つ嵩密度を高く収容するために、梱包容器63の形態
変化及びセット位置のずれなどの梱包容器63の変位量に応じて、振込みによるトウ収容時に梱包容器内に生じる上記隙間を埋めるように、トウ振込みシュート62の振り幅を逐次制御する。図6は本実施例におけるサーボモーター73によるトウの振り幅をフィードバック制御するときの典型的なブロック線図を示している。
【0042】
いま、繊維トウT2を梱包容器63に振り込むに先立って、振り幅制御装置70には予め梱包容器63の基準位置が記憶されており、またその基準位置に対する変位量と同変位量に基づくトウ振込みシュート62の補正振り幅との間の相関式が記憶されている。サーボモーター73による繊維トウT2の振り幅をフィードバック制御するには、梱包容器63の変位量、すなわち梱包容器63の現位置を正確に検出する必要がある。本実施形態にあって、その位置検出は梱包容器63の周辺に設置される位置検出手段71によってなされる。本実施形態にあっては、前記位置検出手段として、オムロン社製のレーザー変位センサー ZX2が使われているが、当然に他社の変位センサーも使用が可能である。
【0043】
図7〜図10は、この位置検出手段71の設置態様を例示している。なお、これらの図に示す態様には、トウ振込み方向と直交する方向への梱包容器63の往復量を制御する場合も挙げられている。この場合、振り込まれる繊維トウT2の折り返し時の変向角度を演算することにより、折り返し幅を制御することができる。この折り返し幅の制御は、繊維トウT2の振り幅制御と、その制御手法に基本的には差がないため、その制御手順は具体的な説明は割愛し、トウ振込方向の振り幅の制御を中心に、その概要を説明することにする。
【0044】
図7に示す設置態様によれば、梱包容器63のトウ振込み方向の前後であって、容器外側面に近接して第1及び第2の位置検出手段71a,71bを配しており、本来、セットされるべき梱包容器63のトウ振込み方向の基準位置とのずれ量を監視している。この場合、第1及び第2位置検出手段71a,71bは、梱包容器63のトウ振込み方向における外側面の設置位置を検出している。なお、位置検出手段71はポイント検出であっても、或いは水平線上の拡大検出であってもよい。図8に示す設置態様では、位置検出手段71(71a,71b)は、トウ振込みトウ振込みシュート62のトウ振出し開口端部に配されており、トウ振込みシュート62のトウ振込み方向の梱包容器63における前後内側面と対向するトウ振込み開口端部の前後側面に固着されている。
【0045】
図9に示す設置態様によれば、位置検出手段71は梱包容器63のトウ振込み方向と平行して水平に移動可能な第1位置検出手段71aと、梱包容器63のトウ振込み方向と直交して水平に移動可能な第2位置検出手段71bとの2つの位置検出手段が使われ、第1及び第2位置検出手段71a,71bをそれぞれ梱包容器63の外側面に近接する適宜高さ位置に配している。この実施形態では、梱包容器の外周面形状の変形量を監視する。図10に示す設置態様では、位置検出手段71が梱包容器63の上方にあって、トウ振込み方向を水平移動しながら、梱包容器63の高さ方向の変形量をトウ振込方向の全長にわたり検出するものである。図11は、梱包容器63を載置する容器往復駆動コンベア64との間の変形位置をロール全長にわたって位置検出手段71により検出し、梱包容器63の下面と容器往復駆動コンベア64との間の隙間の変位量を検出して、梱包容器63の浮き上がり姿勢を計測する。
【0046】
以上のように配置される位置検出手段71により検出される位置検出信号は、図6に示すように、振り幅制御装置70へと送られる。通常、この振り幅制御装置70には、前記位置検出手段71により検出された位置検出信号に基づき梱包容器の現位置を演算する第1演算部70aと、第1演算部70aによる演算結果に基づき梱包容器のセット基準位置と現セット位置との間の変位量を演算する第2演算部70bとを有している。しかして、本実施形態では上述したレーザー変位センサー(オムロン製 ZX2)を採用しており、
この変位計センサーには前記第1及び第2演算部70a,70bを内蔵しているため、振り幅制御装置70に改めてこれらの第1及び第2演算部70a,70bを設ける必要がなく、同演算部で演算された変位信号が直接振り幅制御装置70へと出力される。
【0047】
一般的には、前記位置検出手段71にて検出された信号が振り幅制御装置70に入力され、同制御部70に内蔵された第1及び第2演算部70a,70bを経て、梱包容器63のセット基準位置と現セット位置との間の変位量αが演算され、その演算結果である変位量αに相当する制御信号をサーボアンプ72に送られ、サーボアンプ72ではサーボモーター73の回転速度(シュート揺動速度)、回転回数(振り幅)及び回転方向(振り方向)の前記制御信号に見合った電力に調整され、指令信号とともにサーボモーター73に駆動に必要な電力が供給される。
【0048】
このようにして、その揺動中心Oに配された回転軸62d’の回転を制御することによりトウ振込みシュート62の揺動速度、振り幅及び振り方向を制御する。一方、既述したとおり、トウ振込みシュート62の揺動速度は、折り返し時における減速、停止、折返し始動及び加速は通常の制御がなされるのが一般的ではあるが、本実施形態では理解を容易にするため、揺動速度を一定に設定する。したがって、本実施形態にあっては、回転軸62d’の制御は通常の回転速度の制御以外は格別に行わず、回転回数(振り幅)及び回転方向(振り方向)の制御がなされ、トウ振込み方向のトウ折り返し点の位置を梱包容器63のトウ振込み方向の上記変位量αに合わせて、トウ振込みシュート62の振り幅とトウ折り返し位置とを逐次変更制御する。
【0049】
図12は、この振り幅を制御するときのトウ振込みシュート62の揺動状態を模式的に示している。
ここで留意すべきは、剛体からなるトウ振込みシュート62の長さは一定長であって不変であることである。また図12に示すとおり、トウ振込みシュート62の揺動中心位置Oは、梱包容器63が正規の基準位置にセットされたときの、梱包容器63のトウ振込み方向の長さLの1/2の点(中央点)を通る垂直線cl上の一点Oに固定されている。いま、図12において、実線で示す梱包容器63の内部にて揺動するトウ振込みシュート62の長さをl(不変)、トウ振込みシュート62におけるトウ振出し開口端と前記垂直線c1を中心とする左右折り返し点との間の距離をW1,W2(可変)とすると、図面右側の折り返し点は仮想線で示す正規位置より左側に距離αだけ短くなっており、一方で図面左側の折り返し点は正規位置より左側に距離2α−βだけ長くなっている。ここで、βはトウ振込みシュート62のトウ振出し開口端を梱包容器63のトウ積層面における次回のトウ折り返し点に向けたときの、トウ振出し開口端と梱包容器63の左側内側面との間の寸法である。
【0050】
すなわち、図7及び図12に示す態様では、トウ振込みシュート62が垂直線c1 より右側に揺動させるにあたり、予め位置検出手段71によって梱包容器63の右側外側面が検出されており、振り幅制御装置70の第1及び第2演算部70a,70bにて、その右側側面とトウ振込みシュート62の前記垂直線c1との間の距離W2が演算され、その演算結果に基づきトウ振込みシュート62の右側のトウ折り返し位置が決められる。同時に、位置検出手段71によって梱包容器63の右側外側面が検出されており、振り幅制御装置70の第1及び第2演算部70a,70bにて、その左側側面とトウ振込みシュート62の前記垂直線clとの間の距離W2が演算され、その演算結果に基づきトウ振込みシュート62の右側のトウ折り返し位置が決められている。
【0051】
この状態で、サーボモーター73が駆動すると、トウ振込みシュート62は、図12に示すように、揺動中心Oを中心として、同図の上記垂直線c1より右側は揺動幅(1/2)L−αの振り幅で揺動し、同図の前記垂直線clより左側は揺動中心Oを中心として、
揺動幅(1/2)L+α−βの振り幅で揺動する。このようにトウ振込みシュート62が揺動することにより、梱包容器63の右側の振り幅は、梱包容器63が基準セット位置にあるときの振り幅(1/2)Lよりもαだけ短くなり、梱包容器63の左側の振り幅は、梱包容器63が基準セット位置にあるときの振り幅(1/2)Lよりもα−βだけ長くなることで、トウ振込み方向に振り込まれるトウT2は、梱包容器63の左右内側面のいずれにおいても、トウ積層体と梱包容器63の対向側面との間に隙間が実質的に形成されることがなくなり、図12に示すように、トウ積層体表面の振込み方向の全長にわたってほぼ均等な高さとなり、同時に高さ方向の嵩密度も均等なものとなる。
【0052】
本実施形態にあって、このトウ振込みシュート62の揺動速度は、上記特許文献2に記載された梱包方法と同様に、繊維トウの紡糸速度の0.75倍〜1.25倍の範囲内で一定となるように設定される。このようにトウ振込みシュート62の先端における揺動速度をトウT2の紡糸速度の0.75倍〜1.25倍となるようにすると、トウ振込みシュート62の振出し開口から振り出されるトウT2が多く振り出されたり、少なく振り出されたりしない。そのため、梱包容器63におけるトウの折返し位置においても確実に折り返しが可能となり、梱包容器63のトラバース方向の端部まで確実にトウT2を振り込むことができ、梱包容器63の全面に均等に収納できるようになる。また、同時に梱包容器63の内部におけるトウの折返し回数を極小化することができ、結果として梱包の嵩密度を極大化させることができる。
【0053】
さらに本実施例では、トウ振込みシュート62の先端の揺動速度をトウの振込み初期から終盤にかけて段階的又は連続的に増加させることができる。これにより、振込み面が低い段階から梱包容器の隅々までトウを振り込むことが可能となり、梱包されたトウの収納嵩比重を一層大きくすることができる。一方、梱包容器63の往復速度も、上記特許文献2に記載されていると同様に、紡糸速度に対して、1/100〜1/25に設定されている。この範囲でトウ梱包容器63をトウT2の振込み方向に直交させて往復動させることにより、梱包容器63に振り込まれたトウT2が斜めに倒れ込むことが防止され、均一なトウの収納が可能となる。
【0054】
また本実施形態にあっても、図2に示すように、上記特許文献2と同様、前記トウ梱包容器63の往復動の各折返し位置のそれぞれ上方にあって、トウ振込みシュート62から振り込まれるトウT2を挟んで前後に一対の上記プレス板65が配されている。プレスする際にトウ梱包容器63がトウT2の振込み方向に直交させて往復させており、プレスしている時間も梱包容器63が往復動をしている。前記プレス板65は、金属製板材の周縁部の強度と剛性を確保すべく、その周縁には補強壁が直立して立設されており、前記金属製板材の下面及び補強壁65b’の外面はバフ研磨仕上げがなされて容器内のトウT2に対するプレス時の毛羽などが発生することを防止している。
【0055】
本発明では、トウT2を梱包容器63に振り込むとき、トウT2の振込み開始時からプレスを行っており、そのプレスと同時に梱包容器63の半部にてトウT2の振込みが続行している。そのプレスのタイミングは梱包容器63の各折返し時において反対側の半部にて行うようにしている。このときの位置検出は、図示せぬ光電管式検出器にて検出している。梱包容器63の折返し位置にて一方のプレス板65が作動するときに、他方のプレス板65は上方の待機位置にあるが、このとき同時に待機するプレス板65の側では引き続きトウT2の振込みが行われている。前記プレス板65はステンレス製の多孔板にて製作している。これは、プレス板65が下降してトウT2をプレスする際に、空気の抜けを促し、風圧による糸条の乱れを防止することと、プレスするトウT2のフィラメント間に存在するするエアを抜くためである。その開口率は20〜40%であることが好ましい。また、そのプレス面にはバフ研磨にて仕上げ加工が施されてトウT2の引っ掛かりをなくしている。
【0056】
本実施形態による梱包容器63の材質は、既述したように、その経済性の観点から段ボールを使うことが望ましく、梱包容器63に振り込まれる振込みトウT2は所要の水分を含む。このため、梱包容器63の内側に図示せぬ内装材を介装する。この内装材の材質は防水性があれば特に限定されないが、安価で利便性を考えたときポリエチレンからなるシート材であることが好ましい。段ボールに振り込む際、段ボール内面とトウとが直接接触しないことにより、摩擦,擦過等のダメージを受けないことに加えて、トウT2の水分により段ボールが吸湿することを防ぐ。内装材は、なるべく極薄であることが望ましい。内装材の形状は基本的に梱包容器と同一形状であることが望ましい。トウの振込みが終了したのち、トウの水分蒸発や外部からのゴミや異物の混入を防ぐためには、最終梱包する前に、一旦内装材でトウT2を包装することが好ましい。その方法として、例えば真空包装や完全密閉といった方法が考えられるが、ここでは特に限定されることはなく簡易的な包装でもその目的は十分に達成される。
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。
【0057】
〔実施例〕
内寸が1100W×1100D×1000H、外寸が1110W×1110D×1010Hの段ボール製梱包容器に、180000dtexのポリアクリロニトリル系繊維トウを、本発明におけるトウ振込みシュートの振り幅をフィードバック制御しながら連続的に梱包した。梱包容器の設置部には、正規のセット位置に置かれたときの梱包容器のトウ振込み方向の両外側面からそれぞれ5mmの間隔が空くように、一組のガイドレールを平行に敷設した。ここで、トウ振込みシュートの長さは1200mmであり、正規のセット位置に置かれたときのトウ振込みシュートのトウ振出し開口端が梱包容器の内面へと最も接近するときの前記開口端と容器内面との間の間隔を25mmに設定した。
【0058】
かかる条件をもつトウ振込機を10台用意して上記トウの梱包を行った。その梱包時の梱包容器の現セット位置を、図7に示す設置態様に準じて容器側面に近接して配された位置検出センサー(オムロン製、レーザー位置センサー ZX2)により検出計測したところ、梱包容器のガイドレールに対する位置のずれ量は、一方のガイドレールとの間で2〜5mm、他のガイドレールとの間で8〜5mmの間でばらついており、全てが正規のセット位置よりもトウ振込み方向のいずれか一方に偏っていた。
【0059】
こうした中で、梱包容器の基準セット位置と現セット位置との変位量に対応する信号を、サーボアンプを介してサーボモーターへと送り、サーボモーターを制御駆動して、図12に示すように、左右の振り幅を変更制御しながらトウ振込みシュートを揺動させ、前記繊維トウを梱包容器に振り込んだ。また、トウ振込み方向の中央垂直線を挟んだ梱包容器の左右には交互に昇降する2枚のプレス板を配し、トウの折り返したのちプレス板によりトウ折返し部を交互にプレスした。このプレス時点におけるトウ振込み面が梱包容器の天面を越える所を梱包を停止した。この実施例によれば、とう振込みシュートの振り幅が制御されることで、10台のトウ振込機によって梱包されたトウの各梱包重量は500Kg〜515Kg(n=10)の範囲内に納まった。
【0060】
〔比較例〕
トウの振り幅制御を除いて、上記実施例と同様の条件で、10台のトウ振込機によって梱包容器にトウを振り込んだ。その最終的なトウの梱包重量は460Kg〜510Kg(n=10)と重量誤差が大きく、各梱包体の嵩比重にも偏りが見られる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、総繊度が48000dtex〜7200000dtexの太繊度の炭素繊維前駆体トウ並びに耐炎繊維前駆体トウを梱包容器に梱包する際に有効に適用することがで
きる。
【符号の説明】
【0062】
10 乾燥工程
11 乾燥ロール
12 タッチロール
20 単繊維交絡工程
30 トウ寄せ工程
31 湾曲部材
40 トウ送出し部
41 フィードロール
42 ガイドロール
50 トウ振込機導入部
51 変向ロール
60 トウ振込機
61 ギアロール
62 トウ振込みシュート
62a トウ導入開口部
62b 中間部
62c トウ振出し開口部
62d ブラケット
62d’ 回転軸
63 (トウ)梱包容器
64 容器往復駆動コンベア
65 プレス板
65b’ 補強壁
70 (振り幅)制御装置
70a,70b 第1及び第2演算部
71、71a,71b 位置検出手段
72 サーボアンプ
73 サーボモーター
74 減速機
T1 小トウ
T2 (繊維)トウ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維トウを、トウ振込みシュートの上端を揺動中心として揺動させ、トウ振込みシュートを通して所定位置に配された梱包容器内に振込むと同時に、該梱包容器を該トウの振込み方向と直交する方向に往復動させる繊維トウの梱包方法において、
前記シュートの揺動方向における梱包容器の端位置を検出すること、及び
検出された梱包容器の端位置の変位量に基づき、上記揺動中心に関してトウ振込みシュートの折返し位置を制御すること、
を含んでなる繊維トウの梱包方法。
【請求項2】
前記梱包容器の端位置の検出が、梱包容器の外面位置の基準位置に対する変位量を検出する請求項1記載の繊維トウの梱包方法。
【請求項3】
前記梱包容器の端位置の検出が、梱包容器の内面位置の基準位置に対する変位量を検出する請求項1記載の繊維トウの梱包方法。
【請求項4】
前記梱包容器の端位置の検出が、梱包容器の底面位置の基準位置に対する変位量を検出する請求項1記載の繊維トウの梱包方法。
【請求項5】
前記梱包容器の端位置の検出を、シュート揺動開始前に行う請求項1〜4のいずれかに記載の繊維トウの梱包方法。
【請求項6】
前記梱包容器の端位置の検出が、シュート揺動時にも行われ、シュートの折返し位置を前記変位量に基づき任意に変更する請求項5記載の繊維トウの梱包方法。
【請求項7】
前記繊維トウが耐炎繊維前駆体トウ又は炭素繊維前駆体トウである請求項1〜6の何れかに記載の繊維トウの梱包方法。
【請求項8】
上端を揺動中心として揺動するトウ振込みシュートと、前記揺動中心の直下に配され、トウ振込みシュートを介して供給される繊維トウを揺動方向に振り込む梱包容器と、該梱包容器を繊維トウの振込み方向と直交して往復動させる容器作動手段とを備えた繊維トウの梱包装置において、
前記梱包容器におけるトウ振込み方向の容器位置を検出する検出手段と、
該検出手段により検出された位置信号に基づき梱包容器の現位置を演算する第1演算手段と、
第1演算手段による演算結果に基づき梱包容器の基準位置との間の変位量を演算する第2演算手段と、
前記変位量に基づき、トウ振込み方向のトウ折返し位置を変更するトウ折返し位置変更手段と、
を含んでなる繊維トウの梱包装置。
【請求項9】
前記検出手段が前記第1及び第2演算手段を備えてなる請求項8記載の繊維トウの梱包装置。
【請求項10】
前記検出手段が、梱包容器のトウ揺動方向の外側面に対向して配されてなる請求項8又は9に記載の繊維トウの梱包装置。
【請求項11】
前記検出手段が接地センサーからなり、該接地センサーが梱包容器の下面側の梱包容器外に配されてなる請求項8又は9に記載の繊維トウの梱包装置。
【請求項12】
前記検出手段が、トウ振込みシュートの先端部に配されてなる請求項8又は9に記載の繊維トウの梱包装置。
【請求項13】
前記検出手段が、前記梱包容器外にあって、トウ揺動方向と平行に移動可能に配されてなる請求項8又は9に記載の繊維トウの梱包装置。
【請求項14】
前記検出手段が、前記梱包容器の内面形状検出手段をも有しており、その検出形状に対応して前記トウ振込みシュートのトウ折返し位置を変更すると同時に、上記容器作動手段による梱包容器の往復量をも変更する制御手段を有してなる請求項8又は9に記載の繊維トウの梱包装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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